説明

始動制御装置

【課題】ハイブリッド車両において、エンジン始動時の消費電力量を抑制しつつ、適切にエンジンを始動する。
【解決手段】始動制御装置(100)は、エンジン(11)と、該エンジンに連結されたモータ(MG1)とを備えるハイブリッド車両(1)に搭載され、エンジンを始動する際に、モータによりエンジンをクランキングするためのトルク指令値を決定するトルク指令値決定手段(21)と、決定されたトルク指令値に基づいて、モータを制御するためのトルク実値を算出するトルク実値算出手段(22)と、決定されたトルク指令値、及びトルク指令値が決定されてからトルク実値が算出されるまでの時間差に応じて、エンジンの予測回転数を算出する予測回転数算出手段(21)とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばエンジン及びモータを備えるハイブリッド車両等の車両において、エンジンを始動する始動制御装置の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の装置として、例えば、クランキング中及び初爆後のエンジン回転の上昇具合を予測し、予測の結果、クランキング中にエンジン回転数が共振帯を通過できないと判断した場合は、モータによるクランキング中にエンジン回転数が共振帯にモータトルクを低下させ、初爆後は、エンジン回転数が所定値以上の回転上昇率で共振帯を通過するようにモータによるアシスト量を制御する装置が提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
或いは、前回の同一クランク角度位置での角度時間の逆数値である瞬間回転速度に、最新の時間Tk(i)の逆数値である瞬間回転速度と、その前の時間Tk(i―1)の逆数値である瞬間回転速度との差を加算して補正して、補正後瞬間回転速度の逆数値を今回の角度時間として推定する装置が提案されている(特許文献2参照)。
【0004】
或いは、クランク角センサからの信号から、クランク軸の角加速度変化を求めてエンジンの実際の発生トルクの変化を推定演算する装置が提案されている(特許文献3参照)。或いは、エンジン始動の際に、モータによりクランキングすると共に、エンジンの圧縮圧力を低減する装置が提案されている(特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−190525号公報
【特許文献2】特開平5−125988号公報
【特許文献3】特開平11−044246号公報
【特許文献4】特開2009−036089号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、エンジン制御用のモータの、例えばトルク指令値を出力する指令装置と、実際にエンジン制御用のモータを制御する制御装置とが別々に設けられている場合、トルク指令値が出力されてから実際にエンジン制御用のモータが制御されるまでにタイムラグが生じる可能性がある。すると、エンジン制御用のモータの制御において、意図した以上に電力が消費されてしまう可能性があるという技術的問題点がある。上述の背景技術では、該技術的問題点を解決することは極めて困難である。
【0007】
本発明は、例えば上記問題点に鑑みてなされたものであり、消費電力量を抑制しつつ、適切にエンジンを始動することができる始動制御装置を提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の始動制御装置は、上記課題を解決するために、エンジンと、前記エンジンに連結されたモータとを備えるハイブリッド車両に搭載され、前記エンジンを始動する際に、前記モータにより前記エンジンをクランキングするためのトルク指令値を決定するトルク指令値決定手段と、前記決定されたトルク指令値に基づいて、前記モータを制御するためのトルク実値を算出するトルク実値算出手段と、前記決定されたトルク指令値、及び前記トルク指令値が決定されてから前記トルク実値が算出されるまでの時間差に応じて、前記エンジンの予測回転数を算出する予測回転数算出手段とを備える。
【0009】
