説明

多孔質膜形成用塗料及び多孔質膜

【課題】DPF等の排ガス浄化フィルタを構成するハニカム構造型フィルタの隔壁の表面に、粒子状物質の堆積量が少ない状態でも粒子状物質の高い捕集効率が得られ、しかも圧力損失も低い多孔質膜を形成することが可能な多孔質膜形成用塗料を提供する。
【解決手段】本発明の多孔質膜形成用塗料は、ハニカム構造型フィルタの多孔質支持体の表面に、この多孔質支持体の平均気孔径よりも小さな平均気孔径を有する多孔質膜を形成するための塗料であって、前記塗料は、少なくとも酸化物と銀とを含有する微粒子と分散媒とを含み、前記微粒子は、比表面積が1m/g以上かつ125m/g以下、タップかさ密度が0.1g/cm以上かつ2.0g/cm以下、前記塗料中の平均二次粒子径が0.1μm以上かつ10μm以下であり、前記塗料の粘度は2mPa・s以上かつ1000mPa・s以下であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質膜形成用塗料及び多孔質膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車等のエンジン、特にディーゼルエンジンから排出される排ガス中に含まれる様々な物質は、大気汚染の原因となり、これまでに様々な環境問題を引き起こしている。特に、排ガス中に含まれる粒子状物質(PM:Particulate Matter)は、喘息や花粉症等のアレルギー性疾患を引き起こす要因とも言われている。
一般に、自動車用ディーゼルエンジンでは、粒子状物質を捕集するための排ガス浄化フィルタとして、セラミックス製の目封じタイプのハニカム構造体を有するDPF(Diesel Particulate Filter)が使用されている(例えば特許文献1、2)。
この目封じタイプのハニカム構造体とは、セラミックス製のハニカム構造体のセル(ガス流路)の両端を市松模様に目封じしたものであり、このハニカム構造体の一方の端面からセルに取り入れられた粒子状物質を含む排ガスは、セル間の隔壁中の細孔を通過する際に粒子状物質が捕集されて浄化ガスとなり、この浄化ガスがハニカム構造体の他方の端面から排出される。
【0003】
このDPFでは、特にサブミクロン径の粒子状物質の捕集特性を向上させることが要求されているが、従来のDPFでは、その隔壁の平均気孔径が5〜50μm程度であるから、隔壁に粒子状物質が堆積していない状態でのDPFにおける捕集効率(粒子状物質の質量基準)は90%に達しておらず、隔壁の排ガス流入面に粒子状物質が堆積するにつれて、この隔壁の排ガス流入面に粒子状物質の層が形成され、この粒子状物質の層に新しい粒子状物質が捕集されることでDPFにおける捕集効率が向上し、100%に近付いていく。このように、従来のDPFでは、粒子状物質の層が形成した後の捕集効率は高いものの、粒子状物質の堆積量が少ない状態での捕集効率は必ずしも満足できるものではないことが知られている(非特許文献1)。
【0004】
ここで、粒子状物質の堆積量が少ない状態で捕集効率を高めるためには、DPFにおける隔壁の細孔径を小さくするのが有効であることが知られている。しかしながら、細孔径を小さくすると、DPF中のガス透過性が低下するために圧力損失が上昇してしまい、十分な排ガス流量を得ることができない。
このように、従来の技術では、粒子状物質の堆積量が少ない状態での高い捕集効率と低い圧力損失を両立することができず、この両方の性能を満たす材料が求められている。
【0005】
また、自動車の走行時には、常にエンジンから粒子状物質が排出されるために、DPFのハニカム構造体のセル中に粒子状物質が徐々に蓄積される。この蓄積が進行して粒子状物質の堆積量が過大になると、いわゆる「目詰まり」の状態となり、DPFにおける圧力損失が上昇することとなり、この粒子状物質を何らかの方法で定期的に除去し、DPFの圧力損失を低減させる必要がある。
そこで、従来では、粒子状物質が所定量堆積した時点で排ガス温度を上昇させて粒子状物質を燃焼させる再生と称される操作を行い、DPFの圧力損失を低減させている。
【0006】
しかしながら、この再生方法では、排ガスの温度を上昇させるために燃料をDPF前段の排ガス中に噴射させる必要があるが、再生に用いられる燃料は自動車の走行には全く寄与しない。そこで、燃料のエネルギーを有効利用するとともに燃料消費率を向上させるためには、再生にかかる時間が短く、再生時に使用する燃料が少なくてすむ、いわゆる再生効率の良い排ガス浄化フィルタが求められていた。
【0007】
DPFにおける再生効率を改善させる方法としては、従来より、酸化触媒である白金や銀等の貴金属微粒子あるいは酸化セリウム等の酸化物微粒子をDPFの隔壁に担持させ、粒子状物質の酸化を促進させる方法が提案されている(例えば特許文献3、4、5)。この方法では、酸化触媒を担持させることにより、DPF再生時に必要となる温度の低下ないしは再生のための高温保持時間の短縮ができるので、DPF自体の熱劣化も低減することができる。
これらの酸化触媒をDPFの隔壁に担持させる方法としては、酸化触媒微粒子を含むスラリー中にDPFのハニカム構造体自体を含浸させ、このDPFの隔壁に酸化触媒微粒子を付着させる方法(例えば特許文献3、4、5)、酸化触媒金属化合物を含有する溶液中にDPFのハニカム構造体を含浸した後、このDPFの隔壁に付着した成分を還元して金属微粒子化し、このDPFの隔壁に酸化触媒微粒子を付着させる方法(例えば特許文献4)等が提案されている。
【0008】
次に、使用時の圧力損失が低くかつ粒子状物質の捕集効率が高いフィルタとしては、大きな気孔径を有する多孔質支持体の表面に、気孔径が多孔質支持体の気孔径よりも小さくかつ厚みが薄い多孔質膜を設けたフィルタが知られている。
このようなフィルタとしては、多孔質セラミックスからなる支持体の表面に多孔質膜が形成されたセラミックフィルタが知られている。
このセラミックフィルタにおける多孔質膜は、多孔質セラミックスからなる支持体の表面に、粒子径の小さいセラミックス微粒子からなる積層体を形成し、この積層体を熱処理することにより形成される。この多孔質膜の気孔径を捕集する微粒子の大きさに合わせて制御する方法としては、積層体を構成しているセラミックス微粒子の粒子径を調整する方法が用いられている。
【0009】
ところで、多孔質セラミックスからなる支持体の表面に、この多孔質セラミックスよりも気孔径が小さくかつ厚みが薄い多孔質膜を形成する場合には、多孔質膜を構成するセラミックス微粒子の粒子径を多孔質セラミックスの気孔径よりも小さくする必要があった。このため、多孔質膜を形成する際に、この多孔質膜を構成するセラミックス微粒子が多孔質セラミックスの気孔内に侵入してしまうという問題点が生じる虞があった。
そこで、このような問題点を解決するための様々な方法が提案されている。
【0010】
例えば、セラミックスからなる多孔質支持体を疎水化処理するとともに、粒子径の小さいセラミックス微粒子を含む水系スラリーを用いることにより、この水系スラリーが多孔質支持体の気孔内に入らないようにする方法が提案されている(例えば特許文献6)。この方法では、多孔質支持体の表面に水系スラリーを付着させるために、水系スラリーに疎水化処理剤を除去またはその機能を低下させる物質を添加している。
また、予め、粒子径の小さいセラミックス微粒子を多孔質支持体の気孔径と同等もしくはそれ以上の大きさの二次粒子とし、この二次粒子を含むスラリーを用いて多孔質膜を形成する方法が提案されており、二次粒子の製造方法としては、セラミックス微粒子を予め仮焼する方法(例えば特許文献7)や、スラリーに凝集剤を加えて、セラミックス微粒子を凝集させる方法(例えば特許文献8)が提案されている。
【0011】
さらに、多孔質支持体の気孔に除去可能な物質を充填して、この気孔を塞いだ後、多孔質支持体の表面に粒子径の小さいセラミックス微粒子を含むスラリーを塗布する方法が提案されており、気孔を塞ぐ方法としては、除去可能な物質として可燃性物質を用い、この可燃性物質を後の焼成工程により燃焼除去する方法(例えば特許文献9)が提案されている。
また、水やアルコール等の溶媒を多孔質支持体の気孔に充填した後、多孔質支持体の表面に粒子径の小さいセラミックス微粒子を含むスラリーを塗布し、その後溶媒を除去することで、均質な膜を形成する方法(例えば特許文献10、11)も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平5−23512号公報
【特許文献2】特開平9−77573号公報
【特許文献3】特開2005−7259号公報
【特許文献4】特開2001−73748号公報
【特許文献5】特開2008−173592号公報
【特許文献6】特開2000−218114号公報
【特許文献7】特開平11−33322号公報
【特許文献8】特開平11−188217号公報
【特許文献9】特開平1−274815号公報
【特許文献10】特公昭63−66566号公報
【特許文献11】特開2000−288324号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】SAEテクニカルペーパー 980545 米国自動車技術者協会 1998年発行(SAE Technical Paper 980545, Society of Automotive Engineers (1998))
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上述したように、従来のDPFでは、隔壁の平均気孔径が5〜50μm程度とミクロン径のオーダーであるために、この平均気孔径より径の小さなサブミクロン径の粒子状物質を捕集することは容易ではないという問題点があった。
