説明

変速機の同期装置

【課題】簡単な構造で製造コストの増加を招くことなくボークリングの振動や摩耗及びドラッグトルクの発生が防止できる変速機の同期装置を提供する。
【解決手段】第1、第2ボークリング20の各アウターリング31、41に形成して係合溝35、45とキースプリング50に形成した第1付勢力付与部55、第2付勢力付与部56によって第1、第2ボークリングのテーパーコーン面39、49を第1、第2ギヤ20、25のテーパーコーン面21、26から引き離す方向に付勢する力を発生させる第1、第2離反力発生手段61、62を構成する。
ニュートラル状態におけるドラッグトルクの発生が防止されて燃費の向上が得られる。第1、第2ボークリング30、40のテーパーコーン面39、49の摩耗が防止され、更に第1、第2ボークリング30、40の振動が抑制されて騒音発生が防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変速機の同期装置に関し、特にシンクロスリーブと、ボークリングと被同期回転体を備え、シンクロスリーブの移動によりシフトポジションを選択する変速機の同期装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の変速機の同期装置は、シフトレバーの操作或いはアクチュエータによりシンクロスリーブを移動させてボークリングを押すことにより、ボークリングのテーパーコーン面と被同期回転体であるギヤのテーパーコーン面との間に同期摩擦トルクが発生し、シンクロスリーブとギヤの回転数が同期した後にシンクロスリーブのスリーブスプラインとギヤのギヤスプラインを係合させてシフトポジジョンを選択するものである。
【0003】
しかし、シフトポジジョンが選択されていない、いわゆるニュートラル状態においてボークリングが振動して騒音発生の要因となる。また、ボークリングのテーパーコーン面がギヤのテーパーコーン面に接触してドラッグトルクが発生してトルクロスとなり燃費の低下することが懸念される。更に、リン青銅等によって形成されたボークリングのテーパーコーン面がギヤのテーパーコーン面に引きずられてフリクションが発生することでボークリングのテーパーコーン面が摩耗するという不具合がある。
【0004】
このボークリングの振動やボークリングのテーパーコーン面の摩耗を抑制する変速機の同期装置が種々提案されている。例えば、特許文献1の変速機の同期装置は、図12に要部を示すようにギヤ101のテーパーコーン面102とクラッチギヤ部103との間に、外筒106等に保持されてスプリング107によってボール108をボークリング120の背面121に押圧する圧接ボール部材105を設け、圧接ボール部材105によりボークリング120のテーパーコーン面122をギヤ101のテーパーコーン面102から引き離す方向に力を発生させるように構成する。
【0005】
これにより、ニュートラル状態においてボークリング120のテーパーコーン面122がギヤ101のテーパーコーン面102から引き離されてテーパーコーン面122の摩耗が防止できると共に、ボークリング120の振動が防止できる。
【0006】
【特許文献1】特開2005−163833号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1によると、ギヤ101にボークリング120を押圧してボークリング120のテーパーコーン面122をギヤ101のテーパーコーン面102から引き離す圧接ボール部材105を備えることから、ニュートラル状態においてボークリング120のテーパーコーン面122がギヤ101のテーパーコーン面102から引き離されてボークリング120のテーパーコーン面122の摩耗が防止できると共に、ボークリング120の振動が防止できる。
【0008】
しかし、ギヤ101に設けられた圧接ボール部材105のボール108がボークリング120の背面121に常時押圧されることから変速操作荷重が増大して操作性の低下が懸念される。また、ギヤ101に設けられた外筒106等に保持されたボール108をスプリング107によってボークリング120の背面121に押圧する圧接ボール部材105は構造が複雑で、かつ設置スペースが限定されるギヤ101とボークリング120との間に配設することは極めて困難であると共に、製造コストの増大を招く要因となる。
【0009】
更に、ギヤ101に設けられた圧接ボール部材105のボール108がボークリング120の背面121に常時押圧されることから、ドラッグトルクが発生してトルクロスとなり燃費の低下することが懸念される。
【0010】
従って、かかる点に鑑みなされた本発明の目的は、簡単な構造で製造コストの増加を招くことなくボークリングの振動や摩耗及びドラッグトルクの発生が防止できると共に、操作荷重の増加を招くことなく良好な操作性が確保できる変速機の同期装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成する請求項1に記載の変速機の同期装置の発明は、回転軸に取り付けられたシンクロナイザハブと、該シンクロナイザハブの外周に軸方向に移動可能にスプライン嵌合されたシンクロスリーブと、上記回転軸に回転自在に支持された被同期回転体と、上記シンクロナイザハブと被同期回転体の間に配置されたボークリングとを有し、上記シンクロスリーブの中立位置から軸方向への移動に伴ってシンクロスリーブによって上記ボークリングを押動してボークリングのテーパーコーン面と被同期回転体のテーパーコーン面との圧接により同期作動が開始され、同期作動完了後に上記シンクロスリーブと被同期回転体とが係合する変速機の同期装置において、上記被同期回転体のテーパーコーン面からボークリングのテーパーコーン面を引き離す方向にボークリングを付勢する離反力発生手段を上記ボークリングとシンクロスリーブとの間に備えたことを特徴とする。
【0012】
この発明によると、ボークリングとシンクロスリーブとの間に、ボークリングのテーパーコーン面を被同期回転体のテーパーコーン面から引き離す方向にボークリングを付勢する離反力発生手段を備えることから、ニュートラル状態において離反力発生手段によりボークリングのテーパーコーン面が被同期回転体のテーパーコーン面から引き離され、ドラッグトルクの発生が防止されてトルクロスが抑制され、燃費の向上が得られる。更に、ボークリングのテーパーコーン面が被同期回転体のテーパーコーン面に引きずられて発生するフリクションがなくなりボークリングのテーパーコーン面の摩耗が防止される。また、ボークリングとシンクロスリーブとの間に配設された離反力発生手段によってボークリングの振動が抑制されてボークリングの振動に起因する騒音発生が防止できる。
【0013】
更に、ボークリングとシンクロスリーブとの間に離反力発生手段を配置することから離反力発生手段に影響されることなく変速操作荷重が増加することなく、良好な操作性が確保できる。
