多層積層回路基板の製造方法
【課題】生産効率がよく、金属回路の断線が生じにくい多層積層回路基板の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の多層積層回路基板の製造方法は、第1の樹脂フィルムに対し、該第1の樹脂フィルムの表裏を貫通する導通ビアを形成する第1ステップと、第1の樹脂フィルムの表裏の両面と導通ビアの内壁面とに対し、金属回路を形成する第2ステップと、金属回路を形成した第1の樹脂フィルムの表裏の一方の面もしくは両面に対し、さらに第2の樹脂フィルムを積層する第3ステップと、該第3ステップにより積層された第2の樹脂フィルムに対し、第1ステップおよび第2ステップによる操作と同様の操作を実行する第4ステップとを含むことを特徴とする。
【解決手段】本発明の多層積層回路基板の製造方法は、第1の樹脂フィルムに対し、該第1の樹脂フィルムの表裏を貫通する導通ビアを形成する第1ステップと、第1の樹脂フィルムの表裏の両面と導通ビアの内壁面とに対し、金属回路を形成する第2ステップと、金属回路を形成した第1の樹脂フィルムの表裏の一方の面もしくは両面に対し、さらに第2の樹脂フィルムを積層する第3ステップと、該第3ステップにより積層された第2の樹脂フィルムに対し、第1ステップおよび第2ステップによる操作と同様の操作を実行する第4ステップとを含むことを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層積層回路基板の製造方法に関し、特に生産効率がよく、しかも金属回路の断線が生じにくい多層積層回路基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
我々の身の回りにある製品、たとえば電気製品、電子製品、半導体製品、アンテナ回路基板、ICカード等はいずれも場所をとらない小型製品に人気が集中しており、さらに小型化した製品の登場が期待されている。このような製品のニーズに対応するため、製品の外形を小型化するというアプローチと、製品の内部を小型化するというアプローチとの両面から製品の小型化の技術開発が進められてきた。ところが、製品の外形を小型化するというアプローチによる製品の小型化はもはや限界に近いと言われ、製品の内部の小型化に期待が寄せられるようになってきた。
【0003】
このような状況下で、製品の内部を小型化するアプローチとして、製品に用いられる回路基板を軽薄短小な回路構造にするという方法が近年特に注目を集めている。従来の回路基板は、1枚の基板を用い、その基板の一方の面もしくは両面に金属回路を形成するものであった。そして、この金属回路を微細化することにより回路基板の小型化を実現していた。ところが、1枚の基板を用いたときよりもはるかに小型化できる方法として、回路基板を複数枚重ね合わせた多層積層回路基板が開発された。このように回路基板を複数枚重ね合わせて立体的な金属回路の構造にすることにより、1枚の基板を用いた平面的な金属回路の構造よりも複雑な回路の設計が可能となる。
【0004】
このような多層積層回路基板は、ビルドアップ法と呼ばれる方法で作製されるのが一般的である。この方法による多層積層回路基板の作製の手順は、まず、1枚の絶縁性の樹脂フィルムに導電層を形成した銅張積層板(CCL:Copper Clad Laminate)を準備する。そして、このCCLの導電層のうち、不要な部分をエッチングすることにより除去し、これにより除去されずに残された導電層が金属回路となる。そして、この金属回路上に接着剤を塗布して、当該接着剤を介してさらに導電層が形成された樹脂フィルムを貼り合わせる。次に、この貼り合わせた樹脂フィルムの導通部に導通ビアと呼ばれる孔を形成する。そして、当該導通ビアの内部にめっきまたはペースト等を充填し、2枚の樹脂フィルム間の導通を保障する。そして、貼り合わせた樹脂フィルムの導電層のうち、上記同様に不要な部分をエッチングすることにより除去して金属回路を形成する。これらの工程により2枚の樹脂フィルムを積層した回路基板を得ることができる。以後、さらに上述と同様の工程を繰り返すことにより、3枚以上の樹脂フィルムが積層した多層積層回路基板を作製することができる。
【0005】
しかしながら、このビルドアップ法により形成した多層積層回路基板は、金属回路に断線が生じやすいという問題があった。また、導通ビアの内部にめっきまたはペーストを充填する工程が煩雑であり、生産効率が悪いという問題もあった。
【0006】
これらの課題を解決するために、たとえば特許文献1および2には、樹脂フィルム間を接着するための接着用孔を設け、当該接着用孔に接着剤を充填することにより樹脂フィルム間の接着強度を高め、金属回路の断線を防止する方法が記載されている。しかし、これらの方法によっては、熱が加わったときに樹脂フィルムの熱膨張の差により、多層積層回路基板の厚さ方向に対する垂直方向のズレが発生して金属回路が断線してしまうという問題があった。
【0007】
そこで、これらの問題を解決する試みとして、多層積層回路基板に含まれる複数枚の樹脂フィルムのうち、内層に位置する樹脂フィルムから外層に位置する樹脂フィルムに従って、次第に熱膨張係数の値が大きくなるように、樹脂フィルムを積層する構造の多層積層回路基板が記載されている(たとえば、特許文献3)。しかし、かかる構造の多層積層回路基板によっても、上述の問題を十分に解決できるものではなかった。
【0008】
そこで、これらの問題を解決するため、樹脂フィルムを貼り合わせる接着剤に導電性フィラーを用いて多層積層回路基板を作製する方法が開示されている(たとえば、特許文献4)。この方法によれば樹脂フィルム間の上記の方向のズレが起こっても接着剤に含まれる導電性フィラーにより樹脂フィルム間の導通を保つことができる。しかしながら、導電性フィラーは接着剤に対する相互溶解性が悪いことから、接着剤中で導電性フィラーが凝集を起こすため、安定して生産できずに生産効率が悪いという問題があった。
【特許文献1】特開2007−317864号公報
【特許文献2】特開2008−091604号公報
【特許文献3】特開2005−191244号公報
【特許文献4】特開2007−324161号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような現状に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、生産効率がよく、しかも金属回路の断線が生じにくい多層積層回路基板の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の多層積層回路基板の製造方法は、第1の樹脂フィルムに対し、該第1の樹脂フィルムの表裏を貫通する導通ビアを形成する第1ステップと、第1の樹脂フィルムの表裏の両面と導通ビアの内壁面とに対し、金属回路を形成する第2ステップと、金属回路を形成した第1の樹脂フィルムの表裏の一方の面もしくは両面に対し、さらに第2の樹脂フィルムを積層する第3ステップと、該第3ステップにより積層された第2の樹脂フィルムに対し、第1ステップおよび第2ステップによる操作と同様の操作を実行する第4ステップとを含むことを特徴とする。
【0011】
また、第4ステップの後、第4ステップを経た第2の樹脂フィルムに対し、第3の樹脂フィルムを積層する第5ステップと、該第5ステップにより積層された第3の樹脂フィルムに対し、第1ステップおよび第2ステップによる操作と同様の操作を実行する第6ステップとを各1回以上この順に繰り返してもよい。
【0012】
また、上記の第3ステップは、第1の樹脂フィルムまたは第2の樹脂フィルムに対し粘着剤を塗布することにより、当該粘着剤を介して第1の樹脂フィルム上に第2の樹脂フィルムを積層するものであって、当該粘着剤の粘着力を50g/20mm2以上3000g/20mm2以下とした状態で、積層を行なってもよい。
【0013】
また、上記の第5ステップは、第2の樹脂フィルムまたは第3の樹脂フィルムに対し粘着剤を塗布することにより、当該粘着剤を介して第2の樹脂フィルム上に第3の樹脂フィルムを積層するものであって、当該粘着剤の粘着力を50g/20mm2以上3000g/20mm2以下とした状態で、積層を行なってもよい。
【0014】
また、第3ステップは、粘着剤層を備えた第2の樹脂フィルムを、該粘着剤層を介して第1の樹脂フィルム上に積層させるものであって、当該粘着剤層の粘着力を50g/20mm2以上3000g/20mm2以下とした状態で、積層を行なってもよい。
【0015】
また、第5ステップは、粘着剤層を備えた第3の樹脂フィルムを、該粘着剤層を介して第2の樹脂フィルム上に積層させるものであって、当該粘着剤層の粘着力を50g/20mm2以上3000g/20mm2以下とした状態で、積層を行なってもよい。
【0016】
また、上記の各樹脂フィルムは、長尺状のものであることが好ましい。
本発明は、上記の製造方法により製造される多層積層回路基板を用いる部品または製品である。
【0017】
また、上記の製品は、電気製品、電子製品、半導体製品、アンテナ回路基板、ICカード、太陽電池、自動車またはロボットのいずれかであることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の多層積層回路基板の製造方法は、上記の各構成を有することにより、生産効率がよく、しかも金属回路の断線が生じにくいという効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
<多層積層回路基板>
本発明の製造方法により製造される多層積層回路基板について、図1を参照しつつ説明する。図1は、本発明の多層積層回路基板の一例を示す模式的断面図である。なお、本発明の図面において、同一の参照符号は、同一部分または相当部分を表わすものとする。
【0020】
本発明の多層積層回路基板1は、樹脂フィルム(後述する、第1の樹脂フィルム100、第2の樹脂フィルム101および第3の樹脂フィルム(図示せず)のことを示す。以下において同じ。)と回路層200とを交互に積層させた積層構造を含む。この樹脂フィルムには、表裏の導通を図る部位に導通部(図示せず)が備えられ、当該導通部には、少なくとも1つの導通ビア120と呼ばれる孔が形成されている。この導通ビア120により、樹脂フィルムの表裏に形成される金属回路50の導通を保障している。この金属回路50は、めっき層140と下地層130とを含む。当該めっき層140は高い電導性を有する材料で構成される層である。また、下地層130は、電気の通電が可能なものであって、めっき層140と樹脂フィルムとの密着性を向上させる作用をなすものである。
【0021】
一方、回路層200は上記の金属回路50を含み、回路層200の金属回路50以外の部分は、絶縁性の粘着剤70(または粘着剤層)が含まれる場合もある。当該粘着剤70を含む場合、当該粘着剤70を介して各樹脂フィルムを相互に貼り付けることができる。このように本発明の回路層200は、金属回路50のみにより構成されていてもよいし、金属回路50と粘着剤70とにより構成されていてもよい。以下に、本発明の多層積層回路基板の製造方法の一例を図2〜5の模式的断面図を参照しつつ説明する。
【0022】
<多層積層回路基板の製造方法>
本発明は、図2に示される第1の樹脂フィルム100に対し、当該第1の樹脂フィルム100の表裏を貫通する導通ビア120を形成する第1ステップと(図3)、第1の樹脂フィルム100の表裏の両面と第1ステップで形成された導通ビア120の内壁面とに対し、金属回路50を形成する第2ステップと(図4)、当該第2ステップにより金属回路50を形成した第1の樹脂フィルム100の表裏の一方の面もしくは両面に対し、さらに第2の樹脂フィルム101を積層する第3ステップと(図5)、当該第3ステップにより積層された第2の樹脂フィルム101に対し、第1ステップおよび第2ステップによる操作と同様の操作を実行することにより、第2の樹脂フィルム101およびその導通ビア120の内壁面に、金属回路50を形成する第4ステップと(図1)をこの順に行なう、多層積層回路基板の製造方法である。なお、図1は、第1の樹脂フィルム100の表裏の両面上の回路層200に対し、それぞれ各1層ずつ第2の樹脂フィルム101を貼り合わせた3層の樹脂フィルムと4層の回路層200とからなる多層積層回路基板を示しているが、本発明の製造方法による多層積層回路基板はこの積層構造に限られるものではない。
【0023】
すなわち、本発明により製造される多層積層回路基板の樹脂フィルムの最小積層数は、第1の樹脂フィルムの表裏のいずれか一方の面上の回路層に対し、1層の第2の樹脂フィルムを貼り合わせた2層の樹脂フィルムを積層させた積層構造のものである。一方、本発明により製造される多層積層回路基板の樹脂フィルムの最多積層数は、特に限定されることはないが、樹脂フィルムを2〜30層程度積層させた積層構造のものが一般的である。
【0024】
ところで、本発明の多層積層回路基板の製造は、上述の第4ステップの後、第4ステップを経た第2の樹脂フィルム101に対し、さらに第3の樹脂フィルム(図示せず)を積層する第5ステップと、この第5ステップにより積層された第3の樹脂フィルムに対し、上述の第1ステップおよび第2ステップによる操作と同様の操作を実行する第6ステップとを各1回以上この順に繰り返すことにより積層数を自由に増加させることができる。なお、上述の第3ステップにおいて第1の樹脂フィルムの表裏のいずれか一方の面に対し、第2の樹脂フィルムを積層する場合、第5ステップにおける第3の樹脂フィルムの積層は、第2の樹脂フィルム上に対して行なわれるもののみに限られず、第2の樹脂フィルムが積層されていない側の第1の樹脂フィルムの面上に対して行なってもよい。第1の樹脂フィルムに対して積層を行なう場合、この第3の樹脂フィルムは、第2の樹脂フィルムとみなすものとする。
【0025】
以下に本発明の多層積層回路基板の製造方法に含まれる各ステップをさらに説明する。
<第1ステップ>
まず、図2に示される第1の樹脂フィルム100を用意する。本発明の第1ステップは、このような第1の樹脂フィルム100に対して、導通部を形成するように導通ビア120を形成する(図3)。ここで、導通ビア120を形成する方法としては、導通ビアの深さと樹脂フィルムの厚みとが等しくなるように導通ビアの形成を調節できる加工方法であれば、どのような加工方法を用いてもよく、たとえばドリル加工、パンチ加工、レーザ加工等を用いることができる。ただし、樹脂フィルムの厚みが50μm以下のものを加工するとき、もしくは導通ビアの内径が100μmより小さいものを加工するときには、レーザ加工を用いることが好ましい。レーザ加工を用いる場合、導通ビアを正確な位置に形成できるという観点、導通ビアの内径を設定どおりに形成する精度が高いという観点、導通ビア形成後に導通ビア周辺に炭化物が残らないという観点、連続加工に適しているという観点等から、UV−YAGレーザを用いて加工することがより好ましい。
【0026】
また、導通ビアを連続加工して形成する場合、樹脂フィルムの長手方向に3〜100Nの張力を加えて加工することが好ましい。この張力が3N未満であると樹脂フィルムの巻取り時にシワが発生する虞があり、100Nを超えると樹脂フィルムが裂けてしまう虞がある。以下のA〜Cに、樹脂フィルム、導通部、および導通ビア120について説明する。
【0027】
A.樹脂フィルム
本発明に用いる樹脂フィルムは、絶縁性の材料からなり、この種の用途に用いられる従来公知の樹脂フィルムをいずれも用いることができる。たとえば、このような樹脂フィルムとして、ポリイミド(PI)系、アクリル系、液晶ポリマ(LCP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等の樹脂フィルムを用いることができる。
【0028】
また、樹脂フィルムの厚みは、連続加工の生産性を高めるという観点から、0.1μm以上200μm以下であることが好ましく、4μm以上100μm以下であることがより好ましく、5μm以上75μm以下であることがさらに好ましい。樹脂フィルムの厚みが0.1μm未満であると、樹脂フィルムを巻き取るときの張力により裂ける虞があり、200μmを超えると、多層積層回路基板の厚みが厚くなり所期の目的に反することとなる。なお、第2の樹脂フィルムおよび第3の樹脂フィルムにおいては、第1の樹脂フィルムと同一の材料からなるものを使用してもよいし、異なる材料からなるものを使用してもよい。ただし、熱が加わったときの樹脂フィルムの熱膨張の差により多層積層回路基板の厚さ方向に対する垂直方向のズレを緩和するという観点から、それぞれの樹脂フィルムには異なる熱膨張係数を有するものを用いることが好ましい。
【0029】
また、樹脂フィルムは、長尺状のものを用いることが好ましい。そのような長尺状の樹脂フィルムとしては、たとえば、1〜10000m程度の長さを有するものが好ましく、100〜3000m程度のものがより好ましい。このように長尺状のものを用いることにより、連続加工することができ生産効率を向上させることができる。長尺状の樹脂フィルムの長さが1m未満では、ロール状に巻いた形状のものとして用いることが困難であることから生産効率が低下してしまい、10000mを超えると、後述の下地層の形成において連続加工を妨げられる虞がある。
【0030】
なお、樹脂フィルムが「長尺状のもの」とは上記のような長さを有し、ロール状に巻いた形状のものとして用いるのに適したものをいう。ただし、上記のような長さに満たないものであっても、複数の枚葉の樹脂フィルムを貼り合わせることにより、長尺状のものとして取り扱えるようにしたものも含むものとする。
【0031】
B.導通部
本発明における導通部とは、金属回路50の設計上、樹脂フィルムの表裏の両面の金属回路50の導通が所望される部位に形成されるものであって、樹脂フィルムの表裏を貫通する導通ビアが1つ以上形成されることにより表裏の導通を保障するものである。図3においては1つの導通部に対し1つの導通ビア120を形成したものを示しているが、当該導通部には複数の導通ビアを形成することもできる。このように複数の導通ビアを形成する場合、かかる導通部は、所望の部位に近接連関して形成された複数の導通ビアの全てを含み、その断面積が最小となる円柱状領域を占めることとなる。なお、当該断面積は樹脂フィルム上において直径5μm以上3000μm以下の領域を占めることが好ましい。導通部の直径が5μm未満であると、樹脂フィルムの表裏に形成される金属回路の導通を十分に保障できない場合があり、3000μmを超えると、金属回路の占める面積そのものが過大となり所期の目的に反することとなる。
