説明

変換器を操作する方法とスイッチングセルと変換器

【課題】モジュール式のマルチレベル電力変換器に関し変換器における故障を識別する手段を提供する。
【解決手段】変換器1は、複数のブリッジブランチ2を具備し、複数のブリッジブランチ2は、直列接続された1つ以上のスイッチングセル3を有し、各ブリッジブランチ2は、変換器1の複数の入力のうちの1つを複数の出力のうちの1つに接続し、この方法は、故障を決定するために、スイッチングセル3の各々を監視するステップと、スイッチングセル3のうちの1つにおいて故障が識別された場合に、その1つのスイッチングセル3において識別された故障の後で、特に所定の期間内に、スイッチングセル3のうちの別の1つにおける故障を識別しないならば、スイッチングセル接続を短絡させるトリガリング要素のうちの1つをトリガするステップと、を含む、方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変換器、特に、モジュール式のマルチレベル電力変換器に関する。更に、本発明は、変換器における故障(fault)を識別する手段(measures)に関する。
【背景技術】
【0002】
変換器回路は、最近では、先行技術の様々なやり方で使用されている。特に、幾つかの応用分野では、直接変換器は、間接変換器よりも大きな電流を、同じ力(effort)で動かすことができるので、ドライブを操作する場合に、直接変換器は好都合である。
【0003】
モジュール式のマルチレベル変換器(Modular multi-level converter, MMC, MMLC, 又はM2LC)は、特に、直接変換器として使用されている。このような変換器は、変換器のブランチ(branch)を有し、変換器のブランチは各々、入力側の位相線(phase line)を出力側の位相線に接続する。更に、このような変換器は、相互に直列接続された部分的な変換器(partial converter)として使用され得る。
【0004】
変換器のブランチの各々は、直列回路を有する。直列回路は、インダクタ(inductor)と、1つ以上のスイッチングセル(switching cell)とを、二極ネットワーク(two-pole network)の形態で具備している。スイッチングセルは、ハーフブリッジ(half-bridge)又はフルブリッジ(full-bridge)回路で構成され、エネルギ蓄積部(energy store)、例えばスイッチングセルのコンデンサを有し得る。エネルギ蓄積部が、変換器のブランチに接続される又は変換器のブランチから接続を外されるように、変換器のブランチは、適切な接続によって接続され得る。一般に、直接変換器は、スイッチングセルごとに個々に駆動されるので、それぞれのスイッチングセルの端子に電圧が与えられないと、受動的な電流の流れ(passive current flow)のみがフリーホイールダイオードを通ることができるか、若しくは、それぞれのスイッチングセルの端子に与えられるエネルギ蓄積部の電圧、即ち、ハーフブリッジ接続の場合におけるスイッチングセルのコンデンサの電圧か、或いはフルブリッジ接続の場合におけるスイッチングセルのコンデンサの非反転又は反転電圧が下がる。このタイプの直接変換器は、例えば、文献第WO03/090331号又は第US2011/0075465A1号から知られている。
【0005】
直接変換器に故障が発生することがある。故障が発生すると、コンポーネントの破壊を避けるために、通常は、即時に反応する必要がある。
【0006】
例えば、文献第US2008/0232145A1は、変換器のブランチが複数のスイッチングセルを有するマルチレベル変換器を開示している。スイッチングセルのうちの1つに故障が発生し、例えば、測定された出力電圧と予測電圧とを比較することによって、その1つのスイッチングセルを識別できる場合に、問題とされるスイッチングセルはブリッジされる(bridge)。
【0007】
文献(マハージャン、L.他、「星型構成のマルチレベルカスケードPWM変換器に基づくバッテリエネルギ蓄積システムの耐故障性動作」、パワーエレクトロニクスにおけるIEEEトランザクション、ボリューム25、ナンバー9、2010年9月、2386−2396頁(Maharjan, L. et al., “Fault-Tolerant Operation of a Battery-Energy-Storage System Based on a Multilevel Cascade PWM Converter with Star Configuration”, IEEE Transactions on power electronics, Volume 25, No. 9, September 2010, pages 2386-2396)は、変換器の1つのスイッチングセルにおいて故障が識別された後で、そのスイッチングセルを短絡させて、その結果、変換器が他のスイッチングセルを使って動作を継続できるようにすることを提案している。例えば、出力電圧のプロフィール及び/又はコンデンサの電圧のプロフィールにおける変化を使用して、故障のあるスイッチングセルを決定することができる。