サブミクロン径の粒子状物質の捕集特性を向上させるためには、DPFにおける隔壁の平均気孔径を縮小することも一つの方法であるが、隔壁の平均気孔径を縮小すると、サブミクロン径の粒子状物質の捕集特性は向上するものの、DPFとしての通気性が低下し、圧力損失が増加するため、十分な排ガス流量が得られないという不具合が生じることとなる。すなわち、従来のDPFでは、特に粒子状物質の堆積量が少ない状態における高い捕集効率と低い圧力損失(十分な排ガス流量)を両立できておらず、この両方の性能を満たす材料が求められていた。
そこで、DPFにおける隔壁の平均気孔径を5〜50μmのままとし、この隔壁を多孔質支持体として、この隔壁の表面に平均気孔径が数10nm〜5μmの多孔質膜を形成することが考えられている。この多孔質膜を形成する場合、上述した従来技術を適用することが考えられる。
【0015】
しかしながら、このような多孔質膜を有するDPFにおいても、次のような問題点がある。
例えば、平均気孔径が100nmの多孔質膜を形成するためには、多孔質膜を構成する微粒子の一次粒子径を数10nm程度とする必要があり、この粒子径はDPFの平均気孔径の数100分の1程度の大きさである。このように、多孔質膜を構成する微粒子の一次粒子径は、上記の従来技術における多孔質膜の粒子径がサブミクロンからミクロンのオーダーであるのに比べて非常に小さい。
そのため、DPFの隔壁に多孔質膜を形成する際に、従来技術をそのまま適用しても、多孔質膜を構成する微粒子の一部が隔壁の気孔内に流入することを避けるのが難しい。
【0016】
さらに、DPFの主要部であるハニカム構造体は、それぞれのセルが、例えば一端が封止された断面1mm角、長さ150mmの細長い筒状をなしており、さらに、これらのセルは、隣接するセルの封止端部の位置が互いに逆方向となるように交互に封止端部が設けられ、重ねられてハニカム状とされた特殊な形状であるのに対し、上述の従来技術における隔壁は、板状または直径がセンチメートルのオーダーの筒状である。したがって、DPFの主要部であるハニカム構造体の隔壁に多孔質膜を形成する際に、上記の従来技術を適用しようとしても、形状が大幅に異なることから適用が難しい。また、従来技術が適用可能であったとしても、工程が複雑になり、用いる材料等も工夫する必要があり、製造コストが高くなる虞がある。
このように、DPFの主要部であるハニカム構造体の隔壁の表面に多孔質膜を形成する技術については、いまだに確立されていないのが現状である。
【0017】
さらに加えて、DPFの隔壁に酸化触媒微粒子を担持させる場合、従来方法では酸化触媒微粒子が隔壁の表面だけでなく隔壁の気孔内部にまで入り込むため、酸化触媒微粒子が隔壁の全体に渡って存在することとなる。一方、このDPFを用いて排ガス中の粒子状物質を捕集する場合、粒子状物質はDPFの隔壁の表面に層状に堆積し、気孔内部にはあまり浸入しない。特に粒子状物質がある程度堆積した後は、この傾向が強くなる(非特許文献1参照)。
このように、粒子状物質がDPFの隔壁の排ガス流入側の表面に局在するために、気孔内部に存在する酸化触媒微粒子は粒子状物質と接することが無く、粒子状物質の酸化除去にはほとんど寄与しないことになり、無駄である。したがって、酸化触媒微粒子を隔壁の表面に選択的に担持させることができれば、担持させた酸化触媒のほとんどが粒子状物質の酸化除去に寄与するため、酸化触媒の性能を有効に引き出すことができるが、その様な方法はまだ提案されていない。
【0018】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、DPF等の排ガス浄化フィルタを構成するハニカム構造型フィルタの隔壁の表面に、粒子状物質の堆積量が少ない状態でも粒子状物質の高い捕集効率が得られ、しかも圧力損失も低い多孔質膜を形成することが可能な多孔質膜形成用塗料を提供することを目的とする。
さらに、隔壁における酸化触媒の担持方法を改善することにより、再生処理時に、隔壁の表面に堆積する粒子状物質の燃焼時間を短縮し、再生処理時の排ガス温度上昇に必要な燃料の使用を低減し、燃料消費率の低下やフィルタ機能の劣化防止及び酸化触媒の劣化抑制を図ることができるDPF等のハニカム構造型フィルタ用の多孔質膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、DPF等の排ガス浄化フィルタを構成するハニカム構造体の隔壁に、少なくとも酸化物と銀とを含有する酸化物を成分とする微粒子を含み、かつ所定の膜厚、平均気孔径及び平均気孔率を有する多孔質膜を設けることにより、粒子状物質の堆積量が少ない状態でも高い捕集効率が得られると同時に圧力損失の上昇を抑制することができ、しかもDPF等の再生時においては、従来のDPF等に比べて隔壁に堆積する粒子状物質の燃焼時間を短縮することができること、さらに高温の熱処理による多孔質膜及び排ガス浄化フィルタの気孔径分布変化や酸化触媒成分の劣化が抑制され、結果として高温の熱処理による粒子状物質の燃焼特性の変化が抑制されることを見出した。
そして、DPF等の排ガス浄化フィルタを構成するハニカム構造体の隔壁に多孔質膜を形成する場合に、比表面積、タップかさ密度が制御された酸化物と銀とを含有する微粒子と、分散媒とを含む多孔質膜形成用塗料を使用し、その多孔質膜形成用塗料の粘度及び塗料中の微粒子の平均二次粒子径を適切に制御すれば、隔壁である多孔質支持体の表面に酸化物と銀とを含有する微粒子を成分とする多孔質膜を形成することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0020】
すなわち、本発明の多孔質膜形成用塗料は、ハニカム構造型フィルタの多孔質支持体の表面に、この多孔質支持体の平均気孔径よりも小さな平均気孔径を有する多孔質膜を形成するための塗料であって、少なくとも酸化物と銀とを含有する微粒子と分散媒とを含み、前記微粒子は、比表面積が1m/g以上かつ125m/g以下、タップかさ密度が0.1g/cm以上かつ2.0g/cm以下、前記塗料中の平均二次粒子径が0.1μm以上かつ10μm以下であり、前記塗料の粘度は2mPa・s以上かつ1000mPa・s以下であることを特徴とする。
【0021】
前記酸化物がアルミニウム、ジルコニウム、チタン、セリウム、ランタン、鉄、ケイ素、亜鉛、マグネシウム、マンガン、コバルトのうち1種または2種以上の元素の酸化物、またはこれらの元素のうち1種または2種以上の元素を含む複合酸化物であることが好ましい。
【0022】
本発明の多孔質膜は、本発明の多孔質膜形成用塗料を塗布した後に熱処理して得ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明の多孔質膜形成用塗料によれば、少なくとも酸化物と銀とを含有する微粒子と分散媒とを含み、この微粒子の比表面積を1m/g以上かつ125m以下、タップかさ密度を0.1g/cm以上かつ2.0g/cm以下、塗料中の平均二次粒子径を0.1μm以上かつ10μm以下に制御し、さらに、塗料の粘度を2mPa・s以上かつ1000mPa・s以下に制御したので、排ガス浄化フィルタであるハニカム構造型フィルタの多孔質支持体の表面に塗布した際に、微粒子が多孔質支持体の気孔内に侵入するのを抑制することができる。したがって、ハニカム構造型フィルタの多孔質支持体の表面に、酸化物と銀を含有する微粒子を含み、この多孔質支持体の平均気孔径より小さな平均気孔径を有し、しかも均質性に優れた多孔質膜を容易に形成することができる。
また、この多孔質膜形成用塗料を多孔質支持体の表面に塗布し熱処理するだけで多孔質膜を形成することができるので、いかなる形状の多孔質支持体であっても、多孔質支持体の形状等の制約を受けることなく、その表面に均質性に優れた多孔質膜を容易に形成することができる。
【0024】
本発明の多孔質膜によれば、本発明の多孔質膜形成用塗料を塗布して得られた塗布膜を熱処理したので、ハニカム構造型フィルタの多孔質支持体の平均気孔径より小さな微小径の気孔を有し、微小径の微細微粒子の捕集特性が向上した多孔質膜を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一実施形態の多孔質膜形成用塗料が適用可能なDPFを示す一部破断斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態の多孔質膜形成用塗料が適用可能なDPFの隔壁構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の多孔質膜形成用塗料及び多孔質膜を実施するための最良の形態について説明する。なお、この形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
初めに、本発明の内容をより理解し易くするために、本発明の多孔質膜形成用塗料を用いることで形成が可能となるハニカム構造型フィルタである排ガス浄化フィルタについて説明する。
【0027】
「排ガス浄化フィルタ」
図1は、本発明の一実施形態の多孔質膜形成用塗料が適用可能な自動車用ディーゼルエンジンに用いられる排ガス浄化フィルタであるDPFを示す一部破断斜視図、図2は同DPFの隔壁構造を示す断面図であり、図1において符号βで示す面を拡大した図である。
【0028】
DPF10は、多数の細孔(気孔)を有する円柱状の多孔質セラミックスからなるフィルタ基体11(多孔質支持体)と、フィルタ基体11内に形成されたガス流路12と、ガス流路12のうち排ガスの上流側の端部が開放された流入セル12Aの内壁面12aに設けられた多孔質膜13とにより概略構成されている。
