説明

太陽電池用ポリエステルフィルム

【課題】長期の防湿性維持に適した太陽電池モジュールに適した太陽電池用積層ポリエステルフィルムに関する。
【解決手段】ポリエステルフィルム中の環状三量体含有量が該ポリエステルフィルム当り5000ppm以下であり、ポリエステルフィルムの少なくとも一方の面におけるフィルム表面の環状三量体量が50μg/m以下である太陽電池用ポリエステルフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池用バックシートに用いた際、長期の耐防湿性維持に適した太陽電池モジュールに適した太陽電池用ポリエステルフィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化の原因となる石油エネルギーに代わる、エネルギー手段として、太陽電池が注目を浴びており、その需要が高まっている。太陽電池は太陽光のエネルギーを直接電気に換える太陽光発電システムであり、その心臓部は半導体からできている。その構造としては、太陽電池素子単体をそのままの状態で使用することはなく、一般的に数枚〜数十枚の太陽電池素子を直列、並列に配線し、長期間(約20年以上)に亘って素子を保護するため種々のパーケージングが行われ、ユニット化されている。このパッケージに組み込まれたユニットを太陽電池モジュールと呼び、一般的に太陽光が当たる面をガラスで覆い、熱可塑性樹脂からなる充填材で間隙を埋め、裏面を耐熱、耐候性プラスチック材料などのバックシートと呼ばれる複数の層構成を有する保護シートで保護された構成になっている。
【0003】
太陽電池モジュールの作成方法として、具体的には、太陽電池素子をエチレン・酢酸ビニル共重合体樹脂からなる充填材シート2枚でサンドイッチ状に挟んだ後に、片方の充填材シート上に強化ガラス板からなる上部透明材料を置き、反対側の充填材シート上に前記バックシートをかぶせ、しかる後に40〜50℃で約5分間予備加熱し、さらに両側から全体を約150℃で30分間程度熱プレスして太陽電池用バックシートを融着一体化させて作成される。
【0004】
前記太陽電池用バックシートとして、例えば、太陽電池素子側からポリエステルフィルム/接着剤/ポリエステル系高耐久防湿フィルム(最外層)、ポリエステルフィルム/金属又は金属酸化物系薄膜層などの防湿層/接着剤/ポリエステル系高耐久防湿フィルム(最外層)などの積層構成を有したものが上市されている。ここで用いられるポリエステル系高耐久防湿フィルムとしては例えば以下のものが提案されている。
【0005】
特許文献1および特許文献2には、バックシートに用いられるポリエステル系高耐久防湿フィルムの原料として、ポリエステル樹脂はペレット状樹脂の段階で耐久性向上のため固相重合等の処理をしたポリエステル樹脂が用いられている。特許文献3では環状三量体濃度が0.5%以下のポリエステル樹脂を用いて作成した太陽電池用ポリエステルフィルムが例示されている。特許文献4ではアルミニウム化合物とリン化合物からなる重合触媒を用いて、さらにオリゴマー低減処理されたポリエチレンテレフタレート樹脂を用いて製造された積層フィルムが開示されており、ポリエステルフィルム中の環状三量体濃度が5500ppm以上9000ppm以下、フィルム表面の環状三量体量が0.1mg/mから0.11mg/mである積層フィルムが例示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007―70430号公報
【特許文献2】特開2008―311680号公報
【特許文献3】特開2002−134770号公報
【特許文献4】特開2008―30370号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述のように、太陽電池バックシートに用いるポリエステル樹脂は耐久性向上を目的として、固相重合処理などを行い、フィルム樹脂中のカルボキシル末端濃度を低く抑えることが一般的である。さらに、前記固相重合処理などを行うことによって環状三量体量を低減する効果も得られる。
【0008】
前述のように太陽電池モジュールは絶縁防止や発電素子の劣化防止のため高度な防湿が必要とされる。しかしながら、太陽電池モジュールの使用期間を20年以上として見据えた場合、前述のポリエステルフィルムでは、長期の防湿性維持が十分少ないとは言えない場合があった。
【0009】
本発明の目的は、上記課題に鑑み、長期の防湿性維持が可能な太陽電池用ポリエステルフィルムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、太陽電池バックシートの長期防湿性維持について鋭意検討した結果、バックシートに用いるポリエステルフィルムの表面に環状三量体の結晶物による無数の突起が存在すると熱プレス時に金属又は金属酸化物系薄膜層などの高耐久防湿層にキズや無数の凹みを生じることがあり、これが防湿性を低下させることを見言い出した。すなわち、フィルム表面に析出した環状三量体が大きさ1μm以上、時には5μm以上の結晶体に成長する場合があり、高度な防湿性を要求されるバックシートにおいて、このような表面環状三量体の多いポリエステルフィルムを用いると、その時々の防湿性低下による太陽電池素子の劣化はわずかであっても、20年を越える使用においては太陽電池の性能に大きな影響を与えることが分かった。
【0011】
前記の課題は、以下の解決手段により達成することができる。
本願の第1の発明は、ポリエステルフィルム中の環状三量体含有量が該ポリエステルフィルム当り5000ppm以下であり、該ポリエステルフィルムの少なくとも一方の面におけるフィルム表面の環状三量体量が50μg/m以下である太陽電池用ポリエステルフィルムである。
本願の第2の発明は、アルミニウム及び/又はその化合物とフェノール系化合物を含有する重縮合触媒を用いて重合されたポリエステル樹脂からなる前記太陽電池用ポリエステルフィルムである。
本願の第3の発明は、該ポリエステルフィルムが最外層と中心層の少なくとも3層を有し、前記最外層は粒子を含有し、前記中心層は実質的に粒子を含まない前記太陽電池用ポリエステルフィルムである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の太陽電池用ポリエステルフィルムは、表面に存在する環状三量体量が少ない。そのため、長期の防湿性を阻害する環状三量体からなる突起が少なく、太陽電池用ポリエステルフィルムとして長期の防湿性維持に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のポリエステルフィルムは、ポリエステル樹脂より構成されるフィルムであり、主に、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートの少なくとも1種を構成成分とする。
