説明

多層床免震装置を設置する方法、及び当該方法による部分免震建物

【課題】既存建物の構造を乱すことなく、部分免震を低コストで実現することができる多層床免震装置を設置する方法を提供する。
【解決手段】部分免震建物1’を提供するために、まず、既存の建物1の5階の床の小梁や床パネル50aの一部を除去し、続いて、除去した5階の床の一部及びその下方の空間を最大限に活用して多層床免震装置300を設置する。多層床免震装置300は、上方床310と、上方床310よりも下方に設けられた下方床320と、上方床310及び下方床320を連結する柱330と、下方床320の下部に設けられた免震ユニット340とを備えるものである。多層床免震装置300を設置する際に、残存する5階の床パネル50aの上面と上方床310の上面とが揃えられる。部分免震建物1’においては、上方床310に基板処理装置である拡散炉200が設置され、下方床320に基板処理装置の補機が設置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層床免震装置を設置する方法、及び当該方法による部分免震建物に関し、特に、既存建物に多層床免震装置を設置する方法、及び当該方法を用いたことにより多層床免震装置が設置されている部分免震建物に関する。
【背景技術】
【0002】
IC(集積回路)等に用いる半導体チップを製造する半導体製造装置は、塵や埃等の微粒子が非常に少ない状態が維持されたクリーンルームに設置されている。これにより、製造中又は製造した半導体チップが汚染されることがなくなるため、半導体チップの不良品の発生が抑制される。
【0003】
半導体製造装置は、半導体チップのベース基板となる半導体基板(以下、「ウエハー」という)を加工するための基板処理装置と、それに配管で連結された多数の補機とから構成されている。補機としては、ウエハーを加工するために用いる処理ガスを供給するガス供給源や、ウエハー上に形成されたレジストに対して微細なパターンを形成するためにレーザー光を照射する光源などがある。これらの補機は、基板処理装置と同一フロアーに設置されている。
【0004】
上述したような半導体製造装置が地震発生時に転倒したり損壊したりするのを防止するために、クリーンルームを免震化する免震化技術が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1記載の技術では、クリーンルームを設置するための床組と、半導体製造装置などの機器を設置するための架台との間に免震デバイスを介装させている。
【特許文献1】特開2006−016910号公報(図1、段落0012,0014)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、近年では、ICの高集積化に対応するために、ウエハーのサイズが大きくなる傾向があり、ウエハーを扱う基板処理装置も大型化してきている。このような大型の基板処理装置を設置するためには、補機をクリーンルームの外に設置して、基板処理装置の設置スペースを確保する必要がある。
【0006】
ここで、補機が設置されたフロアーに対して上述した免震化技術を適用した場合、既存建物全体として観ると、上記免震化技術を別々のフロアーに対して個別に適用したことになる。この場合、基板処理装置と補機との間で相対変位が生じることになる。基板処理装置と補機との間で相対変位が生じると、それらを連結する配管にずれが生じて、人体にとって有毒な処理ガスが漏出したり、光源からの光がなす光路がずれたりする不具合が発生する。したがって、既存建物に対して、上記免震化技術を別々のフロアーに対して個別に適用することは、得策ではない。
【0007】
そこで、既存建物全体を免震化させる全体免震を考えると、基板処理装置と補機との間で相対変位が生じないようにすることはできるものの、既存建物全体の荷重がかかる基礎部分の改良が必要となるので、莫大なコストがかかる。さらには、全体免震を行う施工期間の間、建物全体で操業を停止する必要があるので、免震化の必要が無いフロアーにも影響が生じることになる。このため、既存建物の全体免震は現実的ではない。
【0008】
以上のことから、現実的には、既存建物の部分免震を前提として、基板処理装置と補機との間で相対変位が生じるという問題を回避することが求められている。理想的には、基板処理装置が設置されたフロアー及びその補機が設置されたフロアーの双方を一体的に免震化させたような構造体(以下、「多層床免震装置」という)を、既存の建物に導入することができればよい。しかしながら、そのような多層床免震装置は、大型であるため、既存の建物がなす多層構造に干渉することになる。
【0009】
本発明の目的は、既存建物の構造を乱すことなく、部分免震を低コストで実現することができる多層床免震装置を設置する方法を提供することにある。また、当該方法を用いることによって、既存建物の部分免震を低コストで実現した部分免震建物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の請求項1記載の多層床免震装置を設置する方法は、既存建物に多層床免震装置を設置する方法であって、(A)既存の建物の床の一部を除去する工程と、(B)機器を設置するための上方床と、他の機器を設置するための、前記上方床よりも下方に設けられた下方床と、前記上方床と前記下方床とを連結する連結部材と、前記下方床の下部に設けられた免震装置と、を備えた多層床免震装置を、除去された前記床の一部及びその下方の空間を利用して、前記上方床の上面と残存する前記床の上面とが揃うように設置する工程とを備えたことを特徴とする。
【0011】
本発明の多層床免震装置を設置する方法によれば、かかるコストは、床の一部を除去するコストと、多層床免震装置を設置するコストのみであるため、低コストで既存建物の部分免震を実現することができる。また、多層床免震装置を設置する際に、下方床は除去した床の一部の下方に設置され、上方床は、その上面と残存する床の上面が互いに揃うように設置される。つまり、多層床免震装置の設置は、除去した床の一部の空間及びその下方の空間を最大限に活用して行われる。これにより、多層床免震装置が大型であっても、既存建物の構造を乱すことなく、多層床免震装置を設置することができる。
【0012】
請求項2記載の多層床免震装置を設置する方法は、請求項1記載の方法において、前記床の一部を除去する工程では、前記床の一部を構成する大梁を残存させ、前記床の一部を構成する床パネル、根太、及び小梁が除去されることを特徴とする。これにより、既存の建物の床が形成する水平構面の剛性を維持することができるので、既存の建物の強度を維持することができる。
【0013】
請求項3記載の多層床免震装置を設置する方法は、請求項2記載の方法において、前記床の一部を除去する工程において残存させた前記大梁に結合されている柱を残存させることを特徴とする。これにより、既存の建物の柱が形成する垂直構面の剛性も維持することができる。
【0014】
請求項4記載の多層床免震装置を設置する方法は、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の方法において、前記多層床免震装置を設置するための補強梁を前記床の一部の下方の空間に設置する工程を備えることを特徴とする。この補強梁は、多層床免震装置の荷重を受ける。
【0015】
