説明

定着装置および画像形成装置

【課題】定着ベルトの地絡によって局所的に温度上昇することを未然に防止する。
【解決手段】定着ベルト31の抵抗発熱層には、交流電源34に第1電流経路44および第2電流経路45を介してそれぞれ接続された第1給電部材37aおよび第2給電部材37bによって交流電流が供給される。第1電流経路44および第2電流経路45を流れる電流は、第1電流検出器44bおよび第2電流検出器45bのそれぞれによって検出される。制御部41は、それぞれによって検出された電流と、予め設定された閾値との比較に基づいて定着ベルト31に地絡が生じていることを検出し、地絡が検出されると、第1電流経路44に設けられた電流第3リレー44c、第2電流経路45に設けられたトライアック45dおよび第2リレー45cを電流遮断状態とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録シート上に形成された未定着画像を加熱して記録シートに定着させる定着装置、当該定着装置を備える画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プリンタ、複写機等の電子写真方式の画像形成装置では、通常、画像データに対応したトナー画像を記録紙、OHPシート等の記録シートに転写した後に、記録シートに転写されたトナー画像を、定着装置において定着するようになっている。定着装置では、記録シート上のトナー画像を加熱して記録シートに対して加圧することによって記録シートに定着している。
【0003】
このような定着装置として、通電によって発熱する抵抗発熱層を備えた発熱定着ベルトを用いる構成が提案されている。例えば、特許文献1には、カーボンナノ材料とフィラメント状金属粒子とをポリイミド樹脂に分散して成形された抵抗発熱層を有する発熱定着ベルトに、加圧ロールを圧接されることによって定着ニップを形成する定着装置が開示されている。
【0004】
特許文献1に開示された定着装置では、発熱定着ベルトの熱容量が小さいために、ウォーミングアップ時間が短くなり、しかも、消費電力も低減することができる。従って、発熱定着ベルトを短時間で定着温度にまで昇温することができ、また、低電力量で所定の定着温度に維持することができる。その結果、トナー画像を記録シートに、高速で、しかも、低電力量で熱定着することが可能になる。
【0005】
しかしながら、このような定着装置では、発熱定着ベルトに亀裂等の破損が生じると、破損部分において電流が流れない状態になるおそれがある。この場合には、破損部分の近傍において電流が集中することになる。発熱定着ベルトは、熱容量が非常に小さいために昇温性能に優れており、発熱量が少なくても温度上昇が大きく、電流が集中した部分は、過度に温度が上昇するおそれがある。
【0006】
特許文献2には、熱容量の小さな厚膜抵抗発熱体がセラミック板上に形成されたヒーターによって周回移動する耐熱性フィルムを加熱する加熱装置を用いた定着装置において、厚膜抵抗発熱体に供給される電流に基づいてセラミック板の割れを検出して、発熱体の駆動を停止させる電源遮断機構を制御する構成が開示されている。このような構成により、セラミック板が割れた場合に、局所的に温度上昇することを防止することができる。
【0007】
また、特許文献3には、特許文献2に開示された加熱装置と同様の加熱装置を用いた定着装置において、発熱体に対する最大供給可能電力比を算出し、算出された最大供給可能電力比に基づいて、発熱体への通電を遮断する構成が開示されている。このような構成によって、定着装置の定格電圧と異なる電圧が投入された場合に装置が破損することを防止できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−272223号公報
【特許文献2】特開平6−202512号公報
【特許文献3】特開2009−186933号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に開示された定着装置では、発熱定着ベルトを使用しているために、発熱定着ベルトの破損等によって、発熱定着ベルトの一部が、繊維状、帯状等に剥離するおそれがある。この場合、発熱定着ベルトは周回移動しているために、剥離した部分が周囲の板金等の導体に接触する可能性があり、この場合には、発熱定着ベルトを流れる電流は地絡(ボディアース)することになる。
【0010】
これにより、発熱定着ベルトの抵抗発熱層を流れる電流を制御できなくなり、抵抗発熱層の一部に高電流が流れて、発熱定着ベルトが高温になるおそれがある。
特許文献2に開示された定着装置では、セラミック板上に厚膜抵抗発熱体が形成されたヒーターを使用しており、セラミック板が割れた場合に厚膜抵抗発熱体に供給される電流低下を検出する構成であるために、セラミック板の割れについてしか検出することができない。しかも、セラミック板が割れた場合にも、厚膜抵抗発熱体は地絡するおそれがない。
【0011】
特許文献3に開示された定着装置でも、セラミック板上に発熱体が形成されたヒーターを使用しており、しかも、定着装置の定格電圧と異なる電圧が投入された場合に、発熱体において局所的に温度上昇することを防止する構成であることから、定着装置の定格電圧と異なる電圧が投入されたことしか検出することができない。さらには、セラミック板に割れ等の損傷が生じた場合にも、発熱体は地絡するおそれがない。
【0012】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、抵抗発熱層を有する定着ベルトが破損等によって地絡が生じた場合にも、局所的に温度上昇することを未然に防止することができる定着装置を提供することにある。本発明の他の目的は、そのような定着装置を有する画像形成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、本発明の第1局面に係る定着装置は、電流が流れることによって発熱する抵抗発熱層が周回移動方向の全周にわたって設けられた定着回転体と、当該定着回転体の外周面に圧接されて定着ニップを形成する加圧部材と、前記定着回転体の周回移動方向とは直交する方向の両側の端部のそれぞれにおいて、前記抵抗発熱層に対して給電する一対の給電部材と、前記一対の給電部材のそれぞれと電源とを接続する一対の電流経路と、前記一対の電流経路のそれぞれを電流遮断状態とする一対の電流遮断手段と、前記一対の電流経路のいずれか一方の電流を検出する電流検出手段と、当該電流検出手段によって検出される電流を、予め設定された閾値と比較することによって前記定着ベルトに地絡が発生していることを検出して、前記一対の電流遮断手段の両方を電流遮断状態にする制御手段と、を有することを特徴とする。
【0014】
また、本発明の第2局面に係る定着装置は、電流が流れることによって発熱する抵抗発熱層が周回移動方向の全周にわたって設けられた定着回転体と、当該定着回転体の外周面に圧接されて定着ニップを形成する加圧部材と、前記定着回転体の周回移動方向とは直交する方向の両側の端部のそれぞれにおいて、前記抵抗発熱層に対して給電する一対の給電部材と、前記一対の給電部材のそれぞれと電源とを接続する一対の電流経路と、前記一対の電流経路のそれぞれを電流遮断状態とする一対の電流遮断手段と、前記一対の電流経路のいずれか一方の電流を検出する電流検出手段と、前記定着回転体の温度を検出する温度検出手段と、前記電流検出手段によって検出される電流と、前記温度検出手段によって検出される温度とによって得られる電流−温度特性の変化に基づいて、前記定着ベルトに地絡が発生していることを検出して、前記一対の電流遮断手段の両方を電流遮断状態にする制御手段と、を有することを特徴とする。
【0015】
本発明に係る画像形成装置は、前記定着装置を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の定着装置では、定着ベルトが破損して地絡した場合に、定着ベルトに電流が供給されることを確実に防止できるために、抵抗発熱層の地絡によって高電流が流れることによって局所的に温度上昇することを未然に防止することができる。
好ましくは、第1局面に係る定着装置において、前記電流検出手段は、前記一対の電流経路のそれぞれに設けられており、前記制御手段は、前記電流検出手段いずれか一方によって検出される電流に基づいて前記地絡の発生を検出することを特徴とする。
【0017】
好ましくは、第1局面に係る定着装置において、前記電流検出手段が設けられた電流経路に、当該電流経路の電圧を検出する電圧検出手段が設けられており、前記制御手段は、当該電圧検出手段によって検出される電圧に基づいて、前記閾値を補正することを特徴とする。
好ましくは、第1局面に係る定着装置において、前記定着ベルトの温度を検出する温度検出手段をさらに備え、前記制御手段は、当該温度検出手段の検出結果に基づいて前記閾値を補正することを特徴とする。
