説明

変調光デバイス

【課題】 構成材料に制限されない、作製プロセスがシンプルで、多用途に向き、高精度に制御可能な変調光デバイスを提供する。
【解決手段】 空領域103と1種類以上の物質よりなる周期構造107と、前記周期構造107の空領域103の少なくとも一部に導入することのできる微小構造105を1つ以上備えたユニット106と、前記ユニット106または前記微小構造105と前記周期構造107を相対的に駆動、制御することができる駆動制御機構機構とを備える変調光デバイス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は変調光デバイスに関し、特に微細光素子や微細光回路などの分野の変調光デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
周期構造を構成する材料の屈折率などの特性を変調することによりスイッチングを行うためのデバイスなどが提案されている。例えば、特許文献1では、線欠陥をもった2次元スラブ光導波路の欠陥部分の屈折率を電界により変調することにより、伝播光のスイッチングを行う素子が提案されている。
【0003】
また、特許文献2では、周期構造からなる光素子の全体に電界を印加することにより、周期構造を構成する材料の屈折率を変調して、光スイッチングを行う素子が提案されている。さらに、特許文献3では、1次元周期構造に欠陥を設け、欠陥部分を光吸収部材で構成し、この欠陥部にスイッチング光を当てることにより欠陥部分の物性を変化させて1次元周期構造中の伝播光をスイッチするための素子が提案されている。
【特許文献1】特開2003−303836号公報
【特許文献2】特開2003−215646号公報
【特許文献3】特開2003−186068号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、周期構造の屈折率を変調する場合、電界による屈折率変化量は主な物質においてそれほど大きなものではなく、ある程度大きく変化する物質を考慮すると材料の種類が限られてしまう。また、電極を別工程で作製するため周期構造の一部に局所的に精度よく電界を印加することは困難であり、非周期性領域をもたない周期構造に微細な非周期性を別プロセスで高精度にもたせることは難しい。また、光により周期構造の一部の領域の物性を変化させる場合、部分的に光吸収部材を用いる制限が生じたり、局所的に光吸収部材を導入することが困難であることなどの課題が存在する。
【0005】
本発明は、この様な背景技術に鑑みてなされたものであり、構成材料に制限されない、作製プロセスがシンプルで、多用途に向き、高精度に制御可能なデバイスを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明は、周期構造と、前記周期構造の微小部分との距離が制限される一つ以上の微小構造を有するユニットを備えていることを特徴とする変調光デバイスである。
前記周期構造が少なくとも1つ以上の空領域を有し、前記空領域に出し入れすることのできる少なくとも1つ以上の微小構造を有するユニットとを備えていることが好ましい。
【0007】
前記周期構造の一部が周期構造の周期性を乱す欠陥構造からなり、前記周期構造が非周期性を有することが好ましい。
前記周期構造が複数の欠陥構造を有しており、前記複数の欠陥構造が同一ではないことが好ましい。
【0008】
前記周期構造と前記微小構造の少なくともどちらか一方が、非線形光学材料を有することが好ましい。
前記周期構造と前記微小構造の少なくともどちらか一方が、発光材料を有することが好ましい。
【0009】
前記微小構造と前記周期構造を相対的に変位させる駆動機構と含むことが好ましい。
前記駆動機構が圧電素子によりなる機構を含むことが好ましい。
前記駆動機構が、流体を用いた機構を含むことが好ましい。
【0010】
前記駆動機構が、静電駆動機構を含むことが好ましい。
前記ユニットが複数の微小構造を備えており、前記複数の微小構造のうち少なくとも一つの微小構造の特性が、他の微小構造とは異なることが好ましい。
【0011】
複数の微小構造と、前記複数の微小構造をそれぞれ独立に駆動することができる駆動機構を複数備えていることが好ましい。
