説明

定着装置

【課題】 エンドレスベルトを用いた定着装置のウォームアップ時間の更なる短縮を図る。
【解決手段】 エンドレスフィルムが回転を開始し定着ニップ部で定着処理を開始する前のウォームアップ期間中、エンドレスフィルム回転方向における定着ニップ部中央より下流側の位置でヒータの発熱量が最も大きくなるように設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真技術を用いた複写機やプリンタに搭載される定着装置に関する。特に、エンドレスフィルムとエンドレスフィルムの内周面に接触するヒータとを有しエンドレスフィルムを介して記録材上の未定着トナー像を記録材に加熱定着する定着装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンドレスフィルムを用いた定着装置は、構造上、非常に低熱容量であるため、ウォームアップを開始して定着可能な温度に到達するまでの時間が短くできる。そのため、プリント指示を待つスタンバイ中の消費電力を少なくできる等、優れた性能を有している。
【0003】
このような優れた性能を有する定着装置でも、近年は更なる性能アップが求められている。例えば、ウォームアップを開始して定着可能な温度に到達するまでの時間を更に短縮することもその一つである。また、トナーを紙に定着させる定着性能の更なる向上もその一つである。
【0004】
特許文献1には、エンドレスフィルム内周面に接触するヒータが、複数本の発熱抵抗体を有していること、及び複数枚の記録材を連続して定着処理する場合に、徐々にヒータの発熱分布を変化させて定着性能を確保することが開示されている。
【特許文献1】特開2002−341682号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のものは、連続プリント時における記録材搬送方向のヒータの発熱ピークを徐々に搬送方向上流側へシフトさせることにより、連続プリント時の定着性を確保している。しかしながら、少ない消費電力でウォームアップ完了までの時間を短縮するものではない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の課題を解決するための本発明は、エンドレスフィルムと、基板と前記基板上に設けられた複数の発熱抵抗体とを有し前記エンドレスフィルムの内周面に接触するヒータと、前記エンドレスフィルムを介して前記ヒータと共に定着ニップ部を形成するバックアップ部材と、を有し、前記定着ニップ部で未定着トナー像を担持する記録材を挟持搬送しつつ未定着トナー像を記録材に加熱定着する定着装置において、前記エンドレスフィルムが回転を開始し前記定着ニップ部で定着処理を開始する前のウォームアップ期間中、前記エンドレスフィルム回転方向における前記定着ニップ部中央より下流側の位置で前記ヒータの発熱量が最も大きくなるように設定されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、少ない消費電力でウォームアップ完了までの時間を短縮できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
(実施例1)
以下、本発明の実施の一形態を添付図面について説明する。
【0009】
図20は、本発明の定着装置を搭載した画像形成装置の一例であるレーザプリンタの概略構成を示す図である。
【0010】
同図において、1はドラム型の電子写真感光体(以下、感光ドラムと称す)である。この感光ドラム1は装置本体Mによって回転自在に支持されており、不図示の駆動手投によって矢印方向に所定のプロセススピードで回転駆動されるようになっている。なお、この感光ドラム1の周囲には、その回転方向に沿って順に帯電装置(帯電ローラ)2、露光装置(走査手段)3、現像装置4、転写装置(転写手段)5、クリーニング装置7が配設されている。
【0011】
