説明

塩化ビニル系樹脂廃棄物の処理方法及び再生塩化ビニル系樹脂

【課題】 従来、埋立処理又は焼却処理されていた不溶成分の含有量の多い塩化ビニル系樹脂廃棄物を溶媒によって溶解する溶解工程を含む処理方法で処理する場合でも、効率的に塩化ビニル系樹脂成分を取り出して有効利用することができる塩化ビニル系樹脂廃棄物の処理方法を提供する。
【解決手段】 塩化ビニル系樹脂廃棄物の可溶成分を溶媒中で溶解する溶解工程及び溶媒に対する不溶成分をフィルターで分離する分離工程を備える塩化ビニル系樹脂廃棄物の処理方法であり、前記塩化ビニル系樹脂廃棄物はその処理物中に前記溶媒に対する不溶成分を20〜60質量%含有する第1の塩化ビニル系樹脂廃棄物及び不溶成分を0〜10質量%含有する第2の塩化ビニル系樹脂廃棄物を含有する塩化ビニル系樹脂廃棄物の処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は塩化ビニル系樹脂廃棄物の処理方法及び該処理方法により得られる再生塩化ビニル系樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
塩化ビニル系樹脂は、その価格と各種特性のバランスに優れており、また、その配合組成により軟質・硬質等種々の性質の樹脂組成物が得られるために、塩ビ管や塩ビ継手等の塩化ビニル系樹脂製管材、農業用塩化ビニルシートや防水シート等の塩化ビニルシート、壁紙基材、ワイヤーハーネス等の電線被覆、食品容器、包装、各種シーリング材等幅広い製品に用いられている。
【0003】
これらの使用済みの塩化ビニル系樹脂廃棄物は従来、埋立処理や焼却処理により廃棄されていたが、近年の環境問題意識の高まりから、使用済の製品を分別回収し、裁断・粉砕したものを押出成形・射出成形等することにより成形して再利用する方法が検討されている。
【0004】
しかしながら、押出成形等の溶融工程を用いて再生処理する場合には比較的塩化ビニル系樹脂含量の高い製品に由来するものしか処理することができなかった。例えば、塩化ビニル系樹脂成分が他の樹脂成分や紙、布、金属等と接着等している廃棄物では、塩化ビニル系樹脂成分を他の成分と分離する作業が必要になるため、従来通り埋立処理や焼却処理されていた。
【0005】
また、溶液中で塩化ビニル系樹脂成分のみを溶解させて、その不溶成分を分離させて塩化ビニル系樹脂成分のみを取り出す再生処理方法も検討されている。
【0006】
例えば、下記特許文献1にはポリ塩化ビニルを含む廃棄物からポリ塩化ビニルを回収する方法であって、ポリ塩化ビニルを溶解することのできる溶剤と前記廃棄物との加熱混合物から不溶固形分を除去する工程、得られた溶液と加熱水を接触させて前記溶剤を除去し、水中にポリ塩化ビニルを析出させる工程、析出したポリ塩化ビニルを水から分離する工程、を含むことを特徴とするポリ塩化ビニル系樹脂の回収方法が開示されている。
【0007】
しかしながら、前記溶解処理方法でポリ塩化ビニル系樹脂を溶解させる場合においても、不溶成分が多い塩化ビニル系樹脂廃棄物を処理する場合には、溶解されたポリ塩化ビニル系樹脂と不溶成分を分離する際に濾過するフィルターが頻繁に閉塞し、処理工程を円滑に行なえず、また、得られる塩化ビニル系樹脂の収率も低いために実用的ではなかった。また、壁紙等は嵩密度が低いため少量の壁紙を処理する場合であっても多量の溶媒を必要とし、効率も悪いという問題があった。
【特許文献1】特開2002−284920号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、塩化ビニル系樹脂を溶解する溶媒に対する不溶成分の割合が高い従来埋立処理又は焼却処理されていた塩化ビニル系樹脂廃棄物を溶解工程で処理し、廃棄物中から塩化ビニル系樹脂を取り出して有効利用することができる塩化ビニル系樹脂廃棄物の処理方法及びそれによって得られる再生塩化ビニル系樹脂を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、以下の手段により解決できることを見出した。
