説明

天然繊維強化ポリ乳酸樹脂組成物及びこれを利用した成形品

【課題】耐加水分解性、機械的強度及び耐熱性に優れた物性バランスを有する天然繊維強化ポリ乳酸樹脂組成物を提供する。
【解決手段】(A)第1ポリ乳酸樹脂50〜95質量%;及び(B)第2ポリ乳酸樹脂で表面処理された天然繊維5〜50質量%;を含み、前記第2ポリ乳酸樹脂は、前記第1ポリ乳酸樹脂と互いに異なる異性体を含む、天然繊維強化ポリ乳酸樹脂組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然繊維強化ポリ乳酸樹脂組成物及びこれを利用した成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
最近までの高分子材料の研究方向は、強靭な特殊用高分子材料の開発及び高分子物質の安全性に関するものが主に先導してきた。
【0003】
しかし、全世界的に廃高分子による環境汚染の問題が社会問題として台頭したため、環境親和性高分子材料の必要性が要求されている。環境親和性高分子は、大きく、光分解性高分子及び生分解性高分子に分類される。環境の中で完全な生分解性を有する高分子材料は、主鎖構造で、微生物による分解が可能な官能基が含まれている。この中で、脂肪族ポリエステル高分子は加工性が優れており、分解特性の調節が容易であるので最も多く研究されているが、特に、ポリ乳酸(PLA)の場合、全世界に7万トン規模の市場を形成しており、食品包装材及び容器、電子製品ケースなどの一般プラスチックが使用されていた分野までその適用範囲が拡大されている。現在までポリ乳酸樹脂の主な用途は、ポリ乳酸の生分解性の特性を利用した使い捨て製品、例えば、食品容器、ラップ、フィルムなどであった。ポリ乳酸は現在、米国のNatureworks社で生産中である。
【0004】
しかしながら、従来のポリ乳酸樹脂は、成形性、機械的強度、及び耐熱性が劣るため、薄膜製品の場合、破損し易く、温度に対する抵抗性が低く、外部温度が60℃以上に上昇すると製品の形態に変形が起こる問題がある。また、ポリ乳酸は、耐加水分解性が低いため、高温高湿の環境下では48時間以上の耐性を示さず、分解されてしまうという短所がある。
【0005】
一方、L−ポリ乳酸とD−ポリ乳酸とを溶融混合すれば結晶性が向上するため、L−ポリ乳酸またはD−ポリ乳酸を単独で使用した場合に比べて耐熱性及び機械的強度などの物性が遥かに向上する。
【0006】
このようなL−ポリ乳酸及びD−ポリ乳酸の混合形態をステレオコンプレックスと呼ぶ。このようなステレオコンプレックスを利用した物性向上は、下記非特許文献1〜3および下記特許文献1〜6で提案されている。このうち、特許文献5には、ステレオコンプレックスとガラス繊維とを用いたガラス繊維補強方法が開示されており、特許文献6には、ステレオコンプレックスと天然繊維とを用いた天然繊維補強方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−187630号公報
【特許文献2】特開2003−096285号公報
【特許文献3】特開2000−017163号公報
【特許文献4】特開2007−045915号公報
【特許文献5】特開2006−265486号公報
【特許文献6】特開2006−045428号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Macromolecules 20,904(1987)
【非特許文献2】Macromolecules 28,5230(1995)
【非特許文献3】Macromolecules 26,6918(1993)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来提案されたステレオコンプレックス組成物は十分な性能を有しておらず、前記特許文献5に提示されたガラス繊維補強方法は、強性向上の効果は優れているが、バイオマス含量が低くなるという短所がある。
【0010】
また、前記特許文献6に提示された天然繊維補強方法は、天然繊維とポリ乳酸との接着力が十分でないため、満足できる性能を示さない。この方法は、ポリ乳酸と天然繊維とを単純混合して用いるため、天然繊維自体の欠陥と、天然繊維とポリ乳酸樹脂との間の界面での接着性が十分ではない点を考慮すると、機械的強度などの物性向上は期待し難い。
【0011】
そこで本発明は、耐加水分解性、機械的強度及び耐熱性の優れた物性バランスを有する天然繊維強化ポリ乳酸樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、(A)第1ポリ乳酸樹脂50〜95質量%;及び(B)第2ポリ乳酸樹脂で表面処理された天然繊維5〜50質量%;を含み、前記第2ポリ乳酸樹脂は、前記第1ポリ乳酸樹脂と互いに異なる異性体を含む、天然繊維強化ポリ乳酸樹脂組成物を提供する。
【0013】
本発明はまた、(A)第1ポリ乳酸樹脂50〜95質量%;及び(B)第2ポリ乳酸樹脂で表面処理された天然繊維5〜50質量%;を含み、240℃から結晶化温度まで急冷した後、等温条件で観察時、スフェルライト結晶が、前記天然繊維の表面で、前記天然繊維の表面以外の部分よりも先に形成され、成長速度がより速い、天然繊維強化ポリ乳酸樹脂組成物を提供する。
【0014】
前記結晶化温度は100〜180℃でありうる。また、前記スフェルライト結晶は、好ましくは、ステレオコンプレックススフェルライト結晶であり、前記結晶化温度は、好ましくは、140〜180℃である。
【0015】
前記第1ポリ乳酸樹脂及び前記第2ポリ乳酸樹脂は、好ましくは、それぞれ、L−ポリ乳酸(PLLA)樹脂、D−ポリ乳酸(PDLA)樹脂、L,D−ポリ乳酸樹脂、及びこれらの組み合わせからなる群より選択される。前記L−ポリ乳酸(PLLA)樹脂は、好ましくは、L−乳酸から誘導される繰り返し単位を95質量%以上含む。前記D−ポリ乳酸(PDLA)樹脂は、好ましくは、D−乳酸から誘導される繰り返し単位を95質量%以上含む。
【0016】
前記第2ポリ乳酸樹脂で表面処理された天然繊維は、例えば、前記天然繊維の表面に前記第2ポリ乳酸樹脂をその場(in−situ)合成して得られる。または、前記第2ポリ乳酸樹脂及び前記天然繊維をバッチ型ミキサーを用いて、溶融混合して得られうる。他の方法としては、連続含浸装置を用いて、前記天然繊維の表面に前記第2ポリ乳酸樹脂を含浸させて調製されうる。
【0017】
前記第2ポリ乳酸樹脂で表面処理された天然繊維は、好ましくは、前記第2ポリ乳酸樹脂と前記天然繊維とが1:0.1〜1:10(第2ポリ乳酸樹脂:天然繊維)の質量比を有する。
【0018】