また同図において、給紙カセット8は装置本体Mの下部に配置され、シート状の記録材Pが収納されている。記録材Pは搬送経路Rに沿って不図示の搬送手段により搬送方向上流側から順に、転写装置(転写手段)5、ガイド35、定着装置(定着手段)6に搬送される。
【0012】
次に、レーザプリンタにおける画像形成動作について説明する。画像形成動作が開始されると、まず駆動手段によって矢印方向に回転駆動された感光ドラム1は、帯電ローラ2によって所定の極性、所定の電位に一様に帯電される。そして、帯電ローラ2によって帯電した後の感光ドラム1の表面は、露光装置(走査手段)3によって画像情報に基づいた光Lで走査される。この結果、光Lによって走査された部分の電荷が除去されて感光ドラム1の表面に静電潜像が形成される。
【0013】
次に、この静電潜像は、トナーを収容する現像装置4によって現像され、感光ドラム上にトナー像が形成される。なお、この現像装置4は現像ローラ4aを有しており、この現像ローラ4aに現像バイアスを印加することで、感光ドラム1上の静電潜像にトナーを供給している。
【0014】
一方、このようなトナー像形成動作に並行して給紙カセット8に収納されている記録材Pは、不図示の搬送手段によって給紙、及び搬送され、感光ドラム1と転写ローラ5との間に搬送される。記録材Pが転写ニップ部に搬送されると、転写ローラ5に印加される転写バイアスにより感光ドラム上のトナー像が記録材P上の所定の位置に転写される。
【0015】
次に、未定着トナー像を担持した記録材Pは、搬送ガイド35に沿って定着装置6を構成するエンドレスフィルム33と、このエンドレスフィルム33と接触する加圧ローラ40との間に形成されている定着ニップ部Nに搬送される。この定着ニップ部で未定着トナー像が加熱及び加圧されてトナー像が記録材P表面に定着する。なお、このようにしてトナー像が定着された後の記録材Pは、装置本体M上面に設けられた排紙トレイ上に排出される。
【0016】
一方、トナー像転写後の感光ドラム1は、クリーニング装置7のクリーニングブレード7aによってクリーニングされ、次の画像形成に備える。以上の動作を繰り返すことで、次々と画像形成を行うことができる。
【0017】
次に、本実施例に係る定着装置6の構成を図1に示す。図1(a)にヒータ31の平面図を、図1(b)に定着装置の断面図を示す。
【0018】
ヒータ31はセラミック基板31a上に発熱抵抗体を形成したヒータである。セラミック製の基板31aは、アルミナや窒化アルミ(A1N)のような、電気絶縁性及び熱伝導性に優れた低熱容量の材質で構成されている。セラミック基板31a上には基板長手方向に沿って、銀パラジウム(Ag/Pb)、Ta2N等の発熱抵抗体20をスクリーン印刷で形成してある。符号21a及び21bは不図示のコネクタが接触する電極である。さらに発熱抵抗体20を形成した面を不図示の薄肉ガラス保護層で覆っている。このヒータ31(の発熱抵抗体20a及び20b)は商用電源から電力を供給されて発熱する。
【0019】
ヒータ31の温度は温度検知素子(以下、サーミスタと称す)34により検知されている。そして、温度検知素子34の検知温度に応じてヒータ31への通電が不図示の通電制御部によって制御されている。制御方法としては、商用電源からヒータに供給する電流(正弦波)の波数の増減を制御する波数制御方式や、商用電源からヒータに供給する電流(正弦波)の位相角を制御する位相制御方式がある。これらの制御方式によってヒータ31は所定の目標温度に温度管理される。
【0020】
エンドレスフィルム33は、定着ニップ部Nにおいてヒータ31と加圧ローラ40に挟まれており、加圧ローラ40から動力を受けてヒータ31に密着した状態で回転する。なお、ヒータ31のガラス保護層側がエンドレスフィルム33と接触する構成であっても、セラミック基板側がエンドレスフィルム33と接触する構成であってもかまわない。
【0021】