【0008】
一般に、スイッチングセルにおけるフルブリッジ回路又はハーフブリッジ回路は、電流をスイッチで転換する電力半導体コンポーネントとして、IGBTを有する。IGBT電力半導体スイッチの場合に、伝達されるある特定の電流強度を基点として、内部抵抗が急に増加する。これは、一般にIGBTの非飽和(desaturation)と呼ばれる。IGBTに非飽和が発生した場合に、抵抗の増加の結果として電圧を増加させることによって、IGBTで変換される電力が、すぐに最大許容電力を超え得るので、IGBTのスイッチを直ちに切らなければならない。例えば、中間回路が有する漂遊インダクタンス(stray inductance)が大き過ぎない場合は、IGBTは、最近では、所定の期間、例えば10μsまでの間、非飽和の発生と過電流の切断に耐えることができる。IGBTの非飽和の発生が決定された後に、速やかに切断できるように、この目的に必要なスイッチングセルの制御ユニットを、個々のスイッチングセルに直接に備える。スイッチングセルの制御ユニットは、スイッチングセルを監視することと、IGBTを切断することとを意図されている。非飽和がスイッチングセルの制御ユニットによって識別され、IGBTが切断された後でのみ、問題とされるスイッチングセルの切断について、中央制御ユニットに知らせる。
【0009】
識別された故障に対して、スイッチングセルが速やかに反応できるように、個々のスイッチングセルにブリッジング要素(bridging element)を備えさせてもよく、その結果、故障のあるスイッチングセルを確実に短絡させることができる。ブリッジング要素としては、サイリスタ回路、電気機械スイッチ、点火装置のスイッチ(pyrotechnic switch)、又はブレークダウンした半導体(broken-down semiconductor)が知られている。しかしながら、提案された多くのブリッジング要素は、一度短絡しただけで、最早容易に開くことはできない。
【0010】
非飽和をもたらすIGBTにおける過電流は、スイッチングセル自体における故障によってだけでなく、電力変換器の外部又はスイッチングセルの外部で生じる他の故障によっても発生する場合がある。
【0011】
従って、ブリッジング要素が閉じているスイッチングセルに故障が存在することが確実に識別されるならば、ブリッジング要素を開く必要はない。しかしながら、更に、上述の構造の場合は、問題とされるスイッチングセルの外部の故障が、誤ってスイッチングセルに関連付けられるので、機能しているスイッチングセルが、ブリッジされ、その結果、永久に機能しなくなるという状況が生じ得る。その理由は、そのスイッチングセルの短絡を、単純な手段を使用して解消して元の状態にすることができないからである。しかしながら、従来は、故障が識別された各スイッチングセルに欠陥がある(defective)と見なすか、又はスイッチングセルの故障を、スイッチングセルの外部で識別して、複雑な分析方法によってスイッチングセルに関連付けていた。同様に、WO2011/116816A1号は、スイッチングセルを有するマルチレベル変換器であって、スイッチングセル接続を短絡させるトリガリング要素(triggering element)(WO2011/116816A1号、図5、参照符号18)を、2つのスイッチングセル(WO2011/116816A1号、図5、参照符号6a、6b)間に備えており、発生した故障に対する時間遅延を伴って、中央制御ユニット(主制御装置)によって直接に、又はセル制御ユニット(WO2011/116816A1号、図5、参照符号34)を介して、トリガリング信号を発生し、トリガリング要素に送る、マルチレベル変換器を記載している。
【0012】
同様に、文献(「電力伝送に対するマルチレベルVSC技術の展望」、B.ゲメル、他、伝送及び配送協議会及び博覧会、2008、T&D IEEE/PES、ピスカタウェイ、ニュージャージー州、アメリカ、2008年4月20日(“Prospects of Multilevel VSC Technologies for Power Transmission”, B. Gemmell et al, Transmission AND Distribution Conference AND Exposition, 2008, T&D IEEE/PES, Piscataway, NJ, USA, April 20, 2008)は、スイッチングセルを有する一般的なタイプのマルチレベルレベル変換器を開示している。