請求項5記載の多層床免震装置を設置する方法は、請求項4記載の方法において、前記床の一部を除去する工程では、前記床の一部を構成する床パネル、根太、小梁、及び大梁が除去され、前記床の一部を除去する工程において除去された大梁に結合されていた柱を除去する工程を備えることを特徴とする。既存の建物の大梁や柱などに干渉することなくスムーズに多層床免震装置を設置することができる。
【0016】
請求項6記載の多層床免震装置を設置する方法は、請求項5記載の方法において、前記床の一部の下方にある前記建物の床及び基礎を除去する工程を備えることを特徴とする。これにより、除去した基礎に代わる基礎を設置するためのスペースが形成される。
【0017】
請求項7記載の多層床免震装置を設置する方法は、請求項6記載の方法において、前記多層床免震装置を設置するためのプレート状の基礎を前記床の一部の下方の空間に設置する工程を備えることを特徴とする。このように設置されたプレート状の基礎に多層床免震装置が設置されることになるので、プレート状の基礎を介して多層床免震装置の荷重を建物の下方に分散させることができる。
【0018】
請求項8記載の多層床免震装置を設置する方法は、請求項1乃至7のいずれか1項に記載の方法において、残存する前記床と当該床に揃うように設置された前記上方床とを接続するプレート状の接続部材を、前記上方床の上面又は残存する前記床の上面に沿ってスライド自在に設置する工程を備えることを特徴とする。残存する床が上方床に対して相対変位してもその振動を上方床に伝えることをなくすことができる。また、接続部材は、残存する床と上方床との間に形成される隙間(クリアランス)の上方をカバーするカバー部材としても機能することができ、これにより、人は接続部材上を移動することができる。
【0019】
請求項9記載の多層床免震装置を設置する方法は、請求項1乃至8のいずれか1項に記載の方法において、前記連結部材を補強するための補強部材を設置する工程を備えることを特徴とする。補強部材により、連結部材が補剛されるので、連結部材が形成する垂直構面の剛性を高めることができる。
【0020】
上記目的を達成するために、本発明の請求項10記載の部分免震建物は、請求項1乃至9のいずれか1項に記載の多層床免震装置を設置する方法により、前記多層床免震装置が設置されたことを特徴とする。
【0021】
本発明の部分免震建物によれば、上述した多層床免震装置が設置されているので、上方床及び下方床の双方に設置された機器が地震発生時において転倒したり損壊したりすることが防止される。
【発明の効果】
【0022】
本発明の多層床免震装置を設置する方法によれば、既存建物の構造を乱すことなく、部分免震を低コストで実現する。また、当該方法を用いることによって、既存建物の部分免震を低コストで実現した部分免震建物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ説明する。
【0024】
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る多層床免震装置を設置する方法の適用対象となる建物の構造を概略的に示す断面図である。
【0025】
図1に示す建物1は、5階建て構造をなす建築物である。建物1の大きさは、例えば、幅(図1の左右方向)36m、縦(奥行き)150m、高さ(図1の上下方向)39mであり、建物1の各階の高さは6〜8mに設定されている。
【0026】
図1に示すように、建物1は、地下の地盤に打ち込まれた杭基礎2,3と、杭基礎2,3にそれぞれ支持された基礎4,5と、建物1の外壁(不図示)の内側に沿って配設された柱6と、建物1の上部を覆う屋根7とを含む。基礎4,5は、建物1の荷重を支える。基礎4,5の天端(上面)には、建物1の1階(1FL)を決めるコンクリート製の床スラブ10aが配設されている。
【0027】
建物1の階層(2FL〜5FL)を決める床は、床組(大梁,小梁,根太)20,30,40,50と、各床組の上面に配設された床パネル20a,30a,40a,50aとから構成されている。なお、2階〜5階を決める床は、建物1内の空間を、その階の空間と、その階の直下の階の空間とに分ける役割を果たしている。床組の間には、構造的に十分な数の柱11,31,41が配置されるが、2階及び5階には、外周部以外には、柱が配置されていない。このため、2階の空間及び5階の空間は、クリーンルームなどを画成するための壁体や空調設備を配置するのに好適な空間となっている。なお、2階や5階において、クリーンルーム画成場所以外に柱があってもよい。
【0028】
本実施の形態では、図1の建物1の4階及び5階の一部を免震化するために、4階に、図2に示す多層床免震装置300を設置する。多層床免震装置300の大きさは、例えば、幅(図1の左右方向)10m、縦(奥行き)22m、高さ(図1の上下方向)7mである。なお、多層床免震装置300の大きさが大きいので、本実施の形態では、建物1の5階の床の一部が除去される。
【0029】
図2は、図1の建物1の4階に設置される多層床免震装置300の構成を詳細に示す断面図である。
【0030】
図2に示すように、多層床免震装置300は、上方床310と、上方床310よりも下方に設けられた下方床320と、上方床310及び下方床320を連結する連結部材としての柱330と、下方床320の下部に設けられた免震ユニット340とを備える。多層床免震装置300は、上方床310及び下方床320を含むので、二層床構造をなす構造体であり、この構造体の免震化は、免震ユニット340により実現される。本明細書では、免震化が実現される建物1内の空間を「免震空間」といい、それとは対照的に免震化が実現されない建物1内の空間を「非免震空間」という。
【0031】
上方床310は、図2に示すように、鉄骨製の床組311と、床組311上に敷設された床パネル313とから構成されている。床パネル313は、例えば、厚さ4.5mm、60cm角のアルミニウム製のパネル材を敷設することで構成される。なお、床パネル313には、必要に応じて、配管が通過するための孔が形成される。
【0032】
下方床320は、4階の床パネル40a(コンクリート製)の上に敷設された鉄骨製の補強梁321に設置されている。補強梁321は、多層床免震装置300の荷重を受ける梁である。下方床320は、補強梁321の上方に配置された鉄骨製の床組322と、床組322上に敷設された床パネル323とから構成されている。床組322上面の補強梁321底面からの高さは、1.3mである。床パネル323は、主に、厚さ6mm、60cm角のアルミニウム製のパネル材を敷設することで構成される。このパネル材としては、例えば、株式会社アーレスティ製のモバフロア(登録商標)を用いることができる。
【0033】
柱330は、下方床320の床組322に剛接合された下部330aと、上方床310の床組311に剛接合された上部330bとからなり、下部330aと上部330bは互いに連結されている。柱330の長さは、概略的には、4階から5階までの長さ(高さ)に等しい。これにより、多層床免震装置300で建物1の部分的な免震を行っても、建物1の5階建て構造を乱すことがない。
【0034】
免震ユニット340は、下方床320上方の空間を1つの免震空間として画成するものであり、図4を用いて後述するように複数種類の免震デバイスの組み合わせで構成される。各免震デバイスは、下方床320の下部において、補強梁321と床組322との間に配置される。
【0035】
次に、上述した多層床免震装置300を建物1の4階に設置する方法について説明する。
【0036】
図3は、図1の建物1に図2の多層床免震装置300を設置するための設置工程を示すフローチャートである。
