説明

変性スチレン−マレイン酸共重合体およびその用途

【課題】熱硬化性樹脂の分解・回収物を再利用可能にした変性スチレン−マレイン酸共重合体及びその用途を提供すること。
【解決手段】式(1):


〔式中、Aは、水素または金属元素であり、mは、1〜3の数値であり、nは、3〜300の数値を示す。また、両末端は、水素である。ここで、Aで示される金属元素が二価以上の金属元素である場合、該金属元素は、複数のカルボキシ基(同一分子中のカルボキシ基に限定されない)と塩を形成していてもよい。〕で示されるスチレン−マレイン酸共重合体のカルボン酸基に、所定のハロゲンおよび/またはエポキシ化合物を反応させることによって得られた、変性スチレン−マレイン酸共重合体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本特許出願は、日本国特許出願第2004−341135号、同第2005−047998号および同第2005−216377号について優先権を主張するものであり、ここに参照することによって、それらの全体が本明細書中へ組み込まれるものとする。
本発明は、熱硬化性樹脂を分解・回収することによって得られるスチレン−マレイン酸共重合体を原料とする、変性スチレン−マレイン酸共重合体及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
浴槽などの浴室部材に使用される製品としては、繊維強化プラスチック(FRP)などの熱硬化性樹脂を材料とするものが多く用いられている。熱硬化性樹脂は、熱可塑性樹脂のように加熱溶融させることによって再成形して使用することができない。さらに、一般に無機フィラーなどの無機物を7割ほど含有しているために自己燃焼させることが難しい。このように熱硬化性樹脂を材料とするFRPなどの廃棄物は、リサイクルすることが非常に困難であり、現状では殆どが埋め立て処理されている。しかし、埋め立て処理では埋め立て用地の確保の困難性や埋め立て後の地盤の不安定化という問題がある。このため、容器包装廃棄物法が平成7年に制定され、プラスチックの回収再利用が義務付けられるようになった。さらに、各種リサイクル法の施行に伴ってプラスチックを含む製品の回収リサイクルの流れは加速する傾向にある。
【0003】
これらの状況に合わせて、近年、プラスチックの廃棄物を再資源化することが試みられており、その一つとして、超臨界水を反応媒体とする反応により、プラスチック廃棄物を分解油化し、有用な油状物を回収する方法が提案されている。また、各種構造材料に使用されている繊維強化プラスチックについては、超臨界水又は亜臨界水を用いてプラスチック成分を分解し、ガラス繊維や炭素繊維などの繊維を回収し、再利用する方法が提案されている。
【0004】
これらの方法では、プラスチックは分解により低分子化した油状成分となり、これを主に液体燃料として再利用するようにしたものである。また、高温水蒸気による加水分解反応を利用した分解方法も提案されており、この方法で熱可塑性プラスチック及び熱硬化性プラスチックの有機高分子成分を一応、分解することができる。
【0005】
しかし、上記の各方法では、プラスチックをランダムに分解するため、分解生成物が多種成分からなる油状物質となり、一定品質の分解生成物を得ることが困難であった。このため、ゼオライトに代表される触媒を用いて油質の改質を行うことなどの後処理が必要となってコスト高になり、また、改質した生成油においても灯油や軽油などの石油製品そのものにすることは困難であるので、実用化には至っていない。
【0006】
また、下記特許文献1に記載された方法では、分解後の樹脂を再度不飽和ポリエステル樹脂として再利用してはいるものの、分解温度が高いために熱分解を起しており、再硬化させた際の物性が本来の熱硬化性樹脂とは異なる(熱硬化性樹脂としては物性が低下する)ことや再硬化品に占める分解樹脂の利用率が低いことが問題となっている。
【0007】
一方、近時、強力な加水分解能力を有する亜臨界水を用いて、熱硬化性樹脂を分解する技術が提案されている。すなわち、熱硬化性樹脂を、亜臨界水を反応溶媒として加水分解し、生成された低〜中分子化合物を回収して、樹脂原料として再利用するようにしたものである(例えば、特許文献2など参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平9−221565号公報
【特許文献2】特開平10−024274号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、上記のように熱硬化性樹脂を分解して回収しても、回収される分解物はそのままでは再利用することができない。このため、回収した分解物を改質して、再利用が可能になるようにすることが望まれている。
【0010】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、熱硬化性樹脂の分解・回収物を再利用可能にした変性スチレン−マレイン酸共重合体及びその用途を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明には、以下のものが含まれる。
〔1〕スチレン−マレイン酸共重合体のカルボン酸基に、ハロゲンおよび/またはエポキシ化合物を反応させることによって得られた、変性スチレン−マレイン酸共重合体。
〔2〕ハロゲンおよび/またはエポキシ化合物は、不飽和基を含まないハロゲン化合物である、上記〔1〕に記載の変性スチレン−マレイン酸共重合体。
〔3〕不飽和基を含まないハロゲン化合物は、エピクロルヒドリン、1,3−ジクロロ−2−プロパノール、クロロベンゼン、ベンジルクロライド、ベンジルクロライドのベンゼン環に置換基が結合した化合物、ハロゲン化アルキルから選ばれる化合物である、上記〔2〕に記載の変性スチレン−マレイン酸共重合体。
〔4〕スチレン−マレイン酸共重合体のカルボン酸基に、不飽和基を含まないハロゲン化合物を、該化合物のハロゲンが該共重合体のカルボン酸基の4/5当量以上となるように反応させることによって得られた、上記〔2〕又は〔3〕に記載の変性スチレン−マレイン酸共重合体。
〔5〕ハロゲンおよび/またはエポキシ化合物は、ハロゲンおよび/またはエポキシ基を少なくとも二つ含有する化合物である、上記〔1〕に記載の変性スチレン−マレイン酸共重合体。
〔6〕ハロゲンおよび/またはエポキシ基を少なくとも二つ含有する化合物は、1,3−ジクロロ−2−プロパノール、エピクロルヒドリン、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテルから選ばれる化合物である、上記〔5〕に記載の変性スチレン−マレイン酸共重合体。