【0018】
好ましくは、第2局面に係る定着装置において、前記制御手段は、求められた前記電流−温度特性を更新して記憶する記憶手段を有し、当該記憶手段にて記憶された電流−温度特性と新たに求められた電流−温度特性との比較に基づいて、前記定着ベルトにおける地絡の発生を検出することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の画像形成装置の実施の形態であるタンデム型中間転写方式のカラーレーザープリンタの概略構成を示す模式図である。
【図2】そのプリンタに設けられた定着装置における主要部の構成を説明するための模式図である。
【図3】その定着装置における主要部の構成を説明するための一方の端部の断面図である。
【図4】その定着装置における主要部の構成を説明するための側面図である。
【図5】その定着装置に用いられる定着ベルトの断面図である。
【図6】その定着装置に設けられた定着ベルトの制御部の具体例を示すブロック図である。
【図7】その定着ベルトに亀裂が生じた場合における亀裂の大きさと、昇温比との関係を示すグラフである。
【図8】その定着ベルトに亀裂が存在する場合における電流の変化率を示すグラフである。
【図9】定着装置を制御する制御部の動作説明のためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<実施形態1>
以下、本発明に係る定着装置および画像形成装置の実施の形態について説明する。
<画像形成装置の概略構成>
図1は、本発明の実施の形態に係る定着装置を備える画像形成装置の一例であるタンデム型カラープリンタ(以下、単に「プリンタ」という)の構成を説明するための模式図である。このカラープリンタは、ネットワーク(例えばLAN)を介して外部の端末装置等から入力される画像データ等に基づいて、周知の電子写真方式により、フルカラーあるいはモノクロの画像を記録用紙、OHPシート等の記録シートに形成する。
【0021】
プリンタは、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の各色のトナーによるトナー画像を記録シート上に形成する画像形成部Aと、画像形成部Aの下側に配置された給紙部Bとを備えている。給紙部Bは、記録シートSが内部に収容された給紙カセット22を備えており、給紙カセット22内の記録シートSが画像形成部Aに供給される
画像形成部Aは、プリンタのほぼ中央部において一対のベルト周回ローラ23および24に水平状態で巻き掛けられて周回移動可能になった中間転写ベルト18を備えている。中間転写ベルト18は、図示しないモータによって、矢印Xで示す方向に周回移動するようになっている。
【0022】
中間転写ベルト18の下方には、プロセスユニット10Y、10M、10C、10Kが設けられている。プロセスユニット10Y、10M、10C、10Kは、中間転写ベルト18の周回移動方向に沿ってその順番で配置されており、それぞれが、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の各色のトナーによって中間転写ベルト18上にトナー画像を形成する。各プロセスユニット10Y、10M、10C、10Kは、画像形成部Aに対して着脱可能になっている。
【0023】
中間転写ベルト18の上方には、中間転写ベルト18を介して、各プロセスユニット10Y、10M、10C、10Kのそれぞれの上方に位置するように、トナー収容部17Y、17M、17C、17Kが配置されている。各プロセスユニット10Y、10M、10C、10Kには、トナー収容部17Y、17M、17C、17Kのそれぞれに収容されたイエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)およびブラック(K)の各色のトナーが供給される。
【0024】
各プロセスユニット10Y、10M、10C、10Kは、トナー収容部17Y、17M、17C、17Kから供給されるトナーの色のみがそれぞれ異なっていること以外は、概略同様の構成になっている。このために、以下においては、主としてプロセスユニット10Yの構成のみを説明して、他のプロセスユニット10M、10C、10Kの構成の説明は省略する。
【0025】
プロセスユニット10Yは、中間転写ベルト18の下方において中間転写ベルト18に対向した状態で回転可能に配置された感光体ドラム11Yを有している。感光体ドラム11Yは、矢印Zで示す方向に回転されるようになっている。また、プロセスユニット10Yには、感光体ドラム11Yの下方において、感光体ドラム11Yの表面を一様に帯電する帯電器12Yが設けられている。帯電器12Yは、感光体ドラム11Yに対向して配置されている。
【0026】
プロセスユニット10Yには、さらに、帯電器12Yに対して感光体ドラム11Yの回転方向下流側であって、感光体ドラム11Yに対して垂直方向の下方に配置された露光装置13Yと、露光装置13Yによる感光体ドラム11Yの表面の露光位置よりも、感光体ドラム11Yの回転方向下流側に配置された現像器14Yとが設けられている。
露光装置13Yは、帯電器12Yによって一様に帯電された感光体ドラム11Yの表面にレーザ光を照射して静電潜像を形成する。現像器14Yは、感光体ドラム11Yの表面に形成された静電潜像を、Y色のトナーによって現像する。
【0027】
プロセスユニット10Yの上方には、中間転写ベルト18を挟んで感光体ドラム11Yに対向する1次転写ローラ15Yが設けられている。1次転写ローラ15Yは、画像形成部Aに取り付けられている。1次転写ローラ15Yは、転写バイアス電圧が印加されることによって、感光体ドラム11Yとの間に電界を形成するようになっている。
なお、他のプロセスユニット10M、10C、10Kの上方にも、中間転写ベルト18を挟んで各感光体ドラム11M、11C、11Kに対向する1次転写ローラ15M、15C、15Kがそれぞれ設けられている。
【0028】
感光体ドラム11Y、11M、11C、11K上に形成されたそれぞれのトナー画像は、1次転写ローラ15Y、15M、15C、15Kと、感光体ドラム11Y、11M、11C、11Kとの間にそれぞれ形成される電界の作用によって、中間転写ベルト18上に1次転写される。
なお、フルカラー画像を形成する場合には、各感光体ドラム11Y、11M、11C、11K上に形成されたそれぞれのトナー画像が中間転写ベルト18上の同じ領域に多重転写されるように、各プロセスユニット10Y、10M、10C、10Kのそれぞれの画像形成動作タイミングがずらされる。
【0029】
これに対して、モノクロ画像を形成する場合には、選択された1つのプロセスユニット(例えばKトナー用のプロセスユニット10K)のみが動作されることにより、当該プロセスユニットの感光体ドラム(例えば感光体ドラム11K)上にトナー画像が形成されて、形成されたトナー画像が、当該プロセスユニットに対向して配置された1次転写ローラ15Kによって、中間転写ベルト18における所定領域上に転写される。
【0030】
なお、プロセスユニット10Yには、トナー画像が転写された感光体ドラム11Yをクリーニングするクリーニング部材16Yが設けられている。
トナー画像が形成された中間転写ベルト18の搬送方向下流側の端部(図1において右側の端部)には、シート搬送経路21を挟んで中間転写ベルト18に対向する2次転写ローラ19が配置されている。2次転写ローラ19は、中間転写ベルト18に圧接されており、両者の間に転写ニップが形成されている。2次転写ローラ19には転写バイアス電圧が印加されるようになっており、これにより、中間転写ベルト18との間に電界が形成される。
【0031】
2次転写ローラ19と中間転写ベルト18とによって形成される転写ニップには、給紙部Bの給紙カセット22からシート搬送経路21に繰り出された記録シートSが供給される。中間転写ベルト18上に転写されたトナー画像は、2次転写ローラ19と中間転写ベルト18との間の電界の作用により、シート搬送経路21を搬送される記録シートSに2次転写される。
【0032】
転写ニップを通過した記録シートSは、2次転写ローラ19の上方に配置された定着装置30に搬送される。定着装置30では、記録シートS上の未定着のトナー画像が加熱および加圧されることによって定着される。トナー画像が定着された記録シートSは、排紙ローラ24によって、トナー収容部17Y、17M、17C、17Kの上方に配置された排紙トレイ23上に排出される。
【0033】
<定着装置の構成>
図2は、定着装置30における主要部の構成を説明するための模式的な斜視図、図3は、その一方の端部の断面図、図4は、その定着装置30の側面図である。なお、定着装置30においては、図1に示すように、記録シートは、下方から上方に向って通過するが、図2の定着装置30は、記録シートの通過方向を、紙面に対して直交する方向として示している。