前記天然繊維は、好ましくは靭皮繊維である。また、好ましくは、セルロースを70質量%以上含む。さらに、好ましくは、平均長さが0.01〜100mmであり、好ましくは、平均直径が0.001〜50μmである。
【0019】
本発明の天然繊維強化ポリ乳酸樹脂組成物は、前記(A)第1ポリ乳酸樹脂と前記(B)第2ポリ乳酸樹脂で表面処理された天然繊維との総量100質量部に対して衝撃補強剤0.01〜30質量部をさらに含んでもよい。前記衝撃補強剤は、好ましくは、オレフィン系ゴムに無水マレイン酸、メタクリル酸グリシジル、オキサゾリン、及びこれらの組み合わせからなる群より選択される反応性基がグラフトされた反応性オレフィン系共重合体;ゴム質重合体に不飽和化合物がグラフトされたコアシェル共重合体;及びこれらの混合物からなる群より選択される。
【0020】
前記天然繊維強化ポリ乳酸樹脂組成物は、耐加水分解剤、難燃剤、難燃補助剤、有機補強剤、無機補強剤、抗菌剤、熱安定剤、酸化防止剤、離型剤、光安定剤、相溶化剤、無機物添加剤、界面活性剤、カップリング剤、可塑剤、混和剤、安定剤、滑剤、静電気防止剤、防炎剤、耐朽剤、着色剤、紫外線遮断剤、充填剤、核形成剤、接着調剤、粘着剤、及びこれらの混合物からなる群より選択される1以上の添加剤をさらに含んでもよい。
【0021】
前記天然繊維強化ポリ乳酸樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ナイロン系樹脂、ゴム変性ビニル系グラフト共重合体樹脂、ポリアセタール、ポリメチルメタクリレート、及びこれらの組み合わせからなる群より選択される1以上の熱可塑性樹脂をさらに含んでもよい。
【0022】
本発明はまた、前記天然繊維強化ポリ乳酸樹脂組成物を用いて製造される成形品を提供する。
【発明の効果】
【0023】
本発明の一実施形態による天然繊維強化ポリ乳酸樹脂組成物は、耐加水分解性、機械的強度及び耐熱性に優れた物性バランスを有することにより、自動車部品、機械部品、電機電子部品、コンピュータなどの事務機器、雑貨等に有用に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1A】本発明の一実施形態による天然繊維強化ポリ乳酸樹脂組成物を示す概略図である。
【図1B】本発明の一実施形態による天然繊維強化ポリ乳酸樹脂組成物を示す概略図である。
【図1C】本発明の一実施形態による天然繊維強化ポリ乳酸樹脂組成物を示す概略図である。
【図1D】本発明の一実施形態による天然繊維強化ポリ乳酸樹脂組成物を示す概略図である。
【図1E】本発明の一実施形態による天然繊維強化ポリ乳酸樹脂組成物を示す概略図である。
【図1F】本発明の一実施形態による天然繊維強化ポリ乳酸樹脂組成物を示す概略図である。
【図1G】本発明の一実施形態による天然繊維強化ポリ乳酸樹脂組成物を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。ただし、これは例示として提示されるものであって、本発明は以下の実施形態によって制限されない。
【0026】
本明細書で特別な言及がない限り、「(メタ)アクリレート」は、「アクリレート」および「メタクリレート」の両方を含むことを意味する。また、「(メタ)アクリル酸アルキルエステル」は、「アクリル酸アルキルエステル」および「メタクリル酸アルキルエステル」の両方を含むことを意味し、「(メタ)アクリル酸エステル」は、「アクリル酸エステル」および「メタクリル酸エステル」の両方を含むことを意味する。
【0027】
本発明の一実施形態による天然繊維強化ポリ乳酸樹脂組成物は、(A)第1ポリ乳酸樹脂、および(B)第2ポリ乳酸樹脂で表面処理された天然繊維を含む。
【0028】
以下、本発明の一実施形態による天然繊維強化ポリ乳酸樹脂組成物に含まれる各成分について具体的に説明する。
【0029】
(1)第1ポリ乳酸樹脂及び第2ポリ乳酸樹脂
一般に、生分解性樹脂であるポリ乳酸樹脂は、とうもろこしデンプンを分解して得られた乳酸をモノマーとして、エステル反応によって製造されるポリエステル系樹脂であって、商業的入手が容易である。
【0030】
前記第1ポリ乳酸樹脂及び前記第2ポリ乳酸樹脂は、好ましくは、各々、L−ポリ乳酸(PLLA)樹脂、D−ポリ乳酸(PDLA)樹脂、L,D−ポリ乳酸樹脂、及びこれらの組み合わせからなる群より選択される。
【0031】
前記L−ポリ乳酸(PLLA)樹脂は、例えば、L−乳酸から誘導される繰り返し単位95質量%以上、及びD−乳酸から誘導される繰り返し単位5質量%以下を含む。好ましくは、L−乳酸から誘導される繰り返し単位98〜99.99質量%、及びD−乳酸から誘導される繰り返し単位0.01〜2質量%を含む。また、前記D−ポリ乳酸(PDLA)樹脂は、例えば、D−乳酸から誘導される繰り返し単位95質量%以上、及びL−乳酸から誘導される繰り返し単位5質量%以下を含む。好ましくは、D−乳酸から誘導される繰り返し単位98〜99.99質量%、及びL−乳酸から誘導される繰り返し単位0.01〜2質量%を含む。L−ポリ乳酸樹脂及びD−ポリ乳酸樹脂が各々、L−乳酸から誘導される繰り返し単位95質量%以上、及びD−乳酸から誘導される繰り返し単位95質量%以上を含む場合、耐熱性、成形性、及び耐加水分解性の優れた物性バランスが得られうる。
【0032】
つまり、前記第1ポリ乳酸樹脂および第2ポリ乳酸樹脂は、それぞれ、互いに異なる異性体を含む。本明細書中、「互いに異なる異性体を含む」とは、第1ポリ乳酸樹脂および第2ポリ乳酸樹脂のうち一方がL−乳酸に由来する繰り返し単位を含み、他方がD−乳酸に由来する繰り返し単位を含むことを意味する。したがって、第1ポリ乳酸樹脂と第2ポリ乳酸樹脂のそれぞれの主成分が互いに異なる異性体である場合のほか、それぞれの主成分が同一の異性体であるが少なくとも一方に異なる異性体の成分を有する場合をも含む。この場合、第1ポリ乳酸樹脂、そして第2ポリ乳酸樹脂で表面処理された天然繊維からなる天然繊維強化ポリ乳酸樹脂組成物は多様な組み合わせの例が存在し、そのうちのいくつかの例を図1A〜Gに示した。
【0033】
図1A〜Gは、各々、本発明の一実施形態による天然繊維強化ポリ乳酸樹脂組成物の一例を示した概念図である。
【0034】
図1A〜Gにおいて、マトリックスは第1ポリ乳酸樹脂(1)に該当し、天然繊維(3)の表面の一部に示された線は、第2ポリ乳酸樹脂(5)を表す。
【0035】
図1A及び図1Bを参照すれば、第1ポリ乳酸樹脂(1)及び第2ポリ乳酸樹脂(5)は、図1Aでは、各々、PLLA及びPDLAであり、図1Bでは、それぞれPDLA及びPLLAであって、いずれの場合も、互いに異なる異性体である。
【0036】
