説明

多方向入力スイッチ

【課題】 操作レバーに遊びを持たせて操作性の向上及び故障率の低下を図ることができ、また、操作レバーに剛性を有する高価な部材を用いる必要がなく、さらに、コンパクト化・小型化を実現することが可能な多方向入力スイッチを提供することにある。
【解決手段】 多方向入力スイッチ1において、操作レバー(シャフト15及びシャフト筒23)が、固定スイッチ(第2ブッシュ35)を押圧する押圧用操作レバー(アーム30)と、その押圧用操作レバーを動作させる動作用操作レバーと、に分割されており、押圧用操作レバー及び動作用操作レバーは、それぞれ異なる支点(Y点及びZ点)で動作することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オーディオ機器,ゲーム機器,カーナビゲーションシステム等で用いられる多方向入力スイッチに関するものであって、特に、その操作性等を向上させるものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、いわゆるジョイスティックコントローラと呼ばれる装置がある。ジョイスティックコントローラは、オーディオ機器やゲーム機器の入力装置として,カーナビゲーションシステムのコントローラとして,又は産業用ラジコンの送信機としてなど、様々なところで広く用いられている。
【0003】
ジョイスティックコントローラの操作機構は、例えば図6に示すような機構となっている(例えば特許文献1参照)。図6において、プリント基板101上に、90°等配で4箇所の接点スイッチ部102を有するゴム接点スイッチシート103が載置されている。接点スイッチ部102の上面には円板状の連動操作体105が設けられ、その連動操作体105の中心より上方には突出状にガイド軸106が設けられている。ガイド軸106は、上下に摺動可能であって、上端部が半球状に形成されている。また、カバーケース107にはレバー挿通穴107aが形成され、そのレバー挿通穴107aをシャフト108が貫通している。
【0004】
ここで、シャフト108には、水平方向に延出され、ガイド軸106を押圧するアーム部109が一体的に成形されている。シャフト108とアーム部109とは、図6中のX点を支点として一体的に動作し、シャフト108が図中の左方に傾斜すると、アーム部109は左方に傾斜して左側のガイド軸106を押圧し、シャフト108が図中の右方に傾斜すると、アーム部109は右方に傾斜して右側のガイド軸106を押圧するようになっている。なお、一度に押圧するガイド軸106の数は、1個であったり2個であったりする。
【0005】
このように、従来からのジョイスティックコントローラは、図6中のX点を支点として、アーム部109がシャフト108の傾斜動作と一体的になって動作し、シャフト108の先端に取り付けられた指接触部110に加えた力がそのままアーム部109に伝達され、ガイド軸106をダイレクトに押圧するような操作機構となっている。
【0006】
【特許文献1】実開平7−5234号公報(図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来からのジョイスティックコントローラでは、以下のような様々な問題が生ずる。
【0008】
まず、上述のとおり、固定スイッチ(図6でいえばガイド軸106)をダイレクトに押圧するものであるため、操作レバー(図6でいえばシャフト108)の微量の動きに対して固定スイッチが反応してしまう。このため、操作レバーに遊びをもたせて、操作者が意図しない固定スイッチのオンオフを防ぎ、操作性を向上させたり故障率を下げたりすることができない。
【0009】
また、従来のジョイスティックコントローラでは、図6中のX点を支点として、固定スイッチを押圧する部材(図6でいえばアーム部109)が操作レバーの傾斜動作と一体的になって動作することから、固定スイッチを確実に押圧しようとして、操作レバーに大きな力が加わる可能性がある。そして、このような場合に操作レバーが破壊されるのを防ぐため、例えばダイキャストなど、十分な剛性を有する部材を操作レバーとして使用する必要がある。従って、十分な剛性を有する高価な部材を使用するとなると、製造コスト削減の大きな障壁になる。