【0014】
本発明で用いるポリエステルは、従来公知の製造方法で行うことができる。例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)を製造する場合は、テレフタル酸とエチレングリコールとをエステル化反応させた後重縮合する方法、もしくはテレフタル酸ジメチルなどのテレフタル酸のアルキルエステルとエチレングリコールとのエステル交換反応を行った後重縮合する方法、のいずれの方法でも行うことができる。また、重合装置は、回分式であっても、連続式であってもよい。
【0015】
ポリエステルの重縮合時に用いられるポリエステル重合触媒としては、特に限定されないが三酸化アンチモンが安価で、かつ優れた触媒活性をもつ触媒であるため好適である。三酸化アンチモンを触媒とするポリエステル樹脂を得るには公知の方法を用いることができる。例えば特許第4023220号公報中に挙げられているポリエステル樹脂が例示できる。
【0016】
また、上記以外にも重縮合触媒として、ゲルマニウム化合物、又はチタン化合物を用いることも好ましい。さらに好ましい重縮合触媒としては、アルミニウム及び/又はその化合物とフェノール系化合物を含有する触媒、アルミニウム及び/又はその化合物とリン化合物を含有する触媒、リン化合物のアルミニウム塩を含有する触媒が挙げられる。アルミニウム及び/又はその化合物とリン化合物を含有する触媒を用いることにより、三酸化アンチモン触媒を用いて重合されたポリエステル樹脂を用いた場合より、製膜工程中の押し出し機内、延伸工程、および熱固定工程での環状三量体の生成を低減できるためである。この理由については定かではないがアルミニウム及び/又はその化合物とリン化合物を含有する触媒はポリエステル樹脂の熱劣化を抑制する作用があるものと推察される。
【0017】
以下に本発明で用いることができる、アルミニウム及び/又はその化合物とリン化合物を含有する触媒について詳述するが、当然これに限定するものではない。
【0018】
前記アルミニウム及び/又はアルミニウム化合物として、金属アルミニウムのほか、公知のアルミニウム化合物を限定なく使用することができる。
【0019】
アルミニウム化合物としては、具体的には、ギ酸アルミニウム、酢酸アルミニウム、塩基性酢酸アルミニウム、プロピオン酸アルミニウム、蓚酸アルミニウム、アクリル酸アルミニウム、ラウリン酸アルミニウム、ステアリン酸アルミニウム、安息香酸アルミニウム、トリクロロ酢酸アルミニウム、乳酸アルミニウム、クエン酸アルミニウム、サリチル酸アルミニウムなどのカルボン酸塩、塩化アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化塩化アルミニウム、炭酸アルミニウム、リン酸アルミニウム、ホスホン酸アルミニウムなどの無機酸塩、アルミニウムメトキサイド、アルミニウムエトキサイド、アルミニウムn-プロポキサイド、アルミニウムiso-プロポキサイド、アルミニウムn-ブトキサイド、アルミニウムt−ブトキサイドなどアルミニウムアルコキサイド、アルミニウムアセチルアセトネート、アルミニウムアセチルアセテート、アルミニウムエチルアセトアセテート、アルミニウムエチルアセトアセテートジiso-プロポキサイドなどのアルミニウムキレート化合物、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウムなどの有機アルミニウム化合物およびこれらの部分加水分解物、酸化アルミニウムなどが挙げられる。これらのうちカルボン酸塩、無機酸塩およびキレート化合物が好ましく、これらの中でもさらに酢酸アルミニウム、塩化アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化塩化アルミニウムおよびアルミニウムアセチルアセトネートが特に好ましい。
【0020】
前記アルミニウム及び/又はアルミニウム化合物の添加量としては、得られるポリエステルのジカルボン酸や多価カルボン酸などのカルボン酸成分の全構成ユニットのモル数に対して0.001〜0.05モル%が好ましく、さらに好ましくは、0.005〜0.02モル%である。添加量が0.001モル%未満であると触媒活性が十分に発揮されない場合があり、添加量が0.05モル%以上になると、熱安定性や熱酸化安定性の低下、触媒に起因する異物の発生や着色の増加が問題になる場合が発生する。この様にアルミニウム成分の添加量が少なくても本発明の重合触媒は十分な触媒活性を示す点に大きな特徴を有する。その結果、熱安定性や熱酸化安定性が優れ、触媒に起因する異物や着色を低減することができる。
【0021】
前記重縮合触媒を構成するフェノール系化合物としては、フェノール構造を有する化合物であれば特に限定はされないが、例えば、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール、2,6-ジ-tert-ブチル-4-エチルフェノール、2,6-ジシクロヘキシル-4-メチルフェノール、2,6-ジイソプロピル-4-エチルフェノール、2,6-ジ-tert-アミル-4-メチルフェノール、2,6-ジ-tert-オクチル-4-n-プロピルフェノール、2,6-ジシクロヘキシル-4-n-オクチルフェノール、2-イソプロピル-4-メチル-6-tert-ブチルフェノール、2-tert-ブチル-2-エチル-6-tert-オクチルフェノール、2-イソブチル-4-エチル-6-tert-ヘキシルフェノール、2-シクロヘキシル-4-n-ブチル-6-イソプロピルフェノール、1,1,1-トリス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-tert-ブチルフェニル)ブタン、トリエチレングリコール−ビス[3-(3-tert-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,6-ヘキサンジオール−ビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,2-チオジエチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4,4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