説明

太陽電池モジュール保護用シート及び太陽電池モジュール

【課題】
水蒸気透過率が低く(ガスバリア性が高く)、耐屈曲性に優れ、ガスバリア層にクラックが入ることによってガスバリア性が低下することがなく、かつ、工業的に有利に製造が可能な太陽電池モジュール保護用シート、及びこの保護用シートを有する太陽電池モジュールを提供する。
【解決手段】
合成樹脂からなる基材シートと、該基材シート上に形成された、ポリオルガノシロキサン系化合物を含む層に、単体、分子、化合物またはイオンが注入されて得られる層、及び無機薄膜層を有することを特徴とする太陽電池モジュール保護用シート、及びこの太陽電池モジュール保護用シートを有する太陽電池モジュール。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池モジュール保護用シート及び太陽電池モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化等の環境問題に対する意識の高まりから、クリーンエネルギー源としての太陽光発電が注目され、種々の太陽電池が開発されてきている。太陽電池は、一般的には直列又は並列に配線された複数枚の太陽電池セルをパッケージングし、ユニット化した複数の太陽電池モジュールから構成される。太陽電池モジュールにおいては、太陽電池セル及び封止樹脂を保護するために保護用シートが用いられている。かかる保護用シートには、太陽電池モジュール内の漏電や腐食を防ぐために、高い水蒸気バリア性が求められる。また、太陽電池モジュールの軽量化の点から、合成樹脂フィルムを用いた保護用シートが用いられている。
【0003】
従来の太陽電池モジュールの保護用シートとしては、例えば、特許文献1に開示された、水不透過性シートの少なくとも一方の面に硬化性官能基含有含フッ素ポリマー塗料の硬化塗膜が形成されてなる太陽電池モジュールのバックシートが知られている。また、特許文献1には、水不透過性シートとして、Si蒸着ポリエステルシートや金属シートが記載されている。しかしながら、Si蒸着ポリエステルシートは、水蒸気バリア性が十分ではなく、またSi蒸着層は、クラックが生じやすく、それにより水蒸気バリア性が大幅に低下するおそれがある。一方、金属シートは、軽量化や製造コストの面から使用が困難となる場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO2007/010706号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上述した実情に鑑みてなされたものであって、水蒸気透過率が低く(ガスバリア性が高く)、ガスバリア層にクラックが入ることによってガスバリア性が低下することがなく、かつ、工業的に有利に製造が可能な太陽電池モジュール保護用シート、及びこの保護用シートを有する太陽電池モジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、合成樹脂からなる基材シート上にポリオルガノシロキサン系化合物を含む層を形成し、この層の表面部にイオンを注入し、さらに無機薄膜層を積層して得られる積層シートは、ガスバリア性に極めて優れ、かつ耐屈曲性に優れるため、太陽電池モジュールの保護用シートとして好適に用いることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
かくして本発明の第1によれば、(1)〜(3)の太陽電池モジュール保護用シートが提供される。
(1)合成樹脂からなる基材シートと、該基材シート上に形成された、ポリオルガノシロキサン系化合物を含む層に、単体、分子、化合物またはイオンが注入されて得られる層、及び無機薄膜層を有することを特徴とする太陽電池モジュール保護用シート。
(2)さらに、フッ素樹脂層を有する(1)に記載の太陽電池モジュール保護用シート。
(3)前記フッ素樹脂層が、フッ素樹脂層形成用組成物を塗布することにより形成されたものである(2)に記載の太陽電池モジュール保護用シート。
【0008】
本発明の第2によれば、(4)の太陽電池モジュールが提供される。
(4)前記(1)〜(3)のいずれかに記載の太陽電池モジュール保護用シートを有する太陽電池モジュール。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、低い水蒸気透過率を有しガスバリア性が高く、ガスバリア層にクラックが入ることによってガスバリア性が低下することがなく、かつ、低廉化された製造コストで製造が可能な太陽電池モジュール保護用シート、及びこの保護用シートを有する太陽電池モジュールが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】一般的な太陽電池モジュールの層構成断面図である。
【図2】本発明の太陽電池モジュール保護用シートの層構成断面図である。
【図3】本発明の太陽電池モジュール保護用シートの層構成断面図である。
【図4】本発明の太陽電池モジュールの層構成断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を、1)太陽電池モジュール保護用シート、及び、2)太陽電池モジュールに項分けして詳細に説明する。
【0012】
1)太陽電池モジュール保護用シート
本発明の太陽電池モジュール保護用シート(以下、単に「保護用シート」ということがある。)は、例えば、図1に示す太陽電池モジュール100の保護用シートとして用いられる。図1に示す太陽電池モジュール100は、光発電素子である太陽電池セル40、電気回路の短絡を防ぐための電気絶縁体からなる封止材30、第1の保護用シート10、及び第2の保護用シート20を含む構成を有する。
【0013】
図1中、保護用シート10、20は、少なくとも一方が光透過性であれば、他方は光透過性であっても光不透過性であってもよい。一般には、一方の保護用シートが光透過性であり、もう一方の保護用シートは光不透過性である構成をとることが多い。例えば、第1の保護用シートが光透過性であり、第2の保護用シートが光不透過性である場合、太陽光は第1の保護用シート側から採光される。このような場合において、第1の保護用シートをフロントシート、第2の保護用シートをバックシートということがある。本発明の太陽電池モジュール保護用シートは、フロントシート、バックシートのいずれであってもよい。
なお、本発明の太陽電池モジュール保護用シートは、シート状物のほか、ロール状物であってもよい。
【0014】
