説明

変速装置

【課題】遊星歯車機構のリングギヤをブレーキによりケースに固定した際に当該ケースへの振動の伝達を良好に抑制してノイズの発生を低減させる。
【解決手段】変速装置30では、ブレーキB2の締結対象である第2遊星歯車機構32の第2リングギヤ32rと第1遊星歯車機構31の第1キャリア31cとが、第2リングギヤ32rの内周部に嵌合される外周部60aと第1キャリア31cに嵌合される内周部60bとを有する連結部材60を介して連結されると共に、第1キャリア31cがブレーキB2を構成する第2ブレーキハブ53に連結される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変速比を複数段に変更しながら入力軸に付与された動力を出力軸に伝達可能な変速装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の変速装置として、第1、第2および第3プラネタリギヤと複数のクラッチおよびブレーキとを有すると共にクラッチやブレーキの径脱により動力伝達経路を変更することで変速比を複数段に変更しながら入力軸に付与された動力を出力軸に伝達する自動変速機が知られている(例えば、特許文献1参照)。この自動変速機では、第1プラネタリギヤと第3プラネタリギヤとの間に配置される第2プラネタリギヤのリングギヤと、当該リングギヤをケースに固定する第2ブレーキのブレーキハブとが別体化されており、第2プラネタリギヤのリングギヤには、自動変速機の軸線(中心軸)と直交する半径方向に延在する延在部が溶接され、当該延在部は、軸線に近接した連結位置(A)で第2プラネタリギヤのキャリアに形成されたボス部により支持される環状の回転部材に連結される。そして、ブレーキハブは、第2プラネタリギヤのリングギヤの外周側に配置されると共に、第1プラネタリギヤのリングギヤに上記回転部材の外周部と共に嵌合されてスナップリングにより軸方向に位置決めされる。これにより、第2プラネタリギヤのリングギヤと、その外周側に配置される第2ブレーキハブとが、延在部および回転部材を介して連結される。なお、この種の変速装置としては、3体のシングルピニオン式遊星歯車装置を含むものも知られている(例えば、特許文献2参照)。この変速装置では、各遊星歯車装置の外周側にそれぞれのリングギヤをケースに対して固定するためのブレーキが配置されており、各遊星歯車装置のリングギヤの外周にブレーキハブが直接固定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−154919号公報
【特許文献2】特開昭52−149562号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載された自動変速機のように、第2プラネタリギヤのリングギヤ(延在部)と第2ブレーキのブレーキハブ(回転部材)とを自動変速機の軸線(中心軸)に近接した連結位置で互いに連結(固定)することで、第2プラネタリギヤのリングギヤを第2ブレーキによりケースに固定した際に、ピニオンギヤとの噛合により当該リングギヤに励起される振動がブレーキを介してケースに直接伝達されないようにしてノイズの発生を低減させることができる。しかしながら、特許文献1に記載された自動変速機では、上記延在部と回転部材との連結位置を自動変速機の軸線に近接させることに限界があり、第2ブレーキを係合させた際の第2プラネタリギヤの振動やそれに起因したノイズの低減化を図る上でなお改善の余地がある。
【0005】
そこで、本発明の変速装置は、遊星歯車機構のリングギヤをブレーキによりケースに固定した際に当該ケースへの振動の伝達を良好に抑制してノイズの発生を低減させることを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による変速装置は、上記主目的を達成するために以下の手段を採っている。
【0007】
本発明による変速装置は、
変速比を複数段に変更しながら入力軸に付与された動力を出力軸に伝達可能な変速装置において、
前記入力軸に連結される第1サンギヤ、該第1サンギヤと噛合する第1ピニオンギヤを回転自在に支持する第1キャリア、および前記第1ピニオンギヤと噛合する第1リングギヤを有するシングルピニオン式の第1遊星歯車機構と、
第2サンギヤ、該第2サンギヤと噛合する第2ピニオンギヤを回転自在に支持する第2キャリア、および前記第1キャリアに連結されると共に前記第2ピニオンギヤと噛合する第2リングギヤを有するシングルピニオン式の第2遊星歯車機構と、
前記第2サンギヤに連結される回転要素と、前記出力軸に連結される回転要素とを有する第3遊星歯車機構と、
前記第1、第2および第3遊星歯車機構を収容するケースと、
前記入力軸と前記第2サンギヤとを連結すると共に両者の連結を解除することができる第1クラッチと、
前記入力軸と前記第2キャリアとを連結すると共に両者の連結を解除することができる第2クラッチと、
前記第1リングギヤを前記ケースに固定可能な第1ブレーキと、
前記第2リングギヤを前記ケースに固定可能な第2ブレーキとを備え、
前記第1キャリアと前記第2リングギヤとは、該第2リングギヤから内周側に延びる連結部材を介して連結され、前記第2リングギヤは、前記第1キャリアを介して前記第2ブレーキを構成する第2ブレーキハブに連結されることを特徴とする。
【0008】
この変速装置では、第1遊星歯車機構の第1キャリアと第2遊星歯車機構の第2リングギヤとが当該第2リングギヤから内周側に延びる連結部材を介して連結され、第2リングギヤは、第1キャリアを介して第2ブレーキを構成する第2ブレーキハブに連結される。このように、第2リングギヤから内周側に延びる連結部材を用いれば、第1遊星歯車機構の第1キャリアと第2遊星歯車機構の第2リングギヤとを変速装置の中心軸により近い位置で互いに連結することができるので、第2遊星歯車機構の第2リングギヤを第2ブレーキによりケースに固定した際に、第2ピニオンギヤとの噛合により第2リングギヤに励起される振動が第2ブレーキを介してケースに伝達されるのを抑制することが可能となる。更に、第1キャリアを第2ブレーキの第2ブレーキハブに連結することで、第2リングギヤから第2ブレーキまでの経路をより長くすることができるので、第2遊星歯車機構の第2リングギヤを第2ブレーキによりケースに固定した際に、第2リングギヤに励起される振動を良好に減衰することができる。加えて、第1キャリアを介して第2リングギヤを第2ブレーキハブに連結することで、第1キャリアのイナーシャにより第2リングギヤに励起される振動を良好に減衰することができる。従って、この変速装置では、第2遊星歯車機構の第2リングギヤを第2ブレーキによりケースに固定した際に当該ケースへの振動の伝達を良好に抑制してノイズの発生を低減させることが可能となる。
