説明

塩酸カモスタットの製造方法

【課題】高純度の塩酸カモスタットを製造できる方法の提供。
【解決手段】アセトニトリル、またはアセトニトリルと酢酸エチルとの混合溶媒中で、塩基の存在下、N,N−ジメチルカルバモイルメチルp−ヒドロキシフェニルアセテートと、p−グアニジノ安息香酸クロリドとを反応させることを特徴とするN,N−ジメチルカルバモイルメチルp−(p−グアニジノベンゾイルオキシ)フェニルアセテート・塩酸塩の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗プラスミン作用を有する急性膵炎治療薬として有用な医薬品であるN,N−ジメチルカルバモイルメチルp−(p−グアニジノベンゾイルオキシ)フェニルアセテート・メタンスルホン酸塩(以下、メシル酸カモスタットと称する)の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般式(I)
【0003】
【化1】

【0004】
で表されるN,N−ジメチルカルバモイルメチルp−(p−グアニジノベンゾイルオキシ)フェニルアセテート(以下、カモスタットと称する)のメタンスルホン酸塩(メシル酸カモスタット)は、抗プラスミン作用を有する急性膵炎治療薬として有用な医薬品として知られている。
【0005】
従来、メシル酸カモスタットの製造方法としては、種々の方法が知られている(特公昭54−41583号公報、特公昭57−14670号公報等)。例えば、特公昭57−14670号公報の方法は、p−グアニジノ安息香酸クロリド・塩酸塩とN,N−ジメチルカルバモイルメチルp−ヒドロキシフェニルアセテートとを反応させた後、反応溶液に炭酸水素ナトリウムを加えてカモスタットの炭酸塩(以下、炭酸カモスタットと称する)を生成し、濾過および洗浄した後、水中でメタンスルホン酸を作用させてメシル酸カモスタットを得ている。
【0006】
しかしながら、炭酸カモスタットは綿状の結晶であり、濾過および洗浄時に濾過速度が極端に低下する。例えば、100kg相当の炭酸カモスタットを濾過しようとすると、1500cm径の濾過器を使用しても、濾過および洗浄に約1週間要する。従って、従来のメシル酸カモスタットの製造方法は生産性が低く、その改善が強く望まれていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、生産性に優れたメシル酸カモスタットの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記の従来技術に鑑みてなされたものであり、メタンスルホン酸のアルカリ金属塩、または、有機酸のアルカリ金属塩およびメタンスルホン酸を用いて塩酸カモスタットを塩交換することにより、炭酸カモスタットを経由せずにメシル酸カモスタットを効率よく製造できること、また、N,N−ジメチルホルムアミドとアセトンとの混合溶媒か、または水からメシル酸カモスタットを高純度に再結晶化することができること、さらに、アセトニトリル、またはアセトニトリルと酢酸エチルとの混合溶媒中で、塩基の存在下、N,N−ジメチルカルバモイルメチルp−ヒドロキシフェニルアセテートとp−グアニジノ安息香酸クロリドとを反応させることにより高純度の塩酸カモスタットを製造できることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0009】
すなわち、本発明は以下の通りである。
〔1〕塩酸カモスタットを、メタンスルホン酸のアルカリ金属塩、または、有機酸のアルカリ金属塩およびメタンスルホン酸を用いて塩交換することを特徴とするメシル酸カモスタットの製造方法。
〔2〕メタンスルホン酸のアルカリ金属塩が、メタンスルホン酸ナトリウムである〔1〕記載の方法。
〔3〕塩交換が、水中で行われる〔2〕記載の方法。
〔4〕有機酸のアルカリ金属塩が、酢酸ナトリウムである〔1〕記載の方法。