【0034】
図2〜図4に示すように、定着装置30は、加圧部材としての加圧ローラ32と、加圧ローラ32に圧接された状態で回転可能に配置された円筒形状の定着ベルト31と、定着ベルト31の内部に配置されて定着ベルト31の内周面に圧接された押圧ローラ33とを備えている。定着ベルト31は、加圧ローラ32に圧接されて回転する定着回転体を構成しており、電力が供給されることによって発熱する構成になっている。
【0035】
定着ベルト31は、例えば、図2に示すように、軸方向長さが、加圧ローラ32の外周面における軸方向長さよりも若干長くなっており、また、図4に示すように、加圧ローラ32の直径よりも若干大きな直径を有している。定着ベルト31と加圧ローラ32とは、それぞれの軸心が平行な状態で、定着ベルト31の外周面と加圧ローラ32の外周面とが相互に圧接されるように配置されている。
【0036】
押圧ローラ33は、図3に示すように、軸心部に設けられた芯金33aと、芯金33aに積層された弾性層33bとを有しており、弾性層33bと芯金33aとが一体に構成されている。芯金33aにおける軸方向の両側の各端面には、回転軸33cがそれぞれ設けられている。回転軸33cは、芯金33aとは同軸状態になっており、軸心部に沿って外側に突出している。
【0037】
芯金33aは、厚さが1.0〜10mm程度のアルミニウム、鉄等の金属パイプによって構成されている。
なお、芯金33aは、パイプ形状に限らず、中実の円柱形状であってもよく、また、断面も円形状に限らず、外側に嵌合される弾性体33bが円筒形状に保持される形状、例えば周方向に等しい間隔で突出する3つ以上の突起部を有するような形状であってもよい。
【0038】
弾性層33bは、シリコーンゴム、フッ素ゴム等の耐熱性に優れた弾性材料によって構成されている。弾性層33bは、厚さが1〜20mm程度になっており、外径が、定着ベルト31の直径よりも若干小さく、20〜100mm程度になっている。弾性層33bの軸方向長さは、定着ベルト31の軸方向長さにほぼ等しくなっている。
加圧ローラ32は、図3に示すように、パイプ形状の芯金32aの外周面に、弾性層32bおよび離型層32cが順番に積層されて、外径が20〜100mm程度の円柱形状に構成されている。芯金32aにおける軸方向の両側の各端面には、回転軸32dがそれぞれ軸心部に沿って同軸状態で設けられている。
【0039】
加圧ローラ32の芯金32aは、厚さが1.0〜10mm程度のアルミニウム、鉄等の金属パイプによって形成されている。なお、加圧ローラ32の芯金32aも、パイプ形状に限らず、中実の円柱形状であってもよい。また、芯金32aの断面も円形状に限るものではなく、例えば、外側に嵌合される円筒形状の弾性層32bを保持するために、周方向に等しい間隔で突出する3つ以上の突起部を有する断面形状等であってもよい。
【0040】
弾性層32bは、シリコーンゴム、フッ素ゴム等の高耐熱性の弾性体によって、1〜20mm程度の厚さに構成されている。
離型層32cは、PFA(ポリテトラフルオロエチレン)、PTFE(ポリテトラフルオロチレン(4フッ化)樹脂)、ETFE(4フッ化エチレン・エチレン共重合樹脂)等のフッ素系チューブ、フッ素系コーティング等によって、離型性を有しており、例えば、5〜100μm程度の厚さになっている。離型層32cは、導電性であってもよい。
【0041】
加圧ローラ32は、図示しない付勢手段(例えば引っ張りバネ)によって、定着ベルト31に向って付勢されており、これにより、加圧ローラ32の弾性層32bが、定着ベルト31を介して押圧ローラ33における弾性層33bの外周面に押し付けられている。押圧ローラ33の弾性層33bは、加圧ローラ32における弾性層32bの外周面が押し付けられることによって、当該弾性層32bの外周面に沿うように変形する。
【0042】
定着ベルト31は、加圧ローラ32によって、押圧ローラ33における変形した弾性層33bの外周面に圧接されて、変形した弾性層33bに沿った状態になっている。相互に圧接された定着ベルト31と加圧ローラ32との間には、記録シートSが通過する定着ニップNが形成されている。
加圧ローラ32は、図示しないモータによって、図4に矢印Aで示す方向に回転される。定着ベルト31は、加圧ローラ32によって押圧ローラ33の外周面に圧接されていることにより、加圧ローラ32の回転に追従して、図4に矢印Bで示す方向に回転(周回移動)する。押圧ローラ33は、定着ベルト31の回転に追従して同方向に回転する。
【0043】
定着ニップNに搬送された記録シートは、加圧ローラ32と、加圧ローラ32の回転に追従して回転している定着ベルト31とによって、定着ニップNを通過するように搬送される。
なお、記録シートは、搬送方向とは直交する方向の幅方向の中央が、定着ニップNの軸方向における中央に一致した状態で搬送される。従って、定着ニップNにおける軸方向の両側の各端部は、それぞれ、記録シートが通過しないシート非搬送領域(非通紙領域)になっている。
【0044】
図4に示すように、定着ニップNよりも定着ベルト31の周回移動方向の下流側には、定着ニップNを通過した記録シートSを定着ベルト31から剥離する分離爪35が設けられている。
なお、加圧ローラ32を回転駆動させる構成に代えて、押圧ローラ33を回転駆動させる構成、あるいは、加圧ローラ32および押圧ローラ33の両方を回転駆動させる構成としてもよい。
【0045】
図5は、定着ベルト31の一方の端部における縦断面図である定着ベルト31は、例えば、ポリイミド(PI)によって一定の厚さの円筒形状に構成された補強層31aと、補強層31aの外周面に積層された抵抗発熱層31bと、抵抗発熱層31bの外周面上に積層された弾性層31cと、弾性層31cの外周面上に積層された離型層31dとを有している。
【0046】
抵抗発熱層31bは、耐熱性樹脂に、導電性フィラーおよび高イオン導電体粉末を一様に分散させて形成された成形体であり、全周にわたって一様な電気抵抗率に調整されている。従って、抵抗発熱層31bは、電流が流れることによってジュール熱を発熱する。
抵抗発熱層31bを構成する耐熱性樹脂としては、PI(ポリイミド)、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)等が使用されるが、PIが最も耐熱性に優れているために好ましい。なお、本実施形態では、PIを用いている。
【0047】
導電性フィラーとしては、電気抵抗率が低い(導電性が高い)金属材料の粉末と、電気抵抗率が高い(導電性が低い)炭素化合物粉末とを用いることが好ましい。高イオン導電体粉末としては、ヨウ化銀、ヨウ化銅等の無機化合物中の高イオン導電体粉末を用いることが好ましい。金属材料の粉末としては、Ag、Cu、Al、Mg、Ni等の金属材料の微粒子が好適である。炭素化合物粉末としては、グラファイト、カーボンブラック、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブが好適である。
【0048】
なお、高イオン導電体粉末は、抵抗発熱層31bの機械的強度を低下させるおそれはないが、高イオン導電体粉末と、高抵抗の炭素化合物粉末とだけでは、抵抗発熱層31bの電気抵抗率を、商用電源を用いた500〜1500W程度の電力の定着装置を所定の発熱量になるように調整することが容易でないために、低抵抗の金属粉末が用いられている。これら金属材料の粉末と、炭素化合物粉末と、高イオン導電体粉末とを用いることにより、機械的強度を低下させることなく、抵抗発熱層31bを所定の電気抵抗率に容易に調整することができる。
【0049】
なお、低抵抗の金属粉末、高抵抗の炭素化合物粉末、高イオン導電体粉末のそれぞれは、2種類以上の材料によって構成してもよい。
また、低抵抗の金属粉末、高抵抗の炭素繊維粉末、高イオン導電体粉末のそれぞれは、繊維状になっていることが好ましい。金属粉末、炭素繊維粉末、高イオン導電体粉末のそれぞれが繊維状になっていることによって、それぞれが接触する確率が高くなり、パーコレーションしやすくなるためである。
【0050】
高抵抗フィラーを構成する炭素化合物粉末および高イオン導電体粉末のそれぞれは、温度が上昇すると体積抵抗率が低下する負の抵抗変化率(NTC)を有する材料である。NTCを有する材料を用いることによって、抵抗発熱層31bに負の抵抗変化率(NTC)を付与することができる。
金属粉末の粒径は、0.01〜10μm程度が好ましく、このような粒径とすることにより、高抵抗である炭素化合物粉末および高イオン導電体粉末とは、全体にわたって線状に絡み合い、全体として均一な電気抵抗率を有する抵抗発熱層31bに成型することができる。
【0051】
