説明

大電流シングルエンド直流加速器

【課題】陽子、重陽子又はヘリウムイオンからなる大電流、高エネルギーイオンビームを生成するためのシングルエンド直流線形加速器を提供する。
【解決手段】加速器は、高電圧ターミナル4内に配置されたイオンビーム7を生成するイオン源6と、イオンビーム7を精製するための分析磁石19と、加速管3と、重要なイオンを高エネルギーに加速する直流高電圧電源と、イオン源6からの中性ガスの大部分を接地電位の真空ポンプ18に向けて輸送するポンプ輸送管17とを備えており、それにより加速管3内における大きい真空圧力の悪影響を防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野および背景技術】
【0001】
本発明はシングルエンド静電直流線形粒子加速器に関する。かかる加速器は周知であり、メガ電子ボルトの電子及びイオンを生成するために50年以上にわたって商用的に利用されている。それらが今日まで継続して幅広く使用されている主な理由は、数十キロ電子ボルトから最大数十メガ電子ボルトまでの広い範囲にわたって粒子エネルギーを容易に変化させることができ、その非平行鮮鋭エネルギー定義及びビーム品質並びにそれらの比較的単純な動作原理によるものである。初期の加速器は、高電圧直流電位を隔離するために加圧ガスを含んだ容器の中に構築された。可動ベルトがその表面に吹き付けられる電荷をターミナルに向けて絶えず輸送し、それによりターミナルを高電圧電位に維持している。これらのベルト駆動直流線形静電加速器は、それらの発明者R.J.Van de Graaffの名前から名付けられ、一般的には1mA未満の限られた電流能力を有している。
【0002】
メガ電子ボルト直流線形加速器のビーム電流能力は、機械式ベルト駆動高電圧電源を電子電源に変更することによって数mAまで大きくなった。メガボルト直流線形加速器のために印加されるこのような純粋な電子電源で最も成功している例は、恐らくいわゆるダイナミトロン電源であろう。ダイナミトロン型電源は、今日の規格及び直列結合倍率器縦続による高電圧生成の広範囲にわたる手法とのそれらの類似性を示すために、しばしば並列結合倍率器縦続と呼ばれている。直列結合倍率器縦続高電圧電源は、加速器と共に、それらの発明者J.D.Cockcroft及びE.T.S.Waltonの名前を取ってしばしばコッククロフト−ウォルトン型電源と呼ばれている。
【0003】
電子加速器の場合、ダイナミトロンの進行中の開発により、極めて強力で、且つ、大電流の機械がもたらされた。今日、ダイナミトロンをベースとする多くの電子加速器は、様々な産業用途に役立つべく数十mAの電子ビーム強度及び100kWを超えるビーム電力を紋切り型に提供している。
【0004】
様々な用途及び相当な努力によって成長し続ける需要にもかかわらず、大電流直流電源及び高強度イオン源の利用可能性が数十mAの強度で数メガ電子ボルトのイオンビームの利用可能性をもたらすであろうという初期の高い期待は、けっして達成されなかった。これらの用途の例には、天体物理学及び癌治療における研究がある。今日、H、D或いはHeの高強度イオンビームを利用することができる、癌治療(そのうちのBNCTは最良の例であろう)、サイクロトロン注入、例えば太陽電池を製造するためのシリコンクリービング、半導体デバイスにおけるイオン打込み、及び例えば爆薬を検出するためのNRAを始めとするさらに広範囲にわたる用途が存在している。
【0005】
簡単に述べるならば、ビーム電流が大きくなる進歩が停止した理由は、次のように説明することができる。イオン源からの一次ビーム電流を大きくすると、そのためにこれらのイオン源からより多くの中性ガスが不可避的に放出される。イオン源からのこの中性ガスによって、一次イオンビームを加速する加速管内の真空圧力が高くなる。この加速管の内側での一次イオンビームと中性ガス原子又は分子の相互作用により、いくつかの望ましくない効果がもたらされる。
【0006】
第1に、中性ガスのイオン化によって加速管内に荷電粒子(イオン及び電子)が生成され、これらの荷電粒子が加速管内の静電界によって加速される。これらの荷電粒子は、最終的には加速管の電極に到達し、その電界分布を反転させることになる。電界分布のこの反転により、延いては加速管の安定性及び電圧保持能力に影響を及ぼすことになり、恐らくは全高電圧破壊に至ることになる。
