説明

多剤耐性を調節することができる抗体フラグメント、ならびにこの抗体フラグメントを使用する組成物およびキットおよび方法

抗体フラグメント及びその使用方法が提供される。抗体フラグメントはP−糖タンパク質の細胞外部分と結合することができる抗原結合領域を含み、それにより多剤耐性細胞における薬物排出活性を少なくとも部分的に阻害することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多剤耐性(MDR)細胞に関連するP−糖タンパク質に結合することができる抗体フラグメントに関する。本発明はまた、MDRガン細胞における薬物排出活性を阻害するためにかかる抗体フラグメントを利用する組成物および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガン化学療法は、多くの場合、広範囲の様々な抗ガン薬物(コルヒチン、ビンブラスチン、ビンクリスチンおよびドキソルビシンなど)に対するガン性細胞における後天的または固有な耐性の発達のために失敗している。この現象は、多剤耐性(MDR)として知られており、ガン化学療法に対する主要な障害である。
【0003】
MDRの重要な機構は、多剤輸送体として既知のエネルギー依存性排出ポンプの過剰発現である。この排出ポンプは、MDR1遺伝子によってコードされる170kDaのP−糖タンパク質(Pgp)である。Pgpにより媒介されるMDRは化学療法に対する様々な腫瘍細胞の耐性において重要な役割を果たしている。様々な研究により、明らかな相関が、mdr1発現と、化学療法に対する応答の喪失との間に示されている(6、7)。
【0004】
ガン細胞におけるMDR表現型の阻害剤は、MDRに関与する輸送体タンパク質の薬物排出機能の発現の改変または妨害のいずれかをもたらし得る。既知のMDR阻害剤には、ベルパミル(カルシウムチャネル遮断剤であり、白血病を治療するために使用されている)、シクロスポリン類、各種ステロイド、およびカルモジュリン阻害剤(Pgpにより輸送された薬物の細胞内蓄積および細胞傷害性作用を高める)が含まれる。しかしながら、臨床的適用のために現在利用可能な既知のMDR調節薬物はほとんどが、それらの治療的価値を実質的に制限する大きな副作用を有する。
【0005】
最近、様々なPgp特異的なモノクローナル抗体(Mab)が、MDR阻害における使用を意図した薬剤として開発されている。米国特許第4837306号には、Pgpの細胞内ドメインのC末端部分に対して向けられた様々な抗体が記載される。これらの抗体は、MDR細胞において薬物排出活性に対する阻害効果を有することは知られていない。
【0006】
米国特許第5766946号には、ヒトPgpの4番目の細胞外ループに存在するエピトープを認識する、MM.17と名付けられたモノクローナル抗体が記載される。このMM.17抗体は、ヒトTリンパ芽球様細胞のMDR変化体でマウスを免疫化することによって作製された。この抗体は、MDR細胞において薬物排出活性に対する阻害効果を有することは知られていない。
【0007】
米国特許第6479639号には、Pgpの細胞外ドメインに対して向けられた、UIC2と名付けられたモノクローナル抗体が記載される。このUIC2抗体は、Pgpを発現するトランスフェクションされた繊維芽細胞でマウスを免疫化することによって作製された。UIC2 Mabは、MDR細胞の薬物排出活性をインビトロで阻害することができることが見出されていた。
【0008】
HYB−241およびHYB−612と名付けられたモノクローナル抗体はPgpの外側エピトープを認識する。これらのMabは、腫瘍細胞における化学療法薬物のビンクリスチンおよびアクチノマイシンDの蓄積を増大し、それにより細胞毒性を増大させることが報告されている[Meyers,M.B.他、Cancer Res.、49:3209(1987);O’Brien,J.P.他、Proc.Amer.Assoc.Cancer Res.、30:Abs2114(1989)]。
【0009】
モノクローナル抗体Mab657はMDR細胞と反応することが報告されている[Cinciarelli,C.他、Int.J.Cancer、47:533(1991)]。この抗体は、ヒト末梢血リンパ球により媒介される細胞毒性に対するMDR細胞の感受性を増大させることが報告されていたが、Pgpの薬物排出活性に対する阻害効果を有することは知られていない。
【0010】
モノクローナル抗体のMRK−16およびMRK−17が、MDRヒト白血病細胞でマウスを免疫化することによって作製されていた。これらの抗体はともにPgpを認識し、MDR細胞における薬物排出活性をインビトロおよびインビボで調節することができる[Hamada H.他、Cancer Res.PNAS、83:7785(1986);Pearson,J.W.他、J.Natl.Cancer Inst.、88:1386(1991);Tsuruo,T.、Jpn.J.Cancer Res.、80:627(1989)]。MRK−16の可変領域をヒト抗体のFc部分と組み合わせる組換えキメラ抗体が、MDR細胞に対する細胞毒性をインビトロで増大させることにおいて元のMRK−16 Mabよりも効果的であることが報告されていた[Hamada H.他、Cancer Res.、50:3167(1990)]。
【0011】
上記抗体の実質的な制限は、これらの分子のサイズが大きいことから生じている。薬剤の送達効率は、典型的には、そのサイズに反比例することが広く知られている。従って、上記に記載された大きい抗体分子は、治療的効果を得るために大きい投与投薬量を必要とする腫瘍細胞の内部に効率的に浸透せず、また、分布しないと考えられる。
【0012】
現在利用可能なPgp特異的抗体の別の大きな欠点は、Pgpが、腎臓、肝臓、結腸、精巣、リンパ球および血液脳関門を含む正常なヒト組織において構成的に発現されるという事実である(27)。大きな抗体分子は、典型的には、長期間にわたって循環し、循環からゆっくり排出され、これにより、Pgpを生理学的に発現する正常な組織に対する起こり得る毒性効果をもたらしている。
【0013】
加えて、上記に記載されたPgp特異的抗体はほとんどが、Pgpに対する大きい親和性のために選択されていた。しかしながら、治療におけるPgp特異的抗体の実際の使用は、Pgpに対する抗体の結合親和性が大きいときには実質的に制限され得る。これは、Pgpを生理学的に発現する正常な組織に対して及ぼされ得る毒性作用のためである。
【0014】
従って、上記の制限を有しないPgp特異的抗体が必要であることが広く認識されており、そのようなPgp特異的抗体を有することは非常に好都合である。
【発明の開示】
【0015】
本発明の1つの態様によれば、P−糖タンパク質の細胞外部分と結合することができる抗原結合領域を含み、多剤耐性細胞における薬物排出活性を少なくとも部分的に阻害することができる抗体フラグメントが提供される。
【0016】
本発明の別の態様によれば、P−糖タンパク質の細胞外部分と結合することができる抗原結合領域を含み、多剤耐性細胞における薬物排出活性を少なくとも部分的に阻害することができる抗体フラグメントを有効成分として含み、かつ、医薬的に許容され得るキャリアを含む医薬組成物が提供される。
【0017】
本発明のなお別の態様によれば、個体におけるガンを治療する方法が提供され、この方法は、(a)多剤耐性ガン細胞における薬物排出活性を少なくとも部分的に阻害することができる抗体フラグメントを個体に与えること、および(b)治療効果的な量の抗ガン剤を個体に投与し、それにより個体におけるガンを治療することを含む。
【0018】
本発明のさらに別の態様によれば、P−糖タンパク質を過剰発現する細胞を診断するためのキットが提供され、このキットは、前記P−糖タンパク質と結合することができる抗原結合領域を含有する抗体フラグメントと、前記抗体フラグメントを検出するための試薬とを含む。
【0019】
本発明のさらなる態様によれば、P−糖タンパク質を過剰発現する細胞を検出する方法が提供され、この方法は、(a)P−糖タンパク質の細胞外部分と結合することができる抗原結合領域を含む抗体フラグメントに細胞をさらすこと、および(b)前記P−糖タンパク質の前記細胞外部分に結合した前記抗体フラグメントを検出し、それにより、細胞外P−糖タンパク質を過剰発現する細胞を同定することを含む。
【0020】
本発明のなおさらなる態様によれば、P−糖タンパク質の細胞外部分と結合することができる抗原結合領域を含み、多剤耐性細胞における薬物排出活性を少なくとも部分的に阻害することができる抗体フラグメントをコードする核酸配列を含む単離されたポリヌクレオチドが提供される。
【0021】
本発明のさらなる態様によれば、P−糖タンパク質の細胞外部分と結合することができる抗原結合領域を含み、多剤耐性細胞における薬物排出活性を少なくとも部分的に阻害することができる抗体フラグメントをコードする核酸配列を含む単離されたポリヌクレオチドを含む核酸構築物が提供される。
【0022】
本発明のさらなる態様によれば、P−糖タンパク質の細胞外部分と結合することができる抗原結合領域を含み、多剤耐性細胞における薬物排出活性を少なくとも部分的に阻害することができる抗体フラグメントをコードする核酸配列を含む単離されたポリヌクレオチドを含む核酸構築物を含む細胞が提供される。
【0023】
下記に記載される本発明の好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、本発明の抗体フラグメントはFvフラグメントであり、好ましくは単鎖Fvである。
【0024】
記載された好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、本発明の抗体フラグメントはFabである。
【0025】
記載された好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、本発明の抗体フラグメントはF(ab’)である。
【0026】
記載された好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、本発明の抗体フラグメントはF(ab’)である。
【0027】
記載された好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、本発明の抗体フラグメントは、mdr1遺伝子によって発現される170kDaのポリペプチドの細胞外部分と結合することができる抗原結合領域を含み、好ましくは、前記抗原結合領域は、P−糖タンパク質の細胞外部分の第1のループに存在するエピトープに対して向けられており、より好ましくは、前記エピトープは、配列番号1に示されるアミノ酸配列を含む。
【0028】
記載された好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、本発明の抗体フラグメントは、多剤耐性ガン細胞(好ましくは、ヒトガン細胞)における薬物排出活性を少なくとも部分的に阻害することができる。
【0029】
記載された好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、本発明の医薬組成物はさらに、化学療法薬物(好ましくは、ガン細胞に対して毒性である化学療法薬物)を含む。
【0030】
記載された好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、個体におけるガンを治療する方法は、多剤耐性ガン細胞における薬物排出活性を少なくとも部分的に阻害することができる抗体フラグメントを個体に与えることを含み、この場合、前記抗体フラグメントは、医薬的に許容され得るキャリアとともに投与される。
【0031】
記載された好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、個体におけるガンを治療する方法は、多剤耐性ガン細胞における薬物排出活性を少なくとも部分的に阻害することができる抗体フラグメントを個体に与える前に、または、多剤耐性ガン細胞における薬物排出活性を少なくとも部分的に阻害することができる抗体フラグメントを個体に与えるのと同時に、または、多剤耐性ガン細胞における薬物排出活性を少なくとも部分的に阻害することができる抗体フラグメントを個体に与えた後に、治療効果的な量の抗ガン剤を個体に投与することを含む。
【0032】
記載された好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、個体におけるガンを治療する方法は、本発明の抗体フラグメントと複合体化された抗ガン剤の治療効果的な量を個体に投与することを含む。
【0033】
記載された好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、個体におけるガンを治療する方法は、個体の細胞内において本発明の抗体フラグメントを発現させることを含む。
【0034】
記載された好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、本発明のキットはさらに、細胞外P−糖タンパク質を過剰発現する細胞を診断する際に使用される抗体フラグメントを識別する包装材を含む。
【0035】
記載された好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、本発明のキットは、検出可能な成分で標識された本発明の抗体フラグメントを含み、好ましくは、前記検出可能な成分は、発色成分、蛍光発生成分、発光成分および放射性成分からなる群から選択される。
【0036】