耐熱性樹脂中に分散される導電性フィラーは、耐熱性樹脂に対して、低抵抗の金属粉末が、50〜300重量%、高抵抗の炭素化合物粉末および高イオン導電体粉末は、5〜100重量%であることが好ましい。金属粉末、炭素化合物粉末、高イオン導電体粉末のそれぞれは、いずれも、多すぎると抵抗発熱層31bの電気抵抗率が低下しすぎるおそれがあり、また、少なすぎると抵抗発熱層31bの電気抵抗率が高くなりすぎるおそれがあり、いずれの場合にも、所定の電気抵抗率に調整することは容易ではない。
【0052】
抵抗発熱層31bの厚さは、任意であるが、5〜100μm程度が好ましい。
抵抗発熱層31bの電気抵抗率は、抵抗発熱層31bに供給される電力、印加される電圧、抵抗発熱層31bの厚さ、押圧ローラ33の直径および軸方向長さ等に基づいて、任意に設定されるが、好ましくは、1.0×10−6〜1.0×10−2Ω・m程度、より好ましくは、1.0×10−5〜5.0×10−3Ω・m程度に設定される。
【0053】
なお、抵抗発熱層31bの電気抵抗率を調整するために、金属合金、金属間化合物等の導電性粒子を適宜混入してもよい。また、抵抗発熱層31bの機械的強度を向上させるために、ガラスファイバー、ウィスカ(金属の針状単結晶)、酸化チタン、チタン酸カリウム等を混入してもよい。
さらに、抵抗発熱層31bの熱伝導率を向上させるために、窒化アルミニウム、アルミナ等を混入してもよい。
【0054】
また、抵抗発熱層31bを安定的に製造するために、イミド化剤、カップリング剤、界面活性剤、消泡剤等を混入してもよい。
抵抗発熱層31bは、例えば、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとを有機溶媒中で重合して得られるポリイミドワニスに導電性フィラーを均一に分散させた状態で、円柱形状の金型に塗布してイミド転化させることによって製造される。
【0055】
定着ベルト31の離型層31dは、弾性層31cを介して抵抗発熱層31b上に積層されており、PFA(ポリテトラフルオロエチレン)、PTFE(ポリテトラフルオロチレン(4フッ化)樹脂)、ETFE(4フッ化エチレン・エチレン共重合樹脂)等のフッ素系チューブ、フッ素系コーティング等によって、離型性が付与されている。離型層31dの厚さは、5〜100μm程度が好ましい。フッ素系チューブとしては、三井・デュポンフロロケミカル株式会社製の商品名「PFA350−J」、「451HP−J」、「951HP Plus」等が好適である。
【0056】
弾性層31cは、シリコーンゴム、フッ素ゴム等の高耐熱性の弾性体によって構成されている。本実施形態では、弾性層31cとしてシリコーン(Si)ゴムを用いている。
離型層31dは、定着ニップNを通過する際に接触した記録シートSが容易に剥離されるような剥離性を有している。
この離型層31dは、例えば、水との接触角が90°以上、好ましくは110°以上であって、表面粗さRaが0.01〜50μm程度が好ましい。離型層31dは、導電性であってもよい。本実施形態では、離型層31dとしてPFAを用いている。
【0057】
補強層31a、抵抗発熱層31b、弾性層31cおよび離型層31dのそれぞれは、所定の厚さになっており、これらによって構成された定着ベルト31は、加圧ローラ32が圧接されていない状態で、所定の直径の円筒形状を維持するように、所定の剛性を有している。定着ベルト31は、加圧ローラ32が圧接されることによる押圧ローラ33の変形に追従して、加圧ローラ32の外周面に沿った状態に変形する。
【0058】
なお、定着ベルト31は、このような4層構造に限るものではなく、抵抗発熱層31bと離型層31dとの2層構造であってもよい。また、いずれの場合にも、絶縁のためにPI、PPS等の樹脂層をさらに設ける構成であってもよい。なお、抵抗発熱層31bは、離型層31dよりも内周側に位置していればよい。
図5に示すように、定着ベルト31の両側の端部におけるシート非搬送領域(非通紙領域)では、それぞれ、外周側に位置する離型層31dおよび弾性層31cが全周にわたって剥離されている。離型層31dおよび弾性層31cが剥離された抵抗発熱層31bの外周面上には、電極31gがそれぞれ設けられている。各電極31gは、それぞれ、導電体によって、周方向に均一な厚さに構成されている。
【0059】
各電極31gを構成する導電体としては、例えば、抵抗発熱層31b上に、Cu、Al、Ni、真鍮、リン青銅等の金属を、直接、化学メッキあるいは電気メッキすることによって形成される。各電極31gを金属のメッキによって形成する場合は、2種類の金属によってメッキすることが好ましい。例えば、抵抗発熱層31b上に、Cuを、直接、化学メッキした後に、Cu上にNiを電気メッキすることが好ましい。
【0060】
また、各電極31gは、このような構成に限定されず、Cu、Ni等の金属箔を、導電性接着剤により抵抗発熱層31b上に接着することによって形成してもよい。
さらには、抵抗発熱層31b上に、導電性インク、導電性ペーストを塗布することによって各電極31gを形成してもよい。
図2に示すように、各電極31gには、第1給電部材37aおよび第2給電部材37bがそれぞれ対向して配置されている。第1給電部材37aおよび第2給電部材37bには、商用の交流電源34から供給される交流電流が、第1電流経路44および第2電流経路45を介して供給されている。なお、第1電流経路44および第2電流経路45には、安全のために、電流を遮断する複数の機構がそれぞれ設けられているが、図2おいては図示せず、その詳細については後述する。
【0061】
第1給電部材37aおよび第2給電部材37bとしては、例えば、カーボン粉と、銅粉等の粉体を混合して焼成した導電ブラシが使用されており、各電極31gに導電状態で圧接されている。
第1および第2の各給電部材37aおよび37bは、定着ベルト31が回転すると、抵抗発熱層31bにおける両側のシート非搬送領域上にそれぞれ設けられた電極31gにそれぞれ摺接する。これにより、第1および第2の各給電部材37aおよび37bのそれぞれから、各電極31gを介して、抵抗発熱層31bに交流電流が供給されて、抵抗発熱層31bが発熱する。
【0062】
第1給電部材37aおよび第2給電部材37bとしては、導電ブラシに限らず、所定の部材にCu、Ni等をメッキして形成することも可能である。また、第1および第2の各給電部材37aおよび37bは、周回移動する各電極31gに接触した状態で回転するような回転体としてもよい。
さらには、第1給電部材37aおよび第2給電部材37bとしては、トランスを用いて、各電極31gに対して非接触状態で電流を供給する構成であってもよい。このような構成の場合には、電源にインバータを用いることによって、効率よく各電極31gに対して電流を供給することができる。
【0063】
交流電源34から、第1電流経路44および第2電流経路45を介して第1および第2の各給電部材37aおよび37bにそれぞれ供給される交流電流は、第1給電部材37aまたは第2給電部材37bから一方の電極31gに供給されて、一方の電極31gから、抵抗発熱層31bを幅方向に沿って流れて、他方の電極31gを介して他方の第2給電部材37bまたは第1給電部材37aに供給される。
【0064】
周回移動する定着ベルト31の抵抗発熱層31bは、両側の電極31g間を電流が流れることによって発熱する。この場合、各電極31gに対して、第1給電部材37aまたは第2給電部材37bがそれぞれ全周にわたって摺接することによって、抵抗発熱層31bが幅方向の全体にわたって電流が流れる。これにより、抵抗発熱層31bは全体にわたって発熱状態になり、定着ベルト31の全体が発熱状態になる。
【0065】
定着ベルト31における抵抗発熱層31bは、全周にわたって一様な電気抵抗率になっているために、抵抗発熱層31bには均一に電流が流れることになる。しかも、抵抗発熱層31bにおける外周面上に設けられた各電極31gは露出した状態になっているために、第1給電部材37aおよび第2給電部材37bを各電極31gに対して容易に摺接させることができる。従って、定着ベルト31の最も内周側に抵抗発熱層31bが配置されていても、抵抗発熱層31bに対して容易に給電することができる。
【0066】
定着ベルト31における軸方向の中央部外周面に対向して、中央部温度センサ36cが設けられている。また、定着ベルト31における軸方向の両側の各端部におけるシート非搬送領域に近接した外周面には、第1端部温度センサ36aおよび第2端部温度センサ36bが、それぞれ対向して設けられている。
中央部温度センサ36cは、サーモパイルによって構成されている。第1端部温度センサ36aは、第1給電部材37aに近接して配置されており、サーモパイルによって構成されている。第2端部温度センサ36bは、第2給電部材37bに近接して配置されており、サーミスターによって構成されている。サーモパイルおよびサーミスターは、定着ベルト31の外周面に接触する構成であってもよいし、非接触であってもよい。
