説明

多層構造体の製造方法及び製造装置、断熱採光材の製造方法

【課題】断熱性に優れ、軽量であるとともに、透光性、審美性、強度も優れた多層構造体の製造方法などを提供する。
【解決手段】この発明の層構造体1の製造方法は、透光性を有する3枚以上の基材11を、各基材11間に配置された複数の樹脂製スペーサ12によって、基材11間に前記樹脂製スペーサ12の厚みの空間を形成するように積層するとともに、各樹脂製スペーサ12を他の基材11間の樹脂製スペーサ12と基材11の積層方向に重ね合わせるよう配置することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、断熱性に優れ、軽量な多層構造体の製造方法及び製造装置、この多層構造体を使用する断熱採光材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の建築物では、省エネルギーの観点から、外界との高い断熱効果を達成し冷暖房の効率を極限にまで高める試みがなされている。そして、このような目的のために断熱性の高い壁材等が種々提案されている。
【0003】
一方、建築物の住環境等を考える場合に、採光は極めて重要である。現在の建築物においては、採光部にはガラス窓を設置することが一般的であるが、壁材等に比べて高い断熱効果を発揮させるのは難しかった。例えば、「省エネルギー技術戦略報告書」(平成14年6月12日、経済産業省)によると、全消費エネルギーの45%が窓等の開口部から損失しているといわれている。
【0004】
さて、断熱性の高いガラスとしては、いわゆるペアガラスが提案されている(例えば、特許文献1等)。ペアガラスは、2枚のガラス間に隙間を設け、ガラス間を真空としたり、アルゴン等の不活性ガスを吹き込んだりしたものであり、ガラス間の空間の存在により、高い断熱効果を発揮しようとするものである。
【0005】
しかし、ペアガラスは通常のガラスに比べて重くて嵩張るという欠点があった。また、数万〜十数万円/m2と高価であり、通常の住宅へ応用するのは困難であった。さらに、長期間使用する間に空気が侵入して真空状態が破れたり、ガス抜けが起こったりして、性能が低下してしまうという欠点もあった。そこで、断熱性に優れ、透光性が高く、かつ軽量である採光断熱材が求められている。
【特許文献1】特開2003−026453号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この発明は、断熱性に優れ、軽量であるとともに、透光性、審美性、強度も優れた多層構造体の製造方法と製造装置、及び多層構造体の縁部に枠体を取り付けた断熱採光材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の目的を達成するため、近年、ペアガラスのガラスに代えて軽量かつ透明な基材を使用することが検討されている。例えば、複数の基材の間にスペーサで分割された空間を有する多層構造体を使用する断熱採光材が検討されている。
【0008】
この多層構造体は、多層化することによって断熱性が向上することが知られており、基材の上に樹脂製スペーサを形成しその上に他の基材を積み重ねることを繰り返して、多層構造体を製造することが試みられている。
【0009】
ただ、基材を積み重ねて多層構造体を製造しようとしても、透光性、審美性が低下するとともに、樹脂製スペーサに掛かる力が分散して多層構造体の強度が不十分となってしまうため、実用的な多層構造体の製造は困難であった。


【0010】
本発明者らは、研究の結果、樹脂製スペーサを基材の積層方向に正確に重ね合わせることができないために、樹脂製スペーサの幅を太くなって透光性、審美性が低下し、樹脂製スペーサに掛かる力が分散して強度が不十分となることを見出した。そして、今回、以下の各請求項に記載の発明を完成し、実用性のある多層構造体等の製造を可能にした。
【0011】
すなわち、請求項1に記載の多層構造体の製造方法は、透光性を有する3枚以上の基材を、各基材間に配置された複数の樹脂製スペーサによって、基材間に前記樹脂製スペーサの厚みの空間を形成するように積層するとともに、各樹脂製スペーサを他の基材間の樹脂製スペーサと基材の積層方向に重ね合わせるよう配置することを特徴とする。なお、この発明において、樹脂製スペーサを基材の積層方向に重ね合わせるとは、各樹脂製スペーサを完全に一致するように重ね合わせることだけではなく、実質的に重ね合わせることも含む。
【0012】
請求項2に記載の多層構造体の製造方法は、請求項1に記載の多層構造体の製造方法であって、基材上の樹脂製スペーサ形成位置にスペーサ用樹脂組成物を配置させるスペーサ付き基材形成工程と、別の基材を先の基材と平行になるように先の基材上のスペーサ用樹脂組成物上に積層する基材積層工程と、を繰り返す。
【0013】
請求項3に記載の多層構造体の製造方法は、請求項1に記載の多層構造体の製造方法であって、基材の樹脂製スペーサ形成位置にスペーサ用樹脂組成物を配置させるスペーサ付き基材形成工程と、樹脂製スペーサ付き基材の樹脂製スペーサが他の樹脂製スペーサ付き基材の基材に接触するように、複数枚の樹脂製スペーサ付き基材を互いに平行に保ちながら積層する積層工程と、を備えている。
【0014】
請求項4に記載の多層構造体の製造方法は、請求項1に記載の多層構造体の製造方法であって、複数の基材を上下方向に間隔を置いて配置した状態で、各基材上の樹脂製スペーサ形成位置にスペーサ用樹脂組成物を配置させるスペーサ付き基材形成工程と、スペーサ付き基材の間隔をスペーサ付き基材形成工程時より狭めて、樹脂製スペーサが他のスペーサ付き基材の基材に接触するように積層する積層工程と、を備えている。
【0015】
請求項5に記載の多層構造体の製造方法は、請求項1に記載の多層構造体の製造方法であって、複数の長尺基材を上下方向に間隔を置いて、長尺基材の幅方向に伸張状態を保ちながら長尺基材の長手方向に連続的に搬送し、搬送される長尺基材の樹脂製スペーサ形成位置にスペーサ用樹脂組成物を連続的または間欠的に供給してスペーサ付き基材を連続的に得るスペーサ付き基材形成工程と、スペーサ付き基材形成工程を経て連続的に搬送される各長尺のスペーサ付き基材を幅方向に伸張させた状態で上下のスペーサ付き基材とスペーサ付き基材との間隔を狭めて樹脂製スペーサが他の樹脂製スペーサ付き基材の基材に接触するように連続的に積層して長尺多層構造体を得る積層工程と、を備えている。