【0010】
すなわち本発明は、塩化ビニル系樹脂廃棄物100質量部に対して塩化ビニル系樹脂を溶解する溶媒500〜3000質量部でその可溶成分を溶解する溶解工程と、前記溶媒に対する不溶成分を目開き100μm以下のフィルターで分離する分離工程を備える塩化ビニル系樹脂廃棄物の処理方法であって、前記塩化ビニル系樹脂廃棄物は前記溶媒に対する不溶成分を20〜60質量%含有する第1の塩化ビニル系樹脂廃棄物を50〜80質量%、前記溶媒に対する不溶成分を0〜10質量%含有する第2の塩化ビニル系樹脂廃棄物を20〜50質量%、及び、その他の任意成分として塩化ビニル系樹脂組成物を0〜30質量%含有することを特徴とする塩化ビニル系樹脂廃棄物の処理方法である。
【0011】
また、本発明は、前記溶媒がメチルエチルケトン及び/又はテトラヒドロフランである塩化ビニル系樹脂廃棄物の処理方法である。
【0012】
さらに、本発明は、前記第1の塩化ビニル系樹脂廃棄物が壁紙、ターポリン、フレコンバッグ、防水シートから選ばれる少なくとも1種以上の塩化ビニル系樹脂廃棄物であり、前記第2の塩化ビニル系樹脂廃棄物が農業用塩化ビニルシート、塩化ビニル系樹脂製管材から選ばれる少なくとも1種以上の塩化ビニル系樹脂廃棄物である塩化ビニル系樹脂廃棄物の処理方法である。
【0013】
そして、本発明は前記塩化ビニル系樹脂廃棄物の処理方法を用いて得られる再生塩化ビニル系樹脂である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の請求項1の塩化ビニル系樹脂廃棄物の処理方法を用いた場合には、溶媒に対する不溶成分の割合が高く、従来埋立処理又は焼却処理されていた塩化ビニル系樹脂廃棄物を溶解工程で処理しても、不溶成分を効率的に分離することができる。また、不溶成分の少ない塩化ビニル系樹脂廃棄物を処理対象として添加しているので、溶液中の不溶成分の含有量が希釈され、分離工程におけるフィルターの閉塞を起こりにくくする。従って、不溶成分の割合が高い塩化ビニル系樹脂廃棄物中からも塩化ビニル系樹脂を効率的に取り出すことができる。
【0015】
また、本発明の請求項2の塩化ビニル系樹脂廃棄物の処理方法によれば、前記溶媒がメチルエチルケトン及び/又はテトラヒドロフランである塩化ビニル系樹脂廃棄物の処理方法である場合、塩化ビニル系樹脂を選択的に溶解し、また、得られる溶液の粘度が適度であるために分離工程におけるフィルターの閉塞をさらに低減することができる。
【0016】
さらに、本発明の請求項3の塩化ビニル系樹脂廃棄物の処理方法によれば、前記第1の塩化ビニル系樹脂廃棄物が壁紙、ターポリン、フレコンバッグ、防水シートから選ばれる少なくとも1種以上の塩化ビニル系樹脂廃棄物であり、前記第2の塩化ビニル系樹脂廃棄物が農業用ビニルシート、塩化ビニル系樹脂製管材から選ばれる少なくとも1種以上の塩化ビニル系樹脂廃棄物である場合には不溶成分の割合が小さく、安定剤や可塑剤以外の添加剤がほとんど含まれていないため、再生品の品質のばらつきを低減することができ、品質の安定した再生塩化ビニル系樹脂を供給できる。
【0017】
そして、本発明の請求項4の前記塩化ビニル系樹脂廃棄物の処理方法を用いて得られる再生塩化ビニル系樹脂は、本来廃棄処理されていた塩化ビニル系樹脂廃棄物から再生されたものであるため製造コストが低い塩化ビニル系樹脂を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の塩化ビニル系樹脂廃棄物の処理方法は、塩化ビニル系樹脂廃棄物100質量部に対して塩化ビニル系樹脂を溶解する溶媒500〜3000質量部で廃棄物中の可溶成分を溶解する溶解工程と、前記溶媒に対する不溶成分を目開き100μm以下のフィルターで分離する分離工程を備える塩化ビニル系樹脂廃棄物の処理方法であって、前記塩化ビニル系樹脂廃棄物が前記溶媒に対する不溶成分を20〜60質量%含有する第1の塩化ビニル系樹脂廃棄物を50〜80質量%、前記溶媒に対する不溶成分を0〜10質量%含有する第2の塩化ビニル系樹脂廃棄物を20〜50質量%、及び、その他の任意成分として塩化ビニル系樹脂組成物を0〜30質量%含有することを特徴とするものである。
