説明

外筒および当該外筒を備えた消音器

【課題】繊維強化樹脂で形成した外筒の内側表面に形成した金属層の損傷を防ぐことができる消音器および消音器に用いられる外筒を提供する。
【解決手段】消音器1は、外筒2と、内筒3と、吸音材(図示しない)とを備え、外筒2の2rには、テールキャップ4が着脱自在に設けられている。また、外筒2の前端には、連結体5が着脱自在に設けられている。外筒2は、後端2rの内周面に後被覆部30が設けられ、前端2fの内周面に前被覆部32が設けられている。この後被覆部30は、金属層8の後端8r部分を被覆しており、前被覆部32は、金属層8の前端8f部分を被覆している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外筒および当該外筒を備えた消音器に関し、特に外筒をカーボンで形成した消音器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、消音器は、外筒と、当該外筒内に配置された内筒と、前記外筒と前記内筒との間に充填された吸音材とを備え、排気口を有するキャップが一端に着脱自在に設けられるとともに、排気管が他端に着脱自在連通されてなる。
【0003】
また、外筒を例えばカーボン繊維による繊維強化樹脂(CFRP:Carbon Fiber Reinforced Plastics)により形成し、軽量化を図った消音器がレースなどで用いられている。なお、充填された吸音材は、使用とともに劣化したり減少したりするので、キャップや排気管を取り外して、必要に応じ吸音材を詰め替える必要がある。
【0004】
ところが、高温の排気ガスが繊維強化樹脂で形成した外筒の内側表面に接触すると、樹脂が飛散し外筒が損傷してしまうという問題がある。これに対し、外筒の内側表面に金属層を設け、排気ガスが内側表面に接触するのを防いで、外筒の損傷を防ぐように構成された消音器が開示されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許2885348号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、吸音材の詰め替えに際し、キャップや排気管の着脱時に、外筒の内側表面に形成された金属層にキャップや排気管が接触することにより、当該金属層が剥がれるなど損傷してしまうという問題があった。
【0007】
そこで、本発明は、繊維強化樹脂で形成した外筒の内側表面に形成した金属層の損傷を防ぐことができる外筒および当該外筒を備えた消音器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の請求項1に係る発明は、排気ガスの主通路となる内筒と、前記内筒の外側に設けられる吸音材とを備えた消音器に用いられる外筒において、繊維強化樹脂で形成された筒状体と前記筒状体の内側表面に設けられた金属層とを有し、前端の内周面に設けられ、前記金属層の前端部分を覆う前被覆部と、後端の内周面に設けられ、前記金属層の後端部分を覆う後被覆部とを有することを特徴とする。
【0009】
本発明の請求項2に係る発明は、前記金属層は、前端が、前記外筒の前端より後側であって、前記外筒の前端に挿入される連結体の後端より前側となるように形成され、後端が、前記外筒の後端より前側であって、前記外筒の後端に挿入されるテールキャップの前端より後側となるように形成されていることを特徴とする。
【0010】
本発明の請求項3に係る発明は、繊維強化樹脂で形成された筒状体と前記筒状体の内側表面に設けられた金属層とを有する外筒と、前記外筒内に配置され排気ガスの主通路となる内筒と、前記外筒と前記内筒との間に設けられる吸音材とを備えた消音器において、前端の内周面に設けられ、前記金属層の前端部分を覆う前被覆部と、後端の内周面に設けられ、前記金属層の後端部分を覆う後被覆部とを有することを特徴とする。
【0011】
本発明の請求項4に係る発明は、前記外筒の前端に着脱自在に設けられる連結体と、前記外筒の後端に着脱自在に設けられるテールキャップとを備え、前記金属層は、前端が、前記外筒の前端より後側であって、前記外筒の前端に挿入される連結体の後端より前側となるように形成され、後端が、前記外筒の後端より前側であって、前記外筒の後端に挿入されるテールキャップの前端より後側となるように形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の請求項1および3によれば、金属層の端部が前被覆部および後被覆部で覆われているので、外筒の内側表面に形成した金属層の損傷を防ぐことができる。
【0013】