【0010】
さらに、従来のジョイスティックコントローラでは、支点が1個(図6中のX点)であるため、固定スイッチの上下方向のストロークを十分に確保するためには、操作レバーと固定スイッチの距離を長くする必要がある。このため、スイッチ基板をある程度大きくしなければならず、コンパクト化・小型化を実現するのが困難である。
【0011】
本発明は、このような点に鑑みてなされたものであり、その目的は、操作レバーに遊びを持たせて操作性の向上及び故障率の低下を図ることができ、また、操作レバーに剛性を有する高価な部材を用いる必要がなく、さらに、コンパクト化・小型化を実現することが可能な多方向入力スイッチを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
以上のような課題を解決するために、本発明は、多方向入力スイッチにおいて、操作レバーが、固定スイッチを押圧する押圧用操作レバーと、その押圧用操作レバーを動作させる動作用操作レバーと、に分割されており、押圧用操作レバー及び動作用操作レバーは、それぞれ異なる支点で動作することを特徴とする。
【0013】
より具体的には、以下のものを提供する。
【0014】
(1) 複数の固定スイッチと、前記複数の固定スイッチの中央付近に支持された操作レバーと、を有し、前記操作レバーの傾斜に伴って前記固定スイッチを選択的に押圧する多方向入力スイッチにおいて、前記操作レバーは、前記複数の固定スイッチを押圧する押圧用操作レバーと、前記押圧用操作レバーを動作させる動作用操作レバーと、を備え、前記押圧用操作レバーと前記動作用操作レバーとは、それぞれ異なる支点で動作することを特徴とする多方向入力スイッチ。
【0015】
本発明によれば、例えば上下左右4箇所の複数の固定スイッチと、それら複数の固定スイッチの中央付近に支持された操作レバーと、を有し、操作レバーの傾斜に伴って固定スイッチを選択的に(例えば操作レバーを左上に傾斜すると、左の固定スイッチ及び上の固定スイッチとを選択して)押圧する多方向入力スイッチにおいて、操作レバーは、複数の固定スイッチを押圧する押圧用操作レバーと、その押圧用操作レバーを動作させる動作用操作レバーとを備えており、両者はそれぞれ異なる支点で動作することとしたから、上述した様々な問題を解決することができる。
【0016】
すなわち、本発明に係る多方向入力スイッチは、例えば親指で前に押し出して傾斜動作させるなど、実際に力を与える動作用操作レバーと、固定スイッチを押圧する押圧用操作レバーと、に分割された操作レバーを有するものである。従って、例えば動作用操作レバーのところに遊び(ガタ)をもたせておくことで(動作用操作レバーをわずかに傾斜動作させても、押圧用操作レバーは固定スイッチを押圧しないようにすることで)、操作性を向上させることができる。また、手ぶれ(指ぶれ)による意図しない固定スイッチのON操作を防止することができ、結果として故障率を下げることができる。
【0017】
また、従来のジョイスティックコントローラのように、押圧用操作レバーと動作用操作レバーとが一体的になって動作するのではなく、両者が別々の支点で動作することから、動作用操作レバーに加えた力が押圧用操作レバーに伝わるまでに分散され、押圧用操作レバーとして剛性を有する高価な部材を用いる必要がなくなる。従って、製造コストの削減に寄与することができる。なお、押圧用操作レバーと動作用操作レバーとを別々の支点で動作させることによって、動作用操作レバーに加わる力も分散されることから、押圧用操作レバーだけでなく、動作用操作レバーとして剛性を有する高価な部材を用いる必要もなくなり、ひいては更なる製造コスト削減に寄与することができる。
【0018】
さらに、本発明に係る多方向入力スイッチは、押圧用操作レバーと動作用操作レバーとが別々の支点で動作することから、押圧用操作レバーの支点は固定したまま動作用操作レバーの支点のみを動かす、といったことも容易となり、動作用操作レバーの支点を適切な位置に調整することによって、操作レバーと固定スイッチとの半径方向への距離が短くても、固定スイッチの上下方向のストロークを十分に確保することができる。従って、スイッチ基板の面積を小さくすることができ、ひいてはコンパクト化及び小型化した多方向入力スイッチを実現することができる。
