説明

塩化マグネシウム担体

本発明は、塩化マグネシウムで被覆された無機酸化物ナノ粒子を含む担体およびこれらの製造方法に関する。無機酸化物は、5ミクロン未満の平均粒径を有し、溶液から塩化マグネシウムを結晶化するための種晶として使用される。塩化マグネシウムで被覆された無機酸化物は、遷移金属化合物を担持するために有用であり、担持遷移金属化合物は、オレフィンを重合するための触媒として使用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オレフィン重合のための担体およびこの担体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
触媒への関心は、ポリオレフィン産業において増大し続けている。溶液、スラリー、および気相プロセスを含むオレフィンを重合するいくつかの知られている方法が存在している。いくつかの方法については、固体触媒を使用することが好ましく、1つの一般的な方策は、塩化マグネシウムの上に遷移金属化合物を担持することである。表面積は、遷移金属化合物の利用度合いに影響を与え、それゆえに、触媒の活性に影響を与える。触媒の活性が大きいほど、ポリオレフィン中に残る残留遷移金属は減少する。多量の残留遷移金属は、色および熱の安定性などの特性に不利な作用を及ぼすことがある。
【0003】
大きい表面積を有する塩化マグネシウムを得る手法がこれまでいくつかあった。例えば、米国特許第4,421,674号は、スプレー乾燥法を開示し、それを他のいくつかの方法と比較している。それによると、エタノール中の塩化マグネシウム濃厚溶液を加熱し、高温の窒素流と共にその溶液を噴霧乾燥することによって、小粒径の塩化マグネシウムを製造することができる。噴霧乾燥は、例えば磨砕などの小粒径を与え得る他の技法に対して利点がある。残念ながら、磨砕は不規則な粒子を生成する。これらの粒子を四塩化チタンで処理すると、その触媒は、噴霧乾燥された塩化マグネシウム上に担持した四塩化チタンより低い活性を有する。
【0004】
また、この’674号特許は、0.1〜2mmの平均粒径を有する市販のフレーク状塩化マグネシウムを無水エタノール中に溶解し、加熱して溶液を濃縮することを教示している。塩化マグネシウムは、30ミクロンの平均径を有する細長い針状晶として沈殿する。これは、四塩化チタンで処理されるが、噴霧乾燥された塩化マグネシウムを使用して得られたものよりやはり劣る結果を示す。噴霧乾燥は余分な設備を必要とするので、より簡単な方法があれば望ましい。
【0005】
さらに、米国特許第5,173,465号で触れているように、噴霧乾燥操作に固有の困難および複雑さが存在する。これらは、10〜100ミクロンの平均粒径を有する多孔質シリカを含浸させることによってこの困難を克服することを試みている。シリカを、塩化マグネシウムのエタノール溶液中でスラリー化して、多孔質シリカを含浸させ、このスラリーを加熱してエタノールを塩化マグネシウム1モルあたりエタノール1.5〜4モルのレベルまで除去する。シリカは、固体触媒成分の50〜90重量%に相当し、残りの50〜10重量%は、チタン、マグネシウム、塩素およびアルコキシ基を含んでいる。50%の場合でさえ、このために、重合に加えなければならない固体の重量が倍加する。
【0006】
噴霧乾燥に付随する困難がなく、大きな粒径を有する多量のシリカを使用せずに、高活性の触媒を形成するために、遷移金属化合物の担体として使用できる塩化マグネシウムの粒子があれば望ましい。
【0007】
結晶サイズに関しては、他の系を用いるかなりの研究がなされてきた。その研究の多くが、大きく、均一な結晶を確保することに関する。結晶サイズに影響を与えるために使用される1つの技法は、過飽和溶液に種晶を添加することである。カリウムミョウバンの結晶、KAl(SO42・12H2Oは、粉末技術(Powder Technology)121(2001)31頁に報告されているように、久保田他によって手広く研究された。彼らは「種晶の添加は長い間、…の有効な技法として知られているが、所望のサイズの生成物を製造するために、または結晶化を安定化するために、どれくらいの量でどのようなサイズの種晶を、晶出装置に添加すべきであるかは、誰にも予測できない。方法論が全く提案されていない。種晶の添加は、一種の技巧として扱われているように思える。」と述べている。
【0008】
カリウムミョウバンの研究で、久保田は2つの重要な発見をなした。種晶には臨界濃度が存在する。この種晶濃度を超えると、カリウムミョウバンの結晶は、粒度分布が単峰型であり、この濃度未満では、双峰型であった。また、カリウムミョウバン結晶の平均径は、種晶塊の平均のサイズと共に直線的に増加した。研究された種晶のサイズは、40ミクロンから300ミクロンまであった。
【0009】
塩化マグネシウムは、20年以上前から使用されており、結晶化に影響を及ぼすための種晶添加の概念は、100年以上前から知られている。しかし、噴霧乾燥の複雑さなしに、均一で小粒径を有する塩化マグネシウムを作る必要性はなお存在する。
[発明の概要]
