説明

変位センサ

【課題】変位体の変位に対する出力信号の直線性を向上させる。
【解決手段】発振回路3が、変位検出用コイル1のインダクタンス(L)に対応した周波数を有する発振信号を出力する。発振周期計測回路4が、発振回路3から出力された発振信号の周期を計測し、計測された周期に対応する信号を出力する。二乗回路5が、発振周期計測回路4から出力された信号の二乗値を演算出力する。発振信号の周期の二乗値を演算出力することにより、インダクタンス(L)成分と容量(C)成分の平方根成分がなくなり、出力信号は変位体の変位に対し直線的な関係で変化する信号となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変位体の変位に伴う変位検出用コイルのインダクタンス変化を検出することにより変位体の変位を検出する変位センサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、変位検出用コイルと変位体を有し、変位体が変位検出用コイルに対し磁気的な変化を与えるように変位検出用コイルに対し変位自在に構成されている変位検出器が知られている(特許文献1参照)。この変位検出器では、変位検出用コイルのインダクタンスに対応した周波数を有する発振信号を生成し、発振信号の周期に対応した出力信号を出力することにより、変位体の変位を変位検出用コイルのインダクタンス変化として検出するようにしている。
【特許文献1】特開平5−40002号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記変位検出器では、発振信号の周期は2π(LC)1/2により表されるので、出力信号がインダクタンス(L)成分と容量(C)成分の平方根成分を含むようになる。このため上記変位検出器によれば、変位体の変位と変位検出用コイルのインダクタンス変化の関係が直線的であったとしても、出力信号は変位体の変位に対し非直線的に変化する信号となり、出力信号の利用が不便であった。
【0004】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、変位体の変位に対する出力信号の直線性を向上した変位センサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る変位センサは、筒状の変位検出用コイルと、変位検出用コイルの径方向内側又は外側近傍に配置され、変位検出用コイルの軸方向に変位可能なように構成された導電体と、変位検出用コイルのインダクタンスに対応した周波数を有する発振信号を出力する発振回路と、発振回路から出力された発振信号の周期に対応する信号を出力する発振周期計測部と、発振周期計測部から出力された信号の二乗値を演算出力する二乗出力部とを備える。
【発明の効果】
【0006】
本発明に係る変位センサによれば、変位検出用コイルコイルのインダクタンスに対応した周波数の発振信号の周期に対応する信号の二乗値が演算出力されるので、出力信号が変位体の変位に対し直線的に変化する信号となり、出力信号の利用が容易となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態となる変位センサの構成とその変位検出動作について説明する。
【0008】
〔変位センサの構成〕
本発明の一実施形態となる変位センサは、図1に示すように、変位検出用コイル1と、導電体2と、発振回路3と、発振周期計測回路4と、二乗回路5と、温度補償回路6と、信号処理回路7とを主な構成要素として備える。本実施形態では、発振周期計測回路4,二乗回路5,温度補償回路6,及び信号処理回路7は回路要素によってハードウェア的に構成されているが、各回路の機能をコンピュータプログラムにより記述し、このコンピュータプログラムをマイクロコンピュータ等の演算処理装置に実行させることによりソフトウェア的に構成してもよい。
【0009】
変位検出用コイル1は、導電体2の変位に対するインダクタンス変化の直線性を確保するために、外径に対して軸方向長さを長くした円筒状に形成されている。本実施形態では、変位検出用コイル1の巻密度は軸方向に一様であるとするが、図2に示すように先端側の巻密度を大きくする等、軸方向に分布状態を持たせてもよい。このような構成によれば、導電体2の変位に対するインダクタンス変化の直線性をより向上できる。変位検出用コイル1は非磁性体に導電線を巻き付けたものであることが望ましい。変位検出用コイル1が磁性体に導電線を巻き付けたものである場合、変位検出用コイル1の軸方向に外部磁界が印加された際、外部磁界の磁束が磁性体に集中的に通るようになる。そしてこの外部磁界が交流である場合、外部磁界の磁束によって変位検出用コイル1に誘導電圧が発生することにより出力が変動する。また外部磁界が直流である場合であっても、外部磁界が小さい又は磁性体が細ければ、磁性体が磁気飽和することによって出力が変動する。従って、変位検出用コイル1を非磁性体に導電線を巻き付けたものにすることにより、外部磁界によって出力が変動することを防止できる。