【0032】
C.導通ビア
また、導通部に形成される導通ビア120は、樹脂フィルムの表裏を貫通するように設けられる孔であり、この導通ビア内に金属回路を形成することにより樹脂フィルムの表裏に形成される金属回路を導通することができる。ここで、導通ビア内に金属回路を形成するとは、導通ビアの内壁面に金属回路を形成することをいい、このように形成される金属回路は、導通ビア内の全体を充填するように形成されていてもよいし、スルホール状に導通ビア内に空洞が残るように形成されていてもよい。
【0033】
また、この導通ビアは、樹脂フィルムの表裏の金属回路の導通を保障するという観点からその内径を大きくすることが好ましい。しかし、その内径を大きくするほど熱が加わったときに導通ビア内の金属回路にかかる圧縮または引張のストレスが集中するため、金属回路の断線が生じやすくなる。したがって、導通ビアの内径は、5μm以上300μm以下であることが好ましく、10μm以上50μm以下であることがより好ましく、15μm以上20μm以下であることがさらに好ましい。導通ビアの内径が5μm未満であると、導通ビアの形成が困難となるとともに、めっき層を形成させるべく電気めっきをする際にめっき液が導通ビア内に浸入しにくくなり、300μmを超えると、上述の理由により導通ビア内の金属回路が断線されやすくなる。
【0034】
また、導通ビア120を形成する個数は、導通部1箇所に対し1〜7個程度を形成することが好ましく、3〜5個程度を形成することがより好ましい。また、導通ビアを8個以上形成すると、導通部の面積が広くなりすぎるという観点、導通ビアの加工時間が長くなりコストが高くなってしまうという観点等から好ましくない。導通ビアの内径と導通部に含まれる導通ビアの個数との関係は、たとえば導通ビアの内径が5μm以上50μm未満の場合1〜7個の導通ビアを形成することが好ましく、導通ビアの内径が50μm以上300μm以下の場合1〜3個の導通ビアを形成することが好ましい。ただし、熱のストレスによる金属回路の断線を避けるという観点からすれば、1つの導通部に対し、上述の範囲内で可能な限り多くの導通ビアを設けることが好ましいことは言うまでもない。
【0035】
<第2ステップ>
本発明の第2ステップは、第1の樹脂フィルム100の表裏の両面と導通ビア120の内壁面とに金属回路50を形成するものである(図4)。これにより第1の樹脂フィルム100の表裏の金属回路50の導通を図ることができる。ここで、この金属回路50の形成は、どのような方法で形成してもよく、たとえば、セミアディティブ法、エッチング法等により形成することができる(以下のGおよびHを参照)。
【0036】
また、この金属回路50は、めっき層140を含み、さらにこのめっき層140と樹脂フィルムとの間に下地層130を含むこともできる。なお、本発明においては導通ビア120内に形成される下地層130およびめっき層140も便宜的に金属回路50と呼ぶものとする。当該金属回路50を構成する下地層130とめっき層140とを以下のD〜Fに説明する。
【0037】
D.下地層
金属回路に含まれる下地層130は、電気の通電が可能なものであって、しかもめっき層140と樹脂フィルムとの密着性を向上させる作用をなすものである。この下地層130は、1層で形成してもよいし、2層以上で形成してもよい。下地層130が2層以上で形成される場合、酸化防止層と下地金属層とを含むことが好ましい。この下地層の厚み(2層以上含む場合にあってはその合計の厚み)は、0.01μm以上1μm以下であることが好ましい。
【0038】
ここで、上記酸化防止層は、Ni、Cr、Ti、Co、Cu、AlおよびAgからなる群より選択された少なくとも1種の金属または該金属を少なくとも1種含む合金もしくは該金属の酸化物または該金属の窒化物により構成することが好ましい。また、その層厚は、0.1〜50nmであることが好ましく、2〜10nmであることがより好ましい。
【0039】
また、上記下地金属層は、上記の酸化防止層上に形成されることが好ましく、Al、Ag、Ni、およびCuからなる群より選択された少なくとも1種の金属または該金属を少なくとも1種含む合金により構成することが好ましい。また、その層厚は、50〜1000nmであることが好ましく、100〜500nmであることがより好ましい。
【0040】
E.めっき層
また、上記のめっき層140は、高い電導性を有する材料で構成される層である。このような材料としては、たとえばAl、Ag、NiおよびCuからなる群より選択された少なくとも1種の金属または該金属を少なくとも1種含む合金を用いることが好ましく、CuまたはCuを含む合金を用いることがより好ましい。
【0041】
また、このようにして形成されるめっき層140の厚みは、2.5μm以上300μm以下であることが好ましく、3μm以上35μm以下であることがより好ましく、3.5μm以上20μm以下であることがさらに好ましい。なお、上述の下地金属層を形成する場合、下地金属層とめっき層140とは同一の材料を用いることが好ましい。
【0042】
F.金属回路
次に、金属回路50を形成する方法を説明する。上述したように、金属回路50を形成する方法としては、たとえばエッチング法、セミアディティブ法等がある。以下のGにおいてエッチング法(図6〜9)による金属回路の形成を説明し、Hにおいてセミアディティブ法(図6、図10〜12)による金属回路の形成を説明する。なお、これらの方法による金属回路の形成ではいずれの方法であっても、下地層形成工程、レジスト形成工程、露光工程、現像工程、活性化工程等の工程を含む。そして、これらのいずれの工程においても、製造コストを抑えることができるという観点、生産性を向上できるという観点、加工時に両端に一定の張力を加えながら連続加工できるため樹脂フィルムにシワが発生しにくいという観点等から、長尺上の樹脂フィルムを用いて連続加工することが好ましい。
【0043】
G.エッチング法
エッチング法による金属回路の形成は、まず、図3の第1の樹脂フィルム100の表面全体(導通ビア120の内壁面を含む)に亘って下地層130を形成する(図6)。そして、この下地層130(下地金属層)の表面を酸系の溶液で活性化させた上で、その下地層130上の全面に亘って電気めっきによりめっき層140を形成する(図7)。その後、このめっき層140の上にさらにレジスト170を塗布し、このレジスト170に所望の金属回路のパターンに対応したマスクを重ね合わせて、UV露光して金属回路に不要な部分171のレジストを現像することにより、その部分を除去し当該部分171のめっき層140を露出する(図8)。そして、レジストが除去された部分171のめっき層140とその下に形成された下地層130とをエッチングすることにより除去する(図9)。一方、レジスト170が除去されていない部分の下に形成されためっき層140および下地層130は、レジスト170によりエッチングされずに残り、当該部分が金属回路50となる。その後、残りのレジスト170を剥離することにより、金属回路50が形成された第1の樹脂フィルム100を得る(図4)。
【0044】
H.セミアディティブ法
セミアディティブ法による金属回路50の形成は、まず、図3の第1の樹脂フィルムに対し、上記と同様の方法により下地層130を形成する(図6)。そして、当該下地層130上にレジスト170を形成する(図示せず)。そして、所望の金属回路のパターンに対応したマスクを重ね合わせ、金属回路を形成する部分172のみをUV露光して現像することによりその部分172のレジストを除去する(図10)。これにより金属回路を形成する部分の下地層130(下地金属層)が露出する。そして、露出した下地層130(下地金属層)の表面を酸系の溶液で活性化し、その部分を電気めっきすることにより、下地層130(下地金属層)上にめっき層140を形成する(図11)。つまり、レジスト170はめっき層140の形成を防止する役割を果たす。その後、上述の現像で除去されなかった部分のレジスト170を剥離する(図12)。次に、めっき層140が形成されていない部分の下地層130をソフトエッチングすることにより除去し、金属回路50が形成された第1の樹脂フィルム100を得る(図4)。
【0045】
以下においては、セミアディティブ法による金属回路の形成を一例にとり(i)〜(viii)に上記の各工程をさらに説明する。
【0046】
(i)下地層形成工程
まず、図3の導通ビア120が形成された第1の樹脂フィルム100の表面(導通ビア120の内壁面を含む)をイオンガンにより前処理した後、第1の樹脂フィルム100の表面(導通ビア120の内壁面を含む)に酸化防止層を形成し、酸化防止層上にさらに下地金属層を形成することにより下地層130を形成することができる(図6)。なお、酸化防止層または下地金属層のいずれか一方もしくは両方は形成されない場合もあり、下地層130自体が形成されない場合もある。
【0047】
このような下地層130は、どのような方法で形成してもよく、たとえば無電解めっき、蒸着、スパッタ、印刷等により形成することができる。ただし、樹脂フィルムの厚みが50μmよりも薄い場合、加工時において樹脂フィルムにシワが生じるという問題を回避するという観点、および加工時に樹脂フィルムの熱膨張を抑制するための冷却装置を備えているという観点等からスパッタにより形成することが好ましい。
【0048】
(ii)レジスト形成工程
上記工程によって、第1の樹脂フィルム100上に形成した下地層130(下地金属層)の表面を酸で洗浄し、下地層130(下地金属層)の表面を活性化させた後レジストを形成する(図示せず)。このレジストは、UVに対して反応性を示すものであればネガティブ型レジストおよびポジティブ型レジストのいずれを用いてもよいが、10μm以上の厚みのレジストを形成する場合、取り扱いが簡便であることからレジストをフィルム化したドライフィルムを貼り合わせる方法により形成することが好ましい。また、10μmよりも薄いレジストを形成する場合、少量のインクで広い面積のレジストを形成できることからレジストインクを塗布する方法により形成することが好ましい。
【0049】
ドライフィルムを貼り合わせる方法は、少量生産に適していることから多品種の製品に対応することができ、しかも貼り合わせ作業の工程も煩雑でないという点で優れているが、製造コストが高くなるという問題を有する。一方、レジストインクを塗布する方法は、大量生産に適しており製造コストを低減することができる点で優れているが、塗布の工程が煩雑になるという問題を有する。以下においては、ドライフィルムを貼り合わせる方法によるレジストの形成を説明する。
【0050】
まず、図6に示される下地層130の形成された第1の樹脂フィルム100をラミネート巻取装置の送出シャフトにセットし、第1の樹脂フィルム100の先端を巻取シャフトにセットした上で、第1の樹脂フィルム100の下地層130上にドライフィルムを貼り付けながら巻取シャフトを回転させて巻き取りを行なう。このようにして第1の樹脂フィルム100にドライフィルムを貼り付けることにより、第1の樹脂フィルム100の下地層130上にレジストが形成される(図示せず)。
【0051】
上述のラミネート時の温度は、30〜150℃であることが好ましく、60〜110℃であることがより好ましい。また、ラミネート時の圧力は、0.3〜5kg/cm2であることが好ましく、2〜3kg/cm2であることがより好ましい。また、ラミネートした樹脂フィルムの巻取時のラインスピードは、0.1〜10m/分であることが好ましく、0.5〜3m/分であることがより好ましい。
【0052】
(iii)露光工程
次に、第1の樹脂フィルム100上に形成したレジスト上に、所望の金属回路50のパターンに対応したマスクを重ね合わせた後、UV露光しマスクで覆われていない部分を感光させる。ここで、マスクで覆われた部分は、次の現像工程で現像されることにより除去され、後述するめっき層形成工程においてめっき層140が形成されて金属回路50となる。
【0053】
このUV露光に用いられる露光装置は、平行光露光装置を用いてもよいし、ダイレクト露光装置を用いてもよい。しかし、微細回路を形成するという観点からは平行光露光装置を用いることが好ましく、樹脂フィルムの収縮に対応して露光する位置を調整することができるという観点からはダイレクト露光装置を用いることが好ましい。
【0054】
(iv)現像工程
次に、上述の露光工程のマスクで覆われた部分172のレジスト170を弱アルカリ溶液により現像して除去する(図10)。現像に用いられる弱アルカリ溶液は、炭酸ソーダまたはアミン系の材料を用いることが好ましく、アミン系の材料を用いる場合、トリエタノールアミンを用いることがより好ましい。また、弱アルカリ溶液のpHは7以上13以下であることが好ましく、8.5以上10.0以下であることがより好ましい。弱アルカリ溶液のpHが7未満であるとレジストが除去されない虞があり、pHが13を超えると、マスクで覆われていない部分のレジスト170も全て剥離されてしまう虞がある。
【0055】
また、弱アルカリ溶液の温度は10〜70℃であることが好ましく、20〜35℃であることがより好ましい。弱アルカリ溶液の温度が10℃未満であるとレジスト170が除去されない虞があり、弱アルカリ溶液の温度が70℃を超えると、UV露光した部分のレジスト170も剥離する虞がある。なお、現像の処理時間はレジストの種類により異なるため一律に規定することはできないが、通常20秒以上300秒以下程度とすることが好ましい。
【0056】
(v)活性化工程
次に、図10において、第1の樹脂フィルム100のレジストが除去された部分172の下地層130(下地金属層)の表面を酸系の溶液で活性化する。これにより、めっき層140と下地層130(下地金属層)との密着不良を防止することができる。ここで、この活性化に用いられる酸系の溶液は、酸性を示すものであればどのようなものでもよいが、低コストで活性化できるという観点から、HCl、H2SO4、過硫酸アンモニウム等を用いることが好ましい。また、酸系の溶液に含まれる酸の濃度は、0.5〜20質量%であることが好ましく、3〜10質量%であることがより好ましい。酸系の溶液の濃度が0.5質量%未満であると、下地層130(下地金属層)の表面が活性化されにくく、20質量%を超えると、下地層130(下地金属層)の表面に異常が発生する虞がある。
【0057】
また、活性化するときの酸系の溶液の温度は10〜70℃であることが好ましく、30〜50℃であることがより好ましい。酸系の溶液の温度を10℃未満にすると下地層130(下地金属層)の活性化に長時間かかる虞があり、酸系の溶液の温度が70℃を超えると環境面での問題が生じる虞がある。また、処理時間は下地層(下地金属層)の表面状態により異なるため一律に規定することはできないが、通常3秒以上300秒以下程度とすることが好ましい。
【0058】
(vi)めっき層形成工程
次に、上記で活性化した下地層130上にめっき層140を形成する(図11)。ここで、めっき層140は、どのような方法で形成してもよく、たとえば無電解めっき、電気めっき、スパッタ、蒸着等により形成することができる。中でも、連続加工時における品質の安定性の観点、コストの低減の観点等から、電気めっきを用いて形成することが好ましい。電気めっきによりめっき層140を形成する場合、電気めっきに用いられるめっき液は、めっき層140を形成する金属を含む溶液であれば酸性の溶液でもアルカリ性の溶液でもよい。ただし、めっき液自体が安定であり、かつ低コストでめっきできるという観点から、めっき液には硫酸銅、ピロリン酸銅等を含むことが好ましい。
【0059】
また、めっき液に酸性の溶液を用いる場合、硫酸を用いることが好ましい。また、硫酸を用いる場合、硫酸の濃度は50〜300g/lであることが好ましく、80〜200g/lであることがより好ましい。また、めっき液に硫酸銅を用いる場合、硫酸銅の濃度は30〜300g/lであることが好ましく、70〜150g/lであることがより好ましい。また、このめっき液の塩素イオン濃度は10〜100ppmであることが好ましく、40〜70ppmであることがより好ましい。
【0060】
また、電気めっきするときの電流密度は、0.1〜10A/dm2であることが好ましく、0.5〜4A/dm2であることがより好ましい。また、電気めっきするときのめっき液の温度は20〜60℃が好ましく、30〜40℃がより好ましい。なお、めっき時間についてはめっき層の層厚により異なるため、一律に規定することはできないが、通常600秒以上6000秒以下程度とすることが好ましい。
【0061】
(vii)レジスト剥離工程
次に、上述のめっき層形成工程により金属回路50を形成した後にアルカリ液を用いてレジスト剥離を行なう(図12)。このアルカリ液は、アルカリ性を示す溶液であればどのようなものでもよいが、アルカリ液自体の安定性やアルカリ液のコストの観点から、たとえば水酸化ナトリウム等の無機化合物を含む溶液、アミン系の材料を含む溶液、アルコール系の溶液等を用いることが好ましい。中でも、製造コストの節減を図るという観点から、水酸化ナトリウム含む溶液またはメタノールを含む溶液であることがより好ましい。
【0062】
また、アルカリ液に水酸化ナトリウムを用いる場合、水酸化ナトリウムの濃度は0.1〜50質量%であることが好ましく、1〜10質量%であることがより好ましい。また、レジスト剥離に用いられるアルカリ液の温度は30〜90℃であることが好ましく、50〜70℃であることがより好ましい。なお、レジスト剥離の処理時間は、レジストの剥離状態により異なるため、一律に規定することはできないが、通常20秒以上120秒以下程度とすることが好ましい。
【0063】
(viii)ソフトエッチング工程
次に、下地層130をソフトエッチングすることにより剥離除去して、金属回路50が形成された第1の樹脂フィルム100が得られる(図4)。ソフトエッチングに用いられる薬品は、どのようなものを用いてもよいが、専用のメーカが取り扱うものが好ましく、たとえば過硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、過酸化水素等を用いることが好ましい。ただし、低コストであるという観点から過硫酸アンモニウムを用いることがより好ましい。この過硫酸アンモニウムを用いる場合、過硫酸アンモニウムの濃度は1〜20%であることが好ましく、5〜10%であることがより好ましい。
