説明

多層シート及びその製造方法

【課題】熱可塑性樹脂フィルムなどからなるシートに大量の不活性粒子が含まれていてもダイ筋の発生を抑制でき、長時間にわたって連続生産できる多層シートとその製造方法を提供する。
【解決手段】不活性粒子20〜60重量%を含有する熱可塑性樹脂からなるA層と不活性粒子20〜60重量%を含有する熱可塑性樹脂からなるB層を2層以上交互に重ねてダイよりシート状に押し出しキャストする方法において、少なくとも前記B層が片面に露出しておりそのB層側を冷却ドラムに接触させて着地させることを特徴とする多層シートの製造方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂フィルムなどからなる多層シートとこの多層シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶テレビには、画面の輝度を向上させるために、バックライトを反射するシートとして反射率が高く隠蔽性の高い白色フィルムが用いられている。このような白色フィルムでは熱可塑性樹脂フィルム中に例えば無機顔料を大量に含有させることで反射率と輝度の向上が認められる場合がある。
【0003】
前述のような熱可塑性樹脂フィルム等からなるシートを製造するための代表的な方法として、熱可塑性樹脂の溶融物をダイリップから押出し、冷却ドラムで急冷固化させる方法が挙げられる。ただし、この製造方法ではダイリップから熱可塑性樹脂を溶融押出しする際に溶融物中の含有物や酸化物がダイに付着するが、このような付着物が成長すると筋状の欠点となり良好な製品フィルムが得られ難くなる等の問題が生じる。
【0004】
そこで、このような問題を解消するために特許文献1において、熱可塑性樹脂を溶融押出するダイに対してセラミック被覆を施し、熱可塑性樹脂との離れ性を向上させることが提案されている。しかしながら、セラミックスは一般に硬度は高いが靱性に乏しく衝撃を受けると欠け易い材料である。このため、付着物を取り除くためにセラミックスで被覆されたシャープエッジを有するダイリップの先端を金属ヘラで掻く際に欠けが生じるという問題がある。
【0005】
また、特許文献2には、ダイ筋の発生を抑制する方法として、熱可塑性樹脂チップの水分率を40〜60ppmの範囲に制御する方法が開示されている。しかしながら、この方法を適用したチップを使用して得られたフィルムでは、その固有粘度が下がり過ぎ延伸工程でフィルムが切断するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平1−281916号公報
【特許文献2】特開平7−40417号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上記従来技術では解決できなかったダイ筋を抑制するという課題に対し、熱可塑性樹脂フィルムなどからなるシートに大量の不活性粒子が含まれていてもダイ筋の発生を抑制でき、長時間にわたって連続生産できる多層シートとその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ここに、前記課題を解決するための発明として、「不活性粒子20〜60重量%を含有する熱可塑性樹脂からなるA層と不活性粒子20〜60重量%を含有する熱可塑性樹脂からなるB層を2層以上交互に重ねてダイよりシート状に押し出しキャストする方法において、少なくとも前記B層が片面に露出しておりそのB層側を冷却ドラムに接触させて着地させることを特徴とする多層シートの製造方法」が提供される。
このとき、本発明においては、前記不活性粒子が硫酸バリウムおよび/または酸化チタンであることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によればシートに大量の不活性粒子が含まれていてもダイ筋の発生を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の多層シートの製造方法に係る一実施形態例の側面図である。
【図2】図1の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。図1及び図2は、本発明の多層シートの製造方法に係る一実施形態を例示した側面図であり、符号1はダイ、符号2は冷却ドラム、符号3はメルト、符号4はシートをそれぞれ示す。
【0012】
本発明に係る多層シートの製造方法では、乾燥後の熱可塑性樹脂チップを図示省略した2台の押出機に供給して溶融し、ダイ1より押し出してメルト3としてシート状に成形する。その後、回転冷却ドラム2上で急冷固化して多層シート4を得る。
【0013】