【0067】
中央部温度センサ36cは、定着ベルト31における軸方向の中央部の外周面の温度を検出する。中央部温度センサ36cによる検出結果は、制御部41に与えられている。第1端部温度センサ36aおよび第2端部温度センサ36bは、定着ベルト31における軸方向の両側の各端部の外周面の温度を、それぞれ、検出している。第1端部温度センサ36aおよび第2端部温度センサ36bによる検出結果も、制御部41に与えられている。制御部41の構成については後述する。
【0068】
<定着装置の電気系統>
図6は、定着装置30の電気系統の構成を示すブロック図である。定着装置30の電気系統には、中央部温度センサ36cにて検出される定着ベルト31の温度Tcに基づいて、第1給電部材37aおよび第2給電部材37bに供給される交流電流を制御する制御部41が設けられている。制御部41には、CPU41aと、RAM41bおよびROM41cとが設けられている。
【0069】
交流電源34には、第1給電部材37aに対する電流経路である第1電流経路44と、第2給電部材37bに対する電流経路である第2電流経路45とが接続されている。交流電源34から出力される電流の第1電流経路44と第2電流経路45との電位差が、第1電圧検出器42と、第2電圧検出器43とによって、それぞれ別々に検出されるようになっている。なお、第1電圧検出器42と、第2電圧検出器43とは、いずれかが故障等が生じた場合のバックアップ用に設けられている。第1電圧検出器42および第2電圧検出器43の出力は、CPU41aに与えられている。
【0070】
第1電流経路44には、第2電圧検出器43から第1給電部材37aにかけて、第1ヒューズ44a、第1電流検出器44b、第3リレー44c、第1リレー44d、サーモスタット44eが、順番に配置されており、サーモスタット44eに第1給電部材37aが接続されている。第1電流検出器44bの出力は、CPU41aに与えられている。
第1ヒューズ44aは、第1電流経路44に流れる電流量が、許容電流量以上になることによって電流遮断状態になり、第1電流経路44を電流遮断状態とする。第3リレー44cおよび第1リレー44dのそれぞれは、CPU41aによってオン・オフ制御されるようになっており、それぞれは、オフ状態で第1電流経路44を電流が流れる状態とし、オン状態で第1電流経路44を電流遮断状態とする。
【0071】
サーモスタット44eは、定着ベルト31における軸方向の中央部に対向して配置されており、対向する定着ベルト31における軸方向の中央部の温度が、予め設定された上限温度に達すると、第1電流経路44を電流遮断状態とする。
第2電流経路45には、第2電圧検出器43から第2給電部材37bにかけて、第2ヒューズ45a、第2電流検出器45b、第2リレー45c、トライアック45dが、順番に配置されており、トライアック45dに第2給電部材37bが接続されている。第2電流検出器45bの出力はCPU41aに与えられている。
【0072】
第2ヒューズ45aは、第2電流経路45を流れる電流が許容電流以上になることによって電流遮断状態になり、第2電流経路45を電流遮断状態とする。第2リレー45cおよびトライアック45dのそれぞれは、CPU41aによってオン・オフ制御されるようになっている。第2リレー45cは、オフ状態で第2電流経路45を電流が流れる状態とし、オン状態で第2電流経路45を電流遮断状態とする。トライアック45dは、オン状態で第2電流経路45を電流が流れる状態とし、オフ状態で第2電流経路45を電流遮断状態とする。
【0073】
また、CPU41aには、中央部温度センサ36cの出力が与えられている。中央部温度センサ36cは、前述したように、定着ベルト31における幅方向中央部の外周面の温度、すなわち、シート搬送領域におけるシート搬送方向とは直交する方向の中央部の温度を検出している。
なお、第1端部温度センサ36aおよび第2端部温度センサ36bのそれぞれの出力は、第1コンパレータ46aおよび第2コンパレータ46bのそれぞれに与えられており、また、中央部温度センサ36cの出力も、第3コンパレータ46cにも与えられている。
【0074】
第1コンパレータ46aおよび第2コンパレータ46bには、定着ベルト31における幅方向の両側の各シート非搬送領域における異常高温と認められる温度に対応した電圧値が閾値として予め設定されている。第1コンパレータ46aおよび第2コンパレータ46bのそれぞれの出力は、第1電流経路44の第1リレー44dおよび第2電流経路45の第2リレー45cに与えられている。
【0075】
第1コンパレータ46aおよび第2コンパレータ46bのそれぞれは、CPU41aとは独立しており、第1端部温度センサ36aおよび第2端部温度センサ36bによって検出される温度が、異常高温と認められる温度以上になると、第1リレー44dおよび第2リレー45cをそれぞれオン状態とする。これにより、第1電流経路44および第2電流経路45のそれぞれは、CPU41aの制御以外でも電流遮断状態になる。
【0076】
また、第3コンパレータ46cには、定着ベルト31の中央部のシート搬送領域における異常高温と認められる温度に対応した電圧値が閾値として設定されている。第3コンパレータ46cの出力は、第1リレー44dに与えられている。第3コンパレータ46cは、中央部温度センサ36cにて検出される温度が、異常高温と認められる設定温度以上になると、第1リレー44dをオン状態とする。これにより、第1電流経路44は電流遮断状態になる。
【0077】
なお、第2電流経路45に設けられた第2電流検出器45bの出力は、第4コンパレータ46dに与えられている。第4コンパレータ46dには、第2電流経路45を流れる電流量の許容上限値に対応した電圧値が設定されており、第4コンパレータ46dの出力は、第2電流経路45に設けられた第2リレー45cに与えられている。第4コンパレータ46dは、第2電流検出器45bにて検出される電流量が、予め設定された上限値以上になると、第2リレー45cをオン状態とする。これにより、第2電流経路45は電流遮断状態になる。
【0078】
CPU41aは、中央部温度センサ36cによって検出される定着ベルト31の外周面の温度Tc、すなわち、シート搬送領域における軸方向の中央部の温度Tcに基づいて、トライアック45dをオン・オフ制御する。この場合、CPU41aは、定着ベルト31における軸方向の中央部の外周面の温度が所定の定着温度になるように、トライアック45dをオン・オフ制御して、第1給電部材37aおよび第2給電部材37bにそれぞれ供給される交流電流を制御する。
【0079】
<定着装置の動作>
このような構成の定着装置30では、CPU41aによって、定着ベルト31が、所定の定着温度になるように制御された状態で、記録シートが定着ニップNを通過する。記録シートは、定着ニップNを通過する間に、定着ベルト31によって、搬送方向と直交する方向の全体に略均一に加熱される。このとき、記録シートSは、定着ニップNにおいて、相互に圧接された状態の定着ベルト31および加圧ローラ32によって加圧される。これにより、記録シートS上の未定着のトナー画像が記録シートSに定着される。
【0080】
なお、定着ベルト31の外周面が、所定の定着温度になった状態で、記録シートが定着ニップNを通過すると、定着ニップNにおけるシート通過領域では、定着ベルト31の熱が記録シートに奪われるために、定着ベルト31の外周面の温度が低下する。しかし、中央部温度センサ36cによってシート通過領域での温度低下が検出されると、CPU41aは、抵抗発熱層31bでの温度が上昇するように、トライアック45dを制御して、第1給電部材37aおよび第2給電部材37bに対する電流量を増加させる。
【0081】
これにより、抵抗発熱層31bは全体にわたって発熱量が増加する。この場合、記録シートが通過するシート通過領域では、抵抗発熱層31bの発熱量が増加しても、記録シートによって熱が奪われるために、温度上昇が抑制され、所定の定着温度に維持されることになる。
しかしながら、定着ベルト31の幅方向の両側端部におけるシート非搬送領域では、記録シートが存在しないために、抵抗発熱層31bの熱が奪われず、温度が上昇することになる。この場合、抵抗発熱層31bに含まれる炭素化合物粉末および高イオン導電体粉末のそれぞれは、温度が上昇すると体積抵抗率が低下する負の抵抗変化率(NTC)を有しているために、シート非搬送領域において、温度が上昇することによって電気抵抗値が低下する。これにより、シート非搬送領域における発熱量は、シート搬送領域における発熱量よりも低下し、シート非搬送領域における温度上昇が抑制されることになる。
【0082】
