説明

安全エアバッグ用コーティング織布または編布

本発明は、安全エアバッグ用コーティング織布または編布、並びにそれらの製造方法に関する。特に、本発明は、サイジング処理工程または洗浄工程を含まない方法を用いて得られ、かつ表面に予め定められた量の潤滑組成物を有する糸から製造された安全エアバッグ用コーティング織布または編布に関する。本発明は、さらに、上記のコーティング織布または編布からなる安全エアバッグに加え、安全エアバッグ用コーティング織布または編布の製造に関する前記糸の使用方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安全エアバッグ用コーティング織布または編布、およびその製造方法に関する。本発明は、特に、表面に既定量の潤滑組成物を有する糸から,接着コーティング工程または洗浄工程を経ることなく得られる安全エアバッグ用コーティング織布または編布に関する。本発明は、さらに、コーティング織布または編布素材の安全エアバッグで使用される糸の使用方法、ならびにコーティング織布または編布から成る安全エアバッグに関する。
【背景技術】
【0002】
製織用糸は、粘着性を確保するために通常撚られる。しかしながら、撚りは次第にフィラメントを混合させる空気方法に代替されつつある。この方法によると、流動体および混合装置の圧力に応じて、結合点の数、つまりフィラメントが節を形成する点の数を糸の最終的な外観と糸のその後の使用方法に適合するように変更可能である。
【0003】
繊維および糸の滑りを良くするために、軟化油または軟化剤を塗布するのが従来の方法である。人工合成連続糸に関する限り、油または軟化剤は糸の製造工程で一回以上塗布される。軟化油または軟化剤は通常、一連の洗浄工程での織布の処理によって製織後に取り除かれる。軟化油または軟化剤の存在は実際に有害であり、安全エアバッグの場合には特に有害である。例えば、軟化油または軟化剤は、布の保護コーティングへの接着力を弱める他、エアバッグの耐火性および耐熱性を減退させることがある。
【0004】
縦糸を使用するとき、基本的には製織時に、綜絖シャフトの上下運動によって部分的に糸が互いに擦れ、また部分的に糸が糸の通る綜絖の目、リードのくぼみ、スレー、巻き出し構造、縦糸停止動作などの織機構造と擦れることが知られている。摩擦が製織の実際の作動や、その結果製造された布の品質に不利となる欠陥をもたらすことを防ぐため、あらかじめ糸にサイジング処理が施される。サイジング処理は、繊維糸の繊維結束性を強化し、糸の保護鞘を形成するためのものであり、人工合成連続マルチフィラメント糸にも適用される。目に見える欠陥をなくし、破れ、ほつれを最小化するために、サイジング処理によってフィラメント(一般的に細番手であり、したがって壊れやすい。)を定着させ、さらに、連続糸を上記した摩擦から保護するための鞘で覆うことで、糸と織機構造間の滑りだけでなく糸どうしの滑りも促進させる必要がある。これらのサイジング剤は通常、一連のデサイジング工程での織布処理によって製織の後で取り除かれる。デサイジング工程では、糸に存在する軟化油および軟化剤も取り除く。上記した洗浄作業は、この場合、デサイジング工程で実行される。
【0005】
サイジング処理およびデサイジング処理に要するコストを削減するため、すなわち、糸についての2つの製造工程を廃止するために、環境に有害であるサイジング処理を廃止する試みがなされてきた。さらに、サイジング剤は、使用されている製品の種類、糸の種類および繊維構造によっては完全に取り除くことが難しい場合があり、布内にサイジング剤が残留する危険性がある。これら残留物の存在は有害であり、安全エアバッグの場合には特に有害である。例えば、サイジング剤は時間の経過とともに製品の機能を衰えさせる他、耐火性および耐熱性を減退させることがある。
【0006】
したがって、車両搭乗者用の個人保護バッグ(「エアバッグ」)に用いられる布の製造において、サイジング工程および洗浄工程を廃止する試みがなされてきた。しかしながら、サイジング工程および洗浄工程を廃止しても、安全エアバッグの素材として必要とされる繊維特性を変えず維持させる必要がある。
【0007】
安全エアバッグには2種類のベース布が存在する。シリコーン樹脂のような保護エラストマーコーティング層を持つ布と、主に重量の理由から保護エラストマーコーティング層を持たない布である。
【0008】
