説明

外乱抑制荷重制御装置

【課題】リニアモータ併用シリンダから出力される実測荷重値を目標荷重値に良好に追従させて外乱に対する応答性を高めるとともに、リニアモータの発熱を抑えることができる外乱抑制荷重制御装置を提供すること。
【解決手段】リニアモータ併用シリンダ荷重制御部は、リニアモータ併用シリンダの目標荷重値信号と実測荷重値信号の差分信号からエアシリンダ装置の目標荷重値信号に対する追従特性が優れた低周波数帯域を取り出して、この低周波差分信号に基づいてエアシリンダ装置にエアシリンダ装置用最適荷重付加指示信号を送るエアシリンダ装置荷重制御部;及び上記差分信号からリニアモータの目標荷重値信号に対する追従特性が優れた高周波数帯域を取り出して、この高周波差分信号に基づいてリニアモータにリニアモータ用最適荷重付加指示信号を送るリニアモータ荷重制御部;を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工対象物に対して荷重をかけながら加工を行う加工装置(例えば、研磨装置、超音波溶着装置、ボンダー)に装着される外乱抑制荷重制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
外乱抑制荷重制御装置は、加工対象物に対して荷重をかけながら加工を行う加工装置(例えば、研磨装置、超音波溶着装置、ボンダー)に装着され、加工装置側の外乱要素(例えばモータの振動)の影響をキャンセルして加工対象物に対して目標荷重値をかけ続けることにより加工精度の向上を図るものである。例えば、特許文献1には、加工具(研削ホイール)を上下動させる押圧移動手段としてのリニアモータと、加工具(研削ホイール)を弾性的に支持するクッションとしてのエアシリンダ装置とを有し、リニアモータに供給される電流の検出結果に基づいてリニアモータを制御する装置が開示されている。
【0003】
これに対し、本出願人は、エアシリンダ装置とリニアモータで同一の可動部を移動させることにより加工対象物に荷重をかける、いわゆるリニアモータ併用シリンダを搭載した外乱抑制荷重制御装置を開発中である。この外乱抑制荷重制御装置は、エアシリンダ装置が加工対象物に対して目標荷重値近傍の比較的大きい荷重をかけ、リニアモータが加工装置側の外乱要素の影響をキャンセルするための比較的小さい荷重をかけ、リニアモータ併用シリンダの目標荷重値信号と実測荷重値信号の差分信号に基づいて生成した同一の荷重付加指示信号をエアシリンダ装置とリニアモータに送ることによりエアシリンダ装置とリニアモータの出力荷重を制御している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−66761号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者のその後の研究によって、エアシリンダ装置とリニアモータに同一の荷重付加指示信号を送ると、次のような問題が生じることが明らかになってきた。すなわち、エアシリンダ装置とリニアモータは同一の荷重付加指示信号に対してそれぞれ全力で反応しようとするが、両者の反応速度が全く異なる(エアシリンダ装置は反応が遅く、リニアモータは速い)ため、リニアモータ併用シリンダから出力される実測荷重値が目標荷重値に良好に追従していくことができず、外乱に対する応答性が低い。また、リニアモータに低周波帯域の直流成分の信号電圧がかかるためリニアモータが発熱しやすく、この発熱はエアシリンダ装置が荷重付加指示信号に反応するまで続くので、雰囲気温度に悪影響を与えて精密な加工ができなくなるおそれがある。
【0006】
本発明は、以上の問題意識に基づき、リニアモータ併用シリンダから出力される実測荷重値を目標荷重値に良好に追従させて外乱に対する応答性を高めるとともに、リニアモータの発熱を抑えることができる外乱抑制荷重制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、エアシリンダ装置が低周波数帯域の荷重付加指示信号に対して反応しやすく(高周波数帯域の荷重付加指示信号に対して反応しにくく)、リニアモータが高周波数帯域の荷重付加指示信号に対して反応しやすい(低周波数帯域の荷重付加指示信号に対して反応しにくい)という点に着目し、別個の制御系から、エアシリンダ装置に対して低周波数帯域の荷重付加指示信号を送り、リニアモータに対して高周波数帯域の荷重付加指示信号を送るようにすれば、エアシリンダ装置とリニアモータがそれぞれの荷重付加指示信号に素早く反応するので、リニアモータ併用シリンダから出力される実測荷重値を目標荷重値に良好に追従させて外乱に対する応答性を高めるとともに、リニアモータの発熱を抑えることができるとの結論に達して本発明をするに至った。