特に、高イオン導電体粉末としてAgIまたはCuIを用いた場合、所定の温度において、抵抗発熱層31bの抵抗変化率が大きく、抵抗が急激に低下する。このような抵抗変化が著しい温度を相転移点と呼ばれている。AgIの相転移点は、通常、147℃であるが、高イオン導電体の相転移点は粒径に依存するために、粒径が小さいほど低温になる。このことから、定着温度に基づいて、高イオン導電体の粒径を選択すればよい。
【0083】
特に、粒径が小さい高イオン導電体を使用する場合には、硝酸銀(AgNO)水溶液、ヨウ化ナトリウム(NaI)水溶液および銀イオン伝導性の有機ポリマーであるPVP(Poly-N-vinyl-2-pyrrolidone)の水溶液を、常温および常圧下で混合して、ろ過および乾燥するといった簡便な方法で合成することができる。また、溶液の濃度、混合手順を変更することによって、10〜50nmの範囲で選択されるサイズのナノ粒子を形成することができる。
【0084】
<制御部による定着ベルトの制御>
CPU41aは、中央部温度センサ36cによって検出される定着ベルト31の外周面の温度と、第1電流検出器44bおよび第2電流検出器45bのそれぞれによって検出される第1電流経路44および第2電流経路45のそれぞれを流れる電流に基づいて、定着ベルト31の破損状態を検出し、その検出結果に基づいて、第1電流経路44および第2電流経路45を電流が流れない遮断状態とするようになっている。
【0085】
すなわち、定着ベルト31が破損して亀裂が生じると、定着ベルト31における亀裂に隣接した部分に電流が集中し、その部分の温度は上昇する。このために、定着ベルト31の破損状態については、定着ベルト31における単位時間当たりの温度変化、および、定着ベルト31を流れる電流の変化率のそれぞれに基づいて判断することができる。
図7のグラフは、定着ベルト31において亀裂が生じた場合に、ベルト全周のうち、亀裂に対して周方向に隣接する部分での単位時間当たりの温度上昇率と、亀裂から離れた亀裂が生じていない部分での単位時間当たりの温度上昇率との比率を昇温比(最大値)として、亀裂が生じた定着ベルトの軸方向部分における亀裂以外の周方向長さに対する昇温比を示している。なお、図7において、横軸は、定着ベルト31の周方向長さを1(100%)として、亀裂が生じていない部分の周方向長さの割合を示している。
【0086】
定着ベルト31に亀裂が生じた場合、亀裂が生じていない部分の周方向長さの割合が0.9(90%)では、昇温比は5程度になり、また、亀裂以外の部分の割合が0.8(80%)では、昇温比は10程度になる。さらに、亀裂以外の部分の割合が0.7(70%)では、昇温比は17倍程度になる。昇温比が大きくなれば、それだけ、短時間での温度上昇率が大きくなる。
【0087】
従って、定着ベルト31を所定の定着温度に制御している間に、中央部温度センサ36cによって、定着ベルト31における温度の上昇(ΔTc)が検出された場合に、単位時間(Δt)当たりの温度上昇率(ΔTc/Δt)を求めて、得られた温度上昇率(ΔTc/Δt)が、予め設定された閾値St以上になった場合には、定着ベルト31に亀裂が生じていると判定することができる。なお、この場合の閾値Stは、定着ベルト31に生じた亀裂の大きさが許容範囲の上限に達したときにおける定着ベルト31の単位時間当たりの温度上昇率に設定される。
【0088】
また、定着ベルト31に亀裂が生じると、亀裂が生じた部分では電流が流れず、亀裂に隣接する定着ベルト31の部分において電流が集中する。従って、定着ベルト31に亀裂が生じることにより、定着ベルト31を流れる電流が低下することになる。このことから、定着ベルト31を流れる電流に基づいて、定着ベルト31に亀裂が生じていることを検出することができる。
【0089】
図8は、定着ベルト31に、周方向に沿った亀裂が生じた場合における電流変化率を示すグラフであり、横軸は時間(s)、縦軸は、定着ベルト31に亀裂が生じていない場合に定着ベルト31を定着温度とするための基準電流Ioに対して、周方向に沿った亀裂の長さが10mm、20mm、30mmのそれぞれの場合に流れる電流の割合(%)を、電流変化率としてそれぞれ示している。
【0090】
周方向に沿って長さ10mmの亀裂が生じた場合には、電流変化率は98.5%程度に低下し(図8に一点鎖線で示す)、周方向に沿って長さが20mmの亀裂が生じた場合には、電流変化率は96.5%程度に低下し(図8に実線で示す)、周方向に沿って長さが30mmの亀裂が生じた場合には、電流変化率は93.5%程度に低下する(図8に点線で示す)。
【0091】
従って、第1電流経路44および第2電流経路45のそれぞれを流れる電流I1およびI2が低下した場合に、基準電流Ioに対する電流I1およびI2のそれぞれの電流変化率を求めて、得られたそれぞれの電流変化率が、予め設定された閾値Sk以下になっている場合には、それぞれ、定着ベルト31に亀裂が生じていると判定することができる。
この場合の閾値Skは、定着ベルト31に生じた亀裂の大きさが許容範囲の上限に達したときに定着ベルト31に供給される電流に対応した電流変化率に設定される。
【0092】
さらに、定着ベルト31に亀裂等の損傷が生じて、定着ベルト31の一部が、繊維状または帯状に剥離すると、その剥離部分を介して定着ベルト31が地絡するおそれがある。定着ベルト31が地絡すると、第1電流経路44および第2電流経路45をそれぞれ流れる電流が変化するために、第1電流検出器44bおよび第2電流検出器45bによって検出される第1電流経路44および第2電流経路45のそれぞれの電流に基づいて、定着ベルト31の地絡を検出することができる。
【0093】
すなわち、定着ベルト31の一部が剥離して地絡が生じると、地絡が生じた部分に近い電極31gから抵抗発熱層31bに供給される電流は、地絡部分を通ってボディアースされる。これにより、地絡が生じた部分に近い電極31gに供給される電流量が増加することになる。従って、第1電流経路44および第2電流経路45のそれぞれを流れる電流量I1およびI2が増加した場合には、基準電流Ioに対するそれぞれの電流I1およびI2の電流変化率を求めて、得られた電流変化率が、予め設定された閾値Sc以上になった場合に、定着ベルト31に地絡が生じていると判定することができる。
【0094】
この場合の閾値Scは、定着ベルト31に供給される電流の許容範囲の上限値に対応した電流上限値に設定される。
なお、第1電流経路44および第2電流経路45を流れる電流に基づいて、定着ベルト31の亀裂および地絡について検出する場合には、交流電源34における電圧変化、負荷変動による電圧変化等によって、単位時間当たりの電流量等が変化するために、定着ベルト31の亀裂および地絡について検出するための閾値SkおよびScをそれぞれ補正することが好ましい。
【0095】
例えば、第1電流経路44および第2電流経路45のそれぞれにおける電圧が低下する場合には、亀裂が生じていると判定される電流変化率の閾値Skを、より小さな値に補正するとともに、地絡が生じていると判定される電流変化率の閾値Scを、より大きな値に補正する。これにより、定着ベルト31に生じた亀裂および地絡を、それぞれ、迅速かつ正確に検出することができる。
【0096】
また、定着ベルト31の抵抗発熱層31bは、負の抵抗変化率(NTC)を有していることから、抵抗発熱層31bの温度が変化することによって、抵抗発熱層31bを流れる電流量も変化することになる。このために、第1端部温度センサ36aおよび第2端部温度センサ36bにて検出される定着ベルト31の温度に基づいて、定着ベルト31の亀裂および地絡について検出するための閾値SkおよびScをそれぞれ補正することが好ましい。
【0097】
例えば、第1端部温度センサ36aおよび第2端部温度センサ36bのそれぞれにて検出される温度が低くなるほど、定着ベルト31の抵抗発熱層31bを流れる電流量が増加するために、亀裂が生じていると判定される電流変化率の閾値Skを、より大きな値に補正し、また、地絡が生じていると判定される電流変化率の閾値Scを、より小さな値に補正する。このような補正によっても、定着ベルト31に生じた亀裂および地絡を、それぞれ、迅速かつ正確に検出することができる。
【0098】
なお、定着ベルト31の抵抗発熱層31bは、正の抵抗変化率(PTC)を有している場合にも、閾値SkおよびScをそれぞれ補正することが好ましい。この場合には、負の抵抗変化率(NTC)を有している場合とは反対に、第1端部温度センサ36aおよび第2端部温度センサ36bのそれぞれにて検出される温度が低くなるほど、閾値Skをよりも小さく、閾値Scをより大きく補正する。
【0099】
図9は、制御部41のCPU41aにて実行される制御の流れを示すフローチャートである。定着装置30において、記録シートの定着動作が開始されると、CPU41aは、中央部温度センサ36cによって検出される定着ベルト31の外周面の温度Tcに基づいて、トライアック45dをオン・オフ制御することにより、定着ベルト31における軸方向の中央部の温度を定着温度に制御する(図9におけるステップS11参照、以下同様)。このような状態で、定着ニップNを記録シートが通過して、記録シート上のトナー画像が定着される。
