説明

太陽熱吸収塗膜の形成方法および太陽熱吸収材料

【課題】空調費の低減あるいは室内の保温を図り、エネルギーの節約に顕著な効果を期待し得るとともに、着色可能で美観も兼ね備える太陽熱吸収塗膜の形成方法である。
【解決手段】基材表面に、近赤外線領域における吸収率の高いカーボンブラック等の多孔質顔料を1〜10質量%配合する塗料を用いて780nm〜2300nmの波長における塗膜単体での日射反射率が30%以下の下層塗膜を施し、次いで、該下層塗膜表面に、有機顔料等の近赤外線透過性の高い顔料を1〜15質量%配合する塗料を用いて780〜2300nmの波長における塗膜単体での日射透過率が30%以上の上層塗膜を積層することにより、780nm〜2300nmの波長における日射反射率が50%以下の太陽熱吸収塗膜を形成することを特徴とする太陽熱吸収塗膜の形成方法および太陽熱吸収材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属、ガラス、コンクリート、プラスチック、木材などの各種素材に使用され、太陽熱を効果的に吸収し、且つ熱放射による損失が少なく保温性、耐候性に優れた太陽熱吸収塗膜の形成方法および太陽熱吸収材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、太陽熱エネルギーの利用技術が注目されており、このような技術として、例えば、TiC,ZrC,HfC等の周期律表第IV族に属する遷移金属の炭化物、又はこの炭化物とアルミニウムとの混合物を、揮発性溶剤によって流体化したバインダー、又は各種塗着被覆用のクリーム状バインダーに混練した太陽熱吸収性保温塗布材が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。また、特許文献1には、バインダーに顔料を添加してもよいことも記載されている。さらに、特許文献1には、上記塗布材を他の物品又は皮膚に塗布することによって面状体を構成することができることも記載されている。従って、塗着又は被覆したときの状態では、該周期律表第IV族に属する遷移金属の炭化物の特性である太陽放射スペクトルの0.3乃至2.0μmの波長域で大きな吸収性能を発揮し、且つ2.0μm以上の赤外域の放射率を抑制して熱の放射損失の減少を図るように作用する太陽熱選択吸収保温効果を発揮することができる、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平01−221468号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記特許文献1の塗布材のように、塗料中の成分としてTiC、ZrC、HfC等の周期律表第IV族に属する遷移金属の炭化物またはこの炭化物とアルミニウムの混合物を用いた場合であっても、太陽光吸熱効果が満足する性能を有さず、また、着色範囲に制限があり、塗膜として実用的でない。
【0005】
本発明は、上記問題に鑑み、太陽熱を効果的に吸収し、且つ光照射による熱損失の低減、保温性、着色可能で美観に優れた太陽熱吸収塗膜の形成方法および太陽熱吸収材料を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記の課題を解決するために種々の試験研究を重ねた結果、基材表面に、カーボンブラック等の多孔質顔料で近赤外線領域における光吸収率の高い顔料を1質量%〜10質量%配合する塗料を用いて下層塗膜を施し、次いで、該下層塗膜表面に、有機顔料等の近赤外線領域における光透過性の高い顔料を1質量%〜15質量%配合する塗料を用いて上層塗膜を形成することにより、太陽熱を効果的に吸収し、且つ熱放射による損失が少なく、保温性、耐候性に優れた太陽熱吸収塗膜を得ることができることを見出し、この知見に基づいて、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明に係る太陽熱吸収塗膜の形成方法は、基材表面に、780〜2300nmの波長における塗膜単体での日射反射率が30%以下の下層塗膜を施し、次いで、該下層塗膜表面に、780