説明

太陽電池及びその製造方法

【課題】シート状の導電性基材上に有機薄膜起電力層及び電極を成膜し、次いで該シート状導電性基材を切断して得られる太陽電池における電極の短絡を防止する。
【解決手段】シート状の導電性基材1上に有機薄膜起電力層2と上部電極3とを塗布法により成膜し、この上部電極3上に補助電極4を成膜する。有機薄膜起電力層2はシート状導電性基材1の全面に成膜されている。上部電極3は、それら同士の間にスペースがあくように塗布される。このスペース部分において、太陽電池シート7をシート幅方向に切断して個々の太陽電池とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可撓性の導電性基材上に少なくとも有機薄膜起電力層及び上部電極を成膜してなる太陽電池とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、太陽電池セルはガラス基板、シリコンウェファ等の可撓性のない割れ易い材料を用いて作製されてきた。それに対し、特開平11−243224には、ポリエステル、ポリエチレン、ポリカーボネート等の可撓性を有する基材上に太陽電池セルを作製することが提案されている。このような可撓性基材は割れにくく、太陽電池セルのモジュール構造の軽量化が可能であり、より安価な工事費で設置が可能になるという利点を有している。また、この可撓性基材として導電性基材を用いた場合は、特開平11−186577にあるように、セル同士を重ね合わせるようにして直列接続することにより所望の出力電圧を得ることが可能になる。この方法によれば、特開平5−183177のように電極と光電変換層をレーザーによりパターニングして基材上で直列化する方法に比べて、製造コストが安価になる。
【0003】
特開2008−201819には、太陽電池セルの光電変換層を有機半導体材料の塗布法により成膜することが記載されている。このような塗布法によって、可撓性基材上に光電変換層を成膜することにより、軽量な太陽電池モジュールを安価に製造することが可能となる。なお、有機半導体材料は、柔軟性を有していると共に、膜厚を非常に薄くすることが可能であり(数十〜100nm)、可撓性基材上への成膜に適している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−243224
【特許文献2】特開平11−186577
【特許文献3】特開平5−183177
【特許文献4】特開2008−201819
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
安価に太陽電池モジュールを製造するには、なるべく大面積の導電性基材上に光電変換層及び電極層を積層状に成膜した後、切断によって、太陽電池セルを作製する方法が好ましいが、この積層膜を切断する際に、上部電極と下部電極である導電性基材とが短絡してしまうという問題がある。それを防ぐために例えば、特開平11−143224にあるように、上部電極の一部をエッチングやレーザーで除去してから切断することなどが行われている。
【0006】
しかしながら、上部電極をエッチング等のプロセスで除去する方法は製造コストが高いという問題がある。また、従来上部電極はスパッタ等の真空プロセスにより成膜される為、製造コストが高くなっていた。
【0007】
有機半導体材料は、塗布による成膜が可能であることと共に、可撓性に優れているという特徴を有する。このような材料は、可撓性基材に連続塗布プロセスで成膜することが最も適した製造プロセスであり、製造コストを下げるために、ロール状に巻き取った基材を繰り出しながら連続的に成膜するという方法が取られる。このような連続塗布プロセスの速度は、真空装置によるスパッタプロセスや、レーザーによるパターニングプロセスによる速度よりも一般的に速いために、効率の良い製造ラインの設計が困難であった。
【0008】
本発明は、シート状の導電性基材上に有機薄膜起電力層及び電極を成膜し、次いで該シート状導電性基材を切断して得られる太陽電池の製造コストを低くすると共に、切断による電極の短絡を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明(請求項1)の太陽電池は、可撓性を有する導電性基材上に少なくとも有機薄膜起電力層と光透過性の上部電極とが積層された太陽電池であって、少なくとも該上部電極が塗布法により成膜された太陽電池において、該上部電極の端縁が該導電性基材の端縁よりも太陽電池の中央側に後退していることを特徴とするものである。
【0010】
請求項2の太陽電池は、請求項1において、該上部電極の端縁が該導電性基材の端縁よりも太陽電池の中央側に0.1〜10mm後退していることを特徴とするものである。
