説明

多積層量子ドット構造体および製造方法、それを用いた太陽電池素子および発光素子

【課題】工程を増加させる歪補償層を成長させることなく、簡単な構造をとる通常のGaAs層を量子ドット層の中間層として設け、各層の成長速度を従来のものより早くする多積層量子ドット構造体および製造方法を得る。
【解決手段】GaAsバッファ層上にInGaAs量子ドット積層構造体を設けた多積層量子ドット構造体では、前記InGaAs量子ドット積層構造体6は、複数のInGaAs量子ドット4を設けたInGaAs薄膜層3と、そのInGaAs量子ドット4を埋め込むようにInGaAs薄膜層3上に設けたGaAsバッファ層5から構成するInGaAs量子ドット構造体6を任意数層積層して構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体受光・発光素子に関し、特に多積層量子ドット構造体および製造方法、それを用いた太陽電池素子および発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
In(Ga)As量子ドットを用いる半導体受光・発光素子においては、特性向上のため、高密度化が必須である。量子ドットを高密度化する方法としては、面内のドット密度を増加させる方法と、量子ドット層を多積層化する方法とがある。特に太陽電池構造への応用を考える場合には、量子ドットが上下、及び面内方向で整列することが必要である。
【0003】
しかしながら量子ドットを多積層化する方法では、量子ドットは格子不整合系の結晶成長を利用するため、多積層化によって格子歪が結晶中に蓄積することによって転位や欠陥が生じ、特にInAs量子ドットでは、その結晶特性が著しく悪化することが知られている(例えば非特許文献1参照)。
【0004】
InAs量子ドットを多積層化する場合、それぞれの量子ドット間の中間層を40nm程度に厚くすれば、その良好な光学特性を保ったまま多積層化可能であるが、40nmの厚さではドット層間で上下にドットが並ぶことはなく、太陽電池構造に必要な整列構造は得られない。
【0005】
この問題に対する一つの回答として、InAs量子ドット間の中間層GaAsに、N(窒素)などの格子定数の少ない物質を添加し、GaNAs層を中間層とすることで格子歪を緩和し(歪補償層の利用)、多積層構造とするといった方法が提案されている。
しかしながら、Nという別の元素を必要とするため、他の分子線セルを準備する必要があるといった問題点が存在する(例えば非特許文献2参照)。
【0006】
また、高品質な量子ドット構造を成長するためには、その成長速度は0.006ML(分子層)/s(秒)といった極めて遅い成長速度が必要とされてきた(例えば非特許文献3参照)。
その場合、量子ドットを多積層化するためには長い時間が必要となり、例えば100層を積層しようとすると、ドット層だけで12時間の時間を要し、非現実的なものとなる。
【0007】
一方、InAs量子ドット成長の高品質化については、As2を用いることによってその結晶性が向上することを本発明者の共同研究者が提案している(特許文献1、2参照)。しかしながら、必要な太陽電池出力を得ることができる程度に量子ドット層を積層することは、歪補償層無しでは不可能と予想されていた。
さらには、量子ドットを備えた半導体受光・発光素子としては、レーザー用としての開発が優先して行われており、太陽電池としての開発は遅れていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−53322号公報
【特許文献2】特開2007−194378号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】“L. Marti, N. Lopez, E. Antolin, E. Canovas, A. Luque, C. Stanley, C. Farmer, and P. Diaz, Appl. Phys. Lett. 90, (2007)233510.
【非特許文献2】“R. Oshima, T. Hashimoto, H. Shigekawa, and Y. Okada, J. Appl. Phys. 100, (2006) 083110.
【非特許文献3】“K. Yamaguchi, K. Yujobo, and T. Kaizu, Jpn. J. Appl. Phys. 39, (2000) L1245.
【非特許文献4】“T. Sugaya, T. Amano, and K. Komori, J. Appl. Phys. 104, (2008) 083106.
