説明

太陽電池

【課題】軽量かつ高熱伝導性で割れにくく、光電変換層が剥がれにくい、好適な耐電圧特性を有するフレキシブルな太陽電池を提供する。
【解決手段】絶縁性の陽極酸化皮膜を有する金属基板上に光電変換層を有する太陽電池であって、前記陽極酸化皮膜の表面粗さが0.5nm〜2μmであり、かつ、光電変換層に用いられる半導体が、カルコパイライト型材料であり、その禁制帯幅が1.3〜1.5eVである、太陽電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜太陽電池に関するものであり、更に詳しく言えば、陽極酸化アルミニウム基板を用いた、軽量でフレキシビリティに優れた薄膜太陽電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
薄膜太陽電池用基板としてはガラス基板が主に使用されている。但し、ガラス基板は割れやすく取り扱いに十分な注意が必要であると共に、フレキシブル性に欠けることから適用範囲が限定されていた。最近では、住宅等の建造物用の電力供給源として太陽電池が注目を集めており、十分な供給電力を確保する上で太陽電池の大型化が不可欠であり、太陽電池の大面積化を図る上で基板の軽量化が望まれている。
しかしながら、軽量化を目的として、ガラス基板を薄くすると一層割れやすくなってしまうことから、割れにくくフレキシブルであり、しかもガラス基板よりも軽量化を図ることのできる基板材料の開発が要望されている。
【0003】
また、ガラス基板の価格は、太陽電池の光電変換層材料の価格に比べると比較的に高く、太陽電池の普及を促すために安価な基板材料が望まれている。そのような基板材料として金属を使った場合には、その上に構成する太陽電池材料との間を絶縁するのが困難であり、また、樹脂を用いた場合には、太陽電池を形成するために必要な400℃を超えるような高温に耐えられない問題があった。
さらに、光吸収効率の良いカルコパイライト系においても、光を十分閉じこめることが困難で照射される大陽光を効果的に利用できていない問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記事情に着目してなされたものであって、軽量かつ高熱伝導性で割れにくく、光電変換層が剥がれにくい、好適な耐電圧特性を有するフレキシブルな太陽電池であって、光吸収層のバンドギャップが最適化され、又は光利用効率を高めることにより高効率化される太陽電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の課題は、下記の手段によって解決された。
(1)絶縁性の陽極酸化皮膜を有する金属基板上に光電変換層を有する太陽電池であって、前記陽極酸化皮膜の表面粗さが0.5nm〜2μmであり、かつ、光電変換層に用いられる半導体が、カルコパイライト型材料であり、その禁制帯幅が1.3〜1.5eVであることを特徴とする太陽電池。
(2)前記陽極酸化皮膜の表面粗さが0.5μm〜1.5μmである、(1)項に記載の太陽電池。
(3)前記陽極酸化皮膜の表面に形成された細孔の孔径が10nm〜500nmである、(1)又は(2)項に記載の太陽電池。
(4)前記細孔の孔径が10nm〜200nmである、(3)項に記載の太陽電池。
(5)前記陽極酸化皮膜に形成された隣り合った細孔間の中心距離Dが細孔直径Rに対してD>R且つ、密度が100〜10000個/μm2である、(1)〜(4)のいずれか1項に記載の太陽電池。
(6)前記細孔の深さが0.005〜199.995μmである、(1)〜(5)のいずれか1項に記載の太陽電池。
【0006】
(7)前記陽極酸化皮膜の表面の凹凸構造が、フラクタル解析、ウェーブレット解析又はフーリエ変換法により規定される構造を含む、(1)〜(6)のいずれか1項に記載の太陽電池。
(8)前記凹凸構造がフラクタル構造を含み、当該フラクタル構造のフラクタル次元が2より大きく2.99以下である、(7)項に記載の太陽電池。
(9)前記フラクタル構造のフラクタル次元が、単位長さが1nm以上1000μm以下のサイズにおいて2より大きく2.99以下である、(8)項に記載の太陽電池。
(10)前記凹凸構造の断面がフラクタル構造を含み、当該断面のフラクタル構造のフラクタル次元が1より大きく1.99以下である、(7)項に記載の太陽電池。
(11)前記断面のフラクタル次元が、単位長さが1nm以上100μm以下のサイズにおいて1より大きく1.99以下である、(10)項に記載の太陽電池。
【0007】
(12)前記陽極酸化皮膜が、前記金属基板の端面および両面に形成されている、(1)〜(11)のいずれか1項に記載の太陽電池。
(13)前記光電変換層が、Ib族元素とIIIb族元素とVIb族元素とからなる半導体層を含む、(1)〜(12)のいずれか1項に記載の太陽電池。
(14)前記半導体層が、銅(Cu)、銀(Ag)、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、イオウ(S)、セレン(Se)及びテルル(Te)からなる群から選択される少なくとも1つの元素を含有してなる層である、(13)項に記載の太陽電池。
(15)前記光電変換層として、IVb族元素からなる半導体層、IIIb族元素とVb族元素とからなる半導体層、IIb族元素とVIb族元素とからなる半導体層、Ib族元素からなる層、IIb族元素からなる層、IVb族元素からなる層、及び/又はVIb族元素からなる層を含む、(1)〜(12)のいずれか1項に記載の太陽電池。
【発明の効果】
【0008】
本発明の太陽電池は、安価で軽量な陽極酸化アルミニウム基板を用いることにより、軽量かつ高熱伝導性で、割れにくく可撓性を有する。さらに、光閉じ込め効果を利用して光供給層を薄くすることができ、より低コストで製造することができる。また、金属基板の両面及び端面に陽極酸化層を設け、細孔を他の絶縁材料で埋めることにより、絶縁性の確保だけでなく、太陽電池成膜中の金属基板の化学反応を防ぐことができる。また、両面に陽極酸化膜を設けた基板を用いることにより、熱歪が両面で相殺され、基板のカールや丸まりなどの変形を防ぐことができる。また、基板表面に形成された凹凸構造により、基板と金属電極との密着性を向上させ、膜剥がれを防ぐことができる。
従来、表面粗さが比較的小さい場合は光閉じ込めの効果は小さかったが、細孔の構造を合わせることによって光閉じ込めの効果を大きくすることができる。前記凹凸構造により、光吸収層へより多くの光を閉じ込めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
一般に、太陽電池は、光電変換を行う半導体層を、透明電極を含む2つの電極で挟んだ構造である。透明電極から入射した光が半導体層を多数回反射往復するようにして光をより有効に閉じ込めることは、発電効率向上につながる。対向電極の表面に凹凸構造があると、この電極で反射した光の進行方向が変わり、半導体層を斜めに伝搬することで、光の吸収確率を上げることができる。また、斜めに伝搬する光が増え、傾斜角が透明電極と、半導体層、透明電極と大気等の界面反射率が大きくなり、一度対向電極で反射した光は、太陽電池の中に閉じ込められる。
【0010】
そのため、従来、半導体対向電極界面に凸凹構造を形成することが試みられている。例えば、特開2007-194569号公報では、金属薄板上に熱分解温度が250℃以上、ガラス転移温度が350℃以下である樹脂を被覆し、樹脂表面に規則的な微小凹凸を形成することに太陽電池用基板を得ているが、CIGS等の太陽電池用には耐熱性が不足していた。
また、特開2005-340643号公報、特開2004-134494号公報、特開2004-31648号公報等では、半導体基板を、酸・アルカリ溶液への浸漬処理により表面に光閉じ込め構造の凹凸形状を有する半導体基板を得ているが、薄膜太陽電池には適さなかった。
また、特開2005-311292号公報、特開2004-82285号公報、特開2003-282902号公報等では、薄膜太陽電池用基板のとして微細な表面凹凸を有する透光性絶縁基板凹凸に透明電極層を形成した上に太陽電池を形成しているが、ガラス基板を用いなければならなかった。
【0011】
これに対し、本発明に用いられる太陽電池用基板は、フレキシブルな金属基板上に陽極酸化による絶縁層が形成された基板であり、安価に凹凸構造を形成することができる。これにより、耐熱性に優れ、半導体層をエッチングすることなく、ガラスに変わるフレキシビリティに富んだ基板が得られ、このような基板を用いることで、軽量かつ高熱伝導性で、割れにくく可撓性を有する太陽電池を低コストで製造することができる。
【0012】
陽極酸化された金属基板上の絶縁性膜表面は、ポアなどにより凹凸構造を持っており、表面粗さRaが、好ましくは0.5nm〜2μmである表面が形成されている。表面粗さRaは、薄膜太陽電池向けには0.5μm〜1.5μmが好ましい。陽極酸化膜に欠陥等ができ、絶縁特性が劣化するのを防ぐために、ミクロには平坦であって、その上位構造としての大きなうねりのある構造が好ましい。凹凸を作る方法としては、陽極酸化処理をする前の金属表面を機械研磨、化学研磨、電気研磨およびそれらの組合せによって実現することができる。
【0013】
陽極酸化皮膜の表面の凹凸構造は、フラクタル解析、ウェーブレット解析又はフーリエ変換法などにより規定することができる。
フラクタル次元は、三次元構造や二次元断面構造から評価できる。本発明における陽極酸化皮膜の表面の凹凸構造およびその断面は、フラクタル構造を含むことが好ましい。本発明では、陽極酸化皮膜の表面の凹凸構造(三次元構造)を評価した場合、フラクタル次元が、2より大きく2.99以下であることが好ましい。構造は評価するスケール範囲により異なる。フラクタルを評価する単位長さが1nm以上1000μm以下のサイズにおいて2より大きく2.99以下であることが好ましく、さらには2.5以下であることがより好ましい。
また、本発明では、陽極酸化皮膜の表面の凹凸構造の断面(二次元断面構造)を評価した場合、断面のフラクタル次元が、1より大きく1.99以下であることが好ましい。構造は評価するスケール範囲により異なる。フラクタルを評価する単位長さが1nm以上1000μm以下のサイズにおいて1より大きく1.99以下であることが好ましく、さらには1.5以下であることがより好ましい。
【0014】
本発明における「フラクタル構造」とは、必ずしも規則的な自己相似性がスケールを変えても現れる狭義のフラクタル構造ではなく、地形の輪郭のようなランダムな構造を含み、スケール変換法、ボックスカウンティング法などの手法でフラクタル次元が定義できる構造をいう。
フラクタルの評価法には種々あるが、例えば、陽極酸化アルミニウムの表面の境界面の構造を取り出して、ボックスカウンティング法で評価することができる。このとき、評価用の単位長さが短くなるにつれてフラクタル次元が小さくなるのが好ましい。
ボックスカウンティング法では、ボックス次元と呼ばれるフラクタル次元を求める。この方法はボックスの選び方に敏感ではないため、実際的な次元の測定に際しても適用度が大きく、海岸線のように複雑な曲線のフラクタル次元を測る際によく使われる。例えばその中のデバイダ-(カバー)法は、歩幅δを様々に変えながら,曲線上の端から端までを歩くために必要な歩数Nδを調べ、これらの両対数プロットの勾配
D=−logNδ/logδ
からフラクタル次元を求める。これはボックスとして互いに重ならない円(球)を採用した場合に相当する。前記の「単位長さ」はこの歩幅δに相当する。最小分解能以上のサイズでないと、実際に存在している凹凸が見えない可能性がある。AFMにて観察倍率を変えていくと、最小分解能が大きくなっていくのと対応している。計算上で最小分解能を落として、最小単位がいくつ断面上に並ぶかを計算することで次元を求めることができる。デルタを大きな値から小さな値に変えてもDが変わらないことがフラクタル性を示すが、実際の物質ではδを無限大から無限小までの範囲で考えることはできない。本発明では、すべてのδの範囲でなく、δが数倍変わった程度の狭い範囲でもフラクタル次元を定義できるとみなす。
【0015】
粗面化方法としては、砂、ブラシ、交流電解などがあり、異なる組成のアルミニウムでも使えるようにしたり、結晶粒の揺らぎによるアルミナの品質低下(ストリークなど)を防ぐ効果もある。鏡面状態に研磨してから陽極酸化、Ra0.5nm〜2μmの粗さにするのが好ましい。具体的には次のような方法がある。
【0016】
陽極酸化前にブラシと研磨剤を含んだスラリーで粗面化する。電気的・機械的粗面化。交流電流による粗面化、アルカリエッチングによる粗面化。電気化学的な粗面化処理。中性直流エッチ―塩酸交流電気化学的祖面化―中性直流エッチ―塩酸交流電気化学的祖面化―中性直流エッチ―硫酸直流デスマット処理(粉末状態の黒色粒子(スマット)を取り除く処理)+陽極酸化。
陽極酸化アルミウム基板としては、例えば、特開2005−47084号公報、特開2005−47070号公報、特開2005−254638号公報に記載されているような陽極酸化を施す。
【0017】
また、陽極酸化膜にできる孔径と細孔の密度によっても凹凸を作ることができる。薄膜太陽電池向けの小さな凹凸を作る方法としては、陽極酸化処理をする前の金属表面を機械研磨、化学研磨、電気研磨およびそれらの組合せによって研磨した後、表面を陽極酸化することで実現することができる。このように鏡面状態に研磨してから陽極酸化、表面粗さRa0.5〜50nmの粗さにするのが好ましい。
【0018】
陽極酸化によって形成される細孔の孔径は、10nm〜500nmであることが好ましく、10nm〜200nmであることがより好ましい。また、隣り合った細孔間の中心距離Dが細孔直径Rに対してD>R且つ、細孔の密度が100〜10000個/μm2で形成されていることが好ましい。
【0019】
陽極酸化皮膜は、大きく分けると緻密な酸化皮膜であるバリア層と、細孔が形成されたポア層とに分けられる。本発明では、絶縁性を確保するために、極酸化皮膜のバリア層の厚みが5〜500nmであることが好ましく、陽極酸化皮膜の全体の厚み(すなわちバリア層の厚みとポア層の厚みとの合計)が0.1〜200μmであることが好ましい。
【0020】
また、金属基板(例えばアルミニウム基板)の表面を粗面化することにより、酸化アルミナ層の表面にも凹凸ができると、光閉じ込め以外にアルミナ上に形成する導電性層(金属・半導体)との密着を良くし、特に、熱膨張係数の異なる(大きい)金属層の膜剥がれを防止する効果もある。
【0021】
金属基板としては、陽極酸化により金属基板表面上に生成する金属酸化膜が絶縁体である材料を利用することができる。通常、金属酸化膜は、金属と比べると熱膨張係数が小さく、半導体のそれと近い。したがって、金属基板表面に形成する酸化膜が、光電変換層を形成する材料とほぼ同じ熱膨張係数を持つのが好ましい。具体的には、アルミニウム(Al)、ジルコニウム(Zr)、チタン(Ti)、マグネシウム(Mg)、ニオブ(Nb)及びタンタル(Ta)等、並びにそれらの合金が挙げられる。コストや太陽電池に要求される特性の観点から、アルミニウムが最も好ましい。
【0022】
成分が銅(Cu)、銀(Ag)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、イオウ(S)、セレン(Se)及びテルル(Te)などのI−III−VI族半導体を用いて銅−インジウム−ガリウム−セレン系(CIGS系)の太陽電池を構成することを考えると、ソーダライムガラスの熱膨張係数、CIGSの熱膨張係数9×10-6/Kに対し、裏面電極層Moの熱膨張係数は5×10-6/Kと小さい。また、ステンレス基板の熱膨張係数は10×10-6/Kである。これに対し、陽極酸化アルミニウム基板では、陽極酸化膜(アルミナ)の熱膨張係数は7.5×10-6/Kであり、アルミナの熱膨張係数はステンレスよりもMoに近い。したがって、陽極酸化アルミニウム基板を用いた場合、ステンレス基板よりも成膜中の熱による歪が小さい。これにより、丸まったり、カールしたり、膜剥がれが発生するのを防ぐことができる。
【0023】
アルミニウムの熱膨張係数は22×10-6/Kであり、アルミナである陽極酸化膜とアルミニウムとの熱膨張の差があるため、陽極酸化膜は、アルミニウム基板の両面にほぼ等しい厚さで形成されていることがより好ましい。
【0024】
両面の陽極酸化方法としては例えば、片面に絶縁材料を塗布して、片面ずつ両面を陽極酸化する方法、両面を同時に陽極酸化する方法を用いる。
【0025】
また、金属板に酸化膜を形成する時、端面にも酸化膜を形成し、金属部分を完全に覆うことが好ましい。これにより、基板上に光電変換層を形成するときに原料となる化学物質と化学反応を起こしたり、基板を構成する材料が、光電変換部分の形成層に混入するのを防ぎ、太陽電池の光電変換効率を損なったり、変換効率が時間的に早く劣化するのを防ぐ(特に、CIGSの気相成長時に、セレン又はイオウとアルミニウムとが反応するのを防ぐ。)。
【0026】
このようにして、陽極酸化膜を付与したアルミニウム基板に、成分がCu、Ag、In、Ga、S、Se、TeなどのIb族元素とIIIb族元素とVIb族元素とからなる半導体(I−III−VI族半導体)からなるカルコパイライト系の銅−インジウム−セレン系化合物(CIS)、銅−インジウム−ガリウム−セレン系化合物(CIGS)や、CdTe等のIIb族元素とVIb族元素とからなる半導体(II−VI族半導体)、Si等のIVb族元素からなる半導体(IV族半導体)、GaAs等のIIIb族元素とVb族元素とからなる半導体(III−V族半導体)を含んだ光電変換層を形成し、太陽電池を得る。なお、本明細書における元素の族の記載は、短周期型周期表に基づくものである。