記載された好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、P−糖タンパク質を過剰発現する個体の細胞を検出する方法はさらに、細胞を本発明の抗体フラグメントにさらす前に個体から生物学的サンプルを得ることを含む。
【0037】
記載された好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、P−糖タンパク質を過剰発現する細胞を検出する方法はさらに、検出可能な成分で標識された本発明の抗体フラグメントに細胞をさらすことを含み、この場合、好ましくは、検出可能な成分は、発色成分、蛍光発生成分、発光成分および放射性成分からなる群から選択される。
【0038】
記載された好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、本発明の単離されたポリヌクレオチドは配列番号2に示される通りである。
【0039】
記載された好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、本発明の核酸構築物はさらに、前記ポリヌクレオチドの発現を調節するためのプロモーターを含む。
【0040】
本発明は、抗体フラグメント、抗体フラグメントを利用する医薬組成物、ポリヌクレオチド、核酸構築物、キットおよび方法を提供することによって、現在知られている形態の欠点に対処することに成功している。本発明の抗体フラグメントは、P−糖タンパク質の細胞外部分と結合することができる抗原結合領域を含み、それにより、多剤耐性細胞における薬物排出活性を少なくとも部分的に阻害することができる。
【0041】
別途定義されない場合、本明細書中で使用されるすべての技術的用語および科学的用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書中に記載される方法および材料と同様または同等である方法および材料を本発明の実施または試験において使用することができるが、好適な方法および材料が下記に記載される。矛盾する場合には、定義を含めて、本特許明細書が優先する。また、材料、方法および実施例は例示にすぎず、限定であることは意図されない。
【0042】
図面の簡単な記述
本発明は、例としてだけであるが、添付されている図面を参照して、本明細書中に記載される。次に図面を詳しく具体的に参照して、示されている細目は、例としてであり、また、本発明の好ましい実施形態の例示的な議論のためだけのものであり、従って、本発明の原理および概念的局面の最も有用かつ容易に理解された記述であると考えられるものを提供するために示されていることが強調される。これに関して、記述を図面と一緒に理解することにより、本発明のいくつかの形態が実際にどのように具体化され得るかが当業者には明らかになるので、発明の構造的詳細を、発明の基本的な理解のために必要であるよりも詳細に示すことは試みられていない。
図1a〜図1dは、精製されたA2単鎖Fv(scFv)の特異性および結合特質を明らかにする。図1aは、中央および右側のレーンにおいてA2scFvが単一バンドであることを表し、同時に、左側レーンが分子量サイズ標準のバンドを示すSDS−PAGE分析の写真である。図1bは、ビオチン化された標的のPgp由来ペプチド(配列番号1のアミノ酸配列を含む;Pgp)、またはビオチン化された非標的ペプチド(PRP)、またはストレプトアビジン(streptA)に対するA2scFv結合のELISAの棒グラフである。グラフは、A2scFvが標的のPgp由来ペプチドと用量依存的な様式で反応したことを示している。A2scFvは非標的ペプチドまたはストレプトアビジンとは反応しなかった。図1cは、ビオチン化標的のPgp由来ペプチドに対するA2scFvの結合の用量応答曲線を表すELISAのプロットである。50%の結合のために要求されるA2scFvの濃度は約150nMとして内挿された。図1dは競合放射免疫アッセイプロットである。このプロットは、一定量の[125I]標識されたA2scFvと、増大する量の標識されていないA2scFv(競合剤として)とを使用することに基づいている。A2scFvの50%の結合阻害のための要求される濃度は約130nMとして内挿された。
図2a〜図2hは、多剤耐性(MDR)を示し、かつP−糖タンパク質(Pgp)を過剰発現する腫瘍細胞に対するA2scFv結合の能力および選択性を明らかにする。図2aは、薬物感受性のヒト卵巣ガン腫細胞2780と反応するA2scFvの免疫蛍光フローサイトメーター分析を表すプロットである。このプロットは、A2scFv処置が蛍光強度に対して何ら影響を有しなかったことを示しており、これは、抗体−細胞の結合がないことを示している。図2bは、MDRの、Pgpを過剰発現する卵巣ガン腫細胞2780ADRと反応するA2scFvの免疫蛍光フローサイトメーター分析を表すプロットである。このプロットは、A2scFv処置が蛍光強度の10倍の増大をもたらしたことを示しており、これは抗体−細胞の強い結合を示している。図2cは、薬物感受性のヒトガン腫細胞KB3−1と反応するA2scFvの免疫蛍光フローサイトメーター分析を表すプロットである。このプロットは、A2scFv処置が蛍光強度に対して何ら影響を有しなかったことを示しており、これは、抗体−細胞の結合がないことを示している。図2dは、MDRの、Pgpを過剰発現するヒトガン腫細胞KBV−1(薬物感受性のヒトガン腫細胞KB3−1に由来する)と反応するA2scFvの免疫蛍光フローサイトメーター分析を表すプロットである。このプロットは、A2scFv処置が蛍光強度の実質的な増大をもたらしたことを示しており、これは抗体−細胞の強い結合を示している。図2eは、A2scFvで処置された、MDRの、Pgpを過剰発現する卵巣ガン腫細胞2780ADR(薬物感受性の卵巣ガン腫細胞株2780に由来する)の免疫組織化学的染色を例示する顕微鏡写真である。この顕微鏡写真は、陽性の抗体−細胞反応を示す染色された細胞を示している。図2fは、A2scFvで処置された薬物感受性細胞2780の免疫組織化学的染色を例示する顕微鏡写真である。細胞は染色されないままであった。これは、抗体−細胞の反応がないことを示している。図2gは、A2scFvで処置された、MDRの、Pgpを過剰発現するヒトガン腫細胞KB3−1(薬物感受性のヒトガン腫細胞KBV−1に由来する)の免疫組織化学的染色を例示する顕微鏡写真である。この顕微鏡写真は、陽性の抗体−細胞反応を示す染色された細胞を示している。図2hは、A2scFvで処置された薬物感受性のヒトガン腫細胞KBV−1(MDRの、Pgpを過剰発現するヒトガン腫細胞KB3−1の親株)の免疫組織化学的染色を例示する顕微鏡写真である。細胞は染色されないままであった。これは、抗体−細胞の反応がないことを示している。
図3a〜図3eはMDR細胞における薬物排出活性に対するA2scFvの影響を明らかにする。図3aは、カルセインの蓄積速度を、(i)薬物感受性のヒト卵巣ガン腫細胞2780(黒塗り棒により表される)、および(ii)MDRの、Pgpを過剰発現する卵巣ガン腫細胞2780ADR(灰色棒により表される)において比較する蛍光計アッセイによって得られたデータを表す棒グラフである。このグラフは、5分間または15分間のインキュベーションの後において蛍光強度の1/5および1/10への低下(これはカルセイン取り込みの低下を示す)をそれぞれ示している。図3bは、カルセインの蓄積を、(i)薬物感受性のヒト卵巣ガン腫細胞2780、および(ii)MDRの、Pgpを過剰発現するヒト卵巣ガン腫細胞2780ADRにおいて比較するフローサイトメーターアッセイを表すプロットである。このプロットは、2780ADR細胞が実質的に低下した平均蛍光強度を示したことを示している。これは、薬物感受性の2780細胞によるカルセイン取り込みと比較して、MDR細胞によるカルセイン取り込みのレベルが実質的に低下していることを示している。図3cは、MDRの、Pgpを過剰発現する2780ADR細胞におけるカルセインの蓄積に対するA2scFvの影響を蛍光計アッセイにおいて明らかにする棒グラフである。このグラフは、2780ADR細胞によるカルセインの取り込みに対する、カルセイン添加前に投与されたA2scFvの正の用量応答効果を示している。図3dは、MDRの、Pgpを過剰発現する2780ADR細胞によるカルセイン取り込みに対するA2scFvの影響を明らかにするプロットである。A2scFvをカルセイン添加前に投与した。このプロットは、蛍光強度の平均値が実質的に大きくなっていること(4倍〜5倍)を示している。これは、A2scFvで処置されていない細胞と比較して、A2scFvで処置されたMDR細胞によるカルセイン取り込みの実質的な増大を示している。図3eは、scFvの特異性を例示する棒グラフである。このグラフは、蛍光計アッセイによって得られたデータを表しており、2780ADR細胞に対するA2scFvの投与、続くカルセインの添加は、細胞の蛍光強度を実質的に増大させたことを示している。これは、細胞におけるカルセイン取り込みが増大していることを示している。比較において、2780ADR細胞に対する非標的scFv G1(これはメラノーマ腫瘍抗原に対して単離された)の投与は細胞におけるカルセイン取り込みを増大させなかった。
図4a〜図4eは様々なMDR細胞株およびそれらの薬物感受性の親細胞株における薬物排出活性に対するA2scFvの影響を明らかにする。図4aは、齧歯類(CHO)MDR細胞株EMTR1におけるカルセイン取り込みを比較する蛍光計アッセイによって得られたデータを表す棒グラフである。このグラフは、A2scFvで処置され、続いてカルセインが添加された細胞が、実質的に大きくなったレベルの蛍光を示したことを示しており、これは、非処置(陰性)コントロールと比較したとき、細胞におけるカルセイン取り込みが大きくなっていることを示している。A2scFvの効果はベラパミル(陽性コントロールとして使用された基準のMDR調節剤)の効果と類似していた。図4bは、MDRヒト類表皮細胞株KB−V1におけるカルセイン取り込みを比較する蛍光計アッセイによって得られたデータを表す棒グラフである。このグラフは、A2scFvで処置され、続いてカルセインが添加された細胞が、実質的に大きくなったレベルの蛍光を示したことを示しており、これは、非処置(陰性)コントロールと比較したとき、細胞における大きくなったカルセイン取り込みを示している。A2scFvの効果はベラパミル(陽性コントロールとして使用された基準のMDR調節剤)の効果と類似していた。図4cは、薬物感受性の2780細胞株(2780ADRの親株)におけるカルセイン取り込みを比較する蛍光計アッセイによって得られたデータを表す棒グラフである。このグラフは、A2scFvによって処置された細胞、非処置(陰性)コントロール、またはベラパミル(陽性)コントロールにおいて観測された蛍光強度が類似していることを示した。従って、これは、薬物感受性細胞におけるカルセイン取り込みに対して、A2scFvは影響を及ぼさなかったことを示している。図4dは、薬物感受性のヒト類表皮細胞株KB3−1(KBV−1の親株)におけるカルセイン取り込みを比較する蛍光計アッセイによって得られたデータを表す棒グラフである。このグラフは、A2scFvによって処置された細胞、非処置(陰性)コントロール、またはベラパミル(陽性)コントロールにおいて観測された蛍光強度が類似していることを示している。従って、これは、薬物感受性細胞におけるカルセイン取り込みに対して、A2scFvは影響を及ぼさなかったことを示している。図4eは、薬物感受性の齧歯類(CHO)細胞株A8(EMTR1の親株)におけるカルセイン取り込みを比較する蛍光計アッセイによって得られたデータを表す棒グラフである。このグラフは、A2scFvによって処置された細胞、非処置(陰性)コントロール、またはベラパミル(陽性)コントロールにおいて観測された蛍光強度が類似していることを示している。従って、これは、薬物感受性細胞におけるカルセイン取り込みに対して、A2scFvは影響を及ぼさなかったことを示している。
図5は様々な濃度のA2scFvで処置された2780ADR細胞におけるカルセイン取り込みを表すプロットである。このプロットは、カルセイン取り込みを示す蛍光強度の用量応答曲線を示している。推定される飽和(IC100)濃度およびIC50濃度はそれぞれ、1mlあたり0.1mgおよび0.065mgのA2scFvである(すなわち、それぞれ、4μMおよび2.6μM)。
図6は様々な濃度のドキソルビシンで処置された2780ADR細胞の生存性に対するA2scFvの影響を表す棒グラフである。細胞生存性が細胞タンパク質内への[H]−ロイシン取り込みによって測定された。グラフは、ドキソルビシン添加前に細胞をA2scFvで処置することにより、A2scFvで処置されていない細胞と比較して、細胞生存性の実質的な喪失がもたらされたことを示している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
本発明は、細胞外P−糖タンパク質(Pgp)と結合することができる抗原結合部位を含む抗体フラグメントに関するものであり、そのため、多剤耐性(MDR)細胞における薬物排出活性を阻害するために、または、MDR細胞を検出するのに使用することができる。
【0044】
本発明の少なくとも1つの実施形態を詳しく説明する前に、本発明は、その適用において、下記の説明において示される細部、または実施例によって例示される細部に限定されないことを理解しなければならない。本発明は他の実施形態が可能であり、または様々な方法で実施することができ、または様々な方法で実施される。また、本明細書中で用いられる表現法および用語法は記述のためであり、従って、限定であるとして見なしてはならないことを理解しなければならない。
【0045】