【0016】
請求項6に記載の多層構造体の製造方法は、請求項1から請求項5の何れかに記載に記載の多層構造体の製造方法であって、多層構造体を所定の寸法に切断する切断工程を備えている。
【0017】
請求項7に記載の多層構造体の製造方法は、請求項1から請求項6の何れかに記載の多層構造体の製造方法であって、基材が少なくとも対向する2つの端縁に沿って所定のピッチで複数の位置決め孔が穿設された孔開き基材であり、このような孔開き基材の各位置決め孔に位置決めピンを挿通することによって位置決めしながら積層する。
【0018】
請求項8に記載の多層構造体の製造方法は、請求項7に記載の多層構造体の製造方法であって、位置決め孔の穿孔を位置決めピン先端に設けた刃によって行い、穿孔と同時に位置決めピンを位置決め孔に挿通する。
【0019】
請求項9に記載の多層構造体の製造方法は、請求項1から請求項8の何れかに記載の多層構造体の製造方法であって、少なくとも一つの吐出口からスペーサ用樹脂組成物を基材上に吐出すると同時に、基材と吐出口とを相対移動させて、樹脂製スペーサを形成する。
【0020】
請求項10に記載の多層構造体の製造方法は、請求項1から請求項9の何れかに記載の多層構造体の製造方法であって、樹脂製スペーサよりも幅広の樹脂製帯状部を、少なくとも最も外側に配置された樹脂製スペーサの外側に配置させる帯状部形成工程を備える。
【0021】
請求項11に記載の多層構造体の製造方法は、請求項1から請求項10の何れかに記載の多層構造体の製造方法であって、最外層基材に接着層を設ける接着剤塗布工程を備えている。
【0022】
請求項12に記載の断熱採光材の製造方法は、請求項1から請求項10の何れかに記載の多層構造体の側縁を、少なくとも端部のスペーサを包含するように枠材の断面略コ字形をした嵌合溝に嵌合させる嵌合工程を備える。
【0023】
請求項13に記載の断熱採光材の製造方法は、請求項12に記載の断熱採光材の製造方法であって、枠材の嵌合溝内に封止材料を充填し、多層構造体の側面を気密に封止する。
【0024】
請求項14に記載の断熱採光材の製造方法は、請求項12又は請求項13に記載の断熱採光材の製造方法であって、枠材の嵌合溝の両側壁に複数の挿通孔が対向するように穿設してあり、これらの挿通孔と請求項7から請求項10の何れかに記載の多層構造体の製造方法により製造した多層構造体の位置決め孔の何れかが一致するように、多層構造体と枠材とを嵌合させる嵌合工程と、一致させた位置決め孔と挿通孔との間に挿通手段を挿通して、多層構造体と枠材とを固着させる固着工程と、を備えている。
【0025】
請求項15に記載の多層構造体の製造装置は、2列平行に立設された複数の位置決めピンと、少なくとも基材の端部を固定する固定手段とを有する基材固定テーブルと、基材固定テーブル上方に配置され、スペーサ用樹脂組成物を吐出する少なくとも一つの吐出口と、基材固定テーブル及び吐出口の少なくとも何れかを、前記位置決めピンの列方向に相対移動させる移動手段と、基材固定テーブル及び吐出口の少なくとも何れかを基材の積層方向に相対移動させる昇降手段と、を備えることを特徴とする。
【0026】
請求項16に記載の多層構造体の製造装置は、請求項15に記載の多層構造体の製造装置であって、位置決めピンが基材に位置決め孔を穿孔する刃をその先端に備えている。
【0027】
請求項17に記載の多層構造体の製造装置は、請求項15又は請求項16に記載の多層構造体の製造装置であって、基材を基材固定テーブル上に供給する基材供給手段を複数備えている。
【0028】
請求項18に記載の多層構造体の製造装置は、上下方向に配置され、長尺基材を幅方向に張力を掛けながら、長尺基材をその長手方向に連続的に搬送するとともに、搬送方向の上流側には搬送される上下の長尺基材間にスペーサ用樹脂組成物が供給可能な隙間を形成し、搬送方向の下流側では上下の長尺基材間を積層幅に狭めるように基材をガイドする複数の基材搬送手段と、スペーサ用樹脂組成物供給可能位置で、基材上の樹脂製スペーサ形成位置にスペーサ用樹脂組成物を吐出する複数の吐出口と、を備えることを特徴とする。
【0029】
請求項19に記載の多層構造体の製造装置は、請求項18に記載の多層構造体の製造装置であって、連続的に送り出される長尺多層構造体を所定の長さに切断する切断手段を備えている。
【発明の効果】
【0030】
請求項1から請求項3の何れかに記載の多層構造体の製造方法は、樹脂製スペーサを基材の積層方向に正確に重ね合わせることができる。したがって、断熱性に優れ、軽量であるとともに、透光性、審美性、強度も優れた多層構造体を製造できる。
【0031】
請求項4から請求項6の何れかに記載の多層構造体の製造方法は、基材の積層方向に正確に重ね合わせた状態で、多層構造体を連続的に製造することができる。したがって、断熱性に優れ、軽量であるとともに、透光性、審美性、強度も優れた多層構造体を効率よく、低コストで製造できる。
【0032】
請求項7に記載の多層構造体の製造方法は、基材が少なくとも対向する2つの端縁に沿って所定のピッチで複数の位置決め孔が穿設された孔開き基材であって、このような孔開き基材の各位置決め孔に位置決めピンを挿通することによって位置決めしながら積層するため、樹脂製スペーサを基材の積層方向に正確に重ね合わせることができる。
【0033】
請求項8に記載の多層構造体の製造方法は、位置決めピンの先端に刃が設けてあるため、位置決め孔の穿設と基材の固定とを同時に行うことができる。そのため、多層構造体の製造を簡素化することができる。
【0034】
請求項9に記載の多層構造体の製造方法は、少なくとも一つの吐出口からスペーサ用樹脂組成物を基材上に吐出すると同時に、基材と吐出口とを相対移動させて、樹脂製スペーサを形成することにより、樹脂製スペーサを容易に形成することができる。
【0035】
請求項10に記載の多層構造体の製造方法は、多層構造体に樹脂製帯状部をするため、後述する枠材への組付けを容易にすること、空間をより確実に封止すること、基材同士のずれを防ぐことができる。
