説明

定着装置、画像形成装置及び損傷検出方法

【課題】抵抗発熱体層を発熱層とする定着装置において、異常発熱の発生を精度よく検出する。
【解決手段】記録シート上の未定着画像を熱定着させる定着装置5であって、通電により発熱する抵抗発熱体層を有する、無端状の加熱回転体51と、抵抗発熱体層に電圧を印加して通電させる電源部1000と、抵抗発熱体層を流れる電流量を検出する電流計1001と、抵抗発熱体層に損傷がない場合に流れる電流量と、電流計による検出時点における実際の電流量との変化量を監視し、損傷の有無を判定する判定手段と、を備え、抵抗発熱体層は、電源部1000の電圧印加方向の体積抵抗率R1よりも、電圧印加方向と直交する方向の体積抵抗率R2の方が大きい(R1<R2)抵抗異方性を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリンター、複写機等の画像形成装置が備える定着装置に関し、特に抵抗発熱体層を発熱体として用いた定着装置における異常発熱を検出する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プリンター、複写機等の画像形成装置の定着装置として、通電によりジュール発熱する抵抗発熱体層を発熱体とする定着装置が利用されるようになってきている。この定着装置においては、抵抗発熱体層に直接給電することによって発熱体が発熱するので、熱利用効率を高め、ウォームアップ時間を短縮化することができる。
この抵抗発熱体層は、耐熱性樹脂等の絶縁性材料中に金属等の導電性材料を分散させて構成される。さらに、この抵抗発熱体層は、直接触れると感電する危険があるので、絶縁層で被覆されているのが一般的である。例えば、特許文献1には、絶縁層で被覆された抵抗発熱体層を発熱体とする定着装置が開示されている。
【0003】
一方、絶縁層の厚さは数百μm程度と薄いため、外部から混入した異物や記録シートとの接触により、絶縁層に傷が生じ、その傷が抵抗発熱体層にまで及び、当該傷が、電流が流れる方向と並行でない方向(特に、電流が流れる方向と垂直方向)に生じると、電流が当該傷を避けるようにその端部周辺へ集中的に迂回するため、端部周辺の電流密度が局所的に高まり、抵抗発熱体層の内、電流密度が局所的に高まった部分が、高温に異常発熱することになる。
【0004】
この異常発熱を放置しておくと、定着装置が損傷を受けるおそれがあるため、異常発熱を精度よく検出し、定着装置への電力供給を遮断する等の必要な措置を講じて定着装置の損傷がひどくならないようにする必要がある。
定着装置には、サーミスタやサーモスタット等の温度検知素子が配置されているため、抵抗発熱体層において異常発熱が発生した場合には、この温度検知素子を用いて異常発熱を検出し、定着装置の損傷を防止するための必要な措置を講じることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009―109997号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、定着装置に設けられているサーミスタやサーモスタット等の温度検知素子は、通常検出範囲が狭いため、異常発熱が発生する抵抗発熱体層の箇所によっては、異常発熱の発生が見逃されてしまうという問題が生じる。
この問題を解決するため、抵抗発熱体層に流れる電流を監視し、正常時と異常発熱時との電流量の変化から異常発熱の発生を検出する方法が考えられる。この方法であると、抵抗発熱体層全域を検出範囲とすることができるので、上記問題点は解消できるものの、反面、電流の変化量は微量であるため、電流検出回路における測定誤差の影響を受けやすく、異常発熱が誤検出されたり、異常発熱の発生を見逃したりする可能性が高いという新たな課題を生じる。
【0007】
本発明は、上述のような問題に鑑みて為されたものであって、抵抗発熱体層全域を検出範囲としつつも異常発熱の発生を精度よく検出することが可能な定着装置、当該定着装置を備える画像形成装置、及び損傷検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る定着装置は、記録シート上の未定着画像を熱定着させる定着装置であって、通電により発熱する抵抗発熱体層を有し、当該抵抗発熱体層の発する熱により記録シート上の未定着画像を熱融着させる、無端状の加熱ベルトと、前記抵抗発熱体層に電圧を印加して通電させる通電手段と、前記抵抗発熱体層を流れる電流量を検出する検出手段と、前記抵抗発熱体層に損傷がない場合に流れる電流量と、前記検出手段による検出時点における実際の電流量との変化量を監視することにより、前記抵抗発熱体層の損傷の有無を判定する判定手段と、を備え、前記抵抗発熱体層は、電圧印加方向の体積抵抗率R1よりも、電圧印加方向と直交する方向の体積抵抗率R2の方が大きい(R1<R2)抵抗異方性を有する。
【0009】
ここで、前記所定量は、前記判定手段による前記損傷の有無の判定が可能な変化量の限界値よりも大きい量であることとすることができる。又、前記抵抗発熱体層は、耐熱性樹脂において導電性フィラーが電圧印加方向に配向した構成となっていることとすることができる。
又、前記加熱ベルトは、長手方向の両端部に前記抵抗発熱体層に給電するための給電電極を有し、前記通電手段は、前記各給電電極を介して前記長手方向に電圧を印加することとすることができる。さらに、前記各給電電極は、前記加熱ベルトの全周に形成されていることとすることができる。
【0010】
又、前記通電手段は、前記加熱ベルトの周方向に電圧を印加することにより、前記抵抗発熱体層を通電させることとすることができる。又、前記抵抗発熱体層は、R2/R1の値が4以上となるように構成されていることとすることができる。
又、本発明の一形態に係る画像形成装置は、前記定着装置を備えることを特徴とする。又、本発明の一形態に係る損傷検出方法は、通電により発熱する抵抗発熱体層を有し、当該抵抗発熱体層の発する熱により記録シート上の未定着画像を熱融着させる、無端状の加熱ベルトを備え、記録シート上の未定着画像を熱定着させる定着装置における抵抗発熱体層の損傷を検出する損傷検出方法であって、前記抵抗発熱体層に電圧を印加して通電させる通電ステップと、前記抵抗発熱体層を流れる電流量を検出する検出ステップと、前記抵抗発熱体層に損傷がない場合に流れる電流量と、前記検出ステップによる検出時点における実際の電流量との変化量を監視することにより、前記抵抗発熱体層の損傷の有無を判定する判定ステップと、を含み、前記抵抗発熱体層は、電圧印加方向の体積抵抗率R1よりも、電圧印加方向と直交する方向の体積抵抗率R2の方が大きい(R1<R2)抵抗異方性を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