【0007】
第2に、中性ガス原子によって一次粒子が散乱し、そのために加速管内における一次粒子の方向が変化し、したがって一次イオンの一部が最終的には加速管の電極に到達する。加速管の電圧保持能力が低下する第2の原因は、これによるものである。
【0008】
ビーム電流能力を制限していたこれらの障害については、長きにわたって理解され、また、うまく記述されている。例えば米国特許出願公開第2010/0033115号及びその中の参考文献を参照されたい。
【0009】
他の参考文献は、
B. Cleff、W.−H. Schulte、H. Schulze、W. Terlau、R. Koudijs、P. Dubbelman及びH.J. Petersの「A new 2 MV single−ended ion accelerator for ion implantation」、Nucl. Instr. and Meth. in Phys. Res. B6(1985)46〜50頁、及び
A. Gottdang、D.J.W. Mous及びR.G. Haitsmaの「The novel HVEE 5 MV TandetronTM」、Nucl. Instr. and Meth. in Phys. Res. B190(2002)177〜182頁である。
【0010】
イオンビーム電流を大きくすることを妨げていた物理的現象を理解することにより、根本的な問題に対処した新しい加速器の設計が動機付けられた。これらの設計には、高電圧ターミナル内への真空ポンプ及び真空絞りの組込み、加速に先立つ、重要なイオンのみが加速されることを保証するための質量分析、及び一次イオンビーム電流と中性ガスの放出との間の比率を最適化するための、イオン化効率が高いイオン源の適用が含まれている。真空ポンプ及び質量分析を高電圧ターミナル内に備えた直流線形加速器には多くの例があり、例えばB. Cleff、W.−H. Schulte、H. Schulze、W. Terlau、R. Koudijs、P. Dubbelman及びH.J. Petersの「A new 2 MV single−ended ion accelerator for ion implantation」、Nucl. Instr. and Meth. in Phys. Res. B6(1985)46〜50頁、及び上で言及した米国出願を参照されたい。
【0011】
技術的な機能に関する理由とは別に、ターミナル内に真空ポンプを有する構造は、蓄積したガスを周期的に再生させる必要があり、そのためには時間がかかり、システムの中断時間が余儀なくされることになる点で実際的な欠点である。
【0012】
上で説明した努力にもかかわらず、数十mAの電流に向かった、なるほどと思わせるような明らかなブレークスルーは示されていない。このようなブレークスルーにより、直流線形加速器のこれまでに言及されている多くの方向における応用の分野がさらに広がることであろう。一例として、ビーム電流能力がおよそ20mAの2〜3メガ電子ボルト陽子加速器システムの利用可能性は、このような大ビーム電流によって許容可能限度内の治療継続期間が得られるため、ホウ素中性子捕獲治療(BNCT)の臨床応用を可能にするものと思われる。電流をより大きくするための鍵は、加速管内の真空圧力を低くすることであるとされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の主な目的は、大電流イオン源から不可避的に放出されるガスが、加速管内に流入してしまう前に効果的にポンプ輸送される大電流(5mAより大きい)加速器システムを提供することである。結果として得られる、この加速管内の低真空圧力によって、加速されるべき大電流ビームがサポートされる。
【0014】
本発明の他の目的は、システムの中断時間を最短化するために、ターミナル内の真空ポンプの時間のかかる定期再生の必要性を回避することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
