説明

多層フィルムの成形装置、金型部材、金型部材の加工方法、金型の組み立て方法

【課題】金型の組付け精度を低下させることなく、メンテナンス時における作業性を向上させることのできる多層フィルムの成形装置等を提供することを目的とする。
【解決手段】複数の単位ブロック31を積み重ねたときに、下方の単位ブロック31の位置決め凹部35に、上方の単位ブロック31の位置決め凸部34が入り込み、段部36によって下方の単位ブロック31に対し、上方の単位ブロック31のその径方向への移動を拘束し、位置決めするようにした。互いに上下に位置する2つの単位ブロック31の合わせ面において、上方の単位ブロック31の位置決め凸部34の下面34aと、下方の単位ブロック31の位置決め凹部35の上面35aには、ピン穴37、38を形成し、これらピン穴37、38にノックピン39を打ち込むことで、上下の単位ブロック31どうしの周方向への移動を拘束するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層フィルムの成形装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂フィルムを多層に積層して得た多層フィルムにより、袋状の包装容器等を形成することが行われている。
このような多層フィルムの製造法として、多層フィルムブロー成形法がある。多層フィルムブロー成形法に用いられる成形装置は、外筒の内部に形成された円柱状の凹部に、すり鉢状の金型部材が複数段に積層された構成の金型を備えている。そしてこのような金型で、各段において互いに上下に位置する金型部材の隙間から外周側の外筒との間の隙間に樹脂を押し出しつつ、これら各段から押し出された樹脂が、樹脂が押し出されるにともなって順次重ね合わされることで、多層フィルムを形成する(例えば、特許文献1、2参照)。
【0003】
ここで、各層のフィルムの厚さは、各段において互いに上下に位置する金型部材の隙間、および金型部材の外周部と外筒との隙間の寸法によって決まる。
このため、外筒内に金型部材を複数段に積層して取り付ける際には、その取付精度がそのままフィルムの各層の厚さに影響し、取付精度が低いと、フィルムの各層において、厚さの分布が不均一になる等の悪影響を及ぼす。
そこで従来は、互いに上下に位置する金型部材どうしは、ノックピン、ボルト等によって位置決めされ、取付精度が一定の公差(ガタ)内に収まるようにされている(例えば、特許文献2の図2参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2005−144758号公報
【特許文献2】特開2002−79576号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような成形装置の金型は、通常、月に1回程度という比較的高い頻度で、金型のメンテナンスを行っている。メンテナンス時には、外筒から各段の金型部材を取り外すが、ノックピンの公差が小さければ小さいほど、互いに上下に位置する金型部材どうしの脱着が困難になり、その結果、分解時およびメンテナンス後の組み立て時に、作業に手間が掛かることになる。このため、作業性を向上すべく、前記のノックピンの公差を大きめに設定し、外筒と金型部材の外周部の隙間を計測しながら、金型部材の位置をノックピンの公差の範囲内で微調整し、調整後に締結ボルトを締め付けて、互いに上下に位置する金型部材どうしを位置決め・固定しているのが現状である。
しかし、このような方式では、締結ボルトを締め付けるときの、ボルトヘッドの座面と金型部材とのボルト回転方向の摩擦力等によって、互いに上下に位置する金型部材どうしの位置関係が、ノックピンの公差内でズレてしまうことがあり、金型部材の位置調整に手間がかかり、依然として金型の組み立てに手間が掛かっている。