【0037】
図3において、まず、ステップS101では、多層床免震装置300を設置する4階の上層階に該当する5階の床の一部を除去する。これにより、多層床免震装置300を設置する際に多層床免震装置300の上部が5階の床に干渉するのが防止される。
【0038】
ここで、除去される5階の床の一部は、床パネル50aと、床組50を構成する大梁52(図6参照)に並設された小梁及び根太であり、大梁52は残存させる。これにより、5階の床が形成する水平構面の剛性を維持することができるので、既存の建物1の強度を維持することができる。さらに、このとき、垂直構面の剛性も維持するために、残存させた大梁52に結合されている4階の柱41も残存させる。つまり、多層床免震装置300は、既存の建物1の床組の一部を残した状態でも設置することが可能である。
【0039】
続くステップS102では、4階の床パネル40aに多層床免震装置300の下方床320を構成する補強梁321を設置する。補強梁321は、大梁321aと(図4,図5参照)、小梁と、大梁321a間を補強する火打梁とで構成する。大梁321aは、床組40の大梁の鉛直方向上方において残存させた柱41に干渉しないように床パネル40aに設置される。これは、補強梁321を介して、多層床免震装置300の荷重を4階の床組40に分散させるためである。
【0040】
続いて、図4に示すように、補強梁321に免震ユニット340を構成する免震デバイスを設置する(ステップS103)。ここでは、各免震デバイスは、仮固定しておく。なお、この仮固定は最終的には解除される。
【0041】
図4は、図3のステップS103において設置される免震ユニット340を構成する免震デバイスの配置を模式的に示す平面図である。
【0042】
図4に示すように、免震ユニット340を構成する免震デバイスには、両面転がり支承アッセンブリー341と、摩擦皿ばね支承アッセンブリー342と、オイルダンパー343と、ゴム積層体344とがある。
【0043】
両面転がり支承アッセンブリー341は、地震による振動を長周期化させるべく、上下が鋼板ではさまれた多数の剛球で構成されている。両面転がり支承アッセンブリー341は、多層床免震装置300の柱330の下部330a底面に該当する大梁321aの交点に設置され、図4に示す例では、24基が設置されている。また、24基の両面転がり支承アッセンブリー341により、多層床免震装置300の荷重を支持する。
【0044】
摩擦皿ばね支承アッセンブリー342は、皿ばねによりステンレス製の板に向かって付勢された滑り材で構成されている。摩擦皿ばね支承アッセンブリー342は、柱330の近傍、即ち両面転がり支承アッセンブリー341の近傍に配置され、図4に示す例では、12基が設置されている。各摩擦皿ばね支承アッセンブリー342は、滑り材とステンレス製の板との間で生じた摩擦力で、通常時には、建物1の水平移動を拘束し、地震発生時には、建物1から多層床300に伝わる地震エネルギーを減衰させる。
【0045】
オイルダンパー343は、低粘度のオイルが充填されたピストンで構成されている。オイルダンパー343は、大梁321aに沿う所定の方向に向かって配置され、図4に示す例では、8基が設置されている。8基のオイルダンパー343は、全体として、大梁321aが配置される4つの全方向に向かって配置される。各オイルダンパー343は、ピストンの隙間を通過する際のオイルの粘性により、地震発生時などに建物1に生じた所定方向の振動エネルギーを吸収する。
【0046】
ゴム積層体344は、上下が鋼板(フランジ)ではさまれた複数層のゴムで構成されている。ゴム積層体344は、柱330の近傍に配置され、図4に示す例では、16基が設置されている。16基のゴム積層体344は、全体として、外側に配置された4本の大梁321aに沿って配置される。16基のゴム積層体344は、ゴムの弾性力(復元力)により、地震によって移動した下方床320の位置を元の位置に戻すものである。
【0047】
図4に示したように、地震発生時に生じた振動がどのような方向に向かって進行するものであっても、その振動の大きさ(応答加速度)を効率的に小さくすることができるように、免震ユニット340を構成する免震デバイスが配置される。この配置により、例えば、震度6弱〜震度6強の地震による地震波が建物1に入力されたときに応答加速度が500Gal(SI単位では、5m/s2)である場合、多層床免震装置300の下方床320上方床310に生じる応答加速度が150Galになる。なお、免震ユニット340を構成する免震デバイスの配置及びその設置数は、図4に示した配置及び数に限られることはなく、また、免震デバイスの種類及びその組み合わせも、図4に示した4種類及びその組み合わせ(両面転がり支承アッセンブリー341,摩擦皿ばね支承アッセンブリー342,オイルダンパー343,ゴム積層体344)に限られることはない。
【0048】
図3に戻り、ステップS103で免震デバイスの設置が完了した後は、下方床320及び上方床310を含む二層床構造を構成するための床組322及び床組311を設置すると共に(ステップS104)、床パネル323及び床パネル313を設置する(ステップS105)。
【0049】
ステップS105までの工程が完了したときの下方床320の上面図と上方床310の上面図をそれぞれ図5及び図6に示す。なお、図5及び図6は部分切欠図となっており、図5には、床組322及び4階の床組40の主な構造が模式的に示されており、図6には、床組311及び5階の床組50の主な構造が模式的に示されている。
【0050】
ステップS104〜S105の工程を詳細に説明すると、まず、補強梁321を構成する大梁321aの交点に設置された両面転がり支承アッセンブリー341の上に柱330の下部330aを設置する。柱330の下部330aの設置場所は、連結される柱330の上部330bが5階の床組50(残存させた大梁52)に干渉しない位置である。
【0051】
この柱330の下部330aに合わせて下方床320の床組322を構成する大梁322a(図5参照)を設置する。なお、これに代えて、柱330の下部330aを設置する前に、予め、この下部330aと大梁322aの一部を組み立てておき、その組み立て体の柱330の下部330aの部分を両面転がり支承アッセンブリー341の上に設置してもよい。この結果、大梁322aは、補強梁321の鉛直方向上方において補強梁321を構成する大梁321aと平行となるように配置される。なお、図5に示すように、大梁322aは、大梁321aよりも若干短い。また、図5においては、大梁322aに並設された小梁及び根太や、大梁322a間を補強する火打梁や筋かい(ブレース)の図示を省略している。
【0052】
続いて、柱330の上部330bを柱330の下部330aに連結させる。なお、また、柱330の上部330bの長さは、上方床310の床パネル313の上面と5階の残存する床パネル50aの上面が互いに揃うような長さに設定されている。
【0053】
最後に、柱330の上部330bに合わせて上方床310の床組311を構成する大梁311aを設置し、さらに大梁311aに小梁311bや根太(不図示)を並設する(図6参照)。なお、床組311及び床組322を設置する際には、4階の柱41に干渉しないように設置される。図6に示すように、上方床310の床組311と5階の床との間には、例えば、幅40cmのクリアランス51が形成される。
【0054】