nm〜2300nmの波長における塗膜単体での日射透過率が30%以上の上層塗膜を積層することにより、780〜2300nmの波長における日射反射率が50%以下の太陽熱吸収塗膜を形成することを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る太陽熱吸収材料は、基材表面に、780nm〜2300nmの波長における塗膜単体での日射反射率が30%以下の下層塗膜と、780nm〜2300nmの波長における塗膜単体での日射透過率が30%以上の上層塗膜と、が順次積層された太陽熱吸収塗膜を有し、前記太陽熱吸収塗膜の780nm〜2300nmの波長における日射反射率が50%以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、上層に赤外線透過性の高い塗膜を形成し、下層にカーボンブラックのような顔料を用いることで、見た目は上層の色を提供することができ、下層により赤外線を吸収できることから、塗装した塗膜としては日射吸収率を高めることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。
【0011】
本発明においては、基材表面に、例えば、カーボンブラック等の多孔質顔料で近赤外線領域における吸収率の高い顔料を1〜10質量%配合する塗料を用いて、780nm〜2300nmの波長における塗膜単体での日射反射率が30%以下の下層塗膜を施し、次いで、該下層塗膜表面に、例えば、有機顔料等の近赤外線透過性の高い顔料を1〜15質量%配合する塗料を用いて、780nm〜2300nmの波長における塗膜単体での日射透過率が30%以上の上層塗膜を積層することにより、780nm〜2300nmの波長における日射反射率が50%以下の太陽熱吸収塗膜を形成することを特徴とする太陽熱吸収塗膜の形成方法を用いる。
【0012】
また、本発明によれば、上述した方法を用いて、基材表面に、780nm〜2300nmの波長における塗膜単体での日射反射率が30%以下の下層塗膜と、780nm〜2300nmの波長における塗膜単体での日射透過率が30%以上の上層塗膜と、が順次積層された太陽熱吸収塗膜を有し、前記太陽熱吸収塗膜の780nm〜2300nmの波長における日射反射率が50%以下であることを特徴とする太陽熱吸収材料を得ることができる。
【0013】
ここで、本発明において、780nm〜2300nmの波長範囲における日射反射率や日射透過率を規定したのは、当該波長範囲がいわゆる近赤外線領域の光の波長であり、近赤外線が物質に吸収されると熱作用が生じる波長だからである。
【0014】
また、下層塗膜の780nm〜2300nmの波長における塗膜単体での日射反射率を30%以下としたのは、下層塗膜に効率良く熱を吸収させるためである。
【0015】
また、上層塗膜の780nm〜2300nmの波長における塗膜単体での日射透過率を30%以上としたのは、効率良く下層塗膜へ光を透過させるためである。
【0016】
さらに、本発明に係る太陽熱吸収塗膜の形成方法を用いて形成された太陽熱吸収塗膜は、780nm〜2300nmの波長における塗膜の日射反射率(JIS K 5602で規定されているもの)が50%以下であることが必要である。これは、太陽熱吸収塗膜に効率良く熱を吸収させるとともに、塗膜中の顔料による着色を担保して美観を向上させるためである。
【0017】
本発明の下層塗膜及び上層塗膜の形成に用いる下層塗料及び上層塗料は、樹脂、顔料及び溶媒を必須の構成成分とし、必要に応じて、例えば体質顔料や、消泡剤、硬化促進剤、分散剤、酸化防止剤、防かび剤等の各種添加剤を適宜配合したものである。
【0018】
塗料の種類及び形態は、特に限定されず、塗料の種類としては、例えば、熱硬化型塗料、熱可塑型塗料、常温乾燥型塗料、常温硬化型塗料、活性エネルギー線硬化型塗料などを用いることができる。また、塗料の形態としては、例えば、溶剤型塗料、水性塗料、非水エマルジョン型塗料、無溶剤型塗料、粉体塗料等のいずれにも適用することができる。
【0019】