【0027】
<アルミニウム基板>
本発明に用いられるアルミニウム基板は、寸度的に安定なアルミニウムを主成分とする金属からなる基板であり、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる基板である。純アルミニウム板のほか、アルミニウムを主成分とし微量の異元素を含む合金板や、アルミニウムまたはアルミニウム合金がラミネートされまたは蒸着されたプラスチックフィルムまたは紙を用いることもできる。本発明に用いられるアルミニウム板の組成は、特に限定されないが、純アルミニウム板を用いるのが好適である。
【0028】
純度の高いアルミニウム材としては、99.9質量%以上の高純度であるとより好ましい。アルミニウム材の純度が高いほど陽極酸化後の細孔(ポア)の規則性が向上し、規則性を有する領域の大きさ(平均ポア周期)も広がる為、電磁気的デバイスへ応用する際には、できる限り高純度のアルミニウム材料を使用することが好ましい。好ましくは99.99質量%以上、より好ましくは99.995質量%以上、さらに好ましくは99.999質量%以上である。純度が99.9質量%以上〜99.99質量%以下の市販材は通常、圧延筋はあるものの、ふくれは無いものが多い。しかし、純度が99.99質量%を超える材料は、特注品扱いとなり、小幅実験機で作られたものが供給されることが多く、程度の差はあるが、ふくれがある板材料が一般的である。
【0029】
99.99質量%〜99.999質量%の範囲のアルミニウムは一般に、高純度アルミニウムと呼ばれ、99.999質量%以上のアルミニウムを超高純度アルミニウムと呼ばれる。純度99.99質量%を超えるアルミニウム材は溶融炉で繰り返し溶融し精製するが、溶融の際に空気や不活性ガス等の気体で攪拌する為、気泡が混入する。その後、減圧して脱気処理を行う。高純度材の場合には、極微量の不純物を表層に浮上させる必要がある為、強い攪拌が必要となり、気泡の含有量が多くなり脱気が不十分となり易い。このような気泡を含んだアルミニウムを圧延すると、直径50μm〜2mm程度、さらには直径0.1〜1mm程度、深さ0.1〜20μm程度、さらには深さ0.3〜10μm程度の「ふくれ」と呼ばれる凸部が発生してしまう。発生密度は概ね、数個/dm2〜数百個/dm2である。また前述のように圧延による圧延筋も発生する。
【0030】
完全に純粋なアルミニウムは精練技術上、製造が困難であるので、わずかに異元素を含有するものを用いてもよい。例えば、アルミニウムハンドブック第4版(軽金属協会(1990))に記載の公知の素材のもの、具体的には、JIS1050材、JIS1100材、JIS3003材、JIS3005材、国際登録合金3103A等を用いることができる。
また、アルミニウム(Al)の含有率が99.4〜95質量%であって、鉄(Fe)、ケイ素(Si)、銅(Cu)、マグネシウム(Mg)、マンガン(Mn)、亜鉛(Zn)、クロム(Cr)、およびチタン(Ti)のうち少なくとも5種以上を後述する範囲内で含む、アルミニウム合金、スクラップアルミニウム材または二次地金を使用したアルミニウム板を使用することもできる。本発明の太陽電池の基板(支持体)には、アルミニウム合金が用いられるのが好ましい。アルミニウム合金においては、Alの他にFe、SiおよびCuを含有するのが好ましく、更にTiを含有するのがより好ましい。
【0031】
Feは、通常、原材料として使用されるアルミニウム合金(Al地金)に0.04〜0.2質量%程度含有されている。Feは、アルミニウム中に固溶する量は少なく、ほとんどが金属間化合物として残存する。Feは、アルミニウム合金の機械的強度を高める作用があり、支持体の強度に大きな影響を与える。Fe含有量が少なすぎると、機械的強度が低すぎて、基板を蒸着装置に取り付ける際に、板切れを起こしやすくなる。また、高速で大部数の蒸着を行う際にも、同様に板切れを起こしやすくなる。一方、Fe含有量が多すぎると、必要以上に高強度となり、基板を蒸着装置に取り付ける際に、フィットネス性に劣り、蒸着中に板切れを起こしやすくなる。また、Feの含有量が、例えば、1.0質量%より多くなると圧延途中に割れが生じやすくなる。
【0032】
Fe含有量の上限は、好ましくは0.29質量%とすることにより、優れた機械的強度が得られる。また、Feを含む金属間化合物量が少なくなり金属間化合物の取り除かれた(脱落した)後に形成される局所的な凹部が少なくなるため光電変換層を構成する結晶の欠陥を減らすことができ、発電効率の面内分布をよくし、発電効率も優れたものになる。Fe含有量の下限は、地金中の含有量を考慮し、好ましくは0.05%以上とするのが妥当であるが、機械的強度を維持する上で、0.20質量%以上とすることがより好ましい。Feを含む金属間化合物としては、例えば、Al3Fe、Al6Fe、Al−Fe−Si系化合物、Al−Fe−Si−Mn系化合物が挙げられる。
【0033】
Siは、原材料であるAl地金に不可避不純物として通常0.03〜0.1質量%前後含有される元素であり、原材料差によるばらつきを防ぐため、意図的に微量添加されることが多い。また、Siは、スクラップアルミニウムにも多く含まれる元素である。Siは、アルミニウム中に固溶した状態で、または、金属間化合物もしくは単独の析出物として存在する。また、太陽電池用基板の製造過程で加熱されると、固溶していたSiが単体Siとして析出することがある。本発明者らの知見によれば、Siは、電解粗面化処理に影響を与える。更に、Siの含有量が多すぎると、粗面化処理後に陽極酸化処理を施したときに、陽極酸化皮膜の欠陥となる。
【0034】
本発明においては、Si含有量は、好ましくは0.03質量%以上であり、また、好ましくは0.15質量%以下である。電解粗面化処理の安定性に優れる点で、より好ましくは、0.04質量%以上であり、また、0.1質量%以下である。
【0035】
Cuは、電解粗面化処理を制御するうえで非常に重要な元素である。Cu含有量を好ましくは0.000質量%以上、さらには0.020質量%以上とすることにより、硝酸液中での電解粗面化処理により生成するピットの径を大きくできるため、密着性が向上する。一方、Cu含有量が0.15質量%を超えると、硝酸液中での電解粗面化処理により生成するピットの径が大きくなりすぎるとともに径の均一性が低下するため、均一な表面が得られない場合がある。
【0036】
本発明においては、上記観点から、Cuの含有量は、好ましくは0.000〜0.150質量%であり、より好ましくは0.05〜0.1質量%である。
【0037】
Tiは、以前より、鋳造時の結晶組織を微細にするために、結晶微細化材として、通常、0.05質量%以下の含有量で含有されている。Ti含有量が多すぎると、陽極酸化時に皮膜が絶縁破壊を起こし、均一な陽極酸化皮膜表面が得られない場合がある。本発明においては、Tiの含有量は、0.05質量%以下であるのが好ましく、0.03質量%以下であるのがより好ましい。
【0038】
また、Tiはアルミニウム板に含有されていてもいなくてもよく、またその含有量は少なくてもよいが、結晶微細化効果を高めるためには、Tiの含有量は、0.001質量%以上であるのが好ましい。
【0039】
Tiは、主として、Alとの金属間化合物またはTiB2として添加されるが、結晶微細化効果を高めるためには、Al−Ti合金またはAl−B−Ti合金として添加されるのが好ましい。なお、Al−B−Ti合金として添加した場合、アルミニウム合金中にホウ素(B)が微量含有されることになるが、本発明の効果は損なわれない。
【0040】
上記異元素を上記の範囲で含有するアルミニウム板を用いると、後述する電解粗面化処理において均一かつ大きなピットが形成されるため、太陽電池としたときの密着性が優れたものになる。
【0041】
アルミニウム板の残部は、Alと不可避不純物からなるのが好ましい。不可避不純物の大部分は、Al地金中に含有される。不可避不純物は、例えば、Al純度99.7%の地金に含有されるものであれば、本発明の効果を損なわない。不可避不純物については、例えば、L.F.Mondolfo著「Aluminum Alloys:Structure and properties」(1976年)等に記載されている量の不純物が含有されていてもよい。
【0042】
アルミニウム合金に含有される不可避不純物としては、例えば、Mg、Mn、Zn、Cr等が挙げられ、これらはそれぞれ0.05質量%以下含まれていてもよい。これら以外の元素については、従来公知の含有量で含まれていてもよい。
【0043】
本発明に用いられるアルミニウム板は、上記原材料を用いて常法で鋳造したものに、適宜圧延処理や熱処理を施し、厚さを例えば、0.1〜0.7mmとし、必要に応じて平面性矯正処理を施して製造される。この厚さは、適宜変更することができる。
【0044】
なお、上記アルミニウム板の製造方法としては、例えば、DC鋳造法、DC鋳造法から均熱処理および/または焼鈍処理を省略した方法、ならびに、連続鋳造法を用いることができる。
【0045】
[太陽電池用基板の製造]
本発明の太陽電池に用いられる基板は、上記アルミニウム板に粗面化処理しあるいは研磨処理を行った後、陽極酸化し、更に特定の封孔処理をすることで製造することができる。
【0046】
(太陽電池用基板の製造工程)
上記アルミニウム板は、付着している圧延油を除く脱脂工程、アルミニウム板の表面のスマットを溶解するデスマット処理工程、アルミニウム板の表面を粗面化する粗面化処理工程、アルミニウム板の表面に陽極酸化皮膜を形成させる陽極酸化処理工程および陽極酸化皮膜のマイクロポアを封孔する封孔処理を経て太陽電池用基板とするのが好ましい。
【0047】
本発明に用いられる太陽電池用基板の製造では、酸性水溶液中で交流電流を用いてアルミニウム板を電気化学的に粗面化する粗面化処理(電気化学的粗面化処理)を含むのが好ましい。
【0048】
また、本発明の太陽電池用基板の製造では、上記電気化学的粗面化処理の他に、機械的粗面化処理、酸またはアルカリ水溶液中での化学的エッチング処理等を組み合わせたアルミニウム板の表面処理工程を含んでもよい。本発明の太陽電池用基板の製造にあたって、粗面化処理等の各処理工程は、連続法でも断続法でもよいが、工業的には連続法を用いるのが好ましい。
更に、本発明においては、必要に応じて、親水性処理が行われる。
【0049】
本発明の太陽電池用基板を製造する方法としては、より具体的には、(a)機械的粗面化処理、(b)アルカリエッチング処理、(c)デスマット処理、(d)硝酸または塩酸を主体とする電解液を用いた電解粗面化処理(硝酸または塩酸電解)、(e)アルカリエッチング処理、(f)デスマット処理、(g)塩酸を主体とする電解液を用いた電解粗面化処理(塩酸電解)、(h)アルカリエッチング処理、(i)デスマット処理、(j)陽極酸化処理、(k)封孔処理および(l)親水化処理をこの順に施す方法が好適に挙げられる。
また、上記方法から(g)〜(i)を省略した方法、上記方法から(a)を省略した方法、上記方法から(a)および(g)〜(i)を省略した方法、上記方法から(a)〜(d)を省略した方法も好適に挙げられる。
【0050】
<水洗処理>
上記各処理の間には、処理液を次工程に持ち込まないために通常水洗処理が行われる。
水洗処理は、自由落下カーテン状の液膜により水洗処理する装置を用いて水洗し、更に、スプレー管を用いて水洗するのが好ましい。
【0051】
図1は、自由落下カーテン状の液膜により水洗処理する装置の模式的な断面図である。図1に示されているように、自由落下カーテン状の液膜により水洗処理する装置10は、水102を貯留する貯水タンク104と、貯水タンク104に水を供給する給水筒106と、貯水タンク104から自由落下カーテン状の液膜をアルミニウム板1に供給する整流部108とを有する。
装置10においては、給水タンク104に給水筒106から水102が供給され、水102が給水タンク104からオーバーフローする際に、整流部108により整流され、自由落下カーテン状の液膜がアルミニウム板1に供給される。装置10を用いる場合、液量は10〜100L/minであるのが好ましい。また、装置10とアルミニウム1との間の水102が自由落下カーテン状の液膜として存在する距離Lは、20〜50mmであるのが好ましい。また、アルミニウム板の角度αは、水平方向に対して30〜80°であるのが好ましい。
【0052】
図1に示されるような自由落下カーテン状の液膜により水洗処理する装置を用いると、アルミニウム板に均一に水洗処理を施すことができるので、水洗処理の前に行われた処理の均一性を向上させることができる。
自由落下カーテン状の液膜により水洗処理する具体的な装置としては、例えば、特開2003−96584号公報に記載されている装置が好適に挙げられる。
【0053】
また、水洗処理に用いられるスプレー管としては、例えば、扇状に噴射水が広がるスプレーチップをアルミニウム板の幅方向に複数個有するスプレー管を用いることができる。スプレーチップの間隔は20〜100mmであるのが好ましく、また、スプレーチップ1本あたりの液量は0.5〜20L/minであるのが好ましい。スプレー管は複数本用いるのが好ましい。
【0054】
<粗面化処理(砂目立て処理)>
まず、粗面化処理について説明する。
上記アルミニウム板は、より好ましい形状に砂目立て処理される。砂目立て処理方法は、特開昭56−28893号公報に記載されているような機械的砂目立て(機械的粗面化処理)、化学的エッチング、電解グレイン等がある。更に、塩酸電解液中または硝酸電解液中で電気化学的に砂目立てする電気化学的砂目立て法(電気化学的粗面化処理、電解粗面化処理)や、アルミニウム表面を金属ワイヤーでひっかくワイヤーブラシグレイン法、研磨球と研磨剤でアルミニウム表面を砂目立てするボールグレイン法、ナイロンブラシと研磨剤で表面を砂目立てするブラシグレイン法等の機械的砂目立て法(機械的粗面化処理)を用いることができる。これらの砂目立て法は、単独でまたは組み合わせて用いることができる。例えば、ナイロンブラシと研磨剤とによる機械的粗面化処理と、塩酸電解液または硝酸電解液による電解粗面化処理との組み合わせや、複数の電解粗面化処理の組み合わせが挙げられる。中でも、電気化学的粗面化処理が好ましい。また、機械的粗面化処理と電気化学的粗面化処理とを組み合わせて行うのも好ましく、特に、機械的粗面化処理の後に電気化学的粗面化処理を行うのが好ましい。
【0055】
(機械的粗面化処理)
機械的粗面化処理は、ブラシ等を使用してアルミニウム板表面を機械的に粗面化する処理であり、上述した電気化学的粗面化処理の前に行われるのが好ましい。
好適な機械的粗面化処理においては、毛径が0.07〜0.57mmである回転するナイロンブラシロールと、アルミニウム板表面に供給される研磨剤のスラリー液とで処理する。
【0056】
ナイロンブラシは吸水率が低いものが好ましく、例えば、東レ社製のナイロンブリッスル200T(商品名、6,10−ナイロン、軟化点:180℃、融点:212〜214℃、比重:1.08〜1.09、水分率:20℃・相対湿度65%において1.4〜1.8、20℃・相対湿度100%において2.2〜2.8、乾引っ張り強度:4.5〜6g/d、乾引っ張り伸度:20〜35%、沸騰水収縮率:1〜4%、乾引っ張り抵抗度:39〜45g/d、ヤング率(乾):380〜440kg/mm2)が好ましい。
【0057】
研磨剤としては公知のものを用いることができるが、特開平6−135175号公報および特公昭50−40047号公報に記載されているケイ砂、石英、水酸化アルミニウム、またはこれらの混合物を用いるのが好ましい。
【0058】
スラリー液としては、比重が1.05〜1.3の範囲内にあるものが好ましい。スラリー液をアルミニウム板表面に供給する方法としては、例えば、スラリー液を吹き付ける方法、ワイヤーブラシを用いる方法、凹凸を付けた圧延ロールの表面形状をアルミニウム板に転写する方法が挙げられる。また、特開昭55−74898号公報、同61−162351号公報、同63−104889号公報に記載されている方法を用いてもよい。更に、特表平9−509108号公報に記載されているように、アルミナおよび石英からなる粒子の混合物を95:5〜5:95の範囲の質量比で含んでなる水性スラリー中で、アルミニウム板表面をブラシ研磨する方法を用いることもできる。このときの上記混合物の平均粒子径は、1〜40μm、特に1〜20μmの範囲内であるのが好ましい。
【0059】
(電気化学的粗面化処理)
電気化学的粗面化処理は、酸性水溶液中で、アルミニウム板を電極として交流電流を通じ、該アルミニウム板の表面を電気化学的に粗面化する工程であり、前述の機械的粗面化処理とは異なる。
【0060】
本発明においては、上記電気化学的粗面化処理において、アルミニウム板が陰極となるときにおける電気量、即ち、陰極時電気量QCと、陽極となるときにおける電気量、即ち、陽極時電気量QAとの比QC/QAを、例えば、0.5〜2.0の範囲内とすることで、アルミニウム板の表面に均一なハニカムピットを生成することができる。QC/QAが0.50未満であると、不均一なハニカムピットとなりやすく、また、2.0を超えても、不均一なハニカムピットとなりやすい。QC/QAは、0.8〜1.5の範囲内とするのが好ましい。
