説明

壁パネル取付用アンカー金具の挿脱用冶具、この挿脱用冶具を用いた壁パネルの取付方法、および壁パネルの取付構造からアンカー金具を脱着する方法

【課題】アンカー金具の把持力に優れると共にアンカー金具への着脱が容易であり、かつアンカー金具の挿入部位を正確に位置決めすることができ、さらにアンカー金具を引き抜く脱着性にも優れた壁パネル取付用アンカー金具の挿脱用冶具を提供する。
【解決手段】壁パネルに形成した挿通孔に対しアンカー金具を挿入するために使用する挿脱用冶具10であって、挿通孔の内径よりも小さくアンカー金具の外形よりも大きい外径を有する円筒状本体20と、この円筒状本体20の中空部に摺動可能に挿入され、かつこの円筒状本体20よりも長い内部管状体30とからなり、内部管状体30の一端部には、この内部管状体30が円筒状本体20の内部に位置するときには縮径し、この内部管状体30が円筒状本体20の外部に位置するときには拡径して、これらの縮径および拡径に応じて、アンカー金具の端部をその外周面から把持または解放する把持当接部31を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の躯体に取付ける壁パネルの取付構造を構成するために使用する壁パネル取付用アンカー金具の挿脱用冶具、この冶具を用いた壁パネルの取付方法、および壁パネルの取付構造からアンカー金具を脱着する方法に関するものである。さらに詳しくは、アンカー金具の把持力に優れると共にアンカー金具への着脱が容易であり、かつアンカー金具の挿入部位を正確に位置決めすることができるばかりか、アンカー金具を引き抜く脱着性にも優れた壁パネル取付用アンカー金具の挿脱用冶具、この冶具を用いて作業者が熟練を要することなく容易に壁パネルを取付ける方法、および壁パネルの取付構造からアンカー金具を容易に抜き取る(脱着する)方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
軽量発泡コンクリートパネル(ALCパネル)などの壁パネルの建物躯体への取付構造としては、建物躯体のフランジ部に固着した上部アングルと下部アングルからなる取付金具により、外部から壁パネルを支持する構造が一般的であったが、この取付構造では、溶接やモルタル補修などの手間を要するばかりか、壁パネルに形成した貫通孔により外観が著しく阻害されるため、近年では、壁パネルの内部に埋設したアンカー金具と取付金具とを連結固定し、この取付金具を建物躯体に固定する取付構造(例えば、特許文献1および2参照)が主として採用されている。
【0003】
すなわち、この従来の取付構造は、図4に示したように、壁パネルPの小口面P1から挿通孔1を形成すると共に、壁パネルPの室内側壁面P2から挿通孔1と直交する方向に係止金具挿入孔3を形成しておき、挿通孔1に棒状のアンカー金具2を、また係止金具挿入孔3に長ナット状の係止金具4をそれぞれ挿入し、係止金具4の直径方向に設けられた貫通孔5にアンカー金具2を貫通させることにより、壁パネルPの内部でアンカー金具2と係止金具4とを直交配置し、さらに、係止金具4のボルト孔6に、イナズマプレートなどの取付部材7を介してボルト8を螺合してから、最後に取付部材7を建物躯体に係止固定することにより構成されたものである。
【0004】
この取付構造によれば、建物の外側となる壁パネルの表面に孔を空ける必要がないため、その孔をモルタルで埋め戻した跡により表面外観が阻害されたり、埋め戻し部の隙間から雨水が侵入したりすることがないという利点が得られるばかりか、壁パネルを建物躯体に係止固定する直前にアンカー金具2を取り付けることができるため、アンカー金具2の位置変更が容易になることなどの施工上の優位性も得られていた。
【0005】
ところで、上記従来の取付構造を形成するには、図5〜図9に示した手順を必要としていた。
【0006】
すなわち、図5に示したように、まず壁パネルPの小口面P1からその面と垂直方向に挿通孔1を、また壁パネルPの室内側壁面P2から挿通孔1と直交する方向に係止金具挿入孔3を、それぞれ形成する。
【0007】
次に、図6に示したように、壁パネルPの挿通孔1に、棒状あるいは管状の鋼材からなるアンカー金具2を挿入すると共に、壁パネルPの係止金具挿入孔3に、長ナット状の係止金具4をそれぞれ挿入する。ここで、係止金具4はその直径方向に貫通孔5が設けられており、この係止金具4は、通常は貫通孔5に仮付けボルト9を螺合した状態で、係止金具挿入孔3へ挿入される。
