説明

外装部材、外表面冷却構造、及び外表面冷却方法

【課題】 建物の外表面が曲面であっても、水を利用して建物の外表面を効率よく冷却することができ、使用場所を選ばない外装部材、外表面冷却構造、及び外表面冷却方法を提供すること。
【解決手段】 外表面冷却構造1の製造では、まず、ネット3をテント用膜材5に物理的に圧着することで貼り付ける。ネット3は、0.3mm厚のポリエチレン製ネットであり、網目の粗さは20メッシュである。テント用膜材5は、芯材7の両側をテント生地9で挟む構造を有している。次に、ネット3の表面及びテント用膜材5の表側に、常温硬化型コーティング剤により光触媒コーティングを施す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水を利用して建物の外表面を冷却するために、建物の外表面に取り付ける外装部材、その外装部材を建物の外表面に取り付けてなる建物の外表面冷却構造、及び建物の冷却方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光触媒の特徴である超親水性を利用した建物冷却システムが注目されている。この冷却システムでは、建物の外表面(例えば屋上や壁面)に光触媒を塗装しておく。すると、建物の外表面は太陽光に含まれる紫外線を吸収して超親水性となる。この超親水性の外表面に少量の水を滴下すると、滴下された水は外表面に薄い水の膜を形成する。この薄い膜となった水は迅速に気化し、建物から蒸発熱を奪うので、建物の表面温度が低下する。夏の晴天時には、外表面の温度を15°Cも下げられることが分かっている。また、この冷却システムは、従来のエアコンディショナーのように莫大な電力消費を伴わず、大都市のヒートアイランド現象の緩和する技術として期待されている(特許文献1、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2002−201727号公報
【特許文献2】特開2002−350026号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、体育館や博覧会のパビリオンに利用されるテントのような膜構造物では、上記の冷却システムにより十分な効果を得ることができなかった。それは以下の理由による。膜構造物は膜材を強く引っ張ることで構造を保っているので、梁によって形を作っている構造物とは異なり、完全に水平・垂直な外表面を作ることは難しく、いくら強いテンションをかけて膜を張っても、膜の自重により若干のたわみが生じ、外表面が曲面となってしまう。このため、膜構造物に水を滴下しても、膜面のわずかな高低差によって水の流れる部分と、全く水が流れない部分とが生じてしまい、膜構造物全体を有効に冷やすことができなかった。
【0004】
また、膜構造物の外表面に水を勢いよく噴射して全面を濡らし、その後しばらくの間止水するという定期的散水方法が考えられるが、この方法では、周囲に水滴が飛散してしまうので、市街地等周囲を濡らすことができない場所では利用することができず、使用場所が著しく限定されてしまう。
【0005】
本発明は以上の点に鑑みなされたものであり、建物の外表面が曲面であっても、水を利用して建物の外表面を効率よく冷却することができ、使用場所を選ばない外装部材、外表面冷却構造、及び外表面冷却方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)請求項1の発明は、
水を利用して建物の外表面を冷却するために、前記外表面に取り付ける外装部材であって、前記外表面との間に隙間を形成し、前記隙間を通して、前記外表面と前記外装部材との間に供給される水を毛細管現象により前記外表面に沿って広げる水拡散部と、前記外表面から水を蒸発させる孔部とを有することを特徴とする外装部材を要旨とする。
【0007】
本発明によれば、外表面と外装部材との間に水を供給すると、その水は外装部材が備える水拡散部と建物の外表面との間に形成される微細な隙間を通じて、毛細管現象によって建物の外表面全体に素早く広がり、薄い水膜を形成する。そして、薄い水膜を形成した水は、外装部材の孔部から蒸発し、建物の外表面全体から蒸発熱を奪う。
【0008】
従って、本発明によれば、建物の外表面全体を冷却することができる。その結果として、建物内の温度が大幅に低下し、人が集まる建物の冷却はもとより、通常は空調を行わない工場などでは低いコストで大幅な作業環境の改善が可能となる。
