説明

多直列接続された自己消弧型素子のゲート制御方法及びこれを用いた電力変換装置

【課題】 多直列接続された自己消弧型素子に過大な電流が流れた際に、通常のゲート駆動電源以外の電源を使用せず、過電流及び過電圧保護を簡単に且つ確実に行うことのできるゲート制御方法及びこれを用いた電力変換装置を提供する。
【解決手段】 多直列接続された自己消弧型素子11a乃至14cと、この自己消弧型素子夫々の主電極間の電圧を検出する電圧検出手段2と、この自己消弧型素子夫々のゲート端子に任意の電圧を印加するゲート制御部3と、夫々の自己消弧型素子11a乃至14cに過大な電流が流れたことを検出する過電流検出手段34とを備え、前記ゲート制御部3は、前記過電流検出手段34が過電流を検出したとき、オン動作中の前記自己消弧型素子のゲート電圧を低減させるとともに、前記電圧検出手段2の検出値が前記自己消弧型素子の耐電圧以下の所定値以上になったとき、前記自己消弧型素子のゲート電圧を上昇させるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改良された多直列接続された自己消弧型素子のゲート制御方法及びこれを用いた電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高電圧を扱う電力変換装置、例えば電力系統に使用される交流直流変換装置において、従来のサイリスタを多直列した変換器ではなく、例えば、IGBTのような自己消弧型素子を多直列した変換器が使用されるようになってきた。
【0003】
多直列接続された自己消弧型素子のゲート制御方法として、自己消弧型素子に装置の故障時などに過大な電流が流れている際にこの過電流を検出し、オン動作中の自己消弧型素子のゲート電圧を低下させ、過大な電流を低減させるゲート制御方法が考えられる。
【0004】
上記の過電流時の制御方法を使用すると、多直列された自己消弧型素子の飽和電流値のバラツキや制御の動作遅れのバラツキ等により、過電流期間中の各自己消弧型素子に印加される電圧が直列接続された素子間でアンバランスとなり、特定の素子が過電圧によって破損する恐れがあった。これを回避するため、多直列された自己消弧型素子の主電極間電圧を監視し、この値に応じてゲート電圧を変化させる提案も為されている(例えば特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2003−69401号公報(第3−5頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した特許文献1によるゲート制御方法は有効ではあるが、通常の自己消弧型素子のオン動作に必要なゲート電源の他に、より大きい電圧を供給するためのゲート電源が必要となり、その信頼性及び経済性に問題があった。
【0006】
本発明は上記問題を解決するために為されたもので、その目的は、多直列接続された自己消弧型素子に過大な電流が流れた際に、通常のゲート駆動電源以外の電源を使用せず、自己消弧型素子の過電流及び過電圧保護を簡単に且つ確実に行うことのできる多直列接続された自己消弧型素子のゲート制御方法及びこれを用いた電力変換装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の多直列接続された自己消弧型素子のゲート制御方法及びこれを用いた電力変換装置は、多直列接続された自己消弧型素子と、この自己消弧型素子の夫々の主電極間の電圧を検出する電圧検出手段と、この自己消弧型素子の夫々のゲート端子に任意の電圧を印加するゲート制御部と、夫々の前記自己消弧型素子に過大な電流が流れたことを検出する過電流検出手段とを備え、前記ゲート制御部は、前記過電流検出手段が過電流を検出したとき、オン動作中の前記自己消弧型素子のゲート電圧を低減させるとともに、前記電圧検出手段の検出値が前記自己消弧型素子の耐電圧以下の第1の所定値以上になったとき、前記自己消弧型素子のゲート電圧をゲート電圧上昇手段により上昇させるようにしたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、過電流を検出したとき、通常のゲート電圧の範囲でゲートを制御することにより過電圧を抑制することができるので、自己消弧型素子の過電流及び過電圧保護を簡単に且つ確実に行うことのできる多直列接続された自己消弧型素子のゲート制御方法及びこれを用いた電力変換装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明に係る多直列接続された自己消弧型素子のゲート制御方法及びこれを用いた電力変換装置の実施例について、図面を参照して説明する。
【実施例1】
【0010】
まず本発明の実施例1について図1乃至図3を参照して説明する。図1は本発明の実施例1を示す回路構成図である。
【0011】
多直列接続された自己消弧型素子11a、11b、11c、12a、12b、12c、13a、13b、13c、14a、14b及び14cにより単相ブリッジ回路が構成され、交流電源1から給電される単相交流を直流に変換し、直流コンデンサ4に供給している。自己消弧型素子11a乃至14c夫々の主電極間に印加される電圧は電圧検出回路2で検出される。また自己消弧型素子11a乃至14cはゲート制御回路3により制御される。ゲート制御回路3は図示しないゲート駆動信号を入力とし、オン指令の場合は正の電圧を、オフ指令の場合は負の電圧を自己消弧型素子11a乃至14cのゲートに供給する。