本明細書中で使用される用語「P−糖タンパク質」は、ヒトmdr1遺伝子によってコードされる170kDaの膜貫通タンパク質を示し、このタンパク質は多剤耐性細胞におけるエネルギー依存性の生物学的ポンプとして機能する。
【0046】
本明細書中で使用される表現「多剤耐性」は、細胞傷害性薬物に対する一部の細胞(例えば、Pgpを過剰発現するガン細胞など)の抵抗性を示す。
【0047】
本明細書中で使用される表現「抗体フラグメント」は、天然の抗体分子の任意の活性な部分を示す。抗体フラグメントの例には、Fv、単鎖Fv、Fab、F(ab’)またはFab’が含まれるが、これらに限定されない。抗体フラグメントは、完全な抗体から酵素的もしくは化学的に作製することができ、または、合成的に作製することができる。あるいは、抗体フラグメントは、抗体フラグメントの配列をコードするポリヌクレオチド配列から発現させることができる。
【0048】
本明細書中で使用される用語「Fv」は、非共有結合的相互作用によってつながれた、抗体分子の1つの可変軽鎖(V)ドメインおよび1つの可変重鎖(V)ドメインを含むポリペプチドを示す。Fvは抗体分子の抗原結合領域を含む。
【0049】
本明細書中で使用される表現「単鎖Fv」(scFv)は、VドメインおよびVドメインが好ましくはポリペプチドリンカーによってつながれているFvを示す。scFvは、完全な抗原結合部位を有する最小の抗体フラグメントである。
【0050】
本明細書中で使用される用語「Fab」は、抗体を酵素パパインで消化することによって得られるフラグメントと本質的には同等である抗体フラグメントを含むポリペプチドを示す。
【0051】
本明細書中で使用される用語「F(ab’)」は、抗体をpH4.0〜4.5において酵素ペプシンで消化することによって得られるフラグメントと本質的には同等である抗体フラグメントを含むポリペプチドを示す。
【0052】
本明細書中で使用される用語「Fab’」は、F(ab’)の2つの重鎖片をつなぐジスルフィド架橋の還元によって得られるフラグメントと本質的には同等である抗体フラグメントを含むポリペプチドを示す。
【0053】
Pgpと結合することができ、かつ、それによりMDR細胞における薬物排出活性を回避することができるいくつかのPgp特異的なモノクローナル抗体(Mab)が先行技術において記載されている[米国特許第4837306号、同第5766946号および同第6479639号;Meyers、M.B.他、Cancer Res.、49:3209(1987);O’Brien,J.P.他、Proc.Amer.Assoc.Cancer Res.、30:Abs2114(1989);Cinciarelli,C.他、Int.J.Cancer、47:533(1991);Hamada H.他、Cancer Res.PNAS、83:7785(1986);Pearson,J.W.他、J.Natl.Cancer Inst.、88:1386(1991);Tsuruo,T.他、Jpn.J.Cancer Res.、80:627(1989);Hamada H.他、Cancer Res.、50:3167(1990)]。それにもかかわらず、これまで、そのような抗Pgp Mabの実用的な治療的使用は、主に、その移動性および組織浸透を制限するこれらの分子の大きなサイズによって妨げられている[Yokota他、Cancer Res.、52:3402〜3408(1992)]。細胞浸透および移動性の制限に加えて、これらの大きなMab分子は、体循環から排出されることが遅く、結果として、標的以外の組織を潜在的には損傷し得る(12)。そのうえ、Pgpに対して大きな親和性を典型的には示すこれらのMabはまた、Pgpを生理学的に発現する正常な細胞に対しても毒性であり得る。
【0054】
これらの制限を回避する1つの方法は、抗体フラグメントを使用することである。好都合には、抗体フラグメントは、分子サイズが小さいにもかかわらず、Pgpに対する大きな特異性および中程度の親和性を有しており、従って、MDR細胞における薬物排出活性を阻害することにおいて非常に効率的であるにもかかわらず、上記の制限を有しない。
【0055】
モノクローナル抗体分子(Mab)の欠陥を克服するための抗体フラグメントの考えられる使用がSchodinおよびKranz[J.Biolog.Chem.、268:25722〜25727(1993)]によって例示されていた。モノクローナル抗体はT細胞の活性化をインビトロで効率的に阻害する一方で、モノクローナル抗体はまた、インビボで使用されたときには相当の望ましくない副作用を引き起こすことが見出されていた。これらの副作用は、Mabを小さいサイズのscFvで置き換えることによって効果的に回避された。
【0056】
米国特許第6479639号は、Pgp特異的なMab、および治療においてその一部分を使用することの可能性を開示する。米国特許第6479639号はさらに、抗体フラグメントを作製するために利用することができる、この分野で既知の酵素的技術、化学的技術および遺伝子操作技術を記載する。それにもかかわらず、この特許は、実際のMab由来フラグメントの何らかの例、またはそのようなフラグメントを作製するための具体的な方法論を提供していない。
【0057】
Pgpと特異的に結合することができ、かつ、細胞のMDR活性を調製することもできる抗体フラグメントがこの先行技術文書または何らかの他の先行技術文書に記載されていないという事実は、既存のMab配列から機能的な抗体フラグメントを作製することが慣用的でないことを示している。
【0058】
この指摘は、Nivおよび共同研究者(19)によって行われた最近の研究によって裏付けられる。この研究では、「9F11」と名付けられたPgp特異的なMab、およびこのMabに由来するscFvが作製され、特徴づけられた。両方の分子、すなわち、完全な9F11MabならびにそのscFv誘導体は、MDR細胞における細胞外Pgpを特異的に標的化した。しかしながら、9F11の完全な抗体はまたMDR細胞における薬物排出活性を阻害することができた一方で、そのscFv誘導体は阻害することができなかった(未発表データ)。
【0059】
従って、そのような抗体フラグメントがMDR細胞における薬物排出活性を阻害することにおいて活性であることを実際に明らかにすることなく、Mab配列を、それぞれの抗体フラグメントを作製するために利用することができるという米国特許第6479639号の単なる示唆は、成功が妥当な程度で保証され得ないので、そのような抗体フラグメント配列を作製するための動機付けを当業者に提供していない。
【0060】
本発明は、多剤耐性細胞における薬物排出活性を効果的に阻害することができる新規なPgp特異的な抗体フラグメントを提供する。
【0061】
従って、本発明の1つの態様によれば、P−糖タンパク質(Pgp)の細胞外部分と結合することができる抗原結合領域を含み、かつ、多剤耐性細胞における薬物排出活性を少なくとも部分的に阻害することもできる抗体フラグメントを提供する。
【0062】
好ましくは、本発明の抗体フラグメントは、ヒトmdr1遺伝子によって発現される170kDaのPgpに対して向けられる。このタンパク質のいくつかの領域が潜在的には標的化され得るが、本発明の抗体フラグメントは、好ましくは、ヒトmdr1遺伝子によって発現される170kDaのポリペプチドPgpの1番目の細胞外ループに存在するエピトープに対して向けられる。最も好ましくは、本発明の抗体フラグメントは配列番号1のアミノ酸配列に対して向けられる。
【0063】
本発明の抗体フラグメントは、下記の参考文献などに記載されるファージディスプレイ技術を使用して作製することができる:米国特許第5698426号、同第5658727号、同第5223409号、同第5403484号、同第5580717号、同第5427908号、同第5750753号、同第5821047号、同第5571698号、同第5427908号、同第5516637号、同第5780225号、同第5658727号、同第5733743号および同第5969108号;ならびにPCT国際特許出願番号PCT/GB91/01134;PCT国際特許出願公開WO90/02809、同WO91/10737、同WO92/01047、同WO92/18619、同WO93/11236、同WO95/15982、同WO95/20401;ならびにHoogenboom他、Immunotechnology、4:1〜20(1998);Brinkman他、J.Immunol.Methods、182:41〜50(1995);Ames他、J.Immunol.Methods、184:177〜186(1995);Kettleborough他、Eur.J.Immunol.、24:952〜958(1994);Persic他、Gene、187:9〜18(1997);Burton他、Advances in Immunology、57:191〜280(1994)。
【0064】
従って、標的抗原を、この分野で広く知られている免疫化プロトコルを使用して宿主動物を免疫化するために利用することができる。好ましくは、標的抗原はP−糖タンパク質(Pgp)に由来し、より好ましくは、標的抗原は、ヒトmdr1遺伝子によって発現される170kDaのPgpに由来する。最も好ましくは、標的抗原は170kDaのPgpの最初のループに由来し、配列番号1のアミノ酸配列を含む。
【0065】
免疫化後、B細胞のmRNAを、免疫化動物の脾臓、末梢血リンパ球、骨髄または扁桃から抽出することができる。その後、mRNAは、Hoogenboom他[Immunotechnology、4:1〜20(1998)]、Kand他[Proc.Natl.Acad.Sci.、88:4363(1991)]、Barbas他[Proc.Natl.Acad.Sci.、88:7978(1991)]、Garrard他[Biotechnology、9:1373〜1377(1991)]、Hoogenboom他[Nucleic Acids Res.、19:4133〜4137(1991)]、およびSharon他[Combinatorial Chemistry&High Throughput Screening、3:185〜196(2000)]によって記載される方法論などの方法論を使用して抗体フラグメントのファージディスプレイライブラリーを構築するために利用することができる。
【0066】
望ましい抗体結合特性を有する組換えファージを、過剰な非結合性クローンからの、特異的な標的と結合するファージの逐次濃縮によって選択することができる。この選択は、固定化された抗原に対するパンニング、特異的な溶出を使用するパンニング、ビオチン化された抗原を使用すること、カラムにおけるアフィニティー精製、または、細胞上での直接的なパンニングを含む、状況に応じて使用される数多くの技術によって達成することができる。好適な選択技術が、例えば、Pluckthum[The Pharmacology of Monoclonal Antibodies、第113巻:RosenburgおよびMoors編、Springer−Verlag、New York、269頁〜315頁(1994)]およびHoogenboom他[Immunotechnology、4:1〜20(1998)]によって記載される。
【0067】
選択後、非特異的な抗体フラグメントを有するファージを洗浄により除くことができ、そして、標的特異的な抗体フラグメントを有する結合したファージが溶出され、大腸菌の感染によって増幅される。標的特異的な抗体フラグメントを呈示する組換えファージが単離されると、抗体をコードするポリヌクレオチド配列をファージディスプレイパッケージから回収し、その後、Ausubel他編[Current Protocols in Molecular Cloning(1989)、Greene Publishing and Wiley Interscience、New York、NY]などによって記載されるこの分野で既知の標準的な方法を使用して組換え発現ベクターにクローン化することができる。
【0068】
上記に記載されるように作製された抗体フラグメントは、ELISA、放射免疫アッセイまたは免疫蛍光アッセイ(これらに限定されない)を含むこの分野で既知の任意の従来の免疫アッセイ技術によってPgpの特異性および親和性について特長づけすることができる。MDR細胞における薬物排出活性を阻害することに対する抗体フラグメントの影響を、目的とする薬物の細胞内蓄積または排出を抗体フラグメントの存在下または非存在下でモニターすることによって評価することができる。例えば、Cole他[Cancer Res.、54:5902〜5910(1994)]は、薬物および/またはトキシン(例えば、ドキソルビシン、ビンクリスチン、コルヒチン、VP−16、ビンブラスチン、ベラパミル、ミトキサントロン、タキソール、シクロスポリンA、キニジン、プロゲステロン、タモキシフェン、エピルビシン、ダウノルビシンおよびMX2など(これらに限定されない))の排出を評価するために使用することができる細胞蓄積アッセイおよび排出アッセイを記載する。さらなる好適な特性アッセイには、ドキソルビシンまたはダウノルビシンなどの薬物の蛍光特性を利用するフローサイトメーターアッセイまたは蛍光計アッセイ[米国特許第5556856号;Krishan、Math.Cell Biol.、33:491〜500(1990)]、あるいは、ローダミンまたはカルセインなどの蛍光色素に基づくフローサイトメーターアッセイまたは蛍光計アッセイ[米国特許第5403574号;Hollo他、Biochim.Biophys Acta、1191:384〜388(1994)]が含まれる。MDR細胞に対する増大する細胞毒性に対する抗体フラグメントの影響を、細胞毒素に対する一定期間の暴露の後、生体染色色素の細胞取り込みをモニターすることによって、例えば、米国特許第5543423号に記載される方法などによって;または、[H]ロイシンの取り込みの評価によって、例えば、下記の実施例の節の実施例3に記載される方法などによって評価することができる。