【0009】
本発明では、上記のように、毛細管現象を利用して水膜を建物の外表面全体に広げるので、建物の外表面が曲面である場合(例えば、建物がテントのようなたわみのある膜構造物や、曲面を多用したデザイン性の高い建築物や、貯水塔、ガス貯蔵タンク等の丸い形をした建築物である場合)でも、建物の外表面全体に水膜を形成することができる。従って、本発明によれば、建物の外表面が曲面である場合でも建物の冷却効果が高い。
【0010】
また、本発明では、外装部材と外表面との間に一定の場所から水を供給すれば、その水は毛細管現象により建物の外表面全体に広がるので、建物の外表面全体に水を勢いよく噴射する必要はない。そのため、本発明では水が周囲に飛散するようなことがなく、使用場所が限定されない。
【0011】
外装部材の材質は特に限定されないが、建物の温度上昇の防止という点から、白色であることが好ましい。また、水膜を一層効果的に形成するという点から、外装部材の表面に光触媒をコーティングし、外装部材の表面を超親水性とすることが好ましい。
【0012】
本発明の外装部材を取り付ける建物としては、例えば、各種の膜構造物が挙げられる。具体的には、博覧会のパビリオンや体育館等大容積を必要とする建造物、歩道やバス停留所のひさし等の簡易建造物、工場の倉庫等がある。また、膜構造物以外にも、各種の建造物に使用可能である。
(2)請求項2の発明は、
表面に光触媒層を備えることを特徴とする請求項1記載の外装部材を要旨とする。
【0013】
本発明では、外装部材の表面に光触媒層を備えているので、外装部材の表面が超親水性となる。そのため、外装部材の表面に沿って水が広がり易くなるので、建物の外表面に水膜が一層形成され易くなる。その結果、建物の外表面が大きく曲がっている場合でも、水膜が均一に形成され、冷却効果が高い。
【0014】
光触媒層の材質としては、酸化チタンが最も適しているが、この他にも、例えば、チタン酸ストロンチウム、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化ニオブ等が挙げられる。
(3)請求項3の発明は、
網構造を有し、前記網構造を構成する糸状部材が前記水拡散部となり、前記網構造の開口部が前記孔部となることを特徴とする請求項1又は2記載の外装部材を要旨とする。
【0015】
本発明では、網構造を構成する糸状部材が水拡散部となり、この糸状部材と建物の外表面との間に形成される微細な隙間を通して、毛細管現象により水膜が建物の外表面に広がる。
【0016】
また、本発明では、網構造の開口部が孔部となり、この網構造の孔部から、建物の外表面の水が蒸発する。
(4)請求項4の発明は、
前記網構造における開口部の大きさが0.1〜5cmの範囲にあることを特徴とする請求項3記載の外装部材を要旨とする。
【0017】
本発明では、網構造における開口部の大きさが0.1cm以上であることにより、網構造により建物の外表面に保水される水の量が多くなることがない。そのため、保水された水の温度が熱線吸収により上昇しても、建物の冷却効果に及ぼす影響が少なくて済む。
【0018】
また、本発明では、網構造における開口部の大きさが5cm以下であることにより、外表面全体に隙間無く水膜を形成することができる。つまり、開口部が大きすぎて、開口部の中心付近に水が到達しなくなってしまうようなことがない。
(5)請求項5の発明は、
前記網構造を構成する糸状部材の太さが0.1〜1mmの範囲にあることを特徴とする請求項3又は4に記載の外装部材を要旨とする。
【0019】
本発明では、網構造を構成する糸状部材の太さが1mm以下であることにより、網構造により建物の外表面に保水される水の量が多くなることがない。そのため、保水された水の温度が熱線吸収により上昇しても、建物の冷却効果に及ぼす影響が少なくて済む。
【0020】
また、本発明では、網構造を構成する糸状部材の太さが0.1mm以上であることにより、水の流れに対してゆるやかな抵抗となり、少量の水をゆっくりと流すことによって水膜形成を促すという効果を奏する。
(6)請求項6の発明は、
請求項1〜5のいずれかに記載の外装部材を建物の外表面に取り付けてなる建物の外表面冷却構造を要旨とする。
【0021】
本発明によれば、請求項1〜5のいずれかに記載の外装部材を建物の外表面に取り付けることにより、建物の外表面が曲面である場合でも建物を効果的に冷却することができる。