本発明は、このような技術的課題に基づいてなされたもので、金型の組付け精度を低下させることなく、メンテナンス時における作業性を向上させることのできる多層フィルムの成形装置等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的のもとになされた本発明の多層フィルムの成形装置は、複数層に樹脂が積層された筒状の多層フィルムの成形装置であって、略円筒状をなした外筒と、外筒内に複数の単位ブロックが積層して設けられることで構成されたインナーブロックと、外筒内で互いに上下に位置する単位ブロック間から外周側の外筒との隙間に樹脂を押し出す樹脂供給機構と、を備える。単位ブロックは、外形円形で、その一面側の中央部に所定の外径を有した位置決め凸部が設けられ、他面側の中央部に位置決め凸部に対応する内径を有した位置決め凹部が設けられた構成となっている。そして、互いに上下に位置する単位ブロックどうしは、一方の単位ブロックの位置決め凸部と他方の単位ブロックの位置決め凹部との噛み合いによって径方向の位置決めがなされるとともに、双方の単位ブロック間に介在するよう設けられたノックピンにより周方向の位置決めがなされ、さらに締結ボルトによって一体に連結される。このようにして、一方の単位ブロックの位置決め凸部と他方の単位ブロックの位置決め凹部との噛み合いによって、これら2つの単位ブロックが径方向に位置決めされるため、ノックピンによる位置決めを行うときには、一方の単位ブロックの位置決め凸部と他方の単位ブロックの位置決め凹部とを噛み合わせたまま、2つの単位ブロックを周方向に相対的に回転させ、ノックピンを打つ穴を合致させれば良い。これにより、位置決め作業が容易になる。
【0007】
製造する多層フィルムの品種によって、各層を構成する樹脂の種類や厚さ等が異なることがある。これらの品種ごとに、金型は設定されている。具体的には、金型の外筒内に組み込むインナーブロックの各単位ブロックの組み込み順序や種類が予め決定されているのである。したがって、外筒内には、単位ブロックを正しい順序・位置で組み込む必要がある。このため、予め決定されているインナーブロック内の各段で、互いに上下に位置する単位ブロック間に設けられるノックピンの位置を、各段ごとに互いに異なるように設定するのが好ましい。これにより、異なる組み合わせだと、2つの単位ブロックのノックピンの穴位置が合致せず、ノックピンを打ち込むことができなくなるため、単位ブロックの誤組み付けが防止できる。
【0008】
また、製造する多層フィルムの層数等に応じ、用いる単位ブロックの段数を異ならせることもできる。この場合、外筒を、上下に複数の外筒ブロックを組み合わせることで構成するようにしておき、インナーブロック内に組み込まれる単位ブロックの段数に応じ、複数の外筒ブロックの少なくとも一つを高さが異なるものに入れ替えることで、外筒の高さを変更可能とすることもできる。
この外筒も、互いに上下に位置する外筒ブロックどうしが、一方の外筒ブロックに形成されて周方向に連続する凸部と、他方の外筒ブロックに形成されて周方向に連続する凹部との噛み合いにより、径方向に位置決めすることができ、これによって外筒の組み換え作業も容易かつ確実に行える。
【0009】
単位ブロックは、上方または下方に位置する他の単位ブロックからの取り外しのために、押しボルトがねじ込み可能なねじ穴を有するようにしてもよい。このねじ穴に押しボルトをねじ込んでいき、先端部で他の単位ブロックを押圧することで、ノックピンをスムーズに抜いて、これら2つの単位ブロックを取り外し分解することができる。
【0010】
本発明は、複数層に樹脂が積層された筒状の多層フィルムを成形する成形装置の金型の外筒内に、複数段が積層されて組み込まれる金型部材とすることもでき、この金型部材は、一面側の中央部に形成され、所定の外径を有した断面円形の凸部と、他面側の中央部に形成され、凸部の外径に対し所定公差範囲内で大きな内径で形成された凹部と、両面にそれぞれ形成されたノックピン穴と、が設けられている。このような金型部材は、上記の単位ブロックとして好適に用いることができる。
【0011】
本発明は、複数層に樹脂が積層された筒状の多層フィルムを成形する成形装置の金型の外筒内に、複数段が積層されて組み込まれる金型部材の加工方法であって、外筒内で互いに上下に位置するよう設定された2つの金型部材を、一方の金型部材に形成された位置決め凸部を他方の金型部材に形成された位置決め凹部に嵌め込むことで、金型部材の径方向に位置決めする工程と、積み重ねて位置決めした状態の2つの金型部材に、2つの金型部材どうしを周方向に位置決めするノックピンを打ち込むための穴を貫通加工する工程と、を備えることを特徴とする。このように、積み重ねて位置決めた状態の2つの金型部材に、穴を貫通加工することで、2つの金型部材どうしを周方向に位置決めするノックピンを打ち込むための穴を高精度で形成できる。
【0012】