本発明の下層塗料中には多孔質顔料を配合するが、この下層塗料に用いられる多孔質顔料としては、例えば、カーボンブラック、樹脂ビーズ、シリカ等の顔料が挙げられる。その中でも、特にカーボンブラックが好ましい。
【0020】
また、前記多孔質顔料の下層塗料中への配合量は、塗料の安定性を考慮すると、下層塗料の固形分全体に対して1質量%〜10質量%であることが好ましい。
【0021】
さらに、多孔質顔料の比表面積は、効率良く赤外線を吸収し、顔料内部で捉えるため400m/g以下であることが望ましい。本発明における多孔質顔料の比表面積は、BET法を用いて測定することができる。
【0022】
本発明の上層塗膜形成用の塗料に用いられる顔料として、有用な有機顔料は、例えば、モノアゾ、ジスアゾ、レーキアゾ、βナフトール、ナフトールAS、ベンゾイミダゾロン、縮合ジスアゾ、アゾ金属錯体顔料および例えば、フタロシアニン、キナクリドン、ペリレン、ペリノン、チオインジゴ、アンタントロン、アントラキノン、フラバントロン、インダントロン、イソビオラントロン、ピラントロン、ジオキサジン、キノフタロン、イソインドリノン、イソインドリンおよびジケトピロロピロール顔料などの多環式顔料またはカーボンブラックなどがある。このうち、上記有機顔料としては、特にフタロシアニンブルー、キナクリドンマゼンタ、イソインドリン、ジケトピロロピロールが好ましい。
【0023】
本発明の上層塗膜形成用の塗料に用いられる無機顔料としては、例えば、二酸化チタン、硫化亜鉛、酸化鉄、酸化クロム、群青、ニッケルアンチモンチタン酸化物、クロムアンチモンチタン酸化物、酸化コバルト、コバルトとアルミニウムの混合酸化物、バナジン酸ビスマス、および、混合顔料などがある。このうち、上記無機顔料としては、特に、バナジン酸ビスマスが好ましい。
【0024】
上述した上層塗膜形成用の塗料に用いられる顔料は、1種を単独で、または、2種以上を混合して使用することができる。
【0025】
本発明の塗料のベースとなる塗料用樹脂としては、塗料用として常用されるものであればよく、特に限定されず、例えば、アクリル樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、シリコーン変性ポリエステル樹脂、シリコーン変性アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂、シリケート樹脂、塩素系樹脂、フッ素系樹脂等があり、必要に応じて硬化剤としてメラミン樹脂などのアミノ樹脂、イソシアナート、あるいはブロックイソシアナートなどの架橋用樹脂を含んでもよい。
【0026】
上記その他の添加剤としては特に限定されず、例えば、二酸化チタン、硫酸バリウム、炭酸カルシウム等の体質顔料や、シリカ、アルミナ等の艶消し剤や、消泡剤や、レベリング剤や、たれ防止剤や、表面調整剤や、粘性調整剤や、分散剤や、紫外線吸収剤や、ワックス等の慣用の添加剤等を挙げることができる。
【0027】
上記その他の溶剤としては、一般に塗料用として使用されているものであれば特に限定されず、例えば、トルエン、キシレン、ソルベッソ100、ソルベッソ150等の芳香族炭化水素類や、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類や、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン類や、ミネラルスピリット等の脂肪族系溶剤などと水を挙げることができる。これらは、溶解性、蒸発速度、安全性等を考慮して、適宜選択される。これらは単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0028】
本発明の塗膜の形成に用いる塗料組成物は、例えば、以下のようにして製造することができる。ローラーミル、ペイントシェーカー、ポットミル、ディスパー、サンドグラインドミル等の一般に顔料分散に使用されている機械を用いて、樹脂と顔料の分散ペーストを調製し、これに樹脂、各種添加剤、有機溶剤、硬化剤、触媒等を加えて塗料組成物を得る。
【0029】