【0008】
すなわち、本発明の外乱抑制荷重制御装置は、同一の荷重付加対象物に対して比較的大きい荷重を付加するエアシリンダ装置と、比較的小さい荷重を付加するリニアモータとを有するリニアモータ併用シリンダ;及び前記リニアモータ併用シリンダの目標荷重値信号と実測荷重値信号の差分信号に基づいて、前記エアシリンダ装置とリニアモータの出力荷重値を制御するリニアモータ併用シリンダ荷重制御部;を有し、前記リニアモータ併用シリンダ荷重制御部は、前記差分信号から前記エアシリンダ装置の目標荷重値信号に対する追従特性が優れた低周波数帯域を取り出して、この低周波差分信号に基づいて前記エアシリンダ装置にエアシリンダ装置用最適荷重付加指示信号を送るエアシリンダ装置荷重制御部;及び前記差分信号から前記リニアモータの目標荷重値信号に対する追従特性が優れた高周波数帯域を取り出して、この高周波差分信号に基づいて前記リニアモータにリニアモータ用最適荷重付加指示信号を送るリニアモータ荷重制御部;を有することを特徴としている。
【0009】
本発明の外乱抑制荷重制御装置は、その一態様では、前記エアシリンダ装置荷重制御部が、式(1)で規定される制御則に基づいて、前記エアシリンダ装置にエアシリンダ装置用最適荷重付加指示信号を送り、前記リニアモータ荷重制御部が、式(2)で規定される制御則に基づいて、前記リニアモータにリニアモータ用最適荷重付加指示信号を送る。
【数1】

【数2】

この態様は、式(1)、(2)の制御則の中で荷重付加指示信号の周波数帯域を分ける(フィルタリングする)ものであり、エアシリンダ装置荷重制御部とリニアモータ荷重制御部に分岐した差分信号に基づいてそれぞれの制御部で制御演算を行い、その制御指令値にフィルタリングを行う。
【0010】
本発明の外乱抑制荷重制御装置は、別の態様では、同一の荷重付加対象物に対して比較的大きい荷重を付加するエアシリンダ装置と、比較的小さい荷重を付加するリニアモータとを有するリニアモータ併用シリンダ;及び前記リニアモータ併用シリンダの目標荷重値信号と実測荷重値信号の差分信号に基づいて、前記エアシリンダ装置とリニアモータの出力荷重値を制御するリニアモータ併用シリンダ荷重制御部;を有し、前記リニアモータ併用シリンダ荷重制御部は、前記差分信号から前記エアシリンダ装置の目標荷重値信号に対する追従特性が優れた低周波数帯域を取り出すローパスフィルタと、このローパスフィルタで取り出された低周波差分信号に基づいて前記エアシリンダ装置にエアシリンダ装置用最適荷重付加指示信号を送るエアシリンダ装置荷重制御部;及び前記差分信号から前記リニアモータの目標荷重値信号に対する追従特性が優れた高周波数帯域を取り出すバンドパスフィルタと、このバンドパスフィルタで取り出された高周波差分信号に基づいて前記リニアモータにリニアモータ用最適荷重付加指示信号を送るリニアモータ荷重制御部;を有することを特徴としている。
この態様は、物理的なフィルタ回路(ローパスフィルタ、バンドパスフィルタ)で荷重付加指示信号の周波数帯域を分けるものである。
【0011】
前記リニアモータは、加工装置に固定される固定部から該固定部に荷重負荷方向に移動可能に支持された可動部に非接触で荷重を付加するボイスコイルモータとすることができる。
【0012】
前記ボイスコイルモータを、前記固定部に設けられたコイルと、前記可動部に設けられた磁気回路とから構成し、前記磁気回路により形成された磁界中で前記コイルに電流を流すことにより前記固定部に対して前記可動部を荷重負荷方向に振動させることができる。
【0013】