本発明の金型の組み立て方法は、複数層に樹脂が積層された筒状の多層フィルムを成形する成形装置の金型の組み立て方法であって、金型の外筒内において、互いに上下に位置するよう組み込まれる2つの金型部材を、一方の金型部材に形成された位置決め凸部を他方の金型部材に形成された位置決め凹部に嵌め込むことで、径方向に位置決めする工程と、積み重ねて位置決めした状態の2つの金型部材を、2つの金型部材どうしを貫通するように形成された穴にノックピンを打ち込み、周方向に位置決めする工程と、2つの金型部材どうしを締結部材によって一体に締結する工程と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、金型の組付け精度を低下させることなく、メンテナンス時における作業性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、添付図面に示す実施の形態に基づいてこの発明を詳細に説明する。
図1は、本実施の形態における成形装置の金型10の構成を説明するための図である。
この図1に示すように、金型10は、外筒20と、インナーブロック30とから構成されている。
外筒20には、内周面が円形断面を有した有底状の穴21が形成され、この穴21にインナーブロック30が納められるようになっている。穴21の底部21aは、下方に行くほど内径が縮小するテーパ状の形状を有している。さらに、底部21aには、インナーブロック30を穴21の底部21aに対して位置決めするための位置決め凹部21bが形成されている。
【0015】
外筒20は、上下に複数のブロック(外筒ブロック)20A、20B、20Cに分割可能とされ、締結ボルト22によって、互いに上下に位置するブロック20Aと20B、ブロック20Bと20Cが連結固定されるようになっている。有底円筒状をなした最底部のブロック20Cを除き、ブロック20A、20Bは円筒状をなしている。
これらブロック20A、20B、20Cのうち少なくとも一つにおいて、高さが異なるものを複数種用意しておき、これらを適宜組みかえることで、外筒20の全体高さを変更することができる。
ブロック20Aと20Bの連結部、ブロック20Bと20Cの連結部には、一方の側に凹となる段部23が周方向に連続して形成され、他方の側に段部23に噛み合う凸部24が周方向に連続して形成されている。これにより、ブロック20Aと20B、ブロック20Bと20Cは、互いに噛み合い、径方向に位置決めされるようになっている。段部23の外径寸法と凸部24の内径寸法は、所定の公差内に収まるように形成されている。
【0016】
ところで、上記においては、外筒20を、3つのブロック20A、20B、20Cから構成するようにしたが、その数については何ら限定するものではなく、一つ、二つ、あるいは四つ以上のブロックから外筒20を構成するようにしても良い。
【0017】
インナーブロック30は、単位ブロック(金型部材)31が所定数積層されることで構成されている。
各層の単位ブロック31は、基本的に共通する形状を有しており、全体として外周形状が円形のすり鉢状をなしている。図2、図3に示すように、単位ブロック31は、円板状の底板32と、底板32の外周部から斜めに立ち上がる立ち上がり壁部33とを有している。立ち上がり壁部33は、底板32から離れるに従い、その内径・外径が徐々に大きくなるよう形成され、これによって単位ブロック31が全体としてすり鉢状をなすのである。そして、立ち上がり壁部33の外周部は、外筒20の内周面と所定のクリアランスを形成するよう、外筒20の内径よりも所定寸法小さな外径を有している。
ここで、説明のため、底板32および立ち上がり壁部33によって、凸形状をなす側の面を外面、凹形状をなす側の面を内面と称することとする。
【0018】
単位ブロック31の外面側において、底板32は、位置決め凸部(凸部)34として機能すべく、外面側に略円柱状に突出するように形成されている。
【0019】
単位ブロック31の内面側には、位置決め凸部34に対応する形状の位置決め凹部(凹部)35が形成されている。この位置決め凹部35は、立ち上がり壁部33に対し、断面方向で異なる角度で形成された段部36を形成することで構成されている。これにより、複数の単位ブロック31を積み重ねると、下方の単位ブロック31の位置決め凹部35に、上方の単位ブロック31の位置決め凸部34が入り込み、段部36によって下方の単位ブロック31に対し、上方の単位ブロック31のその径方向への移動を拘束し、位置決めするようになっている。この状態で、下方の単位ブロック31の位置決め凹部35と、上方の単位ブロック31の位置決め凸部34とが、所定の公差(はめ合い公差)でかみ合うように、各単位ブロック31の位置決め凸部34の外径、位置決め凹部35の内径が設定されている。