本発明は、塩化マグネシウムで被覆された無機酸化物ナノ粒子を含む担体およびこれらを製造する方法に関する。ナノ粒子は、溶液から塩化マグネシウムを結晶化させるための種晶として使用される。マグネシウム塩化物で被覆された無機酸化物ナノ粒子は、遷移金属化合物を担持するために有用である。担持遷移金属化合物は、オレフィン重合を触媒するために使用できる。
[発明の詳細な説明]
本発明の担体は、塩化マグネシウムで被覆された無機酸化物ナノ粒子を含む。「ナノ粒子」は、5ミクロン未満の平均粒径を有する粒子を意味する。無機酸化物ナノ粒子は、好ましくは1ミクロン未満、さらに好ましくは0.1ミクロン未満の平均粒径を有する。無機酸化物のサイズは、無機酸化物の正確な選択よりも決定的なパラメーターである。好適な無機酸化物は、例えばアルミニウム、シリコン、アンチモン、セリウム、銅、インジウム、鉄、チタン、スズ、イットリウムおよび亜鉛の酸化物を含む。無機酸化物の混合物も使用することができる。無機酸化物は、塩化マグネシウムを結晶させるために使用される溶媒中に不溶性でなければならない。好適な無機酸化物は、さまざまな会社から商業的に入手可能である。
【0010】
初めに、塩化マグネシウムは、どのようなサイズまたは形状のものであってもよい。好ましくは、塩化マグネシウムには、10重量%未満の水分含量、さらに好ましくは0.5重量%未満の水分含量しか有していない。塩化マグネシウムで無機酸化物を被覆する1つの好ましい方法は、エタノール中に溶解された塩化マグネシウムの溶液中で無機酸化物をスラリー化し、次いで、溶媒を冷却するか、または濃縮することによって、塩化マグネシウムを結晶化させることである。好ましくは、スラリーは、結晶化の間攪拌される。アルコール、特にエタノールが好ましい溶媒である。好ましくは、溶媒は、5重量%未満の水分含量しか有していない。
【0011】
結晶化の後に、固体粒子は、いくつかの技法のいずかによって、余分な溶媒から分離される。1つの好適な技法は、固体を濾過し、次いで真空乾燥することである。場合によって、乾燥は、徹底的ではなく、少量の溶媒が固体と共に残っている。溶媒としてエタノールを使用する場合、乾燥は、好ましくは塩化マグネシウム1モルあたりエタノール1〜6モルが残存するまで行われる。
【0012】
無機酸化物ナノ粒子に対する塩化マグネシウムの重量比は、好ましくは約100:1〜約100,000:1、さらに好ましくは約1,000:1〜10,000:1である。この重量比が高すぎる場合、結晶の粒径は、定まらず、大きすぎることがある。この重量比が低すぎる場合、それは不必要に費用がかかることがある。
【0013】
塩化マグネシウムで被覆された無機酸化物ナノ粒子は、オレフィン重合触媒の担体物質として使用することができる。好ましくは、オレフィン重合触媒は、第4〜10族の遷移金属化合物を含むメタロセン、非メタロセンシングルサイトまたはチーグラー−ナッタ触媒である。
【0014】
メタロセン触媒には、米国特許第4,791,180号および4,752,597号に記載のものなどの置換および非置換のシクロペンタジエニル、フルオレニルもしくはインデニル配位子、または同様のものを含んだ触媒が挙げられる。
【0015】
非メタロセンシングルサイト触媒には、いわゆる「拘束幾何形状」触媒(例えば米国特許第5,064,802号を参照されたい)、ならびに例えば米国特許第5,554,775号、5,539,124号、5,637,660号、5,902,866号および6,232,260号に記載されているような、ボラアリール、ピロリル、インドリル、インデノインドリル、キノリニル、ピリジニル、アザボロリニルなどの1つまたは複数のヘテロ原子含有環配位子を含む触媒が挙げられる。
【0016】
さらに好ましくは、オレフィン重合触媒は、チーグラー−ナッタ触媒である。これらは、チタンハライド、チタンアルコキシド、バナジウムハライドおよびこれらの混合物、特にTiCl3、TiCl4、VOCl3とTiCl4との混合物および混合物VCl4とTiCl4との混合物とを含んでいる。他の好適なチーグラー−ナッタ触媒は、米国特許第4,483,938号および欧州特許第222,504号に出ている。最も好ましくは、オレフィン重合触媒は、TiCl4である。
【0017】
場合により、ルイス塩基も、担持遷移金属化合物に付加される。好ましいルイス塩基は、例えばブチルアセテート、ジエチルフタレート、トリメチルトリメリテートおよびジエチルアジペートなどのC3〜C24のエステルおよび例えばジブチルエーテル、グリムおよびジグリムなどのC4〜C16のエーテルである。さらに好ましいルイス塩基は、例えばジエチルフタレート、ジオクチルイソフタレートおよび1,6−ヘキサンジオールビスベンゾエートなどのC9〜C24のエステルである。
【0018】
担持遷移金属化合物は、オレフィン重合触媒として有用である。重合は、担持遷移金属化合物、およびメチルアルモキサン、ジエチル塩化アルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウムなどのアルミニウム化合物の存在下に実行される。
【0019】
好ましくは、遷移金属化合物は、チーグラー−ナッタ触媒であり、アルミニウム化合物は、ジアルキルアルミニウムハライドまたはトリアルキルアルミニウム化合物である。