上記構成を備えることにより、抵抗発熱体層が、電圧印加方向の体積抵抗率R1よりも、電圧印加方向と直交する方向の体積抵抗率R2の方が大きい抵抗異方性を示し、電圧印加方向と直交する方向に損傷が生じたときに検出される電流量の、損傷がない場合に流れる電流量からの変化量を、抵抗異方性が無い場合に比べ増大させるように構成されているので、損傷による異常発熱が発生した時の電流の変化量を大きくすることができ、その分、電流検出による異常発熱の検出精度をよくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】プリンター1の構成を示す図である。
【図2】定着装置5の構成を示す断面図である。
【図3】加熱回転体51の詳細な構成を示す断面図である。
【図4】抵抗発熱体層513の微細構造をイメージ的に表した図である。
【図5】制御部60の構成と制御部60の制御対象となる主構成要素との関係を示す図である。
【図6】制御部60が行うウォームアップ時異常発熱検出処理の動作を示すフローチャートである。
【図7】制御部60が行う印刷ジョブ実行時異常発熱検出処理の動作を示すフローチャートである。
【図8】αとR2/R1との関係について調べた実験結果を示す。
【図9】図8の実験条件を補足説明するための抵抗発熱体層及び給電ローラーの模式図である。
【図10】本実施の形態に係る加熱回転体の変形例を示す斜視図である。
【図11】加熱回転体51Bの詳細な構成を示す断面図である。
【図12】抵抗発熱体層513Bの微細構造をイメージ的に表した図である。
【図13】抵抗発熱体層513Bについてαと電圧印加方向の体積抵抗率(R1’)に対する電圧印加方向と直交する方向の体積抵抗率(R2’)の比(R2’/R1’)との関係について調べた実験の実験条件を補足説明するための抵抗発熱体層及び電極の模式図である。
【図14】本実施の形態に係る加熱回転体の別の変形例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(実施の形態)
以下、本発明に係る一形態の画像形成装置の実施の形態を、タンデム型カラーデジタルプリンター(以下、単に「プリンター」という。)に適用した場合を例にして説明する。
[1]プリンターの構成
先ず、本実施の形態に係るプリンター1の構成について説明する。図1は、本実施の形態に係るプリンター1の構成を示す図である。同図に示すように、このプリンター1は、画像プロセス部3、給紙部4、定着装置5、制御部60を備えている。
【0014】
プリンター1は、ネットワーク(例えばLAN)に接続され、外部の端末装置(不図示)や不図示の操作パネルから印刷指示を受け付けると、その指示に基づいてイエロー、マゼンタ、シアンおよびブラックの各色のトナー像を形成し、これらを多重転写してフルカラーの画像を形成することにより、記録シートへの印刷処理を実行する。
以下、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの各再現色をY、M、C、Kと表し、各再現色に関連する構成要素の番号にこのY、M、C、Kを添字として付加する。
【0015】
画像プロセス部3は、作像部3Y、3M、3C、3K、露光部10、中間転写ベルト11、2次転写ローラー45等を有している。
作像部3Y、3M、3C、3Kの構成は、いずれも同様の構成であるため、以下、主として作像部3Yの構成について説明する。
作像部3Yは、感光体ドラム31Yと、その周囲に配設された帯電器32Y、現像器33Y、1次転写ローラー34Y、および感光体ドラム31Yを清掃するためのクリーナー35Y等を有しており、感光体ドラム31Y上にY色のトナー像を作像する。現像器33Yは、感光体ドラム31Yに対向し、感光体ドラム31Yに帯電トナーを搬送する。
【0016】
中間転写ベルト11は、無端状のベルトであり、駆動ローラー12と従動ローラー13に張架されて矢印C方向に周回駆動される。又、従動ローラー13の近傍には、中間転写ベルト上に残留するトナーを除去するためのクリーナー14が配置されている。露光部10は、レーザダイオード等の発光素子を備え、制御部60からの駆動信号によりY〜K色の画像形成のためのレーザ光Lを発し、作像部3Y、3M、3C、3Kの各感光体ドラムを露光走査する。
【0017】
この露光走査により、帯電器32Yにより帯電された感光体ドラム31Y上に静電潜像が形成される。作像部3M、3C、3Kの各感光体ドラム上にも同様にして静電潜像が形成される。各感光体ドラム上に形成された静電潜像は、作像部3Y、3M、3C、3Kの各現像器により現像されて各感光体ドラム上に対応する色のトナー像が形成される。
形成されたトナー像は、作像部3Y、3M、3C、3Kの各1次転写ローラー(図1では、作像部3Yに対応する1次転写ローラーのみ符号34Yを付し、他の1次転写ローラーについては、符号を省略している。)により、中間転写ベルト11上の同じ位置に重ね合わされるように、中間転写ベルト11上にタイミングをずらして順次1次転写された後、2次転写ローラー45による静電力の作用により中間転写ベルト11上のトナー像が一括して記録シート上に2次転写される。トナー像が2次転写された記録シートは、さらに定着装置5に搬送され、記録シート上のトナー像(未定着画像)が、定着装置5において加熱及び加圧されて記録シート上に熱定着された後、排出ローラー71により排紙トレイ72に排出される。
【0018】
給紙部4は、記録シート(図1の符号Sで表す)を収容する給紙カセット41と、給紙カセット41内の記録シートを搬送路43上に1枚ずつ繰り出す繰り出しローラー42と、繰り出された記録シートを2次転写位置46に送り出すタイミングをとるためのタイミングローラー44等を備えている。給紙カセットは、1つに限定されず、複数であってもよい。
【0019】
記録シートとしては、大きさや厚さの異なる用紙(普通紙、厚紙)やOHPシート等のフィルムシートを利用できる。給紙カセットが複数ある場合には、異なる大きさ又は厚さ又は材質の記録シートを複数の給紙カセットに収納することとしてもよい。
繰り出しローラー42、タイミングローラー44等の各ローラーは、搬送モータ(不図示)を動力源とし、歯車ギヤやベルト等の動力伝達機構(不図示)を介して回転駆動される。この搬送モータとしては、例えば、高精度の回転速度の制御が可能なステッピングモータが使用される。
【0020】
記録シートは、中間転写ベルト11上のトナー像の移動タイミングに合わせて
給紙部4から2次転写位置46に搬送され、2次転写ローラー45により中間転写ベルト11上のトナー像が一括して記録シート上に2次転写される。
[2]定着装置の構成
