説明

多孔質体製造装置及び多孔質体の製造方法

【課題】厚さ方向に孔径が漸次変化するシート状の多孔質体を提供できるようにする。
【解決手段】キャリアシート3によって搬送される発泡性スラリーシートS2を高湿条件にて乾燥させないように発泡させる発泡手段と、発泡手段において発泡された発泡性スラリーシートS2を加熱して乾燥する乾燥手段9とを備える多孔質体製造装置であって、乾燥手段9がキャリアシート3上に配された発泡性スラリーシートS2を加熱する複数の加熱ユニット39,41を備え、少なくともキャリアシート3上に配された発泡性スラリーシートS2の上面S2a及び下面S2bを個別に加熱するように、複数の加熱ユニット39,41を分割して配置し、加熱ユニット39,41による発泡性スラリーシートS2の上面S2a及び下面S2bの加熱温度が相互に異なるように、個々の加熱ユニット39,41の動作を独立して制御可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、三次元網目構造を有するシート状の多孔質体を製造する多孔質体製造装置及び多孔質体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、シート状の多孔質体を製造する際には、例えば特許文献1のように、無機粉末、発泡剤、有機バインダ、液状溶媒等を含む発泡性スラリーをシート状に成形した後に、成形された発泡性スラリーシートを発泡剤により発泡させ、さらに発泡した発泡性スラリーシートを乾燥、焼成する。
発泡性スラリーシートの発泡は、炉内に設けられた成形体加熱ヒーターにより発泡性スラリーシートを加熱して行われるが、加熱によって発泡性スラリーシートが乾燥されると発泡が不十分となる。従来では、この発泡性スラリーシートの乾燥を防ぐために、炉内に水を貯留して水温調節ヒーターを有する水槽を設け、水槽から発生する蒸気によって炉内を加湿している。
【0003】
また、発泡性スラリーシートの乾燥は、例えば特許文献2のように、発泡性スラリーシートに向けて送風する送風装置を用いて行われることもあるが、発泡性スラリーシート全体を均一に乾燥させるためには、発泡性スラリーシートの外面及び内部を均一に加熱する遠赤外線装置を使用することが好ましいとされている。
【0004】
上述のように製造されるシート状の多孔質体には、例えば特許文献3のように、シートの面方向に沿って気孔率が漸次変化するように構成されたものがある。このような多孔質体は、厚さが漸次変化した発泡性スラリーシートを成形した後に発泡させ、乾燥された発泡性スラリーシートを焼成する前後に所定厚さに圧縮若しくは圧延成形することで得られる。
このように気孔率が面方向に沿って変化する多孔質体は、例えば、シートの面方向に沿って流体を通過させることにより流体中に含まれる異物を効率よく補足するフィルタや、シートの面方向に沿って毛管作用により水を吸引してガス中に気化させる媒体及び燃料電池のガス拡散層等に使用することができる。
【特許文献1】特許第3282497号公報
【特許文献2】特開平10−267533号公報
【特許文献3】特開2004−315909号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、シート状の多孔質体は、その厚さ方向に流体を通過や吸引させるように使用されることも多いが、従来、厚さ方向に気孔率を変化させる場合には、気泡の孔径が相互に異なる多孔質体を貼り合わせたものを製造しており、このような構造や組織が厚さ方向に漸次変化するように構成された多孔質体はない。また、上述した従来の製造方法では、上記構成の多孔質体を製造することは困難である。
【0006】
本発明は、以上の課題に鑑みてなされたものであって、厚さ方向に孔径が漸次変化するシート状の多孔質体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達するために、この発明は以下の手段を提供している。
【0008】
