説明

多孔質防音構造体およびその製造方法

【課題】 広い周波数帯域幅で十分な吸音性能を確実に発揮させる。
【解決手段】 外装板1と多数の貫通穴2aを有した内装板2とを対向配置して形成されている。内装板2は、板厚、穴径および開口率が貫通穴2aを流通する空気に粘性作用を発生させる設計条件を満足するように設定されている。設定条件は、0.3以上の吸音率となる周波数帯域幅が共鳴周波数に対して10%以上に設定されている。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、騒音発生源からの音を低減する多孔質防音構造体およびその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】近年においては、多数の貫通穴が板面全体に形成された内装板を外装板に対して空気層を介して対向配置した構成とすることによって、ヘルムホルツ共鳴原理を利用して防音する多孔質防音構造体が注目されている。例えば特開平6-298014号公報には、ヘルムホルツ共鳴原理の一般式が“f=(c/2π)×√{β/(t+1.6b)d}”であることに着目し、この一般式に基づいて特定の共鳴周波数fの騒音を効率良く低減するように構成された多孔質防音構造体が開示されている。尚、上記の一般式は、音速cと開口率βと内装板の板厚tと穴径bと背後空気層厚dとをパラメータとして共鳴周波数fを示したものである。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記従来のように、ヘルムホルツ共鳴原理の一般式に基づいて構成された多孔質防音構造体では、パラメータの組み合わせ方によっては、共鳴周波数f以外の周波数の騒音に対する吸音率が極めて低くなることがあるため、複数の周波数をピーク成分として含む騒音に対して十分に吸音性能を発揮することができない場合がある。
【0004】即ち、例えば750Hzの共鳴周波数fとなるように上述の一般式に基づいてパラメータを決定して吸音率αと周波数との関係を調査したところ、図11に示すように、共鳴周波数fである750Hzにおいて吸音率αのピーク値が出現し、このピーク値から急激に吸音率αが低下する吸音特性を示すものがあることが確認された。そして、十分な吸音性能を発揮する吸音率αのしきい値として、“0.3”を設定した場合には、このしきい値における吸音特性の周波数帯域幅が41Hzになるため、共鳴周波数fの750Hzに対して6%の帯域幅でしか十分に吸音性能を発揮しないことが確認された。
【0005】この結果、従来においては、共鳴周波数以外の騒音に対する吸音性能が劣っていたり、或いは、優れた吸音性能のパラメータが得られるまで試作を繰り返さなければならないという問題がある。
【0006】従って、本発明は、広い周波数帯域幅で十分な吸音性能を確実に発揮する多孔質防音構造体およびその製造方法を提供するものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するために、請求項1の発明は、外装板と多数の貫通孔を有した内装板とのを対向配置して形成された多孔質防音構造体において、前記内装板の板厚、穴径および開口率が、前記貫通穴を流通する空気に粘性作用を発生させる設計条件を満足するように設定されていることを特徴としている。
【0008】上記の構成によれば、空気に粘性作用を発生させる設計条件を満足する板厚、穴径および開口率の内装板により多孔質防音構造体が形成されているため、粘性作用による空気振動の熱エネルギーへの変換が促進される結果、広い周波数帯域幅で十分な吸音性能を確実に発揮することになる。これにより、共鳴周波数の騒音の他、この周波数以外の騒音に対しても優れた吸音性能を有することになる。
【0009】請求項2の発明は、請求項1に記載の多孔質防音構造体であって、前記設定条件は、0.3以上の吸音率となる周波数帯域幅が共鳴周波数に対して10%以上に設定されていることを特徴としている。これにより、優れた吸音性能を一層確実に発揮させることができる。
【0010】請求項3の発明は、請求項1または2に記載の多孔質防音構造体であって、前記貫通穴の開口率が3%以下であることを特徴としている。これにより、十分な吸音性能を有するとともに、貫通穴を減らすことで内装板の作成時間を短縮することができ、製造コストを下げることができる。
【0011】請求項4の発明は、請求項1〜3のいずれかに記載の多孔質防音構造体であって、前記貫通穴の直径が3mm以下であって、防音対象の音源が70dB以上であることを特徴としている。