【0014】
請求項2に記載の発明は、請求項1の変速機の同期装置において、上記離反力発生手段は、上記ボークリングに形成された当接面と、上記シンクロスリーブに保持されて上記シンクロスリーブの中立位置から軸方向への移動に伴ってボークリングを押動するキースプリング本体及び該キースプリング本体に延設されて上記当接面に押接する付勢力付与部を有するキースプリングと、を備え、該当接面に押圧する付勢力付与部によって上記ボークリングのテーパーコーン面を被回転体のテーパーコーン面から引き離す方向の付勢力がボークリングに付与されることを特徴とする。
【0015】
この発明によると、ボークリングに形成された当接面と、キースプリング本体に延設されて当接面に押圧する付勢力付与部によって離反力発生手段が構成されることから、既存のボークリング及びキースプリングの少ない変更により離反力発生手段が形成され、既存の同期装置を大きく変更することなく構成部品の増加及び複雑化を招くことなく品質の信頼性が確保できると共に、製造コストの抑制が図れる。
【0016】
請求項3に記載の発明は、請求項1の変速機の同期装置において、上記離反力発生手段は、上記ボークリングに形成された上記シンクロナイザハブ側から被同期回転体側に移行するに従って上記回転軸の回転中心軸から漸次離れるように傾斜した底部を有する係合溝と、シンクロスリーブに保持されて上記シンクロスリーブの中立位置から軸方向への移動に伴ってボークリングを押動するキースプリング本体及び該キースプリング本体に延設されて上記係合溝内に進入すると共に先端に形成された当接部が上記底部に押圧する付勢力付与部を有するキースプリングとを備えたことを特徴とする。
【0017】
請求項4に記載の発明は、請求項1の変速機の同期装置において、上記離反力発生手段は、上記ボークリングに形成されたシンクロナイザハブ側から被同期回転体側に移行するに従って互いに離反する一対の側面を有する係合溝と、シンクロスリーブに保持されて上記シンクロスリーブの中立位置から軸方向への移動に伴ってボークリングを押動するキースプリング本体及び該キースプリング本体に延設されて上記係合溝内に進入すると共に先端に形成されたそれぞれの当接部が上記各側面に押圧する一対の付勢力付与部を有するキースプリングとを備えたことを特徴とする。
【0018】
請求項3及び請求項4は、請求項2において離反力発生手段を構成するボークリング及びキースプリングの具体的構成を示すもので、離反力発生手段がボークリングに形成した係合溝と、キースプリング本体に一体的に形成した付勢力付与部によって容易に構成できる。
【発明の効果】
【0019】
この発明によると、ボークリングとシンクロスリーブとの間に離反力発生手段を備えることで、ニュートラル状態におけるドラッグトルクの発生が防止されてトルクロスが抑制されて燃費の向上が得られる。更に、被同期回転体のテーパーコーン面に引きずられて発生するフリクションがなくなりボークリングのテーパーコーン面の摩耗が防止される。また、ボークリングの振動が抑制されてボークリングの振動に起因する騒音発生が防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明に係る変速機の同期装置の実施の形態を図を参照して説明する。
【0021】
(第1実施の形態)
図1乃至図6を参照して第1実施の形態を説明する。
【0022】
図1は、本実施の形態に係る変速機の同期装置を示す要部断面図、図2は図1のA部拡大図、図3は要部分解斜視図、図4は図1のB方向から見た図の要部を平面状に展開した図である。
【0023】
本実施の形態における同期装置は、トリプルコーン型同期装置であって、図1及び図2に示すように回転軸となるシャフト1に組み付けられたシンクロナイザハブ10と、シンクロナイザハブ10の外周に軸方向に移動可能にスプライン嵌合するシンクロスリーブ15と、シャフト1にシンクロナイザハブ10を介して両側に回転自在に組み付けられた被同期回転体となる第1ギヤ20及び第2ギヤ25と、シンクロナイザハブ10と第1ギヤ20との間に配置された第1ボークリング30と、シンクロナイザハブ10と第2ギヤ25との間に配置された第2ボークリング40と、キースプリング50とを備えている。なお、Lはシャフト1の回転中心軸を示す。
【0024】
シャフト1は、例えばエンジンからの回転駆動力が入力される軸部材であり、シャフト1にはシンクロナイザハブ10がスプライン嵌合され、シンクロナイザハブ10の両側に第1ギヤ20と第2ギヤ25が回転自在に組み付けられる。
【0025】
シンクロナイザハブ10は、内周がシャフト1の外周にスプライン嵌合し、図3に示すように外周に等間隔でキー溝11が複数、例えば3個のキー溝11が形成され、これら3個のキー溝11を除き全外周に亘って軸方向に延在する複数のスプライン溝12が形成される。
【0026】
シンクロスリーブ15は、外周に図示しないシフトフォークが嵌着するフォーク溝16が形成された変速操作荷重の入力部材であり、内周にシンクロナイザハブ10のスプライン溝12に嵌合する複数のスリーブスプライン17が軸方向に延在して形成され、各スリーブスプライン17の各端にそれぞれチャンファ17a、17bが形成される。
【0027】
第1ギヤ20は、ベアリング24を介してシャフト1に回転自在に組み付けられてシンクロナイザハブ10に対して相対回転可能に支持されている。第1ギヤ20のシンクロナイザハブ10側の端部に後述する第1ボークリング30を構成するインナリング37のテーパーコーン面39と圧接して摩擦係合するテーパーコーン面21及びダブルコーン36の突部36cを保持する係合穴22が形成されている。更に第1ギヤ20にはシンクロスリーブ15の内周に形成されたスリーブスプライン17のチャンファ17aと対向するチャンファ23aを有する複数のギヤスプライン23を有する。
【0028】
第2ギヤ25は、ベアリング29を介してシャフト1に回転自在に組み付けられてシンクロナイザハブ10に対して相対回転可能に支持されている。第2ギヤ25のシンクロナイザハブ10側の端部に後述する第2ボークリング40を構成するインナリング47のテーパーコーン面49と摩擦係合するテーパーコーン面26及びダブルコーン46の突部46cを保持する係合穴27が形成されている。更に第2ギヤ25にはシンクロスリーブ15の内周に形成されたスリーブスプライン17のチャンファ17bと対向するチャンファ28aを有する複数のギヤスプライン28を有する。
【0029】
第1ボークリング30は、シンクロナイザハブ10と第1ギヤ20との間に配置されたアウターリング31、ダブルコーン36、及びインナリング37によって構成される。
【0030】
