説明

定着装置用均熱部材の製造方法および定着装置用均熱部材

【課題】表面に汚れが付着し難く、均熱性能が良好で、かつ熱容量が少ない定着装置用均熱部材を、安全で歩留り良く、かつ安価に作製できる定着装置用均熱部材の製造方法を提供すること。
【解決手段】金属材料からなり、一端10eが封止され他端10fが開放された細長い円筒形のパイプ10を用意する(図2(a))。パイプ10の外周面に、耐熱離型層12を密着するように形成する(図2(b))。パイプ10のうち他端10fを通して、外部からパイプ10内に作動液13を注入するとともに、溶接を行って他端10fを封止する(図2(c)〜(d))。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は定着装置用均熱部材の製造方法に関し、より詳しくは、電子写真方式の画像形成装置(複写機やプリンタ)において定着装置に用いられる均熱部材を作製する方法に関する。
【0002】
また、この発明は、そのような定着装置用均熱部材に関する。
【背景技術】
【0003】
電子写真方式の複写機、プリンタ等の画像形成装置に用いられる定着装置では、ウォーミングアップ時間を短縮するために、搬送されるシートを加熱および/または加圧するための定着部材として低熱容量のローラやベルトを用いることが多い。このような低熱容量のローラやベルトを用いた場合、温度の立ち上がりは速くなるけれども、ローラの長手方向(ベルトの幅方向)に関して熱移動が起こり難くなる。このため、上記ローラやベルトに沿って、熱伝導が良い金属(銅やアルミニウムなど)のパイプに作動液(水など)を封入してなるヒートパイプが、均熱部材として配置され圧接される。これにより、このヒートパイプに封入された作動液の潜熱を利用することで上記ローラの長手方向(ベルトの幅方向)の温度分布差が低減され、均熱化が図られる。
【特許文献1】特開平7−28351号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記ローラやベルトのような定着部材にヒートパイプを直接圧接すると、画像定着時に微量にオフセットしたトナーや紙粉がヒートパイプの表面に汚れとして付着する。ヒートパイプの表面にトナーや紙粉が蓄積すると、上記定着部材に上記ヒートパイプを均一に接触できなくなり、均熱効果が低下する。また、蓄積した汚れが脱落して、シート上の画像の汚れとなる問題も発生する。
【0005】
そこで、フッ素樹脂からなる耐熱離型層をヒートパイプの表面に形成して、汚れを防止する手段が考えられる。そのようなフッ素樹脂からなる耐熱離型層を設ける場合、一般的には、市販のヒートパイプにフッ素樹脂を被覆した後、焼成を行うことが想定される。しかし、その焼成の際、ヒートパイプの内圧が上昇して破裂、破損することがあり、危険を伴う。また、歩留りも損なわれる。
【0006】
また、フッ素樹脂からなる耐熱離型層を剛性の強い金属(ステンレス、鉄等)からなる補強筒に被覆したものを、ヒートパイプに外嵌して、均熱部材として用いることが考案されている(特開平7−28351号公報)。しかし、そのような構成では、均熱部材全体として熱伝導性が低下して、均熱性能が低下する。また、ヒートパイプに補強筒の余分な熱容量が追加されるため、熱容量が増大して、ウォーミングアップ時間が増大する。さらに、ヒートパイプとは別に補強筒を用いるため、高コストになるという問題が生ずる。
【0007】
そこで、この発明の課題は、表面に汚れが付着し難く、均熱性能が良好で、かつ熱容量が少ない定着装置用均熱部材を、安全で歩留り良く、かつ安価に作製できる定着装置用均熱部材の製造方法を提供することにある。
【0008】
また、この発明の課題は、表面に汚れが付着し難く、均熱性能が良好で、熱容量が少なく、かつ安価な定着装置用均熱部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、この発明の定着装置用均熱部材の製造方法は、