〔7〕スチレン−マレイン酸共重合体のカルボン酸基に、ハロゲンおよび/またはエポキシ基を少なくとも二つ含有する化合物を、該化合物のハロゲンおよび/またはエポキシ基が該共重合体のカルボン酸基の4/5当量以下となるように反応させることによって得られた、上記〔5〕又は〔6〕に記載の変性スチレン−マレイン酸共重合体。
〔8〕スチレン−マレイン酸共重合体は、ポリエステルとその架橋部を含んでなる熱硬化性樹脂を亜臨界水で分解して得られたものである、上記〔1〕〜〔7〕のいずれかに記載の変性スチレン−マレイン酸共重合体。
〔9〕スチレン−マレイン酸共重合体のカルボン酸基に、ハロゲンおよび/またはエポキシ化合物を反応させることを含む、上記〔1〕に記載の変性スチレン−マレイン酸共重合体の製造方法。
〔10〕上記〔2〕〜〔4〕のいずれかに記載の変性スチレン−マレイン酸共重合体と、スチレンと、不飽和ポリエステル樹脂と、ラジカル開始剤とを含んでなる、不飽和ポリエステル樹脂組成物。
〔11〕上記〔2〕〜〔4〕のいずれかに記載の変性スチレン−マレイン酸共重合体を含んでなる、熱硬化性樹脂用の低収縮材。
〔12〕上記〔5〕〜〔7〕のいずれかに記載の変性スチレン−マレイン酸共重合体を含んでなる、吸水材。
〔13〕ポリエステルとその架橋部を含んでなる熱硬化性樹脂を亜臨界水で分解してスチレン−マレイン酸共重合体を得る工程と、
該スチレン−マレイン酸共重合体のカルボン酸基にハロゲンおよび/またはエポキシ化合物を反応させて変性スチレン−マレイン酸共重合体を得る工程
を含む、熱硬化性樹脂のリサイクル方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る変性スチレン−マレイン酸共重合体は、スチレン−マレイン酸共重合体のカルボン酸基がハロゲンおよび/またはエポキシ化合物で変性されたものであり、熱硬化性樹脂用の低収縮材や、吸水材として有効に利用することができる。
【0013】
また、本発明に係る不飽和ポリエステル樹脂組成物は、上記変性スチレン−マレイン酸共重合体を低収縮材として含有するものであり、硬化収縮することなく成形することができる。
【0014】
また、本発明に係る熱硬化性樹脂のリサイクル方法は、熱硬化性樹脂を分解して回収したスチレン−マレイン酸共重合体を、ハロゲンおよび/またはエポキシ化合物で変性することを含むものであり、熱硬化性樹脂用の低収縮材や、吸水材として再利用する方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明におけるスチレン−マレイン酸共重合体は、式(1):
【0016】
【化1】

【0017】
〔式中、Aは、水素または金属元素であり、mは、1〜3の数値であり、nは、3〜300の数値を示す。また、両末端は、水素である。〕
で示される構造単位を有する共重合体である。すなわち、スチレンとマレイン酸の共重合体(スチレンとフマル酸の共重合体も含む)である。
【0018】
上記式(1)中、Aで示される金属元素としては、リチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属、カルシウムなどのアルカリ土類金属などが挙げられる。また、Aで示される金属元素が二価以上の金属元素(例えば、カルシウム)である場合、該金属元素は、複数のカルボキシ基(同一分子中のカルボキシ基に限定されない)と塩を形成していてもよい。
【0019】
上記スチレン−マレイン酸共重合体は、例えば、ポリエステルとその架橋部を含んでなる熱硬化性樹脂を、亜臨界水によって加水分解することにより得ることができる。以下、この方法を説明するが、この方法により得られた樹脂に限定されない。
【0020】
上記「ポリエステルとその架橋部を含んでなる熱硬化性樹脂」における「ポリエステル」とは、多価アルコール成分と多塩基酸成分が重縮合して得られる、多価アルコール残基と多塩基酸残基がエステル結合を介して互いに連結したポリマーである。また、該ポリエステルは、例えば不飽和多塩基酸に由来する、二重結合を含んでいてもよい。
「架橋部」とは、上記ポリエステルの分子間を架橋する部分である。該架橋部は、例えば、架橋剤に由来する部分であるが、特に限定されない。また、該架橋部は、1個の架橋剤に由来する部分でもよく、複数の架橋剤が重合したオリゴマー又はポリマー(以下、「ポリマー」と総称する)に由来する部分でもよい。さらに、該分子とポリエステルの結合位置及び結合様式も特に限定されない。
したがって、「ポリエステルとその架橋部を含んでなる熱硬化性樹脂」とは、多価アルコール成分と多塩基酸成分から得られるポリエステルが架橋部を介して架橋された網状熱硬化性樹脂(網状ポリエステル樹脂)である。
なお、本発明における「熱硬化性樹脂」は、主として加熱などにより硬化(架橋)された樹脂を意味するが、加熱などにより硬化(架橋)が進行する未硬化又は部分的に硬化された樹脂も含まれる。
【0021】
上記「ポリエステル」における多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコールなどのグリコール類を例示することができるが、これらに限定されない。なお、これらは併用することができる。
また、上記多塩基酸としては、例えば、脂肪族不飽和多塩基酸(例えば、無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸などの脂肪族不飽和二塩基酸など)などを例示することができるが、これらに限定されない。なお、無水フタル酸などの飽和多塩基酸を不飽和多塩基酸と併用してもよい。
上記「架橋部」における架橋剤としては、スチレンやメタクリル酸メチルなどの重合性ビニルモノマーを例示することができるが、これらに限定されない。
【0022】
本発明におけるスチレン−マレイン酸共重合体の原料となるポリエステルとその架橋部を含んでなる熱硬化性樹脂としては、分解されてスチレン−マレイン酸共重合体を生じる樹脂であれば特に限定されない。例えば、ポリエステルを構成する多塩基酸として、無水マレイン酸、マレイン酸またはフマル酸などのマレイン酸残基(フマル酸残基も含む)を形成し得る酸を使用し、架橋部を構成する架橋剤としてスチレンを使用して得られる、ポリエステルがマレイン酸残基を含み、該マレイン酸残基にスチレンに基づく架橋部が結合した熱硬化性樹脂が挙げられる。また、該熱硬化性樹脂としては、上記スチレン−マレイン酸共重合体を生じることができれば、いかなる態様の樹脂であってもよい。すなわち、樹脂の種類、構造及びその構成成分、架橋部(架橋剤)の種類、量及び架橋度、添加物の種類及び量などに制限はない。例えば、繊維強化プラスチック(FRP)などの浴室部材由来の廃棄物なども原料として使用できる。
【0023】