【0069】
下記の実施例の節の実施例1には、抗Pgp単鎖抗体フラグメント(scFv)の単離が記載される。
【0070】
簡単に記載すると、アミノ酸配列(配列番号1)を、コートタンパク質をコードする遺伝子に融合してf88糸状ファージにバッチクローン化した。その後、この分野で既知の標準的な方法を使用して標的抗原(配列番号1)に対する免疫応答を生じさせるために、組換えディスプレイファージを使用して、マウスを免疫化した。免疫化後、脾臓を免疫化マウスから取り出し、mRNAを脾臓のB細胞から抽出した。その後、単離されたmRNAを使用して、cDNAを、標準的なRT−PCR技術を使用して作製し、増幅した。RT−PCR後、増幅された配列を使用して、ファージディスプレイライブラリーを作製し、このファージディスプレイライブラリーを、標的抗原を使用してスクリーニングした。scFvをコードするポリヌクレオチド配列を、標準的な分子技術を使用して陽性のファージクローンから単離した。単離されたポリヌクレオチド配列(配列番号2)を原核生物発現ベクターにクローン化し、大腸菌において発現させた。その後、発現したscFvを、標準的な精製方法を使用してこれらの細胞のペリプラズム画分から精製した(scFvの発現および精製のさらなる記載が本明細書中下記に示される)。
【0071】
下記の実施例の節の実施例2および実施例3において例示されるように、本発明の教示に従って作製された新規な単鎖Fv(これは「A2」と称される)は、細胞外Pgpおよび多剤耐性細胞に対する結合の大きな特異性を示し、かつ、Pgpに対する中程度の結合親和性(約150nM)を示す比較的小さい分子(約30kDa)である。さらに、このscFvは、MDR細胞における薬物排出活性を効果的に阻害することができ、また、結果として、MDR細胞における薬物の細胞毒性を効果的に増大させることができる。
【0072】
本明細書中上記で述べられたように、本発明の抗Pgp scFvを合成するための好ましい方法は、scFvのコード配列を単離および発現することである。
【0073】
本明細書中で使用される用語「発現する(させる)」は、ポリペプチドへのポリヌクレオチド配列の変換を示す。
【0074】
従って、scFvポリペプチドをコードする単離されたポリヌクレオチド配列を適切な調節エレメントに連結して、核酸構築物を作製することができる。好ましくは、核酸構築物は、本発明のポリペプチドをコードする単離された核酸配列の転写を特定の宿主細胞において行わせるために好適な選択されたプロモーターを含む発現構築物(すなわち、発現ベクター)である。
【0075】
任意の好適なプロモーター配列を本発明の核酸構築物によって使用することができる。好ましくは、核酸構築物によって利用されるプロモーターは、形質転換されている特定の細胞において活性である。本発明の核酸構築物はさらに、プロモーター配列に対して隣接し得るか、または遠位に存在し得る、プロモーター配列からの転写を調節することができるエンハンサーを含むことができる。
【0076】
本発明の核酸構築物は、好ましくはさらに、適切な選択マーカーおよび/または複製起点を含む。好ましくは、利用される核酸構築物はシャトルベクターであり、この場合、シャトルベクターは大腸菌において増殖することができ(この場合、構築物は適切な選択マーカーおよび複製起点を含む)、かつ、細胞における増殖のために適合性を有し得る。本発明による構築物は、例えば、プラスミド、バクミド、ファージミド、コスミド、ファージ、ウイルスまたは人工染色体であり得る。
【0077】
様々な原核生物細胞または真核生物細胞を、ポリペプチドコード配列を発現させるための宿主−発現システムとして使用することができる。これらには、微生物、例えば、ポリペプチドコード配列を含有する組換えバクテリオファージDNA発現ベクター、プラスミドDNA発現ベクターまたはコスミドDNA発現ベクターで形質転換された細菌など;ポリペプチドコード配列を含有する組換え酵母発現ベクターで形質転換された酵母;ポリペプチドコード配列を含有する組換えウイルス発現ベクター(例えば、カリフラワーモザイクウイルス、CaMV;タバコモザイクウイルス、TMV)を感染させた植物細胞システム、または、ポリペプチドコード配列を含有する組換えプラスミド発現ベクター(例えば、Tiプラスミドなど)で形質転換された植物細胞システムが含まれるが、これらに限定されない。哺乳動物発現システムもまた、本発明のポリペプチドを発現させるために使用することができる。細菌システムは大きな製造量を低コストで可能にするので、細菌システムが好ましくは、組換えポリペプチドを作製するために使用される。
【0078】
細菌システムでは、数多くの発現ベクターを、発現されるポリペプチドについて意図される使用に依存して都合よく選択することができる。例えば、多量のポリペプチドが所望されるとき、おそらくは、疎水性のシグナル配列との融合体として、高レベルのタンパク質産物の発現を行わせるベクターが所望され得、これによりタンパク質産物が容易に精製される細菌のペリプラズムまたは培養培地に発現産物を向かわせることができる。ポリペプチドの回収を助けるために特異的な切断部位を有する操作されたある種の融合タンパク質もまた望ましい場合がある。そのような操作に適合し得るそのようなベクターには、大腸菌発現ベクターのpETシリーズ[Studier他、Methods in Enzymol、185:60〜89(1990)]が含まれるが、これに限定されない。
【0079】
酵母では、米国特許第5932447号に開示されるように、構成的または誘導可能なプロモーターを含有する数多くのベクターを使用することができる。あるいは、酵母染色体への外来DNA配列の組込みを促進するベクターを使用することができる。
【0080】
植物発現ベクターが使用される場合、ポリペプチドコード配列の発現が数多くのプロモーターによって駆動され得る。例えば、ウイルスプロモーター(例えば、CaMVの35S RNAプロモーターおよび19S RNAプロモーター[Brisson他、Nature、310:511〜514(1984)]、またはTMVのコートタンパク質プロモーター[Takamatsu他、EMBO J、6:307〜311(1987)]など)を使用することができる。あるいは、植物プロモーターを使用することができる(例えば、RUBISCOの小サブユニット[Coruzzi他、EMBO J.、3:1671〜1680(1984);Brogli他、Science、224:838〜843(1984)]、または熱ショックプロモーター(例えば、ダイズのhsp17.5−Eもしくはhsp17.3−B[Gurley他、Mol.Cell.Biol.、6:559〜565(1986)])など)。これらの構築物は、Tiプラスミド、Riプラスミド、植物ウイルスベクター、直接的なDNA形質転換、マイクロインジェクション、エレクトロポレーション、および、当業者に広く知られている他の技術を使用して植物細胞に導入することができる。例えば、Weissbach&Weissbach[Methods for Plant Molecular Biology、Academic Press、NY、セクションVIII、421頁〜463頁(1988)]を参照のこと。この分野で広く知られている他の発現システム(例えば、昆虫および哺乳動物宿主細胞システムなど)もまた本発明によって使用することができる。
【0081】
挿入されたコード配列(ポリペプチドをコードする)の転写および翻訳のための必要なエレメントを含有する以外に、本発明の発現構築物はまた、発現ポリペプチドの安定性、産生、精製、収量または活性を最適化するために操作された配列を含む得ることが理解される。
【0082】
形質転換された細胞は、大量の組換えポリペプチドの発現を可能にする効果的な条件のもとで培養される。効果的な培養条件には、タンパク質の産生を可能にする効果的な培地、バイオリアクター、温度、pHおよび酸素条件が含まれるが、これらに限定されない。効果的な培地は、細胞が、本発明の組換えポリペプチドを産生するために培養される任意の培地を示す。そのような培地には、典型的には、資化可能な炭素源、窒素源およびリン酸塩源、ならびに適切な塩、ミネラル、金属および他の栄養分(例えばビタミンなど)を有する水溶液が含まれる。本発明の細胞は、従来の発酵バイオリアクター、振とうフラスコ、試験管、マイクロタイターディッシュおよびペトリプレートにおいて培養することができる。培養は、組換え細胞について適切な温度、pHおよび酸素含有量で行われる。そのような培養条件は当業者の専門的知識の範囲内である。
【0083】
産生のために使用されたベクターおよび宿主のシステムに依存して、本発明の得られるポリペプチドは、組換え細胞の内部に留まり得るか、または発酵培地に分泌され得るか、または2つの細胞膜の間の空間(例えば、大腸菌におけるペリプラズム空間など)に分泌され得るか、または細胞膜もしくはウイルス膜の外側表面に保持され得る。
【0084】
培養における所定の時間の後、組換えポリペプチドの回収が行われる。
【0085】
本明細書中で使用される表現「組換えポリペプチドを回収すること」は、ポリペプチドを含有する全発酵培地を集めることを示し、分離または精製のさらなる工程を含む必要はない。
【0086】
従って、本発明のポリペプチドは、アフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、ろ過、電気泳動、疎水性相互作用クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、コンカナバリンAクロマトグラフィー、クロマトフォーカシングおよび示差的可溶化などの様々な標準的なタンパク質精製技術を使用して精製することができる。
【0087】
回収を容易にするために、発現されるコード配列は、本発明のポリペプチドと、融合された切断可能な成分とをコードするために操作することができる。そのような融合タンパク質は、ポリペプチドがアフィニティークロマトグラフィーによって、例えば、切断可能な成分について特異的なカラムにおける固定化によって容易に単離され得るように設計することができる。切断部位が、ポリペプチドと、切断可能な成分との間で操作される場合、ポリペプチドは、融合タンパク質をこの部位において特異的に切断する適切な酵素または薬剤による処理によってクロマトグラフィーカラムから遊離させることができる[例えば、Booth他、Immunol.Lett.、19:65〜70(1988);Gardella他、J.Biol.Chem.、265:15854〜15859(1990)を参照のこと]。
【0088】
本発明のポリペプチドは好ましくは、「実質的に純粋な」形態で回収することができる。
【0089】
本明細書中で使用される表現「実質的に純粋な」は、本明細書中に記載される適用におけるタンパク質の効果的な使用を可能にする純度を示す。
【0090】
宿主細胞において合成可能であることに加えて、本発明のポリペプチドはまた、インビトロ発現システムを使用して合成することができる。これらの方法はこの分野では広く知られており、そのようなシステムの成分が市販されている。
【0091】
さらにあるいは、本発明のポリペプチドはまた、例えば、標準的な固相技術を使用して合成することができる。そのような技術には、完全な固相合成、部分的な固相合成法、フラグメント縮合、古典的な溶液合成が含まれ、また、組換えDNA技術による方法さえも含まれ、これらは、例えば、Merrifield,J.[Am.Chem.Soc.、85:2149(1963)]などによって記載される。固相ポリペプチド合成手法はこの分野では広く知られており、John Morrow StewartおよびJanis Dillaha Young[Solid Phase Peptide Syntheses、第2版、Pierce Chemical Company(1984)]によってさらに記載される。
【0092】
合成ポリペプチドは、Creighton T.[Proteins,structures and molecular principles、W.H.Freeman and Co.、N.Y.(1983)]などによって記載される調製用高速液体クロマトグラフィー手法によって精製することができ、また、その組成をアミノ酸配列決定によって確認することができる。
【0093】
本発明の抗体フラグメントはPgp特異的であるので、多剤耐性(MDR)細胞を検出するために使用することができる。MDRの重要な機構はPgpの過剰発現であり、明らかな相関が、Pgpの過剰発現と、ガン患者の化学療法に対する応答の喪失との間において明らかにされていた(6、7)。従って、化学療法が効果的に適用されないならば、相当の損傷が、より効果的な別の治療を提供する機会が失われたことと合わせて、標的以外の毒性から生じ得る。従って、ガン患者におけるMDR細胞の正確で、特異的かつ確実な診断は、選択肢を決定し、施すべき最も適切な治療を選択するための非常に有用な臨床的手段である。
【0094】
従って、本発明の別の態様によれば、多剤耐性細胞を検出するための方法が提供される。この方法は、細胞を本発明の抗体フラグメントにさらし、その後、Pgpを過剰発現する細胞に結合した板抗体フラグメントを検出し、それにより、多剤耐性細胞を検出することを含む。好ましくは、抗体フラグメントは、この分野で既知の標準的な免疫アッセイ(例えば、ELISA、免疫蛍光、放射免疫アッセイおよび免疫組織化学的染色など)を使用して検出することができる検出可能な成分(下記に記載される)で標識される。