【0036】
請求項11に記載の多層構造体の製造方法は、多層構造体の最外層基材に接着層を設けてあるため、ガラスなどの支持体に貼付けることができ、既存のガラスに断熱性を付与することができる。
【0037】
請求項12に記載の断熱採光材の製造方法は、多層構造体の枠材の断面略コ字形の枠材を取り付けることにより、採光窓などして利用可能な断熱採光材を容易に製造することができる。
【0038】
請求項13に記載の断熱採光材の製造方法は、多層構造体の側面を気密に封止しているため、空間の空気の移動を防ぎ、多層構造体の断熱効果をより高めることもできる。
【0039】
請求項14に記載の断熱採光材の製造方法は、多層構造体の位置決め孔と枠材に穿設した挿通孔とを挿通する挿通手段によって、多層構造体を枠材に容易に取り付けることができる。
【0040】
請求項15に記載の多層構造体の製造装置は、基材固定テーブルが基材を基材固定テーブルに平行な状態で保持できるため、樹脂製スペーサの形成中に基材が変形せず、樹脂製スペーサを基材の積層方向に正確に重ね合わせることができる。
【0041】
請求項16に記載の多層構造体の製造装置は、位置決めピンの先端に刃が設けてあるため、位置決め孔の穿設と基材の固定とを同時に行うことができる。
【0042】
請求項17に記載の多層構造体の製造装置は、基材供給手段を交互に切り替えて使用できるので、基材ロールを容易かつ迅速に交換でき、材質や厚さの異なる2種類の基材を使用する多層構造体の製造をできる。
【0043】
請求項18に記載の多層構造体の製造装置は、樹脂製スペーサの形成とスペーサ付き基材の積層を連続的に行うことができるため、多層構造体を連続的に効率よく製造することができる。
【0044】
請求項19に記載の多層構造体の製造装置は、切断手段の切断間隔を操作することにより、長さの異なる多層構造体を同一の製造装置で製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0045】
以下に、本発明の実施の形態を、その1例を示す図面を参照に詳説する。
【0046】
1.多層構造体の製造方法
この発明は、透光性を有する3枚以上の基材が、各基材間に配置された複数の樹脂製スペーサによって、基材間に前記樹脂製スペーサの厚みの空間を形成するように積層されるとともに、各樹脂製スペーサが他の基材間の樹脂製スペーサと基材の積層方向に重ね合わせるように配置される多層構造体の製造方法である。そこで、初めに、多層構造体について、その詳細を以下に説明する。
【0047】
(1)多層構造体
この発明の多層構造体1は、その断面図である図1(a)に示すように、3枚以上の基材11が、各基材11間に設けられた樹脂製スペーサ12を介して、基材11間に樹脂製スペーサ12によって仕切られた複数の空間2を形成するように、積層されている。
【0048】
ここで、多層構造体1は、後述する枠材への組付けを容易にすること、空間2をより確実に封止すること、基材11同士のずれを防ぐこと等のため、図1(b)に示すように、樹脂製スペーサ12よりも幅広の樹脂製帯状部13を備えていてもよい。図2に樹脂製帯状部13を備えた多層構造体1の正面図を示す。なお、多層構造体は、図2に示すような縦長形状のほか、正方形や横長形状など用途に応じて様々な形状を採ることができる。
【0049】
また、樹脂製スペーサ12の形状は、図1及び図2に記載のものに特に限定する必要はなく、この他にも、図3に示す幅方向の直線形状、図4に示すようにほぼ矩形の樹脂製スペーサ12を格子状に並べた形状が考えられるが、断熱性能及び製造し易さを考慮すれば、図2に示すような長手方向の直線形状が好ましい。さらに、樹脂製帯状部は、最も外側の樹脂製スペーサよりも外側には少なくとも配置されている必要はあるが、枠材の形状等に応じて多層構造体1の中央部などに配置されていてもよい。
【0050】
空間2の厚さは、多層構造体1の熱貫通率に関係し、空間2の厚さの好ましい下限は100μm、好ましい上限は3mmであり、より好ましい下限は200μm、より好ましい上限は2mmである。なお、同じ厚さの多層構造体1であれば、厚い空間を少数有するものよりも、前記範囲の厚さの空間を多数有するもののほうがより断熱効果が高い。
【0051】
また、空間2を分割する樹脂製スペーサが一軸方向に一直線に形成された線状のものである場合、その間隔の好ましい下限は3cm、好ましい上限は40cmであり、より好ましい下限は5cm、より好ましい上限は20cmである。3cm未満であると、得られる採光断熱材の透光性が劣ることがあり、40cmを超えると得られる多層構造体1の強度が劣ることがある。
【0052】
さらに、多層構造体1の最外層基材にホットメルト接着剤などからなる接着層を設け、ガラスなどの支持体に貼付けられるようにしてもよい。なお、製造工程及び製造装置を簡略化できること、厚みが薄く空気巻き込みが少ないことから、樹脂製スペーサを接着層に使用することが好ましい。
【0053】
(a)基材
基材11は、その幅方向の両端縁に沿って所定のピッチで複数の位置決め孔11aが穿設してあり、ある程度の透光性を備えているのであれば、特に限定することなく公知の基材を使用することができる。具体的には、樹脂フィルム、樹脂シート、紙、ガラスペーパ、板ガラス、樹脂フォームを例示することができ、透明なものだけでなく、着色された半透明なものでも構わない。なお、多層構造体1を構成する基材11は、全てが同じものである必要はなく、用途に応じて様々な厚さや材質のものを使用することができる。例えば、最上又は最下層にはガラス板、ポリカーボネートプレート等の可とう性の少ない材料を使用して、その他の層には樹脂フィルムとガラスペーパなどの可とう性を備えた材料を使用してもよい。
【0054】
樹脂フィルム、樹脂シートとしては、具体的には、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート、ポリエチレン、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、トリ酢酸セルロース等からなる樹脂フィルムや樹脂シート等が例示できる。また、紙としては障子紙などの和紙、塗工紙、非塗工紙及び耐水性紙等の洋紙、植毛紙等の特殊紙等が例示できる。また、樹脂フォームとしては、ポリエチレン等のオレフィン系樹脂発泡体、発泡ポリスチレンペーパー、アクリル系樹脂発泡体などが例示できる。