金属材料からなり、一端が封止され他端が開放された細長い円筒形のパイプを用意し、
上記パイプの外周面に、耐熱離型層を密着するように形成し、
上記パイプのうち上記他端を通して、外部から上記パイプ内に作動液を注入するとともに、溶接を行って上記他端を封止する。
【0010】
本明細書で、「耐熱離型層」とは、定着装置による定着に適した温度の熱に対して耐久性を有するとともに、下地のパイプの金属材料に比してトナーや紙粉等が剥離し易い性質を有する層を意味する。
【0011】
また、「作動液」とは、上記パイプに封入された(または封入される)液体であって、蒸発、凝縮の際の潜熱によって、上記パイプの長手方向の温度分布差を低減するもの(水など)を指す。
【0012】
また、「溶接」は、鑞付を含む概念である。
【0013】
この発明の定着装置用均熱部材の製造方法では、上記パイプの上記内部領域の外周面に上記耐熱離型層が形成された後、上記パイプ内に作動液を注入し上記パイプが封止される。したがって、上記耐熱離型層の形成の際に焼成を行ったとしても、上記パイプの内圧が上昇して破裂、破損することがない。したがって、この製造方法によれば、定着装置用均熱部材が安全で歩留り良く作製される。また、この製造方法によれば、補強筒を用いる従来例(特開平7−28351号公報)に比して部材数が少ないので、定着装置用均熱部材が安価に作製される。作製された均熱部材は、最外周に上記耐熱離型層を有するので、表面に汚れが付着し難い。また、作製された均熱部材は、上記パイプと上記耐熱離型層とが密着しているため、均熱性能が良好で、かつ熱容量が少ない。また、上記均熱部材の上記耐熱離型層は、定着装置による定着に適した温度の熱に対して耐久性を有するので、搬送されるシートを加熱および/または加圧するための定着部材に対して、上記均熱部材は長期にわたり安定して接触を保つことができる。したがって、均熱効果が安定し持続する。
【0014】
一実施形態の定着装置用均熱部材の製造方法では、上記耐熱離型層の形成後、上記作動液の注入前に、第1の塑性加工を行って、上記パイプの上記他端を縮径することを特徴とする。
【0015】
この一実施形態の定着装置用均熱部材の製造方法では、上記作動液の注入中および注入後に、既に注入された作動液が上記パイプからこぼれにくくなる。
【0016】
一実施形態の定着装置用均熱部材の製造方法では、上記パイプの上記他端を封止するとき、第2の塑性加工を行って、上記パイプの上記他端を閉じた後、上記溶接を行うことを特徴とする。
【0017】
この一実施形態の定着装置用均熱部材の製造方法では、上記第1の塑性加工によって上記パイプの上記他端が縮径されているので、上記第2の塑性加工の時、上記パイプの上記他端を容易に閉じることができる。
【0018】
一実施形態の定着装置用均熱部材の製造方法では、
上記パイプの外周面のうち上記耐熱離型層を形成する領域は、上記パイプの長手方向に関して両端の外端領域を除いた内部領域のみであり、
上記溶接を行うとき、上記パイプのうち上記他端側の上記外端領域に放熱用具を接触させて、上記外端領域から上記放熱用具を通して放熱を行うことを特徴とする。
【0019】
本明細書で、上記パイプの「外端領域」とは、上記定着装置用均熱部材が用いられる定着装置において、予定された最大サイズのシート(記録材)が通過する内部領域以外の領域、つまりトナー画像の定着に寄与しない領域に相当する。
【0020】
この一実施形態の定着装置用均熱部材の製造方法では、上記溶接を行うとき、上記パイプのうち上記他端側の上記外端領域に放熱用具を接触させて、上記外端領域から上記放熱用具を通して放熱を行う。したがって、上記溶接の熱によって上記耐熱離型層が劣化したり、上記パイプの内圧が上昇して破裂、破損したりするのが防止される。
【0021】
一実施形態の定着装置用均熱部材の製造方法では、上記耐熱離型層の形成は、上記パイプの上記内部領域の外周面にフッ素樹脂を粉体静電塗装した後、上記フッ素樹脂を焼成して行うことを特徴とする。