【0020】
また、互いに上下に位置する2つの単位ブロック31の合わせ面において、上方の単位ブロック31の位置決め凸部34の下面34aと、下方の単位ブロック31の位置決め凹部35の上面35aには、それぞれ、ピン穴(ノックピン穴)37、38が形成されている。
これらピン穴37、38は、これらの単位ブロック31を重ね合わせ、下方の単位ブロック31の位置決め凹部35に、上方の単位ブロック31の位置決め凸部34が入り込むことで径方向への移動が拘束された状態で、互いに合致する位置に形成されている。そして、これらピン穴37、38にノックピン39を打ち込むことで、上下の単位ブロック31どうしの周方向への移動を拘束するようになっている。
このため、ピン穴37、38は、位置決め凸部34、位置決め凹部35の中心以外のオフセットした位置に設けるのが好ましく、さらには、図4に示すように、周方向以外の方向へも上下2つの単位ブロック31の位置決め拘束機能を発揮するため、ピン穴37、38を2箇所以上設け、それぞれにノックピン39を打ち込むのが好ましい。なお、ピン穴37、38の数を増やすほど位置決め拘束機能は高まるものの、ノックピン39の打ち込み作業に手間が掛かることになる。もともと厳しい公差でピン穴37、38を形成しているため、数が増えるほど、その微妙な位置ずれがノックピン39の打ち込みを困難にするからである。このような観点からして、十分な位置決め精度と、作業性を考慮すると、ピン穴37、38は、2組設けるのがもっとも好ましいと言える。
【0021】
このとき、製造する多層フィルムの品種ごとに、外筒20内に組み込まれる単位ブロック31の数、種類、積層順序はあらかじめ決定されている。そして、この決定に基づき、互いに上下に位置する2つの単位ブロック31の組み合わせも予め決定される。そこで、金型10の分解後の再組み立て時に、外筒20内への単位ブロック31の誤組付けを防止するため、ピン穴37、38の位置関係(例えば、位置決め凸部34の中心に対する相対角や、間隔)を、上下の2つの単位ブロック31の組み合わせごとに、異ならせるのが好ましい。このほか、ピン穴37、38の径を異ならせることも可能ではあるが、これは、位置決め精度に影響を及ぼす可能性もあるので慎重に行う必要がある。
【0022】
さらに、一つの単位ブロック31を、複数品種で共用することもある。このため、品種に応じ、一つの単位ブロック31に対しては、複数の異なる単位ブロック31が組み合わされることがある。その場合、一つの単位ブロック31に、それぞれの品種によって組み合わされる他の単位ブロック31毎に、異なる位置(位置関係)となるようにピン穴37、38を複数組形成するのが好ましい。
【0023】
ノックピン39は、例えば、各単位ブロック31の位置決め凹部35のピン穴38に予め打ち込んでおき、組み立て時には、下方に位置する単位ブロック31のピン穴38から上方に突出したノックピン39を、上方に位置すべき単位ブロック31のピン穴37に挿入させるようにしても良い。
また、互いに上下に位置する2つの単位ブロック31を重ね合わせた後に、ピン穴37、38にノックピン39を打ち込むようにしても良い。
いずれの場合にしろ、上方に位置する単位ブロック31のピン穴37は、上下に貫通させるのが好ましい。前者の場合は、下方の単位ブロック31のピン穴38に予め打ち込まれたノックピン39を、上方の単位ブロック31のピン穴37を通し、上方から目視で位置を確認できるからである。さらに、後者の場合は、ピン穴37の上部をテーパ状に拡径し、上方からのノックピン39の打ち込みを容易にするのが好ましい。
【0024】
ところで、上記の説明において、上方に位置する単位ブロック31、下方に位置する単位ブロック31という表現を用いて説明を行ったが、実際には、これらの単位ブロック31は、上下に複数が積層されるため、一つの単位ブロック31は、上方に位置する単位ブロック31にも、下方に位置する単位ブロック31にもなり得る。したがって、一つの単位ブロック31には、外面側の位置決め凸部34にピン穴37が形成され、内面側の位置決め凹部35にピン穴38を備えた構成となっている。
また、外筒20内で最下段となる単位ブロック31に対応するため、外筒20の位置決め凹部21bにも、単位ブロック31と同様にピン穴38が形成されている。