歴史的に見れば、保護コーティングされた布に関する限り、保護バッグは、少なくとも一表面がクロロプレンタイプのエラストマー層で覆われたポリアミド(Nylon(R))のような合成繊維から成る布でできている。このエアバッグ(または膨張可能なクッション)は、折りたたまれて圧縮されたポリアミド素材のエアバッグである。このような保護層または保護コーティングの存在は、衝撃時にガス発生器によって放出されたガス(一酸化炭素または窒素酸化物など)が非常に熱く、Nylon(R)素材のバッグを損傷させ得る白熱粒子を含むという事実によって決定付けられる。
【0009】
保護シリコーンコーティングも使用されている。シリコーンコーティングは通常、基質を覆い、その基質を化学処理することで形成される。その化学処理とは、オルガノシロキサン重合体の不飽和群(例えば、Si−Vi等のアルケニル)を同一の、または異なるオルガノシロキサン重合体の水素に重付加する処理である。
【0010】
エアバッグの壁を形成する内部エラストマーコーティング層と合成繊維支持体は、完全に接着し、高温と機械的圧力に持ちこたえなければならない。特にエアバッグは、優れた防しわ性および耐磨耗性(スクラブテスト耐性)に加え、優れた耐火性、耐熱性を持たなければならない。
【0011】
したがって、保護コーティングを有する安全エアバッグの場合は特に、その布の製造時にサイジング工程および洗浄工程を廃止する一方で、安全エアバッグとしてその適用に必要とされる繊維特性、特に耐火性、耐熱性、防しわ性および耐磨耗性(スクラブテスト耐性)を変えることなく維持する試みがなされてきた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そのために、本発明は、第一の目的として、表面に既定量の潤滑組成物を持つ基礎織布(または編布)の少なくとも一表面をエラストマーで覆うことによって得られる安全エアバッグ用コーティング織布(または編布)を提供するものである。
【0013】
本発明は、第二の目的として、特にサイジング工程および洗浄工程を含まない方法によって、コーティング織布または編布を製造する方法を提供するものである。
【0014】
本発明は、第三の目的として、安全エアバッグ用コーティング織布または編布を製造するために、表面に既定量の潤滑組成物を持つ糸の使用方法を提供するものである。
【0015】
本発明は、第四の目的として、コーティング織布または編布から成る安全エアバッグを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、第一の目的との関連において、基礎織布または編布の少なくとも一表面をエラストマーで覆うことによって得られる安全エアバッグ用コーティング織布または編布を提供するものであり、その基礎織布または編布はその表面が少なくとも部分的に潤滑組成物を持つ糸で形成されている。潤滑組成物(固形分)の平均重量比は、基礎織布または編布の重量に対して0.2〜0.7%、望ましくは0.3〜0.7%(境界値を含む。)である。基礎織布または編布の重量に対して潤滑組成物の占める平均重量比は、糸の重量に対して、基礎織布または編布を形成する糸の表面上に存在する潤滑組成物の重量比と等しい。
【0017】
本発明に係る織布または編布の特定の実施例において、織繊維または編布を形成するそれぞれの糸は、その表面における潤滑組成物の含有比が、糸の重量に対して0.3〜0.9%(境界値を含む。)である。潤滑組成物の含有比が0.3%より小さいと、糸、繊維またはフィラメントの紡績および/または製織が困難になる場合があり、特にサイジング処理をせずに製織するときには困難となる。潤滑組成物の含有比が0.9%より大きいと、コーティング布の最終的な性能、特に防しわ性および耐磨耗性(スクラブテスト耐性)が低下する場合がある。
【0018】
糸の表面に存在する潤滑組成物の含有比は、抽出法または核磁気共鳴法等の、当業者には既知の方法によって測定可能である。潤滑組成物の含有比は、ドイツ工業規格54278に基づく抽出法によって有利に測定可能である。これらの測定は、糸、織布または編布について実行可能である。
【0019】
糸の表面に存在する潤滑組成物は、軟化剤および/または整経油であっても良い。
【0020】
潤滑組成物は、有利には軟化組成物である。
【0021】