【0012】上記の構成によれば、粘性作用による吸音性能を有するとともに、貫通穴の直径が1mmよりも大きい場合には、圧力損失に相当する作用による空気振動の熱エネルギーへの変換が促進される結果、広い周波数帯域幅で十分な吸音性能を発揮することになる。圧力損失による減衰作用(流速の二乗に比例)は、粘性減衰作用(流速の一乗に比例)と比較して、流速の速い領域における吸音効果が顕著となり、音圧レベルの高い領域、特に、防音対象の70dB以上において優れた吸音性能を発揮することになる。
【0013】請求項5の発明は、請求項1〜4のいずれかに記載の多孔質防音構造体であって、前記貫通穴の直径が1mm以下であることを特徴としている。これにより、空気に粘性作用を確実に発生させることができる。
【0014】請求項6の発明は、請求項1〜5のいずれかに記載の多孔質防音構造体であって、前記内装板が、空気層を介して2枚以上設けられていることを特徴としている。これにより、内装板の枚数に応じた共鳴周波数が現れ、特定の周波数近辺だけではなく、複数の周波数帯域の吸音性能を向上させることができるため、広い周波数帯域で十分な吸音性能を確実に発揮する。
【0015】請求項7の発明は、外装板と多数の貫通穴を有した内装板とを対向配置して形成された多孔質防音構造体において、前記貫通穴の開口率が3%以下であることを特徴とする多孔質防音構造体である。
【0016】上記の構成によれば、十分な吸音性能を有するとともに、貫通穴を減らすことで内装板の作成時間を短縮することができ、製造コストを下げることができる。
【0017】請求項8の発明は、外装板と多数の貫通穴を有した内装板とを対向配置して形成された多孔質防音構造体において、前記貫通穴の直径が3mm以下であって、防音対象の音源が70dB以上であることを特徴とする多孔質防音構造体である。
【0018】上記の構成によれば、粘性作用による吸音性能を有するとともに、貫通穴の直径が1mmよりも大きい場合には、圧力損失に相当する作用による空気振動の熱エネルギーへの変換が促進される結果、広い周波数帯域幅で十分な吸音性能を発揮することになる。圧力損失による減衰作用(流速の二乗に比例)は、粘性減衰作用(流速の一乗に比例)と比較して、流速の速い領域における吸音効果が顕著となり、音圧レベルの高い領域、特に、防音対象の70dB以上において優れた吸音性能を発揮することになる。
【0019】請求項9の発明は、外装板と多数の貫通穴を有した内装板とを対向配置して形成された多孔質防音構造体において、前記貫通穴の直径が1mm以下であることを特徴としている。
【0020】上記の構成によれば、空気に粘性作用を発生させることによって、粘性作用による空気振動の熱エネルギーへの変換が促進される結果、広い周波数帯域幅で十分な吸音性能を確実に発揮することになる。これにより、共鳴周波数の騒音の他、この周波数以外の騒音に対しても優れた吸音性能を有することになる。
【0021】請求項10の発明は、外装板と多数の貫通穴を有した内装板とを対向配置して形成された多孔質防音構造体において、前記内装板が、空気層を介して2枚以上設けられていることを特徴としている。
【0022】上記の構成によれば、内装板の枚数に応じた共鳴周波数が現れ、特定の周波数近辺だけではなく、複数の周波数帯域の吸音性能を向上させることができるため、広い周波数帯域で十分な吸音性能を確実に発揮する。
【0023】請求項11の発明は、外装板と多数の貫通穴を有した内装板とを対向配置して形成された多孔質防音構造体の製造方法において、前記貫通穴を流通する空気に粘性作用を発生させる設計条件を少なくとも満足するように、前記内装板の板厚、穴径及び開口率を求めた後、該内装板を作成して前記外装板に組み付けることを特徴とする多孔質防音構造体の製造方法である。
【0024】上記の構成によれば、空気に粘性作用を発生させる設計条件を満足する内装板の板厚、穴径および開口率を設計段階で予め求めているため、試行錯誤により好適な板厚や穴径等の設計条件を求める場合よりも、短期間および低コストで優れた吸音性能を有した多孔質防音構造体を完成することが可能になる。
【0025】請求項12の発明は、外装板と多数の穴を有した内装板とを対向配置して形成された多孔質防音構造体の製造方法において、前記貫通穴を流通する空気に粘性作用を発生させる設計条件を少なくとも満足するように、防音対象の音源が70dB以上として前記内装板の板厚、穴径及び開口率を求めた後、少なくとも前記貫通穴の直径が3mm以下として前記内装板を作成して前記外装板に組み付けることを特徴とする多孔質防音構造の製造方法である。