【発明の概要】
【0013】
従って、本発明の目的は、スイッチングセルを有するモジュール式の直接変換器において、誤って識別されたスイッチングセル内の故障のために、スイッチングセルが永久に短絡されてしまうことを確実になくすことである。この目的は、請求項1の変換器を操作する方法と、同等の請求項(coordinate claim)の、変換器と、変換器のためのスイッチングセルとによって達成される。
【0014】
本発明の更なる有利な改善点は、従属請求項において特定されている。
【0015】
第1の態様は、変換器を操作する方法であって、変換器は、複数のブリッジブランチを具備し、複数のブリッジブランチは、直列接続された1つ以上のスイッチングセルを有し、各ブリッジブランチは、変換器の複数の入力のうちの1つを複数の出力のうちの1つに接続し、この方法は、
故障を決定するために、スイッチングセルの各々を監視するステップと、
スイッチングセルのうちの1つにおいて故障が識別された場合に、その1つのスイッチングセルにおいて識別された故障の後で、スイッチングセルのうちの別の1つにおける故障を識別しないならば、スイッチングセル接続を短絡させるトリガリング要素のうちの1つをトリガするステップと、を含み、
ここで、1つのスイッチングセルにおける故障の識別を、中央監視デバイスに伝達し、中央監視デバイスにおけるタイマをスタートさせ、スイッチングセルのうちの別の1つにおける故障の発生が、所定の期間が終了する前に伝達されるかどうかを決定するために、中央監視デバイスにおいてチェックが行なわれ、別のスイッチングセルにおける故障が、所定の期間中に伝達されない場合に、中央監視デバイスは、1つのスイッチングセルの関連するトリガリング要素をトリガする、方法を提供する。
【0016】
上述の方法は、問題とされるスイッチングセルの外部にも故障がある可能性がある限り、既に識別された故障のために、スイッチングセルがブリッジされないという長所を有する。特に、スイッチングセルの中のトリガリング要素であって、スイッチングセルを永久に短絡させるトリガリング要素を使用して、問題とされるスイッチングセルが正しく機能していても、問題とされるスイッチングセルが、短絡の結果として使用不可能にされるのを回避できる。
【0017】
上述の変換器は、監視手段を具備している。問題とされるスイッチングセルのみにおいて故障が発生している場合は、スイッチングセルにおける決定された故障は、監視手段を用いて、そのスイッチングセルにおける故障であると考えられ、一方で、複数のスイッチングセルにおいて複数の故障が同時に又は僅かな時間のずれを伴って識別された場合は、別の故障が推定される。言い換えると、複数のスイッチングセルにおいて故障が識別された場合は、変換器に対する外部の作用と考えらえる。
【0018】
スイッチングセルで使用されているIGBTの非飽和が、スイッチングセルのうちの1つにおける故障として識別されるようなやり方で、スイッチングセルを監視するように対処してもよい。
【0019】
更に、1つ以上の電力半導体スイッチは、切り換え時間窓(switching time window)の期間中に切り換わるように駆動され、切り換え時間窓外における、電圧の変化、特に、所定の電圧の大きさを超える電圧の変化が、スイッチングセルのうちの1つにおける故障として識別されるように、スイッチングセルを監視してもよい。
【0020】
本発明の別の実施形態によると、スイッチングセルのうちの別の1つにおける故障を、スイッチングセルにおいて識別された故障と同時に又は僅かな時間のずれを伴って所定の時間内に識別しない場合に、スイッチングセル接続を短絡させるトリガリング要素のうちの1つをトリガすることができる。
【0021】
スイッチングセルのうちの特定の1つにおける故障を、スイッチングセルのうちの別の1つにおいて識別された故障と同時に又は僅かな時間のずれを伴って所定の時間内に識別しない場合にのみ、スイッチングセル接続を短絡させるトリガリング要素のうちの1つをトリガするように対処してもよい。
【0022】
更に、スイッチングセルのうちの1つにおいて故障が識別された後で、問題とされるスイッチングセルの中の電力半導体スイッチの駆動を抑制し、特に、電力半導体スイッチをオフに切り換えることができる。
【0023】
1つの実施形態によると、スイッチングセルのうちの1つにおける故障の識別の後に、別のスイッチングセルにおける故障を識別した場合に、複数の又は全てのスイッチングセルの中の電力半導体スイッチをオフに切り換えることができる。
【0024】
別の態様は、1つ以上のハーフブリッジ回路とエネルギ蓄積部とを有する変換器のためのスイッチングセルであって、