5mAを超えるメガ電子ボルトイオンビームを生成することができるダイナミトロン型電源から電力を供給することができる直流シングルエンド線形加速器が開示される。そのために、一次イオンビームを生成するためのイオン源は、該イオン源の高電圧ターミナル内に配置されている。イオン源として動作するためには時間のかかるタンク開放が必要であり、そのためには加速器の中断時間が余儀なくされるため、適切なイオン源は、保守が容易で、且つ、寿命が長くなければならない。よく知られている、広く利用することができるイオン源には、デュオプラズマトロン、マイクロ波イオン源又はECRイオン源を含むことができる。高電圧ターミナルは、真空エンクロージャをさらに備えており、この真空エンクロージャの中でイオン源からの大電流イオンビームが加速管に向かって輸送され、また、この真空エンクロージャの中には、望ましくない汚染物質を一次イオンビームから除去するための質量分析器が収納されている。質量分析器は、該質量分析器が、イオン源から放出される発散ビームを集束させて収斂ビームにするレンズのように同じく作用するように構成することができる。この方法によれば、質量分析後、ビーム焦点即ち「ウエスト」が生成される。質量分析器は、必要な集束を提供するための適切な形状の磁極を有する90度双極子磁石であってもよい。この構造によれば、小さいサイズの開口を備えたプレート又は壁の形態の真空絞りをビーム焦点の位置に置くことができる。開口は、質量分析されたイオンビームを加速管に向かって通過させることができ、また、それと同時に中性ガスが加速管に流入するのを阻止することができる。高電圧ターミナル内の真空エンクロージャと接地電位の真空ポンプの間には、全加速器高電圧に耐えることができる個別ポンプ輸送管が接続されている。イオン源からの中性ガスは、真空エンクロージャを介して、ポンプ輸送管を通って接地電位に向かって流れることができ、そこで中性ガスは、真空ポンプによってシステムからさらに除去される。
【0016】
以下、本発明及びその付随物の他の利点について、図面を参照しより詳細に説明するが、様々な図において、同様の部品には同様の番号が振られている。これらの図には、本発明を図解することが意図されているが、本発明の範囲を限定することは一切意図されていない。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】真空ポンプ及び質量分析器をそのターミナル内に有する、知られている粒子加速器を示す図である。
【図2】本発明による加速器システムの好ましい実施形態を示す図である。
【図3】本発明による好ましい実施形態の高電圧ターミナルの詳細を示す図である。
【図4】本発明による代替実施形態の高電圧ターミナルの詳細を示す図である。
【図5】本発明による加速器システムの代替実施形態を示す図である。
【従来技術の説明】
【0018】
図1は、知られている加速器の実施形態を示したものである。スチール容器(1)には、数バールの圧力の絶縁ガスが含まれており、また、スチール容器(1)は、図1に概略的に示されている加速コラム(2)、加速管(3)及び適切な高電圧直流電源(5)によって最大数MVの高電圧に維持されるターミナル(4)をさらに備えている。ターミナル内ではガスがイオン源(6)に供給され、イオン源(6)の中は、イオン化された粒子からなる低圧プラズマが維持されている。プラズマチャンバ内の微小抽出孔を介して、静電界によってイオンが抽出され、「イオンビーム」(7)と呼ばれるイオン化された粒子の明瞭な流れが形成される。イオンビームとは別に、中性ガスがプラズマチャンバから真空エンクロージャ(即ちマニホルド)(8)内へ流入する。直流線形加速器の中で一般に適用されるイオン源は、3〜30%程度のイオン化効率を有することは知られている。したがってイオンビームの形成に寄与するのは、イオン源に供給されるガスのごく一部にすぎず、そのため、必要な真空レベルを維持するためにはガスの大部分をポンプで除去しなければならない。図1の実施形態では、これは、高電圧ターミナル(4)内のイオン源(6)の近傍に配置されている真空ポンプ(9)によって達成されている。抽出後、一次イオンビーム(7)は、そのサイズを制御し、且つ、その伝送を最適化するために、アインツェルレンズなどのイオン−光レンズ(10)によって集束される。