〔5〕塩交換が、メタノール中で行われる〔4〕記載の方法。
〔6〕N,N−ジメチルホルムアミドとアセトンとの混合溶媒か、または水から再結晶化することを特徴とするメシル酸カモスタットの精製方法。
〔7〕アセトニトリル、またはアセトニトリルと酢酸エチルとの混合溶媒中で、塩基の存在下、N,N−ジメチルカルバモイルメチルp−ヒドロキシフェニルアセテートと、p−グアニジノ安息香酸クロリドとを反応させることを特徴とする塩酸カモスタットの製造方法。
〔8〕アセトニトリルとイソプロパノールとの混合溶媒から塩酸カモスタットを結晶化することを含む〔7〕記載の方法。
〔9〕以下の工程を包含するメシル酸カモスタットの製造方法:
(1)アセトニトリル、またはアセトニトリルと酢酸エチルとの混合溶媒中で、塩基の存在下、N,N−ジメチルカルバモイルメチルp−ヒドロキシフェニルアセテートと、p−グアニジノ安息香酸クロリドとを反応させることにより塩酸カモスタットを得る工程
(2)工程(1)で得られる塩酸カモスタットを、メタンスルホン酸のアルカリ金属塩、または、有機酸のアルカリ金属塩およびメタンスルホン酸を用いて塩交換する工程。
〔10〕工程(1)が、アセトニトリルとイソプロパノールとの混合溶媒から塩酸カモスタットを結晶化することを含む〔9〕記載の方法。
〔11〕さらに以下の工程を包含する〔9〕または〔10〕記載の方法:
(3)工程(2)で得られるメシル酸カモスタットを、N,N−ジメチルホルムアミドとアセトンとの混合溶媒か、または水から再結晶化する工程。
【発明の効果】
【0010】
本発明のメシル酸カモスタットの製造方法は、濾過および洗浄が困難であり生産効率を低下させる要因である炭酸カモスタットを経由しないので、塩酸カモスタットからメシル酸カモスタットを効率的に得ることができる。特に従来よりも高純度の塩酸カモスタットを用いることで、従来よりも高純度のメシル酸カモスタットを効率的に得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[メシル酸カモスタットの製造方法]
本発明のメシル酸カモスタットの製造方法は、メタンスルホン酸のアルカリ金属塩、または、有機酸のアルカリ金属塩およびメタンスルホン酸を用いて塩酸カモスタットをメシル酸カモスタットへ塩交換することを特徴とし、塩酸カモスタットから炭酸カモスタットを経由することなくメシル酸カモスタットを得ることができる方法である。
【0012】
当該方法の出発物質である塩酸カモスタットは、公知の物質であり、特公昭54−41583号公報や特公昭57−14670号公報等に記載の方法により製造することができる。好ましくは、高純度であることから後述する方法により製造されるものが挙げられる。
【0013】
本発明における塩交換においては、(a)メタンスルホン酸のアルカリ金属塩か、または(b)有機酸のアルカリ金属塩およびメタンスルホン酸のいずれかが使用される。
以下、当該塩交換を(a)メタンスルホン酸のアルカリ金属塩を用いる場合、および(b)有機酸のアルカリ金属塩およびメタンスルホン酸を用いる場合に分けて説明する。なお、いずれの場合も窒素等の不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
【0014】
(a)メタンスルホン酸のアルカリ金属塩を用いる場合
当該塩交換に使用されるメタンスルホン酸のアルカリ金属塩としては、メタンスルホン酸ナトリウム、メタンスルホン酸カリウム等が挙げられ、なかでもメタンスルホン酸ナトリウムが経済性の点から好ましい。また、メタンスルホン酸のアルカリ金属塩の使用量は、塩酸カモスタットの乾燥換算量(乾燥換算した重量)に対して通常1.5〜5.0倍モル量、好ましくは1.9〜2.5倍モル量である。
【0015】