【0095】
最初に、MDR細胞であることが疑われる細胞を含有する生物学的サンプル(例えば、腫瘍細胞など)が、エクスビボ分析のために個体から得られる。サンプリングされた細胞が分解することを防ぐために、細胞は、分析されるまで、−20℃未満の温度で保存することができる。分析時に、細胞は抗体フラグメントにさらされ、抗体−細胞の結合が、この分野で既知の従来のインビトロ免疫アッセイ技術のいずれかを使用して明らかにされる。例えば、腫瘍切片を顕微鏡スライドガラスにおいて本発明の抗体フラグメントにさらすことができ、標準的な免疫組織化学的技術を使用して分析することができる。
【0096】
多剤耐性細胞を有することが疑われる個体(例えば、ガン患者など)の細胞はまた、インビボで抗体フラグメントにさらすことができる。そのような場合、抗体フラグメントは、標準的な技術を使用して放射活性成分(例えば、H、35S、14C、32Pまたは125Iなど)の検出可能な成分で標識され、標識された抗体フラグメントが、Pgpを過剰発現する細胞を有することが疑われる個体に、好ましくは非経口投与により投与される。所定の期間の後、宿主細胞における放射能レベルの変化が、シンチレーション計数、オートラジオグラフィーまたは画像化技術を使用して評価される。
【0097】
本明細書中上記に記載される方法論は好ましくは、検出キットを使用して実施される。そのようなキットは、検出可能な成分(例えば、発色成分(例えば、ビオチン)、蛍光発生成分(例えば、フルオレセイン)、発光成分(例えば、ルミノール)または放射活性成分(例えば、125I)など)で好ましくは標識される本発明の抗体フラグメントを含む。キットはまた、容器に詰められ、また、多剤耐性細胞を診断する際の使用のために包装物上または包装物内において印刷されて特定される検出可能な成分を検出するために好適な試薬を含む。抗体をそのような検出可能な成分で標識するための手法が、例えば、“Using Antibodies:A Laboratory Manual”[Ed Harlow、David Lane編、Cold Spring Harbor Laboratory Press(1999)]に記載されており、また、そのような標識された抗体の検出を、この分野で広く知られている標準的な免疫アッセイ手法を使用して達成することができる。
【0098】
下記の実施例の節において例示されるように、本発明の抗Pgp抗体フラグメントは、特に下記の属性のために、多剤耐性(MDR)細胞における薬物排出活性の阻害剤としての使用のために非常に好適である:(i)本発明の抗Pgp抗体フラグメントは比較的小さい分子サイズを有しており、それにより、標的以外の細胞との所望されない相互作用を最小限に抑える体液における短い循環だけでなく、標的細胞への改善された移動性および送達をもたらす;(ii)本発明の抗Pgp抗体フラグメントは、標的以外の細胞との相互作用をさらに最小限に抑える、Pgpに対する中程度の親和性を有する;そして(iii)本発明の抗Pgp抗体フラグメントはエクスビボおよびインビボで発現させることができる。
【0099】
従って、本発明の抗体フラグメントは、多剤耐性ガン細胞を有する個体の化学療法を実質的に改善するために効果的に使用することができる。
【0100】
従って、本発明の別の態様によれば、個体におけるガンを治療する方法が提供され、この方法は、ガンを有する個体に本発明の抗体フラグメントを与えること、および、治療効果的な量の抗ガン剤(好ましくは、ガン細胞に対して細胞傷害性である薬剤)を個体に投与することを含む。抗ガン薬物は、抗体フラグメントを与える前に、または抗体フラグメントを与えるのと同時に、または抗体フラグメントを与えた後に投与することができる。好ましくは、抗体フラグメントは、抗ガン剤を投与するよりも前に、十分に、患者に与えられ、その結果、抗体フラグメントが、MDR細胞を含有する個体の腫瘍に浸透し、MDR細胞と結合し、かつ、そのような細胞の薬物排出能力を損なうことを可能にするようにされる。必要とされる時間間隔は、日常的な薬物動態学的方法によって決定することができ、個体の年齢、体重および身体の大きさ、ならびに、標的のMDR細胞を含有する腫瘍の存在位置および状態とともに変化することを予想しなければならない。
【0101】
表現「抗ガン剤」および表現「化学療法薬物」は本明細書中では交換可能に使用され、ガンを治療するために使用することができる薬物を示す。
【0102】
本明細書中で使用される用語「治療する」は、ガンなどの疾患の進行を実質的に阻害するか、または実質的に遅くするか、または実質的に逆転させることを示す。
【0103】
抗体フラグメントは、抗体フラグメントを個体に対して直接的に投与することによって与えることができ、あるいは、抗体フラグメントを個体の細胞の内部において発現させることによって与えることができる。
【0104】
直接的に投与されるとき、抗体フラグメントは好ましくは、非経口的に導入される。抗体フラグメントは、静脈内投与、腹腔内投与、腹膜後投与、槽内投与、筋肉内投与、皮下投与、局所投与、眼窩内投与、鼻腔内投与、または吸入によって投与することができる。1回または複数回の投薬を、標的のMDR細胞に結合した抗体フラグメントの十分なレベルを達成し、その結果、化学療法によって根絶されるべきMDR細胞における薬物排出活性の効果的な阻害をもたらすようにするために、適するように施すことができる。抗体フラグメントおよび抗ガン剤による治療のための投薬量および投与の全体的なプロトコルは、日常的な臨床技術の適用により臨床医によって設計および最適化することができる。
【0105】
本発明の抗体フラグメントはまた、個体の細胞において発現させることによって与えることができる。好ましくは、発現している抗体フラグメントは単鎖Fv(scFv)である。さらに好ましくは、抗体フラグメントは、MDRガン細胞(これに限定されない)など標的細胞において、または、MDRガン細胞を取り囲む細胞(例えば、非MDR腫瘍細胞)において、または、MDRガン細胞に到達している造血系細胞において選択的に発現させられている。ヒト細胞における抗体フラグメントの発現は、一過性または安定的な形質転換および発現を可能にする様式で本発明のポリヌクレオチド配列を標的細胞に導入することによって行うことができる。
【0106】
標的細胞への本発明のポリヌクレオチド配列の導入はエクスビボまたはインビボのいずれでも達成することができる。エクスビボ方法では、細胞が個体から取り出され、培養されながら本発明のポリヌクレオチド配列で形質転換される。形質転換された細胞が培養でさらに拡大され、その後、個体に戻される。エクスビボ方法は、自家骨髄移植と一緒での使用のために非常に好適である。そのような手法では、骨髄細胞ガン患者の身体から取り出され、造血幹細胞が濃縮され、患者は徹底的な化学療法で治療され、そして最後に、造血細胞の再生を可能にするために、培養された幹細胞が患者に再移植される。
【0107】
そのような手法では、化学療法は、多くの場合、多剤耐性(MDR)細胞が生存するために、すべてのガン細胞を根絶させることができない。そのような徹底的な化学療法の後でのガンの再発は、身体が劇的に免疫抑制されているときには、非常に壊滅的である。自家骨髄移植と一緒での本発明の方法の使用は、MDR活性を阻害することができ、かつ、ガン再発の可能性を実質的に低下させることができる。
【0108】
抗体フラグメントをコードする配列を、身体から取り出された造血幹細胞に導入し、続いて、これらの細胞からインビボで発現および分泌させ、それにより、MDRガン細胞を標的化し、かつ、化学療法の効力を実質的に改善することができる。
【0109】
インビボ方法では、ポリヌクレオチドが個体内の標的細胞に対して直接的に導入される。本発明のポリヌクレオチドは、この分野で既知の様々な方法のいずれかによって細胞に導入することができる。様々なそのような方法を見出すことができ、一般的には、Sambrook他[Molecular Cloning:A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory、New York(1989、1992)]、Ausubel他[Current Protocols in Molecular Biology、John Wiley and Sons、Baltimore、Maryland(1989)]、Chang他[Somatic Gene Therapy、CRC Press、Ann Arbor、MI(1995)]、Vega他[Gene Targeting、CRC Press、Ann Arbor、MI(1995)]、Vectors[A Survey of Molecular Cloning Vectors and Their Uses、Butterworths、Boston、MA(1988)]、およびGilboa他[Biotechniques、4(6):504〜512(1986)]に記載され、そのような方法には、例えば、組換えウイルスベクターを用いた安定的または一過性のトランスフェクション、リポフェクション、エレクトロポレーションおよび感染が含まれる。加えて、中枢神経系を伴うベクターについては米国特許第4866042号を参照のこと。また、相同組換えを誘導するための陽性・陰性の選択方法については米国特許第5464764号および同第5487992号を参照のこと。
【0110】
本発明の抗体フラグメントをコードするポリヌクレオチドを個体の細胞に導入するための好ましい方法は、ウイルスベクターを使用することによる方法である。ウイルスベクターはいくつかの利点を提供しており、そのような利点には、形質転換のより大きい効率、ならびに、特定の細胞タイプに対する標的化および特定の細胞タイプにおける増殖が含まれる。ウイルスベクターはまた、特異的な細胞受容体(例えば、ガン細胞受容体など)を介して標的特異性を変化させるために、特異的な受容体またはリガンドを用いて改変することができる。
【0111】
レトロウイルスベクターは、本発明とともに使用される好適なベクターの1つのクラスを表す。欠陥レトロウイルスが哺乳動物細胞への遺伝子の移入のために日常的に使用されている(総説については、Miller,A.D.、Blood、76:271(1990)を参照のこと)。本発明の抗体フラグメントをコードするポリヌクレオチドを含む組換えレトロウイルスを、広く知られている分子技術を使用して構築することができる。レトロウイルスのゲノムの一部分を取り除いて、レトロウイルスを複製欠陥にすることができ、その後、複製欠陥レトロウイルスをビリオンにパッケージングすることができ、このビリオンを使用して、ヘルパーウイルスの使用によって、また、標準的な技術を用いながら標的細胞に感染させることができる。組換えレトロウイルスを作製するためのプロトコル、およびそのようなウイルスをインビトロまたはインビボで細胞に感染させるためのプロトコルを、例えば、Ausubel他編[Current Protocols in Molecular Biology、Greene Publishing Associates(1989)]に見出すことができる。様々なレトロウイルスが、上皮細胞、内皮細胞、リンパ球、筋芽細胞、肝細胞および骨髄細胞を含む多くの異なる細胞タイプに様々な遺伝子を導入するために使用されている。
【0112】
別の好適な発現ベクターはアデノウイルスベクターであり得る。アデノウイルスは、広範囲に研究され、かつ、日常的に使用されている遺伝子移入ベクターである。アデノウイルスベクターの重要な利点には、分裂中の細胞および休止細胞の比較的大きい形質導入効率、広範囲の様々な上皮組織に対する自然の親和性、ならびに、高力価物の容易な製造が含まれる[Russel,W.C.[J.Gen.Virol.、81:57〜63(2000)]。アデノウイルスのDNAは核に輸送されるが、核には組み込まれない。従って、アデノウイルスベクターによる変異誘発の危険性は最小限であり、一方、短期間の発現は、多剤耐性ガン細胞などのガン細胞を治療するために特に好適である。実験的なガン治療において使用される様々なアデノウイルスベクターがSeth他[ガン遺伝子治療のためのアデノウイルスベクター、P.Seth(編)、Adenoviruses:Basic biology to Gene Therapy、Landes、Austin、TX(1999)、103頁〜120頁]によって記載される。
【0113】
好適なウイルス発現ベクターはまた、レトロウイルスの成分およびアデノウイルスの成分を併せ持つキメラなアデノウイルス/レトロウイルスベクターであり得る。腫瘍細胞を形質導入するためにそのようなベクターを使用する予備的な結果は、この新しいタイプのウイルス発現ベクターが従来の発現ベクターよりも効率的であることを示唆している[Pan他、Cancer Letters、184:179〜188(2002)]。
【0114】
個体において本発明のポリヌクレオチド配列を導入および発現するための好適なウイルスベクターの具体的な例が、アデノウイルスに由来するベクターのAd−TKである。このベクターは、正または負のいずれかの選択のためにヘルペスウイルスのチミジンキナーゼ(TK)遺伝子を発現し、かつ、所望の組換え配列のための発現カセットを含む。このベクターは、上皮起源のほとんどのガンが含むアデノウイルス受容体を有する細胞に感染させるために使用することができる[Sandmair他[Hum.Gene.Ther.、11:2197〜2205(2000)]。
【0115】
