説明

大根粉末の製造方法、食品の抗菌、除菌及び保存方法、並びにヘリコバクターピロリ菌の抗菌及び除菌食材。

【課題】 辛味成分であるMTBIを多く含む大根粉末が容易に得られる。
【解決手段】 大根の根茎部を丸ごと加熱蒸気で蒸してミロシナーゼ酵素を失活させた上で、薄い輪切り状にカット、またはすりおろして乾燥し、粉末にする。次に乾燥した状態の粉末にミロシナーゼ酵素を加える。これにより親配糖体であるグルコシノレートは分解することなく保存されると共に、使用に際して水を加えるだけで直ちにMTBIが生成され、生の大根おろしと同等の辛味成分が得られる。またこの粉末にUV−Cを照射することにより、MTBIの構成成分であるトランス体の一部を、より分解し難く抗菌及び除菌力の強いシス体に変換することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、辛味成分の減少を防止した大根粉末の製造方法、この大根粉末を混合等する食品の抗菌、除菌及び保存方法、並びにこの大根粉末を含むヘリコバクターピロリ菌の抗菌及び除菌食材に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のとおり、大根を刻んだり、あるいはすり下ろしたりすると、大根の細胞膜が破損して、細胞に含まれる親配糖体であるグルコシノレートが、細胞膜に存在するミロシナーゼ酵素によって加水分解され、辛味成分である(E,Z)−4−メチルチオ−3−ブテニルイソチオシアネート(以下「MTBI」という。)が生成される。この辛味成分は、大根独特の風味を有するため、多くの食品の味付け材料等として使用されている。また、この辛味成分は、除菌、抗菌、制菌、あるいは消化の促進作用を有すると共に、胃等の疾患の予防や治療にも効果があるとされている。
【0003】
ところが大根を刻んだり、あるいはすり下ろしたりすることによって生成されたMTBIは、短時間に気化及び加水分解して辛味成分が減少してしまう。そこで従来から大根を刻んだり、あるいはすり下ろしたりしたものであっても、辛味成分を残存させる手段が各種提案されている。
【0004】
例えば大根の根茎部をブロック状又は板状にカットして、酸性溶液によって除菌し、そのまま凍結乾燥して粉砕する手段が提案されている(例えば特許文献1参照。)。また大根の根茎部を丸ごと凍結し、凍結状態のまま、すりくずして包装して、再度凍結する方法が提案されている(例えば特許文献2参照。)。さらには辛味大根の根茎部を丸ごと急速冷凍し、真空乾燥させて水分を昇華させて、固形または粉末として保存する手段が提案されている(例えば特許文献3参照)。
【0005】
また大根に含まれる辛味成分は、抗菌及び除菌作用を有するため、食品の保存剤やヘリコバクターピロリ菌を抑制する胃障害予防薬等に利用する手段も提案されている(例えば特許文献4及び5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−329006号公報
【特許文献2】特開2002−306110号公報
【特許文献3】特開2002−262823号公報
【特許文献4】特開平6−153882号公報
【特許文献5】特開2003−81820号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかるに上述した従来技術には、さらに改良すべき課題がある。すなわち辛味成分を含む大根は、その商品価値、例えば保存性、小分け、振り掛け、混合、及び辛味成分の迅速な発露の観点からは、商品形態として粉末が望ましい。しかるに上述した特許文献1に記載の手段では、大根の根茎部をブロック状又は板状にカットする際に大根の細胞膜が破損し、親配糖体であるグルコシノレートが、ミロシナーゼ酵素の働きによって辛味成分であるMTBIが生成され、この辛味成分であるMTBIが、短時間に気化及び加水分解されてしまうという問題がある。
【0008】
また特許文献2及び3に記載の手段では、大根の根茎部を丸ごと冷凍するため、この冷凍に時間が掛かるか、あるいは大掛かりな冷凍装置が必要になるという問題がある。
【0009】
また上述した特許文献4及び5に記載の手段において、大根に含まれる辛味成分が少なければ、抗菌、除菌あるいは制菌能力が低下して、食品の除菌等や、胃障害の原因となるピロリ菌の汚染防止や除菌等に有効に利用することが困難となる。なお大根に含まれる辛味成分であるMTBIを合成して利用する場合には、薬事法等に基づく許可処分が必要となるが、大根自体に含まれる辛味成分を自然の青果物の形、すなわち原型を留めた状態で利用する場合には、これらの許可処分が不要となる。
【0010】
そこで本発明の目的は、辛味成分であるMTBIを多く含んだ大根粉末を、容易に製造できる大根粉末の製造方法を提供することにある。またこの製造方法による大根粉末を使用する食品の抗菌、除菌及び保存方法、並びにこの製造方法による大根粉末を含むヘリコバクターピロリ菌の抗菌及び除菌食材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明による大根粉末の製造方法の特徴は、大根の根茎部を丸ごと、または4ッ割等して加熱処理することによって、大根に含まれるミロシナーゼ酵素を失活させた後に、根茎部を細片にした上で乾燥し、この乾燥した状態の細片を粉末にすることにある。すなわち大根の根茎部を丸ごと、または4ッ割等して加熱処理してミロシナーゼ酵素を失活させれば、その後に大根を細片及び粉末にしても、親配糖体であるグルコシノレートは分解することなく保存される。そこで使用に際して、上述した粉末にミロシナーゼ酵素と水と賦活性剤であるL−アスコルビン酸等とを加えれば、直ちに保存されていたグルコシノレートの加水分解が始まって、生の大根をすりおろした場合と同等の状態の辛味成分を生成させることができる。したがって例えば辛味大根おろしとしての食材や、惣菜類の抗菌、除菌あるいは制菌等に使用できる。