本発明の始動制御装置によれば、当該始動制御装置は、エンジンと、該エンジンに連結されたモータとを備えるハイブリッド車両に搭載されている。尚、モータは、該モータの駆動軸とエンジンの駆動軸とが直結されることによって、エンジンに連結されていてもよいし、例えば差動機構等の他の部材を介して、エンジンに連結されていてもよい。また、本発明に係る「モータ」は、エンジン制御用のモータであるが、例えば、モータ・ジェネレータ(電動発電機)において実現されるモータであってもよい。即ち、モータとして機能し得る限りにおいて、モータ・ジェネレータを意味してもかまわない。
【0010】
例えばメモリ、プロセッサ等を備えてなるトルク指令値決定手段は、エンジンを始動する際に、モータによりエンジンをクランキングするためのトルク指令値を決定する。例えばメモリ、プロセッサ等を備えてなるトルク実値算出手段は、決定されたトルク指令値に基づいて、モータを制御するためのトルク実値を算出する。
【0011】
本願発明者の研究によれば、以下の事項が判明している。即ち、エンジン始動時は、エンジン回転数が、エンジンに係る共振帯を通過することに起因する振動を低減するために、クランキング初期のクランキングトルク(即ち、エンジンをクランキングするモータに係るトルク)を比較的大きくして、比較的短時間で共振帯を通過するように制御されることが多い。尚、クランキングトルクの算出には、実際のエンジン回転数に、例えば平均化等の処理が施された制御用回転数が用いられることが多い。他方で、省電力化を図るために、エンジン回転数が共振帯を通過した直後にクランキングトルクを低減して、エンジン始動時の消費電力量の低減が要求されることが多い。
【0012】
上述の如く、クランキング初期は、クランキングトルクが比較的大きく設定されているため、エンジン回転数の時間変動は比較的大きくなる。すると、例えば平均化処等の処理に費やされる時間に起因して、実際のエンジン回転数と制御用回転数との間に比較的大きな差が生じる。加えて、通信速度や演算周期等に起因して、クランキングトルクが決定されてから、実際にモータが制御されるまでには、大なり小なり時間差(即ち、応答遅れ)が生じる。
【0013】
このため、クランキングトルクを低減すべきエンジン回転数を大きく上回ったエンジン回転数になった時点ではじめて、クランキングトルクが低減される可能性がある。すると、エンジン始動時に、例えば製造者等が意図した消費電力量以上の電力が消費される可能性がある。
【0014】
そこで本発明では、例えばメモリ、プロセッサ等を備えてなる予測回転数演算手段により、決定されたトルク指令値、及びトルク指令値が決定されてからトルク実値が算出されるまでの時間差に応じて、エンジンの予測回転数が算出される。
【0015】
尚、エンジンの予測回転数は、具体的には例えば、トルク指令値(即ち、クランキングトルク)と到達回転数との関係を定めるマップ等に基づいて積算等により、或いは、トルク指令値及び現在のエンジン回転数(即ち、実測値)をパラメータとする演算式等により、基本予測回転数が求められ、該求められた基本予測回転数が、時間差に応じて補正されることにより求められる。
【0016】
「時間差」は、予め固定値として、或いは、何らかの物理用又はパラメータに応じた可変値として設定されている。このような「時間差」は、実験的若しくは経験的に、又はシミュレーションによって、例えば通信速度、通信周期、演算周期等に応じて求めればよい。
【0017】
そして、トルク指令値決定手段が、演算された予測回転数に基づいて、トルク指令値が決定するように構成すれば、例えば製造者等が意図するタイミングで(即ち、エンジン回転数が共振帯を通過した直後に)、トルク指令値を低減させることができるので、エンジン始動時の消費電力量を低減することができる。
【0018】
本発明の始動制御装置の一態様では、前記トルク指令決定手段は、前記算出された予測回転数に基づいて、前記トルク指令値を決定する。
【0019】
この態様によれば、比較的容易にして、エンジン始動時の消費電力量を低減することができ、実用上非常に有利である。
【0020】
本発明の始動制御装置の他の態様では、前記エンジンの温度を検出する温度検出手段と、前記検出された温度に基づいて、前記算出された予測回転数を補正する補正手段とを更に備える。
【0021】
この態様によれば、例えば温度センサ等である温度検出手段は、エンジンの温度を検出する。尚、エンジンの温度は、例えばエンジンの気筒内の温度等に限定されず、例えばエンジンの冷却水の温度等であってもよい。
【0022】
