説明

太陽電池

【課題】 量子井戸部にキャリアの再結合損失を増加させる不要な準位が形成されることを防止して、優れた光電変換効率を有する太陽電池を得る。
【解決手段】 カーボンを材料とする第1導電型の第1の半導体層(5)と、カーボンを材料とし、第1導電型とは反対の極性を有する第2導電型の第2の半導体層(7)と、第1および第2の半導体層間に形成されるカーボンを材料とする量子井戸部(6)とを含む太陽電池において、量子井戸部(6)を、カーボンの半導体薄膜で構成される壁層(11)と、壁層中に埋め込まれる複数の量子ドット(10)と、量子ドット周辺部に設けられるsp結合防止層(12)とによって構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンを材料とする太陽電池に関し、特に長波長側感度を向上させるために量子井戸部を設けた太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、可視光などの光から起電力を発生させる、太陽電池などの光電変換素子は、次世代のクリーンエネルギー源として期待されている。また、次世代の低コスト太陽電池材料として、アモルファスカーボン、ダイヤモンドライクカーボンと呼ばれるカーボンを主成分とする半導体薄膜が提案されている(特許文献1参照)。カーボン材料には、導電体でありsp結合からなるグラファイトと、絶縁体でありsp結合からなるダイヤモンドという2つの安定した結晶構造がある。このsp、sp結合を混合させることにより、半導体薄膜を形成することができる。さらに、sp、sp結合や添加する水素濃度を調節することにより、太陽電池に適した光吸収特性や電気特性を有する半導体薄膜および微粒子(量子ドット)を自在に形成することができる。
【0003】
このため、カーボン材料を用いた太陽電池では、太陽光の幅広い波長領域に適した光吸収特性を単一材料における成分比を調節することにより得ることができる。従って、従来の結晶系材料であるGaAs、Si、Ge等を積層した太陽電池に比べて製造コストを低減することができるという優れた特徴を有する。
【0004】
また、太陽電池の変換効率を向上させる新しい手法として、太陽電池素子中に量子井戸層を形成し長波長感度を向上させる方法(特許文献2参照)、量子ドットを形成して幅広い波長範囲の光を吸収させてキャリア(電荷)生成量を増加させる方法(特許文献3)が提案されている。量子井戸構造を形成するためには、一般的に結晶系半導体材料GaAs、Si、Ge等に、バンドギャップが小さい1〜20nm程度の厚みを有する薄膜や、同サイズ径の微細なドットを周期的に設ける必要がある。GaAs中にGaInAs量子井戸層やInAs量子ドットを設けた構成が提案され、長波長領域の光感度向上が確認されている。
【0005】
量子井戸層を設けるためには、CVD(化学気相蒸着)法やMBE(分子線エピタキシー)法を用い、Ga、In、P、As等を含有するガスを供給する必要がある。これらの材料や製造装置は高価であるため、低コスト太陽電池を提供する上で大きな障害となっている。一方、低コスト太陽電池用材料としてアモルファスシリコン(a−Si)やCuInSe2系、CdS系材料を用いた薄膜型太陽電池が開発されている。これらの材料に量子井戸構造を形成するために、例えばa−Si中に量子井戸層としてアモルファスSiGe層を設けた構造が提案されている。しかしながら、結晶系材料に匹敵する特性が得られておらず、高効率な太陽電池作成の障害となっている。
【0006】
一方、量子ドットを形成する材料として、カーボン元素を主成分とするカーボンナノチューブ等の筒状分子、あるいはフラーレン等の球状分子を用いた受光素子や発光素子が提案されている(特許文献4、5、6参照)。この中で太陽電池への応用も示唆されているが、具体的な構造や従来型量子ドットに対する優位性を提案するまでには至っていない。
【0007】
カーボンナノチューブ等の筒状分子はエチレンやプロパン等のカーボン源と水素ガス等の安価なガスより化学蒸着法を用いて製造することができる。これら筒状、球状分子もカーボンを主成分としており、直径や長さ、結合状態を調整することにより半導体物性を制御することができる。また、合成条件を調節することにより、表面張力による自己収縮特性を用いて作製する量子ドットに比べて制御性に優れ、太陽電池の性能、すなわち光電変換効率をより向上させることができる可能性を有する。
【0008】
【特許文献1】特開2003−51603号
【特許文献2】特開平6−302840号
【特許文献3】特開2002−141531号