また、エンドレスフィルム33は内部のヒータ31およびヒータホルダ32に摺擦しながら回転するため、ヒータ31やヒータホルダ32と、エンドレスフィルム33と、の間の摩擦抵抗を小さく抑える必要がある。このため、ヒータ31およびヒータホルダ32の表面に耐熱性グリース等の潤滑剤を少量介在させてある。これにより、エンドレスフィルム33はスムーズに回転することが可能となる。
【0022】
ヒータ31の熱を効率よく記録材Pに与えるため、エンドレスフィルム33の厚みは、100μm以下とするのが好ましい。エンドレスフィルム33は、ポリイミド、ポリアミドイミド、PEEK、等の耐熱性の樹脂をベース層とした構成や、SUS(ステンレス)、Al、Ni、等の金属、をベース層とした構成、である。
【0023】
また、長寿命の定着装置を構成するために充分な強度を持ち、耐久性に優れたエンドレスフィルムとして、20μm以上の厚みが必要である。よって、エンドレスフィルム33の厚みとしては20μm以上100μm以下が最適である。このエンドレスフィルム33はエンドレスフィルムベース層、プライマー層、離型層の3層構成、あるいはベース層と離型層の間にゴム層を設けた構成となっている。エンドレスフィルムベース層側がヒータ31側であり、離型層が加圧ローラ40側である。また、エンドレスフィルムベース層によってエンドレスフィルム33全体の引裂強度といった機械的強度を保っている。ベース層の外側には導電フィラーを分散した導電性プライマー層を厚み2〜6μm程度で形成されている。そして、エンドレスフィルム33のチャージアップによる静電オフセットを防止するために、フィルムを接地状態あるいは一定電位に保つように構成されている。
【0024】
さらに、離型層はエンドレスフィルム33に対するトナーオフセット防止や記録材Pの分離性を確保するために表層には、PFA,PTFE,FEP、シリコーン樹脂といった離型性の良好な耐熱フッ素樹脂を厚み10μm程度混合ないし単独で被覆してある。
【0025】
また、ヒータホルダ32は、例えば耐熱性プラスチック製部材(液晶ポリマー、フェノール樹脂、PPS,PEEK)により形成され、ヒータ31を保持するとともにエンドレスフィルム33の回転を案内するガイドも兼ねている。不図示のモータにより加圧ローラ40が回転すると、エンドレスフィルムは加圧ローラから駆動力を受けて図1(b)の矢印の方向に回転する。
【0026】
エンドレスフィルム33を介してヒータ31と共に定着ニップ部Nを形成する加圧ローラ(バックアップ部材)40は不図示の芯金の外側にシリコーンゴムやフッ素ゴムといった耐熱ゴムあるいはシリコーンゴムを発泡して形成された弾性層42を設けた構成であり、この弾性層42の上にはPFA,PTFE,FEPといった離型層(不図示)を形成してあってもよい。
【0027】
図1(b)のような定着ニップ部Nを形成するために、定着装置の長手方向両端部には夫々バネが掛けられており、このバネの力によって定着ニップ部Nには圧力が掛かっている。
【0028】
以上のように形成されている定着ニップ部Nで未定着トナー像tを担持する記録材Pを挟持搬送しつつ未定着トナー像tを記録材Pに加熱定着する。
【0029】
次に、実施の形態1における定着装置の温度制御を図2に示す。図2はヒータ31の目標温度(制御温度)の推移を示している。本実施形態の定着装置は以下の3つの動作から成り立っている。
(1)装置を目標温度にまで暖める立上動作(ウォームアップ期間)
(記録材Pがニップ部Nに存在しない蓄熱動作)
(2)トナー像を記録材Pに固着させる定着動作(定着処理期間)
(記録材Pがニップ部Nに存在する加熱動作)
(3)装置を冷却する立下動作
プリンタにプリント指示が入ると、まず、(1)立上動作(以下、前回転と称す)を行う。この時、プリンタは、画像処理装置、駆動モータ、あるいは高圧回路など、様々な装置を立ち上げる必要があるため、定着装置に投入できる電力は限られる。本実施形態では、定着装置に1000W投入でき、プロセススピード300mm/sec、スループット50ppmの装置を用いており、前回転は4秒である。エンドレスフィルム33が外径φ24mm、ベース層は50μmのポリイミドを用い、エンドレスフィルムの熱伝導率はおよそ0.1W/mKである。加圧ローラ40は外径φ25mmで、シリコーンゴムを弾性層42として厚み4mm、ニップ部Nの幅が8mmとなるように加圧力を調節した。
