説明

多層セラミック基板の製造方法

【課題】多層セラミック基板を製造するにあたって、内部歪みを解消する多層セラミック基板の製造方法を提供すること。
【解決手段】セラミックグリーンシートを複数積層した積層体を焼成して多層セラミック基板を製造する多層セラミック基板の製造方法であって、セラミックグリーンシートを積層して積層体の一部をなす部分積層体を形成し、部分積層体を積層方向に加圧して固定する仮プレス工程と、仮プレス工程で加圧された部分積層体と、仮プレス工程で加圧を施していないセラミックグリーンシートとを積層し、仮プレス工程よりも高圧で積層方向に加圧して積層体として一体化する本プレス工程と、本プレス工程で一体化された積層体を焼成する焼成工程と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層セラミック基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多層セラミック基板は、高周波パッケージ基板として広く用いられている。多層セラミック基板は、内層に自在なパターン回路を形成することが可能であるが、マイクロ波・ミリ波帯などの高周波回路基板においては、基板内部に導波管や同軸構造を形成し信号を伝播する方式が採用されている。
【0003】
多層セラミック基板は、基材内の導体パターン回路や配線が不均一であると、焼成収縮差が生じ基板全体の反りや歪みとなることはもとより、積層プレス工程においても密度差により歪みが生じる。特に導波管構造は、パターン配置が不均一なため、基板内部構造に歪みが生じ、形状歪みは特性に大きく影響することが分かっている。
【0004】
特許文献1には、特にキャビティ層を形成する多層セラミック基板について、キャビティ底面層の平坦化を目的としキャビティ層の異なる層についてセクションに分け、別々に仮圧着し、最後に一体化する分割積層プレス方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2007−514302号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記した従来の製造方法では、回路導体(パターン、ヴィア)密度差による歪みについて何ら改善するものではない。また、製造工程が複雑である。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、多層セラミック基板を製造するにあたって、内部歪みを解消する多層セラミック基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、セラミックグリーンシートを複数積層した積層体を焼成して多層セラミック基板を製造する多層セラミック基板の製造方法であって、セラミックグリーンシートを積層して積層体の一部をなす部分積層体を形成し、部分積層体を積層方向に加圧して固定する仮プレス工程と、仮プレス工程で加圧された部分積層体と、仮プレス工程で加圧を施していないセラミックグリーンシートとを積層し、仮プレス工程よりも高圧で積層方向に加圧して積層体として一体化する本プレス工程と、本プレス工程で一体化された積層体を焼成する焼成工程と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、パターン密度差のある回路構成においても、内部歪みのない、要求機能を満たす多層セラミック基板が簡単に製造でき、品質向上に寄与するという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1−1】図1−1は、本発明にかかる多層セラミック基板の実施の形態の断面模式図である。
【図1−2】。図1−2は、実施の形態にかかる多層セラミック基板の導波管部を拡大した断面模式図である。
【図2−1】図2−1は、セラミック層の平面図である。
【図2−2】図2−2は、セラミック層の平面図である。
【図2−3】図2−3は、セラミック層の平面図である。
【図3】図3は、導波管部の製造方法を示すフローチャートである。
【図4】図4は、従来の手法によって積層プレスされた多層セラミック基板の導波管部の断面模式図である。
【図5−1】図5−1は、1次積層・仮プレス工程を示す図である。
【図5−2】図5―2は、2次積層・仮プレス工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明にかかる多層セラミック基板の製造方法の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0012】
実施の形態.
