説明

孔軌跡の計測装置及び計測方法

【課題】管体のズレ等を原因とする計測誤差が生じるおそれがなく、しかも計測時間が長くなるとの問題も生じない孔軌跡の計測装置とする。
【解決手段】ロール角、ピッチ角及びヨー角を検出する角度検出装置41…と操作材72とを有し、角度検出装置41…が孔H内に挿入され、この挿入状態において操作材72を引くと角度検出装置41…が孔入口側へ移動して孔Hの軌跡を計測する構成とされた孔軌跡の計測装置であって、角度検出装置41…が直列的に複数備えられ、操作材72が最も孔入口側に位置する角度検出装置44に取り付けられ、角度検出装置41…同士が所定長L離間するように連結材71によって連結され、操作材72を引くと角度検出装置41…が孔入口側へ移動して、それぞれの角度検出装置41…が隣接する角度検出装置42…までの孔軌跡を計測する構成とされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤に形成された削孔等の孔の軌跡を計測する装置及び方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、適宜方向を変えながら地盤を削孔可能な方向制御削孔装置が開発され、注目されている(例えば、特許文献1、特許文献2等参照。)。この削孔装置は、曲がり可能な削孔管、この削孔管を軸心回りに回転させる回転手段、削孔管の先端部に備わるテーパービット等で構成されている。テーパービットの先端面は、削孔管の軸方向に対して傾斜する平坦面(受圧面)とされている。したがって、削孔管に推進力のみを与えると、受圧面が受ける径方向(軸方向に直交する方向)への圧力によって削孔管の推進方向が変化し、曲線的な削孔が行われる。他方、削孔管に推進力と伴に回転力を与えると、受圧面が受ける径方向への圧力が相殺されるため、直線的な削孔が行われる。
【0003】
この従来の方向制御削孔装置を使用すると、例えば、地盤表面から既設構造物等の下方に各種管体を建て込むことができる。したがって、既設構造物等の使用を中断することなく、施工を行うことができ、大変有用であるとされている。もっとも、この従来の方向制御削孔装置を使用して削孔を行った場合は、地盤中における削孔管先端部の位置や削孔の軌跡等を正確に把握することができない。
【0004】
そこで、本出願人は、水平方向の角速度を検出する角速度検出器と、絶対的な傾斜角を検出する傾斜角検出器とから主になる角度検出装置(固定式検出装置)を削孔管の先端部に設ける提案を行った(例えば、特許文献3、特許文献4等参照。)。この固定式検出装置が設けられた方向制御削孔装置を使用して地盤を削孔するにあたっては、まず、所定区間の削孔を行い、この段階で削孔管の回転を止めて当該所定区間の分だけ削孔管を後退させる。次いで、当該所定区間の分だけ削孔管を推進させて元の位置に戻す。この削孔管の推進に際しては角速度検出器によって角速度を検出する。検出した角速度は、積分して方位角変化量を求める。他方、削孔管の先端部が所定区間の先端部に位置する状態においては、傾斜角検出器によって当該先端部の傾斜角を検出する。このようにして得た方位角変化量及び傾斜角に基づいて所定区間の後端部に対する先端部の相対位置を求める。さらに、この相対位置に基づいて削孔先端部の現在位置を求める。この計測方法においては、削孔管先端部の位置や削孔の軌跡等を正確に把握することができる。また、削孔先端部の位置を確認しながら削孔を進めることができるため、削孔方向を正確に制御することができる。
【0005】
もっとも、この従来の削孔方法は、所定区間毎に後端部に対する先端部の相対位置を求め、この相対位置を順次合算することによって現在位置を算出するものである。したがって、削孔の途中において、例えば軟弱地盤である等を原因として削孔管が動いて(ずれて)しまった場合には、計測誤差や削孔誤差が生じるおそれがある。
【0006】
そこで、現在においても、例えば、加速度計を2軸又は3軸に組み合わせ、あるいはこれに水平方向の角度を検出する磁石やジャイロ等を組み合わせてなる角度検出装置(挿入式検出装置)を使用して削孔の軌跡を計測する方法が存続し続けている。この計測方法は、挿入式検出装置を地盤に形成された孔内に挿入し、当該孔内を孔軸に沿って移動させることで削孔の軌跡を計測するものである。また、この計測方法は、全削孔区間の削孔が終了した後、当該全削孔区間の計測を連続的に行うものである。したがって、削孔管のズレ等を原因とする計測誤差が生じるおそれがない。