【0019】
本発明における塩化ビニル系樹脂廃棄物には、使用済みの塩化ビニル系樹脂製品(以下、塩ビ製品ともいう)の他、コンパウンド時及び成形時等に産出される廃材等も含まれる。
【0020】
前記塩ビ製品としては農業用塩化ビニルシートや防水シート、レジャーシート、すそ張りシート等の塩化ビニルシート、塩化ビニル系樹脂含有壁紙、電線被覆用塩ビ製品、食品用塩ビ製品、玩具用塩ビ製品、衣類・履物用塩ビ製品、床材用塩ビ製品、自動車用塩ビ製品、水板、エプロン、長靴等の各種塩ビ製品が挙げられる。
【0021】
本発明において処理に用いられる塩化ビニル系樹脂廃棄物は、塩化ビニル系樹脂を溶解させる溶媒に対する不溶成分を20〜60質量%含有する第1の塩化ビニル系樹脂廃棄物50〜80質量%、前記溶媒に対する不溶成分を0〜10質量%含有する第2の塩化ビニル系樹脂廃棄物20〜50質量%、及び、その他の任意成分として塩化ビニル系樹脂組成物0〜30質量%を含有するものである。
【0022】
なお、本発明における不溶成分とは各塩化ビニル系樹脂廃棄物100質量部に対してメチルエチルケトン900質量部を加えて、大気圧下、温度75℃で1時間溶解した後、目開き100μmのフィルターにより濾過した際にフィルター上に残る濾過物を意味する。
【0023】
本発明において第1の塩化ビニル系樹脂廃棄物としては、不溶成分を20〜60質量%、好ましくは20〜40質量%含有するものが用いられ、このような不溶成分の含有量の廃棄物としては、例えば、塩化ビニル系樹脂含有壁紙や、ターポリン、フレコンバッグ、防水シートを用いることができる。不溶成分が60質量%より多い場合、少量の処理量でもフィルターの閉塞が激しく、一方20質量%未満では、処理対象が制限され、処理前に選別又は前処理が必要となり、処理効率の低下を招くこととなる。
【0024】
また、本発明において前記第1の塩化ビニル系樹脂廃棄物の含有割合が80質量%を越える場合には、不溶成分の含有量が20〜60質量%のものでもフィルターによる分離工程において著しい閉塞が生じ、また、再生した塩化ビニル樹脂の物性が低下するおそれがある。一方、第1の塩化ビニル系樹脂廃棄物の含有割合が50質量%未満の場合には産業廃棄物として大量に発生する不溶成分が高い塩化ビニル系樹脂廃棄物を効率的に処理することに対する寄与が少なく、本発明の目的を充分に達し得ない。
【0025】
本発明において第2の塩化ビニル系樹脂廃棄物としては、不溶成分を0〜10質量%含有するものが用いられ、このような不溶成分の含有量の廃棄物としては、例えば、農業用塩ビシートや、塩化ビニル系樹脂製管材を用いることができる。不溶成分の量が10質量%より多いと、処理の主材である不溶成分を多く含有する第1の塩化ビニル系樹脂廃棄物の希釈効果が十分得られない。
【0026】
本発明において前記第2の塩化ビニル系樹脂廃棄物の含有割合が50質量%を越える場合には産業廃棄物として大量に発生する不溶成分が高い第1の塩化ビニル系樹脂廃棄物を効率的に処理することができず、20質量%未満の場合には第1の塩化ビニル系樹脂廃棄物が多すぎることになりフィルターによる分離工程において著しい閉塞が生じる。
【0027】
さらに、本発明の塩化ビニル系樹脂廃棄物には、任意成分としてその他の塩化ビニル系樹脂組成物を含有してもよい。前記塩化ビニル系樹脂組成物は、その不溶成分の割合が前記第1及び第2の塩化ビニル系樹脂廃棄物の範囲外、例えば不溶成分を10〜20質量%含有する第3の塩化ビニル系樹脂廃棄物であってもよく、また廃棄物に限られず、工業用原料である塩化ビニル系樹脂ペレット等のバージン材であってもよい。