フィルタ基体11の軸方向の両端面のうち一方の端面αが、粒子状物質を含む排ガスGが流入する流入面であり、他方の端面γが、上記の排ガスGから粒子状物質を取り除いた浄化ガスCを排出する排出面である。
【0029】
フィルタ基体11は、炭化ケイ素、コーディエライト、チタン酸アルミニウム、窒化ケイ素等の耐熱性の多孔質セラミックスからなるハニカム構造体である。フィルタ基体11の内部は、排ガスGの流れ方向である軸方向に沿って延び、平均気孔径が5μm以上かつ50μm以下の多孔質セラミックスからなる隔壁14により区画されたハニカム構造とされている。隔壁14により囲まれた軸方向に長手の中空の領域が多数のセル状のガス流路12とされている。
ここで、本実施形態における「ハニカム構造」とは、フィルタ基体11に複数のガス流路12を互いに平行となるように形成した構造である。ガス流路12の軸方向に直交する方向の断面形状は四角形状であるが、これに限らず、多角形、円形、楕円形などの種々の断面形状とすることができる。また、フィルタ基体11の外周付近に形成されたガス流路12は、断面形状の一部が円弧状となっているが、これはフィルタ基体11の外周付近まで隙間無くガス流路12を配置するために、フィルタ基体11の外形状に倣う断面形状のガス流路12としたものである。
【0030】
ガス流路12は、排ガスGの流れ方向(長手方向)から見た場合に、上流側端部と下流側端部とが交互に閉塞された構造、すなわち、排ガスGの流入側である上流側端部が開放された流入セル12Aと、浄化ガスCを排出する側である下流側端部が開放された流出セル12Bとにより構成されている。流入セル12Aの内壁面12a(流入セル12Aを構成する隔壁14の表面)に、多孔質膜13が形成されている。
【0031】
多孔質膜13は、流入セル12Aの内壁面12aに、本発明の多孔質膜形成用塗料を塗布し、その後熱処理して得られた、酸化物と銀とを含有する微粒子を成分とする膜である。本実施形態に係る多孔質膜13では、平均気孔径は0.05μm以上かつ5μm以下、平均気孔率は35%以上かつ90%以下とされている。また、多孔質膜13の平均膜厚は40μm以下とされている。
多孔質膜13における平均気孔径は、より好ましくは0.05μm以上かつ3μm以下であり、さらに好ましくは0.1μm以上かつ2μm以下である。また平均気孔率は、より好ましくは50%以上かつ90%以下であり、さらに好ましくは60%以上かつ90%以下である。
【0032】
ここで、平均気孔径が0.05μm以上かつ5μm以下とされる理由は、平均気孔径が0.05μm未満の場合には、多孔質膜により発生する圧力損失が高くなるため好ましくないからであり、一方、平均気孔径が5μmを超えると、多孔質膜13と隔壁14の気孔径とに実質的な差がなくなり、粒子状物質30の捕集率が低下し、特に粒子状物質の堆積量が少ない状態で高い捕集効率を得難くなったり、排ガス浄化フィルタの再生処理を行う場合、粒子状物質の燃焼効率の向上が見られないからである。
また、多孔質膜13の平均気孔率が35%以上かつ90%以下とされる理由は、多孔質膜の平均気孔率が35%未満では、多孔質膜により発生する圧力損失が大きくなるからであり、一方、平均気孔率が90%を超えると多孔質膜の強度が低下する虞があるためである。
【0033】
また、多孔質膜13の平均膜厚が40μm以下とされる理由は、平均膜厚が40μmを超えると、多孔質膜13により発生する圧力損失が大きくなるからである。なお、多孔質膜13は、粒子状物質30を捕集することができ、かつ実質的に粒子状物質30が隔壁14の細孔に入り込まなければよく、この条件を満たす限り、平均膜厚の下限に特に制限はない。
【0034】
なお、多孔質膜13は、流入セル12Aの内壁面だけでなく、流出セル12Bの内壁面(隔壁14の流出セル12B側表面)にも設けられていてかまわない。ただし、以下の記載では、流入セル12Aの内壁面に設けられたものとして説明する。
【0035】
多孔質膜13は、フィルタ基体11の隔壁14を構成する多孔質セラミックスの細孔内に実質的に入り込むことなく、流入セル12Aの内壁面12a上にて独立した膜となっている。すなわち、多孔質膜13を形成する酸化物と銀とを含有する微粒子は、隔壁14の内部への侵入が抑制された状態で流入セル12Aの内壁面12aに形成され、隔壁14に形成されている気孔を塞ぐことはない。多孔質膜13は、多数の気孔を有することにより、これらの気孔が連通し、結果として、貫通孔を有するフィルタ状の多孔質となっている。
【0036】
ここで、DPF10における排ガスの流れを示すと、図2のようになる。流入面側、すなわち端面α側から流入した粒子状物質30を含む排ガスGは、流入面に開口している流入セル12AからDPF10内に流入し、流入セル12A内を端面α側から端面γ側へと流れる過程で、フィルタ基体11の隔壁14を通過する。この際、排ガスG中に含まれる粒子状物質30は、流入セル12Aの内壁面12aに設けられた多孔質膜13により捕集されて除去され、粒子状物質30が除去された浄化ガスCは、流出セル12B内を端面α側から端面γ側へと流れ、流出セル12Bの開口端(端面γ)からフィルタ外へ排出される。
【0037】
DPF10では、多孔質膜13の平均気孔径は0.05μm以上かつ5μm以下であり、隔壁14の気孔径、すなわち従来のDPFの平均気孔径である5〜50μm程度より小さい。これにより、DPF10に流入した粒子状物質30は、その堆積量が少ない段階から多孔質膜13により効率良く捕集され、隔壁14の気孔にはほとんど入り込まない。
【0038】
多孔質膜13の平均膜厚は40μm以下であり、フィルタ基体の一般的な厚みである200〜400μmよりも薄い。また、この多孔質膜13の平均気孔率は35〜90%であり、多くの細孔を有している。さらに、多孔質膜13の支持体である隔壁14の平均細孔径は5〜50μmと、多孔質膜13の平均細孔径と比べて十分に大きい。以上の点により、このDPF10は、圧力損失が低く、十分な排ガス流を得ることができる。
【0039】
さらに、多孔質膜13が設けられていることにより、粒子状物質30が堆積していく際に隔壁14の細孔内に粒子状物質30が入り込み難い。このため、多孔質膜が付与されていない場合に比べて、粒子状物質30が隔壁14の細孔を閉塞し難くなり、粒子状物質30が堆積した後の圧力損失上昇を抑えることができる。
【0040】
また、多孔質膜13の存在により、フィルタの再生時に、粒子状物質30を燃焼させるための酸素が粒子状物質層30中に均等に流通するようになる。これにより粒子状物質30全体に対して確実に酸素が供給され、酸素が供給され難い粒子状物質30が減るため、粒子状物質30の酸化が均等に進み、結果として粒子状物質30の燃焼時間を短縮することができる。
【0041】
ここで、多孔質膜13が酸化物と銀とを含有する微粒子を成分としている点について説明する。
多孔質膜13の成分である銀は、酸化触媒特性、すなわち粒子状物質30の燃焼触媒作用を有している。したがって、銀を含む酸化物をフィルタ基体11に担持させることで、DPF10の再生処理時に、隔壁14に堆積した粒子状物質30の燃焼時間を短縮して、再生処理時に排ガス温度上昇に必要な燃料の使用を低減して燃料消費率の低下を図ることができる。また、燃焼時間が短く、再生時の加熱温度も比較的低く抑えることができるため、DPF10(フィルタ基体11、多孔質膜13)の劣化を抑制することができる。
【0042】
なお、微粒子に含有される銀は、価数が0の金属状態の銀だけでなく、酸化銀や硫化銀等の銀化合物の形態であってもよい。さらに例えば、金属銀微粒子の表面が酸化や硫化によって酸化銀や硫化銀になっていても良い。
【0043】
次に、酸化物と銀を含有する微粒子中の酸化物は、アルミニウム、ジルコニウム、チタン、セリウム、ランタン、鉄、ケイ素、亜鉛、マグネシウム、マンガン、コバルトのうち1種または2種以上の元素の酸化物、またはこれらの元素のうち1種または2種以上の元素を含む複合酸化物である。
【0044】
これらの酸化物のうち、アルミニウム、ジルコニウム、チタン、セリウム、ランタン、鉄のうち1種または2種以上の元素の酸化物、またはこれらの元素のうち1種または2種以上の元素を含む複合酸化物がより好ましく、アルミニウム、ジルコニウム、セリウム、ランタンのうち1種または2種以上の元素の酸化物、またはこれらの元素のうち1種または2種以上の元素を含む複合酸化物がさらに好ましい。
【0045】
特に好ましいのはセリウムを含有する酸化物である。
ここで、銀による粒子状物質30の燃焼触媒作用については、銀が酸化物からの活性酸素の放出を促進し、この活性酸素が粒子状物質30の燃焼に寄与していることが知られている。
この点において、酸化物と銀を含有する微粒子中の酸化物として、セリウムを含む酸化物を用いることで、より活性酸素の放出が促進され、粒子状物質30の燃焼効率を向上させることができる。セリウムを含有する酸化物は酸素吸蔵放出能(OSC;Oxygen Storage Capacity)を有しており、銀の存在により活性酸素を放出し易くなるためである。
【0046】
このセリウムを含有する酸化物としては、酸化セリウム単体、又は、ジルコニウム、イットリウム、希土類元素(ランタン、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム)の群から選択される1種類以上の元素とセリウムとの複合酸化物、又は、ジルコニウム、イットリウム、上記希土類元素の群から選択される1種類以上の元素とセリウムとの複合酸化物と酸化セリウム単体の混合物を挙げることができる。
【0047】