本発明は、上記課題を解決するために空領域と1種類以上の物質よりなる周期構造と、前記周期構造をなす前記空領域の少なくとも一部に導入することのできる微小構造を1つ以上備えたユニットと、前記ユニットまたは前記微小構造と前記周期構造を相対的に駆動、制御することができる駆動制御機構機構とを備えることを特徴とする、構成する材料の制限が広く、また作製プロセスがシンプルで、高精度に制御可能な、変調光デバイスを提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の変調光デバイスにより、構成材料に制限されない、作製プロセスがシンプルで、多用途に向き、高精度に制御可能なデバイスを実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、少なくとも一部に空領域を備えた周期構造と、前記周期構造が備える前記空領域の少なくとも一部に出し入れすることのできる微小構造を1つ以上備えたユニットと、前記微小構造と前記周期構造を相対的に変位させる駆動機構とを備えることを特徴とする、変調光デバイスを提供するものであり、本発明により材料に制限されない、作製プロセスがシンプルで、多用途に向き、高精度に制御可能なデバイスが実現できる。
【0014】
本発明における周期構造は、様々な材料で構成することが可能であり、本発明の変調光デバイスの用途に応じて、その材料を選択することが可能である。誘電体で本発明の周期構造を構成する場合、周期構造は少なくとも2種以上の誘電体により構成されており、各誘電体が1次元、2次元、または3次元方向に周期的に配列されることにより周期構造を構成している。また各誘電体が配列される周期は、デバイスに対し扱う光の波長に周期構造を構成する誘電体の屈折率を考慮したもののオーダーである。たとえば、SiとSiO2 の薄膜を1次元に周期的に並べた誘電体多層膜や、Siの微小柱をSiO2 中に周期的に配列させた2次元フォトニック結晶などのように固体材料だけで構成される周期構造が挙げられる。また、周期構造を構成する材料として流体を用いてもよく、たとえばGaAs薄膜に二次元周期性を有する複数の微小空孔を形成したフォトニック結晶や、水の中に3次元周期性を有するようにTiO2 を並べることにより、周期構造を構成することもできる。このような周期構造の例として、フォトニック結晶があげられる。このように流体を用いて周期構造を構成する場合、この流体部分を本発明における空領域とすることができる。
【0015】
さらに、本発明の周期構造を金属を用いて構成することもできる。たとえばAu薄膜に周期的に空孔を開けたプラズモニック結晶などがあげられ、その周期を周期構造の表面に誘起される表面プラズモンのモードに合わせることにより2次元のプラズモニック結晶を構成することができる。また、本発明における空領域とは、周期構造のうち固体部分ではない領域を称する。周期構造を構成する材料の1種として気体や液体などの流体を用いる場合、この流体の領域つまり固体ではない領域を指す。たとえば、前述したように水の中に3次元周期性を有するようにを並べることにより構成する周期構造の水の部分や、GaAs薄膜に二次元周期性を有する複数の微小空孔を形成することにより構成する周期構造の微小空孔部分などのことをいう。
【0016】
また本発明の変調光デバイスは、このように空領域を含む周期構造に対し、空領域の少なくとも一部に出し入れすることのできる微小構造を有するユニットを具備する。微小構造の材料としても、本発明の光変調デバイスの用途に応じてその材料を選択することが可能である。たとえば、GaAs基板上に半導体プロセスにより作製された微小円柱構造を微小構造とすることができる。空領域が周期性をなしていて、周期構造が非周期性を有していない場合、この微小構造を具備したユニットを周期構造中の空領域の少なくとも一部に導入することにより、周期構造に非周期性をあたえ、周期構造中を伝播する光の特性を制御することができる。
【0017】
ここで導入とは、周期構造中の空領域に微小構造を挿入すること、すなわち空領域の体積のうちの少なくとも一部を微小構造で満たすことを意味する。出し入れするという表現は、微小構造を空領域に導入したり、空領域に導入された微小構造を食う領域から抜き出したりすることを意味する。
【0018】