【0028】
本発明において、その他の塩化ビニル系樹脂組成物の塩化ビニル系樹脂廃棄物全量中の含有割合は0〜30質量%とすることが好ましい。30質量%より多いと、第1及び第2の塩化ビニル系樹脂廃棄物の含有量が低下するため、処理効率の低下を招くとともに、廃棄物からなる塩化ビニル系樹組成物を利用する場合、フィルターの閉塞が生じやすい。
【0029】
なお、前記塩化ビニル系樹脂廃棄物の処理物全体中における不溶成分の合計含有量としては50質量%未満にすることが分離工程におけるフィルターを円滑に通過させることができる点から好ましい。
【0030】
本発明の塩化ビニル系樹脂廃棄物の処理方法は、塩化ビニル系樹脂廃棄物を塩化ビニル系樹脂を溶解する溶媒によって廃棄物中の可溶成分を溶解して塩化ビニル系樹脂溶液を得るための溶解工程を備える。
【0031】
前記溶媒としては塩化ビニル系樹脂を溶解させる有機溶媒であれば特に限定なく使用することができる。具体的には、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等の脂肪族ケトン類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、シクロヘキサノン等の環状ケトン類、テトラヒドロフラン等の環状エーテル類、γブチロラクトン等の環状エステル類、N―メチルピロリドン等の環状アミド類等を単独、又は2種以上を組合わせて用いることができる。
【0032】
前記溶媒の中では特に、メチルエチルケトン及び/又はテトラヒドロフランが塩化ビニル系樹脂を選択的に溶解させ、また、溶液の粘度が適度であるために分離工程におけるフィルターの閉塞が少なくなる傾向があるため好ましい。
【0033】
前記溶媒の使用割合は、塩化ビニル系樹脂廃棄物100質量部に対して前記溶媒を500〜3000質量部である。前記溶媒が500質量部未満の場合には溶液の粘度が高く成るおそれがあり、不溶成分を溶媒中に適度に分散させて円滑に分離工程におけるフィルターを通過させることが困難になり、3000質量部を越える場合には塩化ビニル系樹脂廃棄物の処理量に対し溶媒の使用量が多くなるため、処理効率が低下する。
【0034】
なお、前記溶解工程においては、溶媒を加熱することが好ましく、その温度は特に限定されないが、不必要な熱履歴を避け、さらに前記安定剤を均一に分散させるためには50〜150℃、さらには60〜100℃で加熱することが好ましい。
【0035】
また、溶解工程としては予め加熱された溶媒中に塩化ビニル系樹脂廃棄物を投入してもよく、また、加熱前の溶媒中に塩化ビニル系樹脂廃棄物を投入した後、溶媒を加熱してもよい。
【0036】
溶解工程は、溶媒及び塩化ビニル系樹脂廃棄物の投入口、撹拌機、温度制御装置等を備えた溶解槽で行なわれる。
【0037】
なお、溶解工程により得られる塩化ビニル系樹脂含有溶液中には、塩化ビニル系樹脂の他、塩化ビニル系樹脂廃棄物に含まれている溶媒に溶解する成分、例えば可塑剤等の成分が含まれている場合がある。さらに、廃棄物が充填材等の溶媒不溶成分を含有する場合には溶液中で前記不溶成分が分散している場合がある。
【0038】
本発明の処理方法においては、再生塩化ビニル系樹脂の用途に応じて溶解工程で得られた塩化ビニル系樹脂溶液中に各種添加剤、具体的には可塑剤、各種安定剤、充填材、着色剤、滑剤等の添加剤を添加する工程を備えてもよい。
【0039】
前記添加剤の添加方法としては塩化ビニル系樹脂の溶液中に前記添加剤をそのまま、或いは各種溶媒に溶解又は分散させたのち添加する等、その添加方法は特に限定されない。
【0040】
次に、本発明の処理方法においては、前記溶解工程の後に溶解工程で溶解しなかった不溶成分の大部分を分離する分離工程が設けられる。
【0041】