例えばメモリ、プロセッサ等を備えてなる補正手段は、検出された温度に基づいて、算出された予測回転数を補正する。このように構成すれば、エンジンの温度に起因するエンジンフリクションの変動に因って予測回転数の予測精度が低下する(即ち、実際の回転数と予測回転数とが乖離する)ことを防止することができる。
【0023】
本発明の始動制御装置の他の態様では、前記エンジンの停止位置を検出する停止位置検出手段と、前記検出された停止位置に基づいて、前記算出された予測回転数を補正する補正手段とを更に備える。
【0024】
この態様によれば、停止位置検出手段は、エンジンの停止位置を検出する。「エンジンの停止位置」とは、エンジン始動時のクランク軸の停止位置を意味する。具体的には、クランキングを開始するときのクランク角を意味する。
【0025】
例えばメモリ、プロセッサ等を備えてなる補正手段は、検出された停止位置に基づいて、算出された予測回転数を補正する。このように構成すれば、コンプレッションに起因するエンジンフリクションの変動に因って予測回転数の予測精度が低下することを防止することができる。
【0026】
本発明の始動制御装置の他の態様では、前記エンジンの回転数を検出する回転数検出手段と、前記検出された回転数に基づいて、前記算出された予測回転数を補正する補正手段とを更に備える。
【0027】
この態様によれば、回転数検出手段は、エンジンの実際の回転数を検出る。例えばメモリ、プロセッサ等を備えてなる補正手段は、検出された回転数に基づいて、算出された予測回転数を補正する。このように構成すれば、フィードバックにより予測回転数の予測精度を向上させることができ、実用上非常に有利である。
【0028】
本発明の始動制御装置の他の態様では、前記エンジンの特性であるエンジン特性を学習する学習手段と、前記学習されたエンジン特性に基づいて、前記算出された予測回転数を補正する補正手段とを更に備える。
【0029】
この態様によれば、例えばメモリ、プロセッサ等を備えてなる学習手段は、エンジンの特性であるエンジン特性を学習する。エンジン特性は、例えば、トルクと到達回転数との関係等である。
【0030】
本願発明者の研究によれば、例えばエンジンオイルの種類、イナーシャの機差バラツキ、経年変化等に起因してエンジンのフリクションに機差バラツキが生じることが判明している。仮に何らの対策もとらないとすれば、機差バラツキに起因して予測回転数の予測精度が低下する可能性がある。
【0031】
そこで本発明では、補正手段により、学習されたエンジン特性に基づいて、算出された予測回転数が補正される。従って、機差バラツキに起因する予測精度の低下を抑制することができ、実用上非常に有利である。
【0032】
本発明の始動制御装置の他の態様では、前記予測回転数算出手段は、前記エンジンの回転数が前記エンジンに係る共振帯を含む所定範囲内であるときに、前記予測回転数を算出する。
【0033】
この態様によれば、エンジン回転数が共振帯を通過する時間を比較的短縮して、共振帯通過に伴う振動を抑制しつつ、消費電力量を抑制することができる。
【0034】
本発明の作用及び他の利得は次に説明する実施するための形態から明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】第1実施形態に係る始動制御装置が搭載される車両の構成を示すブロック図である。
【図2】第1実施形態に係る始動制御処理の概要を示す制御ブロック図である。
【図3】応答遅れの概念を示す概念図である。
【図4】トルク指令値と実トルクとのずれと、補正量との関係の一例を示す図である。
【図5】第2実施形態に係る始動制御処理の概要を示す制御ブロック図である。
【図6】第3実施形態に係る始動制御処理の概要を示す制御ブロック図である。
【図7】第4実施形態に係る始動制御処理の概要を示す制御ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明に係る始動制御装置の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0037】
<第1実施形態>
本発明に係る始動制御装置の第1実施形態について、図1乃至図4を参照して説明する。
【0038】
先ず、本実施形態に係る始動制御装置が搭載される車両の構成について、図1を参照して説明する。図1は、本実施形態に係る始動制御装置が搭載される車両の構成を示すブロック図である。
【0039】