【0012】
すなわち本発明による大根粉末の製造方法は、大根の根茎部を加熱処理することによって、この根茎部に含まれるミロシナーゼ酵素を失活させる工程と、このミロシナーゼ酵素を失活させた根茎部を細片にする工程と、この細片にした根茎部を乾燥する工程と、この乾燥した状態の細片を粉末にする工程とを備える。
【0013】
ここで大根の根茎部を丸ごと、または4ッ割等にして加熱処理して、この根茎部に含まれるミロシナーゼ酵素を失活させた後は、根茎部をすりおろし等して粉砕しても、親配糖体であるグルコシノレートは分解することなく保存される。そこでこの粉砕したものを乾燥すれば、上述したように細片にしてから粉末にする手段より、工程が少なくなる。すなわちこの大根粉末の製造方法は、大根の根茎部を加熱処理することによって、この根茎部に含まれるミロシナーゼ酵素を失活させる工程と、このミロシナーゼ酵素を失活させた根茎部を粉砕する工程と、この粉砕したものを乾燥する工程とを備える。
【0014】
ところで上述したミロシナーゼ酵素を失活させて、グルコシノレートを保存した乾燥状態の粉末に、ミロシナーゼ酵素を加えても、水分がなければ、グルコシノレートは辛味成分に変化しない。したがって水分に触れないように保管すれば、グルコシノレートが辛味成分に変化しない状態で保存できる。一方使用に際して水分等を与えれば、ミロシナーゼ酵素によって、直ちにグルコシノレートからMTBIが生成され、生の大根をすりおろした場合と同等の状態の辛味成分を、簡単かつ迅速に生成させることができる。すなわちこの大根粉末の製造方法は、上述した乾燥した状態の粉末に、ミロシナーゼ酵素を混合する工程を備える。
【0015】
またグルコシノレートを保存させた粉末にミロシナーゼ酵素を加えたものに、さらに水分を加えて辛味成分を生成させても、急速に乾燥させれば、辛味成分の気化及び加水分解を停止させることができる。そこで水分を加えて辛味成分を生成させた後、辛味成分の生成量が最大になる前に、急速に乾燥させれば、辛味成分の気化及び加水分解を停止させた状態を維持することができる。
【0016】
すなわちグルコシノレートを保存させた粉末にミロシナーゼ酵素を加えたものに、さらに水分を加えて攪拌すると、このミロシナーゼ酵素によってグルコシノレートが加水分解されて辛味成分の生成が開始されるが、このグルコシノレートの加水分解量が増大するにしたがって、この辛味成分の生成量も増大し、グルコシノレートの残存量が少なくなると、辛味成分の生成量も減少する。一方生成された辛味成分の一部は、気化及び加水分解されて消失する。すなわちある時点における辛味成分の生成量から、気化及び加水分解される消失量を引いたものが、その時点における辛味成分の残存量となる。そこで辛味成分の生成量が最大になった時点で、乾燥によって辛味成分の気化及び加水分解を停止させれば、多量の辛味成分であるMTBIを保存できる。
【0017】
すなわちこの大根粉末の製造方法は、上述したミロシナーゼ酵素を混合した粉末に水分を付与することによって辛味成分が生じた混合物を生成する工程と、この辛味成分の生成量が最大になる前に、この混合物を乾燥する工程と、この乾燥した状態の混合物を粉末にする工程とを備えていることにある。
【0018】
なおこの粉末の成分は辛味成分であるMTBIそのものを多く含んでいるため、このMTBIの気化または加水分解を防止するために、密閉した袋や容器等に保存する必要がある。使用に際しては、密封等した粉末を開封して水分のある雰囲気に曝せば、直ちに保存された辛味成分が気化するため、例えば辛味大根おろしとしての食材や、惣菜類、青果物及び食品等の除菌、抗菌、制菌、鮮度保持、あるいはピロリ菌の抗菌及び除菌食材に使用できる。
【0019】
ところで大根の辛味成分であるMTBIの構成は、おおよそシス体が15〜20%、トランス体が80〜85%になっているが、シス体の方が、辛味成分の品質保持及び抗菌等の点において優れている。本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、辛味成分を含む大根粉末に、短波長紫外線であるUV−Cを照射すると、トランス体の一部がシス体に変換することを見出した。そこで本発明による大根粉末の製造方法の特徴は、上述した混合物または粉末にUV−Cを照射することにある。
【0020】
また本発明者は、上述したグルコシノレートを保存させた粉末にミロシナーゼ酵素を加えたものに、さらに水分を加えて辛味成分を生成させつつ、短波長紫外線であるUV−Cを照射しても、トランス体の一部がシス体に変換することを見出した。そこで本発明による大根粉末の製造方法の特徴は、上述したミロシナーゼ酵素を混合した粉末に水分を付与することによって辛味成分を生じさせつつUV−Cを照射して混合物を生成する工程と、この辛味成分の生成量が最大になった時点で、上記混合物を乾燥する工程と、この乾燥した状態の混合物を粉末にする工程とを備えることにある。
【0021】
上述した大根粉末の製造方法において、根茎部を加熱処理する手段としては、熱湯で茹でる手段もあるが、熱い水蒸気によって蒸す手段の方が、辛味成分の残存率が高いことが判明した。また根茎部の中心部の温度が80〜100℃に達してから、2〜5分間程度保持すれば、ミロシナーゼ酵素を失活させる得ることが判明した。そこで本発明による大根粉末の製造方法の特徴は、上記加熱処理する手段は、加熱蒸気によって上記根茎部の中心部を2〜5分間、80〜100℃に保持するものであることにある。
【0022】
