説明

塩化ビニル系樹脂の製造方法

【課題】 本発明は、架橋ゲル分のゲル密度の制御が可能で、透明性を損なわずに成形体の表面の艶消性に優れた新規な塩化ビニル系樹脂の製造方法を提供する。
【解決手段】塩化ビニルと共重合可能なアリル基を2つ以上有する架橋モノマー(A)と塩化ビニルモノマー(B)を水性媒体中で懸濁重合するに際し、塩化ビニルモノマーの重合転化率が20以上80%以下の期間に、2−メルカプトエタノール(C)を少なくとも2回添加し、且つ添加量が(B)の総量に対し、(C)を10重量%以下添加する塩化ビニル系樹脂(D)の製造方法であって、得られる塩化ビニル系樹脂(D)中の架橋ゲル分率が20〜60重量%であり、かつTHF不溶分の全透過率Tが50〜80%であることを特徴とする塩化ビニル系樹脂の製造方法により達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は塩化ビニル系樹脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
塩化ビニル樹脂は安価であり、機械的物性、化学的物性に優れ、また可塑剤量の調整により硬質から軟質までの成形体が得られるため種々の用途に使用されている。
【0003】
特に、軟質用途に用いられる塩化ビニル樹脂は、可塑剤量の調整で硬度、柔軟性を調整することができ、電線被覆等押出成型用途、合成皮革等のシート・フィルム用途、インジェクション用途、その他様々な用途において広く用いられている。
【0004】
そのなかでも近年、種々の分野の成形品において、高級感のある艶消表面が好まれるようになり、しかも機械的強度、触感の良さという観点から表面凹凸が均一で、きめ細かな表面状態が好まれる様になってきた。
【0005】
これらの要望に応えるべく、すでにジアリルフタレート、ジアリルマレエート、ポリエチレングリコールジアクリレート、トリアリルイソシアヌレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等の架橋剤を使用して重合中にゲル分を生成せしめ、艶消表面を得ることが知られているが、これらの技術によって得られる塩化ビニル系重合体は、何れも通常の塩化ビニル樹脂と比較して均一な架橋を形成することが難しいことや、生成したゲルの架橋点間分子量が短いために架橋ゲル分の密度が高く、シート表面の平滑性が低いことや、架橋ゲル分による透明シートのヘイズの低下に課題があった(特許文献1、2)。
【0006】
これらの課題を解決するために、2種類以上の反応性の異なる架橋剤を添加することや架橋剤を連続追加することが知られているが、反応性の低い架橋剤が重合末期にまで活性を保つために架橋ゲル分が肥大化し、シート表面平滑性が低下する課題があった(特許文献3)。
【0007】
また、架橋剤を用いた重合系中の反応途中に重合禁止剤を添加することも知られているが、重合禁止剤添加後の転化率上昇が期待されず、生産性が低下する課題があった(特許文献4)。
【0008】
一方、架橋剤としてジアリルフタレート、トリアリルを使用し、重合仕込時に2−メルカプトエタノールを添加した塩化ビニル系重合体が知られているが、重合時に架橋ゲルが形成されず、押出シートの表面粗さが小さく、艶消効果が得られにくい課題があった。(特許文献5)
【特許文献1】特公昭62−015564号公報
【特許文献2】特開昭58−047011号公報
【特許文献3】特許第2539545号公報
【特許文献4】特開平07−292006号公報
【特許文献5】特開平08−113601号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、架橋ゲル分の制御を可能とし、透明性を損なわずに成形体の表面の艶消性に優れた新規な塩化ビニル系樹脂の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は鋭意研究の結果、上記課題を達成できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、塩化ビニルと共重合可能なアリル基を2つ以上有する架橋モノマー(A)と塩化ビニルモノマー(B)を水性媒体中で懸濁重合するに際し、塩化ビニルモノマーの重合転化率が20以上80%以下の期間に、2−メルカプトエタノール(C)を少なくとも2回添加し、且つ添加量が(B)の総量に対し、(C)を10重量%以下添加する塩化ビニル系樹脂(D)の製造方法であって、得られる塩化ビニル系樹脂(D)中の架橋ゲル分率が20〜60重量%であり、かつTHF不溶分の全透過率Tが50〜80%であることを特徴とする塩化ビニル系樹脂の製造方法であり、前記架橋モノマー(A)がトリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート及びトリメチロールプロパンジアリルエーテルから選ばれる少なくとも1つであるのが好ましい。
【0011】
ここで、前記(C)を塩化ビニルモノマーの転化率が20%以上40%以下の期間に少なくとも1回添加し、且つ塩化ビニルモノマーの転化率が40%を超え60%以下の間に1回以上添加するのが好ましい。
【0012】
また、前記(C)を塩化ビニルモノマーの転化率が20%以上40%以下の期間に少なくとも1回添加し、且つ塩化ビニルモノマーの転化率が40%を超え60%以下の間または、塩化ビニルモノマーの転化率が60%を超え80%以下の間に1回以上添加することもできる。
【0013】
一方、本発明の塩化ビニル樹脂成形体は、上記した塩化ビニル系樹脂(D)10〜80重量部と、(D)以外の塩化ビニル樹脂(E)20〜90重量部、可塑剤50〜120重量部からなるISO2898−2に準拠したシート成形体であって、1mm厚の塩化ビニルシートの表面凹凸(Ra)が0.7〜1.0μmの範囲である。