監視ユニットが、以下の目的、即ち、
−故障を決定するために、スイッチングセルを監視し、
−故障が識別された場合に、故障の発生の指示を中央監視デバイスに外部で提供し、
−故障の発生の指示に応答して、前記指示を外部で提供された中央監視デバイスによって、トリガリング信号が受信された場合に、スイッチングセル接続を短絡させるトリガリング要素をトリガする目的で、
供給される、スイッチングセルを提供する。
【0025】
別の態様は、入力電圧を出力電圧に変換するための、複数の入力と複数の出力とを有する変換器であって、
−直列接続されている1つ以上のスイッチングセルを有する複数のブリッジブランチと、
ここで、各ブリッジブランチは、入力のうちの1つを出力のうちの1つに接続する、
−故障を決定するように設計されている、スイッチングセルの各々におけるそれぞれの監視ユニットと、
−スイッチングセル接続を短絡させるように設計されている、スイッチングセルの各々におけるそれぞれのトリガリング要素と、
−監視ユニットの各々への通信リンクを有する中央監視デバイスであって、
監視ユニットのうちの1つにおいて識別された故障の指示を受信し、
1つのスイッチングセルにおいて故障が識別された後で、スイッチングセルのうちの別の1つにおいて故障が識別されない場合に、トリガリング要素のうちの1つをトリガする、
ように設計されている、中央監視デバイスと、
を具備する、変換器を提供する。
【0026】
添付の図面を使用して、本発明の好ましい実施形態をより詳しく以下で説明する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】モジュール式のマルチレベル変換器の概略図を示している。
【図2a】図1におけるモジュール式のマルチレベル変換器を構成するスイッチングセルの概略図を示している。
【図2b】図1におけるモジュール式のマルチレベル変換器を構成するスイッチングセルの概略図を示している。
【図3】変換器のスイッチングセルにおけるIGBT半導体コンポーネントの非飽和を識別する図を示している。
【発明を実施するための形態】
【0028】
図1は、変換器1の概略図を示している。変換器1は、モジュール式のマルチレベル変換器(MMC、MMLC、又はM2LC)の形態をとっている。変換器1は、入力E、即ち、この例示的な実施形態における第1の入力E1と第2の入力E2のような、入力線を有する。更に、変換器1は、出力L、即ち、この例示的な実施形態における第1の出力L1と、第2の出力L2と、第3の出力L3とを有する。入力E1、E2の各々は、ブリッジブランチ2を介して、出力L1、L2、L3の各々に接続される。ブリッジブランチ2は、同じ設計を有することが好ましいが、異なるトポロジのブリッジブランチ2を備えることも可能である。
【0029】
変換器1は、駆動の仕方によって双方向で使用できる。その結果、エネルギの流れは、入力E1、E2から出力L1、L2、L3へ、及び出力L1、L2、L3から入力E1、E2へ送られ得る。
【0030】
ブリッジブランチ2の各々は、直列接続された1つ以上のスイッチングセル3を有する。この例示的な実施形態では、各ブリッジブランチ2は、直列接続された4つのスイッチングセル3を有する。
【0031】
更に、各ブリッジブランチ2の中の直列接続されたスイッチングセル3と直列に、誘導コイル4をインダクタンスとして備えている。
【0032】
図2aと2bは、スイッチングセル3の例を示している。図2aの中のスイッチングセル3は、ハーフブリッジ回路、特に、2つの電力半導体スイッチ32を有する1つのみのハーフブリッジ回路を本質的に含んでいる。2つの電力半導体スイッチ32は、直列に接続されている。各電力半導体スイッチ32は、各電力半導体スイッチ32と並列接続されているフリーホイールダイオード(freewheeling diode)33を有している。フリーホイールダイオード33は、ディスクリートコンポーネント(discrete component)の形態をとってもよく、又は電力半導体スイッチ32に統合されていてもよい。静電容量(capacitance)の形態をとるエネルギ蓄積部34は、2つの電力半導体スイッチ32を具備する直列回路と、並列接続されている。電力半導体スイッチ32は、通常、IGBT、IGCT、MOSFET、又は他の制御可能なパワートランジスタの形態をとり得る。変換器1のそれぞれのブリッジブランチ2の中のスイッチングセル3を接続するために、エネルギ蓄積部34の接続の一方と、電力半導体スイッチ32の間のノードNに、スイッチングセル3の外部のスイッチングセル接続Sを備える。
【0033】
