説明

定着ロールの製造方法

【課題】従来の定着ロールの製造方法では、加熱炉中に循環する熱風が芯金に被せたPFAチューブの表面に当たり、芯金とPFAチューブの間に気泡が発生するという問題があった。かかる気泡が発生した定着ロールを画像形成装置で使用すると、画像品質を悪化させるという問題があった。
【解決手段】中空の芯金の表面にプライマーを塗布した後、プライマーの表面に熱収縮性チューブを被せて熱風が循環する加熱炉で焼成する定着ロールの製造方法において、一または複数の孔が肉厚方向に貫通してあけられた板状プレートを準備し、板状プレートの全ての孔に、焼成前の定着ロールの芯金の中空部が位置するように焼成前の定着ロールを板状プレートに立設し、板状プレートの孔および芯金の中空部に熱風が通り、板状プレートにより焼成前の定着ロールの表面に熱風が直接当たらないように焼成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として複写機、プリンター等の画像形成装置で用いられる定着ロールの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
定着ロールの製造方法としては、芯金の表面に接着剤を塗布した後、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)の熱収縮チューブを被せて、加熱炉で焼成するものがある(例えば、特許文献1〜4参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平09−288437号公報
【特許文献2】特開平10−048987号公報
【特許文献3】特開平10−063129号公報
【特許文献4】特開平10−078720号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の定着ロールの製造方法では、加熱炉中に循環する熱風が芯金に被せたPFAチューブの表面に直接当たり、芯金とPFAチューブの間に気泡が発生するという問題があった。かかる気泡が発生した定着ロールを画像形成装置で使用すると、画像品質を悪化させるという問題があった。
【0005】
本発明は、前記した問題を解決するためになされたものであって、芯金とPFAチューブの間に気泡が発生しない定着ロールの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(第1発明)
第1発明に係る定着ロールの製造方法は、中空の芯金の表面にプライマーを塗布した後、プライマーの表面に熱収縮性チューブを被せて熱風が循環する加熱炉で焼成する定着ロールの製造方法において、焼成は、一または複数の孔が肉厚方向に貫通してあけられた板状プレートを準備し、板状プレートの全ての孔に、熱収縮性チューブを被覆した芯金の中空部が位置するように芯金を板状プレートに立設し、板状プレートの孔および芯金の中空部に熱風が通り、板状プレートにより熱収縮性チューブに熱風が直接当たらないようにしたものである。
【0007】
かかる構成により、加熱炉の中を循環する熱風がPFAチューブに直接当たることが無いので、熱風が芯金とPFAチューブの間に入り込んだり、PFAチューブの表面に直接当たったりしない。このため、芯金とPFAチューブの間に気泡が発生することがなく、高画質な画像を形成できる定着ロールを製造することができる。
【0008】
(第2発明)
また、第2発明に係る定着ロールの製造方法は、中空の芯金の表面にプライマーを塗布した後、プライマーの表面に熱収縮性チューブを被せて熱風が循環する加熱炉で焼成する定着ロールの製造方法において、焼成は、複数の孔が肉厚方向に貫通してあけられた板状プレートを準備し、板状プレートにあけられた一部の孔に、熱収縮性チューブを被覆した芯金の中空部が位置するように芯金を板状プレートに立設し、板状プレートの孔、芯金の中空部および熱収縮性チューブの表面に、風速0.1m/秒〜1m/秒に設定した熱風が流れるようにしたものである。
【0009】
かかる構成により、加熱炉の中を循環する熱風が、芯金とPFAチューブの間に入り込んだり、PFAチューブの表面に直接当たったりしても、芯金とPFAチューブの間に気泡が発生することがない。つまり、高画質な画像を形成できる定着ロールを製造することができる。尚、本発明において、立設とは、立てた状態で設けることをいう。
【0010】
(第3発明)