【0026】上記の構成によれば、防音対象の音源が70dB以上として空気に粘性作用を発生させる設計条件を満足する内装板の板厚、穴径及び開口率を設計段階で予め求めた後、少なくとも貫通穴の直径が3mm以下としているため、試行錯誤により好適な板厚や穴径等の設計条件を求める場合よりも、短期間および低コストで優れた吸音性能を有した多孔質防音構造体を完成することが可能になる。また、防音対象の音源が70dB以上であるため、騒音源に応じた多孔質防音構造体を提供することが可能である。
【0027】
【発明の実施の形態】本発明の実施の形態を図1ないし図10に基づいて以下に説明する。
【0028】本実施の形態に係る多孔質防音構造体は、従来の吸音部材が用いられる部位に同様に適用することができるものであり、例えば内側の吸音と外側の遮音とを実現する防音囲の構成パネルとしてモータやギヤ等の多種多様の騒音源に対して使用される。また、ホールや居室等の吸音板としても適用できる。
【0029】多孔質防音構造体は、図1に示すように、例えば騒音が問題となるような外部に面した外装板1と、音源側に面した内装板2とを有している。これらの外装板1および内装板2は、鉄やアルミニウム等の金属や合成樹脂により形成されている。尚、外装板1および内装板2は、リサイクル時の分別処理を不要にするように、同一の材質で形成されていることが望ましい。
【0030】上記の外装板1と内装板2とは、空気層3を介して対向配置されている。また、内装板2には、円形状の貫通穴2aが多数形成されている。そして、空気層3の厚層d、開口率β、板厚tおよび穴径bからなるパラメータは、内装板2の貫通穴2aを通過する空気に対して粘性作用を生じさせるように設定されている。これにより、これらのパラメータで形成された多孔質防音構造体は、空気に粘性作用を生じさせることによって、吸音率が0.3以上となる周波数帯域幅が共鳴周波数fに対して10%以上となる吸音特性を有している。
【0031】即ち、多孔質防音構造体のパラメータは、上記の吸音特性を有するように、層厚dが10mm〜50mmの場合において、開口率βが3%以下、板厚tが0.3mm以上および穴径bが0.8mm以下の設計条件を基準として設定されている。尚、吸音率が0.3以上となる周波数帯域幅は、開口率βが小さく、板厚tが厚く、穴径bが小さくなるのに従って拡大する傾向にある。
【0032】具体的には、層厚dが25mm、開口率βが1%、板厚tが0.3mmおよび穴径bが0.5mmのパラメータに設定された場合には、図2に示すように、1100Hzの共鳴周波数fに対して97%となる1067Hzの周波数帯域幅の吸音特性を有した多孔質防音構造体となる。
【0033】また、層厚dが25mm、開口率βが1%、板厚tが1.0mmおよび穴径bが0.5mmのパラメータに設定された場合には、図3に示すように、750Hzの共鳴周波数fに対して107%となる806Hzの周波数帯域幅の吸音特性を有した多孔質防音構造体となる。
【0034】尚、空気に粘性作用が生じると、大きな吸音率の周波数帯域幅が拡大する理由は、空気の粘性作用により空気の振動に減衰性が発生するためである。
【0035】上記の構成において、多孔質防音構造体の製造方法について説明する。先ず、吸音対象となる騒音が、どのようなピーク成分の周波数特性を有しているのかが実測または推定される。そして、ピーク成分を含む周波数帯域幅の吸音率が0.3以上となる吸音特性となるように、層厚dが10mm〜50mm、開口率βが3%以下、板厚tが0.3mm以上および穴径bが0.8mm以下の設計条件を基準として空気粘性を考慮してパラメータが求められる。
【0036】次に、上記のパラメータでもって多孔質防音構造体が試作され、図1に示すように、騒音を発生する音源側に内装板2が位置するように配置される。そして、騒音を発生する音源側にマイクが配置され、音圧レベルを計測することにより吸音性能が確認される。この際、従来の製造方法においては、共鳴周波数fにのみ着目したヘルムホルツ共鳴原理の一般式のみに基づいてパラメータを求めていたため、狭い周波数帯域幅でしか十分な吸音性能を発揮しないパラメータを選択する場合があった。これにより、パラメータが不適切であると判定される確率が高いものになっていたため、試作を何回も繰り返し行わねばならないことがあった。
【0037】これに対し、本実施形態の製造方法によれば、広い周波数帯域幅で十分な吸音性能を発揮するパラメータを設計段階で予め求めているため、試作後の吸音性能の試験で不適切であると判定される確率が非常に小さなものとなる。この結果、試作回数を低減することができるため、短期間および低コストで所望の多孔質防音構造体を得ることができる。