また、ユニットとは、微小構造を支持するものと微小構造をまとめて表現したもので、たとえばGaAs基板上に作製された微小円柱構造の場合、少なくとも微小円柱構造とGaAs基板をまとめて、ユニットと称する。さらに本発明の変調光デバイスは駆動機構を具備し、周期構造と微小構造との相対的な位置を制御することができる。駆動機構を用いることにより、周期構造の空領域中への微小構造の導入量を制御することができる。本明細書中で導入量とは、微小構造がどのくらい空領域に導入されているかの度合いを表現する言葉である。
【0019】
たとえば、図1のように、Si基板を加工した下基板101上に周期的に配列されたSi円柱102よりなる周期構造107に、支持部としてのSi基板104上に作製された円柱構造の微小構造105を具備するユニット106を対向させて構成した変調光デバイスの場合、図中の距離aと距離bを用いてb/aとして、微小構造の空領域103への導入量をあらわすことができる。
【0020】
また、駆動機構は周期構造と微小構造の相対的な位置を制御するものであって、周期構造の位置、微小構造の位置、ユニットの位置のいずれを駆動するものであってよい。また、その駆動方向は用途に応じて、1次元、2次元、3次元のいずれでもよい。このように、微小構造の形状や、周期構造の空領域中の微小構造の相対位置を制御することにより、周期構造に付与する非周期性を制御することができる。
【0021】
たとえば、周期構造がフォトニック結晶である場合、その中を伝播する光の伝播特性を制御することができる。特にフォトニックバンドギャップを有するフォトニック結晶を周期構造とした場合、様々な特性の欠陥モードを導入することができて、光の伝播特性を大きく制御できる。たとえば、フォトニックバンドギャップ中の欠陥モードを切り替えることにより、欠陥モードに対応した波長を持つ光をスイッチしたり、微小構造が発光材料を具備し欠陥領域をレーザとして構成する場合には、このレーザの発振波長を制御したりすることができる。微小構造は周期構造とは別工程で作製するため、様々な材料を用いて様々な形状の微小構造を作製することができ、周期構造の作製誤差を補正するように、別工程で精度よく作製できるため、高精度で多用途に利用できるデバイスを実現することができる。
【0022】
(非周期)
また、非周期性を有する周期構造を用いて本発明の変調光デバイスを構成することも可能である。周期構造を固体領域のみによって構成し、非周期領域だけに空領域を設けた構成とすることにより、固体領域からなる周期構造に空領域の非周期部分を具備させることができ、この空領域に微小構造を導入するものである。また、固体領域と空領域の周期配列により周期構造を構成して周期構造の一部分だけ周期をかえることにより、周期構造に非周期性を付与するための空領域を形成することができる。さらに、固体領域のみによって構成する前記した周期構造が少なくともその一部に空領域を有しており、空領域ではない固体領域のみによって構成されている部分に周期性を乱す非周期性を具備している場合も、本明細書における非周期性を有する周期構造に含まれる。また、このような非周期性を有する欠陥構造は、周期構造中に複数あってもよい。このように、周期構造に非周期性を与えることを兼ねる空領域をあらかじめ設けておくことにより、たとえばフォトニック結晶などの場合、あらかじめ周期構造が有する欠陥モードを微小構造の導入により、さらに変調することが可能である。
【0023】
(複数欠陥)
また、本発明の変調光デバイスを、周期構造が複数の欠陥を有し、複数の欠陥構造の特性のすべてが同一ではないように構成することができる。特にこれら複数の欠陥の特性が異なるように構成し、複数の微小構造を複数部分の空領域に導入することにより、周期構造中を伝播する光の特性をより複雑に制御することが可能であり、本デバイスひとつで、光回路などのキーデバイスを実現することが可能である。たとえばフォトニックバンドギャップを有するフォトニック結晶を例とした場合、周期構造中に複数の体積の異なる空領域を欠陥として配置することにより、フォトニックバンドギャップ内に複数の欠陥モードを存在させることができる。これら複数の空領域にそれぞれ対応する微小構造を導入したり抜き出したりすることにより、フォトニックバンドギャップ内の欠陥モードを独立にオン/オフすることができ、本デバイスにより多波長スイッチなどを構成することができる。ここで、複数の欠陥がすべて空領域によりなるものである必要もなく、複数の空領域にたいして、同様の特性を有する複数の微小構造を配置してもよい。
【0024】
(非線形光学材料)