また、第3発明に係る定着ロールの製造方法は、前記した第1発明または第2発明において、芯金の表面に塗布して形成したプライマーを加熱硬化し、プライマーの表面を研磨した後、熱収縮性チューブを被せて熱風が循環する加熱炉で焼成するものである。
【0011】
研磨により、プライマー層の表面の凹凸が非常に小さくなるので、芯金とPFAチューブの間の気泡の発生を抑えることが容易になる。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、芯金とPFAチューブの間に気泡が発生することがないので、高画質な画像を形成できる定着ロールを製造できるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明を以下に詳細に説明する。
【実施例1】
【0014】
図1は本発明に係る製造方法により製造された定着ロールの断面図、図2はプライマーを塗布した芯金にPFAチューブを被せ、PFAチューブを被せた芯金を板状プレートにセット(立設)する状態を示した斜視図、図3は板状プレートにPFAチューブを被覆した芯金をセット(立設)した状態を示した斜視図、図4は加熱炉の模式図である。尚、図1は、説明を分かり易くするため、芯金のみにハッチングをかけている。
【0015】
(プライマー塗装)
まず最初に、スプレー塗装により芯金1の表面にプライマーを塗布する。本工程で用いるプライマーとしては、PFA、PPS、ポリイミド前駆体等を溶剤で溶かしたフッ素樹脂プライマー等の芯金1の周面上に被せるPFAチューブとの接着性を有する樹脂の溶液が用いられる。
【0016】
プライマーの塗布後は、所望なれば室温で30分〜90分の風乾を行ない、次いでヒータ18によって芯金1の周面温度を300℃〜350℃で30分〜60分加熱してプライマー焼付けを行なって、プライマー層41を芯金1の周面に形成する。プライマー層41の厚みは、通常0.5μm〜100μmである。
【0017】
(研磨)
その後、プライマー層41を形成した芯金1を図示しない研磨装置にセットして、芯金1の周面に形成されたプライマー層41の表面を研磨する。研磨装置は、一般に市販されている円筒形のワークの表面を研磨する装置であれば良い。
【0018】
(PFAチューブの被覆)
次に、図2に示す様に、プライマー層41を形成した芯金1に熱収縮性チューブとしてのPFAチューブ42を被せる。PFAチューブ42の内径は、芯金1の表面に形成したプライマー層41の外径よりも大きいので、PFAチューブ42を芯金1に容易に被せることができる。尚、PFAチューブの厚みは、通常0.02〜0.04mmである。
【0019】
この際、後述する焼成に使用する板状プレート6に芯金1をセット(立設)する前にPFAチューブを芯金1に被せても良いし、板状プレート6に芯金1をセットした後にPFAチューブを芯金1に被せても良い。
【0020】
板状プレート6の上面には、芯金1の中空部31の内径よりも小さな外径を有する円筒形の突起22が複数形成されている。この円筒形の突起22の中心には、板状プレート6の肉厚方向(X方向)に貫通する孔24があけられている。このため、板状プレート6の突起22に芯金1をセットすると、芯金1の内部には中空部31が形成されているので、板状プレート6および芯金1を貫く穴(孔24および中空部31)が形成される。
【0021】
図3に示す様に、板状プレート6の全ての突起22に芯金1をセットすることにより、本工程が終了する。尚、板状プレート6の突起22への芯金1のセット(立設)は、芯金1の中空部31に板状プレート6の突起22を挿入することにより行われる。
【0022】
(焼成)
次に、PFAチューブ42を被覆した芯金1がセットされた板状プレート6(図3)を加熱炉(オーブン)19に入れて焼成する。
図4は、図2に示した状態の板状プレート6を加熱炉19にセットした状態を示した模式図である。この状態で、PFAチューブの融点(310〜320度)以上の温度で通常15分〜25分の焼付け処理(焼成)を行なう。その後、冷却を行なうと、図1に示す定着ロール30を得ることができる。
【0023】
以下に焼成について詳しく説明する。
図4に示す様に、加熱炉19の内側の両側面には、ヒータ20が設けられている。このヒータ20によって加熱された気体(空気)は、加熱炉19の上部に設けられたファン21の回転により、熱風となって、加熱炉19の内部を下方から上方に向かって常に循環するようになっている。
【0024】