電力半導体スイッチ32の場合に、電力半導体スイッチ32の切り換え機能(switching function)、即ち、導電接続の開閉が、実質的に使用される。特に、中電圧を与えるために、電力半導体スイッチ32として、IGBTが一般に使用される。
【0034】
図2bは、スイッチングセル3の別の実施形態を示している。図2bにおけるスイッチングセル3は、H−ブリッジ回路の形態をとり、電力半導体スイッチ36を具備する2つの直列回路が、並列接続されている。電力半導体スイッチ36の各々は、1つのフリーホイールダイオード37を備えている。フリーホイールダイオード37は、電力半導体スイッチ36と並列接続され、ディスクリートコンポーネントの形態をとってもよく、又は電力半導体スイッチ36と統合されていてもよい。電力半導体スイッチ36の順方向に対して、フリーホイールダイオード37は、通常、逆方向に配置される。
【0035】
変換器1のそれぞれのブリッジブランチ2の中のスイッチングセル3を接続する外部のスイッチングセル接続Sを、直列回路の2つの電力半導体スイッチ36間のノードNに備える。2つの直列回路は、互いに並列接続され、更に、蓄積コンデンサ(storage capacitor)の形態をとるエネルギ蓄積部38と接続されている。
【0036】
入力電圧、即ち、DC電圧又はAC電圧の何れかを、望ましい出力電圧、即ち、DC電圧又はAC電圧の何れかに変換するために、スイッチングセル3は制御ユニット10によって駆動される。スイッチングセル3の各々が異なる状態をとることができるやり方で、スイッチングセル3の各々は駆動され得る。第1の状態では、スイッチングセル3は、その接続がエネルギ蓄積部34、38に接続されるようなやり方で切り換えられ得る。このやり方で、エネルギ蓄積部34、38を充電又は放電することができる。即ち、エネルギ蓄積部34、38に又はエネルギ蓄積部34、38から、電荷が自由に流れることができる。更に、第1の状態では、エネルギ蓄積部の電圧がスイッチングセル接続Sに実質的に与えられ、その結果、ブリッジブランチ2に関連付けられた入力における電圧電位(voltage potential)と、対応するブリッジブランチの中の第1の状態に切り換えられたスイッチングセル3における電圧電位との電圧のバランスから、ブリッジブランチ2に関連付けられた出力の電圧電位が得られる。
【0037】
別の状態では、スイッチングセル3の出力電圧は、ブリッジブランチ2を通る電流の方向によって、即ち、電流がフリーホイールダイオード33、37を流れることができるかどうかによって決まる。従って、スイッチングセル3は、スイッチングセル3を流れる電流に対して反対方向にスイッチングセルの電圧を与え続け、その結果、エネルギ蓄積部34、38はエネルギを吸収することができる。出力側の電気変数(electrical variable)の指定に従って制御されるやり方で、変換器のブランチ2の中のスイッチングセル3を切り換えることによって、適宜に切り換えられるスイッチングセル3のエネルギ蓄積部の電圧と共に、入力電圧と入力電流とから、出力L1、L2、L3における望ましい電圧、又は相電圧(phase voltage)を、各出力L1、L2、L3に生成することができる。
【0038】
更に、望ましい出力電圧と出力電流とを供給することに加えて、制御ユニット10によって操作される変換器1に対する従来の駆動方法は、スイッチングセル3の中のエネルギ蓄積部34、38をできる限り一定のエネルギレベル又は電圧レベルに維持する方式に従う。即ち、エネルギ蓄積部34、38にそれぞれ蓄積されるエネルギは、平均して一定を維持するか、又は、それぞれの静電容量エネルギ蓄積部34、38に対して設定されるエネルギ蓄積部の電圧は、ほぼ予め定められた変動範囲内で変化する。この場合に、制御ユニット10は、本質的に知られている方式のうちの1つの方式を使用する。この方式によって、静電容量エネルギ蓄積部34、38は、変換器のブランチ2に交流の極性(alternating polarity)で接続される。これは、このように静電容量エネルギ蓄積部34、38の充電と放電のサイクルを実行するために、スイッチングセル3の各々を流れる電流の極性を、ほぼ交互に反転させるか、又は、問題とされるブリッジブランチにかかる電圧差の方向に対して反対の極性を電流に与えることによって、ほぼ達成される。
【0039】
図1に示されている変換器1のトポロジは、単なる例である。上述の構造を、任意の望ましい数の入力Eと、任意の望ましい数の出力Lとに、任意の望ましいやり方で調整することができる。欠くことのできない特徴は、直列接続されている1つ以上のスイッチングセル3から構成されているブリッジブランチ2が、各入力と各出力との間に配置されていることである。
【0040】
入力及び出力の電圧と比較して、各スイッチングセル3に対する電圧の負荷は下がるので、各ブリッジブランチ2は、特に中電圧を与えるのに適した複数のスイッチングセル3を有することが好ましい。