本発明の多孔質体製造装置は、少なくとも無機粉末、発泡剤及び結合剤を含有した発泡性スラリーシートをキャリアシートによって搬送しながら発泡、乾燥させることで三次元網目構造を有する多孔質体を製造する多孔質体製造装置であって、前記キャリアシートによって搬送される前記発泡性スラリーシートを高湿条件にて乾燥させないように発泡させる発泡手段と、該発泡手段において発泡された前記発泡性スラリーシートを加熱して乾燥する乾燥手段とを備え、該乾燥手段が、前記キャリアシート上に配された前記発泡性スラリーシートを加熱する加熱ユニットを複数備え、複数の前記加熱ユニットが、少なくとも前記キャリアシート上に配された前記発泡性スラリーシートの上面及び下面を個別に加熱するように分割して配置され、前記加熱ユニットによる前記発泡性スラリーシートの上面及び下面の加熱温度が相互に異なるように、個々の前記加熱ユニットの動作が独立して制御可能であることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の多孔質体の製造方法は、少なくとも無機粉末、発泡剤及び結合剤を含有した発泡性スラリーシートをキャリアシートによって搬送しながら発泡、乾燥させることで三次元網目構造を有する多孔質体を製造する多孔質体の製造方法であって、前記発泡性スラリーシートを高湿条件にて乾燥させないように発泡させる発泡工程と、発泡された前記発泡性スラリーシートを乾燥する乾燥工程とを備え、該乾燥工程において、前記キャリアシート上に配される前記発泡性スラリーシートの上面及び下面とで加熱する温度を異ならせることを特徴とする。
【0010】
発泡性スラリーシートは、発泡手段(発泡工程)において発泡することでその内部や表面に多数の気泡が形成される。そして、乾燥手段(乾燥工程)において発泡性スラリーシートが乾燥されると、発泡性スラリーシート中の水分が揮散して粘性が上昇し、上記気泡の成長が停止する。すなわち、乾燥手段において発泡性スラリーシートを加熱する温度が高くなる程、発泡性スラリーシートの乾燥が早まり、孔径の小さな気泡が形成されることになる。
【0011】
そして、本発明によれば、上面を加熱する加熱ユニット及び下面を加熱する加熱ユニットの動作を個別に制御することにより、発泡性スラリーシートの上面及び下面の加熱温度を異ならせることができるため、発泡性スラリーシートの温度分布が上面から下面に向けて漸次変化することになる。したがって、乾燥されたシート状の多孔質体の内部には、その上面から下面に向けて気泡の孔径が漸次大きくなる若しくは小さくなるように多数の気泡を分布させることができる。
また、この多孔質体を構成する三次元網目状の骨格は連続的に繋がっている。そのため、従来のように単に孔径が相互に異なる複数の多孔質体を貼り合わせたものと比較して、強度の向上を図ることができる、また、フィルターの濾過等において不連続面(貼り合わせ面)に濾過物が集中的に溜まることを防止できる、という効果も奏する。
【0012】
また、本発明の多孔質体製造装置は、前記発泡性スラリーシートの上面側及び下面側の少なくともいずれか一方に配された前記加熱ユニットが、前記発泡性スラリーシートの幅方向にわたって複数配列され、複数の前記加熱ユニットによって加熱された前記上面若しくは前記下面の加熱温度分布が前記幅方向にわたって漸次変化するように、個々の前記加熱ユニットの動作が独立して制御可能であることを特徴とする。
この場合には、幅方向にわたって気泡の孔径が漸次変化するシート状の多孔質体を容易に製造することができる。
【0013】
また、本発明の多孔質体製造装置は、前記加熱ユニットが、前記発泡性スラリーシートの上面や下面側に向けて加熱された気体を吹きつける送風ユニットからなることを特徴とする。
この場合には、容易に発泡性スラリーシートの上面や下面をむらなく加熱することができる。このため、例えば、発泡性スラリーシートの上面全体や下面全体にわたって一様な温度に加熱することができ、シート状の多孔質体において面方向に分布する多数の気泡の孔径の大きさを容易に均一に揃えることが可能となる。
【0014】
また、例えば、幅方向にわたる加熱温度分布が不連続となることを防いで、シート状の多孔質体において幅方向にわたって分布する多数の気泡の大きさを滑らかに変化させることも容易となる。
さらに、発泡性スラリーシートの上面には、加熱された気体が直接吹きつけられるため、特に効率よく乾燥することができる。
【0015】
また、本発明の多孔質体製造装置は、前記発泡手段が、前記キャリアシート及び前記発泡性スラリーシートが通過可能な搬送入口及び搬送出口を有する共にこれら搬送入口及び搬送出口の下方に所定量の水を貯水可能な加湿加熱容器と、該加湿加熱容器内に設けられて前記発泡性スラリーシートを加熱するシート加熱ヒーターと、該加湿加熱容器よりも多量の前記水を貯留し、該水の温度を調整する水温調整ヒーターを有する貯留タンクと、前記加湿加熱容器と前記貯留タンクとの間で前記水を循環させる循環機構とを備えることを特徴とする。