本発明の請求項2および4によれば、金属層の端部をより確実に前被覆部および後被覆部で覆うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】消音器の全体構成を示す縦断面図である。
【図2】後被覆部周辺の構成を示す図1のA部拡大断面図である。
【図3】前被覆部周辺の構成を示す図1のB部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。
(1)全体構成
図1に示す消音器1は、外筒2と、内筒3と、吸音材(図示しない)とを備え、外筒2の2rには、テールキャップ4が着脱自在に設けられている。また、外筒2の前端には、連結体5が着脱自在に設けられている。この消音器1は、図示しないエンジンから送り出された排気ガスを、内筒3を通じてテールキャップ4から外部へ排出し得るように構成されている。なお、以下の説明において、図示しない車両の前方を「前」といい、後方を「後」ということとする。
【0016】
外筒2は、強化繊維樹脂、例えばドライカーボンで形成された筒状体7と、当該筒状体7の内側表面に形成された金属層8とを有する。金属層8は、例えば、鉄、ステンレス、チタン、アルミニウムなどからなる薄膜で形成することができるが、軽量化の観点からアルミニウム薄膜で形成するのが好ましい。
【0017】
内筒3は、複数のパンチ穴10を備えたパンチングメタルで形成され、前端3fから後端3rに行くにしたがって、ゆるやかに縮径されている。この内筒3は、外周にステンレスウール11が巻かれ、外筒2内の略中央に配置される。
【0018】
テールキャップ4は、前記内筒3に連通されるエンドパイプ14と、当該エンドパイプ14を囲むように形成されたキャップ部15とを有する。このテールキャップ4は、後端4rにおいて、エンドパイプ14の開口端14aとキャップ部15の後端15rとが溶接され、エンドパイプ14とキャップ部15とが一体化されている。
【0019】
テールキャップ4の前端4fには、隔離体18が設けられている。隔離体18は、略中央に形成された保持穴19と、当該保持穴19の周囲に形成された複数の開口穴20とを有する板状部21と、当該板状部21の外縁を垂直に立設してなる帯状部22とを備える。この隔離体18は、帯状部22がテールキャップ4の前端4fの内側に配置されるとともに、保持穴19に前記内筒3の後端3r部分が挿入される。
【0020】
連結体5は、外筒2の前端2fに着脱自在に連結される連結部24を有し、排気管25が連通されている。また、連結部24と排気管25とは、カバー部26により接続されている。なお、排気管25は、前記内筒3の前端3fに連通される。
【0021】
このように構成された消音器1は、テールキャップ4の内側とエンドパイプ14の外側との間に形成される第1空間S1、外筒2の内側と内筒3の外側との間に形成される第2空間S2、連結部24の内側と排気管25の外側との間に形成される第3空間S3にそれぞれ吸音材が充填される。吸音材は、例えばグラスウールを用いることができる。
【0022】
テールキャップ4と外筒2、および連結体5と外筒2は、締結具29、例えばブラインドリベットにより固定される。この場合、隔離体18は、帯状部22において、テールキャップ4と外筒2に一体的に固定される。
【0023】
隔離体18が設けられたテールキャップ4は、図2に示すように、前端4fが外筒2の後端2rの内側に挿入され、着脱自在に連結される。外筒2は、後端2rの内周面に後被覆部30が設けられている。後被覆部30は、強化繊維樹脂、例えばガラス繊維を含有した材料で形成され、帯状の環体で構成されている。この後被覆部30は、金属層8の後端8r部分を被覆している。
【0024】
また、金属層8の後端8rは、外筒2の後端2rより前側であって、外筒2の後端2rに挿入されたテールキャップ4の前端4fより後側となるように形成されている。金属層8の後端8rと外筒2の後端2rとの間が、外筒2と後被覆部30の接着面となり、後述する摺動による損傷を防ぐ。
【0025】
さらに、後被覆部30は、後端30rが外筒2の後端2rと面一となるように形成されているとともに、前端30fが外筒2の後端2rに挿入されたテールキャップ4の前端4fより前側となるように形成されている。
【0026】
同様に、連結体5は、図3に示すように、連結部24の後端24rが外筒2の前端2fの内側に挿入され、着脱自在に連結される。外筒2は、前端2fの内周面に前被覆部32が設けられている。前被覆部32は、後被覆部30と同様、強化繊維樹脂、例えばガラス繊維を含有した材料で形成され、帯状の環体で構成されている。この前被覆部32は、金属層8の前端8f部分を被覆している。
【0027】