さらに、外筒20内で最上段となる単位ブロック31上には、トップブロック40が設置され、このトップブロック40には、対向する単位ブロック31の位置決め凹部35に対応した形状の位置決め凸部41が形成されており、この位置決め凸部41は、単位ブロック31の位置決め凸部34と同様の構成とされ、ピン穴37が形成されている。
【0025】
単位ブロック31は、外筒20内で複数が積み重ねられた状態で、互いに上下に位置する2つの単位ブロック31は締結ボルト42によって一体に連結される。このため、単位ブロック31には、ねじ穴43、44が形成され、これらねじ穴43、44に締結ボルト42がねじ込まれるようになっている。
さらに、所定数の単位ブロック31を外筒20内に積み重ねて収容した状態で、外筒20側と、トップブロック40側からねじ込まれる締結ボルト45、46によって、単位ブロック31は外筒20およびトップブロック40に固定されるようになっている。
【0026】
また、各単位ブロック31とトップブロック40には、ねじ穴47が形成されている。このねじ穴47に押しボルト(図示無し)をねじ込むことで、その先端部で下段の単位ブロック31の表面、外筒20の穴21の底部21aを押し、その反力によってトップブロック40や各単位ブロック31を中心軸線方向に移動させてノックピン39を抜き、分解作業を行えるようになっている。
【0027】
単位ブロック31は、外筒20内に複数が積み重ねられて収容されるようになっている。そして、複数を積み重ねたときに、互いに上下に位置する2つの単位ブロック31間において、下方の単位ブロック31の立ち上がり壁部33と、上方の単位ブロック31の立ち上がり壁部33との間は、図示しない樹脂供給機構によって送り込まれる樹脂の流路とされるため、所定のクリアランスが形成されるようになっている。
【0028】
図4に示すように、各単位ブロック31の立ち上がり壁部33の外面側、内面側の少なくとも一方には、単位ブロック31の中心部側から外周側に向けてスパイラル状に延びるスパイラル溝50が、周方向に複数、間隔を隔てて形成されている。それぞれのスパイラル溝50において、単位ブロック31の中心部側の端部には、金型10の外部の樹脂供給機構から送り込まれた樹脂の流路51が開口している。なおここで、スパイラル溝50の幅、角度等は、用いる樹脂の種類等に応じて設定することが可能である。
これにより、金型10の外部から送り込まれた樹脂は、流路51を通ってスパイラル溝50の端部に押し出され、これが互いに上下に位置する単位ブロック31の立ち上がり壁部33の隙間から外周側に押し流されていくことで、上下二つの立ち上がり壁部33の外周側の先端部のクリアランスに応じた膜厚を有した筒状の膜体となる。外筒20内に複数の単位ブロック31が積み重ねられて収容された状態で、外筒20の内周面と単位ブロック31の外周面との間には所定のクリアランスが形成されており、膜状となった樹脂は、ここを通って、立ち上がり壁部33の傾斜方向下方に流れていき、他の段から同様に押し出された膜状の樹脂と重ね合わせられて、多層フィルムを形成するようになっている。
【0029】
このような金型10を用いる成形装置では、外筒20の内周面と単位ブロック31の外周面との間を樹脂が通り、略筒状の連続体となる。この状態で内部にエア等をブローすることにより、筒状に連続した多層フィルムを製造することができる。
【0030】
上記のような金型10は、金型10を構成する外筒20、インナーブロック30等を構成する個々の部品を、鋳造、機械加工等によって製作することができるが、各単位ブロック31のピン穴37、38は以下のように形成する。
まず、図2に示すように、互いに上下に組み合わされる2つの単位ブロック31を積み重ねた状態で、これら単位ブロック31の外周部の位置をデプスゲージ等を用いて精密に位置決めした後、ねじ穴43、44に締結ボルト42をねじ込んでこれら上下の単位ブロック31を仮止めする。そしてこの状態で、加工機械により、ピン穴37、38を穿穴する。このように、上下に組み合わされる2つの単位ブロック31を位置決めした状態で、ピン穴37、38を同時に貫通加工することにより、これらピン穴37、38を、個別に形成する場合に比較し、高精度に形成することができる。
【0031】