【0064】
また、下地金属層をソフトエッチングするときの処理温度は、20〜60℃であることが好ましく、30〜40℃であることがより好ましい。なお、このソフトエッチングの剥離にかける時間は、下地金属層の厚みや薬品の濃度および温度により異なるため、一律に規定することはできないが、通常30秒以上200秒以下程度とすることが好ましい。
【0065】
また、下地層130に酸化防止層を含む場合、酸化防止層の剥離に用いられる薬品は、ニッケルクロム剥離液(商品名:NC(日本化学工業株式会社製))を用いることが好ましい。また、この薬品を用いる場合この薬品の濃度は60〜100%であることが好ましい。この薬品の濃度が60%より低いと剥離に時間かかるため好ましくない。
【0066】
また、酸化防止層をソフトエッチングするときの処理温度は、35〜55℃であることが好ましい。なお、このソフトエッチングの剥離にかける時間は酸化防止層の厚みや薬品の濃度および温度により異なるため、一律に規定することはできないが、通常20秒以上300秒以下程度とすることが好ましい。
【0067】
<第3ステップ>
次に、第3ステップは、第2ステップを経ることにより金属回路50が形成された第1の樹脂フィルム100の表裏の一方の面もしくは両面に対し、さらに第2の樹脂フィルム101を積層するものである。ここで、第2の樹脂フィルム101を両面に積層する場合、図5に示すように3層の樹脂フィルムが積層された積層構造となる。
【0068】
この第3ステップは、第1の樹脂フィルムまたは第2の樹脂フィルムに対し粘着剤を塗布することにより、当該粘着剤を介して第1の樹脂フィルム100上に第2の樹脂フィルム101を積層してもよいし、粘着剤層を備えた第2の樹脂フィルムを、当該粘着剤層を介して第1の樹脂フィルム上に積層させてもよい。
【0069】
ここで、第2の樹脂フィルムの積層時における粘着剤または粘着剤層の粘着力は、50g/20mm2以上3000g/20mm2以下とした状態で積層することが好ましい。これにより、第1の樹脂フィルム100と第2の樹脂フィルム101との接合強度を高めることができ、熱の適用時に発生しやすい樹脂フィルム間の多層積層回路基板の厚み方向に対する垂直方向のズレを抑制し、以って金属回路の断線を生じにくくすることができる。しかも、これにより金属回路50を破壊することなく第2の樹脂フィルムを積層できるという優れた効果も奏する。この粘着剤または粘着剤層の粘着力は、200g/20mm2以上2500g/20mm2以下とすることがより好ましく、1000g/20mm2以上2000g/20mm2以下とすることがさらに好ましい。これらの粘着力が50g/20mm2未満であると、第2の樹脂フィルム101の積層後に粘着剤70が第1の樹脂フィルムと第2の樹脂フィルムとの間から漏れ出す虞があり、3000g/20mm2を超えると、回路層200の金属回路50が形成されていない部分に粘着剤70が十分に浸透しないため接着強度が不十分となる。
【0070】
ここで、粘着剤または粘着剤層の粘着力の数値は、プローブタック試験法により測定された値を採用するものとする。具体的には、タッキング試験機(品番:TAC−II型(株式会社レスカ社製))を用いて、本発明の製造方法において粘着剤が塗布された樹脂フィルムの粘着面、または粘着剤層を備えた樹脂フィルムの場合はその粘着剤層に対して、その温度を25℃に設定した上で、断面積が20mm2の円柱状のプローブ(内径は約5.1mm)を500g/cm2の圧力で押し付ける。そして、このプローブを引き抜くときにプローブにかかる応力の変化からこの粘着剤の粘着力を算出する。
【0071】
一方、第2の樹脂フィルム101の積層時の圧力は、0.1〜20kg/cm2であることが好ましく、1〜15kg/cm2であることがより好ましく、2〜10kg/cm2であることがさらに好ましい。
【0072】
さらに、第2の樹脂フィルム101の積層時の温度は、5〜300℃であることが好ましく、10〜150℃であることがより好ましく、20〜60℃であることがさらに好ましい。また、第2の樹脂フィルムの積層時における温度が20〜40℃の時、粘着剤または粘着剤層の粘着力は、50g/20mm2以上3000g/20mm2以下であることが好ましく、100g/20mm2以上2800g/20mm2以下であることがより好ましく、500g/20mm2以上2500g/20mm2以下であることがさらに好ましい。
【0073】
加えて、第2の樹脂フィルム101の積層にかける時間は、1秒以上3時間以下であることが好ましく、1分以上120分以下であることがより好ましく、5分以上90分以下であることがさらに好ましい。
【0074】
以下、第1の樹脂フィルム上に第2の樹脂フィルムを積層する方法をさらに説明すると、たとえば次の(I)〜(III)等の方法を挙げることができる。
【0075】
(I)第1の樹脂フィルム100の金属回路50を形成した面に対し、粘着剤を塗布することにより、当該粘着剤を介して第1の樹脂フィルム上に第2の樹脂フィルムを積層する方法。
【0076】
(II)第2の樹脂フィルム101に粘着剤を塗布することにより、当該粘着剤を介して第1の樹脂フィルム100に第2の樹脂フィルム101を積層する方法。
【0077】
(III)粘着剤層を備えた第2の樹脂フィルムを、当該粘着剤層を介して第1の樹脂フィルムに積層する方法。
【0078】
上記のいずれの方法によっても、図5に示すような3層構造の積層構造を得ることができる。なお、上記の(I)の方法によれば、金属回路50の厚みが厚い場合に金属回路による樹脂フィルムの表面凹凸を少なくすることができるため、より接合強度を高めることができる。
【0079】
このような第2の樹脂フィルム101の積層は、たとえば第1の送出シャフトと第2の送出シャフトと巻取シャフトとを備えたラミネート装置を用いることにより行なわれる。このラミネート装置を用いた場合の手順は、まず、当該ラミネート装置の第1の送出シャフトに第1の樹脂フィルム100をセットするとともに、第2の送出シャフトに第2の樹脂フィルム101をセットする。そして、これらの先端を巻取シャフトにセットする。次に、第1の送出シャフトから第1の樹脂フィルム100を送り出し、第2の送出シャフトから第2の樹脂フィルム101を送り出し、これらを上記の粘着剤または粘着剤層を介して当接させた上で、加熱および加圧して貼り合わせ、回転する巻取シャフトで巻き取ることにより第1の樹脂フィルム100上に第2の樹脂フィルム101を積層する。
【0080】
なお、粘着剤層を備えた第2の樹脂フィルム101を第1の樹脂フィルムに積層する場合、積層後はこの粘着剤層を粘着剤70とみなすものとする。また、第2の樹脂フィルム101の積層時に上記の粘着剤または粘着剤層が第2の樹脂フィルム101と回路層200との間に、接着粘着層(図示せず)として存在する場合もある。
【0081】
<第4ステップ>
第4ステップは、上記の第3ステップにより積層された第2の樹脂フィルム101に対し、上記の第1ステップおよび第2ステップによる操作と同様の操作を実行するものである。第3ステップにおいて第1の樹脂フィルム100の表裏の両面に第2の樹脂フィルム101を積層する場合、第4ステップを行なうことにより、図1に示すような3層の樹脂フィルムと4層の回路層との積層構造を有する多層積層回路基板を作製することができる。
【0082】
ここで、第1ステップによる操作と同様の操作を実行するとは、第2の樹脂フィルム101に対し、導通部を形成するように導通ビア120を形成することをいう(図13)。なお、上述のように回路層200と第2の樹脂フィルム101との間に接着粘着層が存在する場合、導通ビア120は当該接着粘着層を貫通するように形成する。また、第2ステップによる操作と同様の操作を実行するとは、第2の樹脂フィルム101の表面およびその導通ビア120の内壁面に金属回路50を形成することをいう(図1)。
【0083】
本発明は、上述した第1ステップから第4ステップまでの工程を含むことにより、2層または3層の樹脂フィルムを積層する多層積層回路基板の製造方法に関する。これらの各ステップを含むことにより、金属回路の断線が生じにくい多層積層回路基板を生産効率よく製造することができる。また、本発明は、上記の各ステップに加え、さらに後述する第5ステップと第6ステップとを含むことにより、さらに多層の樹脂フィルムを積層する多層積層回路基板を製造することもできる。以下に第5ステップと第6ステップとを説明する。
【0084】
<第5ステップ>
第5ステップは、上記の第4ステップを経た第2の樹脂フィルムに対し、さらに第3の樹脂フィルムを積層するものである(図示せず)。ここで、第3ステップにおいて第1の樹脂フィルムの表裏のいずれか一方の面上に第2の樹脂フィルムを積層した場合、第3の樹脂フィルムは上記の第2の樹脂フィルムに対して積層することができるとともに第1の樹脂フィルムに対しても積層することができ、もちろんこれらの両方に対して積層することもできる。一方、第3ステップにおいて第1の樹脂フィルムの表裏の両面に第2の樹脂フィルムを積層した場合、第3の樹脂フィルムの積層は上記の第2の樹脂フィルムのいずれか一方に対して行なってもよいし、両方に対して行なうこともできる。
【0085】
これにより、さらに樹脂フィルムを重ね合わせた構造の多層積層回路基板とすることができる。この第3の樹脂フィルムを積層する方法は、第3ステップの第2の樹脂フィルムを積層する方法と同様のいずれの方法を用いることもできる。すなわち、第5ステップは、第2の樹脂フィルムまたは第3の樹脂フィルムに対し粘着剤を塗布することにより、当該粘着剤を介して第2の樹脂フィルム上に第3の樹脂フィルムを積層してもよいし、粘着剤層を備えた第3の樹脂フィルムを、当該粘着剤層を介して第2の樹脂フィルム上に積層させてもよい。このときの粘着剤および粘着剤層の粘着力は上述で示した範囲と同様であることが好ましい。また、第3の樹脂フィルムの積層時に上記の粘着剤または粘着剤層が第3の樹脂フィルムと回路層との間に、接着粘着層(図示せず)として存在する場合もある。
【0086】
<第6ステップ>
第6ステップは、上記の第5ステップにより積層された第3の樹脂フィルムに対し、上述の第1ステップと第2ステップと同様の操作を実行するものである。ここで、第1ステップによる操作と同様の操作を実行するとは、第3の樹脂フィルムに対し、導通部を形成するように導通ビアを形成することをいう(図示せず)。なお、上述のように回路層と第3の樹脂フィルムとの間に接着粘着層が存在する場合、導通ビアは当該接着粘着層を貫通するように形成する。また、第2ステップによる操作と同様の操作を実行するとは、第3の樹脂フィルムの表面およびその導通ビアの内壁面に金属回路50を形成することをいう(図示せず)。そして、この第5ステップと第6ステップとを各1回以上この順に繰り返すことにより、さらに多層の樹脂フィルムを重ね合わせた積層構造を有する多層積層回路基板を製造することができる。これにより、用途に応じた積層構造を有する多層積層回路基板を製造することができる。
【0087】
本発明によれば、さらに多層の樹脂フィルムを積層させた多層積層回路基板を作製する場合でも金属回路の断線が生じにくいという効果が得られる。しかも、樹脂フィルムの積層数が多いほど従来の多層積層回路基板の製造方法と比べて、その生産効率の向上が顕著となる。
【0088】
本発明の製造方法により製造された多層積層回路基板は、たとえば以下のような使用態様がある。
【0089】
<多層積層回路基板の使用態様>
本発明の多層積層回路基板1は、たとえば図14に示されるように、多層積層回路基板の最下面の金属回路50とリジッド基板301とが、接着金属401により貼り付けられる。また、多層積層回路基板の最上面の金属回路50とSi基板302とが、密着金属402により貼り付けられる。本発明の多層積層回路基板は、このような構成として用いることができる。以下、この使用態様における各構成について説明する。
【0090】
<接着金属>
上記の使用態様で用いられる接着金属401は、はんだ、ボンディング、スタットピンおよびバンプのいずれかとして形成されるものであり、これによりリジッド基板301と多層積層回路基板との導通を図ることができる。ここで、接着金属401に用いられる材料は、この種の用途に用いられる従来公知の金属または合金をいずれも用いることができ、たとえば、Ni、Cr、Ti、Co、Cu、AlおよびAgからなる群より選択された少なくとも1種の金属または該金属を少なくとも1種含む合金を用いることができる。
【0091】
<密着金属>
上記の使用態様で用いられる密着金属402は、はんだとして形成されるものであり、これによりSi基板と多層積層回路基板との導通を図ることができる。ここで、密着金属に用いられる材料は、この種の用途に用いられる従来公知の金属または合金をいずれも用いることができ、たとえば、Ni、Cr、Ti、Co、Cu、AlおよびAgからなる群より選択された少なくとも1種の金属または該金属を少なくとも1種含む合金を用いることができる。
【0092】
<Si基板>
上記の使用態様で用いられるSi基板は、Siを主体とする材料からなるものであって、1ppm/℃以上10ppm以下の熱膨張係数を有する材料からなる基板である。なお、Si基板302の代わりにリジッド基板を用いる使用態様も可能である。
【0093】
<リジッド基板>
上記の使用態様で用いられるリジッド基板は、Si基板の熱膨張係数よりも熱膨張係数の高い材料からなる基板をいう。なお、リジッド基板301には銅基板も含まれる。次に、この使用態様における各構成の熱膨張係数の関係を説明する。
【0094】
<熱膨張係数>
たとえば、図14に示されるような使用態様の場合、最上層のSi基板302は熱膨張係数が小さく、最下層のリジッド基板301は熱膨張係数が大きいので、これらの間に積層される樹脂フィルムの熱膨張係数は、Si基板302側の樹脂フィルムほど熱膨張係数が小さく、リジッド基板301側の樹脂フィルムほど熱膨張係数が大きくなるように、樹脂フィルムを選択することが好ましい。
【0095】
より具体的には、Si基板302の近傍に配置される第2の樹脂フィルム101の熱膨張係数は、2ppm/℃以上10ppm/℃以下が好ましく、3ppm/℃以上5ppm/℃以下がより好ましい。熱膨張係数が2ppm/℃未満であると、多層積層回路基板がもろくなり扱いにくく、熱膨張係数が10ppm/℃を超えると、Si基板302の熱膨張係数と第2の樹脂フィルムの熱膨張係数との差が大きくなり、多層積層回路基板に歪みが生じ、導通ビア内の金属回路に断線が生じやすくなる。
【0096】
また、リジッド基板301の近傍に配置される第2の樹脂フィルム101の熱膨張係数は、リジッド基板301の熱膨張係数に近接した数値とすることが好ましい。また、リジッド基板が屈曲している場合には、この屈曲に対応できる第2の樹脂フィルムを用いることが好ましい。また、上記のSi基板またはリジッド基板のいずれか一方もしくは両方に、銅基板を用いる場合、銅基板に近接して配置される第2の樹脂フィルムの熱膨張係数は、銅基板の熱膨張係数(16.8ppm/℃)に近接した数値とすることが好ましく、その熱膨張係数の値は10ppm/℃以上20ppm/℃以下であることが好ましい。その熱膨張係数は、より好ましくは15ppm/℃以上18ppm/℃以下である。
【0097】
<部品または製品>
本発明の製造方法により製造された多層積層回路基板は、各種の部品または製品に用いられる。この製品には、たとえば電気製品、電子製品、半導体製品、アンテナ回路基板、ICカード、太陽電池、自動車またはロボット等を挙げることができる。
【0098】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0099】
<実施例1>
第2ステップの金属回路の形成方法としてエッチング法を採用し、以下の各工程により多層積層回路基板を作製した。
【0100】
<第1ステップ>
まず、第1の樹脂フィルム100として、ロール状に巻かれた長尺状のポリイミドフィルム(長さ50m、厚さ7.5μm、熱膨張係数16.4ppm/℃、商品名:カプトン30H(東レ・デュポン株式会社製))であって、250mm幅でスリット加工されたものを用いた(図2)。そして、この第1の樹脂フィルム100を1つの導通部に対し、UV−YAGレーザ装置により15μmの内径の導通ビア120を1つ形成した(図3)。ここで、UV−YAGレーザ装置のレーザショット回数は9に設定し、巻取張力を5Nにセットして巻き取った。
【0101】
そして、上記で導通ビア120が形成された第1の樹脂フィルム100を洗浄装置にセットし、下地層の形成工程においてピンホールが発生することを抑制するために第1の樹脂フィルム100の表面と導通ビア120の内壁面とを洗浄した。
【0102】
<第2ステップ>
次に、第2ステップにより、上記の第1の樹脂フィルム100の表裏の両面および導通ビア120の内壁面に対し、金属回路50を形成した(図4)。具体的には以下の(i)〜(iv)の工程により行なった。
【0103】
(i)下地層形成工程
上記で表面を洗浄した第1の樹脂フィルム100をスパッタ装置に投入し、真空ポンプにより1×10-3Paの圧力に設定した上で、イオンガンにN2ガスを注入して、それを陽イオン化したものを照射することにより第1の樹脂フィルム100の表面を前処理した。その後、巻取張力を7Nにセットした上で、スパッタリング法によりAr雰囲気下でNiとCrとの合金(NiとCrとの重量比がNi:Cr=80:20)からなる酸化防止層を第1の樹脂フィルム100上に形成し、その上に同じくスパッタリング法によりCuからなる下地金属層を形成することにより下地層130を形成した(図6)。
【0104】