【0038】次に、上記の設計条件の導出方法について説明する。板厚tが0.3mm、0.5mm、1.0mmに対して穴径bを0.5mm、1.0mm、3.0mm、開口率βを1%、3%、5%とした場合の吸音率を求めた。この結果、図4に示すように、板厚tが0.3mmの場合においては、穴径bが0.5mm以下であって、開口率βが3%以下のときに、吸音率が0.3以上になることが確認された。また、図5に示すように、板厚tが0.5mmの場合においては、穴径bが0.8mm以下であって開口率βが3%以下のときに、吸音率が0.3以上になることが確認された。また、図6に示すように、板厚tが1.0mmの場合においては、穴径bが0.8mm以下であって開口率βが5%以下のときに、吸音率が0.3以上になることが確認された。
【0039】これらの結果に基づいて吸音率が0.3以上になるパラメータの設計条件を求めたところ、層厚が10mm〜50mmの場合において、開口率βが3%以下、板厚tが0.3mm以上および穴径bが0.8mm以下であることが導き出された。
【0040】また、空気に粘性作用を生じさせることによって、吸音率が0.3以上となる周波数帯域が共鳴周波数fに対して10%以上となる吸音特性を有するように、対象音源が70dB以上の場合において、開口率βが3%以下、穴径bが3mm以下の設計条件を基準として設定されることも可能である。
【0041】上記の設計条件の導出方法について説明する。板厚tが0.8mmに対して穴径bを2mm、開口率βを2%とし、背後空気層950mmとし、70dB〜110dBの音圧を入射させた場合の吸音率を求めた。この結果、図7に示すように、音圧レベルが高いほど良好な吸音率を示すことが確認された。
【0042】また、板厚tが0.8mmに対して穴径bを3mm、背後空気層を30mmとし、開口率βを1%、3%、5%とした場合の吸音率と音圧レベルを求めた。この結果、図8に示すように、音圧レベルを高くするほど吸音率が大きくなっていることがわかる。開口率3%の場合は、音圧レベル70dBあたりから上の音圧範囲で、吸音率0.3以上を達成する。開口率1%の場合は、低い音圧レベルから吸音率0.3以上となっている。
【0043】これらの結果に基づいて吸音率が0.3以上になるパラメータの設計条件を求めたところ、70dB以上であれば、開口率βが3%以下で、穴径bが3mm以下であることが導き出された。
【0044】以上の通り、貫通穴の穴径が3mmの場合、圧力損失による減衰効果があるため、音圧レベルの高い騒音に対して有効であり、音圧レベルが高い場所の吸音に好適に用いられることになる。
【0045】次に、図9に示すように、内装板が空気層を介して2枚設けられている多孔質防音構造体について説明する。図9に示す多孔質防音構造体は、図1に示す多孔質防音構造体の内装板2側に、空気層3´を介して、更に多数の貫通穴2a´を有する内装板2´が設けられたものである。
【0046】具体的に、空気層3´の層厚dが20mm、内装板2´の開口率βが1%、板厚tが0.6mmおよび穴径bが0.5mmのパラメータに設定された場合には、図10に示すように、700Hz付近の共鳴周波数の他に、1700Hz付近の共鳴周波数を有することになり、内装板が1枚である場合と比較して、高い周波数帯域までの広い範囲で、高い吸音率を有することになる。
【0047】上記の実施形態において、更に内装板の枚数を増やすことにより、設置枚数に対応して、共鳴周波数が増えるため、更に高い周波数までの広い範囲で、高い吸音率を有するものとすることが可能である。なお、多孔板2の貫通穴2aの位置と、多孔板2´の貫通穴2a´の位置は、同じ位置で重なっていても、ずれていても、どちらでもよい。
【0048】尚、本実施形態においては、内装板2の貫通穴2aが円形状に形成された場合について説明しているが、これに限定されるものではなく、楕円形状や矩形状、多角形状、スリット状であっても良い。また、貫通穴2aは、同一のサイズおよび径に設定されている必要はなく、各種のサイズや径が混在していても良い。そして、各種のサイズや径が混在している場合には、十分な吸音性能を発揮する周波数帯域幅を拡大することができる。