【0041】
スイッチングセル3の各々は、監視ユニット39を更に有する。監視ユニット39は、故障の振る舞いを検出することができる。例えば、特に、IGBT電力半導体スイッチを使用する場合に、IGBTの非飽和が発生するかもしれない。IGBTの非飽和では、切り換えを行う状態におけるある特定の電流強度を基点として、それ以後、IGBT電力半導体スイッチの抵抗が急に増加する。このような非飽和が発生すると、IGBT又は他の回路部分の破壊を回避するために、問題とされるIGBTを直ちにオフに切り換えなければならない。
【0042】
IGBTは、複数マイクロ秒の短い期間は非飽和の発生に通常耐えることができる。従って、IGBTの非飽和が発生したときに、十分に速く確実に切断する必要がある。従って、スイッチングセルを非飽和について監視する監視ユニット39を、スイッチングセル3の中に備える。この目的のために、監視ユニット39は、スイッチングセル接続に与えられる電圧を監視し、電力半導体スイッチの1つ以上が切り換えられる時間窓外で、電圧変化、又は特定の電圧差を超える電圧変化が発生した場合に、故障と決定することができる。電力半導体スイッチ32、36のうちの1つが非飽和状態に入っている場合は、電力半導体スイッチ32、36のうちの1つ以上の切り換え動作以外で、スイッチングセル3の出力電圧が変化すると考えることができる。
【0043】
しかしながら、スイッチングセル3の外部における故障も、スイッチングセルの電圧の突然の変化又はIGBTの非飽和をもたらす可能性がある。これは、特に、入力、出力、及び/又は、入力と出力との間における、短絡であり得る。
【0044】
従来は、故障と決定されたスイッチングセル3のスイッチングセル接続Sを、トリガリング要素41を使って短絡させていた。トリガリング要素41は、例えば、サイリスタ回路、電気機械スイッチ、点火装置のスイッチ、又はブレークダウンした半導体コンポーネントの形態をとる。これらは、スイッチングセル3において識別された故障が、スイッチングセル3における故障として誤って解釈されていたことが、トリガリング後に確認された場合に、最早これらを容易に開くことができないという共通の特徴を有しており、その代わりに、外部の故障の原因に対して、監視ユニット39をトリガする。
【0045】
図3は、スイッチングセル3の監視ユニット39と、監視デバイス11とを示している。より詳しくは、監視デバイス11は、中央制御ユニット10の中に配置され得る。監視デバイス11は、複数のスイッチングセル3の監視ユニット39、好ましくは、スイッチングセル3の各々の監視ユニット39への通信リンクを有している。更に、監視デバイス11は、故障信号チャネル12を介して故障信号を得ることができる。更に、監視デバイス11は、トリガリング要素41をトリガして、問題とされるスイッチングセル3のスイッチングセル接続Sを短絡させるために、トリガリング信号を、トリガリング信号チャネル13を介して、対処されるスイッチングセル3の監視ユニット40のトリガリング要素41に送信することができる。
【0046】
故障信号とトリガリング信号は、多数の他の制御及び通知信号と共に、電気又は光学ディジタル通信リンクを介して送信され得る。
【0047】
監視ユニット39は、電圧検出ユニット42を有する。電圧検出ユニット42は、スイッチングセル3の出力線における電圧を監視する。電圧検出ユニット42は、ロジック「1」をANDゲート43の第1の接続に出力する。ANDゲート43の第1の接続は、制御信号G1、G2毎に備えられている。電力半導体スイッチ32、36を駆動する制御信号G1、G2は、制御ユニット10によってANDゲート43の第2の接続に与えられる。更に、電圧検出ユニット42は、制御ユニット10から制御信号G1、G2を受信し、電圧の検出をマスクし(mask)、その結果、IGBTが切り換えられる、切り換え時間窓中に、電圧を検出するのを防ぐ。問題とされるスイッチングセル3内の電力半導体スイッチ32、36が切り換えられない時間中か、又は切り換え時間窓の時間中に、電圧検出ユニット42は、例えば、問題とされるスイッチングセル3内の故障のために又は外部の故障の原因のために生じる電圧の変化を識別する。
【0048】
電圧変化、特に、所定の電圧変化の大きさを超える電圧変化が、電力半導体スイッチ32、36の切り換え時間窓外で確認された場合は、電圧検出ユニット42は、ロジック「0」を発生する。ロジック「0」は、ANDゲート43の第1の入力にそれぞれ与えられる。その結果、制御信号G1、G2はブロックされ、ロジック「0」は、問題とされるスイッチングセル3の電力半導体スイッチ32、36に与えられる。その結果、問題とされるスイッチングセル3は切断される。即ち、オフに切り換えられる。