また、アルミニウム、ジルコニウムを含有する酸化物である、酸化アルミニウム単体、酸化ジルコニウム単体、アルミニウムとジルコニウムの複合酸化物、アルミニウムやジルコニウムと他の元素との複合酸化物やこれら酸化物の混合物を用いることも好ましい。DPF等のセラミックフィルタの場合、排ガスの温度が1000℃以上にまで上昇することがあるので、多孔質膜の材料に対しても1000℃以上までの耐熱性が必要になる。多孔質膜をこれらの酸化物微粒子で構成することにより、多孔質膜及び多孔質膜付き排ガス浄化フィルタの耐熱性を十分なものとすることができる。
また、これらの酸化物または複合酸化物は化学的安定性にも優れているため、多孔質膜をこれらの酸化物または複合酸化物の微粒子で構成することにより、多孔質膜及び多孔質膜付き排ガス浄化フィルタの化学的安定性を十分なものとすることができる。
【0048】
酸化物としては、これらのうちから、所望の耐熱性、粒子状物質の燃焼触媒性能等が得られるものを適宜に選択して用いることができる。例えば、酸化ジルコニウムと酸化セリウムの混合微粒子を用い、その混合比率を調整することにより、耐熱性と燃焼触媒能とを制御することができる。
【0049】
次に、酸化物と銀を含有する微粒子中において、酸化物に対する銀の比率は0.5質量%以上50質量%以下とされており、より好ましくは1質量%以上40質量%以下、さらに好ましくは2質量%以上30質量%以下である。
ここで、酸化物に対する銀の比率が0.5質量%以上50質量%以下とされる理由は、酸化物に対する銀の質量比が0.5質量%を下回ると、銀の微粒子中の量が少なすぎるために、銀の酸化触媒特性、すなわち粒子状物質30の燃焼触媒作用の効果を示さなくなるためであり、一方、酸化物に対する銀の質量比が50%を上回ると、銀微粒子同士の融着が進みやすくなり、フィルタへの熱付与に伴い銀による粒子状物質の酸化触媒性能が劣化しやすくなったり、多孔質膜の気孔径分布が変化しやすくなったりするためである。
【0050】
なお、本実施形態において酸化触媒効果を得るためには、銀が存在することが重要であって、銀は必ずしも超微細粒子として酸化物表面に担持されている必要は無い。すなわち、多孔質膜13を構成する酸化物と銀を含有する微粒子とは、酸化物粒子に銀が担持されたあるいは酸化物微粒子と銀微粒子が一体化した複合粒子、酸化物粒子と銀粒子の混合物、複合粒子と酸化物粒子の混合物、複合粒子と銀粒子の混合物、複合粒子と酸化物粒子と銀粒子の混合物、のいずれであってもよい。
【0051】
このように、酸化物と銀を含有する微粒子は、多孔質膜13の形状にて隔壁14の表面に存在しており、一方、粒子状物質30は主に多孔質膜13により捕集される。したがって、酸化物と銀を含有する微粒子と、捕集された粒子状物質30とは近接した状態となっている。ここで、酸化物と銀を含有する微粒子から発生する活性酸素は寿命が短いことが知られているが、酸化物と銀を含有する微粒子と捕集された粒子状物質30とが近接しており、発生した活性酸素は失活する前に粒子状物質30と反応することができるので、酸化物と銀を含有する微粒子の触媒活性をより有効に引き出すことができる。
【0052】
さらに、多孔質膜13はフィルタ基体11を構成する多孔質セラミックスの細孔内に実質的に入り込んでいないので、そのほとんど全てが粒子状物質30の酸化除去に寄与することができる。したがって、従来技術のように、酸化物と銀を含有する微粒子がフィルタの気孔内部に入り込み、その結果として粒子状物質30の酸化除去にはほとんど寄与しなくなる(無駄となる)ということがない。以上により、酸化物と銀を含有する微粒子を無駄なく有効に利用して、十分な酸化触媒効果を得ることができる。
【0053】
また、理由は必ずしも明確ではないが、この多孔質膜13では、従来の酸化物と銀を含有する微粒子を隔壁内部に固着させる場合に比べ、DPF10が高温に曝されたときに多孔質膜13及びDPF10の気孔径分布変化や酸化触媒成分の劣化が生じるのを抑制することができる。その結果、高温での粒子状物質30の燃焼特性の変化を抑制することができる。
【0054】
以上示したように、本発明の多孔質膜形成用塗料を用いて形成された多孔質膜を有する排ガス浄化フィルタでは、多孔質膜13として、酸化物と銀を含有する微粒子を成分とするとともに、平均気孔径を0.05μm以上かつ5μm以下とすることができる。これにより、多孔質膜の構造の利点である粒子状物質30の捕集効率の向上、圧力損失の低減、排ガス浄化フィルタ再生時における粒子状物質30の燃焼時間の短縮を図ることができる。
また、多孔質膜による酸素の供給均等化作用や、酸化物と銀を含有する微粒子の粒子状物質30に対する燃焼触媒作用により、再生時の粒子状物質30の燃焼を促進させる効果を得ることができる。
【0055】
さらには、酸化物と銀を含有する微粒子の担持方法を改善することにより、担持した酸化触媒の触媒効果を有効に作用させることができるので、粒子状物質30の燃焼触媒効果の向上による再生処理時の燃焼時間のさらなる短縮、燃焼温度の低下をも図ることができる。
そして、これらの各効果を総合することにより、粒子状物質の捕集特性に優れるほか、再生処理時間のさらなる短縮により、再生処理時に必要な燃料の使用量をより低減させることができ、排ガス浄化フィルタ自体や酸化触媒の劣化をより抑制することができる。
【0056】
「多孔質膜形成用塗料」
本実施形態の多孔質膜形成用塗料は、上述したDPF等の排ガス浄化フィルタ(ハニカム構造型フィルタ)の多孔質支持体の表面に、この多孔質支持体の平均気孔径よりも小さな平均気孔径を有する多孔質膜を形成するための塗料であり、この塗料は、少なくとも酸化物と銀を含有する微粒子と分散媒とを含有しており、この微粒子は、比表面積が1m/g以上かつ125m以下、タップかさ密度が0.1g/cm以上かつ2.0g/cm以下、この塗料中の平均二次粒子径が0.1μm以上かつ10μm以下であり、この塗料の粘度は2mPa・s以上かつ1000mPa・s以下である。
【0057】
上記の酸化物と銀を含有する微粒子を構成する酸化物は、アルミニウム、ジルコニウム、チタン、セリウム、ランタン、鉄、ケイ素、亜鉛、マグネシウム、マンガン、コバルトのうち1種または2種以上の元素の酸化物、またはこれらの元素のうち少なくとも1種の元素を含む複合酸化物であることが好ましい。
ここで、微粒子の成分をこれらの酸化物とした理由は、この多孔質膜形成用塗料により得られた多孔質膜の耐熱性を十分に確保することができるからである。例えば、DPF等のセラミックフィルタの場合、排ガスの温度が1000℃程度にまで上昇することがあるので、多孔質膜の材料に対しても1000℃程度までの耐熱性が必要になる。
上記の酸化物はアルミニウム、ジルコニウム、チタン、セリウム、ランタン、鉄のうち1種または2種以上の元素の酸化物、またはこれらの元素のうち1種または2種以上の元素を含む複合酸化物であることがより好ましく、さらに好ましくは、アルミニウム、ジルコニウム、セリウム、ランタンのうち1種または2種以上の元素の酸化物、またはこれらの元素のうち1種または2種以上の元素を含む複合酸化物である。
特に耐熱性や化学的安定性に特に優れているものとしては、酸化アルミニウムや酸化ジルコニウムを挙げることができる。
【0058】
上記の酸化物は、セリウムを含有する酸化物であることがさらに好ましい。
セリウムを含有する酸化物は、下記の(a)〜(c)のいずれかが好ましい。
(a)酸化セリウム単体
(b)ジルコニウム、イットリウム、希土類元素の群から選択される1種または2種以上の元素とセリウムとの複合酸化物
(c)ジルコニウム、イットリウム、希土類元素の群から選択される1種または2種以上の元素とセリウムとの複合酸化物と酸化セリウム単体との混合物
上記のセリウムを含有する酸化物を用いることによって、より活性酸素の放出が促進される。セリウムを含有する酸化物は酸素吸蔵放出能(OSC)を有しており、銀の存在により活性酸素を放出し易くなるためである。
【0059】
ここで、微粒子の成分として銀を用いた理由は、銀が酸化触媒特性を有しているからである。
ディーゼル車の排ガス浄化に用いられるDPFを再生する場合、DPFの温度を上昇させて、堆積した粒子状物質を燃焼除去させる操作を行うのが一般的である。本発明の酸化物と銀を含有する微粒子は、銀を成分として含んでいることから、酸化触媒特性、すなわち粒子状物質の燃焼触媒作用を有している。したがって、DPFの多孔質膜を酸化物と銀を含有する微粒子で形成することにより、再生時における粒子状物質の燃焼除去を促進させることができる。その結果、再生時に排ガス温度を上昇させて粒子状物質を燃焼させるために必要とする燃料を低減することができる。さらに、再生に要する時間を短縮したり、再生時の温度を下げることにより、DPFや酸化触媒としての酸化物及び銀を含有する微粒子の劣化を抑制することができる。
【0060】
次に、「タップかさ密度」について説明する。なお、この「タップかさ密度」とは、日本工業規格JIS R 1628−1997「ファインセラミックス粉末のかさ密度測定方法」に規定されている「タップかさ密度」のことであり、上記の規格には、タップかさ密度の測定方法についても規定されている。
この微粒子のタップかさ密度が真密度(真比重)より小さくなる原因は、微粒子間に空隙が生じるからである。すなわち、タップかさ密度が小さくなるほど微粒子間の空隙率が大きいことを示している。
【0061】
ここで、タップかさ密度を決定付ける主要因は、微粒子の比表面積と粒子形状である。粒子形状に差異が無い場合には、微粒子の比表面積が大きいほどタップかさ密度は小さくなり、得られる多孔質膜の気孔率は増大するが、気孔径は小さくなる。また、微粒子の比表面積が等しい場合には、微粒子の形状異方性が高いほどタップかさ密度は小さくなり、得られる多孔質膜の気孔率が増大し気孔径も大きくなる。