【0022】
また、本発明によれば、外装部材と外表面との間に一定の場所から水を供給すれば、その水は毛細管現象により建物の外表面全体に広がるので、建物の外表面全体に水を勢いよく噴射する必要はない。そのため、本発明では水が周囲に飛散するようなことがなく、使用場所が限定されない。
(7)請求項7の発明は、
前記外表面の表層に光触媒層を備えることを特徴とする請求項6記載の建物の外表面冷却構造を要旨とする。
【0023】
本発明では、建物の外表面の表層に光触媒層を備えているので、建物の外表面が超親水性となる。そのため、建物の外表面に沿って水膜が一層形成され易くなる。その結果、建物の外表面が大きく曲がっている場合でも、水膜が均一に形成され、冷却効果が高い。
【0024】
光触媒層の材質としては、酸化チタンが最も適しているが、この他にも、例えば、チタン酸ストロンチウム、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化ニオブ等が挙げられる。
(8)請求項8の発明は、
前記外表面がテント用膜材であることを特徴とする請求項6又は7記載の建物の外表面冷却構造を要旨とする。
【0025】
本発明によれば、建物の外表面がテント用膜材であって、外表面が曲面であっても、建物を効果的に冷却することができる。
(9)請求項9の発明は、
請求項1〜5のいずれかに記載の外装部材を建物の外表面に取り付け、前記外装部材と前記外表面との間に水を供給することを特徴とする建物の冷却方法を要旨とする。
【0026】
本発明によれば、請求項1〜5のいずれかに記載の外装部材を建物の外表面に取り付けることにより、建物の外表面が曲面である場合でも建物を効果的に冷却することができる。
【0027】
また、本発明によれば、外装部材と外表面との間に一定の場所から水を供給すれば、その水は毛細管現象により建物の外表面全体に広がるので、建物の外表面全体に水を勢いよく噴射する必要はない。そのため、本発明では水が周囲に飛散するようなことがなく、使用場所が限定されない。
(10)請求項10の発明は、
前記建物の外表面の表層に光触媒層を設けることを特徴とする請求項9記載の建物の冷却方法を要旨とする。
【0028】
本発明では、建物の外表面の表層に光触媒層を設けるので、建物の外表面が超親水性となる。そのため、建物の外表面に沿って水膜が一層形成され易くなる。その結果、建物の外表面が大きく曲がっている場合でも、水膜が均一に形成され、冷却効果が高い。
【0029】
光触媒層の材質としては、酸化チタンが最も適しているが、この他にも、例えば、チタン酸ストロンチウム、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化ニオブ等が挙げられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下に本発明の実施の形態の例(実施例)を説明する。
【実施例1】
【0031】
a)まず、本実施例1の外装部材、及びその外装部材を用いた外表面冷却構造の構成を図1及び図2を用いて説明する。尚、図1は外表面冷却構造を表す斜視図であり、図2は外表面冷却構造の断面図である。
【0032】
本実施例1の外表面冷却構造1を作成するには、まず、図1(a)に示すように、ネット(外装部材)3をテント用膜材(建物の外表面)5に物理的に圧着することで貼り付ける。図1(b)は、ネット3をテント用膜材5に貼り付けた状態を表す。
【0033】
上記ネット3は、0.3mm厚のポリエチレン製ネットであり、白色である。このネット3の網目の粗さは12メッシュであり、ネット3の開口部(網目の大きさ)は1.8mmである。また、ネット3を構成する糸3aの太さは0.3mmである。
【0034】
また、上記テント用膜材5は、太陽工業製のスカイクリアコート(商品名、品番はSSC−125−J)を用いた。テント用膜材5は、図2に示すように、ポリエステルから成る芯材7の両側をポリ塩化ビニルから成るテント生地9で挟む構造を有している。
【0035】
ネット3をテント用膜材5に貼り付けた後、ネット3の表面及びテント用膜材5の表側(ネット3を貼り付けた側)に、常温硬化型コーティング剤により光触媒コーティングを施した。具体的には、まず、下塗り剤(日本曹達製のNRC−350A)をディップコーティング法により塗布し、次に、光触媒コーティング剤(日本曹達製のNRC−360C)をディップコーティング法により塗布した。その結果、図2に示すように、ネット3の表面及びテント用膜材5の表側には、親水性コーティング層(光触媒層)11が形成された。この親水性コーティング層は、下塗り剤により形成された接着層11aと、光触媒コーティング剤により形成された光触媒層11bとの2層構造である。