【0019】
ここで、「複数の固定スイッチ」の数・種類の如何は問わない。例えば、上下方向のみの2個の固定スイッチであってもよいし、上下左右方向の4個の固定スイッチであってもよい。また、メーク接点を有しており押圧によって閉塞する固定スイッチであってもよいし、ブレーク接点を有しており押圧によって開放する固定スイッチであってもよいし、切り替え接点を有しており押圧によって回路系統が切り替わる固定スイッチであってもよい。さらに、本明細書における「固定スイッチ」はマイクロスイッチをも含む概念である。
【0020】
また、「押圧用操作レバーと動作用操作レバーとはそれぞれ異なる支点で動作する」とは、例えば、押圧用操作レバーのてこ支点と、動作用操作レバーのてこ支点とが異なることが挙げられる。すなわち、押圧用操作レバーと動作用操作レバーが一体となって傾斜動作するのではなく、例えば、両者の傾斜動作方向が異なっていたり、両者の傾斜動作量が異なっていたりする。
【0021】
(2) 前記動作用操作レバーの支点と、当該支点を支持する支持部材との間には、所定間隔を有する空隙領域が形成されていることを特徴とする(1)記載の多方向入力スイッチ。
【0022】
本発明によれば、動作用操作レバーの支点と、その支点を支持する支持部材との間には、所定間隔を有する空隙領域が形成されていることとしたから、その空隙領域が動作用操作レバーの遊びとなり、動作用操作レバーを多少傾斜させただけではスイッチが頻繁にオンオフしないため、スイッチの耐久性を向上させることができる。また、動作用操作レバーの遊びがあることで、操作者が意図しないスイッチのオンオフを防ぐこともでき、操作性の向上を図ることができる。
【0023】
なお、「空隙領域」の間隔は、適宜変更することができる。例えば、本発明に係る多方向入力スイッチを、揺れ・振動のある乗り物に取り付けられた機器に搭載する場合には、この空隙領域の間隔を十分大きくしておくのが好ましい。一方で、本発明に係る多方向入力スイッチを、家庭用ゲーム機器や家庭用オーディオ機器などに搭載する場合には、手ぶれ(指ぶれ)が少ないことから、この空隙領域の間隔を小さくしておくとよい。
【0024】
また、本発明は、「空隙領域」に所定の部材を詰めることを排除する趣旨ではない。例えば、「空隙領域」にゴムやプラスチック等の弾性部材を詰めることも可能である。
【0025】
(3) 前記動作用操作レバーは、凸の球状面をなす動力伝達部を有し、前記押圧用操作レバーには、前記動力伝達部に摺接し、凹の球状面をなす摺接面が形成され、前記押圧用操作レバーは、前記動力伝達部が前記摺接面の上を摺動することによって傾斜動作することを特徴とする(1)又は(2)記載の多方向入力スイッチ。
【0026】
本発明によれば、上述した動作用操作レバーは、凸の球状面をなす動力伝達部を有している一方で、押圧用操作レバーには、その動力伝達部に摺接し、凹の球状面をなす摺接面が形成されており、動力伝達部が摺接面の上を摺動することによって押圧用操作レバーが傾斜動作することとしたので、動作用操作レバーに加わった力を押圧用操作レバーにスムーズに伝達することができるとともに、動作用操作レバーに加わる力を分散することができる。また、動力伝達部が摺接面の上を摺動することによって押圧用操作レバーが傾斜動作することで、動作用操作レバーが360°どの方向に傾斜した場合であっても、押圧用操作レバーに適切な力を加えることができ、操作性を向上させることができる。
【0027】
(4) 前記複数の固定スイッチは、電気的接点と、当該電気的接点を閉塞するブッシュと、を備え、前記押圧用操作レバーは、前記ブッシュを押圧することを特徴とする(1)から(3)のいずれか記載の多方向入力スイッチ。
【0028】
本発明によれば、上述した複数の固定スイッチは、閉塞することによってONする電気的接点(メーク接点)と、その電気的接点(メーク接点)を閉塞するブッシュと、を備えており、押圧用操作レバーによってブッシュが押圧されることとしたから、ブッシュを介して固定スイッチがONされるようになる。
【0029】