アウターリング31は、図2及び図3に示すと共に、図5(a)に正面図を示し、同図(b)に(a)のC−C線断面図を示すように、内側端面31aがシンクロナイザハブ10の側面と対向すると共に外側端面31bが第1ギヤ20と対向する略円筒状で、内周面にテーパーコーン面32を有し、外周に等間隔で内側端面31aから外側端面31bに亘って連続する断面コ字状の3個の突起部33が形成される。各突起部33の幅はシンクロナイザハブ10のキー溝11の幅より所定値だけ小さく設定されていて、キー溝11に遊びをもって嵌合可能に形成される。
【0031】
外周面の外方端縁、即ち外側端面31bに沿って突起部33の3箇所を除いてシンクロスリーブ15に形成されたスリーブスプライン17のチャンファ17aと対向するチャンファ34aを有する複数のボークスプライン34が突設されている。
【0032】
各突起部33に対応して内周面に平坦な当接面となる底面35aが内側端面31a側から外側端面31b側に移行するに従って回転中心軸Lから離れるように傾斜する断面略コ字形の係合溝35が軸方向に延在して形成される。このアウターリング31は既存のアウターリングに係合溝35を形成した形状であり、既存のアウターリングの基本形状を大きく変更することなく簡単な形状変更であり、品質等の信頼性に優れると共に製造コストの増大が抑制できる。
【0033】
アウターリング21の係合溝35と後述するキースプリング50によって第1ボークリング30とシンクロスリーブ15との間にインナリング37のテーパーコーン面39を第1ギヤ20のテーパーコーン面21ら引き離す方向に付勢する第1離反力発生手段61を構成する。
【0034】
ダブルコーン36の第1ギヤ20の側端部には軸方向に突出する突部36cが形成されて、この突部36cが第1ギヤ20に形成された係合穴22内に遊びをもって配置されてダブルコーン36は第1ギヤ20と一体的に回転する。更に、ダブルコーン36の外周面にアウターリング31のテーパーコーン面32と圧接して摩擦係合するテーパーコーン面36aが形成され、内周面にテーパーコーン面36bが形成されている。
【0035】
インナリング37は、円筒状でその外周面にダブルコーン36のテーパーコーン面36bと摩擦係合するテーパーコーン面38が形成され、内周面に第1ギヤ20に形成されたテーパーコーン面21と圧接して摩擦係合するテーパーコーン面39が形成されている。
【0036】
なお、アウターリング31とインナリング37とは、互いに軸方向に若干変移可能で、かつ一体的に回転するように構成されている。具体的には、アウターリング31のシンクロナイザハブ10側の端部にシャフト中心方向に突出形成された爪部と、インナリング37のシンクロナイザハブ10側の端部に形成した軸方向に延在する凹部とが軸方向に移動可能に係合する。
【0037】
第2ボークリング40は、シンクロナイザハブ10と第2ギヤ25との間に配置されたアウターリング41、ダブルコーン46、及びインナリング47によって構成される。
【0038】
アウターリング41は、内側端面41aがシンクロナイザハブ10の側面と対向すると共に外側端面41bが第2ギヤ25と対向する略円筒状で、内周面にテーパーコーン面42を有し、外周に等間隔で内側端面41aから外側端面41bに亘って連続する断面コ字状の3個の突起部43が形成され、各突起部43のキー溝11に遊びをもって嵌合可能に形成される。
【0039】
外周面の外側端面41bに沿ってシンクロスリーブ15に形成されたスリーブスプライン17のチャンファ17bと対向するチャンファ44aを有する複数のボークスプライン44が突設されている。
【0040】
各突起部43に対応して内周面に平坦な当接面となる底面45aが内側端面41a側から外側端面41b側に移行するに従って回転中心軸Lから離れるように傾斜する断面略コ字形の係合溝45が軸方向に延在して形成される。
【0041】
アウターリング41の係合溝45と後述するキースプリング50によって第2ボークリング40とシンクロスリーブ15との間にインナリング47のテーパーコーン面49を第2ギヤ25のテーパーコーン面26から引き離す方向に付勢する第2離反力発生手段62を構成する。
【0042】
ダブルコーン46の第2ギヤ25の側端に突出する突部46cが第2ギヤ25に形成された係合穴27内に遊びをもって配置されてダブルコーン46は第2ギヤ25と一体的に回転する。更に、ダブルコーン46の外周面にアウターリング41のテーパーコーン面42と摩擦係合するテーパーコーン面46aが形成され、内周面にテーパーコーン面46bが形成されている。
【0043】
インナリング47は、円筒状でその外周面にダブルコーン46のテーパーコーン面46bと摩擦係合するテーパーコーン面48が形成され、内周面に第2ギヤ25に形成されたテーパーコーン面26と圧接して摩擦係合するテーパーコーン面49が形成されている。
【0044】
キースプリング50について図6を参照して説明する。同図(a)はキースプリング50の平面図、(b)は(a)のD矢視図、(c)は(b)のE矢視図である。
【0045】
キースプリング50はバネ材によって形成され、帯状で各端に湾曲形成された第1係合部52及び第2係合部53が形成されて対向する一対の装着部51と、各装着部51の中間部を連結する対向する一対の側部54a及び頂部54bを有する略断面U字状の第1押圧部54、及びこの第1押圧部54に隣接して各装着部51の中間部を連結する対向する一対の側部55a及び頂部55bを有する略断面U字状の第2押圧部55が一体形成された既存のキースプリングの構造と同様のキースプリング本体50Aを有する。
【0046】
更に、このキースプリング本体50Aの第1押圧部54の頂部54bから第1係合部52側に延びる帯状で先端側に移行するに従って次第に装着部51に接近すると共に先端にL字状に折曲形成された当接部56aを有する第1付勢力付与部56が形成される。同様に第2押圧部55の頂部55bから第2係合部53側に延びる帯状で先端側に移行するに従って次第に装着部51に接近すると共に先端にL字状に折曲形成された当接部57aを有する第2付勢力与部57が形成される。
【0047】
このキースプリング50は、既存のキースプリングと同様に構成されたキースプリング本体50Aに第1付勢力付与部56及び第2付勢力付与部57を延設した形状であり、既存のキースプリングの基本形状を大きく変更することなく簡単な形状変更であり、品質等の信頼性に優れると共に製造コストの増大が抑制できる。
【0048】