本発明の太陽電池モジュール保護用シートは、合成樹脂からなる基材シートと、該基材シート上に形成された、ポリオルガノシロキサン系化合物を含む層に、単体、分子、化合物またはイオン(以下、「イオン」ということがある。)が注入されて得られる層(以下、「イオン注入層」ということがある。)、及び無機薄膜層を有することを特徴とする。
【0015】
(基材シート)
本発明の保護用シートに用いる基材シートとしては、合成樹脂からなるものであって、ポリオルガノシロキサン系化合物を含む層を担持できるものであれば、特に制限されない。
【0016】
基材シートを構成する合成樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂;ポリスチレン等のスチレン系樹脂;ポリメタクリル酸メチルなどのアクリル系樹脂;ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素系樹脂;ポリアミド(ナイロン6、ナイロン66など)、ポリm−フェニレンイソフタルアミド、ポリp−フェニレンテレフタルアミドなどのアミド系樹脂;ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)などのポリエステル系樹脂;ポリアクリロニトリル;ポリ塩化ビニル;ポリオキシメチレン;ポリカーボネート;ポリフェニレンオキシド;ポリエステルウレタン;シクロオレフィン系ポリマー;及びこれらの樹脂の二種以上からなる混合樹脂;等が挙げられる。なお、保護用シートがフロントシートである場合は、基材シートは光透過性である必要がある。
【0017】
基材シートの厚みは、特に限定されないが、通常、10〜500μmであり、軽量化及び電気絶縁性の観点から、20〜300μmが好ましく、30〜200μmがより好ましく、40〜150μmが特に好ましい。
【0018】
(ポリオルガノシロキサン系化合物を含む層にイオンが注入されて得られる層)
本発明の保護用シートの、ポリオルガノシロキサン系化合物を含む層に、単体、分子、化合物またはイオンが注入されて得られる層は、ポリオルガノシロキサン系化合物の少なくとも一種を含む層であって、該層中にイオンが注入されてなるものであれば特に制約はない。
【0019】
ポリオルガノシロキサン系化合物は、分子内にシロキサン結合(−Si−O−Si−)を有する高分子化合物である。
本発明に用いるポリオルガノシロキサン系化合物の主鎖構造に制限はなく、直鎖状、ラダー状、籠状のいずれであってもよい。
例えば、前記直鎖状の主鎖構造としては、下記式(a)で表される構造を有するものが、ラダー状の主鎖構造としては、下記式(b)で表される構造を有するものが、籠状のポリオルガノシロキサン系化合物としては、下記式(c)で表される構造を有するものが、それぞれ挙げられる。
【0020】
【化1】

【0021】
【化2】

【0022】
【化3】

【0023】
式中、Rx、Ry、Rzは、それぞれ独立して、水素原子、無置換若しくは置換基を有するアルキル基、無置換若しくは置換基を有するアルケニル基、無置換若しくは置換基を有するアリール基等の非加水分解性基を表す。ただし、前記式(a)のRx及び前記式(b)のRyが、それぞれ2つとも水素原子であることはない。
【0024】
無置換若しくは置換基を有するアルキル基のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、n−へキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基等の炭素数1〜10のアルキル基が挙げられる。
【0025】
無置換若しくは置換基を有するアルケニル基のアルケニル基としては、例えば、ビニル基、1−プロペニル基、2−プロペニル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基、3−ブテニル基等の炭素数2〜10のアルケニル基が挙げられる。
【0026】
前記アルキル基及びアルケニル基の置換基としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;ヒドロキシル基;チオール基;エポキシ基;グリシドキシ基;(メタ)アクリロイルオキシ基;フェニル基、4−メチルフェニル基、4−クロロフェニル基等の無置換若しくは置換基を有するアリール基;等が挙げられる。
【0027】
無置換又は置換基を有するアリール基のアリール基としては、例えば、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基等の炭素数6〜10のアリール基が挙げられる。
【0028】
前記アリール基の置換基としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;メチル基、エチル基等の炭素数1〜6のアルキル基;メトキシ基、エトキシ基等の炭素数1〜6のアルコキシ基;ニトロ基;シアノ基;ヒドロキシル基;チオール基;エポキシ基;グリシドキシ基;(メタ)アクリロイルオキシ基;フェニル基、4−メチルフェニル基、4−クロロフェニル基等の無置換若しくは置換基を有するアリール基;等が挙げられる。
【0029】
これらの中でも、Rx、Ry、Rzとしては、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、又はフェニル基が好ましく、炭素数1〜6のアルキル基が特に好ましい。
なお、式(a)の複数のRx同士、式(b)の複数のRy同士、及び式(c)の複数のRz同士は、それぞれ同一でも相異なっていてもよい。
【0030】
前記ポリオルガノシロキサン系化合物としては、前記式(a)で表される直鎖状の化合物、又は前記式(b)で表されるラダー状の化合物が好ましく、入手容易性、及び優れたガスバリア性を有するイオン注入層を形成できる観点から、前記式(a)で表される直鎖状の化合物がより好ましく、前記式(a)において2つのRxがともにメチル基であるポリジメチルシロキサンが特に好ましい。
【0031】
ポリオルガノシロキサン系化合物は、加水分解性官能基を有するシラン化合物を重縮合する、公知の製造方法により得ることができる。
【0032】
用いるシラン化合物は、目的とするポリオルガノシロキサン系化合物の構造に応じて適宜選択すればよい。好ましい具体例としては、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン等の2官能シラン化合物;メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−ブチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルジエトキシメトキシシラン等の3官能シラン化合物;テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラn−プロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラn−ブトキシシラン、テトラt−ブトキシシラン、テトラs−ブトキシシラン、メトキシトリエトキシシラン、ジメトキシジエトキシシラン、トリメトキシエトキシシラン等の4官能シラン化合物等が挙げられる。