【0022】
この一実施形態の定着装置用均熱部材の製造方法では、上記耐熱離型層が容易に形成される。
【0023】
一実施形態の定着装置用均熱部材の製造方法では、上記耐熱離型層の形成は、上記パイプの上記内部領域の外周面にフッ素樹脂の粉末を水に分散させてなるディスパージョン塗料を塗装した後、上記ディスパージョン塗料を焼成して行うことを特徴とする。
【0024】
この一実施形態の定着装置用均熱部材の製造方法では、上記耐熱離型層が容易に形成される。
【0025】
一実施形態の定着装置用均熱部材の製造方法では、上記耐熱離型層の形成は、上記パイプの上記内部領域の外周面にフッ素樹脂からなるチューブを被せた後、上記チューブを焼成して行うことを特徴とする。
【0026】
この一実施形態の定着装置用均熱部材の製造方法では、上記耐熱離型層が容易に形成される。
【0027】
一実施形態の定着装置用均熱部材の製造方法では、上記耐熱離型層の形成は、上記パイプの上記内部領域の外周面を溶融したフッ素樹脂に浸して、上記外周面の周りに上記フッ素樹脂を付着させ、上記外周面の周りに付着した上記フッ素樹脂の膜厚を膜厚規制ブレードを用いて一定にした後、上記フッ素樹脂を焼成して行うことを特徴とする。
【0028】
この一実施形態の定着装置用均熱部材の製造方法では、上記耐熱離型層が容易に形成される。
【0029】
一実施形態の定着装置用均熱部材の製造方法では、上記耐熱離型層の形成は、上記パイプの上記内部領域の外周面に溶融したフッ素樹脂をロールコータを用いて塗布した後、上記フッ素樹脂を焼成して行うことを特徴とする。
【0030】
この一実施形態の定着装置用均熱部材の製造方法では、上記耐熱離型層が容易に形成される。
【0031】
この発明の定着装置用均熱部材は、
金属材料からなり、両端が封止された細長い円筒形のパイプと、
上記パイプ内に封入された作動液と、
上記パイプの外周面に密着して形成された耐熱離型層とを備える。
【0032】
この発明の定着装置用均熱部材では、最外周に上記耐熱離型層を有するので、表面に汚れが付着し難い。また、この均熱部材では、上記パイプと上記耐熱離型層とが密着しているため、均熱性能が良好で、かつ熱容量が少ない。また、この均熱部材は、補強筒を用いる従来例(特開平7−28351号公報)に比して部材数が少ないので、安価に作製される。また、上記耐熱離型層は、定着装置による定着に適した目標温度の熱に対して耐久性を有するので、搬送されるシートを加熱および/または加圧するための定着部材に対して、上記均熱部材は長期にわたり安定して接触を保つことができる。したがって、均熱効果が安定し持続する。
【0033】
一実施形態の定着装置用均熱部材では、上記耐熱離型層は、上記パイプのうち長手方向に関して両端側の外端領域を除いた内部領域のみに形成されていることを特徴とする。
【0034】
この一実施形態の定着装置用均熱部材では、上記耐熱離型層は、上記パイプのうち長手方向に関して両端側の外端領域を除いた内部領域のみに形成されているので、上記パイプを封止するとき、上記外端領域に放熱用具を接触させて、上記外端領域から上記放熱用具を通して放熱を行うことができる。そのようにした場合、上記溶接の熱によって上記耐熱離型層が劣化したり、上記パイプの内圧が上昇して破裂、破損したりするのが防止される。
【0035】
一実施形態の定着装置用均熱部材では、上記耐熱離型層の材料はフッ素樹脂であることを特徴とする。
【0036】
この一実施形態の定着装置用均熱部材では、上記耐熱離型層の材料はフッ素樹脂であるから、耐熱性および離型性に優れ、かつ安価である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下、この発明を図示の実施の形態により詳細に説明する。
【0038】
図1は、本発明の一実施形態の均熱部材を備えた定着装置の断面構造を示している。この定着装置は、電子写真方式の画像形成装置(複写機、プリンタ等)において、トナー画像をシートに定着させるために用いられる。