【0008】
そして、図7に示したように、壁パネルPの内部にて、アンカー金具2を係止金具4の貫通孔5に挿通、連結して、アンカー金具2の後端が壁パネルPの小口面P1に至るまでさらに手で押し込む。この場合のアンカー金具2の先端と、貫通孔5との位置合わせは、仮付けボルト9を適宜回転させながら行う。
【0009】
次いで、図8に示したように、別の棒状部材2aの先端を、壁パネルPの小口面P1に後端を位置しているアンカー金具2の後端に当接させた状態で、別の棒状部材2aを押すことにより、アンカー金具2を挿通孔1内の所定位置まで押し込む。
【0010】
その後、図9に示したように、アンカー金具2を押し込んだ別の棒状部材2aを取り出すとともに、仮付けボルト9を係止金具4から取り外す。次いで、係止金具4のボルト孔6に取付部材7を介してボルト8を螺合してから、最後に取付部材7を建物躯体に係止固定することにより、図4に示した取付構造が完成するのである。
【0011】
しかるに、上記従来のパネルの取付構造を形成する過程においては、特に図8に示した過程で、壁パネルPの内部に挿入されたアンカー金具2の挿入深さ・程度を正確に把握することができず、アンカー金具2が係止金具4の位置に対して偏った位置に配置されることがあり、この場合には係止金具4に掛かる把持部の外力を、壁パネルPの全体に対して均等に分散させることができなくなって、壁パネルPの取付強度が弱くなるという問題があった。
【0012】
また、棒状部材2aにより挿通孔1内に押し込まれたアンカー金具2が、誤って所定位置を越えた位置に配置されてしまった場合には、このアンカー金具2を引き戻すことができないことから、(1)挿通孔1を空けた小口面P1が下になるように壁パネルPを小端立て(小口面を上下にした状態とすること)して、アンカー金具2を挿通孔1から取り出したり、(2)壁パネルPの反対側の小口面から挿通孔1に連なる孔を開口して、この孔から別の棒状部材2aを挿入してアンカー金具2を押し戻したりする必要があり、これらの場合には、改めて初めからアンカー金具2の挿入施工をやり直すことになるため、余分な手数や時間を要して作業効率・施工品質の低下が招かれるばかりか、作業者にとっての体力・安全面においても負担が強いられるという問題があった。さらに、壁パネルPを建物躯体に建て込む場合、通常は、安定して作業が可能な地階等で小口面P1に挿通孔1を予め穿設し、この挿通孔1にアンカー金具2を挿入した状態とした後に、壁パネルPを建て込む位置に移動させて建て込んでいるため、壁パネルPを建て込む位置に移動させるまで、実際の取付位置からずれていることに気付かずに挿通孔1を穿設することがある。このような場合、壁パネルPを建て込む位置で、アンカー金具2を間違った位置に穿設された挿通孔1内から脱着する必要があるが、前述した(1)、(2)の方法を行う場所の確保が困難であり、地階にまで下ろして、再度作業をやり直すといった多大な手間がかかると云う問題があった。
【0013】
これらの問題を解決するには、例えばアンカー金具2を押し込む棒状部材2aに予め所定位置を示す印をマジックインキなどで付けたり、ラジオペンチなどの工具を用いてアンカー金具2を挿通孔1内に押し込みまたは引き戻しする手段が考えられるが、マジックインキなどによる印は、施工途中で簡単に消えたりするばかりか、また壁パネルの巾が変わる毎に所定寸法を計算して付け直す必要があり、ラジオペンチなどの使用は、作業者の感覚に熟練を要するばかりか、壁パネルの小口面に傷を付けやすいという問題を包含していた。
【0014】
これらの実情に鑑み、従来から種々の改良手段が検討されており、例えば、壁パネルに形成した挿通孔に管状のアンカー金具を挿入するために使用する冶具として、ハンドルに軸部を取付け、その軸部の先端にテーパーピン製の保持部を取り付けた挿入用冶具(例えば、特許文献3参照)について、本出願人が先に提案している。
【0015】
しかしながら、この挿入用冶具は、アンカー金具の先端の中空部に保持部を差し込むだけであるため、アンカー金具の把持力が弱く、棒状のアンカー金具の挿入には使用できないばかりか、挿通孔内に挿入されたアンカー金具の挿入深さ・程度を正確に把握することができないという問題を依然として包含していた。