【非特許文献5】“R. Oshima, A. Takata, and Y. Okada, Appl. Phys. Lett. 93, 083111 (2008).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記の問題点に鑑み、工程を増加させる歪補償層を成長させることなく、簡単な構造をとる通常のGaAs層を量子ドット層の中間層として設け、各層の成長速度を従来のものより早くする多積層量子ドット構造体および製造方法を得ることを目的とする。
また、上記多積層量子ドット構造体を用いた太陽電池素子および発光素子を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明では、上記目的を達成するために、基本的に、InGaAs量子ドットを設けたInGaAs薄膜層上に、GaAsバッファ層を設けたInGaAs量子ドット構造体を用いる。このInGaAs量子ドット構造体により、歪補償層無しで高速成長の量子ドット構造体を構成する。InGaAs薄膜層とGaAsバッファ層のInGaAs量子ドット構造体における積層方向の端面は歪み無く平坦にできる。InGaAs量子ドットは、InGaAs薄膜層を形成した後、その上に量子ドットとして成長させる。InGaAs薄膜層とInGaAs量子ドットの成長は連続的に行われ、InGaAsが自己形成的に量子ドットを構成するものである。
更には、上記InGaAs量子ドット構造体を単位として、このInGaAs量子ドット構造体を必要な層数(段数)積層してInGaAs量子ドット積層構造体として、高出力を得るようにする。このInGaAs量子ドット構造体を用いるので、今まで達成することができなかったほどの数の層数積層することができる。
更には、上記InGaAs量子ドット積層構造体をi層とし、このi層を挟んでGaAsのp層およびn層を設けて太陽電池を構成することにより、高出力の太陽電池とすることができる。
【0012】
InGaAsはGaAsに対する格子不整合の割合がInAsに比べて小さいため、歪補償層無しで良好な光学特性を保ったまま多積層化することができる。
また、量子ドットの良好な結晶特性を保ったまま多積層化するためのバッファ層の厚さを薄くすることができる。
具体的には、従来InAs量子ドットの多積層化には40nm以上のバッファ層が必要であったが、本発明のInGaAs系では20nm以下で0nmを超える範囲内の任意の厚さにすることができる。中間層を20nm以下で0nmを超える範囲内の任意の厚さにすることにより、量子ドット構造を成長方向に整列させることもできる。実際に、In組成を0.4としたInGaAs量子ドット層を、20nmの中間層で100層、良好な光学特性を保ったまま成長することに成功した。In組成については、0.3以上で0.5以下の範囲内の任意の値が望ましい。
【0013】
一方0.1ML(分子層)/S(秒)以上で1ML/S以下の範囲内の任意の成長速度でもInGaAs量子ドットを成長することはできる。As分子線としてよく用いられるAs4(即ち、As)分子においても、それを高温で加熱して生成するAs2(即ち、As)分子を用いても、それぞれ前記多積層化は可能である。
しかしながら、As2を用いた方が多積層量子ドット構造体の光学特性は向上する。例えば1ML/Sの成長速度を用いてInGaAs量子ドットを成長した場合、InやGaのIII族原子が十分拡散し、エネルギー的に安定なサイトに取り込まれなければ良好な光学特性は期待できない。特に高速な成長速度においては、それが顕著に必要になる。
As2分子線によりIII族原子の拡散が促進されることは発明者らによって報告されており(非特許文献4参照)、多積層量子ドット構造体においても、高速成長の場合にはAs2分子線によって成長した方が、光学特性は優れている。
【0014】
以上説明した成長速度の大きい積層手段を適用すると、本発明の多積層量子ドット構造体は、InGaAs量子ドットおよびInGaAs薄膜層を0.1ML/s以上で1ML/S以下の範囲内の任意の成長速度で、最高では1ML/Sで多積層量子ドット構造体を成長させるようにすることができる。
さらに、その成長速度の速い多積層量子ドット構造体を用いて太陽電池構造や半導体レーザー構造を構成する。
GaAsバッファ層上にInGaAs量子ドット積層構造体を設けた多積層量子ドット構造体の製造方法であって、
前記InGaAs量子ドット積層構造体は、InGaAs薄膜層を設け、その上に複数のInGaAs量子ドットを成長させ、そのInGaAs量子ドットを埋め込むように前記InGaAs量子ドットおよび前記InGaAs薄膜層上にGaAsバッファ層を設け、前記一連の製造工程をInGaAs量子ドット構造体6を任意数層積層する分連続して行うと共に、前記InGaAs量子ドットおよびInGaAs薄膜層を0.1ML/s以上で1ML/S以下の範囲内の任意の成長速度で成長させ、前記GaAs層の厚さを20nm以下で0nmを超える厚さの範囲内の任意の厚さで積層する。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、GaAs層とInGaAs量子ドットからなる多積層InGaAs量子ドット構造体を採用することにより、歪補償層無しで高速成長の量子ドット構造体を構成することができる。