【0016】
この場合には、予め貯留タンクにおいて加熱された水を循環機構により加湿加熱容器に供給し、さらに加湿加熱容器内の水を貯留タンクに排出するため、加湿加熱容器内の水の温度を一様に保持することができる。これにより、加湿加熱容器内の温度分布を一様に保持することが容易に可能となり、加湿加熱容器内における温度設定の精度向上を容易に図ることができる。
【0017】
ここで、発泡手段において形成される気泡の大きさは、加湿加熱容器内の温度によって変化するが、上述のように、加湿加熱容器内の温度分布が一様となることで、気泡の大きさを発泡性スラリーシートの全体にわたって均一とすることができる。
そして、このように発泡手段において形成される気泡の大きさを均一にしておくことで、乾燥手段において気泡の大きさを高い精度で設定することが可能となる。したがって、大きさが厚さ方向や幅方向にわたって漸次変化する気泡の分布を高精度に設定したシート状の多孔質体を提供することが可能となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、厚さ方向や幅方向にわたって孔径が漸次変化するシート状の多孔質体を容易に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図1から図4を参照し、本発明の実施形態に係る多孔質体製造装置について説明する。
この実施形態に係る多孔質体製造装置1は、図1に示すように、金属粉末(無機粉末)、発泡剤、有機バインダ(結合剤)、液状溶媒(結合剤)等を含有した発泡性スラリーS1をシート状に成形し、シート状の発泡性スラリー(以下、発泡性スラリーシートS2と呼ぶ。)を発泡、乾燥させて、三次元網目構造を有する多孔質グリーンシート(多孔質体)Gを製造するものである。
【0020】
ここで、発泡性スラリーS1に含まれる金属粉末としては、例えばニッケル、銅、鉄、SUS、クロム、コバルト、金、銀等が挙げられるが、粉末化及び焼結可能な全ての金属を使用することができる。また、発泡剤としては、例えば炭化数5〜8の非水溶性炭化水素系有機溶剤(例えばネオペンタン、ヘキサン、ヘプタン)等が挙げられるが、少なくともガスを発生して発泡性スラリーS1内の気泡を成長させることができるものであればよく、所定温度で分解してガスを発生する種々の化合物や揮発性の有機溶剤を使用することができる。
【0021】
さらに、有機バインダとしては、例えばメチルセルロースやヒドロキシプロピルメチルセルロース等の水溶性有機バインダが挙げられるが、少なくとも発泡性スラリーシートS2を乾燥させた際に多孔質グリーンシートの形状を保持させる働きを有しているものであれば使用可能である。また、液状溶媒としては、例えば水が挙げられるが、少なくとも高温加熱により大気中に揮散でき、かつ、発泡剤よりも低揮発性、高沸点のものであれば使用可能である。なお、発泡性スラリーS1としては、例えば特許第3282497号公報に開示されているものがより好ましい。
【0022】
多孔質体製造装置1は、複数のローラによって搬送される長尺状のキャリアシート3と、キャリアシート3上に発泡性スラリーS1を供給すると共に発泡性スラリーシートS2に成形する成形装置(成形手段)5と、キャリアシート3によって搬送される発泡性スラリーシートS2を高湿条件にて乾燥させないように発泡させる発泡装置(発泡手段)7と、発泡された発泡性スラリーシートS2を加熱して乾燥する乾燥装置(乾燥手段)9とを備えている。
【0023】
キャリアシート3は、例えばPET製のフィルム等によって構成されており、複数のローラ10によってその長手方向(A方向)に搬送されるようになっている。
成形装置5は、発泡性スラリーS1を貯留してキャリアシート3上に供給するホッパー11と、A方向に移動するキャリアシート3上に供給された発泡性スラリーS1をキャリアシート3との間で延ばして発泡性スラリーシートS2に成形するドクターブレード13とを備えている。
【0024】