【0016】
本出願人は、さらに挿入用冶具の改良を目指して検討した結果、先端部にアンカー金具の端部を外側から付勢把持するチャック状の把持部を、後端部にハンドル部を有すると共に、軸部に挿通孔内の到達位置を規制するための指掛け操作部を設けたアンカー金具の挿入用冶具(例えば、特許文献4参照)が有効であることを見出し、先に提案した。
【0017】
しかるに、その後の本出願人の検討によれば、この挿入用冶具にはさらに次のような問題を包含していることが判明した。すなわち、上記の挿入用冶具は、把持部の付勢力によりアンカー金具の端部を把持しているため、常に一定の力で把持することは可能であるものの、アンカー金具を把持し使用している最中にその把持力を変化させることが不可能であった。そのため、例えばアンカー金具を所定位置にセットするまでは確実にアンカー金具を把持することができる反面、所定位置にセットしたアンカー金具から挿入用冶具を容易に取り外すことが困難であり、作業者の感覚に熟練を要するという問題があった。そればかりか、構成済みのパネルの取付構造からアンカー金具を引き抜く(脱着する)ことを必要とする場合には、パネル内部に位置するアンカー金具に挿入用冶具の把持部を係合することが不可能であるため、アンカー金具の脱着用としては使用できないという問題も残されていた。
【特許文献1】特開平2−112545号公報
【特許文献2】特開平7−113271号公報
【特許文献3】特開平7−279304号公報
【特許文献4】特開2006−283337号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は、上述した従来技術における問題点の解決を課題として検討した結果達成されたものである。
【0019】
したがって、本発明の目的は、アンカー金具の把持力に優れると共にアンカー金具への着脱が容易であり、かつアンカー金具の挿入部位を正確に位置決めすることができるばかりか、アンカー金具を引き抜く脱着性にも優れた壁パネル取付用アンカー金具の挿脱用冶具、この冶具を用いて作業者が熟練を要することなく容易に壁パネルを取り付ける方法、および壁パネルの取付構造からアンカー金具を容易に脱着する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記の目的を達成するために本発明によれば、壁パネルの室内側壁面からその面と垂直方向に設けられた係止金具挿入孔に係止金具を挿入した後、前記壁パネルの小口面から前記係止金具挿入孔と直交する方向に設けられた挿通孔に棒状のアンカー金具を挿入し、さらに前記係止金具の直径方向に設けられた貫通孔に前記アンカー金具を貫通させることにより、壁パネルの内部で前記アンカー金具と係止金具とが交差すると共に、前記アンカー金具が係止金具に摺動的に仮固定された壁パネルの取付構造を構成するに際し、前記挿通孔に対し前記アンカー金具を挿入または脱着するために使用する冶具であって、前記挿通孔の内径よりも小さく、前記アンカー金具の外形よりも大きい外径を有する円筒状本体と、この円筒状本体の中空部に摺動可能に挿入され、かつ、この円筒状本体よりも長い内部管状体とからなり、前記内部管状体の一端部には、この内部管状体が前記円筒状本体の内部に位置するときには縮径し、この内部管状体が前記円筒状本体の外部に位置するときには拡径して、これらの縮径および拡径に応じて、前記アンカー金具の端部をその外周面から把持または解放する把持当接部を備えることを特徴とする壁パネル取付用アンカー金具の挿脱用冶具が提供される。
【0021】
なお、本発明の壁パネル取付用アンカー金具の挿脱用冶具においては、
前記把持当接部が、内部管状体の一端部長さ方向に形成した複数のスリットを備え、このスリットに付加される弾性付勢によりアンカー金具の端部を把持または解放するように構成されていること、
前記円筒状本体の後端部に指掛け操作部が固着されていること、および
前記内部管状体の後端部にハンドルが固設されており、このハンドルと前記円筒状本体の後端との間にスプリングが介挿されていること
が、いずれも好ましい条件として挙げられる。
【0022】
