説明

多段遠心圧縮機

【課題】多段遠心圧縮機において、回転軸系の危険速度を低下させることなく、圧縮機の効率を向上すること。
【解決手段】多段遠心圧縮機50は、回転軸1と、心板4b、側板3b、及びそれらの間に円形翼列状に配置された羽根2bにより構成され、回転軸1に多段に取り付けられた遠心羽根車5と、遠心羽根車5bの上流に設けられ、流体の流れを半径方向内向きから羽根入口部14に導く環状吸込流路6bと、遠心羽根車5bの下流に設けられたディフユーザ9bと、ディフユーザ9bの下流に設けられたベンド部10b及びベンド部10bの下流に設けられた案内羽根部11bにより構成される戻り流路13aと、を備えて構成されている。環状吸込流路6bの心板側には軸平行部15bが設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多段遠心圧縮機に係り、特に遠心羽根車の上流側に環状吸込流路を有する多段遠心圧縮機に好適なものである。
【背景技術】
【0002】
従来の多段遠心圧縮機としては、特開2006−152994号公報(特許文献1)に示されたものがある。この多段遠心圧縮機においては、前段の戻り流路出口の流れを羽根入口部に導くための環状吸込流路と、遠心羽根車と、遠心羽根車の下流におかれたディフユーザと、ディフユーザ出口の流体を次段に導くための戻り流路とが設けられている。環状吸込流路では、心板側、側板側流路形状を滑らかな曲線で結ぶとともに、環状吸込流路の目玉部(側板側流路半径が最小になる部分)の流路断面積をこの目玉部から羽根入口部の間で流れが減速しないように羽根入口部の流路断面積より大きく設定している。
【0003】
【特許文献1】特開2006−152994号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、吸込流路を滑らかな形状にし、目玉部の流路断面積を羽根入口部の流路断面積より大きく設定するためには、吸込流路心板側最小半径を小さくする必要がある。そうすると、回転軸の直径も小さくせざるを得ず、回転軸系の危険速度が低下することになる。危険速度が低下すると、圧縮機の運転速度を上げることができないと言う問題があった。
【0005】
そこで、危険速度の低下を防ぐために、心板側の最小径を大きくすることが考えられるが、吸込み流路を滑らかな形状にし且つ目玉部の面積を羽根入口部より大きく設定すると、羽根車入口の半径が大きくなる。羽根車の入口半径が大きくなると、入口相対速度も大きくなり、羽根車との摩擦損失や減速損失が大きくなり、圧縮機の効率が低くなると言う問題が生ずる。
【0006】
本発明の目的は、圧縮機の効率を維持しつつ回転軸系の危険速度を低下させることなく、向上できる多段遠心圧縮機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前述の目的を達成するための本発明の第1の態様は、回転軸と、心板、側板、及びそれらの間に円形翼列状に配置された羽根により構成され、前記回転軸に多段に取り付けられた遠心羽根車と、前記遠心羽根車の上流に設けられ、流体の流れを半径方向内向きから羽根入口部に導く環状吸込流路と、前記遠心羽根車の下流に設けられたディフユーザと、前記ディフユーザの下流に設けられたベンド部及び前記ベンド部の下流に設けられた案内羽根部により構成される戻り流路と、を有する多段遠心圧縮機において、前記環状吸込流路の心板側に軸平行部を設けたことにある。
【0008】
係る本発明の第1の態様におけるより好ましい具体的構成例は次の通りである。
(1)前記環状吸込流路の心板側流路形状を前記軸平行部と曲線部とで形成したこと。
(2)前記環状吸込流路の側板側半径が最小となる位置の流路断面積を前記羽根入口部の流路断面積より小さくしたこと。
(3)前記環状吸込流路の側板側半径が最小となる位置の流路断面積が前記羽根入口部の流路断面積の70%〜95%にしたこと。
(4)前記環状吸込流路の側板側半径が最小となる位置の流路平均流速が前記羽根入口部の平均流速の1.45倍〜1.05倍にしたこと。
【0009】
また、本発明の第2の態様は、回転軸と、心板、側板、及びそれらの間に円形翼列状に配置された羽根により構成され、前記回転軸に多段に取り付けられた遠心羽根車と、前記遠心羽根車の上流に設けられ、流体の流れを半径方向内向きから羽根入口部に導く環状吸込流路と、前記遠心羽根車の下流に設けられたディフユーザと、前記ディフユーザの下流に設けられたベンド部及び前記ベンド部の下流に設けられた案内羽根部により構成される戻り流路と、を有する多段遠心圧縮機において、前記環状吸込流路の側板側半径が最小となる位置の流路断面積を前記羽根入口部の流路断面積より小さくしたことにある。
【0010】
係る本発明の第2の態様におけるより好ましい具体的構成例は次の通りである。
(1)前記環状吸込流路の最小断面積が羽根入口部の断面積の70%〜95%にしたこと。
【発明の効果】
【0011】