上記亜臨界水による熱硬化性樹脂の加水分解反応は、上記熱硬化性樹脂に水を加え、温度及び圧力を上昇させて水を亜臨界状態にして行う。該熱硬化性樹脂と水との配合割合は、特に制限されるものではないが、上記熱硬化性樹脂100質量部に対して水の添加量を100〜500質量部の範囲にするのが好ましい。
ここで、「亜臨界水」とは、水の温度及び圧力が水の臨界点(臨界温度374.4℃、臨界圧力22.1MPa)以下であって、且つ、温度が140℃以上、その時の圧力が0.36MPa(140℃の飽和蒸気圧)以上の範囲にある状態の水をいう。
【0024】
上記反応における亜臨界水の温度は、好ましくは上記熱硬化性樹脂の熱分解温度未満である。また、亜臨界水の温度の下限は、好ましくは180℃、より好ましくは200℃であり、上限は、好ましくは280℃、より好ましくは270℃である。分解反応時の温度が下限未満であると、分解処理に多大な時間がかかり、処理コストが高くなる虞がある。一方、分解反応時の温度が上限を超えると、上記スチレン−マレイン酸共重合体も分解され、回収できない虞がある。
ここで、上記熱硬化性樹脂の熱分解温度とは、樹脂サンプルの熱重量分析(TG分析)で得られたチャートの樹脂成分の分解ステップの屈曲点で引いた接線と、TG曲線のゼロ水平線との交点に対応する温度をいう。
また、亜臨界水による処理時間は、反応温度などの条件によって異なるが、例えば、1〜12時間、好ましくは1〜4時間程度である。この処理時間は、処理コストが少なくなるので、短い方が好ましい。さらに、分解反応(亜臨界水での処理時)の圧力は、反応温度などの条件によって異なるが、その下限は、好ましくは1MPa、より好ましくは2MPaとすることができ、また、その上限は、好ましくは15MPa、より好ましくは7MPaとすることができる。
【0025】
上記反応においては、亜臨界水がアルカリ塩を含有することが好ましい。アルカリ塩により上記熱硬化性樹脂の加水分解反応が促進されるので、処理時間を短くすることができ、処理コストを低くすることができる。また、超臨界状態に近い高温域の亜臨界水で上記熱硬化性樹脂を処理する場合、分解生成物である多価アルコールが、同時に生成される有機酸の酸触媒効果により二次分解される虞がある。アルカリ塩を亜臨界水に含有させた場合、アルカリ塩の塩基によって当該有機酸を中和することができるので、上記二次分解を抑制することができる。
ここで、「アルカリ塩」とは、酸と反応して塩基性の性質を示すアルカリ金属やアルカリ土類金属の塩を意味し、例えば、水酸化カリウム(KOH)や水酸化ナトリウム(NaOH)などのアルカリ金属の水酸化物、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、水酸化カルシウム、炭酸マグネシウムなどが挙げられるが、これらに限定されない。なかでも、アルカリ金属の水酸化物が特に好ましい。
【0026】
上記亜臨界水中のアルカリ塩の含有量は、特に限定されるものではないが、上記熱硬化性樹脂を分解して得られる上記スチレン−マレイン酸共重合体に含まれる酸残基(マレイン酸残基)の理論モル数に対して、2モル当量以上であることが好ましい。アルカリ塩の含有量が2モル当量未満であると、前記樹脂を回収しにくくなる虞がある。なお、亜臨界水中のアルカリ塩の含有量の上限は、特に限定はされないが、10モル当量以下であることが、コスト面などから好ましい。
また、上記「スチレン−マレイン酸共重合体に含まれる酸残基の理論モル数」とは、分解して得られた該樹脂をNMRで分析して得られた酸残基(マレイン酸残基)とスチレン残基の分子の数の比率と、用いたスチレンの量より求めた、前記樹脂中に存在する酸残基の推定含有モル数を表す。
また、亜臨界水中のアルカリ塩の濃度は、一般に、0.2モル/L以上とすることができる。
【0027】
このように上記熱硬化性樹脂を、好ましくはアルカリ塩の存在下で、亜臨界水を反応溶媒として加水分解すると、ポリエステルのエステル結合が加水分解されるが、マレイン酸残基と、スチレンに基づく架橋部が結合した部位は加水分解されない。その結果、上記スチレン−マレイン酸共重合体を分解生成物として得ることができる。
【0028】
本発明の変性スチレン−マレイン酸共重合体は、上記スチレン−マレイン酸共重合体のカルボン酸基の少なくとも一部に、ハロゲンおよび/またはエポキシ基を含有するハロゲンおよび/またはエポキシ化合物を変性剤として反応させることによって生成することができる(下記式(2)および(3)参照)。
ここでいう「カルボン酸基」は、スチレン−マレイン酸共重合体のマレイン酸構造部(マレイン酸単位)中のカルボキシ基またはその塩(上記式(1)中、−COOAの部分)のことを意味する。
また、上記「一部」とは、上記スチレン−マレイン酸共重合体のカルボン酸基の全てを変性させる必要はなく、一部のカルボン酸基を変性させることでもよいことを意味する。
【0029】
下記式(2)は、スチレン−マレイン酸共重合体とハロゲン化合物(式(2)中、R−X;ここで、Xは、ハロゲン、Rは、ハロゲン以外の基を示す。)との反応を示す。このハロゲン化合物をマレイン酸構造部のカルボン酸基の部分と置換反応させることによって、変性スチレン−マレイン酸共重合体を得ることができる。なお、式(2)はマレイン酸構造部のカルボン酸塩の0.5当量の反応式を示すものである。
【0030】
【化2】

【0031】
また、下記式(3)は、スチレン−マレイン酸共重合体のカルボン酸基(式(1)中、Aが水素の場合)とエポキシ基を含有する化合物(式(3)中、R−CH-(-O-)-CH;ここで、Rは、エポキシ基以外の基を示す。)との反応を示す。この場合、基Rと樹脂を連結する連結部(エポキシ基由来の部分)にも親水基(ヒドロキシ基)が含まれることになるので、吸水性能に優れた変性スチレン−マレイン酸共重合体を得ることができる。
【0032】
【化3】

【0033】
本発明において、スチレン−マレイン酸共重合体の変性剤として使用される上記ハロゲンおよび/またはエポキシ化合物は、ハロゲンおよび/またはエポキシ基を少なくとも一つ含有する化合物である。例えば、ハロゲンを少なくとも一つ含有する化合物(ハロゲン化合物)、エポキシ基を少なくとも一つ含有する化合物(エポキシ化合物)、ならびに、上記ハロゲン化合物および上記エポキシ化合物の両方に属する、ハロゲンとエポキシ基を少なくとも一つずつ含有する化合物が挙げられる。また、本発明においては、これらを二種以上併用することもできる。
上記化合物における「ハロゲン」としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などが挙げられる。塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子を用いると、脱離基としての効果が優れるので好ましい。