【0010】
導電体2は、筒状のアルミニウム等の導電体により構成され、変位検出用コイル1の軸方向に相対変位可能な状態で変位検出用コイル1の径方向外側近傍に配置されている。なお図3に示すように、変位検出用コイル1と導電体2の外側に電磁波を遮蔽する磁気シールド8を配置してもよい。このような構成によれば、導電体2内部への変位検出用コイル1の挿入量が小さい場合であってもエミッションレベルを低減できると共に、変位検出センサが金属製の穴の内部に設置されている場合であっても周囲金属からの影響を受けにくくすることができる。また本実施形態では、導電体2は変位検出用コイル1の径方向外側近傍に配置されているが、変位検出用コイル1の径方向内側近傍に配置してもよい。また導電体2は、変位量の測定対象に取り付けられたものであってもよいし、測定対象の一部であってもよい。
【0011】
発振回路3は、ハートレー型などの公知のLC発振回路により構成され、変位検出用コイル1のインダクタンスに対応した周波数を有する発振信号を出力する。なお発振回路3は発振信号の振幅を所定値に制限する振幅制限回路を備えていることが望ましい。このような構成によれば、エミッションレベルを抑制できると共に発振回路3の消費電力量を低減できる。発振周期計測回路4は、発振回路3から出力された発振信号の周期を計測し、計測された周期に対応する信号を出力する。二乗回路5は、発振周期計測回路4から出力された信号の二乗値を演算出力する。温度補償回路6は、後述する温度補償処理により、変位検出用検出コイル1を構成する導電線や導電体2の導電率に起因する出力の温度変動を抑制する。信号処理回路7は、温度補償回路6からの出力信号を利用して導電体2の変位量を算出する。
【0012】
〔変位検出動作〕
このような構成を有する変位センサは、以下に示すように動作することにより導電体2の変位量を検出する。すなわち始めに発振回路3が、変位検出用コイル1のインダクタンス(L)に対応した周波数(1/Tres)を有する発振信号を出力する。変位検出用コイル1のインダクタンスは変位検出用コイル1の軸方向に対する導電体2の変位(挿入)量に応じて変化する。次に発振周期計測回路4が、発振回路3から出力された発振信号の周期(Tres)を計測し、計測された周期(Tres)に対応する信号を出力する。次に二乗回路5が、発振周期計測回路4から出力された信号の二乗値(Tres)を演算出力する。発振信号の周期(Tres)は2π(LC)1/2により表されるので、発振周期計測回路4から出力された信号の二乗値(Tres)は以下の数式1により記述される。発振信号の周期(Tres)の二乗値を演算出力することにより、インダクタンス(L)成分と容量(C)成分の平方根成分がなくなり、出力信号は変位体の変位に対し直線的な関係で変化する信号となる。
【数1】

【0013】
次に温度補償回路6が、変位検出用コイル1を構成する導電線や導電体2の導電率に起因する二乗値(Tres)の温度変動を補正する。本実施形態の変位センサでは、導電体2の変位量に対する変位検出用コイル1のインダクタンス変化は導電体2内を流れる渦電流が変位検出用コイル1が発生する磁束を打ち消すことによって決まるが、この渦電流は温度が高くなる程小さくなる。従って、変位検出用コイル1に対する導電体2の挿入量が大きい程、インダクタンスは小さくなり温度係数は大きくなり、逆に変位検出用コイル1に対する導電体2の挿入量が小さい程、インダクタンスは大きくなり温度係数は小さくなる。具体的には、導電体2の変位量に対する二乗値(Tres)の変化特性は図4に示すように温度に応じて変化し、その温度係数は図5に示すように変化する。このため、二乗値(Tres)の温度変動を単純に補正することは難しい。
【0014】
そこで本実施形態では、温度補償回路6が、以下の数式2により表されるパラメータPを演算出力することにより二乗値(Tres)の温度変動を補正する。このパラメータPは二乗値(Tres)にオフセット値(Tofs{1+α(T−T)})(Tofs:オフセット量,α:温度係数,T:検出温度,T:基準温度(25℃))を与えるものである。そして最後に信号処理回路7が、温度補償回路6からの出力信号を利用して導電体2の変位量を算出する。なお上記パラメータPによれば、図6,7に示すように、オフセット量Tofsと温度係数αに適当な値を設定することにより温度係数の変位依存性を小さくすることができる。この場合、オフセット量Tofsと温度係数αの少なくとも一方はプログラマブルなパラメータであることが望ましい。このような構成によれば、変位検出用コイル1の形状や軸方向長さ等の品種の違いに起因する温度変動の違いや製品の固体ばらつきに対処することができる。また温度係数αを打ち消すように所定の補正温度係数を与えるようにしてもよい。このような処理によれば、導電体2の変位量に関わらず温度変動を補償することが可能となる。
