説明

変位計

【課題】 高温環境における測定精度の低下、および耐久性の低下を防止することができる変位計を提供する。
【解決手段】 円筒形状の外周面に螺旋状の溝31が形成された絶縁材料からなるボビン21,23と、溝31に沿って配置された導電材料を露出して形成された導線29と、を有するコイル部と、コイル部に所定周波数の磁界を発生させるべく所定周波数の電流を供給する電源部と、コイル部におけるインピーダンスの変化を検出する検出部と、が設けられ、溝31は、隣り合う導線29の間に所定の間隔が形成されるピッチPで螺旋状に形成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変位計、特に渦電流を用いた変位計に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、渦電流変位計は高温環境下や、および蒸気雰囲気下などの苛酷な条件においても測定精度が高く耐久性も高いため、タービンや、コンプレッサや、発電機などにおける回転軸の変位測定に用いられている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開昭59−180402号公報
【特許文献2】特開2002−365040号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上述の渦電流変位計を500℃より高い高温環境で長期間にわたって使用すると、渦電流変位計のコイルを構成する導線を被覆する絶縁膜の絶縁性能が低下するため、渦電流変位計の測定精度が低下したり、耐久性が低下したりするという問題があった。
【0004】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、高温環境における測定精度の低下、および耐久性の低下を防止することができる変位計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明は、以下の手段を提供する。
本発明の変位計は、円筒形状の外周面に螺旋状の溝が形成された絶縁材料からなるボビンと、前記溝に沿って配置された導電材料を露出して形成された導線と、を有するコイル部と、該コイル部に所定周波数の磁界を発生させるべく所定周波数の電流を供給する電源部と、前記コイル部におけるインピーダンスの変化を検出する検出部と、が設けられ、前記溝は、隣り合う前記導線の間に所定の間隔が形成されるピッチで螺旋状に形成されていることを特徴とする。
【0006】
本発明によれば、隣り合う導線の間に形成された所定の間隔により、隣り合う導線の間の絶縁が保たれる。間隔による絶縁は温度による影響を受けないため、高温環境であっても絶縁性が低下しない。
ここで、所定の間隔とは、上述のように隣り合う導線の絶縁を保つのに必要最小限な間隔であることが望ましい。このようにすることで、導線の巻き数を増やして磁界の発生能力などのコイル性能を確保することができる。
【0007】
例えば、上述の螺旋状の溝をネジ溝のように加工機械により形成することにより、螺旋上の溝の形状(例えば、溝の幅や、深さや、ピッチなど)が一様に揃えられる。導線は溝に沿ってボビンに巻き付けられるため、コイル部における導線の巻き数などを一様に揃えることができる。そのため、異なるコイル部におけるコイル性能のばらつきを抑えることができる。
【0008】
コイル部を形成する導線には絶縁材料からなる被覆が設けられておらず、導電材料が露出しているため、導線に被覆剥がれ等の絶縁に係る問題が発生しない。そのため、使用に問題が生じる導線がなく、ほぼ全ての導線をボビンに巻付けてコイル部として使用することができる。
【0009】
上記発明においては、前記コイル部には前記ボビンが複数設けられ、一のボビンの内周側に、他のボビンが挿入されていることが望ましい。
【0010】
本発明によれば、1つのボビンには導線のショートを避けるために導線が1層だけ巻き付けられ単層のコイルが形成される。これらのボビンを入れ子状に多層に重ねることにより、多層のコイルからなるコイル部を形成することができ、コイル部のコイル性能向上を図ることができる。
【0011】
上記発明においては、前記一のボビンには、一の回転方向に回転するとともに中心軸線に沿う一の方向に向かう一の螺旋状の溝が形成され、前記他のボビンには、前記一の回転方向に回転するとともに前記中心軸線に沿う他の方向に向かう他の螺旋状の溝が形成されていることが望ましい。
【0012】
本発明によれば、他のボビンに対して、導線が上記他の方向に向かって上記一の回転方向に巻付けられる。その後連続して、一のボビンに対して導線が一の方向に向かって上記一の回転方向に巻付けられる。
このようにすることで、多層に重ねられるボビンに導線を連続して巻付けることができ、コイル部の製造効率の向上を図ることができる。