ところで上述した乾燥する工程における乾燥手段としては、大根の細片やおろし状等に粉砕したものを、温風や熱風によって含有水分を蒸発させる加熱乾燥、大根をおろし状等に粉砕したものを、回転ドラムを用いて乾燥するドラム乾燥(DD法)、大根を細かくおろし状等に粉砕したものを、絞り汁と共に噴霧乾燥器を用いて噴霧乾燥させるスプレイドライ(SD法)が該当する。さらには大根の細片やおろし状等に粉砕したものを、減圧環境の下に置いて水分の沸点を低下させて、含有水分を蒸発させる減圧乾燥及び真空乾燥、並びに大根の細片やおろし状等に粉砕したものを、真空状態で低温にして含有水分を昇華する真空凍結乾燥が該当する。ここで大根粉末等の味、匂い、色、あるいは鮮度の品質の劣化を効果的に防止するためには、真空凍結乾燥やスプレイドライによる乾燥が望ましい。なお乾燥後の水分の含有率については5%以下を目安とする。
【0023】
上述した乾燥した状態の粉末にミロシナーゼ酵素を混合した混合物や、辛味成分の生成量が最大になった時点で乾燥させて粉末にした混合物は、辛味成分が生成あるいは分解されることなく保存されており、水分を付与すると、直ちに高い抗菌性等を発揮する。したがって、この混合物を食品の抗菌、除菌及び保存方法、並びにヘリコバクターピロリ菌の抗菌及び除菌食材に使用することができる。すなわち本発明による食品の抗菌、除菌及び保存方法の特徴は、上記混合物を、食品に混合若しくは塗布、またはこの食品の収納容器内に封入することにある。また本発明によるヘリコバクターピロリ菌の抗菌及び除菌食材の特徴は、上記混合物を含むことにある。
【0024】
ここで「大根」には、辛味大根に限らず、青首大根等の通常の大根も含む。また「根茎部」とは、大根の葉の部分を除いた根の部分を意味する。また「加熱処理する」とは、大根の根茎部に熱を加えて昇温することを意味し、加熱蒸気を用いて根茎部を蒸すことが好ましいが、熱い空気雰囲気に根茎部を置いて蒸すこと、あるいは熱湯で根茎部を茹でること等も該当する。
【0025】
「ミロシナーゼ酵素を失活させる」とは、根茎部に含まれる親配糖体である4−メチルチオ−3−ブニテルグルコシノレート(MTBG:4-methylthio-3-butenyl glucoshinolate)(以下「グルコシノレート」という。)を、辛味成分である(E、Z)−4−メチルチオ−3−ブニテルイソチオシアネート(MTBI:4-methylthio-3-butenyl
isothiocyanate)に変化させるミロシナーゼ酵素について、その作用を失わせることを意味する。
【0026】
「細片」とは、根茎部をカット等して分割したものを意味し、乾燥を容易にするため、薄い輪切り状にしたもの、または薄い板状にしたものが好ましいが、例えばブロック状の小片、あるいは千切り状のものも該当する。また「粉砕する」とは、ミキサー等によって微小な粒にしたもの、あるいはおろし器等によって微小片にすりおろしたもの等を意味する。
【0027】
「辛味成分」とは、大根特有のもので上述したように(E、Z)−4−メチルチオ−3−ブニテルイソチオシアネート(MTBI:4-ethylthio-butenyl isothiocyanate)を意味する。なお大根の辛味成分には、上述したMTBIが大部分を占めるが、他に少量ではあるが5−メチルチオ−ペンチルイソチオシアネート(5-MTP:5-ethylthio
pentyl isothiocyanate)、及び4−メチルスルフェニルー3−ブニテルイソチオシアネート(MSTB:4-methylsulfinyl-3-butenyl
isothiocyanate)も含まれている。
【0028】
「前記乾燥した状態の粉末にミロシナーゼ酵素を混合する」における「ミロシナーゼ酵素」としては、例えば生の大根をすりおろし等したものを真空凍結乾燥して粉末にしたもの、あるいは生の大根をすりおろし等したものにアルコールを添加してミロシナーゼ酵素を沈殿させ、この酵素が失活しない温度で乾燥させた粉末が該当する。「辛味成分の生成量が最大になった時点で」としたのは、上述したように、乾燥によって辛味成分の気化及び加水分解を停止させることによって、多量の辛味成分および辛味成分を発生させ得るグルコシノレートを保存するためである。具体的には、グルコシノレートを保存させた粉末にミロシナーゼ酵素を加えたものに、さらに水分を加えて攪拌を開始した後、30分以内を目安とする。
【0029】
「UV―C」とは、短波長紫外線の一種であって、波長が100〜280nmの紫外線を意味する。「加熱蒸気によって前記根茎部を蒸して」とは、根茎部を蒸し釜等の容器に入れ、この中に加熱蒸気を吹き込んで、根茎部を加熱することを意味するが、加熱蒸気が直接根茎部に当たらないようにするのが望ましい。「根茎部の中心部を2〜5分間、80〜100℃に保持する」としたのは、このように根茎部を加熱処理すれば、根茎部に含まれるミロシナーゼ酵素を失活させることができるからである。
【0030】
「真空凍結乾燥」とは、マイナス20〜30℃の雰囲気において急速に凍結し、さらに真空凍結乾燥装置で減圧して、低気圧状態において水分を昇華させて乾燥することを意味する。
【0031】
「食品」とは、例えばお弁当等のお惣菜、新鮮な青果物、新鮮な魚貝類、及び肉類の生鮮食品、並びに、これらを調理または加工した食品を意味する。「食品に混合する」とは、上述した混合物の粉末を、例えば漬物桶内の漬物に混ぜ込むように食品内に混入することを意味する。「食品に塗布」とは、上述した混合物の粉末を、食品の表面に振り掛けたり、水分を加えて塗り付けたりすることを意味する。さらに「食品の収納容器に封入する」とは、例えば上述した混合物の粉末を、そのまま通風性の袋に入れて、この袋を食品の合成樹脂製の収納容器に挿入して蓋をすること、あるいは水分を加えて練ったものを収納容器内に入れて、この収納容器をシートで覆うことを意味する。
【発明の効果】
【0032】
辛味成分であるMTBIを多く含んだ大根粉末を容易に製造できると共に、変質や腐敗を防止しつつ保存することができる。すなわちミロシナーゼ酵素を失活させた粉末は、グルコシノレ−トが辛味成分に変化しない状態で保存可能であって、使用に際して、ミロシナーゼ酵素と水とL−アスコルビン酸とを付与すれば、生の大根をすりおろした場合等と同等の辛味成分を生成させることができる。また素材が大根であるため、そのまま食することが可能であり、かつ薬事法等に基づく許可処分を必要としない。