図3に示す様に全ての孔24に芯金1がセットされた板状プレート6を、図4に示す様に加熱炉19にセットすると、加熱炉19内を循環する熱風は、加熱炉19の下方から前記した穴(板状プレート6の孔24および芯金1の中空部31)を通って加熱炉19の上部に抜ける。
【0025】
このため、加熱炉19の下方から流れてくる熱風は、直接芯金1の表面に被覆されたPFAチューブ42の表面に当たることがないし、芯金1の表面に塗布されたプライマー41とPFAチューブ42の間に入り込むこともないので、PFAチューブ42と芯金1の間に気泡が発生することがない。
【0026】
(実施例)
外径25.8mm、肉厚0.5mmの鉄製のパイプ状芯金1に対し、PFA、PPSおよびポリイミド前駆体を溶剤で溶かしたフッ素樹脂性のプライマー41を塗布し、350度で芯金1にプライマー41を焼き付けた後、芯金1の表面に形成されたプライマー層の表面を研磨した。
かかる芯金1を複数製作し、図3に示す様に、板状プレート6の全ての突起22(孔24)に芯金1をセットし、PFA(三井デュポンフロロケミカル製フッ素樹脂450HP−J)を材料に用いて製作した肉厚0.03mmのPFAチューブ42を芯金1に形成されたプライマー層41の表面に被覆した。
【0027】
その後、図4に示す様に、加熱炉19を用いて、380度で20分の焼成を行ない、加熱炉19から定着ロール30(芯金1)を取出して室温に放置して冷却した。
定着ロール30の外観を黙視で確認したところ、気泡の発生は見られなかった。
【実施例2】
【0028】
本発明に係る他の実施例を図4乃至図6を用いて説明する。
図5はプライマーを塗布した芯金にPFAチューブを被せ、PFAチューブを被せた芯金を板状プレートにセットする状態を示した斜視図、図6は板状プレートにPFAチューブを被覆した芯金をセットした状態を示した斜視図である。
尚、説明を分かり易くするため、実施例1で説明したものと同一の部分については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0029】
外径25.3mm、肉厚0.2mmの鉄製のパイプ状芯金1の表面に、実施例1と同一の材料および方法を用いて芯金1の表面にプライマー層41を形成し、該プライマー層41の表面を研磨した後、PFA(三井デュポンフロロケミカル製フッ素樹脂451HP−J)を材料に用いて製作した肉厚0.02mmのPFAチューブを被覆した。
【0030】
その後、図5および図6に示す様に、肉厚方向(X方向)に複数の貫通孔があけられた格子状の板状プレート61を準備し、全ての孔24に芯金1をセットした。
ここで、複数の貫通孔とは、格子を形成する略矩形の複数の孔23と、円筒形の突起22の中心にあけられた孔24の両者を含む。
【0031】
本実施例2においては、芯金1を図6に示す様に板状プレート61に立設したものを5セット準備し、図4に示すように加熱炉19内で、380度、20分の焼付け処理(焼成)を行ない、冷却して、図1に示す定着ロール30を製造した。この際に、各セット毎に加熱炉19の天井に固定されているファン21の回転速度を変えて熱風の風速と気泡の発生の関係を調査した。その結果をまとめたものを表1に示す。
【0032】
【表1】

【0033】
表1により、加熱炉19内の熱風の風速が0.1m/秒から1.0m/秒の間であれば、下方から流れてくる熱風がPFAチューブ42の表面等に直接当たっても、芯金1のプライマー層41とPFAチューブ42の間に気泡が発生しないことが分かった。尚、0.1m/秒より小さい風速の場合は、加熱炉19内部に熱が循環せず、焼成ができないので、データの採取は行なわなかった。
【実施例3】
【0034】
本発明に係る他の実施例を図7を用いて説明する。
図7は板状プレートに形成された複数の突起22(孔24)の一部にPFAチューブ42を被覆した芯金1をセットした状態を示した斜視図である。
尚、説明を分かり易くするため、実施例1で説明したものと同一の部分については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0035】
実施例1と同一の装置および材料を用いて芯金1の表面にプライマー層41を形成し、実施例1と同一のPFAチューブ42を被せて、図7に示すように一部の孔24に芯金1をセットした。
そして、当該板状プレート6を図4に示す様に加熱炉19にセットして、380度で20分の焼成を行なった。この際、ファン21の回転数を、熱風の風速が1m/秒になるように調節した。