すなわち、押圧用操作レバーが直接メーク接点を閉塞するのではなく、押圧用操作レバーがブッシュを押圧し、変位したブッシュがメーク接点を閉塞する、という構成にすることで、ブッシュによって押圧用操作レバーの傾斜動作を垂直動作に変換することが可能となり、このようにすることで、押圧用操作レバーの傾斜動作によりメーク接点を閉塞する場合に比べ、メーク接点の閉塞動作をより確実に行うことができる。また、ブッシュにも変位方向の遊びをもたせることで、動作用操作レバーの遊びと併せて詳細な遊び量の調節が可能となる。
【0030】
(5) 前記動作用操作レバーは、前記ブッシュを押圧する方向とは逆向きに付勢する付勢部材によって、中立位置に復帰することを特徴とする(4)記載の多方向入力スイッチ。
【0031】
本発明によれば、上述した動作用操作レバーは、ブッシュを押圧する方向とは逆向きに付勢する付勢部材によって、中立位置に復帰することとしたから、動作用操作レバーと押圧用操作レバーを分割したことに伴って、動作用操作レバーについて中立位置への復帰が不安定になるのを防ぐことができる。なお、「付勢部材」としては、例えばコイルバネ(圧縮バネ)や板バネ、フッ素ゴム,シリコンゴム,ウレタンゴムといったゴムなどが挙げられる。
【0032】
(6) 前記押圧用操作レバーは、樹脂からなることを特徴とする(1)から(5)のいずれか記載の多方向入力スイッチ。
【0033】
本発明によれば、押圧用操作レバーは、樹脂からなることとしたので、製造コストを抑えた上で、多方向入力スイッチの操作性を向上させたり、その故障率を下げたりすることができる。
【発明の効果】
【0034】
以上説明したように、本発明によれば、多方向入力スイッチの操作レバーが押圧用操作レバーと動作用操作レバーとに分割され、両者は異なる支点で動作するので、操作レバーに遊びを持たせて操作者が意図しないスイッチオンを防ぎつつ操作性を向上させたり、固定スイッチの意図しないONを防いで故障率を低下させたりすることができる。また、操作レバーに剛性を有する高価な部材を用いる必要がないので、コスト削減に寄与することもできる。さらに、動作用操作レバーの支点位置を調整することで、操作レバーの傾斜角度を変えることなく、固定スイッチの上下方向へのストロークを大きくできるので、半径方向へのコンパクト化・小型化を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0036】
[外観構成]
図1は、本発明の実施の形態に係る多方向入力スイッチ1の外観構成を示す図である。
【0037】
図1(a)において、多方向入力スイッチ1は、主に、使用者が指などで直接力を加えるグリップ11と、グリップ11の揺動を一定範囲に規制する揺動規制部材12と、グリップ11の揺動方向と垂直に円筒状に延びる外ホルダ17と、外ホルダ17が取り付けられたケース33と、から構成される。
【0038】
図1(b)は、図1(a)に示す多方向入力スイッチ1からグリップ11,揺動規制部材12及び外ホルダ17などを外した外観構成を示す図である。
【0039】
図1(b)において、揺動規制部材12の内部には、シャフト支持部材16が設けられており、その下方には方向ガイドプレート21及び方向ガイドカバー22が設けられている。この方向ガイドプレート21及び方向ガイドカバー22によって、シャフト支持部材16に支持されたシャフト15(図2参照)を8方向に傾斜動作させることが可能になる。詳細については、[機械構造]において後述する。なお、シャフト15(又は、シャフト15と後述するボール28)は、請求項記載の「動作用操作レバー」の一例に相当する。
【0040】
また、方向ガイドカバー22の下方には、支点支持部材25が設けられている。支点支持部材25は、後述するシャフト筒23(図1(c)参照)が傾斜動作する際に、その支点を支持するものである。支点支持部材25の下方からは、水平方向に延びたアーム30(図2参照)の延出部30aが存在している。アーム30の延出部30aは、固定スイッチを押圧する働きを有している。なお、アーム30は、請求項記載の「押圧用操作レバー」の一例に相当する。
【0041】
図1(c)は、図1(b)に示す多方向入力スイッチ1から方向ガイドプレート21,方向ガイドカバー22及び支点支持部材25などを外した外観構成を示す図である。