当該塩交換において、メタンスルホン酸のアルカリ金属塩は、上記塩の状態で反応系内に導入してもよいが、メタンスルホン酸とアルカリ金属水酸化物とを別々に系内に導入してもよく、あるいは、アルカリ金属水酸化物の水溶液にメタンスルホン酸を加えること等により得られるメタンスルホン酸のアルカリ金属塩水溶液の状態で系内に導入してもよい。当該水溶液は、特に限定されないが、20〜40重量%の水溶液が好ましい。
【0016】
上記の場合におけるアルカリ金属水酸化物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられ、なかでも水酸化ナトリウムが経済性の点から好ましい。また、アルカリ金属水酸化物は固体または水溶液の状態で使用することができる。
【0017】
また、上記の場合におけるメタンスルホン酸の使用量は、塩酸カモスタットの乾燥換算量に対して通常1.5〜5.0倍モル量、好ましくは1.9〜2.5倍モル量であり、アルカリ金属水酸化物の使用量は、塩酸カモスタットの乾燥換算量に対して通常1.5〜5.0倍モル量、好ましくは1.9〜2.5倍モル量である。
【0018】
当該塩交換における溶媒としては、水、または水と有機溶媒(好ましくは、テトラヒドロフラン、イソプロパノール、アセトン等の水と混和可能である親水性有機溶媒)との混合溶媒が挙げられるが、経済性の点から水が好ましい。また、水と有機溶媒との混合溶媒における水と有機溶媒の比率は特に限定されず、使用される有機溶媒に応じて適宜選択することができる。
【0019】
溶媒として水を使用する場合、その使用量は、塩酸カモスタットの乾燥換算量の通常3〜6倍重量、好ましくは4〜5倍重量である。また、水と有機溶媒との混合溶媒を使用する場合、その使用量は、塩酸カモスタットの乾燥換算量の通常4〜8倍重量、好ましくは5〜6倍重量である。
【0020】
以下、当該塩交換を、メタンスルホン酸のアルカリ金属塩としてメタンスルホン酸のアルカリ金属塩水溶液を用いる場合の好ましい一実施態様を例示して具体的に説明する。
【0021】
まず、水にメタンスルホン酸を加え、次いでアルカリ金属水酸化物を加えて中和することによりメタンスルホン酸のアルカリ金属塩水溶液(以下、反応液と称する)を調製する。この際のpHは通常5〜9とし、好ましくは6〜8とする。
【0022】
次いで、当該反応液に塩酸カモスタットを添加する。添加方法は特に限定されないが、通常分割添加が好ましい。その際の温度は、通常0〜75℃、好ましくは20〜50℃である。また、添加中のpHは6以下、好ましくは3〜5とすることが生成物の分解を防ぐために好ましい。また、添加は通常数分〜1時間で行う。
【0023】
添加される塩酸カモスタットは、反応液に容易に溶解するので、直ちにメタンスルホン酸塩化される。その結果、メシル酸カモスタットが当該反応液中に結晶として析出する。その際、当該塩交換が迅速に行われることにより、溶解しなかった塩酸カモスタットが当該結晶中に取り込まれてしまう可能性がある。また、この時点で析出するメシル酸カモスタットの結晶は、不揃いであり得る。従って、当該結晶中に取り込まれた塩酸カモスタットを溶解し、さらに得られる結晶形を揃えるために、塩酸カモスタットの添加後、当該反応液を昇温し、析出しているメシル酸カモスタットの結晶を溶解することが好ましい。その際の温度は、通常60〜70℃、好ましくは63〜67℃である。また、その時間は、当該温度まで昇温した場合には加水分解が起こり易くなることから、できるだけ短時間であることが好ましく、通常0.5時間以下とする。なお、反応液にイソプロパノールやアセトン等の有機溶媒を加えた場合、メシル酸カモスタットの溶解度を向上させることができるので、当該昇温時の温度を低下させることができる。
【0024】
反応液の昇温によるメシル酸カモスタットの溶解を確認後、反応液を冷却する。好ましくはメシル酸カモスタットを結晶化するために徐冷却を行う。例えば、約65℃に昇温した反応液を40℃まで約2時間かけて冷却し、さらに約0.5〜1.0時間かけて20℃まで冷却するようにする。
【0025】