【0034】
上記ハロゲン化合物は、少なくとも一つのハロゲンを含有する化合物であり、二以上のハロゲンを含有する化合物も含まれる。該化合物としては、例えば、1,3−ジクロロ−2−プロパノール、クロロベンゼン、ベンジルクロライド、ベンジルクロライドのベンゼン環に置換基が結合した化合物、ハロゲン化アルキルなどが挙げられる。
上記のベンジルクロライドのベンゼン環に置換基が結合した化合物としては、メチルベンジルクロライド、ニトロベンジルクロライドなどが挙げられる。
上記ハロゲン化アルキルは、一般式:C2n+1X(式中、Xは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子を示す。)で示されるものであり、例えばヨウ化メチル、臭化プロピル、臭化イソプロピルなどが挙げられる。
【0035】
上記エポキシ化合物は、少なくとも一つのエポキシ基を含有する化合物であり、二以上のエポキシ基を含有する化合物も含まれる。該化合物としては、例えば、グリシジル基を含有する化合物、グリシジルエーテル基を含有する化合物などが挙げられ、具体的には、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、スチレンオキサイド(1,2−エポキシベンゼン)、フェニルグリシジルエーテル、グリシドール(2,3−エポキシ−1−プロパノール)などが挙げられる。
【0036】
上記ハロゲンおよびエポキシ基の両方を少なくとも一つずつ含有する化合物には、
ハロゲンおよびエポキシ基(グリシジル基またはグリシジルエーテル基)を二以上含有する化合物も含まれる。該化合物としては、例えば、エピクロルヒドリンなどが挙げられる。
【0037】
特に、本発明の変性スチレン−マレイン酸共重合体を後述のように熱硬化性樹脂用の低収縮材として使用する場合、ハロゲンおよび/またはエポキシ化合物としては、不飽和基を含まないハロゲン化合物を使用することが好ましい。これは、不飽和基を含む化合物を変性剤として使用した場合、不飽和基を含む化合物同士の重合反応が、スチレン−マレイン酸共重合体を変性する反応よりも進んでしまい、変性が不十分となって、低収縮機能が低下する虞があるためである。また、この不飽和基を含む化合物同士が重合反応した重合物も、スチレン−マレイン酸共重合体と反応するため、高分子化して液中で白濁したり、低収縮機能が低下する虞もある。
上記不飽和基を含まないハロゲン化合物としては、例えば、エピクロルヒドリン、1,3−ジクロロ−2−プロパノール、クロロベンゼン、ベンジルクロライド、ベンジルクロライドのベンゼン環に置換基が結合した化合物、ハロゲン化アルキルなどが挙げられる。
【0038】
また、特に、本発明の変性スチレン−マレイン酸共重合体を後述のように吸水性樹脂として使用する場合、ハロゲンおよび/またはエポキシ化合物としては、ハロゲンおよび/またはエポキシ基を少なくとも二つ含有する化合物、すなわち、ハロゲンを少なくとも二つ含有する化合物、ハロゲンとエポキシ基を少なくとも一つずつ含有する化合物、およびエポキシ基を少なくとも二つ含有する化合物を使用することが好ましい。この場合、スチレン−マレイン酸共重合体を構成するスチレン−フマレート分子の同一分子間または異なる分子間で、上記化合物の残基を介する架橋構造が形成され得る。
【0039】
ハロゲンを少なくとも二つ有する化合物としては、好ましくは、1,3−ジクロロ−2−プロパノールが挙げられる。このプロパノールは水溶性であるため、スチレン−マレイン酸共重合体との反応を容易に行うことができる。すなわち、スチレン−マレイン酸共重合体を、比較的穏やかな条件で、吸水性に優れた樹脂に変性することができる。
【0040】
ハロゲンとエポキシ基を少なくとも一つずつ有する化合物としては、好ましくは、エピクロルヒドリンなどが挙げられる。エピクロルヒドリンを用いた場合、得られる変性スチレン−マレイン酸共重合体は、親水基を含む架橋構造を有することとなるので、吸水性能に優れた樹脂となり得る。
【0041】
エポキシ基を少なくとも二つ有する化合物としては、好ましくは、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテルなどが挙げられる。このエーテルは水にほとんど溶解しないため、スチレン−マレイン酸共重合体に対する反応性は乏しいが、得られる変性スチレン−マレイン酸共重合体は、親水基を多く含む架橋構造を有することとなるので、分子量の比較的大きな耐熱性の高い吸水ポリマーとして利用することができる。
【0042】
上記スチレン−マレイン酸共重合体に対するハロゲンおよび/またはエポキシ化合物の反応量は、特に限定されない。また、反応温度および反応時間なども特に限定されない。したがって、生成物である変性スチレン−マレイン酸共重合体の所望される特性に応じてこれらを変化させることができる。
【0043】
例えば、熱硬化性樹脂の硬化収縮を低減する低収縮材として好適な変性スチレン−マレイン酸共重合体を、不飽和基を含まないハロゲン化合物を使用して製造する場合、スチレン−マレイン酸共重合体のカルボン酸基1当量に対して、ハロゲン化合物のハロゲンが4/5当量以上になるように調整するのが好ましい。スチレン−マレイン酸共重合体のカルボン酸基に対して該化合物のハロゲンが4/5当量未満であると、スチレン−マレイン酸共重合体への不飽和基を含まない基の導入量が不十分になり、変性スチレン−マレイン酸共重合体を低収縮材として使用するにあたって、低収縮効果を十分に得ることができなくなる虞がある。該化合物の反応量の上限は特に限定されるものではない。スチレン−マレイン酸共重合体のカルボン酸基1当量に対して、該化合物のハロゲンおよび/またはエポキシ基が1当量を超えても、該化合物はそれ以上反応しない。ただし、反応速度を速めるために3倍当量程度になるように該化合物を投入し、反応後、過剰投入分を回収するようにしてもよい。
【0044】
この場合、スチレン−マレイン酸共重合体のカルボン酸基と不飽和基を含まないハロゲン化合物との反応は、好ましくは100℃以下、より好ましくは80℃以下の温度で行う。反応温度が100℃を超えると副反応が起こる虞がある。また、反応温度の下限は特に設定されないが、反応速度を確保するためには40℃以上であることが好ましい。また、反応時間は特に限定されないが、2〜10時間の範囲に設定するのが好ましい。
【0045】
また、この場合、相間移動触媒の存在下で、スチレン−マレイン酸共重合体のカルボン酸基に不飽和基を含まないハロゲン化合物を反応させることが好ましい。相間移動触媒としては、四級アンモニウム塩、例えば、テトラ−n−ブチルアンモニウムブロマイド([CH(CHN・Br)が挙げられる。例えば、水−トルエン相中でテトラ−n−ブチルアンモニウムブロマイド([CH(CHN・Br)を相間移動触媒として用いて上記の反応を行わせることによって、カルボン酸基に対する不飽和基を含まないハロゲン化合物の反応を速やかに進行させることができる。