発泡装置7は、図2に示すように、キャリアシート3及び発泡性スラリーシートS2が通過可能な搬送入口15a及び搬送出口15bを有すると共に搬送入口15a及び搬送出口15bの下方に所定量の水Wを貯水可能な箱状の加湿加熱容器15と、加湿加熱容器15よりも多量の水を貯留する貯留タンク17と、加湿加熱容器15と貯留タンク17との間で水Wを循環させる循環機構19とを備えている。
貯留タンク17の内部には、水Wの温度を調整する水温調整ヒーター21が設けられており、これによって加熱された水Wを循環機構19で加湿加熱容器15内に供給することで、加湿加熱容器15内の雰囲気を所定の湿度に保てるようにしている。また、貯留タンク17には、これに水Wを補給するための給水口22が設けられており、貯留タンク17内の水Wが減少した際に自動的に水Wを補給するようになっている。
【0025】
循環機構19は、貯留タンク17内から加湿加熱容器15内に水Wを供給する供給部23と、加湿加熱容器15内の水Wを貯留タンク17に排出する排出部25とを有している。供給部23は、貯留タンク17及び加湿加熱容器15の下部に開口する供給管27と、供給管27の途中に配されて貯留タンク17の水Wを加湿加熱容器15内に向けて流すためのポンプ29とから構成されている。また、排出部25は、加湿加熱容器15の下部及び貯留タンク17の上部に開口する排出管31によって構成されている。
【0026】
ここで、加湿加熱容器15内に開口する供給管27の開口端27aは、例えば、キャリアシート3の搬送方向の上流側に位置する加湿加熱容器15内の一端部側に配され、加湿加熱容器15に開口する排出管31の開口端31aは、キャリアシート3の搬送方向の下流側に位置する加湿加熱容器15内の他端部に配されている。このため、加湿加熱容器15内の一端部に供給された水Wは、加湿加熱容器15の一端部から他端部まで流れ、その後、加湿加熱容器15内の他端部から排出されることになる。
なお、加湿加熱容器15に開口する排出管31の開口端31aは、加湿加熱容器15内の底面15cから突出しており、これによって加湿加熱容器15内に所定量の水Wが貯留されるようになっている。
【0027】
このように、貯留タンク17において加熱された水Wを循環機構19により加湿加熱容器15内に供給し、さらに加湿加熱容器15内の水Wを貯留タンク17に排出することで、特に、加湿加熱容器15内の水Wを循環機構19によりその一端部から他端部にわたって常時流すことで、加湿加熱容器15内の水Wの温度を一様に保持することができる。これにより加湿加熱容器15内の温度分布を一様に保持することが容易に可能となり、加湿加熱容器15内における温度設定の精度向上を容易に図ることができる。
【0028】
また、加湿加熱容器15内のうちキャリアシート3の直下には、発泡性スラリーシートS2を加熱するシート加熱ヒーター33が設けられており、発泡性スラリーシートS2の発泡を促進するようになっている。また、加湿加熱容器15内のうちキャリアシート3の上方側の壁面には、複数のプレートヒーター35が設けられており、壁面における水Wの凝結を防止する役割を果たしている。これらシート加熱ヒーター33及びプレートヒーター35には、例えばカーボンプレートヒーターが用いられる。
【0029】
乾燥装置9は、図3に示すように、キャリアシート3及び発泡性スラリーシートS2が通過可能な搬送入口37a及び搬送出口37bを有する箱状の加熱炉37内に、キャリアシート3上に配された発泡性スラリーシートS2を加熱する複数の送風ユニット(加熱ユニット)39,41を備えている。
複数の送風ユニット39,41は、発泡性スラリーシートS2の上面S2a及び下面S2bを個別に加熱するように分割して配置されており、各送風ユニット39,41は、発泡性スラリーシートS2の上面S2aや下面S2b側に向けて加熱された気体を吹きつけるように構成されている。
【0030】
すなわち、各送風ユニット39,41は、外方から加熱炉37内に気体を送風するブロワー43,45と、加熱炉37内に送風された気体を発泡性スラリーシートS2の上方側若しくは下方側に誘導すると共に複数の吹出口47a,49aから発泡性スラリーシートS2の上面S2a若しくは下面S2b側に向けて吹きつける送風管47,49と、吹出口47a,49aの手前において送風管47,49内を通過する気体を加熱する加熱ヒーター51,53とを備えている。ここで、複数の吹出口47a,49aは、発泡性スラリーシートS2の搬送方向に沿って等間隔に配列されており、また、各吹出口47a,49aから吹き出す気体は、発泡性スラリーシートS2の幅方向にわたって均等に吹きつけられるようになっている。