図1−1は、本発明にかかる多層セラミック基板の実施の形態の断面模式図である。図1−2は、実施の形態にかかる多層セラミック基板10の導波管構造が設けられた部分(導波管部)1を拡大した断面模式図である。導波管部1は、セラミック層1a〜1fを含んで構成されており、各セラミック層1a〜1fには、ヴィア導体3及び導体パターン4が所定の位置に形成されている。電波伝播のための導波管構造を設けるための各セラミック層1a〜1fの導体パターン4は接地用導体であり、矩形状のヌキ2が設けられている。ヌキ2の大きさは伝播しようとする電波の波長と、セラミック層の誘電率などとを勘案した寸法となっている。さらに、ヌキ2の周辺を取り巻く形でヴィア導体3が配置されている。ヴィア導体3は、上下セラミック層の接地導体間の接続のために加え、導波管構造の壁の役割を果たすように、電波の波長とセラミック層の誘電率とを勘案した寸法で配置されている。このように、ヌキ2を設けた接地用の導体パターン4とヴィア導体3とを所定の位置に配置したセラミック層1a〜1fを重ねることにより、導波管構造を得る。
【0013】
導波管部1は、サイズの異なる二つの導波管構造を有する。第1の導波管1は、セラミック層1a、1b及び1cによって構成されており、第2の導波管1は、セラミック層1d、1e及び1fによって構成されている。上記のように、第1の導波管1及び第2の導波管1は、ヌキ2を設けた接地用の導体パターン4とヴィア導体3とを配置したセラミック層1a〜1fを重ね合わせることにより構成されている。
【0014】
図2は、セラミック層1a〜1fの一例を示す平面図である。図2−1は、セラミック層1a、1b及び1cの平面図である。図2−2は、セラミック層1dの平面図である。図2−3は、セラミック層1e及び1fの平面図である。接地用の導体パターン4のヌキ2は、いずれも平面視が矩形長方形の形状であるが、第1の導波管1と第2の導波管1とではサイズが異なっている。また、図示するように、接地用の導体パターン4のヌキ2の周囲にヴィア導体3が密集して配置されている。なお、簡略化のために図2−1〜図2―3においては導体パターン4はベタで図示しているが、実際には導体パターン4は所定の回路パターンで形成されている。
【0015】
このように、導波管構造を有する導波管部1のセラミック層1a〜1fは、セラミックのみのヌキ2の周囲に接地された導体パターン4及びヴィア導体3が密集して配置されている。
【0016】
次に、多層セラミック基板10の製造方法について説明する。図3は、導波管部1の製造方法を示すフローチャートである。まず、ヴィア導体3を形成するためにヴィアホールを形成する工程(穴あけ工程)を実行する。穴あけ工程は、セラミックグリーンシート(以下「グリーンシート」と表記する)に対して、パンチングなどの方法で穴を形成する工程である。使用するグリーンシートは、例えば厚さ100μm、形成する穴は例えば150μmである。
【0017】
穴あけ工程が完了した後、穴あけ工程で形成したヴィアホールに導体ペーストを充填する工程(ヴィア充填工程)を行う。ヴィア充填工程では、例えばスクリーン印刷法を用いて導体ペーストが充填される。
【0018】
ヴィア充填工程が完了した後、配線などの導体パターンをグリーンシートに印刷する工程(パターン印刷工程)を行う。導体パターンを印刷するにあたっては、例えばスクリーン印刷法を用いる。図2に示したように、セラミック層1a〜1fは接地用の導体パターン4の中に矩形状のヌキ2が形成されており、ヌキ2の周囲を取り巻くようにヴィア導体3が形成されている。したがって、グリーンシートにも同様の配置でヴィア導体3や導体パターン4を設ける。なお、グリーンシートへ印刷する導体パターンは、これに限定されるものではなく、任意の形状の導体パターンを印刷できる。
【0019】
パターン印刷工程が完了した後、積層・プレス工程を行う。積層・プレス工程は、ヴィア導体及び導体パターンが形成されたグリーンシートを積層させてプレスする工程である。グリーンシートを積層する際は、例えば、平面上の同一箇所に加工された穴を合わせることによってグリーンシート同士の相対位置を合わせた上で積層する。以下、図3における“n”は3である場合を例として説明する。
【0020】
また、プレス加工の方法は、例えば液体を媒体とした等方水圧プレス法を用いることができる。プレス方法はこれに限定されることはなく、グリーンシート同士を密着させることができればどのようなプレス方法でも適用可能である。
【0021】