【0042】
図1(c)において、方向ガイドカバー22の内部には、シャフト筒23と第2コイルバネ26が設けられている。シャフト筒23は、シャフト15(図2参照)に遊嵌されている。第2コイルバネ26は、第2コイルバネ支持部材27によって支持されている。第2コイルバネ支持部材27の下方には、第1コイルバネ部材29及びアーム30が設けられている。第1コイルバネ部材29は、グリップ11を中立位置に復帰させる働きを有する第1コイルバネ24(図2参照)を支持するものである。詳細については、[機械構造]において後述する。
【0043】
[機械構造]
図2は、本発明の実施の形態に係る多方向入力スイッチ1の縦断面図である。また、図3は、本発明の実施の形態に係る多方向入力スイッチ1の分解斜視図である。
【0044】
図2及び図3において、ケース33は、ネジ37によってケース底36と螺嵌されている。ケース33には、先端が平面状に形成された第1ブッシュ34と、先端が球状に形成された4個の第2ブッシュ35が設けられている。第1ブッシュ34は、グリップ11を真下に押下することによってONする固定スイッチであり、第2ブッシュ35は、グリップ11を傾斜動作することによってONする固定スイッチである。なお、図2及び図3では、第1ブッシュ34及び第2ブッシュの下方にあるメーク接点(電気的接点)は省略している。また、ここでは第1ブッシュ34及び第2ブッシュ35を固定スイッチとして考えているが、本発明はこれに限られず、メーク接点などの周辺回路を含むものを固定スイッチと考えてもよい。さらに、第1ブッシュ34は、例えばその下に配設されたスイッチのゴム弾性等によって、復帰動作を行う。
【0045】
ケース33には、アーム30が中心位置を合わせて載置されている。アーム30は、水平方向に延びた4本の延出部30aを有し、4本の延出部30aの底面は、それぞれ4個の第2ブッシュ35の先端と接触している。すなわち、アーム30が特定方向の傾斜動作したときには、その方向にある第2ブッシュ35が押圧されるようになっている。
【0046】
シャフト15の下端には、凸の球状面をなすボール28が設けられている一方で、アーム30の上部には、そのボール28に摺接し、凹の球状面をなす摺接面30bが形成されている。すなわち、シャフト15の下端に設けられたボール28は、摺接面30bの上を摺動可能となっている。また、アーム30の真上には、第1コイルバネ支持部材29が圧入されている。この第1コイルバネ支持部材29は、アーム30と一体になって傾斜動作を行う。なお、凸の球状面をなすボール28は、請求項記載の「動力伝達部」の一例に相当する。また、ここではアーム30側に摺接面30bを形成することとしたが、例えば、ボール28側に摺接面を形成し、アーム30側に凸の球状面をなすボールを設けることも可能である。
【0047】
第2コイルバネ支持部材27が嵌入された第2コイルバネ26の上には、シャフト15に遊嵌されたシャフト筒23が配置されている。
【0048】
第1コイルバネ24は、第2コイルバネ26に挿通された状態で、第1コイルバネ支持部材29によって支持されている。この第1コイルバネ24は、グリップ11が中立位置に復帰させる機能を有する。すなわち、例えばシャフト15及びシャフト筒23が右方へ傾斜動作すると、ボール28が摺接面30bの上を摺動しながらアーム30を左方へ傾斜動作させるとともに、第1コイルバネ24が変形する。その結果、第1コイルバネ24には復元力が働き(元の円筒形状に戻ろうとし)、グリップ11から指(手)を離すと、第1コイルバネ24が円筒形状に戻るとともに、グリップ11が中立位置に復帰する。
【0049】
方向ガイドカバー22は、上面に貫通孔22b(図3参照)を有し、この貫通孔22bからシャフト筒23の上半分の小径部23a(図3参照)を突出させることにより、シャフト筒23の下半分の大径部23b(図3参照)を覆うようにして、支点支持部材25と係合している。シャフト筒23の大径部23bにおける開放端側の外周側は、支点支持部材25の上端に形成された貫通孔25bに挿入され、先端が半球状に形成された貫通孔25bの開口縁の突起部25aに接触している。
【0050】