その後、床パネル323を床組322に設置する。このとき、床パネル323は残存させた柱41が下方床320を貫通するように設置される(例えば、その部分にだけ、パネル材の敷設を行わない。)。なお、床パネル323を敷設するために、床組322の大梁322aには、小梁や根太が並設されている(図5では不図示)。また、同様に、床パネル313を床組311に設置する(図6参照)。
【0055】
このとき、図6に示すように、上記クリアランス51の上方に、厚さ6mmの金属製(例えば、SUS製)のカバープレート315を配置し(図9も参照)、不図示のボルト等で上方床310の上面の周縁部に固定する。カバープレート315は、クリアランス51を覆うカバー部材として機能するとともに、上方床310と5階の床(床パネル50a)とを接続する接続部材として機能する。これにより、人は、5階においてカバープレート315上を水平方向に移動できるようになる。ここで、カバープレート315の他端を5階の床に固定しないことで、カバープレート315は、5階の床の上面に沿ってスライド自在になる。なお、カバープレート315は、図9に示す例では、床パネル313の上面に重なるように配置されているが、床パネル313と上下に重ならないように配置してもよい。
【0056】
上述したステップS102〜S105の工程の結果、図2に示した多層床免震装置300が構築される。
【0057】
続いて、ステップS106では、免震ユニット340の仮固定を解除して、所定の免震性能試験を行う。免震性能試験では、実際に多層床免震装置300に静的加力を行ったり、振動を入力したりする。なお、免震性能試験の結果に応じて、免震デバイスを調整したり、新たな免震デバイスを追加したりする。
【0058】
最後に、柱330を補強するための補強部材(不図示)を設置する(ステップS107)。補強部材としては、筋かい(ブレース)や横支承材を用いることができる。なお、このステップS107における柱330への補強部材の設置は、ステップS104の工程で行ってもよい。また、多層床免震装置300の強度が十分に高い場合には、補強部材の設置を省略してもよい。
【0059】
図3の設置工程によれば、既存建物1の5階の床の一部が除去され(ステップS101)、その下層階である4階から多層床免震装置300が構築される(ステップS102〜S105)。ここで、かかるコストは、5階の床の一部を除去するコストと、多層床免震装置300を設置するコストのみであるため、低コストで、既存建物1の部分免震を実現することができる。
【0060】
また、図3の設置工程によれば、多層床免震装置300の構築の際に、下方床320は除去した5階の床の一部の下方に設置され、上方床310は、床パネル313の上面と5階の床パネル50aの上面が互いに揃うように設置される(ステップS104,S105)。つまり、多層床免震装置300の設置は、除去した5階の床の一部の空間及びその下方の空間を最大限に活用して行われる。これにより、大型の多層床免震装置300を設置するために既存建物1の5階の床の一部を除去しても(ステップS101)、既存建物1の5階建て構造を乱すことなく、多層床免震装置300を設置することができる。
【0061】
なお、図3の設置工程では、5階の床組50の一部である大梁52などや、大梁52に結合されている4階の柱41を残存させるとしたが、残存させずに除去してもよい。これにより、柱330を、それらに干渉することなくスムーズに設置することができる。
【0062】
以上詳細に述べたことをまとめると、本実施の形態に係る多層床免震装置300を設置する方法によれば、既存建物1の5階の床の一部が除去され、除去した5階の床の一部の空間及びその下方の空間を最大限に活用して、多層床免震装置300が既存建物1の4階に設置される。その設置の際に、残存させた5階の床パネル50aの上面と床パネル313の上面とが互いに揃えられる。これにより、既存建物1の5階建て構造を乱すことなく、4階及び5階の一部免震化(部分免震)を低コストで実現することができる。また、当該方法を用いることによって、既存建物1の部分免震を低コスト実現した部分免震建物1’(図9参照)が提供される。なお、部分免震建物1’における各階の構成などについては後述する。
【0063】
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。
【0064】
上述した第1の実施の形態では、多層床免震装置300を建物1の4階部分に設置したが、本実施の形態では、多層床免震装置300と同様に構成された多層床免震装置500を建物1の地上部分である1階部分に設置する。地上部分に多層床免震装置500を配置することで、大型で質量の大きい機器の免震化をより精確に行うことが可能となる。なお、本実施の形態では、建物1の1階よりも下方の地下の一部も除去される。
【0065】
本実施の形態に係る多層床免震装置500を設置する方法は、第1の実施の形態に係る多層床免震装置300を設置する方法とほぼ同じであるので、主に、異なる点について説明する。
【0066】
図7は、第2の実施の形態において、図1の建物1の1階に設置される多層床免震装置500の構成を詳細に示す断面図である。
【0067】
図7に示すように、多層床免震装置500は、上方床510と、上方床510よりも下方に設けられた下方床520と、上方床510及び下方床520を連結する連結部材としての柱530と、下方床520の下部に設けられた免震ユニット540とを備える。多層床免震装置500は、上方床510及び下方床520を含むので、二層床構造をなす構造体であり、この構造体の免震化は、免震ユニット540により実現される。
【0068】
上方床510は、図7に示すように、鉄骨製の床組511と、床組511上に敷設された床パネル513とから構成されている。床パネル513は、上方床313のパネル材と同様のパネル材から構成される。また、質量が大きい機器を支持可能にするために、床パネル513を構成するパネル材の一部を高剛性のものに代えてもよい。このような高剛性のパネル材のダイキャスト製品としては、例えば、株式会社大林組開発のハイキャップ(HiCAP)(登録商標)を用いることができる。なお、床パネル513には、必要に応じて、配管が通過するための孔が形成される。
【0069】
下方床520は、図7に示すように、多層床免震装置500の支持構造体に設置されている。この支持構造体は、建物1の杭基礎3と、杭基礎3に支持されたコンクリート製の耐圧板521である。下方床520は、耐圧板521上方に配置された鉄骨製の床組522と、床組522の上面に配設された床スラブ523とから構成されている。床スラブ523は、上面が樹脂でコーティングされたコンクリート製である。床組522の上面の耐圧板521上面からの高さは、1.2mである。
【0070】
柱530は、下方床520の床組522に剛接合された下部530aと、上方床510の床組511に剛接合された上部530bとからなり、下部530aと上部530bは互いに連結されている。柱530の長さは、概略的には、1階から2階までの長さ(高さ)に等しい。これにより、多層床免震装置500で建物1の部分的な免震を行っても、建物1の5階建て構造を乱すことがない。また、柱530が形成する垂直構面には、図7に示すように、柱530を補剛する横支承梁531と、筋かい(ブレース)532とが配設され、これらにより、垂直構面の剛性が高められている。
【0071】