【0009】
また、前記連結部材は、前記第2リングギヤの内周部に嵌合される外周部と前記第1キャリアに嵌合される内周部とを有するものであってもよい。これにより、第1遊星歯車機構の第1キャリアと第2遊星歯車機構の第2リングギヤとを変速装置の中心軸により近い位置で容易に連結可能となる。
【0010】
更に、前記第2リングギヤは、前記第1リングギヤが前記第1ブレーキにより固定される変速段よりも高速段で前記第2ブレーキにより固定されてもよく、前記連結部材の前記内周部は、前記第1リングギヤと前記第1ブレーキを構成する第1ブレーキハブとの連結部よりも内周側で前記第1キャリアに嵌合されてもよい。これにより、入力軸の回転数や入力トルクが比較的低く、振動に起因したノイズが顕在化し易い上記高速段を形成するために第2リングギヤを第2ブレーキにより固定した際に、第2ピニオンギヤとの噛合により第2リングギヤに励起される振動が第2ブレーキを介してケースに伝達されるのを良好に抑制することが可能となる。
【0011】
また、前記連結部材の前記外周部と前記第2リングギヤとの嵌合部と、該連結部材の前記内周部と前記第1キャリアとの嵌合部との少なくとも何れか一方は、調心機能をもたない嵌合部として構成されてもよい。これにより、第2ブレーキの係合により第2遊星歯車機構自体の調心機能が妨げられるのを抑制することができるので、第2ブレーキの係合時に第2遊星歯車機構で回転要素間の軸心のズレに起因した無理な力が発生するのを抑制可能となり、第2ブレーキの係合時に第2リングギヤに励起される振動を良好に低減することができる。
【0012】
更に、前記連結部材は、前記第2リングギヤと前記第1キャリアとの少なくとも何れか一方に少なくとも径方向のガタをもって嵌合されてもよい。これにより、第2リングギヤから第1キャリアまでの間に調心機能をもたない嵌合部を容易に構成可能となる。
【0013】
また、前記連結部材の前記外周部は、調心機能をもった嵌合部を介して前記第2リングギヤに連結されてもよく、該連結部材の前記内周部は、前記調心機能をもたない嵌合部を介して前記第1キャリアに連結されてもよい。
【0014】
更に、前記連結部材の前記外周部は、調心機能をもった嵌合部を介して前記第2リングギヤに連結されてもよく、該連結部材の前記内周部は、調心機能をもった嵌合部を介して前記第1キャリアに連結されてもよい。これにより、第2遊星歯車機構の第2リングギヤが第1遊星歯車機構の第1キャリアにより調心されることから、第2遊星歯車機構の各回転要素を調心して第2ブレーキの係合時に第2遊星歯車機構で回転要素間の軸心のズレに起因した無理な力が発生するのを抑制し、第2リングギヤに励起される振動を低減することができる。
【0015】
また、前記第2ブレーキハブは、前記第1キャリアにより径方向に位置決めされてもよい。これにより、第2ブレーキハブを変速装置の中心軸周りに精度よく調心することができるので、第2ブレーキの係合時に第2ブレーキハブの姿勢を安定化させて第2遊星歯車機構で回転要素間の軸心のズレに起因した無理な力が発生するのを抑制することが可能となる。
【0016】
更に、前記第1キャリアは、前記第1ピニオンギヤを回転自在に支持する環状の径方向延在部と、該径方向延在部の内周部から前記第2遊星歯車機構に向けて軸方向に延出された軸方向延在部とを有してもよく、前記連結部材は、前記第1キャリアの前記軸方向延在部に嵌合されてもよく、前記第1リングギヤは、前記第1キャリアの前記径方向延在部と前記連結部材との間で前記軸方向延在部により回転自在に支持される環状のフランジ部材に固定されてもよい。これにより、第1リングギヤを変速装置の中心軸周りに精度よく調心することができるので、第2ブレーキの係合時に第1遊星歯車機構で回転要素間の軸心のズレに起因した無理な力が発生するのを抑制することが可能となる。
【0017】
そして、前記第3遊星歯車機構は、前記第3遊星歯車機構は、前記第2サンギヤに連結される第3サンギヤ、該第3サンギヤと噛合する第3ピニオンギヤを回転自在に支持すると共に前記出力軸に連結される第3キャリア、および前記第2キャリアに連結されると共に前記第3ピニオンギヤと噛合する第3リングギヤを有するシングルピニオン式の遊星歯車機構であってもよく、前記変速装置は、前記第3リングギヤを前記ケースに固定可能な第3ブレーキを更に備えてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施例に係る変速装置30を含む動力伝達装置20を搭載した車両である自動車10の概略構成図である。
【図2】動力伝達装置20を示す断面図である。
【図3】動力伝達装置20の概略構成図である。
【図4】変速装置30の各変速段とクラッチおよびブレーキの作動状態との関係を表す作動表である。
【図5】変速装置30を構成する回転要素間における回転数の関係を例示する共線図である。
【図6】変速装置30の要部拡大図である。
【図7】連結部材60と第1キャリア31cとの嵌合部を示す説明図である。
【図8】変形例に係る変速装置30Bの要部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、本発明を実施するための形態を実施例を用いて説明する。
【実施例】
【0020】
図1は、本発明の実施例に係る変速装置30を含む動力伝達装置20を搭載した車両である自動車10の概略構成図である。同図に示す自動車10は、後輪駆動車両として構成されており、ガソリンや軽油といった炭化水素系の燃料と空気との混合気の爆発燃焼により動力を出力する内燃機関である原動機としてのエンジン12と、エンジン12を制御するエンジン用電子制御ユニット(以下、「エンジンECU」という)14と、図示しない電子制御式油圧ブレーキユニットを制御するブレーキ用電子制御ユニット(以下、「ブレーキECU」という)15と、流体伝動装置(発進装置)23や有段の変速装置(自動変速機)30、これらに作動油(作動流体)を給排する油圧制御装置70、これらを制御する変速用電子制御ユニット(以下、「変速ECU」という)21等を有し、エンジン12のクランクシャフト16に接続されると共にエンジン12からの動力をデファレンシャルギヤ80を介して左右の駆動輪(後輪)DWに伝達する動力伝達装置20とを備える。