特定の細胞タイプに発現を制限する特徴もまた含めることができる。そのような特徴には、例えば、所望の細胞タイプについて特異的であるプロモーターおよび調節エレメントが含まれる。ウイルスベクターはまた、抗体フラグメントを細胞の外側に分泌させるためのシグナルをコードするヌクレオチド配列を含むことができる。分泌シグナルは一般には、疎水性アミノ酸の短い配列(7残基〜20残基)を含有する。本発明における使用のための様々な好適な分泌シグナルを広範囲に利用することができ、それらはこの分野では広く知られている(例えば、von Heijne[J.Mol.Biol.、184:99〜105(1985)]およびLej他[J.Bacteriol.、169:4379(1987)]を参照のこと)。
【0116】
組換えベクターをいくつかの方法で投与することができる。ウイルスベクターが使用される場合、その手法はその標的特異性を利用することができ、従って、そのようなベクターは腫瘍部位において局所的に投与する必要はない。しかしながら、局所的投与は、より迅速で、より効果的な治療をもたらし得る。ウイルスベクターの投与はまた、例えば、対象への静脈内注射または皮下注射によって行うことができる。注射後、ウイルスベクターは、感染のための適切な標的特異性により宿主細胞を認識するまで循環する。
【0117】
本発明の抗体フラグメント、または、本発明の抗体フラグメントをコードするポリヌクレオチドは、それ自体で、または、好適なキャリアもまた含む医薬組成物の有効成分として個体に与えることができる。
【0118】
本発明の医薬組成物はさらに、化学療法薬物、好ましくは、ガン細胞に対して毒性である化学療法薬物、例えば、ドキソルビシン、ビンクリスチン、コルヒチン、VP−16、ビンブラスチン、ベラパミル、ミトキサントロン、タキソール、シクロスポリンA、キニジン、プロゲステロン、タモキシフェン、エピルビシン、ダウノルビシンおよびMX2など(これらに限定されない)を含むことができる。
【0119】
医薬組成物は、局所的な治療または全身的な治療のいずれかが好まれるかに依存して、また、治療される領域に依存して、様々な方法の1つまたは複数のいずれでも投与することができる。投与は、局所的(眼、膣、直腸、鼻腔内を含む)に、経口的に、吸入により、または非経口的に、例えば、静脈内滴注、腹腔内注射、皮下注射、筋肉内注射または静脈内注射によって行うことができる。好ましくは、医薬組成物は非経口投与される。
【0120】
非経口投与される医薬組成物には、水溶性形態での活性な調製物の水溶液が含まれる。また、抗体フラグメントの懸濁物を適切な油性の注射用懸濁物として調製することができる。好適な親油性の溶媒またはビヒクルには、脂肪油(例えば、ゴマ油など)、または合成脂肪酸エステル(例えば、オレイン酸エチルなど)、トリグリセリドまたはリポソームが含まれる。水性の注射用懸濁物は、懸濁物の粘度を増大させる物質、例えば、ナトリウムカルボキシルメチルセルロース、ソルビトールまたはデキストランなどを含有することができる。場合により、懸濁物はまた、高濃度溶液の調製を可能にするために抗体フラグメントの溶解性を増大させる好適な安定化剤または薬剤を含有することができる。
【0121】
本発明の組成物は、所望される場合には、有効成分を含有する1つ以上の単位投薬形態物を含有し得るパックまたはディスペンサーデバイス(例えば、FDA承認キットなど)で提供され得る。パックは、例えば、金属箔またはプラスチック箔を含むことができ、例えば、ブリスターパックなどである。パックまたはディスペンサーデバイスには、投与のための説明書が添付され得る。パックまたはディスペンサーにはまた、医薬品の製造、使用または販売を規制する政府当局により定められた形式で容器に付けられた通知が伴いことがあり、この場合、そのような通知は、組成物の形態またはヒトもしくは動物への投与の当局による承認を反映する。そのような通知は、例えば、処方薬物についての米国食品医薬品局によって承認されたラベル書きであり得るか、または承認された製品添付文書であり得る。適合し得る医薬用キャリアに配合された本発明の調製物を含む組成物はまた、さらには上記において詳述されているかのように、適応される状態を治療するために、調製され、適切な容器に入れられ、かつ表示され得る。
【0122】
本発明のいくつかの特徴は、明確化のために別個の実施形態に関連して記載されているが、1つだけの実施形態における組合せでもまた提供され得ることが理解される。逆に、本発明の様々な特徴は、簡略化のために1つだけの実施形態に関連して記載されているが、別個にでもまた提供され得るか、または、任意の好適な部分的組合せでもまた提供され得る。
【0123】
本発明の追加の目的、利点及び新規な特徴は、下記実施例を考察すれば、当業技術者には明らかになるであろう。なおこれら実施例は本発明を限定するものではない。さらに、先に詳述されかつ本願の特許請求の範囲の項に特許請求されている本発明の各種実施態様と側面は各々、下記実施例の実験によって支持されている。
【実施例】
【0124】
上記説明とともに、以下の実施例を参照して本発明を例示する。なおこれら実施例によって本発明は限定されない。
【0125】
本願で使用される用語と、本発明で利用される実験方法には、分子生化学、微生物学及び組み換えDNAの技法が広く含まれている。これらの技法は文献に詳細に説明されている[例えば以下の諸文献を参照されたい。「Molecular Cloning:A laboratory Manual」Sambrookら1989年;Ausubel, R.M.編1994年「Current Protocols in Molecular Biology」I〜III巻;Ausubelら著1989年「Current Protocols in Molecular Biology」John Wiley and Sons,米国メリーランド州バルチモア;Perbal著「A Practical Guide to Molecular Cloning」John Wiley & Sons,米国ニューヨーク1988年;Watsonら、「Recombinant DNA」Scientific American Books、米国ニューヨーク;Birrenら編「Genome Analysis:A Laboratory Manual Series」1〜4巻、Cold Spring Harbor Laboratory Press、米国ニューヨーク1998年;米国特許の4666828号、4683202号、4801531号、5192659号及び5272057号に記載される方法;Cellis, J.E.編「Cell Biology:A Laboratory Handbook」I〜III巻1994年;Coligan, J.E.編「Current Protocols in Immunology」I〜III巻1994年;Stitesら編「Basic and Clinical Immunology」(第8版)、Appleton & Lange、米国コネティカット州ノーウォーク1994年;MishellとShiigi編「Selected Methods in Cellular Immunology」、W.H. Freeman and Co.、米国ニューヨーク1980年;また利用可能な免疫検定法は、例えば以下の特許と科学文献に広範囲にわたって記載されている。米国特許の3791932号、3839153号、3850752号、3850578号、3853987号、3867517号、3879262号、3901654号、3935074号、3984533号、3996345号、4034074号、4098876号、4879219号、5011771号及び5281521号;Gait,M.J.編「Oligonucleotide Synthesis」1984年;Hames, B.D.及びHiggins S.J.編「Nucleic Acid Hybridization」1985年;Hames,B.D.及びHiggins S.J.編「Transcription and Translation」1984年;Freshney, R.I.編「Animal Cell Culture」1986年;「Immobilized Cells and Enzymes」IRL Press 1986年;Perbal, B.著「A Practical Guide to Molecular Cloning」1984年及び「Methods in Enzymology」1〜317巻、Academic Press;「PCR Protocols:A Guide To Methods And Applications」、Academic Press、米国カリフォルニア州サンディエゴ1990年;Marshakら、「Strategies for Protein Purification and Characterization−A Laboratory Course Manual」、CSHL Press、1996年;なおこれらの文献類は、あたかも本願に完全に記載されているように援用するものである]。その外の一般的な文献は、本明細書を通じて提供される。本明細書に記載の方法は当業技術界で周知であると考えられ、読者の便宜のために提供される。本明細書に含まれるすべての情報は本願に援用するものである。
【0126】
(実施例1)
A2単鎖Fvの単離
免疫化のためのペプチドディスプレイ構築物の作製:
ヒトP−糖タンパク質(Pgp、GenBankアクセッション番号NM000927.2)の1番目の推定される細胞外ループのアミノ酸73〜85に対応するペプチド配列GEMTDIFANAGNL(配列番号1)を、Niv他(19)によって記載されるように合成した。このアミノ酸配列を呈示する組換えファージを、FrenkelおよびSolomon(17)によって記載されるように、繊維状バクテリオファージf88のHinDIIIおよびPstIのクローニング部位を使用して作製した。組換え繊維状バクテリオファージf88を使用して、14日間隔で、1回の注射につきPBSでの1011ファージユニットの3回の腹腔内注射でマウスを免疫化した。免疫化マウスから集められた血清サンプルを、このペプチドとの免疫反応性についてELISAによって調べた。標的ペプチドに対する特異的な免疫応答を示したマウスを選択して、単鎖Fv(scFv)ファージディスプレイライブラリーを構築した。
【0127】
scFvライブラリーの構築およびスクリーニング:
scFvファージディスプレイライブラリーを、Clackson他[Nature、352:624〜628(1991)]によって記載される手法に従って、上記に記載されるファージ免疫化マウスの脾臓細胞から抽出されたRNAを使用して作製した。簡単に記載すると、免疫グロブリンの重鎖可変ドメイン(VH)および軽鎖可変ドメイン(VL)に対応するポリヌクレオチド配列を、縮重プライマーの特定のセットを使用して、RT−PCRによって免疫化マウスの脾臓B細胞のmRNAから増幅した。VHおよびVLのPCRプールをPCR重複伸長反応によって単鎖Fvレパートリーに組み立て、続いてSfiI−NotIフラグメントとしてpCANTAB6ファージミドベクターにクローン化した。ライブラリーの複雑性は1x10個の独立したクローンであった。パンニングのために、ライブラリーを最初に、ストレプトアビジンでコーティングされた磁石ビーズとのインキュベーションによってストレプトアビジン結合物質の枯渇処理に供した。その後、配列番号1のアミノ酸配列を含むビオチン化ペプチド(1μM)を1011cfuの枯渇化ライブラリーと(1時間、室温で)インキュベーションし、その後、ストレプトアビジンでコーティングされた磁石ビーズを加えた。結合したファージを、室温で5分間、1mlのトリエチルアミン(100mM、pH12)を使用することによって溶出し、その後、0.1mlの1M Tris−HCl(pH7.4)で中和した。溶出されたファージを指数増殖中の大腸菌TG1細胞において拡大し、その後、大腸菌TG1細胞に、Hoogenboom他(16)によって記載されるように、M13KO7ヘルパーファージを重複感染させた。
【0128】
下記の表1に例示されるように、配列番号1のペプチドと結合するファージの累進的かつ著しい濃縮が3回のパンニングの後で観測された。3回目のパンニングの後で分析された84個のうちの20個のファージクローンは、このペプチドに対する結合活性を示した(データ示さず)。10個のペプチド特異的なクローンの多切断酵素での制限酵素消化によるフィンガープリント分析により、これらは、類似した消化パターンを有することが明らかにされた。これは、すべてが類似しているか、または同一であることを示唆している(データ示さず)。これらのクローンから得られたVHドメインおよびVLドメインのDNA配列決定により、すべてが同一であることが明らかにされた。これは、これらはすべて、VH/VLの組合せ事象のときの1つだけの生産的抗体に由来したことを示唆している。配列分析、および、Kabbatデータベースとの比較により、A2のVHドメインはマウス重鎖のサブグループIIに属し、VLドメインは軽鎖のマウスκIIサブグループに属することが明らかにされた。これらのVHドメインおよびVLドメインから構築されたscFvの核酸配列が配列番号2に示される。

【0129】
可溶性の組換えscFvの発現および精製:
A2scFv配列(配列番号2)をPCRによってファージクローンから回収し、SfiI−NotIクローニング部位を使用してファージミドベクターpCANTAB6にサブクローン化した。Mycタグ(配列番号3)およびヘキサヒスチジンタグをscFv遺伝子のC末端に融合した。scFv抗体をBL21(λDE3)細胞において発現させ、そして、C末端に融合されたヘキサヒスチジンタグを使用して、金属イオンアフィニティークロマトグラフィーによってペリプラズム画分から精製した。精製されたA2scFvのSDS−PAGE分析が図1aに示される。
【0130】
(実施例2)
A2scFvの特異性および結合特性
