説明

変速機の潤滑油供給構造

【課題】部品点数を少なく抑えた簡単な構成で、潤滑油供給穴の端部からの潤滑油の漏れ量を少なく抑えることで、回転軸内の潤滑油量を増加させることができる変速機の潤滑油供給構造を提供する。
【解決手段】出力軸12内を軸方向に延びる中空の潤滑油供給穴71と、出力軸12の端部に軸受73を取り付けるためのボルト75と、ケース5の内面5aに沿って配置した潤滑油導入路33から導入された潤滑油を開口部72から潤滑油供給穴71に供給するガイドプレート77と、を備え、ガイドプレート77のパイプ部79は、その全体がボルト75の中空部75cの内部に配置されており、該パイプ部79の先端79aが軸部75bの先端よりも出力軸12の端部12aに近い側に位置している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変速機のケース内に配置した潤滑油導入路から回転軸の潤滑油供給穴に潤滑油を供給するように構成した変速機の潤滑油供給構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、マニュアルトランスミッション(MT)をはじめとする各種の変速機では、回転軸を支持するベアリングやギヤなどにケース内の潤滑油が供給される。このような潤滑油の供給構造として、例えば特許文献1に示すように、ケースの内面側に配置した潤滑油導入路から回転軸内の潤滑油供給穴に潤滑油を供給する構造がある。この構造では、軸端の開口部とケースの内面との間に、潤滑油導入路から導入された潤滑油を潤滑油供給穴に導くためのガイド部材(ガイドプレート)が設けられている。ガイド部材は、ケースの内面と回転軸の軸端との間に介在する板状のプレート部と、プレート部の中心から突出して回転軸の端部開口に差し込まれた円筒状のパイプ部とからなる。そして、ガイド部材のパイプ部を通して回転軸の潤滑油供給穴に導入された潤滑油は、潤滑油供給穴に形成した供給口から回転軸上のギヤの軸受部やシンクロメッシュ機構などの被潤滑部に供給される。
【0003】
ところで、変速機の回転軸は高速で回転するため、ガイド部材のパイプ部の外周面と、潤滑油供給穴の開口部の内周面との間には、一定のクリアランスが設けられている。そのため、潤滑油供給穴に供給される潤滑油の一部が、このクリアランスを通って回転軸の開口端から外へ漏れ出すことで、被潤滑部への潤滑油供給量が減少するという問題がある。
【0004】
そこで、潤滑油供給穴の開口端に小径の孔を有するプラグ部材(オイルパスプラグ)を嵌合させ、当該プラグ部材の小径の孔を通してガイド部材のパイプ部を突出させて、潤滑油供給穴内に潤滑油を供給する構造がある。この構造では、プラグ部材で潤滑油供給穴の潤滑油を塞き止めて、潤滑油の漏れ量を減少させることができる。
【0005】
しかしながら、上記のプラグ部材を用いる構造では、プラグ部材を別部品として設ける必要があるとともに、回転軸の端部にプラグ部材を圧入して組み付ける工程が必要となる。そのため、変速機の部品点数及び製造コストの増加につながるという問題がある。また、潤滑油供給穴の開口端に圧入したプラグ部材は、回転軸が回転する際に軸受から径方向の荷重を受けることで、開口端から抜けて外れるおそれがある。
【0006】
また、上記のような潤滑油供給構造を有する変速機では、回転軸を支持する軸受をサークリップなど弾性金属製の環状の係止具でケース内に係止している。そして、このサークリップの取り付け及び取り外しを行うための調節穴をケースに設けており、当該調節穴を介してケースの外側からサークリップの径を調節することで、軸受をケース内に係止するように構成している。
【0007】
ところが、上記のガイド部材を備える場合、ガイド部材のプレート部の径寸法が大きいと、サークリップの端部がプレート部の外周縁で隠れてしまい、調節穴からサークリップの端部を調節する作業が行い難くなるおそれがある。この点、プレート部の径寸法を軸受の外径よりも小さい寸法とすれば、サークリップの端部がプレート部で隠れずに済む。しかしながら、ガイド部材のプレート部は、ケースの内面との間に上記の潤滑油導入路を区画する部分である。そのため、潤滑油導入路に潤滑油を貯めることができるように、プレート部の外径端を潤滑油導入路の下端部まで延伸させる必要があり、プレート部の径寸法を小さくすることは難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−91000号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上述の点に鑑みてなされたものであり、その目的は、部品点数を少なく抑えた簡単な構成で、ガイド部材と回転軸の潤滑油供給穴との隙間からの潤滑油の漏れ量を少なく抑えることで、回転軸内の潤滑油量を増加させることができ、また、ケース内にガイド部材及び軸受を組み付ける作業の容易化を図ることができる変速機の潤滑油供給構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明にかかる変速機の潤滑油供給構造は、変速機(1)のケース(5)と、ケース(5)内でその端部(12a)が軸受(73)を介して回転自在に支持された回転軸(12)と、端部(12a)に設けた開口部(72)から回転軸(12)内を軸方向に延びる中空の潤滑油供給穴(71)と、該潤滑油供給穴(71)から径方向の外側に向かって回転軸(12)の外周面に開口する供給口(71a)と、開口部(72