【0039】
図1に示すように、この定着装置は、概略、定着ローラ2と、この定着ローラ2を巻回する加熱ベルト1と、加圧ローラ5と、均熱部材8と、励磁コイル3と、磁性体コア4と、温度センサ50と、制御回路60と、高周波インバータ70とを備えている。90はシートとしての用紙である。
【0040】
定着ローラ2、加圧ローラ5および均熱部材8は、それぞれ図1の紙面に対して垂直に延びる円筒状の部材であり、互いに平行に配置され、それぞれ両端が不図示の軸受部材に回転自在に支持されている。
【0041】
この例では、定着ローラ2は、ステンレス鋼からなる芯金2aと、その芯金2aの外周面を被覆する厚さ10mmのシリコーンスポンジ層2bとからなる。定着ローラ2全体としての直径は40mmに設定されている。
【0042】
加熱ベルト1は、詳細には図示しないが、電磁誘導により渦電流を発生して発熱する厚さ40μmのNiベルトからなる発熱層と、その表面に形成された厚さ200μmのシリコーンゴム層からなる耐熱弾性層と、その表面に被覆され、トナー等の付着を防止する厚さ30μmのPFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)からなる耐熱離型層とで構成されている。
【0043】
加圧ローラ5は、STKM(機械構造用炭素鋼鋼管)からなる直径35mmの芯金5aと、SiゴムとSiスポンジとの2層からなる耐熱弾性層5bと、その表面に被覆されたPFAからなる耐熱離型層5cとで構成されている。この加圧ローラ5は、バネなどを用いた不図示の加圧機構によって定着ローラ2へ向かって約500Nの加圧力で付勢されている。これにより、加圧ローラ5は、定着ローラ2を取り巻く加熱ベルト1との間に、用紙90の搬送方向に寸法約12mmの定着用のニップ部を形成している。
【0044】
均熱部材8は、概ね、図2(d)に示すように、作動液としての水13が封入された円筒形の銅パイプ10と、その銅パイプ10の外周面に密着して形成されたPFAチューブからなる耐熱離型層12とで構成されている。この均熱部材8は、バネなどを用いた不図示の加圧機構によって加圧ローラ5へ向かって付勢されている。
【0045】
加圧ローラ5は、不図示の駆動機構により図1中に矢印bで示す反時計回り方向に所定の周速度で回転駆動される。加熱ベルト1は、定着ローラ2とともに、ニップ部での加圧ローラ5との摩擦力によって加圧ローラ5の回転に従動して、図1中に矢印aで示す時計回り方向に回転する。均熱部材8も、加圧ローラ5との摩擦力によって加圧ローラ5の回転に従動して、図1中に矢印cで示す時計回り方向に回転する。
【0046】
励磁コイル3は、高周波インバータ70から電力供給を受けて磁束を発生させるために設けられている。励磁コイル3は、導線束を定着ローラ2の長手方向に沿って長円形状に複数回(この例では10回程度)巻回して形成されている。図1中、3aはこの導線束の往路部分を示し、3bはこの導線束の復路部分を示している。なお、1本の導線束は、通電効率を高めるために素線(直径0.18mm〜0.20mm程度の銅線であってエナメルで絶縁被覆されたもの)を114本束ねて形成された直径数mm程度の公知の撚り線(リッツ線)である。
【0047】
磁性体コア4は、加熱ベルト1の外周に沿って配置された略山形のメインコア4aと、メインコア4aの周方向に関して中央部から加熱ベルト1へ向かって突起して設けられた中央コア4bと、メインコア4aの周方向に関して両端部からそれぞれ加熱ベルト1へ向かって突起して設けられた裾コア4c,4dとで構成されている。中央コア4bは、励磁コイル3の往路部分3aと復路部分3bとの間の隙間へ入り込んでいる。裾コア4c,4dは、励磁コイル3の往路部分3aと復路部分3bの外側縁を覆っている。磁性体コア4の各部は、MnZn系フェライトからなる。これにより、励磁コイル3が発生した磁束は、中央コア4bからメインコア4aの図1に置いて左側部分を通り、裾コア4c、加熱ベルト1の発熱層を通り、中央コア4bに戻る磁気回路を形成する。また、それとは対称に、中央コア4bからメインコア4aの図1に置いて右側部分、裾コア4d、加熱ベルト1の発熱層を通り、中央コア4bに戻る磁気回路を形成する。このように、磁束が加熱ベルト1の発熱層を通り、磁束が交番することで、上記発熱層に渦電流が発生し発熱する。