冷却の際、結晶化を促進させるためにメシル酸カモスタットの種結晶を添加することが好ましい。種結晶の量は特に限定されないが、通常、使用した塩酸カモスタットに対して0.03〜1.0重量%程度である。また種結晶の添加時機は、通常、反応液を昇温して塩酸カモスタットを溶解し、ある程度冷却した後である。例えば、反応液を約65℃に昇温して塩酸カモスタットを溶解した場合、当該反応液が冷却されて55〜60℃になった時点で添加すればよい。
【0026】
冷却後、通常0〜20℃、1〜2時間で反応液中に析出するメシル酸カモスタットの結晶を熟成させる。熟成後、反応液を濾過し、必要に応じて洗浄することによりメシル酸カモスタットを結晶として得ることができる。
【0027】
結晶の濾過方法は特に限定されず、ヌッチェ等の濾過器、遠心濾過機等の通常の濾過器を用いる常法に従って行えばよい。また、濾過の代わりに、遠心分離、デカンテーション等の通常の分離手段を用いてもよい。
【0028】
結晶の洗浄は、通常水で行う。洗浄水は、使用した塩酸カモスタットの乾燥換算量に対して通常0.9〜1.2倍重量である。また、洗浄水は、通常0〜15℃、好ましくは5〜10℃に冷却することが収率の向上の点から好ましい。
【0029】
(b)有機酸のアルカリ金属塩およびメタンスルホン酸を用いる場合
当該塩交換における有機酸のアルカリ金属塩としては、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、ギ酸ナトリウム、プロピオン酸ナトリウム、修酸ナトリウム、マロン酸カリウム等が挙げられ、なかでも経済性、安全性等の観点より酢酸ナトリウムが好ましい。また、有機酸のアルカリ金属塩の使用量は、塩酸カモスタットの乾燥換算量に対して通常1.5〜1.8倍モル量、好ましくは1.6〜1.7倍モル量である。
【0030】
メタンスルホン酸の使用量は、塩酸カモスタットの乾燥換算量に対して通常1.5〜1.8倍モル量、好ましくは1.6〜1.7倍モル量である。
【0031】
当該塩交換における溶媒としてはメタノールを使用することが好ましい。その使用量は、塩酸カモスタットの乾燥換算量の通常8〜12倍重量、好ましくは9〜11倍重量である。
【0032】
当該塩交換において、有機酸のアルカリ金属塩は、メタノールに溶解した後、使用することが好ましい。また、メタンスルホン酸は、メタノールに塩酸カモスタットを溶解した液に滴下することが好ましい。従って、当該塩交換は、まず、メタノールに有機酸のアルカリ金属塩と塩酸カモスタットを加え、次いで当該溶液にメタンスルホン酸を滴下することにより行うことが好ましい。
【0033】
有機酸のアルカリ金属塩および塩酸カモスタットのメタノール溶液にメタンスルホン酸を滴下する場合、滴下温度は0〜5℃が好ましく、滴下時間は通常30分〜2時間程度とする。
【0034】
滴下終了後、通常0〜5℃、4〜10時間で反応液中に析出されるメシル酸カモスタットの結晶を熟成させる。熟成後、反応液を常法に従って濾過し、必要に応じて洗浄することによりメシル酸カモスタットを結晶として得ることができる。
【0035】
以上の塩交換により得られるメシル酸カモスタットは、アセトン、水等で洗浄することにより、有機および無機の不純物を除去することができる。
【0036】
[メシル酸カモスタットの精製方法]
メシル酸カモスタットは、N,N−ジメチルホルムアミド(以下、DMFと称する)とアセトンとの混合溶媒か、または水から再結晶化することで、より高純度に精製することができる。
【0037】
当該再結晶は、窒素等の不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
【0038】
当該再結晶に使用されるDMFとアセトンとの混合溶媒としては、DMFとアセトンとの重量比が通常1:0.7〜1:2、好ましくは1:0.7〜1:1.3のものが挙げられる。また、当該混合溶媒の使用量は、メシル酸カモスタットの乾燥換算量に対して通常4〜10倍重量、好ましくは5.4〜6.6倍重量である。