【0007】
もっとも、この計測方法においても、挿入式検出装置の移動に伴う踊り量やドリフトレート等を原因とする誤差が生じるおそれがある。そこで、近年では、これらの誤差を補正してより正確な計測結果を得る方法も提案されている(例えば、特許文献5、特許文献6等参照。)。また、本出願人も、これらの提案を更に一歩進め、孔内の撮像手段が備えられた計測装置の提案を行っている(特許文献7参照)。
【0008】
このように、挿入式検出装置を使用して削孔の軌跡を計測する方法は、計測誤差を防止するための様々な改良が行われている。しかるに、この計測方法は、挿入式検出装置を孔先端部と孔入口との間において移動させて計測する方法であるため、計測時間が長くなるとの問題を有している。そして、この問題は、解決されるに至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−194990号公報
【特許文献2】特開平8−120661号公報
【特許文献3】特開2004−183374号公報
【特許文献4】特開2004−183375号公報
【特許文献5】特開平6−281464号公報
【特許文献6】特開平7−12562号公報
【特許文献7】特開2007−205956号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明が解決しようとする主たる課題は、管体のズレ等を原因とする計測誤差が生じるおそれがなく、しかも計測時間が長くなるとの問題も生じない孔軌跡の計測装置及び計測方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この課題を解決した本発明は、次の通りである。
〔請求項1記載の発明〕
ロール角、ピッチ角及びヨー角を検出する角度検出装置と、
この角度検出装置に取り付けられた操作材と、を有し、
前記角度検出装置が孔内に挿入され、この挿入状態において前記操作材を引くと前記角度検出装置が孔入口側へ移動して、又は前記操作材を押すと前記角度検出装置が孔先端側へ移動して前記孔の軌跡を計測する構成とされた、孔軌跡の計測装置であって、
前記角度検出装置が直列的に複数備えられ、
前記操作材が最も孔入口側に位置する角度検出装置に取り付けられ、
相互に隣接する角度検出装置同士が所定長離間するように連結材によって連結され、
前記操作材を引くと前記複数の角度検出装置がそれぞれ孔入口側へ移動して、又は前記操作材を押すと前記複数の角度検出装置がそれぞれ孔先端側へ移動して、それぞれの角度検出装置が隣接する角度検出装置までの孔軌跡を計測する構成とされた、
ことを特徴とする孔軌跡の計測装置。
【0012】
〔請求項2記載の発明〕
ロール角、ピッチ角及びヨー角を検出する角度検出装置を孔内に挿入し、当該角度検出装置に取り付けられた操作材を引き、当該角度検出装置を孔入口側へ移動して、又は前記操作材を押し、前記角度検出装置を孔先端側へ移動して、前記孔の軌跡を計測する、孔軌跡の計測方法であって、
前記角度検出装置を、相互に隣接する角度検出装置同士が所定長離間するように直列的に複数連結し、
前記操作材は、最も孔入口側に位置する角度検出装置に取り付け、
前記操作材を引いて前記複数の角度検出装置をそれぞれ孔入口側へ移動し、又は、前記操作材を押して前記複数の角度検出装置をそれぞれ孔先端側へ移動し、それぞれの角度検出装置によって隣接する角度検出装置までの孔軌跡を計測する、
ことを特徴とする孔軌跡の計測方法。
【0013】
(主な作用効果)
ロール角、ピッチ角及びヨー角を検出する角度検出装置を孔内に挿入し、角度検出装置に取り付けられた操作材を引き、角度検出装置を孔入口側へ移動して、又は前記操作材を押し、角度検出装置を孔先端側へ移動して、孔の軌跡を計測する方法によると、管体のズレ等を原因とする計測誤差が生じるおそれがない。また、角度検出装置を相互に隣接する角度検出装置同士が所定長離間するように直列的に複数連結し、操作材は最も孔入口側に位置する角度検出装置に取り付け、操作材を引いて複数の角度検出装置をそれぞれ孔入口側へ移動し、又は操作材を押して複数の角度検出装置をそれぞれ孔先端側へ移動し、それぞれの角度検出装置によって隣接する角度検出装置までの孔軌跡を計測する方法によると、孔の軌跡を計測する際における角度検出装置の移動距離が短くなるため、計測時間が長くなるとの問題が生じない。