【0012】
また、ゲート制御回路3は電圧検出回路2で検出された信号に応じてゲート制御回路3の出力を変化させる。このゲート制御回路3の詳細な動作について以下図2及び図3を参照して説明する。
【0013】
図2は、ゲート制御回路3の内部構成の一例を示す回路構成図である。自己消弧型素子11のゲートには、正側ゲート電源31及び負側ゲート電源32をゲート電源として駆動されるドライブ回路33の出力が供給される。ドライブ回路33には図示しない装置側の制御回路から得られる駆動信号がオン/オフ入力信号として与えられる。
【0014】
電圧検出回路2の出力は過電流判定回路34の入力となっている。この過電流判定回路34は自己消弧型素子11がオンしている状態で、自己消弧型素子11に過電流が流れたことを検出するものである。尚、この過電流検出は、主回路の電流検出による信号を用いるなど他の方法によっても良い。
【0015】
過電流判定回路34で過電流を検出すると、ゲート電圧下降回路35が動作し、駆動信号がオンであってもドライブ回路33への入力、すなわち自己消弧型素子11のゲート電圧を低下させるように動作する。
【0016】
また、電圧検出回路2の出力は過電圧判定回路36にも入力される。過電圧判定回路36で自己消弧型素子11の耐電圧上問題となるようなレベルの過電圧を検出すると、過電圧判定回路36の信号がゲート電圧上昇回路37に与えられる。このときゲート電圧上昇回路37は、前述のようにゲート電圧を下降させた状態であっても、再びもとのゲート電圧まで上昇させるように動作する。
【0017】
以下に上記回路構成における動作の説明を図3を参照して行う。図3は本発明の実施例1に係る多直列接続された自己消弧型素子のゲート制御方法及びこれを用いた電力変換装置の動作説明図である。
【0018】
いま、時刻t0でオン動作中の自己消弧型素子11a、11b及び11cに何らかの原因によって短絡電流が流れ始めたものとする。このとき、自己消弧型素子11aのコレクタ電流(a)及びこの電流と同一である自己消弧型素子11b、11cに流れるコレクタ電流(e)は飽和電流に向け上昇を開始する。
【0019】
今、時刻t1で、自己消弧型素子11aが他の素子より早くコレクターエミッタ間電圧(b)の上昇により過電流判定回路34が動作した場合を考える。これにより、若干の動作遅れのあと、時刻t2で自己消弧型素子11aのゲートーエミッタ間電圧(C)は低減を開始し、自己消弧型素子11aのコレクタ電流(a)及びこの電流と同一である自己消弧型素子11b、11cに流れるコレクタ電流(e)は低減を開始する。この状態において、自己消弧型素子11b、11cのコレクターエミッタ間電圧(e)も過電流検出レベルに達しているのが普通であるが、ここでは自己消弧型素子11b、11cのゲートーエミッタ間電圧(f)に示すように、この過電流検出による電圧低減の動作が遅れた場合を想定する。
【0020】
自己消弧型素子11b、11cのゲートーエミッタ電圧(f)の低減が遅れた状態で、自己消弧型素子11aのコレクターエミッタ間電圧(b)は更に上昇を続け、時刻t3で自己消弧型素子11aの過電圧判定回路36が動作し、自己消弧型素子11aのゲートーエミッタ間電圧(C)は再び上昇を開始する。これにより自己消弧型素子11aのコレクタ電流(a)及びこの電流と同一である自己消弧型素子11b、11cに流れるコレクタ電流(e)は再び上昇するが、自己消弧型素子11aのコレクターエミッタ間電圧(b)は低減する。
【0021】
そして時刻t4で自己消弧型素子11b、11cのゲートーエミッタ間電圧(f)が漸く低減を開始すると、一定の時間後には自己消弧型素子11a、11b及び11cは低減されたゲート電圧によって制限されたコレクタ電流が流れている状態となる。図3には示していないが、この状態で負のゲート電圧を与えて自己消弧型素子11a、11b及び11cをオフすれば、安全な短絡保護動作が可能となる。
【0022】
以上説明したように、本発明によれば、過電流保護のためゲート電圧を低減中の自己消弧型素子が過電圧になったとき、再びゲート電圧を上昇させて過電圧を回避するようにしているので、過電流及び過電圧保護を簡単に且つ確実に行うことのできる多直列接続された自己消弧型素子のゲート制御方法及びこれを用いた電力変換装置を提供することができる。
尚、図1においては、自己消弧型素子であるIGBTを3直列した電圧型の単相ブリッジ回路としているが、他の自己消弧型素子を使用した場合、また直列数が異なる場合であっても良い。また、自己消弧型素子が多直列された他の回路であっても本発明は適用可能である。
【実施例2】
【0023】
