説明

多層基板装置

【課題】多層基板に搭載されている回路装置がグランド層との関係で、ノイズの影響を軽減することのできる多層基板装置を提供する。
【解決手段】配線基板131に配置された電源回路を構成するパワー系の第2の電界効果トランジスタ112やコンデンサ102、106はパワー系グランド層104に接地されている。これに対して配線基板131に配置された主に信号処理用の他の回路であるDC―DCコンバータコントロールIC115や外部LSI123はパワー系グランド層104とは異なる層としての一般グランド層119に接続されている。パワー系グランド層104と一般グランド層119は、ループ電流145が信号処理用の回路に影響を与えにくい場所で第4のビア118によって接続されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の層からなる多層基板装置に係わり、特にノイズの影響を少なくした多層基板装置に関する。
【背景技術】
【0002】
スイッチングレギュレータは、スイッチング素子を用いた電源回路であり、各種の電子機器に広く採用されている。直流の出力の安定化を図るスイッチングレギュレータには各種の方式があり、その代表的なものとしてPWM(Pulse Width Modulation)方式が存在する。PWM方式のスイッチングレギュレータは、DC(Direct Current)−DCコンバータを使用して、交流入力を平滑化して直流に変換し、スイッチング素子により高速にスイッチングした後で、再び整流、平滑して所望の直流出力を得るようになっている(たとえば特許文献1参照)。
【0003】
このため、高速スイッチングの際に外部にノイズが放出されやすいという問題がある。特に、スイッチングレギュレータを多層基板に組み込んでいる場合にこの問題がある。この原因の1つが、多層基板に挟まれるように配置されている接地用の銅箔層からなるグランド(GND:GrouND)プレーンが外部回路と大きく係っていることによる。すなわち、DC−DCコンバータのパワー系のグランドのスイッチングによって生じるEMI(Electro Magnetic Interference)ノイズが、グランドプレーンを介して外部に放出されて影響を与え易いからである。また、スイッチングレギュレータが、他の場所で発生したノイズをグランドプレーンを介して受けやすいという問題もある。
【特許文献1】特開2001−197726号公報(第0012段落、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような問題を軽減するためには、スイッチングレギュレータ等の回路部分のグランド(GND)層にスリットを入れて、電流の流れによってノイズが発生する範囲を限定することが考えられる。ところが、スリットによって電流の流れる区域を限定すると、電流がグランド層を介して接地側に流れ込む量が限定される場合が生じ、これにより、電源回路だけでなく、そのグランドプレーンに接続される他の回路にも接地に関する影響を与えるという新たな問題が発生する。
【0005】
以上、多層基板に電源回路を組み込んだ多層基板装置を例に挙げてその問題を説明したが、一般に多層基板装置ではこれに搭載されている回路とグランド層との関係を原因とするノイズが、他の回路に悪影響を与える場合があった。
【0006】
そこで本発明の目的は、多層基板に搭載されている回路装置がグランド層との関係で、EMIノイズ等のノイズの影響を軽減することのできる多層基板装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の発明では、(イ)特定の回路部品と、それ以外の回路部品を一層に配置した配線基板と、(ロ)この配線基板とは異なった層として形成された接地のための第1のグランド層と、(ハ)配線基板および第1のグランド層とは異なった層として形成された接地のための第2のグランド層と、(ニ)配線基板の前記した特定の回路部品の接地側と第1のグランド層を電気的に接続する第1の接地用導電手段と、(ホ)配線基板の前記したそれ以外の回路部品の接地側と第2のグランド層を電気的に接続する第2の接地用導電手段とを多層基板装置に具備させる。
【0008】
すなわち本発明では、同一層に配置された回路部品を、この中の特定の回路部品と、それ以外の回路部品に区別して、このうちの特定の回路部品を配線基板とは異なった層として形成された接地のための第1のグランド層に接続し、前記したそれ以外の回路部品は配線基板および第1のグランド層とは異なった層として形成された接地のための第2のグランド層に接続して、それぞれ接地するようにしている。このように特定の回路部品と、それ以外の回路部品の接地箇所を分離することによって、同一のグランド層で一緒に接地した場合に生じたEMIノイズ等のノイズの影響を軽減している。
【0009】