【0030】
上記条件において、図1に示す上流側の発熱抵抗体20aのみに100%の電力比(即ち、商用電源から供給される正弦波を制限していない状態)で通電を行った場合(設定A)と、下流側の発熱抵抗体20bのみに100%の電力比で通電を行った場合(設定B)の定着ニップ部N内の温度分布を図3に示す。横軸がニップ部N内の位置、縦軸がニップ部内の温度である。図3の測定値は、前回転終了時(通電開始から4秒後の定着動作直前)に記録材Pの代わりに熱電対を定着ニップ部Nに通して温度測定したものである。
【0031】
設定Aでは、ニップ部N突入直後から熱電対の温度が上昇し、搬送方向中央付近で温度がピーク(約130℃)となるのに対して、設定Bでは熱電対がニップ部Nから出る直前に温度がピークとなり、到達温度も約150℃となっている。このように、設定Bは設定Aよりピーク温度が高く、ピークの位置も設定Bは設定Aよりもニップ部出口に近いことが判る。
【0032】
ここで、エンドレスフィルム33表面の温度を図4に示す。図4(a)に上流100%発熱(設定A)、下流100%発熱(設定B)、さらに上流50%下流50%発熱(設定C)の、ニップ部N直後と直前のエンドレスフィルムの温度を示している。ニップ部N直後の温度とニップ部N直前の温度は、図4(b)に示した位置で温度測定したものである。
【0033】
ニップ部N直後のエンドレスフィルム33表面温度は、下流100%発熱したもの(設定B)が一番高い温度(130℃)となり、それに伴いニップ部N直前でも下流100%発熱したもの(設定B)が一番高い温度(80℃)となっている。
【0034】
このメカニズムを、図5のイメージ図を用いて説明する。上流発熱(設定A)では、発熱抵抗体20aからエンドレスフィルム33へ、エンドレスフィルム33からヒータ31や加圧ローラ40側へ熱が移動していく。ヒータへ通電開始した直後はヒータと周囲の部品との温度差が大きいため、熱はより伝わりやすい。一方、下流発熱(設定B)では、熱が発熱抵抗体20bからエンドレスフィルム33に伝熱した直後に、回転によりエンドレスフィルム33がニップ部Nから出るため空気層によって断熱される。そしてエンドレスフィルム33は、複数回ニップ部Nを通過するが、2回目以降は加圧ローラ40との温度差が小さいため、熱の逃げは起こり難く、エンドレスフィルム33内部に蓄熱される。よって、図4に示すとおり、設定Bではニップ部N直後からエンドレスフィルムの表面温度が高くなり、かつニップ部N直前のエンドレスフィルムの表面温度も高くなる。
【0035】
上流発熱(設定A)で、ヒータ31に移動した熱はヒータ基板の下流側やヒータホルダ32へ、加圧ローラ40に与えられた熱は、1周する間に表面から内部へと浸透していく。
【0036】
次に、1枚目の定着動作(2)について説明する。まず、図6(a)に1枚目の定着性を示す。ここで定着後に記録材P上のトナー像を擦ることでトナーが剥がれて薄くなり、この擦り前後の濃度を測定して、濃度低下率(%)として算出している。
【0037】
図6では、横軸に記録材Pの搬送方向における箇所を示し、縦軸に濃度低下率を示す。濃度低下率は数字が大きい程、定着性が悪いといえる。本実施例では20%を基準、すなわち擦りによって画像濃度が8割程度になるところを基準にして定着性の良し悪しを判断している。
【0038】
図6(a)の1枚目の定着性を示したグラフにおいて、設定Aの場合の濃度低下率が20%前後であるのに対して、設定Bの場合の濃度低下率は10%前後である。設定Bは特に記録材の搬送方向先端の定着性が良い。2本の発熱抵抗体20a及び20bを均等に発熱させた設定Cの場合、濃度低下率18%前後で、記録材P先端から後端にかけて安定した定着性となっている。