また、本発明の変調光デバイスを、周期構造と微小構造の少なくともどちらか一方が、非線形光学材料を有するように構成することもできる。周期構造または微小構造のどちらが非線形光学材料を有する場合においても、周期構造中の欠陥モードを微小構造の導入量により制御することにより制御できるので、周期構造中を伝播する光と非線形光学材料における相互作用の強さや相互作用する光の波長を制御することができる。
【0025】
(発光材料)
また、本発明の変調光デバイスを、周期構造と微小構造の少なくともどちらか一方が、発光材料を有するように構成することもできる。たとえば、周期構造としてフォトニックバンドギャップを有するフォトニック結晶を用いた場合、微小構造の一部に発光材料を配置する構成が挙げられる。フォトニック結晶は誘電体薄膜に三角格子状に周期的に空孔を形成したものであるとする。複数の空孔のひとつに微小構造を導入することにより、フォトニックバンドギャップ中に欠陥モードを存在させることができ、導入量を制御することにより欠陥モードを変調することができる。
【0026】
周期構造中の微小構造を導入した部分は、周囲をフォトニックバンドギャップを有するフォトニック結晶に囲まれているため、微小共振器として機能する。導入される微小構造は発光材料を有しているため、共振器を精度よく作製すれば共振器内に閉じ込められた光により、レーザ発振を起こす。微小構造の導入量を変調することにより欠陥モードを変調し、レーザ発振波長を制御することができる、小型の波長可変レーザを実現することができる。とくに微小構造が発光材料を有する場合は、周期構造作製工程で発光材料を局所的に導入する必要がなく、微小構造作製プロセスで簡単に微小構造に導入することができる。
【0027】
(圧電)
また本発明の変調光デバイスに駆動機構を具備する場合、駆動機構が圧電素子によりなる機構を含むように駆動機構を構成することができる。圧電素子としては、たとえばピエゾ素子などが挙げられ、印加する電圧を制御することによりナノメートルレベルでの制御が可能となる。また周期構造と微小構造の相対的な駆動方向は1次元、2次元、3次元のいずれも駆動機構の構成により可能である。たとえば、薄膜状の周期構造に対して設けられた空領域中で、微小構造を薄膜の面に対して垂直方向に駆動しても、平行な方向に駆動しても欠陥モードを制御することができる。
【0028】
(流体)
また本発明の変調光デバイスに駆動機構を具備する場合、駆動機構が流体を用いた機構を含むように駆動機構を構成することができる。流体としては、空気などの気体やオイルなどの液体を用いる。たとえば、エアーシリンダーを用いた機構や、油圧方式の機構により駆動機構を構成し、周期構造と微小構造の相対的な位置を高精度に制御することができる。
【0029】
(静電)
また本発明の変調光デバイスに駆動機構を具備する場合、駆動機構が静電駆動機構を含むように駆動機構を構成することができる。静電駆動機構はマイクロメカニクス技術などで用いられている方式で、たとえば近接した1対の櫛歯電極の間の静電引力を利用して櫛歯間の距離を制御するものが挙げられる。櫛歯電極間に電圧を印加することでその間の静電引力を変化させて櫛歯間の距離を制御するので、高周波電圧による高速変調などが可能である。
【0030】
(複数微小構造)
また、本発明における少なくとも1つのユニットが複数の微小構造を備えており、複数の微小構造のうち少なくとも一つの微小構造の特性が、他の微小構造とは異なるように、変調光デバイスを構成することもできる。たとえば、形状と特性が異なる複数の微小構造を1つのユニットに備えさせることにより、2次元フォトニック結晶の中の同一形状の同一特性の複数の空領域に同時に、異なる複数の微小構造を導入することができる。複数の微小構造を導入する空領域が、周期構造が有する複数の光導波路中にある場合は光導波路中を伝播する複数の光の特性を同時に変化させることができる。また複数の微小構造の特性がそれぞれ異なるため、複数の光導波路を伝播する複数の光の波長をそれぞれ異なるものにすることができ、多波長の光を同時にスイッチングできる素子などを実現することができる。
【0031】
この場合、周期構造にあらかじめ欠陥構造などを作製しておく必要もなく、導入する微小構造を別工程で作製することにより、周期構造中に設ける欠陥モードを微小構造の特性により選択することができる。さらに、あらかじめ周期構造中に空領域によりなる複数の欠陥構造を作製しておき、そこに微小構造を導入することにより、欠陥モードを同時に制御することも可能である。