【0021】
図2および図3に示すように、動力伝達装置20は、流体伝動装置23や、油圧発生源としてのオイルポンプ29、変速装置30等を収容するトランスミッションケース22を有する。流体伝動装置23は、流体式トルクコンバータとして構成されており、フロントカバー18を介してエンジン12のクランクシャフト16に接続されるポンプインペラ24や、タービンハブを介して変速装置30のインプットシャフト(入力軸)34に固定されるタービンランナ25、ポンプインペラ24およびタービンランナ25の内側に配置されてタービンランナ25からポンプインペラ24への作動油(ATF)の流れを整流するステータ26、ステータ26の回転方向を一方向に制限するワンウェイクラッチ26a、ダンパ機構27、ロックアップクラッチ28等を含む。油圧発生源としてのオイルポンプ29は、ポンプボディとポンプカバーとからなるポンプアッセンブリと、ハブを介して流体伝動装置23のポンプインペラ24に接続された外歯ギヤとを備えるギヤポンプとして構成されており、油圧制御装置70に接続される。
【0022】
変速装置30は、6段変速式の有段変速機として構成されており、図2および図3に示すように、何れもシングルピニオン式遊星歯車である第1遊星歯車機構31、第2遊星歯車機構32、および第3遊星歯車機構33と、インプットシャフト34と、アウトプットシャフト(出力軸)35と、インプットシャフト34からアウトプットシャフト35までの動力伝達経路を変更するための2つのクラッチC1およびC2と3つのブレーキB1,B2およびB3とワンウェイクラッチF1とを含む。第1〜第3遊星歯車機構31〜33とクラッチC1,C2とブレーキB1〜B3とワンウェイクラッチF1とは、図示するように、トランスミッションケース22の内部に収容される。また、変速装置30のインプットシャフト34は、流体伝動装置23を介してエンジン12のクランクシャフトに連結され、アウトプットシャフト35は、デファレンシャルギヤ80(図1参照)を介して駆動輪DWに連結される。
【0023】
第1、第2および第3遊星歯車機構31〜33の中で最もエンジン12側(車両前方)すなわち最もインプットシャフト34に近接して配置されて後段の第2遊星歯車機構32と共に変速ギヤ機構を構成する第1遊星歯車機構31は、外歯歯車である第1サンギヤ31sと、第1サンギヤ31sと同心円上に配置される内歯歯車である固定可能要素としての第1リングギヤ31rと、第1サンギヤ31sと噛合すると共に第1リングギヤ31rと噛合する複数の第1ピニオンギヤ31pを自転かつ公転自在に保持する第1キャリア31cとを有する。第1遊星歯車機構31の第1サンギヤ31sは、インプットシャフト34と一体に回転可能なクラッチC1のクラッチドラムに連結(スプライン嵌合)される環状の連結ドラム36に固定される。
【0024】
また、第1遊星歯車機構31のアウトプットシャフト35側(車両後方側)に並設される第2遊星歯車機構32は、外歯歯車である第2サンギヤ32sと、第2サンギヤ32sと同心円上に配置される内歯歯車である固定可能要素としての第2リングギヤ32rと、第2サンギヤ32sと噛合すると共に第2リングギヤ32rと噛合する複数の第2ピニオンギヤ32pを自転かつ公転自在に保持する第2キャリア32cとを有する。第2遊星歯車機構32の第2サンギヤ32sは、インプットシャフト34とアウトプットシャフト35との間に両者に対して回転自在に配置される中間シャフト37に固定される。第2遊星歯車機構32の第2リングギヤ32rは、第1遊星歯車機構31の第1キャリア31cに連結される。第2遊星歯車機構32の第2キャリア32cは、中間シャフト37により同軸かつ回転自在に支持されるスリーブ38に固定される。
【0025】
更に、第1〜第3遊星歯車機構31〜33の中で最もアウトプットシャフト35に近接して(車両後方に)配置される減速ギヤ機構としての第3遊星歯車機構33は、外歯歯車である第3サンギヤ33sと、第3サンギヤ33sと同心円上に配置される内歯歯車である固定可能要素としての第3リングギヤ33rと、第3サンギヤ33sと噛合すると共に第3リングギヤ33rと噛合する複数の第3ピニオンギヤ33pを自転かつ公転自在に保持する第3キャリア33cとを有する。第3遊星歯車機構33の第3サンギヤ33sは、中間シャフト37に固定されて第2遊星歯車機構32の第2サンギヤ32sと連結され、第3遊星歯車機構33の第3リングギヤ33rは、第2遊星歯車機構32の第2キャリア32cに連結され、第3遊星歯車機構33の第3キャリア33cは、アウトプットシャフト35に連結される。
【0026】
クラッチC1は、インプットシャフト34と中間シャフト37すなわち第2遊星歯車機構32の第2サンギヤ32sおよび第3遊星歯車機構33の第3サンギヤ33sとを連結すると共に両者の連結を解除することができる多板式油圧クラッチである。クラッチC2は、インプットシャフト34とスリーブ38すなわち第2遊星歯車機構32の第2キャリア32cとを連結すると共に両者の連結を解除することができる多板式油圧クラッチである。ワンウェイクラッチF1は、第2遊星歯車機構32の第2キャリア32cおよび第3遊星歯車機構33の第3リングギヤ33rの正転のみを許容して逆転を規制するものである。
【0027】
ブレーキB1は、第1遊星歯車機構31の第1リングギヤ31rをトランスミッションケース22に対して固定すると共に第1リングギヤ31rのトランスミッションケース22に対する固定を解除することができる多板式油圧ブレーキである。ブレーキB2は、第1遊星歯車機構31の第1キャリア31cをトランスミッションケース22に対して固定することで第2遊星歯車機構32の第2リングギヤ32rをトランスミッションケース22に対して固定すると共に、第1キャリア31cおよび第2リングギヤ32rのトランスミッションケース22に対する固定を解除することができる多板式油圧ブレーキである。ブレーキB3は、第2遊星歯車機構32の第2キャリア32cと第3遊星歯車機構33の第3リングギヤ33rとをトランスミッションケース22に対して固定すると共に第2キャリア32cおよび第3リングギヤ33rのトランスミッションケース22に対する固定を解除することができる多板式油圧ブレーキである。
【0028】