更に、AsとしてAs2を用いることにより、歪補償層無しで、0.1ML/s以上で1ML/S以下の範囲内の任意の成長速度で高速成長させることができる、特に1ML/Sで達成することができる。
また、前記量子ドット構造体を用いることにより、これまでにない太陽電池素子および発光素子を構成することができる。特に歪みの極めて小さい優秀な結晶成長特性を呈しながら、高出力で超高効率な太陽電池構造へ応用できる。
本発明のInGaAs量子ドット構造体は波長900nm以上に感度を持つので、このInGaAs量子ドット構造体を組み込んだ多積層量子ドット構造体を持つ本発明の太陽電池、発光素子は波長900nm以上に吸収感度及び発光波長を持つように構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の多積層InGaAs量子ドット構造体の一実施形態の概略構成図である。
【図2】実際にIn0.4Ga0.6As量子ドットを50層積層した構造体の断面透過型電子顕微鏡写真である。
【図3】多積層In0.4Ga0.6As量子ドット構造体表面の走査型電子顕微鏡写真である。
【図4】In0.4Ga0.6As量子ドット層を1、20、30、50層積層した構造体のフォトルミネッセンス発光特性である。
【図5】As2とAs4の分子線の効果を示したものである。
【図6】As2を用いてバッファ層20nmで成長した多積層InGaAs量子ドット構造体を太陽電池構造に応用した実施例の模式図である。
【図7】本発明に従い作製した素子の特性図である。
【図8】本発明の太陽電池構造の、外部量子効率を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施の形態を図に基づいて詳細に説明する。
【実施例】
【0018】
図1には、本発明に従って構成された多積層InGaAs量子ドット構造体の望ましい実施形態が示されている。
多積層量子ドット構造体1は、GaAs基板(図示省略)に、GaAs層2を成長した後、上記GaAs層2上にInGaAs量子ドット構造体6を必要段数積層してInGaAs量子ドット積層構造体を設けて構成する。InGaAs量子ドット構造体6は、複数のInGaAs量子ドット4を設けたInGaAs薄膜層3と、そのInGaAs量子ドット4を埋め込むようにInGaAs薄膜層3上に設けたGaAsバッファ層5から構成する。InGaAs薄膜層3を形成し、その上にInGaAs量子ドット4を成長させ、これらInGaAs薄膜層3とInGaAs量子ドット4の上にGaAsバッファ層5を形成する。
【0019】
GaAsバッファ層5の厚さを20nm以下で0nmを超える範囲内の任意の厚さにすることで、成長方向に整列したInGaAs量子ドット積層構造体が形成できる。
GaAsバッファ層5上にInGaAs薄膜層3、InGaAs量子ドット層4および、さらにGaAsバッファ層5とInGaAs量子ドット構造体6を繰り返し積層することで、多積層構造を形成する。100層以上積層しても、InGaAs量子ドット層の場合、転移や結晶欠陥は発生しない。InAs量子ドットで同様の積層を行うと、転移や欠陥が発生し、良好な多積層構造は形成できない。
製造時、GaAsバッファ層上にInGaAs量子ドット積層構造体を設けた多積層量子ドット構造体の製造方法では、
前記InGaAs量子ドット積層構造体は、InGaAs薄膜層を設け、その上に複数のInGaAs量子ドットを成長させ、そのInGaAs量子ドットを埋め込むように前記InGaAs量子ドットおよび前記InGaAs薄膜層上にGaAsバッファ層を設け、前記一連の製造工程をInGaAs量子ドット構造体6を任意数層積層する分連続して行うと共に、前記InGaAs量子ドットおよびInGaAs薄膜層を0.1ML/s以上で1ML/S以下の範囲内の任意の成長速度で成長させ、前記GaAs層の厚さを20nm以下で0nmを超える範囲内の任意の厚さで積層する。
【0020】
図2に、実際にIn0.4Ga0.6As量子ドット構造体を50層積層した多積層量子ドット構造体の断面透過型電子顕微鏡写真を示す。図2(a)は50層積層した構造の断面透過型電子顕微鏡写真、図2(b)は図2(a)の一部を拡大した要部拡大図である。図2中の白い部分が量子ドット部分を表す。図2では、バッファ層は20nmであり、高さ5nm、幅30nmのInGaAs量子ドット構造体が、成長方向に整列して成長していることがわかる。このことから、多積層量子ドット構造体が、転移や結晶欠陥も無く、規則正しく形成されているといえる。
【0021】
図3は、In0.4Ga0.6As量子ドット表面の走査型電子顕微鏡写真である。図3(a)は1層、図3(b)は50層、それぞれ積層したInGaAs量子ドット構造体の表面の走査型電子顕微鏡写真である。図3中の4a、4bは量子ドットを示す。図3(a)の1層の場合にはドットが不規則に成長しているが、図3(b)のように50層成長させることで、[1−10]方向に整列する傾向にあることがわかる。