免震ユニット540は、下方床520上方の空間を1つの免震空間として画成するものである。免震ユニット540を構成する免震デバイスは、免震ユニット340と同様であり、両面転がり支承アッセンブリー341、摩擦皿ばね支承アッセンブリー342、オイルダンパー343、及びゴム積層体344である。各免震デバイスは、図4に示したのと同様に配置される。なお、免震デバイスの配置及びその設置数は、上方からの荷重などに応じて適宜変更される。また、免震デバイスの種類及びその組み合わせも、上方からの荷重などに応じて適宜変更される。
【0072】
次に、上述した多層床免震装置500を既存の建物1の1階に設置する方法について説明する。
【0073】
図8は、図1の建物1に図7の多層床免震装置500を設置するための設置工程を示すフローチャートである。図8の設置工程は、図3の設置工程と同様の工程を含むので、それらの工程については説明を簡略的に行う。
【0074】
図8において、まず、ステップS201では、図3のステップS101と同様に、上層階に該当する2階の床の一部を除去する。これにより、多層床免震装置500を設置する際に多層床免震装置500の上部が2階の残存する床に干渉するのが防止される。ただし、ここで除去される2階の床の一部は、図3のステップS101とは異なり、床パネル20aと、床組20を構成する大梁並びにそれに並設された小梁及び根太である。したがって、2階の床を構成する大梁などは残存させない。続いて、除去した2階の床組20の大梁に結合されていた柱11を除去する(ステップS202)。
【0075】
次に、ステップS203では、ステップS201で除去した床の一部の下方にある建物1の床(床スラブ10a)を除去し、続いて、その下方にある建物1の基礎部分を除去する(ステップS204)。ここでは、除去した柱11の下方にあった基礎5が除去されると共に、地面が掘削される。したがって、建物1の基礎(杭基礎2,3及び基礎4,5)の全部が除去されるわけではない。
【0076】
そして、掘削により形成されたスペースに、除去した基礎5の代わりとなる耐圧板521を設置する(ステップS205)。耐圧板521は、基礎5の強度よりも高い強度となるように、基礎5よりも水平方向に広いプレート状に成形されたべた基礎である。耐圧板521を介して、多層床免震装置500の荷重は建物1下方の地盤に向かって分散される。
【0077】
続くステップS206では、ステップS103と同様に、耐圧板521に免震ユニット540を構成する免震デバイスを設置する(図4参照)。ここでは、各免震デバイスは、仮固定しておく。なお、この仮固定は最終的に解除される。
【0078】
免震ユニット540の設置後のステップS207〜S209では、図3のステップS104〜105,S107と同様の工程を行う。
【0079】
具体的には、ステップS207では、下方床520及び上方床510を含む二層床構造を構成するための床組522及び床組511が設置される。床組522は、大梁と、大梁に並設された小梁及び根太と、大梁間を補強する火打梁とから構成する。床組511は、大梁と、大梁に並設された小梁及び根太とから構成する。本実施の形態では、質量が大きい機器を支持可能にするために、床組511の大梁同士を剛接合させると共に、その大梁に小梁を剛接合させる。
【0080】
このとき、柱530も下部530a、上部530bの順番で設置される。柱530の上部530bの長さは、上方床520の床パネル513の上面と5階の残存する床パネル20aの上面が互いに揃うような長さに設定されている。なお、柱11や2階の床組511の一部である大梁などが除去されているので、柱530は、それらに干渉することなくスムーズに設置される。
【0081】
ステップS208では、ステップS107と同様に、柱530を補強するための補強部材、具体的には、横支承梁531及び筋かい(ブレース)532を設置する。なお、このステップS208における柱530への補強部材の設置は、ステップS207の工程と合わせて行ってもよい。なお、本実施の形態では、多層床免震装置500に質量の大きい機器を設置することを想定しているので、ステップS208の工程を省略しない方が好ましい。
【0082】
ステップS209では、床スラブ523及び床パネル513が設置される。床スラブ523は、下方床520の上面が1階の床面に揃うように設置される。また、このとき、上方床510の上面の周縁部には、カバープレート315と同様に構成されたカバープレート515が、床パネル20aとの接続部材及びクリアランス21のカバー部材として設置される(図9参照)。さらに、本実施の形態では、下方床520の上面の周縁部にも、カバープレート315と同様に構成されたカバープレート525が、床スラブ10aとの接続部材及びクリアランス12のカバー部材として設置される(図9参照)。
【0083】
上述したステップS204〜S209の工程の結果、図7に示した多層床免震装置500が構築される。
【0084】
続いて、ステップS210では、免震ユニット540の仮固定を解除して、ステップS106と同様の免震性能試験を行う。なお、免震性能試験の結果に応じて、免震デバイスを調整したり、新たな免震デバイスを追加したりする。
【0085】
図8の設置工程によれば、多層床免震装置300と同様に構成された多層床免震装置500が建物1の1階に設置されるので、図3の設置工程による効果と同等の効果を奏することができる。
【0086】
なお、図8の設置工程において、既存の建物1の基礎5を除去するとしたが、例えば基礎5が基礎4と連結されている場合には、残存させてもよい。ただし、この場合には、多層床免震装置500の荷重を確実に受ける支持部材として、図3の設置工程で説明したような補強梁を設置することが好ましい。また、図3の設置工程と同様に、2階の床の一部を構成する大梁などやその大梁に結合されている1階の柱11を残存させてもよい。さらには、杭基礎3を残存させるとしたが、残存させずに除去して、杭基礎3に代わる別の杭基礎を地盤に打ち込んでもよい。
【0087】
したがって、本実施の形態に係る多層床免震装置500を設置する方法によれば、既存建物1の2階の床の一部が除去され(ステップS201)、除去した2階の床の一部の空間及びその下方の空間(地下を含む)を最大限に活用して、多層床免震装置500が既存建物1の1階に設置される(ステップS204〜S209)。その設置の際に、残存させた2階の床パネル20aの上面と床パネル513の上面とが互いに揃えられる。これにより、既存建物1の5階建て構造を乱すことなく、1階及び2階の一部免震化(部分免震)を低コストで実現することができる。また、当該方法を用いることによって、既存建物1の部分免震を低コスト実現した部分免震建物1’(図9参照)が提供される。
【0088】
また、本実施の形態によれば、べた基礎である耐圧板521を配置すべく、既存の建物1の地下も利用するので、質量の大きい機器が設置可能な多層床免震装置500を設置することができる。地下を利用した場合であっても、建物1の基礎の全部を改良する必要はないので、低コストで済む。また、多層床免震装置500に質量の大きい機器を設置可能にするために、柱540には、横支承梁531やブレース532が架設されたり、床組511において床組511の大梁同士が剛接合されたり、また、その大梁に小梁が剛接合されたりする。これらにより、多層床免震装置500は、質量の大きい機器を設置しても十分な免震性能を発揮することができる。つまり、第2の実施の形態は、質量の大きい機器を設置するための多層床免震装置500を既存建物1に設置する場合に、第1の実施の形態よりも有効となる。
【0089】
図9の部分免震建物1’について説明する。
【0090】