加速管(3)内への注入の前に、イオンビームは、一次イオンビーム(7)から汚染物質を除去し、これらの望ましくない粒子の加速を防止する質量分析器(11)を通過する。このような質量分析器(11)は、しばしばウィーンフィルタと呼ばれているExBフィルタの形態であっても、或いは曲げ磁石の形態であってもよい。レンズ(10)及び質量分析器(11)の後段で、且つ、加速管の前段に、加速管(3)に向かうビームの通過を許容する開口又はオリフィスを中に有する、一般的にはプレート又は壁の形態の真空絞り(12)が配置されている。この方法によれば、中性ガスの大部分は、加速管(3)に流入する代わりに真空ポンプ(9)への道を見い出すことになる。この方法によれば、加速管(3)内の圧力が低レベルに維持される。ビームは、真空絞り(12)の後段で加速管(3)の中に注入され、メガ電子ボルトのエネルギーで加速器から射出する前に、この加速管(3)の中で加速される。加速管(3)は、絶縁リングによって互いに分離された複数の導電電極からなっており、本質的に軸方向に導かれる、イオンビームをその軸に沿って加速する働きをする静電界を提供している。加速管(3)内の真空は、接地電位(13)の真空ポンプによって低レベルに維持される。図1の実施形態及びその変形形態はよく知られており、大ビーム電流の要求事項に必ずしも完全に関連していないとしても、また、ビーム純度要求事項に必ずしも完全に関連していないとしても、加速管の電圧保持能力及び寿命に対する加速管内の高真空圧力の悪影響を最小化するために、文献に詳細に記述されている。例えば上で言及したCleffらの刊行物を参照されたい。
【0019】
真空の観点からすると魅力的ではあるが、図1の構成には、アインツェルレンズ及びExB質量分析器のような静電エレメントが使用されており、これらの静電エレメントは、大電流イオンビームの有効な輸送に対して有害な影響を及ぼすことが分かっており、したがって図1の構成は、大電流イオンビーム輸送のためには欠点があることは当業者には容易に認識されよう。そればかりではなく、高電圧ターミナル内に配置される真空ポンプは、真空ポンプが集めるガスを保存しなければならないことになる。したがって選択されるポンプのタイプに無関係に、時間がかかり、システムの中断時間が余儀なくされることになる蓄積ガスの周期的な再生が必要である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
上記の欠点を克服するために、図2に示されている代替構成が提案されている。
【0021】
スチール容器(1)には、数バールの圧力の絶縁ガスが含まれており、また、スチール容器(1)は、加速コラム(2)、加速管(3)及び高電圧電源によって最大数MVの高電圧に維持されるターミナル(4)をさらに備えている。この例では、高電圧は、好ましい実施形態の電源であるダイナミトロン型電源によって生成されているが、コッククロフト−ウォルトン電源及び磁気結合高電圧直流電源を含んだ代替も可能である。ダイナミトロン型電源の動作原理は、次のように簡潔に説明することができる。半円筒状の形状を有する2つのダイノード(14)が、典型的には20〜200kVの正弦波RF電圧によって励起される。このRF電圧が三日月形コロナリング(15)に容量結合される。整流器アセンブリ(16)は、対向するコロナリング(15)の間に置かれており、また、加速器コラム(2)の長さに沿って高電圧ターミナルの方向に直線的に高くなる、本質的に直流の高電圧を生成するために直列に接続されている。このタイプの電源は広く適用されており、その技術的な詳細はよく理解されている。このタイプの電源は、数十年にわたっていくつかの異なる製造者から商用的に役に立っている。例えばA. Gottdang、D.J.W. Mous及びR.G. Haitsmaの「The novel HVEE 5 MV TandetronTM」、Nucl. Instr. and Meth. in Phys. Res. B190(2002)177〜182頁、及び上で言及した米国出願並びにその中の参考文献を参照されたい。
【0022】