前記磁気回路は、前記可動部の一部をなす有底筒状のアウターヨークと、該アウターヨークの底部に支持されたマグネットと、該マグネットに支持されたインナーヨークとから構成することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の外乱抑制荷重制御装置によれば、リニアモータ併用シリンダから出力される実測荷重値を目標荷重値に良好に追従させて外乱に対する応答性を高めるとともに、リニアモータの発熱を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施の形態に係る外乱抑制荷重制御装置を研磨装置に装着した状態を示す概念図である。
【図2】外乱抑制荷重制御装置の平面図である。
【図3】図2のIII−III線に沿う断面図である。
【図4】外乱抑制荷重制御装置の側面図である。
【図5】図4のV−V線に沿う断面図である。
【図6】ボイスコイルモータ併用シリンダ荷重制御部による制御動作を説明するためのブロック図である。
【図7】ボイスコイルモータ併用シリンダの目標荷重値信号の信号波形を示す図である。
【図8】ボイスコイルモータ併用シリンダの理想的な荷重値信号の信号波形を示す図である。
【図9】ボイスコイルモータ併用シリンダの実測荷重値信号の信号波形を示す図である。
【図10】エアシリンダ装置用最適荷重付加指示信号の信号波形を示す図である。
【図11】ボイスコイルモータ用最適荷重付加指示信号の信号波形を示す図である。
【図12】目標荷重値追従特性を計測するための図6に対応するブロック図である。
【図13】目標荷重値追従特性の測定結果を示す第1の図である。
【図14】目標荷重値追従特性の測定結果を示す第2の図である。
【図15】目標荷重値追従特性の測定結果を示す第3の図である。
【図16】本発明の別の実施形態に係るボイスコイルモータ併用シリンダ荷重制御部による制御動作を説明するためのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1ないし図11を用いて、本発明の外乱抑制荷重制御装置100を研磨装置(加工装置)200に装着した実施形態を説明する。図1に示すように、外乱抑制荷重制御装置100は、研磨装置200に固定される固定部110と、この固定部110に上下方向(荷重負荷方向)に移動可能に支持された可動部120とを有する。可動部120は、上可動部121と下可動部122をガイドロッド123で結合してなり、このガイドロッド123が固定部110の内部を案内されることにより可動部120が固定部110に対して上下方向に移動する。図2ないし図5に示す可動部120の下可動部122の下面122aには、図1に示すロードセル(荷重センサ)300を介して、研磨ヘッド410とこの研磨ヘッド410を回転させる研磨モータ420からなる研磨ヘッドユニット400が接続される。図2ないし図5では、ロードセル300及び研磨ヘッドユニット400の図示を省略している。
【0017】
図1、図3、図5に示すように、固定部110と上可動部121の間には固定圧力室124が形成され、固定部110と下可動部122の間には可変圧力室125が形成されている。固定圧力室124には、可動部120を上方向に向けて持ち上げるような固定圧が常時かけ続けられる。可変圧力室125には、可動部120を下方向に向けて押し付ける際の押し付け荷重を調整するための変動圧がかけられる。固定部110及び可動部120並びに固定圧力室124及び可変圧力室125により、荷重付加対象物である研磨対象物Wに対して目標荷重値近傍の比較的大きい荷重をかけるローリングダイヤフラム式のエアシリンダ装置130が構成される。
【0018】
図3、図5に示すように、固定部110の下端部110aからは筒状(円筒状)のフィルム部材111が下方に延出しており、このフィルム部材111の外周面にコイル(ボイスコイル)112が上下方向に巻回されている。可動部120の下可動部122は有底筒状のアウターヨーク126を有し、このアウターヨーク126の底部126aの中央部にマグネット127が支持されており、さらにこのマグネット127の上部にインナーヨーク128が支持されている。インナーヨーク128は、固定部110側のフィルム部材111に囲まれて支持されている。アウターヨーク126とインナーヨーク128の間に形成される空間(ギャップ)には、マグネット127による磁界が形成される(アウターヨーク126とマグネット127とインナーヨーク128が磁気回路を構成する)。