このキープスプリング50は、図2及び図4に示すようにシンクロスリーブ15に形成された隣接する一対のスリーブスプライン17のチャンファ17aに第1係合部52が係合すると共にチャンファ17bに第2係合部53が係合した状態で各装着部51が隣接する一対のスリーブスプライン17間にキースプリング50自体のばね力によって係合してシンクロスリーブ15に保持される。このシンクロスリーブ15に保持されたキースプリング50はシンクロナイザハブ10のキー溝11内に移動自在に収容され、第1付勢付力与部56が第1ボークリング30のアウターリング31に形成された係合溝35内に進入して当接部56aが底部35aに圧接して第1離反力発生手段61を構成する。同様に第2付勢力付与部57が第2ボークリング40のアウターリング41に形成された係合溝45内に進入して当接部57aが底部45aに圧接して第2離反力発生手段62を構成する。
【0049】
このようにキースプリング50と第1ボークリング30のアウターリング31による第1離反発生手段61及びキースプリング50と第2ボークリング40のアウターリング41による第2離反発生手段62を備えることにより、シフトポジションが選択されていないニュートラル状態において、キースプリング50に形成された第1付勢力付与部56の先端に形成された当接部56aが第1ボークリング30のアウターリング31に形成された係合溝35の底部35aに回転中心軸L側から弾性的に押圧する。第1付勢力付与部56の当接部56aの押圧により底部35aの回転中心軸Lの延在方向に対する傾斜に基づいてアウターリング51をシンクロナイザハブ10側に押圧付勢する軸方向の荷重F1が生じる。
【0050】
アウターリング31のシンクロナイザハブ10側への押圧付勢により、アウターリング31のテーパーコーン面32とダブルコーン36のテーパーコーン面36aとが引き離される。同様にダブルコーン36のテーパーコーン面36bとインナリング37のテーパーコーン面38が引き離され、インナリング37のテーパーコーン面38が第1ギヤ20のテーパーコーン面21から引き離される。
【0051】
このようにしてアウターリング31を第1ギヤ20側からシンクロナイザハブ10側に押し付ける軸方向の荷重F1が生じることにより各テーパーコーン面32と36a、36bと38、38と21の間が離れてドラッグトルクの発生が防止されてトルクロスが抑制されて燃費の向上が得られる。更に、インナリング37のテーパーコーン面38が第1ギヤ20のテーパーコーン面21に引きずられて発生するフリクションがなくなりインナリング37のテーパーコーン面38の摩耗が防止される。また、第1付勢力付与部56の当接部56aがアウターリング31の係合溝35の底部35aに押圧してアウターリング31がシンクロナイザハブ10側に付勢されて突起部33がキースプリング50の第1押圧部54に押圧されて第1ボークリング30の振動が抑制されて第1ボークリング30の振動に起因する騒音発生が防止できる。
【0052】
同様に、キースプリング50に形成された第2付勢付与部57の当接部57aが第2ボークリング40のアウターリング41に形成された係合溝45の底部45aに回転中心軸L側から弾性的に押圧され、係合溝45の底部45aの回転中心軸Lの延在方向に対する傾斜に基づいてアウターリング51をシンクロナイザハブ10側に押圧付勢する軸方向の荷重F2が生じる。
【0053】
アウターリング41のシンクロナイザハブ10側への押圧付勢により、アウターリング41のテーパーコーン面42とダブルコーン46のテーパーコーン面46aとが引き離され、ダブルコーン46のテーパーコーン面46bとインナリング47のテーパーコーン面48が引き離され、インナリング47のテーパーコーン面48が第2ギヤ25のテーパーコーン面36から引き離される。このようにして各テーパーコーン面42と46a、46bと48、48と31の間が離れてドラッグトルクの発生が防止されてトルクロスが抑制されて燃費の向上が得られる。更に、インナリング47のテーパーコーン面48が第2ギヤ25のテーパーコーン面26に引きずられて発生するフリクションがなくなりインナリング47のテーパーコーン面48の摩耗が防止される。また、第2付勢力付与部57の当接部57aがアウターアリング41の係合溝45の底部45aに押圧してアウターリング41をシンクロナイザハブ10側に付勢されて突起部43がキースプリング50の第2押圧部55に押圧されて第2ボークリング40の振動が抑制されて第2ボークリング40の振動に起因する騒音発生が防止できる。
【0054】
次に、このように構成された変速機の同期装置の作用を説明する。
【0055】
なお、ここではシンクロスリーブ15を第1ギヤ20側に移動させてシャフト1と第1ギヤ20の回転を同期させ、シャフト1と第1ギヤ20とを一体に回転させる変速例について説明し、シンクロスリーブ15を第2ギヤ25側に移動させてシャフト1と第2ギヤ25の回転を同期させてメインシャフト1と第2ギヤ25とを一体に回転させる変速例については実質同様の作用であるので説明を省略する。
【0056】
(中立状態)
図1、図2、図3は、同期作動前の中立状態を示し、図3は中立状態におけるシンクロスリーブ15のスリーブスプライン17、第1ボークリング30及び第2ボークリング40の各ボークスプライン34、44、第1ギヤ20及び第2ギヤ25のギヤスプライン23、28、キースプリング50の相対位置を示している。
【0057】
シャフト1はエンジンからの回転駆動力で回転し、シンクロナイザハブ10及びシンクロナイザハブ10にスプライン嵌合したシンクロスリーブ15がシャフト1と共に回転している。一方、第1ギヤ20及び第2ギヤ25は出力側の回転速度で回転し、シンクロスリーブ15は中立位置に保持されている。
【0058】
即ちシフトポジションが設定されてないニュートラ状態であって、シンクロスリーブ15に係合して保持されたキースプリング50はシンクロスリーブ15と共に回転し、キースプリング50の第1付勢力付与部56の当接部56aが第1ボークリング30のアウターリング31に形成された係合溝35の底部35aを押圧する。これによりアウターリング31をシンクロナイザハブ10側に付勢してその突起部35をキースプリング50の第1押圧部54に押圧付勢している。
【0059】
この押圧付勢によりアウターリング31のテーパーコーン面32とダブルコーン36のテーパーコーン面36aとが引き離され、かつダブルコーン36のテーパーコーン面36bとインナリング37のテーパーコーン面38が引き離され、インナリング37のテーパーコーン面38が第1ギヤ20のテーパーコーン面21から引き離される。そして、テーパーコーン面32と36a、36bと38、38と21の間が若干離れて非接触状態に維持されてドラッグトルクの発生が防止される。また、インナリング37のテーパーコーン面38が第1ギヤ20のテーパーコーン面21に引きずられて発生するフリクションがなくなりインナリング37のテーパーコーン面38の摩耗が防止される。更に、第1付勢力付与部56の当接部56aがアウターリング31の係合溝35の底部35aに押圧してアウターリング31の突起部33がキースプリング50の第1押圧部54に押圧されて第1ボークリング30の振動が抑制され、第1ボークリング30の振動に起因する騒音発生が防止される。