上記塗料組成物の塗布方法としては特に限定されず、例えば、浸漬、刷毛、ローラー、ロールコーター、エアースプレー、エアレススプレー、カーテンフローコーター、ローラーカーテンコーター、ダイコーター等の一般に使用されている塗布方法等を挙げることができる。これらは、基材の使用目的に応じて、適宜選択される。
【0030】
本発明の太陽熱吸収塗膜が形成される基材としては、特に限定されるものではなく、例えば、金属基材、プラスチック基材、無機材料基材等が挙げられる。金属基材としては、アルミ板、鉄板、亜鉛メッキ鋼板、アルミ亜鉛メッキ鋼板、ステンレス板、ブリキ板等が挙げられる。プラスチック基材としては、アクリル、塩化ビニル、ポリカーボネート、ABS、ポリエチレンテレフタレート、ポリオレフィン等の基材が挙げられる。無機材料基材としては、例えば、JIS A 5422及びA 5430などに記載された窯業系基材や、ガラス基材などを挙げることができる。
【0031】
上記の基材には、密着性付与や防錆性付与等のため表面処理が施されていてもよい。
【実施例】
【0032】
以下、実施例及び比較例に用いる塗料について説明する。以下、特に断らない限り、[%]及び[部]は質量基準である。
【0033】
(実施例1)
実施例1は、カーボンブラック(コロンビヤンカーボン社製、「R14」)1.5部、硫酸バリウム17部、炭酸カルシウム21部、エポキシ樹脂(JER社製、「S40EP」)40部、キシレン20部、消泡剤(三菱レイヨン(株)社製、「LR611」)0.5部をローラーミルで30分混錬し、下層塗膜形成用の塗料を得た。得られた下層塗料を、鋼板(150×50×0.3mm)に硬化後の膜厚が100μmになるようにスプレー塗装し、23℃の雰囲気下で24時間乾燥させて下層塗膜を形成させた。この下層塗膜の上に、フタロシアニンブルー(大日精化社製)3部、キナクリドンマゼンダ(チバ・スペシャルティケミカルズ社製、「CR759D」)2部、イソインドリン(チバ・スペシャルティケミカルズ社製、「2GLTE」)2部、ふっ素樹脂(旭硝子社製、LF800)57部、ミネラルスピリット 35.7部、消泡剤(サンノプコ(株)社製「SN359」)0.3部をローラーミルで30分混錬して上層塗膜形成用の塗料を得た。得られた上層塗膜形成用の塗料を、乾燥後の膜厚が50μmになるようにスプレー塗装し、23℃の雰囲気下で3日間乾燥させて試験体とした。
【0034】
(実施例2)
下層塗料において、カーボンブラックとして「R14」1.5部の代わりに、(デグサエボニック社製)「Special Black6」1.5部を使用したことを除いては、実施例1と同様の方法で試験体を得た。
【0035】
(実施例3)
下層塗料において、カーボンブラックとして「R14」1.5部の代わりに、(キャボット株式会社)社製「MONA1300」1.5部を使用したことを除いては、実施例1と同様の方法で試験体を得た。
【0036】
(実施例4)
上層塗料において、イソインドリン2部の代わりに、バナジン酸ビスマス(クラリアントジャパン(株)社製)2部を使用したことを除いては、実施例1と同様の方法で試験体を得た。
(実施例5)
下層塗料において、カーボンブラックを1.0部、硫酸バリウムを12.8部、炭酸カルシウムを15.7部とし、二酸化チタン(石原産業(株)社製、「CR95」)10部をさらに添加したことを除いては、実施例1と同様の方法で試験体を得た。
【0037】
(実施例6)
上層塗料において、キナクリドンマゼンタ2部の代わりに、ジケトピロロピロール(チバ・スペシャルティケミカルズ社製)2部を使用したことを除いては、実施例1と同様の方法で試験体を得た。
【0038】
(実施例7)
上層塗料において、ミネラルスピリットを30.7部とし、二酸化チタン(石原産業(株)社製、「CR95」)5部をさらに添加したことを除いては、実施例1と同様の方法で試験体を得た。
【0039】
(実施例8)
下層塗料において、硫酸バリウムを15部、炭酸カルシウムを18部とし、二酸化チタンを5部さらに添加したことを除いては、実施例1と同様の方法で試験体を得た。
【0040】
(実施例9)
下層塗料において、カーボンブラックを1.0部、炭酸カルシウムを18.5部としたことを除いては、実施例8と同様の方法で試験体を得た。