このように第2ポリ乳酸樹脂(5)が第1ポリ乳酸樹脂(1)と互いに異なる異性体を有する場合、第1ポリ乳酸樹脂(1)及び第2ポリ乳酸樹脂(5)が溶融混合されてステレオコンプレックスを形成しうる。前記ステレオコンプレックスの形成により結晶性が向上して、一般のPLA樹脂を単独で用いた場合に比べて耐熱性、機械的強度などの物性が大きく改善されうる。
【0037】
より好ましくは、図1Aのように第1ポリ乳酸樹脂(1)としてL−ポリ乳酸樹脂を用い、天然繊維(3)を表面処理するための第2ポリ乳酸樹脂(5)としてD−ポリ乳酸樹脂を用いる。これは、天然繊維の表面にD−ポリ乳酸樹脂の皮膜が形成されてステレオコンプレックスの誘導がより効率的に行われ、より大きい物性向上を得ることができるためである。
【0038】
図1Cを参照すれば、前記第1ポリ乳酸樹脂(1)はPLLA及びPDLAを含み、前記第2ポリ乳酸樹脂(5)はPLLA及びPDLAを含む。図1Dを参照すれば、前記第1ポリ乳酸樹脂(1)はPLLA及びPDLAを含み、第2ポリ乳酸樹脂(5)はPLLAを含む。図1Eを参照すれば、第1ポリ乳酸樹脂(1)はPLLA及びPDLAを含み、第2ポリ乳酸樹脂(5)はPDLAを含む。
【0039】
このような場合にも、前記第2ポリ乳酸樹脂が前記第1ポリ乳酸樹脂と互いに異なる異性体を有する場合に見なすことができ、したがって、前記第1ポリ乳酸樹脂及び前記第2ポリ乳酸樹脂が溶融混合されてステレオコンプレックスを形成することができる。
【0040】
図1F及び図1Gを参照すれば、第1ポリ乳酸樹脂(1)及び第2ポリ乳酸樹脂(5)は、図1FではいずれもPLLAであり、図1GではいずれもPDLAであり、互いに同一な異性体である。
【0041】
つまり、本発明の一実施形態によれば、L−ポリ乳酸樹脂とL−ポリ乳酸樹脂で表面処理された天然繊維とを混合して用いることができ、D−ポリ乳酸樹脂とD−ポリ乳酸樹脂で表面処理された天然繊維とを混合して用いることができる。
【0042】
PLLA及びPDLAは、各々、D−乳酸から誘導される繰り返し単位が5質量%以下、及びL−乳酸から誘導される繰り返し単位5質量%以下であることが好ましい。この場合、PLLA及びPLLAと、PDLA及びPDLAとのように互いに同一な異性体を用いた場合にもステレオコンプレックスが形成されうる。
【0043】
このように、天然繊維をL−ポリ乳酸樹脂またはD−ポリ乳酸樹脂で表面処理して混合すれば、L−ポリ乳酸樹脂またはD−ポリ乳酸樹脂と天然繊維とを単純に混合して用いる場合に比べて、天然繊維とポリ乳酸樹脂との接着力が向上し、さらに優れた耐熱性、機械的強度などの物性向上を期待することができる。
【0044】
前記ポリ乳酸樹脂は、成形加工が可能であれば分子量や分子量分布に特別な制限がないが、例えば、重量平均分子量が50,000g/mol以上のものを用いることができ、好ましくは、90,000〜500,000g/molのものを用いることができる。ポリ乳酸樹脂の重量平均分子量が前記範囲内であれば、天然繊維強化ポリ乳酸樹脂組成物の機械的強度及び耐熱性の優れた物性バランスを有しうる。
【0045】
本発明の一実施形態による第1ポリ乳酸樹脂(A)は、第1ポリ乳酸樹脂(A)と、第2ポリ乳酸樹脂で表面処理された天然繊維(B)との総量に対して50〜95質量%の量で含まれるが、好ましくは、60〜90質量%の量で含まれる。第1ポリ乳酸樹脂の含量が前記範囲内であれば、耐熱性及び機械的強度が優れ、環境親和性も期待することができる。
【0046】
(2)天然繊維
天然繊維は、ポリ乳酸樹脂に補強剤として含まれるものであって、例えば、植物幹の木質部と靭皮部の中で柔軟性のある靭皮部とから製造された靭皮繊維を用いることができる。
【0047】
前記靭皮繊維はポリマー複合材料として有用であるが、前記靭皮繊維としては、例えば、亜麻(flax)、大麻、黄麻(jute)、ケナフ麻(kenaf)、カラムシ(ramie)、キュラウア(curaua)などが挙げられる。
【0048】
前記天然繊維としては、例えば、セルロースが70質量%以上、好ましくは95質量%以上含まれたものを用いることができる。一般に、繊維細胞の細胞膜は主にセルロース、リグニン(lignin)、及びセミセルロースで構成されるが、前記リグニン及びセミセルロースを十分に除去してセルロースが70質量%以上含まるようにすれば、耐熱性及び機械的強度が改善され、特に、成形中にリグニンが熱分解されて製品が変色する問題を改善することができる。
【0049】
前記天然繊維は、例えば、平均長さが0.01〜100mmであり、好ましくは0.1〜10mmである。前記天然繊維の平均長さが前記範囲内であれば、引張強度、屈曲強度、屈曲弾性率などの機械的強度が向上し、優れた加工性及び外形特性が期待できる。
【0050】
前記天然繊維は、例えば、平均直径が0.001〜50μmであり、好ましくは0.01〜20μmである。前記天然繊維の平均直径が前記範囲内であれば、加工性及び表面光沢に優れる。
【0051】
天然繊維はその特性上、樹脂の圧出時に供給することが容易でないため、多量の天然繊維を投入することは難しい。このような問題を克服するために、天然繊維をポリマーと共にバッチ型ミキサーでマスターバッチを製造したり、圧縮成形(compression molding)を通じてマスターバッチを製造する工程を経るが、このような工程は、天然繊維自体の多孔質性に起因する欠陥を有しているため、天然繊維と樹脂との間の接着力を大きく向上させることが困難である。
【0052】
このような問題を克服するために、例えば、第2ポリ乳酸樹脂を天然繊維の表面で表面処理することによって、天然繊維の表面に存在する第2ポリ乳酸樹脂と、他の異性体を有する第1ポリ乳酸樹脂とのステレオコンプレックスを形成する。これによって、天然繊維の表面の強度を極大化させ、天然繊維自体の欠陥を克服することができる。
【0053】
このような表面処理は、好ましくは、下記の3つの方法のうちの一つの方法で行われる。
【0054】
第1の方法は、下記反応式1のように、D,D−ラクチド単量体を、天然繊維に存在する−OH基を開始剤として天然繊維の表面に第2ポリ乳酸樹脂をその場合成して、ポリ乳酸樹脂と天然繊維との間の密着性(wetting)を向上させる方法である。
【0055】
【化1】

【0056】
(反応式1中、nは重合度である。)
第2の方法は、第2ポリ乳酸樹脂及び天然繊維を、バッチ型ミキサーを用いて溶融混合(melt mixing)する方法である。
【0057】