また、本発明の壁パネルの取付方法は、壁パネルの室内側壁面からその面と垂直方向に設けられた係止金具挿入孔に係止金具を挿入した後、前記壁パネルの小口面から前記係止金具挿入孔と直交する方向に設けられた挿通孔に棒状のアンカー金具を挿入し、さらに前記係止金具の直径方向に設けられた貫通孔に前記アンカー金具を貫通させることにより、壁パネルの内部で前記アンカー金具と係止金具とが交差すると共に、前記アンカー金具が係止金具に摺動的に仮固定された壁パネルの取付構造を構成するに際し、まず前記係止金具を、その貫通孔の開口面と壁パネル小口面の長辺とが平行になるように前記係止金具挿入孔内に配置し、上記本発明の挿脱用冶具の把持当接部により前記アンカー金具の端部を把持した状態で、このアンカー金具を前記挿通孔内へ挿入すると共に前記係止金具の貫通孔に貫通させることにより、前記挿通孔の予め設定した位置に前記アンカー金具をセットした後、前記壁パネルの室内側壁面から、取付部材を介して前記係止金具のボルト孔にボルトを締め込むことにより、前記壁パネルと前記取付部材とを固定し、次いで前記挿脱用冶具を前記挿通孔から引き抜くことを特徴とする。
【0023】
さらに、本発明の壁パネルの取付構造からアンカー金具を脱着する方法は、壁パネルの室内側壁面からその面と垂直方向に設けられた係止金具挿入孔に係止金具が挿入されると共に、前記壁パネルの小口面から前記係止金具挿入孔と直交する方向に設けられた挿通孔に棒状のアンカー金具が挿入され、さらに前記係止金具の直径方向に設けられた貫通孔に前記アンカー金具を貫通させることにより、壁パネルの内部で前記アンカー金具と係止金具とが交差すると共に、前記アンカー金具が係止金具に摺動的に仮固定された壁パネルの取付構造から、前記アンカー金具を脱着するに際し、まず上記本発明の挿脱用冶具の把持当接部(内部管状体)を前記挿通孔に挿入して、この把持当接部により前記アンカー金具の端部を把持した状態となし、次いで前記挿脱用冶具を前記挿通孔から引き抜くことを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、以下に説明するとおり、アンカー金具の把持力に優れると共にアンカー金具への着脱が容易であり、かつアンカー金具の挿入部位を正確に位置決めすることができるばかりか、アンカー金具を引き抜く脱着性にも優れた壁パネル取付用アンカー金具の挿脱用冶具を得ることができる。
また、本発明の壁パネルの取付方法によれば、作業者が熟練を要することなく容易に壁パネルを取り付けることができる。
さらに、本発明の壁パネルの取付構造からアンカー金具を脱着する方法によれば、アンカー金具の脱着を作業者の熟練を要することなく容易に行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を用いて本発明を具体的に説明する。
【0026】
まず、図1にしたがって、本発明の壁パネル取付用アンカー金具の挿脱用冶具(以下、単に挿脱用冶具と呼ぶこともある)の基本構造について説明する。
【0027】
図1に示したように、本発明の挿脱用冶具10は、上記挿通孔1の内径よりも小さく、かつ上記アンカー金具2の外形よりも大きい外径を有する円筒状本体20と、この円筒状本体20の中空部に摺動可能に挿入され、かつこの円筒状本体20よりも長い内部管状体30とから主として構成されている。そして、内部管状体30の一端部には、この内部管状体30が前記円筒状本体20の内部に位置するときには縮径し、この内部管状体30が前記円筒状本体20の外部に位置するときには拡径して、これらの縮径および拡径に応じて、前記アンカー金具2の端部をその外周面から把持または解放する把持当接部31を備えることを特徴とし、この把持当接部31でアンカー金具2の端部を外側から付勢保持し、このアンカー金具2を壁パネルの挿通孔1へと挿入するために使用される。
【0028】