【0062】
したがって、本実施形態の多孔質膜形成用塗料に含まれる微粒子の比表面積とタップかさ密度を規定することにより、本実施形態の塗料を用いて形成される多孔質膜の気孔径と気孔率を制御することが可能となる。
【0063】
以上の点を考慮すると、多孔質膜を形成する酸化物と銀を含有する微粒子の比表面積は、1m/g以上かつ125m/g以下の範囲である。より好ましい比表面積の範囲は3m/g以上かつ100m/g以下であり、さらに好ましくは3m/g以上かつ80m/g以下である。
また、この微粒子のタップかさ密度は、0.1g/cm以上かつ2.0g/cm以下の範囲である。より好ましいタップかさ密度の範囲は0.3g/cm以上かつ1.8g/cm以下であり、さらに好ましくは0.5g/cm以上かつ1.5g/cm以下である。
【0064】
これは、酸化物と銀を含有する微粒子の比表面積とタップかさ密度を上記の範囲に限定すれば、本発明の目的とする平均気孔径が0.05μm以上かつ5μm以下、平均気孔率が35%以上かつ90%以下の多孔質膜を形成することができることを示している。
また、上記の範囲内で比表面積とタップかさ密度が異なる複数種の微粒子を混合して用いれば、多孔質膜の気孔径を所望の値に制御することができる。
【0065】
ここで、酸化物と銀を含有する微粒子の比表面積が125m/gを上回るか、またはタップかさ密度が0.1g/cmを下回ると、粒子径が過小となり、多孔質膜を得難くなったり、多孔質の平均気孔径が微粒子の形状に因らず小さくなるため平均気孔径を0.05μm以上に保つことが難しくなり、良好な多孔質膜が得られなくなるため好ましくない。
一方、比表面積が1m/gを下回るか、またはタップかさ密度が2.0g/cmを超えると、多孔質膜形成用塗料に含まれる微粒子の粒子径が過大となるために、平均気孔径が5μm以下の多孔質膜を得にくくなり、さらに塗料の安定性が低下して良好な塗料を得るのが難しくなるので、好ましくない。
【0066】
また、酸化物と銀を含有する微粒子中において、酸化物に対する銀の比率は0.5質量%以上かつ50質量%以下であることが好ましく、1質量%以上かつ40質量%以下がより好ましく、2質量%以上かつ30質量%以下が最も好ましい。
酸化物に対する銀の質量比が0.5質量%を下回ると、粒子状物質の酸化触媒性能を持つ銀の微粒子中の量が少なくなってしまい、この塗料を用いて形成した多孔質膜において、銀が粒子状物質の燃焼性向上に実質的に寄与しなくなってしまうため好ましくない。
一方、酸化物に対する銀の質量比が50%を上回ると、この塗料を用いて形成した多孔質膜において、銀微粒子同士の融着が進みやすくなり、フィルタへの熱付与に伴い銀を含有する酸化物微粒子の粒子状物質の酸化触媒性能が劣化しやすくなったり、多孔質膜の気孔径分布が変化しやすくなったりするため好ましくない。
【0067】
なお、微粒子に含有される銀は、価数が0の金属状態の銀だけでなく、酸化銀や硫化銀等の銀化合物の形態であってもよい。さらに例えば、金属銀微粒子の表面が酸化や硫化によって酸化銀や硫化銀になっていても良い。
このような酸化物と銀を含有する微粒子を分散媒中に分散させて、多孔質膜形成用塗料とする。
【0068】
次に、多孔質膜形成用塗料中の微粒子の平均二次粒子径は、0.1μm以上かつ10μm以下の範囲とされる。より好ましい平均二次粒子径の範囲は0.1μm以上かつ8μm以下であり、さらに好ましくは0.1μm以上かつ6μm以下である。
ここで、塗料中の微粒子の平均二次粒子径を上記の範囲に限定した理由は、塗料中の微粒子の平均二次粒子径が0.1μmを下回ると、この塗料を5μm以上かつ50μm以下の平均気孔径を有する排ガス浄化フィルタの多孔質支持体の表面に塗布した場合に、この塗料が多孔質支持体の内部に浸入し易くなり、多孔質支持体の表面に多孔質膜を形成することが難くなるので好ましくないからである。また、微粒子の平均二次粒子径が10μmを超えると、塗料の分散安定性を確保するのが困難になったり、均質な多孔質膜を得にくくなるので好ましくないからである。
【0069】
多孔質膜形成用塗料の粘度は、2mPa・s以上かつ1000mPa・s以下の範囲である。より好ましい粘度の範囲は2mPa・s以上かつ500mPa・s以下であり、さらに好ましくは2mPa・s以上かつ300mPa・s以下である。
ここで、多孔質膜形成用塗料の粘度を上記の範囲に限定した理由は、粘度が2mPa・sを下回ると、この塗料を、5μm以上かつ50μm以下の平均気孔径を有する排ガス浄化フィルタの多孔質支持体の表面に塗布した場合に、この塗料が多孔質支持体の気孔内に浸入し易くなり、多孔質支持体の表面に多孔質膜を形成することが難くなるので好ましくないからである。また、粘度が1000mPa・sを超えると、排ガス浄化フィルタのセルの内部に塗料を十分に浸透させることができなくなったり、排ガス浄化フィルタのセル中の余分な塗料を除去するのが困難になる等のため、所望の多孔質膜が形成されなかったり、均一な厚みの多孔質膜が形成し難くなったりするので好ましくないからである。
【0070】
多孔質膜形成用塗料中の酸化物と銀を含有する微粒子の含有率は、塗料の粘度、塗料中の微粒子の平均二次粒子径が本発明の範囲内となるように適宜選択することができるが、好ましくは2質量%以上かつ60質量以下、より好ましくは3質量%以上かつ50質量以下、さらに好ましくは5質量%以上かつ40質量以下である。
ここで、塗料中の微粒子の含有率が2質量%を下回ると、塗料の粘度が2mPa・sを下回り易くなったり、所望の膜厚を得るために塗工回数を増やす必要が生じる等により、生産性が劣るおそれがあるので好ましくない。また、微粒子の含有率が60質量%を超えると、塗料の分散安定性を確保するのが困難になったり、均一な多孔質膜を得難くなるので好ましくない。
【0071】
次に、多孔質膜形成用塗料の製造方法を示す。
始めに、上記の酸化物と銀を含有する微粒子を分散媒中に分散させて、多孔質膜形成用塗料とする。
この分散工程は、湿式法によることが好ましい。また、この湿式法で用いられる分散機としては、開放型、密閉型のいずれも使用可能であり、例えば、ボールミル、攪拌ミル、ジェットミル、振動ミル、アトライター、高速ミル、ハンマーミル等が好適に用いられる。
上記のボールミルとしては、転動ミル、振動ミル、遊星ミル等が挙げられ、また、攪拌ミルとしては、塔式ミル、攪拌槽型ミル、流通管式ミル、管状ミル等が挙げられる。
【0072】
分散媒としては、水または有機溶媒が好適に用いられ、その他、必要に応じて、高分子モノマーやオリゴマーの単体もしくはこれらの混合物も用いられる。
上記の有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、ジアセトンアルコール、フルフリルアルコール、エチレングリコール、ヘキシレングリコール等のアルコール類、酢酸メチルエステル、酢酸エチルエステル等のエステル類、ジエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル(メチルセロソルブ)、エチレングリコールモノエチルエーテル(エチルセロソルブ)、エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン、アセチルアセトン、アセト酢酸エステル等のケトン類、N,N−ジメチルホルムアミド等の酸アミド類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素等が好適に用いられ、これらの溶媒のうち1種のみ、または2種以上を混合して用いることができる。
【0073】
上記の高分子モノマーとしては、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル等のアクリル系またはメタクリル系のモノマー、エポキシ系モノマー等が好適に用いられる。また、上記のオリゴマーとしては、ウレタンアクリレート系オリゴマー、エポキシアクリレート系オリゴマー、アクリレート系オリゴマー等が好適に用いられる。
これらの分散媒のうち、塗料用として好ましいものは、水、アルコール類、ケトン類であり、これらの中でも、水、アルコール類がより好ましく、水が最も好ましい。
【0074】
この塗料では、酸化物と銀を含有する微粒子と分散媒との親和性を高めるために、この酸化物と銀を含有する微粒子の表面改質を行っても良い。表面改質剤としては、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、システアミン、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、アミノエタンジオール等が挙げられるが、これらに限定されるものではなく、酸化物微粒子の表面に吸着する官能基を有し、かつ分散媒と親和性を有する末端基を有する表面改質剤であれば良い。
【0075】
多孔質膜形成用塗料は、酸化物と銀を含有する微粒子と、DPF等の排ガス浄化フィルタの隔壁等の多孔質支持体との間にバインダー機能を持たせる等のために、親水性あるいは疎水性の高分子等を適宜含有してもよい。この高分子等は、上記の分散媒に溶解し、かつ塗料中の微粒子の平均二次粒子径及び塗料の粘度が所望の値になる範囲で適宜選択することができる。
【0076】