また、金属層8の前端8fは、外筒2の前端2fより後側であって、外筒2の前端2fに挿入された連結部24の後端24rより前側となるように形成されている。さらに、前被覆部32は、前端32fが外筒2の前端2fと面一となるように形成されているとともに、後端32rが外筒2の前端2fに挿入された連結部24の後端24rより後側となるように形成されている。
【0028】
次に上記のように構成される消音器1の製造方法について説明する。まず、外筒2の製造方法について説明する。図示しない軸状の芯金の長手方向の端部に後被覆部30、前被覆部32となる帯状部材をそれぞれ巻きつける。次いで、金属層8と、筒状体7となるドライカーボンで形成された板とを順に巻きつける。この金属層8は、長手方向の長さが外筒2の長手方向長さより短く形成されており、金属層8の長手方向端部が外筒2の長手方向端部より内側となるように配置される。
【0029】
次いで、芯金に各部材を巻き付けた状態で加熱し、筒状体7、金属層8、後被覆部30、前被覆部32が一体成形される。硬化後、長手方向の両端に、締結具29を挿入するための貫通穴(図示しない)が形成され、外筒2が得られる。
【0030】
この外筒2には、予めステンレスウールと吸音材が順に巻きつけられた内筒3が挿入される。内筒3は、外筒2内の略中央に配置される。また、テールキャップ4および連結体5にもそれぞれ吸音材が充填される。
【0031】
次いで、テールキャップ4は、前端4fに隔離体18が取付けられた状態で、当該前端4fが外筒2の後端2rの内側に挿入される。この場合、外筒2とテールキャップ4の連結部分から排気ガスが漏れるのを防ぐために、外筒2とテールキャップ4との嵌め合い交差はより小さい方が好ましい。したがって、テールキャップ4を外筒2の後端2rに挿入する際、テールキャップ4の外周面と外筒2の内周面とが摺動することとなる。
【0032】
また、テールキャップ4と、帯状部22には、外筒2の後端2r側に形成された貫通穴に対応した位置に、挿通穴(図示しない)が形成されている。当該貫通穴および挿通穴に締結具29が挿入され、外筒2と、テールキャップ4と、帯状部22の位置決めがなされる。
【0033】
同様に、外筒2の前端2fの内側に、連結体5の連結部24が挿入される。連結部24には、外筒2の前端2f側に形成された貫通穴に対応した位置に、挿通穴(図示しない)が形成されている。当該貫通穴および挿通穴に締結具29が挿入され、外筒2と連結体5の位置決めがなされる。
【0034】
この状態で締結具29を固定することにより、外筒2とテールキャップ4と連結体5とが一体化され、消音器1が得られる。
【0035】
(2)作用および効果
上記のように構成された消音器1は、排気管25が、図示しないエンジンに連通され、自動二輪車に取付けられる。前記エンジンから送り出された排気ガスは、排気管25を通じて消音器1内に入る。消音器1において、排気ガスは内筒3のパンチ穴10を通じて内筒3から第2空間内に入って膨張する。
【0036】
これにより、排気ガスは、騒音エネルギーが吸音材によって吸収され、エンドパイプ14から外部へ排出される。このようにして、消音器1は、排気ガスを消音化した上で外部へ排出する。
【0037】
因みに、吸音材は、排気ガスの騒音エネルギーを吸収することにより、劣化するとともに、体積が減少する。そうすると、騒音エネルギーを効率よく吸収することができなくなるので、適宜、吸音材を詰め替える必要がある。
【0038】
吸音材を詰め替えるには、まず、締結具29をドリルなどで破壊してテールキャップ4および連結体5を外筒2から取り外す。古くなった吸音材が外筒2、テールキャップ4、連結体5から取り出される。次いで、新しい吸音材が外筒2、テールキャップ4、連結体5に充填される。次いで、上述のようにテールキャップ4および連結体5が、再び外筒2へ取付け固定される。
【0039】
ここで、外筒2の後端2rの内周面には、後被覆部30が設けられている。これにより、テールキャップ4は、前端4f部分が当該後被覆部30の表面を摺動しながら外筒2に挿入される。したがって、消音器1は、テールキャップ4の前端4fが外筒2の内側表面に形成された金属層8に接触せずに外筒2に挿入されるので、金属層8の後端8rが損傷するのを防ぐことができる。
【0040】
同様に、外筒2の前端2fの内周面には、前被覆部32が設けられている。これにより、連結体5は、連結部24が当該前被覆部32の表面を摺動しながら外筒2に挿入される。したがって、消音器1は、連結部24が外筒2の内側表面に形成された金属層8に接触せずに外筒2に挿入されるので、金属層8の前端8fが損傷するのを防ぐことができる。
【0041】