係る本発明の多段遠心圧縮機によれば、回転軸系の危険速度を低下させることなく、圧縮機の効率を向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の一実施例に係る多段遠心圧縮機を図1から図3を用いて説明する。図1は本実施例の多段遠心圧縮機の要部縦断面図、図2は従来の環状吸込流路形状を有する羽根車断面の流れ解析による速度ベクトル図、図3は図1の環状吸込流路形状を有する羽根車断面の流れ解析による速度ベクトル図である。
【0013】
多段遠心圧縮機50は、回転軸1と、心板4b、側板3b、及びそれらの間に円形翼列状に配置された羽根2bにより構成された遠心羽根車5bと、遠心羽根車5bの上流に設けられ、流体の流れを半径方向内向きから羽根入口部14に導く環状吸込流路6bと、遠心羽根車5bの下流に設けられたディフユーザ9bと、ディフユーザ9bの下流に設けられたベンド部10b及びベンド部10bの下流に設けられた案内羽根部11bにより構成される戻り流路13aと、を備えている。
【0014】
なお、図1では、多段遠心圧縮機50における2段目の遠心羽根車5bを主体に示しており、各構成要素に付いているアルファベットa、b、cは1段目からの順番を示している。以下の説明では、2段目を代表して説明する。
【0015】
回転軸1は、両側を軸受で支持され、駆動源に接続されて高速で回転される。回転軸1には遠心羽根車5b、5cが多段に取り付けられている。遠心羽根車5b、5cは流体を軸方向から吸込んで径方向に吐出する。
【0016】
遠心羽根車5bの両側には、一対の仕切り板12b、17bが設けられている。羽根車5bの半径方向外方には、向き合う一対の仕切り板12b、17bにより構成されたディフユーザ9bが設けられている。ディフユーザ9bの出口側には、仕切り板12bとケーシング8とにより構成されたベンド部10bと、仕切り板12bとケーシング8の仕切り部8bとにより構成された案内羽根部11bとから戻り流路13bが構成されている。案内羽根部11bには、複数の案内羽根が設けられている。
【0017】
前段の戻り流路13aの出口部19aと羽根入口部14bとの間には、前段仕切り板12a、仕切り部8a、心板側スリーブ7b、心板4b、及び側板3bで構成される環状吸込流路6bが設けられている。吸込流路6bの側板側流路表面は滑らかな曲線になっている。環状吸込流路6bの心板側流路表面は、入口側が滑らかな曲線部で構成され、その途中から軸平行部15bで構成され、その軸平行部15bから羽根入口部14の間が滑らかな曲線部で構成されている。
【0018】
また、環状吸込流路6bの目玉部16b(側板側半径が最小となる位置)の流路断面積は、羽根入口部14bの流路断面積より小さく、具体的には羽根入口部14bの流路断面積の70%〜95%程度としてある。この場合、環状吸込流路の目玉部16bの平均流速は羽根入口部14bの平均流速の1.45倍〜1.05倍(1/0.7〜1/0.95)となる。
【0019】
前段戻り流路13aの出口部19aの半径方向内向き流れは、環状吸込流路6bにより羽根入口部14bに導かれ、羽根車5bの羽根2bに吸込まれる。羽根車5bの羽根2bで昇圧された流体は、ディフユーザ9bで減速されて運動エネルギが圧力エネルギに変換された後、戻り流路13bにより半径方向外向き流れから半径方向内向きの流れに変更され、次段環状吸込流路6cに導かれる。次段環状吸込流路6cに導かれた流体は、次段遠心羽根車5cで昇圧されてディフユーザ9cに吐出される。
【0020】
本実施例では、環状吸込流路6bの心板側流路表面に軸平行部15bを設けたので、従来の心板側流路表面を滑らかにした場合よりも、心板側流路表面の最小半径を大きくすることができる。これによって、回転軸系の危険速度を上昇させることができ、圧縮機を高速運転して圧縮能力を高めることができる利点がある。また、軸径を大きくすることができるので多段圧縮機の段数を増やすことが可能となる。
【0021】
さらに、本実施例において、従来の環状吸込流路の心板側流路表面を滑らかにした場合と同じ最小半径にした場合には、羽根入口部の半径を従来例よりも小さくできるので、羽根入口部の相対速度が低下して羽根車損失が減少し、羽根車効率、ひいては圧縮機効率を従来例よりも向上することができる。
【0022】
本実施例では、環状吸込流路6bの心板側流路表面に軸平行部15bを設けているので流体の流れが乱れること、環状吸込流路6bの目玉部16bの流路断面積を羽根入口部14bの流路断面積よりも小さくしているのでこの区間で流れが減速されることから損失が増加する心配がある。
【0023】
そこで、実際に従来形状と本実施例の環状吸込流路形状で粘性流れ解析を実施した。図2には従来の環状吸込流路形状を有する場合、図3には本実施例の環状吸込流路形状を有する場合の、羽根車断面の速度ベクトル分布を示す。本実施例の環状吸込流路形状の速度ベクトルを見ると、従来の環状吸込流路形状の速度ベクトルと同様に大きな乱れは見られず、良好な速度ベクトル分布となっている。