糸、繊維またはフィラメントに塗布される軟化組成物は、糸、繊維またはフィラメントが形成されるときに滑りを良くする。本発明では、糸、繊維またはフィラメントに塗布される軟化組成物の含有比によって、サイジング処理なしに紡績、整経および製織するときの糸、繊維またはフィラメントの状態が良くなるだけでなく、シリコーンコーティングされた安全エアバッグの場合には特に、優れた最終特性を持つ安全エアバッグ用コーティング布を生産することが可能である。このようなコーティング布は、防しわ性および耐磨耗性(スクラブテスト耐性)に他よりも優れ、布糸の表面から軟化組成物を取り除く必要がない。
【0022】
本発明に適合した軟化組成物は、ポリマー紡績、特にポリアミドまたはポリエステルの紡績に慣例的に使われてきた全ての軟化組成物である。軟化組成物には下記化合物が含まれる:潤滑油として脂肪酸エステルのような天然または合成脂肪酸、または脂肪酸誘導体;エトキシ化脂肪酸、エトキシ化脂肪アルコールまたはEO/POポリマーのような非イオン性乳化材;リン酸塩、硫酸、またはスルホン酸塩のようなアニオン乳化材;および界面活性剤のようなその他の添加物。軟化組成物は、通常水性乳剤または水性油である。
【0023】
製織用の縦糸に塗布される縦糸油は、製織効率の向上を意図するものである。織物糸、特にポリアミドまたはポリエステルに慣例的に使われてきた全ての縦糸油が本発明に適合する。縦糸油は、主成分として高い引火点を持つ鉱油、合成パラフィンまたはグリセロールエステルを含むものであることが好ましい。
【0024】
潤滑組成物は、軟化組成物に通常用いられる帯電表面活性剤を含むこともある。
【0025】
本発明に係るコーティング布の基礎布を形成する糸は、天然、人工および/または合成素材である。その糸は複数の素材を含む場合もある:例として、ポリアミドおよび綿繊維の糸が挙げられる。
【0026】
これらの糸は、有利には熱可塑性ポリマーが基となっている。本発明の目的に適合する熱可塑性ポリマー(熱可塑性コポリマー)は、例えば以下に列挙したとおりである:ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアルキレンオキサイド、ポリオキシアルキレン、ポリハロアルキレン、ポリ(アルキレンフタル、テレフタル)、ポリ(フェニル、フェニレン)、ポリ(フェニレンオキシドまたはフェニレンスルフィド)、ポリ(ビニルアセテート)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(ビニルハロゲン)、ポリビニルニトリル、ポリアミド、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリシロキサン、アクリル酸もしくはメタクリル酸ポリマー、ポリアクリレートもしくはポリメタクリル、セルロースとその誘導体である天然高分子、合成エラストマーのような合成ポリマー、もしくは上記ポリマーに含まれるいずれか1つのモノマーと同一の少なくとも1つのモノマーで構成される熱可塑性コポリマー、さらにこれら全てのボリマー(コポリマー、)の混合物または/およびポリマーアロイ。
【0027】
本発明に係る他の好ましい熱可塑性ポリマーには、脂肪族ポリアミド、半芳香族ポリアミド、より一般的には、飽和脂肪族二塩基酸または芳香族二塩基酸と芳香族第一ジアミンまたは飽和脂肪族第一ジアミンの間の重縮合によって得られる線状ポリアミド、ラクタムまたはアミノ酸の縮合によって得られるポリアミド、およびこれらモノマーの混合物の縮合によって得られる線状ポリアミドのような半結晶性または非結晶性ポリアミドが含まれる。
【0028】
より正確には、これらのコポリアミドは例えば、AMODELの商品名で販売されているポリアミドのような、ポリ(ヘキサメチレンアジパミド)、テレフタル酸および/またはイソフタル酸から得られるポリフタルアミド、またはアジピン酸、ヘキサメチレンジアミンおよびカプロラクタムから得られるコポリアミドがある。
【0029】
熱可塑性ポリマーは有利にはポリ(エチレンテレフタル酸)(PET)、ポリ(プロピレンテレフタル酸)(PPT)、ポリ(ブチレンテレフタル酸)(PBT)および、これらのコポリマーおよび混合物のようなポリエステルである。
【0030】