本発明による加速器の場合、図3を参照すると、高電圧ターミナル(4)は、少なくとも、一次イオンビーム(7)が抽出される抽出孔を有するイオン源(6)と、何らかの種類の真空エンクロージャ(即ちマニホルド)(8)であって、この中でイオン源(6)からのイオンビーム(7)が加速器管(3)の入口へ輸送される真空エンクロージャ(8)と、ビームを精製するために一次イオンビーム(7)を質量分析するための手段と、真空エンクロージャ(8)内を十分に低い真空圧力レベルに維持するための手段と、加速管(3)内へのガスの流入を最少化するための低コンダクタンス真空絞り(12)とを備えている。
【0023】
設計を成功させるためにはいくつかの問題を考慮しなければならない。
【0024】
第1に、必要な大電流(少なくとも5mA)イオンビーム(7)は、イオン源(6)から加速管(3)の入口までのイオンビーム(7)の輸送中、空間電荷補償が維持されることを委ねていることは当業者には容易に認識されよう。空間電荷補償によって(負の)電子によるビームエンベロープ(包囲体)への滞留が許容され、したがってこれらの電子によってイオンビームの電荷が補償されるため、ビーム中の(正の)イオン間の斥力が相殺される。そのため、延いては斥力が小さくなる。これらの斥力の相殺により、ビームのブローアップが防止され、したがって有効なビーム輸送のためには有利である。空間電荷補償の保持は、より大きいビーム電流ではますます重要になっている。空間電荷補償は、アインツェルレンズ及びExB質量分析器のような静電コンポーネントの使用を排他することは当業者に知られている。
【0025】
第2に、本発明の場合、その本質は、イオン源(6)と加速管(3)の入口との間に配置される、イオンビームの通過を許容する開口又はオリフィスを有するプレート又は壁の形態の真空絞り(12)が、加速管(3)の中へ流入するガスの量を最少化するのに有効であることにある。これは、開口又はオリフィスの面積が小さい場合に達成されるが、真空絞り(12)の形態が、図3に示されているように直径が小さく、且つ、ビームを伝送するには十分な大きさの管であり、また、それと同時にガスを有効に阻止するだけの細さ及び長さの管である場合に最適に達成される。真空絞り(12)の位置におけるビームサイズを小さくすることにより、小さい真空コンダクタンスの達成が促進されることは明らかである。
【0026】
本発明の好ましい実施形態では、ガスを有効に阻止するための、空間電荷補償ビーム輸送をサポートし、且つ、真空絞り(12)の位置における小さいビームサイズをサポートする構成の要求事項は、強力集束磁石双極子(19)によって達成される。磁極の半径、屈折率、曲げ角度及び幾何構造を適切に選択し、且つ、設計することにより、分析双極子磁石(19)は、ビームを集束させることができ、また、真空絞り(12)の位置にサイズが小さいビームを生成することができることはよく理解されている。質量分析のための要求事項を満足するには、例えば30°の比較的小さい曲げ角度でも場合によっては十分であること、しかしながら、曲げ磁石の集光力は曲げ磁石の曲げ角度と共に大きくなるため、必要な強力集束作用を達成するためには実質的により大きい曲げが場合によっては必要であることは当業者には容易に認識されよう。したがって本発明の好ましい実施形態による磁石の曲げ角度は少なくとも45°であるが、最適には曲げ角度は、図3に示されているように90°である。当業者には、イオン源(6)の抽出孔における小さいビームサイズが90°双極子磁石(19)の下流側の微小焦点即ち「ビームウエスト」に結像されるこのイオン光構成が容易に認識されよう。したがってこのセットアップによれば、通常、イオン源(6)のプラズマチャンバ内の抽出孔の直径と比較して、真空絞り(12)中の開口の直径を小さくすることができるが、いずれの場合においても2倍未満にすることができる。好ましい実施形態では、真空絞り(12)は、図3に示されているように、場合によってはビームのエンベロープを従うテーパが付けられた小さいサイズの管の形態で構築されている。真空絞り(12)は低真空コンダクタンスを有しており、加速管(3)の方向のガスを効果的に阻止する。
【0027】