【特許文献4】特開2003−243692号
【特許文献5】特開2003−285299号
【特許文献6】特開2000−31462号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、量子井戸部に設ける量子ドットを構成するカーボンナノチューブやフラーレン等の筒状あるいは球状分子は、その形状に応じて光吸収特性や電気特性が決まる。従って、カーボンナノチューブ周囲と壁層となるカーボン薄膜の間にsp結合等の導電特性に寄与する結合が生じると、量子ドット部に新たな(余分な)エネルギー準位、例えば、電荷を補足し結合させる中間準位が生じ、壁層とドットの界面部分のエネルギーレベルが小さくなってその間にギャップが生じるなどの不具合が起こる。
【0010】
そのため、量子井戸部の製造に当たって、図1に示すように、カーボンナノチューブ等を用いて形成する量子ドット102を壁層104となるカーボン薄膜中に埋め込む構成とすると、量子井戸部100における量子ドット102と壁層104間にsp結合が容易に生じ、このため量子ドット部に不要なエネルギー準位が生じ、エネルギーレベルが小さくなる。
【0011】
図2は、図1に示す量子井戸部100のエネルギーバンド構造を示す図である。図示するように、量子ドット102の周辺にsp結合が形成されると、量子ドット102の界面近傍のエネルギーレベルが小さくなり、壁層104のエネルギーレベルとの間にギャップ106が生じる。このギャップの存在によって、電子の再結合損失が増加し、電子の閉じ込め効果が減少するので、量子井戸部による長波長側の光電変換効率が低下し、太陽電池の出力向上を妨げる。
【0012】
従って、本発明は、カーボンを主成分とし量子井戸部を設けた太陽電池において、量子井戸部を構成する壁層と量子ドット間に生じるsp結合の発生を抑制することにより、優れた光電変換特性を有しかつ安価に製造することが可能な太陽電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明の太陽電池は、カーボンを材料とする第1導電型の第1の半導体層と、カーボンを材料とし、前記第1導電型とは反対の極性を有する第2導電型の第2の半導体層と、前記第1および第2の半導体層間に形成されるカーボンを材料とする量子井戸部とを含み、前記量子井戸部は、カーボンの半導体薄膜で構成される壁層と、前記壁層中に埋め込まれる複数の量子ドットと、前記量子ドット周辺部に設けられるsp結合防止層とを含んで構成する。
【0014】
量子ドットは、カーボンの筒状分子あるいは球状分子を含む。また、sp結合防止層は、前記量子ドット表面のカーボン原子にアルキル基等の官能基を結合させることによって構成される。あるいは、カーボン原子に水素またはハロゲン元素を結合させることによって、構成される。
【0015】
量子ドット表面のカーボン原子に、官能基、水素またはハロゲン元素を積極的に結合させることによって、量子ドットが壁層と接触した場合に生じるsp結合の発生が抑制され、その結果、電子の再結合損失を増加させる不要なエネルギー準位が量子ドット部に形成されることが防止される。これによって、太陽電池の光電変換効率が向上し、出力が増加する。
【0016】
前記カーボン原子に官能基を結合させる場合、結合させる官能基数は、量子ドットを構成するカーボンの筒状または球状分子表面のカーボン原子数の5〜50%の範囲である。結合させる官能基数が多いと、量子ドットのエネルギーレベルが変化し、量子ドットが有する電子閉じ込め効果が損なわれる。従って、結合させる官能基数を上記の範囲にすることにより、sp結合生成の抑制効果と量子効果の維持を両立させることが可能となる。
【0017】
sp結合防止層は、前記量子ドット表面のカーボン原子に水素またはハロゲン元素を結合させることによって構成しても良い。ハロゲン元素の付加によって、壁層と量子ドットとが接触し結合することが防止される。また、これらの元素は、量子ドットのエネルギー準位を変動させにくいため、量子ドットの量子効果を損なうことがない。
【0018】
sp結合防止層にハロゲン元素を用いる場合、ハロゲン元素数は、量子ドットを構成するカーボンの筒状または球状分子表面のカーボン原子数の10〜90%の範囲とする。これにより、sp結合生成の抑制効果と量子効果の維持を両立させることができる。
【0019】
また、前記sp結合防止層は、壁層の前記量子ドットに隣接する部分のカーボン原子に官能基、水素、ハロゲン元素のいずれかを結合させて構成しても良い。壁層側に官能基等を付加することにより、量子ドットのバンドギャップ増減等の物性変化を小さくすることが可能となる。