図2(a)は、定着装置5の構成を示す断面図である。同図に示すように、定着装置5は、加熱回転体51と、給電ローラー1002、1003と、加圧ローラー1004と、給電ローラー1002、1003間に電圧を印加して通電させる電源部1000と、加熱回転体51(後述する抵抗発熱体層513)を流れる電流量を測定する電流計1001と、給電ローラー1002と1003との間に加熱回転体51の内周側に内接するように配置され、加圧ローラー1004と定着ニップを形成する不図示の定着部材等を有する。
【0021】
加熱回転体51は、長尺の無端状のベルトであり、加熱回転体51の後述する抵抗発熱体層513には長尺の給電ローラー1002、1003を介して電源部1000から周方向に電圧が印加される。これにより、図2(b)の白抜き矢印で示すように、給電ローラー1002、1003間を周方向に電流が流れる。
さらに、加熱回転体51の外周面の近傍の所定の位置(ここでは、長手方向の中央部付近)には、不図示の温度センサーが配置されている。温度センサーは、加熱回転体51の外周面の表面温度を検出し、制御部60は、温度センサーの検出する温度に応じて電源部1000から加熱回転体51の後述する抵抗発熱体層513への給電を制御して加熱回転体51の温度を制御し、加熱回転体51の外周面の温度が定着温度(例えば、150°C)になるように制御する。
【0022】
図3は、加熱回転体51の詳細な構成を示す断面図である。同図に示すように、加熱回転体51は、抵抗発熱体層513、補強層514、弾性層515、離型層516が、この順に積層されて構成されている。
抵抗発熱体層513は、電源部1000から給電ローラー1002、1003を通じて給電されることにより、ジュール熱を発生する層である。抵抗発熱体層513は、耐熱性樹脂上又は耐熱性樹脂中において、繊維状、針状又はフレーク状の導電性フィラーが周方向(電圧印加方向)に配向するように分散されて構成されている。
【0023】
図4(a)は、抵抗発熱体層513の微細構造をイメージ的に表した図である。同図(a)の符号513は、抵抗発熱体層を、符号513aは、導電性フィラーを、符号513bは、耐熱性樹脂をそれぞれ表す。同図(a)に示すように、導電性フィラー513aは、周方向(電圧印加方向)に配向するように分散されており、これにより、抵抗発熱体層513においては、周方向(電圧印加方向)の方が長手方向(電圧印加方向と直交する方向)よりも導電性が高くなり、図4(b)の白抜き矢印の長さで示すように電圧印加方向(Ryの方向)と電圧印加方向と直交する方向(Rxの方向)との間で、電気抵抗(体積抵抗率)が異なる抵抗異方性を有するように構成される(電圧印加方向(Ryの方向)に比べ、電圧印加方向と直交する方向(Rxの方向)の方が、電気抵抗(体積抵抗率)が大きくなるように構成される)。
【0024】
その結果、抵抗発熱体層513において、電圧印加方向と直交する方向に損傷が生じたときに、抵抗異方性が無い場合に比べ、電流が損傷部を直交方向に迂回して流れにくくすることができ、その分、損傷時に流れる電流量が少なくなるので、損傷が生じた場合に流れる電流量の、損傷がない場合に流れる電流量からの変化量(電流量低下量)を大きくすることができる。
【0025】
電圧印加方向と電圧印加方向と直交する方向の両方向における体積抵抗率の比の調整は、電圧印加方向へ配向する導電性フィラーの密度や電圧印加方向へ配向した導電性フィラーパターン間の間隔(電圧印加方向と直交する方向の間隔)を調整することにより、両方向の体積抵抗率の比が、所望の比率の抵抗発熱体層513を得ることができるとともに、両方向の体積抵抗率を所定の体積抵抗率に調整することができる。
【0026】
抵抗発熱体層513に用いる耐熱性樹脂としては、ポリイミド樹脂、ポリエチレンスルフィド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリアラミド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリイミドアミド樹脂、ポリエステル-イミド樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂、ポリ-p-キシリレノン樹脂、ポリベンズイミダゾール樹脂等を用いることができる。その中でも、ポリイミド樹脂は、耐熱性、絶縁性及び機械的強度等に優れた特性を示すので、ポリイミド樹脂を用いるのが望ましい。
【0027】
導電性フィラーとしては、銀(Ag)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、ニッケル(Ni)等の金属、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノコイル等を用いることができ、2種類以上の導電性フィラー(例えば、カーボンナノ材料と金属)を用いることとしてもよい。
導電性フィラーの形状は、同一含有量で導電性フィラー同士が線状に絡み合い、互いに接触しやすくして、接触確率を高めるため、繊維状、針状又はフレーク状の形状が望ましい。これにより、均一な電気抵抗を有する抵抗発熱体層513を成型することができる。
【0028】
抵抗発熱体層513の厚さは、任意であるが、5〜100μm程度が望ましい。抵抗発熱体層513の体積抵抗率は、1.0×10−6〜1.0×10−2Ω・m程度の範囲に設定することができるが、当該体積抵抗率は、1.0×10−5〜5.0×10−3Ω・mの範囲内であることが望ましい。
図3の説明に戻って、補強層514は、抵抗発熱体層513の強度を補強するための層であり、例えば、ポリイミド樹脂を用いることができる。補強層514の厚さは、任意であるが、5〜100μm程度が望ましい。弾性層515は、記録シート上のトナー像に均一かつ柔軟に熱を伝えるための層である。弾性層515を設けることにより、トナー像が押しつぶされたり、トナー像が不均一に溶融されたりするのを防止し、画像ノイズの発生を防止することができる。弾性層515の材料としては、耐熱性と弾性とを有するゴム材や樹脂材を用いる。例えば、シリコーンゴム、フッ素ゴム等の耐熱性エラストマーを材料として用いることができる。
【0029】
弾性層515の厚さは、10〜800μm、さらに望ましくは50〜300μmの範囲内のものとする。弾性層515の厚さが10μm未満では厚さ方向の十分な弾力性を得ることが難しい。また、この厚さが800μmを超えていると、抵抗発熱体層513で発生した熱を加熱回転体51の外周面まで到達させることが難しく,伝熱効率が悪いので好ましくない。
【0030】