N,N'-ヘキサメチレンビス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-ヒドロシンナミド)、1,3,5-トリス(2,6-ジメチル-3-ヒドロキシ-4-tert-ブチルベンジル)イソシアヌレート、1,3,5-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、1,3,5-トリス[(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシエチル]イソシアヌレート、トリス(4-tert-ブチル−2,6-ジメチル-3-ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、2,4-ビス(n−オクチルチオ)-6-(4-ヒドロキシ-3,5-ジ-tert-ブチルアニリノ)-1,3,5-トリアジン、テトラキス[メチレン(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシ)ヒドロシンナメート]メタン、ビス[(3,3-ビス(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)ブチリックアシッド)グリコールエステル、N,N'-ビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニル]ヒドラジン、2,2'-オギザミドビス[エチル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ビス[2-tert-ブチル-4-メチル-6-(3-tert-ブチル-5-メチル−2-ヒドロキシベンジル)フェニル]テレフタレート、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、3,9-ビス[1,1-ジメチル2-{β-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ}エチル]-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、2,2-ビス[4-(2-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシシンナモイルオキシ))エトキシフェニル]プロパン、β-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸アルキルエステル、テトラキス-[メチル-3-(3',5'-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-tert-ブチルフェニル)ブタン、チオジエチレンービス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3-(5-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-m-トリル)プロピオネート]、ヘキサメチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、トリエチレングリコール-ビス-[-3-(3'-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)]プロピオネート、1,1,3-トリス[2-メチル-4-[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]-5-tert-ブチルフェニル]ブタンなどを挙げることができる。
【0022】
これらは、同時に二種以上を併用することもできる。これらのうち、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、テトラキス-[メチル-3-(3',5'-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、チオジエチレンービス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]が好ましい。
【0023】
これらのフェノール系化合物をポリエステルの重合時に添加することによって、アルミニウム化合物の触媒活性が向上するとともに、重合したポリエステルの熱安定性も向上する。
【0024】
前記フェノール系化合物の添加量としては、得られるポリエステルのジカルボン酸や多価カルボン酸などのカルボン酸成分の全構成ユニットのモル数に対して5×10−7〜0.01モルが好ましく、更に好ましくは1×10−6〜0.005モルである。また、本発明では、フェノール系化合物にさらにリン化合物をともに用いても良い。
【0025】
前記重縮合触媒を構成するリン化合物としては特に限定はされないが、ホスホン酸系化合物、ホスフィン酸系化合物、ホスフィンオキサイド系化合物、亜ホスホン酸系化合物、亜ホスフィン酸系化合物、ホスフィン系化合物からなる群より選ばれる一種または二種以上の化合物を用いると触媒活性の向上効果が大きく好ましい。これらの中でも、一種または二種以上のホスホン酸系化合物を用いると触媒活性の向上効果が特に大きく好ましい。
【0026】
前記の重縮合触媒を構成するリン化合物としては、芳香環構造を有する基である化合物が特に好ましい。
【0027】
前記の重縮合触媒を構成するリン化合物としては、例えば、メチルホスホン酸ジメチル、メチルホスホン酸ジフェニル、フェニルホスホン酸ジメチル、フェニルホスホン酸ジエチル、フェニルホスホン酸ジフェニル、ベンジルホスホン酸ジメチル、ベンジルホスホン酸ジエチル、ジフェニルホスフィン酸、ジフェニルホスフィン酸メチル、ジフェニルホスフィン酸フェニル、フェニルホスフィン酸、フェニルホスフィン酸メチル、フェニルホスフィン酸フェニル、ジフェニルホスフィンオキサイド、メチルジフェニルホスフィンオキサイド、トリフェニルホスフィンオキサイドなどが挙げられる。これらのうちで、フェニルホスホン酸ジメチル、ベンジルホスホン酸ジエチルが特に好ましい。
【0028】
前記のリン化合物の添加量としては、得られるポリエステルのジカルボン酸や多価カルボン酸などのカルボン酸成分の全構成ユニットのモル数に対して5×10−7〜0.01モルが好ましく、更に好ましくは1×10−6〜0.005モルである。
【0029】