また、このシートの5mm厚プレス成形板のシートのヘイズ値が65以下、且つ透過率が70%以上となることを特徴とする塩化ビニル系樹脂成形体である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、架橋ゲル分の密度を低下でき、透明性を損なわず、成形体としては、成形体表面の艶消性に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明で使用される、塩化ビニルと共重合可能なアリル基を2つ以上有する架橋モノマー(A)としては、ジアリルフタレート、ジアリルイソフタレート、ジアリルテレフタレート等のフタル酸ジアリルエステル類、ジアリルマレエート、ジアリルフマレート、ジアリルイタコネート等のエチレン性不飽和2塩基酸のジアリルエステル類、ジアリルアジペート、ジアリルアセテート、ジアリルセバケート等の飽和2塩基酸のジアリルエステル類、ジアリルエーテル、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルトリメリテート、トリメチロールプロパンジアリルエーテル、ペンタエリスリトールトリアリルエーテル等が挙げられ、上記架橋モノマーの内、少なくとも1種を用いる。特に、架橋ゲル分の反応が遅く、架橋ゲル分の密度が低下できることから、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、トリメチロールプロパンジアリルエーテルが好ましい。また、トリアリルイソシアヌレートを使用すると、重合末期の架橋ゲル分が肥大化しにくく、艶消シート表面が高級感ある艶消状態となることがあり、特に好ましい。
【0016】
本発明で使用される架橋モノマーは、塩化ビニルモノマーとともに水性媒体中で懸濁重合される。架橋モノマーの量として、特に限定はないが、架橋ゲル分率が20重量%から60重量%の範囲とするため、塩化ビニルモノマー100部に対して、0.05部から2.0部の添加量が好ましい。
【0017】
ここで架橋ゲル分率とは、本発明の塩化ビニル系樹脂(D)が3重量%となるようにテトラヒドロフラン(以下、THF)に添加し、50℃で攪拌溶解後、同温度で30分間静置し、不溶解物を沈殿させ、上澄みを取り除いたものに、再度樹脂溶解時に使用した量のTHFを投入し、再溶解を行う。同操作を2回繰り返した後、残ったTHF不溶解物に大過剰のメタノールを投入し、No.2(アドバンテック製)のろ紙を用いて吸引濾過を行い、ろ紙上に残った樹脂を架橋ゲル分と定義し、これを60℃で7時間乾燥後、乾燥重量を計測することで、THF溶解前の樹脂重量中の重量分率を計算した値を架橋ゲル分率と定義する。
【0018】
本発明で使用される塩化ビニルモノマーは、予め架橋モノマーを分散した水に仕込んでも、架橋モノマーと塩化ビニルモノマーを混合溶解した後、水中に分散させてもよい。
また、塩化ビニルモノマーの仕込量の一部を重合開始後に添加してもよい。特に、架橋ゲル分の密度低下ができることから、仕込量の20〜50%を重合開始とともに、重合転化率が50%未満までの間に、連続追加することが好ましい。
【0019】
本発明で使用される2−メルカプトエタノール(C)は、塩化ビニルモノマーの重合転化率が20%以上40%以下の期間に少なくとも1回添加される。更に上記期間の2−メルカプトエタノールに加えて、塩化ビニルモノマーの重合転化率が40%を超え80%以下の間に1回以上添加すると、架橋ゲル分の架橋点間分子量が大きくなるとともに架橋密度が低下することにより、成形体表面の表面平滑性が得られやすくなるとともにゴム様の艶消状態を表現することができ好ましい。また更に、塩化ビニルモノマーの重合転化率が20%以上40%以下の期間に少なくとも1回の2−メルカプトエタノールに加えて、塩化ビニルモノマーの重合転化率が40%を超え60%以下の間に1回以上添加、且つ、塩化ビニルモノマー重合転化率60%を超え80%以下の間に1回以上添加すると、架橋ゲル分の肥大化が抑制され、幅広い加工条件においてゴム様の艶消状態が表現できるとともに、シート表面の艶戻りが少なくなり最も好ましい。
【0020】
本発明で使用される2−メルカプトエタノール(C)の追加量の総量は、架橋モノマーの仕込量の10重量%以下の量を重合系中に添加する。特に、塩化ビニルモノマーの重合転化率が20%以上40%以下の期間に、2−メルカプトエタノールを架橋モノマーの仕込量に対して3重量%以下の量を添加すると、架橋ゲル分の架橋密度が低下し、透明シートでのヘイズ値が低下するため好ましい。また、上記添加に加えて、塩化ビニルモノマーの重合転化率が40%を超え80%以下の期間に2−メルカプトエタノールを架橋モノマーの仕込量の3重量%以下の量を添加すると、重合末期に形成されると考えられる架橋ゲル分の肥大化を抑制することができるため、特に好ましい。また更に、塩化ビニルモノマーの重合転化率が20%以上40%以下の期間に架橋モノマーの仕込量に対して3重量%以下の量、かつ塩化ビニルモノマーの重合転化率が40%を超え60%以下の期間に架橋モノマーの3重量%以下の量、かつ塩化ビニルモノマーの重合転化率が60%を超え80%以下の期間に架橋モノマーの4重量%以下の量を添加すると、架橋ゲル分の架橋密度が低下するとともに、架橋ゲル分の凝集状態が緩和されることがあり、成形体表面のツブ残りが少なくなり最も好ましい。
【0021】
本発明で製造される塩化ビニル系樹脂(D)中のTHF不溶物の全透過率Tは50〜80%である。この範囲であれば、シート表面に良好な艶消効果が表れ、透明シート用の配合に30部程度添加しても透明性を著しく低下させることがなく好ましい。ここで、樹脂中のTHF不溶物の全透過率の測定は、本発明の塩化ビニル系樹脂1gをビーカー中のTHF100ml中に添加し、50℃で攪拌溶解後、約20度の室温雰囲気下で30分間静置し不溶解物を沈殿させ、上澄みをスポイト等で取り除き、ガラス製3.5mm幅、4.5mm光路長、4.5mm深さのセルに不溶物を移し、30分間静置後、日本電色社製 濁度計NDH−300Aにて全透過率を測定する。樹脂中の架橋ゲルのTHF膨潤度が高いほど、架橋密度が低いことが当社の知見より得られている。全透過率が55%以上ある樹脂を用いたシートは、しっとりとした濡れたような艶消表面状態となり好ましく、全透過率が60%以上ある樹脂を用いたシートは、低い剪断条件で作成しても好ましい艶消表面が得られ特に好ましい。
【0022】
本発明の塩化ビニル系樹脂の製造方法については、重合手段に特段の制約はないが、重合制御の簡便性、乾燥樹脂が粒子状粉体で得られ、良好なハンドリング性が得られやすいことから水性重合が好ましく、例えば、乳化重合法、懸濁重合法、微細懸濁重合法等の製造方法が挙げられる。特に好ましくは、粒子制御の簡便性、乾燥処理の簡便性より懸濁重合法で製造される。
【0023】