離型層516は、加熱回転体51の最外層をなし,加熱回転体51と記録シートとの離型性を高めるための層である。離型層516の材料としては、定着温度での使用に耐えられるとともにトナーに対する離型性に優れたものを使用することができる。例えば、PFA(四フッ化エチレン・パーフルオロアルコキシエチレン共重合体)、PTFE(四フッ化エチレン)、FEP(四フッ化エチレン・六フッ化エチレン共重合体)、PFEP(四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体)等のフッ素樹脂を使用することができる。離型層516の厚さは5〜100μm、望ましくは10〜50μmの範囲内のものとするのがよい。
【0031】
図2(a)の説明に戻って、加圧ローラー1004は、芯金1004Aの軸方向両端部が不図示のフレームの軸受部に回転自在に軸支される。加圧ローラー11004は、駆動モータ(不図示)からの駆動力が伝達されることにより矢印B方向に回転駆動される。この加圧ローラー1004の回転に伴って加熱回転体51が矢印A方向に従動回転する。
加圧ローラー1004は、長尺の円筒状の芯金1004Aの周囲に、弾性層1004Bを介して離型層1004Cが積層されてなり、加熱回転体51の周回経路外側に配置され、加熱回転体51の外側から加熱回転体51の外周面を介して不図示の定着部材を押圧して、加熱回転体51の外周面との間に周方向に所定幅を有する定着ニップ領域が形成される。
【0032】
芯金1004Aは、加圧ローラー1004を支持する部材であり、耐熱性と強度を有する材料から構成される。芯金1004Aの材料としては、例えば、アルミニウム、鉄、ステンレス等を用いることができる。弾性層1004Bは、シリコーンゴム、フッ素ゴム等の弾性体で、厚さ1〜20mmの範囲内の耐熱性の高い材料で構成される。離型層1004Cは、離型層516と同様に、加圧ローラー1004と記録シートとの離型性を高めるための層であり、離型層516と同様の材料及び厚さで構成することができる。
【0033】
[3]制御部の構成
図5は、制御部60の構成と制御部60の制御対象となる主構成要素との関係を示す図である。制御部60は、所謂コンピュータであって、同図に示されるように、CPU(Central Processing Unit)601、通信インターフェース(I/F)部602、ROM(Read Only Memory)603、RAM(Random Access Memory)604、画像データ記憶部605、正常電流値記憶部606、警告メッセージ記憶部607等を備える。
【0034】
通信I/F部602は、LANカード、LANボードといったLANに接続するためのインターフェースである。ROM603には、画像プロセス部3、給紙部4、定着装置5の電源部1000及び電流計1001等、画像読取部7、操作パネル8を制御するためのプログラムや後述するウォームアップ時異常発熱検出処理、印刷ジョブ実行時異常発熱検出処理を制御するプログラム等が格納されている。
【0035】
RAM604は、CPU601のプログラム実行時のワークエリアとして用いられる。
画像データ記憶部605は、通信I/F部602や画像読取部7を介して入力された、印刷用の画像データを記憶している。正常電流値記憶部606は、正常電流値(I)及び異常発熱基準値を記憶している。ここで、「正常電流値」とは、抵抗発熱体層513に損傷がない時に抵抗発熱体層513を流れる電流値のことをいい、具体的には、加熱回転体51の外周面の表面温度が定着温度(例えば、150℃)に達した時(ウォームアップ完了時又は印刷ジョブ実行時)に抵抗発熱体層513を流れる電流値のことをいう。
【0036】
又「異常発熱基準値」とは、後述するウォームアップ時異常発熱検出処理、印刷ジョブ実行時異常発熱検出処理において、抵抗発熱体層513に損傷が生じ、異常発熱が発生しているか否かの判定基準となる、異常発熱時に抵抗発熱体層513を流れる電流量の、正常電流値からの変化量に相当する値のことをいう。
具体的には、抵抗発熱体層513において、その長手方向の全長の長さの30%の長さに相当する損傷部を長手方向に形成した場合においてウォームアップ完了時に抵抗発熱体層513を流れる電流量の、正常電流値からの変化量に相当する値のことをいう。当該変化量は、後述するαの算出式(α=(I―I)/I×100)を用いて算出される。上記の算出式において、Iに正常電流値を、Iに抵抗発熱体層513の長手方向の全長の長さの30%の長さに相当する損傷部を長手方向に形成した場合に抵抗発熱体層513を流れる電流量を代入することにより、当該変化量が算出される。
【0037】
警告メッセージ記憶部607は、後述するウォームアップ時異常発熱検出処理、印刷ジョブ実行時異常発熱検出処理において、抵抗発熱体層513に異常発熱が発生したと判断された場合に、操作パネル8に表示される警告メッセージを表示するためのデータを記憶している。具体的には、異常発熱が発生している旨のメッセージを示すデータを記憶している。
【0038】
CPU601は、ROM603に格納されている各種プログラムを実行することにより、画像プロセス部3、給紙部4、定着装置5の電源部1000及び電流計1001等、画像読取部7、操作パネル8等を制御したり、後述するウォームアップ時異常発熱検出処理、印刷ジョブ実行時異常発熱検出処理を制御したりする。
画像読取部7は、スキャナー等の画像入力装置から構成され、用紙等の記録シートに記載されている文字や図形等の情報を読取り、画像データを形成する。
操作パネル6は、複数の入力キーと液晶表示部を備え、液晶表示部の表面にはタッチパネルが積層されている。タッチパネルからのタッチ入力又は入力キーからのキー入力により、ユーザからの指示を受取り、制御部60に通知する。
【0039】
[4]加熱回転体の製造方法
(1)抵抗発熱体層513の前駆体の塗布工程
導電性フィラーをポリイミド前駆体溶液に混合し、導電性フィラーが分散されたポリイミド前駆体溶液を調製し、調整した前駆体溶液を円筒状金型の外周面にノズルで塗布する。その際、導電性フィラーが分散されたポリイミド前駆体溶液を、ノズルを周方向に走査しながら円筒状金型の外周面に塗布することで、導電性フィラーが周方向に配向する。さらに、円筒状の金型の外周面を円筒軸方向に所定の距離ずつ移動させ、所定距離移動する毎に、上記のように導電性フィラーを周方向にノズルで塗布する。
【0040】
塗布後、加熱により、塗布されたポリイミド前駆体が半硬化状態になるようにする。例えば、約100℃のオーブンで1時間程度加熱することにより、ポリイミド前駆体を半硬化状態にすることができる。
ポリイミド前駆体溶液に分散される導電性フィラーの重量は、ポリイミド前駆体溶液中のポリイミド前駆体の固形重量に対して、導電性フィラーの重量が50〜300重量%となるように、調整される。これにより、定着装置5の発熱量が500〜1500Wの範囲内になるように、抵抗発熱体層513の体積抵抗率を調整することができる。
【0041】