そして、スパッタ装置の真空状態を解除して下地層130が形成された第1の樹脂フィルム100を取り出し、第1の樹脂フィルム100を1m間隔で切断することによりサンプリングを行ない、計50枚の枚葉のフィルムを得た。そして、それらのサンプルに対して集束イオンビーム(FIB:Focused Ion Beam)を照射することにより断面を観察した。その結果、これらのいずれのサンプルも下地層130の厚みは354nm(酸化防止層の厚み:4nm、下地金属層の厚み:350nm)であった。このことから、長尺状の第1の樹脂フィルム100に均一な厚みで下地層130が形成されていることが明らかとなった。
【0105】
(ii)めっき層形成工程
次に、下地層130が均一に形成された第1の樹脂フィルム100(上記でサンプリングを行なわなかったもの)を銅めっき装置にセットし、硫酸により下地層130を活性化させた後に水洗した。その後、めっき液(硫酸200g/l、硫酸銅90g/l、塩素イオン濃度50ppmからなるもの)を充填しためっき浴に当該第1の樹脂フィルム100を浸漬した状態で、1A/dm2の電流密度の電流を流すことにより、下地層130の全面に銅めっきを行なった。そして、このようにして得られた銅めっき層の表面を再度水洗して乾燥させることにより、第1の樹脂フィルム100の下地層130の全面に銅めっき層からなるめっき層140を形成した(図7)。このようにして得られた第1の樹脂フィルム100を1m間隔で切断することによりサンプリングを行ない、計50枚の枚葉のフィルムを得た。そして、それらのサンプルに対してFIBを照射することにより断面を観察した。その結果、これらのいずれのサンプルも下地層130とめっき層140とを含む合計の厚みは18μmであった。上述の通り下地層130の厚みは均一であることから、めっき層140の厚みも均一に形成されていることが明らかとなった。なお、巻取張力を20Nにセットした上でこれらの工程を行なった。
【0106】
(iii)露光工程
次に、上記のようにしてめっき層140を形成した第1の樹脂フィルム100(上記でサンプリングを行なわなかったもの)の表裏の両面に対して、250mm幅のスリット加工されたドライフィルム(商品名:NIT215(ニチゴー・モートン株式会社製))をラミネートし、金属回路のパターンに対応したマスクを重ね合わせた後、それをロール式のダイレクト露光装置にセットして露光を行なった。露光時のレジストの硬化収縮により、第1の樹脂フィルムが裂ける虞があるため、巻取張力を25Nにセットして巻き取った。この第1の樹脂フィルム100を3倍の拡大鏡を用いてシワ、エアー噛み等の外観検査を行なったが、いずれの外観不良も観察されなかった。
【0107】
(iv)現像工程/エッチング工程/レジスト剥離工程
その後、現像とエッチングとレジスト剥離とを連続して行なうことができるロール式のエッチング装置の送出シャフトに露光工程後の第1の樹脂フィルム100をセットして、巻取張力を10Nにセットした上で、現像とエッチング処理(めっき層140と下地層130とを除去する処理)とレジスト剥離とを行ない、図4に示される金属回路50を形成した。エッチング液には塩化銅を用いたが、塩化鉄(II)を用いてもよい。この第1の樹脂フィルム100から複数のサンプリングを行ない、そのサンプルに対し100倍の倍率の顕微鏡を用いて金属回路50の断線、ショート等の検査を行なった。その結果、いずれのサンプルにおいても金属回路50に断線、ショート等の不良は観察されなかった。
【0108】
<第3ステップ>
次に、表裏の両面を同時にラミネートできる真空ラミネート装置に上記の金属回路50を形成した第1の樹脂フィルム100(上記でサンプリングを行なわなかったもの)をセットした。さらに、この第1の樹脂フィルム100の表裏の両面に、粘着力が2000g/mm2の粘着剤70が塗布された第2の樹脂フィルム101をセットし、この真空ラミネート装置を作動させ、巻取張力を20Nにセットした上で、これら3層の樹脂フィルムを同時に巻き取ることにより、金属回路50を形成した第1の樹脂フィルム100の表裏の両面に第2の樹脂フィルム101を積層した。これにより3層の樹脂フィルム100と2層の回路層200とからなる積層体を得た(図5)。ここで、第2の樹脂フィルムには、第1の樹脂フィルムと同様のものを用いた。この積層体の表裏の第2の樹脂フィルム101の全面に対し、シワ、エアー噛み等の検査を行なった。その結果、この積層体の表裏の第2の樹脂フィルム101にシワ、エアー噛み等の不良は観察されなかった。
【0109】
<第4ステップ>
次に、第3ステップにより積層された第2の樹脂フィルム101に対し、上記第1ステップおよび第2ステップと同様の操作を行なった。すなわち、上記で得られた積層体の表裏の第2の樹脂フィルム101に対し、各導通部に導通ビア120を1つずつ形成した(図13)。その後、その積層体の表裏の第2の樹脂フィルム101の表面とその導通ビア120の内壁面とを洗浄した。次に、第1の樹脂フィルム100に対して下地層130を形成したときと同様の方法により、この積層体の表裏の第2の樹脂フィルム101の表面にNi−Crからなる酸化防止層と、Cuからなる下地金属層とを含む下地層130をスパッタリング法により形成した(図15)。なお、図15の導通ビア120内で露出した金属回路50上に形成される下地層130は、便宜上省略している。
【0110】
次に、上記で得られた下地層130を形成した積層体を銅めっき装置にセットして、上述のめっき層形成工程と同一の条件により上記で形成した下地層130の全面にめっき層140を形成した(図16)。その後、この積層体の一部をサンプリングして上記と同様の方法によりFIBを照射して断面を観察したところ、この積層体の表裏の第2の樹脂フィルム101上のめっき層140と下地層130との合計の厚みは、いずれも18μmであることを確認した。
【0111】
次に、上記で得られためっき層を形成した積層体の表裏の第2の樹脂フィルム101に対して、ドライフィルム(商品名:NIT215(ニチゴー・モートン株式会社製))をラミネートし、次にロール式の露光装置にそれをセットして露光を行なった。
【0112】
その後、上記と同様の方法により現像とエッチングとレジスト剥離とを連続して行ない、この積層体の表裏の第2の樹脂フィルム101の表面に金属回路50を形成した(図1)。以上により本発明の多層積層回路基板を作製した。
【0113】
そして、この多層積層回路基板をサンプリングし、このサンプルを100倍の顕微鏡を用いて金属回路の断線、ショート等の検査を行なった。その結果、この多層積層回路基板の金属回路に断線、ショート等の不良は観察されなかった。
【0114】
<実施例2>
実施例1により製造された多層積層回路基板に対して、第1の樹脂フィルムの厚みと第2の樹脂フィルムの厚みとが以下の表1に示すように異なるとともに、各ステップ中の巻取張力を実施例1の巻取張力の1.3倍とし、導通ビアの加工におけるレーザショット回数を実施例1のレーザショット回数の4倍とし、その他は実施例1と同様の方法により多層積層回路基板を作製した。
【0115】
<実施例3>
実施例1により製造された多層積層回路基板に対して、第1の樹脂フィルムの厚みと第2の樹脂フィルムの厚みとが以下の表1に示すように異なるとともに、各ステップ中の巻取張力を実施例1の巻取張力の1.9倍とし、導通ビアの加工におけるレーザショット回数を実施例1のレーザショット回数の7倍とし、その他は実施例1と同様の方法により多層積層回路基板を作製した。
【0116】
<実施例4>
実施例1により製造された多層積層回路基板に対して、第1の樹脂フィルムの厚みと第2の樹脂フィルムの厚みとが以下の表1に示すように異なるとともに、各ステップ中の巻取張力を実施例1の巻取張力の3倍とし、導通ビアの加工におけるレーザショット回数を実施例1のレーザショット回数の14倍とし、その他は実施例1と同様の方法により多層積層回路基板を作製した。
【0117】
<実施例5〜8>
実施例5〜8の多層積層回路基板は、実施例3により製造された多層積層回路基板に対して、第2の樹脂フィルム101の積層時の粘着剤の粘着力が以下の表1に示すように異なることを除き、その他は実施例3と同様の方法により作製した。たとえば、表1中の実施例7は、第2の樹脂フィルムの積層時の粘着剤の粘着力が1250g/20mm2であることを除き、その他は実施例3と同様の方法により作製したことを示す。
【0118】
<実施例9〜12>
実施例9〜12の多層積層回路基板は、実施例3の多層積層回路基板に対して、第2の樹脂フィルム101として粘着剤層を備えた第2の樹脂フィルム101を用い、当該粘着剤層を介して積層することを除き、その他は実施例3と同様の方法により作製した。すなわち、表1中の実施例9は、実施例3で用いた粘着剤に代えて粘着力が70g/20mm2の粘着剤層を備えた第2の樹脂フィルムを当該粘着剤層を介して第1の樹脂フィルム上に積層させることにより積層したことを除き、その他は実施例3と同様の方法により作製したことを示す。
【0119】
<実施例13>
樹脂フィルムの積層数が実施例1〜12と比べて格段に多い多層積層回路基板を製造した。すなわち、実施例1において、第4ステップ終了後に第5ステップを行なうことにより多層積層回路基板の表裏の両面に、さらに第3の樹脂フィルムを積層した。この第3の樹脂フィルムには、第1の樹脂フィルムと同様のものを用いた。その後、第6ステップを行なうことにより第3の樹脂フィルムに導通ビアを形成した上で、各第3の樹脂フィルムの表面および導通ビアの内壁面に金属回路を形成した。この第5ステップと第6ステップとを各10回ずつこの順に繰り返すことにより、23層の樹脂フィルムを積層した多層積層回路基板を作製した。
【0120】
<比較例1>
CCLを用いて従来のビルドアップ工法により多層積層回路基板を製造した。そのCCLの樹脂フィルムの厚みは実施例3と同様とした。また、導通ビアの内径を100μmとし、これに銀ペーストを充填することにより樹脂フィルムを3層積層した多層積層回路基板を得た。
【0121】
<生産性>
実施例1〜12および比較例1の多層積層回路基板の生産性を表2に示した。ここで、生産性は、特定の加工面積(m2)となる多層積層回路基板の製造に要した時間(分)から算出した。この結果、実施例3の生産性が最も優れていた。そこで、この実施例3の多層積層回路基板の生産性を1として、これに対するその他の実施例1、2、4〜12および比較例1の生産性を算出した。
【0122】
表2より明らかな通り、比較例1の製造方法による生産性は、実施例1〜12の製造方法による生産性と比べて極端に低い値である。この理由は、比較例1の多層積層回路基板は、従来のビルドアップ工法により製造したことによるものであることが明らかである。このことから、本発明の多層積層回路基板の製造方法は、従来のビルドアップ工法による製造方法と比べて、生産効率が顕著に優れていることが明らかとなった。
【0123】
<導通検査>
実施例1〜13および比較例1の多層積層回路基板の金属回路は、およそ200個の導通部(実施例13はおよそ1520個の導通部)が設けられている。そして、そのうちのいずれか1箇所の導通部の金属回路に断線が生じれば、導通の異常が計測されるように設計した。そして、これらの多層積層回路基板を作製した段階で、多層積層回路基板の導通を確認した。その結果、これらのいずれの多層積層回路基板の金属回路にも導通に異常はなかった。このことから多層積層回路基板を作製した段階においては、いずれの多層積層回路基板の金属回路も断線していないことが明らかとなった。
【0124】
<温度変化サイクル試験>
実施例1〜13および比較例1の多層積層回路基板に対し、サイクル試験機(型式:TSA−41L−A(ESPEC株式会社製))を用いて、2つの異なる設定温度を一定時間間隔で交互に繰り返して保持する温度変化サイクル試験を行なった。具体的には、−40℃で30分間保持した後、120℃で30分間保持することを1サイクルとし、500サイクルごとに導通検査を行なった。そして、回路内に含まれている複数の導通部のうち、1箇所でも導通不良が起きた時点でサイクル試験を終了することとし、この試験を2000サイクルまで行なった。
【0125】
その結果、表2に示されるように実施例1〜13の多層積層回路基板は、2000サイクル終了時においても導通不良は認められなかった。これに対し、比較例1の多層積層回路基板は、500サイクル終了時に導通不良が確認された。上記の結果から、実施例1〜13の多層積層回路基板は、比較例1の多層積層回路基板に比べて、熱が加わったときの金属回路の断線が格段に生じにくいことが明らかとなった。この理由は、比較例1の多層積層回路基板は、従来のビルドアップ工法により製造したことによるものである。このことから、本発明の多層積層回路基板の製造方法は、従来のビルドアップ工法による製造方法と比べて、熱が加わったときの金属回路の断線が格段に生じにくいことが明らかとなった。
【0126】
【表1】
【0127】
【表2】
【0128】
以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
【0129】
今回開示された実施の形態および実施例は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0130】
本発明によれば、生産効率がよく、しかも金属回路の断線が生じにくい多層積層回路基板の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0131】
【図1】本発明により製造される多層積層回路基板の一例を示す模式的な断面図である。
【図2】第1の樹脂フィルムの一例を示す模式的な断面図である。
【図3】導通ビアを形成した後の第1の樹脂フィルムの一例を示す模式的な断面図である。
【図4】金属回路を形成した後の第1の樹脂フィルムの一例を示す模式的な断面図である。
【図5】金属回路を形成した第1の樹脂フィルムの表裏の両面に、第2の樹脂フィルムを積層させた状態を示す模式的な断面図である。
【図6】第1の樹脂フィルム上に下地層を形成した後の状態を示す模式的な断面図である。
【図7】第1の樹脂フィルムの下地層上の全面にめっき層を形成した後の状態を示す模式的な断面図である。
【図8】第1の樹脂フィルムの全面に形成されためっき層上にレジストを形成した後の状態を示す模式的な断面図である。
【図9】第1の樹脂フィルムのめっき層と下地層とをエッチングした後の状態を示す模式的な断面図である。
【図10】第1の樹脂フィルムの下地層上にレジストを形成した後の状態を示す模式的な断面図である。
【図11】第1の樹脂フィルムの下地層上であって、レジストを形成していない部分にめっき層を形成した後の状態を示す模式的な断面図である。
【図12】第1の樹脂フィルム上のレジストを剥離した後の状態を示す模式的な断面図である。
【図13】樹脂フィルムを3層積層した積層体の表裏の第2の樹脂フィルムに導通ビアを形成した後の状態を示す模式的な断面図である。
【図14】本発明により製造される多層積層回路基板の使用態様の一例を示す模式的な断面図である。
【図15】樹脂フィルムを3層積層した積層体の表裏の第2の樹脂フィルムの表面とその導通ビアの内壁面とに、下地層を形成した後の状態を示す模式的な断面図である。
【図16】樹脂フィルムを3層積層した積層体の表裏の第2の樹脂フィルム上に、めっき層を形成した後の状態を示す模式的な断面図である。
【符号の説明】
【0132】
1 多層積層回路基板、50 金属回路、70 粘着剤、100 第1の樹脂フィルム、101 第2の樹脂フィルム、120 導通ビア、130 下地層、140 めっき層、170 レジスト、171,172 部分、200 回路層、301 リジッド基板、302 Si基板、401 接着金属、402 密着金属。
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層積層回路基板の製造方法に関し、特に生産効率がよく、しかも金属回路の断線が生じにくい多層積層回路基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
我々の身の回りにある製品、たとえば電気製品、電子製品、半導体製品、アンテナ回路基板、ICカード等はいずれも場所をとらない小型製品に人気が集中しており、さらに小型化した製品の登場が期待されている。このような製品のニーズに対応するため、製品の外形を小型化するというアプローチと、製品の内部を小型化するというアプローチとの両面から製品の小型化の技術開発が進められてきた。ところが、製品の外形を小型化するというアプローチによる製品の小型化はもはや限界に近いと言われ、製品の内部の小型化に期待が寄せられるようになってきた。
【0003】
このような状況下で、製品の内部を小型化するアプローチとして、製品に用いられる回路基板を軽薄短小な回路構造にするという方法が近年特に注目を集めている。従来の回路基板は、1枚の基板を用い、その基板の一方の面もしくは両面に金属回路を形成するものであった。そして、この金属回路を微細化することにより回路基板の小型化を実現していた。ところが、1枚の基板を用いたときよりもはるかに小型化できる方法として、回路基板を複数枚重ね合わせた多層積層回路基板が開発された。このように回路基板を複数枚重ね合わせて立体的な金属回路の構造にすることにより、1枚の基板を用いた平面的な金属回路の構造よりも複雑な回路の設計が可能となる。
【0004】
このような多層積層回路基板は、ビルドアップ法と呼ばれる方法で作製されるのが一般的である。この方法による多層積層回路基板の作製の手順は、まず、1枚の絶縁性の樹脂フィルムに導電層を形成した銅張積層板(CCL:Copper Clad Laminate)を準備する。そして、このCCLの導電層のうち、不要な部分をエッチングすることにより除去し、これにより除去されずに残された導電層が金属回路となる。そして、この金属回路上に接着剤を塗布して、当該接着剤を介してさらに導電層が形成された樹脂フィルムを貼り合わせる。次に、この貼り合わせた樹脂フィルムの導通部に導通ビアと呼ばれる孔を形成する。そして、当該導通ビアの内部にめっきまたはペースト等を充填し、2枚の樹脂フィルム間の導通を保障する。そして、貼り合わせた樹脂フィルムの導電層のうち、上記同様に不要な部分をエッチングすることにより除去して金属回路を形成する。これらの工程により2枚の樹脂フィルムを積層した回路基板を得ることができる。以後、さらに上述と同様の工程を繰り返すことにより、3枚以上の樹脂フィルムが積層した多層積層回路基板を作製することができる。
【0005】