【0049】また、本実施形態においては、内装板2の板厚、穴径および開口率のパラメータを調整することによって、貫通穴2aを貫通する空気に粘性作用を発生させるようになっているが、これらのパラメータ中の開口率が3%以下であることが望ましい。さらに、開口率にのみ着目して多孔質防音構造体が構成されていても良い。即ち、多孔質防音構造体は、外装板1と、開口率が3%以下である内装板2とを対向配置して形成されたものであっても良い。そして、このように開口率を3%以下に設定した場合には、図4ないし図6に示すように、貫通穴2aを流通する空気に粘性作用を発生させることが可能である。
【0050】また、本実施形態においては、内装板2の板厚、穴径および開口率のパラメータを調整することによって、貫通穴2aを貫通する空気に粘性作用を発生させるようになっているが、音源対象を70dB以上とする場合、これらのパラメータ中の貫通穴2aの穴径が3mm以下であることが望ましい。さらに、貫通穴2aの穴径にのみ着目して多孔質防音構造体が構成されていても良い。即ち、多孔質防音構造体は、外装板1と、直径が3mm以下の多数の貫通穴2aを有した内装板2とを対向配置して形成されたものであっても良い。そして、このように貫通穴2aの穴径を3mm以下に設定した場合には、図8に示すように、対象音源が70dB以上であれば、貫通穴2aを流通する空気に圧力損失による減衰作用を発生させることができる。
【0051】また、本実施形態においては、内装板2の板厚、穴径および開口率のパラメータを調整することによって、貫通穴2aを貫通する空気に粘性作用を発生させるようになっているが、これらのパラメータ中の貫通穴2aの穴径が1mm以下であることが望ましい。さらに、貫通穴2aの穴径にのみ着目して多孔質防音構造体が構成されていても良い。即ち、多孔質防音構造体は、外装板1と、直径が1mm以下の多数の貫通穴2aを有した内装板2とを対向配置して形成されたものであっても良い。そして、このように貫通穴2aの穴径を1mm以下に設定した場合には、図4ないし図6に示すように、1mmを境として吸音率が急激に立ち上がっていることから、貫通穴2aを流通する空気に粘性作用を確実に発生させることができる。
【0052】尚、貫通穴2aの直径の下限値は、0.2mmであることが好ましい。この理由は、貫通穴2aの直径が0に近づくと、その吸音率のピークが理論上1.0になるが、現実的には1.0に至ることはなく、直径が0.2mm以下のように極めて小さくなると、貫通穴2aの空気の粘性が大きくなりすぎるため、貫通穴2a部の空気の流れに対する抵抗が大きくなり、吸音率が却って低下すると考えられるからである。また、直径が0.2mm以下のように極めて小さくなると、製造が大幅に困難となり、使用環境によってはゴミや埃等により貫通穴2aが閉鎖し易くなるためである。
【0053】
【発明の効果】請求項1の発明は、外装板と多数の貫通孔を有した内装板とのを対向配置して形成された多孔質防音構造体において、前記内装板の板厚、穴径および開口率が、前記貫通穴を流通する空気に粘性作用を発生させる設計条件を満足するように設定されている構成である。
【0054】上記の構成によれば、空気に粘性作用を発生させる設計条件を満足する板厚、穴径および開口率の内装板により多孔質防音構造体が形成されているため、粘性作用による空気振動の熱エネルギーへの変換が促進される結果、広い周波数帯域幅で十分な吸音性能を確実に発揮することになる。これにより、共鳴周波数の騒音の他、この周波数以外の騒音に対しても優れた吸音性能を有するという効果を奏する。
【0055】請求項2の発明は、請求項1に記載の多孔質防音構造体であって、前記設定条件は、0.3以上の吸音率となる周波数帯域幅が共鳴周波数に対して10%以上に設定されている構成である。これにより、優れた吸音性能を一層確実に発揮させることができるという効果を奏する。
【0056】請求項3の発明は、請求項1または2に記載の多孔質防音構造体であって、前記貫通穴の開口率が3%以下である構成である。これにより、十分な吸音性能を有するとともに、貫通穴を減らすことで内装板の作成時間を短縮することができ、製造コストを下げることができるという効果を奏する。
【0057】請求項4の発明は、請求項1〜3のいずれかに記載の多孔質防音構造体であって、前記貫通穴の直径が3mm以下であって、防音対象の音源が70dB以上である構成である。
【0058】上記の構成によれば、粘性作用による吸音性能を有するとともに、貫通穴の直径が1mmよりも大きい場合には、圧力損失に相当する作用による空気振動の熱エネルギーへの変換が促進される結果、広い周波数帯域幅で十分な吸音性能を発揮することになる。圧力損失による減衰作用(流速の二乗に比例)は、粘性減衰作用(流速の一乗に比例)と比較して、流速の速い領域における吸音効果が顕著となり、音圧レベルの高い領域、特に、防音対象の70dB以上において優れた吸音性能を発揮するという効果を奏する。