【0100】
このような定着動作の間において、CPU41aは、中央部温度センサ36cによって検出される定着ベルト31の温度Tcが、予め設定された所定の温度よりも上昇しているかを調べる(ステップS12)、温度Tcが、予め設定された所定の温度よりも上昇している場合には(ステップS12において「YES」)、定着ベルト31の上昇温度ΔTcに基づいて、単位時間Δt当たりにおける温度上昇率「ΔTc/Δt」を演算する(ステップS13)。なお、温度Tcが上昇したことを検出しない場合には(ステップS12において「NO」)、ステップS16へと進む。
【0101】
ステップS13において、温度上昇率「Tc/Δt」が演算されると、演算された温度上昇率「Tc/Δt」を、予め設定された閾値Stと比較し(ステップS14)、温度上昇率「Tc/Δt」が閾値St以上になっていない場合には(ステップS14において「NO」)、ステップS16へ進む。
温度上昇率「Tc/Δt」が、閾値St以上になっている場合には(ステップS14において「YES」)、定着ベルト31に許容範囲の上限以上の亀裂が生じているものとして、第1電流経路44に設けられた第3リレー44cをオン状態として、第1電流経路44を電流遮断状態とするとともに、第2電流経路45に設けられたトライアック45dをオフ状態および第2リレー45cをオン状態として、第2電流経路45を完全に電流遮断状態する(ステップS15)。その後、定着装置30を動作終了状態とする。
【0102】
このように、定着ベルト31において、温度上昇率に基づいて許容範囲以上の亀裂が生じていることが検出された場合には、第1電流経路44および第2電流経路45の両方を電流遮断状態としているために、亀裂が生じた定着ベルト31に対して電流が供給されるおそれがなく、定着ベルト31は、亀裂に隣接する端部において温度上昇するおそれがない。
【0103】
定着ベルト31の温度Tcが所定の温度よりも上昇したことが検出されず(ステップS12において「NO」)、また、定着ベルト31の温度Tcが所定の温度よりも上昇しているものの、温度上昇率「Tc/Δt」が閾値St以上になっていない場合には(ステップS14において「NO」)、ステップS16において、第1電流経路44に設けられた第1電流検出器44bにて検出される電流値I1が予め設定された所定の範囲以上に変化しているかを調べる。
【0104】
電流値I1が予め設定された所定の範囲以上に変化している場合には(ステップS16において「YES」)、ステップS17に進んで、検出された電流値I1を、第1電圧検出器42または第2電圧検出器43の出力と、定着ベルト31の抵抗発熱層31bにおける負の抵抗変化率(NTC)とに基づいて、定着ベルト31の亀裂および地絡について検出するための閾値SkおよびScをそれぞれ補正して、補正閾値SkhおよびSchとする(ステップS17)。
【0105】
次いで、第1電流検出器44bにて検出される第1電流経路44の電流値I1と、基準電流Ioとの比率である電流変化率I1/Ioを演算して、亀裂検出のための補正閾値Skhと比較する(ステップS18)。電流変化率I1/Ioが、補正閾値Skh以下になっている場合には、ステップS20に進んで、第1電流経路44に設けられた第3リレー44cをオン状態として、第1電流経路44を電流遮断状態とするとともに、第2電流経路45に設けられたトライアック45dをオフ状態として、第2電流経路45を電流遮断状態する。その後、定着装置30を動作終了状態とする。
【0106】
ステップS18において、電流変化率I1/Ioが、亀裂検出のための補正閾値Skh以下になっていない場合には(ステップS18において「NO」)、ステップS19に進んで、電流変化率I1/Ioを、地絡検出の補正閾値Schと比較する(ステップS19)。電流変化率I1/Ioが、補正閾値Sch以上になっている場合(ステップS19において「YES」)には、ステップS20に進んで、第1電流経路44に設けられた第3リレー44cをオン状態として、第1電流経路44を電流遮断状態とするとともに、第2電流経路45に設けられたトライアック45dをオフ状態として、第2電流経路45を電流遮断状態する。その後、定着装置30を動作終了状態とする。
【0107】
ステップS19において、電流変化率I1/Ioが、補正閾値Sch以上になっていない場合(ステップS19において「NO」)には、ステップS26に進んで、全ての記録シートに対する定着動作が終了したかを確認する。全ての記録シートに対する定着動作が終了していない場合には(ステップS26において「NO」)、ステップS11に戻り、ステップS11以下の動作を繰り返す。全ての記録シートに対する定着動作が終了している場合には(ステップS26において「YES」)、定着装置30を動作終了状態とする。
【0108】
ステップS16において、第1電流検出器44bにて検出される電流値I1が所定範囲以上に変化していない場合には(ステップS16において「NO」)、ステップS21に進んで、第2電流検出器45bにて検出される電流値I2が所定範囲以上に変化しているかを調べる。電流値I2が予め設定された所定の範囲以上に変化している場合には(ステップS21において「YES」)、ステップS22に進んで、検出された電流値I2を、第2電流経路45の電圧を検出する第2電圧検出器43の出力と、定着ベルト31の抵抗発熱層31bにおける負の抵抗変化率(NTC)と、に基づいて、定着ベルト31の亀裂および地絡について検出するための閾値SkおよびScを、それぞれ補正して、補正閾値SkhおよびSchとする。
【0109】
次いで、第2電流検出器45bにて検出される電流値I2と、基準電流Ioとの比率である電流変化率I2/Ioを演算して、亀裂検出のための補正閾値Skhと比較する(ステップS23)。比率I2/Ioが、補正閾値Skh以下になっている場合には、ステップS25に進んで、第2電流経路45に設けられたトライアック45dをオフ状態および第2リレー45cをオン状態として、第2電流経路45を完全に電流遮断状態するとともに、第1電流経路44に設けられた第1リレー44dおよび第3リレー44cをオン状態として、第1電流経路44を完全に電流遮断状態とする。その後、定着装置30における定着動作を終了する。
【0110】
ステップS23において、電流変化率I2/Ioが、亀裂検出のための補正閾値Skh以下になっていない場合には(ステップS23において「NO」)、ステップS24に進んで、電流変化率I2/Ioを、地絡検出の補正閾値Schと比較する。電流変化率I2/Ioが、補正閾値Sch以上になっている場合には、ステップS25に進んで、第2電流経路45に設けられたトライアック45dをオフ状態および第2リレー45cをオン状態として、第2電流経路45を完全に電流遮断状態するとともに、第1電流経路44に設けられた第1リレー44dおよび第3リレー44cをそれぞれオン状態として、第1電流経路44を完全に電流遮断状態とする。その後、定着装置30を動作終了状態とする。
【0111】
このように、第1電流経路44および第2電流経路45のそれぞれにおける電流変化率に基づいて定着ベルト31に地絡が生じていることを検出し、地絡が生じていることが検出された場合には、第1電流経路44および第2電流経路45の両方を電流遮断状態とするために、第1電流経路44および第2電流経路45のいずれかの経路からも電流が供給されることがなく、地絡によって定着ベルト31に対する電流量が増加して定着ベルト31が局部的に温度上昇することを防止することを確実に防止することができる。
【0112】
特に、第1電流経路44および第2電流経路45のそれぞれにおける電流変化率を検出しているために、第1電流経路44および第2電流経路45のそれぞれに接続された第1給電部材37aおよび第2給電部材37bに対して軸方向に離れた位置で地絡が生じた場合にも、その地絡を確実に検出することができる。
例えば、第1給電部材37aに対して軸方向に離れた位置で地絡が生じた場合には、第1電流経路44から供給される電流は、定着ベルト31における地絡が生じた部分まで、比較的長い距離にわたって抵抗発熱層31bを通過するために、第1電流経路44における電流増加量が小さい場合がある。このために、第1電流経路44における電流変化率の変化が小さく、迅速に地絡を迅速かつ高精度で検出できないおそれがある。
【0113】
しかし、この場合には、他方の第2電流経路45に近い位置において定着ベルト31が地絡していることから、第2電流経路45から供給される電流量が増加し、第2電流経路45の電流変化率が大きくなる。これにより、定着ベルト31が地絡していることを、迅速かつ高精度で検出することができる。