本発明でいう「ダイ筋」とは、シート押出し成形方向の断面で観察すると凸状、または凹状形状を示すものである。例えば、ポリエステルシートの表面に押出し方向と同一方向に凸状の筋、または凹み状の筋となる欠陥をいう。
【0014】
なお、このダイ筋は、厚さ100μmのシートに対して、0.2〜2μm程度の高さ、または深さの筋を有する場合が多く、大きいものは肉眼でも観察し得る。このようなダイ筋が発生すると、すぐに生産を中断して、銅等の金属へらでダイリップへ付着した付着物を除去清掃しなければならない。
【0015】
このダイ筋の発生を抑制を評価する尺度としては、ダイ筋が管理限界を超えた高さになりリップ清掃をするまでの連続生産日数を採用することができ、このような評価試験から、不活性粒子を多く含む樹脂ほどダイ筋が発生しやすく、清掃までの連続生産日数が短い傾向と判ってきた。
【0016】
また、リップ清掃した銅へらから採取した樹脂を分析すると不活性粒子が多めに検出されるもとがわかってきた。そこで、ダイ筋の発生原因が、不活性粒子がダイ吐出口のシャープエッジ付近に付着し、これが核となってシート表面にダイ筋を形成するものと考えられる。
【0017】
本発明では図2のように不活性粒子を大量に含有する熱可塑性樹脂からなるB層が最表層に露出し、このB層を冷却ドラム2に着地させて冷却固化し、ダイ筋を抑制することを特徴とする。本発明の方法によると、熱可塑性樹脂が溶融状態から固化する途中のメルト3は柔らかいので、ダイリップから出て冷却ドラムに着地させて密着させることでB層のメルト表面が平坦化されダイ筋を平坦化することができる。
【0018】
本発明において、反射面を構成する層をB層、他方の層をA層とすると、白色積層ポリエステルフィルムを構成するポリエステルA層は粒子を、好ましくは1〜30重量%、さらに好ましくは1〜15重量%含有する。1重量%未満であると滑性が低下して巻取りが難しくなり好ましくなく、30重量%を超えると破れやすいフィルムとなり、製膜性が低下して好ましくない。
【0019】
他方でB層の組成物は不活性粒子を20〜60重量%含有する。このとき、20重量%未満であっても良いがフィルムとしての機能が低下したりする、60重量%を超えると延伸する際に切断しすくなる。B層の不活性粒子は、その平均粒径が0.3〜3.0μmが好ましく、平均粒径が0.3μm未満であると分散性が極端に悪くなり、粒子の凝集が起こるため生産工程上のトラブルが発生しやすい。
【0020】
なお、粒子の平均粒径は、島津製作所製CP―50型セントリフュグル パーティクル サイズ アナライザー(Centrifugal Particle Size Analyzer)を用いて測定した。得られる遠心沈降曲線を基に算出した各粒径の粒子とその存在量との積算曲線から、50マスパーセントに相当する粒径を読み取り、この値を上記平均粒径とした(「粒度測定技術」日刊工業新聞社発行、1975年、頁242〜247参照)。
【0021】
不活性粒子としては、フィルムの可視光透過率を下げ反射性能を向上させる観点では好ましくは白色顔料を用いる。白色顔料としては、例えば、酸化チタン、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、二酸化珪素、好ましくは、硫酸バリウムおよび/または酸化チタンを用いる。硫酸バリウムは板状、球状いずれの粒子形状でもよい。硫酸バリウムを用いることで一層良好な反射率を得ることができる。酸化チタンを用いる場合、ルチル型酸化チタンを例示できる。
【0022】
本発明において、多層シートは熱可塑性樹脂を従来から知られる方法で2層以上に積層してダイより押出して得られる。このようなダイとしては、例えばダイ内で2層以上の溶融樹脂が層状に合流可能な多層押出用ダイを挙げることができる。なお、フィードブロックにより2層以上の溶融樹脂が層状に合流できるダイであってもよい。
【0023】
多層シート4は、次いでロール、ステンター等により逐次に、あるいは同時に縦、横の二軸方向に延伸してフィルムに成形して良く、従来公知の方法が適用できる。例えば、ロール周速差などにより縦方向に2〜6倍、ステンター法等により横方向に2〜6倍、逐次延伸し、160〜250℃程度の熱固定を行う方法を挙げることができる。
【0024】
本発明における熱可塑性樹脂は、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレート等のポリエステル類、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン類、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド類、ポリイミド類、ポリスチレン類、ポリカーボネート類、ポリビニル類等の溶融押出し成形に用いられる樹脂である。