【0013】
なお、上述のように導線を移動させながらボビンに導線を巻付ける場合だけでなく、ボビンを移動させながら導線を巻付ける場合や、ボビンと導線が相対移動しながら導線が巻き付けられる場合であっても同様である。
【0014】
上記発明においては、前記一のボビンの内周面と、前記他のボビンの外周面との間の距離は、前記他のボビンの外周面から前記導線の頂点までの距離から、前記導線の直径の長さまでの範囲の距離であることが望ましい。
【0015】
本発明によれば、内側に配置された他のボビンの溝に配置された導線は、溝を乗り越える際に、外側に配置された一のボビンの内周面と接触するため、溝を乗り越えることができない。そのため、溝を乗り越えて隣り合う導線が接触することが防止される。
【発明の効果】
【0016】
本発明の変位計によれば、隣り合う導線の間に形成された所定の間隔により、隣り合う導線の間の絶縁が保たれるため、高温環境における測定精度の低下を防止し、かつ、耐久性の低下を防止するという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
この発明の一実施形態に係る変位計について、図1から図5を参照して説明する。
図1は、本実施形態に係る変位計におけるセンサヘッドの構成を説明する断面図である。図2は、図1の変位計の構成を説明する回路図である。
変位計1には、図1および図2に示すように、所定周波数の磁界を発生するセンサヘッド3と、センサヘッド3に所定周波数の電流を供給する電源5と、センサヘッド3におけるインピーダンスの変化を検出する検出部7と、が設けられている。
【0018】
センサヘッド3には、図2に示すように、ホルダ9およびプラグ11と、アクティブコイル部(コイル部)13と、ダミーコイル部(コイル部)15と、磁芯17と、が設けられている。
【0019】
ホルダ9およびプラグ11は、図2に示すように、内部にアクティブコイル部13や、ダミーコイル部15や、磁芯17などを収める容器を構成するものである。ホルダ9は有底円筒状に形成された部材であり、プラグ11はホルダ9の開口部を塞ぐ円柱状の部材である。ホルダ9には、アクティブコイル部13およびダミーコイル部15と、電源5および検出部7とを電気的に接続するケーブル19が貫通して配置されている。
【0020】
図3は、図2のアクティブコイル部およびダミーコイル部の構成を説明する部分拡大図である。
アクティブコイル部13およびダミーコイル部15には、図2および図3に示すように、絶縁材料から形成された第1ボビン(ボビン)21、第2ボビン(ボビン)23、第3ボビン(ボビン)25および第4ボビン(ボビン)27と、第1、第2、第3および第4ボビン21,23,25,27に螺旋状に巻き付けられコイルを形成する導線29と、が設けられている。
【0021】
第1、第2、第3および第4ボビン21,23,25,27は、セラミックなどの絶縁材料から形成された円筒状の部材である。
第1ボビン21は、アクティブコイル部13およびダミーコイル部15の最外周に配置される直径が最も大きなボビンである。第2ボビン23は第1ボビン21の内側に配置されるボビンであり、以下順に第3ボビン25、第4ボビン27がそれぞれ第2ボビン23、第3ボビン25の内側に配置されている。
なお、導線29は、導電材料から形成され導電材料が露出したものであって、絶縁材料からなる被覆材料に覆われていないものである。
【0022】
図4は、図3の各ボビンの間の間隔を説明する模式図である。
第1、第2、第3および第4ボビン21,23,25,27の外周面には、導線29が配置される螺旋状の溝31が形成されている。隣り合う溝31の間隔(以後、ピッチと表記する。)Pは、隣り合う溝31に配置された導線29の間の絶縁が確保できる間隔とされている。
なお、ピッチPは、隣り合う導線29の間隔が絶縁を保つのに必要最小限な間隔となる値が望ましい。このようにすることで、導線29の巻き数を増やしてアクティブコイル部13やダミーコイル部15における磁界の発生能力などのコイル性能を確保することができる。
【0023】
第1、第2、第3および第4ボビン21,23,25,27における外側ボビン(例えば第1ボビン21)の内周面から内側ボビン(例えば第2ボビン23)の外周面までの間隔Lは、図4に示すように、ボビンの外周面から導線29の頂点までの高さHと略等しくなるように形成されている。
なお、間隔Lは、長くても導線29の直径Dより短く設定されることが望ましい。
【0024】
図5は、図3のボビンに形成される溝の螺旋の向きを説明する模式図である。