【0020】
さらに、前記sp結合防止層は、前記壁層の前記量子ドットに隣接する部分のカーボン原子に官能基、水素、ハロゲン元素のいずれかを結合させたものと、前記量子ドット表面のカーボン原子に官能基、水素、ハロゲン元素のいずれかを結合させたものとによって構成しても良い。
【0021】
官能基等を、壁層側および量子ドット側の双方に付加することによって、sp結合生成の抑制効果をより大きくすることができる。
【発明の効果】
【0022】
以上のように、本発明の太陽電池では、量子井戸部を構成する壁層のカーボン原子と量子ドットを構成するカーボン原子との接触および結合がsp結合防止層の存在により抑制されるため、量子ドットの壁層側界面に、キャリアを補足し再結合させる中間準位が形成されにくい。そのため、量子井戸部が本来の量子効果を発揮し、長波長側の受光感度を向上させるため、優れた光電変換効率を有しかつ安価な太陽電池を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
図3は、本発明の一実施形態にかかる太陽電池の概略構成を示す断面図である。1は多層光制御薄膜であり、光反射損失を減少させるための反射防止膜、あるいは半導体材料が電荷を発生させるために有用な光を透過し不要な光を反射するための光学フィルタとして動作する。2は光透過性基板であって、太陽光を透過させるガラス、プラスチック等で構成されている。3は、ITO膜、あるいはSnO等で構成される透明電極、4は太陽電池の光電変換部を構成する半導体層であり、sp結合とsp結合が混合したカーボンを主成分とする薄膜より構成され、製造過程で混入する水素またはハロゲン元素を含有し、さらに導電性を制御する元素が添加されている。
【0024】
半導体層4は基本的に、光電変換部を構成するp層とn層、さらにこのp層とn層間に設けた長波長側感度を向上させるための量子井戸部とを有する。本実施形態では、半導体層4は、n層5、量子井戸部6、p層7およびp層8で構成されており、量子井戸部6は層5および層7よりもキャリア濃度が低い半導体、例えばn層、i層あるいはp層によって形成される。9は裏面電極であって、半導体層4に接続し、電子または正孔を収集する。
【0025】
この太陽電池において、光を吸収することによって半導体層4に生じた電子、正孔は、p層およびn層によって形成されるpn接合によって電子はn層5へ、正孔はp層8へ移動し、電極1、9を介して光起電力として取り出される。なお、図1に示す太陽電池では、n層5を受光側に設けているが、p+層8を受光側に設けても太陽電池として同様の効果を得ることができる。
【0026】
図4は、量子井戸部6の構成を説明するための図であり、図1のA−A断面の一部を示す。図示するように、量子井戸部6は、量子効果を生成するための複数の量子ドット10と、量子ドット10の周囲の壁層11とで構成される。壁層11は、n層5、p層7およびp層8と同様に、sp結合およびsp結合が混合されたカーボンを主成分とする材料で構成されるが、そのキャリア濃度はこれらの層よりも低くされている。量子ドット10は、カーボンの筒状分子(例えばカーボンナノチューブ)または球状分子(例えばフラーレン)で構成されている。量子ドット10は、これらのカーボン分子1個あるいは数個を含み、その直径が3nm、長さ20nm程度である。また、量子ドットのエネルギーバンドギャップは、壁層11の50〜95%程度である。
【0027】
図5に筒状分子の一例としてのカーボンナノチューブの構造を、図6に球状分子の一例としてのフラーレン(C60)の構造を示す。量子ドット10を構成するカーボンナノチューブ、フラーレン等は、その形状に応じて光吸収特性や電気特性が決まるが、そのエネルギーバンドギャップは、壁層11よりも小さく、例えば、壁層11の50〜95%程度である。
【0028】
図7に、図3に示す太陽電池における断面Aのエネルギーバンド構造を示す。図7に付した符号は図3に示す各構成要素に対応し、その部分のエネルギーバンドギャップを示している。量子井戸部6は、エネルギーバンドギャップの大きい壁層11とエネルギーバンドギャップが壁層11よりも小さい量子ドット10とで構成されており、これによって量子効果を出現させ、長波長側の受光感度を向上させている。半導体層4は主に可視光に受光感度を有し、従って可視光よりも長波長側に受光感度を有する量子井戸部6を設けることによって、より広い波長領域で効率よく光電変換が行われるため、太陽電池の出力が向上する。
【0029】