)に締結されて、回転軸(12)の端部(12a)に軸受(73)を取り付ける締結具(75)と、ケース(5)の内面(5a)に沿って配置した潤滑油導入路(33)から導入された潤滑油を開口部(72)から潤滑油供給穴(71)に供給するガイド部材(77)と、を備え、締結具(75)は、軸受(73)を係止する頭部(75a)と、回転軸(12)の開口部(72)に螺合する軸部(75b)と、頭部(75a)及び軸部(75b)を貫通して軸方向に延びる貫通穴からなる中空部(75c)とを有しており、ガイド部材(77)は、ケース(5)の内面(5a)と回転軸(12)の端部(12a)及び軸受(73)との間に設置された板状のプレート部(78)と、プレート部(78)に一体形成された筒状のパイプ部(79)とを有しており、パイプ部(79)は、締結具(75)の中空部(75c)内に配置されており、該パイプ部(79)の先端(79a)が軸部(75b)の先端(75d)よりも回転軸(12)の端部(12a)に近い側に位置していることを特徴とする。
【0011】
本発明にかかる潤滑油供給構造によれば、回転軸の端部に軸受を取り付けるための締結具を設け、ガイド部材のパイプ部を当該締結具の中空部内に配置したことで、当該締結具によって、パイプ部と回転軸の開口部との隙間から潤滑油供給穴の潤滑油が漏れ出すことを効果的に抑制できるようになる。すなわち、この潤滑油供給構造では、ガイド部材のパイプ部から回転軸の潤滑油供給穴に供給された潤滑油が開口部から漏出することを防止するための部品として、軸受を取り付ける締結具を用いるようにしている。
【0012】
従来の潤滑油供給構造では、ガイド部材のパイプ部から回転軸の潤滑油供給穴に供給された潤滑油が開口端から漏出することを防止するために、回転軸の開口部に潤滑油供給穴の潤滑油を堰き止めるためのプラグ部材を設置していたが、本発明にかかる上記の潤滑油供給構造では、回転軸の端部に軸受を取り付けるための締結具を用いて、潤滑油供給穴から開口部を通って流出する潤滑油を堰き止めることが可能となる。したがって、上記の締結具をプラグ部材の代用品として用いることで、変速機の部品点数を少なく抑えて組立工程の簡素化を図りつつ、潤滑油供給穴からの潤滑油の漏出を抑制することが可能となる。また、回転軸の端部に取り付けるプラグ部材が不要となることで、回転軸の端部からプラグ部材が抜けて外れるという不具合が生じずに済む。
【0013】
また、本発明にかかる潤滑油供給構造では、上記のように、ガイド部材のパイプ部を締結具の中空部内に配置し、かつ、該パイプ部の先端を締結具の軸部の先端よりも回転軸の端部に近い側に位置させたことで、パイプ部の長さ寸法の最適化が図られている。これにより、潤滑油供給穴に供給される潤滑油の十分な流量の確保を可能としている。すなわち、例えば仮に、パイプ部の先端が軸部の先端よりも回転軸の端部から離れた側に位置するように構成すると、パイプ部が長過ぎることで供給される潤滑油の圧力の低下を招き、パイプ部の先端から導出された潤滑油がパイプ部の外周面を伝って回転軸の開口部側へ漏れ出すおそれがある。
【0014】
また、この場合、締結具(75)の中空部(75c)の内径寸法を潤滑油供給穴(71)の内径寸法よりも小さな寸法に設定して、中空部(75c)と潤滑油供給穴(71)との境界に段部(76)を形成するとよい。この構成によれば、潤滑油供給穴内の潤滑油を締結具で堰き止めることができる。したがって、潤滑油供給穴内の潤滑油が回転軸の端部から漏出することを効果的に抑制できる。これにより、締結具によるプラグ部材の代用品としての機能をより効果的に奏することが可能となる。
【0015】
また、この潤滑油供給構造では、回転軸(12)の他方の端部(12b)は、他の軸受(83)を介して回転自在に支持されており、回転軸(12)の潤滑油供給穴(71)には、該潤滑油供給穴(71)内を他の端部(12b)側へ流れる潤滑油を堰き止めるプラグ部材(85)が設置されており、プラグ部材(85)は、回転軸(12)の軸方向における他の軸受(83)より内側に設置されているとよい。
【0016】
この構成によれば、上記のプラグ部材を設置したことで、回転軸の他方の端部から潤滑油供給穴内の潤滑油が過剰に漏れ出すことを抑制できる。そのうえ、プラグ部材を回転軸の軸方向で他の軸受よりも内側に設置したことで、プラグ部材に当該軸受から径方向の荷重がかかる場合でも、プラグ部材が潤滑油供給穴の端部から抜けて外れることを防止できる。すなわち、仮に、プラグ部材を軸方向における軸受と同位置又は軸受の中央よりも外側に設置していると、軸受からプラグ部材に径方向の荷重が作用することで、プラグ部材が潤滑油供給穴の端部側に押し出され、該端部から抜けて外れるおそれがある。これに対して、上記のようにプラグ部材を軸受よりも内側に設置していれば、軸受からプラグ部材に径方向の荷重が作用しても、プラグ部材が潤滑油供給穴の端部から抜けて外れるおそれがない。
【0017】
またこの場合、回転軸(12)上には、回転軸(12)に固定されて該回転軸(12)を介して伝達される駆動力が常時作用する歯車(60)を含む複数の歯車が設置されており、プラグ部材(85)は、上記の歯車(60)における軸方向の中間位置に設置されていてよい。
【0018】
この構成によれば、プラグ部材が、回転軸を介して伝達される駆動力が常時作用する歯車における軸方向の中間位置に設置されていることで、当該歯車からプラグ部材にかかる径方向の荷重によって、プラグ部材が軸方向に押し出されることを抑制できる。したがって、潤滑油供給穴内でプラグ部材の設置位置がずれることを防止でき、プラグ部材の機能を維持することができる。