【0032】
また、本発明において、複数の微小構造と、複数の微小構造をそれぞれ独立に駆動することができる駆動機構を複数備えるように変調光デバイスを構成することができる。このような構成にすることにより、周期構造中に導入する微小構造の導入量や、周期構造と微小構造の相対的な位置をそれぞれ独立に制御することができ、たとえば周期構造がフォトニックバンドギャップを有するフォトニック結晶である場合、フォトニックバンドギャップ内の欠陥モードをそれぞれ独立に変調して制御することができる。さらに、それぞれの微小構造が発光材料を有している場合、波長可変かつ多波長レーザ素子などを実現することができる。複数の微小構造はひとつのユニットに配置されていても、複数のユニットに配置されていてもよく、ひとつのユニットに配置されている場合は、そのユニットに複数微小構造と周期構造との相対的な位置を独立に制御する機構が含まれているものとする。
【実施例】
【0033】
実施例1
本発明の変調光デバイスの実施例を図2から図5を用いて説明する。図2は本実施例に用いる周期構造の斜視図、図3は断面図を示す。
【0034】
周期構造201は厚さ約500マイクロメートルのSi基板202、厚さ約2マイクロメートルのSiO2 層203、厚さ約200ナノメートルのSi層204からなるSOI基板を用いて作製したものである。一般的にSOI基板のSiO2層、Si層はそれぞれBOX(埋め込み酸化)層、SOI(Silicon On Insulater)層と称される。
【0035】
本実施例ではSOI基板に電子線レジストを塗布し、EB(電子線)描画装置を用いてドットパターンの描画を行いレジストを現像する電子線リソグラフィー技術と、レジストパターンをマスクとしてのドライエッチング技術を用いることにより、SOI基板201のSOI層204に直径約200ナノメートル、高さ約200ナノメートルの複数の円柱空孔205を作製する。電子線描画の際に描画パターンを高精度に制御することにより、複数の円柱空孔はSOI層面に平行な2次元方向に周期約400ナノメートルの三角格子状の周期構造をなすように形成される。この構造は赤外光のある波長領域において、フォトニックバンドギャップを生じる2次元フォトニック結晶として機能する。
【0036】
本実施例では周期構造201とフォトニック結晶素子という表現を同一のものとして用いる。また、光が導波する部分は空孔を設けたSOI層204中である。本実施例では、三角格子状に並んだ空孔の周期構造において伝播方向がΓ−K方向でSOI層204面に対してTE偏光の光を扱う場合、波長約1400ナノメートルから約1600ナノメートルの波長領域にフォトニックバンドギャップを生ずる。つまりTE偏光でΓ−K方向に伝播するこの波長領域の波長を持つ光は本実施例の周期構造201内に存在することはできない。
【0037】
図4は本実施例に用いるユニットを表す図で、本実施例の周期構造と同様にSOI基板を用いて作製するものである。縦約1センチメートル、横約1センチメートルのユニットであり、厚さ約500マイクロメートルのSi基板402、厚さ約2マイクロメートルのSiO2 (BOX)層403を支持基板として、Si(SOI)層を加工して作製した直径約150ナノメートル、高さ約500ナノメートルの微小構造404を具備するユニットが401である。
【0038】
図5は本実施例の変調光デバイスを示す図で、ユニット401は駆動機構501に支持され、フォトニック結晶素子201は駆動機構501の具備するピエゾステージ502に支持されている。駆動機構によりピエゾステージ502を駆動することにより、ユニット401が具備する微小構造404の、フォトニック結晶素子201に対する相対的な位置を制御することができる。つまり、微小構造404のフォトニック結晶素子201の有する1つの空孔内への導入量を制御できる。
【0039】