【0036】
b)次に、本実施例1の外表面冷却構造1の作用効果を図2及び図3を用いて説明する。
i)本実施例1の外表面冷却構造1では、図2に示すように、ネット3を構成する断面が円形の糸3aがテント用膜材5に貼り付けられたことにより、糸3aとテント用膜材5との接点付近には、微細な隙間13が形成される。外表面冷却構造1の一部に供給された水は、この隙間13を通して、毛細管現象によって外表面冷却構造1の表面全体に素早く広がり、テント用膜材5の外表面に薄い水膜を形成する。つまり、ネット3を構成する糸3は、外表面冷却構造1に供給される水を、毛細管現象によりテント用膜材5の外表面に沿って広げる水拡散部として作用する。
【0037】
従って、本実施例1の外表面冷却構造1によれば、図3に示すように、外表面冷却構造1の一部に水を供給するだけで、外表面冷却構造1の全体にわたって、薄い水膜を均一に形成することができる。そして、薄い水膜を形成した水は、ネット3の開口部(孔部)から蒸発し、テント用膜材5の外表面全体から蒸発熱を奪う。
【0038】
本実施例1の外表面冷却構造1は、上記のように、水膜をテント用膜材5の外表面全体に広げ、蒸発させることができるので、テント用膜材5、及びそのテント用膜材5を用いて建設された建物の外表面全体を冷却することができる。その結果として、建物内の温度が大幅に低下し、人が集まる建物の冷却はもとより、通常は空調を行わない工場などでは低いコストで大幅な作業環境の改善が可能となる。
【0039】
ii)本実施例1の外表面冷却構造1では、毛細管現象を利用して水膜をテント用膜材5の外表面全体に広げるので、テント用膜材5の外表面が曲面である場合でも、テント用膜材5の外表面全体に水膜を形成することができる。従って、本実施例1の外表面冷却構造1によれば、テント用膜材5の外表面が曲面である場合でもテント用膜材5、及びテント用膜材5を用いて建設されたテント(建物)の冷却効果が高い。
【0040】
また、本実施例1の外表面冷却構造1では、外表面冷却構造1における一定の場所に水を供給すれば、その水は毛細管現象によりテント用膜材5の外表面全体に広がるので、テント用膜材5の全体に水を勢いよく噴射する必要はない。そのため、本実施例1の外表面冷却構造1を用いた冷却方法では水が周囲に飛散するようなことがなく、使用場所が限定されない。
【0041】
iii) 本実施例1の外表面冷却構造1では、ネット3の表面に親水性コーティング層11を備えているので、ネット3の表面が超親水性となる。そのため、ネット3の表面に沿って水が広がり易くなるので、テント用膜材5の外表面に水膜が一層形成され易くなる。その結果、テント用膜材5の外表面が大きく曲がっている場合でも、水膜が均一に形成され、冷却効果が高い。
【0042】
iv) 本実施例1の外表面冷却構造1では、ネット3の網構造における開口部の大きさが0.1cm以上であることにより、ネット3により保水される水の量が多くなることがない。そのため、保水された水の温度が熱線吸収により上昇しても、テント用膜材5の冷却効果に及ぼす影響が少なくて済む。
【0043】
また、本実施例1では、ネット3における開口部の大きさが5cm以下であることにより、糸3a同士の間隔は十分に小さくなる。そのため隙間13を通して広がった水は、糸3aの近傍だけではなく、外表面全体に隙間無く水膜を形成することができる。つまり、開口部が大きすぎて、開口部の中心付近に水が到達しなくなってしまうようなことがない。
【0044】
v) 本実施例1の外表面冷却構造1では、ネット3を構成する糸3aの太さが1mm以下であることにより、ネット2により保水される水の量が多くなることがない。そのため、保水された水の温度が熱線吸収により上昇しても、テント用膜材5の冷却効果に及ぼす影響が少なくて済む。
【0045】
また、本実施例1では、ネット3を構成する糸3aの太さが0.1mm以上であることにより、水の流れに対してゆるやかな抵抗となり、少量の水をゆっくりと流すことによって水膜形成を促すという効果を奏する。
【0046】