【0019】
また、上記の潤滑油供給構造では、ケース(5)の内面(5a)には、ガイド部材(77)及び軸受(73)を収容する凹部(31)と、凹部(31)の内周面(31b)に形成した環状溝(32)とが設けられており、環状溝(32)に取り付けられて凹部(31)内に軸受(73)を固定する係止具(74)を備え、係止具(74)は、その両端部(74a、74a)の間を環状に湾曲させてなる弾性を有する線材からなり、両端部(74a、74a)の離間寸法によって径寸法を調整可能であり、ケース(5)には、該ケース(5)の外側から環状溝(32)に取り付けた係止具(74)の径寸法を調整可能な調整穴(35)が設けられており、ガイド部材(77)のプレート部(78)の外周縁(78c)には、係止具(74)の両端部(74a、74a)を調整穴(35)に露出させるための切欠部(78d)が形成されていることを特徴とする。
【0020】
この構成によれば、ガイド部材のプレート部の外周縁に係止具の両端部を露出させるための切欠部が形成されていることで、ケースの凹部内にガイド部材を設置した状態で、ケースの外側から係止具の両端部の離間寸法を調整することが可能となる。これにより、回転軸の端部を支持する軸受を固定する作業の容易化を図ることができる。また、ケース内に固定した軸受を取り外す作業も簡単に行うことができるので、変速機のメンテナンスの効率化を図ることができる。また、ガイド部材のプレート部の外周縁に上記の切欠部を形成したことで、プレート部自体の径寸法は、軸受と同一又はそれ以上の寸法に設定することが可能となる。したがって、プレート部の他の外周縁がケースの内面に沿って配置された潤滑油導入路の下端部まで延伸するように構成できるので、プレート部で潤滑油導入路の潤滑油を保持可能としながらも、切欠部を介して調整穴から係止具の両端を調整する作業の容易化を図ることが可能となる。
【0021】
また、上記の潤滑油供給構造では、プレート部(78)の外周縁(78c)における切欠部(78d)の側部には、径方向の外側に突出する突出部(78e,78e)が形成されており、該突出部(78e,78e)がケース(5)の内面(5a)に形成した段部(37,37)に係止されることで、プレート部(78)の回り止めが施されるように構成してよい。
【0022】
この構成によれば、ケースの凹部内にプレート部を設置するだけで、ケースの調整穴に対するプレート部の切欠部の位置合わせが行われるようになる。したがって、ガイド部材の組付作業の効率化、及び係止具の両端の調節による軸受の固定作業の効率化を図ることができる。また、変速機の組立後においてもプレート部の回転を防止できるので、メンテナンスなどの際にも、ケースの調整穴に対してプレート部の切欠部が位置合わせされた状態となる。
なお、上記の括弧内の符号は、後述する実施形態における構成要素の符号を本発明の一例として示したものである。
【発明の効果】
【0023】
本発明にかかる変速機の潤滑油供給構造によれば、部品点数を少なく抑えた簡単な構成で、回転軸内の潤滑油量を増加させることができ、また、ケース内にガイド部材及び軸受を組み付ける作業の容易化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明にかかる潤滑油供給構造を適用可能な変速機の一実施形態であるマニュアルトランスミッションの縦断面図である。
【図2】出力軸の端部及びその近傍を示す部分拡大断面図であり、図4のY−Y矢視に対応する部分の断面図である。
【図3】図4のZ−Z矢視に対応する部分の断面図である。
【図4】出力軸の端部に対峙するケースの内面を示す図で、図2のX−X矢視に対応する図である。
【図5】ケースの外側から調整穴の内部を見た斜視図である。
【図6】パイプ部の長さ寸法の設定と潤滑油供給穴内の潤滑油の流量との関係を示すグラフである。
【図7】出力軸及びその周辺の構成部品を示す部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。図1は、本発明にかかる変速機の一実施形態にかかるマニュアルトランスミッション(手動変速機)の主断面図である。同図に示すマニュアルトランスミッション(以下、「変速機」と記す。)1は、車両に搭載される変速機であって、エンジン(図示せず)からの駆動力を変速して駆動輪(図示せず)に伝達するように構成されている。この変速機1は、トランスミッションケース(以下、単に「ケース」と記す。)5内で回転自在に支持された入力軸(メインシャフト)10及び出力軸(カウンターシャフト)12と、ケース5に固定されたリバース軸(アイドル軸)14とを備えている。入力軸10と出力軸12及びリバース軸14は、所定間隔で互いに平行に配置されている。また、入力軸10とクランクシャフト11との間には、クラッチケース7に収容されたクラッチ機構8が設けられている。クラッチ機構8は、公知の機構であるため、ここではその詳細な説明は割愛する。なお、以下の説明で軸方向というときは入力軸10及び出力軸12の軸方向を示すものとし、横方向というときは、当該軸方向に対する左右方向(幅方向)を示すものとする。また、上又は下というときは、変速機1を車両に搭載した状態での上又は下を指すものとする。
【0026】