懸濁重合法の場合、使用する懸濁分散剤としては特に制約はないが、例えば部分鹸化ポリ酢酸ビニル、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、酢酸ビニル−マレイン酸共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、ゼラチン、デンプン等の有機高分子化合物;硫酸カルシウム、燐酸三カルシウム等の水難溶性無機微粒子が使用可能で、これらは単独または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0024】
さらに本発明の塩化ビニル系樹脂を製造する際に用いられる懸濁重合法においては、油溶性重合開始剤を添加すれば良いが、これらの開始剤のうち10時間半減期温度が30〜65℃のものを1種または2種以上使用するのが好ましい。重合開始剤は重合させるモノマーに可溶であることが好ましく、このような重合開始剤としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス−4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル、その他のアゾ系またはジアゾ系重合開始剤;ベンゾイルパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、イソプロピルパーオキシカーボネート、その他の有機過酸化物系重合開始剤が挙げられ、これらは単独で用いても良いし2種以上を組み合わせて用いても良い。これら油溶性重合開始剤は特に制約のない状態で添加することができるが、例えば有機溶剤に溶解して使用する場合には、その有機溶剤の例としては、トルエン、キシレン、ベンゼン等の芳香族炭化水素;ヘキサン、イソパラフィン等の脂肪族炭化水素;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル、ジオクチルフタレート等のエステル類が挙げられ、これらは単独または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0025】
その他、抗酸化剤、重合度調節剤、粒子径調節剤、pH調節剤、ゲル化性改良剤、帯電防止剤、安定剤、スケール防止剤等も、一般に塩化ビニル系樹脂の製造に使用されるものを、必要に応じて特に制約されず、任意の量で用いることができる。
【0026】
本発明の塩化ビニル系樹脂は、単独使用しても良好な艶消性の成形体を得ることができるが、通常は他の塩化ビニル樹脂に添加することで塩化ビニル樹脂成形体に艶消効果を付与する目的で塩化ビニル樹脂組成物として使用される。通常の塩化ビニル樹脂に本発明の塩化ビニル系樹脂(D)を添加する場合は、本発明に記載の製造方法で得られた塩化ビニル系樹脂(D)と、本発明以外の通常の塩化ビニル系樹脂(E)からなる塩化ビニル樹脂のうち、本発明の製造方法で得られた塩化ビニル系樹脂(D)の割合が10〜80重量部の範囲であることが好ましく、特に強度の低下にあまり影響がないことから、20〜50重量部の範囲がより好ましい。
【0027】
この時、塩化ビニル樹脂組成物に使用される塩化ビニル樹脂(E)の重合度(K値)は特に限定はないが、塩化ビニル系樹脂の可溶分K値と同程度のK値のものを使用すると、加工時の架橋ゲル分による微細な表面凹凸が現れ、艶消性が如実に現れるため好ましい。
【0028】
本発明の塩化ビニル系樹脂を用いた組成物は、必要に応じて、可塑剤、充填剤、熱安定剤、難燃剤、滑剤、帯電防止剤、強化剤、改質剤、顔料等を必要に応じて配合することができる。
【0029】
塩化ビニル樹脂組成物の柔軟性を調整するために、適宜可塑剤を添加することもできる。例えば、ジ−2−エチルヘキシルフタレート(DOP),ジ−n−オクチルフタレート,ジイソノニルフタレート(DINP),ジブチルフタレート(DBP)等のフタル酸エステル系可塑剤;トリクレジルフォスフェート(TCP),トリキシリルホスフェート(TXP),トリフェニルフォスフェート(TPP)、トリ−2−エチルヘキシルホスフェート(TOTM)、等のリン酸エステル系可塑剤;2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールジイソブチレート(TXIB)、ジ−2−エチルヘキシルアジペート(DEHA),ジ−2−エチルヘキシルセバケート等の脂肪酸エステル系可塑剤、ポリアクリル酸ブチル、アクリル酸−n−ブチル/メタクリル酸メチル共重合体、アクリル酸−2−エチルヘキシル/メタクリル酸メチル共重合体、アクリル酸−2−エチルヘキシル/メタクリル酸メチル/メタクリル酸−n−ブチル共重合体等のポリアクリル系可塑剤等から選ばれる一種または二種以上の可塑剤が使用できる。
【0030】
可塑剤量としては、塩化ビニル樹脂組成物の望ましい柔軟性を調整する量を添加するため、本発明の塩化ビニル系樹脂、塩化ビニル樹脂からなる塩化ビニル樹脂100重量部に対し、50〜120重量部の範囲で使用することが好ましい。より好ましくは60〜110重量部の範囲で使用され、最も好ましくは70〜100重量部の範囲である。
【0031】
また、塩化ビニル樹脂組成物の熱安定性を調整するために適宜熱安定剤を用いることができる。そのような熱安定剤としては、例えばジメチル錫メルカプト、ジブチル錫メルカプト、ジオクチル錫メルカプト、ジブチル錫マレート、ジブチル錫マレートポリマー、ジオクチル錫マレート、ジオクチル錫マレートポリマー、ジブチル錫ラウレート、ジブチル錫ラウレートポリマー等の有機錫安定剤;ステアリン酸鉛、二塩基性亜燐酸鉛、三塩基性硫酸鉛等の鉛系安定剤;カルシウム−亜鉛系安定剤;バリウム−亜鉛系安定剤;カドミウム−バリウム系安定剤等が挙げられ、これらは単独で用いても2種以上を併用しても良い。またその使用量も特に制約はないが、本発明の塩化ビニル系樹脂、本発明以外の通常の塩化ビニル樹脂からなる塩化ビニル樹脂100重量部に対し5重量部以下の範囲で使用されることが好ましい。
【0032】
さらに安定化助剤としては、特に限定されないが、例えばエポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油、エポキシ化テトラヒドロフタレート、エポキシ化ポリブタジエン、燐酸エステル等が挙げられ、これらは単独で用いても2種以上を併用しても良い。またその使用量も特に制約はない。
【0033】