このようにして形成した単位ブロック31は、所定の種類のものを、外筒20内に所定の順序で組み込んでいく。このとき、互いに上下に位置する2つの単位ブロック31、単位ブロック31と外筒20の穴21の底部21a、単位ブロック31とトップブロック40をそれぞれ位置決めして締結するに際しては、まず、互いに上下に位置する2つの単位ブロック31の位置決め凸部34と位置決め凹部35、単位ブロック31の位置決め凸部34と外筒20の位置決め凹部21b、単位ブロック31の位置決め凹部35とトップブロック40の位置決め凸部41を噛み合わせ、上下の単位ブロック31を径方向に位置決めする。このとき、これらの噛み合わせは、所定の交差内で加工された位置決め凸部34、41、位置決め凹部35、21bの機械的精度によって保証される。しかも、従来のノックピンのように、複数本の細いノックピンを打ち込むために試行錯誤的に位置決めする場合に比較し、大径の位置決め凸部34、41、位置決め凹部35、21bの位置決めのみなので、位置決め作業が容易である。
この後は、必要に応じ、単位ブロック31やトップブロック40を周方向に回転させて、ピン穴37、38を位置決めした後、ノックピン39を打ち込む。これも位置決め凸部34、41、位置決め凹部35、21bによって、径方向の位置決めが行われているので、周方向のみの位置決め作業でよく、作業が容易である。しかも、単位ブロック31の位置精度も十分に確保することができ、製造する多層フィルムの品質を向上させることができる。
しかる後、ねじ穴43、44に締結ボルト42をねじ込むことで、互いに上下に位置する2つの単位ブロック31、単位ブロック31と外筒20の穴21の底部21a、単位ブロック31とトップブロック40を締結することができる。
上記のような作業を、単位ブロック31やトップブロック40を一つずつ組み込んでいくたびに繰り返せばよい。
【0032】
なお、上記の単位ブロック31、トップブロック40の組み付け作業は、金型10のメンテナンス時における再組み立ての際にも同様に行えばよい。
さらに、金型10のメンテナンスを行うため、トップブロック40や単位ブロック31を取り外すときには、各単位ブロック31やトップブロック40に形成されたねじ穴47に、押しボルト(図示無し)をねじ込むことで、下段の単位ブロック31や外筒20の穴21の底部21aから反力を得て、これによってトップブロック40や各単位ブロック31を中心軸線方向に移動させてノックピン39を抜くことができ、分解作業を容易に行うことができるようになっている。これにより、ノックピン39のはめ合い公差を従来よりも厳しくすることが可能となり、これによって、精度を確保しつつ、作業性を向上できる。
【0033】
また、製造する多層フィルムの品種が変わるときには、インナーブロック30を構成する単位ブロック31やトップブロック40の種類を入れ替えればよい。さらにこの場合、図5に示すように、単位ブロック31の段数を変更することも可能である。その場合、外筒20のブロック20A、20B、20Cのうち少なくとも一つ(図5においてはブロック20B)を、高さが異なるものに変更することで、外筒20の全体高さを変更することができるようになっている。
【0034】
このようにして、メンテナンス等のために金型10を分解した後、金型10を再組み立てする際に、組付け精度を低下させることなく、メンテナンス時における作業性を向上させることが可能となる。
【0035】
なお、上記実施の形態では、金型10の構成について説明したが、本発明の主旨を逸脱しない範囲内での適宜変更は可能である。
これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施の形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本実施の形態における金型の構成を示す断面図である。
【図2】上下に積み重ねられる単位ブロックを示す断面図である。
【図3】単位ブロックを積み重ねるときの様子を示す断面図である。
【図4】単位ブロックの平面図である。
【図5】金型の段数、高さを変更した場合の例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0037】
10…金型、20…外筒、20A、20B、20C…ブロック(外筒ブロック)、22…締結ボルト、23…段部、30…インナーブロック、31…単位ブロック(金型部材)、34…位置決め凸部(凸部)、35…位置決め凹部(凹部)、37、38…ピン穴(ノックピン穴)、39…ノックピン、40…トップブロック、41…位置決め凸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数層に樹脂が積層された筒状の多層フィルムの成形装置であって、
略円筒状をなした外筒と、