【0041】
(実施例10)
下層塗料において、カーボンブラックを11.0部、炭酸カルシウムを5.5部としたことを除いては、実施例1と同様の方法で試験体を得た。
【0042】
(比較例1)
下層塗料において、カーボンブラック、硫酸バリウム、炭酸カルシウムを添加せず、ミネラルスピリットを59.5部、二酸化チタンを20部としたことを除いては、実施例5と同様の方法で試験体を得た。
【0043】
(比較例2)
上層塗料において、キナクリドンマゼンタを2部、イソインドリンを2部の代わりに、二酸化チタンを10部、ベンガラを2部使用し、ミネラルスピリットを27.7部としたことを除いては、比較例1と同様の方法で試験体を得た。
【0044】
(比較例3)
上層塗料において、キナクリドンマゼンダを2部、イソインドリンを2部の代わりに、二酸化チタンを10部、ベンガラを2部使用し、ミネラルスピリットを27.7部としたことを除いては、実施例1と同様の方法で試験体を得た。
【0045】
(比較例4)
酸化チタン28部、ZrC7.5部(三津和化学薬品(株)社製)、Al粉末4.5部(関東化学(株)社製)、および、イソシアネート硬化型樹脂ACRYDIC A−848−RN(DIC(株)社製)
25部、ミネラルスピリット30部を混錬した後、イソシアネートTSC100(旭化成ケミカルズ(株)社製)5部を加え、塗膜形成用の塗料を得た。得られた塗料を、鋼板(150×50×0.3mm)に硬化後の膜厚が100μmになるようにローラー塗りし、23℃の雰囲気下で24時間乾燥させて試験体とした。
【0046】
得られた試験体について、下層塗膜単体での日射反射率、上層塗膜単体での日射透過率、積層された太陽熱吸収塗膜全体での日射反射率(塗装仕様としての塗膜の日射反射率)、および塗膜表面温度の各試験を実施した。上記塗料成分及び上記試験の結果を表1に示した。なお、各試験は、次の方法に従って行い、その結果を評価した。
【0047】
<日射反射率>
JIS K 5602に準拠して、株式会社島津製作所の分光光度計:UV−3100PCを用いて、波長780nm〜2300nmまでの分光反射率を測定した。
【0048】
<日射透過率>
平滑にしたPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)に対して、上層塗料を膜厚が一定になるように塗装し、23℃雰囲気下で24時間乾燥を行い、乾燥膜厚50μmとし、PTFEから剥がしたものを試験体とした。作成した試験体を分光光度計:UV−3100PCを用いて、波長780nm〜2300nmまでの分光透過率を測定した。
【0049】
<塗膜表面温度>
試験体を周囲の温度の影響を受けない密閉された環境下に置き、試験体の受光面での受光量が800W/mとなるように、JIS C 8912 CLASS C級に準拠する太陽近似光照射試験器(東洋製作所社製)を用いて光照射した。その際の塗膜表面の温度を測定した。その結果を表1に示す。
【0050】
<塗料の安定性>
下層塗料の調製直後及び下層塗料を常温で1ヶ月間保存した後の塗料の粘度を、B型粘度計を用いて20℃にて測定し、下層塗料の安定性を、下記式(1)で表される塗料粘度の変化率Δη(%)で評価した。なお、下記式(1)において、調製直後の下層塗料の粘度をη、常温1ヶ月保存後の下層塗料の粘度をηとする。
Δη(%)=(η−η)×100/η ・・・(1)
【0051】
評価基準は、以下の通りである。
◎:常温で1ヶ月間保存後の粘度の変化率の絶対値が5%以内
○:常温で1ヶ月間保存後の粘度の変化率の絶対値が5%超10%以下
×:常温で1ヶ月間保存後の粘度の変化率の絶対値が10%超

【0052】
【表1】

【0053】
表1に示すように、実施例1〜10では、いずれも、上層塗料に含有させた顔料の色が十分に発現されており、かつ、塗装仕様としての日射反射率が50%以下に抑えられ、日射吸収率を高めることができていることがわかる。その結果、試験体表面の温度もいずれも高温となった。
【0054】