しかしながら、このビルドアップ法により形成した多層積層回路基板は、金属回路に断線が生じやすいという問題があった。また、導通ビアの内部にめっきまたはペーストを充填する工程が煩雑であり、生産効率が悪いという問題もあった。
【0006】
これらの課題を解決するために、たとえば特許文献1および2には、樹脂フィルム間を接着するための接着用孔を設け、当該接着用孔に接着剤を充填することにより樹脂フィルム間の接着強度を高め、金属回路の断線を防止する方法が記載されている。しかし、これらの方法によっては、熱が加わったときに樹脂フィルムの熱膨張の差により、多層積層回路基板の厚さ方向に対する垂直方向のズレが発生して金属回路が断線してしまうという問題があった。
【0007】
そこで、これらの問題を解決する試みとして、多層積層回路基板に含まれる複数枚の樹脂フィルムのうち、内層に位置する樹脂フィルムから外層に位置する樹脂フィルムに従って、次第に熱膨張係数の値が大きくなるように、樹脂フィルムを積層する構造の多層積層回路基板が記載されている(たとえば、特許文献3)。しかし、かかる構造の多層積層回路基板によっても、上述の問題を十分に解決できるものではなかった。
【0008】
そこで、これらの問題を解決するため、樹脂フィルムを貼り合わせる接着剤に導電性フィラーを用いて多層積層回路基板を作製する方法が開示されている(たとえば、特許文献4)。この方法によれば樹脂フィルム間の上記の方向のズレが起こっても接着剤に含まれる導電性フィラーにより樹脂フィルム間の導通を保つことができる。しかしながら、導電性フィラーは接着剤に対する相互溶解性が悪いことから、接着剤中で導電性フィラーが凝集を起こすため、安定して生産できずに生産効率が悪いという問題があった。
【特許文献1】特開2007−317864号公報
【特許文献2】特開2008−091604号公報
【特許文献3】特開2005−191244号公報
【特許文献4】特開2007−324161号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような現状に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、生産効率がよく、しかも金属回路の断線が生じにくい多層積層回路基板の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の多層積層回路基板の製造方法は、第1の樹脂フィルムに対し、該第1の樹脂フィルムの表裏を貫通する導通ビアを形成する第1ステップと、第1の樹脂フィルムの表裏の両面と導通ビアの内壁面とに対し、金属回路を形成する第2ステップと、金属回路を形成した第1の樹脂フィルムの表裏の一方の面もしくは両面に対し、さらに第2の樹脂フィルムを積層する第3ステップと、該第3ステップにより積層された第2の樹脂フィルムに対し、第1ステップおよび第2ステップによる操作と同様の操作を実行する第4ステップとを含むことを特徴とする。
【0011】
また、第4ステップの後、第4ステップを経た第2の樹脂フィルムに対し、第3の樹脂フィルムを積層する第5ステップと、該第5ステップにより積層された第3の樹脂フィルムに対し、第1ステップおよび第2ステップによる操作と同様の操作を実行する第6ステップとを各1回以上この順に繰り返してもよい。
【0012】
また、上記の第3ステップは、第1の樹脂フィルムまたは第2の樹脂フィルムに対し粘着剤を塗布することにより、当該粘着剤を介して第1の樹脂フィルム上に第2の樹脂フィルムを積層するものであって、当該粘着剤の粘着力を50g/20mm2以上3000g/20mm2以下とした状態で、積層を行なってもよい。
【0013】
また、上記の第5ステップは、第2の樹脂フィルムまたは第3の樹脂フィルムに対し粘着剤を塗布することにより、当該粘着剤を介して第2の樹脂フィルム上に第3の樹脂フィルムを積層するものであって、当該粘着剤の粘着力を50g/20mm2以上3000g/20mm2以下とした状態で、積層を行なってもよい。
【0014】
また、第3ステップは、粘着剤層を備えた第2の樹脂フィルムを、該粘着剤層を介して第1の樹脂フィルム上に積層させるものであって、当該粘着剤層の粘着力を50g/20mm2以上3000g/20mm2以下とした状態で、積層を行なってもよい。
【0015】
また、第5ステップは、粘着剤層を備えた第3の樹脂フィルムを、該粘着剤層を介して第2の樹脂フィルム上に積層させるものであって、当該粘着剤層の粘着力を50g/20mm2以上3000g/20mm2以下とした状態で、積層を行なってもよい。
【0016】
また、上記の各樹脂フィルムは、長尺状のものであることが好ましい。
本発明は、上記の製造方法により製造される多層積層回路基板を用いる部品または製品である。
【0017】
また、上記の製品は、電気製品、電子製品、半導体製品、アンテナ回路基板、ICカード、太陽電池、自動車またはロボットのいずれかであることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の多層積層回路基板の製造方法は、上記の各構成を有することにより、生産効率がよく、しかも金属回路の断線が生じにくいという効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
<多層積層回路基板>
本発明の製造方法により製造される多層積層回路基板について、図1を参照しつつ説明する。図1は、本発明の多層積層回路基板の一例を示す模式的断面図である。なお、本発明の図面において、同一の参照符号は、同一部分または相当部分を表わすものとする。
【0020】
本発明の多層積層回路基板1は、樹脂フィルム(後述する、第1の樹脂フィルム100、第2の樹脂フィルム101および第3の樹脂フィルム(図示せず)のことを示す。以下において同じ。)と回路層200とを交互に積層させた積層構造を含む。この樹脂フィルムには、表裏の導通を図る部位に導通部(図示せず)が備えられ、当該導通部には、少なくとも1つの導通ビア120と呼ばれる孔が形成されている。この導通ビア120により、樹脂フィルムの表裏に形成される金属回路50の導通を保障している。この金属回路50は、めっき層140と下地層130とを含む。当該めっき層140は高い電導性を有する材料で構成される層である。また、下地層130は、電気の通電が可能なものであって、めっき層140と樹脂フィルムとの密着性を向上させる作用をなすものである。
【0021】
一方、回路層200は上記の金属回路50を含み、回路層200の金属回路50以外の部分は、絶縁性の粘着剤70(または粘着剤層)が含まれる場合もある。当該粘着剤70を含む場合、当該粘着剤70を介して各樹脂フィルムを相互に貼り付けることができる。このように本発明の回路層200は、金属回路50のみにより構成されていてもよいし、金属回路50と粘着剤70とにより構成されていてもよい。以下に、本発明の多層積層回路基板の製造方法の一例を図2〜5の模式的断面図を参照しつつ説明する。
【0022】
<多層積層回路基板の製造方法>
本発明は、図2に示される第1の樹脂フィルム100に対し、当該第1の樹脂フィルム100の表裏を貫通する導通ビア120を形成する第1ステップと(図3)、第1の樹脂フィルム100の表裏の両面と第1ステップで形成された導通ビア120の内壁面とに対し、金属回路50を形成する第2ステップと(図4)、当該第2ステップにより金属回路50を形成した第1の樹脂フィルム100の表裏の一方の面もしくは両面に対し、さらに第2の樹脂フィルム101を積層する第3ステップと(図5)、当該第3ステップにより積層された第2の樹脂フィルム101に対し、第1ステップおよび第2ステップによる操作と同様の操作を実行することにより、第2の樹脂フィルム101およびその導通ビア120の内壁面に、金属回路50を形成する第4ステップと(図1)をこの順に行なう、多層積層回路基板の製造方法である。なお、図1は、第1の樹脂フィルム100の表裏の両面上の回路層200に対し、それぞれ各1層ずつ第2の樹脂フィルム101を貼り合わせた3層の樹脂フィルムと4層の回路層200とからなる多層積層回路基板を示しているが、本発明の製造方法による多層積層回路基板はこの積層構造に限られるものではない。
【0023】
すなわち、本発明により製造される多層積層回路基板の樹脂フィルムの最小積層数は、第1の樹脂フィルムの表裏のいずれか一方の面上の回路層に対し、1層の第2の樹脂フィルムを貼り合わせた2層の樹脂フィルムを積層させた積層構造のものである。一方、本発明により製造される多層積層回路基板の樹脂フィルムの最多積層数は、特に限定されることはないが、樹脂フィルムを2〜30層程度積層させた積層構造のものが一般的である。
【0024】
ところで、本発明の多層積層回路基板の製造は、上述の第4ステップの後、第4ステップを経た第2の樹脂フィルム101に対し、さらに第3の樹脂フィルム(図示せず)を積層する第5ステップと、この第5ステップにより積層された第3の樹脂フィルムに対し、上述の第1ステップおよび第2ステップによる操作と同様の操作を実行する第6ステップとを各1回以上この順に繰り返すことにより積層数を自由に増加させることができる。なお、上述の第3ステップにおいて第1の樹脂フィルムの表裏のいずれか一方の面に対し、第2の樹脂フィルムを積層する場合、第5ステップにおける第3の樹脂フィルムの積層は、第2の樹脂フィルム上に対して行なわれるもののみに限られず、第2の樹脂フィルムが積層されていない側の第1の樹脂フィルムの面上に対して行なってもよい。第1の樹脂フィルムに対して積層を行なう場合、この第3の樹脂フィルムは、第2の樹脂フィルムとみなすものとする。
【0025】
以下に本発明の多層積層回路基板の製造方法に含まれる各ステップをさらに説明する。
<第1ステップ>
まず、図2に示される第1の樹脂フィルム100を用意する。本発明の第1ステップは、このような第1の樹脂フィルム100に対して、導通部を形成するように導通ビア120を形成する(図3)。ここで、導通ビア120を形成する方法としては、導通ビアの深さと樹脂フィルムの厚みとが等しくなるように導通ビアの形成を調節できる加工方法であれば、どのような加工方法を用いてもよく、たとえばドリル加工、パンチ加工、レーザ加工等を用いることができる。ただし、樹脂フィルムの厚みが50μm以下のものを加工するとき、もしくは導通ビアの内径が100μmより小さいものを加工するときには、レーザ加工を用いることが好ましい。レーザ加工を用いる場合、導通ビアを正確な位置に形成できるという観点、導通ビアの内径を設定どおりに形成する精度が高いという観点、導通ビア形成後に導通ビア周辺に炭化物が残らないという観点、連続加工に適しているという観点等から、UV−YAGレーザを用いて加工することがより好ましい。
【0026】
また、導通ビアを連続加工して形成する場合、樹脂フィルムの長手方向に3〜100Nの張力を加えて加工することが好ましい。この張力が3N未満であると樹脂フィルムの巻取り時にシワが発生する虞があり、100Nを超えると樹脂フィルムが裂けてしまう虞がある。以下のA〜Cに、樹脂フィルム、導通部、および導通ビア120について説明する。
【0027】
A.樹脂フィルム
本発明に用いる樹脂フィルムは、絶縁性の材料からなり、この種の用途に用いられる従来公知の樹脂フィルムをいずれも用いることができる。たとえば、このような樹脂フィルムとして、ポリイミド(PI)系、アクリル系、液晶ポリマ(LCP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等の樹脂フィルムを用いることができる。
【0028】
また、樹脂フィルムの厚みは、連続加工の生産性を高めるという観点から、0.1μm以上200μm以下であることが好ましく、4μm以上100μm以下であることがより好ましく、5μm以上75μm以下であることがさらに好ましい。樹脂フィルムの厚みが0.1μm未満であると、樹脂フィルムを巻き取るときの張力により裂ける虞があり、200μmを超えると、多層積層回路基板の厚みが厚くなり所期の目的に反することとなる。なお、第2の樹脂フィルムおよび第3の樹脂フィルムにおいては、第1の樹脂フィルムと同一の材料からなるものを使用してもよいし、異なる材料からなるものを使用してもよい。ただし、熱が加わったときの樹脂フィルムの熱膨張の差により多層積層回路基板の厚さ方向に対する垂直方向のズレを緩和するという観点から、それぞれの樹脂フィルムには異なる熱膨張係数を有するものを用いることが好ましい。
【0029】
また、樹脂フィルムは、長尺状のものを用いることが好ましい。そのような長尺状の樹脂フィルムとしては、たとえば、1〜10000m程度の長さを有するものが好ましく、100〜3000m程度のものがより好ましい。このように長尺状のものを用いることにより、連続加工することができ生産効率を向上させることができる。長尺状の樹脂フィルムの長さが1m未満では、ロール状に巻いた形状のものとして用いることが困難であることから生産効率が低下してしまい、10000mを超えると、後述の下地層の形成において連続加工を妨げられる虞がある。
【0030】
なお、樹脂フィルムが「長尺状のもの」とは上記のような長さを有し、ロール状に巻いた形状のものとして用いるのに適したものをいう。ただし、上記のような長さに満たないものであっても、複数の枚葉の樹脂フィルムを貼り合わせることにより、長尺状のものとして取り扱えるようにしたものも含むものとする。
【0031】
B.導通部
本発明における導通部とは、金属回路50の設計上、樹脂フィルムの表裏の両面の金属回路50の導通が所望される部位に形成されるものであって、樹脂フィルムの表裏を貫通する導通ビアが1つ以上形成されることにより表裏の導通を保障するものである。図3においては1つの導通部に対し1つの導通ビア120を形成したものを示しているが、当該導通部には複数の導通ビアを形成することもできる。このように複数の導通ビアを形成する場合、かかる導通部は、所望の部位に近接連関して形成された複数の導通ビアの全てを含み、その断面積が最小となる円柱状領域を占めることとなる。なお、当該断面積は樹脂フィルム上において直径5μm以上3000μm以下の領域を占めることが好ましい。導通部の直径が5μm未満であると、樹脂フィルムの表裏に形成される金属回路の導通を十分に保障できない場合があり、3000μmを超えると、金属回路の占める面積そのものが過大となり所期の目的に反することとなる。
【0032】
C.導通ビア
また、導通部に形成される導通ビア120は、樹脂フィルムの表裏を貫通するように設けられる孔であり、この導通ビア内に金属回路を形成することにより樹脂フィルムの表裏に形成される金属回路を導通することができる。ここで、導通ビア内に金属回路を形成するとは、導通ビアの内壁面に金属回路を形成することをいい、このように形成される金属回路は、導通ビア内の全体を充填するように形成されていてもよいし、スルホール状に導通ビア内に空洞が残るように形成されていてもよい。
【0033】
また、この導通ビアは、樹脂フィルムの表裏の金属回路の導通を保障するという観点からその内径を大きくすることが好ましい。しかし、その内径を大きくするほど熱が加わったときに導通ビア内の金属回路にかかる圧縮または引張のストレスが集中するため、金属回路の断線が生じやすくなる。したがって、導通ビアの内径は、5μm以上300μm以下であることが好ましく、10μm以上50μm以下であることがより好ましく、15μm以上20μm以下であることがさらに好ましい。導通ビアの内径が5μm未満であると、導通ビアの形成が困難となるとともに、めっき層を形成させるべく電気めっきをする際にめっき液が導通ビア内に浸入しにくくなり、300μmを超えると、上述の理由により導通ビア内の金属回路が断線されやすくなる。
【0034】
また、導通ビア120を形成する個数は、導通部1箇所に対し1〜7個程度を形成することが好ましく、3〜5個程度を形成することがより好ましい。また、導通ビアを8個以上形成すると、導通部の面積が広くなりすぎるという観点、導通ビアの加工時間が長くなりコストが高くなってしまうという観点等から好ましくない。導通ビアの内径と導通部に含まれる導通ビアの個数との関係は、たとえば導通ビアの内径が5μm以上50μm未満の場合1〜7個の導通ビアを形成することが好ましく、導通ビアの内径が50μm以上300μm以下の場合1〜3個の導通ビアを形成することが好ましい。ただし、熱のストレスによる金属回路の断線を避けるという観点からすれば、1つの導通部に対し、上述の範囲内で可能な限り多くの導通ビアを設けることが好ましいことは言うまでもない。
【0035】
<第2ステップ>
本発明の第2ステップは、第1の樹脂フィルム100の表裏の両面と導通ビア120の内壁面とに金属回路50を形成するものである(図4)。これにより第1の樹脂フィルム100の表裏の金属回路50の導通を図ることができる。ここで、この金属回路50の形成は、どのような方法で形成してもよく、たとえば、セミアディティブ法、エッチング法等により形成することができる(以下のGおよびHを参照)。
【0036】
また、この金属回路50は、めっき層140を含み、さらにこのめっき層140と樹脂フィルムとの間に下地層130を含むこともできる。なお、本発明においては導通ビア120内に形成される下地層130およびめっき層140も便宜的に金属回路50と呼ぶものとする。当該金属回路50を構成する下地層130とめっき層140とを以下のD〜Fに説明する。
【0037】
D.下地層
金属回路に含まれる下地層130は、電気の通電が可能なものであって、しかもめっき層140と樹脂フィルムとの密着性を向上させる作用をなすものである。この下地層130は、1層で形成してもよいし、2層以上で形成してもよい。下地層130が2層以上で形成される場合、酸化防止層と下地金属層とを含むことが好ましい。この下地層の厚み(2層以上含む場合にあってはその合計の厚み)は、0.01μm以上1μm以下であることが好ましい。
【0038】
ここで、上記酸化防止層は、Ni、Cr、Ti、Co、Cu、AlおよびAgからなる群より選択された少なくとも1種の金属または該金属を少なくとも1種含む合金もしくは該金属の酸化物または該金属の窒化物により構成することが好ましい。また、その層厚は、0.1〜50nmであることが好ましく、2〜10nmであることがより好ましい。