【0039】
設定Bの定着性が良いのは、エンドレスフィルム33に蓄熱された熱量が定着動作時のニップ部N内で、記録材P先端から徐々に吐き出されるからである。
【0040】
エンドレスフィルム33の熱伝導率や外径などによって定着性は異なるが、プリント1枚目の画像の濃度低下率が20%となるように前回転(蓄熱動作)の時間を調整すれば、設定Bは設定Aの場合より前回転の時間を約1秒短縮することができる。つまり、設定Bのような発熱分布でウォームアップを行えば、ウォームアップ時間を短縮できることがわかる。
【0041】
次に、2枚目以降の定着動作について説明する。本実施例では、図2に示すように、前回転(蓄熱動作)が終了するとヒータが目標温度180℃を維持するように温度制御して定着動作に移行する。
【0042】
定着動作時はサーミスタ部の温度を一定に保つ温度制御によって投入電力が絞られるため、前回転時の1000W(100%)より数十%少ない電力となる。さらに使用環境の温湿度や記録材Pの厚みによっても電力は異なる。本実施例での定着装置で消費している電力をモニターしたものを図7に示す。図7は横軸に時間、縦軸に消費電力を示している。前回転時は1000W投入されているが、温度制御が開始され、定着装置全体が暖まっていくため徐々に消費電力が減少していく。
【0043】
そして、この時の3枚目の定着性を図6(b)に示す。サーミスタの配置を調整することで電力を合わせており、3枚目の定着動作時の発熱100%は約700Wの投入電力となっている。図6の(a)に示した1枚目の画像の定着性とは異なり、図6(b)に示す3枚目の画像の定着性は、設定Aのほうが設定Bよりも定着性が良くなっている。これは以下の理由による。
【0044】
図3に示す温度分布において、設定Bではニップ部Nの入口から約3mmの箇所でニップ部内の温度が60℃になるのに対して、設定Aではニップ部Nの入口から約0.5mmの箇所でニップ部内の温度が60℃となっている。
【0045】
次に定着される「トナーの弾性率の温度変化」を図8に示す。縦軸に弾性率(G’)を、横軸に温度を示している。トナーを加熱することで弾性率は低下して、60℃を超えた辺りから急激に低下する。定着動作における加熱と加圧の関係は、60℃へ達した後の加圧時間が長い方がトナーは溶けやすくなるため、図3に示すニップ部N内の温度分布により設定Aのほうが設定Bより定着性が向上している。
【0046】
そして、図6(b)に示す通り、設定Aでは、3枚目の濃度低下率が10%前後となる。
【0047】
次に、本実施例1の具体的な制御を図9に示す。図2や図7と同様に横軸に時間をとり、縦軸に上流側発熱抵抗体と下流側発熱抵抗体の発熱比率の変化を示している。前回転(蓄熱動作)時には、下流側の発熱を100%(設定B)として、積極的にエンドレスフィルム33に熱を蓄え、ヒータ基板31aや加圧ローラ40への伝熱を抑制する。そして、前回転(蓄熱動作)終了時には、発熱を上流側100%に切換え(設定A)(定着動作)、ニップ部内のピーク温度を上流側に移動させ、ニップ部N上流部でトナーに熱を与える。よって、定着動作においては、定着効率が良くなるため、低い電力でも加熱定着することが可能となる。
【0048】
そして、本実施例1の定着性を図10に示す。横軸に枚数、縦軸に平均濃度低下率を示す。上述したように、前回転(蓄熱動作)期間と定着動作期間で発熱分布を切換えることによって、濃度低下率を10%前後に保つことができる。
【0049】
以上のように、エンドレスフィルムが回転を開始し定着ニップ部で定着処理を開始する前のウォームアップ期間中、エンドレスフィルム回転方向における定着ニップ部中央より下流側の位置でヒータの発熱量が最も大きくなるように設定することにより、少ない消費電力でウォームアップ完了までの時間を短縮できる。
【0050】