【0019】
固定部110側のコイル112には図示しない電気配線が接続されており(可動部120側に電気配線は不要)、この電気配線を通じて磁界中でコイル112に電流を流すと、アウターヨーク126とマグネット127とインナーヨーク128が一体となって振動し、その結果、可動部120が固定部110に対して上下方向(荷重負荷方向)に振動する。固定部110側のコイル112、及び可動部120側のアウターヨーク126とマグネット127とインナーヨーク128(磁気回路)によって、固定部110から可動部120に非接触で荷重を付加するボイスコイルモータ(VCM)(リニアモータ)140が構成される。ボイスコイルモータ140は、荷重付加対象物である研磨対象物Wに対して、研磨装置200又は研磨ヘッドユニット400側の外乱要素(例えば研磨モータ420の回転)の影響をキャンセルするための比較的小さい荷重をかける。
【0020】
ボイスコイルモータ140の電磁力が有効に作用するためには、以下の条件式(3)の関係を満足することが必要である。
(3)α≦β−γ
但し、
α:固定部110、上可動部121及び固定圧力室124により構成されるシリンダ部を上シリンダ部と規定し、固定部110、下可動部122及び可変圧力室125により構成されるシリンダ部を下シリンダ部と規定したとき、上シリンダ部のシリンダストロークα1と下シリンダ部のシリンダストロークα2の総和、
β:インナーヨーク128の上下方向の高さ、
γ:コイル112の上下方向の巻回の高さ、
である。
【0021】
図1では、概念図である関係上、下可動部122とロードセル300の間にボイスコイルモータ140が介在しているように描いているが、実際には図3、図5を用いて説明したように、固定部110側のコイル112、及び可動部120側のアウターヨーク126とマグネット127とインナーヨーク128(磁気回路)によってボイスコイルモータ140が構成される。
【0022】
ボイスコイルモータ併用シリンダ(リニアモータ併用シリンダ)150は、エアシリンダ装置130とボイスコイルモータ140を並列に接続してなり、エアシリンダ装置130の出力荷重とボイスコイルモータ140の出力荷重の総和がボイスコイルモータ併用シリンダ150の出力荷重となる。ロードセル300は、ボイスコイルモータ併用シリンダ150の出力荷重(実測荷重値)を測定する。
【0023】
図1に示すように、外乱抑制荷重制御装置100は、ボイスコイルモータ併用シリンダ荷重制御部(リニアモータ併用シリンダ荷重制御部)160を有している。ボイスコイルモータ併用シリンダ荷重制御部160は、研磨装置200から入力したボイスコイルモータ併用シリンダ150の目標荷重値信号aと、ロードセル300から入力したボイスコイルモータ併用シリンダ150の実測荷重値信号bとの差分信号に基づいて、エアシリンダ装置130とボイスコイルモータ140の出力荷重値を制御する。エアシリンダ装置130への制御指令は、図示しないサーボバルブ(SV)を介して行う。
【0024】
より具体的には、図6に示すように、ボイスコイルモータ併用シリンダ荷重制御部160は、ボイスコイルモータ併用シリンダ150の目標荷重値信号aと実測荷重値信号bの差分信号cがそれぞれ入力するエアシリンダ装置荷重制御部170及びボイスコイルモータ荷重制御部(リニアモータ荷重制御部)180を有している。また、ボイスコイルモータ併用シリンダ荷重制御部160は、式(1)の制御則を記憶したエアシリンダ装置制御則記憶部171と、式(2)の制御則を記憶したボイスコイルモータ制御則記憶部(リニアモータ制御則記憶部)181とを有している。
【数1】

【数2】

【0025】
エアシリンダ装置荷重制御部170は、数式(1)の制御則を記憶したエアシリンダ装置制御則記憶部171を参照して、入力した差分信号cからエアシリンダ装置130の目標荷重値信号aに対する追従特性が優れた低周波数帯域を取り出してエアシリンダ装置用最適荷重付加指示信号dを生成し、このエアシリンダ装置用最適荷重付加指示信号dをエアシリンダ装置130に送る。