【0048】
温度センサ50は例えば非接触の赤外線温度センサであり、加熱ベルト1の外周面に対向近接するように配置されている。なお、温度センサ50には接触型サーミスタを用いてもかまわない。この温度センサ50の検出信号が制御回路60に入力される。制御回路60は、温度センサ50の検出信号をもとに高周波インバータ70を制御して、加熱ベルト1の表面温度が定着に適した目標温度になるように高周波インバータ70から励磁コイル3への電力供給を増減させる。温度センサ50としては、赤外線温度センサの他に、安全確保の為のサーモスタットその他のものを用いても良い。
【0049】
定着動作時には、上述のように、加圧ローラ5が図1において反時計回りに回転駆動され、これに従動して定着ローラ2と加熱ベルト1が図1において時計回りに回転する。これとともに、励磁コイル3の発生した磁束による電磁誘導によって加熱ベルト1の発熱層が発熱して加熱ベルト1の表面温度が目標温度(この例では約180℃)になるように自動制御される。この状態で、不図示の搬送機構によって、加熱ベルト1と加圧ローラ5とが作るニップ部に、未定着トナー像91が片面に形成されたシートとしての用紙90が下方から送り込まれる。上記ニップ部に送り込まれた用紙90は、ニップ部を通るときに加熱ベルト1によって加熱される。これにより、未定着トナー像91が用紙90に定着される。ニップ部を通った用紙90は図1において左方へ排出される。なお、用紙90に代えて、OHPシートなどを用いても良い。
【0050】
さて、小サイズの用紙を連続して通紙した場合、加熱ベルト1のうち幅方向に関して用紙が接触しない領域(非通紙領域)の熱が奪われないため、加熱ベルト1や加圧ローラ5の非通紙領域に熱が滞留して局所的に温度が上昇しようとする。ここで、均熱部材8は、加熱ベルト1や加圧ローラ5の非通紙領域の熱を奪い、封入された作動液の潜熱を利用することで均熱部材8の長手方向に関して均熱化する。これにより、加熱ベルト1の幅方向(加圧ローラ5の長手方向)の温度分布差が低減され、均熱化が図られる。
【0051】
なお、仮に均熱部材8が設けられていなければ、小サイズの用紙を通紙した後に続いて大サイズの用紙を通紙する時、上記非通紙領域でトナーが過溶融して高温オフセットが発生したり、光沢ムラが発生したりする。さらに温度上昇すれば、定着装置周辺の部品の溶融も発生する。
【0052】
従来例に関して述べたように、加圧ローラにヒートパイプを直接圧接すると、画像定着時に微量にオフセットしたトナーや紙粉がヒートパイプの表面に汚れとして付着する。これに対して、この実施形態では、均熱部材8の最外周にPFAからなる耐熱離型層12を有するので、表面に汚れが付着し難い。
【0053】
また、この均熱部材8では、銅パイプ10と耐熱離型層12とが密着しているため、均熱性能が良好で、かつ熱容量が少ない。また、この均熱部材8は、補強筒を用いる従来例(特開平7−28351号公報)に比して部材数が少ないので、安価に作製される。また、耐熱離型層12は、定着に適した目標温度(この例では約180℃)の熱に対して耐久性を有するので、加圧ローラ5に対して、均熱部材8は長期にわたり安定して接触を保つことができる。したがって、均熱効果が安定し持続する。
【0054】
図2(a)〜(d)は、均熱部材8の製造工程を例示している。
【0055】
まず、図2(a)に示すように、一端としての左端10eが封止され他端としての右端10fが開放された細長い銅パイプ10を用意する。この例では、銅パイプ10は、直径21mmで厚さ0.8mmの一体物である。