vi) 本実施例1の外表面冷却構造では、テント用膜材5の表層に親水性コーティング層11を備えているので、テント用膜材5の表面が超親水性となる。そのため、テント用膜材5の表面に沿って水膜が一層形成され易くなる。その結果、テント用膜材5の表面が大きく曲がっている場合でも、水膜が均一に形成され、冷却効果が高い。
【0047】
d)次に、本実施例1の外表面冷却構造1が奏する効果を確かめるために行った実験について説明する。
i)実験に用いた構成
図4に示すように、屋根部分101aのみが開放された箱形形状を有し、透明アクリル板で作成された試験模型101を用意した。この試験模型101の屋根部分101aに、試験体として、ネット3とテント用膜材5とから成る外表面冷却構造1を取り付けた。
【0048】
屋根部分101aに外表面冷却構造1を取り付けた試験模型101は気密性を保つように構成されている。試験模型101の大きさは幅200mm×奥行き300mm×高さ120mmであり、屋根部分101aの斜度は5°である。屋根部分101aにおいて最も高い位置には、散水装置106を設けた。この散水装置106は、直径0.4mmの穴を2cm間隔で開けたφ8mmのアクリルパイプを使用し、試験模型101よりも高い位置に設置した貯水タンク105から水を自重によって滴下できる構造とした。散水装置106から供給され、屋根部分101aに取り付けた外表面冷却構造1の上を流れ落ちた水は、屋根部分101aにおいて最も低い側の下方に設置した樋107を伝って排水される。屋根部分101aの上方15cmの位置には、人工太陽光源104としてセリック社製のSOLAX100を2灯を設置した。外表面冷却構造1の裏面(面のほぼ中央部)と、試験模型101の内部(ほぼ中央部)には温度計103を設置した。尚、実験時の室温はおよび相対湿度は空調により22℃、55%に保った。また、散水装置106から散水する水の水温は26℃、散水量は30mL/分とした。
【0049】
また、比較例として、基本的な構成は同一としつつも、屋根部分101aに外表面冷却構造1の代わりに、従来の膜材料を取り付けたものも作成した。ここで従来の膜材料とは、ネット3を備えず、テント用膜材(太陽工業製のSSC−125−J)のみから成るものである。
【0050】
ii)実験方法及び実験結果
人工太陽灯104の照射下、散水を行わずに温度を上昇させ、試験模型101内の温度と外表面冷却構造1の温度がほぼ一定になった後、散水装置106から散水を開始した。
【0051】
図5に、散水開始からの、屋根部分101aに取り付けた膜の温度(以下膜面温度とする)と試験模型101の内部温度(以下模型内温度とする)の変化を示す。
屋根部分101aに外表面冷却構造1を取り付けたものでは、散水開始直後から水が外表面冷却構造1の膜面全体に広がり、膜面温度及び模型内温度ともに大きく低下し、散水開始から30分経過時には、模型内温度が2.9℃も低下した。この低温化効果の原因は、ネット3とテント用膜材5との間にできた微小な隙間が毛細管現象によって水を広げることで、テント膜材5の表面に均一な水膜が形成され、水膜により被覆される面積が大きくなったことによると考えられる。
【0052】
一方、屋根部分101aに従来の膜材料を取り付けた比較例では、散水開始から30分経過時における模型内温度の低下は1.1°Cに過ぎなかった。これは、従来の膜材料の上に水を滴下すると川状に水の流れが形成され、薄く水膜が張る状態を形成することができなかったことによると考えられる。
【0053】
尚、比較例においては、上述したように、散水開始から10分経過時までは、水が従来の膜材料表面を川状に流れるだけであったが、10分経過後、膜材料表面を軽くこすり、人為的に水の膜を形成させた。すると、膜面温度については、それまでの温度低下が3°C程度であったのに比べて、急激な温度低下が確認された。しかし、その後散水を続けると、再び川状の水の流れが形成され、水膜は形成されないようになった。また、模型内温度については、10分経過後においても、外表面冷却構造1を屋根部分101aに取り付けた場合に比べて、温度低下は非常に小さかった。
【0054】
以上の結果から、本実施例1の外表面冷却構造1は、ネット3とテント用膜材5との間にできた微小な隙間を通し、毛細管現象によって水膜を広げることで優れた冷却効果を奏することが確認できた。
【実施例2】
【0055】
本実施例2の外表面冷却構造201の構成を図6を用いて説明する。尚、図6(a)は外表面冷却構造201の全体構成を表す斜視図であり、図6(b)は図6(a)におけるA−A断面を表す断面図である。