挿脱用冶具10の把持当接部31は、図2に詳しく示したように、好ましくは内部管状体30の一端部長さ方向に形成した複数のスリット32からなり、このスリット32に付加される弾性付勢によりアンカー金具2の端部を把持または解放するように構成されている。すなわち、図2(a)に示したように、内部管状体30をその後端から引き込むことにより、把持当接部31を円筒状本体20の内部に位置させた場合には、把持当接部31はその外周が円筒状本体20の内周面に押圧されて縮径した状態となり、逆に図2(b)に示したように、内部管状体30をその後端から押し込むことにより、把持当接部31を円筒状本体20の外部に位置させた場合には、把持当接部31はその弾性付勢が解放されて拡径した状態となる。したがって、把持当接部31のこれら縮径および拡径に応じて、アンカー金具2の端部をその外周面から把持または解放する機能を有しており、この機能によりアンカー金具2の挿通孔1への挿入と、挿通孔1からのアンカー金具2の着脱とを容易に行うことができるのである。
【0029】
ここで、挿脱用冶具10における円筒状本体20の後端側(内部管状体30において把持当接部31が備えられている一端の反対側の他端側)には、指掛け操作部21が固設されていることが好ましい。また、内部管状体30の後端部にハンドル33が固設されており、このハンドル33と円筒状本体20の後端との間にはスプリング34が介挿されていることが好ましい。すなわち、円筒状本体20の後端に指掛け操作部21を固設することにより、作業者はこの指掛け操作部21を指に掛けつつ手に持つことによる挿脱用冶具10の位置決めと把持当接部31の拡径および縮径操作を容易に行うことができる。また、内部管状体30の後端部にハンドル33を固設すると共に、このハンドル33と円筒状本体20の後端との間にスプリング34を介挿することにより、作業者はハンドル33を押すまたは引く操作によって、把持当接部31の拡径および縮径操作を自由自在に行うことができ、特に、指掛け操作部21に片手の指をかけ、またハンドル33を同じ手で押圧するかあるいはこの押圧を解除することにより、スプリング34の弾性を利用して、把持当接部31の拡径および縮径操作を何らの熟練を要さず容易に行うことができるようになる。
【0030】
したがって、本発明の挿脱用冶具10によれば、使用中に把持当接部31の把持力を自由に変更することができ、例えば、アンカー金具2を把持し使用している最中にその把持力を変化させることが可能であるため、アンカー金具2を所定位置にセットするまでは確実にアンカー金具を把持することができるばかりか、所定位置にセットしたアンカー金具2から挿脱用冶具10を容易に取り外すことができる。さらに、構成済みのパネルの取付構造からアンカー金具2を取り外す必要が生じた場合には、パネル内部に位置するアンカー金具2を挿脱用冶具10の把持当接部31に把持させて、これを引き抜くだけで目的の作業を容易に完遂することができる。
【0031】
本発明の挿脱用冶具10は、把持当接部31が上記したように構成されているため、棒状および管状のアンカー金具のいずれにも対応可能であり、煩雑な現場作業での効率化にとって極めて有用であるといえる。
【0032】
上記の構成からなる本発明の挿脱用冶具10を用いて、壁パネルへアンカー金具2を取付るに際しては、図5〜図9に示した過程と同様の過程において、図6〜図9に示した過程で別の棒状部材2aの代わりに挿脱用冶具10を使用すればよい。
【0033】
すなわち、まず壁パネルPの小口面P1からその面と垂直方向に挿通孔1を、また壁パネルPの室内側壁面P2から前記挿通孔1と直交する方向に係止金具挿入孔3を、それぞれ形成する。
【0034】
次に、係止金具4をその貫通孔5が壁パネル小口面の長辺と平行になるように係止金具挿入孔3内に配置し、本発明の挿脱用冶具10を使用してアンカー金具2の挿入を行う。すなわち、図3(a)に示したように、まず挿脱用冶具10の内部管状体30後端を矢印方向へ押すことにより、円筒状本体20一端側から把持当接部31を外側に露出させる。すると、付勢力がなくなった把持当接部31は拡径し、アンカー金具2の直径よりも大きくなるため、この状態のままで図3(b)に示したように、アンカー金具2の端部を拡径した把持当接部31へと押し込んで取り付ける。
【0035】
次いで、図3(c)に示したように、挿脱用冶具10の内部管状体30後端を矢印方向へ引くことにより、把持当接部31を円筒状本体20に位置させる。すると、付勢力がが掛かった把持当接部31は縮径し、アンカー金具2の直径よりも小さくなるため、この状態のままでさらに内部管状体30を矢印方向へ引けば、図3(d)に示したように、把持当接部31がアンカー金具2の端部を確実に把持した状態となる。