【0046】
また、例えば、吸水性能の高い変性スチレン−マレイン酸共重合体をハロゲンおよび/またはエポキシ基を少なくとも二つ含有する化合物を使用して製造するに際しては、ハロゲンおよび/またはエポキシ基を少なくとも二つ含有する化合物のハロゲンおよび/またはエポキシ基がスチレン−マレイン酸共重合体のカルボン酸基の4/5当量以下となるように、該化合物とスチレン−マレイン酸共重合体とを配合して反応させることが好ましい。これにより、親水基を有する架橋構造を含有する変性樹脂を再現よく得ることができる。ハロゲンおよび/またはエポキシ基の存在量がスチレン−マレイン酸共重合体のカルボン酸基の4/5当量よりも多くなると、吸水性能の高い変性スチレン−マレイン酸共重合体を得ることができない虞がある。なお、スチレン−マレイン酸共重合体のカルボン酸基に対するハロゲンおよび/またはエポキシ基の当量の下限は特に設定されないが、吸水機能の高い変性スチレン−マレイン酸共重合体を得るためには、ハロゲンおよび/またはエポキシ基がスチレン−マレイン酸共重合体のカルボン酸基の1/5当量以上となるように、該化合物とスチレン−マレイン酸共重合体とを配合するのが好ましい。
また、この場合、反応時の温度や反応時間は、使用するスチレン−マレイン酸共重合体の種類や、ハロゲンおよび/またはエポキシ基を少なくとも二つ含有する化合物の種類などによって適宜調整可能であるが、例えば、温度30〜120℃、反応時間1〜10時間とすることができる。
【0047】
上記のようにして得られる変性スチレン−マレイン酸共重合体のカルボン酸基の変性率は、使用するハロゲンおよび/またはエポキシ化合物の種類および使用量、反応条件などによって変動し得る。
上記変性スチレン−マレイン酸共重合体を熱硬化性樹脂用の低収縮材として使用する場合、上記変性率は、高いほどよく、好ましくは70〜100モル%、より好ましくは80〜100モル%である。変性率が低すぎる場合、硬化収縮の低減効果が不十分となる虞がある。
また、変性スチレン−マレイン酸共重合体を吸水材として使用する場合、上記変性率は、好ましくは2〜70モル%、より好ましくは5〜50モル%である。この上限または下限から外れた場合、吸水性能が不十分となる虞がある。
【0048】
本発明の変性スチレン−マレイン酸共重合体は、熱硬化性樹脂の硬化収縮を低減し得るので、熱硬化性樹脂用の低収縮材として有効に使用することができる。また、該変性樹脂は、吸水性能を有するので、吸水材として有効に使用することができる。
【0049】
本発明の変性スチレン−マレイン酸共重合体、特に、不飽和基を含まないハロゲン化合物を用いて変性した樹脂は、熱硬化性樹脂における硬化収縮を低減する効果に優れているので、熱硬化性樹脂(特に不飽和ポリエステル樹脂)用の低収縮材として有用である。したがって、本発明の変性スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン、不飽和ポリエステル樹脂、及びラジカル開始剤、さらに必要に応じて炭酸カルシウムなどの無機質充填剤やその他の成分を配合して混合することによって、低収縮性の不飽和ポリエステル樹脂組成物を調製することができる。
【0050】
上記樹脂組成物に用いる不飽和ポリエステル樹脂としては、例えば、多価アルコール(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコールなどのグリコール類)と不飽和多塩基酸(例えば、無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸などの脂肪族不飽和二塩基酸)とをエステル結合させて得られるような、既知の不飽和ポリエステル樹脂が挙げられる。また、該不飽和ポリエステル樹脂は、バージンのものでも、あるいは不飽和ポリエステル樹脂を含んでなる熱硬化性樹脂を加水分解したモノマー(多価アルコールおよび不飽和多塩基酸)から調製したものでもよい。
【0051】
上記樹脂組成物に用いるラジカル開始剤としては、不飽和ポリエステル樹脂用に一般的に用いられているものを使用することができる。例えば、メチルエチルケトンパーオキサイド、過酸化ベンゾイル、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)ブタン、ジ(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカルボネートなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0052】
上記樹脂組成物における変性スチレン−マレイン酸共重合体の配合量は、該樹脂組成物の全量に対して、好ましくは0.1〜10質量%、より好ましくは1〜10質量%の範囲である。変性スチレン−マレイン酸共重合体の配合量が0.1質量%未満であると、硬化収縮を低減する効果を十分に得ることができない虞がある。逆に変性スチレン−マレイン酸共重合体の配合量が10質量%を超えると、耐溶剤性が低下するなどの問題が起こる虞がある。
【0053】
上記樹脂組成物における不飽和ポリエステルの配合量は、不飽和ポリエステル樹脂組成物の全量に対して、好ましくは10〜50質量%、より好ましくは35〜50質量%の範囲である。
スチレンの配合量は、不飽和ポリエステル樹脂組成物の全量に対して、好ましくは7〜50質量%、より好ましくは35〜50質量%の範囲である。
ラジカル開始剤の配合量は、好ましくは不飽和ポリエステル樹脂組成物の全量に対して0.5〜2質量%の範囲である。ラジカル開始剤の配合量が0.5質量%未満であると反応が遅くなり、逆に2質量%を超えると反応が速くなり過ぎて反応制御が困難になる。
また、必要に応じて上記不飽和ポリエステル樹脂組成物に添加される無機充填剤などの他の成分の配合量は、特に限定されないが、該樹脂組成物の全量に対して、例えば、0〜70質量%の範囲とすることができる。
【0054】
このように調製される不飽和ポリエステル樹脂組成物は、射出成形法、トランス成形法、圧縮成形法など任意の方法で形成することによって、成形品を製造することができる。
【0055】
また、上記のように調製される不飽和ポリエステル樹脂組成物を繊維マットに含浸させることによって、シートモールディングコンパウンドを作製することができる。この繊維マットとしては、ガラス繊維など任意のものを用いることができる。例えば、ガラス繊維のロービングを切断したチョップトストランドを堆積した繊維マットに不飽和ポリエステル樹脂を均一な厚さに供給し、これを2枚の支持フィルムの間に挟み込んでシート状にすることによって、シートモールディングコンパウンドを作製することができる。そして、このシートモールディングコンパウンドを金型にセットして加熱加圧成形することによって、浴槽や浴室防水パンなど浴室部材の製品として使用される繊維強化プラスチック(FRP)を製造することができる。