本実施例において、フォトニック結晶素子201の駆動方向はフォトニック結晶素子の面に垂直な1次元方向とするので、図1に示したb/aを導入量とする。SOI層204面に対してTE偏光でフォトニック結晶の周期構造に対してΓ−K方向に伝播する光を扱うとして、本実施例に用いるフォトニック結晶はある波長領域においてフォトニックバンドギャップを有するが、駆動機構501によりb/aを変化させてやることにより、フォトニックバンドギャップ内に欠陥準位を生じることができさらに欠陥準位の波長を変化させることができる。つまり、b/aが0の時にはフォトニック結晶素子201を透過することができなかった波長の光がb/a>0とすることにより、透過することができるようになる。b/aの値によりフォトニック結晶中に形成される欠陥構造部分503での欠陥モードは変化するので、透過できる光の波長はb/aの値により変化する。さらには、b/aの値を0と1とで切り替えることにより、b/aが1の時に透過できるようになる波長の光をオン・オフでスイッチングすることができる。本実施例の変調光デバイスにより、波長選択フィルターや光スイッチを実現することができる。
【0040】
実施例2
図6は、実施例1に用いたフォトニック結晶素子201を用いて構成した実施例2の変調光デバイスを表す図であり、ひとつのユニット601に約320ナノメートルの間隔で1次元的に微小構造404と同様の形状、材質の複数の微小構造602を設けてある。ユニット601の具備する微小構造602はすべて同一のものである。駆動機構も実施例1に用いたものと同様のもので、駆動機構501に支持された複数のユニット601および微小構造602に対して相対的に、ピエゾステージ502を1次元的に駆動して複数の微小構造602のフォトニック結晶素子のフォトニック結晶部の空孔への導入量を制御する。複数の微小構造602を設けることにより複数欠陥の共鳴増強効果が生じ、フォトニックバンドギャップ内の波長の光を入射した場合、この光の透過率を向上させることができる。つまり、性能の高い光スイッチを実現することができる。
【0041】
実施例3
本実施例は、波長変換素子の実施例を説明するものである。図7は、本実施例の変調光デバイスを表す説明図である。
【0042】
図7中701は、TiO2 をEBリソグラフィー技術とエッチングプロセス技術を用いて作製した1次元フォトニック結晶で、厚さ約400ナノメートル、幅約3マイクロメートルの光導波路に導波路方向に周期性を持つように空孔による周期構造が設けてある。2次元のフォトニック結晶と同様に1次元のフォトニック結晶においてもフォトニックバンドギャップに相当するストップバンドが生じる。また、対向するように微小構造703を配置してある。微小構造は実施例1、2と同様に実際にはユニットの支持部に結合されているが図では、省略してある。微小構造は非線形材料であるLN(LiNbO3 )部分704とガラス部分705からなる。本実施例では、微小構造703のLN部分704をフォトニック結晶701の1つの空孔702に導入することで、フォトニック結晶701のストップバンド中に欠陥準位を生じさせることができる。
【0043】
微小構造703を導入した空孔付近はフォトニック結晶701全体に対して欠陥構造となる。ストップバンド中の欠陥準位の波長に相当する波長を持つ光をフォトニック結晶701に入射すると、その光は欠陥構造付近において共振することになり、この欠陥構造付近にLNなどの非線形光学材料が存在すると共振する光と非線形材料の間で相互作用が起こる。微小な領域に光を閉じ込めて相互作用させることができるので、実質的な相互作用の強さを増強することができる。つまり、本実施例の形態により効率のよい、小型な波長変換素子が実現できる。
【0044】
実施例4
図8は本実施例において用いる周期構造を有する素子801を示すものである。素子801は厚さ約500マイクロメートルのGaAs基板802上に、光のクラッド層803として厚さ約2マイクロメートルのAl0.35Ga0.65Asと、光を閉じ込めて伝播させるためのコア層804として厚さ約500ナノメートルのAl0.1 Ga0.9 Asをエピタキシャル成長法により成膜したものの、コア部804とクラッド部803を反応性イオンビームエッチング法により加工したものである。コア部804およびクラッド部803は図のように幅約3マイクロメートルの光の入射導波路805と幅約3マイクロメートルの光の出射導波路806がパターにングされており、805と806の間にフォトニック結晶構造を有する。807はフォトニック結晶領域を形成するために必要な領域で、入射導波路と出射導波路の間にあり幅約10マイクロメートルでパターニングされている。
【0045】