充填剤としては、特に限定されないが、例えば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸リチウム、カオリングレー、石膏、マイカ、タルク、水酸化マグネシウム、珪酸カルシウム、硼砂等を挙げることができる。充填剤の使用量についても、特に制約はないが、透明用途から強化剤として使用する適量の範囲で用いることができ、一般的に本発明の塩化ビニル系樹脂、本発明以外の通常の塩化ビニル樹脂からなる塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、20〜500重量部以下の範囲で使用することが好ましい。より好ましくは、30〜200重量部以下の範囲で使用され、最も好ましくは50〜100重量部以下の使用範囲である。
【0034】
本発明の塩化ビニル系樹脂(D)と(D)以外の塩化ビニル樹脂(E)からなる塩化ビニル樹脂組成物を用いた5mm厚の透明板は、ヘイズ値が65以下、且つ透過率は70%以上であるのが好ましい。シート作製方法は、ISO2898−2に準拠して作製されるが、例えば、本発明以外の通常の塩化ビニル樹脂(E)70部、本発明の塩化ビニル系樹脂(D)30部、TOTM60部、DINA20部、ステアリン酸カルシウム0.5部、ステアリン酸亜鉛0.5部をヘンシェルミキサーで昇温した後、攪拌混合した後、一旦室温にまで冷却を行い、パウダー状となったものをカレンダーロールにてシートを作製する。
【0035】
加工温度は、使用する本発明以外の通常の塩化ビニル樹脂、本発明の製造方法で得られた塩化ビニル系樹脂(D)の重合度により適宜変更することが好ましく、例えば、使用する通常の塩化ビニル樹脂(E)のK値が72の場合は、ヘンシェルミキサーを120℃まで昇温、10分間攪拌混合した後、室温まで冷却を行い、ロール温度160℃で5分間ロールを行い、透明シートを作製する。その後シートを重ねて165℃、10分間、100kg/cm2のプレスにて55mm×65mm、厚み5mmの透明板を作製したものを使用するのが好ましい。
【0036】
また、上記した塩化ビニル樹脂組成物を用いたシートは、艶消表面のRaが0.7〜1.0μmの範囲にあるときの、シートの60°反射光のグロスが3〜7であるのが好ましい。このシートの作成条件は、上記シート配合にカーボンブラック0.1部を添加した粉体を用いた他は、特に限定はなく、樹脂温、各バレル温度、ダイ圧、スクリュー回転数、フィード量の条件を調整して、1mm厚の押出シートを作製して得られる。シートの表面凹凸は、小坂研究所製Surfcorder modelSE−3C(80μmオーバーカット)で測定し、シート押出方向4mm長さの艶消表面のRaを30箇所測定した平均をRaと定義し、シートの60°反射光のグロスは、スガ試験機製、DIGITAL VARIABLE GLOSS METER UGV−5D、黒色光沢標準板使用で測定する。
【0037】
その他、塩化ビニル樹脂組成物の製造方法としては、本発明から得られる塩化ビニル系樹脂(D)と、必要に応じて用いられる他の通常の塩化ビニル樹脂(E)等をそれぞれ所定量配合し、さらに必要に応じて使用される各種添加剤(熱安定剤、滑剤、安定化助剤、加工助剤、充填剤、酸化防止剤、光安定剤、顔料、可塑剤等)を配合したものを、例えばヘンシェルミキサー等の混合機等を用いて、ホットブレンドまたはコールドブレンド等の常法によって均一に混合するなどの方法で製造すれば良い。その際の配合順序等には特に限定はないが、例えば塩化ビニル系樹脂及び各種添加剤を一括して配合する方法、液状の添加剤を均一に配合する目的で先に塩化ビニル系樹脂及び粉粒体の各種添加剤を配合したのち液状添加剤を配合する方法等を用いることができる。
【0038】
このようにして製造された塩化ビニル樹脂組成物を各種成形体に成形加工する方法としては、特に限定はないが、例えば押出成形法、射出成形法、カレンダー成形法、プレス成形法等の、通常の塩化ビニル系樹脂の加工法が挙げられる。
【0039】
また、本発明の塩化ビニル系樹脂の使用用途としては、本発明の塩化ビニル系樹脂を使用可能なものであれば特に限定はないが、椅子等の人体との密着による不快感防止、シート間の重ね置き時の密着防止、電線等の引き回し時の摩擦・摩耗防止、床材等の反射防止に特に効果があり好ましく、具体的な用途を例示すれば、合成レザー、壁紙、ストレッチフィルム、ホース・チューブ、電線被覆コート、サイディング材等が挙げられる。
【実施例】
【0040】
次に本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。ここで、特に断りのない限り、実施例中の「部」は「重量部」を、「%」は「重量%」を意味する。
【0041】
(測定方法)
(1)架橋ゲル分率の測定
塩化ビニル系樹脂が3重量%となるようにテトラヒドロフラン(THF)に添加し、50℃で攪拌溶解後、同温度で30分間静置し、不溶解物を沈殿させ、上澄みを取り除いたものに、再度樹脂溶解時に使用した量のTHFを投入し、再溶解を行う。同操作を2回繰り返した後、残ったTHF不溶解物に大過剰のメタノールを投入し、No.2(アドバンテック製)のろ紙を用いて吸引濾過を行い、ろ紙上に残った樹脂を60℃で7時間乾燥後、乾燥重量を計測することで、THF溶解前の樹脂重量中に含まれる、架橋ゲル分の重量分率を計算して得られた。
【0042】
(2)樹脂のTHF不溶分の全透過率の測定
塩化ビニル系樹脂1gをビーカー中のTHF100ml中に添加し、50℃で攪拌溶解後、約20度の室温雰囲気下で30分間静置し不溶解物を沈殿させ、上澄みをスポイト等で取り除き、ガラス製3.5mm幅、4.5mm光路長、4.5mm深さのセルにTHF不溶物を移し、30分間静置後、日本電色社製 濁度計NDH−300Aにて全透過率(T)を測定する。全透過率が低いほど、架橋密度が低いことが当社の知見より得られている。
【0043】
(3)透明シートのヘイズ値、透過率の測定
本発明以外の通常の塩化ビニル樹脂70部、実施例から得られた塩化ビニル系樹脂30部、TOTM60部、DINA20部、ステアリン酸カルシウム0.5部、ステアリン酸亜鉛0.5部をヘンシェルミキサーで昇温した後、攪拌混合した後、一旦室温にまで冷却を行い、パウダー状となったものをカレンダーロールにてシートを作製する。加工温度は、使用する本発明以外の通常の塩化ビニル樹脂、実施例から得られた塩化ビニル系樹脂の重合度により、実施例の条件にて透明シートを作製する。その後シートを重ねて、ロール成形温度より5℃高いプレス温度にて10分間、100kg/cm2のプレスにて55mm×65mm、厚み5mmの透明板を作製したものを使用する。