前記の重縮合触媒を構成するフェノール部を同一分子内に有するリン化合物としては、フェノール構造を有するリン化合物であれば特に限定はされないが、フェノール部を同一分子内に有する、ホスホン酸系化合物、ホスフィン酸系化合物、ホスフィンオキサイド系化合物、亜ホスホン酸系化合物、亜ホスフィン酸系化合物、ホスフィン系化合物からなる群より選ばれる一種または二種以上の化合物を用いると触媒活性の向上効果が大きく好ましい。これらの中でも、一種または二種以上のフェノール部を同一分子内に有するホスホン酸系化合物を用いると触媒活性の向上効果が特に大きく好ましい。
【0030】
本発明で用いるポリエステルの触媒は、重合反応のみならずエステル化反応およびエステル交換反応にも触媒活性を有する。例えば、テレフタル酸ジメチルなどのジカルボン酸のアルキルエステルとエチレングリコールなどのグリコールとのエステル交換反応による重合は、通常チタン化合物や亜鉛化合物などのエステル交換触媒の存在下で行われるが、これらの触媒に代えて、もしくはこれらの触媒に共存させて本発明の請求項に記載の触媒を用いることもできる。また、前記の触媒は、溶融重合のみならず固相重合や溶液重合においても触媒活性を有しており、いずれの方法によっても太陽電池用ポリエステルフィルムの製造に適したポリエステル樹脂を製造することが可能である。
【0031】
本発明のポリエステルフィルム中の環状三量体含有量は5000ppm以下であることが必要であり、4000ppm以下であることが好ましく、3500ppm以下がより好ましい。5000ppmを超えると、耐久性が低下するため好ましくない他、フィルム表面に環状三量体が析出しやすく、金属又は金属酸化物薄膜層等の防湿層を積層した際に該防湿層に貫通孔を発生させる等の悪影響をもたらすため好ましくない。
【0032】
ポリエステルフィルムの環状三量体の含有量を上記範囲にするためには、固相重合法によってオリゴマー低減処理を行ったポリエステル樹脂を原料に用いることが好ましい。
【0033】
本発明で言う固相重合法とは、前述のごとく固相状態で減圧下あるいは不活性ガス気流下でポリエステル樹脂を加熱し、さらに重縮合を進める方法である。固相状態にて減圧下で加熱する方法と不活性ガス気流下で熱処理する方法を組み合わせてもよい。固相重合反応は、溶融重縮合反応と同様、回分式装置や連続式装置で行うことが出来る。溶融重縮合と固相重縮合は連続で行っても良いし、分割して行ってもよい。また、該ポリエステル樹脂中に含まれている環状三量体等のオリゴマーやアセトアルデヒド等の副生成物を除去する等の手段を取ることも何ら制約を受けない。さらに、例えば、超臨界圧抽出法等の抽出法でポリエステル樹脂を精製し前記の副生成物等の不純物を除去する等の処理を行うことを取り入れても良い。
【0034】
尚、本発明で用いるポリエステル中には、他の任意の重縮合体や制電剤、消泡剤、染色性改良剤、染料、顔料、艶消剤、蛍光増白剤、安定剤、酸化防止剤、その他の添加剤が含有されていてもよい。酸化防止剤としては、芳香族アミン系、フェノール系等の酸化防止剤が使用可能であり、安定剤としては、リン酸やリン酸エステル系等のリン系、硫黄系、アミン系等の安定剤が使用可能である。
【0035】
上記の固相重合は、180℃以上、融点未満の温度で行うことが望ましく、特に195〜235℃が好ましい。融点以上では、ポリエステル樹脂が溶融するので実用的でなく、また、180℃未満では環状三量体の減少速度が著しく遅いので好ましくない。さらに、固相重合は、不活性気体流通下又は減圧下で行う必要がある。この不活性気体とは、固相重合後に得られるポリエステル樹脂の劣化を生じないような気体を意味し、一般には安価な窒素を用いるのが好ましい。不活性気体中の水分量は、固相重合中にポリエステル樹脂の極限粘度が低下しない範囲であればよく、通常、500ppm以下である。減圧下で固相重合する場合には、通常、真空度は0.1KPa以下、さらに好ましくは0.05KPa以下である。
【0036】
固相重合の装置は、回転式固相重合装置、塔式静置固相重合装置、流動床式固相重合装置、種々の撹拌翼を有する固相重合装置等のペレット状樹脂を均一に加熱できるものが好ましい。
【0037】
ポリエステルフィルムの耐久性の点からは、固相重合により高分子量化したポリエステルや、低酸価のポリエステルを用いることも好ましい。これによりポリエステルフィルムの耐加水分解性をより向上させることができる。固相重合によりポリエステルを高分子量化する場合、固有粘度は0.65〜0.80dl/gであることが高度な耐熱性、耐加水分解性を得るためには好ましく、より好ましくは0.70〜0.75dl/gである。なお、ポリエステルの固有粘度は、ポリエステルをパラクロロフェノール(6質量部)と、1,1,2,2−テトラクロルエタン(4質量部)の混合溶媒に溶解し、30℃で測定することができる。
【0038】
本発明においては少なくとも一方の面におけるフィルム表面の環状量体量が50μg/m以下であり、好ましくは40μg/m以下であり、特に好ましくは30μg/m以下である。フィルム表面の環状三量体量が50μg/mを越えると該環状三量体量による突起が増加し、金属又は金属酸化物系薄膜層などの防湿層にキズや凹みを生じさせる確率が高くなる。環状三量体の防湿層に与える影響は、防湿膜をフィルム表面にプレスした際に生じる凹み欠点の個数により評価することができる、具体的には、フィルム表面の環状量体量が50μg/m以下の場合、下記測定方法で測定される凹み数を1mm当り200個以下にすることができ、防湿層による防湿機能低下を抑制することができる。
【0039】
本発明では、ポリエステルフィルムの少なくとも一方の面におけるフィルム表面の環状三量体量が上記範囲であれば、係る面に防湿層を設けることで好適に長期防湿性を維持できる。また、フィルム両面での表面環状三量体量が上記範囲であれば、両面いずれにも好適に防湿層を設けることができる。
【0040】
このように、太陽電池の長期防湿性を維持する上で、フィルム表面に存在する表面環状三量体量を特定範囲にすることにより、防湿層のキズなどの要因になる突起を抑制させることを見出したことが本願発明の重要な点である。フィルム表面の環状三量体量を上記範囲にするためには、従来技術のように単にポリエステル樹脂の環状三量体含有量を低減させるだけでは十分ではない。原料となるポリエステル樹脂の環状三量体含有量を低減しても、フィルム製膜における熱履歴によりフィルム表面に環状三量体が析出するからである。そのために、ポリエステルフィルムに含まれる環状三量体含有量を前述の範囲に制御することに加え、製膜中における表面環状三量体低減処理を行なうことが望ましい。
【0041】