分離工程の方法は目開き100μm以下のフィルターに不溶成分を含有する溶解工程で得られた溶液を通過させる濾過法により行なわれる。
【0042】
目開き100μm以下のフィルターを用いることにより、混入すれば実用上の物性低下等に影響を及ぼす不溶成分を充分に除去できるとともに、閉塞が問題にならない程度に不溶成分の分離を円滑に進行させることができるために好ましい。
【0043】
また、前記フィルターは一次フィルターであり、必要に応じては、一次フィルターで用いるものよりも更に目の細かいフィルターや一次フィルターで用いる同様のフィルターを更に二次フィルター、三次フィルターとして配設し、順次通過させることにより更に不溶成分を取り除いてもよい。
【0044】
次に、前記分離工程により不溶成分の大部分が除去された塩化ビニル系樹脂含有溶液から、分離工程の後、通常、別に設けられた析出槽に搬送されて析出工程が実施される。
【0045】
析出工程における析出方法は、特に限定されず、溶液を加熱することにより溶媒を揮発させて析出させる方法、撹拌下で溶液中に塩化ビニル系樹脂に対する非溶媒(例えば水)を添加することにより溶解度を低下させて析出させる方法等が適宜選ばれる。
【0046】
前記撹拌下で非溶媒を添加する方法を用いる場合は、析出する塩化ビニル系樹脂が塊状で析出せずに、比較的細かい粒状で析出するために好ましい。
【0047】
なお、水を添加する方法においては、スチーム又は/及び熱水として水を添加する方法が析出する塩化ビニル系樹脂の形状が細かく均一な粒状になるため好ましい。特に、溶媒の沸点が水よりも低い場合は、スチームの添加により、塩化ビニル系樹脂を析出させつつ溶媒を除去できる。
【0048】
スチームで水を添加する方法は、具体的には、以下のように行なわれる。
【0049】
まず、溶液中にスチームを導入して溶液とスチームを接触させることにより、溶媒に対する塩化ビニル系樹脂の溶解度が部分的に急激に低下し、また、スチームの温度により溶液中の溶媒が揮発する。本方法によれば導入されたスチームは、溶媒を揮発させるとともに、容器中で液体の水に転化され、徐々にその量が増してくることにより、塩化ビニル系樹脂を徐々に水中で析出させ、水に分散した塩化ビニル系樹脂がスラリー状態で得られる。なお、この場合には、スチームの温度を制御することにより析出速度を調整することができる。
【0050】
本発明において、溶媒を揮発させる際には撹拌しながら行なうことが好ましい。撹拌しながらスチームを導入することにより塩化ビニル系樹脂を微粒子状に析出させることができ、また撹拌の回転数を制御することにより粒子径を制御することができるためである。また、スチームを用いた場合には得られる微粒子が多孔を有するいわゆるポーラスな形態になるために、工業用原料であるバージン材に近い性状の塩化ビニル系樹脂を得ることができる。なお、得られる塩化ビニル系樹脂は塩化ビニル系樹脂単体からなることが好ましいが、前記したように溶解工程では廃棄物中に含まれる可塑剤等の他の溶解成分も溶解し、上記析出工程ではこれらの成分の析出も伴うため、塩化ビニル系樹脂を含んだ組成物として得られる。
【0051】
このようにして得られる塩化ビニル系樹脂は水中に分散したスラリー状で存在する。
【0052】
スラリー状の塩化ビニル系樹脂は、次の水分離工程で水と分離され、更に脱水・乾燥工程により再生された塩化ビニル系樹脂が得られる。
【0053】
前記水分離工程の方法は特に限られない。具体的には、例えば、濾過により分離したり、静沈して塩化ビニル系樹脂を沈降させてから水のみをポンプ等を用いて吸引除去したり、遠心脱水等の方法、あるいはそれらを組み合わせた方法等、工程上、適宜好ましいものが用いられる。
【0054】
そして、水から分離された塩化ビニル系樹脂は、通常、さらに脱水・乾燥工程に供される。
【0055】