【0022】
図2および図3に示すように、InGaAs量子ドット構造体をAs2分子線で多積層化することにより、成長方向、及びドット面内方向でInGaAs量子ドットが整列する構造が作製可能であることがわかる。
【0023】
図4に、In0.4Ga0.6As量子ドット構造体を1、20、30、50層積層した構造体のフォトルミネッセンス発光特性を示す。横軸はWAVELENGTH(波長)(nm)、縦軸はPL INTENSITY(発光強さ)(a.u.)を表す。バッファ層は20nmである。図4(a)は室温(25℃)で測定したもので、半値幅は41.6meV、図4(b)は10K(低温)で測定したもので、半値幅は37.0meVである。なお、図中のQDは量子ドットの略である。
図4(a)の各特性のピークの値は下記表1のようになる。
【表1】

図4(b)の各特性のピークの値は下記表2のようになる。
【表2】

InGaAs量子ドット構造体の層数に応じて発光強度が強くなっていることがわかる。この結果から、光学特性に優れたバッファ層20nmの多積層InGaAs量子ドット構造体が成長できていることがわかる。
【0024】
図5は、As2分子線の効果を示したものである。
In0.4Ga0.6As量子ドットを4層積層した。バッファ層は20nmであった。
図5の各特性のピークの値は下記表3のようになる。
【表3】

As2で成長したInGaAs量子ドット積層構造体の方が、As4で成長したものよりもフォトルミネッセンス発光強度が大きい。As2分子線による、MBE成長中のIII族元素の拡散促進により、結晶品質が向上する。これはInGaAs量子ドットを1ML/S程度の高速で成長した時に顕著である。
【0025】
図6は、As2を用いてバッファ層20nmで成長した多積層In0.4Ga0.6As量子ドット積層構造体を太陽電池構造に応用した実施例の模式図である。
太陽電池10は、n型GaAs基板12a上に、n+―GaAs層、n―GaAs層の順にn層12bを成長させ、その上にInGaAs量子ドット構造体16を10,20,又は30層等任意数層積層してi層13を形成する。
InGaAs量子ドット構造体16は、複数のInGaAs量子ドット13aを有するInGaAs薄膜層13bを形成し、InGaAs量子ドット13aを埋め込むGaAsバッファ層13cを成長させて構成する。バッファ層は20nmで積層した。
【0026】
InGaAs量子ドット構造体層13はドーピングせず半絶縁性である。InGaAs量子ドット構造体層13の上にはp−GaAs層、p+−GaAs層のGaAs層14aからなるp層14を順に成長させ、表面のコンタクトとしてTi/Au電極15、裏面電極にはAuGe/Ni/Au電極11をそれぞれ設ける。ただし表面において、ARコート等反射防止膜の堆積は行っていない。
積層構造の成長方法はこれまでに述べた通り、As2を用いて成長速度1ML/Sで行った。
この例では、
p+−GaAs層は1×1019/cm:50nm、
p−GaAs層は2×1018/cm:150nm、
i層(量子ドット+GaAs層20nm)は10、20、30周期積層、
n―GaAs層は1×1017/cm:1000nm、
n+―GaAs層は1×1018/cm:250nm、
電極11のAuGe/Ni/Auの配分は80nm/20nm/350nm、
電極15のTi/Auの配分は50nm/500nm、に構成されている。
【0027】
このようにして本発明の多積層量子ドット構造体を用いた太陽電池素子(多積層量子ドット太陽電池)の特性を種々取ってみた所、図7に示すように、望ましい特性を得ることができた。
図7の縦軸はCurrent Density(電流密度)(mA/cm)、横軸はVoltage(v)を表し、電流密度ゼロの点はVoc(開放電圧)(v)、電圧ゼロの点はJsc(短絡電流)(mA/cm2)を表し、FFは特性の形状を表す。また、図中には、参考として本発明の多積層量子ドット構造体を有しないGaAs太陽電池の特性も合わせて示してある。
【0028】
図7の多積層量子ドット太陽電池特性を下記表4に示す。
【表4】

同図横軸が太陽電池のかかる電圧V、縦軸がその時の電流Iである。これらの特性から導出される本太陽電池の変換効率は、InGaAs量子ドット構造体層が10,20,30層のもので、それぞれ8.9、8.0、7.0%であった。非特許文件5では、反射防止膜を表面に堆積した状態で、InAs量子ドット層を10層、20層積層した構造で、それぞれ8.5、5.7%である。本素子は反射防止膜を堆積していないにもかかわらず、それらの値よりも良い効率を実現している。反射防止膜の堆積により、さらに約1%の変換効率向上が見込まれる。
【0029】
図8は、本太陽電池構造の、外部量子効率を示した図である。
図8の特性を下記表5に示す。
【表5】