【発明の効果】
【0014】
発明によると、管体のズレ等を原因とする計測誤差が生じるおそれがなく、しかも計測時間が長くなるとの問題も生じない孔軌跡の計測装置及び計測方法となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】地盤に削孔を形成する際の断面概要図である。
【図2】方向制御削孔方法の説明図である。
【図3】固定式検出装置を使用した孔軌跡の計測方法を説明するための断面模式図である。
【図4】所定区間の後端部に対する先端部の相対位置を求める方法を説明するための概要図である。
【図5】挿入式検出装置を使用した孔軌跡の計測方法を説明するための断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明を実施するための形態について説明する。なお、以下では、固定式検出装置が備わる方向制御削孔装置を使用して地盤中に孔を形成し、次いで、当該孔の軌跡を本形態の挿入式検出装置が備わる計測装置を使用して計測する場合について説明する。
【0017】
本形態の方向制御削孔装置には、図1に示すように、地盤Gに曲線的に挿入可能な削孔管5及び図示しない回転進退手段が備えられている。回転進退手段は、削孔管5を軸心回り回転させ、また、推進及び後退(進退)させる装置である。
【0018】
削孔管5先端部5Fの例えば内空部には、水平方向の角速度を検出する角速度検出器AD及び絶対的な傾斜角を検出する傾斜角検出器BDが備わる固定式検出装置Dが内蔵されている。この固定式検出装置Dを使用すると、リアルタイムで孔H(削孔管5)の軌跡を計測することができる。なお、この固定式検出装置Dを使用した計測には、削孔管5のズレ等を原因とする計測誤差が生じるおそれがある点は、前述した通りである。また、リアルタイムでの計測が必要ない場合は、この計測を省略することもできる。
【0019】
削孔管5は鋼管等の曲がる材料によって主に形成されているが、削孔管5の固定式検出装置Dが内蔵された部位は、当該固定式検出装置Dが破壊等されないよう曲がらない材料によって形成されている。ただし、このように材料を異なるものとせず、例えば管厚、管径等を異なるものとすることによって曲がる部位、曲がらない部位、曲がり易い部位、曲がり難い部位等を形成することもできる。
【0020】
削孔管5は、地盤Gに挿入(削孔)するに際して単位管を直列接続することによって構築することができる。この際、曲がる単位管、曲がらない単位管、曲がり易い単位管、曲がり難い単位管等を適宜接続することによって曲がる部位、曲がらない部位、曲がり易い部位、曲がり難い部位等を形成することもできる。
【0021】
単位管としては、例えば、一端部に雌ネジが形成され、他端部に雄ネジが形成されており、相互に隣接する単位管を螺合することによって接続(連結)することができるものを使用することができる。
【0022】
削孔管5の内径や外径は特に限定されず、例えば外径5〜20cmとすることができる。また、曲がらない部位や曲がり難い部位の長さは、例えば軸方向に10〜50cmとすることができる。
【0023】
削孔管5の先端縁には、図2にも示すように、軸心方向に対して傾斜した平坦面(受圧面)60を有するテーパービット6が取り付けられている。テーパービット6は、円柱体の頭部側が軸方向に対して斜め方向にカットされ、このカット面が受圧面60とされた形状とされている。テーパービット6は、例えば鋳造等によって製造することができる。
【0024】
本形態の方向制御削孔方法においては、テーパービット6を用いて削孔管5の削孔方向(推進方向)を制御する。具体的には、削孔管5を曲線推進させる場合は、図2の(a)に示すように、削孔管5の回転を止め、当該削孔管5に推進力のみを与える。この際、受圧面60は、その先端縁が削孔管5の軸心に対して推進させる側(曲げる側)に位置する状態としておく。この状態で削孔管5に推進力を与えると、受圧面60が地盤Gから受ける圧力を逃すために削孔管5が受圧面60の先端縁側に曲線推進する。この曲線推進は、三次元的に行うこともでき、例えば削孔管5を鉛直面方向に曲げるだけではなく、水平面方向に曲げることもできる。
【0025】