図1において、点線は電気的な接続を示しており、一点鎖線は信号を示している。尚、図1では、説明の便宜上、本実施形態に直接関係のある部材のみを図示しており、他の部材については図示を省略している。
【0040】
図1において、車両1は、エンジン(ENG)11、モータ・ジェネレータMG1及びMG2、バッテリ(BAT)12、PCU(Power Control Unit)13、遊星歯車機構15、パワーマネージメントECU(Electronic Control Unit)21、並びにMG−ECU22を備えて構成されている。
【0041】
遊星歯車機構15は、例えば、サンギヤSと、ピニオンギヤと、該ピニオンギヤを自転及び公転可能に支持するキャリアCAと、リングギヤRとを備えて構成されている。遊星歯車機構15のサンギヤSは、モータ・ジェネレータMG1のロータに連結されており、キャリアCAは、エンジン11に連結されており、リングギヤRは、動力伝達機構を介して、モータ・ジェネレータMG2のロータに連結されている。
【0042】
モータ・ジェネレータMG2は、そのロータが動力伝達機構に連結されている。モータ・ジェネレータMG2は、PCU13を介して、バッテリ12又はモータ・ジェネレータMG1から電力が供給されることにより、或いは、バッテリ12及びモータ・ジェネレータMG1から電力が供給されることにより、動力伝達機構を介して駆動輪14に駆動力を出力する。他方、モータ・ジェネレータMG2は、回生ブレーキとしても機能する。
【0043】
車両1では、エンジン11の動力を遊星歯車機構15により分割し、モータ・ジェネレータMG1による発電と、車両1の駆動とに使用している。つまり、車両1は、エンジン11の動力の少なくとも一部を発電に使用すると共に、エンジン11の他の部分及びモータ・ジェネレータMG2を車両1の駆動源として使用するシリーズ・パラレル方式のハイブリッド車両である。
【0044】
始動制御装置100は、エンジン11を始動する際に、モータ・ジェネレータMG1によりエンジン11をクランキングするためのトルク指令値を決定するパワーマネージメントECU21と、決定されたトルク指令値に基づいて、モータ・ジェネレータMG1を制御するためのトルク実値を算出するMG−ECU22と、クランク角センサ25と、温度センサ26とを備えて構成されている。パワーマネージメントECU21は、更に、決定されたトルク指令値、及びトルク指令値が決定されてからトルク実値が算出されるまでの時間差に応じて、エンジン11の予測回転数を算出する。
【0045】
本実施形態に係る「パワーマネージメントECU21」は、本発明に係る「トルク指令値決定手段」及び「予測回転数算出手段」の一例であり、本実施形態に係る「MG−ECU22」及び「温度センサ26」は、夫々、本発明に係る「トルク実値算出手段」及び「温度検出手段」の一例であり、本実施形態に係る「クランク角センサ25」は、本発明に係る「停止位置検出手段」及び「回転数検出手段」の一例である。本実施形態では、各種電子制御用のパワーマネージメントECU21及びMG−ECU22各々の機能の一部を、本実施形態に係る始動制御装置100の一部として用いている。
【0046】
次に、以上のように構成された始動制御装置100を搭載する車両1の主に走行中、エンジン11を始動する際に、パワーマネージメントECU21及びMG−ECU22各々が実行する始動制御処理について、図2を参照して説明する。図2は、本実施形態に係る始動制御処理の概要を示す制御ブロック図である。
【0047】
図2において、パワーマネージメントECU21は、クランク角センサ25からの信号に基づいてエンジン11の実際の回転数を取得する。尚、クランク角センサ25からの信号に基づいてエンジン11の回転数を求める方法は、公知の各種態様を適用可能である。
【0048】
次に、パワーマネージメントECU21は、取得された実際の回転数に、例えば平均化等の処理を施して、制御用回転数を算出する。これは、例えば計測誤差やコンプレッショントルク等によるエンジン11の回転数変動の影響を抑制するためである。
【0049】
次に、パワーマネージメントECU21は、算出された制御用回転数、及びエンジン11の予測回転数に基づいて(即ち、フィードフォワードにより)、モータ・ジェネレータMG1によりエンジン11をクランキングするためのトルク指令値を算出する。
【0050】