ここで、水を分散媒とした場合、親水性高分子としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリアクリルアミド、ポリスチレンスルホン酸、ポリアクリル酸ポリビニルビロリドン、ポリアリルアミン等の合成高分子;セルロース、デキストリン、デキストラン、デンプン、キトサン、ペクチン、アガロース、カラギーナン、キチン、マンナン等の多糖類及び多糖類由来の物質等の天然高分子;ゼラチン、カゼイン、コラーゲン、ラミニン、フィブロネクチン、エラスチン等のタンパク質及びタンパク質由来の物質;等を用いることができる。
また、これら合成高分子、多糖類、タンパク質等を由来とするゲル、ゾル等の物質を用いることもできる。
【0077】
なお、多孔質膜形成用塗料における上記の微粒子の質量に対する上記の高分子の質量の比(高分子の質量/微粒子の質量)は、塗料中の微粒子の平均二次粒子径及び塗料の粘度が所望の値になる範囲で適宜選択することができるが、0以上かつ1以下の範囲が好ましく、0以上かつ0.8以下の範囲がより好ましく、0以上かつ0.5以下の範囲が最も好ましい。
上記の高分子は、最終的に熱処理によって揮散、分解ないしは焼失し、多孔質膜には残存しない成分であるから、上記の比が1を超えると、高分子の含有率が高すぎてしまい、コストの上昇を招くことになるので好ましくない。また、親水性高分子は必ずしも用いる必要はないため、範囲の下限値は0となる。
【0078】
多孔質膜形成用塗料の分散安定性を確保したり、あるいは塗布性を向上させたりするために、界面活性剤、防腐剤、安定化剤、消泡剤、レベリング剤等を適宜添加してもよい。これらは、塗料中の微粒子の平均二次粒子径及び塗料の粘度が所望の範囲になるように適宜選択することができる。
これら界面活性剤、防腐剤、安定化剤、消泡剤、レベリング剤等の添加量に特に制限はなく、塗料の粘度及び塗料中の微粒子の平均二次粒子径が本発明の範囲内となるように、添加する目的に応じて加えればよい。
【0079】
この多孔質膜形成用塗料によれば、本発明の目的とする排ガス浄化フィルタに好適に用いられる、酸化物と銀を含有する微粒子を成分とし、平均気孔径が0.05μm以上かつ5μm以下、平均気孔率が35%以上かつ90%以下であり、均質性に優れた多孔質膜を容易に形成することができる。
この多孔質膜形成用塗料は、塗布するだけで塗布膜を形成することができるので、対象物の形状等の制約を受けることなく、その表面に均質性に優れた多孔質膜を容易に形成することができる。
【0080】
「多孔質膜」
本実施形態の多孔質膜は、上記の多孔質膜形成用塗料を多孔質支持体の表面に塗布して、微粒子等の固形成分の他溶媒等の液体成分も多く含む塗布膜を形成し、得られた塗布膜を乾燥後、熱処理することにより、得ることができる。
この多孔質膜の平均気孔径は0.05μm以上かつ5μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.05μm以上かつ3μm以下、さらに好ましくは0.1μm以上かつ2μm以下である。また、平均気孔率は35%以上かつ90%以下であることが好ましい。
塗布方法については、多孔質支持体の形状や材質に合わせて適宜選択すればよく、特に制限はないが、ウォッシュコート、ディップコート等、通常のウエットコート法を用いることができる。また、塗布した後に圧縮空気等を用いて塗布膜の膜厚以上の余分な塗布液を除去し、塗布膜の膜厚を調整してもよい。
【0081】
なお、塗布時においては、この多孔質支持体は乾燥した状態でもよいが、この多孔質支持体を溶媒に浸漬し、この多孔質支持体の気孔内の空気を予め溶媒で置換した状態としたものが好ましい。このようにする理由は、多孔質支持体の気孔内に残留している空気が、塗布工程中あるいはその後に多孔質支持体から気泡となって放出され、多孔質膜が部分的に形成されなくなるといった事態を抑制し、均一な多孔質膜が得られる効果があるからである。
【0082】
このように、塗布膜や多孔質支持体に溶媒が多く含まれているので、熱処理前に乾燥を行うことが好ましい。乾燥条件は溶媒の種類や使用量によるため一概には規定できないが、例えば水の場合では50℃以上かつ200℃以下にて15分以上かつ10時間以下程度であることが好ましい。
なおこの乾燥工程は、次に述べる熱処理工程と併せて行なってもよい。例えば、乾燥工程終了後そのまま昇温させて熱処理工程を行なってもよい。また、熱処理工程における昇温条件を調整し、熱処理工程中の昇温段階と乾燥工程とを兼ねさせることで、実質的に乾燥工程を省略することもできる。
【0083】
この塗布膜には、分散剤の他、必要に応じて上記の高分子、界面活性剤、防腐剤、安定化剤、消泡剤、レベリング剤等が添加されているので、これらを除去し、かつ塗布膜に微細孔構造を形成する等のために熱処理を行う。
熱処理温度は、200℃以上かつ2000℃以下が好ましく、より好ましくは300℃以上かつ1700℃以下である。
また、熱処理時間は、0.25時間以上かつ10時間以下が好ましく、より好ましくは0.5時間以上かつ5時間以下である。
この熱処理の際の雰囲気は、特に限定されず、大気等の酸化性雰囲気、窒素、アルゴン、ネオン、キセノン等の不活性雰囲気、水素、一酸化炭素等の還元性雰囲気、のいずれかの雰囲気中にて行うことができる。
【0084】
そして、本実施形態の多孔質膜を、平均気孔径が5μm以上かつ50μm以下の多孔質セラミックスからなる多孔質支持体の表面に形成することにより、上述した排ガス浄化フィルタ(ハニカム構造型フィルタ)を得ることができる。
【0085】
また、本実施形態の多孔質膜形成用塗料は、粘度が2mPa・s以上かつ1000mPa・s以下、含まれる微粒子の平均二次粒子径が0.1μm以上かつ10μm以下であるから、この多孔質膜形成用塗料を多孔質支持体の表面に直接塗布した場合においても、塗料が支持体の気孔内に実質的に浸入することなく、多孔質支持体の表面に均質な塗布膜を形成することができる。
したがって、本実施形態の多孔質膜形成用塗料を用いて多孔質支持体の表面に直接塗布膜を形成し、この塗布膜を熱処理することにより、上述した排ガス浄化フィルタ(ハニカム構造型フィルタ)を得ることができる。この排ガス浄化フィルタは、既に述べたように、従来の排ガス浄化フルタと比べて粒子状物質の捕集特性、及び再生時の特性に優れており、非常に優れた特性を有するものである。
【実施例】
【0086】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0087】
「実施例1」
(CeO/Ag粉末の作製)
酸化セリウム微粒子[1]100gを、銀換算で濃度2質量%の硝酸銀水溶液250gに含浸させた後に150℃で蒸発乾固させ、更に大気中500℃で2時間焼成を行い、CeO/Ag微粒子[1]を調製した。
このCeO/Ag微粒子[1]の比表面積は100m/g、タップかさ密度は0.7g/cmであった。
(塗料の作製)
このCeO/Ag微粒子[1]90g、ポリカルボン酸系分散剤9g、水201gをボールミルで2時間混合し、固形分が30質量%のCeO/Ag分散液[A]を得た。
このCeO/Ag分散液[A]167gに、メチルセルロース[A](25℃における2%水溶液の粘度が5mPa・s)を15質量%含む水溶液67g、水16gを加えてマグネチックスターラーを用いて1時間攪拌し、水中にCeO/Ag微粒子が分散した実施例1の塗料[A]を得た。
なお、以後の実施例、比較例においては、原則として「分散液」とは分散媒(溶媒)中に酸化物と銀を含有する微粒子を分散させただけのもの、「塗料」とはこの分散液に液の安定性や塗布性を考慮して各種の添加物を加えたものを示す。ただし、分散液自体が安定で塗布性に優れていれば、分散液をそのまま塗料とする場合がある。
【0088】
(多孔質膜の作製)
この塗料[A]を用いて多孔質膜を形成した。多孔質膜を形成する多孔質支持体としては、排ガス浄化フィルタとして用いられる炭化ケイ素(SiC)製のハニカム構造体(DPF、平均気孔径:10μm、気孔率:42%)を用いた。このハニカム構造体では、その隔壁が多孔質支持体となっている。このハニカム構造体は、予め純水に浸漬して気孔内に水を充填保持させておいた。
次いで、このハニカム構造体を塗料[A]に浸漬させた後に引き上げるディップコートを3回繰り返し行った。次いで、このディップコートを行ったハニカム構造体を150℃にて1時間乾燥し、さらに大気中500℃にて2時間熱処理し、ハニカム構造体の隔壁表面にCeO/Ag微粒子からなる多孔質膜を形成した。
【0089】
(塗料の評価)
この塗料[A]の25℃における粘度を、B型粘度計(東機産業(株)製)を用いて測定した。
また、この塗料[A]中のCeO/Ag微粒子の平均二次粒子径を、測定装置HPPS(Malvern Instruments社製)を用いて、動的光散乱法により測定した。
【0090】
(多孔質膜の評価)
上記の多孔質膜付きハニカム構造体を、ハニカム構造体の隔壁毎に小さく破断し、多孔質膜の表面及び多孔質膜が形成された隔壁の断面を、電界放射型走査電子顕微鏡(FE−SEM)S−4000(日立計測器サービス(株)社製)を用いて観察するとともに、膜厚の測定を行った。その結果、隔壁の表面には、CeO/Ag微粒子からなる多孔質膜が約15μmの厚みで形成されており、また、多孔質膜の主成分であるCeO/Ag微粒子は、隔壁の気孔内部にはほとんど存在していなかった。
【0091】
この多孔質膜の平均気孔径及び気孔率を、水銀ポロシメーター AutoPoreIV 9505(島津製作所社製)を用いて、水銀圧入法により測定した。なお、この測定結果は、多孔質膜と隔壁(多孔質支持体)を合わせたものとなるので、多孔質膜が形成されていないSiC製のハニカム構造体(DPF、平均気孔径:10μm、気孔率:42%)を対照として同様に測定し、両者の結果から多孔質膜の平均気孔径及び気孔率を算出した。
これら塗料及び多孔質膜の作製条件を表1に、得られた塗料及び多孔質膜の評価結果を表2に示す。