一方、削孔管5を直線推進させる場合は、図2の(b)に示すように、削孔管5を軸心回りに回転させながら、当該削孔管5に推進力を与える。削孔管5を軸心回りに回転させることで受圧面60が地盤Gから受ける径方向の圧力が相殺され、軸心方向の圧力のみとなり、削孔管5が直線推進する。
【0026】
図1に示す例では、削孔管5を地盤Gの表面(地表面)から目標層まで曲線状に推進させ、その後、目標層内を水平方向に直線推進させた状態を示している。削孔管5は、この状態で削孔終了とすることや、更に地盤Gの表面に向かって曲線推進させたり、立坑内に向かって直線推進させたりすること等ができる。
【0027】
本形態の方向制御削孔方法や装置は、例えば、集水管や排水管、下水管、水道管、ガス管、各種ケーブル等を通す地中管等を地盤G中に非開削で設置する場合等に適用することができる。また、地盤G中に薬液注入管を挿入する場合等にも適用することができる。
【0028】
固定式検出装置Dの傾斜角検出器BDとしては、例えば、相互に直交するX軸方向、Y軸方向及びZ軸方向の重力加速度を検出する三軸静加速度計等を使用することができる。この加速度計を使用した場合は、検出された各軸方向の重力加速度を次式に代入することによって傾斜角を算出することができる。
傾斜角=tan-1(((X軸重力加速度)2+(Z軸重力加速度)21/2/Y軸重力加速度)
【0029】
角速度検出器AD及び傾斜角検出器BDの基準軸は、演算を簡素化するために、削孔管5の軸心(回転中心軸)に一致させるのが好ましい。また、角速度検出器ADや傾斜角検出器BDは、信号送受信装置やスリップリング等を介して図示しない信号伝送用電線(信号線)に電気的に接続される。この信号線は、例えば、削孔管5内を通され、削孔管5の基端部(後端部)から削孔管5外に導出され、図示しない外部制御装置等に接続される。当該信号線は、角速度検出器ADや傾斜角検出器BDからの検出信号を伝送するために利用することができるとともに、角速度検出器ADや傾斜角検出器BDに電力を供給するためにも利用することができる。また、角速度検出器ADや傾斜角検出器BDからの検出信号は、無線方式で伝送することもできる。無線方式とする場合、角速度検出器ADや傾斜角検出器BDの電力は、充電池等を利用して供給することができる。
【0030】
角速度検出器ADとしては、磁石のほか、例えば、レートジャイロ等の各種ジャイロ等を用いた少なくとも1軸の角速度を検出する角速度検出器を好適に用いることができる。
【0031】
角速度検出器ADを取り付けた削孔管5が回転や捩れ等によりローリングしてしまうと、削孔管5の水平方向の方位角を計測するのが困難となる。そこで、削孔管5のロール角を検出するジャイロ等を別途設け、この検出値に基づいて水平方向の方位角を補正することができる。なお、このロール角の検出によって受圧面60の向きも把握することができる。
【0032】
固定式検出装置Dが設けられた方向制御削孔装置を利用して地盤Gを削孔するにあたっては、まず、所定区間の削孔を行い、この段階でいったん削孔管5の後退及び推進を行う。この後退及び推進に際しては、所定区間の後端部(削孔管5の挿入部)に対する先端部の相対位置を求め、この相対位置に基づいて所定区間先端部の現在位置を求める。
【0033】
より詳細には、まず、図3の(A)に示すように、削孔管5を地盤Gの表面に臨ませ、図3の(B)に示すように、必要により削孔管5を回転させながら所定区間L1の削孔を行う。次に、図3の(C)に示すように、回転を止めた状態で削孔管5を後退させて削孔管先端部に内蔵された固定式検出装置Dを所定区間L1の先端部から後端部まで移動する。次に、図3の(D)に示すように、回転を止めた状態で削孔管5を推進させて固定式検出装置Dを所定区間L1の後端部から先端部まで移動する。
【0034】
以上の削孔管5の後退(図3の(C))又は推進(図3の(D))に際しては、角速度検出器ADによって角速度を検出する。検出された角速度は、積分して所定区間L1における水平方向の方位角変化量を求める。角速度の検出は、削孔管5の後退に際して行っても、削孔管5の推進に際して行ってもよいが、推進に際して行う方が好ましい。角速度の検出を削孔管5の後退に際して行うと、その後の削孔管5の推進に際して削孔管5が動いて(ずれて)しまった場合に、計測誤差が生じるおそれがある。
【0035】