脱水・乾燥工程の方法は、特に限られることなく、例えば遠心脱水等が用いられる。そして連続式又はバッチ式の、熱風式乾燥機、オーブン式乾燥機、流動乾燥機、気流乾燥機、ロータリーキルン乾燥機、スプレードライヤー等により乾燥される。
【0056】
このような、本発明の処理方法により得られる塩化ビニル系樹脂は平均粒子径が200〜400μm程度の粒状のものである。
【0057】
以下に本発明の処理方法について実施例により具体的に説明するが、本発明は本実施例に何ら限定されることはない。
【実施例】
【0058】
本実施例においては、第1の塩化ビニル系樹脂廃棄物として、不溶成分(主として、紙)を50質量%含有する平均重合度800の塩化ビニル系樹脂を樹脂成分とする塩化ビニル系樹脂含有壁紙(以下、塩ビ壁紙ともいう)の粉砕物を、第2の塩化ビニル系樹脂廃棄物として、不溶成分(主として、土砂)を2質量%含有する平均重合度1300の塩化ビニル系樹脂を樹脂成分とする農業用塩化ビニルシート(以下、農ビシートともいう)の粉砕物及び不溶成分を含まない硬質塩化ビニル配管の粉砕物を用いた。
【0059】
〈実施例1〉
図1に本実施例で用いた工程図を示す。
【0060】
図1中、1は塩化ビニル系樹脂廃棄物供給ホッパー、2は溶解槽、3は濾過装置、4は析出装置、5はスラリー受槽、6は流動床式乾燥機である。
【0061】
まず、5×5mm程度の大きさに裁断された塩ビ壁紙35kg及び5×5mm程度の大きさに裁断された農ビシート15kgを塩化ビニル系樹脂廃棄物供給ホッパー1から容量500Lの溶解槽2に供給し、さらに、溶解槽2に溶媒供給ライン(図示せず)からメチルエチルケトン(MEK)340kgを加えた。
【0062】
次に、溶解槽2に備えられた撹拌機7で溶解槽2内の混合物を撹拌しながら、備えられた加熱装置(図示せず)により0.5MPa下で100℃まで加熱し、10分間撹拌することにより塩ビ壁紙及び農ビシートのMEK可溶成分を溶解させた。
【0063】
そして、大気圧まで減圧し、溶解後の混合物はラインAを介して析出装置4に移された。なお、このとき、ラインAの途中に設けられた直径200mmで目開き100μmのフィルターを備えた濾過装置3で0.3MPa(ゲージ圧)の圧力により前記混合物を通過させMEK不溶成分が分離除去された。分離除去に際してスクレパーによりフィルター上に残った不溶解物を除去しながら濾液を通過させたところ、連続的に全量を通過させることができた。
【0064】
次に、析出装置4に、110℃のスチームを60分間で2000kg導入し、溶液から塩化ビニル系樹脂を析出させながらMEKを徐々に揮発除去し、最終的に全てのMEKを除去した。
【0065】
析出装置4内の塩化ビニル系樹脂は水中に分散したスラリー状態で存在していた。
【0066】
次に、スラリー状態の塩化ビニル系樹脂の分散液をラインBを介してスラリー受槽5へ移し、塩化ビニル系樹脂を水から分離した後、遠心脱水機で処理することにより更に水を脱水した。
【0067】
そして、脱水後の塩化ビニル系樹脂を流動床式乾燥機6に適度な厚みになるように順次載置し、90℃で180分間乾燥することにより、最終物である再生塩化ビニル系樹脂が得られた。
【0068】
このようにして再生された塩化ビニル系樹脂は、供給した塩化ビニル系樹脂廃棄物に対する収率が64%であり、平均粒子径350μm(光数乱法粒度分布計で測定)の白色粒子であった。
【0069】
〈実施例2〉
実施例1において、塩ビ壁紙35kg及び農ビシート15kgに変えて、塩ビ壁紙を40kg及び農ビシート10kgを用いた以外は、実施例1と同様にして処理を行った。この結果、分離工程において、実施例1と同様にフィルターが閉塞することなく、連続的に全量を通過させることができ、同様に再生塩化ビニル系樹脂が収率59%で得られた。
【0070】
〈実施例3〉