また、記録材上の未定着トナー像を定着処理する期間は、ヒータの発熱量が最も大きくなる位置がウォームアップ期間中の位置よりもエンドレスフィルム回転方向上流側の位置に設定することにより、定着性も充分に確保できる。
【0051】
(実施例2)
次に、実施例2の制御を図11を用いて説明する。なお、定着装置のメカ的な構成は実施例1と同じなので説明を割愛する。
【0052】
本実施例2では、発熱比率の移行時、急激な変化を防止する。特に投入電力の大きい前回転(蓄熱動作)から定着動作に移行する際に、発熱比率の移行を徐々におこなう。この時、上下流合わせて、常に100%となるように移行する。
【0053】
さらに本実施例2では、未定着トナー像を担持する複数枚の記録材を連続して定着処理する場合、定着ニップ部が先行する記録材と後続の記録材の間となっている期間(紙間)でも、定着ニップ部中央より下流側の位置でヒータの発熱量が最も大きくなるようにして、紙間においてもエンドレスフィルムへの蓄熱動作(実施例1で示した設定B)を行う。ここでいう紙間とは、例えば、1枚目と2枚目の間で、ニップ部Nに記録材Pが存在しない状態をいう。本実施例では紙間を約75mm(250msec)として、その間に下流100%発熱(設定B)に設定する。紙間において、発熱抵抗体20からヒータ基板31aや加圧ローラ40への伝熱を抑制し、エンドレスフィルム33への蓄熱をおこなう。紙間での設定Bの期間は、エンドレスフィルム1周分以上おこなうことが望ましいが、エンドレスフィルム33周方向への伝熱や内部への浸透や拡散があるため、1周分より少なくても蓄熱効果はある。
【0054】
さらに本実施例2では、前回転期間、紙間の蓄熱動作期間、定着動作期間、以外の動作時には、上下流50%の発熱(設定C)をおこなう。これにより、ニップ部N内の温度分布変化が緩やかになるので、ヒータ31や周辺部材への熱応力によるストレスを緩和することができる。また、立下動作時は、制御温度によっては電力投入していないが、例えば、回転を停止した後に加熱する場合なども上下流均等に発熱させる。
【0055】
また、発熱抵抗体がニップ部N外にはみ出して形成された場合であってもヒータ31の記録材搬送方向の熱不均衡による熱応力を小さく抑えることが可能になるため、ヒータ31の破損といった問題を起こりにくくすることができる。
【0056】
さらに、本実施例2では、特に紙間の制御により定着性が向上する。実施例1と比較したものを図12に示す。横軸に枚数、縦軸に濃度低下率をプロットしており、本実施例2により、2枚目、3枚目での定着性が向上している。このため複数枚の印字をおこなう場合に有効となり、定着性を揃えた(濃度低下率 約20%)場合、同様の構成でも、プロセススピードを350mm/secまで速くすることができる。
【0057】
ここで、図13にファーストセットアウトタイム(FSOT:ヒータへの通電開始から一枚目の記録紙を出力するまでに要する時間)とスループット(TP)を従来例、実施例1、実施例2で比較した表を示した。本実施例2のスペックは、均等発熱(各50%)した従来例に比べて、FSOTが1秒短縮、TPが8ppm速くなっていることがわかる。
【0058】
本実施例2及び前述の実施例1では、ヒータ基板上の発熱抵抗体を2本としているが、独立して制御が可能ならば、他にも図14に示すような複数の発熱抵抗体により構成しても効果があることは言うまでもない。
【0059】
以上、上下流で発熱抵抗体をヒータ基板上に複数本形成し、状況に応じて通電加熱する抵抗層を選択的に選ぶことにより、必要な電力を抑え定着性を向上させ、FSOT短縮やスループット向上が可能な定着装置を提供することができる。
【0060】
このように、未定着トナー像を担持する複数枚の記録材を連続して定着処理する場合、定着ニップ部が先行する記録材と後続の記録材の間となっている期間でも定着ニップ部中央より下流側の位置でヒータの発熱量が最も大きくなるように設定すれば、少ない消費電力でウォームアップ完了までの時間を短縮できるだけでなく、連続プリント時の定着性も向上する。
【0061】
(実施例3)