入力軸10には、1速ドライブギヤ40及び2速ドライブギヤ41が固設されていると共に、3速ドライブギヤ42、4速ドライブギヤ43、5速ドライブギヤ44及び6速ドライブギヤ45が相対回転自在に支持されている。一方、出力軸12には、1速ドライブギヤ40及び2速ドライブギヤ41にそれぞれ噛合する1速ドリブンギヤ46及び2速ドリブンギヤ47が相対回転自在に支持されていると共に、3速ドライブギヤ42、4速ドライブギヤ43、5速ドライブギヤ44及び6速ドライブギヤ45にそれぞれ噛合する3速ドリブンギヤ48、4速ドリブンギヤ49、5速ドリブンギヤ50及び6速ドリブンギヤ51が固設されている。上記の1〜6速ドライブギヤ40〜45及び1〜6速ドリブンギヤ46〜51で、入力軸10と出力軸12との間に設けた歯車列55が構成されている。
【0027】
また、各変速ギヤ段の切り替えを行うための1−2速同期装置52,3−4速同期装置53,5−6速同期装置54が設けられている。1−2速同期装置52は、出力軸12上の1速ドリブンギヤ46と2速ドリブンギヤ47との間に設けられている。3−4速同期装置53は、入力軸10上の3速ドライブギヤ42と4速ドライブギヤ43との間に設けられている。5−6速同期装置54は、入力軸10上の5速ドライブギヤ44と6速ドライブギヤ45との間に設けられている。
【0028】
後進段設定機構20は、出力軸12上に固設された後進用出力歯車17と、リバース軸14上に設置されて1速ドライブギヤ40に常時噛合する第1アイドル歯車18と、リバース軸14上に設置されて後進用出力歯車17に常時噛合する第2アイドル歯車19とを備えている。また、後進段設定機構20は、リバース軸14上の第1アイドル歯車18と第2アイドル歯車19との間に配設された後進段確立用の同期装置25を備えている。
【0029】
入力軸10の動力は、各同期装置(シンクロメッシュ機構)52,53,54の操作によって、選択された変速ギヤ段を介して出力軸12に伝達される。そして、ファイナルドライブギヤ60及びファイナルドリブンギヤ61で構成される終減速機構で減速された後、デファレンシャル装置62に伝達される。これにより、左右の車軸に繋がるドライブシャフト63,64が前進方向に回転する。
【0030】
また、後進段の設定時には、後進段確立用の同期装置25でリバース軸14上の第1アイドル歯車18と第2アイドル歯車19とが同期結合される。これにより、入力軸10の動力が1速ドライブギヤ40及び第1アイドル歯車18を介してリバース軸14に伝達され、さらに、第2アイドル歯車19及び後進用出力歯車17を介して出力軸12に伝達される。これにより、出力軸12が前進段の設定時とは逆向きに回転する。したがって、出力軸12からデファレンシャル装置62に伝達された駆動力によって、ドライブシャフト63,64が後進方向に回転する。
【0031】
そして、上記構成の変速機1には、ケース5内に配置した潤滑油導入路33から出力軸12の潤滑油供給穴71に潤滑油を供給する潤滑油供給構造が設けられている。以下、この潤滑油供給構造について詳細に説明する。図2及び図3は、出力軸12の端部12a及びその近傍を示す部分拡大図であり、図2は、後述する図4のY−Y矢視に対応する部分の断面図で、図3は、図4のZ−Z矢視に対応する部分の断面図である。また、図4は、出力軸12の端部12aに対峙するケース5の内面を示す図で、図2のX−X矢視に対応する部分を示す図である。なお、図4では、後述するガイド部材77のプレート部78の手前側にあるサークリップ74を点線で図示している。
【0032】
先の図1に示すように、出力軸12の内部には、軸方向に延びる中空の潤滑油供給穴71が形成されていると共に、この潤滑油供給穴71と直交し出力軸12の外周に位置する各ドリブンギヤ46〜51及び1−2速同期装置52の内径側それぞれに貫通する複数の供給口71aが形成されている。
【0033】
図2乃至図4に示すように、出力軸12の端部12aに対峙するケース5の内面5aには、ガイドプレート77及び出力軸12の端部12aに取り付けた軸受73を収容する凹部31が形成されている。凹部31は、軸受73の外周径と略一致する内周径を有する略円形の窪みである。
また、凹部31の底面(軸方向の端面)31aとガイドプレート77のプレート部78との隙間には、出力軸12の潤滑油供給穴71に潤滑油を導入するための潤滑油導入路33が画成されている。
また、図4に示すように、潤滑油導入路33の上方には、該潤滑油導入路33に潤滑油を供給するため油路溝34が形成されている。油路溝34には、ファイナルドリブンギヤ61によって掻き上げられたケース5内の潤滑油が図示しないオイルガタープレートを介して供給されるようになっている。油路溝34は、後述する調整穴35を経由して潤滑油導入路33に潤滑油を流下させるようになっている。
【0034】
凹部31の内周面31bには、その全周に渡って細帯状の環状溝32が形成されている。環状溝32には、凹部31内に収容した軸受73を位置決め固定するサークリップ(係止具)74が取り付けられている。サークリップ74は、弾性を有する金属製の線材からなり、その両端部74a,74a間を環状に湾曲させて略C字型に形成した部品である。サークリップ74は、両端部74a,74a間の離間寸法に応じてその径寸法を調整可能である。したがって、両端間部74a,74aを引き離す方へ移動させることで径寸法を拡大することができる。その一方で、両端間を引き離している力を解除すると、弾性で元の径寸法に復帰するようになっている。環状溝32に設置されたサークリップ74は、外力を加えていない状態で、その内周縁が環状溝32から若干内側に突出する一方、両端部74a,74a間が押し広げられた状態で、その全体が環状溝32内に収容される寸法形状に設定されている。