【0061】
電気化学的粗面化処理に用いられる交流電流の波形としては、正弦波(サイン波)、矩形波、三角波、台形波等が挙げられる。また、交流電流の周波数は、電源装置を製作するコストの観点から、30〜200Hzであるのが好ましく、40〜120Hzであるのがより好ましく、50〜60Hzであるのが更に好ましい。
【0062】
本発明に好適に用いられる台形波の一例を図2に示す。図2において、縦軸は電流値、横軸は時間を示す。また、taはアノード反応時間、tcはカソード反応時間、tpは電流値がゼロからカソードサイクル側のピークに達するまでの時間、tp’は電流値がゼロからアノードサイクル側のピークに達するまでの時間、Iaはアノードサイクル側のピーク時の電流、Icはカソードサイクル側のピーク時の電流を示す。交流電流の波形として台形波を用いる場合、電流がゼロからピークに達するまでの時間tpおよびtp’はそれぞれ0.1〜2msecであるのが好ましく、0.3〜1.5msecであるのがより好ましい。tpおよびtp’が0.1msec未満であると、電源回路のインピーダンスが影響し、電流波形の立ち上がり時に大きな電源電圧が必要となり、電源の設備コストが高くなる場合がある。また、tpおよびtp’が2msecを超えると、酸性水溶液中の微量成分の影響が大きくなり、均一な粗面化処理が行われにくくなる。
【0063】
また、電気化学的粗面化処理に用いられる交流電流のdutyは、アルミニウム板表面を均一に粗面化する点から0.25〜0.75の範囲内とするのが好ましく、0.4〜0.6の範囲内とするのがより好ましい。本発明でいうdutyとは、交流電流の周期Tにおいて、アルミニウム板の陽極反応が持続している時間(アノード反応時間)をtaとしたときのta/Tをいう。特に、カソード反応時のアルミニウム板表面には、水酸化アルミニウムを主体とするスマット成分の生成に加え、酸化皮膜の溶解や破壊が発生し、次のアルミニウム板のアノード反応時におけるピッティング反応の開始点となるため、交流電流のdutyの選択は均一な粗面化に与える効果が大きい。
【0064】
交流電流の電流密度は、台形波または矩形波の場合、アノードサイクル側のピーク時の電流密度Iapおよびカソードサイクル側のピーク時の電流密度Icpがそれぞれ10〜200A/dm2となるのが好ましい。また、Icp/Iapは、0.9〜1.5の範囲内にあるのが好ましい。
【0065】
電気化学的粗面化処理において、電気化学的粗面化処理が終了した時点でのアルミニウム板のアノード反応に用いた電気量の総和は、50〜1000C/dm2であるのが好ましい。電気化学的粗面化処理の時間は、1秒〜30分であるのが好ましい。
【0066】
電気化学的粗面化処理に用いられる酸性水溶液としては、通常の直流電流または交流電流を用いた電機化学的粗面化処理に用いるものを用いることができ、その中でも硝酸を主体とする酸性水溶液または塩酸を主体とする酸性水溶液を用いることが好ましい。ここで、「主体とする」とは、水溶液中に主体となる成分が、成分全体に対して、30質量%以上、好ましくは50質量%以上含まれていることをいう。以下、他の成分においても同様である。
【0067】
硝酸を主体とする酸性水溶液としては、上述したように、通常の直流電流または交流電流を用いた電気化学的粗面化処理に用いるものを用いることができる。例えば、硝酸アルミニウム、硝酸ナトリウム、硝酸アンモニウム等の硝酸化合物のうち一つ以上を、0.01g/Lから飽和に達するまでの濃度で、硝酸濃度5〜15g/Lの硝酸水溶液に添加して使用することができる。硝酸を主体とする酸性水溶液中には、鉄、銅、マンガン、ニッケル、チタン、マグネシウム、ケイ素等のアルミニウム合金中に含まれる金属等が溶解されていてもよい。
【0068】
硝酸を主体とする酸性水溶液としては、中でも、硝酸と、アルミニウム塩と、硝酸塩とを含有し、かつ、アルミニウムイオンが1〜15g/L、好ましくは1〜10g/L、アンモニウムイオンが10〜300ppmとなるように、硝酸濃度5〜15g/Lの硝酸水溶液中に硝酸アルミニウムおよび硝酸アンモニウムを添加して得られたものを用いることが好ましい。なお、上記アルミニウムイオンおよびアンモニウムイオンは、電気化学的粗面化処理を行っている間に自然発生的に増加していくものである。また、この際の液温は10〜95℃であるのが好ましく、20〜90℃であるのがより好ましく、30〜70℃であるのが特に好ましい。
【0069】
電気化学的粗面化処理においては、縦型、フラット型、ラジアル型等の公知の電解装置を用いることができるが、特開平5−195300号公報に記載されているようなラジアル型電解装置が特に好ましい。
【0070】
図3は、本発明に好適に用いられるラジアル型電解装置の概略図である。図3において、ラジアル型電解装置は、アルミニウム板11が主電解槽40中に配置されたラジアルドラムローラ12に巻装され、搬送過程で交流電源20に接続された主極13aおよび13bによって電解処理される。酸性水溶液14は、溶液供給口15からスリット16を通じてラジアルドラムローラ12と主極13aおよび13bとの間にある溶液通路17に供給される。
【0071】
ついで、主電解槽40で処理されたアルミニウム板11は、補助陽極槽50で電解処理される。この補助陽極槽50には補助陽極18がアルミニウム板11と対向配置されており、酸性水溶液14は、補助陽極18とアルミニウム板11との間を流れるように供給される。なお、補助電極に流す電流は、サイリスタ19aおよび19bにより制御される。補助陽極槽50は、主電解槽40の前、後または前後に配置されていてもよい。
【0072】
主極13aおよび13bは、カーボン、白金、チタン、ニオブ、ジルコニウム、ステンレス、燃料電池用陰極に用いる電極等から選定することができるが、カーボンが特に好ましい。カーボンとしては、一般に市販されている化学装置用不浸透性黒鉛や、樹脂含芯黒鉛等を用いることができる。
【0073】
補助陽極18は、フェライト、酸化イリジウム、白金、または、白金をチタン、ニオブ、ジルコニウム等のバルブ金属にクラッドもしくはメッキしたもの等公知の酸素発生用電極から選定することができる。
【0074】
主電解槽40および補助陽極槽50内を通過する酸性水溶液の供給方向はアルミニウム板11の進行とパラレルでもカウンターでもよい。アルミニウム板に対する酸性水溶液の相対流速は、10〜5000cm/secであるのが好ましい。
【0075】
一つの電解装置には1個以上の交流電源を接続することができる。また、2個以上の電解装置を使用してもよく、各装置における電解条件は同一であってもよいし異なっていてもよい。
【0076】
また、電解処理が終了した後には、処理液を次工程に持ち出さないためにニップローラによる液切りとスプレーによる水洗とを行うのが好ましい。
【0077】
上記電解装置を用いる場合においては、電解装置中のアルミニウム板がアノード反応する酸性水溶液の通電量に比例して、例えば、(i)酸性水溶液の導電率と(ii)超音波の伝搬速度と(iii)温度とから求めた硝酸およびアルミニウムイオン濃度をもとに、硝酸と水の添加量を調節しながら添加し、硝酸と水の添加容積と同量の酸性水溶液を逐次電解装置からオーバーフローさせて排出することで、上記酸性水溶液の濃度を一定に保つのが好ましい。
【0078】
<表面処理>
つぎに、酸性水溶液中またはアルカリ水溶液中での化学的エッチング処理、デスマット処理等の表面処理について順を追って説明する。上記表面処理は、それぞれ上記電気化学的粗面化処理の前、または、上記電気化学的粗面化処理の後であって後述する陽極酸化処理の前において行われる。ただし、以下の各表面処理の説明は例示であり、本発明は、以下の各表面処理の内容に限定されるものではない。また、上記表面処理を初めとする以下の各処理は任意で施される。
【0079】
(アルカリエッチング処理)
アルカリエッチング処理は、アルカリ水溶液中でアルミニウム板表面を化学的にエッチングする処理であり、上記電気化学的粗面化処理の前と後のそれぞれにおいて行うのが好ましい。また、電気化学的粗面化処理の前に機械的粗面化処理を行う場合には、機械的粗面化処理の後に行うのが好ましい。アルカリエッチング処理は、短時間で微細構造を破壊することができるので、後述する酸性エッチング処理よりも有利である。
【0080】
アルカリエッチング処理に用いられるアルカリ水溶液としては、カセイソーダ、炭酸ソーダ、アルミン酸ソーダ、メタケイ酸ソーダ、リン酸ソーダ、水酸化カリウム、水酸化リチウム等の1種または2種以上を含有する水溶液が挙げられる。特に、水酸化ナトリウム(カセイソーダ)を主体とする水溶液が好ましい。アルカリ水溶液は、アルミニウムはもちろん、アルミニウム板中に含有される合金成分を0.5〜10質量%を含有していてもよい。
【0081】
アルカリ水溶液の濃度は、1〜50質量%であるのが好ましく、1〜30質量%であるのがより好ましい。
【0082】
アルカリエッチング処理は、アルカリ水溶液の液温を20〜100℃、好ましくは40〜80℃の間とし、1〜120秒間、好ましくは2〜60秒間処理することにより行うのが好ましい。アルミニウムの溶解量は、機械的粗面化処理の後に行う場合は5〜20g/m2であるのが好ましく、電気化学的粗面化処理の後に行う場合は0.01〜10g/m2であるのが好ましい。最初にアルカリ水溶液中で化学的なエッチング液をミキシングするときには、液体水酸化ナトリウム(カセイソーダ)とアルミン酸ナトリウム(アルミン酸ソーダ)とを用いて処理液を調製することが好ましい。
【0083】
また、アルカリエッチング処理が終了した後には、処理液を次工程に持ち出さないために、ニップローラによる液切りとスプレーによる水洗とを行うのが好ましい。
【0084】
アルカリエッチング処理を電気化学的粗面化処理の後に行う場合、電気化学的粗面化処理により生じたスマットを除去することができる。このようなアルカリエッチング処理としては、例えば、特開昭53−12739号公報に記載されているような50〜90℃の温度の15〜65質量%の硫酸と接触させる方法および特公昭48−28123号公報に記載されているアルカリエッチングする方法が好適に挙げられる。
【0085】
(酸性エッチング処理)
酸性エッチング処理は、酸性水溶液中でアルミニウム板を化学的にエッチングする処理であり、上記電気化学的粗面化処理の後に行うのが好ましい。また、上記電気化学的粗面化処理の前および/または後に上記アルカリエッチング処理を行う場合は、アルカリエッチング処理の後に酸性エッチング処理を行うのも好ましい。
【0086】
アルミニウム板に上記アルカリエッチング処理を施した後に、上記酸性エッチング処理を施すと、アルミニウム板表面のシリカを含む金属間化合物または単体Siを除去することができ、その後の陽極酸化処理において生成する陽極酸化皮膜の欠陥をなくすことができる。その結果、漏電流の増加を防止し、十分な絶縁性を維持することができる。
【0087】
酸性エッチング処理に用いられる酸性水溶液としては、リン酸、硝酸、硫酸、クロム酸、塩酸、またはこれらの2種以上の混酸を含有する水溶液が挙げられる。中でも、硫酸水溶液が好ましい。酸性水溶液の濃度は、50〜500g/Lであるのが好ましい。酸性水溶液は、アルミニウムはもちろん、アルミニウム板中に含有される合金成分を含有していてもよい。
【0088】
酸性エッチング処理は、液温を60〜90℃、好ましくは70〜80℃とし、1〜10秒間処理することにより行うのが好ましい。このときのアルミニウム板の溶解量は0.001〜0.2g/m2であるのが好ましい。また、酸濃度、例えば、硫酸濃度とアルミニウムイオン濃度は、常温で晶出しない範囲から選択することが好ましい。好ましいアルミニウムイオン濃度は0.1〜50g/Lであり、特に好ましくは5〜15g/Lである。
【0089】
また、酸性エッチング処理が終了した後には、処理液を次工程に持ち出さないために、ニップローラによる液切りとスプレーによる水洗とを行うのが好ましい。
【0090】
(デスマット処理)
上記電気化学的粗面化処理の前および/または後に上記アルカリエッチング処理を行う場合は、アルカリエッチング処理により、一般にアルミニウム板の表面にスマットが生成するので、リン酸、硝酸、硫酸、クロム酸、塩酸、フッ酸、ホウフッ化水素酸、またはこれらの2種以上の混酸を含有する酸性溶液中で上記スマットを溶解する、いわゆるデスマット処理をアルカリエッチング処理の後に行うのが好ましい。なお、アルカリエッチング処理の後には、酸性エッチング処理およびデスマット処理のうち、いずれか一方を行えば十分である。
【0091】
酸性溶液の濃度は、1〜500g/Lであるのが好ましい。酸性溶液中にはアルミニウムはもちろん、アルミニウム板中に含有される合金成分が0.001〜50g/L溶解していてもよい。
酸性溶液の液温は、20℃〜95℃であるのが好ましく、30〜70℃であるのがより好ましい。また、処理時間は1〜120秒であるのが好ましく、2〜60秒であるのがより好ましい。
【0092】
また、デスマット処理液(酸性溶液)としては、上記電気化学的粗面化処理で用いた酸性水溶液の廃液を用いるのが、廃液量削減の上で好ましい。
デスマット処理が終了した後には、処理液を次工程に持ち出さないためにニップローラによる液切りとスプレーによる水洗とを行うのが好ましい。
【0093】
<研磨処理>
特に、平面の粗さを小さくしたい場合、“ふくれ”“圧延筋”等の比較的大きな凹凸を除去する方法としては、金属の表面処理方法として各種知られている方法のうち、少なくとも機械研磨処理を行なうことが必要である。機械的研磨処理を行なった後、補助的手段として、化学的研磨処理、電気化学的研磨処理を行うことが好ましい。研磨方法としては特開2007−30146号公報の方法を用いることができる。
【0094】
下記工程で、陽極酸化層の表面粗さを小さくする場合、上記機械的処理によって、算術平均粗さRaが0.1μm以下で、かつ表面光沢度が60%以上のアルミニウム基板を得ることができる。
【0095】
(算術平均粗さRa)
一般には金属表面の算術平均粗さRaは、圧延方向に垂直な方向を横方向として、横方向に複数箇所でそれぞれ圧延方向に基準長さ測定して平均する。本発明における表面粗さは、対象表面に垂直な断面に現れる輪郭を求める断面曲線法であり、Ra、1μm以上では触針式表面粗さ測定器を用い、Ra、1μm未満では原子間力顕微鏡(AFM)を用いて、原子間力を検出して、断面曲線を得る方法を用いることが好ましい。JIS−B601−1994では、粗さ曲線から複数個(例えば5)の基準長さLだけ連続して抜き取った評価長さについて粗さを評価する。基準長さはカットオフ値と同一長さとする。それぞれの基準長さの範囲内で、各種粗さパラメータを求め、それを基準長さ全数について平均し、測定値とする。本発明における平均表面粗さは、圧延方向と、圧延方向に垂直な方向での測定値の平均値である。
【0096】
(表面光沢度)
JIS Z 8741規格では、可視波長全域にわたって屈折率が1.567(入射角60度において鏡面反射率10%)のガラス表面を、光沢度100(%)と規定する。しかし屈折率1.567のガラス表面は湿気などによって侵されやすいため、屈折率1.500付近(光沢度90%)を実際の基準面とする(光沢度90%の標準板が90%となるように、絶対値を毎回補正する)。
【0097】
一般のモノの表面では、光沢度の大きなものは角度を小さく、光沢度の小さいものは角度を大きくとって測定するが、JISではこの角度を20度・45度・60度・75度・85度と規定している。しかし実際には、60度の光沢計が、測定範囲が広いために多く使用される。これは、光沢度が角度の大きさに比例的な値を示すためで、全部の角度を測定しなくても、一つの角度の測定で他の角度の光沢度を推定して測定することが可能である。JIS規格により、光沢度は、%もしくは数字のみでよいと規定されている。
【0098】
光沢度は正反射率とも呼ばれ圧延方向に平行な方向を縦方向、圧延方向に垂直な方向を横方向として、それぞれ別に複数個測定し、平均値を採る。本発明に用いられるアルミニウム基板の光沢度は、縦方向も横方向も共に60%以上、好ましくは80%以上である。
【0099】
本発明における算術平均粗さ、光沢度は、縦方向、横方向の平均値を、好ましくは面積50mm2以上、より好ましくは400mm2以上、さらに好ましくは900mm2以上で平均する。
【0100】
算術平均粗さRaを0.1μm以下で、かつ表面光沢度を60%以上としたアルミニウム基板表面は、ほぼ鏡面状態ということができ、目視可能な傷のない状態を示していると考えられる。
【0101】
(機械的研磨)
機械的研磨とは、水と研磨剤の混合物であるスラリーなどの研磨剤含有物を、布、紙、金属などのサポート材料に埋め込むか、または、被研磨体である基板と研磨体であるサポート材料の間に供給して、擦らせることで、研磨剤の鋭利な部分で、該基板を削る研磨手法である。広い面積の機械的処理が可能で、研削能力が高く、深い傷を除去することが可能である。一般に、基板が薄板の場合には、樹脂に包埋したり、金属ブロックに貼りつけて、研磨し易い形状に加工する必要がある。特に鏡面状態にする際にはバフ研磨と呼ばれ、研磨布と研磨剤に特徴がある。
【0102】
(1)精研磨