エンジン11の予測回転数は、例えば、基本予測回転数が求められ、該求められた基本予測回転数に所定の補正が施されることによって決定される。具体的には例えば、基本予測回転数は、クランキングトルクと到達回転数との関係に基づいて積算等により求められる。或いは、トルク指令値及びエンジン11の実際の回転数に基づいて回転数の上昇分が求められ、該求められた上昇分と前回の予測回転数とが加算されることにより求められる。或いは、過去数回分の回転数推移から予測される。
【0051】
本実施形態では特に、求められた基本予測回転数が、パワーマネージメントECU21においてトルク指令値が決定されてから、MG−ECU22においてトルク実値が算出されるまでの時間差(即ち、応答遅れ)に応じて補正される。
【0052】
パワーマネージメントECU21と、MG−ECU22とが別々に設けられている場合、何らの対策も採らなければ、例えば通信周期や演算周期等に起因して、パワーマネージメントECU21においてトルク指令値が決定されてから、MG−ECU22においてトルク実値が算出され、実際にモータ・ジェネレータMG1が制御されるまでには、応答遅れが生じる。
【0053】
ここで、応答遅れについて、図3を参照して具体的に説明する。図3は、応答遅れの概念を示す概念図である。図3において、実線は実際のモータ・ジェネレータMG1のトルク(上段)、及び実際のエンジン11の回転数(下段)を示している。他方、点線は、トルク指令値(上段)、及び制御用回転数(下段)を示している。
【0054】
パワーマネージメントECU21の通信周期(例えば、8ms(ミリ秒)等)に起因して、パワーマネージメントECU21においてトルク指令値が決定されたとしても、該決定されたトルク指令値を瞬時にMG−ECU22に送信することはできない。すると、図3の上段に示すように、モータ・ジェネレータMG1のトルクが実際に制御されるまでにはタイムラグが生じる。
【0055】
また、上述の如く、トルク指令値を算出する際に、パワーマネージメントECU21は、実際の回転数に平均化等の処理が施された制御用回転数を用いているので、図3の下段に示すように、該平均化等の処理に起因して、実際の回転数と制御用回転数との間に差が生じる。特に、クランキング初期には、共振帯を短時間で通過するように比較的大きなトルク指令値が算出されるため、エンジン11の回転数の上昇率が比較的大きく、実際の回転数と制御用回転数との差が比較的大きくなる。
【0056】
すると、例えば図3の時刻t1において、パワーマネージメントECU21が、クランキング時の省電力化を図るためにトルク指令値を低減したとしても、タイムラグにより、MG−ECU22により実際にトルクが低減されるのは時刻t2となる。このため、何らの対策も採らなければ、時刻t1から時刻t2までの期間に必要以上の電力が消費されてしまう。
【0057】
しかるに本実施形態では、上述の如く、応答遅れに応じて補正された予測回転数に基づいてトルク指令値が決定される。ここで、基本予測回転数の補正量は、例えば図4のようになる。図4は、トルク指令値と実トルク(即ち、算出されたトルク実値)とのずれと、補正量との関係の一例を示す図である。本実施形態では、「応答遅れ」を、トルク指令値と実トルクとのずれで表わしている。尚、補正量は、ずれを“x”として、例えば、Asin(wx)+Bx+Cという数式で表わせる(特に、変数w及びBは、バッテリ12の充電状態に応じた可変値である)。
【0058】
この結果、本実施形態に係る始動制御装置100は、エンジン11の回転数が共振帯を通過した後、比較的早期にクランキングトルクを低減することができるので、エンジン始動時の消費電力量を低減することができる。
【0059】
尚、上述した始動制御処理は、エンジン11の回転数がエンジン11に係る共振帯を含む所定範囲内であるときにのみ実行されてもよい。尚、「所定範囲」は、例えば、エンジン11の実際の回転数と、制御用回転数との差が、省電力化の観点から許容できないほど大きくなる範囲として設定すればよい。
【0060】
尚、パワーマネージメントECU21は、補正された予測回転数に基づいて、エンジン11の回転数が共振帯を通過したか否かを判定してもよい。
【0061】
<第2実施形態>