焼成後、冷却して、板状プレート6を加熱炉19から取り出し、定着ロール30を黙視により検査したが、気泡の発生は見られなかった。
【0036】
前記した実施例は、説明のために例示したものであって、本発明としてはそれらに限定されるものではなく、特許請求の範囲、発明の詳細な説明および図面の記載から当業者が認識することができる本発明の技術的思想に反しない限り、変更、削除および付加が可能である。
【0037】
例えば、前記した実施例においては、芯金1の表面にプライマー41を塗布したものを示したが、焼成後の芯金1の表面とPFAチューブ42内周面の接着性が良ければ、プライマー41の塗布を省略することができる。
【0038】
また、前記した実施例1は、板状プレート6に複数の突起22(孔24)を形成したものを示したが、図8に示す様に、板状プレート6に形成した突起22(孔24)が1個であっても良い。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明に係る製造方法で製造した定着ロールは、電子写真装置、プリンター等の画像形成装置で利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明に係る製造方法により製造されたゴムロールの断面図(実施例1)
【図2】プライマーを塗布した芯金にPFAチューブを被せ、PFAチューブを被せた芯金を板状プレートにセットする状態を示した斜視図(実施例1)
【図3】板状プレートにPFAチューブを被覆した芯金をセットした状態を示した斜視図(実施例1)
【図4】加熱炉の模式図(実施例1)
【図5】プライマーを塗布した芯金にPFAチューブを被せ、PFAチューブを被せた芯金を板状プレートにセットする状態を示した斜視図(実施例2)
【図6】板状プレートにPFAチューブを被覆した芯金をセットした状態を示した斜視図(実施例2)
【図7】板状プレートの孔の一部にPFAチューブを被覆した芯金をセットした状態を示した斜視図(実施例3)
【図8】板状プレートにPFAチューブを被覆した芯金をセットした状態を示した斜視図
【符号の説明】
【0041】
1 芯金
6 板状プレート
24 孔
30 定着ロール
31 中空部
41 プライマー
42 PFAチューブ
61 板状プレート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空の芯金の表面にプライマーを塗布した後、該プライマーの表面に熱収縮性チューブを被せて熱風が循環する加熱炉で焼成する定着ロールの製造方法において、
該焼成は、
一または複数の孔が肉厚方向に貫通してあけられた板状プレートを準備し、
該板状プレートの全ての前記孔に、前記熱収縮性チューブを被覆した前記芯金の前記中空部が位置するように前記芯金を前記板状プレートに立設し、
該板状プレートの前記孔および前記芯金の前記中空部に前記熱風が通り、該板状プレートにより前記熱収縮性チューブに前記熱風が直接当たらないようにすることを特徴とする定着ロールの製造方法
【請求項2】
中空の芯金の表面にプライマーを塗布した後、該プライマーの表面に熱収縮性チューブを被せて熱風が循環する加熱炉で焼成する定着ロールの製造方法において、
該焼成は、
複数の孔が肉厚方向に貫通してあけられた板状プレートを準備し、
該板状プレートにあけられた一部の前記孔に、前記熱収縮性チューブを被覆した前記芯金の前記中空部が位置するように前記芯金を前記板状プレートに立設し、
該板状プレートの前記孔、前記芯金の前記中空部および前記熱収縮性チューブの表面に、風速0.1m/秒〜1m/秒に設定した熱風が流れるようにすることを特徴とする定着ロールの製造方法
【請求項3】
前記芯金の表面に塗布して形成した前記プライマーを加熱硬化し、
該プライマーの表面を研磨した後、
熱収縮性チューブを被せて熱風が循環する加熱炉で焼成する請求項1または請求項2に記載の定着ロールの製造方法

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2009−222783(P2009−222783A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−64442(P2008−64442)
【出願日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【出願人】(000251288)鈴鹿富士ゼロックス株式会社 (156)
【Fターム(参考)】