【0055】
樹脂フィルムとしては、自消性を備えており建築材として適合性がよいことから、ポリカーボネートフィルム、ポリ塩化ビニルフィルムが好ましく、特に、ポリカーボネートフィルムは、強度と耐候性とに優れていることから、これを最外層とすることにより防犯性や耐候性を発揮させることもできる。また、ポリエチレンテレフタレートフィルムは機械的強度に優れているため、これを使用することにより、多層構造体1の強度を高めることができる。さらに、最外層として板ガラスを使用することによって、窓ガラスに断熱効果を付与することができ、最外層として障子紙などの和紙を利用することによって、多層構造体の意匠性を向上させることができる。
【0056】
基材が樹脂フィルムからなる場合、その厚さは特に限定する必要はないが、好ましい下限は10μm、好ましい上限は300μmである。10μm未満であると、得られる多層構造体1の強度が劣ることがあり、300μmを超えると、同じ断熱効果を得るのに必要以上に多層構造体1が厚くなることがある。なお、より好ましい下限は20μm、より好ましい上限は200μmである。また、樹脂シート、紙、ガラスペーパ、板ガラス、樹脂フォームの厚さは、断熱性と採光性を損なわない範囲で用途に応じて自由に決めることができる。
【0057】
位置決め孔11aは、基材11を均一に伸張された状態に保ち「しわ」が生じないのであれば、特に限定することなく穿設してもよいが、等間隔で穿設する(等ピッチ)ことが好ましい。また、位置決め孔11aを等間隔で穿設する場合のピッチは、基材11の厚さや材料によっても変わるが、好ましい下限は3cm、好ましい上限は90cmであり、より好ましい下限は10cm、より好ましい上限は30cmである。3cm未満であると、穿設する位置決め孔11aの数が増え作業性が劣ることがあり、90cmを超えると基材11にしわが寄り、均一に伸張された状態で保持することができなくなることがある。
【0058】
なお、基材は位置決め孔11aを予め穿設した孔開き基材を使用してもよいが、無孔の基材を使用し、多層構造体の製造中に孔を開けるようにしてもよい。このように無孔のフィルムを使用することによって、同じ基材を種類の異なる多層構造体に使用することができる。
【0059】
(b)樹脂製スペーサ
樹脂製スペーサ12を構成するスペーサ用樹脂組成物は、基材同士を貼り合せることができる樹脂であれば特に限定することなく使用することができるが、採光性を高めるためには透明樹脂であることが好ましく、断熱機能を高めるためには断熱性が高い樹脂であることが好ましい。このような樹脂としては、ホットメルト接着剤用樹脂、常温で自己粘着する樹脂等があるが、具体的には、変性ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、アルキル(メタ)アクリル酸共重合体樹脂などが例示できる。
【0060】
なお、前記樹脂組成物は断熱効果向上のため、気泡を分散してもよい。気泡を分散させる方法として、具体的には、空隙を有するシリカ、ガラス等の無機フィラーを混練する方法、加熱により気体を発生させる化学発泡剤を使用する方法、常圧では気体の窒素、二酸化炭素、有機溶剤等の物質を加圧下で混練し、常圧下で開放して発泡させる物理発泡剤を使用する方法等が挙げられる。
【0061】
また、樹脂製スペーサの幅は、その下限が0.1mm、上限が3mmであることが好ましく、より好ましい下限は0.3mm、上限は2mmである。下限が0.1mm未満であると樹脂製スペーサと基材との接着強度が劣ることがあり、上限が3mmを超えると伝熱面積が増えて断熱効果が劣ることがある。
【0062】
(c)樹脂製帯状部
樹脂製帯状部13を構成する帯状部用樹脂組成物は、基材同士を貼り合せることができる樹脂であれば特に限定することなく使用することができるが、断熱機能を高めるためには断熱性が高い樹脂であることが好ましい。このような樹脂としては、スペーサ用樹脂組成物と同様のものが例示できる。
【0063】
また、樹脂製帯状部13の幅は、その下限が3mm、上限が20mmであることが好ましく、より好ましい下限は4mm、上限は10mmである。下限が3mm未満であると多層構造体1の端部が短くなるため、空間2の枠材への組付けを容易にすること、空間2をより確実に封止すること、基材11同士のずれを防ぐこと等の効果が得られないことがあり、上限が3mmを超えると伝熱面積が増えて断熱効果が劣ることがある。
【0064】
(2)製造方法
この発明の多層構造体を製造する方法としては特に限定されないが、例えば、図5に記載した態様の製造装置3、又は図6及び図7に記載した態様の製造装置4を使用する方法が挙げられる。
【0065】
(a)製造装置3の構造
製造装置3は、図5に示すように、2列平行に立設された複数の位置決めピン31a及び基材の端部を固定する固定手段31bを有する基材固定テーブル31と、基材固定テーブル31の上方に配置されスペーサ用樹脂組成物を吐出する吐出口32と、基材供給手段33と、を備えている。なお、位置決めピン31aは、その先端に基材11に位置決め孔11aを穿孔する刃を備えている。なお、図5(a)は製造装置3を側面から見た図であり、図5(b)は上側から見た図(後述する基材供給手段33については、理解しやすくするため、記載を省略した。)である。
【0066】
ここで、位置決めピン31aは、基材11を均一に伸張された状態に保ち「しわ」を生じさせないのであれば、特に限定することなく任意の間隔で立設してもよいが、等間隔で立設する(等ピッチ)ことが好ましい。また、位置決めピン31aは、基材固定テーブル31に固定されていてもよく、基材固定テーブル31上でその位置や角度を変えて、基材11に張力を与えられるようになっていてもよい。
【0067】
また、固定手段31bが基材11を基材固定テーブル31に固定する方法としては、公知の技術であれば特に限定することなく使用することができる。具体的には、固定手段31bが基材11の端部を挟持する方法、固定テーブル31に設けられた脱気孔により基材11の端部や全体を真空吸引する方法、固定テーブル31に剥離可能な粘着加工を施して貼り付ける方法、静電気を発生させて貼り付ける方法などが例示できる。