一方、固定式検出装置Dが所定区間L1の先端部に位置するときに傾斜角検出器BDによって傾斜角を検出する。この傾斜角の検出は、削孔管5を後退する前(図3の(B)の状態)に行うこともできるが、削孔管5を後退及び推進した後に行う方が好ましい。削孔管5を後退する前に行うと、その後の削孔管5の後退及び推進に際して削孔管5が動いて(ずれて)しまった場合に、計測誤差が生じるおそれがある。なお、所定区間L1の後端部(削孔管5の挿入部)は、原点となるため、傾斜角検出器BDによる傾斜角の検出は不要である。
【0036】
以上のようにして方位角変化量及び傾斜角を得たら、これらの値に基づいて所定区間L1の後端部に対する先端部の相対位置を求め、この相対位置に基づいて所定区間L1先端部の現在位置を求める。そして、この現在位置に基づいて、図3の(E)〜(G)に示すように、必要により削孔管(単位管)5に他の単位管5Aを継ぎ足し、次の所定区間L2について同様の作業を行う。以後、所定区間ごとに、同様の作業を繰り返す。この際、必要に応じて単位管を継ぎ足しながら作業を行う。なお、図3は直線的に削孔を行う場合を示しているが、曲線的に削孔を行う場合も同様である。
【0037】
ここで方位角変化量及び傾斜角に基づいて、各所定区間L1,L2…の後端部に対する先端部の相対位置を求める方法について説明する。
例えば、図4に示すように、X軸、Y軸及びZ軸(鉛直方向)からなる三次元直交座標の原点位置から削孔を行い、i番目の所定区間Liの削孔並びに方位角変化量及び傾斜角の算出を終えたとする。この場合、所定区間Li先端部の位置座標は、接線法等の公知の坑跡計算方法を用いると次の通りとなる。
i=Xi-1−Sisin・VisinΣWn(n=1〜i)
i=Yi-1+Sisin・VicosΣWn(n=1〜i)
i=Zi-1+Sicos・Vi
ここで、Siは所定区間Liの距離であり、削孔管5の回転進退手段にストローク計を取り付ける等して計測することができる。また、Viは、所定区間Li先端部のZ軸方向に対する傾斜角(絶対的な傾斜角)であり、傾斜角検出器BDによって検出される。さらに、Wiは、所定区間L1における水平方向の方位角変化量であり、角速度検出器ADによって検出される角速度を積分することによって算出される。また、Xi,Yi,Ziは、それぞれ所定区間Li先端部のX座標,Y座標,Z座標であり、Xi-1,Yi-1,Zi-1は、それぞれ所定区間Li-1先端部のX座標,Y座標,Z座標である。したがって、相対位置(ΔXi-1,ΔYi-1,ΔZi-1)は、次の通りとなる。
ΔXi-1=Xi−Xi-1=−Sisin・VisinΣWn(n=1〜i)
ΔYi-1=Yi−Yi-1=Sisin・VicosΣWn(n=1〜i)
ΔZi-1=Zi−Zi-1=Sicos・Vi
【0038】
このようにして算出した相対位置を適宜記録、合算等することで、孔の軌跡や現在位置を把握することができる。また、算出した位置座標は、適宜図形化する等してディスプレイ装置や印刷装置等に出力することができる。この出力にあたっては、例えば、特開2003−85594号公報等を参照することができる。
【0039】
以上の固定式検出装置Dを使用した方向制御削孔方法によると、削孔管5の軌跡をリアルタイム計測することができる(なお、当該削孔管5は孔Hに沿うため、孔Hの軌跡も同様に計測されたことになる。)。しかしながら、当該方法によると、削孔管5のズレ等を原因として計測誤差が生じるおそれがある。そこで、本形態においては、削孔が終了した段階で、あるいは上記した削孔及び先端部の相対位置を求める作業(固定式検出装置Dによる計測)を所定回繰り返した段階で、地盤G中の削孔管5内に挿入式検出装置(角度検出装置)を挿入し、この挿入式検出装置を使用して削孔管5(孔H)の軌跡を正確に計測する。なお、本形態においては、挿入式検出装置が削孔管5内に挿入されるが、削孔管5は孔H内に挿通された状態にある。したがって、挿入式検出装置の削孔管5内への挿入は孔H内への挿入でもある。
【0040】
より詳細には、まず、図5の(a)に示すように、挿入式検出装置41,42…を複数台用意する。この挿入式検出装置41,42…の台数は特に限定されず、孔Hの長さ等に応じて適宜の数とすることができる。図示例では、4台(挿入式検出装置41〜44)とされているが、2台、3台とすることも、5台以上の複数台とすることもできる。
【0041】
本形態の挿入式検出装置41,42…は、円筒状のケーシング内にロール角、ピッチ角及びヨー角(方位角)を検出する検出器48が収納された構成とされている。
【0042】