【数2】

【0015】
以上、本発明者らによってなされた発明を適用した実施の形態について説明したが、この実施の形態による本発明の開示の一部をなす論述及び図面により本発明は限定されることはない。すなわち、上記実施の形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施の形態、実施例及び運用技術等は全て本発明の範疇に含まれることは勿論であることを付け加えておく。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態となる変位センサの構成を示すブロック図である。
【図2】図1に示す変位センサの応用例の構成を示す模式図である。
【図3】図1に示す変位センサの応用例の構成を示す模式図である。
【図4】種々の温度条件における導電体の変位量に対する二乗値の変化特性を示す図である。
【図5】導電体の変位量に対する二乗値の温度係数の変化を示す図である。
【図6】種々の温度条件における導電体の変位量に対する温度係数の変化特性を示す図である。
【図7】種々のオフセット値における導電体の変位量に対する温度係数の変化特性を示す図である。
【符号の説明】
【0017】
1:検出コイル
2:導電体
3:発振回路
4:発振周期計測回路
5:2乗回路
6:温度補償回路
7:信号処理回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の変位検出用コイルと、
前記変位検出用コイルの径方向内側又は外側近傍に配置され、当該変位検出用コイルの軸方向に変位可能なように構成された導電体と、
前記変位検出用コイルのインダクタンスに対応した周波数の発振信号を出力する発振回路と、
前記発振回路から出力された発振信号の周期に対応する信号を出力する発振周期計測部と、
前記発振周期計測部から出力された信号の二乗値を演算出力する二乗出力部と
を備えることを特徴とする変位センサ。
【請求項2】
請求項1に記載の変位センサにおいて、前記二乗出力部から出力された二乗値の温度変動を補償する温度補償部を備えることを特徴とする変位センサ。
【請求項3】
請求項2に記載の変位センサにおいて、前記温度補償部は、前記二乗出力部から出力された二乗値に所定の温度係数を有するオフセット量を加算することにより二乗値の温度変動を補償することを特徴とする変位センサ。
【請求項4】
請求項3に記載の変位センサにおいて、前記温度係数及び前記オフセット量の少なくとも一方はプログラマブルなパラメータであることを特徴とする変位センサ。
【請求項5】
請求項3又は請求項4に記載の変位センサにおいて、前記温度補償部は、前記所定の温度係数を打ち消すように前記オフセット量が加算された二乗値に対し補正用の温度係数を与えることを特徴とする変位センサ。
【請求項6】
請求項5に記載の変位センサにおいて、前記補正用の温度係数はプログラマブルなパラメータであることを特徴とする変位センサ。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のうち、いずれか1項に記載の変位センサにおいて、前記変位検出用コイルの内側に非磁性体が配置されていることを特徴とする変位センサ。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7のうち、いずれか1項に記載の変位センサにおいて、前記発振回路は、発振信号の振幅を所定値に制限する振幅制限回路を備えることを特徴とする変位センサ。
【請求項9】
請求項1乃至請求項8のうち、いずれか1項に記載の変位センサにおいて、前記変位検出用コイルの巻線が軸方向に分布状態を有することを特徴とする変位センサ。
【請求項10】
請求項1乃至請求項9のうち、いずれか1項に記載の変位センサにおいて、前記変位検出用コイルと前記導電体は電磁波を遮蔽する磁気シールドにより覆われていることを特徴とする変位センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−292376(P2008−292376A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−139607(P2007−139607)
【出願日】平成19年5月25日(2007.5.25)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】