【0033】
また、ポリオルガノシロキサン系化合物は、剥離剤、接着剤、シーラント、塗料等として市販されている市販品をそのまま使用することもできる。
【0034】
ポリオルガノシロキサン系化合物を含む層(以下、「ポリオルガノシロキサン層」ということがある。)は、ポリオルガノシロキサン系化合物の他に、本発明の目的を阻害しない範囲で他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、硬化剤、他の高分子、老化防止剤、光安定剤、難燃剤等が挙げられる。
【0035】
なお、ポリオルガノシロキサン層中の、ポリオルガノシロキサン系化合物の含有量は、優れたガスバリア性を有するイオン注入層を形成できる観点から、50重量%以上であるのが好ましく、70重量%以上であるのがより好ましい。
【0036】
ポリオルガノシロキサン層を形成する方法としては、特に制約はなく、例えば、ポリオルガノシロキサン系化合物の少なくとも一種、所望により他の成分、及び溶剤等を含有する層形成用溶液を、適当な基材の上に塗布し、得られた塗膜を乾燥し、必要に応じて加熱等して形成する方法が挙げられる。
【0037】
塗布する方法としては、従来公知の、バーコート法、リバースロールコート法、ナイフコート法、ロールナイフコート法、グラビアコート法、エアドクターコート法、ドクターブレードコート法等が挙げられる。
【0038】
形成されるポリオルガノシロキサン系化合物を含む層の厚みは、特に制限されないが、通常10nm〜100μm、好ましくは20nm〜10μm、さらに好ましくは30nm〜1μmである。
【0039】
本発明においては、ポリオルガノシロキサン層に、単体、分子、化合物またはイオンを注入する。
注入するイオンを生成する原料としては、アルゴン、ヘリウム、ネオン、クリプトン、キセノン等の希ガス、フルオロカーボン、水素、窒素、酸素、二酸化炭素、塩素、フッ素、硫黄等のガス;
【0040】
メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン等のアルカン系ガス類;エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン等のアルケン系ガス類;ペンタジエン、ブタジエン等のアルカジエン系ガス類;アセチレン、メチルアセチレン等のアルキン系ガス類;ベンゼン、トルエン、キシレン、インデン、ナフタレン、フェナントレン等の芳香族炭化水素系ガス類;シクロプロパン、シクロヘキサン等のシクロアルカン系ガス類;シクロペンテン、シクロヘキセン等のシクロアルケン系ガス類;等の炭素原子と水素原子からなる炭化水素化合物のガス;
【0041】
メタノール、エタノール等のアルコール系ガス類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系ガス類;アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド等のアルデヒド系ガス類;ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル等のエーテル系ガス類;等の、炭素原子、水素原子及び酸素原子からなる酸素含有炭化水素化合物のガス;
銀、銅、白金、ニッケル、パラジウム、クロム、チタン、モリブデン、タンタル、タングステン、アルミニウム等の金属;等が挙げられる。
【0042】
これらは一種単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いてもよい。
なかでも、より簡便に注入することができ、ガスバリア性により優れるイオン注入層が得られることから、水素、窒素、酸素、アルゴン、ヘリウム、ネオン、キセノン、クリプトン、メタン、エチレン、及びアセチレンからなる群から選ばれる少なくとも一種のイオンが好ましい。
【0043】
イオンの注入量は、形成する保護用シートの使用目的により要求される性能(必要なガスバリア性、透明性等)等に合わせて適宜決定すればよい。
【0044】
イオンを注入する方法は特に限定されず、公知の方法を採用することができる。例えば、電界により加速されたイオン(イオンビーム)を照射する方法、プラズマ中のイオンを注入する方法等が挙げられる。なかでも、本発明においては、簡便にガスバリア性能が得られることから、後者の、プラズマ中のイオンを注入する方法(以下、「プラズマイオン注入法」という。)が好ましい。
【0045】
プラズマイオン注入法は、プラズマ中に曝したポリオルガノシロキサン層に、負の高電圧パルスを印加することにより、プラズマ中のイオンを前記層の表面部に注入してイオン注入層を形成する方法である。
【0046】
なかでも、プラズマイオン注入法としては、(A)外部電界を用いて発生させたプラズマ中に存在するイオンを、前記ポリオルガノシロキサン層の表面部に注入する方法、又は(B)外部電界を用いることなく、前記ポリオルガノシロキサン層に印加する負の高電圧パルスによる電界のみで発生させたプラズマ中に存在するイオンを、前記ポリオルガノシロキサン層の表面部に注入する方法が好ましい。
【0047】
(A)の方法においては、イオン注入する際の圧力(プラズマイオン注入時の圧力)を0.01〜1Paとすることが好ましい。プラズマイオン注入時の圧力がこのような範囲にあるときに、簡便にかつ効率よく均一なイオン注入層を形成することができ、ガスバリア性に優れたイオン注入層を効率よく形成することができる。
【0048】
(B)の方法は、減圧度を高くする必要がなく、処理操作が簡便であり、処理時間も大幅に短縮することができる。また、前記層全体にわたって均一に処理することができ、負の高電圧パルス印加時にプラズマ中のイオンを高エネルギーで層の表面部に連続的に注入することができる。さらに、radio frequency(高周波、以下、「RF」と略す。)や、マイクロ波等の高周波電力源等の特別の他の手段を要することなく、層に負の高電圧パルスを印加するだけで、層の表面部にイオン注入層を均一に形成することができる。
【0049】
(A)及び(B)のいずれの方法においても、負の高電圧パルスを印加するとき、すなわちイオン注入するときのパルス幅は、1〜15μsecであるのが好ましい。パルス幅がこのような範囲にあるときに、透明で均一なイオン注入層をより簡便にかつ効率よく形成することができる。