製膜中における表面環状三量体低減処理としては、具体的に、以下の手段が例示される。これらの手段を適宜選択もしくは組み合わせることにより、フィルム表面の環状三量体量を前述の範囲に制御することが好ましい。
(1)横延伸工程および/もしくは熱固定工程における風速制御
(2)熱個定後の冷却速度の制御
(3)横延伸工程および/もしくは熱固定工程における炉内空気の調整
(4)溶融工程における滞留時間の制御
(5)タッチロールによる表面環状三量体の除去
【0042】
次に本発明のフィルムの製膜方法について説明する。
本発明のポリエステルフィルムは、単層ポリエステルフィルムであっても良いし、最外層と中心層を有する、少なくとも3層からなる積層ポリエステルフィルムであっても良い。特に、生産性の点から最外層と中心層の3層構成を有することが好ましい。3層構成における層構成として、表裏の最外層の構成は同組成であっても異組成であっても構わないが、2種3層(A層/B層/A層)が平面性の点から好適である。
【0043】
本発明において3層構成とする場合、最外層(上記2種3層の場合はA層)に粒子を含有し、中心層(上記2種3層の場合はB層)には実質的に粒子を含まないことが好ましい。A層に粒子を含有させる理由は、金属又は金属酸化物系薄膜層やコーティング層等の防湿層を積層するなど後加工工程でのハンドリング性付与及び表面積を大きくすることによって前記防湿層との密着性を向上させるためである。最外層に粒子を添加する場合は、加工性に適した十分なハンドリング性が得られる。本発明の積層フィルムのハンドリング性は、積層フィルム面同士の動摩擦係数(μd)により評価することができる。この場合、加工性の点から動摩擦係数(μd)が0.7以下であることが好ましい。
【0044】
また、B層には実質的に粒子を含まないことが好ましいとした理由は、滑剤粒子、特に無機粒子の凝集体による突起の生成確率を低減させるためである。また係る構成をとることで、透明性の高いフィルムを得ることができ、シースルー型太陽電池など透明性が求められる分野にも好適である。
【0045】
なお、「不活性粒子が実質上含有されていない」とは、例えば、無機粒子の場合、蛍光X線分析で粒子に由来する元素を定量分析した際に、50ppm未満、好ましくは10ppm未満、最も好ましくは検出限界以下となる含有量を意味する。これは積極的に粒子を基材フィルム中に添加させなくても、外来異物由来のコンタミ成分や、原料樹脂あるいはフィルムの製造工程におけるラインや装置に付着した汚れが剥離して、フィルム中に混入する場合があるためである。
【0046】
これらの各層には、必要に応じて、ポリエステル中に各種添加剤を含有させることができる。添加剤としては、例えば、酸化防止剤、耐光剤、ゲル化防止剤、有機湿潤剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、界面活性剤などが挙げられる。
【0047】
最外層に含まれる粒子の種類及び含有量は、無機粒子であっても、有機粒子であってもよく、特に限定されるものではないが、シリカ、二酸化チタン、タルク、カオリナイト等の金属酸化物、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、硫酸バリウムなどのポリエステルに対し不活性な無機粒子が例示される。これらの不活性な無機粒子は、いずれか一種を単独で用いてもよく、また2種以上を併用してもよい。
【0048】
前記の粒子は、平均粒子径が0.1〜3.5μmであることが好ましい。前記平均粒子径の下限は、0.5μmがより好ましく、0.8μmがさらに好ましく、1.0μmがよりさらに好ましい。また、前記平均粒子の上限は、3.0μmであることがより好ましく、2.8μmであることがよりさらに好ましい。平均粒子径が0.1μm未満では十分なハンドリング性が得られない。3.5μmを越えると粗大突起が生成しやすくなる。
【0049】
また、これらの粒子は多孔質粒子、特に多孔質シリカが好ましい。多孔質粒子はフィルム製膜工程での延伸時に扁平型に変型しやすく、粗大突起を生成しにくいためである。
【0050】
最外層の無機粒子の含有量は最外層を構成するポリエステルに対し、0.01〜0.20質量%であることが好ましい。前記濃度の下限は、0.02質量%がより好ましく、0.03質量%がさらに好ましい。また前記濃度の上限は、0.15質量%がより好ましく、0.10質量%がさらに好ましい。0.01質量%未満では十分なハンドリング性が得られない。0.2質量%を越えると粗大突起が生成しやすくなる。
【0051】
前記粒子の平均粒子径の測定は下記方法によって求めることができる。
粒子を電子顕微鏡または光学顕微鏡で写真を撮り、最も小さい粒子1個の大きさが2〜5mmとなるような倍率で、300〜500個の粒子の最大径(多孔質シリカの場合は凝集体の粒径)を測定し、その平均値を平均粒子径とする。
【0052】
ポリエステルに上記粒子を配合する方法としては、公知の方法を採用し得る。例えば、ポリエステルを製造する任意の段階において添加することができるが、好ましくはエステル化の段階、もしくはエステル交換反応終了後、重縮合反応開始前の段階でエチレングリコール等に分散させたスラリーとして添加し、重縮合反応を進めてもよい。またベント付き混練押出機を用いエチレングリコールまたは水などに分散させた粒子のスラリーとポリエステル原料とをブレンドする方法、または混練押出機を用い、乾燥させた粒子とポリエステル原料とをブレンドする方法などによって行うことができる。
【0053】
中でも、本発明ではポリエステル原料の一部となるモノマー液中に凝集体無機粒子を均質分散させた後、濾過したものを、エステル化反応前、エステル化反応中、又はエステル化反応後のポリエステル原料の残部に添加する方法が好ましい。この方法によると、モノマー液が低粘度のため、粒子の均質分散やスラリーの高精度な濾過が容易に行えると共に、原料の残部に添加する際に、粒子の分散性が良好で、新たな凝集体も発生しにくい。かかる観点より、特に、エステル化反応前の低温状態の原料の残部に添加することが好ましい。また、予め粒子を含有するポリエステルを得た後、そのペレットと粒子を含有しないペレットとを混練押出し等する方法(マスターバッチ法)により、更に滑剤凝集物を低減することができ、表面の粗大突起数も少なくすることができるため好適である。
【0054】
本発明で用いるフィルムの厚さは、特に制限しないが、30〜300μmの範囲で、使用する規格に応じて任意に決めることができる。基材フィルムの厚みの上限は、250μmが好ましく、特に好ましくは200μmである。一方、フィルム厚みの下限は、50μmが好ましく、さらに好ましくは75μmであり、特に好ましくは100μmである。フィルム厚みが30μm未満では、剛性や機械的強度が不十分となりやすい。一方、フィルム厚みが300μmを超えると、コスト高となる。