【0033】
またミロシナーゼ酵素を失活させた粉末にミロシナーゼ酵素を加えたものは、
乾燥した状態で保存すれば、グルコシノレ−トが辛味成分に変化しない状態で保存可能であって、使用に際して、水とL−アスコルビン酸を付与するだけで、生の大根をすりおろした場合等と同等の辛味成分を生成させることができる。さらにこのミロシナーゼ酵素を加えた粉末に、水とL−アスコルビン酸を付与して辛味成分を生成させ、この辛味成分の生成量が最大になった時点で、乾燥させた粉末は、水分に触れないように密閉した状態で保存すれば、多量の辛味成分であるMTBIを保存できる。
【0034】
上述したミロシナーゼ酵素を失活させた粉末、またはこの粉末にミロシナーゼ酵素を混合した粉末に、UV−Cを照射することによって、辛味成分であるMTBIを構成するトランス体の一部を、辛味成分の品質保持及び除菌等の点において優れているシス体に変換して、このシス体の構成比率を増加させることができる。またミロシナーゼ酵素を混合した粉末に、水とL−アスコルビン酸を付与して辛味成分を生成させつつ、UV−Cを照射することによっても、辛味成分を構成するトランス体の一部をシス体に変換して、このシス体の構成比率を増加させることができる。
【0035】
大根の根茎部を2〜5分間、80〜100℃に加熱処理することにより、ミロシナーゼ酵素を失活させる得ることができる。ここで加熱蒸気を使用して根茎部を蒸すことによって、根茎部を熱湯で茹でるより、辛味成分の残存率を高めることができる。
【0036】
乾燥の手段として、真空凍結乾燥を使用することによって、大根粉末の味、匂い、色及び鮮度の品質の劣化、並びに腐敗等を、効果的に防止することができる。
【0037】
上述した混合物の粉末は、辛味成分が多く保持されているため、高い抗菌作用等を発揮する。したがってこの混合物の粉末を、例えば食品の収納容器に封入することによって、食品に含まれる水分によって辛味成分であるMTBIが生成されて、食品を抗菌、除菌あるいは制菌して、これにより食品の鮮度維持及び保存が可能となる。
【0038】
上述した混合物の粉末は、辛味成分が多く保持されているため、ヘリコバクターピロリ菌に対する高い抗菌特性等を発揮する。したがってこの混合物の粉末を、を、例えばカプセル状または錠剤にすることによって、ヘリコバクターピロリ菌に対する効果的な抗菌及び除菌食材とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】大根の辛味成分の生成および分解過程と、それぞれの過程における成分のフルネーム及び化学構造とを示す説明図である。
【図2】本発明の製造方法による大根の辛味成分の生成量と、従来例による生成量とを比較した試験結果を示す表である。
【図3】本発明の製造方法において、加熱蒸気で蒸して加熱処理した場合の辛味成分の生成量と、熱湯で茹でた場合の生成量とを比較した試験結果を示す表である。
【図4】本発明の製造方法による大根の粉末にミロシナーゼ酵素を混合したものに、さらに水とL―アスコルビン酸とを加えて急速冷凍し、真空凍結乾燥して粉末にしたものに含まれる辛味成分の生成量を計測した結果を示す表である。
【図5】各産地の大根について、辛味成分を構成するシス体とトランス体との含有量を測定した結果を示す表である。
【図6】辛味成分を構成するシス体とトランス体とについて、それぞれ気化及び加水分解の進行状況を計測した結果を示す表である。
【図7】加熱蒸気で蒸してミロシナーゼ酵素を失活させた後、真空凍結乾燥した状態の粉末に、UV−CまたはUV−Aを照射したときの、シス体の含有率の変化を計測した結果を示すグラフである。
【図8】加熱蒸気で蒸してミロシナーゼ酵素を失活させた後、真空凍結乾燥した状態の粉末に、UV−CまたはUV−Aを照射したときの、トランス体の含有率の変化を計測した結果を示すグラフである。
【図9】加熱蒸気で蒸してミロシナーゼ酵素を失活させた後、真空凍結乾燥した状態の粉末に、ミロシナーゼ酵素、水、及びL―アスコルビン酸を混合して攪拌し、辛味成分を生成しつつUV−Cを照射したときの、シス体の含有率の変化を計測した結果を示すグラフである。
【図10】加熱蒸気で蒸してミロシナーゼ酵素を失活させた後、真空凍結乾燥した状態の粉末に、ミロシナーゼ酵素、水、及びL―アスコルビン酸を混合して攪拌し、辛味成分を生成しつつUV−Cを照射したときの、トランス体の含有率の変化を計測した結果を示すグラフである。
【図11】UV−Cの照射によってシス体とトランス体との構成比率(シス体/トランス体)を、28.67%/71.33%に増強した大根粉末について、大腸菌及び黄色ブドウ球菌に対する除菌作用を調べた結果を示す表である。
【図12】UV−Cの照射によってシス体とトランス体との構成比率(シス体/トランス体)を、28.67%/71.33%に増強した大根粉末について、一般細菌、大腸菌及び黄色ブドウ球菌に対する減菌効果を調査した結果を示す表である。
【図13】シス体及びトランス体(いずれも合成品)について、それぞれヘリコバクターピロリ菌に対する抗菌及び除菌力を比較調査した結果を示す表及びグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0040】
本発明による大根粉末の製造方法について、その実施の形態を説明する。ここで図1に、上述した大根に含まれるグルコシノレート(MTBG)、ミロシナーゼ酵素によってグルコシノレートから変化した辛味成分であるMTBI、及びMTBIが加水分解したチオキソピロリジリン(HMTP)のフルネームと化学構造とを示す。さて大根の葉の部分を切り落とした根茎部について、破損あるいは汚損等した部分を取り除き、十分に水洗いする。次に根茎部を丸ごと加熱処理する。具体的には、根茎部を蒸し器に入れ、根茎部に直接当たらないように加熱蒸気を噴霧して、根茎部の中心部の温度を2〜5分間、80〜100℃、望ましくは80〜85℃に保持する。なお根茎部の中心部の温度は、例えば温度測定用サンプルとして、一部の根茎部の中心部に温度計を挿入することによって、容易に計測することができる。