ボイスコイルモータ荷重制御部180は、数式(2)の制御則を記憶したボイスコイルモータ制御則記憶部181を参照して、入力した差分信号cからボイスコイルモータ140の目標荷重値aに対する追従特性が優れた高周波数帯域を取り出してボイスコイルモータ用最適荷重付加指示信号(リニアモータ用最適荷重付加指示信号)eを生成し、このボイスコイルモータ用最適荷重付加指示信号eをボイスコイルモータ140に送る。
【0026】
以上の構成の外乱抑制荷重制御装置100は、次のように動作する。まず、研磨装置200からボイスコイルモータ併用シリンダ荷重制御部160に、ボイスコイルモータ併用シリンダ150に一定値の荷重(ここでは10N)を出力させるべき旨の目標荷重値信号a(図7)を入力する。この目標荷重値信号aを受けたエアシリンダ装置荷重制御部170とボイスコイルモータ荷重制御部180は、エアシリンダ装置130とボイスコイルモータ140を駆動させて、荷重付加対象物である研磨対象物Wに対して目標荷重値である10Nに達するまで徐々に荷重をかけていく。この荷重値信号の信号波形は、理想的には、図8に示すような直線波形であることが望ましい。しかし実際には、研磨装置200又は研磨ヘッドユニット400側の外乱要素(例えば研磨モータ420の回転)の影響により、図9に示すような外乱成分が混在した実測荷重値信号bがロードセル300で測定される。研磨装置200からのボイスコイルモータ併用シリンダ150の目標荷重値信号aとロードセル300からのボイスコイルモータ併用シリンダ150の実測荷重値信号bとの差分信号cは、実測荷重値が10Nに達した後も継続して、エアシリンダ装置荷重制御部170とボイスコイルモータ荷重制御部180に分岐して入力される。
【0027】
エアシリンダ装置荷重制御部170は、エアシリンダ装置制御則記憶部171を参照して、入力した差分信号cからエアシリンダ装置130の目標荷重値信号aに対する追従特性が優れた低周波数帯域を取り出してエアシリンダ装置用最適荷重付加指示信号d(図10)を生成し、このエアシリンダ装置用最適荷重付加指示信号dをエアシリンダ装置130に送る。
同時に、ボイスコイルモータ荷重制御部180は、ボイスコイルモータ制御則記憶部181を参照して、入力した差分信号cからボイスコイルモータ140の目標荷重値aに対する追従特性が優れた高周波数帯域を取り出してボイスコイルモータ用最適荷重付加指示信号e(図11)を生成し、このボイスコイルモータ用最適荷重付加指示信号eをボイスコイルモータ140に送る。ボイスコイルモータ用最適荷重付加指示信号eからは、例えば50Hz−60Hzといった超高周波帯域の成分も除去されている。
【0028】
エアシリンダ装置130はエアシリンダ装置用最適荷重付加指示信号dに素早く反応して、研磨対象物Wに対して目標荷重値である10Nの荷重を出力する。同時に、ボイスコイルモータ140はボイスコイルモータ用最適荷重付加指示信号eに素早く反応して、研磨対象物Wに対して実測荷重値信号bの外乱成分をキャンセルする微小な荷重を出力する。その結果、実測荷重値を目標荷重値に常に良好に追従させることができ(実測荷重値信号bの信号波形を図8に示す理想波形に近づけることができ)、飛躍的な外乱抑制効果を得ることができる。また、エアシリンダ装置130がエアシリンダ装置用最適荷重付加指示信号dに反応するタイミングとボイスコイルモータ140がボイスコイルモータ用最適荷重付加指示信号eに反応するタイミングに差がなく、ボイスコイルモータ140に低周波帯域の直流成分の信号電圧がかかることがないので、ボイスコイルモータ140の発熱を最小限に抑えることができ、精密な研磨加工を行うことができる。
【0029】
本発明者は、図12に示すように、図6のブロック図における信号の入出力端にFFTアナライザ500を接続し、目標荷重値信号として、開始周波数0.1Hz、終了周波数60Hz、スイープ時間300s、加振振幅0.6NP-P(±0.3N)のサインスイープ信号を入力して、目標荷重値に対する実測荷重値(制御荷重値)の周波数伝達関数をFFTアナライザ500で計測した。図13ないし図15はその測定結果を示している。
【0030】
図13(A)に示すように、目標荷重値信号の信号波形と実測荷重値信号の信号波形の振幅の比(ゲイン)で比較すると、50Hz程度の高い周波数帯域まで、実測荷重値が目標荷重値に良好に追従していることが判る。図13(B)に示すように、目標荷重値信号の信号波形と実測荷重値信号の信号波形の位相差で比較すると、50Hz程度の高い周波数帯域まで、実測荷重値信号の信号波形が目標荷重値信号の信号波形に対して位相差45°の範囲内で追従していることが判る。