実施例1において、塩ビ壁紙35kg及び農ビシート15kgに変えて、塩ビ壁紙35kg及び不溶成分を含まない硬質塩化ビニル配管15kgを用い、硬質塩化ビニル配管は溶解しにくいため、溶解工程の撹拌時間を40分間とした以外は、実施例1と同様にして処理を行った。この結果、分離工程において、実施例1と同様にフィルターが閉塞することなく、連続的に全量を通過させることができ、同様に再生塩化ビニル系樹脂が収率65%で得られた。
【0071】
〈実施例4〉
実施例3において、塩ビ壁紙35kg及び不溶成分を含まない硬質塩化ビニル配管15kgに変えて、塩ビ壁紙40kg及び不溶成分を含まない硬質塩化ビニル配管10kgを用いた以外は、実施例3と同様にして処理を行った。この結果、分離工程において、実施例1と同様にフィルターが閉塞することなく、連続的に全量を通過させることができ、同様に再生塩化ビニル系樹脂が収率60%で得られた。
【0072】
〈比較例1〉
実施例1において、塩ビ壁紙を50kgに変更し、農ビシートを使用しなかった以外は、実施例1と同様にして処理を行った。この結果、分離工程において2時間以内にフィルターの閉塞が発生し、全量を通過させることができず、処理を中断した。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】実施例1における塩化ビニル系樹脂組成物の溶液処理方法の工程図を示す。
【符号の説明】
【0074】
1 塩化ビニル系樹脂廃棄物供給ホッパー
2 溶解槽
3 濾過装置
4 析出装置
5 スラリー受槽
6 流動床式乾燥機
7 撹拌機
A、B 搬送ライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ビニル系樹脂廃棄物100質量部に対して塩化ビニル系樹脂を溶解する溶媒500〜3000質量部でその可溶成分を溶解する溶解工程と、
前記溶媒に対する不溶成分を目開き100μm以下のフィルターで分離する分離工程を備える塩化ビニル系樹脂廃棄物の処理方法であって、
前記塩化ビニル系樹脂廃棄物は前記溶媒に対する不溶成分を20〜60質量%含有する第1の塩化ビニル系樹脂廃棄物を50〜80質量%、前記溶媒に対する不溶成分を0〜10質量%含有する第2の塩化ビニル系樹脂廃棄物を20〜50質量%、及び、その他の任意成分として塩化ビニル系樹脂組成物を0〜30質量%含有することを特徴とする塩化ビニル系樹脂廃棄物の処理方法。
【請求項2】
前記溶媒がメチルエチルケトン及び/又はテトラヒドロフランである請求項1に記載の塩化ビニル系樹脂廃棄物の処理方法。
【請求項3】
前記第1の塩化ビニル系樹脂廃棄物が壁紙、ターポリン、フレコンバッグ、防水シートから選ばれる少なくとも1種以上の塩化ビニル系樹脂廃棄物であり、前記第2の塩化ビニル系樹脂廃棄物が農業用塩化ビニルシート、塩化ビニル系樹脂製管材から選ばれる少なくとも1種以上の塩化ビニル系樹脂廃棄物である請求項1又は請求項2に記載の塩化ビニル系樹脂廃棄物の処理方法。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項に記載の塩化ビニル系樹脂廃棄物の処理方法を用いて得られる再生塩化ビニル系樹脂。

【図1】
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【公開番号】特開2007−39479(P2007−39479A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−222237(P2005−222237)
【出願日】平成17年7月29日(2005.7.29)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2005年2月1日 株式会社神鋼環境ソリューション技術開発本部(神鋼環境ソリューション技報編集委員会)発行の「神鋼環境ソリューション技報 2004年度 Vol.1 No.2 通巻2号」に発表
【出願人】(000192590)株式会社神鋼環境ソリューション (534)
【Fターム(参考)】