ヒータ31の発熱抵抗体構成によって、温度による発熱比率を変化させることができる。本実施例3ではヒータ31の短手方向を分割して、一方を上流、一方を下流として、上下流発熱比率を最適化する。すなわち、発熱抵抗体の抵抗温度係数(TCR)によって、前回転の蓄熱動作時(発熱部が常温から約180℃)では、下流発熱量が多くなり、定着動作時(発熱部が約200℃)では、上流発熱量が多くなるよう発熱抵抗体の抵抗値設定と接続をおこなったヒータ31を提案する。
【0062】
例えば、図15に示す発熱抵抗体20は、温度上昇に伴ない抵抗上昇するPTC(Positive Temperature Coefficient)の抵抗層で構成され、20aと20bは抵抗値(Ω)と抵抗温度係数(ppm/deg)が異なる。各々の抵抗値と温度特性を図16に示す。図15のヒータは抵抗温度係数が異なる複数種の発熱抵抗体を有している。
【0063】
横軸に発熱抵抗体の温度、縦軸に抵抗値を示しており、TCR(ppm/deg)とは1℃上昇当たりの抵抗変化率で、正(プラス)なら抵抗上昇、負(マイナス)なら抵抗減少で、数字が大きくなれば抵抗値変化も大きくなる。本実施例3では、上流側の発熱抵抗体20aが常温(約25℃)時の抵抗値が約20Ω、抵抗温度係数が約1000ppm/degである。また、下流側の発熱抵抗体20bが常温(約25℃)時の抵抗値が約22Ω、抵抗温度係数が約100ppm/degである。すなわち、前回転時の温度変化によって、発熱抵抗体抵抗値が上下流で逆転する設定となっている。
【0064】
発熱抵抗体は図15に示すとおり20aと20bが直列で接続されている(電流一定)ため、発熱量はRIとなる。よって、上下流発熱抵抗体の抵抗値逆転に伴ない、発熱比率は下流大から上流大へと変化する。
【0065】
この時の発熱分布を図17に示す。横軸にニップ部N内位置、縦軸に温度をとり、ニップ部N内の温度分布の時間変化を示す。通電による発熱抵抗体の温度上昇に伴ない、発熱比率が変化して温度ピークが上流へとシフトしていく。この変化により、前回転の蓄熱動作時にはエンドレスフィルム33への蓄熱をおこない、定着動作時には定着効率の良い上流発熱へと移行する。
【0066】
以上、本実施例3により、電源回路や制御を必要とせず、FSOTの短縮とスループットの向上が可能となる。
【0067】
また、図18に発熱抵抗体構成例として、本実施例3の構成(1)の他に、抵抗値と抵抗温度係数と接続方法を示している。例えば構成(2)の発熱抵抗体は並列に接続され、下流の抵抗値が上流より小さく、下流の抵抗温度係数が正(PTC)で上流より大きい。並列接続の電力はV/Rとなり、抵抗値が小さいほど発熱量が多くなる。よって、構成(2)においても、前回転の蓄熱動作時には下流寄りの発熱比率となり、定着動作時には上流寄りの発熱比率となる。
【0068】
次に構成(3)では、温度上昇に伴ない抵抗減少する負のNTC(Negative Temperature Coefficient)抵抗層を用いる。ここで用いる発熱抵抗体の温度に対する抵抗値の変化を図19(a)に示す。常温時には下流側の抵抗値が大きく、所定温度で逆転して、上流抵抗値が高くなる。構成(3)は直列接続のため RIの電力で、前回転時の下流発熱から定着動作時の上流発熱へ比率変化していく。さらに、図19(b)で示すような抵抗温度特性の異なる(正と負)発熱抵抗体を用いることで、より発熱比率変化を大きくすることも可能である。
【0069】
以下、同様に構成(4)も前回転時には下流発熱、定着動作時には上流発熱となり、抵抗値と抵抗温度係数、接続方法を変えることで、温度に対する発熱比率を設定することができる。発熱抵抗体の配置は他にも(5)(6)(7)(8)に示すものがあるが、この場合でも上下流に発熱抵抗体を配置し、上記条件により最適に設定することができる。
【0070】
以上の例では、2本の発熱抵抗体で説明しているが、(9)(10)のように複数本の発熱抵抗体を用いても同様の効果がある。この場合、各発熱抵抗体の配置に応じて、それぞれ抵抗値と抵抗温度係数を設定してもよい。