検出器48は、ロール角、ピッチ角及びヨー角を検出することができるものであれば足り、例えば、ピッチ角及びロール角を計測する傾斜計(振り子式、サーボ式等)と、ヨー角を計測する磁石や角速度計とを組み合わせたものを使用することができる。
【0043】
傾斜計としては、例えば、相互に直交するX軸・Y軸・Z軸方向の重力加速度を検出する三軸静加速度計を使用することができる。また、角速度計としては、レートジャイロ、DTGジャイロ等の各種ジャイロ等を用いた少なくとも1軸の角速度を検出する角速度計を使用することができる。演算の簡素化のために、傾斜計の基準軸と角速度計の基準軸とは一致させるのが好ましい。
【0044】
一方、ケーシングの周面には、先端側と後端側(基端側)とにそれぞれ車輪49が周方向に90度間隔で4つずつ取付けられている。この車輪49の存在により、挿入式検出装置41,42…が孔H(削孔管5)の内壁面と接触するとしてもスムーズに移動する。
【0045】
車輪49は、例えば、120度間隔で3つずつ取付けることや、5つ以上の複数ずつ取付けることも可能である。また、挿入される削孔管5の口径との関係で、車輪43が削孔管5の内壁面と常に接触している必要はない。
【0046】
複数の挿入式検出装置41,42…は、連結材71によって直列的に連結されている。また、挿入時において最も孔入口側に位置する挿入式検出装置44には、操作材72が取り付けられている。連結材71や操作材72は、例えば、ワイヤー、ケーブル、棒材等からなる線材や帯材等によって構成することができる。ただし、操作材72を押して計測する場合は、当該操作材72は棒材等の剛性を有するものである必要がある。
【0047】
以上のようにしてなる挿入式検出装置41,42…を使用して孔H(削孔管5)の軌跡を計測するにあたっては、図5の(b)に示すように、孔H内(特に図示はしないが削孔管5内)に複数の挿入式検出装置41,42…を順に挿入する。図示例においては孔Hが垂直方向に形成されているため、当該挿入式検出装置41,42…の挿入は、当該挿入式検出装置41,42…を孔H内に落とし込めば足りる。例えば、孔Hが水平方向に形成されている場合等においては、連結材71や操作材72を変形し難い棒材等で構成し、当該棒材等によって挿入式検出装置41,42…を孔H内に押し込むことで挿入することができる。
【0048】
孔H内に挿入された複数の挿入式検出装置41,42…は、先端の挿入式検出装置41が孔Hの先端部に位置し、相互に隣接する挿入式検出装置41,42…同士が所定長L離間する状態とする。この離間距離Lは、連結材71の長さを調節することによって調節することができる。離間距離Lは特に限定されず、例えば、2〜10mとすることができる。
【0049】
ただし、本形態のように固定式検出装置Dによる孔軌跡の計測を行っている場合においては、前述所定区間L1,L2…の距離と離間距離Lとを同一長とするのが好ましい。前述したように固定式検出装置Dを使用して孔軌跡を計測すると削孔管5のズレ等を原因として誤差が生じるおそれがある。一方、挿入式検出装置41,42…を使用した孔軌跡の計測は誤差が生じるおそれがない。つまり、両者の計測値には不一致が生じる。しかるに、固定式検出装置Dを使用して得た各所定区間L1,L2…先端部の計測置と挿入式検出装置41,42…を使用して得た同位置(同じ位置)の計測値とを比較可能とすれば、当該位置におけるズレを正確に把握することができる。したがって、孔Hの断面形状を把握することもできるようになる。例えば、挿入式検出装置41,42…を使用して得た計測値が上方にずれたようであれば、孔Hが縦長楕円形状に変形していることが推定される。このような場合、例えば、マンシェットチューブを用いて薬液注入を行う際にスリーブが孔Hの内壁に当接しないことが予想されるため、予め対策をとることが可能になる。なお、この孔Hの断面形状把握は、削孔管5が地盤Gに曲線的に挿入可能である場合にのみ適用されるものではなく、したがって方向制御削孔以外の削孔においても適用可能である。
【0050】