【0068】
さらに、基材供給手段33は、ロール状に巻き取った無孔の基材のロールから無孔の基材を送り出す基材送り出し部33a(33b)、無孔の基材を一定の力で引っ張るテンション負荷ロール34a(34b)、無孔の基材を一定の長さで切断する基材カッター35a(35b)、基材を基材固定テーブル31に積層して貼付ける貼付プレスロール36a(36b)等から構成されている。
【0069】
このように図5に記載の製造装置3が、2つの基材供給手段33を交互に切り替えて使用できるので、基材ロールを容易かつ迅速に交換でき、材質や厚さの異なる2種類の基材を使用する多層構造体が製造できる。
【0070】
これらに加えて、製造装置3は、基材固定テーブル31を位置決めピン31aの列方向に動かして、基材固定テーブル31と吐出口32とを相対移動させる移動手段(図示せず。)と、基材固定テーブルを基材の積層方向に相対移動させる昇降手段(図示せず。)と、帯状部用樹脂組成物を供給する幅広吐出口37とを備えている。なお、移動手段及び昇降手段は前記の相対移動ができれば公知技術を特に限定なく使用することができる。具体的には、油圧装置による駆動手段やモータによる駆動手段を使用するものなどが例示できる。
【0071】
なお、製造装置3は、必要に応じて多層構造体1の最外層基材にホットメルト接着剤などからなる接着層を設けるための接着剤塗布部(図示せず。)を有していてもよい。ここで、製造工程及び製造装置を簡略化できることなどの理由から、吐出口32が接着剤塗布部を兼用することが好ましい。
【0072】
(b)製造装置3を用いた多層構造体の製造
図5に記載の製造装置3を使用して、多層構造体は例えば以下のような手順により製造できる。まず、基材送り出し部33aから無孔の基材を送り出し、送り出した無孔の基材11の端部を固定手段31bによって固定したのち、テンション負荷ロール34aで一定の力で引張りながら、その先端を基材固定テーブル31と貼付プレスロール36aとの間に挟む。
【0073】
つぎに、無孔の基材を貼付プレスロール36aで基材固定テーブル31方向に押しつけながら、移動手段が基材固定テーブル31を一方向に移動する。この際、位置決めピン31a先端に設けた刃によって無孔の基材11に位置決め孔を穿孔し、穿孔と同時に位置決めピン31aを位置決め孔11aに挿通することによって、基材11を均一に伸張された状態に保ちながら基材固定テーブル31と平行に固定する。
【0074】
ここで基材固定テーブル31の移動に合わせて、基材11上に吐出口32からスペーサ用樹脂組成物を吐出するとともに、基材11の位置決め孔11a内側の幅方向両端部に帯状部用樹脂組成物を幅広吐出口37から孔開き基材上に供給し、樹脂製スペーサ12と樹脂製帯状部13との形成を開始する。なお、樹脂製スペーサ12と樹脂製帯状部13は必ずしも同時に形成する必要はないが、同時に形成した方が作業効率がよい。
【0075】
基材固定テーブル31が製造する多層構造体1の長さ分だけ移動したのち、基材カッター35aが基材を切断し、同時に吐出口32がスペーサ用樹脂組成物の吐出を停止し、幅広吐出口37が帯状部用樹脂組成物の供給を停止する。(スペーサ付き基材形成工程、帯状部形成工程)
【0076】
スペーサ付き基材形成工程が完了すると、移動手段が基材固定テーブル31をその開始位置に戻し、昇降手段が基材固定テーブル31の高さを基材と樹脂製スペーサ12の高さ分だけ下げたのち、同様の方法により別の基材11を先の基材11と平行になるように先の基材11上のスペーサ用樹脂組成物上に積層する(基材積層工程)。
【0077】
そして、製造装置3が必要な回数だけスペーサ付き基材形成工程と基材積層工程とを繰り返すことにより、多層構造体を製造する。例えば、n層の多層構造体は、スペーサ付き基材形成工程と基材積層工程とを連続してn−1回繰り返したのち、最後に基材積層工程だけを行うことによって、製造することができる。
【0078】
なお、基材の固定と樹脂製スペーサの形成を連続して行うのではなく、スペーサ付き基材形成工程で得られた複数枚の樹脂製スペーサ付き基材を、その各位置決め孔11aに位置決めピン31aを挿通して、各基材11を均一に伸張された状態に保ちながら樹脂製スペーサ12が他の樹脂製スペーサ付き基材の基材に接触するように位置決めしながら積層したのち、最後に基材だけを積層すること(積層工程)により製造してもよい。
【0079】
また、多層構造体1に接着層を設ける場合には、多層構造体を完成したのちその最外層基材に接着層を設ければよい。さらに、多層構造体の最上層及び最下層にガラス板や樹脂プレート等の板状体を設ける場合には、初めに固定テーブル31上に板状体を載置し、最上層と最下層の間に板状体ではない基材(樹脂フィルムなど)を積層したのち、最後に板状体を載せることにより製造すればよい。
【0080】
このように、基材11の幅方向の両端縁に沿って所定のピッチで複数穿設された位置決め孔11aに、位置決めピン31aを挿通して基材11を均一に伸張された状態に保つことによって、基材11の積み重ねや樹脂製スペーサ12の形成を行うため、樹脂製スペーサ12を基材の積層方向に正確に重ね合わせることができる。
【0081】
(c)製造装置4の構造
製造装置4は、図6及び図7に示すように、上下方向に配置された複数の基材搬送手段41と、スペーサ用樹脂組成物供給可能位置で、各基材上の樹脂製スペーサ形成位置にスペーサ用樹脂組成物を吐出する複数の吐出口42と、基材搬送手段41に基材を供給する基材供給手段43と、を備えている。
【0082】
なお、図6(a)は製造装置4を側面から見た図(理解しやすくするため、一番上と一番下以外の搬送手段41は記載を省略した。)である。また、図6(b)は最下層の基材11を搬送するための基材搬送手段41を上側から見た図(理解しやすくするため、基材供給手段43については記載を省略した。)である。さらに、図7(a)は図6(a)のA−A線断面図であり(理解しやすくするため、吐出口42及び後述する幅広吐出口44については記載を省略した。)、図7(b)は基材搬送手段41を構成する無端ベルト41bの拡大図である。加えて、図7(c)は駆動ロール41cの近傍の構造を説明する図である。