この透明板を、23℃、50%湿度の恒温室に24時間以上静置後、日本電色社製 濁度計NDH−300Aにて全透過率、ヘイズ値を測定する。
【0044】
(4)シート表面凹凸(Ra)、シート反射光(60°)のグロスの測定
本発明以外の通常の塩化ビニル樹脂70部、実施例から得られた塩化ビニル系樹脂30部、TOTM60部、DINA20部、ステアリン酸カルシウム0.5部、ステアリン酸亜鉛0.5部、カーボンブラック0.1部をヘンシェルミキサーで昇温した後、攪拌混合した後、一旦室温にまで冷却を行い、パウダー状となったものを単軸50mm押出機(田辺プラスチック機械製)のフィーダーに投入し、ダイ温度をロール成形温度に設定し、フィーダーに向けてバレルの設定温度を5℃ずつ低下させる。フィーダー下温度は120℃に設定した。スクリュー回転数、フィード量の条件を調整して、7cm幅、1mm厚の押出シートを作製して得られる。シートの表面凹凸は、小坂研究所製Surfcorder modelSE−3C(80μmオーバーカット)で測定し、シート押出方向4mm長さの艶消表面のRaを30箇所測定した平均を、シート表面凹凸(Ra)とする。また、同シートの60°反射光のグロスは、スガ試験機製、DIGITAL VARIABLE GLOSS METER UGV−5D、黒色光沢標準板使用で校正した後10箇所の測定を行い、その平均値をシート反射光(60°)グロス値とする。
【0045】
(5)シート表面の官能評価
前記(4)のシート表面のツブ残り、表面艶消性を目視評価し、以下の判定基準に則り判定した。
【0046】
表面ツブ:シート表面の5cm四方のツブの数より評価した。
◎;目視ではツブが確認できない
○;0.2mm以上の目視確認できるツブが10個以下
△;0.2mm以上の目視確認できるツブが10個以上、0.5mm以上の目視確認できるツブが10個以下
×;0.5mm以上の目視評価できるツブが10個以上。
【0047】
表面艶消性:シートの艶消状態・光沢感を以下の判定基準に従い、判定した。
◎;ゴム様のしっとりと濡れたような表面
○;見る角度によってはやや光沢の残る表面
△;光沢感の残る表面
×;鏡面に近い光沢感の強い表面。
【0048】
(実施例1)
ジャケット及び攪拌機を備えた内容量25リットルのステンレス鋼製重合機に、純水200部、鹸化度約80モル%、平均重合度約2000の部分鹸化ポリビニルアルコール0.1部、平均分子量が約450万のポリエチレンオキサイド0.005部、t−ブチルペルオキシネオデカノエート0.025部、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート0.042部、トリアリルイソシアヌレート0.2部を仕込み、脱気後に塩化ビニルモノマー80部を仕込んだのち、重合温度52℃で10時間重合した。重合制御開始より、塩化ビニルモノマー20部を2時間かけて連続的に追加を実施した。転化率が30%、60%に到達した時点で、2−メルカプトエタノールをそれぞれ0.002部、0.005部を洗水とともに圧入し、重合を継続した。重合転化率が70%に到達した時点で内温を55℃として保持した後、重合開始より10時間後に重合機内の未反応モノマーを回収するとともに重合機を冷却し、スラリーを払い出した。スラリーを吸引濾過することで脱水し、得られた樹脂ケーキを55℃の熱風式乾燥機で12時間乾燥することで塩化ビニル系樹脂(A)を得た。
【0049】
この樹脂(A)の架橋ゲル分の分析結果、およびこの樹脂(A)を用いた塩化ビニル樹脂組成物のシート成形体の評価結果を表1に示す。ここで本配合に使用した塩化ビニル樹脂はカネカ製S1003N(K値 約72)を使用した。塩化ビニル系組成物を得るためのヘンシェルミキサーでの混合は、120℃昇温後10分間攪拌し、室温にまで冷却を実施し、シート作製条件は、ロール温度160℃で5分間ロールを実施した。透明板の作製はこのロールシートを重ねて165℃、10分間、100kg/cm2のプレス条件にて55mm×65mm、厚み5mmの成形体を得た。
得られた樹脂(A)は、全透過率の高い架橋ゲル分が得られるため、透明板の透明性も高く、押出シートの艶消性もゴム様風合いの高級感のある表面状態となり好ましい。
【0050】
(実施例2)
実施例1の2−メルカプトエタノールの添加を、重合転化率40%、60%、80%に到達した時点でそれぞれ0.002部、0.002部、0.003部追加した以外は、実施例1と同様の操作を行うことで、塩化ビニル系樹脂(B)を得た。
【0051】
この樹脂(B)の架橋ゲル分の分析結果、およびこの樹脂(B)を用いた塩化ビニル樹脂組成物のシート成形体の評価結果を表1に示す。ここで本配合に使用した塩化ビニル樹脂はカネカ製S1003N(K値 約72)を使用した。塩化ビニル系組成物を得るためのヘンシェルミキサーでの混合は、120℃昇温後10分間攪拌し、室温にまで冷却を実施し、シート作製条件は、ロール温度160℃で5分間ロールを実施した。透明板の作製はこのロールシートを重ねて165℃、10分間、100kg/cm2のプレス条件にて55mm×65mm、厚み5mmの成形体を得た。
得られた樹脂(B)は、全透過率の非常に高い架橋ゲル分が得られ、透明板の透明性も高く、押出シートの艶消性もゴム様風合いの高級感のある表面状態となり好ましい。
【0052】
(実施例3)
ジャケット及び攪拌機を備えた内容量25リットルのステンレス鋼製重合機に、純水200部、鹸化度約80モル%、平均重合度約2000の部分鹸化ポリビニルアルコール0.1部、平均分子量が約450万のポリエチレンオキサイド0.005部、t−ブチルペルオキシネオデカノエート0.041部、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート0.012部、トリアリルイソシアヌレート0.3部を仕込み、脱気後に塩化ビニルモノマー80部を仕込んだのち、重合温度57℃で8時間重合した。重合制御開始より、塩化ビニルモノマー20部を2時間かけて連続的に追加を実施した。転化率が30%、40%、60%に到達した時点で、2−メルカプトエタノールをそれぞれ0.003部、0.002部、0.002部、洗水とともに圧入し、重合を継続した。重合転化率が70%に到達した時点で内温を60℃として保持した後、重合開始より8時間目に重合機内の未反応モノマーを回収したのち重合機を冷却し、スラリーを払い出した。スラリーを吸引濾過することで脱水し、得られた樹脂ケーキを55℃の熱風式乾燥機で12時間乾燥することで塩化ビニル系樹脂(C)を得た。