第3の方法は、連続含浸装置を用いて、天然繊維の表面に第2ポリ乳酸樹脂を十分に含浸させる方法である。これは、前記連続含浸装置を用いて、予熱した連続相の天然繊維ロービングを、溶融した第2ポリ乳酸樹脂含浸槽を通過させて、ロービング内部の各々の天然繊維の間に第2ポリ乳酸樹脂を1次含浸させ、第2ポリ乳酸樹脂を含浸させた天然繊維ロービングを冷却した後、第2ポリ乳酸樹脂を2次含浸させる方法である。
【0058】
前記第1の方法は化学的含浸による方法であって、前記第2及び第3の物理的含浸による方法と比較すれば、ステレオコンプレックスの形成時にステレオコンプレックスが天然繊維の表面に形成されるので、ポリ乳酸樹脂と天然繊維との間の結合力がより増大し、これによって耐熱性、機械的強度、衝撃強度などの物性がさらに優れる。
【0059】
前記第2及び第3の物理的含浸による方法は、前記第1の方法と結晶化度(X)やステレオコンプレックス比率(Rsc/L)は同等であるが、混合の際、天然繊維から第2ポリ乳酸樹脂が遊離し易く、ポリ乳酸樹脂と天然繊維との間の結合力が相対的に弱くなるおそれがあるため、第1の方法と比較すると物性が向上しにくい傾向がある。
【0060】
また、前記第3の方法、つまり、連続工程で含浸させた場合が、前記第2の方法、つまり、配置タイプで含浸させた場合より樹脂内の天然繊維の分散がより効率的に行われるので、より優れた物性向上を得ることができる。
【0061】
前記第2ポリ乳酸樹脂で表面処理された天然繊維(B)において、前記第2ポリ乳酸樹脂と前記天然繊維は例えば、1:0.1〜1:10(第2ポリ乳酸樹脂:天然繊維)の質量比を有し、好ましくは1:1の質量比を有する。第2ポリ乳酸樹脂と天然繊維とが前記範囲の質量比であれば、第1ポリ乳酸樹脂との結晶化を効果的に誘導し、第1ポリ乳酸樹脂内により効率的に分散しうる。
【0062】
前記第2ポリ乳酸樹脂で表面処理された天然繊維(B)は、前記第1ポリ乳酸樹脂(A)と、前記第2ポリ乳酸樹脂で表面処理された天然繊維(B)との総量に対して、例えば、5〜50質量%、好ましくは10〜40質量%の量で含まれる。前記第2ポリ乳酸樹脂で表面処理された天然繊維の含量が前記範囲内であれば、機械的強度及び加工性が向上しうる。
【0063】
(3)衝撃補強剤
本発明の一実施形態による天然繊維強化ポリ乳酸樹脂組成物は、衝撃強度と共に粘度上昇をより補強するために、衝撃補強剤をさらに含むことができる。
【0064】
前記衝撃補強剤としてはポリ乳酸樹脂との親和力に優れたものが好ましく、例えば、反応性オレフィン系共重合体、コアシェル共重合体、及びこれらの混合物からなる群より選択される1以上を用いることができる。
【0065】
前記反応性オレフィン系共重合体としては、例えば、エチレン/プロピレンゴム、イソプレンゴム、エチレン/オクテンゴム、エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体(EDPM)などのようなオレフィン系ゴムに、無水マレイン酸、メタクリル酸グリシジル、オキサゾリン、及びこれらの組み合わせからなる群より選択される反応性基が0.1〜5質量%グラフトされた共重合体でありうる。
【0066】
前記オレフィン系共重合体に反応性基をグラフトする方法としては、公知の方法が適宜用いられうる。
【0067】
前記コアシェル共重合体としては、例えば、ジエン系単量体、アクリル系単量体、シリコーン系単量体、及びこれらの組み合わせからなる群より選択される単量体を重合したゴム質重合体に、アクリル系単量体、芳香族ビニル単量体、不飽和ニトリル単量体、これら1種以上の単量体から形成される重合体、及びこれらの組み合わせからなる群より選択される不飽和化合物がグラフトされて形成されたコアシェル構造の共重合体でありうる。
【0068】
前記ジエン系単量体としては、例えば、C4〜C6のジエン系単量体が用いられ、ブタジエン、イソプレンなどが挙げられる。中でも、ブタジエンが好ましく用いられる。前記ジエン系単量体を重合したゴム質重合体の具体的な例としては、ブタジエンゴム、アクリルゴム、スチレン/ブタジエンゴム、アクリロニトリル/ブタジエンゴム、イソプレンゴム、エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体(EPDM)などが挙げられる。
【0069】
前記アクリル系単量体としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。この際、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、トリアリルシアヌレートなどの硬化剤を用いることができる。
【0070】
前記シリコーン系単量体としては、例えば、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン、トリメチルトリフェニルシクロトリシロキサン、テトラメチルテトラフェニルシクロテトラシロキサン、オクタフェニルシクロテトラシロキサン、及びこれらの組み合わせからなる群より選択される1以上のシクロシロキサン化合物を用いることができる。この際、例えば、トリメトキシメチルシラン、トリエトキシフェニルシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシランなどの硬化剤を用いることができる。
【0071】
前記ゴム質重合体のゴム平均粒径は、耐衝撃性と着色性バランス維持の観点から、0.4〜1μmであることが好ましい。
【0072】
前記ゴム質重合体は、衝撃補強剤の総量に対して、例えば30〜90質量%の含量で含まれる。前記範囲内であれば、ポリ乳酸樹脂との相溶性に優れ、その結果、優れた衝撃補強効果を示す。
【0073】
前記不飽和化合物のうち、アクリル系単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸エステル、無水物、アルキルまたはフェニルN−置換マレイミド、及びこれらの組み合わせからなる群より選択される1以上を用いることができる。ここで、前記アルキルは、C1〜C10のアルキルを意味するものであって、前記(メタ)アクリル酸アルキルエステルの具体的な例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレートなどが挙げられ、好ましくは、メチル(メタ)アクリレートを用いることができる。また、前記無水物としては、例えば、酸無水物を用いることができ、好ましくは、無水マレイン酸、無水イタコン酸などのようなカルボン酸無水物を用いることができる。
【0074】