【0020】
好ましくは、オレフィンはα−オレフィンである。さらに好ましくは、オレフィンは、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテンおよびこれらの混合物からなる群から選択される。最も好ましくは、オレフィンは、エチレンまたは第2オレフィンと一緒のエチレンである。
【0021】
次の実施例は、本発明を例証するものにすぎない。当業者であれば、本発明の精神および特許請求の範囲内にある多くの変形を認識されよう。
【実施例】
【0022】
実施例1
塩化マグネシウム粉末(100g;水分含量<5%;アルドリッチケミカル社(Aldrich Chemical Company)から入手可能)を窒素下で攪拌しながら70℃において無水エタノール1.5L中に溶解させる。引き続き攪拌しながら、平均粒径47nm(0.047ミクロン)を有する酸化アルミニウム(0.01g)(ナノフェーズテクノロジー社(Nanophase Technologies Corporation)から入手可能)を加える。このスラリーを温度70℃に保持しながら、軽度の真空によって500mLの容量まで濃縮させ、結晶化を開始させる。この混合物を室温に冷却させてより多くの結晶を得る。酸化アルミニウム上に被覆された塩化マグネシウムを濾過し、真空下に40℃で1時間乾燥する。この粒子は、均一であり、大きい表面積を有していると思われる。
実施例2
実施例1において調製された無機酸化物上に被覆された塩化マグネシウム(1g)を、ガラス管中に置き、窒素中で四塩化チタンの流れに2時間晒して、四塩化チタンを担持させる。2Lのステンレス鋼重合反応器を70℃で乾燥窒素を用いて3回加圧パージする。反応器を完全に排気した後に、7mL容器から水素を1.7MPaの圧力低下として加える。担持された四塩化チタンに続いてイソブタン中の1−ヘキセン(100mL)およびトリイソブチルアルミニウム(1mmol)の溶液を反応器に加える。エチレンは、2.4MPaの全反応器圧力を与えるように加える。温度は70℃に維持され、エチレン圧は30分間、2.4MPaを維持するために必要により仕込む。30分間の重合の後に、反応器を排気して揮発分を除去する。エチレンとヘキセンとのコポリマーが予想される反応生成物である。
【0023】
前述の実施例は、例証として意図しているにすぎない。次の特許請求の範囲は、本発明の範囲を定める。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化マグネシウムで被覆された無機酸化物ナノ粒子を含む担体。
【請求項2】
ナノ粒子が1ミクロン未満の平均粒径を有する請求項1に記載の担体。
【請求項3】
ナノ粒子が0.1ミクロン未満の平均粒径を有する請求項2に記載の担体。
【請求項4】
無機酸化物に対する塩化マグネシウムの重量比が、約100:1から約100,000:1である請求項1に記載の担体。
【請求項5】
無機酸化物に対する塩化マグネシウムの重量比が、約1,000:1から10,000:1である請求項4に記載の担体。
【請求項6】
エタノールをさらに含む請求項1に記載の担体。
【請求項7】
無機酸化物がアルミニウム、アンチモン、セリウム、銅、インジウム、鉄、シリコン、スズ、チタン、イットリウム、亜鉛の酸化物およびこれらの混合物からなる群から選択される請求項1に記載の担体。
【請求項8】
無機酸化物ナノ粒子の存在下に塩化マグネシウムを結晶化させることにより、担体を製造することを含む方法。
【請求項9】
前記結晶化がアルコール溶媒の存在下に実行される請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記溶媒がエタノールである請求項9に記載の方法。
【請求項11】
第4〜10族の遷移金属化合物および請求項1に記載の担体を含むメタロセン、非メタロセンシングルサイトまたはチーグラー−ナッタ触媒。
【請求項12】
第4〜10族の遷移金属化合物がTiCl4である請求項11に記載の触媒。
【請求項13】
アルミニウム化合物および請求項11に記載の触媒の存在下にオレフィンを重合することを含む方法。
【請求項14】
オレフィンが、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテンおよびこれらの混合物からなる群から選択される請求項13に記載の方法。

【公表番号】特表2008−513570(P2008−513570A)
【公表日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−532339(P2007−532339)
【出願日】平成17年8月16日(2005.8.16)
【国際出願番号】PCT/US2005/029350
【国際公開番号】WO2006/036359
【国際公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【出願人】(501391331)エクイスター ケミカルズ、 エルピー (30)
【氏名又は名称原語表記】Equistar Chemicals,LP
【Fターム(参考)】