研磨体として、SiC、ダイヤモンド、アルミナ等の研磨材を耐水紙や布に塗布したものが好適に用いられる。粒子径は#80(粒子径:200μm)〜#4000(粒子径:4μm)程度まで使用する。SiC粉末を耐水紙に埋め込んだ研磨紙、ダイヤモンド粉末を金属に埋め込んだ精密研磨盤、研磨剤を水や化学薬品と混ぜてスラリー状またはペースト状にしたものと組み合わせて使うための起毛した布(通常バフと呼ばれる)等がある。
【0103】
研磨剤、研磨布は番手の小さいもの(粒子径の粗いもの)から、階段的に番手の大きいもの(粒子径の細かいもの)を使用することが好ましい。精研磨をせずに、粗い研磨剤でバフ研磨を行うこともできるが、粗い研磨剤が残留すると傷の原因となるので、研磨剤を耐水紙や布に塗布したものを用いる精研磨を行うのが好ましい。耐水紙や布は研磨剤毎に交換するのが好ましい。
具体例:丸本ストルアス(株)製琢磨布 品名:DP-Net 粒径:6μm〜45μm各種
丸本ストルアス(株)製琢磨布 品名:DP-Nap 粒径:0.25μm〜1μm各種
丸本ストルアス(株)製 品名:耐水研磨紙 #80〜#1500各種
【0104】
(2)バフ研磨
バフ研磨とは綿布、サイザル麻布、ウール繊維などの材料を基材としたバフを用い、その外周面に研磨材を接着剤(ニカワなど)で固定するか、または回転バフ表面に研磨剤が一時的に保持される状態で、バフを高速回転させる。その回転面に品物の表面を押しつけ、機械的に素地の表面をけずりとって均一な表面に加工する方法である。
【0105】
a)研磨機
バフ研磨機は、その軸端にバフを装着し、バフ外周面に研磨剤を保持させ、それを高速で回転させて加工を行う研磨機械である。研磨盤は各種市販品を使用可能であるが、下記のようなものが知られている。
丸本ストルアス(株)製 商品名:ラボポール-5、ロトポール-35、MAPS
手動研磨も可能であるが、冶具を適宜使用して自動研磨することも可能である。
【0106】
b)バフ
バフの種類は布バフでは、縫いバフ、とじバフ、ばらバフ、バイアスバフ、サイザルバフなどがある。その他のバフとしては、フラップホイール、不織布ホイール、ワイヤーホイールなどがある。これらのバフは、その用途に応じて使用される。綿繊維を起毛したものが好ましい。
具体例:丸本ストルアス(株)製 品名:琢磨布 No101(羊毛)、No102(綿)、No103(合成繊維)、No773(綿/合成繊維 混毛)等
【0107】
c)研磨材
バフ研磨材とは、比較的微粉の研磨材を主成分とし、これと油脂やその他適当な成分からなる媒体とを均一に混合した研磨材料のことである。
具体例:丸本ストルアス(株)製 品名:耐水研磨紙 #80〜#1500各種
【0108】
c−1)油脂性研磨材
油脂性研磨材とは微細な研磨粒を油脂で練り固めたもので、バフ研磨の行程は中磨きや仕上げ研磨に主として使われる。使用される油脂は一般的にステアリン酸、パラフィン、牛脂、松ヤニなどである。油脂性研磨材をバフに押しつけると摩擦熱によって油脂が溶けて、油脂と共に研磨粒がバフの表面に移動する。この時、品物をバフに押しつけると油脂は素地金属の表面で油膜となり、研磨粒が金属面にむやみに食い込むのを防ぎ、金属の表面を平滑にするのに役立つ。油脂性研磨材の種類はエメリーペースト、トリポリ、グロース、ライム、青棒、赤棒、白樺、グリース棒などがある。中でもトリポリ(主成分:SiO2、モース硬度:7)やマチレス(主成分:CaO、モース硬度:2)、青棒(主成分:Cr2O3、モース硬度:6)、白棒(主成分:Al2O3、モース硬度:9)が好ましい。
【0109】
c−2)液体研磨材
液体研唐材とは、自動バフ研磨機に使用される目的で作られたもので、研磨機に自動的に供給する為に液状にしたものである。研磨材をスプレーガンを使用して吹き付け、スプレーガンのノズルの開閉をタイマーと連動させることによって間欠的に噴出させる方法がある。SiC、ダイヤモンド、アルミナ粉末等が知られている。これら研磨剤の大きさは一般に、篩で分離できる程度の粗いものは粒度であらわされて、番手の大きいもの程、平均粒径が小さい。
【0110】
【表1】

【0111】
通常は粗いものから順次細かい研磨剤を使って研磨することで、#1000程度から鏡面光沢が現れ#1500程度以上で研磨することで、目視上は鏡面状態となる。
研磨材の種類としては平均粒子径0.1μm〜100μm程度まで各種市販されている。具体例としては下記のようなものがある。
丸本ストルアス(株)製ダイヤモンド縣濁液 品名:DP-Spray 粒径:0.25μm〜45μm各種
メラー社製 品名:アルミナ縣濁液 No.100(粒径:1μm)〜No.2000(粒径:0.06μm)各種
【0112】
c−3)研磨補助剤
布バフにエメリーを接着させる物として、にかわ、セメントなどがある。にかわは熱湯に溶けて粘度の高い液状になる。セメントは珪酸ナトリウムに合成樹脂を配合したもので、にかわと同様にエメリーをバフに接着させる。
【0113】
機械研摩によって大きく深い凹凸(数mm〜数百μm)を除去する方法の具体例は下記の種類である。周速の好ましい範囲は1800〜2400m/minである。
【0114】
【表2】

【0115】
中でも研摩布紙およびバフが入手性、汎用性の点から好ましい。
全てバフで行う場合、粗研摩(粒度#400以下)にはサイザル麻布,綾織綿布を用い、中研摩(粒度#400〜1000)は平織り綿布,レーヨンを用い、仕上げ研摩(粒度#1000以上)ではキャラコ,ブロード,ネル,フェルト,牛皮等を用いることが好ましい。また、粒度を変える場合には、布を新品に交換し、研摩面を綺麗に清浄することが好ましい。
詳細には、「実務のための新しい研摩技術」,オーム社発行,平成4年第1版,p55〜93に記載されている。
【0116】
さらに、上記機械研摩に代わって、電解砥粒研摩を用いることができる。
(電解砥粒研磨)
電解砥粒研磨とは、5〜20kPa(50〜200g/cm2)程度の押付圧で砥粒研磨しながら、好ましくは電流密度0.05〜1A/cm2、より好ましくは0.1A/cm2オーダーの直流電流を付加する加工法である。通常、この程度の電流密度の電解では、加工表面に厚い不導態皮膜が形成されて金属の溶出は殆ど起こらず、加工は進まないが、砥粒擦過によりその皮膜が除去されると、その部分では金属の溶出が盛んに起こり、電流効率は数十〜100%レベルまで急上昇する。このようにして、ミクロ凸部を選択的に砥粒が擦過すると電解溶出量が急増大する一方、凹部の加工量がゼロに近いため、表面粗さは急速に改善される。
【0117】
使用する研摩剤は通常の研磨剤に加え、コロイダルシリカやコロイダルアルミナが好適に使用可能である。具体的には、扶桑化学工業株式会社製 高純度コロイダルシリカPLシリーズが使用可能である。例えば、PL−1(一次粒子径15nm、二次粒子径40nm)PL‐3(一次粒子径35nm、二次粒子径70nm)PL‐7(一次粒子径70nm、二次粒子径120nm)PL‐20(一次粒子径220nm、二次粒子径370nm)等が挙げられる(いずれも商品名)。その他(株)フジミインコーポレーテッド製PLANERLITEシリーズ(商品名)も好適に用いることができる。
【0118】
(1)オスカー式研磨機
鏡面度に加えて平面度の確保が必要の場合はオスカー式研磨機を用いることが好ましい。オスカー式研磨器とは光学部品などの研磨に以前から使用されているもので、工具定盤の回転に伴い工作物も連れ回りする構造になっている。そのため位置による加工量の差が生じにくく、形状精度が得られやすい。一方、電解砥粒研魔法は表面粗さを効率よく改善できる特徴があり、これらを組み合わせることにより、高精度・高品位な鏡面仕上げを実現できる。
【0119】
電解砥粒研摩の詳細は、特許第3044377号公報、特許第3082040号公報に記載の方法を用いることができる。
詳細には、文献「実務のための新しい研摩技術」,オーム社発行,平成4年第1版,p55〜93に記載の方法を用いることができる。
【0120】
(化学的研磨、電気化学的研磨)
本発明に用いられるアルミニウム基板の製造では、上記、機械的研磨処理を行なった後、補助的手段として、化学的研磨処理、電気化学的研磨処理を行うことが好ましい。本発明において、補助的手段とは、機械研磨時のRa変化率の50%以下の変化率で研磨することを言う。
【0121】
(1)化学的研磨処理
化学的研磨処理とは、アルカリ性水溶液または酸性水溶液中にアルミニウムを浸漬することで表面を溶解する方法である。アルカリ水溶液としては主に炭酸ソーダ、珪酸ソーダ、燐酸ソーダの単独または混合水溶液を用いることが好ましい。酸水溶液として硫酸、硝酸、燐酸、酪酸の単独または混合水溶液が用いられる。
機械的研磨処理を行った後、補助的手段として化学研摩法も好適に用いられる。具体例としては、下記表のとおりである。
【0122】
【表3】

【0123】
このように組成を適宜調整することで、アルミニウム素地を緩やかに溶解させ、平均表面粗さ(Ra)を低下させることが可能である。さらに酸水溶液として下記具体例が好ましい。
【0124】
【表4】

【0125】
その他、文献「アルミニウムの表面処理」,内田老鶴圃発行,昭和55年,通算8版p36,第3表に記載されているような組成で、硫酸,硝酸,燐酸,酪酸を混合した水溶液も好ましい。さらに、濃燐酸と発煙硝酸の混合液に硝酸銅を添加した、文献:Met.Ind.,78(1951),89記載のAlupol法も好ましい例である。
また、「アルミニウム技術便覧」(軽金属協会編 カロス出版 1996年)表5.2.15に記載されている各種方法を使用可能である。中でも燐酸-硝酸法が好ましい。
【0126】
(2)電気化学的研磨処理
電気化学的研磨処理とは、電解液中で主に直流の電気を流すことで、アルミニウム板の表面の凹凸を溶解除去する方法である。電解液の種類は過酸化水素水,氷酪酸,燐酸,硫酸,硝酸,クロム酸,重クロム酸ソーダ等の単独または混合酸性水溶液が好ましい。その他、添加剤としてエチレングリコールモノエチルエーテル,エチレングリコールモノブチルエステルやグリセリンを使用することができる。これら添加剤は電解液を安定化させ、濃度変化、経時変化、使用による劣化に対して適正電解範囲を広げる効果がある。
【0127】
(3)電解研摩法
さらに、機械的研磨処理を行った後、補助的手段として電解研摩法も好適に用いられる。好ましい電解条件の具体例は下表のとおりである。
【0128】
【表5】

【0129】
その他、文献:「アルミニウムの表面処理」,内田老鶴圃発行,昭和55年,通算8版p47,第6表に記載されているような研摩条件も好ましい。「アルミニウム技術便覧」(軽金属協会編 カロス出版 1996年)表5.2.17に記載されている各種方法を使用可能である。
使用液の入手性、安全性の観点からBattelle法(英国特許第526854号明細書(1940年)又は英国特許第552638号明細書(1943年)を参照。)または、燐酸浴法(特許第128891号公報(1935年出願、特公昭13-004757号公報)を参照。)が好ましい。
【0130】
(仕上げ研磨)
本発明に用いられるアルミニウム基板の製造では、機械的研摩を施した後、化学研摩および/または電解研摩を補助的に用いて研摩を行った後、さらにCMP(Chemical Mechanical Polishing)法またはバリア皮膜除去法を補助的に用いて研摩することが好ましい。
【0131】
(1)CMP法
CMP法とは、主に半導体プロセスで使用されるもので、機械研摩と化学研摩を組み合わせた方法で、十分に研摩し、平坦な鏡面とした後は、アルミニウム基板に対しても使用可能である。アルミニウム等の金属に対しては、アルミナまたはシリカ系スラリーが一般に使用される。コロイダルアルミナやコロイダルシリカを用いることができる。具体例としては、扶桑化学工業株式会社製 高純度コロイダルシリカPLシリーズ,(株)フジミインコーポレーテッド製PLANERLITEシリーズが挙げられる(いずれも商品名)。さらに添加剤としてH2O2、Fe(NO3)2、KIO3が適量添加される。これらの添加剤は金属表面を酸化させることで、引っかき傷や研磨剤の埋め込みを防止する為に表面を酸化しながら研摩する必要があるので、通常はpH2〜4程度に調整した酸性スラリーが好ましい。また、研摩剤の好ましい範囲は、一時粒子径5nm〜2μmであり、スラリー濃度は2〜10vol%である。使用するCMP用パッドとしては、引っかき傷を防止する為、軟質のものが好ましい。例えばロデール・ニッタ社製 CMP用パッドXHGM−1158,XHGM−1167等が挙げられる(いずれも商品名)。
文献:「はじめての半導体製造装置」,(1999年3月),前田和夫著,工業調査会発行,171頁,図5.44,CMP法の基本原理・装置構成、172頁,図5.45,CMP装置の構成に記載の方法を用いることができる。
CMP法は高精度の研摩を行うことが可能であるが、設備が高額である上に、研磨剤や添加剤の選定、研摩条件の設定が複雑であることから、バリア皮膜除去法を仕上げ研摩に用いてもよい。
【0132】
(2)バリア皮膜除去法
化学的研磨処理や電解研磨処理を行なった後、バリア皮膜除去法でさらに平滑化することが好ましい。マイクロポアの無いバリア型陽極酸化皮膜を形成後、除去する。
バリア皮膜を形成させるには、一般にpH4〜8程度の中性近傍の電解液中で電解することで、マイクロポアの無い均質な酸化皮膜を形成可能である。具体的には下記のような電解条件が知られている。ホウ酸塩,アジピン酸塩,燐酸塩,クエン酸塩,酒石酸塩,蓚酸塩などの中性塩水溶液、又はそれらの混合物が好ましい。具体的には、ホウ酸−ホウ酸ナトリウム混合水溶液、酒石酸アンモニウム、クエン酸、マレイン酸、グリコール酸等が挙げられる。
【0133】
具体的には下記表に記載されているような電解条件が好ましい。このような電解液で陽極酸化するとマイクロポアのない酸化皮膜が生成することが知られている。好ましい電圧の範囲は10V〜800Vであり、30V〜500Vがより好ましい。好ましいpHの範囲はpH4〜8であり、pH5〜7がより好ましい。
電解時間の好ましい範囲は定電流電解で電圧が飽和する前に中止するか、定電圧電解で電流がほとんど流れなくなる前に中止することが好ましい。電解時間の好ましい範囲は1分〜30分であり、1分〜12分がより好ましい。
【0134】
【表6】

【0135】
【表7】

【0136】
バリア皮膜の除去には一般に燐酸,クロム酸,硝酸,硫酸などの酸性水溶液の混合液が使用される。化学研摩水溶液やクロムリン酸水溶液が好適に用いることができる。
一般にバリア皮膜は凸部の皮膜厚みは厚くなり、凹部の皮膜厚みは薄くなる為、アルミニウムと陽極酸化皮膜界面は結果的に平滑化することが知られている。バリア皮膜を除去することで平滑面を得ることができる。詳細には、文献「新アルマイト理論」(カロス出版,1997年,p16)に記載の方法を用いることができる。
【0137】
これらの条件でバリア皮膜を形成後、クロム燐酸水溶液または化学研摩を行って、バリア皮膜を溶解除去することで鏡面性をさらに向上することが可能となる。
【0138】
(クロム燐酸水溶液によるバリア皮膜の除去方法)
リン酸とクロム酸からなる水溶液を用いることが好ましい。具体的には下記処方範囲でリン酸、無水クロム酸、水を混合使用することが好ましい。
【0139】
【表8】

【0140】
また、文献:(社)表面技術協会発行「第108回講演大会講演要旨集」18−B2(p76〜77)に記載の方法を用いることもできる。
【0141】
これら研摩後に得られる圧延方向に平行な方向と垂直な方向における表面平均粗さは下表のとおりである(一般に中心線平均粗さRaとして表される)。
【0142】
【表9】

【0143】
<陽極酸化処理>
本発明の太陽電池用基板の製造では、上記いずれかに記載の鏡面仕上げを施したアルミニウム板に陽極酸化処理が施される。陽極酸化処理により複数の細孔(マイクロポア)を有する絶縁性酸化膜がアルミニウム基板上に形成される。
【0144】
(窪みの形成)
アルミニウム表面を有する部材の表面に陽極酸化処理を施す方法としては、マイクロポアを形成させる陽極酸化処理(以下「本陽極酸化処理」ともいう。)の前に、本陽極酸化処理のマイクロポアの生成の起点となる窪みを形成させておく方法が好ましい。このような窪みを形成させることにより、後述するマイクロポアの配列およびポア径のばらつきを所望の範囲に制御することが容易となる。
【0145】
窪みを形成させる方法は、特に限定されず、例えば、陽極酸化皮膜の自己規則性を利用した自己規則化法、物理的方法、粒子線法、ブロックコポリマー法、レジスト干渉露光法が挙げられる。
【0146】
(1)自己規則化法
自己規則化法は、陽極酸化皮膜のマイクロポアが規則的に配列する性質を利用し、規則的な配列をかく乱する要因を取り除くことで、規則性を向上させる方法である。具体的には、高純度のアルミニウムを使用し、電解液の種類に応じた電圧で、長時間(例えば、数時間から十数時間)かけて、低速で陽極酸化皮膜を形成させ、その後、脱膜処理を行う。
この方法においては、ポア径は電圧に依存するので、電圧を制御することにより、ある程度所望のポア径を得ることができる。
【0147】
自己規則化法の代表例としては、J.Electrochem.Soc.Vol.144,No.5,May 1997,p.L128(非特許文献A)、Jpn.J.Appl.Phys.Vol.35(1996)Pt.2,No.1B,L126(非特許文献B)、Appl.Phys.Lett,Vol.71,No.19,10 Nov 1997,p.2771(非特許文献C)が知られている。
