説明

多芯電線

【課題】電流容量を増加するため、導体を隙間なく配置できると共に、高周波電流を用いても表皮効果の影響の少ない素線導体の形状、絶縁方法、組合せ方法を持った多芯電線を構成する。
【解決手段】短径が表皮深さの2倍より小さい複数の導体線12が、肉厚が表皮深さより小さい中空導体管15内部にあり、複数の導体線12と中空導体管15が絶縁膜13を介して一体化した多芯電線10とした。多芯電線10の断面外形は円、矩形または正六角形である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モーター(電動機)や発電機のコイル、あるいは、送電線に好適な多芯電線に関する。
【背景技術】
【0002】
図5に従来の一般的なモーター100の断面図を示す(特許文献1)。モーター100は、ステーター101(固定子)とローター102(回転子)を備える。ステーター101は、ステーターコア103の周囲にステーターコイル104を巻回したものである。ローター102は回転軸105を中心として回転する。
【0003】
図5の左下部にステーターコイル104の断面を示す。ステーターコイル104は、断面が円形のコイル線106を多重に巻いたものである。コイル線106は、断面が稠密六方配列になるように巻いても、コイル線106間に約10%(断面積として)の隙間ができる。そのため、ステーターコイル104の電流密度を高くすることが困難である。
【0004】
図6に従来の他のモーターのステーターコイル110の断面図を示す(特許文献2)。ステーターコイル110はステーターコア111の周囲に巻き付けられる。このステーターコイル110はコイル線112の断面が長方形であるため、ステーターコア111の周りに隙間無く巻き付けることができる。そのため、断面が円形のコイル線106のモーター100より、ステーターコイル110の電流密度を高くすることができる。
【0005】
モーターに流す電流の周波数が高くなると、コイル線に表皮効果が生じる。図7は表皮効果により電流密度の低下することを示すグラフである。図7の横軸は電流の周波数、左縦軸は表皮深さ、右縦軸は相対的電流密度である。図7の右縦軸の相対的電流密度は、直流の場合を100%として表示されている。図7は、断面が3.2mm×1.7mmの長方形の銅製コイル線をモデルとした計算値である。
【0006】
図7から分かるように、断面が3.2mm×1.7mmの長方形の銅製コイル線の場合、電流の周波数が約4kHzを越えると、相対的電流密度は低下するようになる。電流の周波数が約30kHzで、相対的電流密度は50%になり、電流の周波数が約200kHzで、相対的電流密度は20%になる。このため、高周波電流でモーターを使用するとき、コイル線の表皮効果による電流密度低下が問題となる。
【0007】
コイル線の表面積を増やす(コイル線を細くし、本数を多くする)ことにより、コイル線の表皮効果の影響を軽減することができる。コイル線を隙間無く巻くためには、コイル線の断面は矩形であることが望ましい。しかし、断面が矩形の細いコイル線を隙間無く巻くことは生産技術的に難しい。
【0008】
断面が円形のコイル線は、細くても稠密に巻くことはできる。しかし、コイル線間の隙間が避けられないため、電流密度を高くすること困難である。また、断面が矩形の細いコイル線は、隙間無く巻くことが困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2010−28958号公報
【特許文献2】特開2009−225507号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
断面が円形のコイル線は、細くても稠密に巻くことができる。しかし、コイル線間の隙間が避けられないため、電流密度を高くすることが困難であった。また、断面が矩形の細いコイル線は、隙間無く巻くことが困難であった。このため、従来は、電流密度を高くすることと、表皮効果を軽減することが両立しなかった。
【0011】
本発明の目的は、高周波電流を用いても表皮効果の影響が少なく、隙間無く巻くことができて電流密度を高くすることができ、しかも巻くことが容易であるコイル用電線を実現することである。本発明に係るコイル用電線は多芯電線である。本発明の多芯電線はコイルに限らず、送電線などにも使用できる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1)本発明の多芯電線は複数の導体線と、中空導体管を備える。複数の導体線は中空導体管の内部にある。複数の導体線と中空導体管は絶縁膜を介して一体化している。
(2)本発明の多芯電線において、導体線の短径は表皮深さの2倍より小さい。導体線の断面が多角形の場合、短径は最小辺の長さとする。