ところが、図1および2を参照して、(発明が解決しようとする課題)の部分で説明したように、量子ドット10と壁層11間に導電性に寄与するsp結合が形成されると、量子井戸部のエネルギーバンド構造において、壁層11と量子ドット10間にエネルギーレベルのギャップが生じこれによって電子閉じ込め特性が低下する。
【0030】
従って、本発明の太陽電池では、図8に示すように、量子井戸部6において、量子ドット10と壁層11間にsp結合の防止層12を設ける構成としている。sp結合防止層12は、量子ドット10または壁層11、あるいはその両者を構成するカーボン原子に、官能基、水素あるいはハロゲン元素を付加して構成される。官能基としては、メチル基、エチル基、プロピル基等を含むアルキル基を用いることができる。ハロゲン元素としては、フッ素、塩素、臭素等を用いることができる。
【0031】
図9および10に、図8に示す構造の場合の、量子井戸部6のエネルギーバンド構造を示す。これらのエネルギーバンド構造は、図8の断面Cについて示すものである。図8に示す構造の量子井戸部6では、量子ドット10と壁層11間において、sp結合の防止構造12が設けられているので、その界面においてsp結合が抑制され、その結果、図9に示すように、量子ドット10のエネルギーレベルは平坦となる。あるいは、量子ドット10の周辺部において中心部よりも導電性が抑制されると、図10に示すように、量子ドット10の周辺部においてエネルギーレベルを上昇させる準位が形成される場合も有る。
【0032】
このように、sp結合の防止構造12を量子ドット10と壁層11間に設けることにより、量子ドット10と壁層11間に、電子の再結合損失を増加させるエネルギーレベルギャップが生成されなくなるため、量子井戸部6の本来の効果が発揮され、長波長側に高い受光感度を有する太陽電池を得ることができる。
【0033】
以下に、図3および8に示す構造の太陽電池について、その各部の具体的構成を示す。なお、Cはキャリア濃度を示す。
【0034】
多層光制御薄膜1
材料:MgF、ZnS、SiO、TiO
光透過性基板2
材料:石英、ガラス、プラスチック等
厚さ:0.2〜5mm程度
サイズ:1×1cm〜100×100cm程度
透明電極3
材料:ITO、SnO
厚さ:0.01〜2μm
半導体層4
材料:カーボンを主成分とする。
添加元素:水素またはハロゲン元素を0.01%(原子%、以下同じ)〜30%含有する。必要に応じてSi、Geを添加する。
層5:厚み0.02〜1μm、C=1×1017〜1×1020cm−3、バンドギャップ1.4eV(0.2〜2.0eV程度)
量子井戸部6
(a)壁層11:結晶型n層(C=1×1012〜1×1015cm−3)、sp/sp結合比0.1〜2.0、バンドギャップ1.4eV(0.2〜2.0eV程度)
(b)量子ドット10:カーボンナノチューブ、直径3nm、長さ20nm程度、バンドギャップ1.1eV(0.15〜1.8eV程度)(壁層の50〜95%程度)、量子ドット10と壁層11間には、sp結合防止層が形成される。
p層7:厚み1〜30μm、C=1×1014〜1×1018cm−3、バンドギャップ1.7eV(0.4〜2.4eV程度)
層8:厚み0.02〜1μm、C=1×1017〜1×1020cm−3、バンドギャップ1.7eV(0.4〜2.4eV程度)
裏面電極9
材料:Al、Ag、Ti、Cu、Ni、Cr等
厚み:0.2〜5μm
【0035】
なお、上記構造におけるp層、n層の組み合わせはこれに限定するものではなく、受光面側にp層を設ける構造とすることも可能である。
【0036】
前述したように、上記構造の太陽電池において、sp結合防止層12は、1)量子ドット10のカーボン原子に官能基等を結合して構成する場合、2)量子ドットに隣接する壁層のカーボン原子に官能基等を結合して構成する場合、および3)量子ドット側と壁層側との両者に設ける場合が存在する。また、結合させる物質として、官能基、水素、ハロゲン元素を用いることができるが、以下に、それぞれの場合の具体的事例および効果について説明する。
【0037】
sp結合防止層12を量子ドット側に設ける場合
カーボンナノチューブ等の表面には水素が結合しているが、量子ドット10の形成時にカーボンナノチューブより脱離しやすい。水素が脱離すると残ったカーボン原子は壁層側のカーボン原子とsp結合する。これを防止するために、カーボンナノチューブ表面の水素をアルキル基またはハロゲン元素等で置換し、sp結合生成を抑制する。あるいは、量子ドット10の生成時に積極的に水素を添加して、脱離した水素を補充し、sp結合生成を抑制する。この構造では、sp結合減少の効果が容易に得られる。