【0025】
本発明は、これらのうち、二軸延伸した際にダイ筋が有ると重要な品質欠陥となるポリエステル類に特に好適である。ポリエステル類とは、ジカルボン酸成分とグリコール成分からなるポリエステルである。このジカルボン酸成分としては、例えばテレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸の如き芳香族ジカルボン酸が好ましく、またグリコール成分としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、テトラメチレングリコール、ネオペンチルグリコールの如きグリコールが好ましい。
【0026】
本発明におけるポリエステルは、例えば芳香族ジカルボン酸とグリコールとを直接重縮合させて得ることができるが、芳香族ジカルボン酸のジアルキルエステルとグリコールとをエステル交換反応させた後重縮合させる方法によっても得ることができる。
【0027】
このようなポリマーの代表例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレートを挙げることができる。また、ポリエステルは、これらの共重合体であってもよく、あるいは、これら以外の第3成分を共重合させたものであってもよい。
【0028】
上記熱可塑性樹脂には、安定剤、滑剤、ピンニング剤、粘度調整剤、酸化防止剤、顔料、着色染料、蛍光増白剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤等を含有させてもよい。
【実施例】
【0029】
以下、実施例によって本発明を更に説明する。なお、表中のダイ筋発生時間は下記の要領で評価した。
(1)ダイ筋発生時間の評価
ダイ筋の限度見本として2軸延伸後のポリエステルフィルムでダイ筋の高さ1umのものを用意した。この見本と製膜中の2軸延伸フィルムの両面を目視で観察比較し、見本より筋が目立つ時までの経過時間をダイ筋発生時間とし、その後リップ清掃を行った。
【0030】
[実施例1]
まず図1に示す構成の装置を用い、B層が冷却ドラム2に着地するようにして2層シートを作成した。
熱可塑性樹脂として固有粘度(オルトクロロフェノール、35℃)0.64dl/gのイソフタル酸ポリエチレンテレフタレートで共重合成分が12mol%に、平均粒径0.8μmの硫酸バリウムをA層に4重量%含有させ、B層に50重量%含有させたものを準備した。
ついで、2台の押出機に投入し、吐出重量比をA層:B層=1:3に設定しフィードブロックでA層とB層を2層に重ね合わせ270℃に加熱されたダイ1から押し出してメルト3とし、表面温度20℃、周速15m/分の冷却ドラム2に接触させて急冷固化させ2層シート4とした。ついで、90℃、3.2倍で縦延伸した後、120℃、3.4倍で横延伸し、188umの2軸延伸ポリエステルフィルムを連続して巻き取った。
ダイ筋発生までの時間は約40時間であった。
【0031】
[実施例2、3]
B層の顔料濃度を変更した以外は実施例1と同様の条件で製膜した。
【0032】
[実施例4]
A層とB層の顔料を変更した以外は実施例1と同様の条件で製膜した。
【0033】
[比較例1〜4]
冷却ドラムへの着地をA層にする以外は、実施例と同様の条件で製膜した。ダイ筋発生時間は極めて短い結果となった。
【0034】
【表1】

【符号の説明】
【0035】
1 ダイ
2 冷却ドラム
3 メルト
4 シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不活性粒子20〜60重量%を含有する熱可塑性樹脂からなるA層と不活性粒子20〜60重量%を含有する熱可塑性樹脂からなるB層を2層以上交互に重ねてダイよりシート状に押し出しキャストする方法において、少なくとも前記B層が片面に露出しておりそのB層側を冷却ドラムに接触させて着地させることを特徴とする多層シートの製造方法。
【請求項2】
前記不活性粒子が硫酸バリウムおよび/または酸化チタンである、請求項1に記載の多層シートの製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の多層シートの製造方法により製造された多層シート。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−280162(P2010−280162A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−136232(P2009−136232)
【出願日】平成21年6月5日(2009.6.5)
【出願人】(301020226)帝人デュポンフィルム株式会社 (517)
【Fターム(参考)】