【0055】
本発明で用いるフィルムとしては、前記ポリエステルを溶融押出し、または溶液押出して得た未配向シートを、必要に応じ、長手方向または幅方向の一軸方向に延伸し、あるいは二軸方向に逐次二軸延伸または同時二軸延伸し、熱固定処理を施した、二軸配向ポリエステルフィルムが好適である。
【0056】
また、本発明のフィルムを製造する際には、突起の原因となる、原料のポリエステル中に含まれている異物を除去することが好ましい。ポリエステル中の異物を除去するために、溶融押出しの際に溶融樹脂が約280℃に保たれた任意の場所で高精度濾過を行う。溶融樹脂の高精度濾過に用いられる濾材は、特に限定はされないが、ステンレス焼結体の濾材の場合のSi、Ti、Sb、Ge、Cuを主成分とする凝集物、及び高融点有機物が除去性能に優れ好適である。
【0057】
溶融樹脂の高精度濾過に用いる濾材の濾過粒子サイズ(初期濾過効率:95%)は、25μm以下が好ましい。濾材の濾過粒子サイズが25μmを超えると、20μm以上の異物の除去が不十分となりやすい。濾過粒子サイズ(初期濾過効率:95%)が25μm以下の濾材を使用して溶融樹脂の高精度濾過を行うことにより生産性が低下する場合があるが、突起の少ないフィルムを得るには重要である。押し出し機内における溶融樹脂の滞留時間は環状三量体生成の観点からはできるだけ短くすることが好ましい。比較的厚みの薄いフィルムを製膜する際、溶融樹脂の吐出量を小さくすることがあるために滞留時間が長くなる場合があるが、フィルム中の環状三量体量の増加を抑制するため、その場合でも20分間以内にすることが好ましい。より好ましくは15分以内、さらに好ましくは10分以内である。
【0058】
ポリエステルペレットを十分に真空乾燥した後、最外層、および中心層を構成する各ポリエステルを共押出し機に供給し、270〜295℃でシート状に溶融押出しし、冷却固化せしめて未配向のキャストフィルムを得る。得られたキャストフィルムを、80〜120℃に加熱したロールで長手方向に2.5〜5.0倍延伸して、一軸配向ポリエステルフィルムを得る。
【0059】
その後、フィルムの両端部をクリップで把持して、80〜180℃に加熱された熱風ゾーンに導き、乾燥後幅方向に2.5〜5.0倍に延伸する。引き続き220〜240℃の熱処理ゾーンに導き、熱固定処理、冷却を行い、結晶配向を完了させる。この熱処理工程中で、必要に応じて、幅方向あるいは長手方向に1〜12%の弛緩処理を施してもよい。
【0060】
熱固定処理工程についてさらに具体的に説明する。
前述のように、本発明においては横延伸工程、熱固定工程、冷却工程の条件はフィルム表面の環状三量体の量を低減させるために重要である。一般に、横延伸工程、熱固定工程、冷却工程は、隣接する各ゾーンにて、温度制御された熱風または冷風を吹き付けて処理される。本発明においては、横延伸工程、熱固定工程は表面に析出した環状三量体を速やかに除去するために、風速を10m/秒以上とするのが好ましい。さらに好ましくは20m/秒以上である。風速10m/秒未満では環状三量体が表面に残存しやすい。
【0061】
また、冷却速度を制御するには冷却風の温度と風速を適宜調整することで可能になる。例えば、冷却工程での風速は5m/秒以上が好ましく、10m/秒以上がさらに好ましい。冷却工程では熱固定工程における最高温度から60℃以下になるまでの時間が短すぎると環状三量体が表面に析出しやすいため好ましくない。そのため、冷却工程での風速は30m/秒以下が好ましく、20m/秒以下がさらに好ましい。
【0062】
さらに、環状三量体の再付着を防止するために、炉内空気は系外に排気するか、濾過精度1μm以下のフィルターで濾過した後、炉内に再循環させることが好ましい。熱固定温度は220℃〜250℃が好ましい。220℃未満では環状三量体の析出量が十分除去できない場合があり、さらにフィルムの熱収縮率が大きくなるため好ましくない。250℃を越えると環状三量体の析出量が増加する場合があり好ましくない。なお、本発明で言う風速とは、熱風吹き出しノズル出口に面したフィルム表面における風速を意味し、熱式風速計(日本カノマックス製、アネモマスター モデル6161)を用いて測定した値である。
【0063】
本発明の太陽電池用ポリエステルフィルムには、水蒸気バリア性を付与する目的で、防湿層を設けることが望ましい。防湿層としては水蒸気バリア性を有するコーティングやフィルム、無機酸化物層、アルミ箔などを積層することができる。
【0064】
コーティング層としては、ポリフッ化ビニル溶液などフッ素樹脂溶液をコーティングすることにより付与することができる。また、バリア性フィルムとしては、ポリフッ化ビニリデンコートフィルム、酸化ケイ素蒸着フィルム、酸化アルミニウム蒸着フィルム、アルミニウム蒸着フィルムなどをもちいることができる。無機酸化物層は、酸化アルミニウム、酸化珪素、酸化錫、酸化マグネシウム、あるいは、それらの混合物等の無機酸化物からなる層であり、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、プラズマ気相成長法(CVD)等により積層することができる。これらは、本発明の太陽電池用ポリエステルフィルムに被覆層や接着層を介して、または直接積層したり、サンドイッチ構造をとる形態で用いることができる。
【実施例】
【0065】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はもとよりこれらの実施例に限定されるものではない。なお、各実施例および比較例において用いた評価方法を以下に説明する。
【0066】
1.ポリエステルフィルム中の環状三量体の含有量
ポリエステルフィルム中の環状三量体の含有量は以下の方法で測定した。細砕したフィルム試料100mgを精秤し、ヘキサフルオロイソプロパノ−ル/クロロホルム混合液(容量比=2/3)3mlに溶解し、さらにクロロホルム20mlを加えて希釈する。これにメタノ−ル10mlを加えてポリマ−を沈殿させた後、濾過する。濾液を蒸発乾固し、ジメチルフォルムアミド10mlで定容とした。次いで下記の高速液体クロマトグラフ法で環状三量体を定量した。
【0067】
(測定条件)
装置:L−7000(日立製作所製)
カラム:μ−Bondasphere C18 5μ 100オングストローム 3.9mm×15cm(Waters製)
溶媒:溶離液A:2%酢酸/水(v/v)