【0049】
同時に、故障信号は、故障信号チャネル12を介して、中央監視デバイス11に送信される。第1の故障信号Fを受信すると、前記監視デバイスにおいてタイマ14がスタートされ、所定の時間中に別のスイッチングセル3から別の故障信号Fが受信されるかどうかを決定するために、監視が行われる。複数のスイッチングセル3のうちの別のスイッチングセル3から、別の故障信号Fが受信されると、外部の故障と推定され、特に、適切な制御信号G1、G2を供給することによりスイッチングセル3の中の全ての電力半導体スイッチ32、36をオフに切り換えることによって、変換器1を安全な状態にするように、制御ユニット10に命令する。この場合に、トリガリング要素41がトリガされることになることを示すトリガリング信号Aは送信されない。
【0050】
故障信号Fが最初に受信された後の所定の期間中に、他のスイッチングセル3のうちの1つから別の故障信号が受信されない場合は、故障信号Fを送信した監視ユニット39を有するスイッチングセル3に不調(malfunction)があると考えることができ、問題とされるスイッチングセル3のトリガリングユニット41に、トリガリング信号Aが送信される。この信号は、問題とされるスイッチングセル3のスイッチングセル接続Sを短絡させる。
【0051】
その代わりに、故障信号Fが最初に受信された後の所定の期間中に、他のスイッチングセル3のうちの1つから別の故障信号が受信された場合は、第1の故障信号を送信したスイッチングセル3以外に不調があると考えることができる。この場合は、応答として、複数のスイッチングセル3又は全てのスイッチングセル3のうちの、第1の故障信号を送信したスイッチングセル3の電力半導体スイッチ32、36をオフに切り換えてもよい。
【0052】
代わりの実施形態によると、スイッチングセルのうちの1つから故障信号Fが最初に受信された後で、所定の時間内に別の故障信号が受信されないならば、まず初めに適切な通信リンク(示されていない)を介して電圧検出ユニット42をリセットし、次に、スイッチングセル3を通常の動作に再びリセットするために、制御信号G1、G2を、問題とされるスイッチングセル3の電力半導体スイッチ32、36に再び与えるように対処してもよい。これは、1回又は数回のみ発生する短い干渉を回避することを可能にし、問題とされるスイッチングセル3を完全に切断する。故障信号Fを発生したスイッチングセル3における単発の故障(one-off fault)が、問題とされるスイッチングセル3の監視ユニット39によって、再び又は所定回数確認された場合のみ、トリガリング信号Aを、問題とされるスイッチングセル3のトリガリング要素41に送信することができる。
【符号の説明】
【0053】
1・・・変換器、2・・・変換器のブランチ、3・・・スイッチングセル、4・・・誘導コイル、10・・・制御ユニット、11・・・中央監視デバイス、12・・・故障信号チャネル、13・・・トリガリング信号チャネル、32、36・・・電力半導体スイッチ、33、37・・・フリーホイールダイオード、34、38・・・エネルギ蓄積部、39・・・監視ユニット、41・・・トリガリングユニット、42・・・電圧検出ユニット、
43・・・ANDゲート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
変換器を操作する方法であって、
前記変換器(1)は、複数のブリッジブランチ(2)を具備し、
前記複数のブリッジブランチ(2)は、直列接続された1つ以上のスイッチングセル(3)を有し、
各ブリッジブランチ(2)は、前記変換器(1)の複数の入力のうちの1つを複数の出力のうちの1つに接続し、
前記方法は、
故障を決定するために、前記1つ以上のスイッチングセル(3)の各々を監視するステップと、
前記1つ以上のスイッチングセル(3)のうちの1つにおいて故障が識別された場合に、前記1つのスイッチングセル(3)において識別された前記故障の後で、特に所定の期間内に、前記1つ以上のスイッチングセル(3)のうちの別の1つにおける故障を識別しないならば、複数のスイッチングセル接続を短絡させる複数のトリガリング要素(41)のうちの1つをトリガするステップと、
を含み、
ここで、前記1つのスイッチングセル(3)における故障の識別を、中央監視デバイス(11)に伝達し、
前記中央監視デバイス(11)におけるタイマをスタートさせ、
前記1つ以上のスイッチングセル(3)のうちの別の1つにおける故障の発生が、所定の期間が終了する前に伝達されるかどうかを決定するために、前記中央監視デバイス(11)においてチェックが行なわれ、
別のスイッチングセルにおける故障が、前記所定の期間中に伝達されない場合に、前記中央監視デバイス(11)は、前記1つのスイッチングセル(3)の関連するトリガリング要素をトリガする、方法。