【0039】
また、再結晶用溶媒として水を使用した場合、その使用量は、メシル酸カモスタットの乾燥換算量に対して通常3.7〜4.3倍重量、好ましくは3.8〜4.2倍重量である。
【0040】
当該再結晶においては、色相改善の観点から、脱色炭を使用することが好ましい。脱色炭の使用量は、メシル酸カモスタットの乾燥換算量に対して通常4〜6重量%である。
【0041】
メシル酸カモスタットを再結晶用溶媒に溶解する際の温度は、再結晶用溶媒がDMFとアセトンとの混合溶媒の場合、通常68〜75℃、好ましくは70〜73℃であり、水の場合、通常約60℃、好ましくは58〜62℃である。通常1時間程度攪拌してメシル酸カモスタットを溶解させる。
【0042】
また、再結晶用溶媒がDMFとアセトンとの混合溶媒の場合、予め調製した混合溶媒にメシル酸カモスタットを溶解させるのではなく、一方の溶媒にメシル酸カモスタットを溶解させた後、他方の溶媒を加えるようにしてもよい。この場合、DMFに通常60〜75℃、好ましくは66〜73℃でメシル酸カモスタットを溶解させた後、アセトンを通常50〜73℃、好ましくは55〜65℃で添加することが不純物除去の点で好ましい。
【0043】
脱色炭を使用した場合、メシル酸カモスタットが溶解した後、当該溶液を常法に従って濾過することにより脱色炭を除去する。
【0044】
メシル酸カモスタットを再結晶用溶媒に溶解し、さらには脱色炭を除去した後、冷却して結晶化する。この際、メシル酸カモスタットの種結晶を加えることが結晶化を促進するために好ましい。種晶の使用量は、使用したメシル酸カモスタットの乾燥換算量に対して、通常0.03〜1.0重量%程度である。種晶は通常35〜60℃で添加する。また、結晶は0〜5℃で通常1〜10時間熟成する。
【0045】
熟成後、常法に従って濾過し、必要に応じて洗浄することによりメシル酸カモスタットの結晶を得ることができる。洗浄は、再結晶用溶媒がDMFとアセトンとの混合溶媒の場合、アセトンを使用することが好ましく、水の場合、水を使用することが好ましい。さらに当該洗浄に使用する溶媒は、0〜5℃に冷却して使用することが目的物質の損失を防ぐために好ましい。
【0046】
以上の再結晶は繰り返し行ってもよい。また、混合溶媒を使用して再結晶させた後、さらに水を使用して再結晶化することにより、医薬品とした場合に問題となるDMFを除くことができるばかりでなく、メシル酸カモスタットをより高純度に精製することができるため、好ましい。
【0047】
また、メシル酸カモスタットの結晶は、必要に応じて乾燥することができる。乾燥は、通常、1kPa〜3kPaの減圧下、58℃〜62℃の温度で行う。また、乾燥時間は、通常24時間程度である。
【0048】
[塩酸カモスタットの製造方法]
上記メシル酸カモスタットの製造方法の出発物質である塩酸カモスタットは、アセトニトリル、またはアセトニトリルと酢酸エチルとの混合溶媒中で、塩基の存在下、N,N−ジメチルカルバモイルメチルp−ヒドロキシフェニルアセテートと、p−グアニジノ安息香酸クロリドとを反応させることにより高純度で製造することができる。
【0049】
(a)p−グアニジノ安息香酸クロリドの製造工程
p−グアニジノ安息香酸クロリドは、公知の物質であり、特公昭54−41583号公報や特公昭57−14670号公報等に記載の方法等により製造することができるが、好ましくは、高純度のp−グアニジノ安息香酸クロリドが得られることから、酢酸エチル中、p−グアニジノ安息香酸と塩化チオニルとを反応させる方法が挙げられる。
以下、当該方法の好ましい一実施態様を例示して具体的に説明する。
【0050】
当該反応におけるp−グアニジノ安息香酸は、遊離の酸でも、その塩であってもよいが、好ましくはp−グアニジノ安息香酸の塩酸塩(p−グアニジノ安息香酸・塩酸塩)が挙げられる。
【0051】