【0053】
この樹脂(C)の架橋ゲル分の分析結果、およびこの樹脂(C)を用いた塩化ビニル樹脂組成物のシート成形体の評価結果を表1に示す。ここで本配合に使用した塩化ビニル樹脂はカネカ製S1001(K値 約65)を使用した。塩化ビニル系組成物を得るためのヘンシェルミキサーでの混合は、120℃昇温後10分間攪拌し、室温にまで冷却を実施し、シート作製条件は、ロール温度140℃で5分間ロールを実施した。透明板の作製はこのロールシートを重ねて145℃、10分間、100kg/cm2のプレス条件にて55mm×65mm、厚み5mmの成形体を得た。
得られた樹脂(C)は、全透過率の非常に高い架橋ゲル分が得られ、透明板の透明性も高く、押出シートの艶消性もゴム様風合いの高級感のある表面状態となった。
【0054】
(実施例4)
ジャケット及び攪拌機を備えた内容量25リットルのステンレス鋼製重合機に、純水200部、鹸化度約80モル%、平均重合度約2000の部分鹸化ポリビニルアルコール0.1部、平均分子量が約450万のポリエチレンオキサイド0.005部、ジ(2−エチルヘキシルパーオキシ)ジカーボネート0.022部、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート0.035部、トリアリルイソシアヌレート0.3部を仕込み、脱気後に塩化ビニルモノマー80部を仕込んだのち、重合温度45℃で15時間重合した。重合制御とともに、塩化ビニルモノマー転化率が20%、70%に到達した時点で、2−メルカプトエタノールをそれぞれ0.001部、0.005部、洗水とともに圧入し、重合を継続した。重合転化率が70%に到達した時点で内温を50℃として保持した後、重合開始より15時間目に重合機内の未反応モノマーを回収したのち重合機を冷却し、スラリーを払い出した。スラリーを吸引濾過することで脱水し、得られた樹脂ケーキを55℃の熱風式乾燥機で12時間乾燥することで塩化ビニル系樹脂(D)を得た。
【0055】
この樹脂(D)の架橋ゲル分の分析結果、およびこの樹脂(D)を用いた塩化ビニル樹脂組成物のシート成形体の評価結果を表1に示す。ここで本配合に使用した塩化ビニル樹脂はカネカ製KS1700(K値 約78)を使用した。塩化ビニル系組成物を得るためのヘンシェルミキサーでの混合は、180℃昇温後10分間攪拌し、室温にまで冷却を実施し、シート作製条件は、ロール温度180℃で5分間ロールを実施した。透明板の作製はこのロールシートを重ねて185℃、10分間、100kg/cm2のプレス条件にて55mm×65mm、厚み5mmの成形体を得た。
【0056】
架橋モノマーを用いない場合の重合時間に対して大きな遅延、転化率の低下も無く製造が可能であった。得られた樹脂(D)は、全透過率の非常に高い架橋ゲル分が得られるため、透明板の透明性も高く、押出シートの艶消性もゴム様風合いの高級感のある表面状態となり好ましい。
【0057】
(実施例5)
ジャケット及び攪拌機を備えた内容量25リットルのステンレス鋼製重合機に、純水200部、鹸化度約80モル%、平均重合度約2000の部分鹸化ポリビニルアルコール0.1部、平均分子量が約450万のポリエチレンオキサイド0.005部、ジ(2−エチルヘキシルパーオキシ)ジカーボネート0.017部、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート0.033部、トリアリルシアヌレート 0.2部を仕込み、脱気後に塩化ビニルモノマー100部を仕込んだのち、重合温度52℃で10時間重合した。転化率が40%、60%に到達した時点で、2−メルカプトエタノールをそれぞれ0.003、0.005部、洗水とともに圧入し、重合を継続した。重合開始より10時間目に重合機内の未反応モノマーを回収したのち重合機を冷却し、スラリーを払い出した。スラリーを吸引濾過することで脱水し、得られた樹脂ケーキを55℃の熱風式乾燥機で12時間乾燥することで塩化ビニル系樹脂(E)を得た。
【0058】
この樹脂(E)の架橋ゲル分の分析結果、およびこの樹脂(E)を用いた塩化ビニル樹脂組成物のシート成形体の評価結果を表1に示す。ここで本配合に使用した塩化ビニル樹脂はカネカ製S1003N(K値 約72)を使用した。塩化ビニル系組成物を得るためのヘンシェルミキサーでの混合は、120℃昇温後10分間攪拌し、室温にまで冷却を実施し、シート作製条件は、ロール温度160℃で5分間ロールを実施した。透明板の作製はこのロールシートを重ねて165℃、10分間、100kg/cm2のプレス条件にて55mm×65mm、厚み5mmの成形体を得た。
得られた樹脂(E)は、全透過率の高い架橋ゲル分が得られるため、透明板の透明性も高く、押出シートの艶消性もゴム様風合いの高級感のある表面状態となり好ましい。
【0059】
(実施例6)
ジャケット及び攪拌機を備えた内容量25リットルのステンレス鋼製重合機に、純水200部、鹸化度約80モル%、平均重合度約2000の部分鹸化ポリビニルアルコール0.1部、平均分子量が約450万のポリエチレンオキサイド0.005部、ジ(2−エチルヘキシルパーオキシ)ジカーボネート0.022部、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート0.035部、トリメチロールプロパンジアリルエーテル0.4部を仕込み、脱気後に塩化ビニルモノマー80部を仕込んだのち、重合温度45℃で15時間重合した。重合制御とともに、塩化ビニルモノマー20%転化率が40%,60%、70%に到達した時点で、2−メルカプトエタノールをそれぞれ0.003、0.005、0.010部、洗水とともに圧入し、重合を継続した。重合開始より15時間目に重合機内の未反応モノマーを回収したのち重合機を冷却し、スラリーを払い出した。スラリーを吸引濾過することで脱水し、得られた樹脂ケーキを55℃の熱風式乾燥機で12時間乾燥することで塩化ビニル系樹脂(F)を得た。
【0060】
この樹脂(F)の架橋ゲル分の分析結果、およびこの樹脂(F)を用いた塩化ビニル樹脂組成物のシート成形体の評価結果を表1に示す。ここで本配合に使用した塩化ビニル樹脂はカネカ製KS1700(K値 約78)を使用した。塩化ビニル系組成物を得るためのヘンシェルミキサーでの混合は、180℃昇温後10分間攪拌し、室温にまで冷却を実施し、シート作製条件は、ロール温度180℃で5分間ロールを実施した。透明板の作製はこのロールシートを重ねて185℃、10分間、100kg/cm2のプレス条件にて55mm×65mm、厚み5mmの成形体を得た。