より好ましくは、熱可塑性ポリマーは、ポリアミド(コポリアミド)群から選択される。ポリアミド(コポリアミド)群はポリアミド6、ポリアミド6,6、ポリアミド4、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド4−6、6−10、6−12、6−36、12−12および、これらのコポリマーおよび混合物から成る。
【0031】
糸は、熱可塑性ポリマーまたは熱可塑性コポリマーの混合物に基づく場合がある。
【0032】
糸は、強化剤のような添加剤、難燃剤、UV安定剤、熱安定剤、二酸化チタンのような艶消し剤、生物活性剤等を含む場合もある。
【0033】
本発明に係るコーティング織布または編布の基礎織布または編布を形成する糸の総体的な線密度は、一連の通常線密度から選択され、例えば、10〜2500dtex、有利には10〜1100dtexである。安全エアバッグの分野において、総体的な線密度は、有利には100〜950dtexである。
【0034】
糸のフィラメントの線密度は、一連の通常線密度から選択できる。フィラメントの線密度は、一般的には0.3 dtexもしくはそれ以上である。これは、大径モノフィラメントの場合に800μmの直径に相当する線密度よりも通常小さい。安全エアバッグの場合、糸は一般的にはマルチフィラメントであり、フィラメントの線密度は有利には1.5〜7dtexである。
【0035】
本発明においてコーティング織布または編布の基礎織布または編布を形成する糸は、以下の工程から成る方法によって製造される。
1)糸の構成物質を紡績する。
2)任意的に糸を延伸する。
3)任意的に糸に織加工を施す。
4)上記の潤滑組成物を利用して糸を処理をする。
【0036】
紡績工程1)は、当業者に既知の何れの方法でも実行できる。
【0037】
糸の素材が熱可塑性ポリマーの場合、工程1)は、有利にはポリマーを溶融状態で紡績する工程である。
【0038】
糸は延伸工程を経る場合もある。この場合、糸は従来の方法により紡績経路に沿って配向性や糸が必要とする力学的性質に応じた好ましい延伸比で引き伸ばされる。また、最終巻き速度に応じて、紡績中に糸を単純に予備配向または配向させることができる。この延伸工程が有効であり、または必要である場合、直接的にまたは巻き圧力をコントロールするためにローラーを介して実行することができる。工程2)は、紡績と融合させて、又は融合させずに実行される。
【0039】
巻き速度は、一般的に100〜8000m/分、有利には600〜5000m/分、好ましくは700〜4000m/分である。
【0040】
工程3)の織加工は、当業者に既知の何れの方法でも実行できる。
【0041】
処理工程4)は、任意の延伸工程の前または後に実行できる。処理工程4)は、さらに任意の織加工工程3)の前または後に実行できる。処理工程4)で用いられる物質は、通常液体である。特に、オイル、溶液、または液体中の乳濁質もしくは分散質であってもよい。
【0042】
マルチフィラメント糸の場合、この処理によりフィラメントの相互結合を強化することができる。
【0043】
処理工程4)は、ローラーや穴付ノズルによる沈殿法のような通常技術によって実行できる。一般的な技術の例を例示的に列挙すると、ローラー、スプレーまたは気化、浸漬による原料繊維の処理技術、パッドフィニッシング技術、そして合成繊維を加工する繊維産業で用いられる方法である。この処理は、糸の製造の様々な工程において実行可能である。その工程とは、軟化剤が慣例的に加えられる全ての工程を含む。すなわち、添加剤が巻き工程の前に紡績装置の底部に塗布される。さらに、いわゆる「繊維」加工の場合、添加剤は延伸工程、縮み加工、乾燥工程等の前、中または後に塗布される。
【0044】
特定の場合には、糸に対する物質の吸着性を助けるために、当業者に既知の方法に従って、糸に第一前処理(プレトリートメント)を施すことも有利である。さらに、工程4の前または後に、糸に放射線照射、染色等のような他の化学的または物理的処置を施してもよい。
【0045】
本発明に係る基礎繊維は、有利には単位面積あたり40〜400g/mの重量を有する。布は、特にエアバッグ分野では、一般的に布1cmあたり10〜30本の糸を含む。
【0046】
本発明に係る織布または編布は、有利にはシリコーンで保護されている。
【0047】
本発明は、第二の目的との関連において、コーティング織布または編布についての以下の工程からを含む製造方法を提供する:
・表面の少なくとも一部に潤滑組成物を有する糸を織り、このとき、潤滑組成物(固形分)の重量比が、糸の重量に対して0.3〜0.9%(境界値を含む。)であり、縦糸と横糸を用いた基本織布を製造するために織機で糸を織り、または基礎編布を製造するためにこれらの糸を編む工程、および
・基礎織布または編布の少なくとも一表面を、エラストマーでコーティングする工程。
【0048】
本発明に係るコーティング織布または編布の基礎織布または編布を形成する糸の定義に関して上記した事項の全てが、ここで編布または織布の糸に適用される。
【0049】
基礎織布または編布の製造に使用される糸は、全てが同じである場合も、互いに異なる場合もある。上記の糸は少なくとも布の縦糸であり、有利には布の縦糸および横糸の両方である。
【0050】
糸は、例えば産業織機上の縦糸として使用可能である。産業織機は、有利にはサイジング工程なしに布を製造することが可能である。縦糸により、有利にはサイジング工程または洗浄工程なしに布を製造することが可能である。
【0051】
糸を縦糸として使用する場合、サイジング処理工程なしに、直接整経用、部分整経用のいずれかに容易に設定でき、全種類の織機、特に産業界で用いられる高速織機で製織が可能である。
【0052】
ある場合、例えば縦糸に高い張力が負荷される織機で織布する場合、製織前に慣用手段により注油することが好ましい。
【0053】
基礎布は、有利にはエアジェット織機、シングルまたはダブルのレピア織機、プロジェクタイル織機等の乾式織機で製造される。
【0054】
エラストマーで基礎布をコーティングする工程は、当業者に既知である。
【0055】
上記した糸は、安全エアバッグ用コーティング織布またはコーティング編布の分野で特に有効であり、これが第三の目的に関連するものである。これらの布は、有利にはサイジング工程なしに、さらに好ましくは洗浄工程なしに製造可能であり、これらの製品の製造方法を単純化させ、生産コストを削減できる。上記の糸は、シリコーンでコーティングされた安全エアバッグ用の織布または編布の製造する場合に特に有効である。
【0056】
さらに、これらの布は、熱処理工程なしに製造可能である。熱処理工程は一般的に、布に寸法安定性を与えるために行われる。この熱処理は一般的に、布の乾燥工程と同時に行われる。乾燥工程は、布が洗浄工程を経るときに必要である。本発明について、洗浄工程が廃止されると、乾燥工程は不必要となる。したがって、熱処理工程は、乾燥工程を経る場合の次工程と同時に行うことができ、特に安全エアバッグ用織布または編布の場合にはそうすることが可能である。熱処理工程は、例えば布がエラストマーでコーティングされた後に実行できる。有利には、エラストマーの架橋結合工程で実行される。
【0057】
例えば、布が安全エアバッグ用コーティング布の基礎布として用いられる場合、糸の表面に潤滑組成物が存在することで、布が経る後工程には、いかなる影響も及ぼされない。後工程の例として、エラストマーによるコーティング処理が挙げられる。特に、耐摩耗性および防しわ性(スクラブテスト耐性)に悪影響はない。
【0058】
最後に、本発明は、第四の目的との関連において、本発明に係るコーティング織布または編布から成る安全エアバッグを提供する。
【0059】
本発明のその他の詳細または利点については、説明のために挙げた以下の実例によってより明確になる。
【0060】
布の評価をするための布のコーティング
・実験用のドクターブレード法を用いて、布に、Rhodia Silicone社のRHODORSIL(R) TCS 7510 AおよびBとして市販されているシリコーン樹脂をコーティングする。付着率は約40±10g/m(固形分)である。
・付着率を測定するためにコーティング布の重量を測定する。
・次に、サンプルを180°のオーブンで80秒間にわたって熱処理する。
・サンプルをオーブンから出し、外気にさらす。
・サンプルをA5×10cmにカットし、スクラブテストにより評価する。
【0061】
スクラブテスト:防しわ性の測定(ISO規格5981による)
このテストは、コーティング布の防しわ性および耐磨耗性を測定するものである。
【0062】
このテストでは、布をせん断運動にさらす。2つのはさみ口でサンプル布の両端を把持し、互いに往復運動させる。さらに、布を可動式の支持体との接触により磨耗させる。
【実施例】
【0063】