又、周方向に塗布する導電性フィラーの密度や円筒状金型の外周面を移動させる移動距離を調整することにより、周方向(電圧印加方向)及び円筒軸方向(電圧印加方向と直交する方向)の両方向の体積抵抗率の比が、所望の比率の抵抗発熱体層513を得ることができる。
(2)補強層514の前駆体の塗布工程
ポリイミド前駆体溶液を補強層514の前駆体として、導電性フィラー塗布後の円筒状金型の外周面に塗布する。
(3)補強層514の成形工程
塗布された補強層514の前駆体を、(1)と同様にポリイミド前駆体が半硬化状態になるように加熱して当該前駆体を成形する。
(4)ポリイミド前駆体のイミド化工程
成形されたポリイミド前駆体を加熱し、ポリイミド前駆体のイミド化を完了させる。ポリイミド前駆体の加熱は、例えば、約350℃で1時間程度加熱することにより、行う。これにより、両層のイミド化がほぼ同時に完了し、抵抗発熱体層513と補強層514とが形成されるとともに、両層間の接着性を高めることができる。
(5)弾性層515の前駆体の塗布工程
補強層514の外面にプライマーを塗布して乾燥した後、さらに、シリコーンゴム前駆体溶液を塗布する。プライマーとしては、例えば、モメンティブ・パーフォーマンス・マテリアルズ社製の「XP81−405」を用いることができる。
【0042】
又、シリコーンゴム前駆体溶液としては、例えば、モメンティブ・パーフォーマンス・マテリアルズ社製の「XP81−A6361」を用いることができる。
(6)弾性層515の成形工程
塗布されたシリコーンゴム前駆体溶液を加熱して一次加硫を行い、弾性層515を成形する。一次加硫は、シリコーンゴム前駆体溶液を、例えば、約150℃のオーブンで10分程度加熱することにより行われる。
(7)離型層516による弾性層515被覆工程
弾性層515との接着性をよくするために離型層516の内面にシリコーンゴム前駆体の付加型液状シリコーンゴムを塗布した後、当該離型層516で弾性層515を被覆する。付加型シリコーンゴムとしては、例えば、モメンティブ・パーフォーマンス・マテリアルズ社製の「XE15−B7354−40K×2S」を用いることができる。又、離型層516としては、例えば、PFAチューブを用いることができる。
(8)接着工程
弾性層515及び離型層516に塗布されたシリコーンゴム前駆体を加熱して二次加硫を行い、両層を接着する。二次加硫は、シリコーンゴム前駆体を例えば、約200℃のオーブンで4時間程度加熱することにより行われる。これにより、加熱回転体51が形成される。
[5]異常発熱検出処理
図6は、制御部60が行うウォームアップ時異常発熱検出処理の動作を示すフローチャートである。制御部60は、プリンター1の電源がオンされた場合や定着装置5への給電が停止された状態(スリープ状態)に有るときに操作パネル8や通信I/F部602を介してユーザから印刷指示が入力された場合に、電源部1000を介して加熱回転体51へ給電を開始し、定着装置5のウォームアップを開始する(ステップS601)。
【0043】
そして、制御部60は、加熱回転体51の外周面の近傍に配置された温度センサーの検出する温度を監視し、当該温度が定着温度(例えば、150°C)に達すると、電流計1001を介して抵抗発熱体層513を流れる電流量を示す電流値(I)を取得し(ステップS602)、電源部1000への給電のオン・オフを制御して、加熱回転体51の外周面の表面温度が定着温度に維持されるように制御する。
【0044】
次に、制御部60は、正常電流値記憶部606に記憶されている、正常電流値(I)を取得し、取得したI及びIに基づいて、正常電流値からの電流変化量α(α=(I―I)/I×100)を算出し(ステップS603)、αが正常電流値記憶部606に記憶されている異常発熱基準値以上か否かを判定する(ステップS604)。
αが異常発熱基準値以上である場合には(ステップS604:YES)、制御部60は、抵抗発熱体層513に異常発熱が発生したと判断し、定着装置5の電源部1000への給電を停止し、警告メッセージ記憶部607に記憶されているデータに基づいて、操作パネル8の液晶表示部に異常発熱が発生している旨の警告メッセージを表示させる(ステップS605)。
【0045】
図7は、制御部60が行う印刷ジョブ実行時異常発熱検出処理の動作を示すフローチャートである。制御部60は、操作パネル8や通信I/F部602を介してユーザから印刷指示が入力され、定着装置5のウォームアップが完了している場合(加熱回転体51の外周面の表面温度が定着温度に達している場合)、印刷ジョブを開始し(ステップS701)、電流計1001を介して抵抗発熱体層513の電流量を示す電流値(I)を取得し(ステップS702)、正常電流値記憶部606に記憶されている、正常電流値(I)を取得し、取得したI及びIに基づいて、正常電流値からの電流変化量α(α=(I―I)/I×100)を算出し(ステップS703)、αが正常電流値記憶部606に記憶されている異常発熱基準値以上か否かを判定する(ステップS704)。
【0046】
αが異常発熱基準値以上である場合には(ステップS704:YES)、制御部60は、抵抗発熱体層513に異常発熱が発生したと判断し、定着装置5の電源部1000への給電を停止し、警告メッセージ記憶部607に記憶されているデータに基づいて、操作パネル8の液晶表示部に異常発熱が発生している旨の警告メッセージを表示させる(ステップS705)。
【0047】
一方、αが異常発熱基準値未満であり(ステップS704:NO)、印刷ジョブが完了していない場合(処理すべき印刷ジョブが残っている場合、ステップS706:NO)、制御部60は、ステップS702の処理に移行する。
[6]αとRx方向とRy方向の電気抵抗比との関係
図6及び図7に示す異常発熱検出処理においては、正常電流値からの電流変化量αの大きさに応じて異常発熱の発生有無を判定しているが、αは、抵抗発熱体層513のRy方向の体積抵抗率(R1)に対する抵抗発熱体層513のRx方向の体積抵抗率(R2)の比R2/R1に応じて変化する。図8は、αとR2/R1との関係について調べた実験結果を示す。同実験は、図9に示すように、R2/R1比の異なる各抵抗発熱体層の周方向中央部付近においてRx方向に、当該抵抗発熱体層の長手方向の全長の長さDに対して、0.3Dの長さの損傷部91を形成し、当該抵抗発熱体層を用いて加熱回転体を形成し、ウォームアップ動作終了時における当該抵抗発熱体層を流れる電流値を測定し、当該測定結果に基づいてαを算出することにより行った。図9の符号1002、1003は、給電ローラーを示す。又、本実験における、各加熱回転体の抵抗発熱体層の長手方向の全長の長さは、340mm、周方向の全周の長さは、90mm、損傷部の長手方向の長さは、102mm、各加熱回転体の抵抗発熱体層への印加電圧は100V、各抵抗発熱体層の両給電ローラー間の抵抗値は9.5Ωとした。
【0048】