このように、消音器1では、外筒2の内側表面に形成された金属層8を損傷させずにテールキャップ4および連結体5を取付けることができるので、吸音材の詰め替え作業を効率よく行うことができる。
【0042】
また、消音器1は、前被覆部32および後被覆部30を設けたことにより、貫通穴を形成する際に、金属層8の剥がれ、破れなどの損傷を防止することができるので、不良品の発生を抑制できるとともに、組立作業性を向上することができる。
【0043】
さらに、消音器1は、金属層8を損傷させずにテールキャップ4および連結体5を取付けることができるので、外筒2と、テールキャップ4および連結体5との嵌め合い交差を小さくすることができる。したがって、消音器1では、外筒2と、テールキャップ4および連結体5との連結部分からの排気ガスの漏れを抑制できるとともに、当該連結部分を塞ぐために設けられる充填材を減量させることができる。
【0044】
また、後被覆部30は、前端30fが外筒2の後端2rに挿入されたテールキャップ4の前端4fより前側となるように形成されている。これにより、消音器1では、テールキャップ4の前端4fの摺動範囲よりも後被覆部30が長く形成されていることにより、より確実に金属層8の損傷を防ぐことができる。
【0045】
同様に、前被覆部32は、後端32rが外筒2の前端2fに挿入された連結部24の後端24rより後側となるように形成されている。これにより、消音器1では、連結部24の後端24rの摺動範囲よりも前被覆部32が長く形成されていることにより、より確実に金属層8の損傷を防ぐことができる。
【0046】
(3)変形例
本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨の範囲内で適宜変更することが可能である。例えば、上記実施形態では、後被覆部30および前被覆部32は、筒状体7と一体成形される場合について説明したが、本発明はこれに限らず、筒状体7と金属層8とを一体成形した後、接着剤などにより、後被覆部30および前被覆部32をそれぞれ一体的に設けることとしてもよい。
【0047】
また、上記実施形態では、締結具29は、ブラインドリベットを用いた場合について説明したが、本発明はこれに限らず、ボルトとナットで構成してもよい。この場合、ナットは、隔離体18の帯状部22と連結部24の内側にそれぞれ固定される。
【符号の説明】
【0048】
1 消音器
2 外筒
2f 前端
2r 後端
3 内筒
3f 前端
3r 後端
4 テールキャップ
4f 前端
4r 後端
5 連結体
7 筒状体
8 金属層
8f 前端
8r 後端
24 連結部
24r 後端
25 排気管
30 後被覆部
30f 前端
30r 後端
32 前被覆部
32f 前端
32r 後端

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気ガスの主通路となる内筒と、
前記内筒の外側に設けられる吸音材と
を備えた消音器に用いられる外筒において、
繊維強化樹脂で形成された筒状体と前記筒状体の内側表面に設けられた金属層とを有し、
前端の内周面に設けられ、前記金属層の前端部分を覆う前被覆部と、
後端の内周面に設けられ、前記金属層の後端部分を覆う後被覆部と
を有することを特徴とする外筒。
【請求項2】
前記金属層は、
前端が、前記外筒の前端より後側であって、前記外筒の前端に挿入される連結体の後端より前側となるように形成され、
後端が、前記外筒の後端より前側であって、前記外筒の後端に挿入されるテールキャップの前端より後側となるように形成されている
ことを特徴とする請求項1記載の外筒。
【請求項3】
繊維強化樹脂で形成された筒状体と前記筒状体の内側表面に設けられた金属層とを有する外筒と、
前記外筒内に配置され排気ガスの主通路となる内筒と、
前記外筒と前記内筒との間に設けられる吸音材と
を備えた消音器において、
前記外筒は、
前端の内周面に設けられ、前記金属層の前端部分を覆う前被覆部と、
後端の内周面に設けられ、前記金属層の後端部分を覆う後被覆部と
を有することを特徴とする消音器。
【請求項4】
前記外筒の前端に着脱自在に設けられる連結体と、
前記外筒の後端に着脱自在に設けられるテールキャップと
を備え、
前記金属層は、
前端が、前記外筒の前端より後側であって、前記外筒の前端に挿入される連結体の後端より前側となるように形成され、
後端が、前記外筒の後端より前側であって、前記外筒の後端に挿入されるテールキャップの前端より後側となるように形成されている
ことを特徴とする請求項3記載の消音器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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