【0041】
次にファン等によって室温の風を当てて根茎部を冷ましてから、急速冷凍及び真空乾燥し易いように、薄い輪切り状あるいは薄い板状にカットする。味、匂い、色及び鮮度等の品質の劣化を防ぐために、マイナス20〜30℃の雰囲気で急速に凍結し、次いで真空凍結乾燥装置で真空状態に減圧して、水分を昇華させて乾燥する。なお乾燥後の水分含有率は、5%以下を目安とする。水分含有率を5%以下にすれば、薄い輪切り等にカットした根茎部の変質や腐敗等を防止すると共に、後工程における粉砕を容易にし、かつミロシナーゼ酵素を加えて保存する場合に、グルコシノレートがミロシナーゼ酵素によって加水分解することを防止することができる。
【0042】
そして真空凍結乾燥した薄い輪切り等にカットした根茎部を、粉砕機等によって粉砕して粉末にする。なおカットした根茎部の形状やサイズ等によっては、真空凍結乾燥後に粉末にすることなく、そのままの形状にしておいてもよい。また真空凍結乾燥する前に、根茎部を粉砕機やすりおろし器等によって、微小な粒あるいは微小片にしておいてもよい。ミロシナーゼ酵素が失活しているため、辛味成分が生成されないからである。かかる場合には、真空凍結乾燥後に粉末にする工程を省くことができる。この粉末は、例えば小分けにして防湿性及び遮光性の袋(黒色ビニール袋等)や振り掛け用の容器等に密封して、冷蔵保存する。
【0043】
次に真空凍結乾燥した粉末に、ミロシナーゼ酵素を混合してもよい。なおミロシナーゼ酵素は、例えば生の大根おろしを真空凍結乾燥して粉末にすることで得る。このミロシナーゼ酵素を混合した粉末は、上述したように、含有水分が5%以下に乾燥しているため、辛味成分が生成されずに保存された状態のまま、安定して保存することができる。この粉末は、例えば小分けにして防湿性及び遮光性の袋(黒色ビニール袋等)や振り掛け用の容器等に密封して、冷蔵保存する。
【0044】
次に他の実施の形態を示す。すなわちこの実施の形態では、上述したミロシナーゼ酵素を混合した粉末に、水分及び賦活増強剤としてのL−アスコルビン酸(ビタミンCの化学名)等を加えて攪拌してミロシナーゼ酵素を活性化し、これによりグルコシノレートを加水分解させて、辛味成分であるMTBIを生成する。このMTBIは、生成と同時に気化や加水分解が始まるため、攪拌後30〜40分に間に、急速冷結を行ない、さらに真空凍結乾燥を行なうことによって、気化又は加水分解していないMTBIや、MTBIを生成し得るグルコシノレートを多く含んだ混合物を得る。
【0045】
なお真空凍結乾燥させた状態の混合物は、上述した商品価値を高めるために、粉砕機等によって粉末にする。この粉末の成分はMTBIそのものが多量に含まれているため、気化や加水分解を防止するために、密閉した袋や容器等に保存する必要がある。また密閉を解除すれば、MTBIが気化する。この気化したMTBIは、強い除菌力等を発揮する。したがって商品としては、粉末、錠剤、あるいはカプセル状にして、これを密閉して保管及び流通させる。使用に際しては、この密閉を解除すれば、MTBIが気化して、除菌等の効果を発揮する。
【0046】
さらに他の実施の形態を示す。すなわちこの実施の形態では、上述したミロシナーゼ酵素を混合しない状態の粉末に、UV−Cを照射する。具体的には波長が254nmの短波長紫外線を、30分程度照射する。このUV−Cの照射によって、辛味成分であるMTBIの構成要素の1つであるトランス体を、他の構成要素であるシス体に変更させて、シス体の構成比率を増加させることができる。この真空凍結乾燥した粉末は、上述した態様と同じようにして保存及び販売する。
【0047】
また上述したミロシナーゼ酵素を混合して、水分含有率が5%以下に真空凍結乾燥させた状態の粉末に、UV−Cを照射することによって、トランス体をシス体に変更させて、シス体の構成比率を増加させてもよい。この真空凍結乾燥した粉末も、上述した態様と同じようにして保存及び販売する
【0048】
さらに上述したミロシナーゼ酵素を混合した粉末に、水分及び賦活増強剤としてのL−アスコルビン酸等を加えて攪拌して、辛味成分であるMTBIを生成した混合物を生成する際に、UV−Cを照射することによって、トランス体をシス体に変更させて、シス体の構成比率を増加させてもよい。このシス体の構成比率を増加させた混合物は、生成と同時に辛味成分の気化や加水分解が始まるため、攪拌後30〜40分に間に、急速冷凍を行ない、さらに真空凍結乾燥を行なって、粉砕機等によって粉末にする。
【0049】
この粉末の成分は、シス体の構成比率を増加させたMTBIそのものを多量に含むため、気化や加水分解を防止するために、密閉した袋や容器等に保存する必要がある。また密閉を解除すれば、MTBIが気化する。この気化したMTBIは、より強い除菌力を発揮する。したがって商品としては、粉末、錠剤、あるいはカプセル状にして、これを密閉して保管及び流通させる。使用に際しては、この密閉を解除すれば、MTBIが気化して、除菌等の効果を発揮する。
【0050】
次に本発明による食品の除菌および保存方法の1例として、ミロシナーゼ酵素を混合した粉末に、水分及び賦活増強剤等を加えつつUV−Cを照射して、シス体の構成比率を増加させ、これを真空凍結乾燥させて粉末にしたものを使用する場合を説明する。すなわちこの粉末は、上述したように、MTBIの気化や加水分解を防止するために、密閉した袋や容器等に保存してある。したがって密閉した袋や容器等から粉末取出して、不織布や通気性のある袋等に入れ、この袋等を果物、野菜及び魚肉等、並びにこれらの加工品を収納した容器や弁当箱等に収納して、この容器や弁当箱等を透明フィルム等で密閉すれば、これらの加工品に含まれる水分等によって、MTBIが気化して容器内に充満し、食品を除菌等すると共に、鮮度を維持しつつ保存することができる。なおMTBIが気化又は加水分解したものは、生の大根をすりおろして時間が経過したものと同等であって無害であり、そのまま食することもできる。