【0031】
なお、この構成では、発泡性スラリーシートS2の上方側に配された送風管47の吹出口47aから吹き出す気体が、発泡性スラリーシートS2の上面S2aに直接吹きつけられ、これによって発泡性スラリーシートS2の上面S2aが加熱されることになる。また、発泡性スラリーシートS2の下方側に配された送風管49の吹出口49aから吹き出す気体は、実際にはキャリアシート3に向けて吹きつけられることになるため、発泡性スラリーシートS2の下面S2bはキャリアシート3を介して加熱されることになる。
また、この構成においては、個々の加熱ヒーター51,53の動作が独立して制御可能となっており、これにより、発泡性スラリーシートS2の上面S2a及び下面S2b側に向けて吹きつける気体の温度を相互に異ならせることができるようになっている。すなわち、複数の送風ユニット39,41による発泡性スラリーシートS2の上面S2a及び下面S2bの加熱温度を相互に異ならせることができる。
【0032】
次に、以上のように構成された多孔質体製造装置1による多孔質グリーンシートGの製造方法について説明する。
この製造方法においては、はじめに、ホッパー11からキャリアシート3上に供給された発泡性スラリーS1を、移動するキャリアシート3とドクターブレード13との間で延ばしてシート状の発泡性スラリーシートS2に成形する(成形工程)。
【0033】
次いで、キャリアシート3によって発泡性スラリーシートS2を発泡装置7の加湿加熱容器15内に搬送し、この加湿加熱容器15内で発泡性スラリーシートS2を発泡させる(発泡工程)。
この発泡工程においては、シート加熱ヒーター33等の加熱により発泡性スラリーシートS2に含まれる発泡剤を発泡させることで、発泡性スラリーシートS2の内部や表面に多数の気泡が形成される。この際、形成される気泡の孔径の大きさは加湿加熱容器15内の温度によって変化するが、貯留タンク17及び循環機構19を設けることで加湿加熱容器15内の温度分布が一様に保持されるため、気泡の大きさを発泡性スラリーシートS2の全体にわたって均一とすることができる。
【0034】
そして、発泡された発泡性スラリーシートS2はキャリアシート3によって加湿加熱容器15内から乾燥装置9の加熱炉37内に搬送され、この加熱炉37内において発泡性スラリーシートS2を乾燥することで(乾燥工程)、多孔質グリーンシートGの製造が完了する。
この乾燥工程において、発泡性スラリーシートS2を乾燥が乾燥されると、発泡性スラリーシートS2中に含まれる液状溶媒(水)が揮散して粘性が上昇し、これによって気泡の成長が停止する。すなわち、加熱炉37内において発泡性スラリーシートS2を加熱する温度が高くなる程、発泡性スラリーシートS2の乾燥が早まり、孔径の小さな気泡が形成されることになる。
【0035】
さらに、この乾燥工程においては、発泡性スラリーシートS2の上面S2aに吹きつける気体を加熱する加熱ヒーター51と発泡性スラリーシートS2の下面S2b側に吹きつける気体を加熱する加熱ヒーター53とを個別に制御して、発泡性スラリーシートS2の上面S2a及び下面S2b側に向けて吹きつける気体の温度を相互に異ならせる。すなわち、発泡性スラリーシートS2の上面S2a及び下面S2bとで加熱する温度を異ならせる。これにより、発泡性スラリーシートS2の温度分布が上面S2aから下面S2bに向けて漸次変化することになる。
したがって、乾燥された多孔質グリーンシートGには、その上面から下面に向けて気泡の大きさが漸次大きくなる若しくは小さくなるように多数の気泡を分布させることができる。すなわち、厚さ方向にわたって気泡の孔径(気孔率)が漸次変化する多孔質グリーンシートGが製造されることになる。
【0036】
なお、具体例として、例えば発泡性スラリーシートS2の上面S2aに吹きつける気体の温度を、下面S2b側に吹きつける気体の温度よりも低く設定した場合には、図4に示すように、上面G1から下面G2に向けて気泡Bの大きさが漸次小さくなる多孔質グリーンシートGが製造されることになる。なお、図4に示す多孔質グリーンシートGのモデル図では、多孔質グリーンシートGの内部のみに多数の気泡Bが独立して形成されているが、実際には、これら多数の気泡Bは相互に連通すると共に上面G1や下面G2に開口するようになっている。
【0037】