これらの公知文献に記載されている方法は、高純度の材料を用い、電解液に応じた特定の電圧で、比較的低温で長時間処理を施しているところに技術的特徴がある。具体的には、いずれもアルミニウム純度99.99質量%以上の材料を用いており、以下に示される条件で、自己規則化法を行っている。
【0148】
0.3mol/L硫酸、0℃、27V、450分(非特許文献A)
0.3mol/L硫酸、10℃、25V、750分(非特許文献A)
0.3mol/Lシュウ酸、17℃、40〜60V、600分(非特許文献B)
0.04mol/Lシュウ酸、3℃、80V、膜厚3μm(非特許文献C)
0.3mol/Lリン酸、0℃、195V、960分(非特許文献C)
【0149】
また、これらの公知文献に記載されている方法では、陽極酸化皮膜を溶解させて除去する脱膜処理に、50℃程度のクロム酸とリン酸の混合水溶液を用いて、12時間以上をかけている。なお、沸騰した水溶液を用いて処理すると、規則化の起点が破壊され、乱れるので、沸騰させないで用いる。
【0150】
自己規則化陽極酸化皮膜は、アルミニウム部分に近くなるほど規則性が高くなってくるので、一度脱膜して、アルミニウム部分に残存した陽極酸化皮膜の底部分を表面に出して、規則的な窪みを得る。したがって、脱膜処理においては、アルミニウムは溶解させず、酸化アルミニウムである陽極酸化皮膜のみを溶解させる。
その結果、これらの公知文献に記載されている方法では、マイクロポアのポア径は種々異なるが、ポア径のばらつき(変動係数)は3%以下となっている。
【0151】
本発明に用いられるアルミニウム基板の製造に適用されうる自己規則化陽極酸化処理は、例えば、酸濃度1〜10質量%の溶液中で、アルミニウム部材を陽極として通電する方法を用いることができる。陽極酸化処理に用いられる溶液としては、硫酸、リン酸、クロム酸、シュウ酸、スルファミン酸、ベンゼンスルホン酸、アミドスルホン酸等を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0152】
自己規則化陽極酸化処理の条件は、使用される電解液によって種々変化するので一概に決定され得ないが、一般的には電解液濃度1〜10質量%、液温0〜20℃、電流密度0.1〜10A/dm2、電圧10〜200V、電解時間2〜20時間であるのが適当である。自己規則化陽極酸化皮膜の膜厚は、10〜50μmであるのが好ましい。
【0153】
本発明においては、自己規則化陽極酸化処理は、1〜16時間であるのが好ましく、2〜12時間であるのがより好ましく、2〜7時間であるのが更に好ましい。
また、脱膜処理は、0.5〜10時間であるのが好ましく、2〜10時間であるのがより好ましく、4〜10時間であるのが更に好ましい。
このように、自己規則化陽極酸化処理および脱膜処理を、公知の方法と比べて短時間で行うと、マイクロポアの配列の規則性が多少低下するとともに、ポア径のばらつきが比較的大きくなり、変動係数が5〜50%の範囲となる。
【0154】
このように、自己規則化法により、陽極酸化皮膜を形成させた後、これを溶解させて除去し、再度、同一の条件で後述する本陽極酸化処理を行うと、ほぼ真っ直ぐなマイクロポアが、膜面に対してほぼ垂直に形成される。
【0155】
(2)物理的方法
物理的方法としては、例えば、プレスパターニングを用いる方法が挙げられる。具体的には、複数の突起を表面に有する基板をアルミニウム表面に押し付けて窪みを形成させる方法が挙げられる。例えば、特開平10−121292号公報に記載されている方法を用いることができる。
また、アルミニウム表面にポリスチレン球を稠密状態で配列させ、その上からSiO2を蒸着した後、ポリスチレン球を除去し、蒸着されたSiO2をマスクとして基板をエッチングして窪みを形成させる方法も挙げられる。
【0156】
(3)粒子線法
粒子線法は、アルミニウム表面に粒子線を照射して窪みを形成させる方法である。粒子線法は、窪みの位置を自由に制御することができるという利点を有する。
粒子線としては、例えば、荷電粒子ビーム、集束イオンビーム(FIB:Focused Ion Beam)、電子ビームが挙げられる。
【0157】
粒子線法を用いる場合、窪みの位置の決定に乱数を用いて、窪みの位置の規則性を乱すことができる。これにより、後の本陽極酸化処理により形成されるマイクロポアの配列の規則性が乱され、所望のポア径のばらつきを容易に実現することができる。
窪みの位置は、下記式により所望の位置に設定することができる。
【0158】
(所望の位置の座標)=(完全規則化位置の座標)±(完全規則化位置の座標)×(ばらつき係数)×(乱数)
【0159】
封孔処理を電着法により行う場合、ばらつき係数は、0.05〜0.5であるのが好ましく、0.07〜0.3であるのがより好ましく、0.1〜0.2であるのが好ましい。
封孔処理を金属コロイド粒子を用いる方法により行う場合、ばらつき係数は、用いられる金属コロイド粒子の粒径分布に応じて、決定される。
【0160】
粒子線法としては、例えば、特開2001−105400号公報に記載されている方法を用いることもできる。
【0161】
(4)ブロックコポリマー法
ブロックコポリマー法は、アルミニウム表面にブロックコポリマー層を形成させ、熱アニールによりブロックコポリマー層に海島構造を形成させた後、島部分を除去して窪みを形成させる方法である。
ブロックコポリマー法としては、例えば、特開2003−129288号公報に記載されている方法を用いることができる。
【0162】
(5)レジスト干渉露光法
レジスト干渉露光法は、アルミニウム表面にレジストを設け、レジストに露光および現像を施して、レジストにアルミニウム表面まで貫通した窪みを形成させる方法である。
レジスト干渉露光法としては、例えば、特開2000−315785号公報に記載されている方法を用いることができる。
【0163】
上述した種々の窪みを形成させる方法の中でも、10cm角程度以上の大面積にわたって均一に形成することができる点で、自己規則化法、FIB法、レジスト干渉露光法が望ましい。
更には、製造コストを考慮すると、自己規則化法が最も好ましい。また、マイクロポアの配列を自由に制御することができる点では、FIB法も好ましい。
【0164】
形成される窪みは、深さが約10nm以上であるのが好ましい。また、幅は、所望とするポア径の幅以下であるのが好ましい。
【0165】
(陽極酸化処理)
以上のようにして必要に応じて各処理を施されたアルミニウム板に、陽極酸化処理を施して、陽極酸化皮膜を形成させる。
陽極酸化処理はこの分野で従来行われている方法で行うことができる。具体的には、硫酸、リン酸、クロム酸、シュウ酸、スルファミン酸、ベンゼンスルホン酸等の単独のまたは2種以上を組み合わせた水溶液または非水溶液の中で、アルミニウム板に直流または交流を流すと、アルミニウム板の表面に、陽極酸化皮膜を形成することができる。
【0166】
陽極酸化処理の条件は、使用される電解液によって種々変化するので一概に決定され得ないが、一般的には電解質の濃度が0.1〜1物質量%溶液、液温5〜70℃、直流電流、電流密度1〜50Adm-2、電圧1〜200V、電解時間0.3分〜500分の範囲にあれば適当である。中でも、硫酸、燐酸もしくはシュウ酸またはこれらを混合した溶液を電解質として陽極酸化する方法が好ましく、硫酸、燐酸またはシュウ酸の濃度が0.1〜1物質量%、温度10〜50℃の電解液中において、直流電流で、電流密度10〜45Adm-2、10〜150Vの電圧において陽極酸化する方法がさらに好ましい。また、電流密度が25Adm-2を超える電流密度で陽極酸化を行う際は、目標電流密度よりも20〜40%低い電流密度から陽極酸化を行い、全陽極酸化時間の半分の時間において、一定の速度で電圧を上げ、目標電流密度になるように陽極酸化処理を行ってもよい。これにより、始めから大電流密度を掛けることにより生じる陽極酸化皮膜の絶縁破壊を抑制することができる。
【0167】
これらの陽極酸化処理の中でも、英国特許第1,412,768号明細書に記載されている、硫酸電解液中で高電流密度で陽極酸化処理する方法、および、米国特許第3,511,661号明細書に記載されている、リン酸を電解浴として陽極酸化処理する方法が好ましい。また、硫酸中で陽極酸化処理し、更にリン酸中で陽極酸化処理するなどの多段陽極酸化処理を施すこともできる。
【0168】
本発明においては、陽極酸化皮膜は、傷付きにくさおよび耐久性の点で、0.5g/m2(0.13μm(アルミナ比重4))以上であるのが好ましく、1.0g/m2(0.25μm(アルミナ比重4))以上であるのがより好ましく、2.0g/m2(0.5μm(アルミナ比重4))以上であるのが特に好ましく、また、厚い皮膜を設けるためには多大なエネルギーを必要とすることを鑑みると、100g/m2(25μm(アルミナ比重4))以下であるのが好ましく、10g/m2(2.5μm(アルミナ比重4))以下であるのがより好ましく、6g/m2(1.5μm(アルミナ比重4))以下であるのが特に好ましい。
【0169】
陽極酸化皮膜には、その表面にマイクロポアと呼ばれる微細な凹部が一様に分布して形成されている。陽極酸化皮膜に存在するマイクロポアの密度は、処理条件を適宜選択することによって調整することができる。
【0170】
上記の方法で作成された陽極酸化膜は、陽極酸化皮膜に発生する細孔の直径が10nm〜500nmであり、平滑性および絶縁性維持の観点から細孔の直径は200nm以下であることが好ましく、さらには100nm以下であることがさらに好ましい。
【0171】
陽極酸化皮膜中に発生する細孔の密度は100〜10000個/μm2であり、絶縁性維持の観点から細孔の密度は5000個/μm2以下であることが好ましく、さらには1000個/μm2以下であることがさらに好ましい。
【0172】
陽極酸化を行うときには電解液が収容された電界層の中にアルミニウム基板を配置し、アルミニウム基板と電極間に電圧を印加し通電することで陽極酸化を行う。このとき、電極がアルミニウム基板の片側にあるときは片側の陽極酸化膜が厚くなるので片側ずつ2度陽極酸化を行うことで、両側の陽極酸化を行うことができる。例えば、特開2001-140100、特開2000-17499記載の装置を用いることができる。電極をアルミニウム基板の両側に配置すると両側を同時に陽極酸化でき、両側に印加する電圧あるいは、それぞれの電極とアルミニウム基板との距離によって通電する電流を制御したり、あるいは、アルミニウム基板の表裏側のそれぞれの電解液の濃度・温度・成分等を調整することで両側の陽極酸化層の厚さや質を調整することができる。
【0173】
特に、陽極酸化表面の粗さを小さくしたい場合、また、マイクロポアの制御をしたい場合、従来公知の陽極酸化方法を用いることができるが、上述した自己規則化法と同一の条件で行われるのが好ましい。電解電圧の好ましい範囲は10V〜240V、さらに好ましくは10V〜60Vである。
【0174】
また、直流電圧を一定としつつ、断続的に電流のオンおよびオフを繰り返す方法、直流電圧を断続的に変化させつつ、電流のオンおよびオフを繰り返す方法も好適に用いることができる。これらの方法によれば、陽極酸化皮膜に微細なマイクロポアが生成するため、特に電着処理により封孔処理する際に、均一性が向上する点で、好ましい。
【0175】
上述した電圧を断続的に変化させる方法においては、電圧を順次低くしていくのが好ましい。これにより、陽極酸化皮膜の抵抗を下げることが可能になり、後に電着処理を行う場合に、均一化することができる。絶縁性の高い高抵抗膜にしたい場合は逆に電圧を順次高くしていくのが好ましい。
【0176】
最適条件がほぼ決まった後は定電圧電解とすることもでき、0.3Mの硫酸電解液の場合には、25V±1V未満の定低電圧電解、0.5Mのシュウ酸電解液の場合には、40V±1V未満の定電圧電解とすることが好ましい。この電圧を概ね1V以上越えると、部分的に電流が集中する場所が発生し(通称:焼け)、均一な電解が出来なくなる。また、電解電圧が概ね1V以上低い場合には、部分的に不規則な場所が発生する。従って好ましい電圧範囲は先に記載した範囲である。
【0177】
本陽極酸化皮膜を低温で行うと、マイクロポアの配列が規則的になり、また、ポア径が均一になる。
本発明においては、本陽極酸化処理を比較的高温で行うことにより、マイクロポアの配列を乱し、また、ポア径のばらつきを所定の範囲にすることが容易となる。また、処理時間によっても、ポア径のばらつきを制御することができる。
【0178】
マイクロポアの占める面積率は、20〜50%であるのが好ましい。マイクロポアの占める面積率は、アルミニウム表面の面積に対するマイクロポアの開口部の面積の合計の割合である。マイクロポアの占める面積率の算出においては、マイクロポアには、金属により封孔されているものもいないものも含まれる。具体的には、封孔処理前に表面空隙率を測定して求められる。
【0179】
本発明の太陽電池を製造する方法の具体例は、上記に記載の鏡面仕上げを施したアルミニウム板に以下の条件で本陽極酸化する条件が例示できる。
1)温度範囲12℃〜17℃、濃度範囲0.1mol/L〜0.2mol/Lである硫酸水溶液を電解液として、電圧23V〜26Vの範囲の電圧で、処理時間0.5〜12時間の範囲で陽極酸化処理を施す。平均ポア径28〜36nm、平均ポア周期40〜80nmのマイクロポアが形成される。
2)温度範囲12℃〜17℃、濃度範囲0.4mol/L〜0.6mol/Lである蓚酸水溶液を電解液として、電圧38V〜42Vの範囲の電圧で、処理時間0.5〜7時間の範囲で陽極酸化処理を施す。平均ポア径20nm〜45nm、平均ポア周期80nm〜120nmのマイクロポアが形成される。
3)温度範囲0℃〜25℃、濃度範囲0.01mol/L〜2mol/Lである酸性水溶液を電解液として電圧23V〜400Vの範囲の電圧で、処理時間0.5〜12時間の範囲で陽極酸化処理を施す。
【0180】
<マイクロポアの評価>
マイクロポアの平均ポア径、平均ポア周期を、SEM表面写真を画像解析することにより測定する。
【0181】
平均ポア径、平均ポア周期の測定方法
ポア径に応じてFE-SEM(Field Emission Type Scanning Electron Microscope)にて1〜15万倍に調整して撮影したSEM写真(傾斜0度)より、隣接したポアの中心間隔を30箇所測定し、その平均値を平均ポア周期とする。
適切な倍率の範囲は、1視野にポアが60個〜250個であり、80個〜200個であることがさらに好ましい。
ポア径はポアの輪郭を透明なOHPシートに概ね100個、写し取った後、市販画像解析ソフト(商品名:Image Factory Asahi-Hi-Tech co.Ltd製)にて等価円直径に近似して、得られた値を平均ポア径とした。画像解析ソフトは同様の機能を有するものであれば、代替使用することができる。しかし、2値化を行う際の閾値設定の任意性を極力排除する為、OHPシート等の透明シートに写した形状を画像解析対象とすることが好ましい。
【0182】
<光電変換層の形成>
本発明の太陽電池は、上記の太陽電池用基板上に光電変換層を形成することで作製することができる。本発明において、光電変換層に用いられる半導体はカルコパイライト型材料であり、その禁制帯幅は1.3〜1.5eVである。
まず、上記のアルミニウム板の両面を処理して太陽電池用基板を作製した後、当該太陽電池用基板を乾燥させる。乾燥することによって、光電変換層を成膜するときに水が混入するのを防ぐ。水の混入により光電変換層の寿命が短くなるのを防ぐ。
乾燥した太陽電池用基板上に、好ましくはIb族元素とIIIb族元素とVIb族元素とからなる半導体(I−III−VI族半導体)の層である光電変換層を形成することで、太陽電池セルを得る。さらに、特開2007−123725号公報に記載のように、エチレンビニルアセテート等の接着剤を使って強化ガラスに貼り付け、太陽電池モジュールとする。光電変換層は、銅(Cu)、銀(Ag)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、イオウ(S)、セレン(Se)及びテルル(Te)からなる群から選択される少なくとも1つの元素を含有してなる半導体層であることが好ましい。また、光電変換層としては、セレン化法、セレン化流化法、3段開法などを用いたCIGS系半導体が好ましいが、Si等のIVb族元素からなる半導体(IV族半導体)、GaAs等のIIIb族元素とVb族元素とからなる半導体(III−V族半導体)、CdTe等のIIb族元素とVIb族元素とからなる半導体(II−VI族半導体)やそれらを組み合わせたものでもよい。なお、本明細書における元素の族の記載は、短周期型周期表に基づくものである。
Siからなる半導体の場合、アモルファスシリコン、微結晶シリコン薄膜層、また、これらにGeを含んだ薄膜、さらに、これらの2層以上のタンデム構造が光電変換層として用いられる。成膜はプラズマCVD等を用いる。
【0183】
以下に、一例としてCIGS系の光電変換層を示す。
Ib族元素とIIIb族元素とVIb族元素とからなる、カルコパイライト構造の半導体薄膜であるCuInSe2(CIS系薄膜)、あるいは、これにGaを固溶したCu(In,Ga)Se2(CIGS系薄膜)を光吸収層に用いた薄膜太陽電池は、高いエネルギー変換効率を示し、光照射等による効率の劣化が少ないという利点を有している。図4(a)乃至(d)は、CIGS系薄膜太陽電池のセルの一般的な製造方法を説明するためのデバイスの断面図である。