溶離液B:アセトニトリル
グラジエントB%:10→100%(0→55分)
流速:0.8ml/分
温度:30℃
検出器:UV−259nm
【0068】
2.フィルム表面の環状三量体量
フィルム2枚の抽出したい面同士を向かい合わせ、1枚につき25.2cm×12.4cm面積を抽出できるようスペーサーをはさんで枠に固定した。エタノール30mlを抽出面間に注入し、25℃で3分間、フィルム表面の環状三量体を抽出した。抽出液を蒸発乾固した後、得られた抽出液の乾固残渣をジメチルホルムアミド200μlに定容した。次いで高速液体クロマトグラフィーを用いて下記に示す方法で予め求めておいた検量線から環状三量体を定量した。
【0069】
(測定条件)
装置:ACQUITY UPLC(Waters製)
カラム:BEH−C18 2.1×150mm(Waters製)
移動相:溶離液A:0.1%ギ酸(v/v)
溶離液B:アセトニトリル
グラジエントB%:10→98→98%(0→25→30分)
流速:0.2ml/分
カラム温度:40℃
検出器:UV−258nm
【0070】
3.平均粒子径
不活性粒子を走査型電子顕微鏡(日立製作所製、S−51O型)で観察し、粒子の大きさに応じて適宜倍率を変え、写真撮影したものを拡大コピーした。次いで、ランダムに選んだ少なくとも300個の粒子について各粒子の外周をトレースし、画像解析装置にてこれらのトレース像から粒子の円相当径を測定し、これらの平均を平均粒子径とした。
【0071】
4.ポリエステルの固有粘度
ポリエステルをパラクロロフェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタンの6/4(重量比)混合溶媒を使用して溶解し、温度30℃にて測定した。
【0072】
5.プレス加工後の凹み発生数
試料フィルムと厚さ50μmのポリエチレンテレフタレートフィルム上にアルミニウムを蒸着したフィルムの蒸着面を重ね合わせ、0.1MPaの圧力で5分間プレスした。次いでアルミニウム蒸着フィルムを剥がし取り、試料フィルムのプレス面を非接触表面形状計測システム(VertScan R5500H−M100)を用いて高さデータを採取した。
【0073】
(測定条件)
・測定モード:PHASEモード
・対物レンズ:50倍
・1×Tubeレンズ
・測定面積:92×70μm
次いで等高線表示モードにて、測定面が高さによって色分けされた画像を表示させた。この時、表面形状のうねりを除去するため面補正(4次関数補正)を行った。等高線表示モードでは、測定範囲内の平均高さを0nmとし、高さ最高値を5nm、高さ最低値を−5nmに設定し、深さ2nm以上の凹み部分が青色から青紫色に表示されるように表示させた。この操作を繰り返し、1mm当たりの凹み数を求めた。
【0074】
(1)ポリエステル樹脂(a)の重合
エステル化反応缶を昇温し、200℃に到達した時点で、高純度テレフタル酸を86.4質量部及びエチレングリコールを64.4質量部からなるスラリーを仕込み、攪拌しながら触媒として三酸化アンチモンを0.03質量部、トリエチルアミンを0.16質量部添加した。次いで、加圧昇温を行いゲージ圧3.5kg/cm、240℃の条件で、加圧エステル化反応を行った。その後、エステル化反応缶内を常圧に戻した。
15分後、得られたエステル化反応生成物を重縮合反応缶に移送し、280℃の減圧下で固有粘度が0.65dl/gに到達するまで重縮合反応を行った。
重縮合にて得られたポリエチレンテレフタレートを常法に従ってチップ化しポリエステルを得た。この際、溶融樹脂が約275℃に保たれ状態で濾過粒子サイズ(初期濾過効率95%)は5μmステンレス焼結体フィルターで樹脂中に含まれる異物を除去するために高精度濾過を行った。
【0075】
(2)ポリエステル樹脂(b)の重合
エステル化反応缶を昇温し、200℃に到達した時点で、高純度テレフタル酸を86.4質量部及びエチレングリコールを64.4質量部からなるスラリーを仕込み、攪拌しながら触媒として三酸化アンチモンを0.03質量部、トリエチルアミンを0.16質量部と平均粒径2.5μmのシリカ粒子のエチレングリコールスラリーを、生成PETに対し、2000ppmとなるよう添加した。次いで、加圧昇温を行いゲージ圧3.5kg/cm、240℃の条件で、加圧エステル化反応を行った。その後、エステル化反応缶内を常圧に戻した。
15分後、得られたエステル化反応生成物を重縮合反応缶に移送し、280℃の減圧下で固有粘度が0.65dl/gに到達するまで重縮合反応を行った。
重縮合にて得られたポリエチレンテレフタレートを常法に従ってチップ化しポリエステルを得た。この際、溶融樹脂が約275℃に保たれ状態で濾過粒子サイズ(初期濾過効率95%)は20μmステンレス焼結体フィルターで樹脂中に含まれる異物を除去するために高精度濾過を行った。
【0076】
(3)ポリエステル樹脂(c)の重合
高純度テレフタル酸とエチレングリコールから常法に従って製造したビス(2−ヒドロキシエチル)テレフタレート及びオリゴマーの混合物に対し、重縮合触媒として塩化アルミニウムの13g/lのエチレングリコール溶液をポリエステル中の酸成分に対してアルミニウム原子として0.015mol%とIrganox 1425(チバ・スペシャルティーケミカルズ社製)の10g/lエチレングリコール溶液を酸成分に対してIrganox 1425として0.02mol%を加えて、窒素雰囲気下、常圧にて245℃で10分間撹拌した。次いで50分間を要して275℃まで昇温しつつ反応系の圧力を徐々に下げて13.3Pa(1Torr)としてさらに275℃、13.3Paで固有粘度が0.65dl/gに到達するまで重縮合反応を行った。重縮合にて得られたポリエチレンテレフタレートを常法に従ってチップ化しポリエステル(A)を得た。この際溶融樹脂が約275℃に保たれ状態で濾過粒子サイズ(初期濾過効率95%)は20μmステンレス焼結体フィルターで樹脂中に含まれる異物を除去するために高精度濾過を行った。
【0077】
(4)ポリエステル(d)樹脂の重合
平均粒子径が2.5μmの多孔質シリカ粒子をエチレングリコール中に仕込み、さらに95%カット径が30μmのビスコースレーヨン製フィルターで濾過処理を行ない、多孔質シリカ粒子のエチレングリコールスラリーを得た。