以上説明したように、本実施形態による多孔質体製造装置1及び多孔質グリーンシートGの製造方法によれば、厚さ方向にわたって気泡Bの孔径が漸次変化する多孔質グリーンシートGを容易に製造することができる。
また、乾燥装置9においては、加熱された気体を吹きつけることで発泡性スラリーシートS2の上面S2a及び下面S2bを加熱するため、容易に発泡性スラリーシートS2の上面S2a全体及び下面S2b全体をむら無く加熱することができる。このため、発泡性スラリーシートS2の上面S2a全体や下面S2b全体にわたって一様な温度に加熱することができ、これにより、多孔質グリーンシートGにおいて面方向に分布する多数の気泡の大きさを容易に均一に揃えることが可能となる。
【0038】
さらに、乾燥装置9においては、発泡性スラリーシートS2の上面S2aに加熱された気体が直接吹きつけられるため、特に効率よく乾燥することができる。
また、発泡装置7においては、発泡性スラリーシートS2の全体にわたって均一な大きさの気泡を形成することができるため、乾燥装置9において、気泡の大きさを高い精度で設定することが可能となる。したがって、大きさが厚さ方向にわたって漸次変化する気泡の分布を高精度に設定した多孔質グリーンシートGを提供することが可能となる。
さらに、この多孔質体グリーンシートGを構成する三次元網目状の骨格は連続的に繋がっている。そのため、この多孔質体グリーンシートGを脱脂・焼成した多孔質焼成体では、従来のように単に孔径が相互に異なる複数の多孔質体を貼り合わせたものと比較して、強度の向上を図ることができる、また、フィルターの濾過等において不連続面(貼り合わせ面)に濾過物が集中的に溜まることを防止できる、という効果も奏する。
【0039】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
すなわち、複数の送風ユニット39,41は、例えば、同一のブロワー及び加熱ヒーターで構成し、加熱ヒーターの下流側に位置する送風管47,49のみを発泡性スラリーシートS2の上方側及び下方側にそれぞれ配して構成されるとしてもよい。
【0040】
つまり、上述のブロワー、加熱ヒーター及び発泡性スラリーシートS2の上方側に配される送風管47により発泡性スラリーシートS2の上面S2aに気体を吹きつける送風ユニット39を構成すると共に、上述のブロワー、加熱ヒーター及び発泡性スラリーシートS2の下方側に配される送風管47,49により発泡性スラリーシートS2の下面S2b側に気体を吹きつける送風ユニット41を構成しても良い。
この構成の場合には、加熱ヒーターの下流側で分岐された各送風管47,49の途中に、吹出口47a,49aに向かう気体の送風を切り換える切換スイッチをそれぞれ設けておき、この切換スイッチの動作を個別に制御することで、発泡性スラリーシートS2の上面S2a及び下面S2bの加熱温度を相互に異ならせることができる。
【0041】
また、上記実施形態においては、複数の送風ユニット39,41を発泡性スラリーシートS2の上下に分割して配置するとしたが、例えばこれに加えて、複数の送風ユニット39,41を発泡性スラリーシートS2の幅方向にわたって複数配列して乾燥装置9を構成してもよい。この場合には、発泡性スラリーシートS2の上面S2aや下面S2b側に吹きつける気体の温度が幅方向にわたって漸次変化するように、幅方向に配列された送風ユニット39,41の加熱ヒーター51,53を個別に制御することで、幅方向にわたって気孔率が漸次変化する多孔質グリーンシートGを容易に製造することができる。
【0042】
なお、この構成の場合でも、加熱された気体を吹きつけることで発泡性スラリーシートS2の上面S2aや下面S2bがむら無く加熱されるため、発泡性スラリーシートS2の幅方向にわたる加熱温度分布が不連続となることを防いで、多孔質グリーンシートGにおいて幅方向にわたって分布する多数の気泡の大きさを滑らかに変化させることができる。
【0043】
さらに、上記実施形態においては、多孔質グリーンシート(多孔質体)Gを製造する多孔質体製造装置1について説明したが、多孔質体製造装置1は、例えば、上記多孔質グリーンシートGをさらに脱脂、焼成して多孔質焼成体(多孔質体)を製造するように構成されるとしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の一実施形態に係る多孔質体製造装置を示す概略断面図である。