【0031】
図14(A)、(B)、(C)はそれぞれ、目標荷重値信号の周波数を1Hz、10Hz、50Hzと変化させた際の実測荷重値(制御荷重値)を示している。その結果、いずれの周波数であっても、実測荷重値が目標荷重値に良好に追従しており、実測荷重値信号の信号波形が目標荷重値信号の信号波形に対して位相差45°の範囲内で追従していることが判る。
【0032】
図15(A)、(B)、(C)はそれぞれ、目標荷重値信号をDC信号で1N、5N、10Nと変化させた際の実測荷重値(制御荷重値)を示している。その結果、いずれの目標荷重値であっても、目標荷重値±0.005Nの範囲内で実測荷重値が目標荷重値に追従していることが判る。
【0033】
図16は、ボイスコイルモータ併用シリンダ荷重制御部160の別の実施形態を示している。この実施形態では、図6のエアシリンダ装置制御則記憶部171に記憶された制御則を物理的なフィルタ回路であるローパスフィルタ172で実現して、エアシリンダ装置荷重制御部170からエアシリンダ装置130にエアシリンダ装置用最適荷重付加指示信号dを送り、同時に、図6のボイスコイルモータ制御則記憶部181に記憶された制御則を物理的なフィルタ回路であるバンドパスフィルタ182で実現して、ボイスコイルモータ荷重制御部180からボイスコイルモータ140にボイスコイルモータ用最適荷重付加指示信号eを送る。バンドパスフィルタ182は、ボイスコイルモータ用最適荷重付加指示信号eから例えば50Hz−60Hzといった超高周波帯域の成分を除去するように設計されている。
【0034】
以上の実施形態では、外乱抑制荷重制御装置100を研磨装置200に適用した場合を例示して説明したが、加工対象物に対して荷重をかけながら加工を行う加工装置であれば、超音波溶着装置、ボンダーなどにも同様に適用可能である。
【0035】
以上の実施形態では、ローリングダイヤフラム式のエアシリンダ装置130を例示して説明したが、エアシリンダ装置は、パッキン式、メタルガイド式、エアベアリング式などを用いてもよい。
【0036】
以上の実施形態では、リニアモータとしてボイスコイルモータ140を用いた場合を例示して説明したが、ボイスコイルモータ140に代えて、リニア誘導モータ、リニア同期モータ、リニア直流モータ、リニアステッピングモータなどを用いることも可能である。
【0037】
以上の実施形態では、ロードセル300を下可動部122の下面122aに配置した場合を例示して説明したが、ロードセルの位置はこれに限定されない。ロードセルは、ボイスコイルモータ併用シリンダ150から研磨対象物Wにかかる実測荷重値を測定できる位置にあればよく、例えば、研磨対象物Wの研磨面と反対側の面にロードセルを配置してもよい。
【符号の説明】
【0038】
100 外乱抑制荷重制御装置
110 固定部
111 フィルム部材
112 コイル(ボイスコイル)
120 可動部
121 上可動部
122 下可動部
123 ガイドロッド
124 固定圧力室
125 可変圧力室
126 アウターヨーク(磁気回路)
127 マグネット(磁気回路)
128 インナーヨーク(磁気回路)
130 エアシリンダ装置
140 ボイスコイルモータ(VCM)(リニアモータ)
150 ボイスコイルモータ併用シリンダ(リニアモータ併用シリンダ)
160 ボイスコイルモータ併用シリンダ荷重制御部(リニアモータ併用シリンダ荷重制御部)
170 エアシリンダ装置荷重制御部
171 エアシリンダ装置制御則記憶部
172 ローパスフィルタ
180 ボイスコイルモータ荷重制御部(リニアモータ荷重制御部)
181 ボイスコイルモータ制御則記憶部(リニアモータ制御則記憶部)
182 バンドパスフィルタ
200 研磨装置(加工装置)
300 ロードセル(荷重センサ)
400 研磨ヘッドユニット
410 研磨ヘッド
420 研磨モータ
500 FFTアナライザ
a ボイスコイルモータ併用シリンダの目標荷重値信号
b ボイスコイルモータ併用シリンダの実測荷重値信号
c 差分信号
d エアシリンダ装置用最適荷重付加指示信号