【0056】
本実施例2では、外装部材に相当する部材としてパンチング部材203を備えている。このパンチング部材は、円形の孔203aを多数有する板状部材である。孔203aの直径は0.1〜5cmである。
【0057】
パンチング部材203は建物の外壁205の表面に貼り付けられる。このとき、図6(b)に示すように、パンチング部材203と外壁205との間には微細な隙間207が形成される。この隙間207は、パンチング部材203や外壁205の微妙な凹凸やうねりにより形成されるものであってもよいし、パンチング部材203の裏面や外壁205の表面に微細な突起を設けることで形成してもよい。
【0058】
本実施例2の外表面冷却構造201に対し、外側から水を供給すると、水は孔203aを通してパンチング部材203と外壁205の間に入り込む。そして、水は隙間207を通して、毛細管現象により、外壁205の表面に沿って広がり、均一な水膜を形成する。つまり、本実施例2では、パンチング部材203のうち、孔203aが空いていない部分である板部203bが、外壁203との間に隙間207を形成し、水を外壁205の表面に沿って広げる水拡散部として作用する。尚、孔203aはその直径が0.1〜5cmと十分に小さいので、隙間207を通して広がった水は、板部203bだけではなく、孔203aの部分においても、均一な水膜を形成する。
【0059】
外壁205の表面に形成された水膜は、パンチング部材203の孔203aから蒸発し、外壁205の表面全体から蒸発熱を奪う。
本実施例2の外表面冷却構造201は、上記のように、水膜を外壁205の表面全体に広げ、蒸発させることができるので、外壁205、及び外壁205を用いて建設された建物の外表面全体を冷却することができる。その結果として、建物内の温度が大幅に低下し、人が集まる建物の冷却はもとより、通常は空調を行わない工場などでは低いコストで大幅な作業環境の改善が可能となる。
【実施例3】
【0060】
本実施例3の外表面冷却構造301の構成を図7を用いて説明する。尚、図7(a)は外表面冷却構造301の全体構成を表す斜視図であり、図7(b)は図7(a)におけるA−A断面を表す断面図である。
【0061】
本実施例3では、外装部材に相当する部材として、多数の糸状部材303を備えている。この糸状部材303は、外壁305の表面に沿って、所定の間隔(0.1〜5cm)をおきながら、互いに平行に貼り付けられている。糸状部材303の材質はポリエチレンであり、その断面形状は直径0.1〜1mmの円である。断面が円形の糸状部材303を外壁205の表面に貼り付けることで、図7(b)に示すように、糸状部材303と外壁305との接点付近には、微細な隙間307が形成される。
【0062】
本実施例3の外表面冷却構造301に対し、外側から水を供給すると、水は糸状部材303の間を通り、外壁305の表面に達する。そして、水は隙間307を通して、毛細管現象により、外壁305の表面に沿って広がり、均一な水膜を形成する。つまり、本実施例3では、糸状部材303が、外壁305との間に隙間307を形成し、水を外壁305の表面に沿って広げる水拡散部として作用する。尚、糸状部材303同士の間隔は0.1〜5cmと十分に小さいので、隙間307を通して広がった水は、糸状部材303の近傍だけではなく、糸状部材303の間の部分においても、均一な水膜を形成する。
【0063】
外壁305の表面に形成された水膜は、糸状部材303間の隙間(孔部)から蒸発し、外壁305の表面全体から蒸発熱を奪う。
本実施例3の外表面冷却構造301は、上記のように、水膜を外壁305の表面全体に広げ、蒸発させることができるので、外壁305、及び外壁305を用いて建設された建物の外表面全体を冷却することができる。その結果として、建物内の温度が大幅に低下し、人が集まる建物の冷却はもとより、通常は空調を行わない工場などでは低いコストで大幅な作業環境の改善が可能となる。
【0064】
尚、本発明は前記実施例になんら限定されるものではなく、本発明を逸脱しない範囲において種々の態様で実施しうることはいうまでもない。
前記実施例1〜3において、外表面冷却構造は、屋根部分だけではなく、垂直な壁面、または傾斜した壁面にも用いることができる。
【0065】