図4(a)に示すように、まず、陽極酸化アルミニウム基板100上にプラス側の下部電極となるMo(モリブデン)電極層200が形成される。次に、図4(b)に示すように、Mo電極層200上に、組成制御により、p-型を示す、CIGS系薄膜からなる光吸収層300が形成される。次に、図4(c)に示すように、その光吸収層300上に、CdSなどのバッファ層400を形成し、そのバッファ層400上に、不純物がドーピングされてn+型を示す、マイナス側の上部電極となるZnO(酸化亜鉛)からなる透光性電極層500を形成する。次に、図4(d)に示すように、メカニカルスクライブ装置によって、ZnOからなる透光性電極層500からMo電極層200までを、一括してスクライブ加工する。これによって、薄膜太陽電池の各セルが電気的に分離(すなわち、各セルが個別化)される。本実施態様の製造装置で好適に成膜することのできる物質を以下に示す。
【0184】
(1)常温で液相または加熱により液相となる元素、化合物または合金を含む物質
【0185】
(2)カルコゲン化合物(S、Se、Teを含む化合物)
II−VI化合物:ZnS、ZnSe、ZnTe、CdS、CdSe、CdTeなど
I−III−VI2族化合物:CuInSe2、CuGaSe2、Cu(In,Ga)Se2、Cu(In,Al)Se2、Cu(In,B)Se2、Cu(In,Ga,Al)Se2、Cu(In,Ga,B)Se2、Cu(In,Al,B)Se2、Cu(In,Ga,Al,B)Se2、CuInS2、CuGaSe2、Cu(In,Ga)(S,Se)2、Cu(In,Al)(S,Se)2、Cu(In,B)(S,Se)2、Cu(In,Ga,Al)(S,Se)2、Cu(In,Ga,B)(S,Se)2、Cu(In,Al,B)(S,Se)2、Cu(In,Ga,Al,B)(S,Se)2など
I−III3−VI5族化合物:CuIn3Se5、CuGa3Se5、Cu(In,Ga)3Se5など
【0186】
(3)カルコパイライト型構造の化合物および欠陥スタナイト型構造の化合物
I−III−VI2族化合物:CuInSe2、CuGaSe2、Cu(In,Ga)Se2、Cu(In,Al)Se2、Cu(In,B)Se2、Cu(In,Ga,Al)Se2、Cu(In,Ga,B)Se2、Cu(In,Al,B)Se2、Cu(In,Ga,Al,B)Se2、CuInS2、CuGaSe2、Cu(In,Ga)(S,Se)2、Cu(In,Al)(S,Se)2、Cu(In,B)(S,Se)2、Cu(In,Ga,Al)(S,Se)2、Cu(In,Ga,B)(S,Se)2、Cu(In,Al,B)(S,Se)2、Cu(In,Ga,Al,B)(S,Se)2など
I−III3−VI5族化合物:CuIn3Se5、CuGa3Se5、Cu(In,Ga)3Se5など
【0187】
ただし、上の記載において、(A1,A2,A3,A4)は、それぞれ、(A11-X1-X2-X3-X4,A2X2,A3X3,A4X4)、(ただし、X1〜X4=0〜1)を示す。
【0188】
以下に、代表的なCIGS層の形成方法を示すが、これに限定されるものではない。
1)多源同時蒸着法
多源同時蒸着法の代表的な方法としては、米国のNREL(National Renewable Energy Laboratory)が開発した3段階法とECグループの同時蒸着法がある。3段階法は、例えば、J.R.Tuttle,J.S.Ward,A.Duda,T.A.Berens,M.A.Contreras,K.R.Ramanathan,A.L.Tennant,J.Keane,E.D.Cole,K.Emery and R.Noufi:Mat.Res.Soc.Symp.Proc.,Vol.426(1996)p.143.に記載されている。また、同時蒸着法は、例えば、L.Stolt et al.:Proc.13th ECPVSEC(1995,Nice)1451.に記載されている。
【0189】
3段階法は、高真空中で最初にIn、Ga、Seを基板温度300℃で同時蒸着し、次に500〜560℃に昇温してCu、Seを同時蒸着後、In、Ga、Seをさらに同時蒸着する方法で、禁制帯幅が傾斜したグレーデッドバンドギャップCIGS膜が得られる。ECグループの方法は、蒸着初期にCu過剰CIGS、後半でIn過剰CIGSを蒸着するBoeing社の開発したバイレーヤー法をインラインプロセスに適用できるように改良したものである。バイレーヤー法は、W.E.Devaney,W.S.Chen,J.M.Stewart,and R.A.Mickelsen:IEEE Trans.Electron.Devices 37(1990)428.に記載されている。
【0190】
3段階法およびECグループの同時蒸着法は共に、膜成長過程でCu過剰なCIGS膜組成とし、相分離した液相Cu2-xSe(x=0〜1)による液相焼結を利用するため、大粒径化が起こり、結晶性に優れたCIGS膜が形成されるという利点がある。
さらに、近年CIGS膜の結晶性を向上させるため、この方法に加えた種々の方法に関する検討が行われており、これらを用いても良い。
【0191】
(a)イオン化したGaを使用する方法
蒸発したGaをフィラメントによって発生した熱電子イオンが存在するグリッドを通過させ、Gaと熱電子が衝突することでGaをイオン化する方法である。イオン化したGaは引き出し電圧により加速され基板に供給される。詳細は、H.Miyazaki,T.Miyake,Y.Chiba,A.Yamada,M.Konagai,phys.stat.sol.(a),Vol.203(2006)p.2603.に記載されている。
【0192】
(b)クラッキングしたSeを使用する方法
蒸発したSeは通常クラスターとなっているが、更に高温ヒーターにより熱的にSeクラスターを分解することでSeクラスターを低分子化する方法である(第68回応用物理学会学術講演会 講演予稿集(2007秋 北海道工業大学)7P−L−6)。
【0193】
(c)ラジカル化したSeを用いる方法
バルブトラッキング装置により発生したSeラジカルを用いる方法である(第54回応用物理学会学術講演会 講演予稿集(2007春 青山学院大学)29P−ZW−10)。
【0194】
(d)光励起プロセスを利用した方法
3段階蒸着中にKrFエキシマレーザ(波長248nm、100Hz)、またはYAGレーザ(例えば、波長266nm、10Hz)を基板表面に照射する方法である(第54回応用物理学会学術講演会 講演予稿集(2007春 青山学院大学)29P−ZW−14)。
【0195】
2)セレン化法
セレン化法は2段階法とも呼ばれ、最初にCu層/In層や(Cu−Ga)層/In層等の積層膜の金属プレカーサをスパッタ法、蒸着法、電着法などで製膜し、これをセレン蒸気またはセレン化水素中で450〜550℃程度に加熱することにより、熱拡散反応によってCu(In1-xGax)Se2等のセレン化合物を作製する方法である。この方法を気相セレン化法と呼ぶが、このほか、金属プリカーサ膜の上に固相セレンを堆積し、この固相セレンをセレン源とした固相拡散反応によりセレン化させる固相セレン化法がある。現在、唯一、大面積量産化に成功しているのは、金属プリカーサ膜を大面積化に適したスパッタ法で製膜し、これをセレン化水素中でセレン化する方法である。
【0196】
しかしながら、この方法ではセレン化の際に膜が約2倍に体積膨張するため、内部歪みが生じ、また、生成膜内に数μm程度のボイドが発生し、これらが膜の基板に対する密着性や太陽電池特性に悪影響を及ぼし、光電変換効率の制限要因になっているという問題がある(B.M.Basol,V.K.Kapur,C.R.Leidholm,R.Roe,A.Halani,and G.Norsworthy:NREL/SNL Photovoltaics Prog.Rev.Proc.14th Conf.-A Joint Meeting(1996)AIP Conf.Proc.394.)。
【0197】
このようなセレン化の際に生ずる急激な体積膨張を回避するために、金属プリカーサ膜に予めセレンをある割合で混合しておく方法(T.Nakada,R.Ohnishi,and A.kunioka:"CuInSe2-Based Solar Cells by Se-Vapor Selenization from Se-Containing Precursors" Solar Energy Materials and Solar Cells 35(1994)204-214.)や、金属薄層間にセレンを挟み(例えばCu層/In層/Se層…Cu層/In層/Se層と積層する)多層化プリカーサ膜の使用が提案されている(T.Nakada,K.Yuda,and A.Kunioka:"Thin Films of CuInSe2 Produced by Thermal Annealing of Multilayers with Ultra-Thin stacked Elemental Layers" Proc.of 10th European Photovoltaic Solar Energy Conference(1991)887-890.)。これらにより、上述の堆積膨張の問題はある程度回避されている。
【0198】
しかしながら、このような手法を含めて、すべてのセレン化法に当てはまる問題点がある。それは、最初にある決まった組成の金属積層膜を用い、これをセレン化するため、膜組成制御の自由度が極めて低いという点である。たとえば現在、高効率CIGS系太陽電池では、Ga濃度が膜厚方向で傾斜したグレーデッドバンドギャップCIGS薄膜を使用するが、このような薄膜をセレン化法で作製するには、最初にCu−Ga合金膜を堆積し、その上にIn膜を堆積し、これをセレン化する際に、自然熱拡散を利用してGa濃度を膜厚方向で傾斜させる方法がある(K.Kushiya,I.Sugiyama,M.Tachiyuki,T.Kase,Y.Nagoya,O.Okumura,M.Sato,O.Yamase and H.Takeshita:Tech.Digest 9th Photovoltaic Science and Engineering Conf.Miyazaki,1996(Intn.PVSEC-9,Tokyo,1996)p.149.)。
【0199】
3)スパッタ法
スパッタ法は大面積化に適するため、これまでCuInSe2薄膜形成法として多くの手法が試みられてきた。たとえば、CuInSe2多結晶をターゲットとした方法や、Cu2SeとIn2Se3をターゲットとし、スパッタガスにH2SeとAr混合ガスを用いる2源スパッタ法(J.H.Ermer,R.B.Love,A.K.Khanna,S.C.Lewis and F.Cohen:"CdS/CuInSe2 Junctions Fabricated by DC Magnetron Sputtering of Cu2Se and In2Se3" Proc.18th IEEE Photovoltaic Specialists Conf.(1985)1655-1658.)が開示されている。また、Cuターゲット,Inターゲット,SeまたはCuSeターゲットをArガス中でスパッタする3源スパッタ法などが報告されている(T.Nakada,K.Migita,A.Kunioka:"Polycrystalline CuInSe2 Thin Films for Solar Cells by Three-Source Magnetron Sputtering" Jpn.J.Appl.Phys.32(1993)L1169-L1172.ならびに、T.Nakada,M.Nishioka,and A.Kunioka:"CuInSe2 Films for Solar Cells by Multi-Source Sputtering of Cu,In,and Se-Cu Binary Alloy" Proc.4th Photovoltaic Science and Engineering Conf.(1989)371-375.)。
【0200】
4)ハイブリッドスパッタ法
前述したスパッタ法の問題点が、Se負イオンまたは高エネルギーSe粒子による膜表面損傷であるとするなら、Seのみを熱蒸発に変えることで、これを回避できるはずである。中田らは、CuとIn金属は直流スパッタで、Seのみは蒸着とするハイブリッドスパッタ法で、欠陥の少ないCIS薄膜を形成し、変換効率10%を超すCIS太陽電池を作製した(T.Nakada,K.Migita,S.Niki,and A.Kunioka:"Microstructural Characterization for Sputter-Deposited CuInSe2 Films and Photovoltaic Devices" Jpn.Appl.Phys.34(1995)4715-4721.)。また、Rockettらは、これに先立ち、有毒のH2Seガスの代わりにSe蒸気を用いることを目的としたハイブリッドスパッタ法を報告している(A.Rockett,T.C.Lommasson,L.C.Yang,H.Talieh,P.Campos and J.A.Thornton:Proc.20th IEEE Photovoltaic Specialists Conf.(1988)1505.)。さらに古くは膜中のSe不足を補うためSe蒸気中でスパッタする方法も報告されている(S.Isomura,H.Kaneko,S.Tomioka,I.Nakatani,and K.Masumoto:Jpn.J.Appl.Phys.19(Suppl.19-3)(1980)23.)。
【0201】
5)メカノケミカルプロセス法
CIGSの各組成の原料を遊星ボールミルの容器に入れ、機械的なエネルギーによって原料を混合してCIGS粉末を得る。その後、スクリーン印刷によって基板上に塗布し、アニールを施しCIGSの膜を得る方法である(T.Wada,Y.Matsuo,S.Nomura,Y.Nakamura,A.Miyamura,Y.Chia,A.Yamada,M.Konagai,Phys.stat.sol.(a),Vol.203(2006)p2593)。
【0202】
6)その他の方法
その他のCIGS製膜法としてはスクリーン印刷法、近接昇華法、MOCVD法、スプレー法などが挙げられる。
スクリーン印刷法、スプレー法等で、成分となるIb族元素、IIIb族元素、VIb族元素とそれらの化合物からなる微粒子から構成される薄膜を基板上に形成し、熱処理、VIb族元素雰囲気での熱処理などにより所望の組成の結晶を得る。例えば酸化物微粒子を塗布にて薄膜を形成した後、セレン化水素雰囲気中で加熱する。PVSEC−17 PL5−3あるいは、金属−VIb族元素結合を含む有機金属化合物の薄膜を基板上にスプレー・印刷などで形成し、熱分解することによって、所望の無機薄膜を得る。例えば、Sの場合に次のような化合物が考えられる(例えば特開平9−74065号公報、特開平9−74213号公報を参照)。
金属メルカプチド、金属のチオ酸塩、金属のジチオ酸塩、金属のチオカルボナート塩、金属のジチオカルボナート塩、金属のトリチオカルボナート塩、金属のチオカルバミン酸塩もしくは金属のジチオカルバミン酸塩
【0203】
(バンドギャップの値と分布制御)
太陽電池の光吸収層としては、I族元素−III族元素−VI族元素の各種組合せからなる半導体が好ましく利用できる。良く知られているものを図5に示す。図5は、Ib族元素とIIIb族元素とVIb族元素とからなる半導体における格子定数とバンドギャップとの関係を示す図である。組成比を変えることにより様々な禁制帯幅(バンドギャップ)を得ることができる。バンドギャップよりエネルギーの大きな光子が半導体に入射した場合、バンドギャップを超える分のエネルギーは熱損失となる。太陽光のスペクトルとバンドギャップの組合せで変換効率が最大になるのがおよそ1.4〜1.5eVであることが理論計算で分かっている。CIGS太陽電池の変換効率を上げるために、例えばCu(InxGa1-x)S2のGa濃度を上げたり、Cu(InxAlx)S2のAlを上げたり、CuInGa(S,Se)のS濃度を上げたりしてバンドギャップを大きくすることで、変換効率の高いバンドギャップを得る。Cu(InxGa1-x)S2の場合1〜1.68eVの範囲で調整できる。
【0204】
また、組成比を膜厚方向に変えることでバンド構造に傾斜を付けることができる。光の入射窓側から反対側の電極方向にバンドギャップを大きくするシングルグレーデットバンドギャップ、あるいは、光の入射窓からPN接合部に向かってバンドギャップが小さくなりPN接合部を過ぎるとバンドギャップが大きくなるダブルグレーデッドバンドギャップの2種類が考えられる。このような太陽電池は、例えば、T.Dullweber,A new approach to high−efficiency solar cells by band gap grading in Cu(In,Ga)Se chalcopyrite semiconductors,Solar Energy Materials & Solar Cells,Vol.67,p.145−150(2001)などに開示されている。いずれもバンド構造の傾斜によって内部に発生する電界のため、光に誘起されたキャリアが加速され電極に到達しやすくなり、再結合中心との結合確率を下げるため、発電効率を向上する(参考文献:WO2004/090995)。
【0205】
(タンデム型)