【図2】図1の多孔質体製造装置において、発泡装置を示す概略断面図である。
【図3】図1の多孔質体製造装置において、乾燥装置を示す概略断面図である。
【図4】図1の多孔質体製造装置によって製造される多孔質グリーンシートの断面を模式的に示すモデル図である。
【符号の説明】
【0045】
1 多孔質体製造装置
3 キャリアシート
7 発泡装置(発泡手段)
9 乾燥装置(乾燥手段)
15 加湿加熱容器
15a 搬送入口
15b 搬送出口
17 貯留タンク
19 循環機構
21 水温調整ヒーター
33 シート加熱ヒーター
39,41 送風ユニット(加熱ユニット)
G 多孔質グリーンシート(多孔質体)
S2 発泡性スラリーシート
S2a 上面
S2b 下面
W 水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも無機粉末、発泡剤及び結合剤を含有した発泡性スラリーシートをキャリアシートによって搬送しながら発泡、乾燥させることで三次元網目構造を有する多孔質体を製造する多孔質体製造装置であって、
前記キャリアシートによって搬送される前記発泡性スラリーシートを高湿条件にて乾燥させないように発泡させる発泡手段と、該発泡手段において発泡された前記発泡性スラリーシートを加熱して乾燥する乾燥手段とを備え、
該乾燥手段が、前記キャリアシート上に配された前記発泡性スラリーシートを加熱する加熱ユニットを複数備え、
複数の前記加熱ユニットが、少なくとも前記キャリアシート上に配された前記発泡性スラリーシートの上面及び下面を個別に加熱するように分割して配置され、
前記加熱ユニットによる前記発泡性スラリーシートの上面及び下面の加熱温度が相互に異なるように、個々の前記加熱ユニットの動作が独立して制御可能であることを特徴とする多孔質体製造装置。
【請求項2】
前記発泡性スラリーシートの上面側及び下面側の少なくともいずれか一方に配された前記加熱ユニットが、前記発泡性スラリーシートの幅方向にわたって複数配列され、
複数の前記加熱ユニットによって加熱された前記上面若しくは前記下面の加熱温度分布が前記幅方向にわたって漸次変化するように、個々の前記加熱ユニットの動作が独立して制御可能であることを特徴とする請求項1に記載の多孔質体製造装置。
【請求項3】
前記加熱ユニットが、前記発泡性スラリーシートの上面や下面側に向けて加熱された気体を吹きつける送風ユニットからなることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の多孔質体製造装置。
【請求項4】
前記発泡手段が、前記キャリアシート及び前記発泡性スラリーシートが通過可能な搬送入口及び搬送出口を有する共にこれら搬送入口及び搬送出口の下方に所定量の水を貯水可能な加湿加熱容器と、該加湿加熱容器内に設けられて前記発泡性スラリーシートを加熱するシート加熱ヒーターと、該加湿加熱容器よりも多量の前記水を貯留し、該水の温度を調整する水温調整ヒーターを有する貯留タンクと、前記加湿加熱容器と前記貯留タンクとの間で前記水を循環させる循環機構とを備えることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の多孔質体製造装置。
【請求項5】
少なくとも無機粉末、発泡剤及び結合剤を含有した発泡性スラリーシートをキャリアシートによって搬送しながら発泡、乾燥させることで三次元網目構造を有する多孔質体を製造する多孔質体の製造方法であって、
前記発泡性スラリーシートを高湿条件にて乾燥させないように発泡させる発泡工程と、発泡された前記発泡性スラリーシートを乾燥する乾燥工程とを備え、
該乾燥工程において、前記キャリアシート上に配される前記発泡性スラリーシートの上面及び下面とで加熱する温度を異ならせることを特徴とする多孔質体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−106298(P2008−106298A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−288709(P2006−288709)
【出願日】平成18年10月24日(2006.10.24)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】