【0035】
また、出力軸12の端部12aには、潤滑油供給穴71に繋がる開口部72が形成されている。開口部72の内径は、潤滑油供給穴71の内径よりも小さい径になっている。開口部72には、出力軸12の端部12aに取り付けた軸受73の内輪73bを係止するためのボルト(締結具)75が締結されている。ボルト75は、出力軸12の端部12aで軸受73の内輪73bに当接してこれを係止する頭部75aと、開口部72に螺合する軸部75bと、頭部75a及び軸部75bを貫通して軸方向に延びる貫通穴からなる中空部75cとを有している。軸部75bの外周面には、ネジ溝が形成されており、該ネジ溝が開口部72の内周面に形成したネジ溝に螺合している。中空部75cは、その内周面の断面形状が六角形状に形成されており、該中空部75cに六角形状の工具(図示せず)を差し込んで回転させることで、ボルト75を開口部72に締結するようになっている。これにより、出力軸12の端部12aに軸受73の内輪73bが固定される。
【0036】
また、ボルト75の中空部75cの内径寸法は、潤滑油供給穴71の内径寸法よりも小さな寸法に設定されている。これにより、潤滑油供給穴71とボルト75の中空部75cと境界には、段部76が形成されている。中空部75cの下面は、潤滑油供給穴71の下面よりも高くなっている。
【0037】
凹部31内の底面31a(ケース5の内面5a)と軸受73及び出力軸12の端部12a(ボルト75の頭部75a)との間には、潤滑油導入路33から導入された潤滑油を出力軸12の開口部72から潤滑油供給穴71に供給するためのガイドプレート(ガイド部材)77が設置されている。このガイドプレート77は、凹部31内の底面31aと出力軸12の端部12a及び軸受73との間に配置された平板状のプレート部78と、プレート部78における一方の面(出力軸12側の面)の中心に突出形成された円筒状のパイプ部79とを有している。プレート部78の中心には、パイプ部79に連通する円形の開口78aが形成されている。プレート部78におけるパイプ部79の外径側には、プレート部78を貫通する小孔78bが放射状に複数形成されている。プレート部78の外周縁78cは、凹部31の内側面に沿う円形状であって、その一部には、後述する切欠部78dが形成されている。一方、パイプ部79は、図2に示すように、出力軸12の端部12aからボルト75の中空部75c内に挿入されて(差し込まれて)おり、中空部75cの内周面とパイプ部79の外周面との間には、隙間80が形成されている。パイプ部79は、その全長が中空部75cの内部に配置されている。そして、パイプ部79の先端79aは、軸方向における中空部75cの中間付近に位置しており、軸部75bの先端75dよりも出力軸12の端部12aに近い側(軸方向の外側)に位置している。
【0038】
また、図3及び図4に示すように、ケース5には、該ケース5の外側から環状溝32に取り付けたサークリップ74の径を調整可能な調整穴35が設けられている。調整穴35は、凹部31よりも小径の貫通穴であって、軸方向から見て凹部31の一部と重なるように形成されている。これにより、調整穴35内には、軸受73及びプレート部78の外周縁78cの一部が露出している。なお、変速機1の組立後には、調整穴35はシーリングボルト36(図2(b)参照)で塞がれる。
【0039】
プレート部78の外周縁78cにおける調整穴35に対応する位置には、切欠部78dが形成されている。切欠部78dは、プレート部78の外周縁78cの一部を略コ字状に切り欠いてなる部分である。図5は、ケース5の外側から調整穴35の内部を見た斜視図である。同図に示すように、サークリップ74の両端部74a,74a間の寸法は、切欠部78dの幅寸法よりも小さくなっている。これにより、切欠部78dからサークリップ74の両端部74a,74aが露出するようになっている。
【0040】
また、プレート部78の外周縁78cにおける切欠部78dの両側(周方向の両側)には、径方向の外側に突出する一対の突出部78e,78eが形成されている。そして、一対の突出部78e,78eそれぞれが凹部31と調整穴35との境界に設けた段部37,37に当接して係止されている。これにより、ガイドプレート77がケース5の凹部31内に設置されることで、プレート部78の回り止めが施されるようになっている。
【0041】
図2及び図3に示すように、ガイドプレート77のプレート部78は、凹部31の底面31aと出力軸12の端部12aとの間の隔壁を構成している。そして、凹部31の底面31a(ケース5の内面)とプレート部78との隙間に上記の潤滑油導入路33が画成されている。この潤滑油導入路33には、上方の油路溝34から流下した潤滑油が貯まるようになっている。そして、潤滑油導入路33に貯まった潤滑油がガイドプレート77のパイプ部79を通ってボルト75の中空部75cに導入され、中空部75cから潤滑油供給穴71に供給される。潤滑油供給穴71に供給された潤滑油は、供給口71aを通して出力軸12の外周に位置する各ドリブンギヤ46〜51及び同期装置52などの被潤滑部に供給される。また、潤滑油導入路33に貯まった潤滑油は、プレート部78の小孔78bから流出して軸受73にも供給される。
【0042】