【0059】請求項5の発明は、請求項1〜4のいずれかに記載の多孔質防音構造体であって、前記貫通穴の直径が1mm以下である構成である。これにより、空気に粘性作用を確実に発生させるという効果を奏する。
【0060】請求項6の発明は、請求項1〜5のいずれかに記載の多孔質防音構造体であって、前記内装板が、空気層を介して2枚以上設けられている構成である。これにより、内装板の枚数に応じた共鳴周波数が現れ、特定の周波数近辺だけではなく、複数の周波数帯域の吸音性能を向上させることができるため、広い周波数帯域で十分な吸音性能を確実に発揮する。
【0061】請求項7の発明は、外装板と多数の貫通穴を有した内装板とを対向配置して形成された多孔質防音構造体において、前記貫通穴の開口率が3%以下である構成である。
【0062】上記の構成によれば、十分な吸音性能を有するとともに、貫通穴を減らすことで内装板の作成時間を短縮することができ、製造コストを下げることができるという効果を奏する。
【0063】請求項8の発明は、外装板と多数の貫通穴を有した内装板とを対向配置して形成された多孔質防音構造体において、前記貫通穴の直径が3mm以下であって、防音対象の音源が70dB以上である構成である。
【0064】上記の構成によれば、粘性作用による吸音性能を有するとともに、貫通穴の直径が1mmよりも大きい場合には、圧力損失に相当する作用による空気振動の熱エネルギーへの変換が促進される結果、広い周波数帯域幅で十分な吸音性能を発揮することになる。圧力損失による減衰作用(流速の二乗に比例)は、粘性減衰作用(流速の一乗に比例)と比較して、流速の速い領域における吸音効果が顕著となり、音圧レベルの高い領域、特に、防音対象の70dB以上において優れた吸音性能を発揮するという効果を奏する。
【0065】請求項9の発明は、外装板と多数の貫通穴を有した内装板とを対向配置して形成された多孔質防音構造体において、前記貫通穴の直径が1mm以下である構成である。
【0066】上記の構成によれば、空気に粘性作用を発生させることによって、粘性作用による空気振動の熱エネルギーへの変換が促進される結果、広い周波数帯域幅で十分な吸音性能を確実に発揮することになる。これにより、共鳴周波数の騒音の他、この周波数以外の騒音に対しても優れた吸音性能を有することになるという効果を奏する。
【0067】請求項10の発明は、外装板と多数の貫通穴を有した内装板とを対向配置して形成された多孔質防音構造体において、前記内装板が、空気層を介して2枚以上設けられている構成である。
【0068】上記の構成によれば、内装板の枚数に応じた共鳴周波数が現れ、特定の周波数近辺だけではなく、複数の周波数帯域の吸音性能を向上させることができるため、広い周波数帯域で十分な吸音性能を確実に発揮する。
【0069】請求項11の発明は、外装板と多数の貫通穴を有した内装板とを対向配置して形成された多孔質防音構造体の製造方法において、前記貫通穴を流通する空気に粘性作用を発生させる設計条件を少なくとも満足するように、前記内装板の板厚、穴径及び開口率を求めた後、該内装板を作成して前記外装板に組み付ける構成である。
【0070】上記の構成によれば、空気に粘性作用を発生させる設計条件を満足する内装板の板厚、穴径および開口率を設計段階で予め求めているため、試行錯誤により好適な板厚や穴径等の設計条件を求める場合よりも、短期間および低コストで優れた吸音性能を有した多孔質防音構造体を完成することが可能になるという効果を奏する。
【0071】請求項12の発明は、外装板と多数の穴を有した内装板とを対向配置して形成された多孔質防音構造体の製造方法において、前記貫通穴を流通する空気に粘性作用を発生させる設計条件を少なくとも満足するように、防音対象の音源が70dB以上として前記内装板の板厚、穴径及び開口率を求めた後、少なくとも前記貫通穴の直径が3mm以下として前記内装板を作成して前記外装板に組み付ける構成である。
【0072】上記の構成によれば、防音対象の音源が70dB以上として空気に粘性作用を発生させる設計条件を満足する内装板の板厚、穴径及び開口率を設計段階で予め求めた後、少なくとも貫通穴の直径が3mm以下としているため、試行錯誤により好適な板厚や穴径等の設計条件を求める場合よりも、短期間および低コストで優れた吸音性能を有した多孔質防音構造体を完成することが可能になるという効果を奏する。また、防音対象の音源が70dB以上であるため、騒音源に応じた多孔質防音構造体を提供することが可能であるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】多孔質防音構造体の断面図である。