e ボイスコイルモータ用最適荷重付加指示信号(リニアモータ用最適荷重付加指示信号)
W 研磨対象物(荷重付加対象物)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一の荷重付加対象物に対して比較的大きい荷重を付加するエアシリンダ装置と、比較的小さい荷重を付加するリニアモータとを有するリニアモータ併用シリンダ;及び
前記リニアモータ併用シリンダの目標荷重値信号と実測荷重値信号の差分信号に基づいて、前記エアシリンダ装置とリニアモータの出力荷重値を制御するリニアモータ併用シリンダ荷重制御部;を有し、
前記リニアモータ併用シリンダ荷重制御部は、
前記差分信号から前記エアシリンダ装置の目標荷重値信号に対する追従特性が優れた低周波数帯域を取り出して、この低周波差分信号に基づいて前記エアシリンダ装置にエアシリンダ装置用最適荷重付加指示信号を送るエアシリンダ装置荷重制御部;及び
前記差分信号から前記リニアモータの目標荷重値信号に対する追従特性が優れた高周波数帯域を取り出して、この高周波差分信号に基づいて前記リニアモータにリニアモータ用最適荷重付加指示信号を送るリニアモータ荷重制御部;を有することを特徴とする外乱抑制荷重制御装置。
【請求項2】
請求項1記載の外乱抑制荷重制御装置において、前記エアシリンダ装置荷重制御部は、式(1)で規定される制御則に基づいて、前記エアシリンダ装置にエアシリンダ装置用最適荷重付加指示信号を送り、前記リニアモータ荷重制御部は、式(2)で規定される制御則に基づいて、前記リニアモータにリニアモータ用最適荷重付加指示信号を送る外乱抑制荷重制御装置。
【数1】

【数2】

【請求項3】
同一の荷重付加対象物に対して比較的大きい荷重を付加するエアシリンダ装置と、比較的小さい荷重を付加するリニアモータとを有するリニアモータ併用シリンダ;及び
前記リニアモータ併用シリンダの目標荷重値信号と実測荷重値信号の差分信号に基づいて、前記エアシリンダ装置とリニアモータの出力荷重値を制御するリニアモータ併用シリンダ荷重制御部;を有し、
前記リニアモータ併用シリンダ荷重制御部は、
前記差分信号から前記エアシリンダ装置の目標荷重値信号に対する追従特性が優れた低周波数帯域を取り出すローパスフィルタと、このローパスフィルタで取り出された低周波差分信号に基づいて前記エアシリンダ装置にエアシリンダ装置用最適荷重付加指示信号を送るエアシリンダ装置荷重制御部;及び
前記差分信号から前記リニアモータの目標荷重値信号に対する追従特性が優れた高周波数帯域を取り出すバンドパスフィルタと、このバンドパスフィルタで取り出された高周波差分信号に基づいて前記リニアモータにリニアモータ用最適荷重付加指示信号を送るリニアモータ荷重制御部;を有することを特徴とする外乱抑制荷重制御装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項記載の外乱抑制荷重制御装置において、前記リニアモータは、加工装置に固定される固定部から該固定部に荷重負荷方向に移動可能に支持された可動部に非接触で荷重を付加するボイスコイルモータである外乱抑制荷重制御装置。
【請求項5】
請求項4記載の外乱抑制荷重制御装置において、前記ボイスコイルモータは、前記固定部に設けられたコイルと、前記可動部に設けられた磁気回路とからなり、前記磁気回路により形成された磁界中で前記コイルに電流を流すことにより前記固定部に対して前記可動部を荷重負荷方向に振動させる外乱抑制荷重制御装置。
【請求項6】
請求項5記載の外乱抑制荷重制御装置において、前記磁気回路は、前記可動部の一部をなす有底筒状のアウターヨークと、該アウターヨークの底部に支持されたマグネットと、該マグネットに支持されたインナーヨークからなる外乱抑制荷重制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2011−210011(P2011−210011A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−77093(P2010−77093)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000005175)藤倉ゴム工業株式会社 (120)
【Fターム(参考)】