【0011】
請求項3の太陽電池は、請求項1又は2において、前記有機薄膜起電力層の端縁と前記導電性基材の端縁とが合致していることを特徴とするものである。
【0012】
請求項4の太陽電池セルの製造方法は、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の太陽電池を製造する方法であって、シート状の導電性基材上に複数の単位太陽電池を有した太陽電池シートを製造する太陽電池シート製造工程と、該太陽電池シートを切断して各太陽電池に切り離す切断工程とを有しており、該太陽電池シート製造工程にあっては、各単位太陽電池の上部電極を相互間にスペースをあけるように塗布法により設け、該切断工程にあっては、この上部電極同士の間のスペース部分において太陽電池シートを切断することを特徴とするものである。
【0013】
請求項5の太陽電池セルの製造方法は、請求項4において、前記上部電極を塗布法により成膜するに際し、上部電極同士の間に前記スペースがあくように上部電極を塗布することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の太陽電池は、基材シート上に少なくとも有機薄膜起電力層及び光透過性上部電極を成膜し、次いで太陽電池毎に切断することにより得られる。この光透過性の上部電極を導電性高分子等の塗布により成膜することにより、太陽電池の製造コストを低くすることが可能となる。この塗布による成膜の際、切断されるライン周辺部を予め除いた領域に塗布を行い、切断工程では該ラインに沿って切断することにより、上部電極と下部電極との短絡が防止される。この方法によると、切断前に上部電極を除去する工程を省略することが可能となり、製造コストを低くすることができる。
【0015】
本発明方法では、上部電極を塗布によってパターン成膜しており、レーザーによるパターニングは行わないところから、効率の良い製造ラインを設計することが可能となる。
【0016】
また、本発明の太陽電池モジュールを撓ませても、クラック等が生じることなく、性能が低下しない。その結果、丸めて収納する等、様々な使用形態が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施の形態に係る太陽電池の製造方法を示す模式的な平面図である。
【図2】図1のII部分の縦断面図(シート厚み方向の断面図)である。
【図3】図1のIII部分の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の太陽電池を製造する方法の一例を次に説明する。
【0019】
まず、第1図(a)及び第2図のように原反ロール等から巻き出されたシート状の導電性基材1上に有機薄膜起電力層2と上部電極3とを塗布法により成膜し、この上部電極3上に補助電極4を塗布法により成膜する。有機薄膜起電力層2はシート状導電性基材1の全面に成膜されている。上部電極3は、シート状導電性基材1の長手方向に間隔(スペース)があくパターンにて塗布されている。補助電極4は、各上部電極3の上にそれぞれ成膜されている。補助電極4は、上部電極3の一端辺に沿ってシート状導電性基材1の幅方向に延在する集電部4aと、この集電部4aから直交状に延在した櫛状部4bとを備えている。
【0020】
これにより、上部電極3同士の間のスペースによって区画された単位太陽電池部5がシート長手方向に配列された太陽電池シート7が得られる。第1図(a)では、単位太陽電池部5が4個だけ示されているが、シート状導電性基材1は第1図(a)の左右方向に長く延在しており、多数の単位太陽電池部5が形成されている。
【0021】
次に、第1図(b)及び第3図の通り、上部電極3同士の間のスペース部分において、太陽電池シート7をシート幅方向に切断する。第2図のCがこの切断位置を示している。切断位置Cは、上部電極3,3同士の中間であることが好ましい。この切断手段としては、カッター刃やレーザ切断などが例示される。
【0022】
このようにして、各単位太陽電池部5が切断分離されて太陽電池5Aが得られる。この太陽電池5Aにあっては、上部電極2が太陽電池5Aの端縁(切断端面)から所定距離Lだけ離隔しているので、上部電極3と導電性基材1とが短絡することが防止される。このLは0.1〜10mm特に0.5〜5mm程度が好適である。有機薄膜起電力層2は、シート状導電性基材1と共に切断されるので、有機薄膜起電力層2の端縁は、切断された導電性基材1の端縁と合致している。
【0023】