【請求項2】
1つ以上の電力半導体スイッチ(32、36)は、切り換え時間窓の期間中に切り換わるように駆動され、
前記切り換え時間窓外における、前記1つ以上のスイッチングセル(3)で使用されているIGBTの非飽和が、前記1つ以上のスイッチングセル(3)のうちの1つにおける故障として識別されるように、前記1つ以上のスイッチングセル(3)を監視する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
1つ以上の電力半導体スイッチ(32、36)は、切り換え時間窓の期間中に切り換わるように駆動され、
前記切り換え時間窓外における、電圧の変化、特に、所定の電圧の大きさを超える電圧の変化が、前記1つ以上のスイッチングセル(3)のうちの1つにおける故障として識別されるように、前記1つ以上のスイッチングセル(3)を監視する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記1つ以上のスイッチングセル(3)のうちの特定の1つにおける故障の識別の後で、特に所定の期間中に、前記1つ以上のスイッチングセル(3)のうちの別の1つにおける故障を識別しないことが、前記特定の1つのスイッチングセル(3)に対して繰り返し発生する場合にのみ、スイッチングセル接続を短絡させる前記複数のトリガリング要素(41)のうちの1つをトリガする、請求項1乃至3の何れか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記1つ以上のスイッチングセル(3)のうちの1つにおいて故障が識別された後で、前記問題とされるスイッチングセル(3)の中の電力半導体スイッチ(32、36)の駆動を抑制し、特に、前記電力半導体スイッチ(32、36)をオフに切り換える、請求項1乃至4の何れか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記1つ以上のスイッチングセル(3)のうちの1つにおける故障の識別の後に、別のスイッチングセル(3)における故障を識別した場合に、複数の又は全てのスイッチングセル(3)の中の電力半導体スイッチ(32、36)をオフに切り換える、請求項1乃至5の何れか1項に記載の方法。
【請求項7】
1つ以上のハーフブリッジ回路とエネルギ蓄積部とを有する変換器(1)のためのスイッチングセル(3)であって、
監視ユニット(39)が、以下の目的、即ち、
−故障を決定するために、前記スイッチングセル(3)を監視し、
−故障が識別された場合に、前記故障の発生の指示を中央監視デバイス(11)に外部で提供し、
−前記故障の発生の指示に応答して、前記指示を外部で提供された前記中央監視デバイス(11)によって、トリガリング信号が受信された場合に、複数のスイッチングセル接続を短絡させるトリガリング要素(41)をトリガする目的で、
供給される、スイッチングセル(3)。
【請求項8】
入力電圧を出力電圧に変換するための、複数の入力と複数の出力とを有する変換器(1)であって、
−直列接続されている1つ以上のスイッチングセル(3)を有する複数のブリッジブランチ(2)と、
ここで、各ブリッジブランチは、前記複数の入力のうちの1つを前記複数の出力のうちの1つに接続する、
−故障を決定するように設計されている、前記1つ以上のスイッチングセル(3)の各々におけるそれぞれの監視ユニット(39)と、
−複数のスイッチングセル接続を短絡させるように設計されている、前記1つ以上のスイッチングセル(3)の各々におけるそれぞれのトリガリング要素(41)と、
−複数の前記監視ユニット(39)の各々への通信リンクを有する中央監視デバイス(11)であって、
前記複数の監視ユニット(39)のうちの1つにおいて識別された故障の指示を受信し、
1つのスイッチングセル(3)において故障が識別された後で、前記1つ以上のスイッチングセル(3)のうちの別の1つにおいて故障が識別されない場合に、複数の前記トリガリング要素(41)のうちの1つをトリガする、
ように設計されている、中央監視デバイス(11)と、
を具備する、変換器(1)。

【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−110960(P2013−110960A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−256215(P2012−256215)
【出願日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【出願人】(505063441)アーベーベー・テヒノロギー・アーゲー (96)
【Fターム(参考)】