A2scFv抗体の分子プロフィルをサイズ排除クロマトグラフィーによって分析し、約30kDaの予想分子量を有するモノマー形態での単一タンパク質ピークが明らかにされた(データ示さず)。A2scFvの収率は約2%であった(1リットルの培養において2mgの高純度タンパク質)。
【0131】
精製されたA2scFv抗体の結合特異性をELISAによって明らかにした。配列番号1のアミノ酸配列を有するビオチン化された標的ペプチド、または非標的MRP1コントロールペプチド(100μlあたり10μgで提供される)をそれぞれ、BSA−ビオチン−ストレプトアビジンを使用して柔軟なマイクロタイタープレートに固定化した。その後、精製A2scFvを種々の濃度でペプチドコーティングプレートに加えて、抗Mycタグ−HRPコンジュゲート抗体を用いて検出した。
【0132】
図1bに示されるELISA結果は、A2scFv抗体が標的のPgp由来ペプチド(配列番号1)と陽性に反応し、かつ用量依存的な様式で反応したことを示している。比較により、A2scFvは非標的のMRP1コントロールペプチドとは反応しなかった。
【0133】
A2scFvの結合特性を、飽和ELISAを使用してさらに特徴づけた。この実験では、ビオチン化されたPgp由来ペプチド(配列番号1)を、BSA−ビオチンで事前にコーティングされたプレートに結合させ、増大する量のA2scFvにさらした。図1cに図示されるELISA結果は、標的ペプチドに対するA2scFvの結合が用量依存的であり、かつ飽和可能であったことを示している。最大結合の50%のために必要なA2scFvの量を内挿することによって、親和性定数が150nMにおいて見積もられた。これは中程度の親和性を示している。
【0134】
競合結合放射免疫アッセイにおいて、精製A2scFv(100μg)を最初に、Bolton−Hunter試薬を使用して[125I]で標識した。[125I]標識されたA2scFv抗体を、上記に記載されるように、BSA−ビオチンおよび標的ペプチド(配列番号1)で事前にコーティングされた柔軟なマイクロタイタープレートにトレーサー(3〜5x10cpm/ウエル)として加えた。その後、標識されていない(すなわち、コールド)A2scFvを、事前にコーティングされたプレートに増大する濃度で競合剤として加えた。プレートを室温で1時間インキュベーションし、その後、洗浄し、ガンマカウンターによって分析した。図1dに図示される放射免疫アッセイ結果は、標的のPgp由来ペプチド(配列番号1のアミノ酸配列を有する)に対する[125I]標識A2scFv抗体の結合が用量依存的であったことを示している。最大結合の50%のために必要な競合剤(コールド)A2scFvの量を内挿することによって、親和性定数が130nMにおいて見積もられた。これは中程度の親和性を示している。
【0135】
別の一連の実験において、MDR細胞の表面に発現したPgpに対するA2scFvの反応性および特性を評価した。これらの実験では、安定なPgp依存性のMDR表現型を呈示するヒトガン腫細胞株、ならびに、それらのそれぞれの薬物感受性の親細胞を利用した。これらの実験で使用されたMDR細胞株および薬物感受性細胞株が下記の表2に記載される。

【0136】
薬物感受性細胞およびMDR細胞(5x10個)をPBSで洗浄し、RPMI−1640培地(GIBCO)に再懸濁した。6ウエル組織培養プレートで成長している細胞を2回洗浄し、その後、可溶性の精製されたA2scFv(50μg/ml)と氷上で90分間インキュベーションした。検出を、抗Myc(30μ/ml)およびFITC標識された抗マウスIgG(1:1000、Jackson)を用いて行った。蛍光性細胞の検出をFACScalibur(Becton Dickinson)において行った。
【0137】
図2a〜図2dは競合的免疫蛍光フローサイトメーター分析を明らかにしており、A2scFvと、MDR細胞株の1780ADR(図2b)およびKBV−1との強い反応性を例示し、その一方で、反応性が薬物感受性細胞株の2780(図2a)およびKB3−1(図2c)に関しては観測されなかったことを例示している。
【0138】
MDRの、Pgpを過剰発現する細胞に対するA2scFv抗体の特異性および反応性が競合的免疫組織化学分析によってさらに明らかにされた。薬物感受性細胞およびMDR細胞を、PBSにおける4%のゼラチンで事前にコーティングされたガラス製スライドガラス上で50%のコンフルエンスに成長させて、PBSにおける2%ホルムアルデヒドで固定処理し、PBSにおける1%のBSAで室温においてブロッキング処理し、次いで、1%のBSAを含有するPBSにおけるA2scFv(0.2mg/ml)と90分間インキュベーションした(室温)。その後、スライドガラスをHRP標識の抗Myc抗体(1:500、1%のBSAを含有するPBSにおいて)で1時間覆い、水で洗浄し、次いで、ペルオキシダーゼ基質(aec)で2分間〜3分間覆った。その後、スライドガラスを水で洗浄し、対比染色をヘマトキシリンで行った。図2e〜図2hに図示されるように、A2scFv抗体は、MDRの2780ADR細胞およびKBV−1細胞の強いインシチュウ染色を示し(それぞれ、図2eおよび図2g)、他方で、A2scFvはそれぞれの薬物感受性親細胞の2780細胞およびKB3−1細胞を染色しなかった(それぞれ、図2fおよび図2h)。
【0139】
従って、本明細書中上記に記載される結果は、A2scFv抗体が、ヒト細胞表面に発現するPgpと選択的に結合し、Pgpを有しないか、またはPgpをわずかに発現するヒト薬物感受性細胞とは結合しないことを明確に明らかにしている。
【0140】
(実施例3)
A2scFvの生物学的機能
Pgpの薬物排出活性に対するA2scFvの影響を一連の発色体排出アッセイで評価した。逆の関係が、MDR細胞におけるPgp活性のレベルと、カルセインの蓄積との間には存在する[Hollo他、(20)]ので、アッセイでは、蛍光性のPgp疎水性基質カルセイン−AM(Molecular Probes、Eugene、Oregon)を利用した。A2scFvを、下記の表3に記載されるような、安定なPgp依存的MDR表現型を呈示するヒト細胞株および齧歯類(CHO)細胞株、ならびに、それらのそれぞれの薬物感受性の親細胞に加えた。

【0141】
薬物感受性細胞およびMDR細胞(5x10個)をPBSで洗浄し、HPMI緩衝液(120mMのNaCl、5mMのKCl、0.4mMのCaCl、10mMのNaHCO、5mMのNaHPO、および10mMのグルコースを含有する10mMのHepes、pH7.4)に再懸濁した。細胞懸濁物を様々な濃度のA2scFvと様々な時間プレインキュベーションし、その後、1μMのカルセイン−AM(蛍光性のPgp疎水性基質;Molecular Probes、Eugene、Oregon)を補充し、37℃で5分間〜15分間インキュベーションした。インキュベーション後、処置された細胞および処置されていない細胞をカルセインにさらし、標準的な蛍光計またはフローサイトメーター(FACScalibur、Becton Dickinson)によって蛍光強度(493nm〜515nm)について分析した
【0142】
図3aは、MDR細胞株2780ADRが、薬物感受性親細胞株の2780細胞株と比較して、1/5および1/10のカルセインを(それぞれ、5分間または15分間のインキュベーションの後で)蓄積したことを図示する。同様に、図3bに図示されるフローサイトメーターアッセイの結果は、MDR細胞株2780ADRが、それぞれの薬物感受性親細胞株の2780細胞株よりも実質的に低い平均蛍光強度を示したことを示している。これらの結果は、カルセイン−AMのような発色性基質を排出する、MDRの、Pgpを過剰発現する細胞の機能的能力を明確に明らかにしている。
【0143】
同様な実験において、A2scFvを、カルセイン−AMを加える前の10分間〜30分間、2780ADR細胞に加えた。A2scFv処置は細胞の蛍光強度の実質的な増大をもたらした。これは薬物排出活性の実質的な低下を示している。従って、図3cは、A2scFvで処置された細胞におけるカルセインの蓄積が、A2scFvで処置されていない細胞におけるカルセインの蓄積よりも4倍〜5倍大きかったことを示している。図3cに図示される結果はさらに、2780ADR細胞の薬物排出活性に対するA2scFvの阻害効果が用量依存的であり、100μg/ml(すなわち、4μM)において最大阻害活性を示したことを示している。A2scFvの薬物排出阻害効果は、15μMのベラパミル(Pgp薬物排出の既知の調節剤(8))を用いて観測された薬物排出阻害効果と類似していた。同様の効果が、図3dに図示されるように、フローサイトメーター分析によって観測された。これらの結果は、A2scFv抗体が、MDRの、Pgpを過剰発現するヒト細胞の薬物排出活性を効果的に阻害し得ることを示している。
【0144】
別のアッセイにおいて、A2scFvの薬物排出調節活性をG1scFv[これはメラノーマ関連腫瘍抗原に対して単離された(22)]と比較した。図3eに図示されるアッセイ結果は、A2scFvは2780ADR細胞の薬物排出活性を実質的に阻害したが、G1scFv抗体による処置は効果がなかったことを示している。
【0145】
MDRの、Pgpを過剰発現する他の細胞株、ならびに、それらの薬物感受性親細胞株の薬物排出活性に対するA2scFvの影響を一連のアッセイで評価した。図4a〜図4bは、MDRの、Pgpを過剰発現するEMTR1細胞およびKBV−1細胞の薬物排出活性に対するA2scFvの影響を図示する。結果はカルセイン蓄積の実質的な増大を示しており、これは、A2scFvで処置された細胞における薬物排出阻害を示している。
【0146】
A2scFv分子の阻害効果が非特異的な細胞毒性のためではないことを確認するために、さらなる実験を行い、それにより、A2scFvを、カルセイン添加前に、薬物感受性の2780細胞株、KB3−1細胞株およびA8細胞株とプレインキュベーションした。図4c〜図4eに図示される結果は、A2scFv処置はこれらの細胞のいずれにおいてもカルセイン蓄積レベルに影響しなかったことを示している。これは、A2scFvで処置された薬物感受性細胞の薬物排出活性に対する効果がないことを示している。
【0147】
A2scFvの薬物排出阻害効率を別のアッセイでさらに評価し、このアッセイでは、A2scFvがMDRの2780ADR細胞に増大する濃度で与えられ、その後、カルセイン−AMが添加された。図5に図示される結果は、A2scFvは細胞におけるカルセインの蓄積を用量依存的かつ飽和可能な様式で増大させたことを示している。検出可能な最小阻害活性が0.025mg/ml(1μM)のA2scFv濃度に関して観測された。飽和阻害活性が、0.1mg/ml(4μM)を超えるA2scFv濃度に関して観測された。50%の薬物排出活性を阻害するA2scFv分子の濃度(IC50)が65μg/ml(2.6μM)において見積もられた。
【0148】
ドキソルビシン(化学療法薬物)にさらされた2780ADRの生存に対するA2scFv分子の影響を、細胞における[H]ロイシンのレベル(細胞生存性の指標)に基づいて評価した。細胞をA2scFvと0.2mg/mlの濃度でプレインキュベーションし、その後、5μM〜10μMのドキソルビシンにさらして、[H]ロイシン含有量について分析した。図6に図示されるように、A2scFv処置は、A2scFvで処置されていない細胞と比較して、ドキソルビシンにさらされた細胞の生存性を効果的に低下させた。これらの結果は、A2scFvは、多剤耐性細胞におけるPgp媒介の薬物排出活性を阻害することができ、それにより、薬物耐性を回避することができることを示している。
【0149】
従って、結論として、本明細書中に示される結果は、本発明のA2scFv抗体はPgp過剰発現細胞と選択的に反応し、従って、多剤耐性細胞における薬物排出活性の効果的な阻害剤であることを明確に明らかにしている。
【0150】
分かりやすくするため別個の実施態様で説明されている本発明のいくつもの特徴は、組み合わせて単一の実施態様にして提供することもできることは分かるであろう。逆に簡略化するため単一の実施態様で説明されている本発明の各種特徴は、別個に又は適切なサブコンビネーションで提供することもできる。
【0151】
本発明を、その具体的実施態様とともに説明してきたが、多くの変形と変更が当業技術者には明らかであることは明白である。したがって、本発明は、本願の特許請求の範囲の精神と広い範囲内に入っているこのような変形と変更をすべて含むものである。本明細書に記載のすべての刊行物、特許及び特許願は、あたかも、個々の刊行物、特許又は特許願各々が、本願に具体的にかつ個々に参照して示されているように、本願に援用するものである。さらに、本願における任意の文献の引用もしくは確認は、このような文献が本発明に対する従来技術として利用できるという自白とみなすべきではない。
【0152】




【図面の簡単な説明】
【0153】
【図1】図1aは、中央および右側のレーンにおいてA2scFvが単一バンドであることを表し、同時に、左側レーンが分子量サイズ標準のバンドを示すSDS−PAGE分析の写真である。図1bは、ビオチン化された標的のPgp由来ペプチド(配列番号1のアミノ酸配列を含む;Pgp)、またはビオチン化された非標的ペプチド(PRP)、またはストレプトアビジン(streptA)に対するA2scFv結合のELISAの棒グラフである。図1cは、ビオチン化標的のPgp由来ペプチドに対するA2scFvの結合の用量応答曲線を表すELISAのプロットである。図1dは競合放射免疫アッセイプロットである。