図4は、従来の手法によって積層プレスされた多層セラミック基板の導波管部1’の断面模式図である。図1と比較すると、第2の導波管1’が第1の導波管1’によって歪められており、歪み量はほぼセラミック層の厚さに相当する。これは第1の導波管1’を構成するヴィア導体3’が第2の導波管1’のヌキ部2’の上に位置しており、プレスによる圧力に対して両者の変形しやすさの違いによるものである。つまり、第2の導波管1’のヌキ2’の部分の導体パターン4’は、第1の導波管1’のヴィア導体3’よりも変形しやすく、ヴィア導体3’が変形する前にヌキ2’の部分の導体パターン4’が変形してしまった結果であると考えられる。
【0022】
図5は、本実施の形態に係る多層セラミック基板の製造方法における積層・プレス工程を示す図である。図5−1は、1次積層・仮プレス工程を示す図である。多層セラミック基板の完成後には第2の導波管1を構成するセラミック層1d、1e及び1fとなるグリーンシート5d、5e及び5fを積層し、これらをプレス加工することによって1次積層体12Bを得る。
【0023】
図5―2は、2次積層・仮プレス工程を示す図である。1次積層体12Bの上に多層セラミック基板の完成後にはセラミック層1a、1b及び1cとなるグリーンシート5a、5b及び5cを、グリーンシート5c、グリーンシート5b、グリーンシート5aの順で積層する。これを仮プレスし2次積層体1を得る。仮プレス工程での圧力は、例えば5〜10MPaの圧力を等方水圧プレス機で加圧する。
【0024】
1次積層体12Bを仮プレスする圧力と、2次積層体1を仮プレスする圧力とは、同じであっても良い。
【0025】
さらに、多層セラミック基板10の導波管部1以外の部分を構成する不図示のグリーンシートを2次積層体1の上に積層して、本プレスする。本プレス圧力は、例えば30〜45MPaの圧力を等方水圧プレス機で加圧した。
【0026】
このようにして得られた多層セラミック基板10の導波管部1では、第2の導波管1の歪みはグリーンシート5a〜5fの厚さに対し50%以下(プレスによってグリーンシート5a〜5fは圧縮固化するため、実測値としては40μm以下)に抑えることができた。
【0027】
ここで、第2の導波管1となるグリーンシート5d、5e及び5fのみを仮プレスした1次積層体12Bは、プレス圧力によって圧縮固化し、仮プレス前よりも変形しにくい。一方、第1の導波管1を構成するセラミック層1a、1b及び1cとなるグリーンシート5a、5b及び5cは、プレスされていない状態であり、1次積層体12Bに比べ変形しやすい。そのため、1次積層体12Bの上に第1の導波管1を構成するセラミック層1a、1b及び1cとなるグリーンシート5a、5b及び5cを積層してプレスしても、第2の導波管1の歪みは抑制される。
【0028】
本プレスの圧力は仮プレス工程の圧力よりも高いため、全体を一体化することが可能である。1次積層体12Bの仮プレス圧力と2次積層体1の仮プレス圧力は本プレスする圧力に近いほど内部歪みを抑制する効果は大きくなるが、逆に、1次積層体12Bと2次積層で積層するグリーンシート5cとの間、及び2次積層体1とその上に積層する不図示のグリーンシート間の密着性が低下し、焼成後に層間剥離を起こす可能性があるため、仮プレス工程の圧力は本プレス工程で施される圧力の30%以下とすることが望ましい。
【0029】
仮プレスで分割積層するグリーンシートは、導波管単位に限らず所望の層数、例えば1層単位の任意の数で分割積層して仮プレス可能であり、本プレス工程前の仮プレス工程をさらに増やしても良い。また、2次積層体を本プレスして多層セラミック基板を形成しても良い。すなわち、上記の説明ではn=3の場合を例としたが、nは2以上の整数であれば良い。nを3よりも大きくする場合は、(n−1)次積層・仮プレス工程までは、2次積層・仮プレス工程と同様に、多層セラミック基板10の導波管部1以外の部分を構成する不図示のグリーンシートを(n−2)次積層体に積層して仮プレスを行い、(n−1)次積層体を得る。例えば、第3の回路を構成する不図示のグリーンシートを積層し、3次積層体を作成した後に本プレスを行うこともできる。なお、印刷された導体パターンが大きく異なるグリーンシート同士は、仮プレスを施してから積層することが好ましい。
【0030】
ただし、工程を増やすことは製造工程を複雑にすることになる。また、本プレス工程と同じ積層体を仮プレスすることは製造工程を複雑にするだけである。仮プレスは、全積層数の80%までとすることが望ましい。例えば、層数が10の多層セラミック基板の場合には、仮プレスで形成する(n−1)次積層体は8層までとし、少なくとも9層目及び10層目のグリーンシートは本プレスで(n−1)次積層体と一体化することが好ましい。