【0060】
同様に、キースプリング50の第2付勢力付与部57の当接部57aが第2ボークリング40のアウターリング41に形成された係合溝45の底部45aを押圧し、アウターリング41の突起部45がキースプリング50の第1押圧部54に押圧付勢している。この押圧付勢によりアウターリング41のテーパーコーン面42とダブルコーン46のテーパーコーン面46aとが引き離され、かつダブルコーン46のテーパーコーン面46bとインナリング47のテーパーコーン面48が引き離され、インナリング47のテーパーコーン面48が第2ギヤ25のテーパーコーン面26から引き離される。これにより各テーパーコーン面42と46a、46bと48、48と26の間が若干離れて非接触状態に維持されてドラッグトルクの発生が防止される。また、インナリング47のテーパーコーン面48が第2ギヤ25のテーパーコーン面26に引きずられて発生するフリクションがなくなりインナリング47のテーパーコーン面48の摩耗が防止される。更に、第2付勢力付与部57の当接部57aがアウターリング41の係合溝45の底部45aに押圧してアウターリング41の突起部43がキースプリング50の第2押圧部55に押圧されて第2ボークリング40の振動が抑制され、第2ボークリング40の振動に起因する騒音発生が防止される。
【0061】
(同期動作)
中立状態からシフトレバー操作またはアクチュエータ動作によりシフトフォークを介してシンクロスリーブ15を中立位置より第1ギヤ20側に移動させる。このシンクロスリーブ15の移動によりキースプリング50も共に移動し、第1押圧部52の各側部56aが第1ボークリング30のアウターリング31に突出形成された突起部33を押圧する。
【0062】
このキースプリング50の第1押圧部52によって押圧されたアウターリング31は、その内周面に形成されたテーパーコーン面32がダブルコーン36の外周面に形成されたテーパーコーン面36aに圧接して同期摩擦トルクが発生する。同様に、ダブルコーン36の内周面に形成されたテーパーコーン面36bとインナリング37の外周面に形成されたテーパーコーン面38が圧接して同期摩擦トルクが発生する。更にインナリング37の内周面に形成されたテーパーコーン面39と第1ギヤ20のテーパーコーン面21が圧接して同期摩擦トルクが発生する。
【0063】
そして、更にシンクロスリーブ15を第1ギヤ20側に移動させると、キースプリング50はアウターリング31の突起部33によって進行が妨げられ、移動するスリーブスプライン17のチャンファ17aによってキースプリング50の第1係合部52間を押し広げてシンクロスリーブ15とキースプリング50の係合は解除される。
【0064】
このとき、互いに圧接する各テーパーコーン面32と36a、36bと38、38と21の間の同期摩擦トルクにより、第1ボークリング30のアウターリング31と第1ギヤ20との回転数が一致すると同期が終了する。
【0065】
このアウターリング31と第1ギヤ20との回転数が一致した状態において、シンクロスリーブ15の移動によりシンクロスリーブ15に形成されたスリーブスプライン17のチャンファ17aがアウターリング31に形成されたボークスプライン34を押し分け、即ち掻き分けてスリーブスプライン17とボークスプライン34が噛み合う。
【0066】
(係合動作)
同期動作に続いて第1ボークリンク30のアウターリング31と第1ギヤ20の同期が維持された状態で、更にシンクロスリーブ15を第1ギヤ20側に移動させる。このシンクロスリーブ15の移動によりシンクロスリーブ15に形成されたスリーブスプライン17のチャンファ17aが第1ギヤ20に形成されたギヤスプライン23を押し分け、スリーブスプライン17が隣接するギヤスプライン23の間をすり抜けてスリーブスプライン17とギヤスプライン23が噛み合い変速操作が終了する。
【0067】
一方、この同期動作及び係合動作にあたり、中立状態から第1ギヤ20側へのシンクロスリーブ15の移動と共に移動するキースプリング50の第2付勢力付与部57の当接部57aは、第2ボークリング40のアウターリング41の係合溝45の底部45aを押圧してアウターリング41の突起部43をキースプリング50の第2押圧部55に押圧付勢し、キースプリング50の移動と共に第2ボークリング40がシンクロナイザハブ10側に移動し、インナリング47のテーパーコーン面48と第2ギヤ25のテーパーコーン面26との間隙が維持されて、インナリング47のテーパーコーン面48が第2ギヤ25のテーパーコーン面26に引きずられることがなく、ドラッグトルクの発生やインナリンク47のテーパーコーン面48の摩耗が防止される。
【0068】
更に、シンクロスリーブ15が第1ギヤ20側に移動して第2押圧部55がキー溝11内に収容された際には、アウターリング41がシンクロナイザハブ10の側面に接触してアウターリング41の移動が阻止されるが、移動するキースプリング50の第2付勢力付与部57の当接部57aが傾斜する係合溝45の底部45aに摺接しつつ移動してアウターリング41をシンクロナイザハブ10の側面に押圧付与してアウターリング41を保持し、インナリング47のテーパーコーン面48と第2ギヤ25のテーパーコーン面26との間隙が維持されて、インナリング47のテーパーコーン面48が第2ギヤ25のテーパーコーン面26に引きずられることがなく、ドラッグトルクの発生やインナリンク47のテーパーコーン面48の摩耗が防止される。
【0069】
(中立復帰動作)
第1ギヤ20に係合した状態からシンクロスリーブ15を中立位置側に移動させる。このシンクロスリーブ15の移動によりシンクロスリーブ15に形成されたスリーブスプライン17が第1ギヤ20の隣接するギヤスプライン23の間をすり抜けてスリーブスプライン17とギヤスプライン23との噛み合いが解除され、更にスリーブスプライン17がアウターリング31のボークスプライン34間を抜け出す。更なるシンクロスリーブ15の移動に伴って隣接するスリーブスプライン17にキースプリング50の第2係合部53が係合してシンクロスリーブ15と共にキースプリング50も移動する。
【0070】
このシンクロスリーブ15の移動により押圧が除去されて第1ボークリング30のアウターリング31の内周面に形成されたテーパーコーン面32とダブルコーン36の外周面に形成されたテーパーコーン面36a、ダブルコーン36の内周面に形成されたテーパーコーン面36bとインナリング37の外周面に形成されたテーパーコーン面38、インナリング37の内周面に形成されたテーパーコーン面39と第1ギヤ20のテーパーコーン面21との間の圧接が解除される。
【0071】
