説明

塩化ビニリデン系共重合体の製造方法、及び塩化ビニリデン系共重合体

【課題】安定した押出成形性を維持しつつ、残留モノマー除去速度が速くなる空隙構造を有する粒子の製造方法を提供する。
【解決手段】塩化ビニリデンモノマー85〜97重量%とアクリル酸メチルモノマー3〜15重量%の混合モノマー、又は混合モノマーが連続相を維持できる範囲の量の水を含む混合モノマーに、攪拌下で懸濁剤水溶液を加え、混合モノマーが連続相で水が不連続相である分散状態を経由して、混合モノマーが不連続相で水が連続相である分散体を得る工程と、前記分散体を、ラジカル開始剤の存在下で、重合温度y(℃)に加熱して重合させる工程と、を含み、前記重合温度y(℃)と、前記ラジカル開始剤のベンゼン中、0.1mol/lにおける10hr半減期温度x(℃)とが、以下を満たすことを特徴とする、塩化ビニリデン系共重合体の製造方法を提供する。
(1)50≦y≦74であり、かつ
(2)0.4438×x+40≦y≦0.4438×x+50。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、残留モノマーを短時間で除去できる空隙構造を有する粒子状の、押出成形用の塩化ビニリデンとアクリル酸メチルの共重合体の懸濁重合法による製造に関する。
【背景技術】
【0002】
塩化ビニリデン重合体は高い結晶性を有しているため、フィルムに成形した場合、優れたガスバリア性及び水蒸気バリア性を具備している。しかしながら、柔軟性や熱安定性に劣るため、他のモノマーと共重合して内部可塑化を高めて製造されている。
【0003】
従来の押出成形用の塩化ビニリデン系共重合体は、主に懸濁重合法を用いて製造され、主として塩化ビニルと共重合されて押出成形に必要な可塑剤、熱安定剤を添加しバリア性フィルムとして使用されている。
【0004】
一方、塩化ビニリデンとアクリル酸メチルの共重合体は、アクリル酸メチルを共重合することにより内部可塑化性能に優れ、押出成形に必要な可塑剤の添加量を極めて少量にできることから、ガスバリア性に優れたフィルムを得ることができる。
【0005】
得られたフィルムは、その表面にアルミ箔、紙、および他種の合成樹脂フィルム等とラミネート加工され高バリア性を生かして、例えば医薬品、レトルト食品、電子レンジ食品、冷凍食品、アメ菓子、畜肉・水産加工食品、味付煮付加工食品等の食品類等の包装材として利用されている。
【0006】
塩化ビニリデンとアクリル酸メチルの共重合体の製造方法としては、特許文献1に記載されているように塩化ビニリデンとアクリル酸メチルの混合モノマーが連続相で水が不連続相である分散状態を経由して、混合モノマーが不連続相で水が連続相である分散体を得て、開始剤の存在下で加温して重合することにより残留モノマーが短時間で除去できる空隙構造を有する共重合体の製造方法が開示されている。しかしながら、特許文献1で開示されている製法であっても生産性においては、まだ不十分である。
【0007】
塩化ビニリデンとアクリル酸メチルの共重合体は、塩化ビニリデンと塩化ビニルの共重合体に比べ、重合速度が速く1/2〜1/3の時間で高重合率の共重合体が得られる。
それに対し、重合工程の後の残留モノマーの除去工程では、塩化ビニリデンとアクリル酸メチルの共重合体が塩化ビニリデン及びアクリル酸メチルモノマーとの相溶性がよいことから、重合中に粒子が緻密な構造となり、当業界で規制されるレベルまで残留モノマーを除去するには重合工程で要する時間より長い時間が必要であり生産性の低下をきたしていた。
【0008】
生産性を低下させないため重合工程で要する時間と同じ時間で、残留モノマーを除去するには、高温で処理する必要があり、そのために塩化ビニリデン系共重合体の一番の欠点である熱安定性が著しく劣化して、実用的な成形加工品を得ることができない。
【0009】
また、塩化ビニリデンとアクリル酸メチルの共重合体は、主にインフレーション法により押出成形されるが、塩化ビニリデンとアクリル酸メチルの共重合体の分子量は重要な物性であり、分子量が小さすぎるとインフレーション時にバブルの安定性が悪く、分子量が大きすぎると溶融粘度が高くなり押出機内でのシェア発熱が大きく、著しく熱劣化してしまうという問題もあった。
【0010】