当該反応における塩化チオニルの量は、p−グアニジノ安息香酸に対して通常1.3〜1.8倍モル量、好ましくは1.4〜1.6倍モル量である。
【0052】
反応溶媒である酢酸エチルの量は、p−グアニジノ安息香酸に対して通常2〜5倍重量、好ましくは2.5〜3.5倍重量である。
【0053】
また、反応溶媒にはDMFを加えることが好ましく、その使用量はp−グアニジノ安息香酸に対して通常0.1〜1倍モル量、好ましくは0.3〜0.7倍モル量である。
【0054】
塩化チオニルは、p−グアニジノ安息香酸を溶解した反応溶媒中に滴下して反応させることが好ましい。滴下温度は40〜50℃とし、滴下時間は30分〜3時間とすることが好ましい。
【0055】
反応は40〜50℃で行ない、通常3〜10時間で終了する。反応の終点は特に測定する必要はないが、反応生成物をアニリンなどのアミンと反応させて高速液体クロマトグラフィー(以下、HPLCと称する)等の方法でチェックすることもできる。
【0056】
反応の終了後、反応液を常法に従って濾過することによりp−グアニジノ安息香酸クロリドを得ることができる。例えば、出発物質としてp−グアニジノ安息香酸・塩酸塩を使用した場合は、p−グアニジノ安息香酸クロリド・塩酸塩が得られる。
【0057】
当該方法により得られるp−グアニジノ安息香酸クロリドは、収率100%として精製せずにN,N−ジメチルカルバモイルメチルp−ヒドロキシフェニルアセテートとの縮合反応に使用することができる。
【0058】
(b)p−グアニジノ安息香酸クロリドとN,N−ジメチルカルバモイルメチルp−ヒドロキシフェニルアセテートとの縮合反応工程
p−グアニジノ安息香酸クロリドとN,N−ジメチルカルバモイルメチルp−ヒドロキシフェニルアセテートとの縮合反応は、窒素等の不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
【0059】
反応に使用される溶媒としては、アセトニトリル、またはアセトニトリルと酢酸エチルとの混合溶媒が挙げられるが、反応性の点でアセトニトリルが好ましい。また、当該溶媒の使用量は、N,N−ジメチルカルバモイルメチルp−ヒドロキシフェニルアセテートに対して通常1.6〜2.5倍重量、好ましくは1.8〜2.2倍重量である。
【0060】
N,N−ジメチルカルバモイルメチルp−ヒドロキシフェニルアセテートの使用量は、p−グアニジノ安息香酸クロリドに対して0.8〜0.85倍モル量が好ましい。
【0061】
塩基としては、好ましくは有機塩基が挙げられ、より好ましくはピリジンが挙げられる。また、塩基の使用量は、N,N−ジメチルカルバモイルメチルp−ヒドロキシフェニルアセテートに対して通常1.0〜1.8倍モル量、好ましくは1.3〜1.7倍モル量である。
【0062】
反応は、反応溶媒にN,N−ジメチルカルバモイルメチルp−ヒドロキシフェニルアセテートとp−グアニジノ安息香酸クロリドを加え、塩基を滴下する方法が反応をコントロールする観点から好ましい。
【0063】
塩基の滴下は0〜5℃の温度で、2〜5時間で行うことが好ましい。また、塩基の滴下後、反応を完結するために25〜35℃に加熱する。反応は通常1〜2時間で完結する。
【0064】
反応の完結後、通常使用した反応溶媒を一部濃縮する。濃縮量は使用量の35〜45重量%であることが好ましい。また、当該濃縮は内温が25〜35℃範囲で行うことが好ましい。
【0065】
次いで、反応生成物である塩酸カモスタットを結晶化する。塩酸カモスタットの結晶化は、反応溶媒としてアセトニトリルを使用した場合、得られる塩酸カモスタットの結晶を高純度にするため、当該反応溶媒にイソプロパノールを添加(好ましくは滴下)し、アセトニトリルとイソプロパノールとの混合溶媒とすることにより行うことが好ましい。この場合のイソプロパノールの使用量は、N,N−ジメチルカルバモイルメチルp−ヒドロキシフェニルアセテートに対して通常1.6〜2.5倍重量、好ましくは1.8〜2.2倍重量である。イソプロパノールの添加は、35〜45℃の範囲で行うことが好ましい。