更に、中立位置に移動したシンクロスリーブ10の配設されたキースプリング50の第1付勢力付与部56の当接部56aによってアウターリング31に形成された係合溝35の底部35aが押圧されてアウターリング31がシンクロナイザハブ10側に付勢されてその突起部35をキースプリング50の第1押圧部54に押圧付勢している。この押圧付勢によりアウターリング31のテーパーコーン面32とダブルコーン36のテーパーコーン面36aとが引き離され、かつダブルコーン36のテーパーコーン面36bとインナリング37のテーパーコーン面38が引き離され、インナリング37のテーパーコーン面38が第1ギヤ20のテーパーコーン面21から引き離される。
【0072】
これにより各テーパーコーン面32と36a、36bと38、38と21の間が若干離れて非接触状態に維持されてドラッグトルクの発生が防止されると共に、インナリング37のテーパーコーン面38が第1ギヤ20のテーパーコーン面21に引きずられることがなく、インナリング37のテーパーコーン面38の摩耗が防止される。更に、第1付勢力付与部56の当接部56aがアウターリング31の係合溝35の底部35aに押圧してアウターリング31の突起部33がキースプリング50の第1押圧部54に押圧されて第1ボークリング30の振動が抑制される。
【0073】
一方、この中立復帰動作にあたり、第1ギヤ20側から中立位置へのシンクロスリーブ15の移動と共に移動するキースプリング50の第2付勢力付与部57の当接部57aは、第2ボークリング40のアウターリング41の係合溝45の底部45aを押圧してシンクロナイザハブ10に押圧付勢して保持した状態から、キー溝11から引き続き突出移動する第2押圧部55に押圧付勢する状態に移動し、中立位置においてキースプリング50の第2付勢力付与部57の当接部57aがアウターリング41に形成された係合溝45の底部45aを押圧し、アウターリング41の突起部45がキースプリング50の第1押圧部54に押圧付勢される。この押圧付勢によりアウターリング41のテーパーコーン面42とダブルコーン46のテーパーコーン面46a、ダブルコーン46のテーパーコーン面46bとインナリング47のテーパーコーン面48、インナリング47のテーパーコーン面48が第2ギヤ25のテーパーコーン面26の非接触状態に維持されてドラッグトルクの発生が防止される。また、インナリング47のテーパーコーン面48が第2ギヤ25のテーパーコーン面26に引きずられることがなくインナリング47のテーパーコーン面48の摩耗が防止される。更に、第2付勢力付与部57の当接部57aがアウターアリング41の係合溝45の底部45aに押圧してアウターリング41がキースプリング50の第2押圧部55に押圧付勢されて第2ボークリング40の振動が抑制される。
【0074】
なお、第1離反力発生部61及び第2離反力発生部62がアウターリング31、41に形成された係合溝35、45と、キースプリング50に形成された第1付勢力付与部55及び第2付勢力付与部56とにより構成されることから、既存のアウターリング及びキースプラインの基本形状を大きく変更する必要がなく、アウターリング31、41及びキースプリング50の品質等の信頼性が確保できると共に、構成が複雑になることがなく安価に製造できる。
【0075】
また、同期動作及び係合動作におけるシンクロスリーブ15の軸方向動作にあたり、第1ボークリング30とシンクロスリーブ15及び第2ボークリング40とシンクロスリーブ15の間にそれぞれ第1離反力発生手段61及び第2離反力発生手段62を配置することから、離反力発生手段61、62に影響されることなく変速操作荷重が増加することなく、良好な操作性が確保できる。
【0076】
(第2実施の形態)
図7乃至図11を参照して第2実施の形態を説明する。なお、図7乃至図11において第1実施の形態における図1乃至図6と対応する部分には同一符号を付することで該部の詳細な説明は省略する。
【0077】
図7は本実施の形態に係る変速機の同期装置を示す要部断面図、図8は要部分解斜視図、図9は図7のF方向から見た図の要部を平面状に展開した図である。
【0078】
本実施の形態における同期装置は、第1実施の形態と同様にトリプルコーン型同期装置であって、図7に示すようにシャフト1に組み付けられたシンクロナイザハブ10と、第1ボークリング30及び第2ボークリング40の各アウターリング31、41及びキースプリング50が第1実施の形態と異なり、他の構成は第1実施の形態と同様の構成であり、これらアウターリング31、41及びキースプリング50を主に説明する。
【0079】
第1ボークリング30のアウターリング31は、図7及び図8に示すと共に、図10(a)に正面図を示し、同図(b)に(a)のG−G線断面図、(c)は(a)のH矢視拡大図を示すように、内側端面31aがシンクロナイザハブ10の側面と対向すると共に外側端面31bが第1ギヤ20と対向する略円筒状で、内周面にテーパーコーン面32を有し、外周に等間隔で内側端面31aから外側端面31bに亘って連続する断面コ字状の3個の突起部33が形成され、各突起部33の幅はシンクロナイザハブ10のキー溝11の幅より所定値だけ小さく設定されていて、キー溝11に遊びをもって嵌合可能に形成される。
【0080】
外周面の外方端縁、即ち外側端面31bに沿って突起部33の3箇所を除いてシンクロスリーブ15に形成されたスリーブスプライン17のチャンファ17aと対向するチャンファ34aを有する複数のボークスプライン34が突設されている。
【0081】
各突起部33の頂面33aに側面視状態、即ち回転中心軸Lと直交方向から見て内側端面31a側から外側端面側に移行するに従って互いに離反するようなテーパー状で対向する一対の当接面となる側面72a、及び底面72bを有する断面コ字状で内側端面31a側が開放された係合溝72が形成される。この凹部72の各側面72aは側面視状態において回転中心軸Lに対して対称に形成される。
【0082】
第2ボークリング40のアウターリング41は、第1ボークリング30のアウターリング31と同様に、内側端面41aがシンクロナイザハブ10の側面と対向すると共に外側端面41bが第2ギヤ25と対向する略円筒状で、内周面にテーパーコーン面42を有し、外周に等間隔で内側端面41aから外側端面41bに亘って連続する3個の突起部43が形成され、各突起部43の幅はシンクロナイザハブ10のキー溝11の幅より所定値だけ小さく設定されていて、キー溝11に遊びをもって嵌合可能に形成される。
【0083】
外周面の外方端縁、即ち外側端面41bに沿って突起部43の3箇所を除いてシンクロスリーブ15に形成されたスリーブスプライン17のチャンファ17aと対向するチャンファ44aを有する複数のボークスプライン44が突設されている。
【0084】