【0051】
なお上述した粉末を、ぬか漬けのぬか床に加えて攪拌し、1時間程度密閉することによって、漬物菌を死滅あるいは増殖を抑制させて、過剰な醗酵、すなわち酸っぱくなること等を防止することもできる。
【0052】
またミロシナーゼ酵素を混合した粉末であって、水分等を混合していない状態の粉末の場合には、この粉末に水分及び賦活増強剤等を加え、大根をすりおろしたときと同等の状態にして、上述した加工品を収納した容器や弁当箱等に収納し、この容器や弁当箱等を透明フィルム等で密閉すれば、MTBIが気化して容器内に充満し、食品を除菌等すると共に、鮮度を維持しつつ保存することができる。
【0053】
本発明によるヘリコバクターピロリ菌に対する抗菌及び除菌食材の1例として、ミロシナーゼ酵素を混合した粉末に、水分及び賦活増強剤等を加えつつUV−Cを照射して、シス体の構成比率を増加させ、これを真空凍結乾燥させて粉末にしたものを、そのままヘリコバクターピロリ菌に対する抗菌及び除菌食材として使用することができる。すなわちこの粉末を、食し易くするために錠剤やカプセル状にして、食すればよい。またこの粉末を、チュウインガム等の菓子に混合等して、ヘリコバクターピロリ菌に対する抗菌及び除菌食材とすることもできる。なおこれらの抗菌及び除菌食材に用いる粉末は、自然の大根から製造したものであって、合成品ではないため、食品添加物、特定保健用食品、あるいは薬剤としての許可処分を必要としない。
【実施例1】
【0054】
図2に示すように、従来例による製造方法と本発明による製造方法とによって、それぞれ製造した大根粉末において、辛味成分であるMTBIの生成量を比較した。すなわち本発明による製造方法の実施例1として、辛味大根の一種である「秋田おにおろし種」を使用し、トリミングによって根茎部の損傷部分等を除去後に水洗いし、過熱蒸気によって芯温が80℃になった状態で5分間蒸した。そして常温の風を当てて冷却した後に、薄い輪切り状にカットして、トレイド上に置いてマイナス20〜30℃に冷凍した後に、水分含有量が約5%になるまで真空凍結乾燥させてから粉砕して大根粉末を生成した。
【0055】
そしてこの真空凍結乾燥した状態の大根粉末に、ミロシナーゼ酵素を混合し、さらに水分及びL−アスコルビン酸を加えて攪拌して、辛味成分であるMTBIを生成させた。
【0056】
次に従来方法による製造方法として、「秋田おにしぼり種」の根茎部を、トリミング及び水洗いした後で、細かく裁断(比較例1)、及びすりおろした(比較例2)ものを、マイナス20〜30℃に冷凍した後に、水分含有量が約5%になるまで凍結真空乾燥させてから粉砕して大根粉末を生成した。これに水分を加えて辛味成分であるMTBIを生成させた。
【0057】
上述した実施例1、並びに比較例1及び2において生成されたMTBIの量を、ガスクロマトグラフィーによって測定した。図2に示すように、測定したMTBIの量は、それぞれ3122.0、2070.3、及び722.6mg/Kgであった。したがって本発明による製造方法の場合には、従来方法に比べて、辛味成分であるMTBIの生成量が多いことが確認できた。
【実施例2】
【0058】
図3に示すように、上述した本発明による製造方法における加熱処理を、加熱蒸気を用いて蒸した場合(実施例2)と、熱水で茹でた場合(参考例1)とについて、MTBIの生成量を比較した。測定したMTBIの生成量は、実施例2では3105.2mg/Kgであり、参考例1では2052.5mg/Kgであった。したがって加熱処理については、熱水で茹でるよりも、加熱蒸気を用いて蒸す方が大幅にMTBIの生成量が多いことを確認できた。
【実施例3】
【0059】
図4に示すように、上述した実施例1に示したミロシナーゼ酵素を混合した大根粉末1kgに、さらに水10Lと賦活増強剤であるL−アスコルビン酸25gとを付与して、40分間攪拌した後、直ちにマイナス20℃まで急速冷凍した後に、真空凍結乾燥させて含有水分がほぼ5%になるまで乾燥させてから、粉砕して粉末にした(実施例3)。含まれるMTBIの量を計測したところ、2702.6mg/Kgであった。すなわちこの製造方法による大根粉末は、辛味成分であるMTBIが多量に保存されるため、従来方法による大根粉末より、格段に多いMTBIを含有することが確認できた。
【0060】
図5に示すように、辛味成分であるMTBIを構成するシス体及びトランス体について、それぞれの含有量を、各産地の大根について測定した。なおシス体及びトランス体の含有量は、ガスクロマトグラフィーで測定した。各産地の大根、すなわち長野ねずみ大根、群馬辛味大根、秋田おにしぼり、秋田在来種、及び京都鷹ヶ峰大根において生成されるMTBIに含まれるシス体及びトランス体の構成比率(シス体%/トランス体%)は、それぞれ12.5/87.5、18.5/87.5、10.4/89.6、11.7/88.3、及び12.1/87.9であり、シス体とトランス体との構成比率は、おおよそ(10〜20%)/(85〜90%)であることが確認された。
【0061】
また図6に示すように、MTBIを構成するシス体及びトランス体(いずれも合成品)について、それぞれ気化及び加水分解の進行状況を計測した。トランス体については、MTBIを生成させた後は、30分後及び1時間後に、それぞれ80%及び90%が消失し、2時間後には、ほぼ100%が消失した。これに対してシス体は、30分後、1時間後、2時間後、及び3時間後に、それぞれ19%、34%、78%、及び80%が消失し、トランス体に比べて、消失速度が大幅に遅いことが確認された。