【特許文献1】特公平6−65691号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、塩化ビニリデンとアクリル酸メチルの共重合体の生産性を向上すべく、安定した押出成形性を維持しつつ、残留モノマー除去速度が速くなる空隙構造を有する粒子状の塩化ビニリデンとアクリル酸メチルの共重合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、残留モノマー除去工程の処理温度を上げることなく、残留モノマー除去工程の生産性を向上させる検討をかさねた結果、重合温度を下げると塩化ビニリデンとアクリル酸メチルの共重合体粒子の比表面積が増大し、残留モノマー除去時間が短縮できることを見出した。
しかしながら、重合温度を単純に下げると重合した共重合体の分子量が大きくなり、押出成形時に、熱劣化し実用的な成型加工品を得ることができない。
【0013】
そこで、重合温度と使用するラジカル開始剤について鋭意検討を行った結果、重合温度を下げても、特定の10hr半減期温度を持つラジカル開始剤を使用することにより、分子量を維持しつつ、共重合体の空隙構造のみを改善できることを見出し、本発明をなすに至った。
【0014】
すなわち本発明は、以下の通りである。
〔1〕塩化ビニリデン系共重合体の製造方法であって、塩化ビニリデンモノマー85〜97重量%とアクリル酸メチルモノマー3〜15重量%との混合モノマー、又は混合モノマーが連続相を維持できる範囲の量の水を含む混合モノマーに、攪拌下で懸濁剤水溶液を加え、混合モノマーが連続相で水が不連続相である分散状態を経由して、混合モノマーが不連続相で水が連続相である分散体を得る工程と、前記分散体を、ラジカル開始剤の存在下で、重合温度y(℃)に加熱して重合させる工程と、を含み、前記重合温度y(℃)と、前記ラジカル開始剤のベンゼン中、0.1mol/lにおける10hr半減期温度x(℃)とが、以下を満たすことを特徴とする、塩化ビニリデン系共重合体の製造方法。
(1)50≦y≦74であり、かつ
(2)0.4438×x+40≦y≦0.4438×x+50
〔2〕前記重合温度y(℃)と、前記ラジカル開始剤のベンゼン中、0.1mol/lにおける10hr半減期温度x(℃)とが、以下を満たす、前記〔1〕記載の塩化ビニリデン系共重合体の製造方法。
(1)50≦y≦72であり、かつ、
(2)0.4438×x+40≦y≦0.4438×x+50
〔3〕前記〔1〕記載の製造方法により製造される、粒子状の塩化ビニリデン系共重合体であって、塩化ビニリデンモノマーユニット85〜97重量%、及びアクリル酸メチルモノマーユニット3〜15重量%の共重合体からなり、粒子径が、目開き1mmの篩を全て通過する範囲内に分布し、かつ、該分布内の目開き150μmの篩を通過しない粒子の、ガス吸着法による比表面積が粒子1g当り0.6m2以上である、塩化ビニリデン系共重合体。
〔4〕ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法による重量平均分子量が6.5万以上8.5万以下である、前記〔3〕記載の塩化ビニリデン系共重合体。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、塩化ビニリデンとアクリル酸メチルの共重合体の生産性を向上すべく、安定した押出成形性を維持しつつ、残留モノマー除去速度が速くなる空隙構造を有する粒子状の塩化ビニリデンとアクリル酸メチルの共重合体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
次に、本発明の実施の形態について説明する。以下の実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をこの実施形態にのみ限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨を逸脱しない限り、さまざまな形態で実施することができる。
【0017】
(塩化ビニリデン系共重合体の製造方法)
本発明の塩化ビニリデン系共重合体の製造方法は、塩化ビニリデンモノマー85〜97重量%とアクリル酸メチルモノマー3〜15重量%との混合モノマー、又は混合モノマーが連続相を維持できる範囲の量の水を含む混合モノマーに、攪拌下で懸濁剤水溶液を加え、混合モノマーが連続相で水が不連続相である分散状態を経由して、混合モノマーが不連続相で水が連続相である分散体を得る工程と、前記分散体を、ラジカル開始剤の存在下で、重合温度y(℃)に加熱して重合させる工程と、を含み、前記重合温度y(℃)と、前記ラジカル開始剤のベンゼン中、0.1mol/lにおける10hr半減期温度x(℃)とが、以下を満たすことを特徴とする。