【0083】
基材搬送手段41は、基材11の幅方向の端部に突き刺さり、基材11を係止するピン41a、ピン41aが所定間隔で立設された無端ベルト41b、無端ベルト41bを駆動する駆動ロール41c、無端ベルト41bをガイドする複数のベルトターンロール41d、基材11を無端ベルト41bに押付けるゴムロール41e、基材11をガイドする基材ターンロール41f等から構成されている。なお、ベルトターンロール41dは、基材搬送手段41の上流側(基材供給手段43側)には基材11と基材11との間にスペーサ用樹脂組成物を供給可能な隙間を形成し、下流側では上下の長尺基材間を積層幅に狭めるように各基材11をガイドしている。
【0084】
また、無端ベルト41bは、図7(b)に示すように、その中心線に沿ってピン41aが立設してあり、その側縁部には一定の間隔で切り欠き41gが設けてある。なお、ピン41aは、基材11を均一に伸張された状態に保ち「しわ」を生じさせないのであれば、特に限定することなく任意の間隔で設けてもよいが、等間隔(等ピッチ)で設けてあることが好ましい。
【0085】
さらに、駆動ロール41cは、図7(c)に示すように、その円周方向に沿って無端ベルト41bの切り欠き41gと嵌合する凸部41hが設けてある。なお、ベルトターンロール41dには、ベルト幅の間隔で直線状のずれ防止用溝(図示しない。)が設けてある。
【0086】
このように構成した搬送手段41では、駆動ロール41cの凸部41hが、無端ベルト41bの切り欠き41gに嵌め合って、駆動ロール41の回転駆動によって駆動ロール41の回転方向に無端ベルト41bが移動する。その際、搬送手段の上流側から供給される基材11の幅方向の両端部が、ゴムロール41eとベルトターンロール41dによって挟まれ、無端ベルト41b上のピン41aが基材11に突き刺さる。したがって、基材11が無端ベルト41bの移動に伴って、幅方向に伸張状態に保たれた状態で搬送される。
【0087】
なお、均一に伸張された状態に保ち「しわ」を生じさせないのであれば、ピンを使用しない基材搬送手段、例えば、クランプにより基材を把持する搬送手段を使用してもよい。また、吐出口42及び基材供給手段43は製造装置3の吐出口32及び基材供給手段33とそれぞれ同様の構成である。さらに、製造装置4は製造装置3の幅広吐出口37と同様に帯状部用樹脂組成物を供給する幅広吐出口44や、長尺の多層構造体を所定の寸法に切断する切断手段45を備えていてもよい。ここで、切断手段45としては、多層構造体の切断面が滑らかになるのであれば特に限定することなく、公知の技術手段を使用することができる。具体的には、レーザー切断機やウォータジェット切断機、などが挙げられる。
【0088】
(d)製造装置4による多層構造体の製造
図6及び図7に記載の製造装置4を使用して、多層構造体は例えば以下のような手順により製造することができる。まず、基材供給手段43から送り出された基材11を、回転駆動する無端ベルト41bとゴムロール41eとの間に挟み、幅方向の端部に突き刺さったピン41aによって幅方向に伸張状態を保ちながら無端ベルト41bの駆動方向(図中の矢印方向)に連続的に搬送する。
【0089】
つぎに、搬送手段41の上流側で、連続的に搬送される基材11上に吐出口44からスペーサ用樹脂組成物を供給するとともに、帯状部用樹脂組成物が幅広吐出口44から供給し、樹脂製スペーサ12と樹脂製帯状部13とが連続的に形成する(スペーサ付き基材形成工程、帯状部形成工程)。なお、樹脂製スペーサ12と樹脂製帯状部13は必ずしも同時に形成する必要はないが、同時に形成した方が作業効率がよい。
【0090】
そして、樹脂製スペーサ12と樹脂製帯状部13とが形成された複数の基材(スペーサー付き基材)は、基材搬送手段41の下流側で、スペーサ付き基材を幅方向に伸張させた状態のまま、上下の樹脂製スペーサ付き基材の間隔が狭められて、樹脂製スペーサが他の樹脂製スペーサ付き基材の基材側に接触するように連続的に積層され、長尺多層構造体となる(積層工程)。最後に、このようにして得られた長尺多層構造体が、切断手段によって所定の長さに切断されるとともに、幅方向に端縁も上下の基材幅がそろうように切断される(切断工程)ことによって、多層構造体を製造できる。
【0091】
このように、基材搬送手段41により伸張した状態に保ちながら、樹脂製スペーサ12の形成や基材11の積み重ねを行うため、基材の積層方向に正確に重ね合わせた状態で、多層構造体を連続的に製造することができる。
【0092】
2.断熱採光材の製造方法
この発明は、前記の製造方法によって製造した多層構造体の縁部に枠体を取り付けた断熱採光材の製造方法であり、その詳細については以下に説明する。
【0093】
(1)断熱採光材
断熱採光材5は、その外観図である図8に示すように、多層構造体1の縁部に幅方向用枠材51及び長手方向用枠材52をビス53及びナット54(挿通手段)により取り付けたものである。ここで、幅方向用枠材51は、図8のA-A線断面図である図9(a)に示すように、多層構造体1を嵌合するための断面略コ字形をした嵌合溝51aを有しており、その上下面には多層構造体1の位置決め孔11aと同じピッチでビス53のねじ部が挿通する挿通孔51bが穿設してある。
【0094】
また、長手方向用枠材52は、図8のB-B線断面図である図9(b)に示すように、多層構造体1を嵌合するための断面略コ字形をした嵌合溝52aを有しており、嵌合溝52a内には封止材料55が充填してある。なお、封止材料55としては、ポリオレフィン、ポリスチレン、ゴム、ポリ塩化ビニル等の樹脂発泡体、シリコン、ブチルゴム等のコーキング材料、コルク、綿、ウール等の天然充填材、及び発泡剤を含有する硬化性樹脂組成物(例えば、エポキシ系等熱硬化型硬化性樹脂組成物やウレタン系等反応型硬化性樹脂組成物等)が例示できる。
【0095】