【0056】
また、本発明は、(1)ポリエステルとその架橋部を含んでなる熱硬化性樹脂を亜臨界水で分解してスチレン−マレイン酸共重合体を得る工程と、(2)該スチレン−マレイン酸共重合体のカルボン酸基にハロゲンおよび/またはエポキシ化合物を反応させて変性スチレン−マレイン酸共重合体を得る工程を含む、熱硬化性樹脂のリサイクル方法を提供する。すなわち、該方法は、熱硬化性樹脂を亜臨界水で分解することで得られる分解生成物(スチレン−マレイン酸共重合体)を回収して再利用する道を提供するものである。
該方法は、好ましくは、(3)変性スチレン−マレイン酸共重合体と、スチレンと、不飽和ポリエステル樹脂と、ラジカル開始剤とを含んでなる不飽和ポリエステル樹脂組成物を提供すること、(4)該不飽和ポリエステル樹脂組成物を成形することをさらに含む。
また、工程(2)は、好ましくは、スチレン−マレイン酸共重合体のカルボン酸基に、ハロゲンおよび/またはエポキシ化合物を、該化合物のハロゲンおよび/またはエポキシ基が該共重合体のカルボン酸基の4/5当量以上となるように、好ましくは80℃以下の温度にて、反応させて変性スチレン−マレイン酸共重合体を得る工程である。
【実施例】
【0057】
以下、本発明を、実施例によって、より具体的に説明する。なお、実施例に使用した樹脂の物性評価方法を以下に示す。
〔物性評価〕
(変性率)
カルボン酸基の変性率は、赤外線分光分析法により求めたカルボン酸塩のピーク(1610〜1550cm−1)強度と、反応後に生成するエステルのピーク(1770〜1720cm−1)強度から算出した。
(収縮率)
収縮率は、100mm×100mmの型に不飽和ポリエステル樹脂組成物を流し込んで硬化させた後の、寸法変化を測定して求めた。
(反応率)
反応率は、硬化成形品を100℃の熱水に5時間浸漬し(熱水還流抽出)、熱水に抽出される未反応物量から算出したものを「熱水抽出」として表示した。
(曲げ弾性率および曲げ強度)
曲げ弾性率と曲げ強度の試験は、JIS−K7017に準拠して、試験片寸法:厚さ2mm×幅12mm×長さ80mm、支点間距離:50mm、試験速度:2mm/minの条件で行ない、試験片中央の圧子の変位に伴なう強度を計測し、変位と強度の直線関係が成り立つ弾性率を求め、降伏点での強度から曲げ強さを求めた。
(アイゾット衝撃強度)
アイゾット衝撃強度の試験は、JIS−K7062に準拠して、厚さ2mm×幅12mm×長さ80mmの寸法の試験片を用いて行ない、試験片の片側を固定した後、ハンマーで打撃して、破断に要したエネルギーよりアイゾット衝撃強度を求めた。
(吸水量)
吸水量の評価方法としては、JISK7223記載の高吸水性樹脂の吸水量試験方法に準じて行なった。評価方法の操作概略は以下の通りである。
まず、この試験では脱イオン水を用いて行なった。各試料を約0.20g量り取り、a(g)とする。量り取った試料をティーバックの底に入れ、脱イオン水の入った1Lのビーカーに入れる。浸漬時間は3時間とした。3時間経過後のティーバックを取り出して充分に水切りしたティーバックの重量を測定し、b(g)とする。また、試料を入れていないティーバックを同様の浸漬時間後に水切りして重量を測定し、c(g)とする。
上記のような操作を3回繰り返して平均値を算出した。そして、下記式(1)より吸水量W(g/g)を算出した。
W(g/g)=(b−c−a)/a …(1)
【0058】
〔実施例A〕
(実施例A1)
分解して回収する不飽和ポリエステル樹脂として、グリコールとしてプロピレングリコール、不飽和二塩基酸として無水マレイン酸を用い、これらを等モル量で縮重合させて合成した重量平均分子量4000〜5000の不飽和ポリエステルのワニス(溶媒なし)に、スチレンと、ラジカル開始剤としてメチルエチルケトンパーオキサイドと、無機充填剤として炭酸カルシウムを、不飽和ポリエステル1に対して1:0.02:2の質量比で配合し、これを硬化させて得られたものを用いた。
【0059】
上記の不飽和ポリエステル樹脂の硬化物3gと、純水15gと、KOH0.84gを反応管に仕込み、内部をアルゴンガスで置換して密閉封入した。そして、この反応管を230℃の恒温槽に浸漬し、水を亜臨界状態にして、反応分解を4時間行なった。この後、反応管の内容物を濾過により無機物と水溶液に分離し、次いで分離した水溶液に塩酸を加えてpH4以下の酸性域に調整することにより水溶液中に含まれていた水可溶成分を沈殿させ、この沈殿物を濾過により分離してスチレン−マレイン酸共重合体を回収した。
【0060】
次に、水79.8gに対し水酸化カリウム5.2gを溶解させたアルカリ水に、上記の方法で回収したスチレン−マレイン酸共重合体15gを溶解させた。そして、このスチレン−マレイン酸共重合体カリウム塩の水溶液100gにトルエン100gを加え、また相間移動触媒としてテトラ−n−ブチルアンモニウムブロマイド1gを加え、5分間攪拌した。さらにこれにハロゲンおよび/またはエポキシ化合物としてエピクロルヒドリン7gを配合し、50℃で5時間反応させた。この後に、反応生成物を分離漏斗により水相と有機相とに分離し、有機相からトルエンを除去することによって、スチレン−マレイン酸共重合体のマレイン酸構造部に不飽和基を含まない基を導入した変性スチレン−マレイン酸共重合体の白色粉末16gを得た(変性率80モル%)。
【0061】
次に、上記の重量平均分子量4000〜5000の不飽和ポリエステル樹脂のワニスと、スチレンと、ラジカル開始剤としてメチルエチルケトンパーオキサイドと、無機充填剤として炭酸カルシウムを、不飽和ポリエステル1に対して1:0.02:2の質量比で配合し、さらに組成物全量に対して10質量%になるように変性スチレン−マレイン酸共重合体を配合し、混合することによって不飽和ポリエステル樹脂組成物を調製した。
【0062】
(実施例A2)
実施例A1において、ハロゲンおよび/またはエポキシ化合物として、エピクロルヒドリン7gの代りに、1,3−ジクロロ−2−プロパノール10gを配合し、反応を80℃で5時間行うようにした他は、実施例A1と同様にしてスチレン−マレイン酸共重合体のマレイン酸構造部に不飽和基を含まない基を導入した変性スチレン−マレイン酸共重合体の白色粉末19gを得た(変性率83モル%)。その後、この変性スチレン−マレイン酸共重合体を用いて、実施例A1と同様にして不飽和ポリエステル樹脂組成物を調製した。
【0063】
(実施例A3)