【0036】
このようにして、挿脱用冶具10の把持当接部31によりアンカー金具2の端部を把持した状態で、このアンカー金具2を挿通孔1内へ挿入することにより、係止金具4の貫通孔5にアンカー金具2を貫通させる。このときの操作は、挿脱用冶具10のハンドル33を手に挿通孔1内へ挿脱用冶具10を押し込むことにより容易に行うことができる。
【0037】
さらに、挿脱用冶具10を挿通孔1内へ押し込み、アンカー金具2の到達部位の位置決めがなされた後、壁パネルPの室内側壁面P2から、取付部材7を介して係止金具4の貫通孔5にボルト8を締め込むことにより、壁パネルPと取付部材7とが取付固定され、図4に示したパネルの取付構造が得られる。次いで、挿脱用冶具10の内部管状体30を押し、把持当接部31の付勢力を弱めれば、この把持当接部31はアンカー金具2の端部から外れるので、この状態で挿脱用冶具10を挿通孔1から引き抜くことにより、パネルの取付構造が完成する。
【0038】
これらの過程によれば、挿脱用冶具10の把持当接部31によるアンカー金具2の把持力に優れると共にアンカー金具2への着脱が容易であり、かつアンカー金具の挿入部位を正確に位置決めすることができるため、迅速かつ高精度に取付構造を施工することができる。
【0039】
また、万一アンカー金具2を所定位置にセットできなかった場合においても、挿脱用冶具10を引き戻してアンカー金具2を後退させるだけでよく、壁パネルPを小端立てするなどの面倒な手段を講じる必要がないため、作業者の体力的負担を軽減できるばかりか、施工の効率化とコストの低減を効果的に図ることができる。
【0040】
また、何らかの事情で施工済みのパネルの取付構造からアンカー金具2を取り外す場合には、まず本発明の挿脱用冶具10の把持当接部31を挿通孔1に挿入して、この把持当接部31によりアンカー金具2の端部を把持した状態となし、次いで挿脱用冶具10を挿通孔1から引き抜くことにより、目的を難無く容易に達成することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明によれば、アンカー金具の把持力に優れると共にアンカー金具への着脱が容易であり、かつアンカー金具の挿入部位を正確に位置決めすることができる壁パネル取付用アンカー金具の挿脱用冶具が得られ、また作業者の感覚に熟練を要することなく、壁パネル内へアンカー金具を効率的に取り付けること、およびアンカー金具を容易に脱着することができるため、壁パネルを用いる建築分野へ貢献するところが大きいといえる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明のアンカー金具の挿脱用冶具の一例を示す斜視説明図。
【図2】(a)は図1の把持当接部を円筒状本体の内部に位置させた場合の斜視図、(b)は同じく円筒状本体の外部に位置させた場合の斜視図。
【図3】(a)〜(d)は本発明のアンカー金具の挿脱用冶具を使用してアンカー金具の取付を行う過程を示す部分断面説明図。
【図4】従来の壁パネルへのアンカー金具の取付構造を示す斜視説明図。
【図5】図4の取付構造を形成する過程を示す斜視説明図(1)。
【図6】図4の取付構造を形成する過程を示す斜視説明図(2)。
【図7】図4の取付構造を形成する過程を示す斜視説明図(3)。
【図8】図4の取付構造を形成する過程を示す斜視説明図(4)。
【図9】図4の取付構造を形成する過程を示す斜視説明図(5)。
【符号の説明】
【0043】
P 壁パネル
P1 小口面
P2 室内側壁面
1 挿通孔
2 アンカー金具
2a 別の棒状部材
3 係止金具挿入孔
4 係止金具
5 貫通孔
6 ボルト孔
7 取付部材
8 ボルト
9 仮付けボルト
10 挿脱用冶具
20 円筒状本体
21 指掛け操作部
30 内部管状体
31 把持当接部
32 スリット
33 ハンドル
34 スプリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
壁パネルの室内側壁面からその面と垂直方向に設けられた係止金具挿入孔に係止金具を挿入した後、前記壁パネルの小口面から前記係止金具挿入孔と直交する方向に設けられた挿通孔に棒状のアンカー金具を挿入し、さらに前記係止金具の直径方向に設けられた貫通孔に前記アンカー金具を貫通させることにより、壁パネルの内部で前記アンカー金具と係止金具とが交差すると共に、前記アンカー金具が係止金具に摺動的に仮固定された壁パネルの取付構造を構成するに際し、前記挿通孔に対し前記アンカー金具を挿入または脱着するために使用する冶具であって、