使用されるポリアミド66は、0.02%の二酸化チタンを含む濃縮後のポリアミド66であり、相対粘度は3.25(96%の硫酸中、10g/Lの濃度で測定した。)である。
【0064】
このポリマーを押出機に導入し、溶融させる。そして、溶融混合物を、統合された巻返し/延伸工程により紡いで、105本のフィラメントからなる700dtexの連続糸を製造する。押出しの後、フィラメントを、軟化剤の沈殿誘導装置を通る前に空冷する。その後、フィラメントを束ねる。
【0065】
軟化剤は、約55℃まで温められた純油の状態で付着する。
【0066】
そして、糸を650m/minの速度で巻き取り、二工程で延伸率が4.5になるまで熱延伸し、静定させ、撚った後に2900m/minの速度でリールに巻き取る。
【0067】
以上の工程を経て製造された糸は、以下の特徴を有する。(DIN規格53834による。)
・引張強さ:82.5cN/tex
・破断伸び率:21.5%
・180℃の暖気中での収縮率:6.8%
・撚り数:16/m
【0068】
布の軟化剤の線密度を、較正による核磁気共鳴法により測定する。
【0069】
これらの糸から、エアジェット織機またはレピア織機を用いて布を製造する。
【0070】
様々な軟化組成物(種類および量)がテストに供された。これら軟化組成物および得られた結果は、上述したとおりである。
【0071】
比較例
軟化組成物:Takemoto社製のDelion F8505(R)
【0072】
一巻きの糸に塗布される軟化剤の平均量(糸の重量に対する重量):0.9%(糸表面の最小量:糸の重量に対して0.6%、糸表面の最大量:糸の重量に対して1.2%)。糸はレピア織機で織られた。得られた布は、織物密度17本×16本/cm、単位面積あたり250g/mの構造を備えている。
【0073】
整経と巻返しの状態は申し分なく、停止することなく製織することができた。
スクラブテストの結果(しわの数):100
コーティング処理後の布は、寸法的に安定している。
【0074】
実施例1
軟化組成物:Cognis社製のStantex 6414(R)
【0075】
一巻きの糸に塗布される軟化剤の平均量(糸の重量に対する重量):0.7%(糸表面の最小量:糸の重量に対して0.5%、糸表面の最大量:糸の重量に対して0.9%)。糸はエアジェット織機で織られた。得られた布は、織物密度13.5本×14本/cm、単位面積あたり200g/mの構造を備えている。
【0076】
整経と巻返しの状態は申し分ない。100mの製織中、2度の停止があった。布の長さは410mである。
スクラブテストの結果(しわの数):800
コーティング処理後の布は、寸法的に安定している。
【0077】
実施例2
軟化組成物:Cognis社製のStantex 6414(R)
【0078】
一巻きの糸に塗布される軟化剤の平均量(糸の重量に対する重量):0.6%(糸表面の最小量:糸の重量に対して0.3%、糸表面の最大量:糸の重量に対して0.9%)。糸はエアジェット織機で織られた。得られた布は、織物密度13.5本×14本/cm、単位面積あたり200g/mの構造を備えている。
【0079】
整経と巻返しの状態は申し分ない。100mの製織中、2度の停止があった。布の長さは260mである。
スクラブテストの結果(しわの数):1200
コーティング処理後の布は、寸法的に安定している。
【0080】
全ての場合において、巻返しと製織時の状態は申し分なかった。スクラブテストでは、軟化剤の量が少ないときに良い結果が得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基礎織布または編布の少なくとも一表面をエラストマーでコーティングすることによって得られる安全エアバッグ用コーティング織布または編布であって、前記基礎織布または編布が、表面に少なくとも部分的に潤滑組成物を有する糸で形成され、前記潤滑組成物(固形分)の平均重量比が、前記基礎織布または編布の重量に対して0.2〜0.7%(境界値を含む。)であることを特徴とするコーティング織布または編布。
【請求項2】
前記潤滑組成物(固形分)の平均重量比が、前記基礎織布または編布の重量に対して0.3〜0.7%(境界値を含む。)であることを特徴とする、請求項1に記載の織布または編布。
【請求項3】
前記基礎織布または編布を形成する各糸の表面に存在する前記潤滑組成物(固形分)の平均重量比が、前記糸の重量に対して0.3〜0.9%(境界値を含む。)であることを特徴とする、請求項1または2に記載の織布または編布。