得られた樹脂(F)は、全透過率の高い架橋ゲル分が得られるため、透明板の透明性も高く、押出シートの艶消性もゴム様風合いの高級感のある表面状態となり好ましい。
【0061】
(比較例1)
実施例1において、2−メルカプトエタノールを追加しなかった以外は、実施例1と同様の操作を行うことで、塩化ビニル系樹脂(G)を得た。
【0062】
この樹脂(G)の架橋ゲル分の分析結果、およびこの樹脂(G)を用いた塩化ビニル樹脂組成物のシート成形体の評価結果を表2に示す。ここで本配合に使用した塩化ビニル樹脂はカネカ製S1003N(K値 約72)を使用した。塩化ビニル系組成物を得るためのヘンシェルミキサーでの混合は、120℃昇温後10分間攪拌し、室温にまで冷却を実施し、シート作製条件は、ロール温度160℃で5分間ロールを実施した。透明板の作製はこのロールシートを重ねて165℃、10分間、100kg/cm2のプレス条件にて55mm×65mm、厚み5mmの成形体を得た。
【0063】
架橋ゲル分の全透過率はやや低く、透明板のヘイズ値もやや高く、シートの透過率もやや低いため、不透明感のある成形体となった。また、押出シートの艶消性もやや光沢感のある表面状態となった。
【0064】
(比較例2)
実施例7において、2−メルカプトエタノールを追加しなかった以外は、実施例7と同様の操作を行うことで、塩化ビニル系樹脂(H)を得た。
【0065】
この樹脂(H)の架橋ゲル分の分析結果、およびこの樹脂(H)を用いた塩化ビニル樹脂組成物のシート成形体の評価結果を表2に示す。ここで本配合に使用した塩化ビニル樹脂はカネカ製S1003N(K値 約72)を使用した。塩化ビニル系組成物を得るためのヘンシェルミキサーでの混合は、120℃昇温後10分間攪拌し、室温にまで冷却を実施し、シート作製条件は、ロール温度160℃で5分間ロールを実施した。透明板の作製はこのロールシートを重ねて165℃、10分間、100kg/cm2のプレス条件にて55mm×65mm、厚み5mmの成形体を得た。
【0066】
架橋ゲル分の全透過率はやや低く、透明板のヘイズ値もやや高く、透過率もやや低いため、不透明感のある成形体となった。また、押出シートの表面にザラツキ感が残り、Raが1.0μm以下にすることができず、やや光沢感のある表面状態となった。
【0067】
(比較例3)
ジャケット及び攪拌機を備えた内容量25リットルのステンレス鋼製重合機に、純水200部、鹸化度約80モル%、平均重合度約2000の部分鹸化ポリビニルアルコール0.1部、平均分子量が約450万のポリエチレンオキサイド0.005部、ジ(2−エチルヘキシルパーオキシ)ジカーボネート0.017部、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート0.033部、アリルメタクリレート 0.05部を仕込み、脱気後に塩化ビニルモノマー100部を仕込んだのち、重合温度50℃で10時間重合した。重合制御とともに、塩化ビニルモノマー転化率が30%に到達した時点で、2−メルカプトエタノールを0.002部、洗水とともに圧入し、重合を継続した。重合開始より10時間目に重合機内の未反応モノマーを回収したのち重合機を冷却し、スラリーを払い出した。スラリーを吸引濾過することで脱水し、得られた樹脂ケーキを55℃の熱風式乾燥機で12時間乾燥することで塩化ビニル系樹脂(I)を得た。
【0068】
この樹脂(I)の架橋ゲル分の分析結果、およびこの樹脂(I)を用いた塩化ビニル樹脂組成物のシート成形体の評価結果を表2に示す。ここで本配合に使用した塩化ビニル樹脂はカネカ製S1003N(K値 約72)を使用した。塩化ビニル系組成物を得るためのヘンシェルミキサーでの混合は、120℃昇温後10分間攪拌し、室温にまで冷却を実施し、シート作製条件は、ロール温度160℃で5分間ロールを実施した。透明板の作製はこのロールシートを重ねて165℃、10分間、100kg/cm2のプレス条件にて55mm×65mm、厚み5mmの成形体を得た。
【0069】
架橋ゲル分の全透過率が非常に低く、ゲル密度が高い。透明板のヘイズ値が著しく高く、不透明な成形体となった。また、ゲル自身も小さいため、押出シートの艶消性もやや光沢感のある表面状態となった。
【0070】
(比較例4)
ジャケット及び攪拌機を備えた内容量25リットルのステンレス鋼製重合機に、純水200部、鹸化度約80モル%、平均重合度約2000の部分鹸化ポリビニルアルコール0.1部、平均分子量が約450万のポリエチレンオキサイド0.005部、ジ(2−エチルヘキシルパーオキシ)ジカーボネート0.017部、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート0.033部、ジアリルフタレート0.05部、2−メルカプトエタノール0.01部を仕込み、脱気後に塩化ビニルモノマー100部を仕込んだのち、重合温度35℃で22時間重合した。重合機内の未反応モノマーを回収したのち重合機を冷却し、スラリーを払い出した。スラリーを吸引濾過することで脱水し、得られた樹脂ケーキを55℃の熱風式乾燥機で12時間乾燥することで塩化ビニル系樹脂(J)を得た。可溶分K値は100であり、高重合度の塩化ビニル樹脂が得られた。
【0071】
この樹脂(J)の架橋ゲル分の分析結果、およびこの樹脂(J)を用いた塩化ビニル樹脂組成物のシート成形体の評価結果を表2に示す。ここで本配合に使用した塩化ビニル樹脂はカネカ製S1003N(K値 約72)を使用した。塩化ビニル系組成物を得るためのヘンシェルミキサーでの混合は、120℃昇温後10分間攪拌し、室温にまで冷却を実施し、シート作製条件は、ロール温度160℃で5分間ロールを実施した。透明板の作製はこのロールシートを重ねて165℃、10分間、100kg/cm2のプレス条件にて55mm×65mm、厚み5mmの成形体を得た。
しかし、製造するための重合時間が長く、生産性が著しく低下するため好ましくない。また、押出シート表面のRaを0.5μm以上にすることが困難であり、得られたシートも光沢感が強く残り、好ましくない。
【0072】
(比較例5)
実施例1の2-メルカプトエタノールの添加を、重合転化率85%に到達した時点で0.007部追加した以外は、実施例1と同様の操作を行うことで、塩化ビニル系樹脂(K)を得た。