高純度テレフタル酸とエチレングリコールから常法に従って製造したビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレート及びオリゴマーの混合物に対し、重縮合触媒として塩化アルミニウムの13g/lのエチレングリコール溶液をポリエステル中の酸成分に対してアルミニウム原子として0.015mol%とIrganox 1425(チバ・スペシャルティーケミカルズ社製)の10g/lエチレングリコール溶液を酸成分に対してIrganox 1425として0.02mol%と前記シリカ粒子のエチレングリコールスラリーを、生成PETに対し、2000ppmとなるよう添加した。次いで、窒素雰囲気下、常圧にて245℃で10分間撹拌した。次いで50分間を要して275℃まで昇温しつつ反応系の圧力を徐々に下げて13.3Pa(1Torr)としてさらに275℃、13.3Paで固有粘度が0.65dl/gに到達するまで重縮合反応を行った。重縮合にて得られたポリエチレンテレフタレートを常法に従ってチップ化しポリエステルを得た。この際、溶融樹脂が約275℃に保たれ状態で濾過粒子サイズ(初期濾過効率95%)は20μmステンレス焼結体フィルターで樹脂中に含まれる異物を除去するために高精度濾過を行った。
【0078】
(実施例1)
ポリエステル樹脂(a)及びポリエステル樹脂(b)をそれぞれ回転型真空重合装置を用い、0.5mmHgの減圧下、220℃で固相重合を行い、固有粘度0.75dl/gのポリエステル樹脂(A)及びポリエステル樹脂(B)を得た。
【0079】
基材フィルムの中間層用原料としてポリエステル樹脂(A)を135℃で6時間減圧乾燥(1Torr)した後、押出機2(中間層B層用)に、ポリエステル樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)を平均粒径2.5μmのシリカ粒子濃度が0.06質量%になるように配合し、押出機1(外層A層用)にそれぞれ供給し、285℃で溶解した。この2つのポリエステル樹脂を、それぞれステンレス焼結体の濾材(公称濾過精度10μm粒子95%カット)で濾過し、3層合流ブロックにて、積層し、口金よりシート状にして押し出した後、静電印加キャスト法を用いて表面温度30℃のキャスティングドラムに巻きつけて冷却固化し、未延伸フィルムを作った。この時、A層/B層/A層の厚さの比は1.5:7:1.5となるように各押し出し機の吐出量を調整した。また、この時の押し出し機内における溶融樹脂の滞留時間は15分間であった。次にこの未延伸フィルムを加熱されたロール群及び赤外線ヒーターで100℃に加熱し、その後、周速差のあるロール群で長手方向に3.5倍延伸して一軸配向PETフィルムを得た。
【0080】
引き続き、フィルムの端部をクリップで把持しながら、温度120℃の熱風ゾーンに導き、幅方向に4.3倍に延伸した。次に、幅方向に延伸された幅を保ったまま、最高温度235℃で熱固定処理し、30℃の冷却工程で幅方向に3%の緩和処理を行なった。尚、予熱工程、横延伸工程、熱固定工程における炉内の熱風風速は20m/秒とし、冷却工程の冷却風風速は10m/秒とした。また、熱風及び冷却風は濾過精度1μmのフィルターを通して循環させた。かくしてフィルム厚さ50μmの太陽電池用ポリエステルフィルムを得た。
【0081】
(実施例2)
ポリエステル樹脂(a)及びポリエステル樹脂(b)をそれぞれポリエステル樹脂(c)及びポリエステル樹脂(d)に替え、それぞれのポリエステル樹脂を実施例1と同様に固相重合を行い、ポリエステル樹脂(C)及びポリエステル樹脂(D)を得た。ポリエステル原料として、ポリエステル樹脂(C)及びポリエステル樹脂(D)を用い、予熱工程、横延伸工程、熱固定工程、冷却工程内の風速を10m/秒とした以外は実施例1と同様にしてフィルム厚さ50μmの太陽電池用ポリエステルフィルムを得た。
【0082】
(実施例3)
予熱工程、横延伸工程、熱固定工程の風速を20m/秒とした以外は実施例2と同様にしてフィルム厚さ50μmの太陽電池用ポリエステルフィルムを得た。
【0083】
(実施例4)
予熱工程、横延伸工程、熱固定工程の風速を30m/秒とした以外は実施例2と同様にしてフィルム厚さ50μmの太陽電池用ポリエステルフィルムを得た。
【0084】
(実施例5)
押し出し機の吐出量を調整し、フィルム厚さ188μmとした以外は実施例2と同様にして太陽電池用ポリエステルフィルムを得た。この時の押し出し機内における溶融樹脂の滞留時間は10分間であった。
【0085】
(実施例6)
冷却工程の風速を5m/秒とした以外は実施例2と同様にしてフィルム厚さ50μmの太陽電池用ポリエステルフィルムを得た。
【0086】
(実施例7)
予熱工程、横延伸工程、熱固定工程、冷却工程内の熱風および冷風をフィルターを通さず循環させた以外は実施例2と同様にしてフィルム厚さ50μmの太陽電池用ポリエステルフィルムを得た。
【0087】
(比較例1)
固相重合を行っていないポリエステル樹脂(c)及びポリエステル樹脂(d)を用いた以外は実施例2と同様にしてフィルム厚さ50μmの太陽電池用ポリエステルフィルムを得た。
【0088】
(比較例2)
予熱工程、横延伸工程、熱固定工程内の熱風の風速を5m/秒とした以外は実施例2と同様にしてフィルム厚さ50μmの太陽電池用ポリエステルフィルムを得た。
【0089】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明の太陽電池用ポリエステルフィルムは、フィルム表面の環状三量体による表面突起が少なく、長期の耐防湿性維持に適する。そのため、太陽電池バックシートの構成部材として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルフィルム中の環状三量体含有量が該ポリエステルフィルム当り5000ppm以下であり、
該ポリエステルフィルムの少なくとも一方の面におけるフィルム表面の環状三量体量が50μg/m以下である太陽電池用ポリエステルフィルム。
【請求項2】
アルミニウム及び/又はその化合物とフェノール系化合物を含有する重縮合触媒を用いて重合されたポリエステル樹脂からなる請求項1に記載の太陽電池用ポリエステルフィルム。
【請求項3】
該ポリエステルフィルムが最外層と中心層の少なくとも3層を有し、
前記最外層は粒子を含有し、
前記中心層は実質的に粒子を含まない請求項1又は2に記載の太陽電池用ポリエステルフィルム。

【公開番号】特開2011−32420(P2011−32420A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−182050(P2009−182050)
【出願日】平成21年8月5日(2009.8.5)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】