【0050】
また、プラズマを発生させるときの印加電圧は、好ましくは−1kV〜−50kV、より好ましくは−1kV〜−30kV、特に好ましくは−5kV〜−20kVである。印加電圧が−1kVより大きい値でイオン注入を行うと、イオン注入量(ドーズ量)が不十分となり、所望の性能が得られない。一方、−50kVより小さい値でイオン注入を行うと、イオン注入時にフィルムが帯電し、またフィルムへの着色等の不具合が生じ、好ましくない。
【0051】
層の表面部にプラズマ中のイオンを注入する際には、プラズマイオン注入装置を用いる。
プラズマイオン注入装置としては、具体的には、(α)ポリオルガノシロキサン層(以下、「イオン注入する層」ということがある。)に負の高電圧パルスを印加するフィードスルーに高周波電力を重畳してイオン注入する層の周囲を均等にプラズマで囲み、プラズマ中のイオンを誘引、注入、衝突、堆積させる装置(特開2001−26887号公報)、(β)チャンバー内にアンテナを設け、高周波電力を与えてプラズマを発生させてイオン注入する層周囲にプラズマが到達後、イオン注入する層に正と負のパルスを交互に印加することで、正のパルスでプラズマ中の電子を誘引衝突させてイオン注入する層を加熱し、パルス定数を制御して温度制御を行いつつ、負のパルスを印加してプラズマ中のイオンを誘引、注入させる装置(特開2001−156013号公報)、(γ)マイクロ波等の高周波電力源等の外部電界を用いてプラズマを発生させ、高電圧パルスを印加してプラズマ中のイオンを誘引、注入させるプラズマイオン注入装置、(δ)外部電界を用いることなく高電圧パルスの印加により発生する電界のみで発生するプラズマ中のイオンを注入するプラズマイオン注入装置等が挙げられる。
【0052】
これらの中でも、処理操作が簡便であり、処理時間も大幅に短縮でき、連続使用に適していることから、後述する、(γ)又は(δ)のプラズマイオン注入装置を用いるのが好ましい。
【0053】
イオン注入される部分の厚みは、印加電圧やイオンを注入する時間等の注入条件により制御することができ、保護用シートの使用目的に応じて適宜決定すればよいが、通常、0.1〜1000nmである。
【0054】
イオンが注入されたことは、X線光電子分光分析(XPS)を用いて表面から10nm付近の元素分析測定を行うことによって確認することができる。
【0055】
(無機薄膜層)
本発明の保護用シートは、無機薄膜層を有する。
無機薄膜層は、無機物の一種又は二種以上からなる層である。
無機薄膜層を構成する無機物は、単体でも化合物でもよく、一般的に真空成膜可能で、ガスバリア性を有するものを用いることができる。単体としては、例えばアルミニウム、鉄、銅、銀等の金属が挙げられる。化合物としては、例えば無機酸化物、無機窒化物、無機炭化物、無機硫化物、これらの複合体である無機酸化窒化物、無機酸化炭化物、無機窒化炭化物、無機酸化窒化炭化物等が挙げられる。
本発明においては、これらの中でも、絶縁性の高い無機酸化物、無機窒化物、無機酸化窒化物が好ましい。
【0056】
無機酸化物としては、一般式MOxで表される酸化物が挙げられる。
式中、Mは金属元素、ケイ素、ホウ素等を表す。xはMによってそれぞれ範囲が異なり、例えば、Mがケイ素(Si)であれば0.1〜2.0、アルミニウム(Al)であれば0.1〜1.5、マグネシウム(Mg)であれば0.1〜1.0、カルシウム(Ca)であれば0.1〜1.0、カリウム(K)であれば0.1〜0.5、スズ(Sn)であれば0.1〜2.0、ナトリウム(Na)であれば0.1〜0.5、ホウ素(B)であれば0.1〜1.5、チタン(Ti)であれば0.1〜2.0、鉛(Pb)であれば0.1〜1.0、ジルコニウム(Zr)であれば0.1〜2.0、イットリウム(Y)であれば、0.1〜1.5の範囲の値である。
【0057】
これらの中でも、ガスバリア性に優れることから、Mがケイ素であるケイ素酸化物、アルミニウムであるアルミニウム酸化物、チタンであるチタン酸化物が好ましく、ケイ素酸化物がより好ましい。なお、xの値としては、Mがケイ素であれば1.0〜2.0が、アルミニウムであれば0.5〜1.5が、チタンであれば1.3〜2.0の範囲のものが好ましい。
【0058】
無機窒化物としては、一般式MNyで表される窒化物が挙げられる。
式中、Mは金属元素、炭素、ケイ素、ホウ素等を表す。yはMによってそれぞれ範囲が異なり、Mがケイ素(Si)であればy=0.1〜1.3、アルミニウム(Al)であればy=0.1〜1.1、チタン(Ti)であればy=0.1〜1.3、すず(Sn)であればy=0.1〜1.3の範囲の値である。
【0059】
これらの中でも、ガスバリア性に優れることから、Mがケイ素であるケイ素窒化物、アルミニウムであるアルミニウム窒化物、チタンであるチタン窒化物、スズであるスズ窒化物が好ましく、ケイ素窒化物(SiN)がより好ましい。なお、yの値としては、Mがケイ素であればy=0.5〜1.3、アルミニウムであればy=0.3〜1.0、チタンであればy=0.5〜1.3、スズであればy=0.5〜1.3の範囲のものが好ましい。
【0060】
無機酸化窒化物としては、一般式MOxNyで表される酸化窒化物が挙げられる。
式中、Mは金属元素、炭素、ケイ素、ホウ素等を表す。x及びyの値は、Mによってそれぞれ範囲が異なる。すなわち、x、yは、例えば、Mがケイ素(Si)であればx=1.0〜2.0、y=0.1〜1.3、アルミニウム(Al)であればx=0.5〜1.0、y=0.1〜1.0、マグネシウム(Mg)であればx=0.1〜1.0、y=0.1〜0.6、カルシウム(Ca)であればx=0.1〜1.0、y=0.1〜0.5、カリウム(K)であればx=0.1〜0.5、y=0.1〜0.2、スズ(Sn)であればx=0.1〜2.0、y=0.1〜1.3、ナトリウム(Na)であればx=0.1〜0.5、y=0.1〜0.2、ホウ素(B)であればx=0.1〜1.0、y=0.1〜0.5、チタン(Ti)であればx=0.1〜2.0、y=0.1〜1.3、鉛(Pb)であればx=0.1〜1.0、y=0.1〜0.5、ジルコニウム(Zr)であればx=0.1〜2.0、y=0.1〜1.0、イットリウム(Y)であればx=0.1〜1.5、y=0.1〜1.0の範囲の値である。
【0061】
これらの中でも、ガスバリア性に優れることから、Mがケイ素であるケイ素酸化窒化物、アルミニウムであるアルミニウム酸化窒化物、チタンであるチタン酸化窒化物が好ましく、ケイ素酸化窒化物がより好ましい。なお、x及びyの値としては、Mがケイ素であればx=1.0〜2.0、y=0.1〜1.3、アルミニウムであればx=0.5〜1.0、y=0.1〜1.0、チタンであればx=1.0〜2.0、y=0.1〜1.3の範囲のものが好ましい。