図9に本実施例に用いるフォトニック結晶構造を図式化する。フォトニック結晶は、領域807のうち入射導波路805と出射導波路806との間の領域に作製されており、コア層804に三角格子状に周期的に空孔901を作製したものである。空孔901よりなる周期構造の周期は約400ナノメートルで、このときのAir Filling Factorが0.41となるように、空孔901の直径を制御してある。また、この周期構造中に1箇所まわりの空孔901の直径より大きな直径を有する欠陥空孔902を作製してある。欠陥空孔902はフォトニック結晶903の全体の周期構造に対して欠陥として機能する。
【0046】
フォトニック結晶903は、波長約900ナノメートルから1000ナノメートル付近の波長を有し、素子の面に対してTM偏光を有し、フォトニック結晶のΓ−M方向に対して伝播する光に対して、フォトニックバンドギャップを有する。つまり、このような光は本来このフォトニック結晶を透過することはできないが、本実施例においてはフォトニック結晶中に欠陥空孔902が存在するため、フォトニックバンド中のある波長領域に欠陥準位を持つことができる。これは、欠陥空孔902に光が局在するときのモードにより決まり、欠陥空孔902の大きさを変えることにより、変化させることができる。本実施例では、このようなパターン図8中のように3つ並列に並べた素子801を用いる。素子801中の3つの光入出力部分およびフォトニック結晶部分の構造はすべて同様のものとする。図10に本実施例のデバイスの全体図を示す。
【0047】
図10は図8の素子801のA−Bにおける断面図である。3つのフォトニック結晶領域に対向させて駆動機構1005、1006、1007に支持された3つのユニット1001、1010、1011が配置されている。各ユニットは微小構造を有しておりそれぞれの微小構造は構造、特性ともに同様のものである。ユニット1001を例にして、その微小構造は発光材料または利得材料部分1004と支持部1003からなる。発光材料部分または利得材料部分は、本実施例のフォトニック結晶のフォトニックバンドギャップ付近の波長に対して利得作用があるもので、AlGaAs材料を用いて作製してある。また、支持部は発光材料または利得材料部分とはその組成を変えたAl0.35Ga0.65Asにより作製されている。3つの微小構造は、駆動機構1005、1006、1007により3つのフォトニック結晶領域に存在する同様な欠陥空孔902、1008と1009に導入することができる。
【0048】
また、各駆動機構は3次元に対応したピエゾ素子が組み込まれており、1次元だけでなく3次元方向にユニットをナノメートルオーダーで駆動することができる。このことにより、3つのフォトニック結晶の3つの欠陥空孔の欠陥モードを独立に制御することが可能で、これはフォトニックバンドギャップの中の欠陥準位の波長をそれぞれ独立に制御することができることを意味する。
【0049】
フォトニック結晶中でのこのような欠陥は微小共振器として機能し、本実施例のように欠陥構造の中に発光材料を導入することができる場合、レーザ発振が可能となる。例えばフォトニックバンドギャップ外の波長有するNd:YAGレーザの2倍波を入射導波路からフォトニック結晶部分に導入すると微小構造の発光材料部分が励起されて発光が起こる。発光により放出した光は、フォトニックバンドギャップ内の波長であるので、欠陥構造部分に閉じ込められて共振する。結果的に発光材料部分を導入した欠陥構造部分でレーザ発振を起こすことができる。本実施例のデバイスでは3つの欠陥構造における欠陥モードを独立に制御することができるので、波長可変かつ集積化された微小レーザを実現することができる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の変調光デバイスは、構成材料に制限されない、作製プロセスがシンプルで、多用途に向き、高精度に制御可能なデバイスを実現することができるので、光スイッチ、波長可変光源、フィルター等に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の変調光デバイスの一例を示す説明図である。
【図2】実施例1に用いる周期構造を表す斜視図である。
【図3】実施例1に用いる周期構造を表す概略図である。
【図4】実施例1に用いるユニットを表す概略図である。
【図5】実施例1の変調光デバイスを表す概略図である。