【図2】吸音特性を示すグラフである。
【図3】吸音特性を示すグラフである。
【図4】板厚が0.3mmの場合における吸音率と穴径と開口率との関係を示すグラフである。
【図5】板厚が0.5mmの場合における吸音率と穴径と開口率との関係を示すグラフである。
【図6】板厚が1.0mmの場合における吸音率と穴径と開口率との関係を示すグラフである。
【図7】穴径3mmの場合における吸音率と音圧レベルとの関係を示すグラフである。
【図8】穴径3mmの場合における音圧レベルと吸音率と開口率との関係を示すグラフである。
【図9】多孔質防音構造体の断面図である。
【図10】吸音特性を示すグラフである。
【図11】吸音特性を示すグラフである。
【符号の説明】
1 外装板
2 内装板
3a 貫通穴
4 空気層

【特許請求の範囲】
【請求項1】 外装板と多数の貫通穴を有した内装板とを対向配置して形成された多孔質防音構造体において、前記内装板の板厚、穴径および開口率が、前記貫通穴を流通する空気に粘性作用を発生させる設計条件を満足するように設定されていることを特徴とする多孔質防音構造体。
【請求項2】 前記設定条件は、0.3以上の吸音率となる周波数帯域幅が共鳴周波数に対して10%以上に設定されていることを特徴とする請求項1に記載の多孔質防音構造体。
【請求項3】 前記貫通穴の開口率が3%以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の多孔質防音構造体。
【請求項4】 前記貫通穴の直径が3mm以下であって、防音対象の音源が70dB以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の多孔質防音構造体。
【請求項5】 前記貫通穴の直径が1mm以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の多孔質防音構造体。
【請求項6】 前記内装板が、空気層を介して2枚以上設けられていることを特徴とする請求項1〜5に記載の多孔質防音構造体。
【請求項7】 外装板と多数の貫通穴を有した内装板とを対向配置して形成された多孔質防音構造体において、前記貫通穴の開口率が3%以下であることを特徴とする多孔質防音構造体。
【請求項8】 外装板と多数の貫通穴を有した内装板とを対向配置して形成された多孔質防音構造体において、前記貫通穴の直径が3mm以下であって、防音対象の音源が70dB以上であることを特徴とする多孔質防音構造体。
【請求項9】 外装板と多数の貫通穴を有した内装板とを対向配置して形成された多孔質防音構造体において、前記貫通穴の直径が1mm以下であることを特徴とする多孔質防音構造体。
【請求項10】 外装板と多数の貫通穴を有した内装板とを対向配置して形成された多孔質防音構造体において、前記内装板が、空気層を介して2枚以上設けられていることを特徴とする多孔質防音構造体。
【請求項11】 外装板と多数の貫通穴を有した内装板とを対向配置して形成された多孔質防音構造体の製造方法において、前記貫通穴を流通する空気に粘性作用を発生させる設計条件を少なくとも満足するように、前記内装板の板厚、穴径及び開口率を求めた後、該内装板を作成して前記外装板に組み付けることを特徴とする多孔質防音構造体の製造方法。
【請求項12】 外装板と多数の穴を有した内装板とを対向配置して形成された多孔質防音構造体の製造方法において、前記貫通穴を流通する空気に粘性作用を発生させる設計条件を少なくとも満足するように、防音対象の音源が70dB以上として前記内装板の板厚、穴径及び開口率を求めた後、少なくとも前記貫通穴の直径が3mm以下として前記内装板を作成して前記外装板に組み付けることを特徴とする多孔質防音構造の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2003−50586(P2003−50586A)
【公開日】平成15年2月21日(2003.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2001−188444(P2001−188444)
【出願日】平成13年6月21日(2001.6.21)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】