スペクトルの範囲別にバンドギャップの異なる半導体を複数使うと、光子エネルギーとバンドギャップの乖離による熱損失を小さくし、発電効率を向上することができる。このような複数の光電変換層を重ねて用いるものをタンデム型という。2層タンデムの場合例えば1.1eVと1.7eVの組合せを用いることにより発電効率を向上することができる。
【0206】
(光電変換層以外の構成)
I−III−VI族化合物半導体と接合を形成するn形半導体には、たとえば、CdSやZnO、ZnS、Zn(O,S,OH)などのII−VI族の化合物を用いることができる。これらの化合物は、光電変換層とキャリアの再結合のない接合界面を形成することができ、好ましい。例えば、特開2002−343987号公報を参照。
【0207】
裏面電極としてはモリブデン、クロム、タングステンなどの金属を用いることができる。これらの金属材料は熱処理を行っても他の層と混じりにくく好ましい。I−III−VI族化合物半導体からなる半導体層(光吸収層)を含む光起電力層を用いる場合、モリブデン層を用いることが好ましい。また、裏面電極において、光吸収層CIGSと裏面電極との境界面には再結合中心が存在する。したがって、裏面電極と光吸収層との接続面積は電気伝導に必要となる以上の面積があると、発電効率が低下する。接触面積を少なくするために、例えば、電極層を絶縁材料と金属がストライプ状に並んだ構造を用いるとよい。例えば、特開平9−219530号公報を参照。
【0208】
透明電極にはITO、ZnO:Ga、ZnO:Al、ZnO:B、SnO2などの公知の材料を用いることができる。これらの材料は、光透過性が高く、低抵抗であり、キャリアの移動度が高いため、電極材料として好ましい。例えば、特開平11−284211号公報を参照。
【0209】
層構造としては、スーパーストレート型、サブストレート型が挙げられる。I−III−VI族化合物半導体からなる半導体層(光吸収層)を含む光起電力層を用いる場合、サブストレート型構造を用いるほうが、変換効率が高く好ましい。
【0210】
(バッファ層・窓層・透明電極)
バッファ層としてはCdS、ZnS、ZnS(O,OH)、ZnMgOを使うことができる。窓層としてはZnO、ITO等の各種透明導電材料を用いることができる。例えば、CIGSのGa濃度を上げて光吸収層のバンドギャップを広くすると、伝導帯がZnOの伝導帯より大きくなり過ぎる為、バッファ層には伝導帯のエネルギーが大きいZnMgOが好ましい。CIGS/バッファ層/窓層(ZnO)のバンド構造でバッファ層の部分がスパイク状に(上に凸)になって飽和電流が下がったり、クリフ(凹状)になって開放電圧、FFが下がるのを防ぐことができ、バンドギャップが大きい場合の発電効率を向上することができる。
【0211】
(剥離防止・密着性の向上)
(接着層の付与)
裏面電極であるMoあるいはWとCuInSe2との界面にTiを緩衝層として使用し、半導体形成時の熱処理に際してTiがMoおよび半導体構成元素であるCuと拡散、反応することによって、化学的密着機構が可能となり再現性よく高品質な三元半導体薄膜を得ることができる(特開平5−315633号公報を参照)。
Mo電極層と陽極酸化アルミニウム基板との間に、熱膨張係数がAlとMoとの中間にあるTa、Cr、Nb、Ti、窒化チタンなどの緩衝層を介在させることにより、MoとAlとの熱膨張係数の差に起因する高温プロセス時の電極剥離を防止することができる(特開平6−252433号公報、特表平9−503346号公報を参照)。
【0212】
(裏面電極接合界面低減)
裏面電極が櫛形や格子型を使用することが好ましい。金属電極がMo、W、Ti、Ta、Au、Pt、Ni、Cr、Ag、及びAlであることが好ましい(特開平9−172193号公報、特開平9−219530号公報を参照)。
【0213】
(裏面電極の膜応力の調整)
スパッタリング法では、基板温度、成膜速度、スパッタリングガスの圧力等が成膜性に影響を与える。金属のスパッタリングガス圧と膜応力及び電気抵抗との関係は、John A.Thornton及びDavid W.Hoffmanによって詳細に調査されている(J.Vac.Sci.Technol.,Vol.14,No.1,Jan./Feb.1977参照)。Mo膜の応力値が0〜0.4GPaの圧縮応力となるよう成膜したものがCIS系薄膜の剥離及び接触抵抗の増加の原因となるMoSexの発生を少なくすることができる(特開平10−135501号公報、特開2000−12883号公報を参照)。
【0214】
(Na付与に適した裏面電極)
導電層が少なくとも2層からなり、前記導電層間にIa族元素を含む層を設けた構造が好ましい。陽極酸化アルミニウム基板表面にNaが偏析する際に面内での均一性が悪いがこれを回避する。一般的に用いられるMoの熱膨張係数はCIGS膜や基板に対して小さいため製造プロセスの途中、例えばCIGS膜の製膜工程など高温となる過程を経るため剥離という問題も存在する。基板からの剥離に関する解決手段としてはMo膜を積層する手法がジョン・エッチ・スコフィールド(John H. Schofield)等によって報告されている(シン・ソリッド・フィルムズ(Thin Solid Films),260,(1995),p26−31)。多層にすることによって剥離しにくくなる。Ia族元素を含む層としてはNa2S、Na2Se、NaCl、NaF、モリブデン酸ナトリウム塩または酸化アルミニウムなどがある。
導電層の最下層の結晶粒径が最上層の結晶粒径より大きくすることにより、基板との密着性が向上し、太陽電池の化合物半導体層などの製膜工程など高温となる過程を経ても基板からの剥離が生じにくくなる。一方、結晶粒径がこれより小さい方の層は導電性がより良好。導電層の最下層の密度が最上層の密度より小さくすることにより、基板との密着性が向上し、太陽電池の化合物半導体層などの製膜工程など高温となる過程を経ても基板からの剥離が生じにくくなる。一方、導電層の密度がこれより大きい方の層は導電性がより良好となる(特開2004−79858号公報を参照)。
裏面電極を2層にして、例えばCIGS/Mo/Cr/陽極酸化アルミニウム基板のような構造にし、Naの拡散量をCrの厚さで制御し、Mo膜の製膜条件を緩和することで、Mo表面の形状制御と裏面電極としての高導電性を両立し易くする(PVSC2008 ポスター298参照)。
【0215】
(アルカリバリア)
裏面電極層上に、In、Cu及びGa金属元素を含有成分としたプリカーサを形成した後、モリブデン酸ナトリウム含有水溶液を付着した基板に対して、H2Seガス雰囲気中で熱処理を行う。シリカ層と積層構造の金属裏面電極層の第1層目(結晶粒径が調整された)からなる2層構造のアルカリバリア層で構成する(特開2006−210424号公報、特開2006−165386号公報を参照)。
アルカリバリア層を製膜した時の太陽電池特性に及ぼす効果を議論した例では、アルカリバリア層を製膜した時の太陽電池特性に及ぼす効果を議論し、アルカリバリア層が必要であることを結論している(David F.Dawson-Elli,el al.:「Substrate Influences On CIS Device Performance」Proc.1st World Conference of Photovoltaic Energy Conversion(1995)152-155、C.Jensen:「The Study of Base Electrode/Substrate Interactions By Use of Air Anneal Imaging」Proc.13th European Photovoltaic Solar Energy Conference(1995)、特開平11−312817号公報、特開2006−165386号公報を参照)。
青板ガラス基板からのアルカリ成分の拡散を完全にシャットアウトできるアルカリバリア層(TiN,Al23,SiO2,Si34,ZrO2又はTiO2等)を意図的に製膜し、その上に金属裏面電極層を製膜し、更に、必要量のNa含有層を別途製膜して太陽電池を作製する製造プロセスを採用している例は、青板ガラス基板からのアルカリ成分の拡散を完全にシャットアウトできるアルカリバリア層を意図的に製膜し、その上に金属裏面電極層を製膜し、更に、必要量のNa,K及びLi等の含有層(Na2S又はNa2Se等の化合物をドーピングにより添加)を別途製膜するものである(V.Probst,el al.:「Large Area CIS Formation By Rapid Thermal Processing Of Stacked Elemental Layers」Proc.17th European Photovoltaic Solar Energy Conference(2002)1005-1010、V.Probst,el al.:「Advanced Stacked a CIS Formation By Rapid Thermal Processing Of Stacked Elemental Layer Process For Cu(InGa)Se2 Thin Film Photovoltaic Devices」Mat.Res.Soc.Symp.Proc.,Vol.426(1996)165-176、J.Holz,el al.:Proc.12th European Photovoltaic Solar Energy Conference(1994)1592-1595、特開平8−222750号公報、特開2007−266626号公報、特開2003−318424号公報を参照)。
前記研究例は、何れも酸化物又は窒化物等の独立したアルカリバリア層を青板ガラス基板上に製膜している例であり、青板ガラス基板からのアルカリ成分の拡散は製膜法に関係し(R.J.Araujo,el al.:「Sodium Redistribution Between Oxide Phases」Journal of Non-Crystalline Solids,197(1996)154-163)、一方、アルカリバリア層なしの金属裏面電極層単独ではアルカリ成分の拡散を部分的にしかブロックできないと報告されている(J.Holz,el al.:Proc.12th European Photovoltaic Solar Energy Conference(1994)1592-1595)。
【0216】
(スクライブ)
実際に使用する太陽電池は、複数のセルをパッケージングし、モジュール(パネル)として加工する。セルは、各スクライブ工程により、複数の単位セルが直列接続することで構成されており、薄膜型太陽電池では、この直列段数(単位セルの数)を変更することにより、セルの電圧を任意に設計変更することが可能となる。これは、薄膜太陽電池のメリットの1つとなっている。このような集積構造の太陽電池を形成する場合に、Moの裏面電極を分離する第一のスクライブと、透明電極と隣のセルの裏面電極を電気的に結合するために光吸収層を分離する第二のスクライブと、透明電極を分離する第3のスクライブを行う。第二のスクライブの後できた溝の上に透明電極を形成することで従来電気的に導通させるが、光を照射して光吸収層を変質させて導通させることで、スクライブ回数を2回で済ませる。導通部分の光吸収層はCu/In比率よりも、Cu/In比率が大きく、言い換えると、Inが少ない構成で、p+(プラス)型もしくは導電体の特性にしている(特開2007−109842号公報、特開2007−123532号公報、特開2007−201304号公報、特開2007−317858号公報、特開2007−317868号公報、特開2007−317879号公報、特開2007−317885号公報を参照)。スクライブに関する先行技術としては、先端がテーパー状になった金属針(ニードル)を所定の圧力で押し付けながら移動させることで、光吸収層とバッファ層を掻き取る技術(特開2004−115356号公報を参照)、アークランプ等の連続放電ランプによってNd:YAG結晶を励起して発振したレーザ(Nd:YAGレーザ)を光吸収層に照射することにより光吸収層を除去し分割する技術(特開平11−312815号公報を参照)が開示されている。
【0217】
レーザスクライブにおいて、ターゲットを削る能力はエネルギー密度、パルス時間、波長に依存する。ターゲット材料の光吸収率が高い波長で用いるのが好ましい。1064nmと532nmとでは加工スレッショルドパワーが1桁異なる。パルス時間は10nsよりは0.1nsが好ましく、エネルギー密度が数J/cm2あれば加工できる。スクライブの溝の上部エッジが盛り上がるのを防ぐにはレーザ光のビームプロファイルを調整するのが良く、シリンドリカルレンズを使った異方性の集光ビームは有効である(Optics and Lasers in Engineering 34,p15(2000)参照)。
スクライブに用いる針の圧力はターゲットに対して一定になるようにアクティブ制御する。櫛形に複数本をセットにすると一度に複数本の制御ができる。スクライブ時に切離される線間の抵抗を測定することで合否判定を行い、不良品混入を阻止する。Mo電極のカットに失敗しているとその後のすべての工程が無駄になる。スクライブのときに発生した粉や気体は針またはレーザ出射口の近くに吸気口を設けて吸い込み、必要に応じてフィルターで粉体や気体を取り除く(JENOPTIK GmbH パンフレット参照)。
【0218】
スクライブの応力などで光吸収層に欠陥ができてしまうのを防ぐために、フォトリソグラフィによるエッチングによって、下部電極層(Mo)、光吸収層として機能するカルコパイライト構造のp型の化合物半導体薄膜(CIGS薄膜)、n型の透光性電極層(ZnO)の各々をパターニングする手法を採用し、かつ、CIGS薄膜については、ドライエッチングとウエットエッチングを組み合わせた2段エッチングを行うことによって、化合物半導体の結晶にダメージや欠陥を生じさせることなく、また、残渣を残すことなく、高精度のパターニングを実現する(特開2007−123721号公報を参照)。
【0219】
(In-Situモニター)
基材上での銅豊富組成から銅不足組成への転移は、転移に関する物理パラメータ、たとえば放射を検知するセンサを使用することによって検知する。蒸着層中の元素の組成を検知するセンサを使用し、センサに接続されたコントローラは、基材の幅に渡って均一な組成および均一な厚さのCIGS層を提供するために、蒸発物源からの流量を調整する。2箇所の温度差測定から熱伝導度を得たり、熱容量または、抵抗率、蒸着されたCIGS膜によって反射または透過された光の強度を使用する。また、CIGS膜の構成要素の蒸着量を検知する装置がXRF(X線蛍光)装置、EDX(エネルギー分散X線分光法)装置または表面形状測定装置であって、各元素(Cu、Ga、In、Se)の全蒸着量を測定し、それにより前記蒸着されたCIGS層の厚さおよび組成を測定したり、Cu対In+Gaの相対量を制御する(特表2007−527121号公報を参照)。
【0220】
(裏面反射光を増して変換効率を向上)
基板と光吸収層の間に複合裏面コンタクト層を形成する。そのとき反射率を上昇させる裏面反射体層と、裏面コンタクトの適切な電気特性を確保するコンタクト層と、および/または面内電流に対して低いシート抵抗を確保するコンダクタンス層とを含むようにする(特表2007−528600号公報を参照)。
【0221】
(Na付与)
セレン化法におけるプレカーサ層にドーパントとなるIa族の酸化物Na22を添加したIb族とIIIa族元素からなる酸化物薄膜Cu−In−O:Na22を堆積し、VIa族元素を含む雰囲気中(H2Seを含むArガスと水素ガス)で熱処理する(特開平9−55378号公報を参照)。
2段階成長法の1層目にNa等のアルカリ金属を付与する(特開平10−74966号公報を参照)。IIa族元素を添加し光吸収層に含まれるIb族元素のIII族元素に対する比率が、0.22以上0.75以下の組成で用いる(特開平10−74967号公報を参照)。
【実施例】
【0222】
以下、本発明を実施例に基づき更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0223】
まず、実施例で行った処理及び測定の条件・方法について説明する。
1.アルミニウム板の研磨
日本軽金属(株)製 5N材 特注品、面積5cm角、分析結果(質量%、成分Al:99.999%以上、Cu:0.0002%未満、Si:0.0002%未満、Fe:0.0002%未満)のアルミニウム材を使用した。以下に説明する機械的研磨法を用いて研磨した。
【0224】
A1)機械研磨法
使用研磨盤 丸本ストルアス(株)製 商品名:ラボポール‐5
5cm角サンプルを両面テープ(住友3M社製 再剥離テープ9455)にて鏡面仕上げ済みの金属ブロックに貼った。#80→#240→#500→#1000→#1200→#1500と順次、研磨紙の番手を上げ、凹凸部分が目視確認できなくなるまで、研磨した。
研磨紙:商品名 丸本ストルアス(株)製 耐水研磨紙を用いた。
【0225】
A2)機械研磨法
使用研磨盤 丸本ストルアス(株)製 商品名:ラボポール‐5
5cm角サンプルを両面テープ(住友3M社製 再剥離テープ9455)にて鏡面仕上げ済みの金属ブロックに貼った。順次、以下のように研磨剤、研磨布を換え、凹凸部分が目視確認できなくなるまで、研磨した。
研磨剤:商品名 丸本ストルアス(株)製 ダイヤモンド研磨剤 DP-スプレーP