(3)本発明の多芯電線において、中空導体管の肉厚は表皮深さより小さい。中空導体管の肉厚が一定でない場合、肉厚は最小肉厚とする。
(4)本発明の多芯電線において、中空導体管の断面外形は円、矩形または正六角形である。「円」には、実用的に差し支えない範囲のゆがみをもった円も含まれる。「矩形」には、角が面取りされた矩形および角が丸みを帯びた矩形も含まれる。「正六角形」には、角が面取りされた正六角形および角が丸みを帯びた正六角形も含まれる。
(5)本発明の多芯電線において、導体線および中空導体管の材質は銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金のいずれか、あるいはそれらの組合せである。「銅」には、微量の添加成分を有する銅も含まれる。「アルミニウム」には、微量の添加成分を有するアルミニウムも含まれる。
(6)本発明の多芯電線の製造方法は、複数の導体線をテープ状導体に載せる工程、テープ状導体を丸め、長手端面を接合して中空導体管を作製し、中空導体管内に複数の導体線を収納する工程、中空導体管および複数の導体線を絶縁膜を介して一体化する工程を含む。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、高周波電流を用いても表皮効果の影響が少なく、隙間無く巻くことができて電流密度を高くすることができ、巻くことが容易であるコイル線(多芯電線)が実現された。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】(a)本発明に用いられる導体線の断面図、(b)本発明に用いられる導体線束の断面図、(c)本発明に用いられる導体線束と中空導体管の断面図、(d)本発明に用いられる導体線束と中空導体管の断面図、(e)本発明に用いられる導体線束と中空導体管の断面図、(f)本発明の多芯電線の断面図
【図2】本発明の多芯電線の表皮効果軽減状況を示すグラフ
【図3】(a)本発明に用いられる導体線の断面図、(b)本発明に用いられる導体線束の断面図、(c)本発明に用いられる導体線束と中空導体管の断面図、(d)本発明に用いられる導体線束と中空導体管の断面図、(e)本発明に用いられる導体線束と中空導体管の断面図、(f)本発明の多芯電線の断面図
【図4】導体線束を中空導体管に連続的に挿入する製法の説明図
【図5】従来の一般的なモーターの断面図
【図6】従来の他のモーターのステーターコイルの断面図
【図7】表皮効果により電流密度の低下することを示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の多芯電線においては、複数の導体線が中空導体管内に収納され、導体線どうしおよび中空導体管が絶縁膜を介して一体化している。導体線の断面形状、断面積、材質が全て同一である必要はない。また、中空導体管の肉厚は場所により異なっていてもよい。絶縁膜の厚さも、絶縁が確保されれば、一定でなくてもよい。絶縁膜の材質が場所により異なっていてもよい。導体線の材質と中空導体管の材質は異なっていてもよい。
【0016】
中空導体管の断面外形は、コイルにするとき隙間なく巻けるように、矩形または正六角形であることが望ましい。「矩形」には、角が面取りされた矩形、角が丸みを帯びた矩形も含まれる。「正六角形」には、角が面取りされた正六角形、角が丸みを帯びた正六角形も含まれる。送電線のように巻かない場合は、中空導体管の断面外形は円でもよい。「円」には、実用的に差し支えない範囲のゆがみをもった円も含まれる。
【0017】
導体線の断面形状が多角形の場合、最小の辺長を導体線の短径ということにする。導体線の短径は、使用周波数での表皮深さの2倍より小さいことが望ましい。その場合、電流は導体線の断面全体を流れるため、表皮効果による電流密度低下が生じない。
【0018】
中空導体管の肉厚は、最小の場所で使用周波数での表皮深さより小さいことが望ましい。その場合、電流は中空導体管の断面全体を流れるため、表皮効果による電流密度低下が生じない。
【0019】
導体線および中空導体管の材質は、電気伝導度、加工性、コスト、耐久性などを考慮すると、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金のいずれか、あるいはそれらの組合せが望ましい。なお、「銅」には、微量の添加成分を有する銅も含まれる。「アルミニウム」には、微量の添加成分を有するアルミニウムも含まれる。
【0020】
複数の導体線を中空導体管に収納する方法として、複数の導体線をテープ状導体に載せ、テープ状導体を丸め、テープ状導体の長手端面を接合して中空導体管を作製し、中空導体管内に複数の導体線を収納した構造を実現する方法が望ましい。この製造方法によれば、導体線および中空導体管の長さに制限がないので、長尺のものが容易に製造できる。