挿入式検出装置41,42…を使用して孔Hの軌跡を計測するにあたっては、図5の(c)に示すように、操作材72を引いて複数の挿入式検出装置41,42…を孔入口側へ移動する。この移動は、最も孔入口側に位置する挿入式検出装置44を除く各挿入式検出装置41,42…が孔入口側において隣接する挿入式検出装置42,43…が存在した位置まで移動するように行う。この移動によって、それぞれの角度検出装置41,42…が隣接する角度検出装置42,43…が存在した位置までの孔軌跡を計測することになる。したがって、削孔管5のズレ等を原因とする計測誤差が生じるおそれがなく、しかも、挿入式検出装置41,42…の移動距離が短くなるため、計測時間が長くなるとの問題が生じない。しかも、移動距離が短いため、ドリフトレート等による誤差が生じる可能性も減少する。なお、最も孔入口側に位置する挿入式検出装置44は、移動に伴って孔外に引き出され、孔入口までの孔軌跡を計測することになる。また、特に図示はしないが、操作材72を押して複数の挿入式検出装置41,42…を孔先端側へ移動して計測することもできる。
【0051】
最先端に位置する挿入式検出装置41の先端面には、照明手段としての発光ダイオードや、削孔管5内を撮影する撮像手段としてのCCDカメラ等を設けることができる。CCDカメラの外周に複数の発光ダイオードが等間隔に配設され、この発光ダイオードにより、前方が照らされる。発光ダイオードにより照射された対象がCCDカメラに映し出され、その映像信号はカメラケーブルを介して、カメラモニター等に伝送される。このようにCCDカメラが最先端に位置する挿入式検出装置41に取付けられていると、何らかの原因で挿入式検出装置41,42…が途中で引掛かり、それ以上先に挿入することができなくなったとしても、視覚的に障害物を特定できる。加えて、別途管内カメラ等を挿入する手間を省くことができる。また、削孔管5の亀裂や破損等の状況を把握することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、地盤に形成された削孔等の孔の軌跡を計測する装置及び方法として適用可能である。
【符号の説明】
【0053】
5…削孔管、6…テーパービット、41〜44…挿入式検出装置、48…検出器、60…平坦面(受圧面)、71…連結材、72…操作材、D…固定式検出装置、G…地盤、H…孔。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロール角、ピッチ角及びヨー角を検出する角度検出装置と、
この角度検出装置に取り付けられた操作材と、を有し、
前記角度検出装置が孔内に挿入され、この挿入状態において前記操作材を引くと前記角度検出装置が孔入口側へ移動して、又は前記操作材を押すと前記角度検出装置が孔先端側へ移動して前記孔の軌跡を計測する構成とされた、孔軌跡の計測装置であって、
前記角度検出装置が直列的に複数備えられ、
前記操作材が最も孔入口側に位置する角度検出装置に取り付けられ、
相互に隣接する角度検出装置同士が所定長離間するように連結材によって連結され、
前記操作材を引くと前記複数の角度検出装置がそれぞれ孔入口側へ移動して、又は前記操作材を押すと前記複数の角度検出装置がそれぞれ孔先端側へ移動して、それぞれの角度検出装置が隣接する角度検出装置までの孔軌跡を計測する構成とされた、
ことを特徴とする孔軌跡の計測装置。
【請求項2】
ロール角、ピッチ角及びヨー角を検出する角度検出装置を孔内に挿入し、当該角度検出装置に取り付けられた操作材を引き、当該角度検出装置を孔入口側へ移動して、又は前記操作材を押し、前記角度検出装置を孔先端側へ移動して、前記孔の軌跡を計測する、孔軌跡の計測方法であって、
前記角度検出装置を、相互に隣接する角度検出装置同士が所定長離間するように直列的に複数連結し、
前記操作材は、最も孔入口側に位置する角度検出装置に取り付け、
前記操作材を引いて前記複数の角度検出装置をそれぞれ孔入口側へ移動し、又は、前記操作材を押して前記複数の角度検出装置をそれぞれ孔先端側へ移動し、それぞれの角度検出装置によって隣接する角度検出装置までの孔軌跡を計測する、
ことを特徴とする孔軌跡の計測方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−113829(P2013−113829A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−263248(P2011−263248)
【出願日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【出願人】(000115463)ライト工業株式会社 (137)
【Fターム(参考)】