(1)50≦y≦74であり、かつ
(2)0.4438×x+40≦y≦0.4438×x+50
【0018】
前記分散体を得る工程においては、混合モノマー及びラジカル開始剤を含む混合液を攪拌しながら、懸濁剤を水に溶解した懸濁剤水溶液を、混合モノマーが連続相で水が不連続相の分散体を経由して、混合モノマーが不連続相で水が連続相の分散体が得られるまで加えてゆく。
本発明の製造方法においては、混合モノマーが連続相で水が不連続相の分散体を経由するものであるため、得られる塩化ビニリデン系共重合体の粒子の比表面積が大きくなる。
【0019】
前記重合させる工程においては、例えば、重合機の昇温を開始し所定の重合温度y(℃)に到達したら、所定の時間重合を行い、その後、冷却、脱水後、残留モノマーを除去して塩化ビニリデン系共重合体を得る。
【0020】
重合に供する混合モノマーの比率は、塩化ビニリデンモノマー85〜97重量%、アクリル酸メチルモノマー3〜15重量%である。この比率によって得られる塩化ビニリデンとアクリル酸メチル共重合体は、塩化ビニリデンモノマーユニット85重量%以上97重量%以下で、アクリル酸メチルモノマーユニットが3重量%以上15重量%以下となる。
塩化ビニリデンモノマーを85重量%以上とすることにより、混合モノマーが不連続相で水に分散する状態にすることができ、塩化ビニリデンモノマーユニットを97重量%以下とすることにより、共重合体の融点と分解温度の差が小さくなることを防止して、押出成形時に押出機内で熱劣化するのを防止することができる。
【0021】
重合温度(y)は、50℃以上74℃以下であり、好ましくは50℃以上72℃以下であり、より好ましくは60℃以上72℃以下であり、さらに好ましくは65℃以上72℃以下である。
重合温度を50℃以上とすることにより、使用する開始剤の半減期温度を高く維持することができ、低温時の活性が高くなるのを抑えて安全に取り扱うことが可能となる。また、74℃以下とすることにより、塩化ビニリデンとアクリル酸メチルの共重合体粒子のガス吸着法による比表面積が0.6m2/g以上となり、残留モノマー除去速度が速くなる。
【0022】
また、重合温度(y)が、(0.4438×x+40)以上とすることにより、得られる共重合体のゲルパーミエーションクロマトグラフィー法による重量平均分子量が8.5万以下とすることができ、押出成形時に押出機内で熱劣化が発生するのを防止することができ、また、(0.4438×x+50)以下とすることにより、重量平均分子量が6.5万以上となり、インフレーション時にバブルの安定性を維持することができる。
【0023】
前記ラジカル開始剤としては、有機過酸化物、例えば、ラウロイルパーオキシド、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、ステアロイルパーオキシド、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシピバレート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート等が挙げられ、好ましくは、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシピバレート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシネオデカノエートが挙げられる。
【0024】
前記ラジカル開始剤の半減期温度は、一定の温度における有機過酸化物の分解速度を表す指標で、もとの有機過酸化物が分解して、その活性酸素量が1/2になるまでに要する時間で示される。よって、10hr半減期温度x(℃)とは、活性酸素量が1/2になるまでに要する時間が10時間となる温度を意味し、ラジカルに対し比較的不活性な溶液、たとえばベンゼンを主として使用して、0.1mol/l濃度の有機過酸化物溶液を調整し、窒素置換を行ったガラス管に密封し、恒温槽に浸して熱分解させて測定する。
【0025】
前記ラジカル開始剤の添加量としては、塩化ビニリデンモノマーおよびアクリル酸メチルモノマーの総量に対し1重量%以下が望ましい。
1重量%以下とすることにより、反応速度が速くなりこれに伴い発熱量も大きくなることを防止して、重合温度を制御することができる。