上述のクラッチC1およびC2並びにブレーキB1〜B3は、油圧制御装置70による作動油の給排を受けて動作する。図4に変速装置30の各変速段とクラッチC1およびC2並びにブレーキB1〜B3の作動状態との関係を表す作動表を示し、図5に変速装置30を構成する回転要素間における回転数の関係を例示する共線図を示す。変速装置30は、クラッチC1およびC2並びにブレーキB1〜B3を図4の作動表に示す状態とすることで図5に示すように前進第1速〜第6速の変速段と後進1段の変速段とを提供する。
【0029】
図6は、変速装置30の要部拡大図である。同図に示すように、変速装置30の第3速や第5速、リバース段を形成する際に第1遊星歯車機構31の第1リングギヤ31rをトランスミッションケース22に対して固定するのに用いられるブレーキB1は、トランスミッションケース22の内周部に嵌合(スプライン嵌合)されて当該トランスミッションケース22により摺動自在に支持される複数の第1摩擦板(相手板)41と、それぞれ互いに隣り合う第1摩擦板41の間に配置される複数の第2摩擦板(両面に摩擦材を有する部材)42と、締結(固定)対象である第1遊星歯車機構31の第1リングギヤ31rにリングギヤフランジ(フランジ部材)40を介して連結されると共に複数の第2摩擦板42が嵌合(スプライン嵌合)される円筒状の外周部43aを有する第1ブレーキハブ43と、トランスミッションケース22に対して軸方向に移動して第1および第2摩擦板41,42を押圧可能な第1ピストン44と、第1ピストン44を第1および第2摩擦板41,42から離間するように軸方向に付勢する複数の第1リターンスプリング45と、トランスミッションケース22に固定されて第1ピストン44の背後(第1リターンスプリング45とは反対側)に係合油室を画成する第1油室画成部材46とを含む。
【0030】
また、変速装置30の第2速や第6速を形成する際に第2遊星歯車機構32の第2リングギヤ32rをトランスミッションケース22に対して固定するのに用いられるブレーキB2は、トランスミッションケース22の内周部に嵌合(スプライン嵌合)されて当該トランスミッションケース22により摺動自在に支持される複数の第1摩擦板(相手板)51と、それぞれ互いに隣り合う第1摩擦板51の間に配置される複数の第2摩擦板(両面に摩擦材を有する部材)52と、締結(固定)対象である第2遊星歯車機構32の第2リングギヤ32rに連結部材60と第1遊星歯車機構31の第1キャリア31cとを介して連結されると共に複数の第2摩擦板42が嵌合(スプライン嵌合)される円筒状の外周部53aを有する第2ブレーキハブ53と、トランスミッションケース22に対して軸方向に移動して第1および第2摩擦板51,52を押圧可能な第2ピストン54と、第2ピストン54を第1および第2摩擦板51,52から離間するように軸方向に付勢する複数の第2リターンスプリング55と、トランスミッションケース22に固定されて第2ピストン54の背後(第2リターンスプリング55とは反対側)に係合油室を画成する第2油室画成部材56とを含む。
【0031】
図6に示すように、ブレーキB1を構成する第1および第2摩擦板41,42、第1ブレーキハブ43の外周部43a、第1ピストン44や第1リターンスプリング45、第1油室画成部材46の一部は、径方向(図6における白抜矢印参照)からみて第2遊星歯車機構32と重なるように当該第2遊星歯車機構32の外周側に配置される。また、ブレーキB1の第1ブレーキハブ43は、外周部43aの一端から径方向内側に延出されると共に第1遊星歯車機構31と第2遊星歯車機構32との間に配置される内周部43bを有し、内周部43bは、上述のリングギヤフランジ40に固定される。リングギヤフランジ40は、環状に形成されており、第1遊星歯車機構31の第1リングギヤ31rの内周部に嵌合されると共にスナップリングにより第1リングギヤ31rに対して軸方向に固定される外周部40aと、当該外周部40aから第2遊星歯車機構32(連結部材60)に向けて軸方向にオフセットされた内周部40bとを有する。実施例において、リングギヤフランジ40の外周部40aには、第1リングギヤ31rのギヤ歯と噛合して当該ギヤ歯と共に調心機能をもった嵌合部を構成するギヤ歯が形成されている。更に、第1遊星歯車機構31の第1キャリア31cは、複数の第1ピニオンギヤ31pを回転自在に支持する環状の径方向延在部311cと、当該径方向延在部311cの内周部から第2遊星歯車機構32(連結部材60)に向けて軸方向に延出された軸方向延在部312cとを有しており、リングギヤフランジ40は、径方向延在部311cと連結部材60との間で第1キャリア31cの軸方向延在部312cによりブッシュを介して回転自在に支持される。そして、ブレーキB1の第1ブレーキハブ43は、径方向からみて第1キャリア31cの軸方向延在部312cと重なる位置でリングギヤフランジ40の内周部40bに例えば溶接等により固定される。
【0032】
一方、ブレーキB2を構成する第1および第2摩擦板51,52の一部、第2ブレーキハブ53の外周部53a、第2ピストン54の一部、第2リターンスプリング55、第2油室画成部材56の一部は、図6に示すように、径方向からみて第1遊星歯車機構31と重なるように当該第1遊星歯車機構31の外周側に配置される。また、ブレーキB2の第2ブレーキハブ53は、外周部53aの一端から径方向内側に延出される内周部53bを有する。第2ブレーキハブ53の内周部53bは、第1遊星歯車機構31の第1キャリア31cに対して軸方向に嵌合されると共に例えば溶接等により固定され(図2参照)、それにより第2ブレーキハブ53は、第1キャリア31cにより径方向に位置決めされる。また、実施例において、第2ブレーキハブ53の内周部53bは、第1キャリア31cにより回転自在に一端が支持された第1ピニオンギヤ31pのピニオンシャフトの他端を回転自在に支持する。ただし、第1ピニオンギヤ31pのピニオンシャフトの他端は、第2ブレーキハブ53の内周部53bではなく、第1キャリア31cにより回転自在に支持されてもよい。更に、第1キャリア31cの軸方向延在部312cの遊端部(図中右端すなわち第2遊星歯車機構32側の端部)には、図6および図7に示すように、略台形の断面形状を有すると共にそれぞれ第2遊星歯車機構32に向けて軸方向に突出する複数の係合爪313cが等間隔に形成されている。第1キャリア31cは、複数の係合爪313cを介して、第2遊星歯車機構32の第2リングギヤ32rから内周側(径方向内側)に延びる連結部材60に連結される。
【0033】