なお、断熱採光材は、図8に示すような縦長形状のほか、多層構造体の形状に応じて、正方形や横長形状など用途に応じて様々な形状を採ることができ、それに合わせて枠材も変更することができる。また、多層構造体1の位置決め孔11aの何れかとビス53のねじ部が挿通していればよく、位置決め孔11aと挿通孔51bは必ずしも同じピッチである必要はない。例えば、位置決め孔11aのピッチが20cm、挿通孔51bのピッチが40cmであって、位置決め孔11aの半分にだけビス53のねじ部が挿通していてもよい。さらに、多層構造体を枠材に固定する挿通手段として、前記のビス53とナット54の以外の金属製リベット、ホットメルト樹脂製リベット、コルク栓、木質又は紙質ピン、コーキング材、樹脂又は無機セメント等の硬化材料などを使用してもよい。
【0096】
(2)製造方法
このような断熱採光材5の製造は、例えば、以下のような手順により行う。まず、多層構造体1の位置決め孔11aと前記挿通孔51bとが、一致するように多層構造体1の幅方向の縁部を幅方向用枠材51の嵌合溝51aに嵌合(嵌合工程)したのち、ビス53を一方の挿通孔51bから位置決め孔11aを通って他方の挿通孔51bまで挿通させ、他方の挿通孔51bに設けたナット54と螺合させること(固着工程)によって、多層構造体1に幅方向用枠材51を固着する。
【0097】
つぎに、多層構造体1の長手方向の縁部を長手方向用枠材52の嵌合溝52aに嵌合することによって多層構造体1に長手方向用枠材52を取り付けたのち、嵌合溝52a内に封止材料55を充填して多層構造体1の側面を気密に封止する(封止工程)。
【0098】
このように、この発明の断熱採光材の製造方法では、多層構造体1の製造のために穿設した位置決め孔11aを利用することによって、多層構造体1に幅方向用枠材51を容易に取り付けることができる。また、この発明の断熱採光材の製造方法では、多層構造体1の長手側端部の基材間を封止することによって、空間2内の空気が長手側端部から出入りすることを防げるので、断熱効果をより高めることができる。なお、幅方向の両側に樹脂製帯状部13が設けられていない場合は、幅方向用枠材51の嵌合溝51a内にも封止材料を充填して幅方向を封止することが好ましい。
【0099】
以下に実施例を挙げてこの発明の態様をより詳しく説明するが、この発明はこれら実施例によって如何なる意味でも限定されるものではない。
【実施例1】
【0100】
図5に示すような製造装置を使用して、表1に示す構成の多層構造体を製造し、この発明の方法で製造した多層構造体と従来技術で製造した多層構造体の性能の違いについて比較した。なお、基材は厚さ125μm、幅1000mm、長さ2600mmのPETフィルムを使用し、樹脂製スペーサは幅2mm、厚さ2mm、長さ1840mm、スペーサ間隔100mmとなるようにアクリル系エラストマー(スペーサ樹脂組成物)により形成した。
【0101】
【表1】

【0102】
(1)実施例及び比較例の製造
まず、基材送り出し部から無孔の基材を送り出して、基材の端部を固定装置により基材固定テーブルに固定したのち、テンション負荷ロールにより幅方向に3kgfの張力を掛けながら、無孔の基材を貼付プレスロールと基材固定テーブルの間に挟んだ。
【0103】
つぎに、無孔の基材を貼付プレスロール(表面温度は20℃に制御)により基材固定テーブルに押しつけて、表1に示す間隔で位置決め孔を穿設しながら、移動手段が基材固定テーブルを3m/minの速度で一方向に移動させた。なお、基材固定テーブルの移動中に、195℃に調温したスペーサ樹脂組成物を9本の吐出口から基材上に吐出してスペーサを形成した。
【0104】
基材固定テーブルが1840mm移動したところで、基材カッターによって切断し、昇降手段が基材固定テーブルを2.125mmだけ降下させたのち、移動手段が基材固定テーブルをその開始位置に戻した。
【0105】
実施例1及び2、比較例2の場合は、このような樹脂製スペーサ付き基材形成工程を複数回繰り返して多層構造体を製造した。ただし、最外層の基材を固定する際には樹脂製スペーサの形成は行わなかった。また、実施例3の場合には、スペーサ付き基材形成工程により樹脂製スペーサを形成した複数のスペーサ形成済み基材の位置決め孔に位置決めピンを挿通して、各基材を均一に伸張された状態に保ちながら樹脂製スペーサが他の樹脂製スペーサ付き基材の基材に接触するように積層したのち、一括して貼り合わせることによって、多層構造体を製造した。さらに、比較例1の場合には、スペーサ付き基材形成工程を製造装置3により行うのではなく、人手で行うことによって多層構造体を製造した。
【0106】
(2)実施例及び比較例の評価
このようにして製造した多層構造体について、樹脂製スペーサの「ずれ」及び多層構造体に生じた「しわ」について評価した。その結果を表1に示す。なお、「ずれ」は樹脂製スペーサの幅を測定し、ずれ幅が0.5mm未満場合には良品(○)、それ以上は良品外(×)とした。また、「しわ」は多層構造体の外観を「しわ」の有無に基づいて目視により判断した。
【0107】
表1からも明らかなように、全ての実施例が「ずれ」及び「しわ」の何れにおいても優れた性能を示した。これに対して、比較例はそれぞれ何れかの点で問題があった。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1】多層構造体の断面図である。
【図2】多層構造体の正面図である。
【図3】多層構造体の他の実施形態の正面図である。
【図4】多層構造体の別の実施形態の正面図である。
【図5】多層構造体を製造する製造装置の模式図である。
【図6】多層構造体を製造する他の製造装置の模式図である。
【図7】図6に記載の製造装置の模式図の続きである。
【図8】断熱採光材の外観斜視図である。
【図9】断熱採光材の断面図であり、(a)は図8のA-A線断面図、(b)は図8のB-B線断面図である。
【符号の説明】
【0109】
1 多層構造体
2 空間
3 製造装置
5 断熱採光材
11 基材
11a 位置決め孔
12 樹脂製スペーサ
13 樹脂製帯状部
31 基材固定テーブル
31a 位置決めピン
31b 固定手段
32 吐出口
37 幅広吐出口
41 基材搬送手段
42 吐出口
51 幅方向用枠材
51a 嵌合溝
51b 挿通孔
52 長手方向用枠材
52a 嵌合溝
53 ビス
54 ナット