【0026】
上記塩化ビニリデン系共重合体の製造方法においては、水として脱イオン水を用いることが好ましい。
水は、塩化ビニリデンモノマー及びアクリル酸メチルモノマーの総量に対して同等量以上3倍量以下が好ましい。同等量以上とすることにより、混合モノマーが不連続相で水に分散する状態にすることができ、3倍量以下とすることにより、工業的生産性を高くすることができる。
【0027】
前記懸濁剤としては、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等のセルロース誘導体、ポリビニルアルコールおよびポリ酢酸ビニルの部分ケン化物等を使用することができる。
前記懸濁剤の添加量としては、塩化ビニリデンモノマー及びアクリル酸メチルモノマーの総量に対し、0.03重量%以上1.0重量%以下が好ましく、0.03重量%未満では、懸濁安定性が悪く、重合中に粒子同志が癒着して塊状物となり、1.0重量%を越えると水に混合モノマーが不連続相で分散する状態にすることが困難になる。
懸濁剤は、重合に使用する所定量の水に必要量をあらかじめ溶解して懸濁剤水溶液としておき、重合機に塩化ビニリデンモノマー及びアクリル酸メチルモノマーを投入後、攪拌下で懸濁剤水溶液を添加してゆく。
上記塩化ビニリデン系共重合体の製造方法においては、得られた共重合体生成物の重合率は、90%以上が好ましく、さらに好ましくは95%以上であり、重合率を90%以上とすることにより、良好な工業的生産性を達成することができる。
【0028】
上記塩化ビニリデン系共重合体の製造方法においては、得られる共重合体生成物に対して1重量%以下の割合で可塑剤を添加しても良い。
添加される可塑剤としては、フタル酸エステル、アジピン酸エステル、セバシン酸エステル、クエン酸エステル等が挙げられる。
可塑剤は、製造過程のどの工程で添加してもよく、たとえば、重合機に塩化ビニリデンモノマー等を投入するときに同時に投入、または、重合終了後のスラリーに投入、または、該共重合体の残留モノマー除去後にドライブレンドしてもよい。
【0029】
その後、そのまま押出成形に付しても良いが、必要に応じて各種の添加剤を加えることも可能である。
添加剤としては、エポキシ化大豆油、エポキシ化亜麻仁油、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、エポキシ化ポリブタジエン、エポキシ化ステアリン酸オクチル等のエポキシ化合物、ビタミンE、ブチルヒドロキシトルエン(BHT)、チオジプロピオン酸アルキルエステル等の抗酸化剤、ピロリン酸ソーダ、トリポリリン酸ソーダ、エチレンジアミン4酢酸2ナトリウム(EDTA−2Na)、酸化マグネシウム等の熱安定化助剤、各種光安定剤、各種滑剤、各種着色剤等を挙げることができる。
添加剤についても可塑剤と同様に各工程で添加することができるが、無機物紛体の添加剤については、該共重合体の残留モノマー除去後にドライブレンドすることが望ましい。
【0030】
(塩化ビニリデン系共重合体)
本発明の塩化ビニリデン系共重合体は、上記製造方法により製造される。
得られる塩化ビニリデン系共重合体は、粒子状であって、塩化ビニリデンモノマーユニット85〜97重量%、及びアクリル酸メチルモノマーユニット3〜15重量%の共重合体からなり、粒子径が、目開き1mmの篩を全て通過する範囲内に分布し、かつ、当該分布内の目開き150μmの篩を通過しない粒子の、ガス吸着法による比表面積が粒子1g当り0.6m2以上であることが好ましい。
【0031】
前記塩化ビニリデン系共重合体の粒子径は、好ましくは150μm以上1mm以下であり、より好ましくは150μm以上300μm以下である。
粒子径は、所定の粒子径が得られるように、重合中の攪拌機の回転数と懸濁剤量で調整する。
【0032】
前記塩化ビニリデン系共重合体のガス吸着法による粒子1g当りの比表面積は、好ましくは0.6m2以上、より好ましくは、0.65m2以上、更に好ましくは0.7m2以上である。
比表面積が大きくなるほどモノマー除去に要する時間が短縮され、生産性が向上するとともに、熱履歴が減少されることから熱安定性の向上にも繋がる。
【0033】
上記塩化ビニリデン系共重合体は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法による重量平均分子量が6.5万以上8.5万以下であることが好ましく、7万以上8万以下であることがより好ましい。