なお、このような構成に限らず、第1電流経路44および第2電流経路45のいずれか一方にのみ電流検出器を設けて、当該電流検出器にて検出される電流経路の電流変化率に基づいて定着ベルト31の地絡を検出するようにしてもよい。この場合には、電流検出器が設けられる電流経路が、電源におけるアース側の場合には、定着ベルト31が完全に切断されていない限り、抵抗発熱層31bを電流が流れるために、当該電流経路にも、低電流が流れる。このことから、当該電流経路を流れる電流が、予め設定された閾値よりも低くなった場合には、定着ベルト31に地絡が生じているものと判断することができる。
【0114】
<変形例>
なお、上記の実施形態において、CPU41aは、第1電流経路44および第2電流経路45の両方またはいずれか一方の電流変化率に基づいて、定着ベルト31が地絡していることを検出する構成であったが、このような構成に限らず、例えば、第1電流経路44および第2電流経路45の両方またはいずれか一方を流れる電流と、定着ベルト31の温度に基づいて、定着ベルト31の地絡を検出するようにしてもよい。
【0115】
例えば、定着装置30において定着動作が実施されと、第1電流経路44に設けられた第1電流検出器44bにて検出される電流と、中央部温度センサ36cにて得られる定着ベルト31の温度とに基づく電流−温度特性を、1ジョブ毎に、制御部41におけるRAM41bに記憶する。この場合、1ジョブの定着動作が実施され毎に、RAM41bに記憶された電流−温度特性を更新する。
【0116】
そして、定着動作が実施される場合には、第1電流検出器44bにて検出される電流と中央部温度センサ36cにて検出される定着ベルト31の温度とに基づく電流−温度特性を、RAM41bに記憶された電流−温度特性と比較し、その時点における電流−温度特性が、RAM41bに記憶された電流−温度特性に対して大きくシフトしている場合には、定着ベルト31に地絡が生じているものと判定する。
【0117】
定着ベルト31における地絡は、通常、定着ベルト31の経時的な劣化によって、定着ベルト31において急に剥離等が生じることにより発生する。従って、定着ベルト31の地絡も急に発生し、定着ベルト31における電流−温度特性も急激に変化する。このために、定着ベルト31における電流−温度特性が、RAM41bに記憶された電流−温度特性に対して急激に変化することにより、定着ベルト31の地絡を検出することができる。
【0118】
この場合、定着ベルト31における抵抗発熱層31bは、経時的に変化することによって、電気抵抗率も経時的に変化する。しかし、RAM41bに記憶された電流−温度特性は、定着動作が実行される毎に更新されるために、抵抗発熱層31bにおける経時的な電気抵抗率の変化が反映されることになる。従って、抵抗発熱層31bにおける電気抵抗率が経時的に変化しても、定着ベルト31の地絡を高精度で確実に検出することができる。
【0119】
なお、上記の説明では、定着装置30の電源として、商用の交流電源を用いる構成であったが、直流電源を用いる構成であってもよい。
また、本発明に係る画像形成装置は、モノクロ画像を形成するプリンタに限るものではなく、タンデム型カラーデジタルプリンタであってもよい。さらには、プリンタに限らず、複写機、MFP(Multiple Function Peripheral)、FAX等(いずれの場合にも、カラー画像用、モノクロ画像用のいずれであってもよい)にも適用できる。カラー画像用の画像形成装置の場合には、図5に示す定着ベルト31が好適に使用することができる。
【0120】
さらに、上記実施の形態では、定着ベルト31に加圧ローラを圧接して定着ニップを形成する構成であったが、定着ベルト31に代えて、周面に抵抗発熱層が設けられた押圧ローラを用いてもよい。また、定着ベルト31に圧接される加圧手段は、加圧ローラに限らず、加圧ベルトを用いてもよい。さらには、加圧手段としては、回転している必要がなく、固定的に設けられた加圧部材等を用いてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明は、電流が流れることによって発熱する抵抗発熱層を有する定着ベルトを用いる場合に、定着ベルトの地絡によって局所的に温度上昇すること未然に防止する技術として有用である。
【符号の説明】
【0122】
30 定着装置
31 定着ベルト
31a 補強層
31b 抵抗発熱層
31c 弾性層
31d 離型層
32 加圧ローラ
33 押圧ローラ
34 交流電源
36a 第1端部温度センサ
36b 第2端部温度センサ
36c 中央部温度センサ
37a 第1給電部材
37b 第2給電部材
41 制御部
41a CPU
41b RAM
41c ROM
42 第1電圧検出器
43 第2電圧検出器
44 第1電流経路
44b 第1電流検出器
44c 第3リレー
44d 第1リレー
45 第2電流経路
45b 第2電流検出器
45c 第2リレー
45d トライアック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電流が流れることによって発熱する抵抗発熱層が周回移動方向の全周にわたって設けられた定着回転体と、
当該定着回転体の外周面に圧接されて定着ニップを形成する加圧部材と、
前記定着回転体の周回移動方向とは直交する方向の両側の端部のそれぞれにおいて、前記抵抗発熱層に対して給電する一対の給電部材と、
前記一対の給電部材のそれぞれと電源とを接続する一対の電流経路と、
前記一対の電流経路のそれぞれを電流遮断状態とする一対の電流遮断手段と、
前記一対の電流経路のいずれか一方の電流を検出する電流検出手段と、
当該電流検出手段によって検出される電流を、予め設定された閾値と比較することによって前記定着ベルトに地絡が発生していることを検出して、前記一対の電流遮断手段の両方を電流遮断状態にする制御手段と、
を有することを特徴とする定着装置。
【請求項2】
前記電流検出手段は、前記一対の電流経路のそれぞれに設けられており、
前記制御手段は、前記電流検出手段いずれか一方によって検出される電流に基づいて前記地絡の発生を検出することを特徴とする請求項1に記載の定着装置。
【請求項3】
前記電流検出手段が設けられた電流経路に、当該電流経路の電圧を検出する電圧検出手段が設けられており、
前記制御手段は、当該電圧検出手段によって検出される電圧に基づいて、前記閾値を補正することを特徴とする請求項1または2に記載の定着装置。
【請求項4】
前記定着ベルトの温度を検出する温度検出手段をさらに備え、
前記制御手段は、当該温度検出手段の検出結果に基づいて前記閾値を補正することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の定着装置。
【請求項5】
電流が流れることによって発熱する抵抗発熱層が周回移動方向の全周にわたって設けられた定着回転体と、
当該定着回転体の外周面に圧接されて定着ニップを形成する加圧部材と、
前記定着回転体の周回移動方向とは直交する方向の両側の端部のそれぞれにおいて、前記抵抗発熱層に対して給電する一対の給電部材と、
前記一対の給電部材のそれぞれと電源とを接続する一対の電流経路と、
前記一対の電流経路のそれぞれを電流遮断状態とする一対の電流遮断手段と、
前記一対の電流経路のいずれか一方の電流を検出する電流検出手段と、
前記定着回転体の温度を検出する温度検出手段と、
前記電流検出手段によって検出される電流と、前記温度検出手段によって検出される温度とによって得られる電流−温度特性の変化に基づいて、前記定着ベルトに地絡が発生していることを検出して、前記一対の電流遮断手段の両方を電流遮断状態にする制御手段と、
を有することを特徴とする定着装置。
【請求項6】
前記制御手段は、求められた前記電流−温度特性を更新して記憶する記憶手段を有し、当該記憶手段にて記憶された電流−温度特性と新たに求められた電流−温度特性との比較に基づいて、前記定着ベルトにおける地絡の発生を検出することを特徴とする請求項5に記載の定着装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の定着装置を有することを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−248098(P2011−248098A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−121332(P2010−121332)
【出願日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【出願人】(303000372)コニカミノルタビジネステクノロジーズ株式会社 (12,802)
【Fターム(参考)】