なお、無機酸化物、無機窒化物及び無機酸化窒化物には、2種類以上の無機物が含まれていても良い。
【0062】
無機薄膜層の形成方法としては特に制限はなく、例えば、蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、熱CVD法、プラズマCVD法等が挙げられる。
【0063】
蒸着法は、抵抗加熱;高周波誘導加熱;電子線やイオンビーム等のビーム加熱;等により、るつぼに入った無機物材料を加熱、蒸発させて基材等の付着対象物に付着させ、薄膜を得る方法である。
【0064】
スパッタリング法は、真空槽内に放電ガス(アルゴン等)を導入し、無機物からなるターゲットと基材等の付着対象物(プラスチックフィルム等)との間に高周波電圧あるいは直流電圧を加えて放電ガスをプラズマ化し、該プラズマをターゲットに衝突させることでターゲット材料を飛ばし、付着対象物に付着させて薄膜を得る方法である。ターゲットとしては、例えば、前記の無機酸化物、無機窒化物、無機酸化窒化物、あるいはこれらに含まれる無機物の単体が挙げられる。
なかでも、簡便に無機薄膜層が形成できることから、スパッタリング法が好ましい。
【0065】
スパッタリング法としては、基本的な方式である2極法;2極法に熱電子を放出する熱陰極を追加した3極法;磁界発生手段によりターゲット表面に磁界を印加することにより、プラズマを安定化させ成膜速度を上げるマグネトロンスパッタリング法;高エネルギーのイオンビームをターゲットに照射するイオンビーム法;2枚のターゲットを平行に対向させてこれらのターゲット面に垂直に磁界を印加する対向ターゲット法;電子サイクロトロン共鳴(ECR)を利用するECR法;ターゲットと基板を同軸の円筒状に配置する同軸型スパッタリング法;反応性ガスを基板近傍に供給して成膜組成を制御する反応性スパッタリング法等が挙げられる。
【0066】
得られる無機薄膜層の厚みは、通常10nm〜1000nm、好ましくは20〜500nm、より好ましくは20〜100nmの範囲である。
【0067】
一般的に、無機薄膜層はガスバリア性能を有するが、ガスバリア性を高めるために無機薄膜層をあまりに厚くすると、クラックが発生しやすくなり、軽量化にも反する。
本発明の保護用シートは、無機薄膜層の他に前記ポリオルガノシロキサン層に、単体、分子、化合物またはイオンが注入されて得られる層を有するため、無機薄膜層を厚くしなくても、優れたガスバリア性能を有する。
【0068】
(フッ素樹脂層)
本発明の保護用シートにおいては、太陽電池モジュールの耐候性を向上させる観点から、フッ素樹脂層を有することが好ましい。
フッ素樹脂層は、太陽電池モジュールの耐候性を向上させることを目的として設けるものであるため、太陽電池モジュールの最表面に配置される。
【0069】
フッ素樹脂層は、フッ素樹脂シートであっても、フッ素樹脂を含む塗料を塗布した塗膜でもよい。保護用シートの軽量化のためにフッ素樹脂層をより薄くする観点から、フッ素樹脂を含む塗料を塗布した塗膜であることが好ましい。
【0070】
フッ素樹脂シートとしては、例えばポリフッ化ビニル(PVF)、エチレンクロロトリフルオロエチレン(ECTFE)又はエチレンテトラフルオロエチレン(ETFE)を主成分とするポリマーをシート状に加工したものが挙げられる。前記PVFを主成分とするポリマーとしてはDuPont社製のTedlar(商品名)を用いることができる。また、前記ECTFEを主成分とするポリマーとしてはSolvay Solexis社製のHalar(商品名)を用いることができる。前記ETFEを主成分とするポリマーとしては旭硝子社製のFluon(商品名)を用いることができる。
【0071】
前記フッ素樹脂シートの厚さとしては、耐候性及び軽量化の観点から、一般に5〜200μmの範囲が好ましく、10〜100μmの範囲がより好ましく、10〜50μmの範囲が最も好ましい。
【0072】
フッ素樹脂シートは、基材シート上に積層された最表面の層、あるいは基材シートのいずれの層も設けられていない面に、接着剤を用いて貼り合わせて形成するのが好ましい。
接着剤としてはアクリル系接着剤、ウレタン系接着剤、エポキシ系接着剤、エステル系接着剤などが挙げられる。
【0073】
前記フッ素樹脂を含む塗料としては、溶剤に溶解又は水に分散されたもので塗布可能なものであれば特に限定されない。
フッ素樹脂としては、例えば、
(1)パーフルオロオレフィン単位を主体とするパーフルオロオレフィン系ポリマー:具体例としては、テトラフルオロエチレン(TFE)の単独重合体、又はTFEとヘキサフルオロプロピレン(HFP)、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)などとの共重合体、さらにはこれらと共重合可能な他の単量体との共重合体などが挙げられる。
【0074】
共重合可能な他の単量体としては、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプロン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、シクロヘキシルカルボン酸ビニル、安息香酸ビニル、パラ−t−ブチル安息香酸ビニルなどのカルボン酸ビニルエステル類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテルなどのアルキルビニルエーテル類;エチレン、プロピレン、n−ブテン、イソブテンなど非フッ素系オレフィン類;ビニリデンフルオライド(VdF)、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、ビニルフルオライド(VF)、フルオロビニルエーテルなどのフッ素系単量体などが挙げられるが、これらのみに限定されるものではない。
【0075】
(2)クロロトリフルオロエチレン(CTFE)単位を主体とするCTFE系ポリマー: 具体例としては、CTFE/ヒドロキシブチルビニルエーテル/他の単量体の共重合体などが挙げられる。
(3)ビニリデンフルオライド(VdF)単位を主体とするVdF系ポリマー:具体例としては、VdF/TFE/ヒドロキシブチルビニルエーテル/他の単量体の共重合体などが挙げられる。
(4)フルオロアルキル単位を主体とするフルオロアルキル基含有ポリマー:
具体例としては、CFCF(CFCFCHCHOCOCH=CH(n=3と4の混合物)/2−ヒドロキシエチルメタクリレート/ステアリルアクリレート共重合体などが挙げられる。
【0076】