請求項2記載の発明では、(イ)特定の回路部品と、それ以外の回路部品を一層に配置した配線基板と、(ロ)この配線基板とは異なった層として形成され、それぞれ異なった領域として配置された接地のための第1のグランド領域および第2のグランド領域を有するグランド層と、(ハ)配線基板の前記した特定の回路部品の接地側とグランド層の第1のグランド領域とを電気的に接続する第1の接地用導電手段と、(ニ)配線基板の前記したそれ以外の回路部品の接地側とグランド層の第2のグランド領域とを電気的に接続する第2の接地用導電手段とを多層基板装置に具備させる。
【0010】
すなわち本発明では、同一層に配置された回路部品を、この中の特定の回路部品と、それ以外の回路部品に区別して、このうちの特定の回路部品を配線基板とは異なった層として形成された接地のためのグランド層の第1のグランド領域に接続し、前記したそれ以外の回路部品は同一のグランド層に属するものの第1のグランド領域とは異なった位置に配置された第2のグランド領域に接続して、それぞれ接地するようにしている。このように特定の回路部品と、それ以外の回路部品の接地箇所を分離することによって、同一のグランド領域で一緒に接地した場合に生じたEMIノイズ等のノイズの影響を軽減している。
【0011】
ここで、特定の回路部品は、スイッチングレギュレータの場合、たとえばスイッチング素子およびコンデンサとなる。また、特定の回路部品は、パワー系の回路部品であり、前記したそれ以外の回路部品は信号処理系の回路部品であってもよい。このようにノイズの発生原因となる回路部品と、ノイズに敏感な動作を行う回路部品をグランド層やグランド領域で分離することによって、多層基板装置全体におけるノイズの影響を低減することができる。
【0012】
また、第1のグランド層と第2のグランド層は、第3の接地用導電手段で接続されて接地される形態をとる場合が多いが、この場合の第3の接地用導電手段を第1および第2のグランド層で一点接地あるいは局所的に接地することによって、前記したそれ以外の回路部品に対するノイズの影響を抑えることができる。第1のグランド領域と第2のグランド領域に対する第3の接地用導電手段についても同様である。更に、第2の接地用導電手段は、第2のグランド層における第3の接地用導電手段の発生するループ電流の影響が少なくなる領域に配置されることも有効である。たとえば第3の接地用導電手段からなるべく離れた位置に第2の接地用導電手段を配置することになる。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように本発明によれば、同一の配線基板に配置された各種の回路部品の接地場所を2種類に分けるといった簡単な対策で、グランド層あるいはグランド領域に流れ込むノイズを抑えて、これらグランド層あるいはグランド領域から放射されるノイズ量も抑えることができる。これにより、たとえば電源回路と信号処理系の回路を多層基板装置に効率的に配置することができ、ノイズの影響を軽減しつつ、回路装置全体の集積率を高めることが容易になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下実施例につき本発明を詳細に説明する。
【実施例1】
【0015】
以下実施例につき本発明を詳細に説明する。
【0016】
図1は、本発明の一実施例における多層基板装置の電源周辺部分を表わしたものである。本実施例の多層基板装置100では、図示しない電源に接続される入力端子(VIN)101に入力コンデンサ102の一端が接続されている。この入力コンデンサ102の他端は、第1のビア(IVH:Interstitial Via Hole)103を介してパワー系グランド(GND)層104に接続されている。電源回路100の出力端子(VOUT)105には、出力コンデンサ106の一端とコイル107の一端がそれぞれ接続されている。出力コンデンサ106の他端は、第2のビア108を介してパワー系グランド層104に接続されている。更に、入力端子101とパワー系グランド層104の間には、パワー系グランド層104に一端を接続した第3のビア109を介して第1および第2の電界効果トランジスタ111、112が直列に接続されている。
【0017】
第1の電界効果トランジスタ111のソースSと第2の電界効果トランジスタ11のドレインDとの接続点には、コイル107の他端が接続されている。第1および第2の電界効果トランジスタ111、112のスイッチング制御用のゲートGには、DC―DCコンバータコントロールIC115の2つの制御用端子116、117が1つずつ接続されている。
【0018】
ところで、パワー系グランド層104は、第1〜第3のビア103、108、109と共に第4のビア118の一端が接続されている。この第4のビア118の他端は、一般グランド層119に接続されている。DC―DCコンバータコントロールIC115の接地用端子121は、アースライン122によって一般グランド層119に直接接続されている。外部LSI(Large Scale Integration)123もアースライン124によって一般グランド層119に直接接続されている。一般グランド層119は、接地されている。