55 封止材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性を有する3枚以上の基材を、各基材間に配置された複数の樹脂製スペーサによって、基材間に前記樹脂製スペーサの厚みの空間を形成するように積層するとともに、各樹脂製スペーサを他の基材間の樹脂製スペーサと基材の積層方向に重ね合わせるよう配置することを特徴とする多層構造体の製造方法。
【請求項2】
基材上の樹脂製スペーサ形成位置にスペーサ用樹脂組成物を配置させるスペーサ付き基材形成工程と、
別の基材を先の基材と平行になるように先の基材上のスペーサ用樹脂組成物上に積層する基材積層工程と、
を繰り返す請求項1に記載の多層構造体の製造方法。
【請求項3】
基材の樹脂製スペーサ形成位置にスペーサ用樹脂組成物を配置させるスペーサ付き基材形成工程と、
樹脂製スペーサ付き基材の樹脂製スペーサが他の樹脂製スペーサ付き基材の基材に接触するように、複数枚の樹脂製スペーサ付き基材を互いに平行に保ちながら積層する積層工程と、
を備えている請求項1に記載の多層構造体の製造方法。
【請求項4】
複数の基材を上下方向に間隔を置いて配置した状態で、各基材上の樹脂製スペーサ形成位置にスペーサ用樹脂組成物を配置させるスペーサ付き基材形成工程と、
スペーサ付き基材の間隔をスペーサ付き基材形成工程時より狭めて、樹脂製スペーサが他のスペーサ付き基材の基材に接触するように積層する積層工程と、
を備えている請求項1に記載の多層構造体の製造方法。
【請求項5】
複数の長尺基材を上下方向に間隔を置いて、長尺基材の幅方向に伸張状態を保ちながら長尺基材の長手方向に連続的に搬送し、搬送される長尺基材の樹脂製スペーサ形成位置にスペーサ用樹脂組成物を連続的または間欠的に供給してスペーサ付き基材を連続的に得るスペーサ付き基材形成工程と、
スペーサ付き基材形成工程を経て連続的に搬送される各長尺のスペーサ付き基材を幅方向に伸張させた状態で上下のスペーサ付き基材とスペーサ付き基材との間隔を狭めて樹脂製スペーサが他の樹脂製スペーサ付き基材の基材に接触するように連続的に積層して長尺多層構造体を得る積層工程と、
を備えている請求項1に記載の多層構造体の製造方法。
【請求項6】
多層構造体を所定の寸法に切断する切断工程を備えている請求項1から請求項5の何れかに記載の多層構造体の製造方法。
【請求項7】
基材が少なくとも対向する2つの端縁に沿って所定のピッチで複数の位置決め孔が穿設された孔開き基材であって、このような孔開き基材の各位置決め孔に位置決めピンを挿通することによって位置決めしながら積層する請求項1から請求項6の何れかに記載の多層構造体の製造方法。
【請求項8】
位置決め孔の穿孔を位置決めピン先端に設けた刃によって行い、穿孔と同時に位置決めピンを位置決め孔に挿通する請求項7に記載の多層構造体の製造方法。
【請求項9】
少なくとも一つの吐出口からスペーサ用樹脂組成物を基材上に吐出すると同時に、基材と吐出口とを相対移動させて、樹脂製スペーサを形成する請求項1から請求項8の何れかに記載の多層構造体の製造方法。
【請求項10】
樹脂製スペーサよりも幅広の樹脂製帯状部を、少なくとも最も外側に配置された樹脂製スペーサの外側に配置させる帯状部形成工程を備える請求項1から請求項9の何れかに記載の多層構造体の製造方法。
【請求項11】
最外層基材に接着層を設ける接着剤塗布工程を備えている請求項1から請求項10の何れかに記載の多層構造体の製造方法。
【請求項12】
請求項1から請求項10の何れかに記載の多層構造体の側縁を、少なくとも端部のスペーサを包含するように枠材の断面略コ字形をした嵌合溝に嵌合させる嵌合工程を備える断熱採光材の製造方法。
【請求項13】
枠材の嵌合溝内に封止材料を充填し、多層構造体の側面を気密に封止する請求項12に記載の断熱採光材の製造方法。
【請求項14】
枠材の嵌合溝の両側壁に複数の挿通孔が対向するように穿設してあり、これらの挿通孔と請求項7から請求項10の何れかに記載の多層構造体の製造方法により製造した多層構造体の位置決め孔の何れかが一致するように、多層構造体と枠材とを嵌合させる嵌合工程と、
一致させた位置決め孔と挿通孔との間に挿通手段を挿通して、多層構造体と枠材とを固着させる固着工程と、
を備えている請求項12又は請求項13に記載の断熱採光材の製造方法。
【請求項15】
2列平行に立設された複数の位置決めピンと、少なくとも基材の端部を固定する固定手段とを有する基材固定テーブルと、
基材固定テーブル上方に配置され、スペーサ用樹脂組成物を吐出する少なくとも一つの吐出口と、
基材固定テーブル及び吐出口の少なくとも何れかを、前記位置決めピンの列方向に相対移動させる移動手段と、
基材固定テーブル及び吐出口の少なくとも何れかを基材の積層方向に相対移動させる昇降手段と、
を備えることを特徴とする多層構造体の製造装置。
【請求項16】
位置決めピンが基材に位置決め孔を穿孔する刃をその先端に備えている請求項15に記載の多層構造体の製造装置。
【請求項17】
基材を基材固定テーブル上に供給する基材供給手段を複数備えている請求項15又は請求項16に記載の多層構造体の製造装置。
【請求項18】
上下方向に配置され、長尺基材を幅方向に張力を掛けながら、長尺基材をその長手方向に連続的に搬送するとともに、搬送方向の上流側には搬送される上下の長尺基材間にスペーサ用樹脂組成物が供給可能な隙間を形成し、搬送方向の下流側では上下の長尺基材間を積層幅に狭めるように基材をガイドする複数の基材搬送手段と、
スペーサ用樹脂組成物供給可能位置で、基材上の樹脂製スペーサ形成位置にスペーサ用樹脂組成物を吐出する複数の吐出口と、
を備えることを特徴とする多層構造体の製造装置。
【請求項19】
連続的に送り出される長尺多層構造体を所定の長さに切断する切断手段を備えている請求項18に記載の多層構造体の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−80783(P2008−80783A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−303947(P2006−303947)
【出願日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】