図8の実験結果が示すように、抵抗発熱体層が損傷した場合におけるαの値は、R2/R1の値が大きくなるに従って大きくなっている。このαの値が小さいと、電流計が接続されている電流検出回路における測定誤差の影響を受けやすくなり、抵抗発熱体層の異常発熱の有無を精度よく検出するのが困難となる。電流検出回路における測定誤差は、用いる電流計等により異なるが、電流検出回路における測定誤差の大きさに応じて、抵抗発熱体層が損傷した場合におけるαの値が、測定誤差による変化量よりも有為に大きくなるように、図8の実験結果に基づいて抵抗発熱体層513のR2/R1の値を決定することができる。
【0049】
例えば、本実験で用いている電流検出回路(電流計1001が接続されている電流検出回路)における測定誤差は3%であり、異常発熱時におけるαの値が、当該測定誤差による変化量よりも有為に大きくなるようにするには、R2/R1値が少なくとも4以上となるように抵抗発熱体層513の電圧印加方向及びその直交方向の両方向の体積抵抗率の比率を調整することが必要となる。
【0050】
R2/R1値が少なくとも4以上となるように抵抗発熱体層513の電圧印加方向及びその直交方向の両方向の体積抵抗率の比率を調整することにより、異常発熱時におけるαの値を、5%を超える値とすることができ、本実験で用いている電流検出回路における測定誤差(3%)より有為に大きくすることができるので、当該測定誤差の影響を受けることなく、図6及び図7に示す異常発熱検出処理を用いて異常発熱の発生を検出することができ、異常発熱の有無を精度よく判定することができる。
【0051】
このように、抵抗発熱体層の電圧印加方向及びその直交方向の両方向の体積抵抗率の比率を、電流検出回路の測定誤差に応じて調整することにより、当該測定誤差の影響を受けることなく、抵抗発熱体層の異常発熱の有無を、電流検出回路を用いて精度よく検出することができる。その結果、従来、測定誤差の影響により、抵抗発熱体層を流れる電流の変化を、単に電流計で測定するだけでは、検出困難であった抵抗発熱体層における異常発熱の検出を可能にすることができた。
(変形例)
以上、本発明を実施の形態に基づいて説明してきたが、本発明が上述の実施の形態に限定されないのは勿論であり、以下のような変形例を実施することができる。
【0052】
(1)本実施の形態においては、加熱回転体51の抵抗発熱体層513への電圧印加方向を周方向とし、抵抗発熱体層513中を周方向に電流が流れる構成としたが、電圧印加方向を加熱回転体の長手方向とし、加熱回転体の抵抗発熱体層中を長手方向に電流が流れる構成としてもよい。例えば、定着装置を図10の斜視図に示すような構成としてもよい。
【0053】
同図に示すように、定着装置5Bは、加熱回転体51Bと、定着ローラー52と、加圧ローラー53と、加熱回転体51B(後述する抵抗発熱体層513B)の両端部に電圧を印加して通電させる電源部500と、加熱回転体51B(後述する抵抗発熱体層513B)を流れる電流量を測定する電流計503と、加熱回転体51B(後述する電極511、512)に給電するための給電部材501、502と、を有する。
【0054】
加熱回転体51Bは、無端状のベルトであり、その両端部に給電用の電極511、512が設けられ、両電極には電源部500から給電部材501、502を介して電圧が印加され、給電が行われる。給電部材としては、例えば、給電ブラシや給電ローラーを用いることができる。給電部材からの給電により、両電極間に電流が流れて、加熱回転体51Bがジュール発熱する。
【0055】
さらに、加熱回転体51Bの外周面の近傍の所定の位置(ここでは、長手方向の中央部付近)には、不図示の温度センサーが配置されている。温度センサーは、加熱回転体51Bの外周面の表面温度を検出し、制御部60は、温度センサーの検出する温度に応じて電源部500から加熱回転体51Bへの給電を制御して加熱回転体51Bの温度を制御し、加熱回転体51Bの外周面の温度が定着温度(例えば、150°C)になるように制御する。
【0056】
図11は、加熱回転体51Bの詳細な構成を示す断面図である。同図に示すように、符号301で示す画像領域においては、加熱回転体51Bは、本実施の形態の加熱回転体51と同様に、抵抗発熱体層513、補強層514、弾性層515、離型層516が、この順に積層されて構成されている。加熱回転体51と同一の構成要素については、同一の番号を付しており、以下、説明を省略する
ここで、「画像領域301」は、記録シート上の画像が通紙される範囲に対応する加熱回転体51上のベルト幅方向の領域を示す。なお、図10に示す画像領域についても同様である。
【0057】
抵抗発熱体層513Bは、電源部500から電極511、512を通じて給電されることにより、ジュール熱を発生する層である。抵抗発熱体層513は、耐熱性樹脂上又は耐熱性樹脂中において、繊維状、針状又はフレーク状の導電性フィラーが長手方向(電圧印加方向)に配向するように分散されて構成されている。
図12は、抵抗発熱体層513Bの微細構造をイメージ的に表した図である。同図(a)の符号513Bは、抵抗発熱体層を、符号513Baは、導電性フィラーを、符号513Bbは、耐熱性樹脂をそれぞれ表す。同図(a)に示すように、導電性フィラー513Baは、長手方向(電圧印加方向)に配向するように分散されており、これにより、抵抗発熱体層513Bにおいては、電圧印加方向の方が周方向(電圧印加方向と直交する方向)よりも導電性が高くなり、同図(b)の白抜き矢印の長さで示すように電圧印加方向(Rxの方向)と電圧印加方向と直交する方向(Ryの方向)との間で、電気抵抗(体積抵抗率)が異なる抵抗異方性を示すように構成される(電圧印加方向(Rxの方向)に比べ、電圧印加方向と直交する方向(Ryの方向)の方が、電気抵抗(体積抵抗率)が大きくなるように構成される)。
【0058】
一方、図11の符号302a、302bで示す両端部の非画像領域においては、加熱回転体51Bは、符号303a、303bで示す露出領域と、符号304a、304bで示す重複領域とから構成されている。
ここで、「非画像領域302a、302b」は、記録シート上の画像が通紙されない範囲に対応する加熱回転体51B上のベルト幅方向の領域を示す。図10に示す非画像領域についても同様である。
【0059】
露出領域303a、303bにおいては、電極511、512がそれぞれ単層で露出し、重複領域304a、304bにおいては、電極511、512がそれぞれ抵抗発熱体層513Bで被覆され、電極511と抵抗発熱体層513Bとの両層、電極512と抵抗発熱体層513Bとの両層がそれぞれ、重なり合って重複するように構成されている。さらに、両層の上に補強層514、弾性層515、離型層516が、この順に積層されている。
【0060】