【0019】
このような多層基板装置100で、一点鎖線で示した枠内の各部品がスイッチングレギュレータからなる電源回路126を構成している。したがって、外部LSI123は、電源回路126と共に同一の配線基板(ボード)内に収容されているが、電源回路126とは別の回路部品である。パワー系グランド層104および一般グランド層119は、電源回路126や外部LSI123の配置された配線基板とは異なる層として形成されている。パワー系グランド層104と一般グランド層119は、同一層における物理的に分離された領域としての第1のグランド領域と第2のグランド領域として形成されてもよいが、本実施例では異なった層として形成されている。
【0020】
ここで電源回路126は、次のような動作を行う。入力端子101から入力された電源は、入力コンデンサ102によってパワー系グランド層104との間のノイズを吸収されて第1の電界効果トランジスタ111のドレインDに印加される。この状態で、DC―DCコンバータコントロールIC115の制御用端子116から第1の電界効果トランジスタ111のゲートGにオン信号が入力されて、そのドレインDとソースSの間がオンとなる。これにより、入力端子101から流入した電荷がコイル107および出力コンデンサ106に蓄積される。
【0021】
次に第1の電界効果トランジスタ111のゲートGへのオン信号の入力がオフになって、代わってDC―DCコンバータコントロールIC115の制御用端子117から第2の電界効果トランジスタ112のゲートGにオン信号が入力されてそのドレインDとソースSがオンとなる。これにより、前のサイクルによって充電された電荷が出力端子105に接続された図示しない負荷に流れる。
【0022】
DC―DCコンバータコントロールIC115を用いた以上のような回路動作の繰り返しによって発生する矩形波は、コイル107を通過することで平滑化され、更に出力コンデンサ106によって平滑化されて、出力端子105から負荷に供給される。この負荷の抵抗成分の値によって出力端子105に現われる電圧が決定される。
【0023】
このような電源回路126では、出力端子105に接続された負荷に現われる電圧が、図示しない回路部分を経てDC―DCコンバータコントロールIC115にフィードバックされるようになっている。DC―DCコンバータコントロールIC115はこの電圧を負荷に本来印加されるべき電圧と比較して、2つの制御用端子116、117から出力されるオン信号の出力区間を制御する。これにより、出力端子105から出力される電圧が最適値に制御されることになる。
【0024】
図2は、図1に示した多層基板装置の電源周辺部分を概念上で立体的に示したものである。図2で図1と同一の電気部品には同一の符号を付している。また、図2では多層基板装置における図1と関連する部分のみを示したものとなっている。
【0025】
この図2に示すように所定の層を形成する配線基板131上には、図1に示した各回路部品が配置されている。このうち、第2の電界効果トランジスタ112とDC―DCコンバータコントロールIC115および外部LSI123は、それぞれグランド用配線パターン141、142、143の形成された領域に搭載されており、これらの電気部品の接地はグランド用配線パターン141、142、143に対して行われている。
【0026】
図で配線基板131の形成された層の下側にはパワー系グランド層104が配置されており、更にその下側には一般グランド層119が配置されている。第2の電界効果トランジスタ112のソースSとパワー系グランド層104の間を流れる電流が比較的多い。したがって、グランド用配線パターン141とパワー系グランド層104の間には、一対となった第3のビア1091、1092が配置されており、大電流に対応している。
【0027】
また、パワー系グランド層104と一般グランド層119の間には、一般グランド層119と接地されるDC―DCコンバータコントロールIC115と外部LSI123にループ電流145の影響を最小限とする位置に3つの第4のビア1181〜1183が局所に集中して設けられており、いわゆる一点接地によって同様に大電流に対応している。
【0028】
この図2に示した例では、パワー系グランド層104を1つの層として形成したが、複数の層として形成することも可能である。この場合には、これら複数のパワー系グランド層が均等にビアを用いた接地を行うことが好ましい。
【0029】