【0066】
イソプロパノールを添加する際、塩酸カモスタットの結晶化を促進させるために塩酸カモスタットの種晶を添加してもよい。種晶の使用量は特に限定されないが、通常N,N−ジメチルカルバモイルメチルp−ヒドロキシフェニルアセテートに対して0.05〜1重量%でよい。
【0067】
イソプロパノールの添加後、反応液を冷却し、次いで一定時間熟成させて塩酸カモスタットを結晶化する。結晶化は、通常、0〜5℃の温度で、1〜3時間で完結する。
【0068】
結晶化の完結後、常法に従って濾過し、必要に応じて洗浄を行うことにより塩酸カモスタットの結晶を得ることができる。洗浄は、冷却したイソプロパノールを使用する。その温度は0〜20℃であり、また使用量は結晶化に使用したイソプロパノール量の45〜55重量%でよい。
【0069】
当該方法により得られる塩酸カモスタットは、従来の方法により得られるものよりも高純度である。従って、当該方法により得られる塩酸カモスタットを本発明のメシル酸カモスタットの製造方法に適用することにより、従来の方法よりも高純度のメシル酸カモスタットを効率的に得ることができる。
【実施例】
【0070】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、これらは単なる例示であって何ら本発明の範囲を限定するものではない。
なお、以下の実施例において、純度の測定におけるHPLC分析による純度は、試料を以下の条件のHPLCにより分離し、その面積百分率により決定した値である。
(HPLC条件)
カラム;オクタデシルシリル化シリカゲル(平均粒径5μm)充填カラム(φ5mm×150mm)
カラム温度;40℃
移動相;水/CH3CN/HClO4=3000:1000:3
流速;カモスタットの保持時間が約5分になるように調整した。
検出;UV 265nm
また、見かけの収率とは、純度を考慮しない収率を意味する。
【0071】
製造例1 p−グアニジノ安息香酸クロリド・塩酸塩
酢酸エチル3609gにDMF183gおよびp−グアニジノ安息香酸・塩酸塩1082gを加え、40〜50℃で塩化チオニル896gを1.5時間で滴下した。45〜50℃で5時間反応し、濾過して標題化合物の湿結晶1614g(乾燥換算量1175g)を得た。
【0072】
実施例1 N,N−ジメチルカルバモイルメチルp−(p−グアニジノベンゾイルオキシ)フェニルアセテート・塩酸塩(塩酸カモスタット)
アセトニトリル1984gにN,N−ジメチルカルバモイルメチルp−ヒドロキシフェニルアセテート992gを加え、0〜5℃に冷却した。製造例1の方法で製造したp−グアニジノ安息香酸クロリド・塩酸塩の湿結晶1614g(乾燥換算量1175g)を全量加え、0〜5℃でピリジン496gを3時間かけて滴下した。同温度で2時間攪拌し、次いで約30℃に加熱し、30〜35℃で1時間攪拌した。約13kPaの減圧下、30〜35℃でアセトニトリル1178gを留去して濃縮した。40〜45℃でイソプロパノール1985gを滴下し、別途調製した標題化合物の種結晶0.5gを加えた。0〜5℃に冷却し、1時間熟成した後、濾過し、イソプロパノール992gで結晶を洗浄し、標題化合物の湿結晶1606g(乾燥換算量1290g)を得た(見かけの収率74.0%;HPLC分析による純度94.78%)。また、得られた標題化合物の濾過速度は234L/m2・hr(ケーキ厚み3.7cm)であった。
【0073】
実施例2 N,N−ジメチルカルバモイルメチルp−(p−グアニジノベンゾイルオキシ)フェニルアセテート・メタンスルホン酸塩(メシル酸カモスタット)