ここで、突起部25aの先端とシャフト筒23との間に、所定間隔を有する空隙領域を形成することができる。これにより、この空隙領域がシャフト15及びシャフト筒23が傾斜動作する際の遊びとなり、この遊びによって、多少グリップ11を傾斜させただけではスイッチが頻繁にオンオフしないため、スイッチの耐久性を向上させることができる。なお、空隙領域の所定間隔は、多方向入力スイッチ1が使用される環境(例えば、揺れ・振動が多い環境であれば、所定間隔を大きくすればよい)に応じて適宜変更可能である。
【0051】
一方で、シャフト筒23のうち、突起部25aに接触する部分は、シャフト15及びシャフト筒23が傾斜動作する際の支点となる。突起部25aの先端とシャフト筒23との間に上述した空隙領域が形成されているときには、シャフト筒23を傾斜動作させて、シャフト筒23のうち突起部25aと衝突した箇所が支点となる。
【0052】
方向ガイドカバー22の上には、方向ガイドプレート21が載置されており、方向ガイドプレート21を特定の2方向(例えば上下又は左右)にガイドする機能を有する。より具体的には、方向ガイドカバー22の上面には、その特定の二方向に凸部22aが形成されており、この凸部22aに沿って、方向ガイドプレート21の下面に形成された凹部21aが摺動するようになっている。
【0053】
一方で、方向ガイドプレート21は、楕円形状のシャフト挿通孔21bを有しており、シャフト15をシャフト挿通孔21の長軸方向にガイドする機能を有する。従って、方向ガイドプレート21のガイド機能と、方向ガイドカバー22のガイド機能と、の双方の機能が発揮されることで、シャフト15は四方八方(8方向)に傾斜動作することが可能となる。例えば、四方の中間に傾斜動作する場合、シャフト15がシャフト貫通孔21bの長手方向に動作しつつ、方向ガイドプレート21が方向ガイドカバー22の上面を凸部22aに沿って動作する。シャフト筒23の上部には、シャフト筒カバー20が設けられている。
【0054】
内ホルダ19は、方向ガイドカバー22及び支点支持部材25を覆うように取り付けられ、その外側には外ホルダ17がネジ18によって螺嵌されている。また、シャフト支持部材16は、シャフト筒カバー20と係合しており、上面にはシャフト固定プレート14が設けられている。シャフト支持部材16の上面には4個の棒部材16aが突出しており、また、シャフト固定プレート14には4個の固定孔14aが形成されており、4個の棒部材16aが4個の固定孔14aに挿通されることによって、シャフト固定プレート14がシャフト支持部材16に対して相対的に移動するのを防いでいる。シャフト15は、シャフト筒カバー20を貫通し、シャフト固定プレート14に固定されている。
【0055】
シャフト支持部材16には、カバー13が取り付けられており、その上方には、グリップ11が揺動する(傾斜動作する)範囲を一定の範囲内に規制する揺動規制部材12が設けられている。
【0056】
このような機械構造をした多方向入力スイッチ1の傾斜動作について、図4を用いて説明する。
【0057】
[傾斜動作]
図4は、本発明の実施の形態に係る多方向入力スイッチ1の傾斜動作を説明するための縦断面図である。なお、図4(a)は、図2に示すものと同一の縦断面図であって、図4(b)は、グリップ11を図中の右方に傾斜動作させたときの縦断面図である。
【0058】
図4(b)において、親指などでグリップ11を右に傾斜動作させると、シャフト支持部16及びシャフト固定プレート14が右に傾斜動作し、その結果、シャフト固定プレート14に固定されたシャフト15も右に傾斜動作する。
【0059】
ここで、シャフト15に遊嵌されたシャフト筒23と、支点支持部材25の突起部25aとの間には、所定間隔を有する空隙領域が形成されており、シャフト筒23が、その所定間隔の分だけ傾斜動作すると、支点支持部材25の突起部25aと衝突するように構成されている。すなわち、シャフト15及びシャフト筒23が傾斜動作する際に、遊び(ガタ)をもたせている。
【0060】