【実施例4】
【0062】
次に図7及び図8に示すように、加熱蒸気で蒸してミロシナーゼ酵素を失活させた後、真空凍結乾燥した状態の粉末に、UV−C(波長254nm)を照射したときに、MTBIを構成するシス体及びトランス体の含有率の変化を計測した(実施例4)。なお参考のためにUV−A(波長365nm)を照射したときの、シス体及びトランス体の含有率の変化も併せて計測した。なおUV−C等を照射した粉末は、ミロシナーゼ酵素、水、及びL―アスコルビン酸を混合して、40分間攪拌した後、クロマトグラフィーによって、MTBIを構成するシス体及びトランス体の含有率を計測した。
【0063】
図7に示すように、UV−Cの照射時間が長くなるにしたがい、シス体の含有率(内部標準比)は増加して、60分後には1.75倍に、120分後には2.5倍に増加し、その後は緩やかに減少する。したがってUV−Cの照射時間を、少なくとも30分以上、好ましくは60分以上、さらに好ましくは100〜150分にすれば、シス体の含有率を大幅に高めることができる。なおUV−Aを照射した場合には、シス体の含有率は、あまり変化しない。ここで「内部標準比」とは、あらかじめ分析対象に目的成分と類縁の標準化合物とを一定量添加した上で、ガスクロマトグラフィーを行なうと、この目的成分と標準化合物との両者が検出されるが、このときの標準化合物の検出量に対する目的成分の検出量の比率を意味する。試料には、必ず一定量の標準化合物が含まれるため、試料の量や濃縮度が相違しても、この比率を使用すれば、目的成分の量的変動や濃度を比較できるので、優れた定量的分析手法として使用されている。
【0064】
なお図8に示すように、UV−Cの照射時間を長くすると、トランス体の含有率は、次第に減少する。したがってUV−Cの照射によって、トランス体が利用価値の高いシス体に変化したことが確認できた。なおUV−Aを照射した場合には、トランス体の含有率は、あまり変化しない。
【実施例5】
【0065】
次に図9及び図10に示すように、加熱蒸気で蒸してミロシナーゼ酵素を失活させた後、真空凍結乾燥した状態の粉末に、ミロシナーゼ酵素、水、及びL―アスコルビン酸を混合して攪拌し、MTBIを生成しつつUV−Cを照射したときに、MTBIを構成するシス体及びトランス体の含有率の変化を計測した(実施例5)。なお参考にためにUV−A(波長365nm)を照射したときの、シス体及びトランス体の含有率の変化も併せて計測した。
【0066】
図9に示すように、UV−Cの照射時間が長くなるにしたがい、シス体の含有率は、ほぼ直線的に増加して、15分後には3.1倍に増加した。したがってUV−Cの照射時間を、10分以上、さらに好ましくは10〜15分にすれば、シス体の含有率を大幅に高めることができる。なおUV−Aを照射した場合には、シス体の含有率は、徐々に増加し、15分後には1.6倍になった。
【0067】
なお図10に示すように、UV−Cの照射時間を長くすると、トランス体の含有率は、徐々に減少する。またUV−Aを照射した場合には、トランス体の含有率は、徐々に増加した。
【実施例6】
【0068】
次に図11に示すように、本発明による大根粉末の除菌作用について確認した。すなわち秋田在来種である松館しぼり大根を素材として、実施例5のようにUV−Cの照射によってシス体とトランス体との構成比率(シス体/トランス体)を、28.67%/71.33%に増強した大根粉末について、除菌作用を調べた。対象とする細菌は、大腸菌と、黄色ブドウ状球菌との2種類を使用した。また除菌方法は、上記粉末に、水を加えて大根おろし状にしたものを、細菌の培養容器に入れて密閉し、揮発したMTBIの濃度が、それぞれ10ppm、及び20ppmになるように調整した。なお揮発したMTBIの濃度は、上記粉末の量によって調整した。そして培養容器に入れて密閉した後、30分後、60分後、及び90分後における、細菌のコロニー数を計測した。
【0069】
大腸菌については、30分後のコロニー数は、大根粉末を加えなかったときには、14000個であったが、MTBIの濃度が10ppm、及び20ppmのときには、それぞれ1115個、及び205個に減少した。また60分後には、コロニー数は、MTBIの濃度が10ppm、及び20ppmのときには、それぞれ150個、及び0個に減少した。なお濃度が10ppmでは、90分後において、わずかに33個のコロニー数が検出された。
【0070】
黄色ブドウ状球菌については、30分後のコロニー数は、大根粉末を加えなかったときには、17000個であったが、MTBIの濃度が10ppm、及び20ppmのときには、それぞれ420個、及び233個に減少した。また60分後には、コロニー数は、MTBIの濃度が10ppm、及び20ppmのときには、それぞれ111個、及び0個に減少した。なお濃度が10ppmでは、90分後において、わずかに81個のコロニー数が検出された。
【0071】
以上により、大腸菌と、黄色ブドウ状球菌とに対しては、MTBIの濃度の雰囲気を20ppmにすれば、60分間程度で、菌の生育を抑制し、除菌できることが確認できた。
【実施例7】
【0072】
また図12に示すように、上述した実施例6において使用した粉末について、一般細菌、大腸菌、及び黄色ブドウ球菌に対する減菌効果を調査した。すなわち未加熱の生鮮食品の1例として生のレタスを裁断したものと、加熱製品の1例として弁当とを使用し、これらに一般細菌、大腸菌、及び黄色ブドウ球菌をそれぞれ塗布して、スチロール容器、または弁当容器に収納して、常温で3時間放置した。その後実施例7に示した大根粉末を水で練り下ろして大根おろし状にしたものを容器に入れ、容器内のMTBIの濃度の雰囲気を20ppmにして、60分間保持した。
【0073】