【図6】実施例2の変調光デバイスを表す概略図である。
【図7】実施例3の変調光デバイスを表す概略図である。
【図8】実施例4に用いる素子を表す概略図である。
【図9】実施例4に用いる周期構造を表す概略図である。
【図10】実施例4の変調光デバイスを表す概略図である。
【符号の説明】
【0052】
101 下基板
102 Si円柱
103 空領域
104 Si基板
105 微小構造
106 ユニット
107 周期構造
201 周期構造
202 Si基板
203 SiO2 層(BOX層)
204 Si層(SOI層)
205 円柱空孔
401 ユニット
402 Si基板
403 SiO2 層(BOX層)
404 微小構造
501 駆動機構
502 ピエゾステージ
503 欠陥構造部分
601 ユニット
602 微小構造
701 フォトニック結晶
702 空孔
703 微小構造
704 LN(LiNbO3 )部分
705 ガラス部分
801 素子
802 GaAs基板
803 クラッド層
804 コア層
805 入射導波路
806 出射導波路
807 領域
901 空孔
902 欠陥空孔
903 フォトニック結晶
1001 ユニット
1002 下基板
1003 支持部
1004 発光材料部分または利得材料部分
1005 駆動機構
1006 駆動機構
1007 駆動機構
1008 欠陥空孔
1009 欠陥空孔
1010 ユニット
1011 ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周期構造と、前記周期構造の微小部分との距離が制限される一つ以上の微小構造を有するユニットを備えていることを特徴とする変調光デバイス。
【請求項2】
前記周期構造が少なくとも1つ以上の空領域を有し、前記空領域に出し入れすることのできる少なくとも1つ以上の微小構造を有するユニットとを備えていることを特徴とする請求項1に記載の変調光デバイス。
【請求項3】
前記周期構造の一部が周期構造の周期性を乱す欠陥構造からなり、前記周期構造が非周期性を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の変調光デバイス。
【請求項4】
前記周期構造が複数の欠陥構造を有しており、前記複数の欠陥構造が同一ではないことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかの項に記載の変調光デバイス。
【請求項5】
前記周期構造と前記微小構造の少なくともどちらか一方が、非線形光学材料を有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかの項に記載の変調光デバイス。
【請求項6】
前記周期構造と前記微小構造の少なくともどちらか一方が、発光材料を有することを特徴とする、請求項1乃至5のいずれかの項に記載の変調光デバイス。
【請求項7】
前記微小構造と前記周期構造を相対的に変位させる駆動機構と含むことを特徴とする請求項1乃至6のいずれかの項に記載の変調光デバイス。
【請求項8】
前記駆動機構が圧電素子によりなる機構を含むことを特徴とする請求項7に記載の変調光デバイス。
【請求項9】
前記駆動機構が、流体を用いた機構を含むことを特徴とする請求項7に記載の変調光デバイス。
【請求項10】
前記駆動機構が、静電駆動機構を含むことを特徴とする請求項7に記載の変調光デバイス。
【請求項11】
前記ユニットが複数の微小構造を備えており、前記複数の微小構造のうち少なくとも一つの微小構造の特性が、他の微小構造とは異なることを特徴とする請求項1乃至10のいずれかの項に記載の変調光デバイス。
【請求項12】
複数の微小構造と、前記複数の微小構造をそれぞれ独立に駆動することができる駆動機構を複数備えていることを特徴とする請求項1乃至11のいずれかの項に記載の変調光デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−220970(P2006−220970A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−34993(P2005−34993)
【出願日】平成17年2月10日(2005.2.10)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】