【実施例】
【0021】
本発明の多芯電線の実施例を説明するが、以下に述べる材料と寸法は一例であり、本発明はこれに限られるものではない。
【0022】
図1は本発明の多芯電線10の一例およびその製法を、製造工程順に断面図により示したものである。
【0023】
図1(a)は、本発明の多芯電線10の材料となる導体線12の断面図である。導体線12は、表面を絶縁膜13で被覆されている。導体線12は、代表的には、銅線である。絶縁膜13は、代表的には、ポリエステル、ポリアミドイミドなどからなる単層膜、あるいは多層膜である。導体線12の直径は、例えば、0.5mm、絶縁膜13の厚さは、例えば、30μmである。
【0024】
今回、本発明の多芯電線10の用いられるモーターの一例では、電流の周波数が約8kHzなので、図7から分かるように、銅の表皮深さは約0.8mmである。従って直径0.5mmの導体線12では表皮効果は無視でき、電流は導体線12の断面全体を流れる。
【0025】
図1(b)に示すように、取扱いを容易にするため、導体線12を9本撚って、導体線束14を形成する(取扱いの問題がなければ、導体線12を撚らずに平行に並べて導体線束14を形成してもよい)。
【0026】
図1(c)に示すように、導体線束14を中空導体管15に挿入する。中空導体管15は、代表的には、銅管である。中空導体管15の内径は、例えば、3.2mm、外径は、例えば、4mm、肉厚は、例えば、0.4mmである。8kHzでの銅の表皮深さは約0.8mmであるから、中空導体管15についても表皮効果は無視でき、電流は中空導体管15の断面全体を流れる。
【0027】
図1(d)に示すように、引き抜き加工により、導体線12、絶縁膜13、中空導体管15を一体化する。一体化後の中空導体管15の内径は、例えば、1.7mm、外径は、例えば、2.5mm、肉厚は、例えば、0.4mmである。引き抜き加工の際、絶縁膜13に亀裂が生じないように注意する。送電線のように、巻かないで使用する場合は、図(d)の工程で完成品の多芯電線とすることもできる。
【0028】
図1(e)に示すように、引き抜き加工により、中空導体管15の断面外形を矩形に変形させる。中空導体管15の外寸は、例えば、3.2mm×1.7mm、肉厚は、例えば、0.4mmである。導体線12も、図のように変形する。
【0029】
図1(f)に示すように、中空導体管15の外側に絶縁膜16を被覆して、本発明の多芯電線10が完成する。
【0030】
図1(f)に示す本発明の多芯電線10は、絶縁膜13により区分された9本の導体線12と中空導体管15と絶縁膜16からなる。導体線12が細く、多数あるため、導体の表面積が大きくなり、表皮効果の影響が軽減される。図1(f)に示す多芯電線10は断面が矩形であるため、従来のモーターのステーターコイル110(図6)と同様、隙間なく巻くことができる。図1(f)に示す多芯電線10は太いため、隙間なく巻くことが生産技術的に容易である。
【0031】
図2に、本発明の多芯電線10の表皮効果軽減状況を示す。図2の横軸は電流の周波数、左縦軸は表皮深さ、右縦軸は相対的電流密度である。図2の右縦軸の相対的電流密度は、直流の場合を100%として表示されている。図2は、断面が3.2mm×1.7mmの長方形の銅製コイル線(単線)をモデルとした計算値と、図1に示した本発明の多芯電線10をモデルとした計算値である。本発明の多芯電線10の断面は3.2mm×1.7mmの長方形である。銅製コイル線(単線)の計算値はrelative current density(single wire)と称するグラフであり、多芯電線10の計算値はrelative current
density(multi wires)と称するグラフである。
【0032】
図2から分かるように、銅製コイル線(単線)の場合、電流の周波数が約4kHzを越えると、相対的電流密度は低下していく。電流の周波数が約30kHzで、相対的電流密度は50%になり、電流の周波数が約200kHzで、相対的電流密度は20%になる。
【0033】
一方本発明の多芯電線10の場合、電流の周波数が約20kHzまで、相対的電流密度が低下しない。電流の周波数が約20kHzを越えると、相対的電流密度は低下していくが、約100MHzまで、銅製コイル線(単線)より常に相対的電流密度が高い。従って、約4kHzから約100MHzの間、本発明の多芯電線10を使用することにより、銅製コイル線(単線)に比べて表皮効果を軽減することができる。このため本発明の多芯電線10は、約4kHzから約100MHzの間で、従来の長方形のコイル線112(単線)より高い電流密度で使用することができ、有利である。