電極511、512は、導電性の材料から構成される。電極の材料としては、例えば、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、ステンレス(SUS)、真鍮、リン青銅等の金属を用いることができるが、体積抵抗率が低く、耐熱性、対酸化性に優れたニッケル、ステンレス、アルミニウム等の使用が望ましい。電極の厚さは、厚い方が、剛性が高く、破壊に対して抵抗力が高いが、加圧部材により形成される定着ニップ部において変形し難くなるため、柔軟性とのバランスを考慮すると、10〜100μm、更には30〜70μm程度が望ましい。
【0061】
図10の説明に戻って、給電部材501及び502には、給電部材を加熱回転体51の周回経路内側の方向に押圧する付勢部材5011、5021がそれぞれ設けられている。付勢部材としては、例えば、圧縮ばねを用いることができる。付勢部材5011、5021の押圧力により、給電部材が露出領域において電極に圧接される。
定着ローラー52と加圧ローラー53は、芯金522、532の軸方向両端部521、531が不図示のフレームの軸受部に回転自在に軸支される。加圧ローラー53は、駆動モータ(不図示)からの駆動力が伝達されることにより矢印D方向に回転駆動される。この加圧ローラー53の回転に伴って加熱回転体51Bと定着ローラー52が矢印C方向に従動回転する。
【0062】
定着ローラー52は、長尺で円筒状の芯金522の周囲を断熱層523で被覆されてなり、加熱回転体51Bの周回経路の内側に配され、軸方向の長さが、加熱回転体51Bの両端部の露出領域において電極511、512がそれぞれ対応する給電部材と圧接する圧接位置間の軸方向の長さより長くなるように構成されている。芯金522は、定着ローラー52を支持する部材であり、耐熱性と強度を有する材料から構成される。芯金522の材料としては、例えば、アルミニウム、鉄、ステンレス等を用いることができる。
【0063】
断熱層523は、加熱回転体51Bが発熱した熱を芯金522に逃がさないようにするための層である。断熱層523の材料としては、熱伝導率が低く、耐熱性及び弾性を有するゴム材や樹脂材のスポンジ体(断熱構造体)を用いるのが望ましい。加熱回転体B51のたわみを許容し、ニップ幅を広くすることができるからである。断熱層523を、ソリッド体とスポンジ体との2層構造にしてもよい。シリコンスポンジ材を断熱層523として用いる場合には、その厚さを1〜10mmとするのが望ましい。さらに望ましくは、2〜7mmとするのがよい。
【0064】
加圧ローラー53は、円筒状の芯金532の周囲に、弾性層533を介して離型層534が積層されてなり、加熱回転体51Bの周回経路外側に配置され、加熱回転体51Bの外側から加熱回転体51Bの外周面を介して定着ローラー52を押圧して、加熱回転体51Bの外周面との間に周方向に所定幅を有する定着ニップ領域が形成される。
芯金532は、加圧ローラー53を支持する部材であり、耐熱性と強度を有する材料から構成される。芯金532の材料としては、例えば、アルミニウム、鉄、ステンレス等を用いることができる。弾性層533は、シリコーンゴム、フッ素ゴム等の弾性体で、厚さ1〜20mmの範囲内の耐熱性の高い材料で構成される。離型層534は、離型層516と同様に、加圧ローラー53と記録シートとの離型性を高めるための層であり、離型層516と同様の材料及び厚さで構成することができる。
【0065】
加熱回転体51Bは、以下に示す(a)〜(k)の工程を経て製造される。
(a)電極511、512の形成工程
電極形成用の金属(例えば、ニッケル、ステンレス、アルミニウム)を加工して30〜70μmの厚さのリング形状の電極(電極511、512)を形成する。加工法としては、例えば、電鋳加工、へら絞り加工、プレス絞り加工等を用いることができる。又、電極形成用の金属シートを用いて、レーザ溶接によりリング形状の電極を形成することとしてもよい。
(b)円筒状金型への電極511、512のセット工程
円筒状の金型の表面に離型剤を塗布して型離れを良くした後、(1)で形成したリング形状の電極511、512をそれぞれ、軸方向に所定の間隔(画像領域のベルト幅方向の長さに相当する間隔)をあけて円筒状の金型に嵌めこむことにより、電極511、512をそれぞれ円筒状金型にセットする。
(c)抵抗発熱体層513Bの前駆体の塗布工程
導電性フィラーをポリイミド前駆体溶液に混合し、導電性フィラーが分散されたポリイミド前駆体溶液を調製し、円筒状金型にセットされた電極511、512の露出領域に相当する領域をマスクした状態で、調整した前駆体溶液を円筒状金型の外周面にノズルで塗布する。その際、ノズルを円筒軸方向に走査しながら、円筒状金型を回転させてゆく。より具体的には、ノズルを円筒軸方向に走査して導電性フィラーを円筒軸方向に配向させ、さらに円筒状金型を所定の角度ずつ回転させて、1周回させ、所定の角度だけ回転する毎に、ノズルを円筒軸方向へ走査する。
【0066】
塗布後、加熱により、塗布されたポリイミド前駆体が半硬化状態になるようにする。例えば、約100℃のオーブンで1時間程度加熱することにより、ポリイミド前駆体を半硬化状態にすることができる。
ポリイミド前駆体溶液に分散される導電性フィラーの重量は、ポリイミド前駆体溶液中のポリイミド前駆体の固形重量に対して、導電性フィラーの重量が50〜300重量%となるように、調整される。これにより、定着装置5Bの発熱量が500〜1500Wの範囲内になるように、抵抗発熱体層513Bの体積抵抗率を調整することができる。
【0067】
又、円筒軸方向に塗布する導電性フィラーの密度や円筒状金型を回転させる角度を調整することにより、円筒軸方向(電圧印加方向)及びその直交方向の両方向の体積抵抗率の比が、所望の比率の抵抗発熱体層513を得ることができる。
例えば、ノズル径、ノズル走査速度、ノズル吐出量、円筒状金型の回転速度、導電性フィラーを混合したポリイミド前駆体溶液の粘度などを調節することにより所望の比率の抵抗発熱体層513を得ることができる。
(d)補強層514の前駆体の塗布工程、(e)補強層514の成形工程、(f)ポリイミド前駆体のイミド化工程、(g)弾性層515の前駆体の塗布工程、(h)弾性層515の成形工程、(i)離型層516による弾性層515被覆工程、(j)接着工程については、本実施の形態の抵抗発熱体層513についての各対応する工程と同様である。
(k).マスク除去工程
円筒状金型にセットされた電極511、512のマスクを除去し、円筒状金型上に形成された加熱回転体51Bを金型からはずす。
【0068】