【0056】
この銅パイプ10の外周面10aに、次に述べる耐熱離型層の接着力を高めるためのプライマ11を塗布する。この例では、プライマ11の材料は、金属との密着性を有するバインダー成分(アクリル,ポリアミドイミド,ポリイミド,ポリフェニレンスルフィド,ポリエーテルスルホン等)とフッ素樹脂との密着性を有するフッ素樹脂成分(ポリテトラフルオロエチレン,テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体,テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体以上の混合物等)が分散されたものであり、一般的に金属物とフッ素樹脂の接着に用いられているものである。
【0057】
次に、図2(b)に示すように、銅パイプ10の外周面10a(より正確にはプライマ11の外周面)に、PFAからなる耐熱離型層12を密着するように形成する。この例では、耐熱離型層12の形成方法としては、銅パイプ10の外周にPFAチューブを被せ、約400°Cで焼成を行う。
【0058】
ここで、耐熱離型層12を形成する領域は、銅パイプ10のうち長手方向に関して両端側の外端領域B,Cを除いた内部領域Aのみとする。この内部領域Aは、実質的に、この定着装置で予定された最大サイズの用紙が通過する領域に対応している。
【0059】
なお、上述のプライマ11を塗布する領域は、銅パイプ10の長手方向に関して、内部領域Aよりも若干広めに、マージンをとって設定されている。
【0060】
次に、図2(c)に示すように、第1の塑性加工としての圧壊を行って、パイプ10の右端10fを縮径する(この段階では、未だ右端10fを閉じない。)。続いて、縮径された右端10fを通して、外部からパイプ10内に作動液としての水13を注入する。ここで、パイプ10の右端10fを縮径しているので、水13の注入中および注入後に、既に注入された水13がパイプ10からこぼれにくい。
【0061】
次に、図2(d)に示すように、パイプ10の右端10fに図示しない真空ポンプを接続してパイプ10内を真空状態し、その真空状態で第2の塑性加工としての圧壊を行って、パイプ10の右端10fを閉じる(仮封止)。
【0062】
続いて、真空ポンプを取り外した後、溶接としての鑞付を行って、パイプ10の右端10fを封止する(本封止)。
【0063】
ここで、パイプ10の右端10fを溶接により封止する際、何の工夫も施さなければ、溶接の熱により、パイプ10の温度が上昇して耐熱離型層12が劣化したり破損したりするおそれがある。そこで、この実施形態では、図3に示すように、溶接を行うとき、放熱用具20を用いて放熱を行う。
【0064】
具体的には、放熱用具20は、パイプ10の右端10f側の外端領域C(より正確には、外端領域Cのうち本来の外径のまま残されている部分10c)を両側から挟んで固定するための一対の固定具15A,15Bと、これらの固定具15A,15Bにそれぞれ一端が貫入された一対の冷却用ヒートパイプ16A,16Bと、冷却用ヒートパイプ16A,16Bの他端側に取り付けられた一対のヒートシンク17A,17Bとを含んでいる。
【0065】
固定具15A,15B、ヒートシンク17A,17Bは、アルミニウムや銅などの熱伝導性の良好な部材からなっている。固定具15A,15Bのパイプ10側の面には、パイプ10との接触面積を大きくするように、パイプ10の本来の外径と同じ曲率をもつ湾曲面が形成されている。ヒートシンク17A,17Bは、表面積を大きくするように、多数のフィンを備えている。冷却用ヒートパイプ16A,16Bは、作動液としての水が封入された円筒形の銅パイプからなっている。
【0066】