図9は、図1の建物1に対して図3の設置工程及び図8の設置工程を施すことによって得られた部分免震建物1’に機器を設置した場合の具体例を示す断面図である。
【0091】
部分免震建物1’は、半導体製造工場として利用される。半導体製造工場では、ウエハーを加工することにより半導体チップが製造される。ウエハーを加工する基板処理装置には、後述する拡散炉200や後述する回路パターン形成装置400がある。回路パターン形成装置400は、振動を嫌う嫌振機器である。
【0092】
半導体製造工場の5階では、拡散炉200を用いて、ウエハー表面に向かって1000℃以上の高温雰囲気下で処理ガスを拡散させることにより、ウエハーの表面を酸化させる処理が行われる。
【0093】
拡散炉200は、図9に示すように、部分免震建物1’に設置した多層床免震装置300の上方床310に設置される。上方床310の上面は、5階の床の上面に揃えられているので、人は、床パネル313を5階の一部であるかのように扱うことができ、拡散炉200にまで容易に移動することができる。
【0094】
また、部分免震建物1’の5階には、図9に示す壁体101及び天井102並びに5階の床によりクリーンルーム100aが画成され、このクリーンルーム100aに上記拡散炉200が設置される。これは、ウエハーや半導体チップの汚染を防止して、製造された半導体チップの不良品が発生するのを抑制するためである。
【0095】
また、クリーンルーム100aにおける気流を確保するために、5階の床パネル50a及び上方床310の床パネル313には、5階の空間と4階の空間を連通させるための多数の孔(不図示)が形成されると共に、クリーンルーム100aの周囲に空調設備110,120が設置される。空調設備110,120は、所定方向に送風を行うものであり、これにより、クリーンルーム100aの空気を5階と4階の間で循環させて、クリーンルーム100aに一定の気流を確保する。この結果、クリーンルーム100aに清浄度の低い空気が滞留することをなくすことができる。また、空調設備には、空気中の空気中に浮遊する汚染物質(塵や埃等の微粒子及び微生物)を捕捉するフィルターが内蔵されており、これにより、クリーンルーム100aに求められる清浄度クラスを実現する。
【0096】
なお、クリーンルーム100aに求められる清浄度クラスは、非常に高い。これを実現するためには、例えば、クリーンルーム100aの空気中に浮遊する汚染物質(塵や埃等の微粒子及び微生物)の大きさが直径0.1μm以下に制限された状態、及び、汚染物質の数が1000個以内である状態を維持する必要がある。そこで、クリーンルーム100aにおける微生物の繁殖などを抑制して、クリーンルーム100aの清浄度クラスを維持するために、クリーンルーム100aの温度や湿度が所定の範囲内となるように制御する制御部(不図示)が設けられる。
【0097】
なお、床パネル50a及び床パネル313は、予め多数の孔(例えばパンチ穴)が形成されたパネル材で構成しておくことが好ましい。また、パネル材には、粉体塗装仕上げなどを施しておくことが好ましく、これにより、粉塵などが発生しにくくなり、クリーンルーム100aの清浄度クラスを高く維持することができる。
【0098】
また、拡散炉200の補機であるガス供給源211及び水源212は、多層床免震装置300の下方床320に設置され、拡散炉200及びその補機は、床パネル313を通過する配管221,222により連結される。
【0099】
ガス供給源211は、配管221により拡散炉200に連結されており、ジクロロシラン(Cl22Si)や三フッ化窒素(NF3)などの処理ガスを配管221を介して拡散炉200に供給する。処理ガスは、人体にとって有毒であったり、高い引火性を有していたりする。配管221は、拡散炉200とガス供給源211の双方に剛接合されている。水源212は、配管222により拡散炉200に連結されており、配管222を介して拡散炉200に冷却水を供給する。なお、配管221や配管222が大きい場合には、床パネル313のパネル材を取り外してもよい。図9に示すように、配管221や配管222を鉛直方向に配置することができるので、配管221や配管222の設置スペースの確保は容易である。したがって、狭い場所に配管を配置する必要を減らすことができる。
【0100】
ここで、多層床免震装置300は4階に設置されているので、人は、4階において、拡散炉200の補機にまで移動することができる。この移動を容易にするために、また、複数個の階段42が、床組322の側面に接合される。この際、各階段42の下部底面に、4階の床パネル40a上を転動可能なキャスターを設けることにより、階段42は、地震発生時に、多層床免震装置300の床組322と共に移動することができる。なお、階段42は、垂直荷重の一部をキャスターを介して床パネル40aに伝達する。
【0101】
多層床免震装置300の免震ユニット340は、建物1の4階の空間及び5階の空間の双方から、下方床320上方の空間を1つの共通する免震空間として画成するものである。また、画成された免震空間は、上方床310と5階の床との間に形成されたクリアランス51により、非免震空間との絶縁が達成される。
【0102】
半導体製造工場の2階では、回路パターン形成装置400を用いて、半導体チップの回路パターンとなるパターンをウエハーの表面に形成する処理が行われる。回路パターン形成装置400は、スキャナー付きのコーター/デベロッパー(coater / developer)であって、具体的には、回路パターン形成装置400は、ウエハーにレジストを塗布し(コーティングし)、レジストにマスクパターンを露光(スキャン)により転写し、それを薬液で現像するものである。レジストのうち、光が照射された部分のレジストのみが薬液に溶出することを利用して、マスクパターンと同じパターンの溝がウエハーの表面に形成される。
【0103】
回路パターン形成装置400は、嫌振機器であるため、図9に示すように、部分免震建物1’に設置した多層床免震装置500の上方床510に設置される。上方床510の上面は、2階の床の上面に揃えられているので、人は、床パネル513を2階の一部であるかのように扱うことができ、回路パターン形成装置400にまで容易に移動することができる。
【0104】
また、部分免震建物1’の2階には、クリーンルーム100bが画成されており、このクリーンルーム100bに上記回路パターン形成装置400が設置される。クリーンルーム100bは、5階のクリーンルーム100aと同様に構成されているため、その説明を省略する。
【0105】
また、回路パターン形成装置400の補機である光源411及び薬液供給源412は、多層床免震装置500の下方床520に設置され、回路パターン形成装置400及びその補機は、床パネル513を通過する配管421,422により連結される。
【0106】
光源411は、配管421により回路パターン形成装置400に連結されており、この配管421は、光源411が出射したレーザー光が通過する光路となる。このレーザー光は、回路パターン形成装置400のスキャナー(露光機)が用いるものである。配管421は、光路が変化しないように、回路パターン形成装置400と光源411の双方に剛接合されている。薬液供給源412は、配管422により回路パターン形成装置400に連結されており、回路パターン形成装置400のデベロッパーに配管422を介して薬液を供給する。なお、配管421や配管422が大きい場合には、床パネル513のパネル材を取り外してもよい。図9に示すように、配管421や配管422を鉛直方向に配置することができるので、配管421や配管422の設置スペースの確保は容易である。したがって、狭い場所に配管を配置する必要を減らすことができる。