SPRIR(粒径45μm)→SPRAM(粒径25μm)→SPRUF(粒径15μm)→SPRAC(粒径9μm)→SPRIX(粒径6μm)→SPRRET(粒径3μm)→SPRON(粒径1μm)→SPRYT(粒径0.25μm)
【0226】
バフに上記ダイヤモンドスラリーを粗いものから順次使用し、鏡面状態に仕上げた。バフは研磨剤交換時に交換した。
バフ:丸本ストルアス(株)製 琢磨布 No773(粒径10μm以上)、No751(粒径10μm未満)を用いた。
いずれも、ふくれの残留密度:0個/dm2、Ra[μm]:0.1、平均光沢度[%]:75%
【0227】
2.研磨面の評価
<表面粗さの評価>
まずは、触針式粗さ計で計測後、Raが0.1μm以下になった場合に、AFMにてRaを計測した。Ra0.1μm以上の場合は、先端径10μmのサファイヤ針で測定し、それ以外はAFMで測定した。
【0228】
(1)粗さ計によるRaの測定:JIS−B601−1994記載
粗さ曲線を中心線から折り返し、その粗さ曲線と中心線によって得られた面積を長さLで割った値をマイクロメートル(μm)で表わす。
機種:(株)東京精密製 サーフコム 575A
測定条件:カットオフ 0.8mm、傾斜補正 FLAT-ML、測定長 2.5mm、T-speed 0.3mm/s、Polarity positive:
測定針:先端径10μmのサファイヤ針
【0229】
(2)AFMによるRaの測定
Raが0.1μm以下の場合、AFM(DFMサイクリックコンタクトモード)にて粗さを計測した。
走査エリア 3000nm
走査周波数 0.5Hz
振幅減衰率 -0.16
Iゲイン 0.0749/Pゲイン 0.0488
Qカーブゲイン 2.00
加振電圧 0.044V
共振周波数 318.5kHz
測定周波数 318.2kHz
振動振幅 0.995V
Q値 460付近
測定針:先端径10nmのSi針(セイコーインスツルメンツ製 商品名:カンチレバー SI DF40P)
【0230】
実施例1
前記機械研磨を施したアルミニウム材の厚み0.24mm圧延板を、400メッシュのパミストン(共立窯業製、商品名)の20質量%水性懸濁液と、回転ナイロンブラシ(6−10ナイロン)とを用いてその表面を砂目立てした後、よく水で洗浄した。これを10質量%水酸化ナトリウム水溶液(アルミニウム5質量%含有)に浸漬してアルミニウムの溶解量が5g/m2になるようにエッチングした後、流水で水洗した。更に、20質量%硝酸で中和し、水洗した。
【0231】
次に、1質量%硝酸水溶液中(アルミニウム0.5%含有)中で、陽極時電圧10.5V、陰極時電圧9.3Vの矩形波交番波形電圧(電流比r=0.90、特公昭58−5796号公報実施例に記載されている電流波形)を用いて160クーロン/dm2の陽極時電気量で電解粗面化処理を行った。水洗後、40℃の10質量%水酸化ナトリウム水溶液中に浸漬してアルミニウム溶解量が1g/m2になるようにエッチングした後、水洗した。次に55℃の30質量%硫酸水溶液中に2分間浸漬しデスマットした後、水洗した。
【0232】
次に、50℃の30質量%硫酸水溶液(アルミニウム0.8質量%含有)中で、20Vの直流電圧を用いて、酸化皮膜厚が5μmとなるように電解時間6分、陽極酸化皮膜形成処理を行った。更に水洗、乾燥を行った。
【0233】
以上のようにして得られたアルミニウム支持体の任意の10箇所からサンプリングして、各物性値を測定した。裏面の陽極酸化皮膜を白金パラジウム蒸着法によりサンプルを形成し、これを超高分解能走査型電子顕微鏡で観察することにより、測定したところ、ポア密度は1.03〜1.50×1011個/cm2(平均1.3×1011個/cm2)<1300個/μm2>、ポア径は30nmであった。中心線平均粗さはRa=平均0.56μmであった。
【0234】
陽極酸化アルミニウム基板の表面の形状をAFMで測定し、断面形状をボックスカウンティング法で評価した。結果を図6に示す。図6から明らかなように、フラクタル次元が1より大きく1.99より小さい値であり、単位スケールが小さくなるにつれてフラクタル次元が小さくなることがわかった。
【0235】
作製した太陽電池用基板を用いて、CIGS薄膜としてカルコパイライト型構造のCuInGaSe2薄膜を成膜し、太陽電池を作製した。なお、本実施例では、高純度銅のディスク状ターゲットとインジウム(純度99.9999%)、高純度Ga(純度99.999%)、高純度Se(純度99.999%)のディスク状ターゲットを用いた。
作製した太陽電池用基板上に、モリブデン膜をスパッタ法で膜厚0.8μm堆積させた。その大きさは、3cm×3cmである。基板温度モニターとして、クロメル−アルメル熱電対を用いた。
まず、主真空チャンバーを10-6Torrまで真空排気した後、高純度アルゴンガス(99.999%)をスパッタ室に導入し、バリアブルリークバルブで3×10-2Torrとなるように調整した。
つぎに、これらのCIS薄膜を光吸収層として太陽電池を作成した。電池構造は、光入射側から、ZnO:Al膜/CdS膜/CIGS膜/Mo膜/基板である。下部電極の上にCIGS薄膜を2μm厚さ程度成膜する。製膜条件としては、各蒸発源からの蒸着レートを制御して、最高基板温度550℃で行った。作製したCIGS膜の膜厚は約2μmであった。次にバッファ層として、CdS薄膜を90nm程度溶液成長法で堆積し、その上に、透明導電膜のZnO:Al膜をRFスパッタ法で厚さ0.6μmつけた。最後に上部電極として、Alグリッド電極を蒸着法で作製した。
【0236】
[性能評価]
実施例1の太陽電池は、絶縁層表面は本発明に係る太陽電池用絶縁基板の構成要件を満たし、光利用効率に優れている。
【0237】
実施例2
基板として、本発明である実施例1の試料を用いた。この陽極酸化アルミニウム基板上に、RFスパッタリング(高周波スパッタリング)によって、Mo層を形成した後、RFスパッタリングによって、NaF層を形成し、更にRFスパッタリングによって、Mo層を形成した。このようにして堆積したMo/NaF/Mo多層膜の厚みは約1.0μmの厚さであった。前記Mo上にCuInGaSe2薄膜を真空容器内部で堆積した。CuInGaSe2薄膜の堆積は、真空容器1内部にCuInGaSe2の主成分であるCuの蒸着源、Inの蒸着源、Gaの蒸着源、およびSeの蒸着源を用意し、真空度約10-7Torrのもとで、Cu、In、Ga、およびSeの蒸着源ルツボを加熱し、各元素を蒸発させた。その際、ルツボの温度は適宜調節した。CuInGaSe2薄膜は、以下に示すように2層構成とした。すなわち、1層目はInとGaの合計の原子組成に対してCuの原子組成が過剰になるように膜を形成し、続く2層目はCuの原子組成に対してInとGaの合計の原子組成が過剰になるように膜を形成した2層構造である。基板温度は550℃で一定とした。1層目を約2μm蒸着した。この際、原子組成比はCu/(In+Ga)=約1.0〜1.2であった。次に2層目を約1μm蒸着し、最終的な原子組成比がCu/(In+Ga)=0.8〜0.9、バンドギャップ1.38eV(Ga/(Ga+Cu):56%)になるよう蒸着した。
【0238】
次に、窓層として、複層の半導体膜を形成した。まず、約50nmの厚さのCdS膜を化学析出法により堆積した。化学析出法は、硝酸Cd、チオ尿素およびアンモニアを含む水溶液を約80℃に温め、上記光吸収層をこの水溶液に浸漬することにより行った。さらに、CdS膜の上に約80nmの厚さのZnO膜をMOCVD法で形成した。
次に、MOCVD法により、透明導電膜として、約200nmの厚さのZn0.96Mg0.04O膜を堆積した。図7に、本実施例で作製した太陽電池のバンドギャップを示す。
最後に、取り出し電極として、Alを蒸着法で形成し、太陽電池を作成した。
【0239】
得られた太陽電池について、Air Mass(AM)=1.5、100mW/cm2の擬似太陽光を用いて太陽電池特性を評価したところ、変換効率10.0%が得られた。この結果から、本発明の陽極酸化アルミニウム基板を用いて太陽電池を形成しても、十分な光電変換効率を示すことがわかった。
【0240】
実施例3
前記機械研磨を施したアルミニウム材の厚み0.24mm圧延板を、400メッシュのパミストン(共立窯業製、商品名)の20質量%水性懸濁液と、回転ナイロンブラシ(6−10ナイロン)とを用いてその表面を砂目立てした後、よく水で洗浄した。これを10質量%水酸化ナトリウム水溶液(アルミニウム5質量%含有)に浸漬してアルミニウムの溶解量が5g/m2になるようにエッチングした後、流水で水洗した。更に、20質量%硝酸で中和し、水洗した。
【0241】
次に、1質量%硝酸水溶液中(アルミニウム0.5%含有)中で、陽極時電圧10.5V、陰極時電圧9.3Vの矩形波交番波形電圧(電流比r=0.90、特公昭58−5796号公報実施例に記載されている電流波形)を用いて160クーロン/dm2の陽極時電気量で電解粗面化処理を行った。水洗後、40℃の10質量%水酸化ナトリウム水溶液中に浸漬してアルミニウム溶解量が1g/m2になるようにエッチングした後、水洗した。次に55℃の30質量%硫酸水溶液中に2分間浸漬しデスマットした後、水洗した。
【0242】
次に、液温を10〜50℃の30質量%硫酸水溶液(アルミニウム0.8質量%含有)中で、5〜20Vの直流電圧を用いて、酸化皮膜厚が5μmとなるように電解時間1〜10分、陽極酸化皮膜形成処理を行った試料を複数作製した。更に水洗、乾燥を行った。
【0243】
以上のようにして得られたアルミニウム支持体の任意の10箇所からサンプリングして、表面粗さ、細孔径および細孔密度を測定した。裏面の陽極酸化皮膜を白金パラジウム蒸着法によりサンプルを形成し、これを超高分解能走査型電子顕微鏡で観察した。測定した結果を表10に示す。
【0244】
この陽極酸化アルミニウム基板上に、RFスパッタリング(高周波スパッタリング)によって、Mo層を形成した後、RFスパッタリングによって、NaF層を形成し、更にRFスパッタリングによって、Mo層を形成した。このようにして堆積したMo/NaF/Mo多層膜の厚みは約1.0μmの厚さであった。前記Mo上にCuInGaSe2薄膜を真空容器内部で堆積した。CuInGaSe2薄膜の堆積は、真空容器1内部にCuInGaSe2の主成分であるCuの蒸着源、Inの蒸着源、Gaの蒸着源、およびSeの蒸着源を用意し、真空度約10-7Torrのもとで、Cu、In、Ga、およびSeの蒸着源ルツボを加熱し、各元素を蒸発させた。その際、ルツボの温度は適宜調節した。CuInGaSe2薄膜は、以下に示すように2層構成とした。すなわち、1層目はInとGaの合計の原子組成に対してCuの原子組成が過剰になるように膜を形成し、続く2層目はCuの原子組成に対してInとGaの合計の原子組成が過剰になるように膜を形成した2層構造である。基板温度は550℃で一定とした。1層目を約2μm蒸着した。この際、原子組成比はCu/(In+Ga)=約1.0〜1.2であった。次に2層目を約1μm蒸着し、最終的な原子組成比がCu/(In+Ga)=0.8〜0.9、バンドギャップ1.38eV(Ga/(Ga+Cu):56%)になるよう蒸着した。
【0245】
次に、窓層として、複層の半導体膜を形成した。まず、約50nmの厚さのCdS膜を化学析出法により堆積した。化学析出法は、硝酸Cd、チオ尿素およびアンモニアを含む水溶液を約80℃に温め、上記光吸収層をこの水溶液に浸漬することにより行った。さらに、CdS膜の上に約80nmの厚さのZnO膜をMOCVD法で形成した。
次に、MOCVD法により、透明導電膜として、約200nmの厚さのZn0.96Mg0.04O膜を堆積した。図7に、本実施例で作製した太陽電池のバンドギャップを示す。
最後に、取り出し電極として、Alを蒸着法で形成し、太陽電池を作成した。
【0246】
得られた太陽電池について、Air Mass(AM)=1.5、100mW/cm2の擬似太陽光を用いて太陽電池特性(発電効率)を測定した。結果を表10に示す。
【0247】
【表10】

【0248】
表10から明らかなように、表面粗さRaが0.5nm〜2μm、細孔径が11〜140nm、細孔密度100〜10000個/μm2の範囲で発電効率が8%以上得られ、良好な太陽電池として機能することがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0249】
【図1】図1は、自由落下カーテン状の液膜により水洗処理する装置の模式的な断面図である。
【図2】図2は、電気化学的粗面化処理に用いられる台形波の一例を示すグラフである。
【図3】図3は、本発明に好適に用いられるラジアル型電解装置の概略図である。
【図4】図4(a)乃至(d)は、CIGS系薄膜太陽電池のセルの一般的な製造方法を説明するためのデバイスの断面図である。
【図5】図5は、Ib族元素とIIIb族元素とVIb族元素とからなる半導体における格子定数とバンドギャップとの関係を示す図である。
【図6】図6は、陽極酸化アルミニウム基板の表面の凹凸構造の断面形状のフラクタル次元を測定した結果である。
【図7】図7は、実施例で作製した太陽電池のバンドギャップを示す図である。
【符号の説明】
【0250】
1 アルミニウム板
10 自由落下カーテン状の液膜により水洗処理する装置
102 水
104 貯水タンク
106 給水筒
108 整流部
11 アルミニウム板
12 ラジアルドラムローラ
13a、13b 主極
14 電解処理液
15 電解液供給口
16 スリット
17 電解液通路
18 補助陽極
19a、19b サイリスタ
20 交流電源
40 主電解槽
50 補助陽極槽
100 陽極酸化アルミニウム基板
200 Mo電極層
300 光吸収層(CIGS)
400 バッファ層(CdS)
500 透光性電極層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性の陽極酸化皮膜を有する金属基板上に光電変換層を有する太陽電池であって、前記陽極酸化皮膜の表面粗さが0.5nm〜2μmであり、かつ、光電変換層に用いられる半導体が、カルコパイライト型材料であり、その禁制帯幅が1.3〜1.5eVであることを特徴とする太陽電池。
【請求項2】
前記陽極酸化皮膜の表面粗さが0.5μm〜1.5μmである、請求項1記載の太陽電池。
【請求項3】
前記陽極酸化皮膜の表面に形成された細孔の孔径が10nm〜500nmである、請求項1又は2に記載の太陽電池。
【請求項4】
前記細孔の孔径が10nm〜200nmである、請求項3記載の太陽電池。
【請求項5】
前記陽極酸化皮膜に形成された隣り合った細孔間の中心距離Dが細孔直径Rに対してD>R且つ、密度が100〜10000個/μm2である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の太陽電池。
【請求項6】
前記細孔の深さが0.005〜199.995μmである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の太陽電池。
【請求項7】
前記陽極酸化皮膜の表面の凹凸構造が、フラクタル解析、ウェーブレット解析又はフーリエ変換法により規定される構造を含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載の太陽電池。
【請求項8】
前記凹凸構造がフラクタル構造を含み、当該フラクタル構造のフラクタル次元が2より大きく2.99以下である、請求項7記載の太陽電池。
【請求項9】
前記フラクタル構造のフラクタル次元が、単位長さが1nm以上1000μm以下のサイズにおいて2より大きく2.99以下である、請求項8記載の太陽電池。
【請求項10】
前記凹凸構造の断面がフラクタル構造を含み、当該断面のフラクタル構造のフラクタル次元が1より大きく1.99以下である、請求項7記載の太陽電池。
【請求項11】
前記断面のフラクタル次元が、単位長さが1nm以上100μm以下のサイズにおいて1より大きく1.99以下である、請求項10記載の太陽電池。
【請求項12】
前記陽極酸化皮膜が、前記金属基板の端面および両面に形成されている、請求項1〜11のいずれか1項に記載の太陽電池。
【請求項13】
前記光電変換層が、Ib族元素とIIIb族元素とVIb族元素とからなる半導体層を含む、請求項1〜12のいずれか1項に記載の太陽電池。
【請求項14】
前記半導体層が、銅(Cu)、銀(Ag)、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、イオウ(S)、セレン(Se)及びテルル(Te)からなる群から選択される少なくとも1つの元素を含有してなる層である、請求項13記載の太陽電池。
【請求項15】
前記光電変換層として、IVb族元素からなる半導体層、IIIb族元素とVb族元素とからなる半導体層、IIb族元素とVIb族元素とからなる半導体層、Ib族元素からなる層、IIb族元素からなる層、IVb族元素からなる層、及び/又はVIb族元素からなる層を含む、請求項1〜12のいずれか1項に記載の太陽電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−267337(P2009−267337A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−249104(P2008−249104)
【出願日】平成20年9月26日(2008.9.26)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】