【0024】
また、本実施例の環状吸込流路形状と従来の環状吸込流路形状を有する遠心圧縮機の性能(粘性解析計算値)を比較した結果を図4に示す。図4から明らかなように、両者の効率、断熱ヘッドはほぼ同じになっている。
【0025】
さらには、本実施例では、目玉部16bの流路断面積を羽根入口部14の流路断面積の70%〜95%と小さく設定しているので、従来の滑らかな形状の環状吸込流路の場合や、単に環状吸込流路の心板側流路面に軸平行部を設けた場合よりも、さらに心板側流路表面の最小半径を大きくすることができる。これによって、圧縮機を高速運転できる利点や圧縮機効率向上の利点が増加することになる。
【0026】
なお、目玉部16bの流路断面積を羽根入口部の流路断面積の70%より小さくすると、環状吸込流路側板側流路壁面より流れが剥離して圧縮機性能が低下する。
【0027】
以上、本発明の一実施例について説明したが、曲線部が軸方向平行部のどちらか一方であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施例の多段遠心圧縮機の要部縦断面図である。
【図2】従来の環状吸込流路形状を有する羽根車断面の流れ解析による速度ベクトル図である。
【図3】図1の多段遠心圧縮機の環状吸込流路形状を有する羽根車断面の流れ解析による速度ベクトル図である。
【図4】図1の多段遠心圧縮機の環状吸込流路形状を有する遠心圧縮機と従来形状の環状吸込流路を有する遠心圧縮機の性能予測結果比較図である。
【符号の説明】
【0029】
1…回転軸、2b…羽根、3b…側板、4b…心板、5b…遠心羽根車、5c…次段遠心羽根車、6b…環状吸込流路、6c…次段環状吸込流路、7b…スリーブ、8…ケーシング、8a…前段仕切り部、8b…仕切り部、9b…ディフユーザ、10b…ベンド部、11b…案内羽根、12b…仕切り板、13a…前段戻り流路、13b…戻り流路、14b…羽根入口部、15b…軸平行部、16b…目玉部、17b…仕切り板、19a…出口部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸と、
心板、側板、及びそれらの間に円形翼列状に配置された羽根により構成され、前記回転軸に多段に取り付けられた遠心羽根車と、
前記遠心羽根車の上流に設けられ、流体の流れを半径方向内向きから羽根入口部に導く環状吸込流路と、
前記遠心羽根車の下流に設けられたディフユーザと、
前記ディフユーザの下流に設けられたベンド部及び前記ベンド部の下流に設けられた案内羽根部により構成される戻り流路と、を有する多段遠心圧縮機において、
前記環状吸込流路の心板側に軸平行部を設けたことを特徴とする多段遠心圧縮機。
【請求項2】
請求項1において、前記環状吸込流路の心板側流路形状を前記軸平行部と曲線部とで形成したことを特徴とする多段遠心圧縮機。
【請求項3】
請求項1または2において、前記環状吸込流路の側板側半径が最小となる位置の流路断面積を前記羽根入口部の流路断面積より小さくしたことを特徴とする多段遠心圧縮機。
【請求項4】
請求項3において、前記環状吸込流路の側板側半径が最小となる位置の流路断面積が前記羽根入口部の流路断面積の70%〜95%にしたことを特徴とする多段遠心圧縮機。
【請求項5】
請求項3において、前記環状吸込流路の側板側半径が最小となる位置の流路平均流速が前記羽根入口部の平均流速の1.45倍〜1.05倍にしたことを特徴とする多段遠心圧縮機。
【請求項6】
回転軸と、
心板、側板、及びそれらの間に円形翼列状に配置された羽根により構成され、前記回転軸に多段に取り付けられた遠心羽根車と、
前記遠心羽根車の上流に設けられ、流体の流れを半径方向内向きから羽根入口部に導く環状吸込流路と、
前記遠心羽根車の下流に設けられたディフユーザと、
前記ディフユーザの下流に設けられたベンド部及び前記ベンド部の下流に設けられた案内羽根部により構成される戻り流路と、を有する多段遠心圧縮機において、
前記環状吸込流路の側板側半径が最小となる位置の流路断面積を前記羽根入口部の流路断面積より小さくしたことを特徴とする多段遠心圧縮機。
【請求項7】
請求項6において、前記環状吸込流路の最小断面積が羽根入口部の断面積の70%〜95%にしたことを特徴とする多段遠心圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−280924(P2008−280924A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−125958(P2007−125958)
【出願日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【出願人】(000005452)株式会社日立プラントテクノロジー (1,767)
【Fターム(参考)】