本実施形態の潤滑油供給構造では、ガイドプレート77のパイプ部79は、その全体がボルト75の中空部75cの内部に配置されており、該パイプ部79の先端79aは、ボルト75の軸部75bの先端75dよりも出力軸12の端部12aに近い側に位置している。この構成により、パイプ部79とボルト75の中空部75cとの隙間から出力軸12の端部12a側へ漏れ出す潤滑油の量を少なく抑えることを可能としている。したがって、出力軸12の潤滑油供給穴71に必要な潤滑油の流量を確保することが可能となる。
【0043】
また、本実施形態では、中空部75c内に配置されたパイプ部79は、中空部75cの中間位置よりも奥側まで差し込まれており、かつ、その先端79aが軸部75bの先端75dよりも出力軸12の端部12aに近い側に位置していることで、パイプ部79の長さ寸法の最適化が図られている。これにより、潤滑油供給穴71に供給される潤滑油の十分な流量の確保を可能としている。以下、この点を図6に示す試験データを用いて詳細に説明する。
【0044】
図6は、パイプ部79の長さ寸法の設定と潤滑油供給穴71内の潤滑油の流量との関係を示すグラフである。同図のグラフでは、出力軸12の回転数に対応する車速Vを横軸にとり、潤滑油供給穴71内を流通する潤滑油の流量(軸内潤滑油量)Qを縦軸にとっている。そして、パイプ部79の長さ寸法の設定として、本実施形態のパイプ部79の長さ寸法L1と、該L1よりも長い寸法L2と、該L1よりも短い寸法L3との3種類の長さ寸法を設定した場合において、各車速Vで測定された軸内潤滑油量Qをプロットしてグラフ化したものである。なお、ここでの長い寸法L2のパイプ部とは、その先端が軸部75bの先端部75dよりも奥側(出力軸12の端部12aと反対側)へ突出する程度の長さのものであり、短い寸法L3のパイプ部とは、その先端が軸部75bの中央よりも出力軸12の端部12aに近い側にあるような長さのものである。
【0045】
同図のグラフから分かるように、本実施形態にかかる長さ寸法L1のパイプ部79を備える場合は、低車速側から高車速側までいずれの車速域でも比較的に高い軸内潤滑油量Qを安定して得られたのに対して、より長い寸法L2のパイプ部では、長さ寸法L1のパイプ部79と比べて軸内潤滑油量Qが全体的に少なく、特に、中車速域において軸内潤滑油量Qの減少が顕著になっている。これは、パイプ部が長いことで供給される潤滑油の圧力の低下を招き、パイプ部の先端から導出された潤滑油がパイプ部の外周面を伝って出力軸12端部12a側へ漏れ出す(いわゆる裏漏れ状態となる)ことによるものと考えられる。また、より短い寸法L3のパイプ部でも、長さ寸法L1のパイプ部と比べて軸内潤滑油量Qが全体的に少なく、特に、高車速域において軸内潤滑油量Qの減少が顕著になっている。これは、パイプ部が短いことで、供給される潤滑油が潤滑油供給穴71の奥側まで十分に届かず、それにより軸内潤滑油量Qが不足したものと考えられる。このように、本実施形態では、パイプ部79の長さ寸法の最適化によって、潤滑油供給穴71に供給される潤滑油の十分な流量の確保を可能としている。
【0046】
また、本実施形態の潤滑油供給構造では、出力軸12の端部12aに軸受73を取り付けるためのボルト75を用いて、潤滑油供給穴71内から開口部72側へ流出する潤滑油を堰き止めることが可能となる。したがって、上記のボルト75を出力軸12の端部12aに取り付けるオイルパスプラグの代用品として用いることで、変速機1の部品点数を少なく抑えて組立工程の簡素化を図りながら、潤滑油供給穴71からの潤滑油の漏出を抑制して被潤滑部に十分な量の潤滑油を供給することが可能となる。
【0047】
また、ボルト75の中空部75cの内径寸法は、潤滑油供給穴71の内径寸法よりも小さな寸法に設定されている。これにより、潤滑油供給穴71とボルト75の中空部75cとの間に段部76が形成されることで、潤滑油供給穴71内に導入された潤滑油がボルト75の中空部75c側に戻ることを抑制でき、潤滑油供給穴71内の潤滑油を堰き止めることができる。したがって、ボルト75によって潤滑油供給穴71内の潤滑油が出力軸12の端部12aから漏出することを効果的に抑制できる。
【0048】
次に、上記の構成部品からなる出力軸12の端部12a及びその近傍の組立手順を説明する。当該組立では、まず、ケース5の凹部31内にガイドプレート77を設置する。これには、ガイドプレート77のパイプ部79をケース5の内側に向けて、プレート部78の外周縁78cを凹部31の内周面31bに一致させて凹部31の底面31aに設置する。このとき、プレート部78の突出部78e,78eを凹部31内の段部37,37に係止させることで、ガイドプレート77の回転方向の位置決めを行う。これにより、ガイドプレート77の切欠部78dが調整穴35に位置合わせされた状態となる。次に、凹部31の環状溝32にサークリップ74を取り付ける。このとき、サークリップ74の両端部74a,74aをガイドプレート77の切欠部78dに位置合わせしておく。
【0049】
その一方で、予め出力軸12の端部12aに軸受73を取り付けておく。これには、出力軸12の端部12aの外周に軸受73の内輪73bを圧入して、その状態でボルト75の軸部75bを開口部72に螺合させて締結する。これにより、ボルト75の頭部75aで軸受73の内輪73bが係止され、出力軸12の端部12aに軸受73が固定される。
【0050】