【請求項4】
前記潤滑組成物が軟化組成物であることを特徴とする、請求項1〜3の何れか一項に記載の織布または編布。
【請求項5】
前記基礎織布または編布を形成する糸が熱可塑性ポリマーに基づいていることを特徴とする、請求項1〜4の何れか一項に記載の織布または編布。
【請求項6】
前記基礎織布または編布を形成する糸が,ポリエステルまたはポリアミドに基づいていることを特徴とする、請求項5に記載の織布または編布。
【請求項7】
前記基礎織布または編布を形成する糸の総体的な線密度が100〜950dtexであることを特徴とする、請求項1〜6の何れか一項に記載の織布または編布。
【請求項8】
前記基礎織布または編布を形成する糸のフィラメントの線密度が1.5〜7dtexであることを特徴とする、請求項1〜7の何れか一項に記載の織布または編布。
【請求項9】
シリコーンでコーティングされていることを特徴とする、請求項1〜8の何れか一項に記載の織布または編布。
【請求項10】
安全エアバッグ用コーティング織布または編布を製造する方法であって、
表面の少なくとも部分的に潤滑組成物を持つ糸を織り、その際に前記潤滑組成物(固形分)の重量比が、糸の重量に対して0.3〜0.9%(境界値を含む。)であり、縦糸と横糸を用いた基本織布を製造するために織機で糸を織り、または基礎編布を製造するためにこれらの糸を編む工程と、
前記基礎織布または編布の少なくとも一表面をエラストマーでコーティングする工程
とを含む方法。
【請求項11】
サイジング工程を含まないことを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記織布または編布の洗浄工程を含まないことを特徴とする、請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
前記織機が、エアジェット織機、シングルまたはダブルのレピア織機,プロジェクタイル織機等の乾式織機であることを特徴とする、請求項10〜12の何れか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記潤滑組成物が軟化組成物であることを特徴とする、請求項10〜13の何れか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記糸が熱可塑性ポリマーに基づいていることを特徴とする、請求項10〜14の何れか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記基礎織布または編布を形成する糸が,ポリエステルまたはポリアミドに基づいていることを特徴とする、請求項10〜15の何れか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記糸、繊維またはフィラメントが表面に少なくとも部分的に潤滑組成物を持ち、前記潤滑組成物(固形分)の重量比が、前記糸、繊維またはフィラメントの重量に対して0.3〜0.9%(境界値を含む。)であることを特徴とする、安全エアバッグ用コーティング織布または編布を製造するための糸、繊維またはフィラメントの使用方法。
【請求項18】
前記潤滑組成物が軟化組成物であることを特徴とする、請求項17に記載の使用方法。
【請求項19】
前記布がシリコーンでコーティングされていることを特徴とする、請求項17または18に記載の使用方法。
【請求項20】
請求項1〜9の何れか一項に記載のコーティング織布または編布を含み,あるいは請求項10〜16の何れか一項に記載の方法によって得られたコーティング織布または編布を含む安全エアバッグ。

【公表番号】特表2009−518551(P2009−518551A)
【公表日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−543806(P2008−543806)
【出願日】平成18年12月5日(2006.12.5)
【国際出願番号】PCT/EP2006/069298
【国際公開番号】WO2007/065885
【国際公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【出願人】(502132782)ネクシス ファイバーズ アーゲー (2)
【Fターム(参考)】