連結部材60は、環状に形成されており、第2遊星歯車機構32の第2リングギヤ32rの内周部に嵌合されると共にスナップリングにより第2リングギヤ32rに対して軸方向に固定される外周部60aと、当該外周部60aから第1遊星歯車機構31(リングギヤフランジ40)に向けて軸方向にオフセットされた内周部60bとを有する。実施例において、連結部材60の外周部60aには、第2リングギヤ32rのギヤ歯と噛合して当該ギヤ歯と共に調心機能をもった嵌合部を構成するギヤ歯が形成されている。また、連結部材60の内周部60bは、図6に示すように、第1リングギヤ31rに固定されたリングギヤフランジ40の内周部40bと比較的小さい間隔をおいて対向し、連結部材60の内周部60bとリングギヤフランジ40の内周部40bとの間には、スラスト軸受65が配置される。更に、リングギヤフランジ40の内周部40bと第1キャリア31cの径方向延在部311cとの間、並びに連結部材60の内周部60bと第2遊星歯車機構32の第2キャリア32cとの間にもスラスト軸受65が配置される。
【0034】
図6および図7に示すように、連結部材60の内周部60bには、径方向内側に突出すると共にそれぞれ第1キャリア31cの複数の係合爪313cと噛合可能な複数の係合爪60cが等間隔に形成されている。実施例では、係合爪313cと係合爪60cとが噛み合った状態で第1遊星歯車機構31の第1キャリア31cと連結部材60とが同軸に位置決めされたときに、図7に示すように、互いに隣り合う係合爪313cと係合爪60cとの間に僅かな周方向におけるバックラッシ(隙間)が形成されると共に、連結部材60の互いに隣り合う係合爪60c間の歯底面と第1キャリア31cの係合爪313cの外周面との間に上記バックラッシよりも大きい隙間G(図7参照)が形成される。すなわち、連結部材60は、第1キャリア31cの軸方向延在部312cに対して径方向のガタをもって嵌合され、それにより、第1キャリア31cの係合爪313cと連結部材60の係合爪60cとは、調心機能をもたない嵌合部(台形歯スプライン)を構成する。そして、図6に示すように、連結部材60の内周部60b(係合爪60c)は、第1遊星歯車機構31の第1リングギヤ31rとブレーキB1の第1ブレーキハブ43の連結部すなわちリングギヤフランジ40(内周部40b)と第1ブレーキハブ43の内周部43bとの固定部や、複数のスラスト軸受65よりも内周側で第1キャリア31cの軸方向延在部312c(係合爪313c)に嵌合され、それにより第2リングギヤ32rが連結部材60および第1キャリア31cを介してブレーキB2の第2ブレーキハブ53に連結されることになる。
【0035】
上述のように、実施例の変速装置30において、インプットシャフト34側の第1遊星歯車機構31とアウトプットシャフト35側の第3遊星歯車機構33との間に配置される第2遊星歯車機構32の第2リングギヤ32rは、第1リングギヤ31rがブレーキB1により固定される変速段である第3速および第5速よりも低速段である第2速の形成時にブレーキB2により固定される。そして、ブレーキB1は、少なくとも一部が径方向からみて第2遊星歯車機構32と重なるように当該第2遊星歯車機構32の外周側に配置され、ブレーキB2は、少なくとも一部が径方向からみて第1遊星歯車機構31と重なるように当該第1遊星歯車機構31の外周側に配置される。このように、第2速の形成に際して係合されることによりブレーキB1に比べてより大きなトルク容量が要求されるブレーキB2の少なくとも一部をインプットシャフト34側に配置される第1遊星歯車機構31の外周側に配置すれば、一般にトランスミッションケース22のサイズはインプットシャフト34側で大きくなることから、ブレーキB2のトルク容量を確保しつつ第1遊星歯車機構31の外周側におけるトランスミッションケース22のサイズアップを抑制することができる。更に、ブレーキB2に比べて要求されるトルク容量が小さいブレーキB1の少なくとも一部を第2遊星歯車機構32の外周側に配置すれば、第2遊星歯車機構32の外周側におけるトランスミッションケース22のサイズアップを抑制することができる。従って、実施例の変速装置30は、よりコンパクトに構成可能となる。
【0036】
また、変速装置30では、第1キャリア31cと第2リングギヤ32rとは、係合爪313cと係合爪60cとからなる調心機能をもたない嵌合部を介して互いに連結される。これにより、係合爪313cと係合爪60cとの径方向における厚み(周方向における接触面の高さ)を確保することで係合爪313cと係合爪60cとの軸方向長さを小さくすることができるので、第1キャリア31cと第2リングギヤ32rとを例えば調心機能をもったスプライン嵌合部(インボリュートスプライン)を介して互いに連結する場合に比べて第1キャリア31cと第2リングギヤ32rとを軸方向により近接させた状態で連結することができるので、変速装置30の軸長をより短縮化することが可能となる。そして、第2リングギヤ32rの内周部に嵌合される外周部60aと第1キャリア31cの軸方向延在部312cに少なくとも径方向のガタ(上述の隙間G)をもって嵌合される内周部60bとを有する連結部材60を用いれば、変速装置30の軸長を短縮化しつつ第2リングギヤ32rから第1キャリア31cまでの間に調心機能をもたない嵌合部を容易に構成可能となる。
【0037】
更に、第1キャリア31cは、第1ピニオンギヤ31pを回転自在に支持する環状の径方向延在部311cと、当該径方向延在部311cの内周部から第2遊星歯車機構32に向けて軸方向に延出された軸方向延在部312cとを有しており、連結部材60は、第1キャリア31cの軸方向延在部312cに嵌合され、第1リングギヤ31rは、第1キャリア31cの径方向延在部311cと連結部材60との間で軸方向延在部312cにより回転自在に支持される環状のリングギヤフランジ40に固定される。これにより、変速装置30の軸長増加を抑制しつつ第1リングギヤ31rを変速装置30の中心軸周りに精度よく調心することが可能となる。また、ブレーキB1を構成する第1ブレーキハブ43を径方向からみて第1キャリア31cの軸方向延在部312cと重なる位置でリングギヤフランジ40に固定すれば、変速装置30の軸長増加を抑制しつつ第1リングギヤ31rとブレーキB1の第1ブレーキハブ43とを連結可能となる。更に、リングギヤフランジ40の内周部40bを連結部材60に向けて軸方向にオフセットさせると共に、当該内周部40bの軸方向における両側にスラスト軸受65を配置することで、変速装置30の軸長増加を抑制しつつ第1リングギヤ31rに固定されるリングギヤフランジ40を軸方向に支持することが可能となる。