前記不飽和化合物のうち、芳香族ビニル単量体としては、例えば、スチレン、C1−C10のアルキル置換スチレン、ハロゲン置換スチレン、及びこれらの組み合わせからなる群より選択される1以上を用いることができる。前記アルキル置換スチレンの具体的な例としては、o−エチルスチレン、m−エチルスチレン、p−エチルスチレン、α−メチルスチレンなどが挙げられる。
【0075】
前記不飽和化合物のうち、不飽和ニトリル単量体としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル、及びこれらの組み合わせからなる群より選択される1以上を用いることができる。
【0076】
前記コアシェル共重合体は、本発明が属する技術分野にて通常の知識を有する者によって、容易に調製できる。
【0077】
前記衝撃補強剤は、例えば、前記(A)第1ポリ乳酸樹脂と前記(B)第2ポリ乳酸樹脂で表面処理された天然繊維との総量100質量部に対して0.01〜30質量部、好ましくは、1〜10質量部の含量で含まれる。衝撃補強剤の含量が前記範囲内である場合、高い衝撃補強効果が得られ、また、引張強度、屈曲強度、屈曲弾性率などの機械的強度を改善することができる。
【0078】
(4)その他の添加剤
本発明の一実施形態による天然繊維強化ポリ乳酸樹脂組成物は、その他の添加剤をさらに含むことができる。
【0079】
前記添加剤としては、例えば、耐加水分解剤、難燃剤、難燃補助剤、有機補強剤、無機補強剤、抗菌剤、熱安定剤、酸化防止剤、離型剤、光安定剤、相溶化剤、無機物添加剤、界面活性剤、カップリング剤、可塑剤、混和剤、安定剤、滑剤、静電気防止剤、防炎剤、耐朽剤、着色剤、紫外線遮断剤、充填剤、核形成剤、接着調剤、粘着剤、及びこれらの混合物からなる群より選択される1以上を用いることができる。
【0080】
前記酸化防止剤としては、例えば、フェノール型、ホスファート型、チオエーテル型またはアミン型の酸化防止剤を用いることができる。前記離型剤としては、例えば、フッ素含有重合体、シリコーンオイル、ステアリン酸の金属塩、モンタン酸の金属塩、モンタン酸エステルワックスまたはポリエチレンワックスを用いることができる。また、前記耐朽剤としては、例えば、ベンゾフェノン型またはアミン型耐朽剤を用いることができる。前記着色剤としては、例えば、染料または顔料を用いることができる。前記紫外線遮断剤としては、例えば、酸化チタン(TiO)またはカーボンブラックを用いることができる。前記充填剤としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、シリカ、マイカ、アルミナ、粘土、炭酸カルシウム、硫酸カルシウムまたはガラスビードを用いることができ、このような充填剤を添加すれば、機械的強度及び耐熱性などの物性を向上させることができる。また、前記核形成剤としては、例えば、タルクまたはクレーを用いることができる。耐加水分解剤、難燃剤、難燃補助剤、有機補強剤、無機補強剤、抗菌剤、熱安定剤、光安定剤、相溶化剤、無機物添加剤、界面活性剤、カップリング剤、可塑剤、混和剤、安定剤、滑剤、静電気防止剤、防炎剤、接着調剤、粘着剤としては公知の材料を適宜用いることができる。
【0081】
前記添加剤は、天然繊維強化ポリ乳酸樹脂組成物の物性を阻害しない範囲の適切な含量で含まれうるが、好ましくは、前記天然繊維強化ポリ乳酸樹脂組成物100質量部に対して40質量部以下、より好ましくは0.1〜20質量部の含量で含まれうる。
【0082】
本発明の天然繊維強化ポリ乳酸樹脂組成物は、熱可塑性樹脂をさらに混合して用いることもできる。
【0083】
前記熱可塑性樹脂としては、特に制限されないが、ポリカーボネート樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ナイロン系樹脂、ゴム変性ビニル系グラフト共重合体樹脂、ポリアセタール、ポリメチルメタクリレート、及びこれらの組み合わせからなる群より選択される1以上を用いることができる。
【0084】
前記ポリカーボネート樹脂は、例えば、分子量調節剤と触媒の存在下で、二価フェノールとホスゲンとの反応によって調製されうる。または、二価フェノールとカーボネート前駆体とのエステル相互交換反応によって調製されたものを用いることができる。また、前記ポリカーボネート樹脂を調製する際、多官能性芳香族化合物または、二官能性カルボン酸をさらに用いてもよい。前記二価フェノールの具体的な例としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)が挙げられる。
【0085】
前記ゴム変性ビニル系グラフト共重合体樹脂としては、例えば、ブタジエンゴム、アクリルゴムまたはスチレン/ブタジエンゴムに、スチレン、アクリロニトリル、及び選択的に(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体を混合物の形態でグラフト共重合したものや、またはブタジエンゴム、アクリルゴムまたはスチレン/ブタジエンゴムに、(メタ)アクリル酸アルキルエステルの単量体をグラフト共重合したものが挙げられる。好ましくは、ABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン)グラフト共重合体が用いられる。
【0086】
前記天然繊維強化ポリ乳酸樹脂組成物は、前記天然繊維強化ポリ乳酸樹脂組成物及び前記熱可塑性樹脂の混合物の総量に対して、例えば、10〜90質量%の含量で含まれることができ、好ましくは、30〜70質量%の含量で含まれる。前記天然繊維強化ポリ乳酸樹脂組成物の含量が前記範囲内であれば、高い環境親和性が得られ、熱可塑性樹脂の長所を発現させることができる。
【0087】
前述のような天然繊維強化ポリ乳酸樹脂組成物において、前記第1ポリ乳酸樹脂と前記第2ポリ乳酸樹脂が互いに異なる異性体であることによってステレオコンプレックスが形成される場合、天然繊維強化ポリ乳酸樹脂組成物の結晶化度(X)は30J/g以上の範囲でありうる。前記結晶化度とは、示差走査熱量計(DSC)を用いて、250℃まで10℃/minで昇温しながら融点が140〜170℃で発生する熱量であるΔH(L−ポリ乳酸樹脂の結晶ピーク)と、融点が195〜250℃で発生する熱量であるΔHsc(ステレオコンプレックスの結晶ピーク)との総量を計算した値である。
【0088】
また、前記天然繊維強化ポリ乳酸樹脂組成物のステレオコンプレックスの比率(Rsc/L)は、0を超えることもでき、好ましくは30%以上の範囲を有する。ステレオコンプレックスの比率(Rsc/L)が0を超える場合、ステレオコンプレックスが形成されることを意味する。前記ステレオコンプレックスの比率とは、結晶中のステレオコンプレックス結晶が占める比率を意味し、ΔHsc/(ΔHsc+ΔH)×100の式によって計算した値である。