本発明の始動制御装置に係る第2実施形態を、図5を参照して説明する。第2実施形態では、始動制御処理の一部が異なる以外は、第1実施形態の構成と同様である。よって、第2実施形態について、第1実施形態と重複する説明を省略すると共に、図面上における共通箇所には同一符号を付して示し、基本的に異なる点についてのみ、図5を参照して説明する。図5は、図2と同趣旨の、本実施形態に係る始動制御処理の概要を示す制御ブロック図である。
【0062】
図5に示すように、パワーマネージメントECU21において、基本予測回転数は、応答遅れに加えて、温度センサ26からの信号により取得されたエンジン11の機関温度、及び/又はクランク角センサ25からの信号により取得されたエンジン始動時のクランク軸の停止位置に基づいて補正される。本実施形態に係る「パワーマネージメントECU21」は、本発明に係る「補正手段」の一例である。
【0063】
尚、クランク角センサ25からの信号に基づいてクランク軸の停止位置を求める方法は、公知の各種態様を適用可能である。
【0064】
本願発明者の研究によれば、以下の事項が判明している。即ち、エンジン11の回転数が同じであっても、機関温度に応じてフリクションが異なる。すると、エンジン11の回転数にのみ基づいてトルク指令値を算出すると、到達回転数が実際の到達回転数と異なる可能性がある。
【0065】
また、同じトルクでエンジン11をクランキングしたとしても、コンプレッションに応じてフリクションが異なる。具体的には例えば、圧縮行程では、圧縮仕事によりクランキングトルクが消費されるので、回転数の上昇が鈍くなる。他方、膨張行程では、膨張仕事によりクランキングトルクが増加するので、回転数の上昇が速くなる。すると、エンジン11の回転数にのみ基づいてトルク指令値を算出すると、到達回転数が実際の到達回転数と異なる可能性がある。
【0066】
特に、本実施形態のように、フィードフォワードでエンジン11の回転数を予測している場合、予測回転数と実際の回転数とが大きく乖離してしまう可能性がある。
【0067】
しかるに本実施形態では、機関温度及び/又はエンジン始動時のクランク軸の停止位置に基づいて、予測回転数が補正されるので、エンジン11のフリクションの変動に起因する予測精度の低下を抑制することができる。
【0068】
<第3実施形態>
本発明の始動制御装置に係る第3実施形態を、図6を参照して説明する。第3実施形態では、始動制御処理の一部が異なる以外は、第1実施形態の構成と同様である。よって、第3実施形態について、第1実施形態と重複する説明を省略すると共に、図面上における共通箇所には同一符号を付して示し、基本的に異なる点についてのみ、図6を参照して説明する。図6は、図2と同趣旨の、本実施形態に係る始動制御処理の概要を示す制御ブロック図である。
【0069】
図6に示すように、パワーマネージメントECU21において、基本予測回転数は、応答遅れに加えて、エンジン11の実際の回転数(即ち、回転数瞬時値)に基づいて補正される。
【0070】
本願発明者の研究によれば、以下の事項が判明している。即ち、エンジン11の回転数の変動には、例えば機関温度、コンプレッション、応答遅れ等と複数のパラメータが関与している。回転数の変動に、どのパラメータの影響が大きいのかは不明である。
【0071】
しかるに本発明では、上述の如く、エンジン11の実際の回転数に基づいて、基本予測回転数が補正される。即ち、フィードフォワード系に、フィードバック系を加えている。このため、予測精度を向上させることができ、実用上非常に有利である。
【0072】
<第4実施形態>
本発明の始動制御装置に係る第4実施形態を、図7を参照して説明する。第4実施形態では、始動制御処理の一部が異なる以外は、第1実施形態の構成と同様である。よって、第4実施形態について、第1実施形態と重複する説明を省略すると共に、図面上における共通箇所には同一符号を付して示し、基本的に異なる点についてのみ、図7を参照して説明する。図7は、図2と同趣旨の、本実施形態に係る始動制御処理の概要を示す制御ブロック図である。
【0073】
図7に示すように、パワーマネージメントECU21において、基本予測回転数は、応答遅れに加えて、学習されたエンジン11の特性(ここでは、機種差)に基づいて補正される。
【0074】
機種差は、エンジン11の始動履歴に含まれる、例えば回転数とトルクとの推移の関係等基づいて学習される。尚、本実施形態に係る「パワーマネージメントECU21」は、本発明に係る「学習手段」の一例である。
【0075】