前記ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法は、スチレンポリマーを標準試料として用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー法である。
【実施例】
【0034】
以下、実施例に基づいて説明する。
【0035】
実施例中の比表面積、重量平均分子量、熱安定性、バブル安定性は以下の方法によって求めた。
【0036】
(比表面積)
比表面積は、島津製作所製比表面積計(FlowSorbIII)を用い、そのマニュアルに従って測定した。
【0037】
(重量平均分子量)
重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC法)で求めた値であり、使用機器類は以下の通りである。
機器:島津製作所製GPCシステム
カラム:GSシリーズ充填カラム(昭和電工株式会社製)
展開溶媒:THF(テトラヒドロフラン)
【0038】
測定方法は、以下の通りである。
塩化ビニリデンとアクリル酸メチルの共重合体をTHFに0.5重量%濃度に溶解させた測定試料を40℃に保温したカラムに注入し、その後の時間経過に伴う変化を、示差屈折計の出力電流として検出し、記録計のチャートに描かせた。
【0039】
分子量の構成は以下の通りである。
分子量が580、3050、11300、66000、552500、3150000である6種の単分散ポリスチレンの夫々について、本測定機で前もって測定を完了させておき、このデーターを検量線にして、塩化ビニリデンとアクリル酸メチルの共重合体の分子量の基礎計算とした。即ち分子量が既知の単分散ポリスチレンが示す、示差屈折計の出力電流のピーク値が生じるまでのGPCカウント数(試料注入時を起点0とする秒数)とそのものの分子量との関係を座標点とし、この6種の座標点を直線で結ぶグラフを作り、これをもって分子量算定の検量線とした。
【0040】
(熱安定性)
熱安定性は、東洋精機社製ラボプラストミル(30C150型)を用いて180℃−60rpm−5分の条件で混練した後、着色の程度を目視観察より判断し、結果を下記のごとく表した。
○:良好
×:不十分で製膜不可能
【0041】
(バブル安定性)
バブル安定性は、図1に示す単層フィルム製造装置を用いて判断した。
図1に示すように、押出機1のホッパー2から供給された塩化ビニリデン系共重合体は、スクリュー3で推進、加熱混練されて溶融し、押出機の先端に取り付けられた管状ダイ4のスリット部から押出されて、筒状パリソン5となる。パリソン5は冷却槽6の冷却水7およびパリソン内冷媒8で約10℃に急冷され、ピンチロールA、A’に導かれて筒状にして温水槽9で約40℃に余熱され、ピンチロールB、B’およびC、C’の間で、筒状フィルム内に密封されたエアーの体積、並びにピンチロールB、B’およびC、C’間の速度比によって筒の周方向および縦方向に各々約3倍に延伸し配向される。延伸されたフィルムは平坦2枚重ねに折り畳まれ、巻取りボビンD又はD’に巻き取られる。
【0042】
このときの、バブルの安定性を目視観察にて判断し、結果を下記のごとく表した。
○ :バブル安定性良好
× :バブル変動大
××:インフレーション不可能
【0043】
[実施例1]
塩化ビニリデンモノマー85.3kgとアクリル酸メチルモノマー4.7kgを混合したものに、ラジカル開始剤として1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート630gを溶解したものを、窒素置換された内面がグラスライニングされた攪拌機付き重合機に投入し、攪拌を開始して機内を25℃にした。
次に、脱イオン水223kgにヒドロキシプロピルメチルセルロース108gを溶解させたものを機内に投入した。機内を1時間かけて73.5℃に昇温し重合を開始した。7時間後に機内を1時間かけて25℃に冷却し、大気開放してボトム弁からスラリーを取り出した。
【0044】
次に、得られたスラリーを遠心脱水機にかけ水を分離した。得られた未乾燥共重合体を80℃の熱風乾燥機に入れ、数時間毎にサンプリングして残留塩化ビニリデンモノマーが1ppm以下になる時間を求めた。