【0039】
また、上記下地金属層は、上記の酸化防止層上に形成されることが好ましく、Al、Ag、Ni、およびCuからなる群より選択された少なくとも1種の金属または該金属を少なくとも1種含む合金により構成することが好ましい。また、その層厚は、50〜1000nmであることが好ましく、100〜500nmであることがより好ましい。
【0040】
E.めっき層
また、上記のめっき層140は、高い電導性を有する材料で構成される層である。このような材料としては、たとえばAl、Ag、NiおよびCuからなる群より選択された少なくとも1種の金属または該金属を少なくとも1種含む合金を用いることが好ましく、CuまたはCuを含む合金を用いることがより好ましい。
【0041】
また、このようにして形成されるめっき層140の厚みは、2.5μm以上300μm以下であることが好ましく、3μm以上35μm以下であることがより好ましく、3.5μm以上20μm以下であることがさらに好ましい。なお、上述の下地金属層を形成する場合、下地金属層とめっき層140とは同一の材料を用いることが好ましい。
【0042】
F.金属回路
次に、金属回路50を形成する方法を説明する。上述したように、金属回路50を形成する方法としては、たとえばエッチング法、セミアディティブ法等がある。以下のGにおいてエッチング法(図6〜9)による金属回路の形成を説明し、Hにおいてセミアディティブ法(図6、図10〜12)による金属回路の形成を説明する。なお、これらの方法による金属回路の形成ではいずれの方法であっても、下地層形成工程、レジスト形成工程、露光工程、現像工程、活性化工程等の工程を含む。そして、これらのいずれの工程においても、製造コストを抑えることができるという観点、生産性を向上できるという観点、加工時に両端に一定の張力を加えながら連続加工できるため樹脂フィルムにシワが発生しにくいという観点等から、長尺上の樹脂フィルムを用いて連続加工することが好ましい。
【0043】
G.エッチング法
エッチング法による金属回路の形成は、まず、図3の第1の樹脂フィルム100の表面全体(導通ビア120の内壁面を含む)に亘って下地層130を形成する(図6)。そして、この下地層130(下地金属層)の表面を酸系の溶液で活性化させた上で、その下地層130上の全面に亘って電気めっきによりめっき層140を形成する(図7)。その後、このめっき層140の上にさらにレジスト170を塗布し、このレジスト170に所望の金属回路のパターンに対応したマスクを重ね合わせて、UV露光して金属回路に不要な部分171のレジストを現像することにより、その部分を除去し当該部分171のめっき層140を露出する(図8)。そして、レジストが除去された部分171のめっき層140とその下に形成された下地層130とをエッチングすることにより除去する(図9)。一方、レジスト170が除去されていない部分の下に形成されためっき層140および下地層130は、レジスト170によりエッチングされずに残り、当該部分が金属回路50となる。その後、残りのレジスト170を剥離することにより、金属回路50が形成された第1の樹脂フィルム100を得る(図4)。
【0044】
H.セミアディティブ法
セミアディティブ法による金属回路50の形成は、まず、図3の第1の樹脂フィルムに対し、上記と同様の方法により下地層130を形成する(図6)。そして、当該下地層130上にレジスト170を形成する(図示せず)。そして、所望の金属回路のパターンに対応したマスクを重ね合わせ、金属回路を形成する部分172のみをUV露光して現像することによりその部分172のレジストを除去する(図10)。これにより金属回路を形成する部分の下地層130(下地金属層)が露出する。そして、露出した下地層130(下地金属層)の表面を酸系の溶液で活性化し、その部分を電気めっきすることにより、下地層130(下地金属層)上にめっき層140を形成する(図11)。つまり、レジスト170はめっき層140の形成を防止する役割を果たす。その後、上述の現像で除去されなかった部分のレジスト170を剥離する(図12)。次に、めっき層140が形成されていない部分の下地層130をソフトエッチングすることにより除去し、金属回路50が形成された第1の樹脂フィルム100を得る(図4)。
【0045】
以下においては、セミアディティブ法による金属回路の形成を一例にとり(i)〜(viii)に上記の各工程をさらに説明する。
【0046】
(i)下地層形成工程
まず、図3の導通ビア120が形成された第1の樹脂フィルム100の表面(導通ビア120の内壁面を含む)をイオンガンにより前処理した後、第1の樹脂フィルム100の表面(導通ビア120の内壁面を含む)に酸化防止層を形成し、酸化防止層上にさらに下地金属層を形成することにより下地層130を形成することができる(図6)。なお、酸化防止層または下地金属層のいずれか一方もしくは両方は形成されない場合もあり、下地層130自体が形成されない場合もある。
【0047】
このような下地層130は、どのような方法で形成してもよく、たとえば無電解めっき、蒸着、スパッタ、印刷等により形成することができる。ただし、樹脂フィルムの厚みが50μmよりも薄い場合、加工時において樹脂フィルムにシワが生じるという問題を回避するという観点、および加工時に樹脂フィルムの熱膨張を抑制するための冷却装置を備えているという観点等からスパッタにより形成することが好ましい。
【0048】
(ii)レジスト形成工程
上記工程によって、第1の樹脂フィルム100上に形成した下地層130(下地金属層)の表面を酸で洗浄し、下地層130(下地金属層)の表面を活性化させた後レジストを形成する(図示せず)。このレジストは、UVに対して反応性を示すものであればネガティブ型レジストおよびポジティブ型レジストのいずれを用いてもよいが、10μm以上の厚みのレジストを形成する場合、取り扱いが簡便であることからレジストをフィルム化したドライフィルムを貼り合わせる方法により形成することが好ましい。また、10μmよりも薄いレジストを形成する場合、少量のインクで広い面積のレジストを形成できることからレジストインクを塗布する方法により形成することが好ましい。
【0049】
ドライフィルムを貼り合わせる方法は、少量生産に適していることから多品種の製品に対応することができ、しかも貼り合わせ作業の工程も煩雑でないという点で優れているが、製造コストが高くなるという問題を有する。一方、レジストインクを塗布する方法は、大量生産に適しており製造コストを低減することができる点で優れているが、塗布の工程が煩雑になるという問題を有する。以下においては、ドライフィルムを貼り合わせる方法によるレジストの形成を説明する。
【0050】
まず、図6に示される下地層130の形成された第1の樹脂フィルム100をラミネート巻取装置の送出シャフトにセットし、第1の樹脂フィルム100の先端を巻取シャフトにセットした上で、第1の樹脂フィルム100の下地層130上にドライフィルムを貼り付けながら巻取シャフトを回転させて巻き取りを行なう。このようにして第1の樹脂フィルム100にドライフィルムを貼り付けることにより、第1の樹脂フィルム100の下地層130上にレジストが形成される(図示せず)。
【0051】
上述のラミネート時の温度は、30〜150℃であることが好ましく、60〜110℃であることがより好ましい。また、ラミネート時の圧力は、0.3〜5kg/cm2であることが好ましく、2〜3kg/cm2であることがより好ましい。また、ラミネートした樹脂フィルムの巻取時のラインスピードは、0.1〜10m/分であることが好ましく、0.5〜3m/分であることがより好ましい。
【0052】
(iii)露光工程
次に、第1の樹脂フィルム100上に形成したレジスト上に、所望の金属回路50のパターンに対応したマスクを重ね合わせた後、UV露光しマスクで覆われていない部分を感光させる。ここで、マスクで覆われた部分は、次の現像工程で現像されることにより除去され、後述するめっき層形成工程においてめっき層140が形成されて金属回路50となる。
【0053】
このUV露光に用いられる露光装置は、平行光露光装置を用いてもよいし、ダイレクト露光装置を用いてもよい。しかし、微細回路を形成するという観点からは平行光露光装置を用いることが好ましく、樹脂フィルムの収縮に対応して露光する位置を調整することができるという観点からはダイレクト露光装置を用いることが好ましい。
【0054】
(iv)現像工程
次に、上述の露光工程のマスクで覆われた部分172のレジスト170を弱アルカリ溶液により現像して除去する(図10)。現像に用いられる弱アルカリ溶液は、炭酸ソーダまたはアミン系の材料を用いることが好ましく、アミン系の材料を用いる場合、トリエタノールアミンを用いることがより好ましい。また、弱アルカリ溶液のpHは7以上13以下であることが好ましく、8.5以上10.0以下であることがより好ましい。弱アルカリ溶液のpHが7未満であるとレジストが除去されない虞があり、pHが13を超えると、マスクで覆われていない部分のレジスト170も全て剥離されてしまう虞がある。
【0055】
また、弱アルカリ溶液の温度は10〜70℃であることが好ましく、20〜35℃であることがより好ましい。弱アルカリ溶液の温度が10℃未満であるとレジスト170が除去されない虞があり、弱アルカリ溶液の温度が70℃を超えると、UV露光した部分のレジスト170も剥離する虞がある。なお、現像の処理時間はレジストの種類により異なるため一律に規定することはできないが、通常20秒以上300秒以下程度とすることが好ましい。
【0056】
(v)活性化工程
次に、図10において、第1の樹脂フィルム100のレジストが除去された部分172の下地層130(下地金属層)の表面を酸系の溶液で活性化する。これにより、めっき層140と下地層130(下地金属層)との密着不良を防止することができる。ここで、この活性化に用いられる酸系の溶液は、酸性を示すものであればどのようなものでもよいが、低コストで活性化できるという観点から、HCl、H2SO4、過硫酸アンモニウム等を用いることが好ましい。また、酸系の溶液に含まれる酸の濃度は、0.5〜20質量%であることが好ましく、3〜10質量%であることがより好ましい。酸系の溶液の濃度が0.5質量%未満であると、下地層130(下地金属層)の表面が活性化されにくく、20質量%を超えると、下地層130(下地金属層)の表面に異常が発生する虞がある。
【0057】
また、活性化するときの酸系の溶液の温度は10〜70℃であることが好ましく、30〜50℃であることがより好ましい。酸系の溶液の温度を10℃未満にすると下地層130(下地金属層)の活性化に長時間かかる虞があり、酸系の溶液の温度が70℃を超えると環境面での問題が生じる虞がある。また、処理時間は下地層(下地金属層)の表面状態により異なるため一律に規定することはできないが、通常3秒以上300秒以下程度とすることが好ましい。
【0058】
(vi)めっき層形成工程
次に、上記で活性化した下地層130上にめっき層140を形成する(図11)。ここで、めっき層140は、どのような方法で形成してもよく、たとえば無電解めっき、電気めっき、スパッタ、蒸着等により形成することができる。中でも、連続加工時における品質の安定性の観点、コストの低減の観点等から、電気めっきを用いて形成することが好ましい。電気めっきによりめっき層140を形成する場合、電気めっきに用いられるめっき液は、めっき層140を形成する金属を含む溶液であれば酸性の溶液でもアルカリ性の溶液でもよい。ただし、めっき液自体が安定であり、かつ低コストでめっきできるという観点から、めっき液には硫酸銅、ピロリン酸銅等を含むことが好ましい。
【0059】
また、めっき液に酸性の溶液を用いる場合、硫酸を用いることが好ましい。また、硫酸を用いる場合、硫酸の濃度は50〜300g/lであることが好ましく、80〜200g/lであることがより好ましい。また、めっき液に硫酸銅を用いる場合、硫酸銅の濃度は30〜300g/lであることが好ましく、70〜150g/lであることがより好ましい。また、このめっき液の塩素イオン濃度は10〜100ppmであることが好ましく、40〜70ppmであることがより好ましい。
【0060】
また、電気めっきするときの電流密度は、0.1〜10A/dm2であることが好ましく、0.5〜4A/dm2であることがより好ましい。また、電気めっきするときのめっき液の温度は20〜60℃が好ましく、30〜40℃がより好ましい。なお、めっき時間についてはめっき層の層厚により異なるため、一律に規定することはできないが、通常600秒以上6000秒以下程度とすることが好ましい。
【0061】
(vii)レジスト剥離工程
次に、上述のめっき層形成工程により金属回路50を形成した後にアルカリ液を用いてレジスト剥離を行なう(図12)。このアルカリ液は、アルカリ性を示す溶液であればどのようなものでもよいが、アルカリ液自体の安定性やアルカリ液のコストの観点から、たとえば水酸化ナトリウム等の無機化合物を含む溶液、アミン系の材料を含む溶液、アルコール系の溶液等を用いることが好ましい。中でも、製造コストの節減を図るという観点から、水酸化ナトリウム含む溶液またはメタノールを含む溶液であることがより好ましい。
【0062】
また、アルカリ液に水酸化ナトリウムを用いる場合、水酸化ナトリウムの濃度は0.1〜50質量%であることが好ましく、1〜10質量%であることがより好ましい。また、レジスト剥離に用いられるアルカリ液の温度は30〜90℃であることが好ましく、50〜70℃であることがより好ましい。なお、レジスト剥離の処理時間は、レジストの剥離状態により異なるため、一律に規定することはできないが、通常20秒以上120秒以下程度とすることが好ましい。
【0063】
(viii)ソフトエッチング工程
次に、下地層130をソフトエッチングすることにより剥離除去して、金属回路50が形成された第1の樹脂フィルム100が得られる(図4)。ソフトエッチングに用いられる薬品は、どのようなものを用いてもよいが、専用のメーカが取り扱うものが好ましく、たとえば過硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、過酸化水素等を用いることが好ましい。ただし、低コストであるという観点から過硫酸アンモニウムを用いることがより好ましい。この過硫酸アンモニウムを用いる場合、過硫酸アンモニウムの濃度は1〜20%であることが好ましく、5〜10%であることがより好ましい。
【0064】
また、下地金属層をソフトエッチングするときの処理温度は、20〜60℃であることが好ましく、30〜40℃であることがより好ましい。なお、このソフトエッチングの剥離にかける時間は、下地金属層の厚みや薬品の濃度および温度により異なるため、一律に規定することはできないが、通常30秒以上200秒以下程度とすることが好ましい。
【0065】
また、下地層130に酸化防止層を含む場合、酸化防止層の剥離に用いられる薬品は、ニッケルクロム剥離液(商品名:NC(日本化学工業株式会社製))を用いることが好ましい。また、この薬品を用いる場合この薬品の濃度は60〜100%であることが好ましい。この薬品の濃度が60%より低いと剥離に時間かかるため好ましくない。
【0066】
また、酸化防止層をソフトエッチングするときの処理温度は、35〜55℃であることが好ましい。なお、このソフトエッチングの剥離にかける時間は酸化防止層の厚みや薬品の濃度および温度により異なるため、一律に規定することはできないが、通常20秒以上300秒以下程度とすることが好ましい。
【0067】
<第3ステップ>
次に、第3ステップは、第2ステップを経ることにより金属回路50が形成された第1の樹脂フィルム100の表裏の一方の面もしくは両面に対し、さらに第2の樹脂フィルム101を積層するものである。ここで、第2の樹脂フィルム101を両面に積層する場合、図5に示すように3層の樹脂フィルムが積層された積層構造となる。
【0068】
この第3ステップは、第1の樹脂フィルムまたは第2の樹脂フィルムに対し粘着剤を塗布することにより、当該粘着剤を介して第1の樹脂フィルム100上に第2の樹脂フィルム101を積層してもよいし、粘着剤層を備えた第2の樹脂フィルムを、当該粘着剤層を介して第1の樹脂フィルム上に積層させてもよい。
【0069】
ここで、第2の樹脂フィルムの積層時における粘着剤または粘着剤層の粘着力は、50g/20mm2以上3000g/20mm2以下とした状態で積層することが好ましい。これにより、第1の樹脂フィルム100と第2の樹脂フィルム101との接合強度を高めることができ、熱の適用時に発生しやすい樹脂フィルム間の多層積層回路基板の厚み方向に対する垂直方向のズレを抑制し、以って金属回路の断線を生じにくくすることができる。しかも、これにより金属回路50を破壊することなく第2の樹脂フィルムを積層できるという優れた効果も奏する。この粘着剤または粘着剤層の粘着力は、200g/20mm2以上2500g/20mm2以下とすることがより好ましく、1000g/20mm2以上2000g/20mm2以下とすることがさらに好ましい。これらの粘着力が50g/20mm2未満であると、第2の樹脂フィルム101の積層後に粘着剤70が第1の樹脂フィルムと第2の樹脂フィルムとの間から漏れ出す虞があり、3000g/20mm2を超えると、回路層200の金属回路50が形成されていない部分に粘着剤70が十分に浸透しないため接着強度が不十分となる。
【0070】
ここで、粘着剤または粘着剤層の粘着力の数値は、プローブタック試験法により測定された値を採用するものとする。具体的には、タッキング試験機(品番:TAC−II型(株式会社レスカ社製))を用いて、本発明の製造方法において粘着剤が塗布された樹脂フィルムの粘着面、または粘着剤層を備えた樹脂フィルムの場合はその粘着剤層に対して、その温度を25℃に設定した上で、断面積が20mm2の円柱状のプローブ(内径は約5.1mm)を500g/cm2の圧力で押し付ける。そして、このプローブを引き抜くときにプローブにかかる応力の変化からこの粘着剤の粘着力を算出する。
【0071】
一方、第2の樹脂フィルム101の積層時の圧力は、0.1〜20kg/cm2であることが好ましく、1〜15kg/cm2であることがより好ましく、2〜10kg/cm2であることがさらに好ましい。
【0072】