第1および第3ボビン21,25に形成された溝31は、図5に示すように、一の回転方向に回転するとともに中心軸線に沿う一の方向(図5の右方向)に向かう、例えば左ネジ状(一の螺旋状)の溝31である。一方、第2および第4ボビン23,27に形成された溝31は、一の回転方向に回転するとともに他の方向(図5の左方向)に向かう、例えば右ネジ状(他の螺旋状)の溝31である。
第1、第2、第3および第4ボビン21,23,25,27の両端面には、導線29を掛ける凹部33が形成されている。
【0025】
磁芯17は、図1に示すように、円柱状に形成された磁性材料であって、略中央部に半径方向外側に向かって延びる鍔部35が設けられている。磁芯17の外周面には、鍔部35をはさんでアクティブコイル部13およびダミーコイル部15が配置されている。アクティブコイル部13およびダミーコイル部15の両端部には、絶縁材料から形成されたリング板状の絶縁板37が導線29と磁芯17や、ホルダ9などとの短絡を防ぐために配置されている。アクティブコイル部13およびダミーコイル部15の外周側には、絶縁材料から形成されたカバー円筒39が、導線29とホルダ9との短絡を防ぐために配置されている。
【0026】
センサヘッド3には、さらに、アクティブコイル部13、ダミーコイル部15および磁芯17をホルダ9の底面側に配置させるシールド41および固定軸43が設けられている。
【0027】
アクティブコイル部13およびダミーコイル部15は、図1に示すように、他の2つの素子45とともにブリッジ回路47を構成している。
ブリッジ回路47には、所定周波数の電流を供給する電源5が電気的に接続されるとともに、アクティブコイル部13のインピーダンス変化を検出する検出部7が電気的に接続されている。
【0028】
上記の構成からなる変位計1における変位の計測方法は、従来のアクティブコイルおよびダミーコイルを備えた渦電流変位計による計測方法と同様であるので、その説明を省略する。
【0029】
次に、上記構成からなる変位計1における特徴部であるアクティブコイル部13およびダミーコイル部15の製造方法について説明する。
まず、アクティブコイル部13およびダミーコイル部15を構成する第1、第2、第3および第4ボビン21,23,25,27の外周面に螺旋状の溝31を加工により形成する。螺旋の回転方向は、上述のように、第1および第3ボビン21,25では、中心軸線に沿う一の方向に向かって一の回転方向であり、第2および第4ボビン23,27では他の回転方向である。
溝31は加工により形成されるため、第1、第2、第3および第4ボビン21,23,25,27における溝31の深さや、ピッチ等が一様となる。
【0030】
第1、第2、第3および第4ボビン21,23,25,27に溝31が形成されると、導線29が第1、第2、第3および第4ボビン21,23,25,27に巻き付けられる。
最初に、最も径の小さな第4ボビン27に導線29が上記他の方向に向かって上記一の回転方向に巻き付けられる。第4ボビン27の端部まで導線29が巻き付けられると、次に第3ボビン25に導線29が続けて巻き付けられる。そのため、第4ボビン27には導線29が1回だけ巻き付けられ、単層のコイルが形成される。
【0031】
このとき、第4ボビン27は第3ボビン25の内部に挿入され、導線29は、第3ボビン25の凹部33に掛けられる。導線29は、第3ボビン25に、上記一の方向に向かって同じく上記一の回転方向に巻き付けられる。
第2ボビン23および第1ボビン21に対しても、同様に導線29が巻き付けられ、アクティブコイル部13およびダミーコイル部15が完成する。
【0032】
上記の構成によれば、隣り合う導線29の間に形成された間隔により、隣り合う導線29の間の絶縁が保たれる。間隔による絶縁は温度による影響を受けないため、高温環境であっても絶縁性が低下しない。そのため、絶縁性の低下に起因する高温環境下の測定精度の低下を防止することができるとともに、耐久性の低下を防止することができる。
【0033】
螺旋状の溝31をネジ溝のように加工機械により形成することにより、形状(例えば、溝の幅や、深さや、ピッチなど)が一様に揃えられた溝31が形成される。導線29は溝31に沿って各ボビン21,23,25,27に巻き付けられるため、アクティブコイル部13や、ダミーコイル部15における導線29の巻き数などを一様に揃えることができる。そのため、アクティブコイル部13とダミーコイル部15との間におけるコイル性能のばらつきを抑えることができる。そのため、アクティブコイル部13とダミーコイル部15との間のコイル性能の差が小さくなり、バランスを取りやすくなる。
【0034】
アクティブコイル部13およびダミーコイル部15を形成する導線29には絶縁材料からなる被覆が設けられておらず、導電材料が露出しているため、導線29に被覆剥がれ等の絶縁に係る問題が発生しない。そのため、使用に問題が生じる導線がなく、ほぼ全ての導線29を各ボビン21,23,25,27に巻付けてアクティブコイル部13やダミーコイル部15として使用することができる。