【0034】
図3は本発明の多芯電線20の他の例およびその製法を、製造工程順に断面図により示したものである。図1と共通の部分には同じ符号を付す。
【0035】
図3(a)は、本発明の多芯電線20の材料となる導体線12の断面図である。導体線12の寸法、材料等は図1の多芯電線10と同じである。
【0036】
図3(b)は、導体線12を9本撚って形成した導体線束14である。これは図1の導体線束14と同じものである。
【0037】
図3(c)は、導体線束14を中空導体管15に挿入した図である。中空導体管15の寸法、材料等は図1の中空導体管15と同じである。
【0038】
図3(d)は、導体線12、絶縁膜13、中空導体管15を一体化した図である。一体化後の中空導体管15の寸法等は図1の中空導体管15と同じである。送電線のように、巻かないで使用する場合は、図(d)の工程で完成品の多芯電線とすることもできる。
【0039】
図3(e)に示すように、引き抜き加工により、中空導体管15の断面外形を正六角形に変形させる。中空導体管15の外寸は、例えば、一辺が0.82mm、肉厚は、例えば、0.4mmである。導体線12も、図のように変形する。
【0040】
図3(f)に示すように、中空導体管15の外側に絶縁膜16を被覆して、本発明の多芯電線20が完成する。図3(f)に示す多芯電線20は、断面が正六角形であるため、コイルにする場合、隙間なく巻くことができる。図1(f)に示す多芯電線20は太いため、隙間なく巻くことが生産技術的に容易である。
【0041】
図4は、複数の導体線12からなる導体線束14を、中空導体管15に連続的に挿入する製造方法の一例である。工程は図4の右から左へ向かって進む。図4の右の方は、複数の導体線12からなる導体線束14を、テープ状導体31(例えば薄い銅板)に載せる工程を示す。図4の中央は、テープ状導体31を丸めて長手端面32を接合し、中空導体管15を作製する工程を示す。この工程で中空導体管15内に複数の導体線12からなる導体線束14を収納する。図4の左の方は、中空導体管15に挿入された、複数の導体線12からなる導体線束14を示す。図4の製法によれば、中空導体管15および導体線束14の長さに制限がないため、長尺の中空導体管15に挿入された導体線束14を連続的に作製することができる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の多芯電線は、モーター(電動機)あるいは発電機のコイル、または送電線に好適に用いられる。
【符号の説明】
【0043】
10 多芯電線
12 導体線
13 絶縁膜
14 導体線束
15 中空導体管
16 絶縁膜
20 多芯電線
31 テープ状導体
32 長手端面
100 モーター
101 ステーター
102 ローター
103 ステーターコア
104 ステーターコイル
105 回転軸
106 コイル線
110 ステーターコイル
111 ステーターコア
112 コイル線
124 導体線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の導体線と、中空導体管を備え、
前記複数の導体線は前記中空導体管の内部にあって、
前記複数の導体線と前記中空導体管が絶縁膜を介して一体化した多芯電線。
【請求項2】
前記導体線の短径が表皮深さの2倍より小さい、請求項1に記載された多芯電線。
【請求項3】
前記中空導体管の肉厚が表皮深さより小さい、請求項1または2に記載された多芯電線。
【請求項4】
前記中空導体管の断面外形が円、矩形または正六角形である、請求項1から3のいずれかに記載された多芯電線。
【請求項5】
前記導体線および前記中空導体管の材質が銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金のいずれか、あるいはそれらの組合せである、請求項1から4のいずれかに記載された多芯電線。
【請求項6】
複数の導体線をテープ状導体に載せる工程、
前記テープ状導体を丸め、長手端面を接合して中空導体管を作製し、前記中空導体管内に複数の導体線を収納する工程、
前記中空導体管および前記複数の導体線を、絶縁膜を介して一体化する工程を含む、多芯電線の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−146473(P2012−146473A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−3547(P2011−3547)
【出願日】平成23年1月12日(2011.1.12)
【出願人】(390024464)協和電線株式会社 (13)
【Fターム(参考)】