図4は、本発明に従って適用することができる一代替構成を示したものである。このセットアップでは、イオン源(6)と加速管(3)の間に焦点を形成するために必要な集光力は、追加磁気レンズ(20)によって達成される。磁気四重極双極子又は磁気四重極三極子(一般に四重極多極子と呼ばれている)を使用して、或いはソレノイドを使用して必要な集束作用を得ることも可能である。図4では、磁気レンズは磁気双極子の前段に置かれているが、レンズ(20)及び双極子磁石(19)の位置は、本質的に同じ機能を維持しつつ、互いに交換が可能である。
【0028】
本発明による加速器の場合、イオン源(6)からの中性ガスのポンプ輸送は特殊な構造を有している。従来技術の特徴である、高電圧ターミナル(4)内の真空エンクロージャ(8)の上に真空ポンプを直接取り付ける代わりに、図2に示されているように、高電圧のイオン源(6)と、接地電位か或いはほぼ接地電位の真空ポンプ(18)との間に専用ポンプ輸送管(17)が配置されている。イオン源(6)からのガスは、高電圧で配置されている真空エンクロージャ(8)及びポンプ輸送管(17)の入口を介して、接地電位か或いはほぼ接地電位のポンプ輸送管(17)の出口に向かって輸送され、最終的には、加速器主容器(1)の外側の真空ポンプ(18)によってその出口を介してシステムから除去される。これは、明らかに、ポンプ輸送管(17)は、加速管(3)と同様、全加速器高電圧に耐えることができなければならないことを意味している。実際、ポンプ輸送管を追加することにより、2つの個別の管が生成されており、それらの両方が全高電圧に耐えることができなければならないが、それらの各々は、独自の機能及び要求事項を有している。加速管(3)は、大電流イオンビームを輸送することができ、イオン化及び他の望ましくない物理現象をうまく処理することができ、また、ポンプ輸送管(17)は、ガスを接地電位の真空ポンプへ向けて、最小の絞りで有効に輸送するために最適真空コンダクタンスを有している。この場合、加速管(3)及びポンプ輸送管(17)は、いずれも、それらの個々の役割のためにより少ない制約で最適化することができ、したがって総合システム性能が向上する。
【0029】
本発明による構成の他の利点は、このような外部取付けポンプのために一般的により広い空間を利用することができ、また、加圧環境でポンプを動作させる必要がないため、使用すべき真空ポンプの寸法及びタイプに関して、より広範囲にわたる選択の自由が得られることである。さらに、システムの中断時間が余儀なくされることになる真空ポンプの再生も、もはや不要である。
【0030】
図2の好ましい実施形態では、加速管(3)及びポンプ輸送管(17)は、互いに近くに、並列に取り付けられている。しかしながら他の構成も十分に可能である。例えば図5は一代替加速器構成を示したもので、加速管(3)及びポンプ輸送管(17)は、互いに反対側に、本質的に1つの共通軸上に一直線で取り付けられている。
【0031】
開示されている本発明には、当業者には明らかであろう様々な修正、調整及び用途が存在しており、したがって本出願には、このような実施形態を包含することが意図されている。したがって、本発明は特定の好ましい実施形態の文脈で説明されているが、これらのすべての範囲は、以下の特許請求の範囲を参照することによって判断されることが意図されている。
【符号の説明】
【0032】
1 スチール容器(加速器主容器)
2 加速コラム(加速器コラム)
3 加速管
4 ターミナル
5 高電圧直流電源
6 イオン源
7 イオンビーム
8 真空エンクロージャ
9、18 真空ポンプ
10 イオン−光レンズ
11 質量分析器(磁気分析器)
12 真空絞り(真空絞り手段)
13 接地電位
14 ダイノード
15 コロナリング
16 整流器アセンブリ
17 ポンプ輸送管
19 磁石双極子(双極子磁石)
20 追加磁気レンズ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大電流(>5mA)、高エネルギー(>500keV)のイオンビーム(7)を生成することができる加速器システムであって、
絶縁リングによって分離された複数の電極からなる加速管(3)であり、その軸に沿って前記イオンビーム(7)を加速する役割を果たす、本質的に軸方向に導かれる静電界を形成する、加速管(3)と、