前記実施例2において、パンチング部材203及び外壁205の表面に、前記実施例1と同様に親水性コーティング層を形成してもよい。そうすることにより、外壁205の表面に一層均一に水膜を形成することができる。
【0066】
また、前記実施例3において、糸状部材303及び外壁305の表面に、前記実施例1と同様に親水性コーティング層を形成してもよい。そうすることにより、外壁305の表面に一層均一に水膜を形成することができる。
【0067】
前記実施例2において、外壁205は平面ではなく、湾曲した部材であってもよい。この場合は、パンチング部材203も、その湾曲に合わせた形状とすることで、隙間207の高さを均一に保つことができる。
【0068】
また、前記実施例3において、外壁305は平面ではなく、湾曲した部材であってもよい。この場合は、糸状部材303も、その湾曲に合わせた形状とすることで、隙間307を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】外表面冷却構造1の構成を表す斜視図である。
【図2】外表面冷却構造1の構成を表す断面図である。
【図3】外表面冷却構造1の作用を表す説明図である。
【図4】外表面冷却構造1の効果を確かめるための行った実験の構成を表す説明図である。
【図5】外表面冷却構造1の効果を確かめるための行った実験の結果を表すグラフである。
【図6】(a)は外表面冷却構造201の構成を表す斜視図であり、(b)はA−A断面における断面図である。
【図7】(a)は外表面冷却構造301の構成を表す斜視図であり、(b)はA−A断面における断面図である。
【符号の説明】
【0070】
1、201、301・・・外表面冷却構造
3・・・ネット
5・・・テント用膜材
7・・・芯材
9・・・テント生地
11・・・親水性コーティング層
11a・・・接着層
11b・・・光触媒層
13・・・隙間
203・・・パンチング部材
203a・・・孔
205、305・・・外壁
303・・・糸状部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水を利用して建物の外表面を冷却するために、前記外表面に取り付ける外装部材であって、
前記外表面との間に隙間を形成し、前記隙間を通して、前記外表面と前記外装部材との間に供給される水を毛細管現象により前記外表面に沿って広げる水拡散部と、
前記外表面から水を蒸発させる孔部とを有することを特徴とする外装部材。
【請求項2】
表面に光触媒層を備えることを特徴とする請求項1記載の外装部材。
【請求項3】
網構造を有し、
前記網構造を構成する糸状部材が前記水拡散部となり、
前記網構造の開口部が前記孔部となることを特徴とする請求項1又は2記載の外装部材。
【請求項4】
前記網構造における開口部の大きさが0.1〜5cmの範囲にあることを特徴とする請求項3記載の外装部材。
【請求項5】
前記網構造を構成する糸状部材の太さが0.1〜1mmの範囲にあることを特徴とする請求項3又は4に記載の外装部材。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の外装部材を建物の外表面に取り付けてなる建物の外表面冷却構造。
【請求項7】
前記外表面の表層に光触媒層を備えることを特徴とする請求項6記載の建物の外表面冷却構造。
【請求項8】
前記外表面がテント用膜材であることを特徴とする請求項6又は7記載の建物の外表面冷却構造。
【請求項9】
請求項1〜5のいずれかに記載の外装部材を建物の外表面に取り付け、前記外装部材と前記外表面との間に水を供給することを特徴とする建物の冷却方法。
【請求項10】
前記建物の外表面の表層に光触媒層を設けることを特徴とする請求項9記載の建物の冷却方法。

【図1】
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【図5】
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【図6】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−70545(P2006−70545A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−254610(P2004−254610)
【出願日】平成16年9月1日(2004.9.1)
【出願人】(390021577)東海旅客鉄道株式会社 (413)
【Fターム(参考)】