GaAs太陽電池の吸収帯よりも長波長側(870nm以上)において、InGaAs量子ドット層による吸収が見られ、また量子ドットの積層数に応じて量子効率が増加していることがわかる。これらの結果から、本発明の多積層量子ドット太陽電池(多積層InGaAs量子ドット構造体を用いた太陽電池)は、GaAsやSiでは吸収できない長波長の光を吸収し、電流とすることができる。
【0030】
上記多積層のInGaAs量子ドット構造体をレーザーとして応用する場合でも、層構造は図6と同様である。量子ドットのIn組成や成長時間を変化することで、発振波長も可変である。
【0031】
本発明では、GaAsバッファ層の上にIn0.4Ga0.6As量子ドット層を直接成長したが、その間に例えばIn0.2Ga0.8As層を2nm程度、結晶欠陥が発生しない程度の厚さを挟むことにより、量子ドット層の歪が緩和され、さらに高品質な積層構造が作製できる可能性がある。またこの場合は歪緩和効果により、太陽電池はさらに長波長領域でも光応答特性を持つことになり、太陽電池特性の向上が期待される。
【0032】
また、GaAsバッファ層中に薄いGaAsP層を導入することにより、InGaAs量子ドットの層の歪を補償することも可能である。この歪補償技術によっても、積層構造の高品質化が可能と思われる。
以上説明した優秀な結晶成長特性を呈する量子ドット構造は、超高効率な太陽電池構造の他に、低閾(しきい)値の半導体レーザー等への応用が期待できる。
【符号の説明】
【0033】
1 多積層量子ドット構造体
2 GaAs層
3 InGaAs薄膜層
4 InGaAs量子ドット
5 GaAs層
6 InGaAs量子ドット構造体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
GaAsバッファ層上にInGaAs量子ドット積層構造体を設けた多積層量子ドット構造体であって、
前記InGaAs量子ドット積層構造体は、複数のInGaAs量子ドット4を設けたInGaAs薄膜層3と、そのInGaAs量子ドット4を埋め込むようにInGaAs薄膜層3上に設けたGaAsバッファ層5から構成するInGaAs量子ドット構造体6を任意数層積層して構成したことを特徴とする多積層量子ドット構造体。
【請求項2】
前記Asの原料をAsとしたことを特徴とする請求項1記載の多積層量子ドット構造体。
【請求項3】
前記GaAs層の厚さを20nm以下で0nmを超える範囲内の任意の厚さにしたことを特徴とする請求項1又は2記載の多積層量子ドット構造体。
【請求項4】
前記InGaAs量子ドット構造体を4層以上積層したことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の多積層量子ドット構造体。
【請求項5】
複数のInGaAs量子ドットおよびInGaAs薄膜層を、成長速度が0.1ML/S以上で1ML/S以下の範囲内の任意の成長速度で成長させたものとしたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の多積層量子ドット構造体。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項記載の多積層量子ドット構造体を、p型GaAs層とn型GaAs層で挟んでp−i−n構造としたことを特徴とする多積層量子ドット太陽電池素子。
【請求項7】
請求項1乃至4のいずれか1項記載の多積層量子ドット構造体を、p型GaAs層とn型GaAs層で挟んでp−i−n構造としたことを特徴とする多積層量子ドット発光素子。
【請求項8】
GaAsバッファ層上にInGaAs量子ドット積層構造体を設けた多積層量子ドット構造体の製造方法であって、
前記InGaAs量子ドット積層構造体は、InGaAs薄膜層を設け、その上に複数のInGaAs量子ドットを成長させ、そのInGaAs量子ドットを埋め込むように前記InGaAs量子ドットおよび前記InGaAs薄膜層上にGaAsバッファ層を設け、前記一連の製造工程をInGaAs量子ドット構造体6を任意数層積層する分連続して行うと共に、前記InGaAs量子ドットおよびInGaAs薄膜層を0.1ML/s以上で1ML/S以下の範囲内の任意の成長速度で成長させ、前記GaAs層の厚さを20nm以下で0nmを超える範囲内の任意の厚さで積層することを特徴とする多積層量子ドット構造体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−40459(P2011−40459A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−184330(P2009−184330)
【出願日】平成21年8月7日(2009.8.7)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構委託研究「新エネルギー技術研究開発/革新的太陽光発電技術研究開発(革新型太陽電池国際研究拠点整備事業)/高度秩序構造を有する薄膜多接合太陽電池の研究開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】