実施例A1において、ハロゲンおよび/またはエポキシ化合物として、エピクロルヒドリン7gの代りに、クロロベンゼン9gを配合し、反応を60℃で5時間行うようにした他は、実施例A1と同様にしてスチレン−マレイン酸共重合体のマレイン酸構造部に不飽和基を含まない基を導入した変性スチレン−マレイン酸共重合体の白色粉末17.5gを得た(変性率85モル%)。その後、この変性スチレン−マレイン酸共重合体を用いて、実施例A1と同様にして不飽和ポリエステル樹脂組成物を調製した。
【0064】
(実施例A4)
実施例A1において、相間移動触媒としてテトラ−n−ブチルアンモニウムブロマイドを7g加えるようにし、またハロゲンおよび/またはエポキシ化合物として、エピクロルヒドリン7gの代りに、ベンジルクロライド28gを配合し、反応を80℃で10時間行うようにした他は、実施例A1と同様にしてスチレン−マレイン酸共重合体のマレイン酸構造部に不飽和基を含まない基を導入した変性スチレン−マレイン酸共重合体の白色粉末18.5gを得た(変性率93モル%)。その後、この変性スチレン−マレイン酸共重合体を用いて、実施例A1と同様にして不飽和ポリエステル樹脂組成物を調製した。
【0065】
(実施例A5)
実施例A1において、相間移動触媒としてテトラ−n−ブチルアンモニウムブロマイドを7g加えるようにし、またハロゲンおよび/またはエポキシ化合物として、エピクロルヒドリン7gの代りに、メチルベンジルクロライド32gを配合し、反応を70℃で10時間行うようにした他は、実施例A1と同様にしてスチレン−マレイン酸共重合体のマレイン酸構造部に不飽和基を含まない基を導入した変性スチレン−マレイン酸共重合体の白色粉末19.5gを得た(変性率95モル%)。その後、この変性スチレン−マレイン酸共重合体を用いて、実施例A1と同様にして不飽和ポリエステル樹脂組成物を調製した。
【0066】
(実施例A6)
実施例A1において、相間移動触媒としてテトラ−n−ブチルアンモニウムブロマイドを7g加えるようにし、またハロゲンおよび/またはエポキシ化合物として、エピクロルヒドリン7gの代りに、ニトロベンジルクロライド39gを配合し、反応を80℃で10時間行うようにした他は、実施例A1と同様にしてスチレン−マレイン酸共重合体のマレイン酸構造部に不飽和基を含まない基を導入した変性スチレン−マレイン酸共重合体の白色粉末22gを得た(変性率100モル%)。その後、この変性スチレン−マレイン酸共重合体を用いて、実施例A1と同様にして不飽和ポリエステル樹脂組成物を調製した。
【0067】
(実施例A7)
実施例A1において、相間移動触媒としてテトラ−n−ブチルアンモニウムブロマイドを2.5g加えるようにし、またハロゲンおよび/またはエポキシ化合物として、エピクロルヒドリン7gの代りに、臭化プロピル9.2gを配合し、反応を70℃で22時間行うようにした他は、実施例A1と同様にしてスチレン−マレイン酸共重合体のマレイン酸構造部に不飽和基を含まない基を導入した変性スチレン−マレイン酸共重合体の白色粉末15gを得た(変性率70モル%)。その後、この変性スチレン−マレイン酸共重合体を用いて、実施例A1と同様にして不飽和ポリエステル樹脂組成物を調製した。
【0068】
(実施例A8)
実施例A1において、相間移動触媒としてテトラ−n−ブチルアンモニウムブロマイド7gを加えるようにし、またハロゲンおよび/またはエポキシ化合物としてエピクロルヒドリン7gの代わりに、ベンジルクロライド28gを配合し、反応を100℃で6時間行うようにした他は、実施例A1と同様にして、スチレン−マレイン酸共重合体のマレイン酸構造部に不飽和基を含まない基を導入した変性スチレン−マレイン酸共重合体の粉末を18.7g得た(変性率100%)。その後、この変性スチレン−マレイン酸共重合体を用いて、実施例A1と同様にして不飽和ポリエステル樹脂組成物を調整した。
【0069】
(比較例A1)
実施例A1と同様にして、不飽和ポリエステル樹脂の硬化物をKOHの存在下、亜臨界水で分解反応して、スチレン−マレイン酸共重合体を回収した。そしてこのスチレン−マレイン酸共重合体を変性せずに用い、実施例A1と同様にして不飽和ポリエステル樹脂組成物を調製した。
【0070】
上記の実施例A1〜8及び比較例A1で得た不飽和ポリエステル樹脂組成物を常温で1時間硬化させた後、100℃で2時間加熱して硬化させることによって、実施例A1〜8及び比較例A1の成形品を得た。
【0071】
また、比較のために、上記の重量平均分子量4000〜5000の不飽和ポリステル樹脂のワニスと、スチレンと、ラジカル開始剤としてメチルエチルケトンパーオキサイドと、無機充填剤として炭酸カルシウムを、不飽和ポリエステル樹脂1に対して1:0.02:2の質量比で配合したバージンの不飽和ポリエステル樹脂組成物を同様に成形して、基準例の成形品を得た。
【0072】
これらの基準例、実施例A1〜8、比較例A1の硬化成形品について、外観の観察を行ない、また収縮率、曲げ弾性率、曲げ強度、アイゾット衝撃値を測定した。また実施例A4〜8及び基準例、比較例A1は、反応率についても測定した。結果を表1に示す。
【0073】
【表1】

【0074】
回収したスチレン−マレイン酸共重合体を変性しないで用いた比較例A1の成形品は、成形品に多数のダマが発生するものであり、硬化収縮も大きく発生するものであった。したがって、回収したスチレン−マレイン酸共重合体はそのままでは再利用することはできないものであった。一方、ハロゲンおよび/またはエポキシ化合物で変性した変性スチレン−マレイン酸共重合体を用いた実施例A1〜8の成形品は、硬化収縮がなく、また外観や物性は回収品ではないバージンの不飽和ポリエステル樹脂の成形品である基準例のものと全く遜色がなく、変性スチレン−マレイン酸共重合体は有用に再利用できることが確認された。
【0075】
〔実施例B〕
[亜臨界水分解による不飽和ポリエステル樹脂の分解方法及びスチレン−マレイン酸共重合体の分離回収方法]
不飽和ポリエステル樹脂は、グリコールとしてプロピレングリコール、有機酸として無水マレイン酸を使用し、重量平均分子量が4000〜5000に製造した。この不飽和ポリエステル樹脂を含むワニスにスチレンをほぼ当量混合した後、無機フィラーとして炭酸カルシウムを添加し硬化させた。
【0076】
次に、この硬化物3gと濃度1.0mol/LのKOH水溶液15gとを反応管に仕込み、その内部をアルゴンガスで置換封入した。次に、この反応管を230℃に加熱した恒温槽に浸漬し、炭酸カルシウム含有の不飽和ポリエステル樹脂の硬化物を亜臨界水により4時間分解反応処理した。この後、反応管を冷却し、反応管内の内容物を取り出してろ過により無機物と水溶液に分離し、水溶液中に含まれている水可溶成分を塩酸でpH4以下の酸性域に調整して生じた沈殿物、すなわちスチレン−マレイン酸共重合体をろ過により分離して回収した。