【0035】
各ボビン21,23,25,27の1つ1つには、導線29のショートを避けるために導線29が1層だけ巻き付けられコイルが形成される。これらのボビンを入れ子状に多層に重ねることにより、多層のコイルからなるアクティブコイル部13およびダミーコイル部15を形成することができ、アクティブコイル部13およびダミーコイル部15のコイル性能の向上を図ることができる。
【0036】
第4ボビン27または第2ボビン23に対して、導線29が上記他の方向に向かって上記一の回転方向に巻付けられる。その後連続して、第3ボビン25または第1ボビン21に対して導線29が一の方向に向かって上記一の回転方向に巻付けられる。
このようにすることで、多層に重ねられる各ボビン21,23,25,27に導線29を連続して巻付けることができ、アクティブコイル部13およびダミーコイル部15の製造効率の向上を図ることができる。
【0037】
なお、上述のように導線29を移動させながら各ボビン21,23,25,27に導線を巻付ける場合だけでなく、各ボビン21,23,25,27を移動させながら導線29を巻付ける場合や、各ボビン21,23,25,27と導線29が相対移動しながら導線が巻き付けられる場合であっても同様である。
【0038】
内側のボビンの溝31に配置された導線29は、溝31を乗り越える際に外側のボビンの内周面と接触するため、溝31を乗り越えることができない。そのため、隣り合う導線29が溝31を乗り越えて接触し、短絡することを防止することができる。
【0039】
なお、本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上記の実施の形態においては、この発明を蒸気タービンにおける回転軸の変位を測定する変位計に適用して説明したが、この発明は蒸気タービンの回転軸の変位を測定する変位計に限られることなく、ガスタービンや、コンプレッサや、発電機等における回転軸の変位を測定する変位計に適用してもよく、特に限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本実施形態に係る変位計におけるセンサヘッドの構成を説明する断面図である。
【図2】図1の変位計の構成を説明する回路図である。
【図3】図2のアクティブコイル部およびダミーコイル部の構成を説明する部分拡大図である。
【図4】図3の各ボビンの間の間隔を説明する模式図である。
【図5】図3のボビンに形成される溝の螺旋の向きを説明する模式図である。
【符号の説明】
【0041】
1 変位計
5 電源
7 検出部
13 アクティブコイル部(コイル部)
15 ダミーコイル部(コイル部)
21 第1ボビン(ボビン)
23 第2ボビン(ボビン)
25 第3ボビン(ボビン)
27 第4ボビン(ボビン)
29 導線
31 溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒形状の外周面に螺旋状の溝が形成された絶縁材料からなるボビンと、前記溝に沿って配置された導電材料を露出して形成された導線と、を有するコイル部と、
該コイル部に所定周波数の磁界を発生させるべく所定周波数の電流を供給する電源部と、
前記コイル部におけるインピーダンスの変化を検出する検出部と、
が設けられ、
前記溝は、隣り合う前記導線の間に所定の間隔が形成されるピッチで螺旋状に形成されていることを特徴とする変位計。
【請求項2】
前記コイル部には前記ボビンが複数設けられ、
一のボビンの内周側に、他のボビンが挿入されていることを特徴とする請求項1記載の変位計。
【請求項3】
前記一のボビンには、一の回転方向に回転するとともに中心軸線に沿う一の方向に向かう一の螺旋状の溝が形成され、
前記他のボビンには、前記一の回転方向に回転するとともに前記中心軸線に沿う他の方向に向かう他の螺旋状の溝が形成されていることを特徴とする請求項2記載の変位計。
【請求項4】
前記一のボビンの内周面と、前記他のボビンの外周面との間の距離は、前記他のボビンの外周面から前記導線の頂点までの距離から、前記導線の直径の長さまでの範囲の距離であることを特徴とする請求項2または3に記載の変位計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−157803(P2008−157803A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−348050(P2006−348050)
【出願日】平成18年12月25日(2006.12.25)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】