溶接を行うときは、パイプ10の右端10f側の外端領域Cのうち本来の外径のまま残されている部分10cが固定具15A,15Bによって両側から挟まれて固定される。ヒートシンク17A,17Bは、冷却ファン18により冷却される。この状態で、図2(d)中に示したように、パイプ10の右端10fが溶接(鑞付)によって封止される。溶接の熱は、パイプ10の右端10fから本来の外径のまま残されている部分10c、固定具15A,15B、冷却用ヒートパイプ16A,16B、ヒートシンク17A,17Bに伝わる。そして、冷却ファン18の助けにより、ヒートシンク17A,17Bから雰囲気中へ効率良く放熱される。このようにした場合、パイプ10の内部領域Aは、耐熱離型層12が耐えられる約260°C以下の温度に抑制される。したがって、溶接の熱によって均熱部材8の耐熱離型層12が劣化したり、パイプ10の内圧が上昇して破裂、破損したりするのが防止される。
【0067】
なお、この例では放熱用具20を用いて空冷を行っているが、これに限られるものではない。溶接の熱を放熱する手段としては、例えば固定具15A,15Bを貫通して冷媒循環用のパイプを設け、水や油による水冷、油冷を行っても良い。
【0068】
また、上述の例では、耐熱離型層12の形成方法として、銅パイプ10の外周にPFAチューブを被せ、焼成を行うものとした。当然ながら、これに限られるものではない。
【0069】
例えば、パイプ10の内部領域Aの外周面にフッ素樹脂を粉体静電塗装した後、そのフッ素樹脂を焼成して、耐熱離型層12を形成しても良い。
【0070】
また、パイプ10の内部領域Aの外周面にフッ素樹脂の粉末を水に分散させてなるディスパージョン塗料を塗装した後、そのディスパージョン塗料を焼成して、耐熱離型層12を形成しても良い。
【0071】
また、パイプ10の内部領域Aの外周面を溶融したフッ素樹脂に浸して、上記外周面の周りにフッ素樹脂を付着させ、上記外周面の周りに付着したフッ素樹脂の膜厚を膜厚規制ブレードを用いて一定にした後、上記フッ素樹脂を焼成して、耐熱離型層12を形成しても良い。
【0072】
また、パイプ10の内部領域Aの外周面に溶融したフッ素樹脂をロールコータを用いて塗布した後、そのフッ素樹脂を焼成して、耐熱離型層12を形成しても良い。
【0073】
また、上述の例では、パイプ10の材料は銅からなるものとしたが、アルミニウムなどでもよい。パイプ10の材料としては、熱伝導性が良好で、或る程度剛性を有する金属材料であるのが望ましい。
【0074】
また、上述の例では、耐熱離型層12の材料はPFAであるものとしたが、これに限られるものではない。耐熱離型層12の材料としては、PFA以外に、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、FEP(テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体)、PFEP(パーフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体)等のフッ素樹脂であっても良い。これらはフッ素樹脂であるから、耐熱性および離型性に優れ、かつ安価である。したがって、好ましく用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】この発明の一実施形態の均熱部材を備えた定着装置の断面構造を示す図である。
【図2】上記均熱部材の製造工程を示す工程図である。
【図3】放熱用具を用いて空冷を行う態様を示す図である。
【符号の説明】
【0076】
1 加熱ベルト
2 定着ローラ
3 励磁コイル
4 磁性体コア
5 加圧ローラ
8 均熱部材
10 銅パイプ
12 耐熱離型層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材料からなり、一端が封止され他端が開放された細長い円筒形のパイプを用意し、
上記パイプの外周面に、耐熱離型層を密着するように形成し、
上記パイプのうち上記他端を通して、外部から上記パイプ内に作動液を注入するとともに、溶接を行って上記他端を封止する定着装置用均熱部材の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の定着装置用均熱部材の製造方法において、