さらに、第2の樹脂フィルム101の積層時の温度は、5〜300℃であることが好ましく、10〜150℃であることがより好ましく、20〜60℃であることがさらに好ましい。また、第2の樹脂フィルムの積層時における温度が20〜40℃の時、粘着剤または粘着剤層の粘着力は、50g/20mm2以上3000g/20mm2以下であることが好ましく、100g/20mm2以上2800g/20mm2以下であることがより好ましく、500g/20mm2以上2500g/20mm2以下であることがさらに好ましい。
【0073】
加えて、第2の樹脂フィルム101の積層にかける時間は、1秒以上3時間以下であることが好ましく、1分以上120分以下であることがより好ましく、5分以上90分以下であることがさらに好ましい。
【0074】
以下、第1の樹脂フィルム上に第2の樹脂フィルムを積層する方法をさらに説明すると、たとえば次の(I)〜(III)等の方法を挙げることができる。
【0075】
(I)第1の樹脂フィルム100の金属回路50を形成した面に対し、粘着剤を塗布することにより、当該粘着剤を介して第1の樹脂フィルム上に第2の樹脂フィルムを積層する方法。
【0076】
(II)第2の樹脂フィルム101に粘着剤を塗布することにより、当該粘着剤を介して第1の樹脂フィルム100に第2の樹脂フィルム101を積層する方法。
【0077】
(III)粘着剤層を備えた第2の樹脂フィルムを、当該粘着剤層を介して第1の樹脂フィルムに積層する方法。
【0078】
上記のいずれの方法によっても、図5に示すような3層構造の積層構造を得ることができる。なお、上記の(I)の方法によれば、金属回路50の厚みが厚い場合に金属回路による樹脂フィルムの表面凹凸を少なくすることができるため、より接合強度を高めることができる。
【0079】
このような第2の樹脂フィルム101の積層は、たとえば第1の送出シャフトと第2の送出シャフトと巻取シャフトとを備えたラミネート装置を用いることにより行なわれる。このラミネート装置を用いた場合の手順は、まず、当該ラミネート装置の第1の送出シャフトに第1の樹脂フィルム100をセットするとともに、第2の送出シャフトに第2の樹脂フィルム101をセットする。そして、これらの先端を巻取シャフトにセットする。次に、第1の送出シャフトから第1の樹脂フィルム100を送り出し、第2の送出シャフトから第2の樹脂フィルム101を送り出し、これらを上記の粘着剤または粘着剤層を介して当接させた上で、加熱および加圧して貼り合わせ、回転する巻取シャフトで巻き取ることにより第1の樹脂フィルム100上に第2の樹脂フィルム101を積層する。
【0080】
なお、粘着剤層を備えた第2の樹脂フィルム101を第1の樹脂フィルムに積層する場合、積層後はこの粘着剤層を粘着剤70とみなすものとする。また、第2の樹脂フィルム101の積層時に上記の粘着剤または粘着剤層が第2の樹脂フィルム101と回路層200との間に、接着粘着層(図示せず)として存在する場合もある。
【0081】
<第4ステップ>
第4ステップは、上記の第3ステップにより積層された第2の樹脂フィルム101に対し、上記の第1ステップおよび第2ステップによる操作と同様の操作を実行するものである。第3ステップにおいて第1の樹脂フィルム100の表裏の両面に第2の樹脂フィルム101を積層する場合、第4ステップを行なうことにより、図1に示すような3層の樹脂フィルムと4層の回路層との積層構造を有する多層積層回路基板を作製することができる。
【0082】
ここで、第1ステップによる操作と同様の操作を実行するとは、第2の樹脂フィルム101に対し、導通部を形成するように導通ビア120を形成することをいう(図13)。なお、上述のように回路層200と第2の樹脂フィルム101との間に接着粘着層が存在する場合、導通ビア120は当該接着粘着層を貫通するように形成する。また、第2ステップによる操作と同様の操作を実行するとは、第2の樹脂フィルム101の表面およびその導通ビア120の内壁面に金属回路50を形成することをいう(図1)。
【0083】
本発明は、上述した第1ステップから第4ステップまでの工程を含むことにより、2層または3層の樹脂フィルムを積層する多層積層回路基板の製造方法に関する。これらの各ステップを含むことにより、金属回路の断線が生じにくい多層積層回路基板を生産効率よく製造することができる。また、本発明は、上記の各ステップに加え、さらに後述する第5ステップと第6ステップとを含むことにより、さらに多層の樹脂フィルムを積層する多層積層回路基板を製造することもできる。以下に第5ステップと第6ステップとを説明する。
【0084】
<第5ステップ>
第5ステップは、上記の第4ステップを経た第2の樹脂フィルムに対し、さらに第3の樹脂フィルムを積層するものである(図示せず)。ここで、第3ステップにおいて第1の樹脂フィルムの表裏のいずれか一方の面上に第2の樹脂フィルムを積層した場合、第3の樹脂フィルムは上記の第2の樹脂フィルムに対して積層することができるとともに第1の樹脂フィルムに対しても積層することができ、もちろんこれらの両方に対して積層することもできる。一方、第3ステップにおいて第1の樹脂フィルムの表裏の両面に第2の樹脂フィルムを積層した場合、第3の樹脂フィルムの積層は上記の第2の樹脂フィルムのいずれか一方に対して行なってもよいし、両方に対して行なうこともできる。
【0085】
これにより、さらに樹脂フィルムを重ね合わせた構造の多層積層回路基板とすることができる。この第3の樹脂フィルムを積層する方法は、第3ステップの第2の樹脂フィルムを積層する方法と同様のいずれの方法を用いることもできる。すなわち、第5ステップは、第2の樹脂フィルムまたは第3の樹脂フィルムに対し粘着剤を塗布することにより、当該粘着剤を介して第2の樹脂フィルム上に第3の樹脂フィルムを積層してもよいし、粘着剤層を備えた第3の樹脂フィルムを、当該粘着剤層を介して第2の樹脂フィルム上に積層させてもよい。このときの粘着剤および粘着剤層の粘着力は上述で示した範囲と同様であることが好ましい。また、第3の樹脂フィルムの積層時に上記の粘着剤または粘着剤層が第3の樹脂フィルムと回路層との間に、接着粘着層(図示せず)として存在する場合もある。
【0086】
<第6ステップ>
第6ステップは、上記の第5ステップにより積層された第3の樹脂フィルムに対し、上述の第1ステップと第2ステップと同様の操作を実行するものである。ここで、第1ステップによる操作と同様の操作を実行するとは、第3の樹脂フィルムに対し、導通部を形成するように導通ビアを形成することをいう(図示せず)。なお、上述のように回路層と第3の樹脂フィルムとの間に接着粘着層が存在する場合、導通ビアは当該接着粘着層を貫通するように形成する。また、第2ステップによる操作と同様の操作を実行するとは、第3の樹脂フィルムの表面およびその導通ビアの内壁面に金属回路50を形成することをいう(図示せず)。そして、この第5ステップと第6ステップとを各1回以上この順に繰り返すことにより、さらに多層の樹脂フィルムを重ね合わせた積層構造を有する多層積層回路基板を製造することができる。これにより、用途に応じた積層構造を有する多層積層回路基板を製造することができる。
【0087】
本発明によれば、さらに多層の樹脂フィルムを積層させた多層積層回路基板を作製する場合でも金属回路の断線が生じにくいという効果が得られる。しかも、樹脂フィルムの積層数が多いほど従来の多層積層回路基板の製造方法と比べて、その生産効率の向上が顕著となる。
【0088】
本発明の製造方法により製造された多層積層回路基板は、たとえば以下のような使用態様がある。
【0089】
<多層積層回路基板の使用態様>
本発明の多層積層回路基板1は、たとえば図14に示されるように、多層積層回路基板の最下面の金属回路50とリジッド基板301とが、接着金属401により貼り付けられる。また、多層積層回路基板の最上面の金属回路50とSi基板302とが、密着金属402により貼り付けられる。本発明の多層積層回路基板は、このような構成として用いることができる。以下、この使用態様における各構成について説明する。
【0090】
<接着金属>
上記の使用態様で用いられる接着金属401は、はんだ、ボンディング、スタットピンおよびバンプのいずれかとして形成されるものであり、これによりリジッド基板301と多層積層回路基板との導通を図ることができる。ここで、接着金属401に用いられる材料は、この種の用途に用いられる従来公知の金属または合金をいずれも用いることができ、たとえば、Ni、Cr、Ti、Co、Cu、AlおよびAgからなる群より選択された少なくとも1種の金属または該金属を少なくとも1種含む合金を用いることができる。
【0091】
<密着金属>
上記の使用態様で用いられる密着金属402は、はんだとして形成されるものであり、これによりSi基板と多層積層回路基板との導通を図ることができる。ここで、密着金属に用いられる材料は、この種の用途に用いられる従来公知の金属または合金をいずれも用いることができ、たとえば、Ni、Cr、Ti、Co、Cu、AlおよびAgからなる群より選択された少なくとも1種の金属または該金属を少なくとも1種含む合金を用いることができる。
【0092】
<Si基板>
上記の使用態様で用いられるSi基板は、Siを主体とする材料からなるものであって、1ppm/℃以上10ppm以下の熱膨張係数を有する材料からなる基板である。なお、Si基板302の代わりにリジッド基板を用いる使用態様も可能である。
【0093】
<リジッド基板>
上記の使用態様で用いられるリジッド基板は、Si基板の熱膨張係数よりも熱膨張係数の高い材料からなる基板をいう。なお、リジッド基板301には銅基板も含まれる。次に、この使用態様における各構成の熱膨張係数の関係を説明する。
【0094】
<熱膨張係数>
たとえば、図14に示されるような使用態様の場合、最上層のSi基板302は熱膨張係数が小さく、最下層のリジッド基板301は熱膨張係数が大きいので、これらの間に積層される樹脂フィルムの熱膨張係数は、Si基板302側の樹脂フィルムほど熱膨張係数が小さく、リジッド基板301側の樹脂フィルムほど熱膨張係数が大きくなるように、樹脂フィルムを選択することが好ましい。
【0095】
より具体的には、Si基板302の近傍に配置される第2の樹脂フィルム101の熱膨張係数は、2ppm/℃以上10ppm/℃以下が好ましく、3ppm/℃以上5ppm/℃以下がより好ましい。熱膨張係数が2ppm/℃未満であると、多層積層回路基板がもろくなり扱いにくく、熱膨張係数が10ppm/℃を超えると、Si基板302の熱膨張係数と第2の樹脂フィルムの熱膨張係数との差が大きくなり、多層積層回路基板に歪みが生じ、導通ビア内の金属回路に断線が生じやすくなる。
【0096】
また、リジッド基板301の近傍に配置される第2の樹脂フィルム101の熱膨張係数は、リジッド基板301の熱膨張係数に近接した数値とすることが好ましい。また、リジッド基板が屈曲している場合には、この屈曲に対応できる第2の樹脂フィルムを用いることが好ましい。また、上記のSi基板またはリジッド基板のいずれか一方もしくは両方に、銅基板を用いる場合、銅基板に近接して配置される第2の樹脂フィルムの熱膨張係数は、銅基板の熱膨張係数(16.8ppm/℃)に近接した数値とすることが好ましく、その熱膨張係数の値は10ppm/℃以上20ppm/℃以下であることが好ましい。その熱膨張係数は、より好ましくは15ppm/℃以上18ppm/℃以下である。
【0097】
<部品または製品>
本発明の製造方法により製造された多層積層回路基板は、各種の部品または製品に用いられる。この製品には、たとえば電気製品、電子製品、半導体製品、アンテナ回路基板、ICカード、太陽電池、自動車またはロボット等を挙げることができる。
【0098】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0099】
<実施例1>
第2ステップの金属回路の形成方法としてエッチング法を採用し、以下の各工程により多層積層回路基板を作製した。
【0100】
<第1ステップ>
まず、第1の樹脂フィルム100として、ロール状に巻かれた長尺状のポリイミドフィルム(長さ50m、厚さ7.5μm、熱膨張係数16.4ppm/℃、商品名:カプトン30H(東レ・デュポン株式会社製))であって、250mm幅でスリット加工されたものを用いた(図2)。そして、この第1の樹脂フィルム100を1つの導通部に対し、UV−YAGレーザ装置により15μmの内径の導通ビア120を1つ形成した(図3)。ここで、UV−YAGレーザ装置のレーザショット回数は9に設定し、巻取張力を5Nにセットして巻き取った。
【0101】
そして、上記で導通ビア120が形成された第1の樹脂フィルム100を洗浄装置にセットし、下地層の形成工程においてピンホールが発生することを抑制するために第1の樹脂フィルム100の表面と導通ビア120の内壁面とを洗浄した。
【0102】
<第2ステップ>
次に、第2ステップにより、上記の第1の樹脂フィルム100の表裏の両面および導通ビア120の内壁面に対し、金属回路50を形成した(図4)。具体的には以下の(i)〜(iv)の工程により行なった。
【0103】
(i)下地層形成工程
上記で表面を洗浄した第1の樹脂フィルム100をスパッタ装置に投入し、真空ポンプにより1×10-3Paの圧力に設定した上で、イオンガンにN2ガスを注入して、それを陽イオン化したものを照射することにより第1の樹脂フィルム100の表面を前処理した。その後、巻取張力を7Nにセットした上で、スパッタリング法によりAr雰囲気下でNiとCrとの合金(NiとCrとの重量比がNi:Cr=80:20)からなる酸化防止層を第1の樹脂フィルム100上に形成し、その上に同じくスパッタリング法によりCuからなる下地金属層を形成することにより下地層130を形成した(図6)。
【0104】
そして、スパッタ装置の真空状態を解除して下地層130が形成された第1の樹脂フィルム100を取り出し、第1の樹脂フィルム100を1m間隔で切断することによりサンプリングを行ない、計50枚の枚葉のフィルムを得た。そして、それらのサンプルに対して集束イオンビーム(FIB:Focused Ion Beam)を照射することにより断面を観察した。その結果、これらのいずれのサンプルも下地層130の厚みは354nm(酸化防止層の厚み:4nm、下地金属層の厚み:350nm)であった。このことから、長尺状の第1の樹脂フィルム100に均一な厚みで下地層130が形成されていることが明らかとなった。
【0105】
(ii)めっき層形成工程
次に、下地層130が均一に形成された第1の樹脂フィルム100(上記でサンプリングを行なわなかったもの)を銅めっき装置にセットし、硫酸により下地層130を活性化させた後に水洗した。その後、めっき液(硫酸200g/l、硫酸銅90g/l、塩素イオン濃度50ppmからなるもの)を充填しためっき浴に当該第1の樹脂フィルム100を浸漬した状態で、1A/dm2の電流密度の電流を流すことにより、下地層130の全面に銅めっきを行なった。そして、このようにして得られた銅めっき層の表面を再度水洗して乾燥させることにより、第1の樹脂フィルム100の下地層130の全面に銅めっき層からなるめっき層140を形成した(図7)。このようにして得られた第1の樹脂フィルム100を1m間隔で切断することによりサンプリングを行ない、計50枚の枚葉のフィルムを得た。そして、それらのサンプルに対してFIBを照射することにより断面を観察した。その結果、これらのいずれのサンプルも下地層130とめっき層140とを含む合計の厚みは18μmであった。上述の通り下地層130の厚みは均一であることから、めっき層140の厚みも均一に形成されていることが明らかとなった。なお、巻取張力を20Nにセットした上でこれらの工程を行なった。
【0106】
(iii)露光工程
次に、上記のようにしてめっき層140を形成した第1の樹脂フィルム100(上記でサンプリングを行なわなかったもの)の表裏の両面に対して、250mm幅のスリット加工されたドライフィルム(商品名:NIT215(ニチゴー・モートン株式会社製))をラミネートし、金属回路のパターンに対応したマスクを重ね合わせた後、それをロール式のダイレクト露光装置にセットして露光を行なった。露光時のレジストの硬化収縮により、第1の樹脂フィルムが裂ける虞があるため、巻取張力を25Nにセットして巻き取った。この第1の樹脂フィルム100を3倍の拡大鏡を用いてシワ、エアー噛み等の外観検査を行なったが、いずれの外観不良も観察されなかった。
【0107】
(iv)現像工程/エッチング工程/レジスト剥離工程
その後、現像とエッチングとレジスト剥離とを連続して行なうことができるロール式のエッチング装置の送出シャフトに露光工程後の第1の樹脂フィルム100をセットして、巻取張力を10Nにセットした上で、現像とエッチング処理(めっき層140と下地層130とを除去する処理)とレジスト剥離とを行ない、図4に示される金属回路50を形成した。エッチング液には塩化銅を用いたが、塩化鉄(II)を用いてもよい。この第1の樹脂フィルム100から複数のサンプリングを行ない、そのサンプルに対し100倍の倍率の顕微鏡を用いて金属回路50の断線、ショート等の検査を行なった。その結果、いずれのサンプルにおいても金属回路50に断線、ショート等の不良は観察されなかった。
【0108】
<第3ステップ>
次に、表裏の両面を同時にラミネートできる真空ラミネート装置に上記の金属回路50を形成した第1の樹脂フィルム100(上記でサンプリングを行なわなかったもの)をセットした。さらに、この第1の樹脂フィルム100の表裏の両面に、粘着力が2000g/mm2の粘着剤70が塗布された第2の樹脂フィルム101をセットし、この真空ラミネート装置を作動させ、巻取張力を20Nにセットした上で、これら3層の樹脂フィルムを同時に巻き取ることにより、金属回路50を形成した第1の樹脂フィルム100の表裏の両面に第2の樹脂フィルム101を積層した。これにより3層の樹脂フィルム100と2層の回路層200とからなる積層体を得た(図5)。ここで、第2の樹脂フィルムには、第1の樹脂フィルムと同様のものを用いた。この積層体の表裏の第2の樹脂フィルム101の全面に対し、シワ、エアー噛み等の検査を行なった。その結果、この積層体の表裏の第2の樹脂フィルム101にシワ、エアー噛み等の不良は観察されなかった。