【0038】
そして、第3遊星歯車機構33を、第2遊星歯車機構32の第2サンギヤ32sに連結される第3サンギヤ33s、当該第3サンギヤ33sと噛合する第3ピニオンギヤ33pを回転自在に支持すると共にアウトプットシャフト35に連結される第3キャリア33c、および第2キャリア32cに連結されると共に第3ピニオンギヤ33pと噛合する第3リングギヤ33rを有するシングルピニオン式の遊星歯車機構として構成すれば、変速装置30全体をよりコンパクト化すると共に部品点数を削減することができる。
【0039】
また、実施例の変速装置30において、ブレーキB2の締結対象である第2遊星歯車機構32の第2リングギヤ32rと、第1遊星歯車機構31の第1キャリア31cとは、第2リングギヤ32rから内周側に延びる連結部材60を介して連結され、第1キャリア31cは、ブレーキB2を構成する第2ブレーキハブ53に連結される。このように、第2リングギヤ32rから内周側に延びる連結部材60を用いれば、第1遊星歯車機構31の第1キャリア31cと第2遊星歯車機構32の第2リングギヤ32rとを変速装置30の中心軸により近い位置で互いに連結することができるので、第2遊星歯車機構32の第2リングギヤ32rをブレーキB2によりトランスミッションケース22に固定した際に、第2ピニオンギヤ32pとの噛合により第2リングギヤ32rに励起される振動がブレーキB2を介してトランスミッションケース22に伝達されるのを抑制することが可能となる。また、第1キャリア31cをブレーキB2の第2ブレーキハブ53に連結することで、第2リングギヤ32rからブレーキB2までの経路をより長くすることができるので、第2遊星歯車機構32の第2リングギヤ32rをブレーキB2によりトランスミッションケース22に固定した際に、第2リングギヤ32rに励起される振動を良好に減衰することができる。加えて、第1キャリア31cを介して第2リングギヤ32rを第2ブレーキハブ53に連結することで、第1キャリア31cのイナーシャにより第2リングギヤ32rに励起される振動を良好に減衰することができる。従って、変速装置30では、第2遊星歯車機構32の第2リングギヤ32rをブレーキB2によりトランスミッションケース22に固定した際に当該トランスミッションケース22への振動の伝達を良好に抑制してノイズの発生を低減させることが可能となる。
【0040】
更に、第2リングギヤ32rの内周部に嵌合される外周部60aと第1キャリア31cに嵌合される内周部60bとを有する連結部材60を用いれば、第1遊星歯車機構31の第1キャリア31cと第2遊星歯車機構32の第2リングギヤ32rとを変速装置30の中心軸により近い位置で容易に連結可能となる。
【0041】
また、変速装置30において、第2遊星歯車機構32の第2リングギヤ32rは、第1遊星歯車機構31の第1リングギヤ31rがブレーキB1により固定される変速段である第3速および第5速よりも高速段の第6速の形成時にブレーキB2により固定される。そして、変速装置30では、連結部材60の内周部60b(係合爪60c)が、第1遊星歯車機構31の第1リングギヤ31rとブレーキB1の第1ブレーキハブ43との連結部すなわちリングギヤフランジ40(内周部40b)と第1ブレーキハブ43の内周部43bとの固定部よりも内周側で第1キャリア31cの軸方向延在部312c(係合爪313c)に嵌合される。これにより、インプットシャフト34の回転数や入力トルクが比較的低く、振動に起因したノイズが顕在化し易い第6速を形成するために第2リングギヤ32rをブレーキB2により固定した際に、第2ピニオンギヤ32pとの噛合により第2リングギヤ32rに励起される振動がブレーキB2を介してトランスミッションケース22に伝達されるのを良好に抑制することが可能となる。
【0042】
更に、軸方向延在部312cの係合爪313cと連結部材60の係合爪60cとにより、連結部材60の内周部60bと第1キャリア31cの軸方向延在部312cとの間に調心機能をもたない嵌合部を構成することで、ブレーキB2の係合により第2遊星歯車機構32自体の調心機能が妨げられるのを抑制することができるので、ブレーキB2の係合時にトルクを伝達する第2遊星歯車機構32において回転要素間の軸心のズレに起因した無理な力が発生するのを抑制可能となり、ブレーキB2の係合時に第2リングギヤ32rに励起される振動を良好に低減することができる。ただし、連結部材60の内周部60bと第1キャリア31cの軸方向延在部312cとの間に調心機能をもたない嵌合部を設ける代わりに、連結部材60の外周部60aと第2リングギヤ32rとの間に調心機能をもたない嵌合部を設けてもよく、連結部材60の内周部60bと第1キャリア31cの軸方向延在部312cとの間、および連結部材60の外周部60aと第2リングギヤ32rとの間の双方に、調心機能をもたない嵌合部を設けてもよい。
【0043】
また、ブレーキB2の第2ブレーキハブ53を第1キャリア31cに固定して径方向に位置決めすることで第2ブレーキハブ53を変速装置30の中心軸周りに精度よく調心することができるので、ブレーキB2の係合時に第2ブレーキハブ53の姿勢を安定化させて第2遊星歯車機構32で回転要素間の軸心のズレに起因した無理な力が発生するのを抑制することが可能となる。更に、第1リングギヤ31rを、第1キャリア31cの径方向延在部311cと連結部材60との間で軸方向延在部312cにより回転自在に支持される環状のリングギヤフランジ40に固定することで、第1リングギヤ31rを変速装置30の中心軸周りに精度よく調心することができるので、ブレーキB2の係合時に第1遊星歯車機構31で回転要素間の軸心のズレに起因した無理な力が発生するのを抑制することが可能となる。
【0044】
以上説明したように、実施例の変速装置30は、少なくとも一部が径方向からみて第2遊星歯車機構32と重なるように当該第2遊星歯車機構32の外周側に配置されると共に第3速および第5速の形成時に第1遊星歯車機構31の第1リングギヤ31rをトランスミッションケース22に固定するブレーキB1と、少なくとも一部が径方向からみて第1遊星歯車機構31と重なるように当該第1遊星歯車機構31の外周側に配置されると共に第2速の形成時に第2遊星歯車機構32の第2リングギヤ32rをトランスミッションケース22に固定するブレーキB2とを備えるので、よりコンパクトに構成可能である。また、実施例の変速装置30では、ブレーキB2の締結対象である第2遊星歯車機構32の第2リングギヤ32rと第1遊星歯車機構31の第1キャリア31cとが第2リングギヤ32rから内周側に延びる連結部材60を介して連結されると共に、第1キャリア31cがブレーキB2を構成する第2ブレーキハブ53に連結されるので、第2遊星歯車機構32の第2リングギヤ32rをブレーキB2によりトランスミッションケース22に固定した際に当該トランスミッションケース22への振動の伝達を良好に抑制してノイズの発生を低減させることができる。