【0038】
sp結合防止層12を壁層側に設ける場合
壁層11側の量子ドット10に接触する部分のカーボン原子に、官能基、水素、ハロゲン元素の何れかを結合させてsp結合防止層12を構成する。この場合には、量子ドット10のバンドギャップ増減等の物性変化を小さくすることができる利点がある。
【0039】
sp結合防止層12を量子ドット側および壁層側の双方に設ける場合
壁層11側のカーボン原子と、量子ドット10の表面のカーボン原子に対して、官能基、水素、ハロゲン元素の何れかを結合させてsp結合防止層12を構成することにより、sp結合をより減少させることができる。
【0040】
実施例1
(a)壁層11:結晶型n層(C=1×1012〜1×1015cm−3)、sp/sp結合比0.1〜2.0、バンドギャップ1.4eV(0.2〜2.0eV程度)、量子ドットに接する界面側に官能基を付加する。
(b)量子ドット:カーボンナノチューブ、直径3nm、長さ20nm程度、バンドギャップ1.1eV(0.15〜1.8eV程度)(壁層の50〜95%程度)、カーボンナノチューブ周囲に水素またはハロゲン元素を付加する。
【0041】
sp結合防止層12を構成するための官能基としてアルキル基を用いる場合
アルキル基はsp結合によって構成され、壁層と量子ドットが接触し結合することを防ぐ効果を有する。その結果、壁層と量子ドット界面のsp結合生成が抑制され、量子井戸部は本来の効果を発揮し、太陽電池の光電変換効率を向上させる。
【0042】
実施例2
(a)壁層11:結晶型n層(C=1×1012〜1×1015cm−3)、sp/sp結合比0.1〜2.0、バンドギャップ1.4eV(0.2〜2.0eV程度)。
(b)量子ドット:カーボンナノチューブ、直径3nm、長さ20nm程度、バンドギャップ1.1eV(0.15〜1.8eV程度)(壁層の50〜95%程度)、カーボンナノチューブ周囲にメチル基(−CH)を付加する。
【0043】
sp結合防止層12を構成するために水素またはハロゲン元素を用いる場合
水素、ハロゲン元素を、壁層側または量子ドット表面、あるいはその両者に含まれるカーボン原子に付加することにより、壁層と量子ドットが接触し結合することを防ぐ効果がある。また、水素、ハロゲン元素は、量子ドットのエネルギー準位を変動させにくく、壁層を構成するカーボン薄膜に対しても欠陥を増加させる元素として機能しない。
【0044】
実施例3
(a)壁層11:結晶型n層(C=1×1012〜1×1015cm−3)、sp/sp結合比0.1〜2.0、バンドギャップ1.4eV(0.2〜2.0eV程度)。
(b)量子ドット:カーボンナノチューブ、直径3nm、長さ20nm程度、バンドギャップ1.1eV(0.15〜1.8eV程度)(壁層の50〜95%程度)、カーボンナノチューブ周囲にフッ素(−F)を付加する。
【0045】
sp結合防止層12を構成するために付加する官能基の結合数
アルキル基等をカーボンナノチューブ表面に付加すると、sp結合生成を抑制することができる。しかしながら、カーボンナノチューブ表面の原子数に対して付加する官能基数を増加させると、量子ドットとしての電子閉じ込め効果が損なわれる。従って、sp結合生成を抑制し、かつ量子効果を維持するためには、付加する官能基数を、量子ドットを構成するカーボン分子表面の原子数の5〜50%の範囲とする。例えば、メチル基等の小さい官能基では30〜50%、エチル基、プロピル基と大きくなるに従い25%、15%と付加する官能基数を減少させる。これによって、sp2結合生成抑制効果と、量子効果の維持を両立させることができる。
【0046】
実施例4
(b)量子ドット:カーボンナノチューブ、直径3nm、長さ20nm程度、バンドギャップ1.1eV(0.15〜1.8eV程度)(壁層の50〜95%程度)、カーボンナノチューブ周囲にメチル基(−CH)を、カーボンナノチューブを構成する外周カーボン元素の35%に付加する。
【0047】
sp結合防止層12を構成するために付加する水素またはハロゲン元素の結合数
水素またはハロゲン元素を、カーボンナノチューブ表面に付加すると、sp結合生成を抑制することができる。しかしながら、カーボンナノチューブ表面の原子数に対して付加するハロゲン元素等を増加させると、量子ドットとしての電子閉じ込め効果が損なわれる。従って、sp結合生成を抑制し、かつ量子効果を維持するためには、付加するハロゲン元素等を、量子ドットを構成するカーボン分子表面の原子数の10〜90%の範囲とする。例えば、フッ素等の軽元素では50〜90%、塩素、臭素と大きくなるに従い40%、30%と付加する元素数を減少させる。これによって、sp2結合生成抑制効果と、量子効果の維持を両立させることができる。