【0092】
なお、表1において、メチルセルロースの種類として示したA〜Eは、メチルセルロースの25℃における2質量%水溶液の粘度に対応する。具体的には、以下の通りである。
[A] 5mPa・s
[B] 20mPa・s
[C] 100mPa・s
[D] 2mPa・s
[E] 200mPa・s
【0093】
「実施例2」
微粒子としてセリウムとジルコニウムの組成比が1:1の複合酸化物(Ce0.5Zr0.5)微粒子[2]を用いた他は実施例1と同様にしてCe0.5Zr0.5O2/Ag微粒子[2](表1には「CZ/Ag」と記載)を得た。
このCe0.5Zr0.5/Ag微粒子[2]の比表面積は50m/g、タップかさ密度は1.1g/cmであった。
なお、ここでCe0.5Zr0.5と示すものは、あくまで微粒子全体としてのセリウムとジルコニウムの組成比が1:1の酸化物ということであって、セリウムとジルコニウムが1:1の組成比で完全に固溶した複合酸化物であるCeZrOだけではなく、セリウムとジルコニウムの組成比が異なる複合酸化物や、酸化セリウム単体が含まれていてもよい。
【0094】
このCe0.5Zr0.5/Ag微粒子[2]を用いた他は実施例1と同様にして固形分が30質量%のCe0.5Zr0.5/Ag分散液[B]を得た。
このCe0.5Zr0.5/Ag分散液Bを用いた他は実施例1と同様にして、水中にCe0.5Zr0.5O2/Ag微粒子が分散した実施例2の塗料[B]を得た。
この塗料[B]について、実施例1と同様にして多孔質膜の形成、塗料の評価、多孔質膜の評価を行った。
これら塗料及び多孔質膜の作製条件を表1に、得られた塗料及び多孔質膜の評価結果を表2に示す。
【0095】
「実施例3」
実施例2で作製したCe0.5Zr0.5/Ag分散液[B]167g、メチルセルロース[B](25℃における2%水溶液の粘度が20mPa・s)を15質量%含む水溶液18g、水65gを、マグネチックスターラーを用いて1時間攪拌・混合し、水中にCe0.5Zr0.5/Ag微粒子が分散した実施例3の塗料[C]を得た。
この塗料[C]について、実施例1と同様にして多孔質膜の形成、塗料の評価、多孔質膜の評価を行った。
これら塗料及び多孔質膜の作製条件を表1に、得られた塗料及び多孔質膜の評価結果を表2に示す。
【0096】
「実施例4」
実施例2で作製したCe0.5Zr0.5/Ag分散液[B]167g、メチルセルロース[B](25℃における2%水溶液の粘度が20mPa・s)を15質量%含む水溶液67g、水16gを、マグネチックスターラーを用いて1時間攪拌・混合し、水中にCe0.5Zr0.5/Ag微粒子が分散した実施例4の塗料[D]を得た。
この塗料[D]について、実施例1と同様にして多孔質膜の形成、塗料の評価、多孔質膜の評価を行った。
これら塗料及び多孔質膜の作製条件を表1に、得られた塗料及び多孔質膜の評価結果を表2に示す。
【0097】
「実施例5」
実施例2で作製したCe0.5Zr0.5/Ag分散液[B]167g、メチルセルロース[C](25℃における2%水溶液の粘度が100mPa・s)を15質量%含む水溶液67g、水16gを、マグネチックスターラーを用いて1時間攪拌・混合し、水中にCe0.5Zr0.5/Ag微粒子が分散した実施例5の塗料[E]を得た。
この塗料[E]について、実施例1と同様にして多孔質膜の形成、塗料の評価、多孔質膜の評価を行った。
これら塗料及び多孔質膜の作製条件を表1に、得られた塗料及び多孔質膜の評価結果を表2に示す。
【0098】
「実施例6」
微粒子としてランタンドープ酸化セリウム(La−CeO)微粒子(セリウムとランタンの組成比は9:1(Ce0.9La0.12−X))を用いた他は実施例1と同様にしてCe0.9La0.12−x/Ag微粒子[3]を得た。
このCe0.9La0.12−X/Ag微粒子[3]の比表面積は50m/g、タップかさ密度は1.1g/cmであった。
なお、ここでCe0.9La0.12−xと示すものは、あくまで微粒子全体としてのセリウムとランタンの組成比が9:1の酸化物ということであって、酸化セリウム結晶中に酸化ランタンが固溶した複合酸化物だけではなく、セリウムとランタンの組成比が9:1ではない複合酸化物や、酸化セリウム単体が含まれていてもよい。
【0099】
このCe0.9La0.12−x/Ag微粒子[3]を用いた他は実施例1と同様にして固形分が30質量%のCe0.9La0.12−x/Ag分散液[F]を得た。
このCe0.9La0.12−x/Ag分散液[F]を用いた他は実施例1と同様にして、水中にCe0.9La0.12−x/Ag微粒子が分散した実施例6の塗料[F]を得た。
この塗料[F]について、実施例1と同様にして多孔質膜の形成、塗料の評価、多孔質膜の評価を行った。
これら塗料及び多孔質膜の作製条件を表1に、得られた塗料及び多孔質膜の評価結果を表2に示す。
【0100】
「実施例7」
微粒子としてプラセオジムドープ酸化セリウム(Pr−CeO)微粒子(セリウムとプラセオジムの組成比は9:1(Ce0.9Pr0.12−X))を用いた他は実施例1と同様にしてCe0.9Pr0.12−x/Ag微粒子[4]を得た。
このCe0.9Pr0.12−X/Ag微粒子[4]の比表面積は50m/g、タップかさ密度は1.1g/cmであった。
なお、ここでCe0.9Pr0.12−xと示すものは、あくまで微粒子全体としてのセリウムとプラセオジムの組成比が9:1の酸化物ということであって、酸化セリウム結晶中に酸化プラセオジムが固溶した複合酸化物だけではなく、セリウムとプラセオジムの組成比が9:1ではない複合酸化物や、酸化セリウム単体が含まれていてもよい。
【0101】
このCe0.9Pr0.12−x/Ag微粒子[4]を用いた他は実施例1と同様にして固形分が30質量%のCe0.9Pr0.12−x/Ag分散液[G]を得た。
このCe0.9Pr0.12−x/Ag分散液[G]を用いた他は実施例1と同様にして、水中にCe0.9Pr0.12−x/Ag微粒子が分散した実施例7の塗料[G]を得た。
この塗料[G]について、実施例1と同様にして多孔質膜の形成、塗料の評価、多孔質膜の評価を行った。
これら塗料及び多孔質膜の作製条件を表1に、得られた塗料及び多孔質膜の評価結果を表2に示す。
【0102】
「実施例8」
微粒子としてイットリウムドープ酸化セリウム(Y−CeO)微粒子(セリウムとイットリウムの組成比は9:1(Ce0.90.12−X))を用いた他は実施例1と同様にしてCe0.90.12−x/Ag微粒子[5]を得た。
このCe0.90.12−X/Ag微粒子[5]の比表面積は50m/g、タップかさ密度は1.1g/cmであった。
なお、ここでCe0.90.12−xと示すものは、あくまで微粒子全体としてのセリウムとイットリウムの組成比が9:1の酸化物ということであって、酸化セリウム結晶中に酸化イットリウムが固溶した複合酸化物だけでなく、セリウムとイットリウムの組成比が9:1ではない複合酸化物や、酸化セリウム単体が含まれていてもよい。
【0103】
このCe0.90.12−x/Ag微粒子[5]を用いた他は実施例1と同様にして固形分が30質量%のCe0.90.12−x/Ag分散液[H]を得た。
このCe0.90.12−x/Ag分散液[H]を用いた他は実施例1と同様にして、水中にCe0.90.12−x/Ag微粒子が分散した実施例8の塗料[H]を得た。
この塗料[H]について、実施例1と同様にして多孔質膜の形成、塗料の評価、多孔質膜の評価を行った。
これら塗料及び多孔質膜の作製条件を表1に、得られた塗料及び多孔質膜の評価結果を表2に示す。
【0104】
「実施例9」
微粒子として酸化セリウム微粒子[6]を用いた他は実施例1と同様にしてCeO/Ag微粒子[6]を得た。
このCeO/Ag微粒子[6]の比表面積は3m/g、タップかさ密度は2.0g/cmであった。
このCeO/Ag微粒子[6]を用いた他は実施例1と同様にして固形分が30質量%のCeO/Ag分散液[I]を得た。
このCeO/Ag分散液[I]を用いた他は実施例1と同様にして、水中にCeO/Ag微粒子が分散した実施例9の塗料[I]を得た。
この塗料[I]について、実施例1と同様にして多孔質膜の形成、塗料の評価、多孔質膜の評価を行った。
これら塗料及び多孔質膜の作製条件を表1に、得られた塗料及び多孔質膜の評価結果を表2に示す。
【0105】
「実施例10」
(微粒子の作製)
微粒子として酸化アルミニウム微粒子[7]を用いた他は実施例1と同様にしてAl/Ag微粒子[7]を得た。
このAl/Ag微粒子[7]の比表面積は125m/g、タップかさ密度は0.1g/cmであった。
(塗料の作製)
このAl/Ag微粒子[7]45g、ポリカルボン酸系分散剤4.5g、水250gをボールミルで2時間混合し、固形分が15質量%のAl/Ag分散液[J]を得た。
このAl/Ag分散液[J]167gに、メチルセルロースA(25℃における2%水溶液の粘度が5mPa・s)を15質量%含む水溶液30g、水53gを加えてマグネチックスターラーを用いて1時間攪拌し、水中にAl/Ag微粒子が分散した実施例10の塗料[J]を得た。
【0106】
(多孔質膜の作製)
SiC製ハニカム構造体を塗料[J]に浸漬させた後に引き上げるディップコートを3回繰り返し行った。次いで、このディップコートを行ったハニカム構造体を150℃にて1時間乾燥し、さらに大気中500℃にて2時間熱処理した。さらに、ディップコート(3回)と、150℃乾燥(1時間)と、500℃熱処理)(2時間)の各工程をもう一度繰り返して行い、ハニカム構造体の隔壁表面にAl/Ag微粒子からなる多孔質膜を形成した。
これら塗料及び多孔質膜の作製条件を表1に、得られた塗料及び多孔質膜の評価結果を表2に示す。