【0109】
<第4ステップ>
次に、第3ステップにより積層された第2の樹脂フィルム101に対し、上記第1ステップおよび第2ステップと同様の操作を行なった。すなわち、上記で得られた積層体の表裏の第2の樹脂フィルム101に対し、各導通部に導通ビア120を1つずつ形成した(図13)。その後、その積層体の表裏の第2の樹脂フィルム101の表面とその導通ビア120の内壁面とを洗浄した。次に、第1の樹脂フィルム100に対して下地層130を形成したときと同様の方法により、この積層体の表裏の第2の樹脂フィルム101の表面にNi−Crからなる酸化防止層と、Cuからなる下地金属層とを含む下地層130をスパッタリング法により形成した(図15)。なお、図15の導通ビア120内で露出した金属回路50上に形成される下地層130は、便宜上省略している。
【0110】
次に、上記で得られた下地層130を形成した積層体を銅めっき装置にセットして、上述のめっき層形成工程と同一の条件により上記で形成した下地層130の全面にめっき層140を形成した(図16)。その後、この積層体の一部をサンプリングして上記と同様の方法によりFIBを照射して断面を観察したところ、この積層体の表裏の第2の樹脂フィルム101上のめっき層140と下地層130との合計の厚みは、いずれも18μmであることを確認した。
【0111】
次に、上記で得られためっき層を形成した積層体の表裏の第2の樹脂フィルム101に対して、ドライフィルム(商品名:NIT215(ニチゴー・モートン株式会社製))をラミネートし、次にロール式の露光装置にそれをセットして露光を行なった。
【0112】
その後、上記と同様の方法により現像とエッチングとレジスト剥離とを連続して行ない、この積層体の表裏の第2の樹脂フィルム101の表面に金属回路50を形成した(図1)。以上により本発明の多層積層回路基板を作製した。
【0113】
そして、この多層積層回路基板をサンプリングし、このサンプルを100倍の顕微鏡を用いて金属回路の断線、ショート等の検査を行なった。その結果、この多層積層回路基板の金属回路に断線、ショート等の不良は観察されなかった。
【0114】
<実施例2>
実施例1により製造された多層積層回路基板に対して、第1の樹脂フィルムの厚みと第2の樹脂フィルムの厚みとが以下の表1に示すように異なるとともに、各ステップ中の巻取張力を実施例1の巻取張力の1.3倍とし、導通ビアの加工におけるレーザショット回数を実施例1のレーザショット回数の4倍とし、その他は実施例1と同様の方法により多層積層回路基板を作製した。
【0115】
<実施例3>
実施例1により製造された多層積層回路基板に対して、第1の樹脂フィルムの厚みと第2の樹脂フィルムの厚みとが以下の表1に示すように異なるとともに、各ステップ中の巻取張力を実施例1の巻取張力の1.9倍とし、導通ビアの加工におけるレーザショット回数を実施例1のレーザショット回数の7倍とし、その他は実施例1と同様の方法により多層積層回路基板を作製した。
【0116】
<実施例4>
実施例1により製造された多層積層回路基板に対して、第1の樹脂フィルムの厚みと第2の樹脂フィルムの厚みとが以下の表1に示すように異なるとともに、各ステップ中の巻取張力を実施例1の巻取張力の3倍とし、導通ビアの加工におけるレーザショット回数を実施例1のレーザショット回数の14倍とし、その他は実施例1と同様の方法により多層積層回路基板を作製した。
【0117】
<実施例5〜8>
実施例5〜8の多層積層回路基板は、実施例3により製造された多層積層回路基板に対して、第2の樹脂フィルム101の積層時の粘着剤の粘着力が以下の表1に示すように異なることを除き、その他は実施例3と同様の方法により作製した。たとえば、表1中の実施例7は、第2の樹脂フィルムの積層時の粘着剤の粘着力が1250g/20mm2であることを除き、その他は実施例3と同様の方法により作製したことを示す。
【0118】
<実施例9〜12>
実施例9〜12の多層積層回路基板は、実施例3の多層積層回路基板に対して、第2の樹脂フィルム101として粘着剤層を備えた第2の樹脂フィルム101を用い、当該粘着剤層を介して積層することを除き、その他は実施例3と同様の方法により作製した。すなわち、表1中の実施例9は、実施例3で用いた粘着剤に代えて粘着力が70g/20mm2の粘着剤層を備えた第2の樹脂フィルムを当該粘着剤層を介して第1の樹脂フィルム上に積層させることにより積層したことを除き、その他は実施例3と同様の方法により作製したことを示す。
【0119】
<実施例13>
樹脂フィルムの積層数が実施例1〜12と比べて格段に多い多層積層回路基板を製造した。すなわち、実施例1において、第4ステップ終了後に第5ステップを行なうことにより多層積層回路基板の表裏の両面に、さらに第3の樹脂フィルムを積層した。この第3の樹脂フィルムには、第1の樹脂フィルムと同様のものを用いた。その後、第6ステップを行なうことにより第3の樹脂フィルムに導通ビアを形成した上で、各第3の樹脂フィルムの表面および導通ビアの内壁面に金属回路を形成した。この第5ステップと第6ステップとを各10回ずつこの順に繰り返すことにより、23層の樹脂フィルムを積層した多層積層回路基板を作製した。
【0120】
<比較例1>
CCLを用いて従来のビルドアップ工法により多層積層回路基板を製造した。そのCCLの樹脂フィルムの厚みは実施例3と同様とした。また、導通ビアの内径を100μmとし、これに銀ペーストを充填することにより樹脂フィルムを3層積層した多層積層回路基板を得た。
【0121】
<生産性>
実施例1〜12および比較例1の多層積層回路基板の生産性を表2に示した。ここで、生産性は、特定の加工面積(m2)となる多層積層回路基板の製造に要した時間(分)から算出した。この結果、実施例3の生産性が最も優れていた。そこで、この実施例3の多層積層回路基板の生産性を1として、これに対するその他の実施例1、2、4〜12および比較例1の生産性を算出した。
【0122】
表2より明らかな通り、比較例1の製造方法による生産性は、実施例1〜12の製造方法による生産性と比べて極端に低い値である。この理由は、比較例1の多層積層回路基板は、従来のビルドアップ工法により製造したことによるものであることが明らかである。このことから、本発明の多層積層回路基板の製造方法は、従来のビルドアップ工法による製造方法と比べて、生産効率が顕著に優れていることが明らかとなった。
【0123】
<導通検査>
実施例1〜13および比較例1の多層積層回路基板の金属回路は、およそ200個の導通部(実施例13はおよそ1520個の導通部)が設けられている。そして、そのうちのいずれか1箇所の導通部の金属回路に断線が生じれば、導通の異常が計測されるように設計した。そして、これらの多層積層回路基板を作製した段階で、多層積層回路基板の導通を確認した。その結果、これらのいずれの多層積層回路基板の金属回路にも導通に異常はなかった。このことから多層積層回路基板を作製した段階においては、いずれの多層積層回路基板の金属回路も断線していないことが明らかとなった。
【0124】
<温度変化サイクル試験>
実施例1〜13および比較例1の多層積層回路基板に対し、サイクル試験機(型式:TSA−41L−A(ESPEC株式会社製))を用いて、2つの異なる設定温度を一定時間間隔で交互に繰り返して保持する温度変化サイクル試験を行なった。具体的には、−40℃で30分間保持した後、120℃で30分間保持することを1サイクルとし、500サイクルごとに導通検査を行なった。そして、回路内に含まれている複数の導通部のうち、1箇所でも導通不良が起きた時点でサイクル試験を終了することとし、この試験を2000サイクルまで行なった。
【0125】
その結果、表2に示されるように実施例1〜13の多層積層回路基板は、2000サイクル終了時においても導通不良は認められなかった。これに対し、比較例1の多層積層回路基板は、500サイクル終了時に導通不良が確認された。上記の結果から、実施例1〜13の多層積層回路基板は、比較例1の多層積層回路基板に比べて、熱が加わったときの金属回路の断線が格段に生じにくいことが明らかとなった。この理由は、比較例1の多層積層回路基板は、従来のビルドアップ工法により製造したことによるものである。このことから、本発明の多層積層回路基板の製造方法は、従来のビルドアップ工法による製造方法と比べて、熱が加わったときの金属回路の断線が格段に生じにくいことが明らかとなった。
【0126】
【表1】
【0127】
【表2】
【0128】
以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
【0129】
今回開示された実施の形態および実施例は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0130】
本発明によれば、生産効率がよく、しかも金属回路の断線が生じにくい多層積層回路基板の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0131】
【図1】本発明により製造される多層積層回路基板の一例を示す模式的な断面図である。
【図2】第1の樹脂フィルムの一例を示す模式的な断面図である。
【図3】導通ビアを形成した後の第1の樹脂フィルムの一例を示す模式的な断面図である。
【図4】金属回路を形成した後の第1の樹脂フィルムの一例を示す模式的な断面図である。
【図5】金属回路を形成した第1の樹脂フィルムの表裏の両面に、第2の樹脂フィルムを積層させた状態を示す模式的な断面図である。
【図6】第1の樹脂フィルム上に下地層を形成した後の状態を示す模式的な断面図である。
【図7】第1の樹脂フィルムの下地層上の全面にめっき層を形成した後の状態を示す模式的な断面図である。
【図8】第1の樹脂フィルムの全面に形成されためっき層上にレジストを形成した後の状態を示す模式的な断面図である。
【図9】第1の樹脂フィルムのめっき層と下地層とをエッチングした後の状態を示す模式的な断面図である。
【図10】第1の樹脂フィルムの下地層上にレジストを形成した後の状態を示す模式的な断面図である。
【図11】第1の樹脂フィルムの下地層上であって、レジストを形成していない部分にめっき層を形成した後の状態を示す模式的な断面図である。
【図12】第1の樹脂フィルム上のレジストを剥離した後の状態を示す模式的な断面図である。
【図13】樹脂フィルムを3層積層した積層体の表裏の第2の樹脂フィルムに導通ビアを形成した後の状態を示す模式的な断面図である。
【図14】本発明により製造される多層積層回路基板の使用態様の一例を示す模式的な断面図である。
【図15】樹脂フィルムを3層積層した積層体の表裏の第2の樹脂フィルムの表面とその導通ビアの内壁面とに、下地層を形成した後の状態を示す模式的な断面図である。
【図16】樹脂フィルムを3層積層した積層体の表裏の第2の樹脂フィルム上に、めっき層を形成した後の状態を示す模式的な断面図である。
【符号の説明】
【0132】
1 多層積層回路基板、50 金属回路、70 粘着剤、100 第1の樹脂フィルム、101 第2の樹脂フィルム、120 導通ビア、130 下地層、140 めっき層、170 レジスト、171,172 部分、200 回路層、301 リジッド基板、302 Si基板、401 接着金属、402 密着金属。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の樹脂フィルムに対し、該第1の樹脂フィルムの表裏を貫通する導通ビアを形成する第1ステップと、
前記第1の樹脂フィルムの表裏の両面と前記導通ビアの内壁面とに対し、金属回路を形成する第2ステップと、
前記金属回路を形成した前記第1の樹脂フィルムの表裏の一方の面もしくは両面に対し、さらに第2の樹脂フィルムを積層する第3ステップと、
前記第3ステップにより積層された前記第2の樹脂フィルムに対し、前記第1ステップおよび前記第2ステップによる操作と同様の操作を実行する第4ステップと
を含む、多層積層回路基板の製造方法。
【請求項2】
前記第4ステップの後、
前記第4ステップを経た前記第2の樹脂フィルムに対し、第3の樹脂フィルムを積層する第5ステップと、
前記第5ステップにより積層された前記第3の樹脂フィルムに対し、前記第1ステップおよび前記第2ステップによる操作と同様の操作を実行する第6ステップと
を各1回以上この順に繰り返す、請求項1に記載の多層積層回路基板の製造方法。
【請求項3】
前記第3ステップは、前記第1の樹脂フィルムまたは前記第2の樹脂フィルムに対し粘着剤を塗布することにより、該粘着剤を介して前記第1の樹脂フィルム上に前記第2の樹脂フィルムを積層するものであって、
前記粘着剤の粘着力を50g/20mm2以上3000g/20mm2以下とした状態で、前記積層を行なう、請求項1または2に記載の多層積層回路基板の製造方法。
【請求項4】
前記第5ステップは、前記第2の樹脂フィルムまたは前記第3の樹脂フィルムに対し粘着剤を塗布することにより、該粘着剤を介して前記第2の樹脂フィルム上に前記第3の樹脂フィルムを積層するものであって、
前記粘着剤の粘着力を50g/20mm2以上3000g/20mm2以下とした状態で、前記積層を行なう、請求項2または3に記載の多層積層回路基板の製造方法。
【請求項5】
前記第3ステップは、粘着剤層を備えた前記第2の樹脂フィルムを、該粘着剤層を介して前記第1の樹脂フィルム上に積層させるものであって、
前記粘着剤層の粘着力を50g/20mm2以上3000g/20mm2以下とした状態で、前記積層を行なう、請求項1または2に記載の多層積層回路基板の製造方法。
【請求項6】
前記第5ステップは、粘着剤層を備えた前記第3の樹脂フィルムを、該粘着剤層を介して前記第2の樹脂フィルム上に積層させるものであって、
前記粘着剤層の粘着力を50g/20mm2以上3000g/20mm2以下とした状態で、前記積層を行なう、請求項2、3または5に記載の多層積層回路基板の製造方法。
【請求項7】
前記各樹脂フィルムは、長尺状のものである、請求項1〜6のいずれかに記載の多層積層回路基板の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法により製造される多層積層回路基板を用いる部品または製品。
【請求項9】
前記製品は、電気製品、電子製品、半導体製品、アンテナ回路基板、ICカード、太陽電池、自動車またはロボットのいずれかである、請求項8に記載の製品。
【請求項1】
第1の樹脂フィルムに対し、該第1の樹脂フィルムの表裏を貫通する導通ビアを形成する第1ステップと、
前記第1の樹脂フィルムの表裏の両面と前記導通ビアの内壁面とに対し、金属回路を形成する第2ステップと、
前記金属回路を形成した前記第1の樹脂フィルムの表裏の一方の面もしくは両面に対し、さらに第2の樹脂フィルムを積層する第3ステップと、
前記第3ステップにより積層された前記第2の樹脂フィルムに対し、前記第1ステップおよび前記第2ステップによる操作と同様の操作を実行する第4ステップと
を含む、多層積層回路基板の製造方法。
【請求項2】
前記第4ステップの後、
前記第4ステップを経た前記第2の樹脂フィルムに対し、第3の樹脂フィルムを積層する第5ステップと、
前記第5ステップにより積層された前記第3の樹脂フィルムに対し、前記第1ステップおよび前記第2ステップによる操作と同様の操作を実行する第6ステップと
を各1回以上この順に繰り返す、請求項1に記載の多層積層回路基板の製造方法。
【請求項3】
前記第3ステップは、前記第1の樹脂フィルムまたは前記第2の樹脂フィルムに対し粘着剤を塗布することにより、該粘着剤を介して前記第1の樹脂フィルム上に前記第2の樹脂フィルムを積層するものであって、
前記粘着剤の粘着力を50g/20mm2以上3000g/20mm2以下とした状態で、前記積層を行なう、請求項1または2に記載の多層積層回路基板の製造方法。
【請求項4】
前記第5ステップは、前記第2の樹脂フィルムまたは前記第3の樹脂フィルムに対し粘着剤を塗布することにより、該粘着剤を介して前記第2の樹脂フィルム上に前記第3の樹脂フィルムを積層するものであって、
前記粘着剤の粘着力を50g/20mm2以上3000g/20mm2以下とした状態で、前記積層を行なう、請求項2または3に記載の多層積層回路基板の製造方法。
【請求項5】
前記第3ステップは、粘着剤層を備えた前記第2の樹脂フィルムを、該粘着剤層を介して前記第1の樹脂フィルム上に積層させるものであって、
前記粘着剤層の粘着力を50g/20mm2以上3000g/20mm2以下とした状態で、前記積層を行なう、請求項1または2に記載の多層積層回路基板の製造方法。
【請求項6】
前記第5ステップは、粘着剤層を備えた前記第3の樹脂フィルムを、該粘着剤層を介して前記第2の樹脂フィルム上に積層させるものであって、
前記粘着剤層の粘着力を50g/20mm2以上3000g/20mm2以下とした状態で、前記積層を行なう、請求項2、3または5に記載の多層積層回路基板の製造方法。
【請求項7】
前記各樹脂フィルムは、長尺状のものである、請求項1〜6のいずれかに記載の多層積層回路基板の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法により製造される多層積層回路基板を用いる部品または製品。
【請求項9】
前記製品は、電気製品、電子製品、半導体製品、アンテナ回路基板、ICカード、太陽電池、自動車またはロボットのいずれかである、請求項8に記載の製品。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2010−62372(P2010−62372A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−227038(P2008−227038)
【出願日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【出願人】(500356038)FCM株式会社 (10)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【出願人】(500356038)FCM株式会社 (10)
【Fターム(参考)】
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