以上説明したように本実施例の多層基板装置100では、一般グランド層119と分離してパワー系グランド層104を設けている。これによりパワー系グランド層104内でグランドラインのループ電流145が流れることになる。このループ電流145によって発生するスイッチングノイズは、パワー系グランド層104から一般グランド層119あるいはその外部に伝達される。しかしながら、パワー系グランド層104と一般グランド層119の間が、第4のビア118によって、いわば一点接地されるので、一般グランド層119へのノイズの影響あるいは外部の他の回路部分へのノイズの影響を最小限に抑えることができることになる。
【0030】
なお、実施例ではDC―DCコンバータコントロールIC115を用いたスイッチングレギュレータを備える層基板回路について説明したが、一般には、ノイズの発生源となる電源等の回路部分とそれ以外の回路部分の接地をボードの層を分離して行うことに対して本発明を適用することができる。
【0031】
また、実施例では配線基板を1層だけ示したが、各種の配線基板が複数層をなしている場合にも、本発明を同様に適用することができる。この場合にはそれぞれの配線基板に対して2種類のグランド層あるいは2種類のグランド領域を設けてもよいし、これらのうちのグランド層あるいはグランド領域の一部または全部を共用するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の一実施例における多層基板装置の電源周辺部分を表わした回路図である。
【図2】図1に示した多層基板装置の電源周辺部分を概念上で立体的に示した説明図である。
【符号の説明】
【0033】
100 多層基板装置
103 第1のビア
104 パワー系グランド層(第1のグランド層)
108 第2のビア
109 第3のビア
111 第1の電界効果トランジスタ
112 第2の電界効果トランジスタ
115 DC―DCコンバータコントロールIC
118 第4のビア
119 一般グランド層(第2のグランド層)
123 外部LSI
126 電源回路
131 配線基板
141、142、143 グランド用配線パターン
145 ループ電流

【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定の回路部品と、それ以外の回路部品を一層に配置した配線基板と、
この配線基板とは異なった層として形成された接地のための第1のグランド層と、
前記配線基板および第1のグランド層とは異なった層として形成された接地のための第2のグランド層と、
前記配線基板の前記特定の回路部品の接地側と前記第1のグランド層を電気的に接続する第1の接地用導電手段と、
前記配線基板の前記それ以外の回路部品の接地側と前記第2のグランド層を電気的に接続する第2の接地用導電手段
とを具備することを特徴とする多層基板装置。
【請求項2】
特定の回路部品と、それ以外の回路部品を一層に配置した配線基板と、
この配線基板とは異なった層として形成され、それぞれ異なった領域として配置された接地のための第1のグランド領域および第2のグランド領域を有するグランド層と、
前記配線基板の前記特定の回路部品の接地側と前記グランド層の前記第1のグランド領域とを電気的に接続する第1の接地用導電手段と、
前記配線基板の前記それ以外の回路部品の接地側と前記グランド層の前記第2のグランド領域とを電気的に接続する第2の接地用導電手段
とを具備することを特徴とする多層基板装置。
【請求項3】
前記特定の回路部品は、スイッチングレギュレータを構成するスイッチング素子およびコンデンサであることを特徴とする請求項1または請求項2記載の多層基板装置。
【請求項4】
前記特定の回路部品は、パワー系の回路部品であり、前記それ以外の回路部品は信号処理系の回路部品であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の多層基板装置。
【請求項5】
前記第1のグランド層と前記第2のグランド層は、局所的に配置された第3の接地用導電手段で接続されていることを特徴とする請求項1記載の多層基板装置。
【請求項6】
前記第1のグランド領域と前記第2のグランド領域は、局所的に配置された第3の接地用導電手段で接続されていることを特徴とする請求項2記載の多層基板装置。
【請求項7】
前記第2の接地用導電手段は、前記第2のグランド層における前記第3の接地用導電手段の発生するループ電流の影響が少なくなる領域に配置されていることを特徴とする請求項5記載の多層基板装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−147573(P2008−147573A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−335960(P2006−335960)
【出願日】平成18年12月13日(2006.12.13)
【出願人】(390001395)NECシステムテクノロジー株式会社 (438)
【Fターム(参考)】