この樹脂(K)の架橋ゲル分の分析結果、およびこの樹脂(K)を用いた塩化ビニル樹脂組成物のシート成形体の評価結果を表2に示す。ここで本配合に使用した塩化ビニル樹脂はカネカ製S1003N(K値 約72)を使用した。塩化ビニル系組成物を得るためのヘンシェルミキサーでの混合は、120℃昇温後10分間攪拌し、室温にまで冷却を実施し、シート作製条件は、ロール温度160℃で5分間ロールを実施した。透明板の作製はこのロールシートを重ねて165℃、10分間、100kg/cm2のプレス条件にて55mm×65mm、厚み5mmの成形体を得た。
【0073】
比較例1と同様の樹脂となり透明板のヘイズ値がやや高く、透過率もやや低いため、不透明感のある成形体となった。また、押出シートの表面にツブ残りが見られ、艶消性もやや光沢感のある表面状態となった。
【0074】
(比較例6)
ジャケット及び攪拌機を備えた内容量25リットルのステンレス鋼製重合機に、純水200部、鹸化度約80モル%、平均重合度約2000の部分鹸化ポリビニルアルコール0.1部、平均分子量が約450万のポリエチレンオキサイド0.005部、t−ブチルペルオキシネオデカノエート0.025部、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート0.042部、トリアリルイソシアヌレート 0.1部、2−メルカプトエタノール0.003部を仕込み、脱気後に塩化ビニルモノマー100部を仕込んだのち、重合温度50℃で約12時間重合した。重合機内の未反応モノマーを回収したのち重合機を冷却し、スラリーを払い出した。スラリーを吸引濾過することで脱水し、得られた樹脂ケーキを55℃の熱風式乾燥機で12時間乾燥することで塩化ビニル系樹脂(L)を得た。可溶分K値は95であり、高重合度の塩化ビニル樹脂が得られた。
【0075】
この樹脂(L)の架橋ゲル分の分析結果、およびこの樹脂(L)を用いた塩化ビニル樹脂組成物のシート成形体の評価結果を表1に示す。ここで本配合に使用した塩化ビニル樹脂はカネカ製S1003N(K値 約72)を使用した。塩化ビニル系組成物を得るためのヘンシェルミキサーでの混合は、120℃昇温後10分間攪拌し、室温にまで冷却を実施し、シート作製条件は、ロール温度160℃で5分間ロールを実施した。透明板の作製はこのロールシートを重ねて165℃、10分間、100kg/cm2のプレス条件にて55mm×65mm、厚み5mmの成形体を得た。
【0076】
得られた樹脂(L)は、架橋ゲル分が殆ど生成しておらず、透明板の透明性は高いものの、押出シートのRaは0.5μm以上にすることが困難であり、得られたシートも光沢感が強く、好ましくない。
【0077】
(比較例7)
実施例1のトリアリルイソシアヌレートの添加を行わず、2−メルカプトエタノールを塩化ビニルモノマーの転化率が30%に到達した時点で、0.002部添加した以外は、実施例2と同様の操作を行うことで、塩化ビニル系樹脂(M)を得た。得られた塩化ビニル系樹脂のK値は71であり、架橋ゲル分のない樹脂が得られた。
この樹脂(M)の架橋ゲル分の分析結果、およびこの樹脂(M)を用いた塩化ビニル樹脂組成物のシート成形体の評価結果を表2に示す。ここで本配合に使用した塩化ビニル樹脂はカネカ製S1003N(K値 約72)を使用した。塩化ビニル系組成物を得るためのヘンシェルミキサーでの混合は、120℃昇温後10分間攪拌し、室温にまで冷却を実施し、シート作製条件は、ロール温度160℃で5分間ロールを実施した。透明板の作製はこのロールシートを重ねて165℃、10分間、100kg/cm2のプレス条件にて55mm×65mm、厚み5mmの成形体を得た。
【0078】
得られた樹脂(M)は、架橋ゲル分のない通常の塩化ビニル樹脂となり、透明板の透明性は高いものの、押出シートは光沢感の強い、シート表面同士が接着しやすい平滑表面状態となった。
【0079】
【表1】

【0080】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ビニルと共重合可能なアリル基を2つ以上有する架橋モノマー(A)と塩化ビニルモノマー(B)を水性媒体中で懸濁重合するに際し、塩化ビニルモノマーの重合転化率が20以上80%以下の期間に、2−メルカプトエタノール(C)を少なくとも2回添加し、且つ添加量が(B)の総量に対し、(C)を10重量%以下添加する塩化ビニル系樹脂(D)の製造方法であって、得られる塩化ビニル系樹脂(D)中の架橋ゲル分率が20〜60重量%であり、かつTHF不溶分の全透過率Tが50〜80%であることを特徴とする塩化ビニル系樹脂の製造方法。
【請求項2】
前記架橋モノマー(A)がトリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート及びトリメチロールプロパンジアリルエーテルから選ばれる少なくとも1つである請求項1に記載の塩化ビニル系樹脂の製造方法。
【請求項3】
前記(C)を塩化ビニルモノマーの転化率が20%以上40%以下の期間に少なくとも1回添加し、且つ塩化ビニルモノマーの転化率が40%を超え60%以下の間に1回以上添加することを特徴とする請求項1又は2に記載の塩化ビニル系樹脂の製造方法。
【請求項4】
前記(C)を塩化ビニルモノマーの転化率が20%以上40%以下の期間に少なくとも1回添加し、且つ塩化ビニルモノマーの転化率が40%を超え60%以下の間または、塩化ビニルモノマーの転化率が60%を超え80%以下の間に1回以上添加することを特徴とする請求項1又は2に記載の塩化ビニル系樹脂の製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載の塩化ビニル系樹脂(D)10〜80重量部と、(D)以外の塩化ビニル樹脂(E)20〜90重量部、可塑剤50〜120重量部からなるISO2898−2に準拠したシート成形体であって、1mm厚の塩化ビニルシートの表面凹凸(Ra)が0.7〜1.0μmの範囲であり、このシートの5mm厚プレス成形板のヘイズ値が65以下、且つ透過率が70%以上となることを特徴とする塩化ビニル系樹脂成形体。

【公開番号】特開2009−227698(P2009−227698A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−71080(P2008−71080)
【出願日】平成20年3月19日(2008.3.19)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】