【0077】
(実施例B1)
上記の方法で回収したスチレン−マレイン酸共重合体5gを、水酸化カリウムを用いてpH12に調整したアルカリ水95gに溶解した後、これに1,3−ジクロロ−2−プロパノール0.5g(スチレン−マレイン酸共重合体のカルボン酸基に対する約0.40当量)を加えて80℃で2時間加熱攪拌した。その後、テフロン(登録商標)製のシートを敷いたアルミバットに上記加熱攪拌した液が一様になるように広げて30分間程度静置した。次に、乾燥機を用いて上記アルミバットを80℃で1時間加熱した後、続けて100℃で2時間乾燥させて白色のフィルムを得た。そして、このフィルムを粉砕することにより白色の粉末の変性スチレン−マレイン酸共重合体を得た(変性率10モル%)。
【0078】
(実施例B2)
1,3−ジクロロ−2−プロパノールの代わりに、エピクロルヒドリン0.5g(スチレン−マレイン酸共重合体のカルボン酸基に対する約0.45当量)を加えた以外は、実施例B1と同様にして白色の粉末の変性スチレン−マレイン酸共重合体を得た(変性率15モル%)。
【0079】
(実施例B3)
1,3−ジクロロ−2−プロパノールの代わりに、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル0.5g(スチレン−マレイン酸共重合体のカルボン酸基に対する約0.48当量)を加えた以外は、実施例B1と同様にして白色の粉末の変性スチレン−マレイン酸共重合体を得た(変性率17モル%)。
【0080】
(実施例B4)
1,3−ジクロロ−2−プロパノールを1.5g(スチレン−マレイン酸共重合体のカルボン酸基に対する約1.2当量)を加えた以外は、実施例B1と同様にして白色の粉末の変性スチレン−マレイン酸共重合体を得た(変性率35モル%)。
【0081】
(比較例B1)
1,3−ジクロロ−2−プロパノールを使用しなかった以外は、実施例B1と同様にして白色の粉末を得た。
【0082】
(物性評価)
実施例B1〜4及び比較例で得られた白色粉末の吸水量の評価を実施した。その結果を表2に示す。
【0083】
【表2】

【0084】
実施例B1〜3はほぼ同様に吸水量50前後となって高い吸水性能を示したが、比較例では一部が水に溶解し、残りは不溶で吸水性能がほとんど無かった。一方、実施例B4は比較例よりは吸水性能があるものの水中で白色粉末のままであった。これは1,3−ジクロロ−2−プロパノールの使用量が少なくとも1当量以上であったためであると考えられる。
【0085】
このように実施例B1〜3の結果から、スチレン−マレイン酸共重合体を上記方法により本発明の変性スチレン−マレイン酸共重合体に変性することにより、吸水性能を持たせることが可能となった。また、ポリエステルとその架橋部を含んでなる熱硬化性樹脂を亜臨界水により該熱硬化性樹脂の熱分解温度以下で分解・回収した架橋部と有機酸の共重合体(スチレン−マレイン酸共重合体)を上記方法により本発明の変性スチレン−マレイン酸共重合体にすることにより、高吸水性樹脂として再利用可能となる。したがって、ポリエステルとその架橋部を含んでなる熱硬化性樹脂を、亜臨界状態で且つ熱硬化性樹脂の熱分解温度未満の温度の亜臨界水で分解処理して得た樹脂由来の成分のうち、グリコール類及び有機酸類モノマーは、樹脂の原料として、スチレン−マレイン酸共重合体は、変性後、高吸水性樹脂として再利用することにより、樹脂由来の成分の80%以上を再利用することが可能となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1):

〔式中、Aは、水素または金属元素であり、mは、1〜3の数値であり、nは、3〜300の数値を示す。また、両末端は、水素である。ここで、Aで示される金属元素が二価以上の金属元素である場合、該金属元素は、複数のカルボキシ基(同一分子中のカルボキシ基に限定されない)と塩を形成していてもよい。〕
で示されるスチレン−マレイン酸共重合体のカルボン酸基に、エピクロルヒドリン、ベンジルクロライド、ベンジルクロライドのベンゼン環に置換基が結合した化合物、およびハロゲン化アルキルから選ばれるハロゲンおよび/またはエポキシ化合物を反応させることによって得られた、変性スチレン−マレイン酸共重合体。
【請求項2】
前記スチレン−マレイン酸共重合体のカルボン酸基に、前記ハロゲン化合物を、該化合物のハロゲンが該共重合体のカルボン酸基の4/5当量以上となるように反応させることによって得られた、請求項1に記載の変性スチレン−マレイン酸共重合体。
【請求項3】
前記ハロゲンおよび/またはエポキシ化合物は、エピクロルヒドリンである、請求項1又は2に記載の変性スチレン−マレイン酸共重合体。
【請求項4】
前記スチレン−マレイン酸共重合体のカルボン酸基に、エピクロルヒドリンを、該化合物のハロゲンおよび/またはエポキシ基が該共重合体のカルボン酸基の4/5当量以下となるように反応させることによって得られた、請求項3に記載の変性スチレン−マレイン酸共重合体。
【請求項5】
前記スチレン−マレイン酸共重合体は、ポリエステルとその架橋部を含んでなる熱硬化性樹脂を亜臨界水で分解して得られたものである、請求項1〜4のいずれかに記載の変性スチレン−マレイン酸共重合体。
【請求項6】
前記スチレン−マレイン酸共重合体のカルボン酸基に、前記ハロゲンおよび/またはエポキシ化合物を反応させることを含む、請求項1に記載の変性スチレン−マレイン酸共重合体の製造方法。
【請求項7】
請求項3又は4のいずれかに記載の変性スチレン−マレイン酸共重合体を含んでなる、吸水材。
【請求項8】
ポリエステルとその架橋部を含んでなる熱硬化性樹脂を亜臨界水で分解してスチレン−マレイン酸共重合体を得る工程と、
該スチレン−マレイン酸共重合体のカルボン酸基にハロゲンおよび/またはエポキシ化合物(ただし、ビニル基を有するハロゲン化合物および不飽和結合を有するエポキシ化合物を除く。)を反応させて変性スチレン−マレイン酸共重合体を得る工程
を含む、熱硬化性樹脂のリサイクル方法。

【公開番号】特開2011−190460(P2011−190460A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−127458(P2011−127458)
【出願日】平成23年6月7日(2011.6.7)
【分割の表示】特願2006−547794(P2006−547794)の分割
【原出願日】平成17年11月22日(2005.11.22)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【出願人】(591288355)公益財団法人国際環境技術移転センター (53)
【Fターム(参考)】