前記加速管(3)のための前記静電界を生成するために必要な高電圧電位を提供するための高電圧直流電源(5)と、
前記高電圧電位で配置された、その抽出孔から出現する前記イオンビーム(7)を生成するためのイオン源(6)と、
前記イオン源(6)と前記加速管(3)を接続している真空エンクロージャ(8)と、
前記イオン源(6)と前記加速管(3)との間に配置された、前記イオンビーム(7)中の望ましくない汚染物質を除去するための磁気分析器(11)と、
低電圧で配置された、前記イオン源(6)から放出される中性ガスをポンプ輸送し、前記加速管(3)内へのこの中性ガスの流入を防止するための真空ポンプ(18)と
を備える加速器システムにおいて、
一方の端部で高電圧の前記真空エンクロージャ(8)に接続され、他方の端部で低電圧の前記真空ポンプ(18)に接続された、前記イオン源(6)から前記真空ポンプ(18)へ前記中性ガスを輸送するためのポンプ輸送管(17)をさらに備えることを特徴とする、加速器システム。
【請求項2】
前記低電圧が接地電位であることを特徴とする、請求項1に記載の加速器システム。
【請求項3】
前記高電圧直流電源(5)がダイナミトロン型電源であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の加速器システム。
【請求項4】
前記イオン源(6)がデュオプラズマトロン、マイクロ波イオン源又はECRイオン源であることを特徴とする、請求項1、2又は3に記載の加速器システム。
【請求項5】
前記イオン源(6)から放出される前記中性ガスの前記加速管(3)への流入をさらに少なくするために、前記イオン源(6)と前記加速管(3)の入口との間に配置された真空絞り手段(12)をさらに備えることを特徴とする、請求項1、2、3又は4に記載の加速器システム。
【請求項6】
前記真空絞り手段(12)が、前記イオンビーム(7)が通過するための開口を有するプレート又は壁の形態であることを特徴とする、請求項5に記載の加速器システム。
【請求項7】
前記真空絞り手段(12)が、直径が前記イオン源(6)の前記抽出孔の直径の2倍未満の管の形態であることを特徴とする、請求項5に記載の加速器システム。
【請求項8】
前記管が、前記イオンビーム(7)のエンベロープを従える、テーパが付けられた壁を有することを特徴とする、請求項7に記載の加速器システム。
【請求項9】
前記磁気分析器(11)が双極子磁石(19)からなることを特徴とする、請求項5〜8のいずれか一項に記載の加速器システム。
【請求項10】
前記双極子磁石(19)が45°〜120°の曲げ角度を有することを特徴とする、請求項9に記載の加速器システム。
【請求項11】
前記双極子磁石(19)が90°の曲げ角度を有することを特徴とする、請求項9に記載の加速器システム。
【請求項12】
前記真空エンクロージャ(8)が、前記双極子磁石の両側に配置された磁気レンズ(20)をさらに備えることを特徴とする、請求項9に記載の加速器システム。
【請求項13】
前記磁気レンズが磁気四重極多極子又は磁気ソレノイドであることを特徴とする、請求項12に記載の加速器システム。
【請求項14】
前記磁気分析器(11)の集束特性によって、前記磁気分析器(11)と前記加速管(3)の前記入口との間に焦点が生成されることを特徴とする、請求項9〜13のいずれか一項に記載の加速器システム。
【請求項15】
前記磁気分析器(11)によって生成される前記焦点と前記真空絞り手段(12)が一致することを特徴とする、請求項14に記載の加速器システム。
【請求項16】
重要な前記高エネルギーイオンビーム(7)が、陽子、重陽子又はヘリウムイオンからなることを特徴とする、請求項1〜15のいずれか一項に記載の加速器システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−164660(P2012−164660A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−25220(P2012−25220)
【出願日】平成24年2月8日(2012.2.8)
【出願人】(512032434)ハイ ボルテージ エンジニアリング ヨーロッパ ビー.ブイ. (1)
【Fターム(参考)】