前記外筒内に複数の単位ブロックが積層して設けられることで構成されたインナーブロックと、
前記外筒内で互いに上下に位置する前記単位ブロック間から外周側の前記外筒との隙間に樹脂を押し出す樹脂供給機構と、を備え、
前記単位ブロックは、外形円形で、その一面側の中央部に所定の外径を有した位置決め凸部が設けられ、他面側の中央部に前記位置決め凸部に対応する内径を有した位置決め凹部が設けられ、
互いに上下に位置する前記単位ブロックどうしは、一方の前記単位ブロックの前記位置決め凸部と他方の前記単位ブロックの前記位置決め凹部との噛み合いによって径方向の位置決めがなされるとともに、双方の前記単位ブロック間に介在するよう設けられたノックピンにより周方向の位置決めがなされ、さらに締結ボルトによって一体に連結されていることを特徴とする多層フィルムの成形装置。
【請求項2】
予め決定された、前記インナーブロック内の各段で互いに上下に位置する前記単位ブロック間に設けられる前記ノックピンの位置が、各段ごとに互いに異なるように設定されていることを特徴とする請求項1に記載の多層フィルムの成形装置。
【請求項3】
前記外筒は、上下に複数の外筒ブロックを組み合わせることで構成され、
前記インナーブロック内に組み込まれる前記単位ブロックの段数に応じ、複数の前記外筒ブロックの少なくとも一つを高さが異なるものに入れ替えることで、前記外筒の高さが変更可能とされていることを特徴とする請求項1または2に記載の多層フィルムの成形装置。
【請求項4】
前記外筒は、互いに上下に位置する前記外筒ブロックどうしが、一方の前記外筒ブロックに形成されて周方向に連続する凸部と、他方の前記外筒ブロックに形成されて周方向に連続する凹部との噛み合いにより、径方向の位置決めがなされていることを特徴とする請求項3に記載の多層フィルムの成形装置。
【請求項5】
前記単位ブロックは、上方または下方に位置する他の前記単位ブロックからの取り外しのために、押しボルトがねじ込み可能なねじ穴を有することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の多層フィルムの成形装置。
【請求項6】
複数層に樹脂が積層された筒状の多層フィルムを成形する成形装置の金型の外筒内に、複数段が積層されて組み込まれる金型部材であって、
一面側の中央部に形成され、所定の外径を有した断面円形の凸部と、
他面側の中央部に形成され、前記凸部の外径に対し所定公差範囲内で大きな内径で形成された凹部と、
両面にそれぞれ形成されたノックピン穴と、が設けられていることを特徴とする金型部材。
【請求項7】
複数層に樹脂が積層された筒状の多層フィルムを成形する成形装置の金型の外筒内に、複数段が積層されて組み込まれる金型部材の加工方法であって、
前記外筒内で互いに上下に位置するよう設定された2つの前記金型部材を、一方の前記金型部材に形成された位置決め凸部を他方の前記金型部材に形成された位置決め凹部に嵌め込むことで、前記金型部材の径方向に位置決めする工程と、
積み重ねて位置決めした状態の2つの前記金型部材に、2つの前記金型部材どうしを周方向に位置決めするノックピンを打ち込むための穴を貫通加工する工程と、
を備えることを特徴とする金型部材の加工方法。
【請求項8】
複数層に樹脂が積層された筒状の多層フィルムを成形する成形装置の金型の組み立て方法であって、
前記金型の外筒内において、互いに上下に位置するよう組み込まれる2つの金型部材を、一方の前記金型部材に形成された位置決め凸部を他方の前記金型部材に形成された位置決め凹部に嵌め込むことで、径方向に位置決めする工程と、
積み重ねて位置決めした状態の2つの前記金型部材を、2つの前記金型部材どうしを貫通するように形成された穴にノックピンを打ち込むことで、周方向に位置決めする工程と、
2つの前記金型部材どうしを締結部材によって一体に締結する工程と、を備えることを特徴とする金型の組み立て方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−175925(P2007−175925A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−374683(P2005−374683)
【出願日】平成17年12月27日(2005.12.27)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【出願人】(591200575)四国化工株式会社 (16)
【Fターム(参考)】