【0089】
本発明による天然繊維強化ポリ乳酸樹脂組成物は、240℃から結晶化温度まで液体窒素を用いて急冷却した後、等温条件で観察すれば、好ましくは、スフェルライト結晶が、天然繊維の表面以外の部分、具体的には、マトリックスの部分に比べて、前記天然繊維の表面において先に形成され、成長速度がより速い。ここで、前記スフェルライト結晶とは、幾つかの結晶が一つの点で放射状に配列された球状の多結晶を意味する。
【0090】
前記結晶化温度は、予め示差走査熱量計で測定して求めることができるが、100〜180℃であることが好ましい。より好ましくは、第2ポリ乳酸樹脂が第1ポリ乳酸樹脂と互いに異なる異性体を含むことによってステレオコンプレックスを形成する場合、前記結晶化温度は140〜180℃である。この際に観察されるスフェルライト結晶をステレオコンプレックススフェルライト結晶という。また、第1ポリ乳酸樹脂及び第2ポリ乳酸樹脂が同一な異性体を含む場合、前記結晶化温度は100〜110℃であることができる。
【0091】
前記スフェルライト結晶の成長速度は、例えば、スフェルライト結晶の粒子が5μmまで成長するまでにかかる時間を測定すれば、天然繊維の表面では約9秒、マトリックスでは約1分12秒がかかる。
【0092】
前記のように、天然繊維の表面にスフェルライト結晶が存在するか否かによって天然繊維の表面処理がされたか否かが確認できる。
【0093】
本発明の天然繊維強化ポリ乳酸樹脂組成物は、樹脂組成物を製造する公知の方法によって製造することができる。例えば、構成成分とその他の添加剤とを同時に混合した後、押出機内で溶融圧出してペレット形態に製造することができる。
【0094】
本発明はまた、前記天然繊維強化ポリ乳酸樹脂組成物を成形して製造した成形品を提供する。
【0095】
前記天然繊維強化ポリ乳酸樹脂組成物は、機械的強度及び耐熱性が重要視される分野の成形製品、例えば、自動車部品、機械部品、電機電子部品、コンピュータなどの事務機器、雑貨などの用途に用いられ、特に、テレビ、コンピュータ、プリンター、洗濯機、カセットプレーヤー、オーディオ、携帯電話などのような電機電子製品のハウジングに有用に適用されうる。
【実施例】
【0096】
以下、本発明の好ましい実施例を記載する。ただし、本発明が下記の実施例によって限定されるわけではない。
【0097】
天然繊維強化ポリ乳酸樹脂組成物の製造に用いられた各構成成分は次の通りである。
【0098】
(1)ポリ乳酸樹脂
L−ポリ乳酸樹脂としては、米国Natureworks社製4032D(D−異性体1.2〜1.6質量%を含有)を用い、D−ポリ乳酸樹脂としては、Purac社製のD,D−ラクチド(D,D−ラクチド99質量%以上を含有)を、重量平均分子量が50,000g/molになるように重合して用いた。
【0099】
(2)天然繊維
大麻から製造され、セルロース成分が98質量%、平均長さは5mm、平均直径が10μmである天然繊維を用いた。
【0100】
前記天然繊維は、下記製造例1〜5により表面処理して用いた。
【0101】
製造例1
乾燥した大麻を反応器に入れ、D,D−ラクチド単量体を開環重合することによってD−ポリ乳酸樹脂/大麻マスターバッチを製造した。
【0102】
具体的には、前記開環重合は、はじめにバッチ型ミキサーに大麻とD,D−ラクチド単量体とを投入して、180℃で約5分間混合した後、ミキサーに接続された二軸押出機に直ちに供給して、反応圧出した圧出物をペレット形態に製造した。ここで、D,D−ラクチド単量体と大麻との投入量比は、最終含浸物で1:1の質量比を有するように調整した。
【0103】
この際、重合用触媒には、オクチル酸スズ(Sn(Ot))とトリフェニルホスフィンとを等モル比で混合して用いた。前記重合用触媒1モル当り500モルのD,D−ラクチド単量体を添加した。得られたD−ポリ乳酸樹脂と天然繊維とは1:1(D−ポリ乳酸樹脂:天然繊維)の質量比であった。
【0104】
このように製造されたD−ポリ乳酸樹脂、単量体、及び天然繊維の混合物より未反応単量体を除去するために、100℃で真空乾燥した。
【0105】
製造例2
D−ポリ乳酸樹脂と天然繊維とが1:1(D−ポリ乳酸樹脂:天然繊維)の質量比になるように、各々をバッチ型ミキサーに投入し、これを溶融混合した後、マスターバッチを製造した。
【0106】
製造例3
D−ポリ乳酸樹脂と天然繊維とが1:1(D−ポリ乳酸樹脂:天然繊維)の質量比になるように、各々、連続繊維含浸装置に投入して、天然繊維の表面にD−ポリ乳酸樹脂が十分含浸されるようにした。
【0107】
長繊維タイプの天然繊維ロービングをD−ポリ乳酸溶融樹脂に含浸させた後、直線状に通過させて、D−ポリ乳酸樹脂で表面処理された天然繊維を得た。前記天然繊維は3〜50mmのペレット形態であった。
【0108】
(3)衝撃補強剤
三菱レーヨン社製の223−A(メチルメタクリレート−ブタジエンエチルアクリレート共重合体)を衝撃補強剤として用いた。
【0109】
実施例1
第1ポリ乳酸樹脂(L−ポリ乳酸樹脂)60質量%、及び製造例1により製造された第2ポリ乳酸樹脂(D−ポリ乳酸樹脂)で表面処理された天然繊維40質量%を、80℃の真空下で4時間乾燥させた後、通常の二軸押出機で180℃の温度範囲で圧出し、圧出物をペレット形態に製造した。
【0110】
実施例2
第1ポリ乳酸樹脂(L−ポリ乳酸樹脂)80質量%、及び製造例1によって製造された第2ポリ乳酸樹脂(D−ポリ乳酸樹脂)で表面処理された天然繊維20質量%を用いたことを除いては、前記実施例1と同様の方法で行った。
【0111】
実施例3
製造例2によって第2ポリ乳酸樹脂(D−ポリ乳酸樹脂)で表面処理された天然繊維を用いたことを除いては、前記実施例1と同様の方法で行った。
【0112】
実施例4
製造例3によって第2ポリ乳酸樹脂(D−ポリ乳酸樹脂)で表面処理された天然繊維を用いたことを除いては、前記実施例1と同様の方法で行った。
【0113】
実施例5
実施例1に衝撃補強剤をさらに用いたことを除いては、前記実施例1と同様の方法で行った。前記衝撃補強剤は、第1ポリ乳酸樹脂と第2ポリ乳酸樹脂で表面処理された天然繊維の総量100質量部に対して5質量部を投入した。
【0114】
比較例1
天然繊維にいかなる表面処理も行わず、第1ポリ乳酸樹脂(L−ポリ乳酸樹脂)60質量%、第2ポリ乳酸樹脂(D−ポリ乳酸樹脂)20質量%、及び天然繊維20質量%を個別に添加したことを除いては、前記実施例1と同様の方法で行った。
【0115】
比較例2
天然繊維にいかなる表面処理も行わず、第1ポリ乳酸樹脂(L−ポリ乳酸樹脂)80質量%、及び天然繊維20質量%を個別に添加したことを除いては、前記実施例1と同様の方法で行った。