本願発明者の研究によれば、以下の事項が判明している。即ち、例えばエンジンオイルの種類、イナーシャの機差バラツキ、経年変化等に起因してエンジンのフリクションに機差バラツキが生じることが判明している。具体的には例えば、ユーザがどのような種類(粘度)のエンジンオイルを使用するかを予測することは極めて困難である。また、オイル交換時に、ユーザが前回と同じエンジンオイルを選択するとは限らない。すると、機関温度が同じであってもフリクションが変化してしまう。仮に何らの対策もとらないとすれば、機差バラツキに起因して予測回転数の予測精度が低下する可能性がある。
【0076】
しかるに本実施形態では、上述の如く、学習された機種差に基づいて、基本予測回転数が補正される。このため、機差バラツキに起因する予測精度の低下を抑制することができる。
【0077】
尚、上述した、第1実施形態と、第2乃至第4実施形態のいずれか又は全部を組み合わせてもよい。
【0078】
本発明は、上述した実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う始動制御装置もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0079】
1…車両、11…エンジン、12…バッテリ、21…パワーマネージメントECU、22…MG−ECU、25…クランク角センサ、26…温度センサ、100…始動制御装置、MG1、MG2…モータ・ジェネレータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、前記エンジンに連結されたモータとを備えるハイブリッド車両に搭載され、
前記エンジンを始動する際に、前記モータにより前記エンジンをクランキングするためのトルク指令値を決定するトルク指令値決定手段と、
前記決定されたトルク指令値に基づいて、前記モータを制御するためのトルク実値を算出するトルク実値算出手段と、
前記決定されたトルク指令値、及び前記トルク指令値が決定されてから前記トルク実値が算出されるまでの時間差に応じて、前記エンジンの予測回転数を算出する予測回転数算出手段と
を備えることを特徴とする始動制御装置。
【請求項2】
前記トルク指令決定手段は、前記算出された予測回転数に基づいて、前記トルク指令値を決定することを特徴とする請求項1に記載の始動制御装置。
【請求項3】
前記エンジンの温度を検出する温度検出手段と、
前記検出された温度に基づいて、前記算出された予測回転数を補正する補正手段と
を更に備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の始動制御装置。
【請求項4】
前記エンジンの停止位置を検出する停止位置検出手段と、
前記検出された停止位置に基づいて、前記算出された予測回転数を補正する補正手段と
を更に備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の始動制御装置。
【請求項5】
前記エンジンの回転数を検出する回転数検出手段と、
前記検出された回転数に基づいて、前記算出された予測回転数を補正する補正手段と
を更に備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の始動制御装置。
【請求項6】
前記エンジンの特性であるエンジン特性を学習する学習手段と、
前記学習されたエンジン特性に基づいて、前記算出された予測回転数を補正する補正手段と
を更に備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の始動制御装置。
【請求項7】
前記予測回転数算出手段は、前記エンジンの回転数が前記エンジンに係る共振帯を含む所定範囲内であるときに、前記予測回転数を算出することを特徴とする請求項1又は2に記載の始動制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−230521(P2011−230521A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−99605(P2010−99605)
【出願日】平成22年4月23日(2010.4.23)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】