その状態で、軸受73及び出力軸12の端部12aをケース5の凹部31に挿入することで、軸受73を凹部31に固定する。このとき、ケース5の外側から調整穴35内に露出しているサークリップ74の両端部74a,74aを専用の工具で把持し、両端部74a,74aの間隔を広げる。これにより、サークリップ74が環状溝32内に退避する。その状態で、軸受73を凹部31内に一杯まで挿入する。その後、サークリップ74の両端部74a,74aの間隔を元に戻すことで、サークリップ74が凹部31の環状溝32と軸受73の外輪73aの環状溝73cとに跨って係合する。これにより、軸方向の移動が規制された状態で軸受73が凹部31内に固定される。また、この状態で、シム(スペーサ)81を介して、軸受73の外輪73aと凹部31の底面31aの外周に設けた段部31cとの間にプレート部78の外周縁78cが挟持されることで、凹部31内にガイドプレート77が固定される。ガイドプレート77が固定されると、パイプ部79が出力軸12の端部12aからボルト75の中空部75c内に差し込まれて配置される。以上により、出力軸12の端部12a及びその周辺の組み立てが完了する。
【0051】
本実施形態の潤滑油供給構造では、ガイドプレート77のプレート部78の外周縁78cにサークリップ74の両端部74a,74aを露出させるための切欠部78dが形成されていることで、ケース5の凹部31内にガイドプレート77を設置した状態で、ケース5の外側からサークリップ74の両端部74a,74aの離間寸法を調整することが可能となる。これにより、ケース5内に軸受73を固定する作業の容易化を図ることができる。また、ケース5内に固定した軸受73を取り外す作業も簡単に行うことができるので、変速機1のメンテナンスの効率化を図ることができる。
【0052】
また、プレート部78の外周縁78cに上記の切欠部78dを形成したことで、プレート部78自体の径寸法は、軸受73と同一又はそれ以上の径寸法に設定することが可能となる。したがって、プレート部78の外周縁78cが潤滑油導入路33の下端まで延伸するように構成できるので、プレート部78で潤滑油導入路33の潤滑油を保持可能としながらも、切欠部78dを介して調整穴35からサークリップ74の両端部74a,74aを調整する作業の容易化を図ることが可能となる。
【0053】
また、プレート部78の突出部78e,78eがケース5側の段部に係止されることで、プレート部78の回り止めが施されるので、ケース5の凹部31内にプレート部78を設置するだけで、ケース5の調整穴35及びサークリップ74の両端に対する切欠部78dの位置合わせが行われるようになる。したがって、ガイドプレート77の組付作業の効率化、及びサークリップ74の両端部74a,74aの調節による軸受73の固定作業の効率化を図ることができる。また、変速機1の組立後においてもプレート部78の回転を防止できるので、メンテナンスなどの際にも、ケース5の調整穴35及びサークリップ74の両端部74a,74aに対して切欠部78dが位置合わせされた状態となる。
【0054】
図7は、出力軸12及びその周辺の構成部品を示す部分拡大図である。同図に示すように、出力軸12の他方の端部(クラッチ機構8側の端部)12bは、クラッチケース(他のケース)7の内面に軸受(他の軸受)83を介して回転自在に支持されている。そして、出力軸12の潤滑油供給穴71には、該潤滑油供給穴71内を端部12b側へ流れる潤滑油を堰き止めるためのオイルパスプラグ(プラグ部材)85が設置されている。オイルパスプラグ85は、出力軸12の軸方向における軸受83よりも内側の位置であって、詳細には、出力軸12上のファイナルドライブギヤ60における軸方向の中間位置に設置されている。
【0055】
オイルパスプラグ85は、円筒状の支持部85aと、該支持部85aの一端から径方向の内側に延びる円形環状の堰部85bとを有しており、支持部85aが潤滑油供給穴71の内周面に圧入されることで潤滑油供給穴71内に設置される。その状態で堰部85bが潤滑油供給穴71内に立設されることで、潤滑油供給穴71を端部12b側に流出する潤滑油を堰き止めるように構成されている。
【0056】
上記のオイルパスプラグ85を設置したことで、出力軸12の端部12bから潤滑油供給穴71内の潤滑油が過剰に漏れ出すことを抑制できる。そのうえで、オイルパスプラグ85を出力軸12の軸方向で軸受83よりも内側に設置したことで、オイルパスプラグ85に軸受83から径方向の荷重がかかる場合でも、オイルパスプラグ85が潤滑油供給穴71から抜けて外れることを防止できる。すなわち、仮に、オイルパスプラグ85を軸方向における軸受83と同位置あるいは軸受83の中間よりも外側に設置していると、出力軸12の回転で軸受83からオイルパスプラグ85に径方向の荷重が作用することで、オイルパスプラグ85が出力軸12の端部12b側に押し出され、該端部12bから抜けて外れるおそれがある。これに対して、上記のようにオイルパスプラグ85を軸受83よりも内側に設置していれば、軸受83から径方向の荷重が作用しても、オイルパスプラグ85が潤滑油供給穴71から抜けて外れるおそれがない。
【0057】
また、オイルパスプラグ85は、ファイナルドライブギヤ60における軸方向の中間位置に設置されていることで、ファイナルドライブギヤ60からオイルパスプラグ85にかかる径方向の荷重によって、オイルパスプラグ85が軸方向に押し出されることを抑制できる。したがって、潤滑油供給穴71内でオイルパスプラグ85の設置位置がずれることを防止でき、オイルパスプラグ85の機能を維持することができる。