【0107】
ここで、多層床免震装置500は1階に設置されており、下方床520の上面は、1階の床面に揃えられているので、人は、1階において、回路パターン形成装置400の補機にまで容易に移動することができる。
【0108】
多層床免震装置500の免震ユニット540は、建物1の1階の空間及び2階の空間の双方から、下方床520上方の空間を1つの共通する免震空間として画成するものである。また、画成された免震空間は、上方床510と2階の床との間に形成された幅40cmのクリアランス21、及び下方床510と1階の床との間に形成された幅60cmのクリアランス12により、非免震空間との絶縁が達成される。
【0109】
なお、部分免震建物1’において、3階は、4階及び5階を支持する補強構造(トラス構造)を兼ねたフリースペースとなっている。このフリースペースには、さまざまな物が収納されたり、地震が発生しても被害の小さい機器などが設置されたりする。なお、既存建物1の4階に多層床免震装置300を設置する前に、即ち図3の設置工程(既存建物1の部分免震化)の施工開始前に、柱31が形成する垂直構面に筋かい(ブレース)などの補強部材をさらに配置してもよい。これにより、3階は、多層床免震装置300の荷重も確実に支持することができる。
【0110】
上述したように構成された部分免震建物1’に地震が発生した場合について説明する。
【0111】
建物1の近傍で地震が発生すると、まず、建物1の1階部分が振動する。その後、建物1の4階部分にも振動が伝わる。4階部分に生じた振動は、非免震空間に配置された5階の床や、柱6を介して建物1の屋根7に伝わり、また一方で、免震空間に配置された多層床免震装置300の下方床320及び上方床310にも伝わる。
【0112】
免震空間では、免震ユニット340を構成する免震デバイスにより効率的に振動が吸収される。このため、4階部分に生じた振動の大きさは下方床320において小さくなる。下方床320の振動は、柱330を介して上方床310に伝わるが、上方床310は、下方床320の移動に連動するので、上方床310の振動の大きさは、下方床320の振動の大きさにほぼ等しい。このように、下方床320及び上方床310では、振動の大きさが小さいので、下方床320に設置された補機及び上方床310に設置された拡散炉200の転倒や損壊が防止される。
【0113】
また、床組322と床組311との柱330を介した連結は剛直であるので、拡散炉200とガス供給源211との間の相対変位(オフセット)や、拡散炉200と水源212との間の相対変位も発生しない。
【0114】
一方、非免震空間に配置されている5階の床に生じる振動の大きさは、4階の床の振動の大きさがほぼ維持されたものとなる。このため、5階の床の振動の大きさは、同じ高さに配置されている上方床310の振動の大きさよりも大きい。結果として、5階の床は、上方床310に対して相対変位を起こす。この相対変位の大きさは、震度6弱〜震度6強の地震が発生した場合、20cm程度である。5階の床が上方床310に当接することがないようにクリアランス51の幅が40cmに設定されている。なお、カバープレート315は、スライド自在に配置されているので、5階の床が上方床310に振動を伝えることはない。
【0115】
このように、地震が発生した場合でも、拡散炉200とその補機との間で相対変位が発生しないので、それらを連結する配管221,222にも歪みやずれが生じることはない。このため、配管221は、拡散炉200やガス供給源211に剛接合させてもよい。配管221がずれた場合、拡散炉200やガス供給源211から外れて、人体にとって有毒な処理ガスや、高い引火性を有する処理ガスが漏出する事態が発生することになるが、このような事態を回避するために、配管221と拡散炉200やガス供給源211との連結部分に、柔軟性の高い接合部材(フレキシブルジョイント)を用いる必要がない。これにより、フレキシブルジョイントの蛇腹部分にウエハーを汚染するような微粒子が堆積して機器内の清浄度が低くなるという問題なども解消することができる。
【0116】
また、部分免震建物1’の1階や2階についても同様のことが云える。すなわち、回路パターン形成装置400とその補機との間で相対変位が発生しないので、それらを連結する配管421,422にも歪みやずれが生じることはない。配管421,422がずれた場合、回路パターン形成装置400や光源411や薬液供給源412から外れて、危険物である薬液が漏出したり、光路がずれたり、光路上に配置されたレンズなどが破損したりする事態が発生することになるが、このような事態を回避することができる。また、配管421は、回路パターン形成装置400や光源411に剛接合させることができるので、連結部分に上記フレキシブルジョイントを用いる必要がない。これにより、フレキシブルジョイントの蛇腹部分で光路が屈折するという問題なども解消することができる。同様に、配管422は、回路パターン形成装置400や薬液供給源412に剛接合させることができるので、連結部分に上記フレキシブルジョイントを用いる必要がない。これにより、フレキシブルジョイントの蛇腹部分に堆積した微粒子により薬液の清浄度が低くなるという問題なども解消することができる。
【0117】
以上詳細に説明したように、本実施の形態に係る多層床免震装置300,500を設置する方法によれば、上述したように、既存建物1の5階建て構造を乱すことなく、部分免震を低コストで実現することができる。
【0118】
また、上記方法により多層床免震装置300,500が設置された部分免震建物1’では、上方床(310,510)及び下方床(320,520)の双方に機器を設置しても、地震発生時における機器の転倒や損壊が防止される。さらには、上方床及び下方床の双方の間で相対変位が発生しないので、それらを連結する配管に歪みやずれが発生せず、配管のずれによる不具合をなくすことができる。このような免震効果により、半導体製造における生産ラインをなす基板処理装置並びにその補機及び配管が保護されるので、地震が発生した場合でもその後の早期復旧が可能となる。
【0119】
また、部分免震建物1’において部分免震が実現されたスペースは、上方床及び下方床の双方であるので、下方床のみ又は上方床のみの場合に比較して、広大である。また、上方床に設置された機器と下方床に設置された機器は鉛直方向上下に配置されるので配管を容易に設置することができる。
【0120】
なお、上述した図3の多層床免震装置300の設置工程と、図8の多層床免震装置500の設置工程とは、それぞれ、第1の実施の形態及び第2の実施の形態として個別に説明したが、各設置工程を同時に実行してもよいし、順次実行してもよいし、一方だけを実行してもよい。つまり、既存建物1に対する部分免震化の施工期間を自由に設定することができる。これにより、全体免震を行う施工期間の間、建物全体で操業を停止する必要があるために免震化の必要が無いフロアーにも影響が生じるといった問題を解決することができる。
【0121】
なお、部分免震建物1’において、上述した多層床免震装置300は、5階及び4階の双方の空間から1つの免震空間を画成しており、多層床免震装置500は、2階及び1階の双方の空間から1つの免震空間を画成している。本発明は、このように2つの階層から1つの免震空間が画成される場合だけに限られて適用されるものではない。例えば、3つ以上の階層から1つの免震空間が画成されてもよい。つまり、多層床免震装置300,500は、多層構造を有する建物内の空間から、免震空間を自由に設定することができる。