【0045】
なお、上記実施例の変速装置30では、連結部材60の外周部60aが第2リングギヤ32rのギヤ歯と当該外周部60aに形成されたギヤ歯とかなる調心機能をもった嵌合部を介して第2リングギヤ32rに連結され、連結部材60の内周部60bが係合爪313cと係合爪60cとからなる調心機能をもたない嵌合部を介して第1キャリア31cに連結されるが、第2リングギヤ32rと第1キャリア31cとの連結態様は、これに限られるものではない。すなわち、図8に示す変速装置30Bのように、連結部材60Bの外周部60aを第2リングギヤ32rのギヤ歯と当該外周部60aに形成されたギヤ歯とかなる調心機能をもった嵌合部を介して第2リングギヤ32rに連結すると共に、連結部材60Bの内周部60bを例えばインボリュートスプラインからなる調心機能をもった嵌合部100を介して第1キャリア31cに連結してもよい。変形例に係る変速装置30Bでは、図示するように、連結部材60Bの内周部60bが第1遊星歯車機構31に向けて軸方向に延出されており、当該内周部60bは、第1キャリア31cの軸方向延在部312cの外周にインボリュートスプラインからなるスプライン嵌合部を介して連結される。また、変速装置30Bでは、第1ブレーキB1の第1ブレーキハブ43の内周部43bが連結部材60Bの内周部60bによりブッシュを介して回転自在に支持され、リングギヤフランジ40Bの内周部40bが第1ブレーキハブ43の内周部43bに固定される。そして、第1キャリア31cの径方向延在部311cとリングギヤフランジ40Bの内周部40bとの間、第1ブレーキハブ43Bの内周部43bと連結部材60との間、および連結部材60と第2遊星歯車機構32の第2キャリア32cとの間にスラスト軸受65が配置される。このように構成される変速装置30Bでは、第2遊星歯車機構32の第2リングギヤ32rが第1遊星歯車機構31の第1キャリア31cにより調心されることから、第2遊星歯車機構32の各回転要素を調心してブレーキB2の係合時に第2遊星歯車機構32で回転要素間の軸心のズレに起因した無理な力が発生するのを抑制し、第2リングギヤ32rに励起される振動を低減することができる。
【0046】
ここで、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。すなわち、上記実施例では、変速比を複数段に変更しながらインプットシャフト34に付与された動力をアウトプットシャフト35に伝達可能な変速装置30が「変速装置」に相当し、インプットシャフト34に連結される第1サンギヤ31s、第1サンギヤ31sと噛合する第1ピニオンギヤ31pを回転自在に支持する第1キャリア31c、および第1ピニオンギヤ31pと噛合する第1リングギヤ31rを有するシングルピニオン式の第1遊星歯車機構31が「第1遊星歯車機構」に相当し、第2サンギヤ32s、第2サンギヤ32sと噛合する第2ピニオンギヤ32pを回転自在に支持する第2キャリア32c、および第1キャリア31cに連結されると共に第2ピニオンギヤ32pと噛合する第2リングギヤ32rを有するシングルピニオン式の第2遊星歯車機構32が「第2遊星歯車機構」に相当し、第2サンギヤ32sに連結される第3サンギヤ33sと、アウトプットシャフト35に連結される第3キャリア33cとを有する第3遊星歯車機構33が「第3遊星歯車機構」に相当し、第1、第2および第3遊星歯車機構31〜33を収容するトランスミッションケース22が「ケース」に相当し、インプットシャフト34と第2サンギヤ32sとを連結すると共に両者の連結を解除することができるクラッチC1が「第1クラッチ」に相当し、インプットシャフト34と第2キャリア32cとを連結すると共に両者の連結を解除することができるクラッチC2が「第2クラッチ」に相当し、第1リングギヤ31rをトランスミッションケース22に固定可能なブレーキB1が「第1ブレーキ」に相当し、第2リングギヤ32rをトランスミッションケース22に固定可能なブレーキB2が「第2ブレーキ」に相当し、第2リングギヤ32rから内周側に延びると共に第1キャリア31cと第2リングギヤ32rとを連結する連結部材60が「連結部材」に相当する。
【0047】
ただし、上記実施例や変形例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施例等が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための形態を具体的に説明するための一例であって、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。すなわち、実施例はあくまで課題を解決するための手段の欄に記載された発明の具体的な一例に過ぎず、課題を解決するための手段の欄に記載された発明の解釈は、その欄の記載に基づいて行なわれるべきものである。
【0048】
以上、実施例を用いて本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上記実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、様々な変更をなし得ることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、変速装置の製造産業において利用可能である。
【符号の説明】
【0050】