水4408gにメタンスルホン酸570gを滴下し、次いで24重量%水酸化ナトリウム水溶液989gを滴下した。溶液のpHが6〜8であることを確認した後、実施例1で製造した塩酸カモスタットの湿結晶1606g(乾燥換算量1290g)を30〜45℃で分割して加えた。次いで65℃に昇温し、メシル酸カモスタットの溶解を確認した後、直ちに55〜60℃に冷却し、別途調製した標題化合物の種晶0.6gを加えた。40℃まで2時間かけて冷却し、さらに20℃まで冷却した。0〜20℃で1時間熟成し、濾過し、5〜10℃の冷水1290gで洗浄し、標題化合物の湿結晶1645g(乾燥換算量1421g)を得た(見かけの収率96.9%;HPLC分析による純度99.4%)。
【0074】
実施例3 メシル酸カモスタット
メタノール12.74kgに酢酸ナトリウム399gを加えて溶解後、冷却し、窒素雰囲気下、実施例1の方法で製造した塩酸カモスタットの湿結晶1330g(乾燥換算量1329g)を0〜5℃で加えた。0〜5℃で1時間攪拌後、メタンスルホン酸467gを同温度で滴下した。0〜5℃で4時間熟成した後、濾過し、アセトン3694gで4回洗浄し、標題化合物の湿結晶1469g(乾燥換算量1277g)を得た(見かけの収率96.1%;HPLC分析による純度97.5%)。
【0075】
実施例4 メシル酸カモスタットの精製
窒素雰囲気下、DMF4224gに実施例2で製造したメシル酸カモスタットの湿結晶1630g(乾燥換算量1408g)を加え、約70℃に加熱した。65〜75℃で30分間攪拌し、60℃に冷却した。次いでアセトン4224gを55〜65℃で滴下し、種晶0.5gを加え、55〜65℃で1時間攪拌した。5℃まで冷却して0〜5℃で6時間以上熟成した。濾過後、アセトン2816gで洗浄し、メシル酸カモスタットの湿結晶1611g(乾燥換算量1253g)を得た(見かけの収率89.0%;HPLC分析による純度99.7%)。
【0076】
実施例5 メシル酸カモスタットの精製
水5109gに脱色炭51gを加え、窒素雰囲気下で、実施例2で製造したメシル酸カモスタットの湿結晶1641g(乾燥換算量1277g)を加えた後、約60℃に加熱した。58〜62℃で1時間攪拌し、濾過し、水68gで濾過残渣を洗浄した。濾過液に38〜42℃で別途調製したメシル酸カモスタットの種結晶5gを加えた後、約5℃に冷却した。0〜5℃で1時間熟成し、濾過し、0〜5℃に冷却した水894gで2回洗浄した。1.33kPa〜3.99kPaの減圧度、58〜62℃の温度で乾燥し、メシル酸カモスタット1072gを得た(見かけの収率84.0%;HPLC分析による純度99.8%)。
【0077】
比較例1
特公昭57−14670号公報の実施例1の方法に従って製造した炭酸カモスタットを濾過したところ、濾過速度は20L/m2・Hr(減圧度30mmgケーキ厚1.8cm)であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アセトニトリル、またはアセトニトリルと酢酸エチルとの混合溶媒中で、塩基の存在下、N,N−ジメチルカルバモイルメチルp−ヒドロキシフェニルアセテートと、p−グアニジノ安息香酸クロリドとを反応させることを特徴とするN,N−ジメチルカルバモイルメチルp−(p−グアニジノベンゾイルオキシ)フェニルアセテート・塩酸塩の製造方法。
【請求項2】
アセトニトリルとイソプロパノールとの混合溶媒からN,N−ジメチルカルバモイルメチルp−(p−グアニジノベンゾイルオキシ)フェニルアセテート・塩酸塩を結晶化することを含む請求項1記載の方法。

【公開番号】特開2010−229141(P2010−229141A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−115646(P2010−115646)
【出願日】平成22年5月19日(2010.5.19)
【分割の表示】特願2000−307581(P2000−307581)の分割
【原出願日】平成12年10月6日(2000.10.6)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】