また、この太陽電池5Aにあっては、有機半導体層2、上部電極3等を塗布法によって成膜していると共に、上部電極3をパターン塗布によって前記スペースがあくように成膜しており、製造コストが安い。即ち、上部電極を導電性インクの塗布により成膜することにより、太陽電池の製造コストを低くすることが可能となる。さらに、塗布による成膜の際、切断されるライン周辺部を予め除いた領域に塗布を行うので、切断前に上部電極を除去する工程を省略することが可能となり、製造コストをさらに低くすることができる。また、上部電極も塗布による成膜であると共に、レーザーによるパターニングは使用せず、成膜時のパターン塗布によっていることから、効率の良い製造ラインを設計することが可能となる。
【0024】
このようにして製造された太陽電池5Aは、合成樹脂シート、ガラスプレート等よりなる基板の上に直列接続されるように配置され、これを覆うように透光性の合成樹脂等よりなる封止材を設けて太陽電池製品とされる。なお、隣接する一方の太陽電池5Aの導電性基材1を他方の太陽電池5Aの集電部4aの上に重ねるようにして太陽電池5A同士を直列に接続するのが好ましい。
【0025】
次に、太陽電池の各部分を構成する材料の好適例及び厚さ等について説明する。
【0026】
[導電性基材]
導電性基材の材質は鉄、銅、アルミ、亜鉛、錫、クローム、ニッケルやそれらの合金が好適であり、特にアルミ合金やステンレス鋼が好適である。厚さは10μm〜300μmが好適である。表面粗さは通常は算術平均表面粗さ(Ra)が0.8μm〜3.2μm程度が好適である。線熱膨張係数は通常5〜40ppm/℃程度が好適である。導電性基材は、合成樹脂フィルムの表面に導電膜を全面的に形成したものであってもよい。この導電膜の材料としては、後述の上部電極用材料が例示される。
【0027】
[有機薄膜起電力層]
有機薄膜起電力層は、有機半導体により形成される。有機半導体は半導体特性により、p型、n型に分けられる。p型、n型は、電気伝導に寄与するのが、正孔、電子いずれであるかを示しており、材料の電子状態、ドーピング状態、トラップ状態に依存する。したがって、p型、n型は必ずしも明確に分類できない場合があり、同一物質でp型、n型両方の特性を示すものもある。
【0028】
p型半導体の例として、テトラベンゾポルフィリン、テトラベンゾ銅ポルフィリン、テトラベンゾ亜鉛ポルフィリン等のポルフィリン化合物;フタロシアニン、銅フタロシアニン、亜鉛フタロシアニン等のフタロシアニン化合物;ナフタロシアニン化合物;テトラセンやペンタセンのポリアセン;セキシチオフェン等のオリゴチオフェンおよびこれら化合物を骨格として含む誘導体が挙げられる。さらに、ポリ(3−アルキルチオフェン)などを含むポリチオフェン、ポリフルオレン、ポリフェニレンビニレン、ポリトリアリルアミン、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリピロール等の高分子等が例示される。
【0029】
n型半導体の例として、フラーレン(C60、C70、C76);オクタアザポルフィリン;上記p型半導体のパーフルオロ体;ナフタレンテトラカルボン酸無水物、ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド、ペリレンテトラカルボン酸無水物、ペリレンテトラカルボン酸ジイミド等の芳香族カルボン酸無水物やそのイミド化物;及び、これら化合物を骨格として含む誘導体などが挙げられる。
【0030】
少なくともp型の半導体およびn型の半導体が含有されていれば、有機半導体層の具体的な構成は任意である。単層の膜のみによって構成されていてもよく、2以上の積層膜によって構成されていてもよい。例えば、n型の半導体とp型の半導体とを別々の膜に含有させるようにしても良く、n型の半導体とp型の半導体とを同じ膜に含有させても良い。また、n型の半導体及びp型の半導体は、それぞれ、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0031】
有機半導体層の具体的な構成例としては、p型半導体とn型半導体が層内で相分離した層(i層)を有するバルクヘテロ接合型、それぞれp型半導体を含む層(p層)とn型半導体を含む層(p層)が界面を有する積層型(ヘテロpn接合型)、ショットキー型およびそれらの組合せが挙げられる。これらの中でもバルクへテロ接合型およびバルクへテロ接合型と積層型を組み合わせた(p−i−n接合型)が高い性能を示すことから好ましい。
【0032】
有機半導体層のp層、i層、n層各層の厚みに制限はないが、通常3nm以上、中でも10nm以上、また、通常200nm以下、中でも100nm以下とすることが好ましい。層厚を厚くすることで膜の均一性が高まる傾向にあり、薄くすることで透過率が向上する、直列抵抗が低下する傾向にある。
【0033】