【0058】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲、及び明細書と図面に記載された技術的思想の範囲内において種々の変形が可能である。例えば、上記実施形態では、本発明にかかる潤滑油供給構造を変速機1の出力軸12に適用した場合を説明したが、入力軸10についても同様の潤滑油供給構造を設けることができる。また、本発明の潤滑油供給構造は、例示したマニュアルトランスミッションのみならず、自動変速機(AT)や無段変速機(CVT)にも適用が可能である。
【符号の説明】
【0059】
1 変速機
5 ケース(トランスミッションケース)
5a 内面
7 クラッチケース
8 クラッチ機構
10 入力軸
12 出力軸
12a (一方の)端部
12b (他方の)端部
31 凹部
31a 底面
32 環状溝
33 潤滑油導入路
34 油路溝
35 調整穴
36 シーリングボルト
37,37 段部
60 ファイナルドライブギヤ
61 ファイナルドリブンギヤ
62 デファレンシャル装置
71 潤滑油供給穴
71a 供給口
72 開口部
73 軸受
73a 外輪
73b 内輪
73c 環状溝
74 サークリップ(係止具)
74a,74a 両端部
75 ボルト(締結具)
75a 頭部
75b 軸部
75c 中空部
77 ガイドプレート(ガイド部材)
78 プレート部
78a 開口
78b 小孔
78c 外周縁
78d 切欠部
78e,78e 突出部
79 パイプ部
79a 先端
83 軸受(他の軸受)
85 オイルパスプラグ(プラグ部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
変速機のケースと、
前記ケース内でその端部が軸受を介して回転自在に支持された回転軸と、
前記端部に設けた開口部から前記回転軸内を軸方向に延びる中空の潤滑油供給穴と、
該潤滑油供給穴から径方向の外側に向かって前記回転軸の外周面に開口する供給口と、
前記開口部に締結されて、前記回転軸の端部に前記軸受を取り付ける締結具と、
前記ケースの内面に沿って配置した潤滑油導入路から導入された潤滑油を前記開口部から前記潤滑油供給穴に供給するガイド部材と、を備え、
前記締結具は、前記軸受を係止する頭部と、前記回転軸の前記開口部に螺合する軸部と、前記頭部及び前記軸部を貫通して軸方向に延びる貫通穴からなる中空部とを有しており、
前記ガイド部材は、前記ケースの内面と前記回転軸の端部及び前記軸受との間に設置された板状のプレート部と、前記プレート部に一体形成された筒状のパイプ部とを有しており、
前記パイプ部は、前記締結具の前記中空部内に配置されており、該パイプ部の先端が前記軸部の先端よりも前記回転軸の前記端部に近い側に位置している
ことを特徴とする変速機の潤滑油供給構造。
【請求項2】
前記締結具の前記中空部の内径寸法は、前記潤滑油供給穴の内径寸法よりも小さな寸法に設定されており、前記中空部と前記潤滑油供給穴との境界には、段部が形成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の変速機の潤滑油供給構造。
【請求項3】
前記回転軸の他方の端部は、他の軸受を介して回転自在に支持されており、
前記回転軸の前記潤滑油供給穴には、該潤滑油供給穴内を前記他の端部側へ流れる潤滑油を堰き止めるプラグ部材が設置されており、
前記プラグ部材は、前記回転軸の軸方向における前記他の軸受より内側に設置されている
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の変速機の潤滑油供給構造。
【請求項4】
前記回転軸上には、前記回転軸に固定されて該回転軸を介して伝達される駆動力が常時作用する歯車を含む複数の歯車が設置されており、
前記プラグ部材は、前記駆動力が常時作用する歯車における軸方向の中間位置に設置されている
ことを特徴とする請求項3に記載の変速機の潤滑油供給構造。
【請求項5】
前記ケースの内面には、前記ガイド部材及び前記軸受を収容する凹部と、前記凹部の内周面に形成した環状溝とが設けられており、
前記環状溝に取り付けられて前記凹部内に前記軸受を固定する係止具を備え、
前記係止具は、その両端部の間を環状に湾曲させてなる弾性を有する線材からなり、前記両端部の離間寸法によって径寸法を調整可能であり、
前記ケースには、該ケースの外側から前記環状溝に取り付けた前記係止具の径寸法を調整可能な調整穴が設けられており、
前記ガイド部材の前記プレート部の外周縁には、前記係止具の前記両端部を前記調整穴に露出させるための切欠部が形成されている
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の変速機の潤滑油供給構造。
【請求項6】
前記プレート部の前記外周縁における前記切欠部の側部には、径方向の外側に突出する突出部が形成されており、
該突出部が前記ケースの内面に形成した段部に係止されることで、前記プレート部の回り止めが施されるように構成した
ことを特徴とする請求項5に記載の変速機の潤滑油供給構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−113305(P2013−113305A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−256869(P2011−256869)
【出願日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】