また、このようなフッ素樹脂の好ましい例としては、旭硝子社製のLUMIFLON(商品名)、セントラル硝子社製のCEFRAL COAT(商品名)、DIC社製のFLUONATE(商品名)等のクロロトリフルオロエチレン(CTFE)を主成分としたポリマー類、ダイキン工業社製のZEFFLE(商品名)等のテトラフルオロエチレン(TFE)を主成分としたポリマー類、E.I.Du Pont de Nemours and Company製のZonyl(商品名)、ダイキン工業社製のUnidyne(商品名)等のフルオロアルキル基を有するポリマー、フルオロアルキル単位を主成分としたポリマー類が挙げられる。
これらの中でも、耐候性及び顔料分散性等の観点から、CTFEを主成分としたポリマー及びTFEを主成分としたポリマーがより好ましく、なかでも前記LUMIFLON(商品名)及び前記ZEFFLE(商品名)が最も好ましい。
【0077】
前記塗料には、所望により、架橋剤、顔料、触媒(架橋促進剤)溶剤などを含むことができる。
架橋剤としては、イソシアナート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、アジリジン経架橋剤、キレート系架橋剤などが挙げられるが、イソシアナート系架橋剤が好ましい。イソシアナート系架橋剤としては、トリレンジイソシアナート、ヘキサメチレンジイソシアナ−ト、イソホロンジイソシアナート、キシリレンジイソシアナートなどが挙げられる。
顔料としては、二酸化チタン、カーボンブラック、ペリレン顔料、マイカ、ポリアミドパウダー、窒化ホウ素、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、シリカなどが挙げられる。
【0078】
溶剤としては、メチルエチルケトン(MEK)、シクロヘキサノン、アセトン、メチルイソブチルケトン(MIBK)、トルエン、キシレン、メタノール、イソプロパノール、エタノール、ヘプタン、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸n−ブチル、又はn−ブチルアルコールのうち、いずれか1種以上を有する溶媒を好ましく用いることができる。
触媒としては、ジブチルジラウリン酸スズなどを挙げられる。
【0079】
フッ素樹脂を含む塗料の塗布方法は特に限定されず、スピンコート法、バーコート法、グラビアコート法などを用いることができる。
フッ素樹脂を含む塗料を塗布した塗膜(乾燥後)の厚さは、0.1μm〜100μmが好ましい。
【0080】
本発明の保護用シートは、基材シート、ポリオルガノシロキサン層に、単体、分子、化合物またはイオンが注入されて得られる層(以下、「A層」ということがある。)、無機薄膜層(以下、「B層」ということがある。)の数や配置は特に限定されない。A層、B層は、基材シートの片面のみに形成されていても、基材シートの両面に形成されていてもよい。基材にA層を積層することによって基材表面の凹凸(微小突起物)が覆われて平滑性が向上するので、その上にB層を積層すれば、B層のピンホール発生が抑制されて優れたガスバリア性を有する保護用シートが得られる。また、基材シートの種類によっては無機化合物との密着性が得られない場合があるが、基材シートとB層の間にA層を設けることで十分な密着性が得られる。
【0081】
また、本発明の保護用シートは、さらに接着剤層等の他の層を含むものであってもよい。他の層は、単層でも、同種又は異種の2層以上であってもよい。
本発明の保護用シートの層構成の例を図2、図3に示す。ただし、本発明の保護用シートはこれらに限定されるものではない。
【0082】
図2、3中、Sは基材シートを表し、A1、A2はそれぞれA層を表し、B1、B2はそれぞれB層を表し、Cはフッ素樹脂層を表す。各図に示す層の厚さは、あくまで例図であり、これに限定されるものではない。
【0083】
図2(a)、(b)は、A層、B層、及び基材シートからなる3層の保護用シートを、図2(c)、(d)は、2層のA層、B層、及び基材シートからなる4層の保護用シートを、図2(e)、(f)は2層のA層、2層のB層、及び基材シートからなる5層の保護用シートを示す。
【0084】
図3に示す保護用シートは、フッ素樹脂層を有する保護用シートの例を示す。
図3(a)、(c)は、ぞれぞれ、図2(a)、(c)の保護用シートの基材シート側にフッ素樹脂層を形成した保護用シートを、図3(b)、(d)は、ぞれぞれ、図2(a)、(c)の保護用シートのB層側にフッ素樹脂層を形成した保護用シートを示す。
これらの中でも、密着性及び平滑性に優れることから、図2(a)、(c)、(e)に示す保護用シートが好ましく、簡便に製造できること等の理由から、図2(a)に示す保護用シートがより好ましい。さらに、耐候性を向上させることができることから、これらにフッ素樹脂層を積層した図3に示す保護用シートが特に好ましい。
【0085】
本発明の保護用シート全体の厚みは、太陽電池モジュールが適用される地域の環境等によって適宜決定することができる。本発明の保護用シートの厚みは、25μm〜1000μm。好ましくは50μm〜500μmである。
【0086】
本発明の保護用シートは優れたガスバリア性を有する。本発明の保護用シートが、優れたガスバリア性を有していることは、本発明の保護用シートの水蒸気等のガスの透過率が、イオンが注入されていないものに比して、格段に小さいこと等から確認することができる。例えば、水蒸気透過率は、0.5g/m/day以下が好ましく、0.3g/m/day以下がより好ましい。
【0087】
また、例えば、温度85℃、湿度85%環境下で100時間放置後においても、優れた水蒸気透過率を維持できることから、本発明の保護用シートは、耐久性にも優れることがわかる。
なお、保護用シートの水蒸気等の透過率は、公知のガス透過率測定装置を使用して測定することができる。
【0088】
本発明の保護用シートは優れた耐屈曲性を有する。優れた耐屈曲性を有することは、例えば、3mmφステンレスの棒に、A層等が設けられていない面が接するように保護用シートを巻き付け、耐折性試験機(井元製作所社製IMC−15AE)を用いて、1.2kgの荷重をかけながら、上下に10往復させた後においても、クラックが発生していないこと等から確認することができる。本発明の保護用シートは、同厚みの無機膜に比較して、耐屈曲性に優れ、ガスバリア性を維持することに優れている。
【0089】
2)太陽電池モジュール
本発明の太陽電池モジュールは、本発明の保護用シートを有することを特徴とする。
【0090】
本発明の太陽電池モジュールは、一般的には、第1の保護用シート、封止材層、複数枚の太陽電池セル、封止材層及び第2の保護用シートをこの順に積層する工程と、それらを真空吸引により一体化して加熱圧着する真空加熱ラミネーション法等により一体成形するラミネート工程により製造することができる。