有機半導体層の成膜方法は特に限定されないが、上記半導体材料を含むインク等を塗布するウェットプロセスが好適である。
【0034】
[上部電極]
上部電極は、導電性を有する材料により形成することが可能であり、例えば、白金、金、銀、アルミニウム、クロム、ニッケル、銅、チタン、マグネシウム、カルシウム、バリウム、ナトリウム等の金属あるいはそれらの合金;酸化インジウムや酸化錫等の金属酸化物、あるいはその合金(ITO);ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン等の導電性高分子;前記導電性高分子に、塩酸、硫酸、スルホン酸等の酸、FeCl等のルイス酸、ヨウ素等のハロゲン原子、ナトリウム、カリウム等の金属原子などのドーパントを含有させたもの;金属粒子、カーボンブラック、フラーレン、カーボンナノチューブ等の導電性粒子をポリマーバインダー等のマトリクスに分散した導電性の複合材料などが挙げられる。なかでも、正孔を捕集する導電性基材又は電極には、Au、ITO等の深い仕事関数を有する材料が好ましい。一方、電子を捕集する導電性基材又は電極には、Alのような浅い仕事関数を有する材料が好ましい。仕事関数を最適化することにより、光吸収により生じた正孔及び電子を良好に捕集する利点がある。
【0035】
受光面側の上部電極は、発電のために光透過性を有している。透明な電極の材料を挙げると、例えば、ITO、酸化インジウム亜鉛(IZO)等の酸化物などが挙げられる。上部電極の光の透過率の具体的範囲に制限は無いが、太陽電池素子の発電効率を考慮すると、光学界面での部分反射によるロスを除き、80%以上が好ましい。
【0036】
なお、上部電極の材料は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0037】
上部電極は、塗布法、具体的には導電性インク等を用いたウェットプロセスにより形成される。この際、導電性インクとしては任意のものを使用することができ、例えば、導電性高分子、金属粒子分散液等を用いることができる。
【0038】
電極は2層以上積層してもよく、表面処理により特性(電気特性やぬれ特性等)を改良してもよい。
【0039】
[その他の層]
本発明の太陽電池は、バッファ層など、上記以外の層を備えてもよい。バッファ層は、有機半導体層側に面した電極界面に電気特性等の改良のために設ける層である。例えば、ポリ(エチレンジオキシチオフェン):ポリ(スチレンスルホン酸)(PEDOT:PSS)、酸化モリブデン、フッ化リチウム、2,9ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリンなどが挙げられる。
【符号の説明】
【0040】
1 導電性基材
2 有機薄膜起電力層
3 上部電極
4 補助電極
4a 集電部
4b 櫛状部
5 単位太陽電池部
5A 太陽電池
7 太陽電池シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性を有する導電性基材上に少なくとも有機薄膜起電力層と光透過性の上部電極とが積層された太陽電池であって、少なくとも該上部電極が塗布法により成膜された太陽電池において、
該上部電極の端縁が該導電性基材の端縁よりも太陽電池の中央側に後退していることを特徴とする太陽電池。
【請求項2】
請求項1において、該上部電極の端縁が該導電性基材の端縁よりも太陽電池の中央側に0.1〜10mm後退していることを特徴とする太陽電池。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記有機薄膜起電力層の端縁と前記導電性基材の端縁とが合致していることを特徴とする太陽電池。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の太陽電池を製造する方法であって、シート状の導電性基材上に複数の単位太陽電池を有した太陽電池シートを製造する太陽電池シート製造工程と、
該太陽電池シートを切断して各太陽電池に切り離す切断工程と
を有しており、
該太陽電池シート製造工程にあっては、各単位太陽電池の上部電極を相互間にスペースをあけるように塗布法により設け、
該切断工程にあっては、この上部電極同士の間のスペース部分において太陽電池シートを切断することを特徴とする太陽電池セルの製造方法。
【請求項5】
請求項4において、前記上部電極を塗布法により成膜するに際し、上部電極同士の間に前記スペースがあくように上部電極を塗布することを特徴とする太陽電池セルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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