各突起部43の頂面43aに側面視状態で内側端面41a側から外側端面側に移行するに従って互いに離反するようなテーパー状で対向する一対の当接面となる側面76a及び底面76bを有する断面コ字状で内側端面41a側が開放された係合溝76が形成される。この係合溝76の各側面76aは側面視状態において回転中心軸Lに対して対称に形成される。
【0085】
キースプリング50について図11を参照して説明する。同図(a)はキースプリング50の平面図、(b)は(a)のI矢視図、(c)は(b)のJ矢視図である。
【0086】
キースプリング50は、帯状で各端に湾曲形成された第1係合部52及び第2係合部53が形成されて対向する一対の装着部51と、各装着部51の中間部を連結する対向する一対の側部54a及び頂部54bを有する略断面U字状の第1押圧部54、及びこの第1押圧部54に隣接して各装着部51の中間部を連結する対向する一対の側部56a及び頂部56bを有する略断面U字状の第2押圧部56が一体形成されたキースプリング本体50Aを有する。このキースプリング本体50Aは既存のキースプリングの構造と同様である。
【0087】
更に、このキースプリング本体50Aの第1押圧部54の各側部54aから第1係合部52側に延びる帯状で先端側に移行するに従って次第に離反すると共に先端にL字状に折曲形成され当接部73aを有する第1付勢力付与部73が形成される。同様に第2押圧部56の各側部56aから第2係合部53側に延びる帯状で先端側に移行するに従って次第に離反すると共に先端にL字状に折曲形成され当接部77aを有する第2付勢力付与部77が形成される。
【0088】
このキースプリング50は、既存のキースプリングと同様に構成されたキースプリング本体50Aに一対の第1付勢力付与部73及び第2付勢力付与部77を延設した形状であり、既存のキースプリングの基本形状を大きく変更することなく簡単な形状変更であり、品質等の信頼性に優れると共に製造コストの増大が抑制できる。
【0089】
このキープスプリング50は、図7及び図4に示すようにシンクロスリーブ15に形成された隣接する一対のスリーブスプライン17のチャンファ17aに第1係合部52に係合すると共にチャンファ17bに第2係合部53が係合した状態で各装着部51が隣接する一対のスリーブスプライン17間にキースプリング50自体のばね力によって係合してシンクロスリーブ15に取り付けられる。
【0090】
このシンクロスリーブ15に位置決めされて取り付けられたキースプリング50はシンクロナイザハブ10のキー溝11内に移動自在に収容され、各第1付勢付力与部72が第1ボークリング30のアウターリング31に形成された係合溝72内に進入して各当接部73aがそれぞれの側面72aに圧接することによって、インナリング37のテーパーコーン面39を第1ギヤ20のテーパーコーン面21ら引き離す方向に付勢する第1離反力発生手段71を構成する。同様に各第2付勢付力与部77が第2ボークリング40のアウターリング41に形成された係合溝76内に進入してそれぞれの当接部76aが各側面76aに圧接することによって、インナリング47のテーパーコーン面49を第2ギヤ25のテーパーコーン面26ら引き離す方向に付勢する第2離反力発生手段75を構成する。
【0091】
このようにキースプリング50と第1ボークリング30のアウターリング31による第1離反発生手段71及びキースプリング50と第2ボークリング40のアウターリング41による第2離反発生手段75を備えることにより、キースプリング50も中立位置に保持される。この中立位置に保持されたキースプリング50に形成された各第1付勢力付与部73の先端に形成されたそれぞれの当接部73aが第1ボークリング30のアウターリング31に形成された係合溝72の各側面72aに弾性的に押圧する。各第1付勢力付与部73の当接部73aの押圧により各側面72aの傾斜に基づいてアウターリング31をシンクロナイザハブ10側に押圧付勢する軸方向の荷重が生じる。
【0092】
このアウターリング31のシンクロナイザハブ10側への押圧付勢により、ニュートラル状態において、アウターリング31のテーパーコーン面32とダブルコーン36のテーパーコーン面36aとが引き離される。同様にダブルコーン36のテーパーコーン面36bとインナリング37のテーパーコーン面38が引き離され、インナリング37のテーパーコーン面38が第1ギヤ20のテーパーコーン面21から引き離される。このようにして各テーパーコーン面32と36a、36bと38、38と21の間が離れてドラッグトルクの発生が防止されてトルクロスが抑制される。更に、インナリング37のテーパーコーン面38が第1ギヤ20のテーパーコーン面21に引きずられて発生するフリクションがなくなりインナリング37のテーパーコーン面38の摩耗が防止される。また、各第1付勢力付与部73の当接部73aがアウターアリング31の係合溝72の各側面72aに押圧してアウターリング31をシンクロナイザハブ10側に付勢されて突起部33がキースプリング50の第1押圧部54に押圧されて第1ボークリング30の振動が抑制されて第1ボークリング30の振動に起因する騒音発生が防止できる。
【0093】
同様に、キースプリング50に形成された第2付勢力付与部77の当接部77aが第2ボークリング40のアウターリング41に形成された係合溝76の各側面76aに弾性的に押圧され、係合溝76の側面76aの傾斜に基づいてアウターリング51をシンクロナイザハブ10側に押圧付勢する軸方向の荷重が生じる。
【0094】
アウターリング41のシンクロナイザハブ10側への押圧付勢により、ニュートラル状態において、アウターリング41のテーパーコーン面42とダブルコーン46のテーパーコーン面46aとが引き離され、ダブルコーン46のテーパーコーン面46bとインナリング47のテーパーコーン面48が引き離され、インナリング47のテーパーコーン面48が第2ギヤ25のテーパーコーン面36から引き離される。このようにして各テーパーコーン面42と46a、46bと48、48と31の間が離れてドラッグトルクの発生が防止されてトルクロスが抑制されて燃費の向上が得られる。更に、インナリング47のテーパーコーン面48が第2ギヤ25のテーパーコーン面26に引きずられて発生するフリクションがなくなりインナリング47のテーパーコーン面48の摩耗が防止される。また、第2付勢力付与部77の当接部77aがアウターアリング41の係合溝45の底部45aに押圧してアウターリング41をシンクロナイザハブ10側に付勢されて突起部43がキースプリング50の第2押圧部55に押圧されて第2ボークリング40の振動が抑制されて第2ボークリング40の振動に起因する騒音発生が防止できる。
【0095】
なお、このように構成された本実施の形態における変速機の同期装置の作用は、第1実施の形態と同様であり説明を省略する。
【0096】