【0091】
上記太陽電池モジュールの製造方法において、各層間の接着性等を目的として、各積層対向面に、コロナ放電処理、オゾン処理、低温プラズマ処理、グロー放電処理、酸化処理、プライマーコート処理、アンダーコート処理、アンカーコート処理などを施すことができる。
【0092】
また、各層間の接着性等の向上を目的として、例えば、封止材層と第1の保護用シートの間、封止材層と第2の保護用シートの間に接着剤層を設けてもよい。
【0093】
用いる接着剤は、加熱溶融型接着剤、溶剤型接着剤、光硬化型接着剤等のいずれであってもよい。その具体例としては、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)系接着剤、ポリオレフィン系接着剤、アクリル系接着剤、ウレタン系接着剤、エポキシ系接着剤、エステル系接着剤などが挙げられる。なかでも、熱接着性であるエチレン酢酸ビニル(EVA)やポリオレフィンを主成分とするポリマーからなる樹脂が好ましく、EVAを主成分とするポリマーからなる樹脂であることがより好ましい。一般に、前記封止材がEVAからなる封止樹脂であることが多く、接着剤としてEVAを主成分とするポリマーからなる樹脂であることにより、前記封止材と前記熱接着性の接着性を向上させることができる。
【0094】
接着剤層の厚さは、適宜調節すればよいが、通常1〜200μm、好ましくは10〜200μm、より好ましくは50〜150μmの範囲である。
【0095】
本発明の太陽電池モジュールの例を図4に示す。但し、本発明の太陽電池モジュールは、これらに限定されるものではない。
図4(a)は、図1に示す太陽電池モジュール100の第2の保護用シート(バックシート)20として、図2(a)に示す保護用シートを使用し、該保護用シートのB層(B1)と封止材層30とを、接着剤層4aを介して貼り合わせた太陽電池モジュール100Aである。
【0096】
図4(b)は、図1に示す太陽電池モジュール100の第2の保護用シート(バックシート)20として、図3(a)に示す保護用シートを使用し、該保護用シートのB層(B1)と封止材層30とを、接着剤層4aを介して貼り合わせた太陽電池モジュール100Bである。
【0097】
また、図4(c)は、図1に示す太陽電池モジュール100の第1の保護用シート(フロントシート)10として、図2(a)に示す保護用シートを使用し、該保護用シートのB層(B1)と封止材層30とを、接着剤層4bを介して貼り合わせた太陽電池モジュール100Cである。
【0098】
図4(d)は、図1に示す太陽電池モジュール100の第1の保護用シート(フロントシート)10として、図3(a)に示す保護用シートを使用し、該保護用シートのB層(B1)と封止材層30とを、接着剤層4bを介して貼り合わせた太陽電池モジュール100Eである。
【0099】
また、図示を省略しているが、本願発明の太陽電池モジュールとしては、図1に示す太陽電池モジュール100の第1の保護用シート(フロントシート)10及び第2の保護用シート(バックシート)20として、図2及び図3に示すその他の本発明の保護用シートを、接着剤層4a及び4bを介してそれぞれ貼り合わせたものであってもよい。
【実施例】
【0100】
次に、実施例及び比較例により、本発明を更に詳細に説明する。但し、本発明は、以下の実施例により何ら制限されるものではない。
【0101】
実施例で用いたプラズマイオン注入装置、水蒸気透過率測定装置と測定条件及び耐屈曲性試験の方法は以下の通りである。
【0102】
<プラズマイオン注入装置>
・RF電源:型番号「RF」56000、日本電子社製
・高電圧パルス電源:「PV−3−HSHV−0835」、栗田製作所社製
【0103】
<水蒸気透過率測定装置>
「L80−5000」、LYSSY社製
・測定条件:相対湿度90%、40℃
【0104】
(耐久性試験)
温度85℃、湿度85%環境下で100時間放置後、水蒸気透過率の測定を行なった。
(密着性試験)
基材シートとA層との密着性を、セロハンテープを用いたクロスカット試験により評価した(JIS−K5600−5−6)。密着性は、良好な場合を0、非常に悪い場合を5として5段階で評価した。また、上記耐久性試験(温度85℃、湿度85%環境下で100時間放置)後も同様に試験を行い、密着性を評価した。
【0105】
(耐屈曲性試験)
3mmφステンレスの棒に、A層等が設けられていない面が接するように保護用シートを巻き付け、耐折性試験機(井元製作所社製IMC−15AE)を用いて、1.2kgの荷重をかけながら、上下に10往復させた後、光学顕微鏡(キーエンス社製VHX−100)にて(倍率2000倍)クラックの有無を観察した。
【0106】
(実施例1)
基材シートとしてポリエチレンテレフタレートフィルム(三菱樹脂社製、商名:PET38 T‐100)に、ポリオルガノシロキサン系化合物としてシリコーン剥離剤(「KS847H」、ポリジメチルシロキサンを主成分とするシリコーン樹脂、信越化学工業社製)をマイヤーバーを用いて塗布し、120℃で2分間加熱して基材シート上にポリジメチルシロキサンを含む層(厚さ、100nm)を形成した。次に、プラズマイオン注入装置を用いてポリジメチルシロキサンを含む層の表面に、アルゴンをプラズマイオン注入した。
【0107】
プラズマイオン注入の条件を以下に示す。
・Duty比:0.5%
・繰り返し周波数:1000Hz
・印加電圧:−10kV
・RF電源:周波数 13.56MHz、印加電力 1000W
・チャンバー内圧:0.2Pa
・パルス幅:5μsec
・処理時間(イオン注入時間):5分間
イオン注入層が形成されていることは、XPS(測定装置:アルバックファイ社製)を用いて表面から10nm付近の元素分析測定を行うことによって確認した(以下同じ。)。
【0108】
次に、イオン注入された層に、巻き取り式スパッタリング装置を用いて、マグネトロンスパッタリング法により、膜厚50nmの窒化ケイ素(SiN)層を形成し、基材シート−A層(アルゴンがプラズマイオン注入されたシリコーン樹脂層)−B層(窒化ケイ素層)の3層からなる保護用シート1を作製した。
【0109】
マグネトロンスパッタリングの条件を以下に示す。
・プラズマ生成ガス:アルゴン、窒素
・ガス流量:アルゴン100sccm,窒素60sccm
・電力値:2500W
・チャンバー内圧:0.2Pa
ライン速度:0.2m/min
ターゲット:Si
【0110】
(実施例2)
印加電圧を−15kVとした以外は、実施例1と同様にして保護用シート2を作製した。