本変形例の抵抗発熱体層513Bについて、αと電圧印加方向の体積抵抗率(R1’)に対する電圧印加方向と直交する方向の体積抵抗率(R2’)の比(R2’/R1’)との関係について調べた実験結果は、本実施の形態の抵抗発熱体層513の場合の実験結果(図8)と同様の結果であった。当該実験は、図13に示すように、R2’/R1’比の異なる各抵抗発熱体層の長手方向中央部付近においてRy方向に、当該抵抗発熱体層の周方向の全周の長さEに対して、0.3Eの長さの損傷部81を形成し、当該抵抗発熱体層を用いて加熱回転体を形成し、ウォームアップ動作終了時における当該抵抗発熱体層を流れる電流値を測定し、当該測定結果に基づいてαを算出することにより行った。図13の符号511、512は、電極を示す。又、本実験における、各加熱回転体の抵抗発熱体層の長手方向の全長の長さは、340mm、周方向の全周の長さは、90mm、損傷部の周方向の長さは、27mm、各加熱回転体の抵抗発熱体層への印加電圧は100V、各抵抗発熱体層の両電極間の抵抗値は9.5Ωとした。
【0069】
(2)(1)の変形例の加熱回転体51Bでは、補強層514を、抵抗発熱体層513の上に積層し、電極511、512の一部が単層で露出した構成としたが、加熱回転体の構成は、上記の構成に限定されず、他の構成であってもよい。例えば、加熱回転体の構成を図14に示す構成とすることとしてもよい。同図において加熱回転体51Cを構成する要素は、加熱回転体51Bの構成要素と同一であるので、各構成要素について、加熱回転体51の対応する構成要素と同一の番号を付与している。同図に示すように、加熱回転体51Cにおいては、抵抗発熱体層513Bは、補強層514の上に積層され、電極511、512は、それぞれ、抵抗発熱体層513B上に形成されている。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、プリンター、複写機等の画像形成装置が備える定着装置に関し、特に抵抗発熱体層を発熱体として用いた定着装置における異常発熱を検出する技術として利用できる。
【符号の説明】
【0071】
1 プリンター
3 画像プロセス部
3Y〜3K 作像部
4 給紙部
5 定着装置
7 画像読取部
8 操作パネル
10 露光部
11 中間転写ベルト
12 駆動ローラー
13 従動ローラー
14、35Y クリーナー
31Y 感光体ドラム
32Y 帯電器
33Y 現像器
34Y 1次転写ローラー
41 給紙カセット
42 繰り出しローラー
43 搬送路
44 タイミングローラー
45 2次転写ローラー
46 2次転写位置
51、51B、51C 加熱回転体
52 定着ローラー
53、1004 加圧ローラー
60 制御部
71 排出ローラー
72 排紙トレイ
500、1000 電源部
501、502 給電部材
503、1001 電流計
511、512 電極
513、513B 抵抗発熱体層
514 補強層
515、533 弾性層
516、534、1004C 離型層
521、531 芯金端部
522、532、1004A 芯金
523、1004B 断熱層
601 CPU
602 通信I/F部
603 ROM
604 RAM
605 画像データ記憶部
606 正常電流値記憶部
607 警告メッセージ記憶部
1002、1003 給電ローラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録シート上の未定着画像を熱定着させる定着装置であって、
通電により発熱する抵抗発熱体層を有し、当該抵抗発熱体層の発する熱により記録シート上の未定着画像を熱融着させる、無端状の加熱ベルトと、
前記抵抗発熱体層に電圧を印加して通電させる通電手段と、
前記抵抗発熱体層を流れる電流量を検出する検出手段と、
前記抵抗発熱体層に損傷がない場合に流れる電流量と、前記検出手段による検出時点における実際の電流量との変化量を監視することにより、前記抵抗発熱体層の損傷の有無を判定する判定手段と、
を備え、
前記抵抗発熱体層は、前記通電手段の電圧印加方向の体積抵抗率R1よりも、電圧印加方向と直交する方向の体積抵抗率R2の方が大きい(R1<R2)抵抗異方性を有する
ことを特徴とする定着装置。
【請求項2】
前記所定量は、前記判定手段による前記損傷の有無の判定が可能な変化量の限界値よりも大きい量である
ことを特徴とする請求項1記載の定着装置。
【請求項3】
前記抵抗発熱体層は、耐熱性樹脂において導電性フィラーが電圧印加方向に配向した構成となっている
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の定着装置。
【請求項4】
前記加熱ベルトは、長手方向の両端部に前記抵抗発熱体層に給電するための給電電極を有し、
前記通電手段は、前記各給電電極を介して前記長手方向に電圧を印加する
ことを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の定着装置。
【請求項5】
前記各給電電極は、前記加熱ベルトの全周に形成されている
ことを特徴とする請求項4記載の定着装置。
【請求項6】
前記通電手段は、前記加熱ベルトの周方向に電圧を印加することにより、前記抵抗発熱体層を通電させる
ことを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の定着装置。
【請求項7】
前記抵抗発熱体層は、R2/R1の値が4以上となるように構成されている
ことを特徴とする請求項1〜6の何れかに記載の定着装置。
【請求項8】
請求項1〜7の何れかに記載の定着装置
を備えることを特徴とする画像形成装置。
【請求項9】
通電により発熱する抵抗発熱体層を有し、当該抵抗発熱体層の発する熱により記録シート上の未定着画像を熱融着させる、無端状の加熱ベルトを備え、記録シート上の未定着画像を熱定着させる定着装置における抵抗発熱体層の損傷を検出する損傷検出方法であって、
前記抵抗発熱体層に電圧を印加して通電させる通電ステップと、
前記抵抗発熱体層を流れる電流量を検出する検出ステップと、
前記抵抗発熱体層に損傷がない場合に流れる電流量と、前記検出ステップによる検出時点における実際の電流量との変化量を監視することにより、前記抵抗発熱体層の損傷の有無を判定する判定ステップと、
を含み、
前記抵抗発熱体層は、電圧印加方向の体積抵抗率R1よりも、電圧印加方向と直交する方向の体積抵抗率R2の方が大きい(R1<R2)抵抗異方性を有する
ことを特徴とする抵抗発熱体層の損傷検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2013−92571(P2013−92571A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−233131(P2011−233131)
【出願日】平成23年10月24日(2011.10.24)
【出願人】(303000372)コニカミノルタビジネステクノロジーズ株式会社 (12,802)
【Fターム(参考)】