なお、第1離反力発生部71及び第2離反力発生部75がアウターリング31、41に形成された係合溝72、76と、キースプリング50に形成された第1付勢力付与部73及び第2付勢力付与部77とにより構成されることから、既存のアウターリング及びキースプラインの基本形状を大きく変更する必要がなく、アウターリング31、41及びキースプリング50の品質等の信頼性が確保できると共に、構成が複雑になることがなく安価に製造できる。
【0097】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されることなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば上記実施の形態でトリプルコーン型同期装置を例に説明したがダブルコーンを備えないいわゆるシングルコーン型同期装置に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】第1実施の形態に係る変速機の同期装置を示す要部断面図である。
【図2】同上、図1のA部拡大図である。
【図3】同上、図3は図1の要部分解斜視図である。
【図4】同上、図1のB方向から見た図の要部を平面状に展開した図である。
【図5】同上、ボークリングの説明図であり(a)は正面図、(b)は(a)のC−C線断面図である。
【図6】同上、キースプリングの説明図であり、(a)はキースプリングの平面図、(b)は(a)のD矢視図、(c)は(b)のE矢視図、(d)は斜視図である。
【図7】第2実施の形態に係る変速機の同期装置を示す要部断面図である。
【図8】同上、図7の要部分解斜視図である。
【図9】同上、図7のF方向から見た図の要部を平面状に展開した図である。
【図10】同上、ボークリングの説明図であり(a)は正面図、(b)は(a)のG−G線断面図、(c)は(a)のH矢視拡大図である。
【図11】同上、キースプリングの説明図であり、(a)はキースプリングの平面図、(b)は(a)のI矢視図、(c)は(b)のJ矢視図、(d)は斜視図である。
【図12】従来の同期装置の要部断面図である。
【符号の説明】
【0099】
1 シャフト(回転軸)
10 シンクロナイザハブ
12 スプライン溝
15 シンクロスリーブ
17 スリーブスプライン
20 第1ギヤ(被同期回転体)
21 テーパーコーン面
23 ギヤスプライン
25 第2ギヤ(被同期回転体)
26 テーパーコーン面
28 ギヤスプライン
30 第1ボークリング
31 アウターリング
31a 内側端面
31b 外側端面
33 突起部
34 ボークスプライン
35 係合溝
35a 底部(当接面)
36 ダブルコーン
36c 突部
37 インナリング
39 テーパーコーン面
40 第2ボークリング
41 アウターリング
41a 内側端面
41b 外側端面
43 突起部
44 ボークスプライン
45 係合溝
45a 底部(当接面)
46 ダブルコーン
46c 突部
47 インナリング
49 テーパーコーン面
50 キースプリング
50A キースプリング本体
51 装着部
52 第1係合部
53 第2係合部
54 第1押圧部
55 第1付勢力付与部
55a 当接部
56 第2押圧部
57 第2付勢力付与部
57a 当接部
61 第1離反力発生手段
62 第2離反力発生手段
71 第1離反力発生手段
72 係合溝
72a 側面(当接面)
72b 底面
73 第1付勢力付与部
73a 当接部
75 第2離反力発生手段
76 係合溝
76a 側面(当接面)
76b 底面
77 第2付勢付与部
77a 当接部
L 回転中心軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸に取り付けられたシンクロナイザハブと、該シンクロナイザハブの外周に軸方向に移動可能にスプライン嵌合されたシンクロスリーブと、上記回転軸に回転自在に支持された被同期回転体と、上記シンクロナイザハブと被同期回転体の間に配置されたボークリングとを有し、上記シンクロスリーブの中立位置から軸方向への移動に伴ってシンクロスリーブによって上記ボークリングを押動してボークリングのテーパーコーン面と被同期回転体のテーパーコーン面との圧接により同期作動が開始され、同期作動完了後に上記シンクロスリーブと被同期回転体とが係合する変速機の同期装置において、
上記被同期回転体のテーパーコーン面からボークリングのテーパーコーン面を引き離す方向にボークリングを付勢する離反力発生手段を上記ボークリングとシンクロスリーブとの間に備えたことを特徴とする変速機の同期装置。
【請求項2】
上記離反力発生手段は、
上記ボークリングに形成された当接面と、
上記シンクロスリーブに保持されて上記シンクロスリーブの中立位置から軸方向への移動に伴ってボークリングを押動するキースプリング本体及び該キースプリング本体に延設されて上記当接面に押接する付勢力付与部を有するキースプリングと、を備え、
該当接面に押圧する付勢力付与部によって上記ボークリングのテーパーコーン面を被回転体のテーパーコーン面から引き離す方向の付勢力がボークリングに付与されることを特徴とする請求項1に記載の変速機の同期装置。
【請求項3】
上記離反力発生手段は、
上記ボークリングに形成された上記シンクロナイザハブ側から被同期回転体側に移行するに従って上記回転軸の回転中心軸から漸次離れるように傾斜した底部を有する係合溝と、
シンクロスリーブに保持されて上記シンクロスリーブの中立位置から軸方向への移動に伴ってボークリングを押動するキースプリング本体及び該キースプリング本体に延設されて上記係合溝内に進入すると共に先端に形成された当接部が上記底部に押圧する付勢力付与部を有するキースプリングと、
を備えたことを特徴とする請求項1に記載の変速機の同期装置。
【請求項4】
上記離反力発生手段は、
上記ボークリングに形成されたシンクロナイザハブ側から被同期回転体側に移行するに従って互いに離反する一対の側面を有する係合溝と、
シンクロスリーブに保持されて上記シンクロスリーブの中立位置から軸方向への移動に伴ってボークリングを押動するキースプリング本体及び該キースプリング本体に延設されて上記係合溝内に進入すると共に先端に形成されたそれぞれの当接部が上記各側面に押圧する一対の付勢力付与部を有するキースプリングと、
を備えたことを特徴とする請求項1に記載の変速機の同期装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2010−71331(P2010−71331A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−236841(P2008−236841)
【出願日】平成20年9月16日(2008.9.16)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】