(実施例3)
印加電圧を−20kVとした以外は、実施例1と同様にして保護用シート3を作製した。
(実施例4)
プラズマ生成ガスとしてアルゴンの代わりに窒素を用いた以外は、実施例1と同様にして保護用シート4を作製した。
【0111】
(実施例5)
プラズマ生成ガスとしてアルゴンの代わりに酸素を用い、窒化ケイ素の代わりに酸化ケイ素(SiO)を製膜した以外は、実施例1と同様にして保護用シート5を作製した。
【0112】
(実施例6〜10)
実施例1〜5で得た保護用シート1〜5の無機薄膜層(B層)上に、フッ素樹脂コーティング剤を下記手順にて調製し、厚さ14μmとなるようにバーコーターにて塗工し、120℃で1分間乾燥後、23℃、相対湿度50%の環境下で7日間放置してフッ素樹脂層を形成した。保護用シート1〜5から得られた保護用シートを、それぞれ保護用シート6〜10とする。
【0113】
(調製手順)
メチルエチルケトン 120質量部、疎水性シリカ(キャボット・スペシャリティ・ケミカルズ・インク製、CAB−O−SIL TS−720)18.2質量部、酸化チタン(デュポン株式会社製 タイピュアR−105)100質量部を混合した後、ディスパー(特殊機化工業社製、T.K.ホモディスパー)又は顔料分散機(Red Devil Equipment社製、Heavy Duty Mixer 5410、事前にジルコニアビーズ400質量部を添加)にて所定時間分散させ、顔料分散液を調製した。調製した顔料分散液 87質量部に、CTFE系共重合体(旭硝子社製、ルミフロンLF200)100質量部、硬化剤(住化バイエルウレタン社製、スミジュールN3300)10.7質量部、架橋促進剤(東洋インキ製造社製、BXX3778−10)0.004質量部、及びメチルエチルケトン 110質量部を配合して塗工液を調製した。
【0114】
(実施例11〜15)
実施例1〜5で得た保護用シート1〜5の基材シートのA層等が形成されていない面に、実施例1と同様にしてフッ素樹脂コート層を設けた保護用シートを作製した。保護用シート1〜5から得られた保護用シートを、それぞれ保護用シート11〜15とする。
【0115】
(実施例16〜20)
実施例1〜5で得た保護用シート1〜5の基材シートのA層等が形成されていない面に、25μmフッ素樹脂フィルム(Du Pont社製、テドラーTUB10AAH4)をポリエステル系接着剤(東洋インキ社製、AD−76P1とCAT−10L(硬化剤)を用いて貼合わせて、保護用シートを作製した。保護用シート1〜5から得られた保護用シートを、それぞれ保護用シート16〜20とする。
【0116】
(比較例1)
ポリエチレンテレフタレートフィルム(三菱樹脂社製、商名:PET38 T‐100)をそのまま比較例1の保護用シートとする(保護用シート21)。
【0117】
(比較例2)
ポリエチレンテレフタレートフィルム(三菱樹脂社製、商名:PET38 T‐100)上に、実施例6〜10と同様にしてフッ素樹脂層をコートした。得られたポリオルガノシロキサン系化合物を含む層にイオンが注入されて得られる層及び無機薄膜層を有しないシートを保護用シート22とする。
【0118】
(比較例3)
ポリエチレンテレフタレートフィルム(三菱樹脂社製、商名:PET38 T‐100)上に、実施例16〜20と同様にしてフッ素樹脂フィルムを貼り合わせた。得られたポリオルガノシロキサン系化合物を含む層にイオンが注入されて得られる層及び無機薄膜層を有しないシートを保護用シート23とする。
【0119】
(比較例4)
ポリエチレンテレフタレートフィルム(三菱樹脂社製、商名:PET38 T‐100)上に、実施例5と同様にして、厚さ50nmのSiO膜を形成した。得られたポリオルガノシロキサン系化合物を含む層にイオンが注入されて得られる層を有しないシートを保護用シート24とする。
【0120】
(比較例5)
比較例4で得た保護用シートのSiO膜上に、実施例6〜10と同様にしてフッ素樹脂層をコートした。得られたポリオルガノシロキサン系化合物を含む層にイオンが注入されて得られる層を有しないシートを保護用シート25とする。
【0121】
以上のようにして作製した保護用シート1〜25のそれぞれにつき、耐久性試験前後の水蒸気透過率の測定、耐久性試験前後の基材シートとA層との密着性試験の結果、及び耐屈曲性試験後のクラックの有無の観察を行い、第1表にまとめた。
【0122】
【表1】

【0123】
第1表より、実施例1〜20の保護用シート1〜20は、水蒸気透過率の値が小さく(水蒸気バリア性に優れる)、基材シートとA層との密着性に優れ、且つ、耐屈曲性にも優れていた。さらに、耐屈曲性試験後においても、水蒸気透過率の値は小さく、ガスバリア性が低下することがなく、密着性にも優れていた。
一方、比較例1〜3の保護用シート21〜23は、水蒸気透過率の値が大きく、水蒸気バリア性に劣っていた。また、比較例4、5の保護用シート24、25は、水蒸気透過率の値は大きくはないものの、耐屈曲性に劣っていた。
【符号の説明】
【0124】
4a,4b・・・接着剤層、10・・・第1の保護用シート、20・・・第2の保護用シート、30・・・封止材層、40・・・太陽電池セル、A1,A2・・・ポリオルガノシロキサン系化合物を含む層にイオンが注入されて得られる層、B1,B2・・・無機薄膜層、S・・・基材シート、C・・・フッ素樹脂層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂からなる基材シートと、該基材シート上に形成された、ポリオルガノシロキサン系化合物を含む層に、単体、分子、化合物またはイオンが注入されて得られる層、及び無機薄膜層を有することを特徴とする太陽電池モジュール保護用シート。
【請求項2】
さらに、フッ素樹脂層を有する請求項1に記載の太陽電池モジュール保護用シート。
【請求項3】
前記フッ素樹脂層が、フッ素樹脂層形成用組成物を塗布することにより形成されたものである請求項2に記載の太陽電池モジュール保護用シート。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の太陽電池モジュール保護用シートを有する太陽電池モジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−238727(P2010−238727A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−82137(P2009−82137)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(000102980)リンテック株式会社 (1,750)
【Fターム(参考)】