【0048】
実施例5
(b)量子ドット:カーボンナノチューブ、直径3nm、長さ20nm程度、バンドギャップ1.1eV(0.15〜1.8eV程度)(壁層の50〜95%程度)、カーボンナノチューブ周囲にフッ素(−F)を、カーボンナノチューブを構成する外周カーボン元素の70%に付加する。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明を適用しない量子井戸部の構成を示す図。
【図2】図1に示す量子井戸部のエネルギーバンド構造を示す図。
【図3】本発明の一実施形態にかかる太陽電池の構造を示す断面図。
【図4】図3に示す太陽電池の量子井戸部の構造を示す断面図。
【図5】カーボンナノチューブの構造を模式的に示す図。
【図6】フラーレンの構造を模式的に示す図。
【図7】図3に示す太陽電池のエネルギーバンド構造を模式的に示す図。
【図8】図4に示す量子井戸部の一部拡大図。
【図9】図8に示す量子井戸部のエネルギーバンド構造の1例を示す図。
【図10】図8に示す量子井戸部のエネルギーバンド構造の他の例を示す図。
【符号の説明】
【0050】
1 多層光制御薄膜
2 光透過性基板
3 透明電極
4 半導体層
5 n
6 量子井戸部
7 p層
8 p
9 裏面電極
10 量子ドット
11 壁層
12 sp結合生成防止層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンを材料とする第1導電型の第1の半導体層と、
カーボンを材料とし、前記第1導電型とは反対の極性を有する第2導電型の第2の半導体層と、
前記第1および第2の半導体層間に形成されるカーボンを材料とする量子井戸部とを含む太陽電池において、
前記量子井戸部は、カーボンの半導体薄膜で構成される壁層と、前記壁層中に埋め込まれる複数の量子ドットと、前記量子ドット周辺部に設けられるsp結合防止層とを含むことを特徴とする、太陽電池。
【請求項2】
請求項1に記載の太陽電池において、前記量子ドットはカーボンの筒状分子あるいは球状分子を含むことを特徴とする、太陽電池。
【請求項3】
請求項1または2に記載の太陽電池において、前記sp結合防止層は、前記量子ドット表面のカーボン原子に官能基を結合させることによって構成したことを特徴とする、太陽電池。
【請求項4】
請求項3に記載の太陽電池において、前記官能基はアルキル基であることを特徴とする、太陽電池。
【請求項5】
請求項3または4に記載の太陽電池において、前記官能基数は、前記量子ドットを構成するカーボンの筒状または球状分子表面のカーボン原子数の5〜50%の範囲であることを特徴とする、太陽電池。
【請求項6】
請求項1または2に記載の太陽電池において、前記sp結合防止層は、前記量子ドット表面のカーボン原子に水素またはハロゲン元素を結合させることによって構成したことを特徴とする、太陽電池。
【請求項7】
請求項6に記載の太陽電池において、前記sp結合防止層にハロゲン元素が用いられる場合、前記ハロゲン元素数は、前記量子ドットを構成するカーボンの筒状または球状分子表面のカーボン原子数の10〜90%の範囲であることを特徴とする、太陽電池。
【請求項8】
請求項1または2に記載の太陽電池において、前記sp結合防止層は、前記壁層の前記量子ドットに隣接する部分のカーボン原子に官能基、水素、ハロゲン元素のいずれかを結合させて構成したことを特徴とする、太陽電池。
【請求項9】
請求項1または2に記載の太陽電池において、前記sp結合防止層は、前記壁層の前記量子ドットに隣接する部分のカーボン原子に官能基、水素、ハロゲン元素のいずれかを結合させたものと、前記量子ドット表面のカーボン原子に官能基、水素、ハロゲン元素のいずれかを結合させたものとを含む、太陽電池。
【請求項10】
請求項8または9に記載の太陽電池において、前記官能基は、アルキル基であることを特徴とする、太陽電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−332540(P2006−332540A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−157692(P2005−157692)
【出願日】平成17年5月30日(2005.5.30)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】