【0107】
「実施例11」
微粒子として酸化アルミニウム微粒子[8]を用いた他は実施例1と同様にしてAl/Ag微粒子[8]を得た。
このAl/Ag微粒子[8]の比表面積は15m/g、タップかさ密度は0.8g/cmであった。
このAl/Ag微粒子[8]を用いた他は実施例1と同様にして固形分が30質量%のAl/Ag分散液[K]を得た。
このAl/Ag分散液[K]を用いた他は実施例1と同様にして、水中にAl/Ag微粒子が分散した実施例11の塗料[K]を得た。
この塗料[K]について、実施例1と同様にして多孔質膜の形成、塗料の評価、多孔質膜の評価を行った。
これら塗料及び多孔質膜の作製条件を表1に、得られた塗料及び多孔質膜の評価結果を表2に示す。
【0108】
「実施例12」
微粒子として酸化アルミニウム微粒子[9]を用いた他は実施例1と同様にしてAl/Ag微粒子[9]を得た。
このAl/Ag微粒子[9]の比表面積は1m/g、タップかさ密度は1.3g/cmであった。
このAl/Ag微粒子[9]を用いた他は実施例1と同様にして固形分が30質量%のAl/Ag分散液[L]を得た。
このAl/Ag分散液[L]を用いた他は実施例1と同様にして、水中にAl/Ag微粒子が分散した実施例11の塗料[L]を得た。
この塗料[L]について、実施例1と同様にして多孔質膜の形成、塗料の評価、多孔質膜の評価を行った。
これら塗料及び多孔質膜の作製条件を表1に、得られた塗料及び多孔質膜の評価結果を表2に示す。
【0109】
「比較例1」
実施例1で作製したCeO/Ag分散液[A]83g、メチルセルロース[D](25℃における2%水溶液の粘度が2mPa・s)を15質量%含む水溶液8g、水159gを、マグネチックスターラーを用いて1時間攪拌・混合し、水中にCeO/Ag微粒子が分散した比較例1の塗料[N]を得た。
【0110】
この塗料[N]について、実施例1と同様にして塗料の評価を行った。
また、この塗料[N]を用いて実施例1と同様にして多孔質膜の作製を行ったが、熱処理後のハニカム構造体の隔壁を電界放射型走査電子顕微鏡(FE−SEM)S−4000(日立計測器サービス(株)社製)により観察したところ、隔壁の表面には多孔質膜が形成されていなかった。
これら塗料及び多孔質膜の作製条件を表1に、得られた塗料及び多孔質膜の評価結果を表2に示す。
【0111】
「比較例2」
実施例1で作製したCeO/Ag分散液[A]167g、メチルセルロース[E](25℃における2%水溶液の粘度が200mPa・s)を15質量%含む水溶液67g、水16gを、手振りにて攪拌・混合し、水中にCeO/Ag微粒子が分散した比較例2の塗料[O]を得た。
【0112】
この塗料[O]について、実施例1と同様にして塗料の評価を行った。
また、この塗料[O]を用いて実施例1と同様にして多孔質膜の作製を行ったが、塗料[O]の粘度が高すぎるためにハニカム構造体の内部(DPFのセル内部)に塗料[O]が浸透せず、隔壁の表面に多孔質膜を形成することができなかった。
これら塗料及び多孔質膜の作製条件を表1に、得られた塗料及び多孔質膜の評価結果を表2に示す。
【0113】
「比較例3」
実施例10で用いたAl/Ag微粒子[7]45g、水250g、ポリカルボン酸系分散剤4.5gをジルコニアビーズを用いたサンドグラインダーで4時間分散処理し、固形分が15質量%のAl/Ag分散液[P]を得た。
このアルミナ/Ag分散液P167gに、メチルセルロース[A](25℃における2%水溶液の粘度が5mPa・s)を15質量%含む水溶液30g、水53gを加えてマグネチックスターラーを用いて1時間攪拌し、水中にAl/Ag微粒子が分散した比較例3の塗料[P]を得た。
【0114】
この塗料[P]について、実施例1と同様にして塗料の評価を行った。
また、この塗料[P]を用いて実施例10と同様にして多孔質膜の作製を行ったが、熱処理後のハニカム構造体の隔壁を電界放射型走査電子顕微鏡(FE−SEM)S−4000(日立計測器サービス(株)社製)により観察したところ、隔壁の気孔中にアルミナ/Ag微粒子が入り込み、この隔壁の表面には多孔質膜が形成されていなかった。
これら塗料及び多孔質膜の作製条件を表1に、得られた塗料及び多孔質膜の評価結果を表2に示す。
【0115】
「比較例4」
微粒子として酸化セリウム微粒子[10]を用いた他は実施例1と同様にしてCeO/Ag微粒子[10]を得た。
このCeO/Ag微粒子[10]の比表面積は1m/g、タップかさ密度は2.4g/cmであった。
このCeO/Ag微粒子[10]90g、水201g、ポリカルボン酸系分散剤9gを、ボールミルを用いて2時間混合し、固形分が30質量%のCeO/Ag分散液[Q]を得た。
このCeO/Ag分散液[Q]167gに、メチルセルロース[A](25℃における2%水溶液の粘度が5mPa・s)を15質量%含む水溶液67g、水16gを加えてマグネチックスターラーを用いて1時間攪拌し、水中にCeO/Ag微粒子が分散した比較例4の塗料[Q]を得た。
【0116】
この塗料[Q]は、撹拌を停止すると、直ちにCeO/Ag微粒子の沈降が始まり、短時間でCeO/Ag微粒子の沈殿物と上澄み液との2層に分離してしまった。これにより、この塗料Qは多孔質膜形成用塗料として適さないことが分かった。
これら塗料及び多孔質膜の作製条件を表1に、得られた塗料及び多孔質膜の評価結果を表2に示す。
【0117】
「比較例5」
微粒子として酸化アルミニウム微粒子[11]を用いた他は実施例10と同様にしてAl/Ag微粒子[11]を得た。
このAl/Ag微粒子[11]の比表面積は250m/g、タップかさ密度は0.07g/cmであった。
このAl/Ag微粒子[11]を用いた他は実施例10と同様にして水中にAl/Ag微粒子が分散した比較例5の塗料[R]を得た。
【0118】
この塗料[R]について、実施例1と同様にして塗料の評価を行った。
また、この塗料[R]を用いて実施例10と同様にして多孔質膜の作製を行ったが、熱処理後のハニカム構造体の隔壁を電界放射型走査電子顕微鏡(FE−SEM)により観察したところ、隔壁の気孔中にAl/Ag微粒子が入り込み、この隔壁の表面には多孔質膜が形成されていなかった。
これら塗料及び多孔質膜の作製条件を表1に、得られた塗料及び多孔質膜の評価結果を表2に示す。
【0119】
【表1】

【0120】
【表2】

【0121】
これらの評価結果によれば、実施例1〜12の塗料は、酸化物と銀を含有する微粒子と分散媒とを含有しており、上記微粒子の比表面積、タップかさ密度および塗料中の平均二次粒子径、ならびに塗料の粘度が適切に制御されていることから、SiC製のハニカム構造体の隔壁(多孔質支持体)表面に、多孔質支持体の平均気孔径よりも小さな平均気孔径を有する多孔質膜を形成することができた。
【0122】
一方、比較例1では、塗料の粘度が低すぎたために、この塗料が多孔質支持体の気孔内に入り込んでしまい、多孔質膜を形成することができなかった。
比較例2では、塗料の粘度が高過ぎたために、塗料をSiC製のハニカム構造体内に行き渡らせることができず、この隔壁(多孔質支持体)の表面に塗布膜を形成することができなかった。
比較例3では、酸化物と銀を含有する微粒子の二次粒子径が小さすぎたために、塗料が隔壁(多孔質支持体)の気孔内に入り込んでしまい、多孔質膜を形成することができなかった。
比較例4では、酸化物と銀を含有する微粒子の比表面積が小さすぎ、タップかさ密度が大きすぎたために、塗料自体を作製することができなかった。
比較例5では、酸化物と銀を含有する微粒子の比表面積が大きく、微粒子の二次粒子径が小さすぎたために、塗料が隔壁(多孔質支持体)の気孔内に入り込んでしまい、多孔質膜を形成することができなかった。
【符号の説明】
【0123】
10 DPF、11 フィルタ基体、12 ガス流路、12A 流入セル、12B 流出セル、13 多孔質膜、14 隔壁、30 粒子状物質、α,γ 端面、G 排ガス、C 浄化ガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハニカム構造型フィルタの多孔質支持体の表面に、この多孔質支持体の平均気孔径よりも小さな平均気孔径を有する多孔質膜を形成するための塗料であって、
少なくとも酸化物と銀とを含有する微粒子と分散媒とを含み、
前記微粒子は、比表面積が1m/g以上かつ125m/g以下、タップかさ密度が0.1g/cm以上かつ2.0g/cm以下、前記塗料中の平均二次粒子径が0.1μm以上かつ10μm以下であり、
前記塗料の粘度は2mPa・s以上かつ1000mPa・s以下であることを特徴とする多孔質膜形成用塗料。
【請求項2】
前記酸化物がアルミニウム、ジルコニウム、チタン、セリウム、ランタン、鉄、ケイ素、亜鉛、マグネシウム、マンガン、コバルトのうち1種または2種以上の元素の酸化物、またはこれらの元素のうち1種または2種以上の元素を含む複合酸化物であることを特徴とする請求項1記載の多孔質膜形成用塗料。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の多孔質膜形成用塗料を塗布した後に熱処理して形成することを特徴とする多孔質膜。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−269269(P2010−269269A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−124410(P2009−124410)
【出願日】平成21年5月22日(2009.5.22)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】