【0116】
[試験例]
前記実施例1〜5、比較例1及び2により製造されたペレットを、80℃で4時間以上乾燥した後、6ozの射出成形機を用いて、シリンダー温度230℃、金型温度80℃、成形サイクルを60秒に設定し、ASTMダンベル試験片に射出成形することによって試片を調製した。調製した試片は下記の方法で物性を測定して、その結果を下記表1に示した。
1)熱変形温度(HDT):ASTM D648に準じて測定した。
2)引張強度:ASTM D638に準じて測定した。
3)屈曲強度:ASTM D790に準じて測定した。
4)屈曲弾性率:ASTM D790に準じて測定した。
5)IZOD衝撃強度:ASTM D256に準じて測定した(試片の厚さ1/4”)。
6)ΔH:140〜170℃で発見されるL−ポリ乳酸結晶の融点ピークに相当する熱量を測定した。
7)T:ΔHピークが現れる温度を測定した。
8)ΔHsc:195〜250℃で発見されるステレオコンプレックス結晶の融点ピークに相当する熱量を測定した。
9)Tsc:ΔHscピークが現れる温度を測定した。
10)結晶化度(X):TA instruments社製の示差走査熱量計(DSC)を用いて、各々の試片より、表面を避けて中心部位の最小5mg程度を取った後、250℃まで10℃/minで昇温しながら、融点が140〜170℃で発生する熱量であるΔH(L−ポリ乳酸の結晶ピーク)と、融点が195〜250℃で発生する熱量であるΔHsc(ステレオコンプレックスの結晶ピーク)の総量を計算して示した。
11)ステレオコンプレックスの比率(Rsc/L):結晶中のステレオコンプレックス結晶が占める比率を示し、ΔHsc/(ΔHsc+ΔH)×100の式によって計算した値である。
12)天然繊維の表面でのスフェルライト結晶の存在確認:前記実施例1〜5、比較例1及び2において、天然繊維が表面処理されたか否かは、天然繊維の表面にスフェルライト結晶が存在するか否かによって確認できる。具体的には、各試料を、液体窒素を用いて、240℃から結晶化温度(150℃の付近で観察される、示差走査熱量計で予め測定可能である)まで急冷した後、等温状態で光学偏光顕微鏡で観察して、スフェルライト結晶が天然繊維の表面で急速に成長する形状が観察されれば、その天然繊維はポリ乳酸樹脂に含浸された場合と見なすことができる。
天然繊維の表面でステレオコンプレックススフェルライト結晶の成長が観察される:○
天然繊維の表面でステレオコンプレックススフェルライト結晶の成長が観察できない:×
前記成長の有無は光学偏光顕微鏡で観察した。
【0117】
また、前記実施例2により製造された試片を液体窒素を用いて240℃から140℃まで急冷した後、スフェルライト結晶を観察した結果、スフェルライト結晶の粒子が5μmまで成長するまでに、天然繊維の表面では約9秒、マトリックスでは約1分12秒の時間がかかった。
【0118】
【表1】

【0119】
前記表1のように、天然繊維をポリ乳酸樹脂で表面処理して用いた実施例1〜5は、天然繊維を表面処理せずにポリ乳酸樹脂と天然繊維を別途に添加した比較例1及び2と比較すれば、耐熱性、衝撃強度、及び引張強度、屈曲強度、屈曲弾性率の機械的物性に全て優れていることを確認することができる。
【0120】
特に、第1ポリ乳酸樹脂としてL−ポリ乳酸樹脂を用い、第2ポリ乳酸樹脂としてD−ポリ乳酸樹脂を用いた実施例1〜5の優れた物性は、マトリックスに存在する基本樹脂であるL−ポリ乳酸樹脂と、天然繊維に存在するD−ポリ乳酸樹脂とがステレオコンプレックスを形成して、この部位の結晶化が促進されたことに起因する。
【0121】
一方、第1ポリ乳酸樹脂としてL−ポリ乳酸樹脂を用い、第2ポリ乳酸樹脂としてD−ポリ乳酸樹脂を用いて、いかなる表面処理も行わずに天然繊維を混合して用いた比較例1は、耐熱性、衝撃強度、及び機械的強度が全て低下し、結晶化度が低下することを確認することができる。また、L−ポリ乳酸樹脂と表面処理を行っていない天然繊維とを混合して用いた比較例2もまた、耐熱性、衝撃強度、及び機械的強度が全て低下していることを確認することができる。
【0122】
一方、製造例1により、天然繊維の表面にD−ポリ乳酸樹脂をその場合成した実施例1及び2は、製造例2によってバッチ型ミキサーを用いて溶融混合した実施例3と、製造例3によって連続含浸装置を用いて含浸させた実施例4と比較すれば、耐熱性、衝撃強度、及び機械的物性がさらに優れていることを確認することができる。
【0123】
また、実施例4が実施例3よりさらに優れた物性を示すが、これは、連続含浸装置を用いて含浸させた場合が、バッチ型ミキサーを用いて溶融混合した場合より樹脂内の天然繊維の分散がさらに効率的であるためであると考えられる。
【0124】
また、製造例1〜3の方法で表面処理された天然繊維を含む実施例1〜4の全てが、結晶化度やステレオコンプレックス比率においてはほとんど同等であるが、重合を通じた化学的含浸を用いた実施例1及び2は、単純な物理的含浸を用いた実施例3及び4と比較して、耐熱性、衝撃強度、及び機械的物性がさらに優れていることを確認することができる。物理的含浸の場合は、配合の際、天然繊維からD−ポリ乳酸が容易に遊離しうるが、化学的含浸の場合は、ステレオコンプレックスが天然繊維の表面に形成されるので、樹脂と天然繊維との間の結合力がさらに増大するためと考えられる。
【0125】
通常、天然繊維を含むポリ乳酸樹脂組成物は、天然繊維を多く添加するほど衝撃強度が低下するが、本実施例によれば、天然繊維をより多く含む実施例1が、実施例2に比べて衝撃強度が高いことを確認することができる。これは、天然繊維の周辺の結晶構造が天然繊維を支持することによって衝撃強度が向上するためであると考えられる。
【符号の説明】
【0126】
1 第1ポリ乳酸樹脂、
3 天然繊維、
5 第2ポリ乳酸樹脂。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)第1ポリ乳酸樹脂50〜95質量%;及び
(B)第2ポリ乳酸樹脂で表面処理された天然繊維5〜50質量%;を含み、
前記第2ポリ乳酸樹脂は前記第1ポリ乳酸樹脂と互いに異なる異性体を含む、天然繊維強化ポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項2】
(A)第1ポリ乳酸樹脂50〜95質量%;及び
(B)第2ポリ乳酸樹脂で表面処理された天然繊維5〜50質量%;を含み、
240℃から結晶化温度まで急冷した後、等温条件で観察時、スフェルライト結晶が、前記天然繊維の表面で、前記天然繊維の表面以外の部分よりも先に形成され、成長速度がより速い、天然繊維強化ポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項3】