【図2】図2aは、薬物感受性のヒト卵巣ガン腫細胞2780と反応するA2scFvの免疫蛍光フローサイトメーター分析を表すプロットである。図2bは、MDRの、Pgpを過剰発現する卵巣ガン腫細胞2780ADRと反応するA2scFvの免疫蛍光フローサイトメーター分析を表すプロットである。図2cは、薬物感受性のヒトガン腫細胞KB3−1と反応するA2scFvの免疫蛍光フローサイトメーター分析を表すプロットである。図2dは、MDRの、Pgpを過剰発現するヒトガン腫細胞KBV−1(薬物感受性のヒトガン腫細胞KB3−1に由来する)と反応するA2scFvの免疫蛍光フローサイトメーター分析を表すプロットである。図2eは、A2scFvで処置された、MDRの、Pgpを過剰発現する卵巣ガン腫細胞2780ADR(薬物感受性の卵巣ガン腫細胞株2780に由来する)の免疫組織化学的染色を例示する顕微鏡写真である。図2fは、A2scFvで処置された薬物感受性細胞2780の免疫組織化学的染色を例示する顕微鏡写真である。図2gは、A2scFvで処置された、MDRの、Pgpを過剰発現するヒトガン腫細胞KB3−1(薬物感受性のヒトガン腫細胞KBV−1に由来する)の免疫組織化学的染色を例示する顕微鏡写真である。図2hは、A2scFvで処置された薬物感受性のヒトガン腫細胞KBV−1(MDRの、Pgpを過剰発現するヒトガン腫細胞KB3−1の親株)の免疫組織化学的染色を例示する顕微鏡写真である。
【図3a−c】図3aは、カルセインの蓄積速度を、(i)薬物感受性のヒト卵巣ガン腫細胞2780(黒塗り棒により表される)、および(ii)MDRの、Pgpを過剰発現する卵巣ガン腫細胞2780ADR(灰色棒により表される)において比較する蛍光計アッセイによって得られたデータを表す棒グラフである。図3bは、カルセインの蓄積を、(i)薬物感受性のヒト卵巣ガン腫細胞2780、および(ii)MDRの、Pgpを過剰発現するヒト卵巣ガン腫細胞2780ADRにおいて比較するフローサイトメーターアッセイを表すプロットである。図3cは、MDRの、Pgpを過剰発現する2780ADR細胞におけるカルセインの蓄積に対するA2scFvの影響を蛍光計アッセイにおいて明らかにする棒グラフである。
【図3d−e】図3dは、MDRの、Pgpを過剰発現する2780ADR細胞によるカルセイン取り込みに対するA2scFvの影響を明らかにするプロットである。図3eは、scFvの特異性を例示する棒グラフである。
【図4a】図4aは、齧歯類(CHO)MDR細胞株EMTR1におけるカルセイン取り込みを比較する蛍光計アッセイによって得られたデータを表す棒グラフである。
【図4b−e】図4bは、MDRヒト類表皮細胞株KB−V1におけるカルセイン取り込みを比較する蛍光計アッセイによって得られたデータを表す棒グラフである。図4cは、薬物感受性の2780細胞株(2780ADRの親株)におけるカルセイン取り込みを比較する蛍光計アッセイによって得られたデータを表す棒グラフである。図4dは、薬物感受性のヒト類表皮細胞株KB3−1(KBV−1の親株)におけるカルセイン取り込みを比較する蛍光計アッセイによって得られたデータを表す棒グラフである。図4eは、薬物感受性の齧歯類(CHO)細胞株A8(EMTR1の親株)におけるカルセイン取り込みを比較する蛍光計アッセイによって得られたデータを表す棒グラフである。
【図5】様々な濃度のA2scFvで処置された2780ADR細胞におけるカルセイン取り込みを表すプロットである。
【図6】様々な濃度のドキソルビシンで処置された2780ADR細胞の生存性に対するA2scFvの影響を表す棒グラフである。
【配列表フリーテキスト】
【0154】
配列番号1は多剤耐性タンパク質1(MDR1)由来のペプチドの配列である。
配列番号2はA2単鎖Fvコード配列である。
配列番号3はMyc−tagコード配列である。
【配列表】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
P−糖タンパク質の細胞外部分と結合することができる抗原結合領域を含み、多剤耐性細胞における薬物排出活性を少なくとも部分的に阻害することができる抗体フラグメント。
【請求項2】
抗体フラグメントはFvフラグメントである請求項1に記載の抗体フラグメント。
【請求項3】
抗体フラグメントは単鎖Fvである請求項2に記載の抗体フラグメント。
【請求項4】
抗体フラグメントはFabである請求項1に記載の抗体フラグメント。
【請求項5】
抗体フラグメントはF(ab’)である請求項1に記載の抗体フラグメント。
【請求項6】
抗体フラグメントはF(ab’)である請求項1に記載の抗体フラグメント。
【請求項7】
前記P−糖タンパク質は、mdr1遺伝子によって発現される170kDaのポリペプチドである請求項1に記載の抗体フラグメント。
【請求項8】
前記抗原結合領域は、前記P−糖タンパク質の前記細胞外部分の第1のループに存在するエピトープに対して向けられている請求項7に記載の抗体フラグメント。
【請求項9】
前記エピトープは、配列番号1に示されるアミノ酸配列を含む請求項8に記載の抗体フラグメント。
【請求項10】
前記多剤耐性細胞はガン細胞である請求項1に記載の抗体フラグメント。
【請求項11】
前記多剤耐性細胞はヒトガン細胞である請求項1に記載の抗体フラグメント。
【請求項12】
P−糖タンパク質の細胞外部分と結合することができる抗原結合領域を含み、多剤耐性細胞における薬物排出活性を少なくとも部分的に阻害することができる抗体フラグメントを有効成分として含み、かつ、医薬的に許容され得るキャリアを含む医薬組成物。
【請求項13】
前記多剤耐性細胞はガン細胞である請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項14】
化学療法薬物をさらに含む請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項15】
前記化学療法薬物はガン細胞に対して毒性である請求項14に記載の医薬組成物。
【請求項16】
前記P−糖タンパク質はmdr1遺伝子によって発現される170kDaのポリペプチドである請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項17】
前記抗原結合領域は、前記P−糖タンパク質の前記細胞外部分の第1のループに存在するエピトープに対して向けられている請求項16に記載の医薬組成物。
【請求項18】
前記エピトープは、配列番号1に示されるアミノ酸配列を含む請求項17に記載の医薬組成物。
【請求項19】
個体におけるガンを治療する方法であって、
(a)多剤耐性ガン細胞における薬物排出活性を少なくとも部分的に阻害することができる抗体フラグメントを個体に与えること、および
(b)治療効果的な量の抗ガン剤を個体に投与し、それにより個体におけるガンを治療すること
を含む方法。
【請求項20】
前記抗体フラグメントは、医薬的に許容され得るキャリアとともに投与される請求項19に記載の方法。
【請求項21】
工程(b)は工程(a)の前に、工程(a)と同時に、または工程(a)の後に実施される請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記抗ガン剤は前記抗体フラグメントと複合体化される請求項21に記載の方法。
【請求項23】
工程(a)は、個体の細胞内において前記抗体フラグメントを発現させることによって実施される請求項19に記載の方法。
【請求項24】
前記抗体フラグメントは、P−糖タンパク質の細胞外部分と結合することができる抗原結合領域を含む請求項19に記載の方法。
【請求項25】
前記抗原結合領域は、前記P−糖タンパク質の前記細胞外部分の第1のループに存在するエピトープに対して向けられている請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記エピトープは、配列番号1に示されるアミノ酸配列を含む請求項25に記載の方法。
【請求項27】
P−糖タンパク質を過剰発現する細胞を診断するためのキットであって、前記P−糖タンパク質と結合することができる抗原結合領域を含有する抗体フラグメントと、前記抗体フラグメントを検出するための試薬とを含むキット。
【請求項28】
細胞外P−糖タンパク質を過剰発現する細胞を診断する際に使用される前記抗体フラグメントを識別する包装材をさらに含む請求項27に記載のキット。
【請求項29】
前記抗体フラグメントは検出可能な成分で標識される請求項27に記載のキット。
【請求項30】
前記検出可能な成分は、発色成分、蛍光発生成分、発光成分および放射性成分からなる群から選択される請求項29に記載のキット。
【請求項31】
前記P−糖タンパク質はmdr1遺伝子によって発現される170kDaのポリペプチドである請求項27に記載のキット。
【請求項32】
前記抗原結合領域は、前記P−糖タンパク質の前記細胞外部分の第1のループに存在するエピトープに対して向けられている請求項31に記載のキット。
【請求項33】
前記エピトープは、配列番号1に示されるアミノ酸配列を含む請求項32に記載のキット。
【請求項34】
P−糖タンパク質を過剰発現する細胞を検出する方法であって、
(a)P−糖タンパク質の細胞外部分と結合することができる抗原結合領域を含む抗体フラグメントに細胞をさらすこと、および
(b)前記P−糖タンパク質の前記細胞外部分に結合した前記抗体フラグメントを検出し、それにより、細胞外P−糖タンパク質を過剰発現する細胞を同定すること
を含む方法。
【請求項35】
細胞は個体の細胞であり、方法は工程(a)の前に個体から生物学的サンプルを得ることをさらに含む請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記抗体フラグメントは検出可能な成分で標識される請求項34に記載の方法。
【請求項37】
前記検出可能な成分は、発色成分、蛍光発生成分、発光成分および放射性成分からなる群から選択される請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記P−糖タンパク質はmdr1遺伝子によって発現される170kDaのポリペプチドである請求項34に記載の方法。
【請求項39】
前記抗原結合領域は、前記P−糖タンパク質の前記細胞外部分の第1のループに存在するエピトープに対して向けられている請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記エピトープは、配列番号1に示されるアミノ酸配列を含む請求項39に記載の方法。
【請求項41】
P−糖タンパク質の細胞外部分と結合することができる抗原結合領域を含み、多剤耐性細胞における薬物排出活性を少なくとも部分的に阻害することができる抗体フラグメントをコードする核酸配列を含む単離されたポリヌクレオチド。
【請求項42】
前記P−糖タンパク質はmdr1遺伝子によって発現される170kDaのポリペプチドである請求項41に記載のポリヌクレオチド。
【請求項43】
前記抗原結合領域は、前記P−糖タンパク質の前記細胞外部分の第1のループに存在するエピトープに対して向けられている請求項42に記載のポリヌクレオチド。
【請求項44】
前記エピトープは、配列番号1に示されるアミノ酸配列を含む請求項43に記載のポリヌクレオチド。
【請求項45】
前記抗体フラグメントはFvフラグメントである請求項41に記載のポリヌクレオチド。
【請求項46】
前記抗体フラグメントは単鎖Fvである請求項45に記載のポリヌクレオチド。
【請求項47】
前記抗体フラグメントはFabである請求項41に記載のポリヌクレオチド。
【請求項48】
前記抗体フラグメントはF(ab’)である請求項41に記載のポリヌクレオチド。
【請求項49】
前記抗体フラグメントはF(ab’)である請求項41に記載のポリヌクレオチド。
【請求項50】
ポリヌクレオチドが配列番号2に示される通りである請求項46に記載のポリヌクレオチド。
【請求項51】
請求項41に記載のポリヌクレオチドを含む核酸構築物。
【請求項52】
前記ポリヌクレオチドの発現を調節するためのプロモーターをさらに含む請求項51に記載の核酸構築物。
【請求項53】
請求項51に記載の核酸構築物を含む細胞。

【図3a−c】
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【図3d−e】
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【図4a】
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【図4b−e】
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【図5】
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【図6】
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【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2006−524505(P2006−524505A)
【公表日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−507575(P2006−507575)
【出願日】平成16年1月8日(2004.1.8)
【国際出願番号】PCT/IL2004/000017
【国際公開番号】WO2004/087041
【国際公開日】平成16年10月14日(2004.10.14)
【出願人】(504127647)テクニオン リサーチ アンド ディベロップメント ファウンデーション リミテッド (20)
【Fターム(参考)】