【0122】
また、多層床免震装置300,500は、二層床構造をなしているとしたが、三層以上の多層床構造をなすものであってもよい。この場合、各床の面が建物1の床の面に揃えられる。
【0123】
さらに、多層床免震装置300,500に設置される機器及び補機の数は1つに限られることはない。同様に、機器及び補機を連結する配管の数も2つに限られることはない。さらに、1つの階層(フロアー)に2つ以上の多層床免震装置を設置してもよい。
【0124】
また、カバープレート315,515,525は、多層床免震装置300,500に固定されているとしたが、建物1の床に固定されていてもよく、この場合、多層床免震装置300,500の床の周縁部においてスライド自在となるように配置される。この場合にも、建物1の床の移動が生じてもその振動が多層床免震装置300,500の床に伝わるのを防止することができる。
【0125】
また、既存建物1において、各階の高さが6〜8mに設定されているとしたが、拡散炉200や回路パターン形成装置400及びそれらの補機などが設置することができる高さであればよい。上方床310,510上方の空間の高さや、下方床320,520上方の空間の高さも同様である。好ましくは、高さが1.4m以上に設定される。これにより、配線や検査、清掃などのメンテナンスを効率的に行うことができると共に、メンテナンス時の安全性を向上させることができる。
【0126】
上述した各実施の形態では、上方床310,510に基板処理装置を設置し、下方床320,520にその補機を設置したが、これに代えて、下方床320,520に基板処理装置を設置し、上方床310,510に補機を設置してもよい。
【0127】
また、上方床310,510の表面積(床面積)と、下方床320,520の表面積とがほぼ等しい(図2,図7参照)が、一致していなくてもよい。例えば、下方床320の表面積が上方床310の表面積よりも大きくてもよいし、その逆であってもよい。
【0128】
図9に示す部分免震建物1’は、半導体製造工場として利用されるとしたが、部分免震建物1’の用途は、半導体製造工場に限られることはない。
【図面の簡単な説明】
【0129】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る多層床免震装置を設置する方法の適用対象となる建物の構造を概略的に示す断面図である。
【図2】図1の建物の4階に設置される多層床免震装置の構成を詳細に示す断面図である。
【図3】図1の建物に図2の多層床免震装置を設置するための設置工程を示すフローチャートである。
【図4】図3のステップS103において設置される免震ユニットを構成する免震デバイスの配置を模式的に示す平面図である。
【図5】図3のステップS105までの工程が完了したときの下方床の上面図である。
【図6】図3のステップS105までの工程が完了したときの上方床の上面図である。
【図7】本発明の第2の実施の形態において、図1の建物の1階に設置される多層床免震装置の構成を詳細に示す断面図である。
【図8】図1の建物に図7の多層床免震装置を設置するための設置工程を示すフローチャートである。
【図9】図1の建物に対して図3の設置工程及び図8の設置工程を施すことによって得られた部分免震建物に機器を設置した場合の具体例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0130】
1 建物(既存)
1’ 部分免震建物
2,3 杭基礎
4,5 基礎
6,11,31,41 柱
10a 床スラブ
20a,30a,40a,50a 床パネル
20,30,40,50 床組
200 拡散炉
211 ガス供給源
212 水源
300,500 多層床免震装置
310,510 上方床
315,515,525 カバープレート
320,520 下方床
330,530 柱
340,540 免震ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既存建物に多層床免震装置を設置する方法であって、
(A)既存の建物の床の一部を除去する工程と、
(B)機器を設置するための上方床と、
他の機器を設置するための、前記上方床よりも下方に設けられた下方床と、
前記上方床と前記下方床とを連結する連結部材と、
前記下方床の下部に設けられた免震装置と、を備えた多層床免震装置を、
除去された前記床の一部及びその下方の空間を利用して、前記上方床の上面と残存する前記床の上面とが揃うように設置する工程と、
を備えた、多層床免震装置を設置する方法。
【請求項2】
前記床の一部を除去する工程では、前記床の一部を構成する大梁を残存させ、前記床の一部を構成する床パネル、根太、及び小梁が除去されることを特徴とする請求項1記載の多層床免震装置を設置する方法。
【請求項3】
前記床の一部を除去する工程において残存させた前記大梁に結合されている柱を残存させることを特徴とする請求項2記載の多層床免震装置を設置する方法。
【請求項4】
前記多層床免震装置を設置するための補強梁を前記床の一部の下方の空間に設置する工程を備えることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の多層床免震装置を設置する方法。
【請求項5】
前記床の一部を除去する工程では、前記床の一部を構成する床パネル、根太、小梁、及び大梁が除去され、
前記床の一部を除去する工程において除去された大梁に結合されていた柱を除去する工程を備えることを特徴とする請求項4記載の多層床免震装置を設置する方法。
【請求項6】
前記床の一部の下方にある前記建物の床及び基礎を除去する工程を備えることを特徴とする請求項5記載の多層床免震装置を設置する方法。
【請求項7】
前記多層床免震装置を設置するためのプレート状の基礎を前記床の一部の下方の空間に設置する工程を備えることを特徴とする請求項6記載の多層床免震装置を設置する方法。
【請求項8】
残存する前記床と当該床に揃うように設置された前記上方床とを接続するプレート状の接続部材を、前記上方床の上面又は残存する前記床の上面に沿ってスライド自在に設置する工程を備えることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の多層床免震装置を設置する方法。
【請求項9】
前記連結部材を補強するための補強部材を設置する工程を備えることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の多層床免震装置を設置する方法。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか1項に記載の多層床免震装置を設置する方法により、前記多層床免震装置が設置されたことを特徴とする部分免震建物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2009−7766(P2009−7766A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−167866(P2007−167866)
【出願日】平成19年6月26日(2007.6.26)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】