図4は、本発明の実施例2に係る多直列接続された自己消弧型素子のゲート制御方法及びこれを用いた電力変換装置のゲート部分の拡大図である。この実施例2の各部について、図2の実施例1に係る多直列接続された自己消弧型素子のゲート制御方法及びこれを用いた電力変換装置の各部と同一部分は同一符号で示し、その説明を省略する。この実施例2が実施例1と異なる点は、ゲート電圧下降回路35に代えて、エミッタ電位下降回路38と、その出力によりエミッタ電位を下降させるためのドライブ回路39を設けた点である。 外部からの駆動信号の基準点をゲート電源の中点とし、過電圧判定回路36が過電圧を検出したとき、エミッタ電位下降回路38と、ドライブ回路39を動作させることによりエミッタ電位をマイナス側に低減する。このようにして自己消弧型素子11のエミッターゲート間電圧を上昇させることが可能となる。
【0024】
この実施例2の構成にすれば、過電流判定によるゲート電圧下降回路35とは独立した回路構成で過電圧判定によるゲート電圧上昇回路39を実現できるため、設計上の自由度を広げることが可能となる。
【0025】
以上の実施例2のエミッタ電位を低下させる方法によっても、自己消弧型素子の過電流及び過電圧保護を簡単に且つ確実に行うことのできる多直列接続された自己消弧型素子のゲート制御方法及びこれを用いた電力変換装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施例1に係る多直列接続された自己消弧型素子のゲート制御方法及びこれを用いた電力変換装置の回路構成図。
【図2】本発明の実施例1に係る多直列接続された自己消弧型素子のゲート制御方法及びこれを用いた電力変換装置のゲート部分の拡大図。
【図3】本発明の実施例1に係る多直列接続された自己消弧型素子のゲート制御方法及びこれを用いた電力変換装置の動作説明図。
【図4】本発明の実施例2に係る多直列接続された自己消弧型素子のゲート制御方法及びこれを用いた電力変換装置のゲート部分の拡大図。
【符号の説明】
【0027】
1 交流電源
2 電圧検出回路
3 ゲート制御回路
4 直流コンデンサ
11、11a、11b、11c、12a、12b、12c、13a、13b、13c、14a、14b、14c 自己消弧型素子
31 正側ゲート電源
32 負側ゲート電源
33 ドライブ回路
34 過電流判定回路
35 ゲート電圧下降回路
36 過電圧判定回路
37 ゲート電圧上昇回路
38 エミッタ電位下降回路
39 ドライブ回路


【特許請求の範囲】
【請求項1】
多直列接続された複数個自己消弧型素子と、
この自己消弧型素子の夫々の主電極間の電圧を検出する電圧検出手段と、
この自己消弧型素子の夫々のゲート端子に任意の電圧を印加するゲート制御部と、
夫々の前記自己消弧型素子に過大な電流が流れたことを検出する過電流検出手段と
を備え、
前記ゲート制御部は、
前記過電流検出手段が過電流を検出したとき、オン動作中の前記自己消弧型素子のゲート電圧を低減させるとともに、
前記電圧検出手段の検出値が前記自己消弧型素子の耐電圧以下の第1の所定値以上になったとき、前記自己消弧型素子のゲート電圧をゲート電圧上昇手段により上昇させるようにしたことを特徴とする多直列接続された自己消弧型素子のゲート制御方法。
【請求項2】
多直列接続された自己消弧型素子と、
この自己消弧型素子の夫々の主電極間の電圧を検出する電圧検出手段と、
この自己消弧型素子の夫々のゲート端子に任意の電圧を印加するゲート制御部と、
夫々の前記自己消弧型素子に過大な電流が流れたことを検出する過電流検出手段と
を備え、
前記ゲート制御部は、
前記過電流検出手段が過電流を検出したとき、オン動作中の前記自己消弧型素子のゲート電圧を低減させるとともに、
前記電圧検出手段の検出値が前記自己消弧型素子の耐電圧以下の第1の所定値以上になったとき、前記自己消弧型素子のゲート電圧をゲート電圧上昇手段により上昇させるようにしたことを特徴とする多直列接続された自己消弧型素子のゲート制御方法を用いた電力変換装置。
【請求項3】
前記過電流検出手段は、前記自己消弧型素子がオン動作中に前記電圧検出手段の検出値が第2の所定値以上になったとき、過電流と判断することを特徴とする請求項1に記載の多直列接続された自己消弧型素子のゲート制御方法。
【請求項4】
前記過電流検出手段は、前記自己消弧型素子がオン動作中に前記電圧検出手段の検出値が第2の所定値以上になったとき、過電流と判断することを特徴とする請求項2に記載の多直列接続された自己消弧型素子のゲート制御方法を用いた電力変換装置。
【請求項5】
前記ゲート電圧上昇手段は、前記自己消弧型素子のエミッタ電位を下降させるようにしたことを特徴とする請求項1に記載の多直列接続された自己消弧型素子のゲート制御方法。
【請求項6】
前記ゲート電圧上昇手段は、前記自己消弧型素子のエミッタ電位を下降させるようにしたことを特徴とする請求項2に記載の多直列接続された自己消弧型素子のゲート制御方法を用いた電力変換装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−94654(P2006−94654A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−278209(P2004−278209)
【出願日】平成16年9月24日(2004.9.24)
【出願人】(501137636)東芝三菱電機産業システム株式会社 (904)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】