10 自動車、12 エンジン、14 エンジン用電子制御ユニット(エンジンECU)、15 ブレーキ用電子制御ユニット(ブレーキECU)、16 クランクシャフト、18 フロントカバー、20 動力伝達装置、21 変速用電子制御ユニット(変速ECU)、22 トランスミッションケース、23 流体伝動装置、24 ポンプインペラ、25 タービンランナ、26 ステータ、26a ワンウェイクラッチ、27 ダンパ機構、28 ロックアップクラッチ、29 オイルポンプ、30,30B 変速装置、31 第1遊星歯車機構、31c 第1キャリア、31p 第1ピニオンギヤ、31r 第1リングギヤ、31s 第1サンギヤ、32 第2遊星歯車機構、32c 第2キャリア、32p 第2ピニオンギヤ、32r 第2リングギヤ、32s 第2サンギヤ、33 第3遊星歯車機構、33c 第3キャリア、33p 第3ピニオンギヤ、33r 第3リングギヤ、33s 第3サンギヤ、34 インプットシャフト、35 アウトプットシャフト、36 連結ドラム、37 中間シャフト、38 スリーブ、40,40B リングギヤフランジ、40a 外周部、40b 内周部、41 第1摩擦板、42 第2摩擦板、43、43B 第1ブレーキハブ、43a 外周部、43b 内周部、44 第1ピストン、45 第1リターンスプリング、46 第1油室画成部材、51 第1摩擦板、52 第2摩擦板、53 第2ブレーキハブ、53a 外周部、53b 内周部、54 第2ピストン、55 第2リターンスプリング、56 第2油室画成部材、60,60B 連結部材、60a 外周部、60b 内周部、60c 係合爪、65 スラスト軸受、70 油圧制御装置、72 ストレーナ、75 オイルパン、80 デファレンシャルギヤ、91 アクセルペダル、92 アクセルペダルポジションセンサ、93 ブレーキペダル、94 マスタシリンダ圧センサ、95 シフトレバー、96 シフトレンジセンサ、99 車速センサ、311c 径方向延在部、312c 軸方向延在部、313c 係合爪、B1,B2,B3 ブレーキ、C1,C2 クラッチ、DW 駆動輪、F1 ワンウェイクラッチ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
変速比を複数段に変更しながら入力軸に付与された動力を出力軸に伝達可能な変速装置において、
前記入力軸に連結される第1サンギヤ、該第1サンギヤと噛合する第1ピニオンギヤを回転自在に支持する第1キャリア、および前記第1ピニオンギヤと噛合する第1リングギヤを有するシングルピニオン式の第1遊星歯車機構と、
第2サンギヤ、該第2サンギヤと噛合する第2ピニオンギヤを回転自在に支持する第2キャリア、および前記第1キャリアに連結されると共に前記第2ピニオンギヤと噛合する第2リングギヤを有するシングルピニオン式の第2遊星歯車機構と、
前記第2サンギヤに連結される回転要素と、前記出力軸に連結される回転要素とを有する第3遊星歯車機構と、
前記第1、第2および第3遊星歯車機構を収容するケースと、
前記入力軸と前記第2サンギヤとを連結すると共に両者の連結を解除することができる第1クラッチと、
前記入力軸と前記第2キャリアとを連結すると共に両者の連結を解除することができる第2クラッチと、
前記第1リングギヤを前記ケースに固定可能な第1ブレーキと、
前記第2リングギヤを前記ケースに固定可能な第2ブレーキとを備え、
前記第1キャリアと前記第2リングギヤとは、該第2リングギヤから内周側に延びる連結部材を介して連結され、前記第2リングギヤは、前記第1キャリアを介して前記第2ブレーキを構成する第2ブレーキハブに連結されることを特徴とする変速装置。
【請求項2】
請求項1に記載の変速装置において、
前記連結部材は、前記第2リングギヤの内周部に嵌合される外周部と前記第1キャリアに嵌合される内周部とを有することを特徴とする変速装置。
【請求項3】
請求項2に記載の変速装置において、
前記第2リングギヤは、前記第1リングギヤが前記第1ブレーキにより固定される変速段よりも高速段で前記第2ブレーキにより固定され、
前記連結部材の前記内周部は、前記第1リングギヤと前記第1ブレーキを構成する第1ブレーキハブとの連結部よりも内周側で前記第1キャリアに嵌合されることを特徴とする変速装置。
【請求項4】
請求項2または3に記載の変速装置において、
前記連結部材の前記外周部と前記第2リングギヤとの嵌合部と、該連結部材の前記内周部と前記第1キャリアとの嵌合部との少なくとも何れか一方は、調心機能をもたない嵌合部として構成されることを特徴とする変速装置。
【請求項5】
請求項4に記載の変速装置において、
前記連結部材は、前記第2リングギヤと前記第1キャリアとの少なくとも何れか一方に少なくとも径方向のガタをもって嵌合されることを特徴とする変速装置。
【請求項6】
請求項4または5に記載の変速装置において、
前記連結部材の前記外周部は、調心機能をもった嵌合部を介して前記第2リングギヤに連結され、該連結部材の前記内周部は、前記調心機能をもたない嵌合部を介して前記第1キャリアに連結されることを特徴とする変速装置。
【請求項7】
請求項2に記載の変速装置において、
前記連結部材の前記外周部は、調心機能をもった嵌合部を介して前記第2リングギヤに連結され、該連結部材の前記内周部は、調心機能をもった嵌合部を介して前記第1キャリアに連結されることを特徴とする変速装置。
【請求項8】
請求項1から7の何れか一項に記載の変速装置において、
前記第2ブレーキハブは、前記第1キャリアにより径方向に位置決めされることを特徴とする変速装置。
【請求項9】
請求項8に記載の変速装置において、
前記第1キャリアは、前記第1ピニオンギヤを回転自在に支持する環状の径方向延在部と、該径方向延在部の内周部から前記第2遊星歯車機構に向けて軸方向に延出された軸方向延在部とを有し、
前記連結部材は、前記第1キャリアの前記軸方向端部に嵌合され、
前記第1リングギヤは、前記第1キャリアの前記径方向延在部と前記連結部材との間で前記軸方向延在部により回転自在に支持される環状のフランジ部材に固定されることを特徴とする変速装置。
【請求項10】
請求項1から9の何れか一項に記載の変速装置において、
前記第3遊星歯車機構は、前記第2サンギヤに連結される第3サンギヤ、該第3サンギヤと噛合する第3ピニオンギヤを回転自在に支持すると共に前記出力軸に連結される第3キャリア、および前記第2キャリアに連結されると共に前記第3ピニオンギヤと噛合する第3リングギヤを有するシングルピニオン式の遊星歯車機構であり、
前記第3リングギヤを前記ケースに固定可能な第3ブレーキを更に備えることを特徴とする変速装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−225370(P2012−225370A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−91513(P2011−91513)
【出願日】平成23年4月15日(2011.4.15)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】