【0071】
さらには、(11)(12)ように発熱抵抗体(抵抗層)と導電部を交互に配置して、上流と下流の発熱比率を設けるようにしてもよい。
【0072】
以上、この実施の形態3では、装置の大型化を招くことなく、低コストで高速定着可能な定着装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明に関わる加熱部材と定着装置
【図2】本実施例の定着装置に関わる温度制御図
【図3】設定Aと設定Bにおけるニップ部N内の温度分布比較図
【図4】設定A、設定B、設定Cにおけるエンドレスフィルム表面の温度比較図及び温度測定位置を示した図
【図5】ニップ部N内の伝熱イメージ図
【図6】発熱比率の違いによる定着性比較図
【図7】本実施例の電力の時間変化を示した図
【図8】トナー弾性率の温度変化図
【図9】本実施例1の発熱比率制御図
【図10】従来例と本実施例1の定着性比較図
【図11】本実施例2の発熱比率制御図
【図12】本実施例1、2の定着性比較図
【図13】従来例と本実施例1、2のスペック比較図
【図14】本発明に関わる他のヒータ構成例を示した図
【図15】本実施例3に関わるヒータを示した図
【図16】本実施例3に関わる発熱抵抗体の抵抗温度特性を示した図
【図17】本実施例3のニップ部N内の温度分布図
【図18】本実施例3に関わる他のヒータ構成例を示した図
【図19】本実施例3に関わる発熱抵抗体の抵抗温度特性を示した図
【図20】本実施例に関わる画像形成装置の概略断面図
【符号の説明】
【0074】
6 定着装置
20 通電発熱抵抗層(発熱抵抗体)
31 加熱部材(ヒータ)
32 支持体(ヒータホルダ)
33 筒状部材(エンドレスフィルム)
34 温度検知手段(サーミスタ)
40 加圧ローラ
P 記録材
N ニップ部
t トナー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンドレスフィルムと、基板と前記基板上に設けられた複数の発熱抵抗体とを有し前記エンドレスフィルムの内周面に接触するヒータと、前記エンドレスフィルムを介して前記ヒータと共に定着ニップ部を形成するバックアップ部材と、を有し、前記定着ニップ部で未定着トナー像を担持する記録材を挟持搬送しつつ未定着トナー像を記録材に加熱定着する定着装置において、
前記エンドレスフィルムが回転を開始し前記定着ニップ部で定着処理を開始する前のウォームアップ期間中、前記エンドレスフィルム回転方向における前記定着ニップ部中央より下流側の位置で前記ヒータの発熱量が最も大きくなるように設定されていることを特徴とする定着装置。
【請求項2】
記録材上の未定着トナー像を定着処理する期間は、前記ヒータの発熱量が最も大きくなる位置が前記ウォームアップ期間中の位置よりも前記エンドレスフィルム回転方向上流側の位置に設定されていることを特徴とする請求項1に記載の定着装置。
【請求項3】
未定着トナー像を担持する複数枚の記録材を連続して定着処理する場合、前記定着ニップ部が先行する記録材と後続の記録材の間となっている期間でも前記定着ニップ部中央より下流側の位置で前記ヒータの発熱量が最も大きくなるように設定されていることを特徴とする請求項1に記載の定着装置。
【請求項4】
前記ヒータは抵抗温度係数が異なる複数種の前記発熱抵抗体を有していることを特徴とする請求項1に記載の定着装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2010−2857(P2010−2857A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−163642(P2008−163642)
【出願日】平成20年6月23日(2008.6.23)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】