上記耐熱離型層の形成後、上記作動液の注入前に、第1の塑性加工を行って、上記パイプの上記他端を縮径することを特徴とする定着装置用均熱部材の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の定着装置用均熱部材の製造方法において、
上記パイプの上記他端を封止するとき、第2の塑性加工を行って、上記パイプの上記他端を閉じた後、上記溶接を行うことを特徴とする定着装置用均熱部材の製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載の定着装置用均熱部材の製造方法において、
上記パイプの外周面のうち上記耐熱離型層を形成する領域は、上記パイプの長手方向に関して両端の外端領域を除いた内部領域のみであり、
上記溶接を行うとき、上記パイプのうち上記他端側の上記外端領域に放熱用具を接触させて、上記外端領域から上記放熱用具を通して放熱を行うことを特徴とする定着装置用均熱部材の製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載の定着装置用均熱部材の製造方法において、
上記耐熱離型層の形成は、上記パイプの上記内部領域の外周面にフッ素樹脂を粉体静電塗装した後、上記フッ素樹脂を焼成して行うことを特徴とする定着装置用均熱部材の製造方法。
【請求項6】
請求項1に記載の定着装置用均熱部材の製造方法において、
上記耐熱離型層の形成は、上記パイプの上記内部領域の外周面にフッ素樹脂の粉末を水に分散させてなるディスパージョン塗料を塗装した後、上記ディスパージョン塗料を焼成して行うことを特徴とする定着装置用均熱部材の製造方法。
【請求項7】
請求項1に記載の定着装置用均熱部材の製造方法において、
上記耐熱離型層の形成は、上記パイプの上記内部領域の外周面にフッ素樹脂からなるチューブを被せた後、上記チューブを焼成して行うことを特徴とする定着装置用均熱部材の製造方法。
【請求項8】
請求項1に記載の定着装置用均熱部材の製造方法において、
上記耐熱離型層の形成は、上記パイプの上記内部領域の外周面を溶融したフッ素樹脂に浸して、上記外周面の周りに上記フッ素樹脂を付着させ、上記外周面の周りに付着した上記フッ素樹脂の膜厚を膜厚規制ブレードを用いて一定にした後、上記フッ素樹脂を焼成して行うことを特徴とする定着装置用均熱部材の製造方法。
【請求項9】
請求項1に記載の定着装置用均熱部材の製造方法において、
上記耐熱離型層の形成は、上記パイプの上記内部領域の外周面に溶融したフッ素樹脂をロールコータを用いて塗布した後、上記フッ素樹脂を焼成して行うことを特徴とする定着装置用均熱部材の製造方法。
【請求項10】
金属材料からなり、両端が封止された細長い円筒形のパイプと、
上記パイプ内に封入された作動液と、
上記パイプの外周面に密着して形成された耐熱離型層とを備えた定着装置用均熱部材。
【請求項11】
請求項10に記載の定着装置用均熱部材において、
上記耐熱離型層は、上記パイプのうち長手方向に関して両端側の外端領域を除いた内部領域のみに形成されていることを特徴とする定着装置用均熱部材。
【請求項12】
請求項10に記載の定着装置用均熱部材において、
上記耐熱離型層の材料はフッ素樹脂であることを特徴とする定着装置用均熱部材。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2010−139956(P2010−139956A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−318328(P2008−318328)
【出願日】平成20年12月15日(2008.12.15)
【出願人】(303000372)コニカミノルタビジネステクノロジーズ株式会社 (12,802)
【Fターム(参考)】