前記挿通孔の内径よりも小さく、前記アンカー金具の外形よりも大きい外径を有する円筒状本体と、
この円筒状本体の中空部に摺動可能に挿入され、かつ、この円筒状本体よりも長い内部管状体とからなり、
前記内部管状体の一端部には、この内部管状体が前記円筒状本体の内部に位置するときには縮径し、この内部管状体が前記円筒状本体の外部に位置するときには拡径して、これらの縮径および拡径に応じて、前記アンカー金具の端部をその外周面から把持または解放する把持当接部を備えることを特徴とする壁パネル取付用アンカー金具の挿脱用冶具。
【請求項2】
前記把持当接部が、内部管状体の一端部長さ方向に形成した複数のスリットを備え、このスリットに付加される弾性付勢によりアンカー金具の端部を把持または解放するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の壁パネル取付用アンカー金具の挿脱用冶具。
【請求項3】
前記円筒状本体の後端部に指掛け操作部が固着されていることを特徴とする請求項1または2に記載の壁パネル取付用アンカー金具の挿脱用冶具。
【請求項4】
前記内部管状体の後端部にハンドルが固設されており、このハンドルと前記円筒状本体の後端との間にスプリングが介挿されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の壁パネル取付用アンカー金具の挿脱用冶具。
【請求項5】
壁パネルの室内側壁面からその面と垂直方向に設けられた係止金具挿入孔に係止金具を挿入した後、前記壁パネルの小口面から前記係止金具挿入孔と直交する方向に設けられた挿通孔に棒状のアンカー金具を挿入し、さらに前記係止金具の直径方向に設けられた貫通孔に前記アンカー金具を貫通させることにより、壁パネルの内部で前記アンカー金具と係止金具とが交差すると共に、前記アンカー金具が係止金具に摺動的に仮固定された壁パネルの取付構造を構成するに際し、
まず前記係止金具を、その貫通孔の開口面と壁パネル小口面の長辺とが平行になるように前記係止金具挿入孔内に配置し、請求項1〜4のいずれか1項に記載の挿脱用冶具の把持当接部により前記アンカー金具の端部を把持した状態で、このアンカー金具を前記挿通孔内へ挿入すると共に前記係止金具の貫通孔に貫通させることにより、前記挿通孔の予め設定した位置に前記アンカー金具をセットした後、前記壁パネルの室内側壁面から、取付部材を介して前記係止金具のボルト孔にボルトを締め込むことにより、前記壁パネルと前記取付部材とを固定し、次いで前記挿脱用冶具を前記挿通孔から引き抜くことを特徴とする壁パネルの取付方法。
【請求項6】
壁パネルの室内側壁面からその面と垂直方向に設けられた係止金具挿入孔に係止金具が挿入されると共に、前記壁パネルの小口面から前記係止金具挿入孔と直交する方向に設けられた挿通孔に棒状のアンカー金具が挿入され、さらに前記係止金具の直径方向に設けられた貫通孔に前記アンカー金具を貫通させることにより、壁パネルの内部で前記アンカー金具と係止金具とが交差すると共に、前記アンカー金具が係止金具に摺動的に仮固定された壁パネルの取付構造から、前記アンカー金具を脱着するに際し、
まず請求項1〜4のいずれか1項に記載の挿脱用冶具の把持当接部を前記挿通孔に挿入して、この把持当接部により前記アンカー金具の端部を把持した状態となし、次いで前記挿脱用冶具を前記挿通孔から引き抜くことを特徴とする壁パネルの取付構造からアンカー金具を脱着する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−285798(P2010−285798A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−140250(P2009−140250)
【出願日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【出願人】(000185949)クリオン株式会社 (105)
【Fターム(参考)】