【0031】
積層・プレス工程が完了したら、積層体を焼成する(焼成工程)。焼成後、表面に露出している導体にめっきを施す(めっき工程)。その後、積層体を切断して個々の多層セラミック基板に分離する。このような工程によって、多層セラミック基板を製造できる。
【0032】
以上、本実施の形態では、仮プレスされた積層体の上に仮プレスしていないグリーンシートを直接積層するので、仮プレスされた積層体同士に重ねてプレスするよりも密着性が向上する。また、積層・プレス工程で使用する治具を複数用意する必要がなく、作業工程が簡便である。したがって、本実施の形態では、多層セラミック基板を製造するにあたって、製造工程数を低減できる。
【0033】
以上のように、本発明に係る多層セラミック基板の製造方法は、導波管などの基材内の導体パターンや回路の配置が不均一であっても多層セラミック基板に歪みが生じることはない。これにより多層セラミック基板の歩留まりが向上する。
【0034】
上記実施の形態には、当業者が容易に想到できるものや実質的に同一のものが含まれる。
【符号の説明】
【0035】
1 導波管部
第1の導波管
第2の導波管
1a〜1f セラミック層
2B 1次積層体
2次積層体
2 ヌキ
3 ヴィア導体
4 導体パターン
5a〜5f グリーンシート
10 多層セラミック基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックグリーンシートを複数積層した積層体を焼成して多層セラミック基板を製造する多層セラミック基板の製造方法であって、
前記セラミックグリーンシートを積層して前記積層体の一部をなす部分積層体を形成し、該部分積層体を積層方向に加圧して固定する仮プレス工程と、
前記仮プレス工程で加圧された前記部分積層体と、前記仮プレス工程で加圧を施していない前記セラミックグリーンシートとを積層し、前記仮プレス工程よりも高圧で積層方向に加圧して前記積層体として一体化する本プレス工程と、
前記本プレス工程で一体化された前記積層体を焼成する焼成工程と、を備えることを特徴とする多層セラミック基板の製造方法。
【請求項2】
前記部分積層体の層数は、前記積層体の層数の80%以下であることを特徴とする請求項1記載の多層セラミック基板の製造方法。
【請求項3】
前記仮プレス工程で前記部分積層体に加える圧力は、前記本プレス工程で前記積層体に加える圧力の30%以下であることを特徴とする請求項1又は2記載の多層セラミック基板の製造方法。
【請求項4】
前記本プレス工程において、内部構造の歪み量が前記セラミックグリーンシートの厚さの50%となるように前記積層体を加圧することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載の多層セラミック基板の製造方法。
【請求項5】
前記各セラミックグリーンシートは、前記焼成工程によってヴィアと化す導体ペーストが充填されたヴィアホールと、該導体ペーストが予め定められたパターンで表面に配置され、前記焼成工程によって導体パターンと化す導体ペーストパターンとを有し、
前記内部構造は、前記ヴィア及び前記導体パターンによって形成される導波管であることを特徴とする請求項4記載の多層セラミック基板の製造方法。

【図1−1】
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【図1−2】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図2−3】
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【図3】
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【図4】
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【図5−1】
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【図5−2】
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【公開番号】特開2012−227495(P2012−227495A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−96492(P2011−96492)
【出願日】平成23年4月22日(2011.4.22)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】