残留塩化ビニリデンモノマーが1ppm以下になったら乾燥機から共重合体を取り出し、得られた共重合体重量から重合率を算出し重合率が90%以上であることを確認後、目開き1mmの篩を通過し、目開き150μmを通過しない共重合体について、比表面積、重量平均分子量、熱安定性、バブル安定性を求めた。
【0045】
[実施例2]
塩化ビニリデンモノマー85.3kgとアクリル酸メチルモノマー4.7kgを混合したものに、ラジカル開始剤としてt−ブチルパーオキシピバレート432gを溶解したこと、重合機を70℃に昇温し重合したこと以外は、実施例1と同様の操作を行い未乾燥共重合体を得た。
得られた未乾燥共重合体を、実施例1と同様に測定した。
【0046】
[実施例3]
塩化ビニリデンモノマー85.3kgとアクリル酸メチルモノマー4.7kgを混合したものに、ラジカル開始剤としてt−ブチルパーオキシネオデカノエート612gを溶解したこと、重合機を66℃に昇温し重合したこと以外は、実施例1と同様の操作を行い未乾燥共重合体を得た。
得られた未乾燥共重合体を、実施例1と同様に測定した。
【0047】
[比較例1]
塩化ビニリデンモノマー85.3kgとアクリル酸メチルモノマー4.7kgを混合したものに、ラジカル開始剤としてt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート630gを溶解したこと、重合機を78℃に昇温し重合したこと以外は、実施例1と同様の操作を行い未乾燥共重合体を得た。
得られた未乾燥共重合体を、実施例1と同様に測定した。
【0048】
[比較例2]
塩化ビニリデンモノマー85.3kgとアクリル酸メチルモノマー4.7kgを混合したものに、ラジカル開始剤としてt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート630gを溶解したこと、重合機を70℃に昇温し重合したこと以外は実施例1と同様の操作を行い未乾燥共重合体を得た。
得られた未乾燥共重合体を、実施例1と同様に測定した。
【0049】
[比較例3]
塩化ビニリデンモノマー85.3kgとアクリル酸メチルモノマー4.7kgを混合したものに、ラジカル開始剤として1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート630gを溶解したこと、重合機を76℃に昇温し重合したこと以外は、実施例1と同様の操作を行い未乾燥共重合体を得た。
得られた未乾燥共重合体を、実施例1と同様に測定した。
【0050】
[比較例4]
塩化ビニリデンモノマー85.3kgとアクリル酸メチルモノマー4.7kgを混合したものに、ラジカル開始剤として1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート630gを溶解したこと、重合機を66℃に昇温し重合したこと以外は、実施例1と同様の操作を行い未乾燥共重合体を得た。
得られた未乾燥共重合体を、実施例1と同様に測定した。
【0051】
[比較例5]
塩化ビニリデンモノマー85.3kgとアクリル酸メチルモノマー4.7kgを混合したものに、ラジカル開始剤としてt−ブチルパーオキシピバレート432gを溶解したこと、重合機を76℃に昇温し重合したこと以外は、実施例1と同様の操作を行い未乾燥共重合体を得た。
得られた未乾燥共重合体を、実施例1と同様に測定した。
【0052】
[比較例6]
塩化ビニリデンモノマー85.3kgとアクリル酸メチルモノマー4.7kgを混合したものに、ラジカル開始剤としてt−ブチルパーオキシピバレート432gを溶解したこと、重合機を63℃に昇温し重合したこと以外は、実施例1と同様の操作を行い未乾燥共重合体を得た。
得られた未乾燥共重合体を、実施例1と同様に測定した。
【0053】
[比較例7]
塩化ビニリデンモノマー85.3kgとアクリル酸メチルモノマー4.7kgを混合したものに、ラジカル開始剤としてt−ブチルパーオキシネオデカノエート612gを溶解したこと、重合機を74℃に昇温し重合したこと以外は、実施例1と同様の操作を行い未乾燥共重合体を得た。
得られた未乾燥共重合体を、実施例1と同様に測定した。
【0054】
以上の実施例1〜3および比較例1〜7の測定結果を表1に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
表1に示すように、重合工程(昇温時間+重合時間+冷却時間)に要する重合時間に対し、乾燥工程に要する乾燥時間を同等又はそれ以下にするには、共重合体粒子のガス吸着法による比表面積を0.6m2/g以上にする必要があることが分かった。