次に食品衛生検査指針の微生物編の記載に準じて検査した。検査の結果、生のレタス及び弁当の一般細菌の数は、それぞれ衛生基準以内の10x10以下、及び10x10以下となった。また大腸菌、及び黄色ブドウ球菌は、それぞれ生のレタス及び弁当について陰性であった。以上により、本発明の製造方法による大根粉末を、食品に塗布あるいは添加等することにより、この食品を除菌及び保存することができることを確認した。
【実施例8】
【0074】
さらに図13に示すように、シス体及びトランス体(いずれも合成品)について、それぞれヘリコバクターピロリ菌に対する抗菌及び除菌力を比較調査した。すなわちシス体及びトランス体を、ヘリコバクターピロリ菌の培養容器に入れて密閉して、30分後及び1時間後におけるヘリコバクターピロリ菌の生存率を調べた。なおシス体とトランス体との容器内の濃度の雰囲気を、それぞれ50ppm、及び100ppmに維持した。
【0075】
この調査の結果、シス体の濃度の雰囲気を50ppmに保持した場合には、30分後及び1時間後におけるヘリコバクターピロリ菌の生存率は、それぞれ11、及び5%であった。一方トランス体の濃度の雰囲気を50ppmに保持した場合には、30分後及び1時間後におけるヘリコバクターピロリ菌の生存率は、それぞれ81及び62%であった。またシス体の濃度の雰囲気を、100ppmに保持した場合には、30分後及び1時間後におけるヘリコバクターピロリ菌の生存率は、それぞれ0%、及び0%であった。一方トランス体の濃度の雰囲気を100ppmに保持した場合には、30分後及び1時間後におけるヘリコバクターピロリ菌の生存率は、それぞれ65及び48%であった。
【0076】
以上により、大根の辛味成分であるMTBIは、ヘリコバクターピロリ菌に対する抗菌及び除菌力を有し、特にMTBIの構成するシス体が、もう一つ構成要素であるトランス体に比べて、ヘリコバクターピロリ菌に対して大幅に強い抗菌及び除菌力を有することが確認できた。したがって大根の辛味成分であるMTBIの分解を抑えた本発明による大根粉末を含む食材、特にUV−Cを照射してシス体の構成比率を増加した大根粉末を含む食材は、優れたヘリコバクターピロリ菌の抗菌及び除菌食材になることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0077】
加工食品、惣菜類、青果物、及び生鮮食品類等の抗菌、除菌、並びに制菌による鮮度保持用に使用できると共に、ヘリコバクターピロリ菌の感染防止及び抗菌及び除菌食材として使用できる。したがって、これらの食品に関する産業に広く利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大根の根茎部を加熱処理することによって、この根茎部に含まれるミロシナーゼ酵素を失活させる工程と、
上記ミロシナーゼ酵素を失活させた根茎部を細片にする工程と、
上記細片を乾燥する工程と、
上記乾燥した状態の細片を粉末にする工程とを備える
ことを特徴とする大根粉末の製造方法。
【請求項2】
大根の根茎部を加熱処理することによって、この根茎部に含まれるミロシナーゼ酵素を失活させる工程と、
上記ミロシナーゼ酵素を失活させた根茎部を粉砕する工程と、
上記粉砕したものを乾燥する工程とを備える
ことを特徴とする大根粉末の製造方法。
【請求項3】
前記乾燥した状態の粉末にミロシナーゼ酵素を混合する工程を備える
ことを特徴とする請求項1または2に記載の大根粉末の製造方法。
【請求項4】
前記ミロシナーゼ酵素を混合した粉末に水分を付与することによって辛味成分が生じた混合物を生成する工程と、
上記辛味成分の生成量が最大になった時点で、上記混合物を乾燥する工程と、
上記乾燥した状態の混合物を粉末にする工程とを備える
ことを特徴とする請求項3に記載の大根粉末の製造方法。
【請求項5】
前記乾燥した状態の粉末にUV−Cを照射する工程を備える
ことを特徴とする請求項1または2に記載の大根粉末の製造方法。
【請求項6】
前記ミロシナーゼ酵素を混合した乾燥の状態の粉末にUV−Cを照射する工程を備える
ことを特徴とする請求項3に記載の大根粉末の製造方法。
【請求項7】
前記ミロシナーゼ酵素を混合した粉末に水分を付与することによって辛味成分を生じさせつつUV−Cを照射して混合物を生成する工程と、
上記辛味成分の生成量が最大になる前に、上記混合物を乾燥する工程と、
上記乾燥した状態の混合物を粉末にする工程とを備える
ことを特徴とする請求項3に記載の大根粉末の製造方法。
【請求項8】
上記加熱処理する手段は、加熱蒸気によって上記根茎部の中心部を2〜5分間、80〜100℃に保持するものである
ことを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の大根粉末の製造方法。
【請求項9】
上記乾燥する工程は、真空凍結乾燥によって乾燥する工程である
ことを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の大根粉末の製造方法。
【請求項10】
請求項3、4、6または7に記載した製造方法による大根粉末を、食品に混合若しくは塗布、またはこの食品の収納容器内に封入する
ことを特徴とする食品の抗菌、除菌及び保存方法。
【請求項11】
請求項3、4、6または7に記載した製造方法による大根粉末を含む
ことを特徴とするヘリコバクターピロリ菌の抗菌及び除菌食材。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate


【公開番号】特開2012−60995(P2012−60995A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−177799(P2011−177799)
【出願日】平成23年8月16日(2011.8.16)
【出願人】(304036743)国立大学法人宇都宮大学 (209)
【出願人】(599047479)コーデックケミカル株式会社 (2)
【Fターム(参考)】