シャフト筒23は、上述した所定間隔だけ傾斜動作し、支点支持部材25の突起部25aと衝突すると、その衝突点(図4(b)で示すY点)をてこ支点として、右に傾斜動作(回転動作)する(すなわち、Y点より上部のシャフト筒23は右に傾斜動作する一方で、Y点より下部のシャフト筒23は左に傾斜動作する)。その結果、シャフト15の下端に設けられた凸の球状面をなすボール28が左に移動し、この凸の球状面と摺接する凹の球状面(摺接面30b)が形成されたアーム30は、図中の左に傾斜動作する。
【0061】
アーム30が図中の左に傾斜動作すると、アーム30の所定の延出部30a(図4(b)でいう左の延出部30a)が、所定の第2ブッシュ35(図4(b)でいう左の第2ブッシュ35)を押下する。このとき、アーム30は、図4(b)
で示すZ点をてこ支点として、左に傾斜動作(回転動作)する(すなわち、Z点より右のアーム30は上方に移動する一方で、Z点より左のアーム30は下方に移動する)。このように、シャフト筒23が右に傾斜動作する際のてこ支点(Y点)と、アーム30が左に傾斜動作する際のてこ支点(Z点)とは、異なるものとなる。図4(b)でいう左の第2ブッシュ35が押下されると、この第2ブッシュ35に対応する固定スイッチがON状態となる。
【0062】
なお、ここではシャフト筒23が右に傾斜動作することとしたが、仮に、シャフト筒23が左に傾斜動作することとした場合には、シャフト筒23のてこ支点はY'点となり、アーム30のてこ支点はZ'点となる。また、てこ支点となるZ点は、ボール28の摺動に伴って移動する場合がある。
【0063】
また、ここでは左の第2ブッシュ35が押下されることによって固定スイッチがON状態となることとしたが、例えば、図4(b)でいう右の延出部30aの上方に第2ブッシュ35を設け、右の第2ブッシュ35が上方に移動する(押圧される)ことによって、その右の第2ブッシュ35に対応する固定スイッチがON状態となるようにしてもよい。また、ここでは第2ブッシュ35が押圧されることによって固定スイッチがON状態となることとしたが、例えば、第2ブッシュ35が押圧されることによって固定スイッチがOFF状態となるようにしてもよい。
【0064】
以上説明したように、図4(a)→図4(b)に示す傾斜動作を行う多方向入力スイッチ1によれば、シャフト15及びシャフト筒23が傾斜動作する際に遊び(ガタ)をもたせているので、グリップ11が多少揺動したとしても、意図しない固定スイッチのON操作を防止することができ、ひいては操作性を向上させたり故障率を下げたりすることができる。また、図4(b)で示したとおり、本発明は、シャフト15とアーム30とを別々の支点で動作させるものであり、グリップ11に加えた水平方向の力が、直接アーム30に伝わるのではなく、ボール28が摺接面30bを摺動する際などに分散されてアーム30に伝わるものであるため、シャフト15やアーム30として剛性を有する部材を用いる必要がなくなり、コスト削減に寄与することができる。さらに、4個の第2ブッシュ35と、これらの中央付近に支持されたシャフト15との距離が短くても、第2ブッシュ35の上下方向のストロークを十分に確保することができる。この点については、図5を用いて詳述する。
【0065】
図5は、第2ブッシュ35の上下方向のストロークを十分に確保することができる様子を説明するための説明図である。
【0066】
図5(a)において、シャフト15(実質的にはシャフト筒23)の支点(Y点)は、シャフト15の中央付近に位置している。この状態で、シャフト15を距離lだけ右に傾斜動作させると、図5(b)に示すように、アーム30は距離lだけ左に傾斜動作する。
【0067】
図5(c)では、図5(a)と異なり、シャフト筒23をシャフト15の先端付近に配設することによって、シャフト15(実質的にはシャフト筒23)の支点(Y点)が、シャフト15の先端付近になるようにしている。この状態で、シャフト15を図5(a)と同じ距離lだけ右に傾斜動作させると、図5(d)に示すように、アーム30は距離lだけ左に傾斜動作する。
【0068】