重合温度を下げると比表面積が大きくなり、残留モノマー除去速度がアップして乾燥時間が短くできるが、比較例2,4,6のごとく単純に重合温度のみを下げただけでは、分子量が大きくなり押出成形時に熱劣化してしまう。
また、比較例5,7のごとく使用するラジカル開始剤の半減期温度に対し、重合温度が高すぎる場合、分子量が小さくなり押出成形時のインフレーションバブルの安定性が悪化した。
【0057】
以上のことから、重合温度に対し、特定の半減期温度を持つラジカル開始剤を使用することにより、生産性良く塩化ビニリデンとアクリル酸メチルの共重合体を得ることが可能となった。
更に、乾燥時間を短くすることで、塩化ビニリデンとアクリル酸メチルの共重合体に与える熱履歴を減少させることができ、熱安定性を向上させることができた。
更に、比表面積が大きくなることにより、塩化ビニリデンとアクリル酸メチル共重合体粒子がより多孔質になり、それにより、熱安定剤や可塑剤の吸収性が良くなり、均一分散することで熱安定性の向上、未溶融物の減少、押出成形時の押出トルクの安定化にも繋がった。
【0058】
本発明の製造方法によれば、安定した押出成形性を維持しつつ、残留モノマー除去速度が速くなる空隙構造を有する粒子状の塩化ビニリデン系共重合体の製造方法を提供でき、製造の生産性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】単層フィルム製造装置の模式図である。
【符号の説明】
【0060】
1 押出機
2 ホッパー
3 スクリュー
4 管状ダイ
5 筒状パリソン
6 冷却槽
7 冷却水
8 パリソン内冷媒
9 温水槽
A,A’ ピンチロール
B,B’ ピンチロール
C,C’ ピンチロール
D,D’ 巻取りボビン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ビニリデン系共重合体の製造方法であって、
塩化ビニリデンモノマー85〜97重量%とアクリル酸メチルモノマー3〜15重量%との混合モノマー、又は混合モノマーが連続相を維持できる範囲の量の水を含む混合モノマーに、
攪拌下で懸濁剤水溶液を加え、混合モノマーが連続相で水が不連続相である分散状態を経由して、混合モノマーが不連続相で水が連続相である分散体を得る工程と、
前記分散体を、ラジカル開始剤の存在下で、重合温度y(℃)に加熱して重合させる工程と、を含み、
前記重合温度y(℃)と、前記ラジカル開始剤のベンゼン中、0.1mol/lにおける10hr半減期温度x(℃)とが、以下を満たすことを特徴とする、塩化ビニリデン系共重合体の製造方法。
(1)50≦y≦74であり、かつ
(2)0.4438×x+40≦y≦0.4438×x+50
【請求項2】
前記重合温度y(℃)と、前記ラジカル開始剤のベンゼン中、0.1mol/lにおける10hr半減期温度x(℃)とが、以下を満たす、請求項1記載の塩化ビニリデン系共重合体の製造方法。
(1)50≦y≦72であり、かつ、
(2)0.4438×x+40≦y≦0.4438×x+50
【請求項3】
請求項1記載の製造方法により製造される、粒子状の塩化ビニリデン系共重合体であって、
塩化ビニリデンモノマーユニット85〜97重量%、及びアクリル酸メチルモノマーユニット3〜15重量%の共重合体からなり、
粒子径が、目開き1mmの篩を全て通過する範囲内に分布し、
かつ、当該分布内の目開き150μmの篩を通過しない粒子の、ガス吸着法による比表面積が粒子1g当り0.6m2以上である、塩化ビニリデン系共重合体。
【請求項4】
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法による重量平均分子量が6.5万以上8.5万以下である、請求項3記載の塩化ビニリデン系共重合体。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2009−120630(P2009−120630A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−292928(P2007−292928)
【出願日】平成19年11月12日(2007.11.12)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】