また、下層塗料中に配合する多孔質顔料の含量が10質量%を超える実施例10は、多孔質顔料の含量が10質量%以下である他の実施例1〜9よりも、やや塗料の安定性に劣る傾向にあった。
【0055】
一方、下層塗料単体での日射反射率が30%を超える比較例1、下層塗料単体での日射反射率が30%を超え、かつ、上層塗膜単体での日射透過率が30%未満である比較例2、上層塗膜単体での日射透過率が30%未満である比較例3、下層塗膜を有さず、かつ、上層塗膜単体での日射透過率が30%未満である比較例4は、いずれも、塗装仕様としての日射反射率が50%超と高く、その結果、試験体表面の温度もいずれも低温となった。
【0056】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材表面に、780nm〜2300nmの波長における塗膜単体での日射反射率が30%以下の下層塗膜を施し、次いで、該下層塗膜表面に、780nm〜2300nmの波長における塗膜単体での日射透過率が30%以上の上層塗膜を積層することにより、780nm〜2300nmの波長における日射反射率が50%以下の太陽熱吸収塗膜を形成することを特徴とする、太陽熱吸収塗膜の形成方法。
【請求項2】
前記下層塗膜の形成に用いられる塗料中に多孔質顔料を配合し、当該多孔質顔料として無機顔料を用いることを特徴とする、請求項1に記載の太陽熱吸収塗膜の形成方法。
【請求項3】
前記下層塗膜の形成に用いられる塗料中に多孔質顔料を配合し、当該多孔質顔料としてカーボンブラックを用いることを特徴とする、請求項1または2に記載の太陽熱吸収塗膜の形成方法。
【請求項4】
前記多孔質顔料の配合量は、前記下層塗膜の形成に用いられる塗料全体に対して1質量%〜10質量%であることを特徴とする、請求項2または3に記載の太陽熱吸収塗膜の形成方法。
【請求項5】
前記多孔質顔料の比表面積が400m/g以下であることを特徴とする、請求項2〜4のいずれか1項に記載の太陽熱吸収塗膜の形成方法。
【請求項6】
前記上層塗膜の形成に用いられる塗料中に顔料を配合し、当該顔料が、フタロシアニンブルー、キナクリドンマゼンタ、イソインドリン、ジケトピロロピロール及びバナジン酸ビスマスイエローからなる群より選択される1種または2種以上の顔料であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の太陽熱吸収塗膜の形成方法。
【請求項7】
基材表面に、780nm〜2300nmの波長における塗膜単体での日射反射率が30%以下の下層塗膜と、780nm〜2300nmの波長における塗膜単体での日射透過率が30%以上の上層塗膜と、が順次積層された太陽熱吸収塗膜を有し、
前記太陽熱吸収塗膜の780nm〜2300nmの波長における日射反射率が50%以下であることを特徴とする、太陽熱吸収材料。
【請求項8】
前記下層塗膜は、多孔質顔料を含み、当該多孔質顔料は、無機顔料であることを特徴とする、請求項7に記載の太陽熱吸収材料。
【請求項9】
前記無機顔料は、カーボンブラックであることを特徴とする、請求項8に記載の太陽熱吸収材料。
【請求項10】
前記多孔質顔料は、前記下層塗膜の形成に用いられる塗料中に1質量%〜10質量%配合されることを特徴とする、請求項8または9に記載の太陽熱吸収材料。
【請求項11】
前記多孔質顔料の比表面積が、400m/g以下であることを特徴とする、請求項8〜10のいずれか1項に記載の太陽熱吸収材料。
【請求項12】
前記上層塗膜は、フタロシアニンブルー、キナクリドンマゼンタ、イソインドリン、ジケトピロロピロール及びバナジン酸ビスマスイエローからなる群より選択される1種または2種以上の顔料を含むことを特徴とする、請求項7〜11のいずれか1項に記載の太陽熱吸収材料。


【公開番号】特開2011−5430(P2011−5430A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−151987(P2009−151987)
【出願日】平成21年6月26日(2009.6.26)
【出願人】(000003322)大日本塗料株式会社 (275)
【Fターム(参考)】