ここで、図5(b)と図5(d)とを対比すると、距離lと距離lとでは、距離lの方が大きくなっている。これは、図5(d)に示すY点を、図5(a)に示すY点よりも上方に移動させたからである。このように、シャフト15の支点(Y点)の上下位置を適切な位置に調整することによって、第2ブッシュ35の上下方向のストロークを調節することが可能となる。その結果、スイッチ基板の面積を小さくしても、正常に動作するのに必要な分だけ第2ブッシュ35のストロークを確保することができ、ひいては多方向入力スイッチ1のコンパクト化及び小型化に資することができる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明に係る多方向入力スイッチは、操作性の向上及び故障率の低下を図ることができ、また、安価な部材で構成でき、更には、コンパクト化・小型化を実現することが可能なものとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の実施の形態に係る多方向入力スイッチの外観構成を示す模式図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る多方向入力スイッチの縦断面図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る多方向入力スイッチの分解斜視図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る多方向入力スイッチの傾斜動作を説明するための縦断面図である。
【図5】第2ブッシュの上下方向のストロークを十分に確保することができる様子を説明するための説明図である。
【図6】従来のジョイスティックコントローラの操作機構を説明するための断面図である。
【符号の説明】
【0071】
1 多方向入力スイッチ
11 グリップ
12 揺動規制部材
15 シャフト
23 シャフト筒
24 第1コイルバネ
25 支点支持部材
26 第2コイルバネ
28 ボール
30 アーム
33 ケース
34 第1ブッシュ
35 第2ブッシュ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の固定スイッチと、
前記複数の固定スイッチの中央付近に支持された操作レバーと、を有し、
前記操作レバーの傾斜に伴って前記固定スイッチを選択的に押圧する多方向入力スイッチにおいて、
前記操作レバーは、前記複数の固定スイッチを押圧する押圧用操作レバーと、前記押圧用操作レバーを動作させる動作用操作レバーと、を備え、
前記押圧用操作レバーと前記動作用操作レバーとは、それぞれ異なる支点で動作することを特徴とする多方向入力スイッチ。
【請求項2】
前記動作用操作レバーの支点と、当該支点を支持する支持部材との間には、所定間隔を有する空隙領域が形成されていることを特徴とする請求項1記載の多方向入力スイッチ。
【請求項3】
前記動作用操作レバーは、凸の球状面をなす動力伝達部を有し、
前記押圧用操作レバーには、前記動力伝達部に摺接し、凹の球状面をなす摺接面が形成され、
前記押圧用操作レバーは、前記動力伝達部が前記摺接面の上を摺動することによって傾斜動作することを特徴とする請求項1又は2記載の多方向入力スイッチ。
【請求項4】
前記複数の固定スイッチは、電気的接点と、当該電気的接点を閉塞するブッシュと、を備え、
前記押圧用操作レバーは、前記ブッシュを押圧することを特徴とする請求項1から3のいずれか記載の多方向入力スイッチ。
【請求項5】
前記動作用操作レバーは、前記ブッシュを押圧する方向とは逆向きに付勢する付勢部材によって、中立位置に復帰することを特徴とする請求項4記載の多方向入力スイッチ。
【請求項6】
前記押圧用操作レバーは、樹脂からなることを特徴とする請求項1から5のいずれか記載の多方向入力スイッチ。

【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図1】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−294415(P2006−294415A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−113608(P2005−113608)
【出願日】平成17年4月11日(2005.4.11)
【出願人】(000002233)日本電産サンキョー株式会社 (1,337)
【出願人】(390001236)ナイルス株式会社 (136)
【Fターム(参考)】