前記結晶化温度は100〜180℃である、請求項2に記載の天然繊維強化ポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項4】
前記スフェルライト結晶はステレオコンプレックススフェルライト結晶であり、前記結晶化温度は140〜180℃である、請求項2または3に記載の天然繊維強化ポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項5】
前記第1ポリ乳酸樹脂及び前記第2ポリ乳酸樹脂は、各々、L−ポリ乳酸(PLLA)樹脂、D−ポリ乳酸(PDLA)樹脂、L,D−ポリ乳酸樹脂、及びこれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の天然繊維強化ポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項6】
前記L−ポリ乳酸(PLLA)樹脂は、L−乳酸から誘導される繰り返し単位を95質量%以上含み、前記D−ポリ乳酸(PDLA)樹脂は、D−乳酸から誘導される繰り返し単位を95質量%以上含む、請求項5に記載の天然繊維強化ポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項7】
前記第2ポリ乳酸樹脂で表面処理された天然繊維は、前記天然繊維の表面に前記第2ポリ乳酸樹脂をその場(in−situ)合成して、前記第2ポリ乳酸樹脂及び前記天然繊維をバッチ型ミキサーを用いて溶融混合して、または、連続含浸装置を用いて前記天然繊維の表面に前記第2ポリ乳酸樹脂を含浸させて得られる、請求項1〜6のいずれか1項に記載の天然繊維強化ポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項8】
前記第2ポリ乳酸樹脂で表面処理された天然繊維は、前記第2ポリ乳酸樹脂と前記天然繊維とが1:0.1〜1:10(ポリ乳酸樹脂:天然繊維)の質量比を有する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の天然繊維強化ポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項9】
前記天然繊維は靭皮繊維である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の天然繊維強化ポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項10】
前記天然繊維は、セルロースを70質量%以上含む、請求項1〜9のいずれか1項に記載の天然繊維強化ポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項11】
前記天然繊維の平均長さは0.01〜100mmである、請求項1〜10のいずれか1項に記載の天然繊維強化ポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項12】
前記天然繊維の平均直径は0.001〜50μmである、請求項1〜11のいずれか1項に記載の天然繊維強化ポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項13】
前記(A)第1ポリ乳酸樹脂と前記(B)第2ポリ乳酸樹脂で表面処理された天然繊維との総量100質量部に対して衝撃補強剤0.01〜30質量部をさらに含む、請求項1〜12のいずれか1項に記載の天然繊維強化ポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項14】
前記衝撃補強剤は、オレフィン系ゴムに、無水マレイン酸、メタクリル酸グリシジル、オキサゾリン、及びこれらの組み合わせからなる群より選択される反応性基がグラフトされた反応性オレフィン系共重合体;ゴム質重合体に不飽和化合物がグラフトされたコアシェル共重合体;及びこれらの混合物からなる群より選択される、請求項13に記載の天然繊維強化ポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項15】
耐加水分解剤、難燃剤、難燃補助剤、有機補強剤、無機補強剤、抗菌剤、熱安定剤、酸化防止剤、離型剤、光安定剤、相溶化剤、無機物添加剤、界面活性剤、カップリング剤、可塑剤、混和剤、安定剤、滑剤、静電気防止剤、防炎剤、耐朽剤、着色剤、紫外線遮断剤、充填剤、核形成剤、接着調剤、粘着剤、及びこれらの混合物からなる群より選択される1以上の添加剤をさらに含む、請求項1〜14のいずれか1項に記載の天然繊維強化ポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項16】
ポリカーボネート樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ナイロン系樹脂、ゴム変性ビニル系グラフト共重合体樹脂、ポリアセタール、ポリメチルメタクリレート、及びこれらの組み合わせからなる群より選択される1以上の熱可塑性樹脂をさらに含む、請求項1〜15のいずれか1項に記載の天然繊維強化ポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項17】
請求項1〜16のいずれか1項に記載の天然繊維強化ポリ乳酸樹脂組成物を用いて製造される成形品。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図1D】
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【図1E】
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【図1F】
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【図1G】
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【公開番号】特開2010−121131(P2010−121131A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−262352(P2009−262352)
【出願日】平成21年11月17日(2009.11.17)
【出願人】(500005066)チェイル インダストリーズ インコーポレイテッド (263)
【Fターム(参考)】